IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ピーエス工業株式会社の特許一覧

特許7441498放射冷暖房システムおよび放射冷房システム
<>
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図1
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図2
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図3
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図4
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図5
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図6
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図7
  • 特許-放射冷暖房システムおよび放射冷房システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】放射冷暖房システムおよび放射冷房システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 5/00 20060101AFI20240222BHJP
   E04H 3/14 20060101ALI20240222BHJP
   E04H 3/16 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
F24F5/00 101B
E04H3/14 C
E04H3/16 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020070187
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167679
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000112211
【氏名又は名称】ピーエス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】百家 裕季
(72)【発明者】
【氏名】奈良原 浩
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148357(JP,A)
【文献】特開平09-101057(JP,A)
【文献】特開平06-193290(JP,A)
【文献】特開2005-016919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
E04H 3/14
E04H 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に囲まれ上部が吹き抜けとなったアリーナと、当該アリーナの周囲且つ当該アリーナより上層階に設けられて当該アリーナに向けて下り勾配となった階段状の観客席とを備えた施設を冷暖房する放射冷暖房システムであって、
前記アリーナを囲むように前記アリーナの壁面に沿って設置した第一熱交換器を含む第一放射冷暖房装置と、
前記観客席の最上段の背後に設置した第二熱交換器を含む第二放射冷暖房装置と、
前記第二熱交換器の背後から前記第二熱交換器に向けて送風を可能とする送風機と
を備えたことを特徴とする放射冷暖房システム。
【請求項2】
前記第一熱交換器と前記第二熱交換器の双方に熱媒体を供給可能な熱媒体供給器を備えた
請求項1に記載の放射冷暖房システム。
【請求項3】
前記第一熱交換器に熱媒体を供給する第一熱媒体供給器と、
当該第一熱媒体供給器とは別に備えられて前記第二熱交換器に熱媒体を供給する第二熱媒体供給器と
を備えた請求項1に記載の放射冷暖房システム。
【請求項4】
壁面に囲まれ上部が吹き抜けとなったアリーナと、当該アリーナの周囲且つ当該アリーナより上層階に設けられて当該アリーナに向けて下り勾配となった階段状の観客席とを備えた施設を冷房する放射冷房システムであって、
前記アリーナを囲むように前記アリーナの壁面に沿って設置した第一熱交換器を含む第一放射冷房装置と、
前記観客席の最上段の背後に設置した第二熱交換器を含む第二放射冷房装置と
