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特許7441578炭酸カルシウム水スラリーおよび炭酸カルシウム水スラリーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】炭酸カルシウム水スラリーおよび炭酸カルシウム水スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20240222BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C01F11/18 D
D21H19/38
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023550156
(86)(22)【出願日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2022039483
(87)【国際公開番号】W WO2023074608
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021175529
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】阪口 裕允
(72)【発明者】
【氏名】大國 咲也夏
(72)【発明者】
【氏名】江口 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】南里 泰徳
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-110092(JP,A)
【文献】特開2000-355897(JP,A)
【文献】特開2007-152634(JP,A)
【文献】特開2008-190071(JP,A)
【文献】特開2008-238755(JP,A)
【文献】特開平07-197398(JP,A)
【文献】特開平01-028215(JP,A)
【文献】特開平10-077597(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113004716(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F
D21H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
分散装置に水、粉砕媒体および分散剤を投入する工程;
該分散装置に炭酸カルシウムを複数回にわけて投入し、撹拌し、湿式粉砕して、炭酸カルシウム水スラリーを得る工程;
を含み、
該炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小値または略極小値を示すまで、該炭酸カルシウム水スラリーを粉砕することを特徴とする、炭酸カルシウム水スラリーの製造方法であって、
該炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの一次粒子のBET比表面積が3~15m/g、電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10、一次粒子および/または凝集粒子のレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が0.3~1μmであり、
該炭酸カルシウム水スラリーの固形分濃度が70重量%以上であり、
該炭酸カルシウム水スラリーの粘度が、B型粘度(回転速度:60rpm)が2000mPa・s以下、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)が80mPa・s以下であり、
該炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの一次粒子のBET比表面積は、該炭酸カルシウム水スラリーとエタノールの重量比が1:9となるようにエタノールを添加して撹拌し、ろ紙を用いて吸引濾過し、次いで105℃のオーブンで1時間乾燥して得た炭酸カルシウムを比表面積測定用セルに入れ、窒素ガス雰囲気下で110℃で40分間前処理をし、次いで110℃で20分間脱ガスを行い、測定したものである、炭酸カルシウム水スラリーの製造方法。
【請求項2】
該撹拌の積算撹拌出力が、0.5kW/kg以上である、請求項1に記載の炭酸カルシウム水スラリーの製造方法。
【請求項3】
該分散装置に投入する炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が10μm以下であり、かつ一次粒子の電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10である、請求項1または2に記載の炭酸カルシウム水スラリーの製造方法。
【請求項4】
下記式で表される、該炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径の分布幅:

[数1]
粒子径分布幅=([炭酸カルシウムのD90値]-[炭酸カルシウムのD10値])/炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径

(式中、D90値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が90%となる粒子径であり、D10値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が10%となる粒子径である。)が、5以下である、請求項1または2に記載の炭酸カルシウム水スラリーの製造方法。
【請求項5】
下記式で表される、該炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径の分布幅:

[数2]
粒子径分布幅=([炭酸カルシウムのD90値]-[炭酸カルシウムのD10値])/炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径

(式中、D90値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が90%となる粒子径であり、D10値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が10%となる粒子径である。)が、5以下である、請求項3に記載の炭酸カルシウム水スラリーの製造方法。
【請求項6】
該分散装置に投入される炭酸カルシウムが苛性化法により製造したものである、請求項5に記載の炭酸カルシウム水スラリーの製造方法。
【請求項7】
一次粒子のBET比表面積が3~15m/g、電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10であり、一次粒子および/または凝集粒子のレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が0.3~1μmである炭酸カルシウムの水スラリーであって、
該炭酸カルシウムの固形分濃度が70重量%以上であり、B型粘度(回転速度:60rpm)が2000mPa・s以下であり、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)が80mPa・s以下であり、
該炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの一次粒子のBET比表面積は、該炭酸カルシウム水スラリーとエタノールの重量比が1:9となるようにエタノールを添加して撹拌し、ろ紙を用いて吸引濾過し、次いで105℃のオーブンで1時間乾燥して得た炭酸カルシウムを比表面積測定用セルに入れ、窒素ガス雰囲気下で110℃で40分間前処理をし、次いで110℃で20分間脱ガスを行い、測定したものである、炭酸カルシウム水スラリー。
【請求項8】
ポリカルボン酸系、ポリアクリル酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、およびポリエチレングリコールからなる群より選択される高分子型分散剤、または、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、および高級アルコールアルキレンオキサイドからなる群より選択される界面活性剤型分散剤を含む、請求項7に記載の炭酸カルシウム水スラリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸カルシウム水スラリーとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷物に関し、写真や図案を多用し、さらにカラー化するなどにより、視覚的に内容を強力に伝達しようとする強い要望がある。このような印刷物のビジュアル化、カラー化が進むにつれ、高品質な塗工紙に対する需要が強い。
【0003】
