(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】筋ジストロフィーの処置のためのチオモルホリノオリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7125 20060101AFI20240222BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240222BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
A61K31/7125 ZNA
A61P43/00 105
A61P21/04
(21)【出願番号】P 2020538747
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 US2018051907
(87)【国際公開番号】W WO2019060522
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-26
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】308032460
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
(73)【特許権者】
【識別番号】507192415
【氏名又は名称】マードック ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】520096884
【氏名又は名称】クリシュナ,ヘーラ
(73)【特許権者】
【識別番号】520096895
【氏名又は名称】ヤストルゼブスカ,カタジーナ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ,ヘーラ
(72)【発明者】
【氏名】ヤストルゼブスカ,カタジーナ
(72)【発明者】
【氏名】カラザーズ,マービン
(72)【発明者】
【氏名】ポール,シバシシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィードゥ,ラケシュ エヌ.
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/060135(WO,A1)
【文献】特表2014-515762(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0080896(US,A1)
【文献】特表2017-522010(JP,A)
【文献】特表2019-534862(JP,A)
【文献】Molecules,2016年,21(1582)
【文献】Sibasish et.al.,Thiophosphoramidate morpholino: A new class of antisense oligonucleotides,Abstracts of Papers, 254th ACS National Meeting & Exposition, Washington, DC, USA,2017年08月24日
【文献】Current Pharmaceutical Dwsign,2013年,19,2948-2962
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチセンスオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、ヒト対象の筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物であって、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、長さが20~50ヌクレオチドであり、
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが以下の少なくとも1つを含み、
次の式によるチオモルホリノヌクレオチド(TMO)
または、次の式によるチオモルホリノヌクレオチド/DNAキメラ(TMO/DNAキメラ)
ここで、Bは、アデニン、シトシン、5-メチルシトシン、グアニン、チミン、ウラシル、またはイノシンから選択されるヌクレオチド塩基であり、
前記TMO
またはTMO/DNAキメラはさらに、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン内の標的領域と相補的な少なくとも10の連続するヌクレオチドを含み、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、エクソンスキッピングを誘導する標的領域に特異的にハイブリダイズし、それによって前記対象の筋ジストロフィーを治療する、医薬組成物。
【請求項2】
前記治療が、前記対象におけるジストロフィン陽性線維の数を正常の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%に増加させる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ジストロフィン陽性線維の数が、前記ヒト対象において正常の20~60%の間に増加する、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーあるいはベッカー型筋ジストロフィーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、
チオモルホリノサブユニット、及びホスホロジアミデートヌクレオチド間連結ならびにチオリン酸ヌクレオチド間連結の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布または細胞内取込みを増強させる1つまたは複数の部分またはコンジュゲートに化学的に連結されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、アルギニンリッチペプチドにコンジュゲートされている、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、長さ15~20ヌクレオチドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、長さ20~30ヌクレオチドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ヒトジストロフィン遺伝子内のエクソンが、第23番エクソン、第51番エクソン、第50番エクソン、第53番エクソン、第45番エクソン、第46番エクソン、第44番エクソン、第52番エクソン、第55番エクソン及び第8番エクソンからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、リン酸緩衝食塩水をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布または細胞内取込みを増加させる1つまたは複数の部分またはコンジュゲートに化学的に連結されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、アルギニンリッチペプチドにコンジュゲートされている、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ヒト対象において、スプライシングプロセスの間に対象エクソンのエクソンスキッピングによって治療され得る、非機能性タンパク質の発現によって起きる疾患あるいは障害を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、長さ8~50ヌクレオチドのアンチセンスオリゴヌクレオチドを有効成分として含み、
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが以下の少なくとも1つを含み、
次の式によるチオモルホリノヌクレオチド(TMO)
または、次の式によるチオモルホリノヌクレオチド/DNAキメラ(TMO/DNAキメラ)
ここで、Bは、アデニン、シトシン、5-メチルシトシン、グアニン、チミン、ウラシル、またはイノシンから選択されるヌクレオチド塩基であり、
前記TMO
またはTMO/DNAキメラはさらに、標的遺伝子のエクソン内の標的領域と相補的な少なくとも8~10の連続するヌクレオチドを含み、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドはエクソンスキッピングを誘導する標的領域に特異的にハイブリダイズする、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年9月22日に出願した米国仮特許出願第62/562,162号の利益を主張するものであり、前記仮出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、一般に、患者の筋ジストロフィーを処置するための改善された方法の分野に関する。本出願は、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソンスキッピングを助長するために好適な組成物も提供する。
【背景技術】
【0003】
アンチセンス化合物は、様々な適応症における異常なまたは疾患に関連する遺伝子を修正または補償するために開発され続けている。アンチセンス分子は、遺伝子発現を特異的に阻害し、このため、遺伝子発現の調節因子としてのオリゴヌクレオチドに関する多くの研究努力は、標的遺伝子の発現またはシス作用エレメントの機能を阻害することに重点が置かれている。しかし、そのような技術は、目的が、ネイティブタンパク質の産生をアップレギュレートすること、または翻訳の中途終止を誘導する変異、例えば、ナンセンス変異もしくはフレームシフト変異を補償することである場合、役に立たない。これらの場合、欠陥遺伝子転写物の分解または立体阻害は、標的変異を補償しないであろう。
【0004】
エクソンスプライシングプロセスは、プレmRNA中の隣接するエクソン-イントロン接合部を極めて接近させ、イントロンの末端のホスホジエステル結合の切断を行い、その後、それらのホスホジエステル結合がエクソン間に再形成され、それらのエクソンが互いにスプライシングされることになるという、複雑な多成分機構によって方向付けられる。この複雑で精度の高いプロセスは、プレmRNA中の配列モチーフによって媒介され、前記配列モチーフは、後にスプライシング反応に関与する様々な核内スプライシング因子が結合する、比較的短い半保存RNAセグメントである。スプライシング機構がプレmRNAプロセシングに関与するモチーフを読取るまたは認識する方法を変化させることにより、異なった形でスプライシングされたmRNA分子を作出することが可能である。このようにして、遺伝子のやがて起こる発現増加に対する変異の影響をスプライシングプロセス中の標的エクソンスキッピングのプロセスによって調節することができる。
【0005】
標的エクソンスキッピングのプロセスは、多数のエクソン及びイントロンが存在する、エクソンの遺伝子構成に冗長性がある、または1つもしくは複数の特定のエクソンがなくてもタンパク質が機能することができる、長い遺伝子に、特に有用である可能性が高い。様々な遺伝子の変異に起因する短縮化に関連する遺伝性疾患の処置のために遺伝子プロセシングの方向を変えるためのこれまでの努力は、(1)スプライシングプロセスに関与するエレメントと完全にもしくは部分的にオーバーラップしている;または(2)プレmRNAと、そのエレメントで起こる特定のスプライシング反応を通常は媒介するスプライシング因子の結合及び機能を妨げるのに十分なほどそのエレメントに近い位置で結合する、どちらかのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用に重点を置いている。
【0006】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、タンパク質ジストロフィンの発現の欠損により引き起こされる。このタンパク質をコードする遺伝子は、DNAの2百万個を超えるヌクレオチドにわたって広がる79のエクソンを含有する。エクソンのリーディングフレームを変化させる、あるいは終止コドンを導入する、あるいはフレーム外の1つまたは複数のエクソン全体の除去または1つもしくは複数のエクソンの重複を特徴とする、いずれのエクソン変異も、機能性ジストロフィンの産生を妨げてDMDを生じさせる結果となる可能性がある。
【0007】
DMDは、早期成人期に死に至る、主として少年に発症する、重篤な筋消耗性の例外なく致命的な遺伝性疾患である。DMDを有する個体は、筋肉の強化及び保護に必要とされるタンパク質ジストロフィンが欠乏しており、この欠乏は、ジストロフィン(DMD)遺伝子の1つまたは複数のエクソンにおいて生じて機能性ジストロフィンの発現を消失させるナンセンスまたはフレームシフト変異に起因する。2’-O-メチルホスホロチオエート(2’-OMePS)化学構造を有するDrisapersen(Biomatin Incから)、及びDMDの第51番エクソンを標的とするように設計されたホスホロジアミデートモルホリノ(PMO)化学構造を有するエテプリルセン(Sarepta TherapeuticsからのEXONDYS 51(商標))などの、2種の治療用AOが、第III相臨床試験に入っている。Drispersenは、不良な有効性及び毒性の問題に基づきUS FDAにより拒絶されたが、一方、エテプリルセンは、2016年9月に臨床使用の条件付き迅速承認を受けた。
【0008】
1つの従来型のPMOに基づくAOが、現在臨床使用されているが、この化学構造に関連するいくつかの有意な制約がある。例えば、現行のPMOは、他の十分に確証されているヌクレオチドとのミクスマーAOを合成するための標準的なホスホロアミダイト化学構造と不適合性である。加えて、現行のPMO AOは、in vivoでの投与後に迅速に尿により排泄されるため高用量(30mg/kg/週;40kgの患者には1.2g/週)を必要とし、このことにより、最終的にこの薬はとてつもなく高価なものとなる。現行のPMO AOに伴うもう1つの有意な制約は、それらが、それらの中性電荷のため、in vitroでの迅速な細胞研究に現在利用可能なトランスフェクション試薬と複合化できないことである。
【0009】
したがって、患者の筋ジストロフィーを処置するための改善された組成物及び方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、現行のPMO AOに関連する制約を克服するために新規モルホリノ化学構造を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、筋ジストロフィーの進行を処置または防止するためにそのような処置を必要とする哺乳動物において有効なチオモルホリノオリゴヌクレオチドを含むアンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)を提供する。これらのチオモルホリノ含有ヌクレオチド(TMO)は、RNAプロセシング中にジストロフィン遺伝子の転写物のエクソン(第51番エクソンを含む)においてエクソンスキッピングを引き起こすことができ、アンチセンスオリゴヌクレオチドエテプリルセンに類似しているが、それより半減期が長く、製造法の複雑度がそれより実質的に低く、最終的には、治療用組成物及び投与レジメンがそれより安価になる。
【0012】
本開示の特に有用なTMOは、アンチセンスODN 1147、1148、1153及び1154(
図1C及び1Dに示されている塩基配列及びヌクレオチド間連結)を含む。
【0013】
したがって、本開示は、本開示のTMO組成物の有効量を投与することにより、患者の筋ジストロフィー及び特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を処置する方法であって、前記TMO組成物が、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン内の標的領域と相補的であり、したがって、標的領域と特異的にハイブリダイズし、エクソンスキッピングを誘導し、それによって筋ジストロフィーを処置する方法も提供する。そのようなTMOの投与は、対象のジストロフィン陽性線維の数を増加させて、筋ジストロフィーに罹患していない健常対象と比較して患者の歩行距離を安定化、維持または改善するのに十分なものであろう。
【0014】
これらの方法では、本開示のTMOを、ある用量で、ある期間にわたって投与して、それによって、対象のジストロフィン陽性線維の数を、筋ジストロフィーに罹患していない健常対象に存在するジストロフィン陽性線維の少なくとも約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約95%に増加させることができる。
【0015】
これらの方法では、本開示のTMOを、全身投与により、例えば、週1回もしくは隔月に、注入により、投与することができる。
【0016】
これらの方法は、患者の筋ジストロフィーを処置する方法であって、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン内の標的領域と相補的な連続する少なくとも10ヌクレオチドを含む、長さ20~50の間の本開示のアンチセンスTMOを含む組成物を投与することによる方法であり、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、エクソンスキッピングを誘導する標的領域と特異的にハイブリダイズし、それによって対象の筋ジストロフィーを処置する、方法を含み得る。
【0017】
これらの方法では、アンチセンスTMOは、第23番エクソン、第51番エクソン、第50番エクソン、第53番エクソン、第45番エクソン、第46番エクソン、第44番エクソン、第52番エクソン、第55番エクソン及び第8番エクソンからなる群から選択されるヒトジストロフィン遺伝子のエクソン内の標的領域と相補的であり得る。
【0018】
これらの方法では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、長さ15~20、20~50、30~50、または20~30ヌクレオチドである。
【0019】
これらの方法では、アンチセンスTMOは、アルギニンリッチペプチドなどの、アンチセンスオリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布または細胞内取込みを増加させる1つまたは複数の部分またはコンジュゲートに化学的に連結されていてもよい。
【0020】