前記第二熱交換器の背後から前記第二熱交換器に向けて送風を可能とする送風機と
を備えたことを特徴とする放射冷房システム。
【請求項5】
前記第一熱交換器と前記第二熱交換器の双方に冷媒を供給可能な冷媒供給器を備えた
請求項4に記載の放射冷房システム。
【請求項6】
前記第一熱交換器に冷媒を供給する第一冷媒供給器と、
当該第一冷媒供給器とは別に備えられて前記第二熱交換器に冷媒を供給する第二冷媒供給器と
を備えた請求項4に記載の放射冷房システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射冷暖房システム、放射冷房システムおよび放射暖房システムに係り、特に、体育館などの大規模な屋内空間を冷暖房する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
観客席を備えた体育館のような屋内施設が各地に建設され、スポーツ競技やコンサートなどに利用されている。このような施設では、試合場や舞台となるアリーナを取り囲むように観客席が設けられるが、アリーナの周囲には器具庫などの付帯設備が備えられることから観客席の多くはこれらの上に(アリーナより上層階に)配置される。また、アリーナを見やすくするために観客席は、吹き抜けとなったアリーナに向け下り勾配の階段状に形成される。
【0003】
また、このような大規模な屋内空間を冷房する装置の発明を開示するものとして下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6288427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1記載の発明では、アリーナの周囲壁面に沿って設置した放射(輻射)冷房装置によってアリーナ部分に低温空気層を形成する一方、観客席については、観客席最上段の後方位置に同位置から吸気して観客席に向け冷気を送風する対流式冷房装置(室内機)を設置し、観客席の上部空間内で循環する低温対流を形成することにより冷房を行う(同文献の明細書段落〔0038〕及び図面の図2参照)。
【0006】
ところが、この文献記載の発明では、アリーナ部分について低温空気層の形成は可能であるとしても、観客席について上記のような低温対流を形成することは実際には困難である。
【0007】
なぜなら、観客席最上段後方から吹き出す冷気を最前列(最下段)の観客席まで届かせることは吹出し風量を大きくすることにより可能であるとしても、観客席最前列まで到達した冷気は、大部分がそのまま滝が流れ落ちるようにアリーナに流れ落ちてしまうからである。
【0008】
一方、この点につき当該発明は、「観客の体温で温度が上昇して比重の軽くなった空気が室内機の吸入口をめがけて上昇していく」とするが(同文献の明細書段落〔0040〕参照)、観客の体温で温度上昇した空気は、その場で垂直に上昇して室内機から吹き出された冷気と混ざり合ってしまうと考えられる。また、室内機が吸入口から空気を吸い込んでいるが、当該室内機は、直前の観客席からは吸気することがあったとしても、室内機から遥かに前方かつ下方に離れた観客席前列部から空気を吸い上げることは殆どなく、吸入口に吸い込まれる空気は、容易に吸い込み可能な室内機周囲の空気、つまり室内機が設置されたフロアー(観客席背後)の空気が圧倒的に多くなると考えられる。
【0009】
したがって、当該文献の図2が示すような低温対流、すなわち、室内機から送り出された冷気が観客席最前列で向きを反転し、観客席の床面を這うように斜め後方へ最上段まで上昇する流れを形成することは現実には難しい。
【0010】
さらに、上記文献記載の発明は、冬季(暖房期)への対応にも難がある。具体的には、同文献では冬季の暖房にも対応できる旨述べられているが(同文献の明細書段落〔0054〕,〔0083〕参照)、同文献の装置で暖房しようとした場合、冷房時の冷気と異なり温風は自然に下降することはない(寧ろ上昇する)から、観客席の最前列まで暖房するにはルーバーを斜め下方に向けて室内機から強力な送風が必要となる。このため、風を受けることによる不快感や冷感を観客が受けやすい。また、当該送風がアリーナやその上部の空気層を攪拌するおそれも生じる。
【0011】
大人数を収容可能なこの種の施設は、スポーツ競技やコンサートなどの日常的な使用だけでなく、災害時の避難施設として利用されることも少なくない。このため、冬季における当該用途への使用も考慮し、冷房だけでなく良好な暖房空間を形成できることが望まれる。