塗工紙の品質のうち、印刷用途で特に重要なものは、白色度、不透明度、白紙光沢度、印刷光沢度などである。白色度はコントラストに、不透明度は裏抜けに、光沢度は印刷物の高級感に関係し、かつこれらが全て良いバランスで満足されることが重要である。例え
ば、近年需要の伸びている微塗工紙は近年の軽量化とともに不透明度の向上が課題となっている。
【0004】
塗工紙に用いる塗工用顔料として、一般的に軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ、二酸化チタン等が使用されている。一般的に、顔料の粒子径が細かい方が、光沢発現性が高くなるため、顔料を粉砕して粒径を小さくすることが行なわれる場合がある。しかし、可視光領域の波長以下の一定の粒子径以下になれば不透明度に寄与しないことになる。たとえ、顔料の平均粒子径が不透明度に寄与する領域であっても、顔料の粉砕方法によっては過粉砕が起こり、その結果粒度分布がブロードとなり、不透明度に寄与しない微粒分が多く存在することになり、また、塗工層が高密度化してしまう。
【0005】
一般に、軽質炭酸カルシウムを塗工用顔料として用いた場合、塗工紙の白色度や不透明度等は高めとなる。しかし、軽質炭酸カルシウムは、液体状態における流動性が劣るので、高い流動性が求められる製紙用塗料においては、湿式粉砕された重質炭酸カルシウムを用いた場合に可能であるような、50%を超える高濃度の配合ができない。そうすると、軽質炭酸カルシウムが本来有する光沢発現性が発揮できない。そこで、軽質炭酸カルシウムの利点である白色度や不透明度の高さを損なうことなく、光沢発現性のよい顔料を得るためには、できる限り不透明度に寄与しない微粒分を少なくし、かつ高光沢度が得られる平均粒子径で粒度分布をシャープにすることが求められており、加えて、高濃度配合に適した流動性に優れた軽質炭酸カルシウムが求められる。
【0006】
さらに、通常グロス調の塗工紙は、光沢発現性の高いカオリンクレーなどの微粒顔料やプラスチックピグメントなどの有機顔料の使用で高白紙光沢を、一方で、カレンダー線圧の低減などの塗工工程の最適化や嵩高な原紙使用等により低密度化を図って、光沢性と嵩高性を実現しており、軽質炭酸カルシウムのみによって光沢性と嵩高性を両立することは非常に困難であった。また、近年の印刷用塗工紙においては、流動性の良い湿式粉砕された重質炭酸カルシウムの特徴を利用して、重質炭酸カルシウムを高濃度配合することにより塗工液の濃度を高めたハイソリッドコーティングが広く用いられている。このように塗工液の濃度を高めることにより塗工紙の光沢度をある程度高めることができる。しかしながら、同様のことを軽質炭酸カルシウムを用いて行う、すなわち、湿式粉砕された軽質炭酸カルシウムを用いる場合、その製造に起因して一次粒子が強く凝集している軽質炭酸カルシウムは、湿式粉砕された重質炭酸カルシウムと比べてB型粘度やハイシェア粘度が非常に高く、塗工液の濃度を高めることができないことがあった。このように、流動性の悪い軽質炭酸カルシウムを塗工液に用いる場合、塗工液への配合濃度は低く抑えるなど、光沢度の向上の点においては、重質炭酸カルシウムより不利な条件で使用せざるを得なかった。
【0007】
一般に、顔料の粒度分布をシャープにすることにより、塗工層における顔料粒子の最密充填を避けることができるため、嵩高な塗工層が得られることが期待される。しかしながら、嵩高性、高不透明度、高白紙光沢度、高白色度すべてを兼ね備えた塗工紙の原料となる軽質炭酸カルシウムを製造する術はこれまでにはなかった。
【0008】
特許文献1には、低濃度の軽質炭酸カルシウム水性スラリーに濃縮処理等を施して所定の固形分濃度の高濃度スラリーを生成し、低粘度化剤を添加してミキサーで一次分散処理し、ついでサンドグラインディング処理による二次分散処理を行うことによる軽質炭酸カルシウム水性スラリーの調整方法が開示されている。特許文献1の二次分散処理後の水性スラリー中の軽質炭酸カルシウムは、BET比表面積5.0~20m/gの紡錘形または偏三角面体状炭酸カルシウムであることが開示されている。
【0009】
特許文献2には、サンドグラインダーにより軽質炭酸カルシウムを湿式粉砕して得られ、体積基準平均一次粒子径が0.3~0.8μmで、かつ軟凝集している、軽質炭酸カルシウムスラリーが開示されている。
【0010】
特許文献3には、紡錘形カルサイト結晶の軽質炭酸カルシウムを出発物質として、濃度50%以下で湿式粉砕することによって、X線透過式粒度分布測定器で測定される平均粒子径(d50)が0.1~0.5μmであり、BET比表面積が10~30m/gの範囲であり、X線透過式粒度分布測定器で測定される下式:
シャープ度=(d30/d70)×100
[式中、d30は積算30重量%の粒子径であり、d70は積算70重量%の粒子径である]
で表される粒度分布のシャープ度が50以上であるエンジニアード炭酸カルシウムが得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-335119号公報
【文献】特開2007-161537号公報
【文献】特開2009-234894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の調整方法は二回の分散処理を行い、それぞれBET比表面積が所定の増加量となるように処理を行うことに特徴がある。しかしながら、1段目の粗スラリー分散ではミキサーを用いているが、軽質炭酸カルシウムの分散性が悪く低粘度化剤を用いてもこのようなミキサーの分散では、本願特許が目的としている70%以上好ましくは72%、さらに好ましくは73%以上の高濃度の分散は難しい。また、紡錘形または偏三角面体状の炭酸カルシウムの記載があるが、その具体的な形状の図や記載はなく、分散処理前後のBET比表面積の変化(1.05~1.50と大きい)を鑑みるとアスペクト比を有する(方向性を有する)軽質炭酸カルシウム粒子の形状が失われている可能性が高いため、本発明が目的とする高い不透明度を維持したまま高い光沢度をも有する炭酸カルシウム水スラリーを得ることは極めて難しいと云える。
【0013】
また特許文献2の軽質炭酸カルシウムスラリーは、一次粒子径が0.3~0.8μmであり、かつ軟凝集体が存在することに特徴がある。しかしながら、印刷後不透明度を顕著に向上することができると記載があるが、それを示すデータはなく、また、25重量%の軽質炭酸カルシウムスラリーの製造方法が示されているが、塗工紙や微塗工紙で高光沢を得るのに必要な高濃度の炭酸カルシウムのスラリーを得る手法は示されていない。
【0014】
一方、特許文献3のエンジニアード炭酸カルシウムを塗工液として使用すると、塗工紙の不透明度や白色度の向上が期待できるが、本文献では、炭酸カルシウムの粉砕を固形分濃度50%以下で行うと記載されており、そのため実施例では塗工液を作製する際に微粒カオリンを併用して60%の高濃度カラーとしている。また、該粉砕工程前後でBET比表面積が2倍以上向上していることを鑑みると、炭酸カルシウムの紡錘形状が失われている可能性が高く、高速塗工に適し、かつ塗工紙の高光沢性や不透明度を両立できる水スラリー得ることは難しい。しかしながら、それらの先行特許では、本発明が目的すると高い光沢性、不透明度を維持しながら、軽質炭酸カルシウムの高濃度配合に適した流動性に優れた軽質炭酸カルシウムを得ることは難しく、それらの性能をさらに向上させることのできる顔料の開発が待たれている。そこで本発明の課題は、BET比表面積と平均粒子径が所定の範囲内にあり、かつ一次粒子のアスペクト比が所定の範囲内にある炭酸カルシウムを含む高濃度でありながら低粘度の高速塗工に適した水スラリーの製造方法を提供することである。該水スラリーを得るには、炭酸カルシウム粒子の凝集を如何に一次粒子径の形状を保持したまま、解砕させるかが非常に重要となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、一次粒子のBET比表面積が3~15m/g、電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10であり、一次粒子および/または凝集粒子のレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が0.3~1μmである炭酸カルシウムの水スラリーであって、
該炭酸カルシウムの固形分濃度が70重量%以上であり、B型粘度(回転速度:60rpm)が2000mPa・s以下であり、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)が80mPa・s以下である、炭酸カルシウム水スラリーである。
【0016】
炭酸カルシウム水スラリーは、ポリカルボン酸系、ポリアクリル酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、およびポリエチレングリコールからなる群より選択される高分子型分散剤、または、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、および高級アルコールアルキレンオキサイドからなる群より選択される界面活性剤型分散剤を含むことが好ましい。