したがって、本開示は、少なくとも1つのチオモルホリノヌクレオチドを含有する特有のアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びそのようなTMOならびに1つまたは複数の医薬品賦形剤を含む医薬組成物も提供する。
【0021】
この発明の概要は、本開示の程度及び範囲を全て表すことを目的としたものでも、本開示の程度及び範囲を全て表すと解釈すべきものでもない。さらに、本明細書での「本開示」またはその態様への言及を、本開示のある特定の実施形態を意味すると解するべきであり、必ずしも特定の記述への全実施形態の限定と解釈すべきではない。本開示は、この発明の概要はもちろん、添付の図面及び発明を実施するための形態にも、様々な詳細レベルで示され、本開示の範囲について、要素、成分などをこの発明の概要に組み入れることまたは組み入れないことのどちらかにより意図される制限はない。本開示のさらなる態様は、発明を実施するための形態から、特に図面と考え合せると、より容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】
図1Bに示されている合成のための基質を調製するために使用した合成スキームを示す。この合成スキーム中、試薬(i)NaIO
4(1.1当量)、(NH
4)2B
4O
7(1.1当量)、MeOH;(ii)NaCNBH
3(2.0当量)、AcOH(2.0当量)、MeOH;(iii)P(OCH
2CH
2CN)(NiPr
2)
2(1.2当量)、4,5-ジシアノイミダゾール(0.5当量)、及びCH
2Cl
2。
【
図1B】本開示の
チオモルホリノオリゴヌクレオチドを調製するために使用した合成サイクル、及びこれらの合成手順を使用して形成することができる例示的なオリゴヌクレオチド鎖(上方左側のボックス)を示す。
【
図1C】マウスモデルにおいてH2K mdx細胞を用いて第23番エクソンのスキッピングを研究するために使用した
チオモルホリノ(TMO)ODNの設計を示す。この配列設計は、H-2Kb-tsA58 mdxマウス筋管のDmd転写物における第23番エクソンスキッピングの誘導のための
チオモルホリノ及び
チオモルホリノ/DNAキメラの設計を表す。提示されている例示的ODN配列において、
チオモルホリノ及びチオリン酸ヌクレオチド間連結は、アスタリスク(
*)により示されており;モルホリノ及び2’デオキシリボヌクレオシドは、それぞれ、大文字及び小文字で示されており;2’O-メチルウリジンヌクレオチドは、「u-2’-OMe」により示されている。ODNの各々は、同じ塩基配列を有するが、チミジン塩基がウリジン塩基で置換されている、2’-Ome PS対照[ggccaaaccucggcuuaccn;配列番号3(この配列中の末端の「n」は、修飾塩基2’-O-メチルウリジン(um)である)]を除いて、同じ塩基配列[ggccaaacctcggcttaccn;配列番号2(この配列中の末端の「n」は、修飾塩基2’-O-メチルウリジン(um)である)]を有する。
【
図1D】
図1Cに表されるODNにおいて形成されたヌクレオチド間連結の化学構造を示す。左側のパネルには、ODN 1147、1148、1153及び1154に存在するヌクレオチド間連結の化学構造が表されており;中央のパネルには、PMO対照化合物に存在するヌクレオチド間連結が表されている。右側のパネルには、2’-Ome PS対照化合物に存在するヌクレオチド間連結が表されている。
【
図2A】デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおけるエクソンスキッピングの誘導のモデルを示す。
図2Aは、エクソンとイントロンとの両方を含む内在性ジストロフィンmRNAのマップを表す。
【
図2B】デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおけるエクソンスキッピングの誘導のモデルを示す。
図2Bは、活性ジストロフィンタンパク質を産生する結果となる、第23番エクソンのエクソンスキッピングを誘導するために使用した手法を示す。
【
図2C】デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおけるエクソンスキッピングの誘導のモデルを示す。
図2Cは、特異的ODN配列(配列番号2)、及びそれがジストロフィンmRNA第23番エクソン(配列番号1)のエクソン/イントロン境界にどのようにオーバーラップするのかを示す。
【
図3】リポフェクチンを用いてトランスフェクションを1日にわたって行ったときの第23番エクソンのエクソンスキッピングからの結果の概要を示す。
【
図4】リポフェクタミンを用いてトランスフェクションを1日にわたって行ったときの第23番エクソンのエクソンスキッピングからの結果の概要を示す。
【
図5】トランスフェクションをリポフェクチンまたはリポフェクタミンのどちらかの非存在下で1日にわたって行ったときの第23番エクソンのエクソンスキッピングからの結果の概要を示す。
【
図6】デンシトメトリー分析を使用して試験した、
図4及び5に示されている結果の概要を示す。
【
図7】トランスフェクションを一切の脂質の非存在下で5日にわたって行ったときの第23番エクソンのエクソンスキッピングからの結果の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、ヒトジストロフィン遺伝子においてエクソンスキッピングを誘導するように特異的に設計されているアンチセンスオリゴヌクレオチド化合物を投与することによる、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)などの筋ジストロフィーを処置するための改善された方法を提供する。ジストロフィンは、筋機能に極めて重要な役割を果たし、様々な筋肉関連疾患は、この遺伝子の変異した形態を特徴とする。したがって、ある特定の実施形態では、本明細書に記載される改善された方法を使用して、DMDに見られる変異したジストロフィン遺伝子などの、変異した形態のヒトジストロフィン遺伝子においてエクソンスキッピングを誘導することができる。
【0024】
変異により引き起こされる異常mRNAスプライシング事象に起因して、変異したヒトジストロフィン遺伝子は、欠陥ジストロフィンタンパク質を発現するか、または測定可能なジストロフィンを全く発現せず、これは、様々な型の筋ジストロフィーにつながる状態である。この状態を治療するために、本開示のアンチセンス化合物は、変異したヒトジストロフィン遺伝子のプロセシングされる前のRNAの選択された領域とハイブリダイズし、そうしなければ異常にスプライシングされるジストロフィンmRNAにおいてエクソンスキッピング及び異なったスプライシングを誘導することによって、筋細胞による機能性ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写物の産生を可能にする。ある特定の実施形態では、結果として生じるジストロフィンタンパク質は、必ずしも「野生型」形態のジストロフィンではなく、むしろ短縮形態の、しかし機能性または半機能性形態の、ジストロフィンである。
【0025】
筋細胞中の機能性ジストロフィンタンパク質のレベルを上昇させることにより、これらの方法は、筋ジストロフィー、特に、異常なmRNAスプライシングに起因する欠陥ジストロフィンタンパク質の発現を特徴とする形態の筋ジストロフィー、例えばDMD、の予防及び処置に有用である。本明細書に記載される方法は、筋ジストロフィーを有する患者に改善された処置の選択肢をさらに与え、該当する形態の筋ジストロフィーを処置する代替方法に勝る有意な及び実用面での利点を提供する。例えば、本開示の改善された方法は、ヒトジストロフィン遺伝子においてエクソンスキッピングを誘導するためのチオモルホリンアンチセンス化合物の投与であって、先行の手法より低い用量及び/または低頻度の投薬レジメンを必要とし得る投与に関する。
【0026】
したがって、本発明は、患者においてエクソンスキッピングを誘導することによる、DMDなどの筋ジストロフィーを処置するための改善された方法に関する。これらの方法では、エクソンスキッピングは、ジストロフィンプレmRNAのエクソン内の標的配列と選択的に結合するチオモルホリノリゴマー(TMO)を含む、組成物の有効量を投与することにより誘導される。DMDを処置するこれらの方法では、投与される組成物の有効量は、疾患を処置するのに十分な期間にわたって投与される、本明細書に記載のアンチセンスチオモルホリノを含むいくつかの量うちの1つ、例えば、2mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または15mg/kg~50mg/kgの範囲の投薬量を含み得る。
【0027】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての専門及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または等価の任意の方法及び材料を本発明の実施または試験の際に使用することができるのだが、好ましい方法及び材料が記載される。本発明のために、以下の用語が下記で定義される。
【0028】
定義
「約」とは、基準分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さに対して30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%ほど異なる分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さを意味する。
【0029】
用語「相補(的)」及び「相補性」は、塩基対合則により関連付けられるポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)を指す。例えば、配列「T-G-A(5’-3’)」は、配列「T-C-A(5’-3’)」と相補的である。相補性は、「部分的」であることもあり、この場合、核酸の塩基の一部しか塩基対合則に従ってマッチしない。または、核酸間に「完全」もしくは「全」相補性が存在することもある。核酸鎖間の相補性度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率及び強度に有意な影響を与える。完璧な相補性が所望されることが多いが、一部の実施形態は、標的RNAに対して1つまたは複数の、しかし好ましくは6、5、4、3、2または1つの、ミスマッチを含み得る。オリゴマー内の任意の位置でのバリエーションが含まれる。ある特定の実施形態では、オリゴマーの末端付近の配列のバリエーションは、一般に、内部におけるバリエーションより好ましく、存在する場合、典型的には、5’及び/または3’末端から約6、5、4、3、2または1ヌクレオチド以内にある。
【0030】
用語「細胞膜透過性ペプチド」及び「CPP」は、同義で使用され、カチオン性細胞膜透過性ペプチドを指し、これらは、「輸送ペプチド」、「担体ペプチド」または「ペプチド形質導入ドメイン」とも呼ばれる。本明細書で示される場合のペプチドは、所与の細胞培養集団の細胞の100%以内において細胞膜透過を誘導することができ、全身投与されるとin vivoで複数の組織内への高分子の移行を可能にする。好ましいCPP実施形態は、下記でさらに説明されるようなアルギニンリッチペプチドである。
【0031】
用語「アンチセンスオリゴマー」及び「アンチセンス化合物」及び「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、同義で使用され、塩基対合部分を各々が有する環状ヌクレオチドの配列であって、標的配列内に核酸:オリゴマーヘテロ二本鎖を形成するようにワトソン・クリック塩基対合により塩基対合部分を核酸(典型的にはRNA)内の標的配列とハイブリダイズさせるヌクレオチド間連結によって連結されている配列を指す。これらの環状サブユニットは、リボースまたは別のペントース糖または、好ましい実施形態では、チオモルホリノ基(下記のモルホリノオリゴマーの説明を参照されたい)に基づく。オリゴマーは、標的配列との厳密な相補性を有することもあり、または近似的な相補性を有することもあり;オリゴマーの末端付近の配列のバリエーションは、一般に、内部におけるバリエーションより好ましい。
【0032】
これらの方法において、mRNAの翻訳を阻止もしくは阻害するように、または天然プレmRNAスプライスプロセシングを阻害するように、アンチセンスオリゴマーを設計することができ、アンチセンスオリゴマーは、それがハイブリダイズする標的配列「に方向付けられる」または「に対して標的化される」と言われることがある。典型的には、標的配列は、mRNAのAUG開始コドン、翻訳抑制オリゴマー、またはプロセシングされる前のmRNAのスプライス部位、スプライス抑制オリゴマー(SSO)を含む、領域である。スプライス部位の標的配列は、プロセシングされる前のmRNA中の通常のスプライスアクセプター接合部の下流にその5’末端1~約25塩基対を有するmRNAを含み得る。好ましい標的配列は、スプライス部位を含む、またはエクソンコード配列内に全部が含有される、またはスプライスアクセプターもしくはドナー部位に及ぶ、プロセシングされる前のmRNAの任意の領域である。より一般的には、オリゴマーは、上記の方法で標的の核酸に対して標的化される場合、タンパク質、ウイルスまたは細菌などの生体関連標的「に対して標的化される」と言われる。
【0033】
用語「モルホリノオリゴマー」または「
チオモルホリノオリゴマー」または「TMO」は、(i)構造が、1つのサブユニットのモルホリノ窒素を隣接サブユニットの5’環外炭素に結合させる、非荷電であってもよくまたはカチオン性であってもよい、1~3原子長、好ましくは2原子長の、ホスホロチオ酸エステル含有連結によって、互いに連結されている、及び(ii)各モルホリノ環が、塩基特異的水素結合によりポリヌクレオチド中の塩基と結合するために有効なプリンまたはピリミジン塩基対合部分を有する、モルホリノサブユニット構造(
チオモルホリノを含む)で構成されているオリゴヌクレオチド類似体を指す。例えば、
図1A、1B及び1Cに表される構造を参照されたい。この連結にバリエーションを加えることができるが、それらのバリエーションが結合にも活性にも干渉しないことを条件とする。5’酸素は、アミノまたは低級アルキル置換アミノで置換されていてもよい。リンに結合されているペンダント窒素は、非置換であってもよく、(必要に応じて置換されている)低級アルキルで一置換または二置換されていてもよい。プリンまたはピリミジン塩基対合部分は、典型的には、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、チミジンまたはイノシンである。モルホリノオリゴマーの合成、構造、及び結合特性は、2017年9月15日に出願された同時係属PCT特許出願第PCT/US17/51839号に詳述されており、この参考特許文献は、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
「アミノ酸サブユニット」または「アミノ酸残基」は、アルファアミノ酸残基(--CO--CHR--NH--)を指すこともあり、またはベータ-もしくは他のアミノ酸残基(例えば、--CO--(CH2)nCHR-NH-)を指すこともあり、これらの式中のRは側鎖(これは、水素を含み得る)であり、nは1~6、好ましくは1~4である。
【0035】
用語「天然に存在するアミノ酸」は、自然界に見られるタンパク質中に存在するアミノ酸を指す。用語「天然に存在しないアミノ酸」は、自然界に見られるタンパク質中に存在しないアミノ酸を指し;例としては、ベータアラニン(ベータAla)、6-アミノヘキサン酸(Ahx)及び6-アミノペンタン酸が挙げられる。
【0036】
「エクソン」は、タンパク質をコードする核酸の定義されたセクションを指すか、またはプロセシングされる前の(または前駆体)RNAのいずれかの部分がスプライシングにより除去された後のRNA分子の成熟形態で表される核酸配列を指す。成熟RNA分子は、メッセンジャーRNA(mRNA)であることもあり、またはrRNAもしくはtRNAなどの、非コードRNAの機能性形態であることもある。ヒトジストロフィン遺伝子は、79のエクソンを有する。
【0037】
「イントロン」は、タンパク質の翻訳されない核酸領域(遺伝子内の)を指す。イントロンは、前駆体mRNA(プレmRNA)に翻訳され、その後、成熟RNAの形成中にスプライシングにより除去される、非コード領域である。
【0038】
「有効量」または「治療有効量」は、単一用量としてまたは一連の用量の一部としてのどちらかでヒト対象に投与されるアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの治療用化合物の、所望の治療効果を生じさせるのに有効である量を指す。アンチセンスオリゴヌクレオチドについて、この効果は、選択された標的配列の翻訳または天然スプライスプロセシングの阻害によって、概してもたらされる。有効量は、可変的であり得、例えば、対象を処置するための、ある期間にわたっての、チオモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物5mg/kgであり得る。一実施形態では、有効量は、対象のジストロフィン陽性線維の数を正常の少なくとも20%に増加させるための、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物5mg/kgであり得る。別の実施形態では、有効量は、健常な同等者と比較して患者の歩行距離を安定化、維持または改善するための、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物5mg/kgであり得る。別の態様では、有効量は、少なくとも24週間、少なくとも36週間または少なくとも48週間投与されて、それによって対象のジストロフィン陽性線維の数を正常の少なくとも約20%に、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%に、または約95%に増加させ、健常な同等者と比較して患者の歩行距離を安定化、維持または改善する、5mg/kgであり得る。
【0039】
「エクソンスキッピング」は、全エクソンまたはその一部分が、所与のプロセシングされる前のRNAから除去され、それによって、タンパク質に翻訳される成熟mRNAなどの成熟RNA中に存在することから除外されるプロセスを、一般に指す。したがって、スキップされたエクソンによってそうされなければコードされているタンパク質の部分は、タンパク質の発現形態には存在せず、したがって、タンパク質の改変された、とはいえ依然として機能性の、形態を典型的には生成する。ある特定の実施形態では、スキップされるエクソンは、そうでなければ異常なスプライシングの原因となる変異または他の改変をその配列に含有し得る、ヒトジストロフィン遺伝子からの異常なエクソンである。ある特定の実施形態では、スキップされるエクソンは、ヒトジストロフィン遺伝子の第1~79番エクソンのうちのいずれか1つまたは複数、例えば、第3~8番、第10~16番、第19~40番、第42~47番、及び第50~55番エクソンであるが、ヒトジストロフィン遺伝子の第24、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56及び8番エクソンが好ましい。
