(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】切断用回転砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 5/12 20060101AFI20240222BHJP
B24D 3/32 20060101ALI20240222BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
B24D3/32
B24D3/00 340
(21)【出願番号】P 2019116760
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591035852
【氏名又は名称】日本レヂボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】小川 善行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和正
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-131699(JP,A)
【文献】特開昭56-152583(JP,A)
【文献】特開2007-223004(JP,A)
【文献】特開平11-156727(JP,A)
【文献】特開昭62-009876(JP,A)
【文献】特開昭54-158790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0085896(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 5/12
B24D 3/32
B24D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石本体が砥粒と結合材とを含有する
材料から構成された、切断用回転砥石であって、
前記砥石本体は、前記材料を金型に入れ、該金型を90℃以上に加熱するとともに加圧することにより成形され、
前記砥石本体に対する気孔の占める体積の割合が15%以下であり、
前記気孔の平均気孔径が前記砥粒の平均粒径に対して3%以下であり、
前記結合材は、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂及びエポキシ樹脂から選択されるいずれか1つ又はそれらの混合物により構成されており、
前記結合材は、前記砥石本体に対する体積の割合が28%以上である
ことを特徴とする切断用回転砥石。
【請求項2】
請求項1に記載の切断用回転砥石において、
前記砥粒は、前記砥石本体に対する体積の割合が20%以上60%以下であり、
前記結合材は、前記砥石本体に対する体積の割合が28%以上40%以下である
ことを特徴とする切断用回転砥石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切断用回転砥石において、
製造直後における前記砥石本体の曲げ強度が製造後3週間経過時において90%以上維持されている
ことを特徴とする切断用回転砥石。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の切断用回転砥石において、
前記砥石本体内を伝播する超音波速度が3.3mm/μs以上である
ことを特徴とする切断用回転砥石。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の切断用回転砥石において、
製造直後における前記砥石本体内を伝播する超音波速度が製造後3週間経過時において97.5%以上維持されている
ことを特徴とする切断用回転砥石。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の切断用回転砥石において、
製造直後における前記砥石本体の切断能力が製造後3週間経過時において80%以上維持されている
ことを特徴とする切断用回転砥石。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の切断用回転砥石において、
前記砥石本体は、充填材を更に含有し、
前記充填材は、硫化鉄、硫酸カリウム、クリオライト、酸化カルシウム、塩化カリウム及びカリクリオライトから選択されるいずれか1つ又はそれらの混合物により構成されている
ことを特徴とする切断用回転砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用回転砥石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、砥粒の結合材として樹脂が用いられたレジノイド製の回転砥石(切断用回転砥石)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような切断用回転砥石について、従来のものよりも寿命を長くするという要求があった。本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、切断用回転砥石の寿命を長くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するために、この発明では、砥石本体に対する気孔が占める体積の割合及び気孔径を小さくした。
【0006】
具体的には、第1の発明は、砥石本体が砥粒と結合材とを含有する切断用回転砥石であって、前記砥石本体に対する気孔の占める体積の割合が15%以下であり、前記気孔の平均気孔径が前記砥粒の平均粒径に対して3%以下であることを特徴とする。
