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特許7441447ヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法、及び組織修復するためのヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法、及び組織修復するためのヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞の使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240222BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240222BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
A61P21/00
A61P43/00 105
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022134581
(22)【出願日】2022-08-26
(65)【公開番号】P2023035950
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】63/238,800
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 雑誌「サージェリー オープン サイエンス(Surgery Open Science)」第6巻、第40~44頁、2021年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】522340749
【氏名又は名称】約書亞健康事業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Joshua Medical Holdings Co. Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 鼎▲育▼
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/034708(WO,A1)
【文献】特表2007-509601(JP,A)
【文献】米国特許第5486359(US,A)
【文献】The hernia sac - A suitable source for obtaining mesenchymal stem cells,2021年,Vol.6,p.40-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ヘルニア嚢のサンプルを組織切片に切断する工程と、
(b)前記組織切片を洗浄して第1所定時間で静置し、上清及び洗浄された組織切片を形成した後、前記上清を除去する工程と、
(c)第1培地中で前記洗浄された組織切片に対して順に均質処理、再懸濁処理を行うことにより、間葉系幹細胞を含む混合物を形成し、前記間葉系幹細胞を含む混合物を濾過して濾過物を得て、前記濾過物を培養フラスコに播種し、第2所定時間で培養する工程と、
(d)培養フラスコに付着した前記間葉系幹細胞を単離し、第2培地を添加して第3所定時間で連続培養することにより、前記間葉系幹細胞を精製する工程と、を含み、
工程(b)において、酵素処理を行う必要がないことを特徴とする、
ヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法。
【請求項2】
前記組織切片の体積は、1~2mmであることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1所定時間は、4~6分であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)を2回以下繰り返すことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1培地及び前記第2培地は、いずれもα-最小必須培地(alpha-minimal essential medium)であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1培地又は前記第2培地に10%のFBS(fetal bovine serum、FBS)、及び1%のペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)を含む溶液をさらに添加することを特徴とする、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2所定時間は、24~48時間であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程(d)において、トリプシン(trypsin)によって培養フラスコに付着した前記間葉系幹細胞を単離することを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第3所定時間は、7~10日であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ヘルニア嚢は、鼠蹊部由来のものであることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(i)請求項1~10のいずれか1項に記載の方法によってヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞を単離精製する工程と、