【0017】
さらに本発明は、以下の工程:
分散装置に水、粉砕媒体および分散剤を投入する工程;
該分散装置に炭酸カルシウムを複数回にわけて投入し、撹拌し、湿式粉砕して、炭酸カルシウム水スラリーを得る工程;
を含み、
該炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小値または略極小値を示すまで、該炭酸カルシウム水スラリーを粉砕することを特徴とする、炭酸カルシウム水スラリーの製造方法であって、
該炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの一次粒子のBET比表面積が3~15m/g、電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10、一次粒子および/または凝集粒子のレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が0.3~1μmであり、
該炭酸カルシウム水スラリーの固形分濃度が70重量%以上であり、
該炭酸カルシウム水スラリーの粘度が、B型粘度(回転速度:60rpm)が2000mPa・s以下、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)が80mPa・s以下である、炭酸カルシウム水スラリーの製造方法である。
【0018】
該撹拌の積算撹拌出力が、0.5kW/kg以上であることが好ましい。
【0019】
また、該分散装置に投入する炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が10μm以下であり、かつ一次粒子の電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10であることが好ましい。
【0020】
さらに本発明の製造方法において、下記式で表される、炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径の分布幅:

[数1]
粒子径分布幅=([炭酸カルシウムのD90値]-[炭酸カルシウムのD10値])/炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径

(式中、D90値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が90%となる粒子径であり、D10値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が10%となる粒子径である。)が、5以下であることが好ましい。
【0021】
さらに本発明の製造方法において、該分散装置に投入する炭酸カルシウムが苛性化法により製造したものであることが好ましい。
【0022】
さらに本発明は、上記の本発明の製造方法により得られた炭酸カルシウム水スラリーである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法により得た炭酸カルシウム水スラリーは、特に塗工紙の塗工用顔料として使用され、塗工紙の白色度、不透明度ならびに光沢性を向上させるとともに、嵩高さを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施例1で製造した炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率30000倍)である。
図2図2は、実施例2で製造した炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。
図3図3は、実施例3で製造した炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。
図4図4は、比較例1で製造した炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20000倍)である。
図5図5は、比較例2で製造した炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。
図6図6は、比較例3で製造した炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20000倍)である。
図7図7は、比較例4で製造した炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20000倍)である。
図8図8は、炭酸カルシウム水スラリーの粘度と粉砕時間の関係の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0026】
本発明の一の実施形態は、一次粒子のBET比表面積が3~15m/g、電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10であり、一次粒子および/または凝集粒子のレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が0.3~1μmである炭酸カルシウムの水スラリーであって、該炭酸カルシウムの固形分濃度が70重量%以上であり、B型粘度(回転速度:60rpm)が2000mPa・s以下であり、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)が80mPa・s以下である、炭酸カルシウム水スラリーである。
【0027】
本明細書において、「水スラリー」という語は、水と固体との混合懸濁液体のことである。すなわち炭酸カルシウム水スラリーとは、水に溶解している炭酸カルシウムと水に溶解していない炭酸カルシウムとが併存している懸濁状態の水性液体である。本実施形態の炭酸カルシウム水スラリーに溶解および/または分散している炭酸カルシウムは、一次粒子のBET比表面積が3~15m/gであり、電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10であり、一次粒子および/または凝集粒子のレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が0.3~1μmである。BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本産業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。実施形態では、BET比表面積が、3~15m/g、好ましくは4~10m/g、さらに好ましくは6~9m/gであることが好ましい。また炭酸カルシウムのアスペクト比とは、炭酸カルシウムの粒子の縦横比のことであり、本実施形態においては炭酸カルシウムの一次粒子の長径と短径との比のことを指す。炭酸カルシウムのアスペクト比は、電子顕微鏡観察による画像解析にて算出することができる。実施形態の炭酸カルシウム水スラリーに溶解および/または分散しているアスペクト比は、2~10、好ましくは2.5~8、さらに好ましくは3~7である。さらに実施形態においてレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径とは、粒子にレーザビームを照射して粒子から発せられる回折光や散乱光を解析することにより得られる光強度分布パターンから測定された体積基準による平均粒子径のことである。実施形態で得られる炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムについて測定される体積基準平均粒子径は、0.3~1μm、好ましくは0.5~0.8μmである。
【0028】
実施形態の炭酸カルシウム水スラリーにおいて、炭酸カルシウムの固形分濃度は70重量%以上、好ましくは72%以上である。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は2000mPa・s以下、好ましくは1500mPa・s以下であり、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は80mPa・s以下、好ましくは50mPa・s以下である。B型粘度は、日本産業規格JIS Z 8803:2011に従い測定することができる。一方、ハイシェア粘度(すなわち高せん断時粘度)は、HERCULES社製ハイシェア粘度計DV-10などに代表される高せん断速度領域の測定が可能な機器が用いられる。実施形態では、回転粘度計の回転速度を1100rpmとして測定することができる。実施形態の炭酸カルシウム水スラリーを塗工用顔料として使用することにより、嵩高でかつ高不透明度、高光沢度、高白色度の塗工紙を得ることができる。通常、合成の炭酸カルシウムは不透明度と白色度が高いという特徴を有しているが、本実施形態の炭酸カルシウム水スラリーは、炭酸カルシウム粒子の最密充填を防ぎ塗工層に嵩を持たせることができる。また、炭酸カルシウム一次粒子のアスペクト比が所定の範囲にあるため、紙の光沢度を高く発現でき、目標光沢度までのカレンダー線圧を下げることができる。嵩高性はさらなる不透明度向上にもつながる。なお、実施形態の炭酸カルシウム水スラリーを塗工用顔料として使用することを考慮すると、回転速度1100rpmの回転粘度計で測定したハイシェア粘度(高せん断時粘度)が、80mPa/s以下であることが重要である。また、ハイシェア粘度が80mPa/s以下の炭酸カルシウム水スラリーを塗工用顔料して使用すると、高速塗工に対応することが可能となるので好ましい。
