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特許7441558ピンワイヤ形成方法、及びワイヤボンディング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ピンワイヤ形成方法、及びワイヤボンディング装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
H01L21/60 301A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022578845
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034083
(87)【国際公開番号】W WO2023042333
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗像 広志
(72)【発明者】
【氏名】富山 俊彦
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-220699(JP,A)
【文献】特開2016-058666(JP,A)
【文献】特開2021-128982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンワイヤ形成方法であって、
ボンディングツールによってワイヤをボンディング位置にボンディングするボンディング工程と、
前記ボンディングツールを上昇させて、前記ワイヤが前記ボンディング位置から上方に延びるように前記ボンディングツールの先端から前記ワイヤを繰り出すワイヤ繰り出し工程と、
前記ボンディングツールを移動させて前記ワイヤに前記ボンディングツールの内部エッジを押し付ける押し付け工程と、
前記ボンディングツールの前記先端を振動させて、前記ボンディングツールの前記内部エッジによって前記ワイヤに傷をつける傷つけ工程と、
前記ボンディングツールを上昇させるとともに、ワイヤクランパを閉じて前記傷の部分で前記ワイヤを切断し、前記ボンディング位置から上方に延びるピンワイヤを形成する切断工程と、を有すること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記押し付け工程は、前記ボンディングツールの前記先端を斜め下方向に移動させることにより前記ワイヤを傾斜させて前記ワイヤの側面に前記ボンディングツールの前記内部エッジを押し付け、
前記傷つけ工程は、前記ワイヤを傾斜させた状態で前記ボンディングツールの前記先端を振動させて、前記ボンディングツールの前記内部エッジによって前記ワイヤに傷をつけ、
前記ボンディングツールの前記先端を前記ボンディング位置の上方まで斜め上方向に移動して、前記ボンディング位置から垂直上方に延びるように前記ワイヤを起立させるワイヤ起立工程を含むこと、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記傷つけ工程は、前記ボンディングツールを超音波加振することにより、前記ボンディングツールの前記先端をX方向とY方向とZ方向との内のいずれか1つ以上の方向に振動させること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記傷つけ工程は、前記ボンディングツールの前記先端をX方向とY方向とZ方向とに移動させる移動機構によって前記ボンディングツールの前記先端をX方向とY方向とZ方向との内のいずれか1つ以上の方向に振動させること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載のピンワイヤ形成方法において、
前記移動機構は、前端に前記ボンディングツールが取り付けられたボンディングアームを駆動して前記ボンディングツールの前記先端をZ方向に移動させるZ方向モータと、前記ボンディングアームが取り付けられるボンディングヘッドをXY方向に移動させるXYテーブルとで構成されること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記ボンディングツールは、
先端面と、
前記先端面から根元に向かって凹み、根元に向けて窄まる凹部と、
前記凹部の底面に接続されて根元に向かって延びて前記ワイヤが挿通する貫通孔と、を備え、
前記内部エッジは、前記凹部の前記底面と前記貫通孔の内面とが接続する角部であること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記ボンディングツールの前記凹部の前記底面は外周側が根元側に凹むように傾斜し、
前記ボンディングツールの前記角部の内角が90°以下であること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記ボンディングツールの前記貫通孔は、根元側に向かうにつれて直径が大きくなるテーパ形状であり、
前記ボンディングツールの前記角部の内角が90°以下であること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項9】
請求項6または7に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記ボンディングツールの前記凹部は、前記先端面において前記ボンディングツールの中心線に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記押し付け工程は、前記ボンディングツールの前記先端を斜め下方向に移動させることにより前記ワイヤを前記凹部の前記傾斜面の傾斜角度まで傾斜させて前記ワイヤの側面に前記ボンディングツールの前記内部エッジを押し付けること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項10】
請求項8に記載のピンワイヤ形成方法であって、
前記ボンディングツールの前記凹部は、前記先端面において前記ボンディングツールの中心線に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記押し付け工程は、前記ボンディングツールの前記先端を斜め下方向に移動させることにより前記ワイヤを前記凹部の前記傾斜面の傾斜角度まで傾斜させて前記ワイヤの側面に前記ボンディングツールの前記内部エッジを押し付けること、
