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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】リニア振動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/16 20060101AFI20240222BHJP
   B06B 1/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H02K33/16 A
B06B1/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021536856
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020025933
(87)【国際公開番号】W WO2021020013
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019140285
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 元一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 千尋
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0241295(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0226362(US,A1)
【文献】特開2018-030107(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108566065(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B1/00-3/04
H02K33/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の振動方向において直進振動可能な可動子と、
前記可動子を収容する収容手段と、
コイルおよび磁石を有して前記可動子を駆動する駆動手段と、
前記可動子に対して前記振動方向の両側から付勢力を付与する付勢手段と、を備え、
前記付勢手段が、弾性変形することで前記付勢力を付与するバネ部材と、前記駆動手段の磁石とは別体に構成されるとともに前記可動子および前記収容手段のそれぞれに対して固定された磁石同士の反発力により前記付勢力を付与する磁気付勢手段と、を有することを特徴とするリニア振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記バネ部材は、前記可動子のストロークの全長に亘って弾性変形するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のリニア振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記バネ部材は、前記可動子のストロークの一部において弾性変形するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のリニア振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記振動方向に沿って棒状に延在して前記可動子を案内する案内手段をさらに備え、
前記バネ部材は、コイル状に形成された圧縮バネであるとともに、前記案内手段が挿通されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のリニア振動アクチュエータ。
【請求項5】
前記駆動手段の磁石は、磁極方向が前記振動方向と略直交したものを有することで駆動力を生じ、
前記磁気付勢手段は、磁極方向が前記振動方向に沿ったものを有することで前記付勢力を付与することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のリニア振動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニア振動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スマートフォン等の携帯端末には、ユーザに対して振動を伝達するために振動発生装置が搭載されることがある。振動発生装置に設けられる可動子は、駆動力が付与されるだけでなく、振動方向の両側から付勢力が付与されることにより、所定の振動中心を有して振動する。このように可動子を振動させる振動装置として、可動子に対して磁石によって付勢力を付与するリニア振動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたリニア振動装置では、可動子とハウジングとのそれぞれに磁石を設け、磁気バネによって可動子を付勢するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0226359号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたように磁気バネによって可動子を付勢する構成では、磁気バネのばね定数が非線形性を有する(可動子の位置によってばね定数が変化する)ため、可動子の位置によって共振周波数が変化し、共振によって大きな振幅を得ようとすると駆動電流の制御が複雑になるという不都合があった。