【0029】
炭酸カルシウムを含む水スラリーは従来公知の種々の方法で得ることができ、特に限定されない。たとえば、本発明の二の実施形態は、炭酸カルシウム水スラリーの製造方法であり、二の実施形態の炭酸カルシウム水スラリーの製造方法により、一の実施形態の炭酸カルシウム水スラリーを得ることができる。二の実施形態は、以下の工程:分散装置に水、粉砕媒体および分散剤を投入する工程;該分散装置に炭酸カルシウムを複数回にわけて投入し、撹拌し、湿式粉砕して、炭酸カルシウム水スラリーを得る工程;を含み、該炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小値または略極小値を示すまで、該炭酸カルシウム水スラリーを粉砕する、炭酸カルシウム水スラリーの製造方法である。実施形態の製造方法は、強い凝集力により凝集している炭酸カルシウムを水に懸濁させた炭酸カルシウム水スラリーを解砕して、所望のBET比表面積やアスペクト比、平均粒子径を有する炭酸カルシウム粒子の分散した炭酸カルシウム水スラリーを得る方法である。なお、本明細書にて「解砕」とは、炭酸カルシウムの高次構造体(たとえば凝集体)を解してより低次の粒子にすること、すなわち、三次粒子を二次粒子にすること、あるいは二次粒子を一次粒子にすること等を特に説明する場合に用いる。また、「粉砕」とは、固体粒子にエネルギーを投入し粒子の大きさを減少させて新しい表面を作ることを云う。一般的に、湿式粉砕とは、粉体等の固体を、必要に応じて粉砕媒体とともに溶媒中に存在させ、これにせん断力を加え、固体を粉砕または解砕することを意味する。本明細書においては、炭酸カルシウム粒子を「解砕」することも含めて、粒子の大きさを小さくすることを全て「粉砕」と記載することがある。炭酸カルシウム水スラリーの湿式粉砕操作を行うと、炭酸カルシウムの粒子(二次粒子、三次粒子、あるいはこれ以上の粗大粒子等)が解砕され、場合によっては一次粒子の粉砕が起こる。
【0030】
実施形態の製造方法は、分散装置に水、粉砕媒体および分散剤を投入する工程を有する。分散装置は、強い凝集力により凝集した炭酸カルシウムを解砕するために、粉砕媒体を用いて、強い攪拌動力で撹拌することができる装置である。このような分散装置として、コーレス、アトライター、ケディーミル、コーンミル、サンドグラインダー、ボールミルなどの装置を用いることができる。炭酸カルシウムは、これらの装置単独で解砕することができる。炭酸カルシウムの粒子径をさらに小さくする場合には、上記の装置を用いてある程度解砕された高濃度の炭酸カルシウム水スラリーを得てから、一般的な湿式粉砕装置であるマルチパス方式媒体撹拌型粉砕機、サンドグラインダー、強粉砕型突流式ビスコミル、コーンミル、振動ミル、アトライターなどの装置を用いて粉砕することもできる。湿式粉砕装置として、エジェクタ型、ベンチュリー型、障害物衝突型、回転ドラム式、回転翼型等の種々の装置を用いることもできる。
【0031】
粉砕媒体として、たとえば、ジルコニア、ガラス、セラミック、アルミナ等の硬質原料で製造されたビーズが挙げられる。所望の粒子径、および粒度分布を有する炭酸カルシウムを得るためには、0.1~10mm、好ましくは0.5~5mmのビーズ径を有する粉砕媒体を用いることができる。湿式粉砕は、炭酸カルシウムの固形分濃度が65~80%、好ましくは70~78%で行うことができる。炭酸カルシウムの固形分濃度が高すぎると、スラリー粘度が高くなり、均一に粉砕することが難しくなる。炭酸カルシウムの固形分濃度が低すぎる(たとえば10%以下等)と、炭酸カルシウム粒子同士、あるいは炭酸カルシウム粒子とビーズとの衝突機会が減り、粉砕により多くの時間がかかる。加えて、たとえば60%以下であると、高速塗工に適する炭酸カルシウムスラリーが得られない。
【0032】
分散剤は、特に限定されるものではないが、ポリカルボン酸系、ポリアクリル酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール等の高分子型分散剤のほか、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系等の界面活性剤型分散剤などの一般的な無機顔料分散剤を単独あるいは組み合わせて使用できる。二の実施形態の製造方法においては、ポリカルボン酸系の分散剤を使用することが好ましい。また、分散剤の添加量は、炭酸カルシウムの濃度に適した有効量を選択することができる。ここで有効量とは、炭酸カルシウム水スラリーの粘度の上昇により粉砕効率が著しく落ちない程度、あるいは、分散装置に対して異常な負荷がかからない程度のことである。一般に、有効量とは、湿式粉砕する炭酸カルシウム水スラリー中の炭酸カルシウムの固形分重量に対して0.1~5.0重量%の範囲であることを意味する。炭酸カルシウム水スラリーが分散剤の不足によって異常な増粘を引き起こすと、目的とするBET比表面積、体積基準平均粒子径、ならびにアスペクト比を有する炭酸カルシウムを含む水スラリーを得られないことがある。分散剤の添加量が多すぎると、炭酸カルシウム水スラリーが泡立ちやすくなり、製造時や輸送時の取り扱いが悪化するほか、製造コストが上昇するという問題が生じうる。分散剤として、アロンTシリーズ(東亞合成株式会社)、ポリティAシリーズ(ライオン株式会社)、ポイズシリーズ(花王ケミカル株式会社)等の市販のポリカルボン酸系分散剤、ポリアクリル酸系分散剤を使用することができる。
【0033】
なお、二の実施形態の製造方法で製造される、一の実施形態の炭酸カルシウム水スラリーには、その製造方法に起因して、分散剤が含まれている。
【0034】
実施形態の製造方法は、分散装置に炭酸カルシウムを複数回にわけて投入し、撹拌し、湿式粉砕して、炭酸カルシウム水スラリーを得る工程を有する。まず分散装置には、炭酸カルシウムを投入する。上記の通り、炭酸カルシウムは、一般に一次粒子が強く凝集した凝集体の形で存在していることが多い。このような凝集体状態の炭酸カルシウムの水スラリーを解砕して、ほぼ一次粒子のみの状態の炭酸カルシウムとする。炭酸カルシウムは、たとえば、水酸化カルシウム水スラリーと、炭酸ナトリウムを含む水溶液とを混合し反応させることにより炭酸カルシウム水スラリーを得て、これを乾燥させる等の処理をして得ることができる(苛性化法)。ここで水酸化カルシウムは、Ca(OH)の化学式で表されるカルシウムの水酸化物であり、一般に消石灰と呼ばれる。水酸化カルシウムを水に懸濁させた水スラリーは一般に石灰乳と呼ばれる。一方、炭酸ナトリウムはNaCOの化学式で表されるナトリウムの炭酸塩である。該炭酸ナトリウムは、たとえば製紙工場のパルプの製造工程で生成する緑液を使用することもできる。水酸化カルシウム水スラリーと炭酸ナトリウム水溶液との混合は、所定の量の水酸化カルシウム水スラリーと炭酸ナトリウム水溶液とを混合して撹拌することにより行うことができる。また、水酸化カルシウム水スラリーを撹拌しながら炭酸ナトリウム水溶液を滴下することにより行うこともできる。両液を混合すると、苛性化反応が起こり、炭酸カルシウムが析出する。炭酸カルシウムは、CaCOの化学式で表されるカルシウムの塩である。一方、炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムを高温で焼成して脱炭酸して酸化カルシウムを得、次いで酸化カルシウムを水と反応させて得た水酸化カルシウム水スラリーに二酸化炭素を反応させる炭酸ガス法によって得ることもできる。このほか、炭酸カルシウムは、塩化カルシウム等の可溶性のカルシウム塩水溶液と炭酸ナトリウム等の可溶性の炭酸塩水溶液とを混合して反応させる溶液法によって得ることもできる。なお、本実施形態で用いる分散装置に投入する炭酸カルシウムは、特に苛性化法により製造したものであることが好ましい。
【0035】
上記のいずれかの方法により得られた炭酸カルシウム水スラリーを適宜ろ過、場合によっては水洗をした後に、乾燥機で乾燥して、炭酸カルシウムの乾燥粉体を得ることができる。この際、乾燥機は箱型乾燥機や振動乾燥機、ドラムドライヤー、真空攪拌ドライヤー、棚式真空ドライヤー、ダブルコーンドライヤー、真空ろ過乾燥機、バンド型通気乾燥機、スプレードライヤ、ロータリドライヤ、フラッシュドライヤなど一般的な乾燥機を単独あるいは組み合わせて使用できる。得られた炭酸カルシウム乾燥粉体の一次粒子は、カルサイト結晶、アラゴナイト結晶、バテライト結晶等、いずれの結晶形の炭酸カルシウムを有していてもよい。炭酸カルシウムの粒子は、球状のほか、略立方体、紡錘形状、針状、ロゼッタ形状等の形状を有していてよい。二の実施形態の製造方法で得られた炭酸カルシウム水スラリーを乾燥させて得られる粉体状の炭酸カルシウムは、紡錘形状のカルサイト結晶または針状のアラゴナイト結晶であることが好ましい。