を特徴とするピンワイヤ形成方法。
【請求項11】
ワイヤをボンディング位置にボンディングするワイヤボンディング装置であって、
ボンディングツールと、
前記ボンディングツールを超音波振動させる超音波振動子と、
前記ボンディングツールを移動させる移動機構と、
前記ワイヤを把持するワイヤクランパと、
前記超音波振動子と前記移動機構と前記ワイヤクランパの動作を調整する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記移動機構によって前記ボンディングツールの先端を前記ボンディング位置に下降させ、前記ボンディングツールによって前記ワイヤを前記ボンディング位置にボンディングし、
前記移動機構によって前記ボンディングツールを上昇させて、前記ワイヤが前記ボンディング位置から上方に延びるように前記先端から前記ワイヤを繰り出し、
前記移動機構によって前記ボンディングツールを移動させて前記ワイヤに前記ボンディングツールの内部エッジを押し付け、
前記超音波振動子或いは前記移動機構のいずれか一方または両方によって前記ボンディングツールの前記先端を振動させて、前記ボンディングツールの前記内部エッジによって前記ワイヤに傷をつけ、
前記移動機構によって前記ボンディングツールの前記先端を上昇させるとともに前記ワイヤクランパを閉じて前記傷の部分で前記ワイヤを切断し、前記ボンディング位置から上方に延びるピンワイヤを形成すること、
を特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項12】
請求項11に記載のワイヤボンディング装置であって、
前記制御部は、
前記ワイヤに前記ボンディングツールの前記内部エッジを押し付ける際に、前記移動機構によって前記ボンディングツールの前記先端を斜め下方向に移動させることにより前記ワイヤを傾斜させ、
前記ワイヤを傾斜させた状態で前記ボンディングツールの前記先端を振動させて、前記ボンディングツールの前記内部エッジによって前記ワイヤに傷をつけ、
前記移動機構によって前記ボンディングツールの前記先端を前記ボンディング位置の上方まで斜め上方向に移動して、前記ボンディング位置から垂直上方に延びるように前記ワイヤを起立させること、
を特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載のワイヤボンディング装置であって、
前記ボンディングツールは、
先端面と、
前記先端面から根元に向かって凹み、根元に向けて窄まる凹部と、
前記凹部の底面に接続されて根元に向かって延びて前記ワイヤが挿通する貫通孔と、を備え、
前記内部エッジは、前記凹部の前記底面と前記貫通孔の内面とが接続する角部であること
を特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項14】
請求項13に記載のワイヤボンディング装置であって、
前記ボンディングツールの前記凹部の前記底面は外周側が根元側に凹むように傾斜し、
前記ボンディングツールの前記角部の内角が90°以下であること、
を特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項15】
請求項13または14に記載のワイヤボンディング装置であって、
前記ボンディングツールの前記貫通孔は、根元側に向かうにつれて直径が大きくなるテーパ形状であり、
前記ボンディングツールの前記角部の内角が90°以下であること、
を特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項16】
請求項13または14に記載のワイヤボンディング装置であって、
前記ボンディングツールの前記凹部は、前記先端面において前記ボンディングツールの中心線に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記制御部は、前記ワイヤに前記ボンディングツールの前記内部エッジを押し付ける際に、前記移動機構によって前記ボンディングツールの前記先端を斜め下方向に移動させて前記ワイヤを前記凹部の前記傾斜面の傾斜角度まで傾斜させること、
を特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項17】
請求項15に記載のワイヤボンディング装置であって、
前記ボンディングツールの前記凹部は、前記先端面において前記ボンディングツールの中心線に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記制御部は、前記ワイヤに前記ボンディングツールの前記内部エッジを押し付ける際に、前記移動機構によって前記ボンディングツールの前記先端を斜め下方向に移動させて前記ワイヤを前記凹部の前記傾斜面の傾斜角度まで傾斜させること、
を特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項18】
ワイヤボンディング装置に用いられるボンディングツールであって、
先端面と、
前記先端面から根元に向かって凹み、根元に向けて窄まる凹部と、
前記凹部の底面から根元に向かって延びてワイヤが挿通する貫通孔と、を備え、
前記凹部は、前記先端面から根元に向かって直径が小さくなる円錐面と、前記円錐面の根元側端に接続されて根元に向かって延びる円筒面と、を備え、
前記底面は、前記円筒面の根元側端に接続された円環状面であり、
前記凹部の前記底面の内周端と前記貫通孔の内面とが接続する角部を有し、
前記底面は外周側が根元側に凹むように傾斜し、
前記角部の内角が90°以下であり、
前記貫通孔に挿通された前記ワイヤが前記先端面から傾斜して延出した際に、前記角部が前記ワイヤの側面に当たること、
を特徴とするボンディングツール。
【請求項19】
請求項18に記載のボンディングツールであって、
前記貫通孔は、根元側に向かうにつれて直径が大きくなるテーパ形状であり、
前記角部の内角が90°以下であること、
を特徴とするボンディングツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ワイヤボンディング装置によってボンディング位置から垂直上方に延びるピンワイヤを形成する方法、及び、ワイヤボンディング装置の構造、並びにワイヤボンディング装置に用いられるボンディングツールの構造に関する。