【0040】
「ジストロフィン」は、杆体様細胞質タンパク質であり、細胞膜を越えて筋線維の細胞骨格を周囲の細胞外基質と接続しているタンパク質複合体の重要な部分である。ジストロフィンは、複数の機能性ドメインを含有する。例えば、ジストロフィンは、アクチン結合ドメインを約アミノ酸14~240に含有し、中央杆状ドメインを約アミノ酸253~3040に含有する。この大きい中央ドメインは、アルファアクチン及びスペクトリンとの相同性を有する、約109アミノ酸の24のスペクトリン様三重ヘリックスエレメントにより形成される。リピートは、典型的には、ヒンジ領域とも呼ばれる4つのプロリンリッチ非リピートセグメントにより分断されている。リピート15及び16は、18アミノ酸ストレッチにより隔てられており、このストレッチが、ジストロフィンのタンパク質切断の主要部位を提供するようである。大部分のリピート間の配列同一性は、10~25%の範囲である。1つのリピートは、3つのアルファヘリックス:1、2及び3を含有する。アルファヘリックス1及び3は、各々が7つのヘリックスターンにより形成され、これらは、疎水性界面を介してコイルドコイルとして相互作用している。アルファヘリックス2は、より複雑な構造を有し、4つ及び3つのヘリックスターンのセグメントにより形成され、これらのターンは、グリシンまたはプロリン残基により隔てられている。各リピートは、2つのエクソンによりコードされ、これらのエクソンは、典型的には、アルファヘリックス2の第1の部分のアミノ酸47とアミノ酸48との間でイントロンにより分断されている。他のイントロンは、リピート内の異なる位置に見られ、通常はヘリックス-3にわたって散在している。ジストロフィンはまた、粘菌(キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum))アルファアクチンのC末端ドメインとの相同性を示すシステインリッチセグメント(すなわち、280のアミノ酸中、15のシステイン)を含むシステインリッチドメインを、約アミノ酸3080~3360に含有する。カルボキシ末端ドメインは、約アミノ酸3361~3685にある。
【0041】
ジストロフィンのアミノ酸末端は、F-アクチンと結合し、カルボキシ末端は、筋細胞膜におけるジストロフィン結合タンパク質複合体(DAPC)と結合する。DAPCは、ジストログリカン、サルコグリカン、インテグリン及びカベオリンを含み、これらの成分のいずれに関する変異も、常染色体遺伝性筋ジストロフィーの原因となる。DAPCは、ジストロフィンが非存在であると不安定化され、これによりメンバータンパク質のレベルが低下することとなり、その結果として、進行性線維損傷及び膜漏出に至る。デュセンヌ型筋ジストロフィー(DMD)及びベッカー型筋ジストロフィー(BMD)などの、様々な型の筋ジストロフィーにおいて、筋細胞は、誤ったスプライシングにつながる遺伝子配列の変異のため、改変された及び機能的に欠陥のある形態のジストロフィンを産生するか、またはジストロフィンを全く産生しない。欠陥ジストロフィンタンパク質の優勢発現、またはジストロフィンもしくはジストロフィン様タンパク質の完全欠如は、上述のとおり急速な筋変性プロセスにつながる。これに関して、「欠陥」ジストロフィンタンパク質は、当技術分野において公知の、DMDもしくはBMDを有するある特定の対象において産生される形態のジストロフィンを特徴とすることもあり、または検出可能なジストロフィンの非存在を特徴とすることもある。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「機能」及び「機能性の」などは、生物学的、酵素的または治療的機能を指す。「機能性」ジストロフィンタンパク質は、DMDまたはBMDを有するある特定の対象に存在する改変された形態または「欠陥」形態のジストロフィンタンパク質と概して比較して、筋ジストロフィーの他の特徴である筋組織の進行性変性を軽減するのに十分な生物活性を有する、ジストロフィンタンパク質を一般に指す。ある特定の実施形態では、機能性ジストロフィンタンパク質は、当技術分野における常例的技術に従って測定して、野生型ジストロフィンのin vitroまたはin vivoでの生物活性の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%(これらの間の全ての整数値を含む)を有し得る。一例として、in vitroでの筋培養物におけるジストロフィン関連活性は、筋管サイズ、筋原線維構築(または崩壊)、収縮活動、及びアセチルコリン受容体の自発的クラスター形成に従って測定することができる(例えば、Brownら、Journal of Cell Science.112:209~16頁、1999年を参照されたい)。動物モデルもまた、疾患の発病機序の研究の貴重な資源であり、ジストロフィン関連活性を試験する手段をもたらす。DMD研究のために最も広く使用されている動物モデルのうちの2つは、mdxマウス及びゴールデンリトリバー筋ジストロフィー(GRMD)犬であり、これらは両方ともジストロフィン陰性である(例えば、Collins及びMorgan、Int J Exp Pathol 84:165~172頁、2003年)を参照されたい。これらの及び他の動物モデルを使用して、様々なジストロフィンタンパク質の機能活性を測定することができる。本発明のエクソンスキッピングアンチセンス化合物のうちのいくつかにより産生される形態などの、短縮形態のジストロフィンが含まれる。
【0043】
ジストロフィン合成または産生の「回復」という用語は、本明細書に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドでの処置後の、筋ジストロフィーを有する患者における短縮形態のジストロフィンを含むジストロフィンタンパク質の産生を、一般に指す。一部の実施形態では、処置により、患者における新規ジストロフィン産生が1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%(これらの間の全ての整数値を含む)増加する結果となる。一部の実施形態では、処置は、対象におけるジストロフィン陽性線維の数を、正常の少なくとも約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約95%~100%に増加させる。他の実施形態では、処置は、対象のジストロフィン陽性線維の数を正常の約20%~約60%、または約30%~約50%に増加させる。処置後の患者におけるジストロフィン陽性線維のパーセントは、筋生検試料により公知の技術を使用して決定することができる。例えば、筋生検試料は、患者の上腕二頭筋などの適切な筋肉から採取され得る。
【0044】
陽性ジストロフィン線維のパーセンテージの分析を処置前及び/もしくは処置後に行ってもよく、または処置の全過程にわたって複数の時点で行ってもよい。例えば、処置後生検試料は、処置前生検試料の反対側の筋肉から採取される。処置前及び処置後ジストロフィン発現研究は、ジストロフィンについてのいずれの好適なアッセイを使用して行ってもよい。免疫組織化学的検出は、筋生検からの組織切片を用いて、ジストロフィンのマーカーである抗体、例えば、モノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用して行われる。例えば、ジストロフィンの高感度マーカーであるMANDYS106抗体を使用することができる。いずれの好適な二次抗体を使用してもよい。
【0045】
ジストロフィン陽性線維パーセントは、計数された総線維数で陽性線維数を割ることにより算出することができる。正常な筋試料は、100%ジストロフィン陽性線維を有する。したがって、ジストロフィン陽性線維パーセントを正常のパーセンテージとして表すことができる。処置前筋肉中の及び関連線維中の微量レベルのジストロフィンの存在を制御するために、処置後筋肉中のジストロフィン陽性線維を計数する際に、各患者からの処置前筋肉の切片を使用してベースラインを設定することができる。これを、その患者の処置後筋肉切片中のジストロフィン陽性線維の計数に閾値として使用することができる。抗体で染色された組織切片も、Bioquant画像解析ソフトウェア(Bioquant Image Analysis Corporation、Nashville、Tenn.)を使用するジストロフィン定量に使用することもできる。全ジストロフィン蛍光シグナル強度を正常のパーセンテージとして報告することができる。加えて、モノクローナルまたはポリクローナル抗ジストロフィン抗体を用いるウェスタンブロット分析を使用して、ジストロフィン陽性線維のパーセンテージを決定することができる。例えば、Novacastraからの抗ジストロフィン抗体NCL-Dyslを使用してもよい。ジストロフィン陽性線維のパーセンテージを、サルコグリカン複合体(ベータ、ガンマ)及び/または神経型NOSの成分の発現を決定することにより分析することもできる。
【0046】
「単離された」とは、そのネイティブ状態で通常はそれに付随する成分が実質的にまたは本質的にない材料を意味する。例えば、「単離されたポリヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、天然に存在する状態でそれに隣接している配列から精製または除去されたポリヌクレオチド、例えば、通常はその断片に隣接している配列から除去されたDNA断片を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「十分な長さ」は、標的ジストロフィンプレmRNA中の連続する少なくとも8、より典型的には8~30核酸塩基に相補的である、アンチセンスオリゴヌクレオチドを指す。一部の実施形態では、十分な長さのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的ジストロフィンプレmRNA中の連続する少なくとも8、9、10、11、12、13、14または15核酸塩基を含む。他の実施形態では、十分な長さのアンチセンスは、標的ジストロフィンプレmRNA中の連続する少なくとも16、17、18、19、20、21、22、23、24または25核酸塩基を含む。十分な長さのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ジストロフィン遺伝子の第1~79番エクソンのうちのいずれか1つまたは複数と特異的にハイブリダイズすることができるヌクレオチドの最小数を少なくとも有する。好ましくは、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヒトジストロフィン遺伝子の第24、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56または8番エクソンのうちのいずれか1つまたは複数と特異的にハイブリダイズすることができるヌクレオチドの最小数を有する。好ましくは、十分な長さのオリゴヌクレオチドは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39及び40ヌクレオチド以上のオリゴヌクレオチドを含む、長さ約8~約50ヌクレオチドである。したがって、十分な長さのオリゴヌクレオチドは、長さ10~約30ヌクレオチド、または長さ15~約25ヌクレオチド、または長さ20~30、もしくは20~50ヌクレオチド、または長さ25~28ヌクレオチドであり得る。
【0048】
「増強する」もしくは「増強すること」、または「増加させる」もしくは「増加させること」、「刺激する」もしくは「刺激すること」は、本開示の1つまたは複数のアンチセンス化合物または組成物が、細胞または対象において、アンチセンス化合物なしまたは対照化合物のどちらかによって引き起こされる応答と比較して大きい生理応答(すなわち、下流の効果)を生じさせること、または引き起こすことができることを、一般に指す。測定可能な生理応答は、当技術分野における理解及び本明細書における説明から明らかな数ある応答の中でも特に、機能性形態のジストロフィンタンパク質の発現増加、または筋組織におけるジストロフィン関連生物活性増大を含み得る。筋機能の約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%増大または改善を含む、筋機能増大が、測定されることもある。筋線維の約1%、2%、%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%におけるジストロフィン発現増加を含む、機能性ジストロフィンを発現する筋線維のパーセンテージが、測定されることもある。例えば、線維の25~30%がジストロフィンを発現する場合、約40%の筋機能改善が起こり得ることが示されている(例えば、DelloRussoら、Proc Natl Acad Sci USA 99:12979~12984頁、2002年を参照されたい)。「増加した」または「増強した」量は、典型的には「統計的に有意な」量であり、アンチセンス化合物なし(薬剤の非存在)または対照化合物によって生じる量の1.1、1.2、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50倍以上(例えば、500、1000倍)(これらの間の及び1より上の全ての整数及び小数点、例えば、1.5、1.6、1.7、1.8などを含む)である増加を含み得る。
【0049】
用語「低減する」または「阻害する」は、一般に、本発明の1つまたは複数のアンチセンス化合物が、診断技術分野における常例的技術に従って測定して、関連生理または細胞応答、例えば、本明細書に記載される疾患または状態の症状を「減少させる」ことができることに関し得る。関連生理または細胞応答(in vivoまたはin vitro)は、当業者には明らかであり、筋ジストロフィーの症状もしくは病状の軽減、またはDMDもしくはBMDなどの筋ジストロフィーを有する個体において発現される改変された形態のジストロフィンなどの欠陥形態のジストロフィンの発現の低減を含み得る。応答の「減少」は、アンチセンス化合物なしまたは対照組成物によって生じる応答と比較して統計的に有意であり得、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%減少を、これらの間の全ての整数値を含めて、含み得る。
【0050】
本発明のオリゴマージストロフィン標的化配列を発現することができるベクター送達系、例えば、本明細書に記載の、表3及び4に示されている配列のいずれか1つまたは複数を含むポリヌクレオチド配列を発現するベクター、及びそれらのバリアントも、含まれる。「ベクター」または「核酸構築物」とは、ポリヌクレオチドを挿入またはクローニングすることができるポリヌクレオチド分子、好ましくは、例えばプラスミド、バクテリオファージ、酵母またはウイルスに由来する、DNA分子を意味する。ベクターは、好ましくは、1つまたは複数の特有の制限部位を含有し、標的細胞もしくは組織またはその前駆体細胞もしくは組織を含む定義された宿主細胞において自己複製することができるか、あるいはクローニングされた配列が再生できるように定義された宿主のゲノムに組み込まれることができる。したがって、ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、その複製が染色体複製に依存しない、染色体外の実体として存在するベクター、例えば、直鎖状もしくは閉環状プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、または人工染色体であり得る。ベクターは、自己複製を確保するための任意の手段を含有し得る。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されるときにゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体とともに複製されるものであり得る。
【0051】
個体(例えば、ヒトなどの動物)または細胞の「処置」は、個体または細胞の自然経過を改変するために使用される任意のタイプの介入である。処置は、医薬組成物の投与を含むがこれに限定されず、予防的に行われることもあり、または病的事象の開始もしくは病原因子との接触後に行われることもある。処置は、ある特定の型の筋ジストロフィーにおけるような、ジストロフィンタンパク質に関連する疾患または状態の症状または病状に対する、あらゆる望ましい効果を含み、例えば、処置される疾患または状態の1つまたは複数の測定可能なマーカーの最小限の変化または改善を含むこともある。処置される疾患もしくは状態の進行速度を低下させること、疾患もしくは状態の発症を遅延させること、またはその発症の重症度を低下させることを対象にし得る、「予防的」処置も、含まれる。「処置」または「予防」は、疾患もしくは状態、またはその関連症状の、完全な根絶、治癒または防止を必ずしも示さない。
【0052】
一実施形態では、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドでの処置は、新規ジストロフィン産生を増加させ、処置しない場合に予想される歩行能喪失を緩徐化または軽減する。例えば、処置は、対象の歩行能力を安定化すること、維持すること、改善することまたは増大させることができる(例えば、歩行運動の安定化)。一部の実施形態では、処置は、例えば、McDonaldら(参照により本明細書に組み込まれる、Muscle Nerve、2010年;42:966~74頁)により記載された6分歩行テスト(6MWT)によって測定して、対象の安定した歩行距離を維持するかまたは増加させる。6分歩行距離(6MWD)の変化を、絶対値、変化パーセンテージ、または予測%値の変化として表すことができる。一部の実施形態では、処置は、6MWTにおける安定した歩行距離を維持するか、または健常な同等者に対する対象における20%欠如から改善する。健常な同等者の典型的な成績に対する6MWTにおけるDMD患者の成績は、予測%値を算出することにより決定することができる。例えば、予測6MWD%は、男性については次の方程式を使用して算出することができる:
196.72+(39.81×年齢)-(1.36×年齢2)+(132.28×身長(メートルで))。
女性については、予測6MWD%を、次の方程式を使用して算出することができる:
188.61+(51.50×年齢)-(1.86×年齢2)+(86.10×身長(メートルで))