【0012】
したがって、本発明の目的は、大規模施設の屋内に従来より快適な冷暖房空間を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る放射冷暖房システムは、壁面に囲まれ上部が吹き抜けとなったアリーナと、アリーナの周囲且つアリーナより上層階に設けられてアリーナに向けて下り勾配となった階段状の観客席とを備えた施設を冷暖房する放射冷暖房システムであって、アリーナを囲むようにアリーナの壁面に沿って設置した第一熱交換器を含む第一放射冷暖房装置と、観客席の最上段の背後に設置した第二熱交換器を含む第二放射冷暖房装置と、第二熱交換器の背後から第二熱交換器に向けて送風を可能とする送風機とを備える。
【0014】
本発明の放射冷暖房システムは、観客席を有する体育館のような大きな屋内空間を備えた施設の冷暖房を行うのに好適なシステムで、冷房時(例えば夏季)と暖房時(例えば冬季)にそれぞれ次のような運転を行うことにより、1年を通じて快適な屋内空間を形成することが出来る。
【0015】
〔冷房運転時〕
冷房時には、アリーナに設置した第一熱交換器と、観客席に設置した第二熱交換器に冷媒(例えば冷却した水や地下水など)を供給することにより第一放射冷暖房装置と第二放射冷暖房装置を冷房運転するとともに、送風機を駆動して第二熱交換器に向け送風を行う。
【0016】
ここで、第一熱交換器はアリーナを取り囲むようにアリーナの壁面に沿って設置してあり、このような第一熱交換器により、第一熱交換器とほぼ同じ高さの低温の空気層をアリーナに形成し、維持することが出来る。
【0017】
具体的には、第一熱交換器との熱交換によって冷却された空気(冷気)が穏やかに下降する気流がアリーナの壁面近くに形成される。この下降気流は、床面まで達すると床面に突き当たることにより水平方向に向きを変え、アリーナの中央部に向け床面に沿って水平に流れていく。そしてこの冷気は、次第に熱を吸収しながらアリーナ中央部に集まり、アリーナ中央部で互いに衝突して押し上げられた後、第一熱交換器とほぼ同じ高さで再び水平に向きを変えて壁面近くの第一熱交換器に向け流れていく。
【0018】
このようにして、アリーナを取り囲む第一熱交換器によって極めて緩やかな自然対流が生じ、ほぼ均一な温度の低温空気層がアリーナ全体に形成され維持されることによりアリーナが冷房される。なお、この低温空気層については、後の実施形態の説明においても図面を参照しつつ詳しく述べる。
【0019】
一方、観客席の冷房は、第二放射冷暖房装置により行う。具体的には、第二放射冷暖房装置の第二熱交換器を観客席の最上段の背後に設置してあり、当該熱交換器との熱交換により冷却された空気(冷気)が階段状の観客席を流れ下り、これにより観客席全体が冷房される。またこのとき、第二熱交換器の背後に設置した送風機から第二熱交換器に向けて送風を行う。第二熱交換器による熱交換を促進し冷房効率を高めるとともに、観客席に冷気を積極的に送り込んで観客に涼感を与えるためである。
【0020】
なお、送風機の駆動は必須ではない。第二熱交換器により冷却され重くなった冷気は送風機により強制的に観客席に送り込まなくても、アリーナに向け下り勾配となった観客席を自然に流れ下るからである。特に、観客席を使用せずにアリーナのみを使用する場合、あるいは、外気温がさほど高くないときや観客数が少ないときなど冷房負荷が小さい場合には、送風機を駆動しなくても良い。
【0021】
観客席を流れ下り観客席の最前列に達した冷気はアリーナへ流れ落ちる。したがって、観客席を流れ下る冷気の層と、第一放射冷暖房装置によりアリーナに形成された前記低温空気層と一体となり、アリーナと観客席全体を一体に冷房することが出来る。また、アリーナへ流れ落ちる当該冷気により、前述した第一熱交換器によるアリーナ壁面近くの下降気流の形成を促進することも可能となる。
【0022】
本発明の放射冷暖房システムにおいて、熱交換器(第一熱交換器と第二熱交換器)に熱媒体を供給する熱媒体供給器は、第一放射冷暖房装置と第二放射冷暖房装置について共通化しても良いし、別々に備えることも可能である。
【0023】
すなわち本発明の一態様では、第一熱交換器と第二熱交換器の双方に熱媒体を供給可能な熱媒体供給器を備える。このような態様によれば、施設に冷暖房システムを導入するイニシャルコストを低く抑えることが出来る。
【0024】