【0002】
ワイヤボンディング装置は、ボンディングツールによってワイヤを電極の上に押し付けた状態でボンディングツールを超音波振動させてワイヤと電極とをボンディングした後、ワイヤをリードまで掛け渡し、掛け渡したワイヤをリードの上に押しつけた状態でボンディングツールを超音波させてワイヤとリードとをボンディングする。
【0003】
ワイヤボンディング装置において、ボンディング品質の向上と、ボンディング強度の向上に対応するため、ボンディングツールの先端を複数の方向に振動させる方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0004】
一方、半導体チップまたは基板の電極の上に電極から垂直上方に延びるピンワイヤを形成することが求められている。このため、ワイヤボンディング装置によりボンディングツールを用いて半導体チップまたは基板のボンディング位置にワイヤをボンディングした後、半導体チップまたは基板の別の位置までワイヤを延長させ、別の位置でワイヤの一部分を押圧し、その後、ボンディングツールを移動させてワイヤが電極から垂直上方となるようにした後、ワイヤを切断してピンワイヤとする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6180736号公報
【文献】特許第6297553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に記載された従来技術を用いて半導体チップの電極の上にピンワイヤを形成する場合には、半導体チップまたは基板等の別の場所でワイヤの一部分を押圧する必要がある。しかし、ピンワイヤの高さによってはワイヤを押圧するスペースがなく、ピンワイヤの形成が難しい場合がある。また、ピンワイヤのピッチが狭い場合に、ワイヤの一部を押圧する際に隣接するピンワイヤに干渉する場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、ワイヤの一部をボンディング位置とは別の場所に押圧することなしにピンワイヤを形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明ピンワイヤ形成方法は、ボンディングツールによってワイヤをボンディング位置にボンディングするボンディング工程と、ボンディングツールを上昇させて、ワイヤがボンディング位置から上方に延びるようにボンディングツールの先端からワイヤを繰り出すワイヤ繰り出し工程と、ボンディングツールを移動させてワイヤにボンディングツールの内部エッジを押し付ける押し付け工程と、ボンディングツールの先端を振動させて、ボンディングツールの内部エッジによってワイヤに傷をつける傷つけ工程と、ボンディングツールを上昇させるとともに、ワイヤクランパを閉じて傷の部分でワイヤを切断し、ボンディング位置から上方に延びるピンワイヤを形成する切断工程と、を有すること、を特徴とする。
【0009】
このように、ボンディングツールの内部エッジをワイヤに接触させた状態でボンディングツールを振動させることにより、ワイヤに傷をつけることができ、ワイヤクランパを閉じてワイヤを切断する際に傷のところでワイヤを切断してピンワイヤを形成することができる。
【0010】
本発明のピンワイヤ形成方法において、押し付け工程は、ボンディングツールの先端を斜め下方向に移動させることによりワイヤを傾斜させてワイヤの側面にボンディングツールの内部エッジを押し付け、傷つけ工程は、ワイヤを傾斜させた状態でボンディングツールの先端を振動させて、ボンディングツールの内部エッジによってワイヤに傷をつけ、ボンディングツールの先端をボンディング位置の上方まで斜め上方向に移動して、ボンディング位置から垂直上方に延びるようにワイヤを起立させるワイヤ起立工程を含んでもよい。
【0011】
このように、押し付け工程の際にワイヤを傾斜させてボンディングツールの内部エッジをワイヤの側面に接触させた状態でボンディングツールの先端を振動させるので、ワイヤの側面に深い傷をつけることができ、ワイヤクランパを閉じてワイヤを切断する際に傷のところで確実にワイヤを切断してピンワイヤを形成することができる。また、傾斜させたワイヤを起立させてから切断するので、ピンワイヤをボンディング位置から垂直上方に延びる形状とすることができる。
【0012】
本発明のピンワイヤ形成方法において、傷つけ工程は、ボンディングツールを超音波加振することにより、ボンディングツールの先端をX方向とY方向とZ方向との内のいずれか1つ以上の方向に振動させてもよい。
【0013】
このように、ボンディングツールを超音波加振してボンディングツールの先端を超音波振動させることにより、ボンディングツールの内部エッジとワイヤの側面との高周波摩擦によりワイヤの側面に効果的に傷を作ることができる。
【0014】
本発明のピンワイヤ形成方法において、傷つけ工程は、ボンディングツールの先端をX方向とY方向とZ方向とに移動させる移動機構によってボンディングツールの先端をX方向とY方向とZ方向との内のいずれか1つ以上の方向に振動させてもよい。
【0015】
このように、ボンディングツールの先端をXYZ方向に振動させることにより、より大きな傷をつけることができる。
【0016】
本発明のピンワイヤ形成方法において、移動機構は、前端にボンディングツールが取り付けられたボンディングアームを駆動してボンディングツールの先端をZ方向に移動させるZ方向モータと、ボンディングアームが取り付けられるボンディングヘッドをXY方向に移動させるXYテーブルとで構成されてもよい。
【0017】
ボンディング装置に通常装備されているZ方向モータとXYテーブルを用いてボンディングツールの先端をXYZ方向に振動させるので、ボンディングツールの先端をXYZ方向に振動させる特別な装置なしでボンディングツールの先端をXYZ方向に振動させることができる。
【0018】
本発明のピンワイヤ形成方法において、ボンディングツールは、先端面と、先端面から根元に向かって凹み、根元に向けて窄まる凹部と、凹部の底面に接続されて根元に向かって延びてワイヤが挿通する貫通孔と、を備え、内部エッジは、凹部の底面と貫通孔の内面とが接続する角部でもよい。
