(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ブラジャー
(51)【国際特許分類】
A41C 3/00 20060101AFI20240222BHJP
A41C 3/10 20060101ALI20240222BHJP
A41C 3/12 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
A41C3/00 A
A41C3/10 B
A41C3/12 C
(21)【出願番号】P 2020007443
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】518343017
【氏名又は名称】アボワールインターナショナル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】野川 和子
(72)【発明者】
【氏名】中村 真由美
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特許第6507299(JP,B1)
【文献】特開2017-031513(JP,A)
【文献】特開2014-062335(JP,A)
【文献】国際公開第2015/128934(WO,A1)
【文献】特開2000-045103(JP,A)
【文献】特開2008-174859(JP,A)
【文献】特開2008-069489(JP,A)
【文献】特開2001-131803(JP,A)
【文献】特開2019-090127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41C3/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のカップ部と、前記カップ部を支持する土台部と、バック部と、ストラップとを備えるブラジャーであって、
前記土台部は、前記カップ部と連続し、伸縮性を有する肌側土台部と、前記肌側土台部と略同一形状である表側土台部と、が重ねられており、
前記肌側土台部と前記表側土台部とは、前中心頂部、側縁部、下端部で互いに固定されており、
前記肌側土台部と前記表側土台部との間から延在し、
前記カップ部の下縁には縫着されず、前記肌側土台部の下端から前記カップ部の上縁よりも上まで一連に延在して前記肌側土台部の表面及びカップ部の表面を覆う伸縮性部材を備える、
ブラジャー。
【請求項2】
前記伸縮性部材は前記ストラップに連結している、請求項1に記載のブラジャー。
【請求項3】
前記表側土台部は、その表面に、前記カップ部のカップ下縁と略同一の曲線を有するワイヤー挿入部を備える、請求項1又は2に記載のブラジャー。
【請求項4】
前記ワイヤー挿入部の少なくとも一端にワイヤー挿抜口が設けられており、当該ワイヤー挿抜口には、ワイヤーの抜けを防止するカバー部材が備えられている、請求項3に記載のブラジャー。
【請求項5】
前記ワイヤー挿入部の長さの70~90%の長さの挿抜可能なワイヤーを備える、請求項3又は4に記載のブラジャー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の乳房の位置や大きさの違いを調整し、またそれらの変化に対応できるブラジャーに関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな理由から、乳房の位置や大きさに左右差が生じることがある。これに対応して、乳房の左右差から生じる身体の不具合を解消すること、また、外見の左右差を解消することを目的としたブラジャーが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1は、左右のカップの一方に、乳房の大きさの違いを補うためのパッドが固定されたブラジャーを開示している。特許文献1のブラジャーにおいて、パッドは、乳房のバージスラインに沿う縁の中途からカップ部の脇縁部の上端へと延在する形状である。特許文献1のブラジャーは、パッドが固定されているため、パッドを取り付ける手間が軽減される。一方で、バストの大きさや位置の変化に対応することは考慮されていない。