【0007】
この第1の発明によれば、砥石本体に対する気孔が占める体積の割合が15%以下と比較的小さいので、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのを抑えることができる。また、平均気孔径が砥粒の平均粒径に対して3%以下と比較的小さいので、砥粒及び結合材のはく離が低減され、長期にわたって、回転砥石を使用できるようになる。以上のことから、回転砥石の寿命が長くなる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記砥粒は、前記砥石本体に対する体積の割合が20%以上60%以下であり、前記結合材は、前記砥石本体に対する体積の割合が20%以上50%以下であることを特徴とする。尚、砥石本体に対する体積の割合とは、砥石本体が気孔を含む場合には、気孔も含めた砥石本体の体積に対する体積の割合を意味する。
【0009】
この第2の発明によれば、結合材の砥石本体に対する体積の割合が20%以上であるので、砥粒の脱落を抑制できる。また、結合材の砥石本体に対する体積の割合が50%以下であるので、気孔の発生を制限できる。従って、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのが抑えられ、結合材が長期にわたって砥粒の脱落を抑制し、回転砥石の寿命が長くなる。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、製造直後における前記砥石本体の曲げ強度が製造後3週間経過時において90%以上維持されていることを特徴とする。
【0011】
この第3の発明によれば、製造直後における砥石本体の曲げ強度が製造後3週間経過時において90%以上維持されており、寿命の長い回転砥石が得られる。
【0012】
第4の発明は、第1~第3の発明のいずれか1つにおいて、前記砥石本体内を伝播する超音波速度が3.3mm/μs以上であることを特徴とする。
【0013】
この第4の発明によれば、砥石本体内を伝播する超音波速度が3.3mm/μs以上と比較的速いので、密度が高く、砥石本体に対する気孔が占める体積の割合が小さい砥石が得られる。従って、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのが抑えられ、寿命の長い回転砥石が得られる。
【0014】
第5の発明は、第1~第4の発明のいずれか1つにおいて、製造直後における前記砥石本体内を伝播する超音波速度が製造後3週間経過時において97.5%以上維持されていることを特徴とする。
【0015】
この第5の発明によれば、製造直後における砥石本体内を伝播する超音波速度が製造後3週間経過時において97.5%以上維持されており、砥石本体に対する気孔が占める体積の割合が小さいという状態を長期にわたって維持できる。従って、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのが抑えられ、寿命の長い回転砥石が得られる。
【0016】
第6の発明は、第1~第5の発明のいずれか1つにおいて、製造直後における前記砥石本体の切断能力が製造後3週間経過時において80%以上維持されていることを特徴とする。
【0017】
この第6の発明によれば、製造直後における砥石本体の切断能力が製造後3週間経過時において80%以上維持されており、寿命の長い回転砥石が得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によると、切断用回転砥石の寿命が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る切断用回転砥石の断面図である。
【
図2】実施例1に係る切断用回転砥石の断面のSEM画像を示す。
【
図3】実施例2に係る切断用回転砥石の断面のSEM画像を示す。
【
図4】比較例1に係る切断用回転砥石の断面のSEM画像を示す。
【
図5】比較例2に係る切断用回転砥石の断面のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
図1に、本発明の実施形態に係る切断用回転砥石1(以下、「回転砥石」という)を示す。この回転砥石1は、金属切断用である。回転砥石1は、砥石本体11と、この砥石本体11と接着によって一体にしたプラスチック製の座部材12とを備えている。
【0022】
砥石本体11は、全体にわたって同一厚さで平らに形成され、中央に中心孔11aが設けられた円板状に形成されている。砥石本体11の外径は、例えば50mm以上230mm以下であり、厚さは例えば5mm以下である。中心孔11aの内径は、特に限定されないが、例えば15mmである。
【0023】
座部材12は、砥石本体11の中心孔11aの周りの片面に接着されたドーナツ板状の座部12aと、この座部12aの内周縁より軸方向に延び中心孔11aの内面に嵌め込まれたブッシュ部12bとからなる。
【0024】
砥石本体11は、多数の砥粒と、砥粒を結合する結合材と、無機充填剤(以下、「充填剤」という)とからなる。砥粒は、砥石本体11に対する体積の割合が20%以上60%以下であることが好ましく、30%以上50%以下であることがより好ましく、40%以上50%以下であることが更により好ましい。砥粒の例としては、アルミナ質研削材、アルミナジルコニア研削材、炭化ケイ素質研削材等が挙げられる。
【0025】