【0036】
二の実施形態の製造方法で、分散装置に投入する炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が10μm以下であり、かつ一次粒子の電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10であることが好ましい。ここで、湿式粉砕前の炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径とは、炭酸カルシウムの一次粒子のほか、一次粒子が凝集した二次粒子、三次粒子あるいは粗大粒子等も含めた体積基準平均粒子径を表す。実施形態では、上記の通り、一般に凝集していることが多い炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウム水スラリーを湿式粉砕するので、凝集体の平均粒子径が10μm以下であると炭酸カルシウム粒子の解砕を効率的に行うことができる。一方、湿式粉砕前の炭酸カルシウム一次粒子の電子顕微鏡像の画像解析から算出したアスペクト比は2~10であることが好ましい。アスペクト比とは、縦横比のことであり、炭酸カルシウム粒子に関しては一次粒子の長径と短径との比のことを指す。実施形態では、湿式粉砕前の炭酸カルシウム一次粒子の電子顕微鏡像の画像解析から算出したアスペクト比が2~10、好ましくは2.5~8、さらに好ましくは3~7であることが好ましい。
【0037】
二の実施形態の製造方法で分散装置に投入する炭酸カルシウムのBET比表面積は、2~14m/g、好ましくは2.6~9.5m/g、さらに好ましくは4~8.6m/gである。
【0038】
このような炭酸カルシウムの乾燥粉体は、複数回に分けて分散装置に投入することが好ましい。炭酸カルシウムの乾燥粉体を一度に分散装置に投入してしまうと、粉砕媒体および分散剤を含む水の粘度が急激に増加し、分散装置の撹拌の機能が正常に働かないことがある。したがって炭酸カルシウムの乾燥粉体は、少なくとも2回に分けて分散装置に投入することで、粉砕媒体および分散剤を含む炭酸カルシウム水スラリーの粘度を調整することができる。炭酸カルシウムを分割して投入する際に、炭酸カルシウムの粉体が大きな継粉(ままこ)にならないよう投入することが重要である。二の実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウム水スラリー中における炭酸カルシウムの固形分濃度が、最終的に70%以上、好ましくは72%以上となるように炭酸カルシウムを分散装置に投入することができる。炭酸カルシウムは、分散装置を稼働させながら分散装置に投入し、そのまま分散装置の稼働を続けて、粉砕媒体、分散剤および水、および分割投入分の炭酸カルシウムを適宜投入し、これらを撹拌して湿式粉砕を行う。このとき、積算撹拌出力(撹拌能力の積算値を意味する。)が0.5kW/kg以上となるように撹拌することが好ましい。使用する分散装置にもよるが、積算撹拌出力が0.5kW/kg以上20kW/kg以下、好ましくは1kW/kg以上10kW/kg以下となるように撹拌することができる。
【0039】
湿式粉砕時間の調整は、所望の粒子径、粒度分布およびアスペクト比を有する炭酸カルシウムを得る上で重要である。粉砕時間は、粉砕する炭酸カルシウム水スラリーの容量によっても調整することができる。一般に、横軸に粉砕時間、縦軸に炭酸カルシウム水スラリー粘度をプロットした粉砕曲線(図8参照)を描くと、炭酸カルシウムを分散装置に投入した直後に炭酸カルシウム水スラリーの粘度は上昇し(領域I)、湿式粉砕が進行するに従い粘度が急落する(領域II)。そのまま湿式粉砕を継続すると、炭酸カルシウム水スラリー粘度は極小値を示す。炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小値を示すことは、炭酸カルシウムの高次構造がほぼ全て解砕され、ほぼ全ての炭酸カルシウムが一次粒子となった状態を意味すると考えて良い。炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小値を示した後になおも湿式粉砕を継続すると、炭酸カルシウムの一次粒子が粉砕され、微粒子が発生するようになる。そうすると炭酸カルシウム水スラリーの粘度は上昇する傾向にある。実施形態において、湿式粉砕は、炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小値または略極小値を示すまで継続することが非常に重要である。ここで炭酸カルシウム水スラリーの粘度の略極小値とは、粘度の極小値よりもやや大きい値のことであり、たとえば、粘度の極小値(絶対値)の10%増加した値、好ましくは5%増加した値、さらに好ましくは3%増加した値までを意味するものとする。炭酸カルシウム水スラリーの極小値および略極小値を含む範囲を極小領域(領域III)とし、炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小領域に達するように湿式粉砕時間を調整することが好ましい。炭酸カルシウム水スラリーの粘度が極小領域を示すように粉砕時間を調整することで、所望の粒子径、粒度分布およびアスペクト比を有する炭酸カルシウムを含んだ炭酸カルシウム水スラリーを得ることができる。粉砕時間が短すぎると、炭酸カルシウムの一次粒子の凝集を充分に解砕することができないため、炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度が高くなり、またハイシェア粘度も高いスラリーとなることがある(領域II)。一方、粉砕時間が長すぎると、炭酸カルシウムの一次粒子が破壊され、微粒子状の炭酸カルシウムが多量に発生するため、炭酸カルシウム水スラリーの粘度は略極小値よりも上昇する(領域IV)。この領域にある炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのアスペクト比は低下しており、そのため、炭酸カルシウム水スラリーの不透明度が低下する上、光沢度の発現にも大きな影響を及ぼす。適切な湿式粉砕時間は、分散装置の容量や、湿式粉砕する炭酸カルシウム水スラリーの量等、様々な要因により変わりうる。予め小さい容量で運転を行って、およその湿式粉砕時間を定めておく等、炭酸カルシウム水スラリーの粘度と湿式粉砕時間との関係を求めておくことで、適切な湿式粉砕時間を定めることができる。適切な時間湿式粉砕をして得られた炭酸カルシウム水スラリーから濾過等の既知の方法により粉砕媒体を除去して、所望の炭酸カルシウム水スラリーを得ることができる。
【0040】
二の実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウム水スラリーに溶解および/または分散している炭酸カルシウムは、一次粒子のBET比表面積が3~15m/gであり、電子顕微鏡像の画像解析から算出されるアスペクト比が2~10であり、一次粒子および/または凝集粒子のレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径が0.3~1μmであることが好ましい。特に炭酸カルシウム水スラリーに溶解および/または分散されている炭酸カルシウムのBET比表面積は、3~15m/g、好ましくは4~10m/g、さらに好ましくは6~9m/gであることが好ましい。すなわち、湿式粉砕前の炭酸カルシウムの凝集体が解砕され、BET比表面積が約1.02~1.50倍程度になるまで、炭酸カルシウム水スラリーの湿式粉砕を行うことが好ましい。なお、炭酸カルシウム水スラリーに溶解または分散されている炭酸カルシウムのBET比表面積は、炭酸カルシウム水スラリーから所定量の試料をサンプリングし、これを通常の手段にて濾過および乾燥して得られた粉体状の炭酸カルシウムについて、日本産業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。
【0041】
また、二の実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウム水スラリーの粘度は、B型粘度(回転速度:60rpm)が2000mPa・s以下、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)が80mPa・s以下であることが好ましい。
【0042】