(ii)前記工程(i)により単離精製されたヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞を組織修復用の医薬品を製造するために使用する工程と、を含むことを特徴とする
組織修復用の医薬品を製造するためのヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞の使用。
【請求項12】
前記組織修復は、筋肉組織の修復であることを特徴とする、
請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法、及び組織修復するためのヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、さまざまな国の専門家の臨床テストによると、間葉系幹細胞は、免疫を抑制し、組織修復及び造血機能を補う等の機能を有する貴重な幹細胞である。また、上記の機能を有する間葉系幹細胞は、その細胞数が機能性に関連性があり、細胞数が多い程機能性が高く、細胞数が低い程機能性が低いと報告されている。間葉系幹細胞は、胚性幹細胞(embryonic stem cell)及び成体幹細胞(adult stem cell)を含む。成体幹細胞は、骨髄、臍帯、胎盤、血管壁、皮下脂肪(subcutaneous fat)等に存在し、当業者は類似の培養技術を利用して増殖培養を行って生物製剤製品を製造することができる。
【0003】
しかしながら、従来技術は、成体幹細胞を取得するための工程が煩雑であり、品質の一致性を確保できず、かつ、多数の初代培養(P0)成体幹細胞を有効に精製することができないため、収率及び製品の機能性に影響を与える。
【0004】
間葉系幹細胞は、免疫を抑制し、組織修復及び造血機能を補う等の利点を有する。上記の機能を発揮するために、必要な細胞数は重要な要素の1つである。細胞数を増やすために、通常、取得した幹細胞をインビトロで数世代培養する必要がある。現在、市販品として胎盤間葉系幹細胞を主成分とする製品があるが、動物血清を含む培地及び全胎盤組織を混合して製造されるため、製品の成分及びソースが複雑であり、消費者の製品の購入意欲が低下する。
【0005】
既存の細胞のソースが複雑であるために、製品の品質を確保することが困難である。また、長期間の増殖培養においても元の細胞と全く同じ細胞を生成することが求められている。なお、従来の間葉系幹細胞を単離精製する方法において、必要な試薬として酵素(例えば、コラゲナーゼ(collagenase))を利用することが多い。しかしながら、従来の間葉系幹細胞を単離精製する方法において、コラゲナーゼ(collagenase)を利用して得られた間葉系幹細胞は、収率が低く、間葉系幹細胞の特性不良(例えば、細胞分裂能力が低い)等の欠点がよくある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題を解決するために、斬新な間葉系幹細胞を単離精製する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題点を鑑みて、本発明は、ヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法を提供することを目的とする。本発明に係る方法は、(a)ヘルニア嚢のサンプルを取得して組織切片に切断する工程と、(b)前記組織切片を洗浄して第1所定時間で静置し、上清及び洗浄された組織切片を形成した後、前記上清を除去する工程と、(c)第1培地中で前記洗浄された組織切片に対して順に均質処理、再懸濁処理を行うことにより、間葉系幹細胞を含む混合物を形成し、前記間葉系幹細胞を含む混合物を濾過して濾過物を得て、前記濾過物を培養フラスコに播種し、第2所定時間で培養する工程と、(d)培養フラスコに付着した前記間葉系幹細胞を単離し、第2培地を添加して第3所定時間で連続培養することにより、前記間葉系幹細胞を精製する工程と、を含む。工程(b)において、酵素処理を行う必要がない。
【0008】
本発明の1つの実施例において、前記組織切片の体積は、1~2mm3である。
【0009】
本発明の1つの実施例において、前記第1所定時間は、4~6分である。
【0010】
本発明の1つの実施例において、工程(b)を2回以下繰り返す。
【0011】
本発明の1つの実施例において、前記第1培地及び前記第2培地は、いずれもα-最小必須培地(alpha-minimal essential medium)である。
【0012】
本発明の1つの実施例において、前記第1培地又は前記第2培地に10%のFBS(fetal bovine serum、FBS)、及び1%のペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)を含む溶液をさらに添加する。
【0013】
本発明の1つの実施例において、前記第2所定時間は、24~48時間である。
【0014】
本発明の1つの実施例において、工程(d)において、トリプシン(trypsin)によって培養フラスコに付着した前記間葉系幹細胞を単離する。
【0015】
本発明の1つの実施例において、前記第3所定時間は、7~10日である。
【0016】
本発明の1つの実施例において、前記ヘルニア嚢は、鼠蹊部由来のものである。
【0017】
本発明のもう1つの目的は、組織修復用の医薬品を製造するためのヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞の使用を提供することである。前記ヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞は、前記方法によって単離精製される。
【0018】
本発明の1つの実施例において、前記組織修復は、筋肉組織の修復である。