【0004】
特許文献2は、左右の乳房の大きさの差を補正するパッドを挿入するためのポケットを備えたブラジャーであって、カップ本体と内皮材との間にポケットが形成され、内皮材にはポケットに連通する開口部が形成されており、当該開口部の縁が互いに重なり合って、ポケットの開口に蓋のある形態とすることを開示している。また、特許文献2は、内皮材として、保湿機能のあるニット素材を用いることによって、より快適な着心地を提供することを開示している。
【0005】
また一方で、左右の乳房に差があっても身体にフィットし、ファンデーションとしての機能を発揮しうるものとして、特許文献3は、カップの周囲を伸縮性布地で構成したファンデーションを開示している。特許文献3のファンデーションは、バストカップを配設する半円形状部を形成した密着部の裏面に、当該裏面と同形状でバストカップを縫着した伸縮布地を重ね合わせ、伸縮布地の側縁および下縁を密着部に縫着するとともに、バストカップの前中心を伸縮布地とともに密着部に縫着したものである。
【0006】
さらに、圧迫感や体調に応じてワイヤーを挿抜できるブラジャーが公知である。例えば特許文献4には、ブラジャーのカップ部の裏側に、ワイヤー装着用筒布が設けられてワイヤーが挿入されており、当該ワイヤー装着用筒布の少なくとも片端がワイヤーの取り外し口とされ、ワイヤー取り外し口から、ワイヤーを出し入れできることが開示されている。特許文献4のブラジャーはワイヤーを挿抜でき、取り外し口の筒布の内部にワイヤー抜け止め部材が設けられ、さらに固定補強材によって補強されているため、ワイヤーの抜けが防止されている。
【0007】
また、特許文献5には、左右の乳房の位置や大きさの違いを調整し、それらの変化に対応できるブラジャーの発明が開示されている。特許文献5のブラジャーは、カップ部の裏面に、アンダー調整ポケットおよびボリューム調整ポケットを備え、また、ブラジャーの土台部は、伸縮性のある肌側土台部とワイヤー挿入部を表面に備えた表側土台部とが重ねられた構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実用新案登録第3213340号公報
【文献】実用新案登録第3178563公報
【文献】実公昭56-12241号公報
【文献】特開平11-12808号公報
【文献】特許6507299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のようなブラジャーが使用される場合の1つとして、乳がん等の治療において、乳房を切除後、乳房再建をおこなった場合がある。乳房再建には、インプラントを用いる方法や自家組織の移植による方法などがあるが、いずれの場合も、乳房再建を受けた後の乳房が常に一定の状態にあるわけではない。
【0010】
術側の乳房は、術後の経過や体調に応じて経時的に変化する。また、乳がん等の治療では、服薬等の影響による体重の増減が避けられないことも多く、健側の乳房もまた、体重の増減等に応じて変化することがある。このように、左右の乳房に差が生じ、時間の経過とともにその差が変化していくことも多い。乳房の左右差は、乳房のボリュームや形状のみでなくアンダー位置にも表れるため、ブラジャーによって乳房の左右差を調整する際には、ボリュームや形状だけでなくアンダー位置(上下差)を調整できることが望まれる。
【0011】
また、個人における乳房の変化に加えて、乳房の大きさや形状は人によって大きく異なるため、乳房の大きな人や片側の乳房が特に腫脹している時などにも、過度な圧迫感を与えることなく、かつ、乳房を保護し、左右差を調整できるブラジャーが望まれる。
【0012】