【0005】
このとき、磁石同士が接近するほど、ばね定数の変化が大きくなる(非線形性が高くなる)ことから、磁石同士が比較的離れておりばね定数の変化が小さい(非線形性が低い)領域を利用する構成が考えられる。しかしながら、非線形性の低い領域ではばね定数の絶対値が小さく、可動子を駆動させる際に所望の加速度が得られなくなってしまう場合がある。
【0006】
本発明の目的は、制御を容易なものとしつつ大きな加速度を得ることができるリニア振動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリニア振動アクチュエータは、所定の振動方向において直進振動可能な可動子と、前記可動子を収容する収容手段と、コイルおよび磁石を有して前記可動子を駆動する駆動手段と、前記可動子に対して前記振動方向の両側から付勢力を付与する付勢手段と、を備え、前記付勢手段が、弾性変形することで前記付勢力を付与するバネ部材と、前記駆動手段の磁石とは別体に構成されるとともに前記可動子および前記収容手段のそれぞれに対して固定された磁石同士の反発力により前記付勢力を付与する磁気付勢手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
以上のような本発明によれば、付勢手段がバネ部材と磁気付勢手段とを有することで、付勢手段のばね定数は、バネ部材の線形なばね定数と、磁気付勢手段の非線形なばね定数と、の和になる。従って、磁気付勢手段のばね定数のうち非線形性の低い領域を用いても、合計のばね定数を確保することができ、大きな加速度を得ることができる。また、合計のばね定数の非線形性を低くすることができ、駆動手段の制御を容易なものとすることができる。
【0009】
また、本発明のリニア振動アクチュエータでは、前記バネ部材は、前記可動子のストロークの全長に亘って弾性変形するように設けられていることが好ましい。このような構成によれば、可動子のストロークの全長に亘って、合計のばね定数を大きくすることができる。
【0010】
また、本発明のリニア振動アクチュエータでは、前記バネ部材は、前記可動子のストロークの一部において弾性変形するように設けられていてもよい。このような構成によれば、可動子が振動中心から離れた際に大きな付勢力を作用させ、大きな加速度を得ることができる。尚、合計のばね定数は、バネ部材の変形開始位置において不連続に変化するものの、線形なばね定数分が増加するだけであり、駆動手段の制御が複雑化しにくい。
【0011】
また、本発明のリニア振動アクチュエータでは、前記振動方向に沿って棒状に延在して前記可動子を案内する案内手段をさらに備え、前記バネ部材は、コイル状に形成されるとともに前記案内手段が挿通されることが好ましい。このような構成によれば、バネ部材を設けるためのスペースを小さくすることができ、装置全体の大型化を抑制することができる。
【0012】
また、本発明のリニア振動アクチュエータでは、前記駆動手段の磁石は、磁極方向が前記振動方向と略直交したものを有することで駆動力を生じ、前記磁気付勢手段は、磁極方向が前記振動方向に沿ったものを有することで前記付勢力を付与することが好ましい。このような構成によれば、駆動手段と磁気付勢手段とのそれぞれにおいて大きな磁力を発生させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリニア振動アクチュエータによれば、付勢手段がバネ部材と磁気付勢手段とを有することで、制御を容易なものとしつつ大きな加速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るリニア振動アクチュエータを示す分解斜視図である。
図2】前記リニア振動アクチュエータを示す斜視図である。
図3】前記リニア振動アクチュエータの駆動手段を構成する磁石を模式的に示す側面図である。
図4】前記リニア振動アクチュエータの磁気付勢手段を模式的に示す平面図である。
図5】前記リニア振動アクチュエータにおける可動子の変位と付勢手段のばね定数との関係を模式的に示すグラフである。
図6】前記リニア振動アクチュエータにおける周波数と前記可動子の加速度との関係を模式的に示すグラフである。
図7】本発明の第2実施形態に係るリニア振動アクチュエータを示す分解斜視図である。
図8】前記リニア振動アクチュエータを示す斜視図である。
図9】前記リニア振動アクチュエータにおける可動子の変位と付勢手段のばね定数との関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。尚、第2実施形態においては、第1実施形態で説明する構成部材と同じ構成部材及び同様な機能を有する構成部材には、第1実施形態と同じ符号を付すとともに説明を省略する。