【0019】
このように、角部をワイヤの側面に接触させるので、ボンディングツールの先端を振動させた際に角部でワイヤの側面を削ってワイヤの側面に局部的に深い傷をつけることができる。
【0020】
本発明のピンワイヤ形成方法において、ボンディングツールの凹部の底面は外周側が根元側に凹むように傾斜し、ボンディングツールの角部の内角が90°以下でもよい。
【0021】
これにより、少ない力で内部エッジがワイヤの側面に食い込むことができ、深い傷をつけることができる。
【0022】
本発明のピンワイヤ形成方法において、ボンディングツールの貫通孔は、根元側に向かうにつれて直径が大きくなるテーパ形状であり、ボンディングツールの角部の内角が90°以下でもよい。
【0023】
これにより、少ない力で内部エッジがワイヤの側面に食い込むことができ、深い傷をつけることができる。
【0024】
本発明のピンワイヤ形成方法において、ボンディングツールの凹部は、先端面においてボンディングツールの中心線に対して傾斜する傾斜面を有し、押し付け工程は、ボンディングツールの先端を斜め下方向に移動させることによりワイヤを凹部の傾斜面の傾斜角度まで傾斜させてワイヤの側面にボンディングツールの内部エッジを押し付けてもよい。
【0025】
これにより、内部エッジをワイヤの側面に確実に接触させてワイヤの側面に傷をつけることができる。
【0026】
本発明のワイヤボンディング装置は、ワイヤをボンディング位置にボンディングするワイヤボンディング装置であって、ボンディングツールと、ボンディングツールを超音波振動させる超音波振動子と、ボンディングツールを移動させる移動機構と、ワイヤを把持するワイヤクランパと、超音波振動子と移動機構とワイヤクランパの動作を調整する制御部と、を備え、制御部は、移動機構によってボンディングツールの先端をボンディング位置に下降させ、ボンディングツールによってワイヤをボンディング位置にボンディングし、移動機構によってボンディングツールを上昇させて、ワイヤがボンディング位置から上方に延びるように先端からワイヤを繰り出し、移動機構によってボンディングツールを移動させてワイヤにボンディングツールの内部エッジを押し付け、超音波振動子或いは移動機構のいずれか一方または両方によってボンディングツールの先端を振動させて、ボンディングツールの内部エッジによってワイヤに傷をつけ、移動機構によってボンディングツールの先端を上昇させるとともにワイヤクランパを閉じて傷の部分でワイヤを切断し、ボンディング位置から上方に延びるピンワイヤを形成すること、を特徴とする。
【0027】
本発明のワイヤボンディング装置において、制御部は、ワイヤにボンディングツールの内部エッジを押し付ける際に、移動機構によってボンディングツールの先端を斜め下方向に移動させることによりワイヤを傾斜させ、ワイヤを傾斜させた状態でボンディングツールの先端を振動させて、ボンディングツールの内部エッジによってワイヤに傷をつけ、移動機構によってボンディングツールの先端をボンディング位置の上方まで斜め上方向に移動して、ボンディング位置から垂直上方に延びるようにワイヤを起立させてもよい。
【0028】
本発明のワイヤボンディング装置において、ボンディングツールは、先端面と、先端面から根元に向かって凹み、根元に向けて窄まる凹部と、凹部の底面に接続されて根元に向かって延びてワイヤが挿通する貫通孔と、を備え、内部エッジは、凹部の底面と貫通孔の内面とが接続する角部でもよい。
【0029】
本発明のワイヤボンディング装置において、ボンディングツールの凹部の底面は外周側が根元側に凹むように傾斜し、ボンディングツールの角部の内角が90°以下でもよい。
【0030】
本発明のワイヤボンディング装置において、ボンディングツールの貫通孔は、根元側に向かうにつれて直径が大きくなるテーパ形状であり、ボンディングツールの角部の内角が90°以下でもよい。
【0031】
本発明のワイヤボンディング装置において、ボンディングツールの凹部は、先端面においてボンディングツールの中心線に対して傾斜する傾斜面を有し、制御部は、ワイヤにボンディングツールの内部エッジを押し付ける際に、移動機構によってボンディングツールの先端を斜め下方向に移動させてワイヤを凹部の傾斜面の傾斜角度まで傾斜させてもよい。
【0032】
本発明のボンディングツールは、ワイヤボンディング装置に用いられるボンディングツールであって、先端面と、先端面から根元に向かって凹み、根元に向けて窄まる凹部と、凹部の底面から根元に向かって延びてワイヤが挿通する貫通孔と、を備え、凹部は、先端面から根元に向かって直径が小さくなる円錐面と、円錐面の根元側端に接続されて根元に向かって延びる円筒面と、を備え、底面は、円筒面の根元側端に接続された円環状面であり、凹部の底面の内周端と貫通孔の内面とが接続する角部を有し、底面は外周側が根元側に凹むように傾斜し、角部の内角が90°以下であり、貫通孔に挿通されたワイヤが先端面から傾斜して延出した際に、角部がワイヤの側面に当たること、を特徴とする。
【0034】
本発明のボンディングツールにおいて、貫通孔は、根元側に向かうにつれて直径が大きくなるテーパ形状であり、角部の内角が90°以下でもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、ワイヤの一部をボンディング位置とは別の場所に押圧することなしにピンワイヤを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態のワイヤボンディング装置の構成を示す立面図である。
図2図1に示すワイヤボンディング装置に取り付けられるキャピラリの断面図である。
図3図1に示すA部の詳細断面図である。
図4図1に示すボンディング装置によってピンワイヤを形成する動作のフローチャートである。
図5】ボンディング工程において、ワイヤの先端をフリーエアボールに形成し、キャピラリの中心を半導体チップの電極の直上に移動させた状態を示す説明図である。
図6】ボンディング工程において、キャピラリの先端を下降させてキャピラリの先端でフリーエアボールを電極の上に押圧して圧着ボールを形成し、ワイヤを電極の上にボンディングした状態を示す説明図である。
図7】ワイヤ繰り出し工程において、キャピラリの先端を上昇させて、ワイヤが電極から垂直上方に延びるようにワイヤを繰り出した状態を示す説明図である。