また本発明の別の一態様では、第一熱交換器に熱媒体を供給する第一熱媒体供給器と、当該第一熱媒体供給器とは別に備えられ、第二熱交換器に熱媒体を供給する第二熱媒体供給器とを備える。このような態様によれば、第一放射冷暖房装置(アリーナ)と第二放射冷暖房装置(観客席)とをそれぞれ独立したシステムとすることが出来るから、メンテナンスがやり易くなるとともに、一方が故障し或いは保守点検のため運転を停止する場合にも他方を運転することである程度の冷暖房が可能となるなど利便性を向上させることが出来る。
【0025】
上記熱媒体供給器としては、例えば、冷水および温水を供給可能な空冷ヒートポンプを使用することが出来る。ただし、熱媒体供給器の種類や構造は特に問わず、他の熱媒体供給器(例えばボイラーや地下水の供給器など)を採用することも可能である。
【0026】
〔暖房運転時〕
暖房時には、アリーナに設置した第一熱交換器と、観客席に設置した第二熱交換器に熱媒(例えば温水)を供給することにより、第一放射冷暖房装置と第二放射冷暖房装置を暖房運転する。なお、後に述べるように施設屋内全体の暖房が可能であるから、送風機の駆動は不要である。
【0027】
体育館のような施設において観客席背後の壁面は、一般に外気(外壁)に接しており、また採光や換気のため多くの窓も備えられている。したがって、冬季のように外気温が低いときにはコールドドラフトが発生し、当該壁面から冷気が流れ下って観客席に浸入しやすい。また、発生したコールドドラフトは、下り階段状の観客席を流れ下ってアリーナへ流れ落ちることとなる。
【0028】
これに対し、本発明の放射冷暖房システムを備えれば、観客席背後に設置した第二熱交換器によってコールドドラフトによる下降冷気を遮断することができ、観客席を効果的に暖房することが出来るとともに、下降冷気が観客席を流れ下ってアリーナへ流れ落ちることを防ぐことが出来る。
【0029】
また、第一熱交換器と第二熱交換器からの放射熱によってアリーナ壁面および上層階(観客席背後)の壁面がそれぞれ暖められ、さらにこれらの熱交換器により暖められた暖気によってアリーナ壁面および上層階の壁面を含む施設壁面全体が暖められるから、コールドドラフトの発生自体を抑制ないし防止することができ、壁面からの冷輻射を防ぐことが可能となる。
【0030】
このように本発明の放射冷暖房システムは、単に屋内の気温を上げるだけでなく、寒さの原因となる壁面を暖め、寒さを感じさせるコールドドラフト(下降冷気)の発生を抑制ないし防止しあるいは発生した下降冷気を遮断することで、特に、施設内にいるアリーナ利用者や観客にとっての体感的な寒さ、つまり下降冷気や壁面に輻射熱を奪われることによる所謂底冷え的な寒さを取り除き、体感温度を上げることで施設利用者の快適性を向上させることが出来るものである。
【0031】
なお、本発明は、典型的には上記のような冷房と暖房の双方を行うことが出来る冷暖房システムに係るものであるが、必ずしもこれに限定されず、冷房専用あるいは暖房専用のシステムを本発明に基いて構成することを禁止するものではない。例えば、冬季に殆ど暖房が不要な温暖な地方では冷房専用のシステムを導入しても良いし、逆に夏季に殆ど冷房が不要な寒冷地方では、暖房専用のシステムを採用しても良いからである。
【0032】
具体的には、本発明に係る冷房システムは、壁面に囲まれ上部が吹き抜けとなったアリーナと、アリーナの周囲且つアリーナより上層階に設けられてアリーナに向けて下り勾配となった階段状の観客席とを備えた施設を冷房する冷房システムであって、アリーナを囲むようにアリーナの壁面に沿って設置した第一熱交換器を含む第一放射冷房装置と、観客席の最上段の背後に設置した第二熱交換器を含む第二放射冷房装置と、第二熱交換器の背後から第二熱交換器に向けて送風を可能とする送風機とを備える。
【0033】
またこの冷房システムにおいても、前記冷暖房システムと同様に、熱交換器に冷媒を供給する冷媒供給器を第一放射冷房装置と第二放射冷房装置とで共通にしても良いし(第一熱交換器と第二熱交換器の双方に冷媒を供給可能な冷媒供給器を備える)、別々に備える(第一熱交換器に冷媒を供給する第一冷媒供給器と、第一冷媒供給器とは別に備えられて第二熱交換器に冷媒を供給する第二冷媒供給器とを備える)ことも可能である。
【0034】
上記冷房システムの運転方法は、前記冷暖房システムの冷房運転時と同様で、これにより快適な冷房空間をアリーナと観客席とに形成することが出来る。
【0035】