(Henricsonら、PLoS Curr.、2012年、第2版)。一部の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドでの処置は、患者の安定した歩行距離をベースラインから3、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30または50メートル(これらの間の整数値を含む)より大きく増加させる。
【0053】
DMDを有する患者の筋機能の喪失は、正常な小児期成長及び発達のバックグラウンドに対して発生し得る。実際、DMDを有する幼児は、進行性筋障害にもかかわらず約1年の経過において6MWT中に歩行する距離の増加を示し得る。一部の実施形態では、DMDを有する患者からの6MWDは、典型的に発達している対照対象と比較され、年齢及び性別を適合させた対象からの既存の規範データと比較される。他の実施形態では、規範データに合せた年齢及び身長に基づく方程式を使用して、正常な成長及び発達を説明することができる。そのような方程式を使用して、6MWDを、DMDを有する対象における予測パーセント(予測%)値に変換することができる。予測6MWD%データの分析は、正常な成長及び発達を説明する方法の代表であり、DMDを有する患者では若年齢(例えば、7歳以下)での機能の獲得が能力の改善ではなく安定した能力を表すことを示し得る(参照により本明細書に組み込まれる、Henricsonら、PLoS Curr.、2012年、第2版)。
【0054】
本明細書で使用される場合、「対象」は、本発明のアンチセンス化合物で処置され得る症状を示すかまたは症状を示すリスクがある任意の動物、例えば、DMDもしくはBMDなどの筋ジストロフィーまたはこれらの状態に関連する症状のいずれか(例えば、筋線維喪失)を有するかまたは有するリスクがある対象を含む。好適な対象(患者)は、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギまたはモルモット)、家畜、及び飼育動物またはペット(例えば、ネコまたはイヌ)を含む。非ヒト霊長類及び好ましくはヒト患者が含まれる。
【0055】
異なるアンチセンス分子間の区別をつけるためのアンチセンス分子命名法体系が提案され、発表されている(Mannら、(2002年)J Gen Med 4、644~654頁を参照されたい)。この命名法は、いくつかの僅かに異なるアンチセンス分子を、全て同じ標的領域に対して試験する場合、特に適切であり得る。
【0056】
命名法:H#A/D(x:y)を使用する場合、最初の文字は、種を指定する(例えば、H:ヒト、M:マウス、C:イヌ)。「#」は、標的ジストロフィンエクソン番号を指定する。「A/D」は、エクソンの始点及び終点におけるアクセプターまたはドナースプライス部位をそれぞれ示す。(xy)は、アニーリング座標を表し、座標における「-」または「+」は、イントロン配列またはエクソン配列をそれぞれ示す。例えば、A(-6+18)は、標的エクソンの前のイントロンの最後の6塩基、及び標的エクソンの最初の18塩基を示すことになる。最も近いスプライス部位はアクセプターであるため、これらの座標の前に「A」があることになる。ドナースプライス部位におけるアニーリング座標の記述は、最後の2個のエクソン塩基及び最初の18個のイントロン塩基が、アンチセンス分子のアニーリング部位に対応する場合、D(+2-18)となり得るだろう。A(+65+85)によって表される全エクソンアニーリング座標、これは、そのエクソンの始点から65番目のヌクレオチドと85番目のヌクレオチドとの間の部位である。
【0057】
II.アンチセンスオリゴヌクレオチドの構築
本発明の例示的な実施形態は、
図1Dで例証されるような、
チオモルホリノ含有ヌクレオチド間連結を有するモルホリノオリゴヌクレオチドに関する。アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、そのような
チオモルホリノオリゴヌクレオチドの効率的な作製方法は、例えば、2017年9月15日に出願された共同所有PCT特許出願第PCT/US17/51839号に詳述されており、この参考特許文献は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0058】
チオモルホリノに基づくサブユニットの重要な特性としては、1)オリゴマー形態で2’-デオキシリボヌクレオシドと連結される能力;2)形成されるポリマーが、標的RNAを含む相補的塩基標的核酸とハイブリダイズすることができるように、ヌクレオチド塩基(例えば、アデニン、シトシン、グアニン、チミジン、ウラシル及びイノシン)を支持する能力、比較的短いオリゴヌクレオチド(例えば、8~15塩基)における約50℃より高いTm値;3)哺乳動物細胞に能動的にまたは受動的に輸送されるオリゴヌクレオチドの能力;及び4)PMOより長い半減期(すなわち、より遅い排泄);6)迅速なin vitroでの細胞内取込みのために現在利用可能な薬剤と複合体化するそれらの能力を増大させる荷電骨格が挙げられる。
【0059】
本開示のアンチセンス
チオモルホリノオリゴヌクレオチドの例示的な骨格構造は、ホスホロチオ酸エステル含有ヌクレオチド間連結により連結された、
図1A及び1Bに示されているような
チオモルホリノサブユニットタイプを含む。
【0060】
ある特定の実施形態では、アンチセンス化合物は、2017年9月15日に出願されたPCT特許出願第PCT/US17/51839号に詳述されている方法、及び非荷電骨格連結とカチオン性骨格連結との混合物を有するオリゴヌクレオチドの合成に関しては下記で詳述される方法を利用して段階的固相合成により調製することができる。一部の場合には、例えば、薬物動態を増強するためにまたは化合物の捕捉もしくは検出を助長するために、さらなる化学的部分をアンチセンス化合物に付加させることが望ましいこともある。そのような部分を、標準的な合成方法に従って共有結合させることができる。例えば、細胞内取込みを増加させるための部分(例えば、TAT)、またはFc結合免疫グロブリンサブユニット、または糖類(例えば、ラクトースなどの二糖類)、またはポリエチレングリコール部分もしくは他の疎水性ポリマー、例えば、1~100個のモノマーサブユニットを有するものの付加は、溶解度を向上させること、細胞内取込みを増加させること、または血清半減期を延長することなどに有用であり得る。
【0061】
フルオレセインまたは放射標識された基などのレポーター部分を、検出のために結合させることができる。あるいは、オリゴマーに結合されるレポーター標識は、標識された抗体またはストレプトアビジンに結合することができるリガンド、例えば、抗原またはビオチンであり得る。アンチセンス化合物の結合または修飾のための部分を選択する場合、生体適合性であり、望ましくない副作用なく対象によって耐容される可能性が高い群の化学物質を、選択することが望ましい。
【0062】
本開示のアンチセンス応用に有用なオリゴマーは、一般に、長さが約8~約50ヌクレオチド残基、より好ましくは約8~30ヌクレオチド、典型的には10~25塩基の範囲である。
【0063】
各チオモルホリノ(TMO)環構造は、塩基対合部分の配列を形成するために塩基対合部分を支持し、前記配列は、典型的には、細胞内のまたは処置される対象における選択されたアンチセンス標的とハイブリダイズするように設計される。塩基対合部分は、ネイティブDNAもしくはRNAに見られるプリンもしくはピリミジン(例えば、塩基アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)もしくはウラシル(U))、または類似体、例えば、ヒポキサンチン(ヌクレオシドイノシンの塩基成分)、もしくは5-メチルシトシンであり得る。
【0064】
上述のとおり、実施形態は、TMO-Xオリゴマー、及び修飾末端基を有するものを含む、新規ヌクレオチド間連結を含むオリゴマーを含む。これらのオリゴマーは、DNA及びRNAに対して対応する未修飾オリゴマーより高い親和性を有することができ、他のヌクレオチド間連結を有するオリゴマーと比較して改善された細胞送達、作用強度及び/または組織分布特性を実証することができる。様々な連結タイプ及びオリゴマーの構造的特徴及び特性は、以下の論述の中でより詳細に説明される。これらのオリゴマー及び関連オリゴマーの合成は、2017年9月15日に出願された共同所有PCT特許出願第PCT/US17/51839号に記載されており、この参考特許文献は、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
オリゴヌクレオチドとDNAまたはRNAとは、各分子中の対応する位置の十分な数が、互いに水素結合し得るヌクレオチドによって占有されている場合、互いに相補的である。したがって、「特異的にハイブリダイズ可能な」及び「相補的な」は、安定した特異的な結合がオリゴヌクレオチドとDNAまたはRNA標的との間で発生するために十分な、相補性度または正確な対合度を示すために使用される用語である。アンチセンス分子の配列がその標的配列の配列に対して特異的にハイブリダイズ可能であるために100%相補的である必要がないことは、当技術分野において理解されている。アンチセンス分子は、化合物の標的DNAまたはRNA分子との結合が、標的DNAまたはRNAの正常な機能に干渉して有用性の喪失を引き起こす場合、及び特異的結合が所望される条件下、すなわち、in vivoアッセイまたは治療的処置の場合には生理条件下、ならびにin vitvoアッセイの場合にはアッセイが行われる条件下で、アンチセンス化合物の非標的配列との非特異的結合を回避するのに十分な相補性度がある場合、特異的にハイブリダイズ可能である。
【0066】
上記の方法を使用して、タンパク質内からこのタンパク質をその生物学的機能に影響を与えることなく短くすることができる任意のエクソンを欠失させることができるアンチセンス分子を選択することができるが、そのエクソン欠失によって、その短くなった転写mRNA内でリーディングフレームシフトが生じてはならない。したがって、3つのエクソンの直鎖状配列において、最初のエクソンが、コドン内の3つのヌクレオチドのうちの2つをコードし、次のエクソンが欠失している場合には、この直鎖状配列の3番目のエクソンは、コドンのヌクレオチドトリプレットを完成する単一のヌクレオチドで開始しなければならない。3番目のエクソンが、単一のヌクレオチドで始まらない場合、短縮型または非機能性タンパク質の生成につながるリーディングフレームシフトが存在することになる。
【0067】
構造タンパク質内のエクソンの末端のコドン配列が、常にコドンの末端で切断されるとは限らず、それ故、mRNAのインフレームリーディングを確実にするためにプレmRNAから1つより多くのエクソンを欠失させる必要があり得ることは、理解されるであろう。そのような状況では、欠失されることになるエクソンにおいてスプライシングを誘導することができる異なる領域に各々が方向付けられる多数のアンチセンスオリゴヌクレオチドを、本発明の方法によって選択する必要があり得る。
【0068】
アンチセンス分子の長さは、プレmRNA分子内の所期の位置と選択的に結合することができるのであれば、様々であってよい。そのような配列の長さは、本明細書に記載される選択手順に従って決定することができる。一般に、アンチセンス分子は、長さ約10ヌクレオチドから長さ約50ヌクレオチドまでであるであろう。しかし、この範囲内の任意のヌクレオチド長を方法に使用することができることは、理解されるであろう。好ましくは、アンチセンス分子の長さは、長さ8~30ヌクレオチドの間である。
【0069】
アンチセンス分子を産生するための最も一般的な方法は、2’ヒドロキシリボース位のメチル化であり、ホスホロチオ酸エステル骨格の組込みは、一見RNAに似ているがヌクレアーゼ分解に対する耐性がそれよりはるかに大きい分子を産生する。
【0070】
アンチセンス分子との二本鎖形成中のプレmRNAの分解を回避するために、これらの方法で使用されるアンチセンス分子を、内在性リボヌクレアーゼHによる切断を最小にするようにまたは防止するように構成することができる。この特性は、細胞内でのまたはリボヌクレアーゼHを含有する粗抽出物中での非メチル化オリゴヌクレオチドでのRNAの処置によってプレmRNA-アンチセンスオリゴヌクレオチド二本鎖が分解されることになるので、非常に好ましい。そのような分解を回避することができるかまたは誘導することができない任意の形態の修飾アンチセンス分子を、本方法において使用することができる。RNAと二本鎖を形成したときに細胞リボヌクレアーゼHによって切断されないアンチセンス分子の例は、2’-O-メチル誘導体である。2’-O-メチル-オリゴヌクレオチドは、細胞環境で及び動物組織において非常に安定しており、RNAとのそれらの二本鎖は、それらのリボ対応物またはデオキシリボ対応物より高いTm値を有する。
【0071】
アンチセスオリゴヌクレオチドは、アンチセンス分子の好ましい形態であるが、本開示は、オリゴヌクレオチド模倣物を含むがこれらに限定されない他のオリゴマーアンチセンス分子を包含する。
【0072】
本発明において有用な好ましいアンチセンス化合物の具体的な例としては、修飾された骨格または非天然ヌクレオシド間連結を含有する、オリゴヌクレオチドが挙げられる。本明細書中で定義されるように、修飾された骨格を有するオリゴヌクレオチドは、骨格内にホスホロチオ酸エステルを保持するもの、及び骨格内にホスホロチオ酸エステルを有さないものを含む。本明細書では、及び当技術分野において言及されることもあるように、それらのヌクレオシド間骨格にホスホロチオ酸エステルを有さない修飾されたオリゴヌクレオチドもまた、オリゴヌクレオシドであると見なすことができる。
【0073】
修飾されたオリゴヌクレオチドは、1つまたは複数の置換された糖部分も含有し得る。オリゴヌクレオチドは、核酸塩基(当技術分野では単に「塩基」と呼ばれることが多い)修飾または置換も含み得る。ある特定の核酸塩基は、本発明のオリゴマー化合物の結合親和性を増大させるのに特に有用である。これらには、2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシンを含む、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン及びN-2、N-6ならびにO-6置換プリンが含まれる。5-メチルシトシン置換は、核酸二本鎖安定性を0.6~1.2℃増大させることが示されており、現在好ましい塩基置換、よりいっそう特に、2’-O-メトキシエチル糖修飾と組み合わせられたとき好ましい塩基置換である。
【0074】
本開示のオリゴヌクレオチドの別の修飾は、オリゴヌクレオチドの活性を増強するか細胞内分布または細胞内取込みを増加させる1つまたは複数の部分またはコンジュゲートをオリゴヌクレオチドに化学的に連結させることを含む。そのような部分としては、脂質部分、例えば、糖類、例えば二糖類ラクトース、コレステロール部分、コール酸、チオエーテル、例えば、ヘキシル-5-トリチルチオール、トリクロロコレステロール、脂肪族鎖、例えば、ドデカンジオールもしくはウンデシル残基、リン脂質、例えば、ジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールもしくは1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロール-3-H-リン酸トリエチルアンモニウム、ポリアミンもしくはポリエチレングリコール鎖、またはアダマンタン酢酸、パルミチル部分、またはオクタデシルアミンもしくはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
化合物中の全ての位置が均等に修飾されている必要はなく、実際、上述の修飾の1つより多くが、単一の化合物に、またはさらにはオリゴヌクレオチド内の単一のヌクレオシドに組み込まれていることもある。本開示は、キメラ化合物であるアンチセンス化合物も含む。「キメラ(の)」アンチセンス化合物または「キメラ」は、少なくとも1つのモノマー単位、すなわち、オリゴヌクレオチド化合物の場合はヌクレオチド、で各々が構成されている2つ以上の化学的に明確に異なる領域を含有する、アンチセンス分子、特に、オリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドが、ヌクレアーゼ分解に対する耐性の増大をもたらすように、細胞内取込みの増大をもたらすように、及び/または標的核酸に対する結合親和性増大のためのさらなる領域をもたらすように修飾されている、少なくとも1つの領域を、概して含有する。
【0076】
III.ペプチド輸送体
本開示のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、CPPにコンジュゲートされたオリゴヌクレオチド部分、好ましくは、細胞内への化合物の輸送を増進するのに有効なアルギニンリッチペプチド輸送体部分を含み得る。輸送体部分は、好ましくは、オリゴマーの末端に結合される。ペプチドは、所与の細胞培養集団の30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%(これらの間の全ての整数値を含む)以内の細胞膜透過を誘導する能力を有し、全身投与されるとin vivoで複数の組織内への高分子移行を可能にする。一実施形態では、細胞膜透過性ペプチドは、アルギニンリッチペプチド輸送体であり得る。別の実施形態では、細胞膜透過性ペプチドは、ペネトラチンまたはTATペプチドであり得る。これらのペプチドは、当技術分野において周知であり、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2010/0016215号において開示されている。アンチセンスオリゴヌクレオチドへのペプチドのコンジュゲーションに特に好ましい手法は、PCT公開第WO2012/150960号において見つけることができ、この参考特許文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本開示のペプチドコンジュゲートオリゴヌクレオチドの好ましい実施形態は、CPPとアンチセンスオリゴヌクレオチドとの間のリンカーとしてグリシンを利用する。例えば、好ましいペプチドコンジュゲートPMOは、R6-G-TMOからなる。これらの輸送体部分は、結合されたオリゴマーの細胞への侵入を、結合された輸送体部分の非存在下でのオリゴマーの取込みと比較して、大きく増進させることが示されている。取込みは、非コンジュゲート化合物と比較して少なくとも10倍、より好ましくは20倍、増進される。
【0077】