図8図7に示すようにワイヤを繰り出した後、ワイヤクランパを閉とした状態を示す説明図である。
図9】押し付け工程において、キャピラリの先端を斜め下方向に移動させてワイヤを傾斜させてワイヤにキャピラリの内部エッジを押し付けた状態を示す説明図である。
図10図9に示すB部の詳細を示す断面図であって、傷つけ工程において、キャピラリの角部をワイヤの側面に押し付けた状態でキャピラリを振動させる状態を示す説明図である。
図11】ワイヤ起立工程において、キャピラリの先端を電極の上方まで斜め上方向に移動してワイヤを起立させた状態を示す説明図である。
図12】ワイヤ切断工程において、ワイヤクランパを開としてキャピラリを上昇させて、キャピラリの先端からワイヤを延出させた状態を示す説明図である。
図13】ワイヤ切断工程において、図12に示す状態の後、キャピラリの先端を上昇させる途中でクランパを閉としてワイヤを傷の部分で切断した状態を示す説明図である。
図14】他のキャピラリの先端形状を示す詳細断面図である。
図15】他のキャピラリの先端形状を示す詳細断面図である。
図16】他のキャピラリの先端形状を示す詳細断面図である。
図17図1に示すボンディング装置によってピンワイヤを形成する他の動作のフローチャートである。
図18図17に示す押し付け工程において、キャピラリの先端を横方向に移動させてワイヤにキャピラリの内部エッジを押し付けた状態を示す説明図である。
図19図17に示す切断工程において、キャピラリの先端を斜め上方向に上昇させた状態を示す図である。
図20図17に示す切断工程において、図19に示す状態の後、キャピラリの先端を電極の直上の位置まで移動させた状態を示す説明図である。
図21図17に示す切断工程において、図20に示す状態の後、キャピラリの先端を上昇させる途中でクランパを閉としてワイヤを傷の部分で切断した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面参照しながら実施形態のワイヤボンディング装置100について説明する。図1に示すように、ワイヤボンディング装置100は、ボンディングツールによってボンディング位置である半導体チップ34の電極35または基板30の電極31の上にワイヤ16をボンディングする。以下の説明では、ボンディングツールとしてキャピラリ20を用いる場合について説明する。
【0038】
図1に示すように、ワイヤボンディング装置100は、ベース10と、XYテーブル11と、ボンディングヘッド12と、Z方向モータ13と、ボンディングアーム14と、超音波ホーン15と、超音波振動子15aと、ボンディングツールであるキャピラリ20と、ワイヤクランパ17と、放電電極18と、ボンディングステージ19と、制御部60と、を備えている。尚、以下の説明では、ボンディングアーム14または超音波ホーン15の延びる方向をY方向、水平面でY方向と直角方向をX方向、上下方向をZ方向として説明する。また、超音波ホーン15の側を前方またはY方向マイナス側、ボンディングヘッド12の側を後方またY方向プラス側、図1において紙面手前側をX方向プラス側、紙面の向こう側をX方向マイナス側、上方向をZ方向プラス側、下方向をZ方向マイナス側として説明する。
【0039】
XYテーブル11は、ベース10の上に取り付けられて上側に搭載される機器をXY方向に移動させる。
【0040】
ボンディングヘッド12は、XYテーブル11の上に取り付けられてXYテーブル11によってXY方向に移動する。ボンディングヘッド12の中には、Z方向モータ13とZ方向モータ13によって駆動されるボンディングアーム14とが格納されている。Z方向モータ13は、固定子13bを備えている。ボンディングアーム14は、根元部14aがZ方向モータ13の固定子13bに対向し、Z方向モータ13のシャフト13aの周りに回転自在に取り付けられる回転子となっている。
【0041】
ボンディングアーム14のY方向マイナス側の前端には超音波ホーン15が取り付けられており、超音波ホーン15の前端にはキャピラリ20が取り付けられている。超音波ホーン15は、ボンディングアーム14の前端部に取り付けられた超音波振動子15aの超音波振動 を増幅して前端に取り付けられたキャピラリ20を超音波加振する。キャピラリ20は後で図2を参照して説明するように内部に上下方向に貫通する貫通孔21が設けられており、貫通孔21にはワイヤ16が挿通されている。ワイヤ16は、図示しないワイヤスプール等のワイヤ供給から供給されている。
【0042】
また、ボンディングアーム14の前端側の上面には、ワイヤクランパ17が取り付けられている。ワイヤクランパ17は、キャピラリ20の取り付けられている超音波ホーン15の前端まで延びて、X方向に開閉してワイヤ16の把持、開放を行う。
【0043】
ボンディングステージ19の上側には放電電極18が設けられている。放電電極18は、ベース10に設けられた図示しないフレームに取り付けられても良い。放電電極18は、キャピラリ20に挿通してキャピラリ20の先端27から延出したワイヤテール52(図13参照)との間で放電を行い、ワイヤテール52を溶融させてフリーエアボール40を形成する。
【0044】
ボンディングステージ19は、上面に半導体チップ34が実装された基板30を吸着固定するとともに、図示しないヒータによって基板30と半導体チップ34とを加熱する。
【0045】
Z方向モータ13の固定子13bの電磁力によって回転子を構成するボンディングアーム14の根元部14aが図1中の矢印71に示すようにシャフト13aの周りに回転すると、超音波ホーン15の前端に取り付けられたキャピラリ20の先端27は矢印72に示すようにZ方向に移動する。また、ボンディングヘッド12はXYテーブル11によってXY方向に移動する。従って、キャピラリ20の先端27は、XYテーブル11とZ方向モータ13によってXYZ方向に移動する。また、ワイヤクランパ17は、ボンディングアーム14とキャピラリ20と共にXYZ方向に移動する。従って、XYテーブル11とZ方向モータ13とはキャピラリ20の先端27とワイヤクランパ17とをXYZ方向に移動させる移動機構11aを構成する。
【0046】