これらの状況に鑑み、本発明は、左右乳房のアンダー位置を調整すること、経時的な左右差の変化に対応することが可能で、かつ、様々な体形の人に圧迫感を与えずフィットし、対称性のある乳房を長期間維持することが可能なブラジャーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは上記課題を解決するために検討を重ね、ブラジャーの土台部を、ワイヤー挿入部を備えた表側土台部と、カップを備え、カップ周囲部を伸縮可能な素材で構成した肌側土台部との二重構造とし、さらに、肌側土台部と表側土台部との間から延在し、肌側土台部の表面及びカップ部の表面を覆う伸縮性部材(例えば伸縮性レース)を備えることによって、左右乳房のアンダー位置を調整し、経時的な左右差の変化に対応することが可能であるうえに、ボリュームの大きな乳房も支えることができ、よりフィット性に優れることを見出し、本発明を完成した。また、ワイヤーを挿抜可能にするとともに、ワイヤーとして、ワイヤー挿入部よりも短いワイヤーを用いることによって、乳房を支持するとともに乳房への負担を小さくできることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち本発明は次の構成を有する。
[1]左右一対のカップ部と、前記カップ部を支持する土台部と、バック部と、ストラップとを備えるブラジャーであって、
前記土台部は、前記カップ部と連続し、伸縮性を有する肌側土台部と、前記肌側土台部と略同一形状である表側土台部と、が重ねられており、
前記肌側土台部と前記表側土台部とは、前中心頂部、側縁部、下端部で互いに固定されており、
前記肌側土台部と前記表側土台部との間から延在し、前記肌側土台部の表面及びカップ部の表面を覆う伸縮性部材を備える、
ブラジャー。
[2]前記伸縮性部材は前記ストラップに連結している、[1]に記載のブラジャー。
【0015】
[3]前記表側土台部は、その表面に、前記カップ部のカップ下縁と略同一の曲線を有するワイヤー挿入部を備える、[1]又は[2]に記載のブラジャー。
[4]前記ワイヤー挿入部の少なくとも一端にワイヤー挿抜口が設けられており、当該ワイヤー挿抜口には、ワイヤーの抜けを防止するカバー部材が備えられている、[3]に記載のブラジャー。
[5]前記ワイヤー挿入部の長さの70~90%の長さの挿抜可能なワイヤーを備える、[3]又は[4]に記載のブラジャー。
【発明の効果】
【0016】
本発明のブラジャーによれば、肌に直接触れる部材である肌側土台部が伸縮性を有し、肌側土台部と表側土台部とが重ねられており、また、肌側土台部と前記表側土台部との間から延在し、前記肌側土台部の表面及びカップ部の表面を覆う伸縮性部材を備えるという構造によって、左右乳房のアンダー位置を調整すること、経時的な左右差の変化に対応することが可能であるとともに、様々な体形の人に圧迫感を与えずフィットし、左右の乳房の状態やバランスが変化しても、その時々の状態に応じて術部を保護しつつ、着け心地が良く、対称性のある外見を得ることができる。
【0017】
さらに、表側土台部の表面にワイヤー挿入部が設けられるという構成を有する本発明のブラジャーは、特に、乳房(特に乳房の下部)への圧迫を低減しながらも乳房を支持することができる。これらによって、乳房再建後の創傷治癒過程を阻害することがなく、長期的な乳房の形態変化にも対応可能で、かつ、肌当たりが優しく、長期的な合併症を防止し、対称性のある乳房を長期間維持することが可能なブラジャーが提供される。特に、ワイヤー挿入部よりも短いワイヤーを用いることによって、乳房を支持するとともに乳房への負担を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例のブラジャー(表面)を示す図である。
【
図2】本発明の実施例のブラジャー(裏面)を示す図である。
【
図3】本発明の実施例のブラジャーのカップ部に備えられるポケットを示す図である。
【
図4】本発明の実施例のブラジャーの一方のカップに、アンダー調整パッドを挿入した状態を示す図である。
【
図5】本発明の実施例のブラジャーに用いるアンダー調整パッドを示す。
【
図6】本発明の実施例(A)および参考例(B)のブラジャーの表側土台部の内側を示す図である。
【
図7】本発明の実施例のブラジャーのワイヤー挿抜口及びその近傍を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態をより詳しく説明するが、示された実施例は一例に過ぎない。本発明はここに示す実施例に限定されない。
【0020】