【0016】
[第1実施形態]
本実施形態のリニア振動アクチュエータ1Aは、図1に示すように、可動子2と、2本のシャフト3A、3Bと、コイル4と、収容手段としてのケース5と、2つの固定側磁石6A、6Bと、フレキシブルプリント基板(FPC)7と、4つのコイルばね8と、を備え、例えばスマートフォン等の携帯端末に搭載されて振動を発生する。リニア振動アクチュエータ1Aは、可動子2の振動方向を長手方向とする直方体状に形成され、以下では、振動方向をX方向とし、幅方向をY方向とし、高さ方向をZ方向とする。
【0017】
可動子2は、図2にも示すように、枠体21と、駆動用磁石22A~22Cと、ヨーク23と、2つの移動側磁石24A、24Bと、を有する。
【0018】
枠体21は、X方向を長手方向とするとともにXY平面に沿った長方形板状に形成され、直方体状の収容部211を有している。枠体21は、その四隅に、Y方向において開口した断面円状の保持部212を有している。
【0019】
駆動用磁石22A~22Cは、X方向に並べられるとともに枠体21の収容部211に収容される。このとき、駆動用磁石22A~22Cは、図3に示すようなハルバッハ配列の着磁方向を有して配置される。即ち、駆動用磁石22AのN極がZ方向上側(コイル4とは反対側)に向けられ、駆動用磁石22BのN極がX方向における駆動用磁石22A側に向けられ、駆動用磁石22CのN極がZ方向下側に向けられる。このように、駆動用磁石22A、22Cの磁極方向はZ方向に沿っている。
【0020】
このようなハルバッハ配列とすることにより、駆動用磁石22Aの上側においてZ方向上向きの磁束が集中し、駆動用磁石22Cの上側においてZ方向下向きの磁束が集中するようになっている。尚、駆動用磁石の個数および着磁方向は、上記のものに限定されず、コイルに電流を流した際にX方向のローレンツ力が生じるような構成であればよい。
【0021】
ヨーク23は、例えば鉄等の強磁性体によってXY平面に沿った長方形板状に形成され、枠体21のZ方向上側に固定される。尚、ヨーク23の重量を調節することにより、可動子2全体の重量を調節してもよい(即ちヨーク23を錘として用いてもよい)し、ヨークは省略されてもよい。
【0022】
2つの移動側磁石24A、24Bは、サマリウムコバルト磁石によって構成され、X方向両端部それぞれに配置される。
【0023】
シャフト3A、3Bは、X方向に沿って延在する断面円形の棒状部材であって、ケース5とは別体に構成されている。2本のシャフト3A、3Bが可動子2をY方向から挟み込むように配置される。
【0024】
可動子2の4つの保持部212がシャフト3A、3Bを摺動可能に保持する。即ち、筒状に形成された保持部212の内側に、シャフト3A、3Bが位置づけられる(保持部212に挿通される)ようになっている。可動子2の保持部212がY方向両側のシャフト3A、3Bを摺動可能に保持することにより、可動子2は、シャフト3A、3BによってX方向に移動するように案内される。このように、シャフト3A、3Bが案内手段として機能する。
【0025】
コイル4は、フレキシブルプリント基板(FPC)7に配置される。FPC7は、XY平面に沿った板状に形成され、ケース5に対して移動不能に固定されるとともに、ケース5の外部に突出して電力が供給される電力供給部71を有している。
【0026】
可動子2は、Z方向においてコイル4と対向するように配置される。コイル4は、X方向に沿って延在する一対の第1延在部41、42と、Y方向に沿って延在する一対の第2延在部43、44と、を有して略長方形状に形成されている。一対の第1延在部41、42は、Z方向から見て、駆動用磁石22A~22Cに対してY方向の両側に配置される。またZ方向から見て、第2延在部43は、駆動用磁石22Aに重なるように配置され、第2延在部44は、駆動用磁石22Cに重なるように配置される。
【0027】
コイル4に電力が供給されると、第2延在部43、44に流れる電流と、その近傍(駆動用磁石22A、22Cの周辺)の磁場と、の相互作用により、X方向に沿ったローレンツ力が生じる。これにより、X方向に沿った駆動力が可動子2に加わる。即ち、コイル4と駆動用磁石22A~22Cとが、可動子2を駆動する駆動手段として機能する。
【0028】
尚、可動子2がX方向に移動する際、第2延在部43、44と駆動用磁石22A、22CとがZ方向から見て重なるような範囲で大きなローレンツ力が得られる。従って、第2延在部43、44と駆動用磁石22A、22Cとの位置関係によって可動子2のストローク長が変化する。
【0029】
ケース5は、枠状のケース本体51と、XY平面に沿って延びるとともにケース本体51の下側開口を塞ぐ下蓋52と、XY平面に沿って延びるとともにケース本体51の上側開口を塞ぐ上蓋53と、を有し、X方向を長手方向とする直方体状に形成される。ケース5には、可動子2と、シャフト3A、3Bと、コイル4と、固定側磁石6A、6Bと、FPC7と、が収容される。
【0030】
ケース本体51のうちX方向両側の壁511、512には、シャフト3A、3Bの端部が挿通される保持孔510が形成されている。これにより、シャフト3A、3BがX方向に沿って延びるように、ケース5によって支持される。