XYテーブル11と、Z方向モータ13と、超音波振動子15aと、ワイヤクランパ17と、放電電極18と、ボンディングステージ19とは制御部60に接続されており、制御部60の指令に基づいて動作する。制御部60は、XYテーブル11とZ方向モータ13とで構成される移動機構11aにより、キャピラリ20の先端27のXYZ方向位置を調整するとともに、ワイヤクランパ17の開閉、超音波振動子15aの駆動、放電電極18の駆動、ボンディングステージ19の加熱制御を行う。
【0047】
制御部60は、内部に情報処理を行うプロセッサであるCPU61と、動作プログラムや動作データ等を格納するメモリ62とを含むコンピュータである。
【0048】
次に、図2図3を参照しながらキャピラリ20の構成について説明する。尚、以下の説明では、X方向、Y方向、Z方向は、キャピラリ20を超音波ホーン15に取り付けた際の方向を示す。図1に示すように、キャピラリ20の根元28は超音波ホーン15に取り付けられており、先端27はワイヤ16を電極31、35にボンディングする。
【0049】
図2に示すようにキャピラリ20は、先端27に向かって直径が次第に細くなる細長い円錐台状部材である。先端27の外径はd5である。先端27の外周部には、図1に示すフリーエアボール40を押圧する幅Wの先端面23が形成されている。先端面23は、フラットな水平面でもよいし、外側に近づくにつれ上方に進むように少し傾斜した面でもよい。先端27の中央には、先端面23から根元28に向かって凹み、根元28に向けて窄まる凹部22が形成されている。凹部22は、傾斜面22aと、直径が一定の円筒面22bと、底面24とで構成されている。底面24の中央には、長手方向に貫通し、その中に直径d1のワイヤ16が貫通する直径d2の貫通孔21が形成されている。
【0050】
図3に示すように、傾斜面22aは、先端面23から根元28に向かって直径が小さくなる円錐状の面で、先端面23における直径はd4で、根元28の側の直径はd3でd4>d3である。傾斜面22aの根元28の側は、直径d3の円筒面22bに接続されている。また、傾斜面22aは先端面23においてキャピラリ20の中心線26に対して角度θ1だけ傾斜している。
【0051】
底面24は、外周側が根元28の側に向かって凹むように傾斜しており、底面24と貫通孔21の内面21aとが接続する角部25の内角θ2は90°以下の鋭角となっている。
【0052】
次に、図4から図13を参照してワイヤボンディング装置100を用いて図13に示すピンワイヤ51を形成する動作について説明する。以下の説明では、基板30の上に実装された半導体チップ34の電極35の上にピンワイヤ51を形成する場合について説明する。尚、図5から図9図10から図13は、基板30と、半導体チップ34と、キャピラリ20と、超音波ホーン15と、ワイヤクランパ17と、ワイヤ16とをY方向マイナス側から見た図である。
【0053】
図4のステップS101に示すように、制御部60のプロセッサであるCPU61は、最初にボンディング工程を実行する。
【0054】
制御部60のCPU61は、ワイヤクランパ17を開放して、図1に示すXYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、キャピラリ20の先端27を放電電極18の近傍に移動させる。そして、CPU61は、放電電極18とキャピラリ20の先端27から延出したワイヤテール52(図13参照)との間で放電を発生させ、図5に示すように、キャピラリ20の先端27から延出したワイヤテール52をフリーエアボール40に形成する。そして、CPU61は、XYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、キャピラリ20の先端27をボンディング位置である半導体チップ34の電極35の直上に移動させる。
【0055】
そして、CPU61は、図6に示す矢印81のようにキャピラリ20の先端27を半導体チップ34の電極35に向かって下降させ、図3に示すキャピラリ20の先端面23でフリーエアボール40を電極35の上にボンディングして圧着ボール41を形成してワイヤ16を電極35に接合する。CPU61は、ワイヤ16を電極35にボンディングするとボンディング工程を終了する。
【0056】
次に、制御部60のCPU61は、図4のステップS102に示すようにワイヤ繰り出し工程を実行する。
【0057】
CPU61は、図7に示すように、ワイヤクランパ17を開放した状態で、図1に示すXYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、キャピラリ20の先端27を図7に示す矢印82に示すように上昇させてキャピラリ20の先端27からワイヤ16を繰り出す。ワイヤ16は、ボンディング位置である電極35から垂直上方に延びるようにキャピラリ20の先端27から繰り出される。そして、CPU61は、繰り出したワイヤ16の長さが形成するピンワイヤ51の高さとなったら繰り出し工程を終了する。
【0058】
次に、制御部60のCPU61は、図4のステップS103に示すように、押し付け工程を実行する。
【0059】
CPU61は、図8に示す矢印83a、83bのように、ワイヤクランパ17を閉とする。そして、CPU61は、図1に示すXYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、図9に示す矢印84のように、キャピラリ20の先端27をX方向プラス側に向かって円弧状に角度θ0だけ移動させ、キャピラリ20の先端27の位置を図8に示す位置からX方向プラス側の斜め下方向の位置とする。ここで、角度θ0は、キャピラリ20の傾斜面22aの先端面23におけるキャピラリ20の中心線26に対する傾斜角度θ1と同一角度である。尚、図9中の破線は押し付け工程開始前の状態を示し、実線は押し付け工程終了時の状態を示す。
【0060】
これにより、図10に示すように、電極35の上にボンディングされたワイヤ16は、キャピラリ20の内部エッジである角部25によりX方向プラス側に曲げられ、電極35からキャピラリ20の先端27に向かって傾斜する。この際、ワイヤ16の曲げの反力により、ワイヤ16の側面は角部25に押し付けられる。尚、キャピラリ20の先端27は、傾斜面22aの先端面23におけるキャピラリ20の中心線26に対する傾斜角度θ1と同角度の角度θ0だけ円弧状に移動しているので、図9図10に示す状態では、先端面23の内周縁はワイヤ16の側面に接触していない。CPU61は、キャピラリ20の先端27をX方向プラス側に向かって円弧状に角度θ0だけ移動させたら押し付け工程を終了する。