図1は、本発明の一例であるブラジャー1の表面(衣服側)の全体を示す。ブラジャー1は、左右一対のカップ部2と、カップ部2を支持する土台部3と、土台部3と連結しているバック部4と、カップ部2とバック部4とを連結するストラップ5とを備える。バック部4の端にはホック6が設けられている。左右のバック部4は、ホック6によって、互いに係脱自在である。
【0021】
土台部3は、互いにほぼ同じ形状である表側土台部と肌側土台部とが重ねられてなる。
図1には、表側土台部31のみが表れている。表側土台部31は、その表面にワイヤー挿入部7が設けられている。ワイヤー挿入部7の曲線は、カップ部2のカップ下縁の曲線と略同一である。表側土台部31は、カップ部2に対応する部分が刳りになっている。土台部3とバック部4との接合部(土台部の側縁部)8は、縫着されている。ワイヤー挿入部7の最下部から土台部3の下端までの長さLは、
図1の例では約2.5cmである。長さLは、2~3cm程度とすることが好ましい。ワイヤー挿入部7の最下部から土台部3の下端までの長さLを2~3cm程度とすることによって、肌側土台部の伸縮を可能にするとともに、表側土台部と肌側土台部との間のずれやシワの発生が少なく、乳房の支持性と着用感に優れたブラジャーが得られる。
【0022】
図1に示された実施例では、土台部3の下端は、前中心が両脇よりも上に位置しており、前中心を頂点とするくびれ状に形成されているが、土台部3の下端はこの形状に限られず、例えば直線状であってもよい。また、
図1に示された実施例では、ワイヤー挿入部7が、カップ部2に対応する刳りの曲線部分の全体にわたって設けられている。これに対して、別の実施態様として、ワイヤー挿入部を、カップ部に対応する刳りの曲線部分の一部のみに設けることも好ましい。具体的には、ワイヤー挿入部を前中心頂部まで延在させず、前中心頂部よりも1~2cm程度下までで終止させることも、好ましい。
【0023】
バック部4は、公知の素材を適宜選択して用いることができ、例えばパワーネットや綿ニットなどの伸縮性を有する素材が用いてもよいし、伸縮性の低い素材や伸縮性がほとんどない素材を用いることもできる。バック部4の上端ないし下端は、例えばバイアステープ等のストレッチテープなど、長さ方向に伸縮性の高い素材で補強されていてもよい。ストレッチテープを備える場合、ストレッチテープは、バック部4の表側、肌側のどちらに配置されてもよいが、表側にストレッチテープを付けると、肌側の凹凸が少なくなるため着用感に優れる。
【0024】
また、
図1の例ではホック6は4段であるが、ホックの段の数はより少なくても(2段、3段)、より多くても(6段、8段)よい。ホックの段数が多いと体調や体形の変化に応じて圧迫度合いを調整しやすくなるほか、1つのサイズで多様な体形のユーザーに適応できるため好ましい。
【0025】
図2はブラジャー1の裏面(肌側)を示す。カップ部2は、アンダー調整ポケット21と、ボリューム調整ポケット22とを備える。アンダー調整ポケット21は、カップ部2の前中心頂点CTからカップ部2の下縁CUに沿って延在し、脇部頂点STに至っている。
図2の例では、アンダー調整ポケット21の上下幅はカップの下側半分を覆う程度であるが、より上下幅の細いポケットにしてもよい。アンダー調整ポケット21の開口は、内側に設けられている。言い換えると、アンダー調整ポケット21はブラジャーの表側に向けて開口しており、肌側に凹凸が生じないようにされている。肌側の凹凸を少なくすることによって、ブラジャーの生地が局所的に乳房に当たって皮膚を傷つけることを、防ぐことができる。
【0026】
カップ部2と連続して、肌側土台部32が設けられている。カップ部2と肌側土台部32との連結部23(すなわち、カップ部2の下縁CU)は、非伸縮性テープで縁取りされており、ワイヤーは挿入されていない。肌側土台部32は伸縮性素材からなり、特に、縦横両方向に伸縮性を有する素材を用いることが好ましい。素材としては例えば、パワーネット、伸縮性レース、ニット等を用いることができる。
図2の例では、肌側土台部32には、パワーネットが用いられている。肌側土台部32の下端は伸縮性テープで補強されている。カップ部2の下縁CUの最下部から肌側土台部32の下端までの長さLは、表面側と同じく、
図2の例では約2.5cmであり、2~3cm程度とすることが好ましい。