【0031】
固定側磁石6Aは、サマリウムコバルト磁石によって構成され、ケース本体51の壁511における2つの保持孔510の間且つ内面側に固定される。また、固定側磁石6Bは、ケース本体51の壁512における2つの保持孔510の間且つ内面側に固定される。尚、本実施例では固定側磁石6A、6B及び移動側磁石24A、24Bを、耐熱性・耐食性等に優れるサマリウムコバルト磁石によって構成したが、他の種類の磁石を適用することも可能である。
【0032】
コイルばね8にはシャフト3A、3Bが挿通され、4つのコイルばね8が2本のシャフト3A、3Bの両端部に配置される。それぞれのコイルばね8は、可動子2とケース本体51の壁511、512との間に配置される。本実施形態では、コイルばね8の一端が可動子2に固定され、他端が壁511、512に固定されており、コイルばね8は可動子2のストロークの全長に亘って弾性変形するように設けられている。尚、コイルばね8のいずれか一方の端部のみが固定されていてもよいし、両端が固定されていなくてもよい。また、可動子2がX方向における振動中心に位置する際、コイルばね8は多少圧縮されていてもよいし、自然状態であってもよい。
【0033】
可動子2が振動中心から壁511側に近づくと、可動子2と壁511との間に配置されたコイルばね8が圧縮されて弾性変形し、可動子2に対し、壁512側への付勢力を付与する。一方、可動子2が振動中心から壁512側に近づくと、可動子2と壁512との間に配置されたコイルばね8が圧縮されて弾性変形し、可動子2に対し、壁511側への付勢力を付与する。このように、4つのコイルばね8は、機械的に圧縮されて弾性変形することで可動子2に対してX方向両側から付勢力を付与するバネ部材として機能する。尚、コイルばね8は、伸長されて弾性変形することにより、可動子2に対して付勢力を付与してもよい。
【0034】
次に、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bの詳細な構造について図4を参照しつつ説明する。尚、移動側磁石24Aと移動側磁石24Bとは同様の構成を有しており、固定側磁石6Aと固定側磁石6Bとは同様の構成を有している。従って、以下では移動側磁石24Aおよび固定側磁石6Aの構成について説明し、移動側磁石24Bおよび固定側磁石6Bについての説明は省略する。
【0035】
移動側磁石24Aの全体は、各辺がX方向、Y方向およびZ方向に沿った直方体状に形成されており、Y方向において磁気的に区画された第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とを有する。即ち、第1磁気区間A1と第2磁気区間A2との間の区画面は、ZX平面に沿ったものとなる。
【0036】
第1磁気区間A1では、N極が内側(駆動用磁石22A~22C側)を向き、S極が外側(固定側磁石6A側)を向いている。一方、第2磁気区間A2では、N極が外側を向き、S極が内側を向いている。即ち、Y方向に隣り合う第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とにおいて磁極が互いに逆向きとなっている。尚、物理的に分離した2つの磁石を組み合わせることにより第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とを形成してもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とを形成してもよい。このように、移動側磁石24Aの磁極方向は、第1磁気区間A1および第2磁気区間A2のいずれにおいてもX方向に沿っている。
【0037】
固定側磁石6Aの全体は、各辺がX方向、Y方向およびZ方向に沿った直方体状に形成されており、Y方向において磁気的に区画された第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とを有する。即ち、第1磁気区間B1と第2磁気区間B2との間の区画面は、ZX平面に沿ったものとなる。
【0038】
第1磁気区間B1では、N極が外側(壁511側)を向き、S極が内側(移動側磁石24A側)を向いている。一方、第2磁気区間B2では、N極が内側を向き、S極が外側を向いている。即ち、Y方向に隣り合う第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とにおいて磁極が互いに逆向きとなっている。尚、物理的に分離した2つの磁石を組み合わせることにより第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とを形成してもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とを形成してもよい。このように、固定側磁石6Aの磁極方向は、第1磁気区間B1および第2磁気区間B2のいずれにおいてもX方向に沿っている。
【0039】