【発明の効果】
【0019】
上記をまとめると、本発明に係るヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法、及びヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞の収率が高く、良好な特性(高い細胞分裂能力)を有し、酵素を必要な試薬として使用する必要がなく、組織修復(例えば、筋肉組織の修復)に応用して患者自体のヘルニアの欠陥の修復ための再生医療又は組織工学に使用される可能性が高い等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、鼠蹊部ヘルニア(inguinalhernia)手術中のヘルニア嚢(herniasac)を示す図である。
図2図2は、3つの異なる方法で培養したヘルニア(hernia)間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell, MSC)の累積細胞数を示す図である。
図3図3は、培養したヘルニア嚢由来の細胞のプラスチックシャーレの付着特性及び形態を示す図である。
図4図4は、ヘルニア嚢の中に間葉系幹細胞が存在するか否かを判定するための陽性マーカーと陰性マーカーを示す図である。MSCは、間葉系幹細胞を示す。SACは、ヘルニア嚢を示す。
図5図5は、Von Kossa、アルシアンブルー(Alcian blue)、及びオイルレッドO(Oil Red O)で染色した間葉系幹細胞の陽性の分化能力及び同定を示す図である。
図6図6は、皮下脂肪組織由来の細胞と比べて、ヘルニア嚢由来の細胞がより多くの間葉系幹細胞を有することを示す図である。CFUは、コロニー形成単位(colony forming unit)を示す。*は、p<0.05を示す。
図7図7は、皮下脂肪組織由来の間葉系幹細胞と比べて、ヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞がより多くの細胞分裂回数を有し、累積細胞数がより多いことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態をさらに説明するが、下記の実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の要旨を逸脱しない限りにおいてあらゆる変更及び改良は、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0022】
定義
本明細書に記載の数値は、概算値である。全ての実験データは、その数値の±20%の範囲、好ましいは±10%の範囲、より好ましくは±5%の範囲を示す。
【0023】
本明細書(特に請求項)において、特に説明しない限り、「前記」及び類似の用語は、単数形及び複数形の両方を含む。
【0024】
本発明によって提供される医薬品は、用途に応じて適切な剤形に形成されてもよく、特に限定されない。例えば、前記医薬品は、非経口の投与方法(例えば、皮下注射)によって投与すべき個体に投与されてもよいが、それらに限定されない。
【0025】
本発明によると、医薬品は、当業者に既知の技術によって非経口(parenterally)投与の剤形(dosage form)に製造されてもよい。前記非経口投与の剤形は、例えば、注射剤(injection)[例えば、滅菌水溶液(sterile aqueous solution)又は分散液(dispersion)]、滅菌粉末(sterile powder)、分散性粉末(dispersible powder)又は顆粒(granule)、溶液、懸濁液(suspension)、乳剤(emulsion)及び類似の物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明に係る医薬品は、非経口経路(parenteral routes)で投与されてもよい。前記非経口経路は、腹腔内注射(intraperitoneal injection)、皮下注射(subcutaneous injection)、表皮内注射(intraepidermal injection)、皮内注射(intradermal injection)、筋肉内注射(intramuscular injection)、静脈内注射(intravenous injection)、病巣内注射(intralesional injection)、舌下投与(sublingual administration)、及び経皮投与(transdermal administration)からなる群から選ばれる。
【0027】
本発明に係る医薬品は、薬品の製造技術に広く使用される医薬的に許容されるベクターを含んでもよい。前記医薬的に許容されるベクターは、例えば、溶媒(solvent)、乳化剤(emulsifier)、懸濁化剤(suspending agent)、分解剤(decomposer)、結合剤(binding agent)、賦形剤(excipient)、安定剤(stabilizing agent)、キレート剤(chelating agent)、希釈剤(diluent)、ゲル化剤(gelling agent)、防腐剤(preservative)、滑剤(lubricant)、吸収遅延剤(absorption delaying agent)、リポソーム(liposome)及び類似の物からなる群から選ばれる1つ又は複数の試薬を含んでもよい。前記試薬の選択及び数量は、当業者の専門知識及び既知の技術の範囲内である。
【0028】