また炭酸カルシウム水スラリーに溶解および/または分散されている炭酸カルシウムのアスペクト比は、2~10、好ましくは2.5~8、さらに好ましくは3~7である。上述したように、湿式粉砕前の炭酸カルシウムの一次粒子の電子顕微鏡像の画像解析から算出したアスペクト比は2~10、好ましくは2.5~8、さらに好ましくは3~7であるが、このようなアスペクト比を有する炭酸カルシウム一次粒子を含んだ炭酸カルシウム水スラリーを上記の通り湿式粉砕し、アスペクト比が、2~10、好ましくは2.5~8、さらに好ましくは3~7とすることが好ましい。これは、湿式粉砕の工程で、炭酸カルシウム一次粒子のアスペクト比がほとんど変化しないことを意味する。炭酸カルシウム一次粒子のアスペクト比がほとんど変化しないことは、湿式粉砕工程において炭酸カルシウム一次粒子がほとんど粉砕されていないことを意味する。すなわち、本実施形態における炭酸カルシウム水スラリーの湿式粉砕の工程では、炭酸カルシウムの二次粒子、三次粒子等の凝集体が解砕されるが、一次粒子の粉砕はほとんど起こらないことに大きな特徴がある。実施形態で得られる炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのアスペクト比が大きすぎると、塗工紙の光沢性や炭酸カルシウム水スラリーの流動性を損なうことがある。一方、炭酸カルシウムのアスペクト比が小さすぎると、可視光の反射に寄与する塗工紙内での炭酸カルシウム粒子のファセット面が減少し、塗工紙の不透明度や光沢性を損なうことがある。炭酸カルシウム粒子のアスペクト比を特に3以上とすることで、炭酸カルシウム水スラリーの粘度を低下させることができるので、炭酸カルシウム水スラリーの炭酸カルシウム固形分濃度をたとえば70重量%以上、好ましくは72重量%以上にまで高めることが可能となる。なお、実施形態で得られる炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの短径の長さは、0.05~1μm、好ましくは0.1~0.5μm程度である。なお、アスペクト比を電子顕微鏡像の画像解析から算出する、とは、炭酸カルシウムを電子顕微鏡で観察した像を、画像解析ソフト等を用いて解析し、粒子のアスペクト比を求めることである。解析に使用する画像解析ソフトにもよるが、通常、所定数(例えば粒子300個以上)の粒子の長径と短径とを計測してアスペクト比を算出し、これらを平均することで、炭酸カルシウムのアスペクト比を算出することができる。さらに実施形態で得られる炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムについて測定される体積基準平均粒子径は、0.3~1μm、好ましくは0.5~0.8μmであることが非常に好ましい。実施形態で得られる炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの体積基準平均粒子径が大きすぎると、凝集体の解砕が進んでいないことを示しており、塗工紙の光沢性を損なうことや、高速塗工時に凝集粒子に起因するストリークが発生することがある。一方、炭酸カルシウムの体積基準平均粒子径が小さすぎると、いわゆる過粉砕であることを示唆しており、粒子の形状が保持されず、さらに微粒子の存在により、塗工面の炭酸カルシウムの最密充填が起こり、不透明度や塗工紙の光沢度が低下する。
【0043】
さらに実施形態で得られる炭酸カルシウム水スラリーにおいて、含まれている炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径の分布幅が5以下であることが好ましい。ここで炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径の分布幅とは、下記式:

[数2]
粒子径分布幅=([炭酸カルシウムのD90値]-[炭酸カルシウムのD10値])/炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径

(式中、D90値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が90%となる粒子径であり、D10値は、レーザ回折式粒子径測定による体積基準粒子径累積分布において、炭酸カルシウムの累積体積が10%となる粒子径である。)で表される値である。体積基準粒子径の分布幅が5以下であることは、実施形態で得られる炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの凝集体がほぼないことを示す。
【0044】
一の実施形態の炭酸カルシウム水スラリー、および二の実施形態の製造方法で得られた炭酸カルシウム水スラリーは、塗工紙の顔料として使用することができるほか、塗料の顔料として使用することもできる。炭酸カルシウム水スラリーを塗料顔料として使用する際、一般的に使用される重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、デラミネーテッドクレー、タルク、サチンホワイト、シリカ、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、二酸化チタンなどの無機顔料、プラスチックピグメントなどの有機顔料等を1種以上併用することができる。
【0045】
なお、本明細書においては、特に記載がない限り、%および部はそれぞれ重量%および重量部を意味し、数値範囲はその端点を含む。また本発明および本発明の実施形態を説明する際に、単に「炭酸カルシウム」と表記する場合、特に断りがない限りは、軽質炭酸カルシウム、すなわち合成の炭酸カルシウムのことを指すものとする。
【実施例
【0046】
<炭酸カルシウム水スラリーの合成>
[実施例1]
固形分濃度13.2%の水酸化カルシウム水スラリーを撹拌しながら、濃度14.8%の炭酸ナトリウム水溶液を温度50℃で2時間かけて投入して混合撹拌し、炭酸カルシウムを含む水スラリーを得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したとところ、紡錘形状であった。得られた炭酸カルシウム水スラリーをろ過および洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で乾燥した。
【0047】
コーレス型分散機に、3mmのガラスビーズと、水と、分散剤(ポリカルボン酸系、商品名:アロンT-50、東亞合成株式会社)を1.0部添加した後、乾燥炭酸カルシウム(アスペクト比:5.1、体積基準平均粒子径:1.4μm、カルサイト結晶)100部を少しずつ分割しながら投入して、炭酸カルシウムの固形分濃度が72%の炭酸カルシウム水スラリーを得た。(湿式粉砕の条件:炭酸カルシウム粉末500g、固形分70%スラリー、ガラスビーズ300g、撹拌回数525rp、湿式粉砕時間2時間)湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーから10グラムをサンプリングし、スラリー:エタノール=1:9(重量比)となるようにエタノールを添加しておおよそ均一になるように撹拌し、ろ紙(ADVANTEC定性濾紙、No.2)を用いて吸引濾過し、次いで105℃のオーブンで1時間乾燥して炭酸カルシウム粉体7グラムを得た。この炭酸カルシウム粉体を比表面積測定用セルに入れ、窒素ガス雰囲気下で110℃で40分間前処理をし、次いで110℃で20分間脱ガスを行い、BET比表面積を測定した(8.7m/グラム)。さらに炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムの体積基準平均粒子径は、マルバーン社製マスターサイザー3000を用いたレーザ回折式にて、炭酸カルシウム水スラリーのまま行い、0.6μmであった。炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのアスペクト比は、炭酸カルシウム水スラリーの電子顕微鏡写真を撮影して、その画像から算出したところ、アスペクト比3.2の紡錘形状の形態であった。
【0048】
[実施例2]
実施例1において、水酸化カルシウム水スラリーの固形分濃度を15.0%としたこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。得られた炭酸カルシウム水スラリーを乾燥させて電子顕微鏡にて観察したところ、針状形状をしていた(アスペクト比:6.2)。得られた乾燥炭酸カルシウムを実施例1と同じ条件にて湿式粉砕し、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は4.5m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は4.8であり、針状形状を有していた。
【0049】
[実施例3]
実施例1において、炭酸ナトリウム水溶液を70℃にしたこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。得られた炭酸カルシウム水スラリーを乾燥させて電子顕微鏡にて観察したところ、針状形状をしていた(アスペクト比:11.5、体積基準平均粒子径:6.9μm)。得られた乾燥炭酸カルシウムを実施例1と同じ条件にて湿式粉砕し、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は3.5m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.8μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は9.2であり、針状形状を有していた。
【0050】
[実施例4]