アルギニンリッチペプチド輸送体(すなわち、細胞膜透過性ペプチド)の使用は、本開示の組成物及び方法において特に有用である。ある特定のペプチド輸送体は、筋細胞を含む初代細胞へのアンチセンス化合物の送達に非常に有効であることが示されている(Marshall、Odaら、2007年;Jearawiriyapaisarn、Moultonら、2008年、Wu、Moultonら、2008年)。さらに、ペネトラチン及びTATペプチドなどの他の公知ペプチド輸送体と比較して、本明細書に記載されるペプチド輸送体は、アンチセンスTMOとコンジュゲートされたとき、いくつかの遺伝子転写物のスプライシングを改変する能力の増強を明示する(Marshall、Odaら、2007年)。
【0078】
IV.製剤及び処置
本開示は、アンチセンスオリゴマーの対象への治療的送達に好適な製剤または組成物も提供する。これらの組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体(添加剤)及び/または希薄剤とともに製剤化された、本明細書に記載されるオリゴマーの1つまたは複数の治療有効量を含む、薬学的に許容される組成物であり得る。本開示のオリゴマーを単独で投与することは可能であるが、化合物を医薬製剤(組成物)として投与するほうが好ましい。
【0079】
本開示の組成物を単独で投与してもよく、または別の治療薬と組み合わせて投与してもよい。追加の治療薬を、本発明の組成物の投与の前に投与してもよく、本発明の組成物の投与と同時に投与してもよく、または本発明の組成物の投与の後に投与してもよい。例えば、組成物をステロイド及び/または抗生物質と組み合わせて投与することができる。ステロイドは、グルココルチコイドまたはプレドニゾンであり得る。投与することができる他の薬剤としては、患者細胞及びDMDのマウスモデルにおいてアンチセンス媒介エクソンスキッピングを増進することが示されている(G.Kendallら、Sci Tranl Med 4 164ra160(2012年))、ダントロレンなどの、リアノジン受容体のアンタゴニストが挙げられる。
【0080】
核酸分子の送達のための方法は、例えばAkhtarら、1992年、Trends Cell Bio.、2:139頁;及びDelivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics、Akhtar編;Sullivanら、PCT WO94/02595に記載されている。これらの及び他のプロトコールを、本発明の単離されたオリゴマーを含む、実質的にあらゆる核酸分子送達に利用することができる。
【0081】
下記で詳述されるように、本開示の医薬組成物は、固体または液体形態での投与のために特別に製剤化することができ、次の事物に適しているものを含む:(1)経口投与、例えば、水薬(水性もしくは非水性溶液もしくは懸濁液)、錠剤、例えば、頬側、舌下及び全身性吸収を対象としたもの、巨丸剤、粉末、顆粒、舌への適用のためのペースト;(2)例えば、皮下、筋肉内、静脈内もしくは硬膜外注射による、例えば、滅菌溶液もしくは懸濁液または持続放出製剤としての、非経口投与;(3)例えば、クリーム、軟膏、または皮膚に適用される制御放出パッチもしくはスプレー剤としての、局所適用;(4)例えば、ペッサリー、クリームまたはフォームとして、膣内にもしくは直腸内に;(5)舌下に;(6)眼に;(7)経皮的に;または(8)経鼻的に。
【0082】
句「薬学的に許容される」は、正当な医学的判断の範囲内で、人間及び動物の組織と接触して使用することに適しており、過度の毒性、刺激、アレルギー反応または他の問題もしくは合併症を伴わず、妥当な損益比に見合っている、化合物、材料、組成物及び/または剤形を指すために本明細書では用いられる。
【0083】
句「薬学的に許容される担体」は、本明細書で使用される場合、対象化合物をある器官または体部から別の器官または体部に運ぶまたは輸送することに関与する、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクル、例えば、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(例えば、滑沢剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、カルシウムもしくは亜鉛)または溶媒封入材料を意味する。各担体は、製剤の他の成分と相溶性であり、患者に有害でないという意味で、「許容される」ものでなければならない。
【0084】
薬学的に許容される担体としての機能を果たすことができる材料の例としては、限定ではないが、次のものが挙げられる:(1)糖、例えば、ラクトース、グルコースおならびにスクロース;(2)デンプン、例えば、トウモロコシデンプンならびにジャガイモデンプン;(3)セルロース、ならびにその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースならびに酢酸セルロース;(4)粉末トラガカント:(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えば、カカオ脂ならびに坐薬ワックス;(9)油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油ならびに大豆油;(10)グリコール、例えば、プロピレングリコール;(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールならびにポリエチレングリコール;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルならびにラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムならびに水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートならびに/またはポリ無水物;及び(22)医薬製剤に利用される他の非毒性の適合性物質。
【0085】
本発明のアンチセンスオリゴマーとの製剤化に好適な薬剤のさらなる非限定的な例としては、次のものが挙げられる:PEGコンジュゲート核酸、リン脂質コンジュゲート核酸、親油性部分を含有する核酸、ホスホロチオ酸エステル、様々な組織への薬物の侵入を増進することができるP-糖タンパク脂質阻害剤(例えば、Pluronic P85);生分解性ポリマー、例えば、移植後の持続放出送達のためのポリ(DL-ラクチド-co-グリコリド)マイクロスフェア(Emerich,D F ら、1999年、Cell Transplant、8、47~58頁)Alkermes,Inc.、Cambridge、Mass.;及び血液脳関門を横断して薬物を送達することができ、ニューロンへの取込みの機序を改変することができる、負荷ナノ粒子、例えば、メソポーラスシリカまたはポリシアノアクリル酸ブチル製のもの(Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry、23、941~949頁、1999年)。
【0086】
これらの組成物は、糖類を含有する表面修飾リポソーム/リポプレックス、及び/またはポリ(エチレングリコール)脂質を含有する表面修飾リポソーム/リポプレックス(PEG修飾、分岐型及び非分岐型もしくはこれらの組合せ、または血中滞留型リポソームもしくはステルスリポソーム)を含む、リポソームもしくはリポプレックスも含むことができる。本発明のオリゴマーは、様々な分子量の共有結合されたPEG分子も含むことができる。これらの製剤は、標的組織内の薬物の蓄積を増加させるための方法をもたらす。このクラスの薬物担体は、単核食細胞系(MPSまたはRES)によるオプソニン化及び排除に耐性であり、それによって、封入された薬物のより長い血液循環時間及び組織曝露増進が可能になる。そのようなリポソーム/リポプレックスは、腫瘍内に選択的に蓄積することが示されている。血中滞留型リポソーム/リポプレックスは、DNA及びRNAの薬物動態及び薬力学特性を、特に従来のカチオン性リポソームと比較して、増強することができる。血中滞留型リポソームはまた、肝臓及び脾臓などの代謝に積極的なMPS組織内への蓄積を回避するそれらの能力に基づき、カチオン性リポソームと比較してより大幅に薬物をヌクレアーゼ分解から保護する可能性が高い。
【0087】
本開示は、米国特許第6,692,911号、同第7,163,695号及び同第7,070,807号に記載されているような送達のために調製されたオリゴマー組成物を含む。従って、本開示は、リシンとヒスチジンとのコポリマー(HK)(米国特許第7,163,695号;同第7,070,807号;及び同第6,692,911号に記載されているような)を単独で含むかまたはPEG(例えば、分岐型もしくは非分岐型PEGまたは両方の混合物)と組み合わせて、PEG及び標的化部分と組み合わせて、もしくは前述のもののいずれかを架橋剤と組み合わせて含む組成物で、本開示のオリゴマーを提供する。本開示はまた、グルコン酸修飾ポリヒスチジンまたはグルコニル化ポリヒスチジン/トランスフェリン-ポリリシンを含む組成物でアンチセンスオリゴマーを提供する。組成物中のHis及びLysに類似した特性を有するアミノ酸が置換されていることもある。
【0088】
本明細書に記載されるオリゴマーは、アミノまたはアルキルアミノなどの塩基性官能基を含有することができ、したがって、薬学的に許容される酸と薬学的に許容される塩を形成することができる。この態様での用語「薬学的に許容される塩」塩は、本発明の化合物の比較的非毒性の無機及び有機酸付加塩を指す。これらの塩は、投与ビヒクルもしくは剤形製造プロセス中に現場で、または別途、その遊離塩形態の本発明の精製された化合物を好適な有機もしくは無機酸と反応させること、及びこのようにして形成された塩を後続の精製中に単離することによって、調製することができる。代表的な塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナプシレート(napthylate)、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩及びラウリルスルホン酸塩などが挙げられる。
【0089】
対象オリゴマーの薬学的に許容される塩は、例えば、非毒性有機または無機酸からの、化合物の従来の非毒性塩または第四級アンモニウム塩を含む。例えば、従来の非毒性塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン鎖、硝酸などのような、無機酸に由来するもの;及び酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、シュウ酸、イソチアン酸などのような、有機酸から調製された塩を含む。
【0090】
本開示のオリゴマーは、1つまたは複数の酸性官能基を含有することができ、したがって、薬学的に許容される塩基と薬学的に許容される塩を形成することができる。これらの事例での用語「薬学的に許容される塩」は、本開示のTMO化合物の比較的非毒性の無機及び有機塩基付加塩を指す。これらの塩は、同様に、投与ビヒクルもしくは剤形製造プロセス中に現場で、または別途、その遊離酸形態の精製された化合物を、好適な塩基、例えば、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩もしくは重炭酸塩と、アンモニアと、または薬学的に許容される有機第1級、第2級もしくは第3級アミンと反応させることによって、調製することができる。代表的なアルカリまたはアルカリ土類塩としては、チリウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウム塩などが挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な代表的な有機アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジンなどが挙げられる。(例えば、Bergeら、上掲を参照されたい)。
【0091】
湿潤剤、乳化剤及び滑沢剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムはもちろん、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、着香剤、芳香剤、保存剤及び抗酸化剤も、これらの組成物に存在し得る。
【0092】
薬学的に許容される抗酸化剤の例としては、次のものが挙げられる:(1)水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファトコフェロールなど;及び(3)金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸など。
【0093】
本開示の有用な製剤は、経口、鼻、局所(頬側及び舌下を含む)、直腸、膣及び/または非経口投与に好適なものを含む。製剤を、単位剤形で適便に提供することができ、薬学技術分野において周知の任意の方法により調製することができる。単一剤形を生成するために担体材料と併せることができる活性成分の量は、処置される宿主、及び投与方法によって変わることになる。単一剤形を生成するために担体材料と併せることができる活性成分の量は、一般に、治療効果を生じさせる化合物の量となる。一般に、100パーセントのうち、この量は、活性成分約0.1パーセント~約99パーセント、好ましくは約5パーセント~約70パーセント、最も好ましくは約10パーセント~約30パーセントの範囲となる。
【0094】
本開示の製剤は、シクロデキストリン、セルロース、リポソーム、ミセル形成剤、例えば胆汁酸、及びポリマー担体、例えばポリエステルならびにポリ無水物から選択される賦形剤;及び本発明のオリゴマーを含むことができ、これにより、本開示のオリゴマーは経口的生体利用可能になる。
【0095】
これらの製剤及び組成物を調製する方法は、本開示のオリゴマーを、担体及び必要に応じて1つまたは複数の補助成分と会合させるステップを含む。一般に、製剤は、本開示の化合物を液体担体もしくは微粉固体担体または両方と均等かつ緊密に会合させること、次いで、必要に応じて生成物を造形することによって、調製される。
【0096】
経口投与に好適な製剤は、活性成分としての本開示の化合物の所定量を各々が含有する、カプセル、カシェー、丸剤、錠剤、薬用キャンディー(着香基材、通常はスクロース及びアラビアゴムまたはトラガントを使用する)、粉末、顆粒の、または水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液としての、または水中油型もしくは油中水型液体エマルジョンとしての、またはエリキシルもしくはシロップとしての、またはパステル錠(ゼラチン及びグリセリン、またはスクロース及びアラビアゴムなどの不活性基剤を使用する)としての、及び/またはマウスウォッシュなどとしての形態であり得る。本開示のオリゴマーを、巨丸剤、舐剤またはペーストとして投与することもできる。
【0097】
経口投与のためのこれらの固体剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣丸、粉末、顆粒、トローチなど)の場合、活性TMO治療用成分は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、例えば、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、及び/または次のもののうちのいずれかと混合され得る:(1)充填剤または増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトールならびに/またはケイ酸など;(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースならびに/またはアラビアゴムなど;(3)保湿剤、例えば、グリセロール;(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム;(5)溶解遅延剤、例えば、パラフィン;(6)吸収促進剤、例えば、第四級アンモニウム化合物、ならびに界面活性剤、例えばポロキサマーならびにラウリル硫酸ナトリウム;(7)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール、ならびに非イオン性界面活性剤など;(8)吸着剤、例えば、カオリンならびにベントナイト粘土;(9)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、及びこれらの混合物;(10)着色剤;及び(11)制御放出剤、例えば、クロスポビドンまたはエチルセルロース。カプセル、錠剤及び丸剤の場合、医薬組成物は、緩衝剤も含み得る。同様のタイプの固体組成物が、ラクトースまたは乳糖及び高分子量ポリエチレングリコールなどのような賦形剤を使用するゼラチン製ソフト及びハードシェルカプセル中の充填剤として利用されることもある。
【0098】
錠剤は、必要に応じて1つまたは複数の補助成分とともに、圧縮または成形することにより製造することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチンもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウムもしくは架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤または分散剤を使用して、調製することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿潤させた粉末化合物の混合物を好適な機械で成形することにより製造することができる。
【0099】
本発明の医薬組成物の錠剤及び他の固体剤形、例えば、糖衣丸、カプセル、丸剤及び顆粒に、必要に応じて割線を入れることができ、または腸溶コーティング及び医薬製剤分野で周知の他のコーティングなどの、コーティング及びシェルを有する、前記錠剤及び他の固体剤形を調製することができる。それらを、例えば、所望の放出プロファイルを提供するための様々な比率でのヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/またはマイクロスフェアを使用して、それらの中の活性成分の徐放または制御放出をもたらすように製剤化することもできる。それらを急速放出用に製剤化することができ、例えば、凍結乾燥させることができる。それらを、例えば、細菌保留フィルターによる濾過によって、または使用直前に滅菌水もしくは何らかの他の滅菌注射用媒体に溶解することができる滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を取り込むことによって、滅菌することができる。これらの組成物は、必要に応じて乳白剤を含むこともあり、それらが、活性成分を、消化管のある特定の部分でのみ、もしくその部分で優先的に、必要に応じて遅延様式で放出する組成のものであることもある。使用することができる埋没組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスが挙げられる。活性成分は、適宜、上記賦形剤の1つまたは複数を用いて、マイクロカプセル化された形態である場合もある。