前記医薬的に許容されるベクターは、溶媒を含んでもよい。前記溶媒は、水、生理食塩水(normal saline)、リン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)、糖液、アルコール含有水溶液(aqueous solution containing alcohol)、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0029】
経皮投与の剤形を例として説明すると、本発明によって提供される医薬品の剤形は、直接外用する湿布、ローション、クリーム、ゲル(例えば、ヒドロゲル)、ペースト(例えば、分散ペースト、軟膏)、スプレー剤、又は溶液(例えば、懸濁液)等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0030】
本発明によって提供される医薬品は、投与対象とする個体のニーズ、年齢、体重、健康状態に応じて、1日1回、1日複数回、又は数日1回等の異なる投与頻度で投与されてもよい。本発明によって提供される医薬品は、実際のニーズに応じて医薬品に含まれる間葉系幹細胞の含有量比率を調整することができる。なお、前記医薬品は、その効果又は製剤レシピの柔軟性及び調製性を向上させるために、必要に応じて、本発明の活性成分(即ち、鼠蹊部ヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞)の効果に悪い影響しない範囲で、1種類又は複数種類の他の活性成分(例えば、組織修復薬)を含んでもよく、前記種類又は複数種類の他の活性成分薬と併用してもよい。
【0031】
以下、実施例を開示しながら本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではない。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0032】
実施例1.鼠蹊部ヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法
成人鼠蹊部ヘルニア(inguinalhernia)の手術(図1のA、Bは、いずれも手術中のヘルニア嚢を示す。)は、鼠径部を切開することによる開放式手術を含む。ヘルニア手術で無作為に選択した4人の患者から新鮮なヘルニア嚢(herniasac)を採取し、すぐに実験室に運ぶ。表1には、この4人の患者の情報が掲載されている。48時間以内に間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)を採取する。
【0033】
まず、ヘルニア嚢から腹腔組織(即ち、ヘルニア嚢のサンプル)を単離し、約2gの鼠蹊部ヘルニア嚢のサンプルをメスで小さな組織切片(体積が1~2mm3)に切り出す。組織切片を10mLのリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)で洗浄して約4~6分間静置し、上清及び洗浄された組織切片を形成した後、上清を除去する。前記工程を2回以下繰り返す。
【0034】
その後、Miltenyi gentleMACSホモジナイザー(Miltenyi gentleMACS Dissociator)を使用してその中の間葉系細胞を取得する。前記ホモジナイザーは、組織を半自動に単一細胞懸濁液(single-cell suspension)又は完全なホモジネート(thorough homogenate)に分離するために用いられる。
【0035】
単離された懸濁液を40-μmフィルター(BD Falcon)で濾過し、α-最小必須培地(alpha-minimal essential medium)(Thermofisher)(さらに10%のFBS(fetal bovine serum、FBS)(Hyclone)を添加する)にて37℃、5%のCO2、及び高湿度環境の条件で培養する。上記工程を2回繰り返した後、2mLのα-最小必須培地(さらに10%のFBS(FBS)及び1%のペニシリン及びストレプトマイシンを含む溶液を添加する)にて、洗浄された組織切片に対して再懸濁処理を行うことで、間葉系幹細胞を含む混合物を形成する。
【0036】
そして、前記間葉系幹細胞を含む混合物を25cm2の培養フラスコに播種して24~48時間培養する。その後、培養フラスコに付着した間葉系幹細胞を単離し、3mLの培地を添加して7~10日間連続培養することで、間葉系幹細胞を精製する。特に、3~4日後に組織切片から細胞が成長する様子が見られる。細胞が培養フラスコ内で約60%の密集度(confluency)に成長した時に、トリプシン(trypsin)によって培養フラスコに付着した間葉系幹細胞を単離し、そして、40-μmのフィルターを通過する。
【0037】
本実験は、台中童総合医療法人童総合病院倫理審査委員会(institutional review board of Tung′s Taichung Metro Harbor Hospital)によって審査及び承認され、全ての患者及び参加者は参加前にインフォームドコンセント(IRB#109060)を提供した。
【0038】
【表1】
【0039】
上記の方法は、本発明に係るヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法であり、直接培養法(direct culture)とも呼ばれ、酵素を利用して組織を単離する必要がなく、以下、A方法と称される。比較群としては従来方法であるB方法及びC方法を使用する。前記B方法及びC方法は、いずれも酵素を使用して組織を単離することによって単一細胞を得る必要がある。B方法は、よく論文で見られる方法であり、その操作手順は、以下のとおりです。
【0040】