移動側磁石24Aの第1磁気区間A1と固定側磁石6Aの第1磁気区間B1とがX方向において対向し、移動側磁石24Aの第2磁気区間A2と固定側磁石6Aの第2磁気区間B2とがX方向において対向している。即ち、移動側磁石24Aと固定側磁石6Aとは同極同士が向き合い、反発力が生じるようになっている。このように、移動側磁石24Aと固定側磁石6Aとが、反発力により可動子に対してX方向の一方側から付勢力を付与する。従って、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bが、可動子2に対してX方向両側から付勢力を付与する磁気付勢手段として機能する。
【0040】
上記のように付勢力を付与するバネ部材としてのコイルばね8と、磁気付勢手段としての移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bと、が付勢手段を構成する。このような付勢手段のばね定数について、模式的なグラフである図5を参照して説明する。図5では、横軸を可動子2の変位(位置)とし、縦軸をばね定数とする。また、可動子2が中心位置に存在する場合に、変位を0とする。
【0041】
バネ部材のばね定数は、一点鎖線で示すように、可動子2の変位に関わらず一定となる。一方、磁気付勢手段のばね定数は、破線で示すように可動子2の変位によって変化する。磁気付勢手段のクーロン力は、可動子2の中心位置における磁気付勢手段の隙間と可動子2の変位の差の2乗に反比例する。ばね定数はクーロン力を微分した値であり、線形項と非線形項を持つ。即ち、磁気付勢手段のばね定数は、破線で示すように、可動子2が中心位置から所定範囲内に位置する場合には比較的変化が小さく非線形性が低いものの、中心位置から所定範囲外に位置する場合には非線形性が高くなる。
【0042】
本実施形態では、中心位置における磁気付勢手段のばね定数を基準として、ばね定数が例えば1.1倍以内となる範囲を低非線形性領域とし、1.1倍よりも大きくなる範囲を高非線形性領域とする。可動子2が低非線形性領域内で振動するように、可動子2のストロークを設定する。また、バネ部材のばね定数と磁気付勢手段のばね定数との比は、中心位置において1:0.2~0.5であることが好ましく、低非線形性領域と高非線形性領域との境界において1:0.7~1であることが好ましい。
【0043】
付勢手段のばね定数は、実線で示すように、バネ部材のばね定数と磁気付勢手段のばね定数との和となる。バネ部材のばね定数は一定であることから、付勢手段のばね定数を示す曲線は、磁気付勢手段のばね定数を示す曲線を上方に平行移動させたものとなる。従って、低非線形性領域内であれば、付勢手段のばね定数の非線形性も低く保たれる。
【0044】
上記のようなリニア振動アクチュエータ1Aにおいて可動子2の駆動を開始する際、駆動電流を周波数掃引することにより、可動子2の振幅が徐々に大きくなるように往復移動させる。同様に、可動子2の駆動を停止する際、駆動電流を周波数掃引することにより、可動子2の振幅が徐々に小さくなるように往復移動させる。このように、可動子2が所定の加速度に到達したり加速度が0に到達したりするまでに、遷移時間を要する。このとき、付勢手段のばね定数の非線形性が高いほど、うなりが生じやすく、遷移時間が長くなりやすい。
【0045】
図6に、可動子2を駆動する際の周波数(駆動電流の周波数)と可動子2の加速度との関係を模式的に示す。可動子2の加速度は、周波数の上昇に伴って徐々に大きくなっていき、所定の周波数で極大値となった後、周波数の上昇に伴って急激に低下する。このとき、極大値となる周波数よりも若干低い周波数が定格点として設定される。即ち、定格点の周波数以下においては、可動子2の変位は低非線形性領域内に保たれる。また、定格点から極大値となる周波数までが、オーバードライブ周波数となる。
【0046】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。即ち、付勢手段がバネ部材と磁気付勢手段とを有することで、低非線形性領域を用いても付勢手段のばね定数を確保することができ、大きな加速度を得ることができる。また、付勢手段のばね定数の非線形性を低くすることができ、コイル4に電力を供給する際の制御を容易なものとすることができる。
【0047】
また、上記のように低非線形性領域を用いつつ付勢手段のばね定数を確保することにより、ばね定数を大きくするために磁気付勢手段の磁石を大きくする必要がなく、低非線形性領域を拡大するために磁気付勢手段の磁石同士の間隔を大きくする必要がない。これにより、リニア振動アクチュエータ1A全体を小型化することができる。
【0048】
また、低非線形性領域を用いることにより、可動子2の振動の開始または停止時の遷移時間を短くすることができる。
【0049】
また、低非線形性領域を用いることにより、可動子2の周波数の定格点が、加速度が最大となる周波数よりも低く設定される。これにより、大きな加速度が必要な場合に、オーバードライブ周波数において(高非線形性領域を利用して)可動子2を駆動することができる。
【0050】
また、コイルばね8が可動子2のストロークの全長に亘って弾性変形することで、可動子2のストロークの全長に亘って、付勢手段のばね定数を大きくすることができる。
【0051】