また、本発明に係る暖房システムは、壁面に囲まれ上部が吹き抜けとなったアリーナと、アリーナの周囲且つアリーナより上層階に設けられてアリーナに向けて下り勾配となった階段状の観客席とを備えた施設を暖房する暖房システムであって、アリーナを囲むようにアリーナの壁面に沿って設置した第一熱交換器を含む第一放射暖房装置と、観客席の最上段の背後に設置した第二熱交換器を含む第二放射暖房装置とを備える。
【0036】
この暖房システムにおいても、前記冷暖房システムと同様に、熱交換器に熱媒を供給する冷媒供給器を第一放射冷房装置と第二放射冷房装置とで共通にしても良いし(第一熱交換器と第二熱交換器の双方に熱媒を供給可能な熱媒供給器を備える)、別々に備える(第一熱交換器に熱媒を供給する第一熱媒供給器と、第一冷媒供給器とは別に備えられて第二熱交換器に熱媒を供給する第二熱媒供給器とを備える)ことも可能である。
【0037】
上記暖房システムの運転方法は、前記冷暖房システムの暖房運転時と同様で、これにより快適な暖房空間をアリーナと観客席とに形成することが出来る。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、大規模施設の屋内に従来より快適な冷暖房空間を形成することが出来る。
【0039】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基いて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る放射冷暖房システムを設置した施設(冷房運転をし且つ送風機を駆動した状態)を模式的に示す縦断面図(図2のX-X断面)である。
図2図2は、前記実施形態に係る放射冷暖房システムを設置した施設の屋内を模式的に示す平面図である。
図3図3は、前記実施形態に係る放射冷暖房システムを設置した施設(冷房運転をし且つ送風機を駆動しない状態)を図1と同様に模式的に示す縦断面図(図2のX-X断面)である。
図4図4は、前記実施形態に係る放射冷暖房システムを設置した施設(暖房運転時の状態)を図1と同様に模式的に示す縦断面図(図2のX-X断面)である。
図5図5は、放射冷暖房装置の熱交換器を例示する斜視図である。
図6図6は、図5に示した熱交換器の内部構造を左側面側から示す縦断面図である。
図7図7は、図5に示した熱交換器の内部構造を前面側から示す縦断面図である。
図8図8は、前記実施形態の別の構成例に係る放射冷暖房システムを設置した施設を図1と同様に模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1から図4に示すように本発明の一実施形態に係る放射冷暖房システムは、観客席Bを備えた体育館などの大規模な屋内空間を有する施設を冷暖房するもので、当該施設は、壁面W1に囲まれた平坦な床面Fを有し上部が吹き抜けとなったアリーナArと、アリーナArを取り囲むようにアリーナ床面Fより上層階に配置された観客席Bとを有する。また観客席Bは、アリーナArに向けて下り勾配となる階段状に形成され、観客席Bの下には器具庫Eなどの付帯設備が備えられている。
【0042】
一方、当該施設に設置した本実施形態に係る放射冷暖房システムは、アリーナArの周囲を取り囲むようにアリーナ壁面W1の前面側に当該壁面W1に沿って設置した複数台の第一熱交換器1と、観客席Bの最上段の背後に設置した複数台の第二熱交換器2と、第二熱交換器2の後方の施設壁面W2に設置した複数台の送風機3と、配管5を通して各熱交換器(第一熱交換器および第二熱交換器)1,2に熱媒体(冷水又は温水)を供給する空冷ヒートポンプ(熱媒体供給器/以下単に「ヒートポンプ」と称することがある)4とを有する。
【0043】
なお、ヒートポンプ4と各熱交換器1,2を接続する配管5は、図では1本の線で示しているが、当該配管5は、ヒートポンプ4から熱交換器1,2に熱媒体を送る給水管と、熱交換器1,2からヒートポンプ4に熱媒体を戻す戻り管とを有する。
【0044】
第一熱交換器1と第二熱交換器2は共に、熱媒体を流通させるために内部を空洞とした複数の金属製の扁平チューブ(熱交換パネル)を立てた状態で一定方向に縦格子のように配列させたもので(詳細は後述する)、アリーナArに設置する第一熱交換器1は、後に述べる低温空気層L1の高さが当該第一熱交換器1の高さにほぼ等しくなることから、アリーナArで競技などを行う人間の背丈より大きな高さ(例えば2.5~3.5m程度)を有するものとする。一方、第二熱交換器2の高さは、当該熱交換器2は観客席Bより高い位置に設置し、着席した観客を対象とするため、第一熱交換器1より低い。