【0100】
本発明の化合物の経口投与のための液体剤形は、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルを含む。活性成分に加えて、液体剤形は、当技術分野において一般に使用されている不活性希釈剤、例えば、水もしくは他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ならびにソルビタンの脂肪酸エステル、及びこれらの混合物などを含有し得る。
【0101】
不活性希釈剤の他に、経口組成物は、アジュバント、例えば、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味剤、着香剤、着色剤、芳香剤、及び/または保存剤も含むことができる。
【0102】
懸濁液は、活性化合物に加えて、例えば、エトキシ化イソセチルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールならびにソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天ならびにトラガカント、及びにこれらの混合物のような、懸濁化剤を含有し得る。
【0103】
直腸内または膣内投与のための製剤は、本発明の1つまたは複数の化合物を、例えば、カカオ脂、ポリエチレングリコール、坐薬ワックスまたはサリチル酸塩を含む、1つまたは複数の好適な非刺激性賦形剤または担体と混合することにより調製され得る坐薬であって、室温で固体であるが体温で液体であり、したがって、直腸または膣腔内で溶解して活性化合物を放出する坐薬として、提供され得る。
【0104】
本明細書で提供される場合のオリゴマーの局所または経皮投与のための製剤または剤形は、粉末、スプレー剤、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤を含む。活性オリゴマーを、滅菌条件下で、薬学的に許容される担体と、及び必要とされ得る任意の保存剤、緩衝剤または噴射剤と、混合することができる。軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、本発明の活性化合物に加えて、賦形剤、例えば、動物性ならびに植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク及び酸化亜鉛、またはこれらの混合物を含有し得る。
【0105】
粉末及びスプレー剤は、本発明のオリゴマーに加えて、賦形剤、例えば、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物を含有することができる。スプレー剤は、クロロフルオロ炭化水素、及び揮発性非置換炭化水素、例えばブタンならびにプロパンなどの、通例の噴射剤をさらに含有することができる。
【0106】
経皮パッチには、本開示のオリゴマーの身体への制御送達をもたらす付加利点がある。このような剤形は、オリゴマーを妥当な媒体に溶解すること及び/または分散させることにより、調製することができる。吸収増進剤を使用して、皮膚を通過する薬剤のフラックスを増加させることもできる。そのようなフラックスの速度を、当技術分野において公知の数ある方法の中でも特に、律速膜を設けることまたはポリマーマトリックスもしくはゲルに薬剤を分散させることのどちらかによって制御することができる。
【0107】
非経口投与に好適な医薬組成物は、糖、アルコール、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を所期のレシピエントの血液と等張にするための溶質、または懸濁化もしくは増粘剤を含有し得る、1つもしくは複数の薬学的に許容される滅菌等張水性もしくは非水性溶液、分散液、懸濁液もしくはエマルジョン、または使用直前に滅菌注射用溶液もしくは分散液に再構成され得る滅菌粉末と組み合わせて、本発明の1つまたは複数のオリゴマーを含み得る。本発明の医薬組成物に利用することができる好適な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)ならびにこれらの適切な混合物、植物油、例えばオリーブ油、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルが挙げられる。妥当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材の使用により、分散液の場合は必要粒径の維持により、及び界面活性剤の使用により、維持することができる。
【0108】
これらの組成物は、アジュバント、例えば、保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤も含有し得る。対象オリゴマーに対する微生物の作用の防止は、様々な抗菌及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などにより確保することができる。糖、塩化ナトリウムなどのような等張剤を組成物に含めることが望ましいこともある。加えて、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを含めることにより、注射用医薬形態の持続的吸収をもたらすことができる。
【0109】
一部の場合には、薬物の効果を延長するために、皮下または筋肉内注射からの薬物の吸収を緩徐化することが望ましい。この緩徐化は、当技術分野において公知の数ある方法の中でも特に、難水溶性を有する結晶質または非晶質材料の懸濁液の使用によって果たすことができる。その場合、薬物の吸収速度は、その溶解速度に依存し、そしてまたこの溶解速度は、結晶サイズ及び結晶形に依存し得る。あるいは、非経口投与される剤型の遅延吸収は、油性ビヒクルに薬物を溶解することまたは懸濁させることによって果たされる。
【0110】
注射用デポー形態は、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中の対象オリゴマーのマイクロカプセル化マトリックスを形成することによって製造することができる。オリゴマーのポリマーに対する比、及び利用される特定のポリマーの性質に依存して、オリゴマー放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が挙げられる。デポー注射用製剤を、体組織と適合性であるリポソームまたはマイクロエマルジョン内に薬物を捕捉することによって調製することもできる。
【0111】
本開示のオリゴマーを医薬品としてヒト及び動物に投与する場合、それら自体を与えることができ、またはそれらを、例えば、薬学的に許容される担体と組み合わせて活性成分0.1~99%(より好ましくは、10~30%)を含有する医薬組成物として与えることができる。
【0112】
上述のとおり、本開示の製剤または調製物を、経口的に、非経口的に、全身に、局所的に、直腸内にまたは筋肉内に与えることができる。それらは、典型的には、各々の投与経路に好適な形態で与えられる。例えば、それらは、錠剤またはカプセル形態で、注射、吸入、目薬、軟膏、坐薬など、注射、注入または吸入による投与により投与され;ローションまたは軟膏により局所的に投与され;及び坐薬により直腸内に投与される。
【0113】
句「非経口投与」及び「非経口投与される」は、本明細書で使用される場合、経腸及び局所投与以外の、通常は注射による投与方法を意味し、限定ではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内及び胸骨内注射及び注入を含む。
【0114】
句「全身投与」、「全身投与される」、「末梢投与」及び「末梢投与される」は、本明細書で使用される場合、中枢神経系への直接投与以外の、化合物、薬物または他の材料の、それが患者の系に侵入し、その結果として代謝及び他の同様のプロセスを経るような、投与、例えば、皮下投与を意味する。
【0115】
選択される投与経路にかかわらず、好適な水和形態で使用され得る本発明のオリゴマー、及び/または本発明の医薬組成物を、当業者に公知の従来の方法によって薬学的に許容される剤形に製剤化することができる。本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルを、特定の患者、組成物及び投与方法についての所望の治療応答の達成に有効であり、患者にとって受け入れ難いほど毒性でない、活性成分の量が得られるように、変動させることができる。
【0116】
選択される投薬量レベルは、様々な因子に依存し、そのような因子には、利用される本開示の特定のオリゴマーまたはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与の回数、利用される特定のオリゴマーの排泄率または代謝率、吸収の速度ならびに程度、処置の継続期間、利用される特定のオリゴマーと組み合わせて使用される他の薬物、化合物ならびに/または材料、処置を受ける患者の年齢、性別、体重、状態、総体的な健康ならびに過去の病歴、及び医学技術分野において周知の同様の因子が含まれる。
【0117】
当技術分野における通常の技能を有する医師または獣医は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定及び処方することができる。例えば、医師または獣医は、医薬組成物に利用する本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要な用量より低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投薬量を漸増させることができるだろう。一般に、本発明の化合物の好適な1日用量は、治療効果を生じさせるために有効な最低用量である化合物の量であるであろう。そのような有効用量は、一般に、上記の因子に依存することになる。一般に、患者に対する本発明の化合物の経口、静脈内、脳室内、筋肉内及び皮下用量は、上述の効果のために使用される場合、1日に体重1キログラム当たり約0.0001~約100mgの範囲であるであろう。
【0118】
本開示のチオモルホリノオリゴマーの好ましい用量、一般に、約5~100mg/kgが投与される。一部の場合には、100mg/kgより多い用量が必要であり得る。i.v.投与に好ましい用量は、約0.1mg~100mg/kgである。一部の実施形態では、チオモルホリノオリゴマーは、約2mg/kg~約100mg/kg(これらの間の全ての整数値を含む)で投与される。
【0119】
所望される場合、活性化合物の有効1日用量を、必要に応じて単位剤形で、1日を通して適切な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6以上の部分用量として、投与することができる。ある特定の状況では、投薬は、1日に1回の投与である。投薬頻度は、対象における機能性ジストロフィンタンパク質の所望の発現を維持するために、必要に応じて、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12カ月ごとに1回または複数回の投与である。
【0120】
一部の実施形態では、本開示のオリゴマーは、一般に、一定の間隔で(例えば、連日、週1回、隔週に、月1回、隔月に)投与される。オリゴマーを、一定の間隔で、例えば、連日;2日に1回;3日に1回;3~7日に1回;3~10日に1回;7~10日に1回;週に1回;2週間に1回;月に1回投与することができる。例えば、オリゴマーを週1回、静脈内注入により投与することができる。オリゴマーを、長期間にわたって、例えば、数週間、数ヶ月間または数年間、間欠的に投与することができる。例えば、オリゴマーを、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12カ月に1回、投与することができる。さらに、オリゴマーを1、2、3、4または5年に1回、投与することができる。投与は、抗生物質、ステロイドもしく他の治療剤の投与の後に行われることがあり、またはステロイドもしく他の治療剤の投与と同時であることもある。処置レジメンを、イムノアッセイ、他の生化学的試験、及び処置している対象の健康診断の結果に基づいて、上述のように(用量、頻度、経路などを)調整することができる。
【0121】
核酸分子を、細胞に、リポソームもしくはリポプレックスへの封入を含むがこれに限定されない当業者に公知の様々な方法により、イオントフォレシスにより、または本明細書に記載の及び当技術分野において公知の他のビヒクル、例えば、ヒドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル及び生体接着性マイクロスフェアに組み込むことにより、投与することができる。ある特定の実施形態では、マイクロエマルジョン形成技術を利用して、親油性(水不溶性)医薬剤の生物学的利用率を改善することができる。数ある利点の中でも特に、マイクロエマルジョン形成は、循環系ではなくリンパ系に吸収を優先的に方向付け、それによって、肝臓を迂回し、肝胆循環での化合物の破壊を防止することにより、向上された生物学的利用率をもたらす。
【0122】
あらゆる好適な両親媒性担体が企図されるが、現在好ましい担体は、一般には、一般に安全と認められる(GRAS)状態を有するもの、及び本開示の化合物を可溶化することもでき、後の段階で溶液が複合水相(例えば、ヒト消化管にみられるもの)と接触したときにそれをマイクロエマルジョンにすることもできるものである。通常、これらの要件を満たす両親媒性成分は、2~20のHLB(親水対親油バランス)値を有し、それらの構造は、C-6~C-20の範囲の直鎖親水性ラジカルを含有する。例は、ポリエチレングリコール化脂肪グリセリド及びポリエチレングリコールである。
【0123】
両親媒性担体の例としては、飽和及び一価不飽和ポリエチレングリコール化脂肪酸グリセリド、例えば、完全にまたは部分的に水素化された様々な植物油から得られるものが挙げられる。そのような油は、トリ-、ジ-ならびにモノ-脂肪酸グリセリド及び対応する脂肪酸のジ-ならびにモノ-ポリエチレングリコールエステルからなり得ると有利であり、カプリン酸4~10、カプリン酸3~9、ラウリン酸40~50、ミリスチン酸14~24、パルミチン酸4~14及びステアリン酸5~15%を含む脂肪酸組成物が特に好ましい。両親媒性担体の別の有用なクラスは、部分エステル化ソルビタン及び/またはソルビトールと、飽和もしくは一価不飽和脂肪酸(SPANシリーズ)または対応するエトキシ化類似体(TWEENシリーズ)を含む。
【0124】
送達は、本開示の組成物の好適な宿主細胞への導入のためにリポソーム、リポプレックス、ナノカプセル、マイクロ粒子、マイクロスフェア、脂質粒子、小胞などを使用することにより行うことができる。特に、本開示の組成物を、脂質粒子、リポソーム、リポプレックス、小胞、ナノスフェア、ナノ粒子などのいずれかに封入して、送達用に製剤化することができる。そのような送達ビヒクルの製剤化及び使用は、公知の従来の技術を使用して行うことができる。
【0125】
本開示での使用に好適であり得る親水性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、及び誘導体化セルロース、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。
【0126】
本開示の製剤は、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのポリマー、ポリビニルポリマー、ポリグリコリド、ポリシロキサン、プリウレタン及びこれらのコポリマー、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、乳酸及びグリコール酸のポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリ(ブト酸)(poly(butic acid))、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、多糖、タンパク質、ポリヒアルロン酸、ポリシアノアクリレート、及びこれらのブレンド、混合物またはコポリマーからなる群から選択される、生体適合性ポリマーを含み得る。
【0127】
シクロデキストリンは、ギリシャ文字アルファ、ベータまたはガンマによってそれぞれ指定される、6、7または8個のグルコース単位からなる、環状オリゴ糖である。グルコース単位は、アルファ-1,4-グリコシド結合により連結されている。糖単位の鎖の立体配座の結果として、全ての第2級ヒドロキシル基(C-2、C-3における)は、環の片側に位置し、その一方でC-6における第1級ヒドロキシル基は、反対側にある。結果として、外側の面は親水性であり、そのためシクロデキストリンは水溶性になる。対照的に、シクロデキストリンは、原子C-3ならびにC-5の水素によって、及びエーテル様酸素によって、一列に並べられているので、シクロデキストリンの空洞は、疎水性である。これらのマトリックスによって、様々な比較的疎水性の化合物との複合体化が可能になる。複合体化は、ファンデルワールス相互作用によって、及び水素結合形成によって起こる。シクロデキストリン誘導体の物理化学的特性は、置換の種類及び程度に強く依存する。例えば、水へのそれらの溶解度は、不溶性(例えば、トリアセチル-ベータ-シクロデキストリン)から147%可溶性(w/v)(G-2-ベータ-シクロデキストリン)まで幅がある。加えて、シクロデキストリンは、多くの有機溶媒に可溶性である。シクロデキストリンの特性は、それらの溶解度を増加または減少させることによる様々な製剤成分の溶解度に対する制御を可能にする。
【0128】
リポソームは、水性内部区画を包囲する少なくとも1つの脂質二重層膜からなる。リポソームを、膜のタイプによって及びサイズによって特徴付けることができる。小型単層小胞(SUV)は、単一の膜を有し、典型的には直径0.02~0.05マイクロメートルの間の範囲であり;大型単層小胞(LUVS)は、典型的には0.05マイクロメートルより大きいオリゴラメラ大型小胞であり、多層小胞は、複数の通常は同心の膜層を有し、典型的に0.1マイクロメートルより大きい。いくつかの非同心膜を有するリポソーム、すなわち、より大きい小胞内に含有されているいくつかのより小さい小胞は、多胞性小胞と呼ばれる。例えば、リポソーム膜が、担持能力が増大したリポソームをもたらすように計画されている、本開示のリゴマーを含有するリポソームを含む製剤。あるいはまたは加えて、本開示の化合物は、リポソームのリポソーム二重層の中に含有されていることもあり、またはリポソーム二重層上に吸着していることもある。本開示のオリゴマーを、脂質界面活性剤とともに凝集させてリポソームの内部空間内に保持することができ;この場合、リポソーム膜は、活性薬剤-界面活性剤凝集体の破壊効果に抵抗性であるように製剤化される。これらのリポソームの脂質二重層は、ラクトースなどの二糖類を含む糖類で誘導体化された脂質、及びポリエチレングリコール(PEG)を、PEG鎖が、脂質二重層の内面からリポソームによって封入された内部空間へと伸び、かつ脂質二重層の外部から周囲の環境へと伸びるように、含有することができる。