まず、ヘルニア嚢から腹腔組織(即ち、ヘルニア嚢のサンプル)を単離し、約2gの鼠蹊部ヘルニア嚢のサンプルをメスで小さな組織切片(体積が2~4mm3)に切り出す。5mLのコラゲナーゼ(collagenase)(1mg/mL)溶液を添加し、37℃で2時間培養する。組織切片を100μmのフィルターで濾過除去し、200xgで10分間遠心分離して上清を除去する。
【0041】
そして、細胞ペレットに5mLのα-最小必須培地(さらに10%のFBS(FBS)、及び1%のペニシリン及びストレプトマイシンを含む溶液を添加する)を添加し、25cm2の培養フラスコに移して培養する。本発明(A方法)と従来方法(B方法)との相違点は、A方法において、組織切片を酵素(例えば、コラゲナーゼ)で処理する必要がないが、B方法において、組織切片をコラゲナーゼで処理する必要がある。コラゲナーゼが細菌由来であるため、純度の問題以外に、細菌エンドトキシンが残留可能という問題もある。
【0042】
なお、この酵素を産生する菌株は、通常、病原菌であるため、できれば使用しない方が良いが、ほとんどの既知の方法に使用されている。本発明(A方法)のヘルニア嚢からの間葉系幹細胞の質及び量が高いので、コラゲナーゼを使用しなくてもよい。従来の酵素分解方法の代わりに、本発明のA方法は、ホモジナイザーを使用してヘルニア嚢をホモジネートまで破砕すれば、間葉系幹細胞を得ることができる。その結果として、本発明(A方法)を採用してヘルニア嚢から得られた間葉系幹細胞は、分化能力が高い、収率が高い、及び分裂能力が高い。
【0043】
C方法の操作手順は、以下のとおりです。まず、ヘルニア嚢から腹腔組織(即ち、ヘルニア嚢のサンプル)を単離し、約2gの鼠蹊部ヘルニア嚢のサンプルをメスで小さな組織切片(体積が2~4mm3)に切り出す。5mLのコラゲナーゼ(collagenase)(1mg/mL)溶液を添加した後、gentleMACSホモジナイザーで20分間処理し、単一細胞溶液を得る。組織切片を40μmのフィルターで濾過除去し、200xgで10分間遠心分離して上清を除去する。
【0044】
そして、細胞ペレットに5mLのα-最小必須培地(さらに10%のFBS(FBS)、及び1%のペニシリン及びストレプトマイシンを含む溶液を添加する)を添加し、25cm2の培養フラスコに移して培養する。B方法及びC方法において、最初の細胞培養フラスコに組織切片を含まないが、多くの血球細胞を含む。本発明(A方法)と従来方法(C方法)との相違点は、A方法において、組織切片を酵素(例えば、コラゲナーゼ)で処理する必要がないが、C方法において、組織切片をコラゲナーゼで処理する必要がある。なお、B方法とC方法との相違点は、B方法において、ホモジナイザーを使用する必要がないが、C方法において、ホモジナイザーを使用する必要がある。
【0045】
図2は、3つの異なる方法で培養したヘルニア間葉系幹細胞の累積細胞数を示している。図2から分かるように、B方法又はC方法と比べて、本発明の方法(即ち、A方法)は、最も多くの間葉系幹細胞を培養できる。特に、A方法で培養した間葉系幹細胞の数は、B方法で培養した間葉系幹細胞の数の約1.46倍であり、かつC方法で培養した間葉系幹細胞の数の約1.73倍である。このことから、本発明の方法で培養した間葉系幹細胞は、高い細胞分裂能力を有し、間葉系幹細胞の収率が高いことが分かる。
【0046】
本発明のA方法によって単離精製された間葉系幹細胞は、組織修復に用いられる。前記組織修復は、手術中に取り除けられた廃棄予定のヘルニア嚢を、同一手術中に、本発明に係る方法(コラゲナーゼなし)によって患者の組織修復に使用することができる。前記組織修復は、ヘルニアの修復手術、又は他の部位、例えば、前立腺、膀胱、胃噴門、体の傷跡組織等の修復手術を含むが、これらに限定されない。本発明に係るヘルニア間葉系幹細胞は、酵素処理を行う必要がないので、そのまま人体の修復すべき組織に注入されることができる。これに対して、既知の酵素を含む(バクテリア・生化学製品)方法(B方法又はC方法)は、製品による感染の懸念があり、人体への注入があまり適切ではない。
【0047】
実施例2.培養されたヘルニア嚢(herniasac)由来の細胞のプラスチックの付着特性及び形態
国際細胞治療学会(International Society for Cellular Therapy)により、下記(1)~(3)に記載の多能性間葉系幹細胞の最低基準に基づいて、間葉系幹細胞の存在を確認する。
【0048】
(1)プラスチックシャーレへの付着。
(2)特異的な表面抗原(Ag)の発現。
(3)多能性分化の可能性。
【0049】
本実施例において、まず、鼠蹊部ヘルニア手術で得られたヘルニア嚢から取得した細胞の形態及びそのプラスチックシャーレに付着する能力を評価する。間葉系幹細胞をプラスチックシャーレに置いて、その形態と、組織培養フラスコを使用して標準培養条件でのプラスチックへの付着を維持する能力を観察する。この場合には、造血細胞(hematopoietic cell)及び成熟脂肪細胞等がプラスチックシャーレに付着しない。
【0050】
図3は、培養されたヘルニア嚢由来の細胞のプラスチック付着特性及び形態を示している。4人の患者からの全ての細胞は、いずれも紡錘形の形態(spindle-shaped morphology)を呈し、かつ、プラスチックへの付着を示し(図3参照)、一部が間葉系幹細胞の存在を示す。
【0051】
実施例3.間葉系幹細胞を同定するための信頼性ある陽性マーカーの測定