【0045】
また、アリーナArのほぼ全周に亘って第一熱交換器1を配置するが、隣接する第一熱交換器1と第一熱交換器1の間には隙間があって良く、例えばアリーナArへの出入口E1や器具庫Eへの出入口E2など第一熱交換器1を配置しない区間があっても勿論良い(第二熱交換器2や送風機3についても同様)。また、各熱交換器1,2および送風機3の設置台数は、施設の規模や収容人数、立地場所の気候などによって様々であり、図示の例に限定されない。
【0046】
〔冷房運転時〕
例えば夏季などに冷房を行うには、ヒートポンプ4から配管5を通して冷水を第一熱交換器1と第二熱交換器2に供給するとともに送風機3を駆動する。
【0047】
これによりアリーナArでは、第一熱交換器1との熱交換により冷却された空気(冷気)が下降する気流が第一熱交換器1を設置したアリーナ壁面W1の近くに形成される。この下降気流A1は、床面Fまで達すると床面Fに突き当たることにより水平方向に向きを変え、アリーナArの中央部に向け床面Fに沿って水平に流れていく(符号A2参照)。そしてこの冷気A2は、アリーナArを利用する人間が発する熱等を次第に吸収しながらアリーナ中央部に集まり、アリーナ中央部で互いに衝突して押し上げられた後、第一熱交換器1とほぼ同じ高さで再び水平に向きを変えて壁面W1近くの第一熱交換器1に向け流れていく(符号A3参照)。
【0048】
このようにアリーナArには送風機3を設置していないが、アリーナArを取り囲む第一熱交換器1の駆動によって自然対流による非常に穏やかな空気の流れA1~A3を創り出すことができ、第一熱交換器1の高さとほぼ同じ高さの均一な温度の低温空気層L1を形成し、アリーナ全体(低温空気層L1内)を一定の温度に保つことが出来る。
【0049】
一方、観客席Bの背後に設置した第二熱交換器2との熱交換により冷却された空気は、送風機3の送風によって観客席B側に押し出されて階段状の観客席Bを流れ下り(符号A4参照)、これにより観客席全体が冷房される。また、観客席Bの最前列に達した冷気A4はアリーナArへ流れ落ちる。このため、観客席Bを流れ下る冷気の層L2と、第一熱交換器1によりアリーナArに形成された前記低温空気層L1とが一体となり、これら連続する冷涼な空気層L1,L2によってアリーナArと観客席Bが包まれ冷房される。
【0050】
このように本実施形態の冷暖房システムによれば、冷房が必要なアリーナArと観客席Bのみを冷気の層L1,L2で覆う局所冷房が可能で、天井Cに近い上部空間に暖気H1が存在していてもアリーナArの利用者と観客席Bの観客は低温の空気層L1,L2の中で快適に過ごすことが出来る。
【0051】
また、本実施形態の放射冷暖房装置によれば、各熱交換器1,2の表面で結露が生じ、これにより除湿が可能である。さらにこの除湿は、低温空気層L1内で循環する前記気流により第一熱交換器1における除湿が促進され、送風機3による送風によって第二熱交換器2における除湿が促進されるから、一層効率良く行われ、湿度の点からも快適性を高めることが出来る。
【0052】
また、低温空気層L1内の気流A1~A3は極めて緩やかであり、バドミントンのような風の影響を嫌う競技に影響を与えることがない。また、第二熱交換器2で冷却された冷気A4は下り階段状の観客席Bを容易に流れ下るから、送風機3の送風も非常に穏やかであって良く、当該送風が観客に不快感を与えたり、アリーナArに影響を及ぼすこともない。
【0053】
なお、送風機3は、第二熱交換器2の熱交換効率を高め、観客席Bに冷気を積極的に送り込んで観客に涼感を与える点からは冷房時に駆動することが望ましいが、送風機3の駆動は必須ではない。第二熱交換器2により冷却されて重くなった冷気は、送風機3で強制的に観客席Bに送り込まなくても、図3に示すようにアリーナArに向け下り勾配となった観客席Bを自然に流れ下るからである。特に、観客席Bを使用せずにアリーナArのみを使用する場合、あるいは、外気温がさほど高くないときや観客数が少ないときなど冷房負荷が小さい場合には、送風機3を駆動しなくても良い。
【0054】
〔暖房運転時〕
暖房時には図4に示すように、アリーナArに設置した第一熱交換器1と、観客席Bに設置した第二熱交換器2にヒートポンプ4から温水を供給する。なお、送風機3の駆動は不要である。
【0055】