【0129】
本開示のリポソーム内に含有されている活性薬剤は、可溶化形態である。界面活性剤と活性薬剤との凝集体(例えば、目的の活性薬剤を含有するエマルジョンまたはミセル)を、本発明によるリポソームの内部空間の中に捕捉することができる。界面活性剤は、活性薬剤を分散及び可溶化するように作用し、様々な鎖長(例えば、約C14~約C20)の生体適合性リゾホスファチジルコリン(LPG)を含むがこれらに限定されない、任意の好適な脂肪族、脂環式または芳香族界面活性剤から形成される。PEG-脂質などのポリマー誘導体化脂質も、ミセル形成に利用することができる。それらは、ミセル/膜融合を阻害するように作用することになるからであり、界面活性剤分子へのポリマーの付加は、界面活性剤のCMCを低下させ、ミセル形成を助けるからである。マイクロモル濃度範囲のCMOを有する界面活性剤が好ましく;CMCがより高い界面活性剤を利用して、本発明のリポソーム内に捕捉されるミセルを調製することができる。
【0130】
本開示によるリポソームを、当技術分野において公知である様々な技術のいずれによって調製してもよい。例えば、米国特許第4,235,871号;公開PCT出願WO96/14057;New RRC,Liposomes:A practical approach、IRL Press,Oxford(1990年)、33~104頁;Lasic D D、Liposomes from physics to applications、Elsevier Science Publishers BV、Amsterdam、1993年を参照されたい。例えば、本開示のリポソームは、リポソーム中の所望される誘導体化脂質の最終モルパーセントに対応する脂質濃度で、親水性ポリマーで誘導体化された脂質を既成リポソームに分散させることにより、例えば、脂質グラフトポリマーで構成されているミセルに既成リポソームを曝露することにより、調製することができる。親水性ポリマーを含有するリポソームは、当技術分野において公知であるような均質化、脂質領域水和または押出し技術によって形成することもできる。
【0131】
別の例示的な製剤化手順では、活性薬剤を、先ず、超音波処理によって、リゾホスファチジルコリン、または疎水性分子を容易に可溶化する他の低CMC界面活性剤(ポリマーグラフト脂質を含む)に分散させる。次いで、活性薬剤の得られたミセル懸濁液を使用して、好適なモルパーセントのポリマーグラフト脂質またはコレステロールを含有する乾燥脂質試料を再水和する。次いで、脂質及び活性薬剤懸濁液を、当技術分野において公知である押出し技術を使用してリポソームにし、得られたリポソームを標準的なカラム分離によって未封入溶液から分離する。
【0132】
本発明の一態様では、リポソームは、選択されたサイズ範囲の実質的に均一なサイズを有するように調製される。1つの有効な分粒法は、選択された均一な孔径を有する一連のポリカーボネート膜を通してリポソームの水性懸濁液を押し出すことを含み;膜の孔径は、その膜を通した押出しによって生成されるリポソームの最大サイズとほぼ一致することになる。例えば、米国特許第4,737,323号(1988年4月12日)を参照されたい。ある特定の実施形態では、DharmaFECT(商標)及びリポフェクタミン(商標)などの試薬を利用して、ポリヌクレオチドまたはタンパク質を細胞に導入することができる。
【0133】
本開示の製剤の放出特性は、封入材料、封入される薬物の濃度、及び放出変更剤の存在に依存する。例えば、放出を、例えば、胃内のような低pHまたは腸内のようなより高いpHでのみ放出するpH感受性コーティングを使用して、pH依存性になるように操作することができる。腸溶コーティングを使用して、胃を通過し終えるまで放出が起こらないようにすることができる。異なる材料に封入されたシアンアミドの複数のコーティングまたは混合物を使用して、胃内での初期放出、続いて、腸内でのその後の放出を達成することができる。水の取込み、またはカプセルからの拡散による薬物の放出を増加させることができる、塩または細孔形成剤を含めることにより、放出を操作することもできる。薬物の溶解度を変更する賦形剤を使用して、放出速度を制御することもできる。マトリックスの分解またはマトリックスからの放出を増進する薬剤を組み込むこともできる。それらを、化合物に依存して、薬物に添加することができ、別個の相(すなわち、微粒子)として添加することができ、またはポリマー相に共溶解させることができる。ほとんどの場合、その量は、0.1~30パーセント(w/w ポリマー)の間であるべきである。分解増進剤のタイプは、無機塩、例えば、硫酸アンモニウムならびに塩化アンモニウム、有機酸、例えば、クエン酸、安息香酸ならびにアスコルビン酸、無機塩基、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛ならびに水酸化亜鉛、及び有機塩基、例えば、プロタミン硫酸塩、スペルミン、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミンならびにトリエタノールアミン、及び界面活性剤、例えば、Tween(商標)ならびにPluronic(商標)を含む。マトリックスに微小構造を加える細孔形成剤(すなわち、水溶性化合物、例えば、無機塩及び糖)は、微粒子として添加される。その範囲は、典型的には、1~30パーセント(w/w ポリマー)の間である。
【0134】
腸内での粒子の滞留時間を変えることにより取込みを操作することもできる。これは、例えば、粘膜接着性ポリマーで粒子をコーティングすることにより、または粘膜接着性ポリマーを封入材料として選択することにより、達成することができる。例としては、遊離カルボキシル基を有するほとんどのポリマー、例えば、キトサン、セルロース及び特に多糖が挙げられる(本明細書で使用される場合、多糖は、シアノアクリル酸及びメタクリル酸などの、アクリル酸基及び修飾アクリル酸基を含むポリマーを指す)。
【0135】
本明細書で提供される方法に加えて、本発明による使用のためのオリゴマーは、他の医薬品との類似性により、人間医学または獣医学における使用のために任意の従来の方法で投与用に製剤化することができる。アンチセンスオリゴマー及びそれらの対応する製剤を、筋ジストロフィーの処置の際に、単独で投与してもよく、または他の治療戦略、例えば、筋芽細胞移植、幹細胞療法、アミノグリコシド抗生物質、プロテアーゼ阻害剤及びアップレギュレーション療法(例えば、ジストロフィンの常染色体パラログであるユートロフィンのアップレギュレーション)の投与と組み合わせて投与してもよい。
【実施例1】
【0136】
チオモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(AO)の設計及び合成
全ての化学物質は、別段の断り書きがない限りSigma-Aldrichから購入した。自動DNA合成に使用した標準試薬、及び5’-ジメトキシトリチル-2’-デオキシリボ3’-[(シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピルアミノ)]-ホスホロアミダイト(9、10、11または12)は、Glen Researchから購入した。ヌクレオシド及び2-シアノエチル-N,N,N’,N’-テトライソプロピル-ホスホロジアミダイトは、ChemGenes Corporationから購入した。重水素化溶媒は、Cambridge Isotopesから購入した。
【0137】
NMR実験をBruker Avance-III 400(1H=400.13MHz)で行った。化学シフトがppmで得られ、正のシフトはダウンフィールドで得られる。全ての1H及び13C化学シフトは、ロック溶媒からの内部残留プロトンを基準とした。31P化学シフトの基準は、標準IUPAC法に従って1H NMRスペクトルでの0.0ppmとする。5’ジメトキシトリチル保護ヌクレオシドをメタノールに溶解し、続いて、1.2当量の過ヨウ素酸ナトリウム及び二ホウ酸アンモニウム・四水和物(1.2当量)を添加した。混合物を室温で3時間撹拌した。このときにTLCが出発物質の完全消費を示す。反応混合物をセライトのパッドに通して濾過し、活性化粉末4Åモレキュラーシーブ(0.4g/mmol)を添加し、続いて2.0当量のシアノ水素化ホウ素ナトリウム及び氷酢酸(2.0当量)を添加した。次いで、この反応混合物をさらに4~5時間撹拌し、このときに中間体ジオールが完全に還元された。反応混合物をセライトのパッドに通して濾過し、蒸発乾固させた。残留物をクロロホルムに溶解し、飽和NaHCO3及びブラインで洗浄した。有機層を回収し、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で除去した。シリカゲルを用いるフラッシュクロマトグラフィーによって生成物を精製した。全ての場合、シリカゲルスラリーは、追加の5%トリエチルアミンを含有する出発溶離剤混合物を用いて調製した。スラリーを注入した後、カラムを、トリエチルアミンを含有しない2カラム容積の出発溶媒混合物で洗浄した。化合物1、2、3及び4を、クロロホルムから19:1のクロロホルム・メタノールへの勾配を使用して溶出した。以下のセクションに記載する収率の全ては、5’-ジメトキシトリチル-N-保護ヌクレオシドから出発して2ステップにわたって得たものを表す。
【0138】
チオモルホリノ合成のためのホスホロジアミダイトモノマーの合成:モノマー(化合物5、6、7または8)の合成の一般手順を
図1Aの合成スキームに表す。手短に述べると、5’-O-DMT保護モルホリノヌクレオシド(1、2、3または4)を真空下で一晩乾燥させ、無水CH
2Cl
2に溶解し、続いて、アルゴン下で1.2当量の2-シアノエチル-N,N,N’,N’-テトライソプロピル-ホスホロジアミダイトを添加した。0.5当量の4,5-ジシアノイミダゾールを添加した後、反応を30分間、アルゴン下、室温で撹拌させておいた。このとき、TLCは出発物質の完全転化を示す。反応混合物を蒸発乾固させた。上で説明したように、シリカゲルスラリーは、追加の5%トリエチルアミンを含有する出発溶離剤混合物を用いて調製した。スラリーを注入した後、カラムを、トリエチルアミンを含有しない2カラム容積の出発溶媒混合物で洗浄した。化合物5、6、7及び8を、50%酢酸エチル-ヘキサンを使用して精製した。
【0139】
5’-ジメトキシトリチル-モルホリノチミジン-3’-N-シアノエチル-N,Nジイオプロピルホスホロジアミダイト(5):収率:76%。
31P NMR (CD3CN) δ: 127.90, 127.89.1H NMR (CD2Cl2, 400 MHz) δ: 9.51 (1H, bs), 7.50-7.47 (2H, m), 7.38-7.25 (8H, m), 6.89-6.86 (4H, m), 5.78-5.75 (0.5H, dd), 5.65-5.62 (0.5H, dd), 4.08-4.02 (1H, m), 3.99-3.86 (3H, m), 3.82 (6H, s), 3.65-3.52 (2H, m), 3.48-3.34 (1H, m), 3.31-3.27 (1H, m), 3.13-3.09 (1H, m), 2.75-2.68 (2H, m), 2.53-2.47 (2H, m), 1.96 (3H, m), 1.25-1.18 (12H, m).13C NMR (CD2Cl2) δ: 164.02, 163.96, 158.66, 150.13, 144.95, 135.92, 135.90, 135.79, 135.68, 135.52, 129.99, 128.07, 127.77, 126.77, 117.89, 117.74, 113.05, 110.48, 110.39, 86.05, 80.54, 80.49, 80.20, 77.36, 77.21, 64.37, 60.09, 59.84, 55.20, 49.05, 48.83, 47.58, 47.06, 46.83, 45.87, 45.78, 43.91, 43.74, 24.36, 24.29, 24.22, 24.20, 20.77, 20.33, 20.66, 12.29. ESI-MS (m/z): 727.4047 (M+H)+.
【0140】
N2-ベンゾイル-5’-ジメトキシトリチル-モルホリノシチジン-3’-N-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロジアミダイト(6):収率:60%。
31P NMR (CD3CN) δ: 127.35, 127.25.1H NMR (CD2Cl2, 400 MHz) δ: 7.99-7.96 (3H, m), 7.67-7.64 (1H, m), 7.56-7.49 (5H, m), 7.39-7.26 (7H, m), 6.89-6.87 (4H, m), 5.83-5.67 (1H, m), 4.11-4.07 (1H, m), 4.09-3.87 (2H, m), 3.83 (6H, s), 3.81-3.77 (1H, m), 3.65-3.48 (3H, m), 3.37-3.25 (2H, m), 3.19-3.15 (1H, m), 2.78-2.75 (1H, m), 2.72-2.68 (1H, m), 2.56-2.53 (1H, m), 2.39-2.33 (1H, m), 1.25-1.18 (12H, m).13C NMR (CD2Cl2) δ: 162.22, 158.65, 144.94, 135.92, 135.78, 133.01, 130.05, 130.00, 128.89, 128.06, 127.80, 127.64, 126.79, 117.91, 117.77, 113.05, 86.04, 82.17, 81.93, 77.36, 64.40, 60.22, 60.11, 59.87, 49.85, 49.62, 48.22, 48.17, 47.05, 46.81, 45.70, 45.63, 43.94, 43.88, 43.82, 43.77, 24.38, 24.30, 24.24, 24.16, 20.34, 20.30, 20.22. ESI-MS (m/z): 833.3801 (M+H)+.
【0141】
N2-ベンゾイル-5’-ジメトキシトリチル-モルホリノアデノシン-3’-N-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロジアミダイト(7):収率:62%。
31P NMR (CD3CN) δ: 128.27, 126.42.1H NMR (CD2Cl2, 400 MHz) δ: 9.15 (1H, s), 8.78 (1H, s), 8.25-8.24 (1H, d), 8.03-8.01 (2H, m), 7.67-7.63 (1H, m), 7.58-7.54 (2H, m), 7.51-7.47 (2H, m), 7.38-7.24 (7H, m), 6.04-5.90 (1H, m), 4.18-4.11 (1H, m), 4.09-4.05 (1H, m), 4.00-3.89 (2H, m), 3.86 (1H, bs), 3.83 (6H, s), 3.70-3.54 (3H, m), 3.42-3.31 (2H, m), 3.19-3.15 (1H, m), 2.99-2.89 (1H, m), 2.77-2.74 (1H, m), 2.72-2.62 (2H, m), 1.27-1.21 (12H, m).13C NMR (CD2Cl2) δ: 158.64, 152.41, 152.32, 149.56, 144.92, 140.71, 135.86, 135.74, 134.02, 132.60, 130.00, 128.79, 128.04, 127.78, 126.77, 123.19, 123.11, 117.81, 117.74, 113.04, 86.08, 80.81, 80.60, 77.15, 64.27, 60.14, 59.80, 50.27, 50.04, 48.66, 47.29, 47.06, 45.97, 43.92, 43.72, 24.24, 24.19, 20.29. ESI-MS (m/z): 857.3911 (M+H)+.
【0142】
N2-イソブチリル-5’-ジメトキシトリチル-モルホリノグアノシン-3’-N-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロジアミダイト(8):収率:33%。
31P NMR (CD3CN) δ: 129.43, 124.17.1H NMR (CD2Cl2, 400 MHz) δ: 12.02 (1H, s), 7.89-7.86 (1H, m), 7.52-7.47 (2H, m), 7.40-7.27 (7H, m), 6.90-6.86 (4H, m), 5.67-5.66 (1H, m), 4.14-4.09 (1H, m), 4.06-4.02 (1H, m), 4.00-3.85 (2H, m), 3.83 (6H, s), 3.74-3.68 (1H, m), 3.52-3.27 (3H, m), 3.21-3.17 (1H, m), 2.88-2.60 (5H, m), 1.27-1.22 (12H, m), 1.19-1.15 (6H, m).13C NMR (CD2Cl2) δ: 179.29, 178.97, 158.67, 147.82, 144.93, 136.17, 135.74, 130.04, 128.04, 127.79, 126.79, 121.16, 121.06, 118.49, 118.07, 113.06, 86.12, 81.61, 81.46, 77.15, 77.03, 76.77, 64.31, 64.24, 60.23, 59.51, 59.27, 50.39, 50.20, 48.20, 47.53, 47.19, 46.67, 46.64, 45.54, 45.48, 43.81, 43.69, 43.53, 43.42, 36.22, 35.97, 24.55, 24.47, 24.43, 24.35, 24.24, 24.17, 24.03, 20.79, 20.71, 20.62, 20.56, 20.48, 18.76, 18.63, 18.58. ESI- ESI-MS (m/z): 839.4019 (M+H)+.