【0061】
次に、制御部60のCPU61は、図4のステップS104に示す傷つけ工程を実行する。
【0062】
制御部60のCPU61は、図1に示す超音波振動子15aを駆動して超音波ホーン15をY方向に超音波振動させる。これによりキャピラリ20の先端27はY方向に超音波振動する。超音波振動の周波数は、自由に選択できるが、例えば、120kHz~150kHzの範囲でもよい。
【0063】
このように、キャピラリ20の先端27をY方向に超音波振動させると、ワイヤ16の側面のキャピラリ20の角部25に押し付けられている部分は、角部25のY方向の超音波振動で削られる。また、角部25は鋭角なので、角部25の先端は超音波振動によりワイヤ16の側面を削りながらワイヤ16の中に食い込んでいき、図10に網掛けで示すようにワイヤ16の側面に傷16aがつく。
【0064】
CPU61は、所定時間だけ超音波振動子15aを駆動したら傷つけ工程を終了する。
【0065】
次に、制御部60のCPU61は、図4のステップS105に示すワイヤ起立工程を実行する。
【0066】
CPU61は、図1に示すXYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、図11に示す矢印85のように、キャピラリ20の先端27をX方向マイナス側に向かって円弧状に角度θ0だけ移動させ、キャピラリ20の先端27の位置を図9に示す位置から半導体チップ34の電極35の上方に移動させる。これにより、ワイヤ16は、電極35から垂直上方に延びるように起立する。ここで、図11中の破線はワイヤ起立工程開始前の状態を示し、実線はワイヤ起立工程終了時の状態を示す。また、図11中の三角マークは、ワイヤ16につけられた傷16aの位置を示す。
【0067】
次に、制御部60のCPU61は、図4のステップS106に示す切断工程を実行する。
【0068】
CPU61は、図12に示す矢印86a、86bのように、ワイヤクランパ17を開放して、図12に示す矢印87のように、図1に示すXYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、キャピラリ20の先端27を上昇させる。そして、キャピラリ20の先端27から所定長さのワイヤ16延出させたら、図13に示す矢印88に示すようにキャピラリ20の先端27を上昇させている途中で図13に示す矢印89a、89bのように、ワイヤクランパ17を閉とする。すると、キャピラリ20とワイヤクランパ17との上昇により、ワイヤ16は、傷16aの部分で切断される。ワイヤ16が切断されると、電極35から垂直上方に延びるピンワイヤ51が形成される。また、キャピラリ20の下端からは、次のボンディング工程でフリーエアボール40に形成されるワイヤテール52が延出する。CPU61は、ワイヤ16を切断したら切断工程を終了する。
【0069】
以上説明したピンワイヤ形成方法は、ワイヤ16を傾斜させてキャピラリ20の角部25をワイヤ16の側面に押し付けた状態で、キャピラリ20の先端27を超音波振動させるので、角部25がワイヤ16の側面を削りながらワイヤ16の中に食い込み、ワイヤ16の側面に深い傷16aをつけることができる。このため、切断工程において、傷16aの部分でワイヤ16を確実に切断してピンワイヤ51を形成することができる。
【0070】
またピンワイヤ形成方法は、ワイヤ16を傾斜させた状態でワイヤ16の側面に深い傷16aをつけることができるので、特許文献2に記載された従来技術のように、ワイヤ16の一部をボンディング位置とは別の場所に押圧することなしにピンワイヤ51を形成することができる。これにより、ワイヤ16を押圧するスペースがない場合でも容易にピンワイヤ51を形成することができる。また、ピンワイヤ51のピッチが狭い場合でも、隣接するピンワイヤ51に干渉することなくピンワイヤ51を形成することができる。
【0071】
以上説明したワイヤ形成方法では、傷つけ工程は、超音波振動子15aでキャピラリ20の先端27をY方向に超音波加振してワイヤ16の側面に傷16aをつけることとして説明したがこれに限らない。
【0072】
例えば、図1に示すXYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、キャピラリ20の先端27をX方向とY方向とZ方向とに振動させることにより、キャピラリ20の角部25でワイヤ16の側面に傷16aをつけるようにしてもよい。この際の、振動数は、自由に選択できるが、例えば、200Hz~800Hz程度としてもよい。また、XYZの3方向に振動させずに、X方向、Y方向、Z方向の内のいずれか1つ以上の方向に振動させるようにしてもよい。
【0073】
また、特許文献1に記載されているようなキャピラリ20の先端27を複数の方向に振動させる複合超音波ホーンを用いて、キャピラリ20の先端27をX方向とY方向の2方向に超音波振動させてもよい。この場合の超音波振動の振動数は、自由に選択できるが、例えば、60kHz~150kHzの範囲としてもよい。
【0074】
また、以上説明したピンワイヤ形成方法では、押し付け工程において、キャピラリ20の先端27を、傾斜面22aの先端面23におけるキャピラリ20の中心線26に対する傾斜角度θ1と同角度の角度θ0だけ円弧状に移動することとして説明したがこれに限らず、ワイヤ16の側面が先端面23の内周縁に接しない状態であれば、角度θ0は傾斜角度θ1よりも小さくてもよいし、僅かに大きくてもよい。
【0075】
次に図14から図16を参照しながら、ワイヤボンディング装置100に取り付けられてピンワイヤ51の形成を行う他の実施形態のキャピラリ120、220、320について説明する。先に図2図3を参照して説明したキャピラリ20と同一の部分には、同一の符号を付して説明は省略する。
【0076】
図14に示すキャピラリ120は、凹部122の底面124を中心線26に対して垂直な平面とし、貫通孔121を根元28の側に向かうにつれて直径が大きくなるテーパ形状とすることにより、角部125の内角を90°以下の鋭角としたものである。貫通孔121の内面121aは、角度θ3だけ外径側に傾斜しており、角部125の内角は90°より小さい角度θ4となっている。キャピラリ120を用いた場合にも、先に説明したピンワイヤ形成方法を実行してピンワイヤ51を形成することができる。