【0027】
本発明のブラジャーは、肌側土台部32が伸縮性を有することによって、圧迫が特に生じやすい乳房下部への圧迫を低減できる。また、肌側土台部32として縦横両方向に伸縮する素材を採用することによって、ブラジャーの生地が局所的に乳房に当たることを防止し、乳房下部全体を均等に支持することができる。この構成によって、例えば、乳房に自家組織移植を受けた後の血管新生を阻害することが少なくなり、組織変性や瘢痕の発生リスクを低くできると考えられる。
【0028】
カップ部2の素材は特に限定されないが、カップ本体は伸縮性のない素材で構成することが好ましい。また、カップ部2の裏面は直接肌に当たるので、肌当たりの良い素材、例えば、綿ニット、ポリエステル素材、ポリウレタン素材、綿とポリエステルの混紡素材、綿とポリウレタンの混紡素材等を用いることが好ましい。また、カップ部2の表側には伸縮性レース9が位置しており、伸縮性レース9の裏面の上端には、平ゴム10が取り付けられている。カップ部2の表側に伸縮性レース9及び平ゴム10を配置することによって、乳房の上部を過度に圧迫することなくフィットするため、支持性と着用感が向上する。平ゴムに代えて伸縮テープを用いることもできる。
図2の例では、平ゴム10の幅は5mmであるが、デザインや目的に応じて、4~8mm程度のものを用いることができる。
【0029】
伸縮性レース9及び平ゴム10に、ストラップ5が連結している。すなわち、ストラップ5とカップ部2は、伸縮性部材である伸縮性レース9及び平ゴム10を介して連結されている。この構成によって、乳房の状態やボリュームによらず、フィット感が得られやすくなるため好ましい。なお、
図2の例では、伸縮性レース9が用いられているが、伸縮性レースに代えて、伸縮性を有するニット素材等を用いてもよい。なお、別の実施例として、ストラップとカップ部とを非伸縮性の部材を介して連結すること、ストラップとカップ部とを直接連結することもできる。
【0030】
伸縮性レース9は、肌側土台部32と表側土台部31との間から延在し、肌側土台部32の表面及びカップ部2の表面を覆う一連の伸縮性部材である。伸縮性レース9は、肌側土台部およびカップ部の全体を覆い、土台部の下端からカップ部の上縁よりも上まで延在している。肌側土台部からカップ部までを一連の伸縮性部材で覆う場合には、例えばボリュームの大きな乳房に対しても、伸縮性部材が伸びることによって乳房を支えることができ、よりフィット性に優れるという利点がある。
【0031】
図3は、カップ部2のポケット部分を特に示し、カップ部2に設けられた2つのポケットの間を広げた状態で、カップの裏面、上方から俯瞰する図である。カップ部2には、その肌側にアンダー調整ポケット21が設けられ、アンダー調整ポケット21はその内側に、パッドを出し入れするための開口25が設けられている。また、カップ部2の裏側、かつアンダー調整ポケット21よりも表側に、ボリューム調整ポケット22が設けられている。ボリューム調整ポケット22はカップ部2のほぼ全体を占める大きさのポケットであり、左右の乳房のボリュームの差を調整するために任意のパッドを挿入することができる。なお、ボリューム調整ポケット22は、図示された例以外にも、カップの脇部やカップの上半分、あるいは他の部分等、任意の一部分を占めるポケットとすることができる。また、複数のボリューム調整ポケットを備える構成としてもよい。ボリューム調整ポケット22は、その内側に、パッドを出し入れするための開口26が設けられている。言い換えると、ボリューム調整ポケット22は、ブラジャーの肌側に向けて開口するように設けられている。
【0032】
図4は、カップの一方(右)のアンダー調整ポケット21に、アンダー調整パッドを挿入した状態を示す。他方のカップ(左)には、パッドは挿入されていない。アンダー調整パッドを挿入すると、カップ下縁の全体がパッドで補われる。使用者の左右の乳房のアンダー位置が異なる場合、アンダー位置が相対的に高い側のカップにアンダー調整パッドを入れることによって、外見上のアンダー位置を調整することができる。左右の乳房のアンダー位置が異なる場合、ブラジャーを着けてもブラジャーが傾く、洋服のラインが歪む、ブラジャーの着け心地が良くないといった問題が生じることがあるが、アンダー位置を調整することによってこれらの問題を解消できる。また、左右の乳房のアンダー位置が異なると、アンダー位置が低い側の肩のみでブラジャーを支えることになり、肩こりを生じるなど身体への負担が大きかったところ、アンダー位置を調整することによって、身体への負担を軽減できる。