【0143】
固相合成:TMO及びTMO-DNAキメラを合成するために使用した手順を
図1Bに表す合成スキームに記載する:合成の前に、孔径制御ガラス支持体に連結している2’-OMe-リボウリジン上の5’-O-DMTr基を、ジクロロメタン中の3%トリクロロ酢酸で除去した。次いで、5’-非保護-2’-OMe-リボウリジン(A)を、
図1Bに示すように4,5-ジシアノイミダゾール(DCI)のまたは5-(エチルチオ)-1H-テトラゾールの0.12モル溶液を含有する無水アセトニトリル中で化合物5、6、7もしくは8と反応させた(5分)。5-(エチルチオ)-1H-テトラゾールをこのステップで活性化剤として使用して、ホスホロアミダイト-ジエステル-ヌクレオチド間連結を有する二量体(B)を生成することもできる。この中間体を、硫化のために3-((N,N-ジメチルアミノメチリデン)アミノ)-3H-1,2,4-ジチアゾール-5-チオン(DDTT)での処理により(D)に転化させ、次に、支持体を無水酢酸の溶液で処理して、一切の未反応5’-ヒドロキシル基をキャップした。チオホスホロアミダートモルホリノDNAキメラ(TMO/DNA)の調製のため、合成サイクルは、0.12Mの5-(エチルチオ)-1H-テトラゾールが活性化剤であったことと、(C)を得るための5’-O-ジメトキシトリチル-2’-デオキシリボヌクレオシド-3’-ホスホロアミダイトシントン(9、10、11または12)を除いて、同様であった。次いで、この亜リン酸トリエステルをDDTTでの酸化によって(E)に転化させて、ホスホロチオ酸エステルヌクレオチド間連結を生成した。次いで、これらの縮合の生成物(E)を無水酢酸でキャップした。ジクロロメタン中の3%トリクロロ酢酸での処理後には、(F)または(G)は、TMOまたはTMO-DNAキメラを生成するための適切なサイクルの反復の準備が整っていた。
【0144】
DMT-ONオリゴヌクレオチドを水酸化アンモニウム(1.0mL)中、55℃で18時間、脱保護し、RP-HPLCを使用して精製した。DMT部分を50%酢酸水溶液で5分にわたって室温で除去し、続いて、TEAでpH7.0にして反応を停止させ、続いて、減圧下で蒸発させた。得られたオリゴヌクレオチドを、RP-HPLCを使用して単離した。
【0145】
これらのTMO及びTMO-DNAキメラをLCMSにより特徴付けた。
【0146】
自動TMO合成:合成は、ABI 394 Synthesizerで行った。全ての合成は、コハク酸エステル連結を介してCPG固体支持体に結合している5’-DMTr-2’-OMe-リボウリジンを使用して、1.0μmolスケールで行った。チオモルホリノオリゴヌクレオチドの合成のために、ホスホロジアミダイト(5、6、7または8;0.1M)を無水CH3CNに溶解した。標準1.0μモル合成サイクルを、カップリング時間を300秒に増加して使用した。酸化及びキャッピングの後、ジクロロメタン中のトリクロロ酢酸の3%溶液を使用して脱トリチル化を行った。合成サイクルの段階的説明を表1に記載する。全ての合成をDMT ONで行った。合成後、樹脂を1.5mLのスクリューキャップ付きバイアルに移し、1.0mLのNH4OH(37%)で18時間、55℃で処理した。
【0147】
【表1】
表1.
チオモルホリノオリゴヌクレオチドを調製するために使用した化学的ステップ
【0148】
RP-HPLC精製プロトコール:1.0mL/分の流速で30分にわたって0から40%Bへの線形勾配;緩衝剤A:50mM TEAB、pH8.5;緩衝剤B:アセトニトリル、室温。カラム仕様:XBridge Oligonucleotide BEH C18 Prep Column、130Å、2.5μm、10mm×50mm。この精製ステップは、複数のキラルリン中心の存在に起因して生成物を幅広ピークとして生じさせる。
【0149】
LC-MS分析は、Agilent 6530シリーズQ-TOF LC/MS分光計で行った。0.2mL/分の流速を用いて50分で0~100%の緩衝剤Bの勾配で、ウォーターズACQUITY UPLC BEH C18、1.7μm、2.1×100nmカラムを使用した(緩衝剤Aは、トリエチルアミン:水:メタノール:ヘキサフルオロ-2-プロパノールの1:380:10:10.4混合物であり、緩衝剤Bは、トリエチルアミン:メタノール:水:ヘキサフルオロ-2-プロパノールの1:370:20:10.4混合物であった)。
【実施例2】
【0150】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの融解温度の研究
6つのアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列及びヌクレオチド間連結を
図1C及び1Dに示す):対照2’-O-MePS、ODN 1147、1148、1153、1154、及び完全修飾PMOを、10mMリン酸ナトリウム緩衝液によりpH7.0に調整した、10mM NaCl、0.01mM EDTAを含有する融解緩衝液中、2μM濃度で調製した。次いで、AOを、合成相補RNA配列配列(2μM)と等体積で混合し、95℃で10分間、変性させ、室温に冷却し、光路長1mmの石英キュベットに充填した。融解プロセスを、Shimadzu UV-1800により、温度制御装置を用いて1.0℃/分の昇温速度で20~90℃の範囲にわたってモニターした。Tm値を一次導関数により算出した。研究したODN及び対照オリゴヌクレオチドについての融解温度は、以下のとおりであった:
【0151】
【0152】
このように、4つ全てのODNは、アンチセンス研究に有用である範囲内の同等の融解温度を有した。
【実施例3】
【0153】
ODNへのチオモルホリノODNのin vitroトランスフェクション
H-2Kb-tsA58 mdx筋芽細胞(「H2K mdx細胞」)を培養し、分化させた。手短に述べると、60~80%コンフルエンスに達したら、筋芽細胞培養物をトリプシンで処置し、50μg/mlのポリ-D-リシン、続いて100μg/mlのMatrigel(In Vitro Technologies)で前処理した24ウェルプレートに2×104細胞/ウェルの密度で播種した。次いで、細胞を、5%ウマ血清を含有するダルベッコ変性イーグル培地(DMEM)中で、37℃、5%CO2で24時間インキュベートすることにより、筋管へと分化させた。次いで、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、リポフェクチンと2:1(w:w)(リポフェクチン:AO)の比で複合体化するか、またはリポフェクタミン3000(1.5uL)と複合体化し、溶液を3時間後に除去したことを除いて製造業者の説明書に従って24ウェルプレートの1ウェル当たり500μlの最終トランスフェクション体積で使用した。本発明者らはまた、ネイキッドAOを(いずれのトランスフェクション剤も使用せずに)トランスフェクトした。
【0154】
トランスフェクションの24時間後、細胞を回収し、Direct-zol(商標)RNA MiniPrep PlusとTRI Reagent(Zymo Research)を製造業者の説明書に従って使用してRNAを抽出した。次いで、SuperScript(商標)III Reverse Transcriptase III及びAmpliTaq Gold 360 DNA Polymeraseを使用してネステッドRT-PCRによりジストロフィン転写物を第20~26番エクソンにわたって分析した。PCR産物をTris-酢酸-EDTA緩衝液中の2%アガロースゲルで分離し、画像をFusion Fxゲルドキュメンテーションシステム(Vilber Lourmat)に取り込んだ。
【0155】
エクソンスキッピング効率の定量をゲル画像のデンシトメトリー分析によって行った。デンシトメトリーは、取り込んだゲル画像を使用してImage J2ソフトウェアによって行った。ソフトウェアの「バックグラウンド減算」機能を使用して、及び50%(デフォルト値)に設定して、画像からバックグラウンドを減算した。エクソンスキッピング効率は、第23番エクソンがスキップされたRT-PCR産物の検出量(第23番がスキップされたバンドの正確な値)を、全ジストロフィン転写産物(各レーンにおける全てのバンドの合計値)のパーセンテージで表すことによって決定した。次いで、Microsoft Excelの100%積み上げ縦棒形式を使用して、パーセンテージ値をプロットした。
【0156】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー第23番エクソンマウスモデルでの結果:
図2A~2Cは、H2K mdx細胞においてエクソンスキッピングを研究するために使用した手法を表す。
図2Aは、エクソンとイントロンとの両方を含む内在性mRNAを表示する。
図2Bは、非機能性ジストロフィンタンパク質の産生を引き起こす致命的変異を含有する第23番エクソンのエクソンスキッピングを誘導するために使用した一般的な手法の概要を示す。この手法は、その配列がこのエクソンに隣接するエクソン/イントロン接合部に及ぶオリゴヌクレオチド(黒色実線によって示されている)を導入することを含む。このオリゴヌクレオチドは、この接合部でのスプライシングを阻止し、そのためスプライシング複合体は、第23番エクソンをスキップして短縮型成熟mRNAを生成し、このmRNAが、翻訳により、活性ジストロフィンタンパク質を産生する。
図2Cは、特異的ODN配列、及びそれがエクソン/イントロン境界部にどのようにオーバーラップするのかを示す。ODN 1147、1148、1153及び1154は全て、同じ配列エレメントを含有するが、
図1C及び1Dに示すように、
チオモルホリノヌクレオチドの可変的な数及び位置を有する。これらのODNをH2K mdxマウス筋管細胞株にトランスフェクトした。
【0157】
これらのODNをリポフェクチンとともにマウス細胞株にトランスフェクトしたとき、
チオモルホリノヌクレオチドを含有する4つのODN(1147、1148、1153及び1154)の全てでエクソンスキッピングが用量依存的に観察される(
図3)。リポフェクチンは、ODNの細胞への取り込みを助け、エクソンスキッピング分析において生物活性ではない。ODN 1148は、研究した最低濃度(5/10nM)で容易に分かるように、最も活性が高かった。対照的に、2’-OMe PS対照(本発明者らの結果より前に研究された最も活性の高いODN)は、このアッセイでは活性がはるかに低い。さらに、PMOオリゴヌクレオチド(デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療としてFDAにより条件付きで承認された)は、このアッセイでは不活性である。
【0158】
ODNをリポフェクタミンとともにマウス細胞株にトランスフェクトしたとき、
チオモルホリノヌクレオチドを含有する4つのODN(1147、1148、1153及び1154)の全てでエクソンスキッピングが同じく観察された(
図4)。ODN 1148は、この場合もやはり、研究した最低濃度(5/10nM)で分かるように、最も活性が高かった。対照的に、2’-OMe PS対照(本発明者らの結果より前に研究された最も活性の高いODN)は、このアッセイでは活性がはるかに低い。さらに、PMOオリゴヌクレオチドもまた、このアッセイでは不活性である。しかし、トランフェクションを助けるためのリポフェクタミンの使用は、試験した全てのODNについて活性がより低いプロファイルを生じさせる。これは、疑う余地なく、リポフェクタミンがODNの細胞への取り込みをリポフェクチンと同程度に誘導することができないことに起因する。この結論は、細胞がリポフェクチンの非存在下でもリポフェクタミンの非存在下でもトランスフェクトされた、
図5及び7に示す結果によって裏づけられる。この場合、研究した最高濃度(100nM)でさえ、いかなるODNも観察されなかった。
【0159】
図4及び5に示す結果をデンシトメトリー分析に付し、結果を
図6に示す図面にプロットすると、
チオモルホリノヌクレオチドを有するODNの4つ全てが対照より優れていることは明白である。これは、研究した最低濃度(5及び10nM)で特に明らかである。デンシトメトリー分析で示されるように、
チオモルホリノ(1148)及び
チオモルホリノ/DNAキメラ(1153及び1154)は、効率的な第23番エクソンスキッピングを用量依存的に誘導した。注目すべきことに、1148、1153及び1154は、より低濃度(5及び10nM)で並外れてよく機能し、これらは、対照2’OMePS ODN(25及び38%)と比較して、それぞれ、56及び68%、41及び60%、41及び46%の第23番エクソンスキッピング産物(23及び22-23)を生じさせた。PMO対照は、スキッピングを一切誘導しなかった。
【0160】
これらの結果は、チオモルホリノ含有オリゴヌクレオチドを使用してジストロフィンmRNAのエクソンスキッピングを誘導して機能性ジストロフィンタンパク質を生成することができることを実証する。
【0161】
上で説明した様々な特徴及びプロセスを互いに独立して使用してもよく、または様々な方法で組み合わせてもよい。全ての可能な組合せ及び部分的組合せが本開示の範囲に入ることを意図している。加えて、ある特定の方法またはプロセスブロックを、一部の実施では割愛してもよい。本明細書に記載した方法及びプロセスはまた、いずれの特定の順序にも限定されず、それに関するブロックまたは段階を、適切である他の順序で行うことができる。例えば、記載したブロックもしくは段階を、具体的に開示したもの以外の順番で行ってもよく、または複数のブロックもしくは段階を、単一のブロックもしくは段階の中で組み合わせてもよい。ブロックまたは段階例を、逐次的に行ってもよく、並行して行ってもよく、または何らかの他の方法で行ってもよい。ブロックまたは段階を、開示した実施形態例に加えてもよく、または開示した実施形態例から除去してもよい。本明細書に記載したシステム及び成分例を、記載したのとは異なって構成してもよい。例えば、開示した実施形態例に要素を加えてもよく、開示した実施形態例から要素を除去してもよく、または開示した実施形態例と比較して要素を再構成してもよい。
【0162】
本明細書で使用した条件付きの文言、例えば、数ある中でも特に、「できる」、「できるだろう」、「し得る」、「してもよい」、「例えば」などは、そうでないと具体的に記述されている場合を除き、または使用される文脈の中で他の意味に解される場合を除き、一般に、ある特定の実施形態が、ある特定の特徴、要素及び/またはステップを含むが、他の実施形態が、ある特定の特徴、要素及び/またはステップを含まないことを伝えることを意図している。したがって、そのような条件付き文言は、一般に、特徴、要素及び/もしくはステップが1つもしくは複数の実施形態に多少なりとも必要であることを含意することも、著者情報または奨励の有無にかかわらず、これらの特徴、要素及び/もしくはステップが任意の特定の実施形態に含まれるのか、または任意の特定の実施形態において実行されるべきであるのかを決定するための論理を、1つもしくは複数の実施形態が必然的に含むことを含意することも、意図していない。用語「含むこと(comprising)」、「含むこと(including)」、「有すること」などは、同義語であり、包括的に、非限定的な方式で使用され、追加の要素、特徴、作用、操作などを排除しない。また、用語「または」は、その包括的な意味で使用され(その排他的な意味で使用されず)、したがって、例えば、要素のリストを結び付けるために使用される場合、用語「または」は、リスト内の要素の1つ、一部または全てを意味する。
【0163】
ある特定の実施形態例を記載したが、これらの実施形態は、説明のために提示したものに過ぎず、本明細書で開示した本発明の範囲を限定することを意図していない。したがって、上述の説明には、いずれかの特定の特徴、特性、ステップ、モジュールまたはブロックが必要または不可欠であることを含意することを意図したものはない。実際、本明細書に記載した新規方法及びシステムは、様々な他の形態で実施することができ;さらに、本明細書に記載した方法及びシステムの形態に、本明細書で開示した本発明の精神を逸脱することなく様々な割愛、置換及び変更を加えることができる。添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物は、本明細書で開示した本発明のいくつかについての範囲及び精神に入るような形態または変更形態を包含することを意図している。