体育館のような施設では一般に、観客席背後の壁面W2は外気(外壁)に接しており、採光や換気のため多くの窓が備えられている。したがって従来、外気温が低い冬季にはコールドドラフトが発生し、壁面や窓面から冷気Dが流れ下って観客席Bに浸入しやすかった。またコールドドラフトによる下降冷気Dは、下り階段状の観客席Bを流れ下ってアリーナArへ流れ落ち、アリーナArの利用者に寒さを感じさせる。
【0056】
これに対し、本実施形態の放射冷暖房システムを暖房運転すれば、観客席背後に設置した第二熱交換器2によってコールドドラフトによる下降冷気Dを遮断して観客席Bを効果的に暖房することが出来る。また、下降冷気Dが観客席Bを流れ下ってアリーナArへ流れ落ちることも防ぐことが出来る。
【0057】
また、第一熱交換器1と第二熱交換器2からの放射熱によってアリーナ壁面W1および上層階(観客席背後)の壁面W2がそれぞれ暖められ、さらにこれらの熱交換器1,2により暖められた暖気H2によってアリーナ壁面W1および上層階の壁面W2を含む施設壁面全体が暖められるから、コールドドラフトの発生自体を抑制ないし防止することができ、壁面W1,W2からの冷輻射を防ぐことが可能となる。
【0058】
このように本実施形態の放射冷暖房システムは、単に屋内の気温を上げるだけでなく、寒さの原因となる壁面W1,W2を暖め、寒さを感じさせるコールドドラフト(下降冷気)Dの発生を抑制ないし防止しあるいは発生した下降冷気Dを遮断することで、特に、施設内にいるアリーナ利用者や観客にとっての体感的な寒さ、つまり下降冷気Dや壁面W1,W2に輻射熱を奪われることによる所謂底冷え的な寒さを取り除き、体感温度を上げることで施設利用者の快適性を向上させることが出来る。
【0059】
図5図7を参照して熱交換器(第一熱交換器1および第二熱交換器2)の一例について説明する。なお、各図には前後方向、左右方向および上下方向を表す互いに直交する二次元または三次元座標を示しており、以下、これらの方向に基いて説明を行う。
【0060】
熱交換器1は、屋内空気との熱交換ならびに放射(輻射)による冷暖房を可能とするために、上下両端部を閉塞した扁平な(長板状の)ステンレス鋼管からなる複数本の熱交換チューブ(単に「チューブ」と言うことがある)21a,21bを有する。
【0061】
これらの熱交換チューブ21a,21bは、床固定板31と天井固定板32により床Fおよび天井C1にそれぞれ固定した一対の支持板(左支持板12及び右支持板13)の間に、かつ、上端部に水平に配置した上部連結管41と、下端部に同じく水平に配置した下部連結管51との両側(前側及び後側)にそれぞれ対をなすように配列させてある。
【0062】
なお、第一熱交換器1については前方がアリーナAr側、後方がアリーナ壁面W1側となり(第一熱交換器1は前方にアリーナArがあり、後方にアリーナ壁面W1があるように設置する)、第二熱交換器2については前方が観客席B側、後方が上層階壁面W2(送風機3)側となる(第二熱交換器2は前方に観客席Bがあり、後方に上層階壁面W2及び送風機3があるように設置する)。
【0063】
各チューブ21a,21bと上部連結管41および下部連結管51とは、熱媒体(暖房運転時には温水、冷房運転時には冷水)を循環させることが出来るよう互いに連通させてある。より具体的には、上下各連結管41,51の前後両側には、管内に通じる複数の連通孔48,58をそれぞれ形成し、チューブ21a,21b側には、上下各端部近傍位置の内側縁部を切り欠いて形成した切欠孔(図示せず)を設け、これら連通孔48,58および切欠孔を通じて連結管41,51とチューブ21a,21bの内部との間に自由に熱媒体が流通できかつ外部に熱媒体が漏れることがないように水密状態にチューブ21a,21bと連結管41,51とを溶接し接続する。
【0064】
また、上部連結管41は、給水管(前記図1の配管5)を通じて熱媒体供給器(図1のヒートポンプ4)から供給される熱媒体を熱交換器1,2に導入するための導入部42と、チューブ21a,21b内を通過した熱媒体を戻り管(図1の配管5)を通じてヒートポンプに戻すための送出部43を有する。また、上部連結管41の内部には、連結管両端部を閉塞する端壁45,46に加え、導入部42側の数枚(例えば4枚)のチューブ分の長さを仕切る隔壁47を連結管中間部に設け、この隔壁47に遮られて導入部42から熱交換器内に流入した熱媒体は、送出部43側に短絡的に流れることなく、当該数枚のチューブ21a,21bの内部を下部連結管51に向け下方に流れ下る。
【0065】