【0077】
図15に示すキャピラリ220は、凹部222の傾斜面222aを湾曲面で構成したものである。先に図2、3を参照して接説明したと同様、傾斜面222aの先端面23におけるキャピラリ20の中心線26に対する傾斜角度はθ1である。キャピラリ220を用いた場合にも、先に説明したピンワイヤ形成方法を実行してピンワイヤ51を形成することができる。
【0078】
図16に示すキャピラリ320は、凹部322が、傾斜面22aと、中心線26に対して垂直な平面の底面324とで構成されており、円筒面22bを有さず、貫通孔321の内面321aを角度θ3だけ外径側に傾斜させて、角部325の内角を90°より小さい鋭角の角度θ4としたものである。キャピラリ320を用いた場合にも、先に説明したピンワイヤ形成方法を実行してピンワイヤ51を形成することができる。
【0079】
以上説明したように、実施形態のワイヤボンディング装置100は、先に説明したワイヤボンディング方法を実行してワイヤ16の一部をボンディング位置とは別の場所に押圧することなしにピンワイヤ51を形成することができる。これにより、ワイヤ16を押圧するスペースがない場合でも容易にピンワイヤ51を形成することができる。また、ピンワイヤ51のピッチが狭い場合でも、隣接するピンワイヤ51に干渉することなくピンワイヤ51を形成することができる。
【0080】
次に、図17から図21を参照してワイヤボンディング装置100を用いて図13に示すピンワイヤ51を形成する他の動作について説明する。先に図4から図13を参照して説明した動作と同様の動作には同様の符号を付して説明は省略する。図17に示すように、他の動作は、ステッブS103の押し付け工程において、キャピラリ20の先端27を横方向に移動させてキャピラリ20の角部25をワイヤの側面に押し付けた状態でキャピラリ20の先端27を振動させてワイヤの側面に傷16aをつけ、その後、キャピラリ20の先端27を上昇させながら電極35の直上の位置まで移動させた後に、キャピラリ20の先端27を上昇させながらワイヤクランパ17を閉としてワイヤ16を傷16aの部分で切断してピンワイヤ51を形成する。従って、他の動作は、図4のステップS105のワイヤ起立工程を含まない。以下、説明する。
【0081】
制御部60のCPU61は、図17のステップS101~ステップ102に示すように、ボンディング工程とワイヤ繰り出し工程を実行した後、図17のステップS103に進み、押し付け工程を実行する。
【0082】
CPU61は、先に図8を参照して説明したと同様、矢印90a、90bのように、ワイヤクランパ17を閉とする。そして、CPU61は、図1に示すXYテーブル11を駆動制御して、図18に示す矢印91のように、キャピラリ20の先端27をX方向プラス側に向かって移動させる。これにより、キャピラリ20の角部25がワイヤ16の側面に押し付けられる。尚、図18中の破線は押し付け工程開始前の状態を示し、実線は押し付け工程終了時の状態を示す。
【0083】
CPU61は、キャピラリ20の先端27を横方向に移動させたら、押し付け工程を終了し、図17のステップS104に進んで傷つけ工程を実行する。CPU61は、図18に示す状態で、図1に示す超音波振動子15aを駆動して超音波ホーン15をY方向に超音波振動させ、ワイヤ16の側面に傷16aをつける。CPU61は、所定時間だけ超音波振動子15aを駆動したら傷つけ工程を終了する。
【0084】
CPU61は、傷つけ工程を終了したら、図17のステップS106に進んで切断工程を実行する。
【0085】
CPU61は、図19の矢印93a、93bのように、ワイヤクランパ17を開放して、図19に示す矢印92のように、図1に示すXYテーブル11およびZ方向モータ13を駆動制御して、キャピラリ20の先端27を上昇させるとともにX方向マイナス側に移動させる。そして、CPU61は、キャピラリ20の先端27が電極35の直上の位置になったら、キャピラリ20の先端27のX方向マイナス側への移動を停止し、図20に示す矢印94のようにキャピラリ20の先端27を上昇させる。そして、CPU61は、キャピラリ20の先端27から所定長さのワイヤ16延出させたら、図21に示す矢印96に示すようにキャピラリ20の先端27を上昇させている途中で図21に示す矢印95a、95bのように、ワイヤクランパ17を閉とする。これにより、ワイヤ16は、傷16aの部分で切断され、電極35から垂直上方に延びるピンワイヤ51が形成される。また、キャピラリ20の下端からは、次のボンディング工程でフリーエアボール40に形成されるワイヤテール52が延出する。CPU61は、ワイヤ16を切断したら切断工程を終了する。
【0086】
以上説明した動作は、キャピラリ20の先端27を横方向に移動させた状態でワイヤ16に傷16aをつけて、ワイヤ起立工程を行わずに切断工程を行うので、先に図4から図13を参照して説明した動作よりも短時間でピンワイヤ51を形成することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 ベース、11 XYテーブル、11a 移動機構、12 ボンディングヘッド、13 Z方向モータ、13a シャフト、13b 固定子、14 ボンディングアーム、14a 根元部、15 超音波ホーン、15a 超音波振動子、16 ワイヤ、16a 傷、17 ワイヤクランパ、18 放電電極、19 ボンディングステージ、20、120、220、320 キャピラリ、21、121、321 貫通孔、21a、121a、321a 内面、22、122、222、322 凹部、22a、222a 傾斜面、22b 円筒面、23 先端面、24、124、324 底面、25、125、325 角部、26 中心線、27 先端、28 根元、30 基板、31、35 電極、34 半導体チップ、40 フリーエアボール、51 ピンワイヤ、52 ワイヤテール、60 制御部、61 CPU、62 メモリ、100 ワイヤボンディング装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21