また、シャフト3A、3Bがコイルばね8に挿通されることで、コイルばね8を設けるためのスペースを小さくすることができ、リニア振動アクチュエータ1全体の大型化を抑制することができる。
【0052】
また、駆動手段を構成する駆動用磁石22A、22Cの磁極方向が振動方向であるX方向と略直交しており、且つ、磁気付勢手段を構成する移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bの磁極方向が振動方向であるX方向に沿っていることで、駆動手段と磁気付勢手段とのそれぞれにおいて大きな磁力を発生させることができる。
【0053】
[第2実施形態]
本実施形態のリニア振動アクチュエータ1Bは、図7、8に示すように、前記第1実施形態のリニア振動アクチュエータ1Aのコイルばね8をコイルばね9に置き換えたものである。
【0054】
コイルばね9は、コイルばね8の略半分の長さを有し、その一端が可動子2には固定されず、他端が壁511、512に固定されている。尚、コイルばね9の一端が可動子2に固定され、他端が壁511、512に固定されない構成としてもよいし、両端が固定されない構成としてもよい。
【0055】
コイルばね9が上記のような寸法を有していることから、可動子2が振動中心に位置する際には、コイルばね9が圧縮されず変形しない。可動子2が振動中心から壁511に向かってストロークの略半分移動することにより、可動子2とコイルばね9とが接触し、コイルばね9が圧縮され始め、付勢力が付与される。コイルばね9が最も圧縮された状態から、可動子2が壁512に向かってストロークの略半分移動すると、コイルばね9が自然状態に復帰し、付勢力が付与されなくなる。
【0056】
可動子2が振動中心から壁512に向かってストロークの略半分移動することにより、可動子2とコイルばね9とが接触し、コイルばね9が圧縮され始め、付勢力が付与される。コイルばね9が最も圧縮された状態から、可動子2が壁511に向かってストロークの略半分移動すると、コイルばね9が自然状態に復帰し、付勢力が付与されなくなる。このように、コイルばね9は、可動子2のストロークの一部において弾性変形する。
【0057】
コイルばね9の機械的なばね定数は一定であるものの、実際の変形も考慮した有効ばね定数は、振動中心からストロークの略半分までが0となる。従って、付勢手段のばね定数は、図9に示すようなものとなる。即ち、コイルばね9の変形開始位置においてバネ部材の有効ばね定数が不連続に変化し、付勢手段のばね定数も同様に不連続に変化する。
【0058】
このような本実施形態によれば、前記実施形態と同様に、付勢手段がバネ部材と磁気付勢手段とを有することで、大きな加速度を得ることができ、且つ、コイル4に電力を供給する際の制御を容易なものとすることができる。
【0059】
また、コイルばね9が可動子2のストロークの一部において弾性変形することで、可動子2が振動中心から離れた際に大きな付勢力を作用させ、大きな加速度を得ることができる。尚、付勢手段のばね定数は、コイルばね9の変形開始位置において不連続に変化するものの、線形なばね定数分が増加するだけであり、コイル4に電力を供給する際の制御が複雑化しにくい。
【0060】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0061】
例えば、前記実施形態では、案内手段としてのシャフト3A、3Bが、バネ部材としてのコイルばね8、9に挿通されるものとしたが、案内手段はバネ部材に挿通されていなくてもよく、例えばコイルばねを移動側磁石と固定側磁石との間に配置することで圧縮してもよい。このように案内手段を挿通しない構成とすれば、案内手段の形状の自由度を向上させることができ、ケースと一体化されたレール状の案内手段とすることもできる。
【0062】
また、前記実施形態では、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bがそれぞれ2つの磁気区間を有するものとしたが、これらの磁石の区画態様は任意であり、3以上の区間に区画されていてもよいし、1つの区間のみを有していてもよい。また、磁気付勢手段を構成する磁石の磁極方向は、振動方向に沿っていなくてもよく、例えば磁極方向が振動方向と略直交していてもよい。
【0063】
また、前記実施形態では、駆動用磁石をハルバッハ配列で構成するものとしたが、N極とS極の磁極面が交互に表れるように配列した構成としてもよい。更に、N極とS極との間に非磁性体を配置した構成としてもよく、コイルに電流を流した際にX方向のローレンツ力が生じるような構成であればよい。
【0064】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0065】
1A、1B リニア振動アクチュエータ
2 可動子
22A~22C 駆動用磁石(駆動手段)
24A~24D 移動側磁石(磁気付勢手段)
3A、3B シャフト(案内手段)
4 コイル(駆動手段)
5 ケース(収容手段)
6A~6D 固定側磁石(磁気付勢手段)
8、9 コイルばね(バネ部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9