炭酸ガス法(固形分濃度10%の水酸化カルシウムを反応前の温度を23℃に調整し、そこに炭酸ガスを導入する方法)にて炭酸カルシウムを合成した。得られた炭酸カルシウム水スラリーを電子顕微鏡にて観察したところ紡錘形状粒子であった(アスペクト比:4.9、体積基準平均粒子径:3.2)。炭酸カルシウム水スラリーをろ過、乾燥させた。得られた乾燥炭酸カルシウムを実施例1と同様に湿式粉砕し、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.6m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.5であり、紡錘形状を保持していた。
【0051】
[実施例5]
実施例1と同様に乾燥炭酸カルシウムを得た。次いで実施例1における湿式粉砕時間を4時間としたこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は9.3m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.5μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は2.5であり、紡錘形状を有していた。
【0052】
[実施例6]
実施例1と同様に乾燥炭酸カルシウムを得た。次いで実施例1における湿式粉砕時間を6時間としたこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は9.1m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.5μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は2.1であり、紡錘形状を有していた。
【0053】
[実施例7]
実施例1と同様に乾燥炭酸カルシウムを得た。次いで分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:アロンT-50、東亞合成株式会社)を2.0部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.7m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.4であり、紡錘形状を有していた。
【0054】
[実施例8]
実施例1と同様に乾燥炭酸カルシウムを得た。次いで分散剤として、ポリアクリル酸系の分散剤(商品名:ポイズ530、花王ケミカル株式会社)を1.0部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.8m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.3であり、紡錘形状を有していた。
【0055】
[実施例9]
実施例1と同様に乾燥炭酸カルシウムを得た。次いで分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:ポリティA-300、ライオン株式会社)を1.0部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.8m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.3であり、紡錘形状を有していた。
【0056】
[比較例1]
市販の湿式重質炭酸カルシウム(SETACARB-HG、備北粉化工業株式会社)を用意し、電子顕微鏡にて観察したところ、無定形であった。この炭酸カルシウム(アスペクト比:1.5)を実施例1と同様に湿式粉砕し、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は9.5m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)は0.7μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は1.2であった。
【0057】
[比較例2]
実施例1において、水酸化カルシウム水スラリーへの炭酸ナトリウム水溶液の投入時間を10分間としたこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ、立方体状などが混在した凝集粒子であった。この炭酸カルシウム(アスペクト比:1.3)を実施例1と同様に湿式粉砕し、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は16.1m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)2.3μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は1.1であった。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、湿式粉砕条件を粉砕時間8時間として、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は10.5m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.4μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は1.8であった。
【0059】
[比較例4]
実施例1において、湿式粉砕時間を30分間として、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は9.9m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)1.2μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は4.0であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は3000mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は100mPa・sであった。
【0060】
[比較例5]
実施例4で製造した炭酸ガス法による紡錘形状粒子を、粉砕媒体を投入せずに湿式粉砕した。得られた炭酸カルシウム水スラリーは、測定可能な粘度領域にはなく、これに含まれている炭酸カルシウムは、継粉状態であった。
【0061】
[比較例6]
実施例4で製造した炭酸ガス法による紡錘形状粒子を、固形分濃度70重量%となるように水を添加し、0.5mmのセラミックビーズ300gを用い、1時間湿式粉砕した。得られた炭酸カルシウム水スラリーをダイノーミルを用いてさらに1時間湿式粉砕した。
【0062】
[比較例7]
実施例1において、湿式粉砕時間を1時間として、炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は9.5m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.9μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.9であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は2200mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は85mPa・sであった。
【0063】
[比較例8]
実施例1において、分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:アロンT-50、東亞合成株式会社)を0.1部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.8m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.5μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.3であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は2500mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は100mPa・sであった。
【0064】
[比較例9]
実施例1において、分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:アロンT-50、東亞合成株式会社)を10部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.7m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.4であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は200mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は45mPa・sであった。