一方、下部連結管51も同様にその両端部を端壁55,56によって閉塞してあるが、連結管中間部には隔壁を備えない。したがって導入部42側のチューブ21a,21b内を下降して連通口58から下部連結管51内に流入した熱媒体は、図7に示すように下部連結管51内を送出部43側(右方)へ進み、下部連結管51の側面(前側及び後側)に設けられた連通孔58を通じて送出部43側のチューブ21a,21bの内部に再び浸入する。そして、これらのチューブ21a,21b内を上部連結管41に向け上昇して上部連結管41の連通孔48を通じて再び上部連結管41の中に浸入し、送出部43に接続された戻り管(図1の配管5)を通ってヒートポンプに戻される。
【0066】
さらに当該熱交換器1,2は、冷房運転時に熱交換チューブ21a,21bの表面に生じる結露水を集めて排水することにより除湿を同時に行うことが可能で、各チューブ215a,21bの表面から流れ落ちる結露水を受け止め、底面に設けた排水口16から結露水を排水できるドレンパン15を備えることが可能である。
【0067】
なお、図示の例では、配管を接続する導入部42と送出部43を上部連結管41に備えたが、例えば床下に配管を通す場合には、導入部42と送出部43を下部連結管51に備えれば良い(上部連結管41と下部連結管51を入れ替えた構造とする)。
【0068】
また、図示の例では床固定板31と天井固定板32で床Fと天井C1にそれぞれ固定する構造としたが、天井固定板32を備えずに床固定板31のみで固定する(床面Fのみに固定する)構造としても良い。特に、第二熱交換器2は、施設天井C(図1参照)への固定が難しく、また比較的背が低く倒れ難いことから、床固定板31のみを備えて床面Fだけに固定する構造とすれば良い。
【0069】
一方、施設によっては、観客席Bの前端がアリーナArに張り出すように設けられ、この張り出した観客席前端部によってアリーナArの周囲に庇状の天井が形成されている(図1では示していないが、第一熱交換器1の上部に観客席Bが庇状に張り出している)ことも少なくない。また前記低温空気層L1を形成する第一熱交換器1は背が高く、前述のように例えば2.5~3.5m程度の高さを有することがある。したがって、第一熱交換器1は、床固定板31と天井固定板32の両方を備える構造として、床固定板31により床面Fに、天井固定板32により庇状の天井C1にそれぞれ固定することが、第一熱交換器1の転倒を防ぐ点から好ましい。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0071】
例えば、前記実施形態では、両熱交換器1,2に共通のヒートポンプ4から熱媒体を供給する構造としたが、図8に示すようにヒートポンプと配管を別々に備えて第一放射冷暖房装置と第二放射冷暖房装置を互いに独立した構成とすること、すなわち、第一熱交換器1には第一配管5を通じて第一空冷ヒートポンプ4から熱媒体を供給し、第二熱交換器2には第二配管5aを通じて第二空冷ヒートポンプ4aから熱媒体を供給することも可能である。
【0072】
また、第一熱交換器および第二熱交換器は、図5図7に示した形状や構造に限定されない。さらに施設について、前記実施形態の説明では観客席が四方に(アリーナの全周を取り囲むように)備えられた例を示したが、例えば三方や二方に観客席を備えるなど、必ずしもアリーナの周囲すべてに亘って観客席が備えられている必要はない。また当該施設は、典型的には体育館のような屋内体育施設であるが、用途や名称は特に問わず、スポーツ競技や武芸、演劇、コンサートなど様々な用途に供する施設に対して本発明は適用することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 第一熱交換器
2 第二熱交換器
3 送風機
4,4a 空冷ヒートポンプ(熱媒体供給器)
5,5a 配管(給水管および戻り管)
12 左支持板
13 右支持板
15 ドレンパン
16 排水口
21a,21b 熱交換チューブ
31 床固定板
32 天井固定板
41 上部連結管
42 導入部
43 送出部
45,46,55,56 端壁
47 隔壁
48,58 連通孔
51 下部連結管
A1,A2,A3,A4 気流
Ar アリーナ
B 観客席
C 天井
C1 アリーナ周囲の天井(アリーナに張り出した観客席前端部の下面)
D コールドドラフトによる下降冷気
E 器具庫
F アリーナの床面
W1 アリーナの壁面
H1,H2 暖気
L1 低温空気層
L2 冷気の層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8