【0033】
また、アンダー調整ポケット21を肌側に設けることによって、アンダー調整パッドが上方にずれてしまうことが抑えられ、アンダー調整パッドが乳房の土台として有効に機能する。特に、インプラントを受けた乳房は、生体の乳房と比較して柔軟性が低く、姿勢への追従性も低いため、ブラジャー着用中にパッドのずれが生じやすい傾向があるが、前述の構成によって、ブラジャーを長時間にわたって着用する場合でもアンダー調整パッドを適切な位置に保持することができる。
【0034】
また、アンダー調整ポケット21とボリューム調整ポケット22とが別々に設けられていることによって、アンダー位置のみを調整したい場合、ボリュームのみを調整したい場合などに応じて、柔軟に対応可能である。さらに、アンダー調整ポケットを備えるとともに、肌側土台部が伸縮性を有するという構成によって、アンダー調整パッドを用いて左右のアンダー位置を調整した時に肌側土台部が適宜伸縮し、フィット感がよく、身体への負担も少なく、アンダー位置を揃えることができる。
【0035】
図5は、アンダー調整パッド51を示す。アンダー調整パッド51の下縁PUのカーブは、カップ部2の下縁CU(
図4参照)におおむね沿った形状であり、前中心頂部PCTはカップ部2の前中心頂部CTに、脇側頂部PSTはカップ部2の脇側頂部STに、それぞれおおむね対応する。アンダー調整パッド51は、バージスラインの最下部近傍の幅が3.5cm程度で最も幅広く、脇方向に漸次幅が狭くなるように造形された、バナナ型のパッドである。アンダー調整パッド51の厚みは約1cmである。このような形状とすることによって、自然なバージスラインが形成され、左右のアンダー位置の調整効果に優れる。アンダー調整パッド51は、
図5に示された例以外にも、幅や厚みが異なるもの、丸みを帯びた形状等、任意の形状とすることができる。例えば、最も幅の広い部分を1cm~4cm程度とし、厚みを0.5cm~3cm程度とすることもできる。
【0036】
アンダー調整パッドおよびボリューム調整パッドの素材は、公知の素材を目的やデザインに応じて選択することができる。例えば、天然繊維及び/又は合成繊維の綿、ウレタン系の発泡性樹脂、シリコン等の弾力性と成形性のある素材を、トリコット等の生地で包んだものを用いることができる。
【0037】
図6(A)(B)は、ブラジャー1の表側から、表側土台部31の内側の構造が一部見えるように示した図である。
図6(A)は本発明の実施例であり、表側土台部31よりも内側かつ肌側土台部32ないしカップ部2よりも表側に、伸縮性レース9が位置している。伸縮性レース9は、カップ部2の下縁には縫着されておらず、土台部の下端からカップ部の上縁よりも上まで、一連に延在している。
図6(B)は参考例であり、カップ部2および肌側土台部32の表面の伸縮性レースが、カップ部2の下縁に縫着されている。参考例では、肌側土台部32の表面に配置される伸縮性レースと、カップ部2の表面に取り付けられる伸縮性レースとが、分離された別の部材とされている。
【0038】
表側土台部31と肌側土台部32とは、カップ前中心頂部CT、土台部3の下端、及び、土台部の側縁8で互いに固定されている。カップ部2の下縁とワイヤー挿入部7とは、
図6に示されるとおり、その両端(前中心頂点CT及び脇部頂点ST)を除いて、互いに固定されていない。固定方法は、縫着のほか、接着やクリップ状の係合部材を用いる等、任意の方法を用いることができる。
【0039】