本実施例は、従来文献であるM. Dominici, K. Le Blanc, I. Mueller, et al., Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement, Cytotherapy, 8 (4) (2006), pp. 315-317)、及びヒト間葉系幹細胞の抗体の利用可能性に基づいて陽性マーカーを選択する。CD105、CD73、及びCD90マーカーは、ヒト間葉系幹細胞の発現が95%以上であることを評価するために用いられる。CD45、CD34、CD11b、CD19、及びヒト白血球抗原-DR(human leukocyte antigen-DR、HLA-DR)マーカーは、ヒト間葉系幹細胞の発現を欠いている(2%以下)ことを評価するために用いられる。評価結果として、使用された全ての陽性CDマーカー(CD105、CD73及びCD90)の発現は、いずれも95%以上である。
【0052】
本実施例においては、細胞表面の免疫表現型プロファイル(cell surface immunophenotypic profile)及び陽性CDマーカーを測定し、前記陽性CDマーカーは、CD73(100%)、CD90(100%)及びCD105(99.2%)である。また、間葉系幹細胞の存在を検証するために、陰性CDマーカーを評価し、前記陰性CDマーカーは、CD11b、CD19、CD34、CD45及びHLA-DRである(図4参照)。
【0053】
測定結果として、全ての陰性CDマーカー(CD11b、CD19、CD34、CD45及びHLA-DR)の発現は、いずれも2%以下である(図4参照)。また、ヒト間葉系幹細胞におけるCD105、CD73及びCD90マーカーの発現は、95%以上であり、ヒト間葉系幹細胞におけるCD11b、CD19、CD34、CD45及びHLA-DRマーカーの発現は、2%以下である。そのため、間葉系幹細胞の存在が強く示唆される。
【0054】
実施例4.細胞の分化能力
間葉系幹細胞が90%の密集度に成長すると、培地を3種類の分化培地に移して三血球系(trilineage)の能力を測定する。分化培地は、それぞれStemMACS Osteodiff培地、StemMACS Chondrodiff培地、又はStemMACS Adipodiff培地(Miltenyi Biotec)である。骨形成(osteogenesis)を検証するために、培地をStemMACS Osteodiff培地に移し、Von Kossaで染色する。
【0055】
軟骨芽細胞(chondroblast)に分化する能力を検証するために、培地をStemMACS Chondrodiff培地に移し、アルシアンブルー(Alcian blue)で染色する。脂肪生成(adipogenesis)を確定するために、培地をStemMACS Adipodiff培地に移し、オイルレッドO(Oil Red O)で染色する。3週間後、成骨作用を検証するために細胞をVon Kossaで染色し、軟骨芽細胞に分化する能力を検証するために細胞をアルシアンブルーで染色し、及び脂肪生成を確定するために細胞をオイルレッドOで染色する。
【0056】
インビトロ細胞培養の染色結果により、前駆細胞がインビトロで骨芽細胞(osteoblast)、脂肪細胞(adipocyte)、及び軟骨芽細胞に分化したことが確認された。VonKossa染色によって骨芽細胞への分化、オイルレッドO染色によって脂肪細胞への分化、アルシアンブルー染色によって軟骨芽細胞への分化を確認する。図5は、Von Kossa、アルシアンブルー、及びオイルレッドOで染色した間葉系幹細胞の陽性の分化能力及び同定を示している。誘導されない細胞は、分化の兆候を示していない。
【0057】
実施例5.皮下脂肪組織由来の細胞と比べて、ヘルニア嚢由来の細胞がより多くの間葉系幹細胞を有する
B方法は、よく論文で見られる方法であり、異なる組織を処理した後の細胞数を定量的に比較することができる方法である。ヘルニア嚢組織には血管が豊富に存在するため、取得した間質血管分画(stromal vascular fraction、SVF)細胞は、同じ処理によって皮下脂肪組織から取得したSVF細胞と比べて、有意に多くのコロニー形成単位(colony forming unit、CFU)を有する(図6参照)。前記CFUは、間葉系幹細胞のコロニーに相当する。よって、本実施例の結果から分かるように、同じ方法で、ヘルニア嚢組織から得られた間葉系幹細胞は、脂肪組織から得られた間葉系幹細胞と比べて、細胞数が多く、かつ健康である(細胞分裂回数が多い)。
【0058】
実施例6.皮下脂肪組織由来の間葉系幹細胞と比べて、ヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞がより多くの細胞分裂回数を有する
図7は、皮下脂肪組織由来の間葉系幹細胞と比べて、ヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞がより多くの細胞分裂回数を有し、累積細胞数がより多いことを示している。そのため、本発明の方法で単離精製したヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞は、高い細胞分裂能力を有する。
【0059】
上記をまとめると、本発明に係るヘルニア嚢から間葉系幹細胞を単離精製する方法、及びヘルニア嚢由来の間葉系幹細胞は、収率が高く、良好な特性(高い細胞分裂能力)を有し、酵素を必要な試薬として使用する必要がなく、組織修復(例えば、筋肉組織の修復)に応用できるという効果を確実に有する。間葉系幹細胞が組織修復に有利であることが多く報告されているため、患者自体のヘルニアの欠陥の修復ための再生医療又は組織工学に使用される可能性が高い。
【0060】
上記の内容は、例示的なものに過ぎず、本発明を制限するものではない。本発明の要旨及び範囲から逸脱しない限り、各種の改良や変更は、いずれも添付の特許請求の範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7