【0065】
[比較例10]
実施例1において、分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:ポイズ530、花王ケミカル株式会社)を0.1部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.7m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.2であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は2300mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は120mPa・sであった。
【0066】
[比較例11]
実施例1において、分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:ポイズ530、花王ケミカル株式会社)を10部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.7m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.5μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.3であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は220mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は45mPa・sであった。
【0067】
[比較例12]
実施例1において、分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:ポリティA-300、ライオン株式会社)を0.1部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.7m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.6μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.4であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は2200mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は120mPa・sであった。
【0068】
[比較例13]
実施例1において、分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤(商品名:ポリティA-300、ライオン株式会社)を10部添加追加したこと以外は実施例1と同様に炭酸カルシウム水スラリーを得た。湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムのBET比表面積は8.7m/グラム、体積基準平均粒子径(レーザ回折式粒子径測定による)0.5μm、電子顕微鏡像から算出したアスペクト比は3.2であった。炭酸カルシウム水スラリーのB型粘度(回転速度:60rpm)は120mPa・s、およびハイシェア粘度(回転速度:1100rpm)は40mPa・sであった。
【0069】
<塗工紙の作製>
上記の実施例および比較例で得られた炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウム固形分100部に対してスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:SN-307、日本エイアンドエル株式会社)13部、およびリン酸エステル化デンプン(商品名:日食MS#4600、日本食品化工株式会社)3部各々接着剤として配合し、固形分濃度65%の塗工液を得た。得られた塗工液を、坪量78g/mの原紙(金菱:三菱製紙株式会社)の片面に12g/mとなるようにバーブレードコータで塗工した。これを線圧60kg/cmでスーパーカレンダー処理し、塗工紙を得た。
【0070】
<塗工紙の評価>
[白紙光沢度]
日本産業規格JIS P-8142(紙及び板紙-75度鏡面光沢度の測定方法)に従い、塗工紙の白色光沢度を測定した。
【0071】
[塗工紙の印刷光沢度]
東洋インキ株式会社製TKネックス墨を使用し、印刷適性試験機RI型テスターを用いて一定のインキ量0.4mLで各塗工紙に印刷した。印刷した塗工紙の光沢度を光沢度計(GM-26D型、株式会社村上色彩研究所)を用いて角度75度で測定した。
[塗工紙の不透明度]
日本産業規格JIS-P-8138(紙及び板紙-不透明度試験方法)に準拠して測定した。
【0072】
各実施例および比較例の評価の結果を表1に示す:
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
なお、表中、原料炭酸カルシウムの「平均粒子径」、「アスペクト比」は、湿式粉砕前の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムについて測定した値である。また、生成炭酸カルシウムの「BET比表面積」、「平均粒子径」、「アスペクト比」は、湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムについて測定した値である。上記の各値の測定方法は前述のとおりである。「水スラリー粘度 B型」は、回転粘度計(東機産業、BII形粘度計)を使用し、回転速度60rpmで測定した湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーの粘度を表す。「水スラリー粘度 ハイシェア」は、回転粘度計(Herculesハイシェア粘度計DV-10)を使用し、回転速度1100rpmで測定した湿式粉砕後の炭酸カルシウム水スラリーの粘度を表す。「分布幅」は、以下の式:

[数3]
粒子径分布幅=([炭酸カルシウムのD90値]-[炭酸カルシウムのD10値])/炭酸カルシウムのレーザ回折式粒子径測定による体積基準平均粒子径

で算出された値を表す。
【0078】
表2中、「図8との対応」は、各実施例および比較例の方法で生成した炭酸カルシウム水スラリーの粘度が図8のいずれの領域にあるかを示したものである。また、表3および表4中、「スラリー評価」は、各実施例および比較例の方法で生成した炭酸カルシウム水スラリーの粘度(B型、ハイシェア)が本発明の範囲に入り、水スラリー全体に泡立ち等が見られない場合に「良」、本発明の範囲に入っていない場合、あるいは水スラリー全体に泡立ち等が見られる場合に「不良」と評価したものである。
【0079】
本発明の実施例による炭酸カルシウム水スラリーを塗工液として使用して、白紙光沢度、印刷光沢度、不透明度のすべての値が高い塗工紙を作製することができた。比較例1の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムは、そのアスペクト比が小さく、これを使用した塗工紙の白紙光沢度、印刷光沢度ならびに不透明度を低下させるものであった。また比較例2の炭酸カルシウム水スラリーに含まれている炭酸カルシウムは、BET比表面積、体積基準平均粒子径、アスペクト比のいずれの値も本発明の範囲を満たしておらず、これを使用した塗工紙の白紙光沢度、印刷光沢度ならびに不透明度は低下した。
【0080】
BET比表面積、体積基準平均粒子径の値が本発明の範囲を満たしているが、アスペクト比の値が本発明の範囲を満たしていない比較例3の炭酸カルシウム水スラリーは、粘度が高く、これを使用した塗工紙は、白紙光沢度の低下はさほど大きくないものの印刷光沢度に低下が認められた。平均粒子径が大きい比較例4の炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウム水スラリーは全般的に粘度が高く、これを使用した塗工紙は、白紙光沢度の低下はさほど大きくないものの印刷光沢度と不透明度にやや低下が認められた。粉砕媒体を使用せずに湿式粉砕を行った比較例5の炭酸カルシウム水スラリーは、粘度が高く、塗工液としての用途に用いることができなかった。比較例5と同じ原料炭酸カルシウムを用い、異なる方法で湿式粉砕させて得た比較例6の炭酸カルシウム水スラリーは、粉砕が進みすぎ、粘度が高いものであった。また実施例1等と同じ原料炭酸カルシウムを用い、湿式粉砕時間を半分にして得た比較例7の炭酸カルシウム水スラリーは、粉砕が進まず、粘度が高いものであった。
【0081】
実施例1と同じ原料炭酸カルシウムを用い、分散剤の種類や量を変えて湿式粉砕を行った比較例8~13により得た炭酸カルシウム水スラリーは、塗工用途に使用するには粘度が高すぎるか、泡立つ等の取り扱い性の悪化が見られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8