本発明のブラジャーでは、土台部3において、表側土台部31と肌側土台部32とを重ね合わせ、それらの一部のみを固定し、さらに、肌側土台部と表側土台部との間に位置し、肌側土台部の表面及びカップ部の表面を覆う伸縮性部材を備えるという構造によって、乳房の大きさに応じてカップ周囲が伸縮して乳房にフィットし、さらに伸縮性部材で乳房全体を包み込むため、ワイヤー無しでブラジャーを使用する場合でも、適度な支持性が得られる。また、ワイヤー有りでブラジャーを使用する場合に、ワイヤーによって乳房が過度に圧迫されることがない。さらに、カップとワイヤーとが互いに固定されていないため、挿入するワイヤーの形状を変更してもカップが変形せず、体調や術後の経過、体形の変化等に応じて、挿入するワイヤーを選択ないし変更することができる。例えば、左右で異なるワイヤーを用いる場合も、肌側土台部が伸縮することによって左右それぞれのカップが乳房にフィットするとともに、ワイヤーで乳房周囲が支持される。
【0040】
ワイヤーは、カップ部2の下縁と略同一の曲線を有する、基本形のワイヤーの他、バージスラインの広さ(ピッチ)やカーブの異なるもの、より柔らかい材質のワイヤーなどを適宜選択して用いることができる。ワイヤーは、カップのカップ前中心頂点CTから脇側頂点STまで延在するものを用いてもよいし、より短く、バージスラインの一部分のみに対応するワイヤーを用いてもよく、特に制限されない。特に、ワイヤー挿入部の長さの70~90%の長さのワイヤーを使用することが好ましい。ワイヤーの素材は、プラスチックや金属ワイヤー等、公知の素材を用いることができる。
【0041】
ワイヤーの有無やワイヤーの形状、長さが選択でき、また、ワイヤーがブラジャー表面に配置されているという構成によれば、ワイヤーによる直接的な圧迫を低減でき、さらに、肌側土台部が伸縮することによって乳房下部が適切に支持される。乳房切除の形態によっては、乳房再建後も腋窩周辺の組織が薄くなることがあり、このような場合には脇部のワイヤーの当たりによって皮膚を損傷するおそれがあるが、ワイヤーの有無や形状を選択できるため、このような後発的な事象を生じる原因を低減できると考えられる。
【0042】
図7は、カップ2及びワイヤー挿入部7の拡大図である。
図7Aは通常時、
図7Bはワイヤー挿抜時の状態を示す。すなわち、ワイヤー挿入部7は少なくともその一端にワイヤー挿抜口が設けられ、その表面側にカバー部材71が備けられる。ワイヤー挿入部7の端は封止されておらず、ワイヤー挿抜口72となっている。ワイヤーを挿入、あるいは取り出す時には、カバー部材71の下に位置するワイヤー挿抜口72から、ワイヤー73を出し入れすることができる。表面側にカバー部材71を設けることによって、ワイヤーの抜けが防止されるとともに、ワイヤーの出し入れがしやすく、また、裏面の凹凸が少なくなるため肌当たりが良い。
図7の例では、カバー部材71はワイヤー挿入部7の末端3cm程度をカバーしているが、デザインに応じて適宜変更することができる。
【0043】
ワイヤーを挿抜自在とすることによって、術後の経過や術部の状態等に応じて左右それぞれのワイヤー有無、また、ワイヤーのサイズを選択することができる。また、ワイヤーを挿抜自在とし、かつ、ワイヤー挿入部とカップ部を分離し、カップ部の土台部(肌側土台部)を伸縮性のあるものとすることによって、左右一方のみにワイヤーを入れる場合、あるいは左右で異なるワイヤーを使用する場合であっても、肌側土台部の伸縮性でその違いを調整し、フィット感が良く、自然な外見を得ることができる。
【0044】
本発明のブラジャーは、乳房に左右差のある、特に、乳房再建の経験者に有用であり、乳房再建後の左右アンダー位置の違い、大きさの違い、また、ブラジャーのワイヤーの有無の問題を同時に解決することができる。なお、本発明のブラジャーの構成を有しているものは、ブラジャーに限らず、ブラ付きスリップ、ブラキャミソール等であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ブラジャー
2 カップ部
3 土台部
31 表側土台部
32 肌側土台部
4 バック部
5 ストラップ
6 ホック
7 ワイヤー挿入部
8 土台部の側縁
9 伸縮性レース(伸縮性部材)
10 平ゴム
21 アンダー調整ポケット
22 ボリューム調整ポケット
23 カップ部と肌側土台部との連結部
25 アンダー調整ポケットの開口
26 ボリューム調整ポケットの開口
51 アンダー調整パッド
71 カバー部材
72 ワイヤー挿抜口
73 ワイヤー