結合材は、砥石本体11に対する体積の割合が20%以上50%以下であることが好ましく、28%以上40%以下であることがより好ましい。結合材は、樹脂から形成されており、樹脂の例としては、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0026】
充填剤は、砥石本体11に対する体積の割合が0%以上40%以下であることが好ましく、10%以上30%以下であることがより好ましい。無機充填材の例としては、硫化鉄、硫酸カリウム、クリオライト、酸化カルシウム、塩化カリウム、カリクリオライト等が挙げられる。
【0027】
回転砥石1は、気孔を含む場合には、砥石本体11の体積に対する気孔が占める体積の割合(以下、「気孔率」という)が15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更により好ましい。また、平均気孔径が砥粒の平均粒径に対して3%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましい。
【0028】
また、回転砥石1は、製造直後における砥石本体11の曲げ強度が製造後1週間経過時において98%以上維持されていることが好ましく、99%以上維持されていることがより好ましい。また、回転砥石1は、製造直後における砥石本体11の曲げ強度が製造後3週間経過時において90%以上維持されていることが好ましく、99%以上維持されていることがより好ましい。尚、本願において、製造直後とは、製造後26時間以内を意味する。
【0029】
また、回転砥石1は、砥石本体11内を伝播する超音波速度が3.3mm/μs以上であることが好ましく、3.5mm/μs以上であることがより好ましい。
【0030】
また、回転砥石1は、製造直後における砥石本体11内を伝播する超音波速度が製造後1週間経過時において99.1%以上維持されていることが好ましく、99.2%以上維持されていることがより好ましい。また、回転砥石1は、製造直後における砥石本体11内を伝播する超音波速度が3週間経過時において97.5%以上維持されていることが好ましく、98.4%以上維持されていることがより好ましい。
【0031】
また、回転砥石1は、製造直後における砥石本体11の切断能力が製造後1週間経過時において86%以上維持されていることが好ましく、90%以上維持されていることがより好ましい。また、回転砥石1は、製造直後における砥石本体11の切断能力が製造後3週間経過時において80%以上維持されていることが好ましく、87%以上維持されていることがより好ましい。
【0032】
回転砥石1は、以下のようにして製造する。まず、砥粒、樹脂及び充填剤を、混合し、混合された材料を金型に入れ、金型を、圧力をかけながら加熱することにより砥石本体11を成形する。そして成形された砥石本体11の中心孔11aに座部材12のブッシュ部12bを嵌め込み、回転砥石1を完成させる。
【0033】
ここで、砥石本体11を成形する過程において、樹脂中に気泡が発生するが、この気泡が砥石本体11が成形されたときに気孔を生じさせる原因となる。本願の発明者らによる鋭意検討の結果、材料中の樹脂の含有量及び金型にかける温度によって、気孔率及び気孔径を調整し得ることがわかった。
【0034】
―効果―
ところで、砥石本体11中の気孔は、例えば、樹脂(結合材)と気孔中の空気の水分との加水分解反応により、結合材の劣化を引き起こすことが考えられる。また、気孔が砥粒と結合材との界面に存在すると、砥粒及び結合材が砥石本体11からはく離されやすくなることが考えられる。その結果、回転砥石1の寿命が短くなることが考えられる。
【0035】
ここで、本実施形態によれば、気孔率が15%以下と比較的低いので、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのを抑えることができる。また、平均気孔径が砥粒の平均粒径に対して3%以下と比較的小さいので、砥粒及び結合材のはく離が低減され、長期にわたって、回転砥石1を使用できるようになる。以上のことから、回転砥石1の寿命が長くなる。
【0036】
また、本実施形態によれば、結合材の砥石本体11に対する体積の割合が20%以上であるので、砥粒の脱落を抑制できる。また、結合材の砥石本体11に対する体積の割合が50%以下であるので、気孔の発生を制限できる。従って、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのが抑えられ且つ結合材が長期にわたって砥粒の脱落を抑制し、回転砥石の寿命が長くなる。
【0037】
また、本実施形態によれば、製造直後における砥石本体11の曲げ強度が製造後3週間経過時において90%以上維持されており、寿命の長い回転砥石1が得られる。
【0038】
また、本実施形態によれば、砥石本体11内を伝播する超音波速度が3.3mm/μs以上と比較的速いので、密度が高く、気孔率の低い回転砥石1が得られる。従って、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのが抑えられ、寿命の長い回転砥石1が得られる。
【0039】
また、本実施形態によれば、製造直後における砥石本体11内を伝播する超音波速度が製造後3週間経過時において97.5%以上維持されており、低い気孔率を長期にわたって維持できる。従って、気孔内の空気の影響で結合材が劣化するのが抑えられ、寿命の長い回転砥石1が得られる。
【0040】
また、本実施形態によれば、製造直後における砥石本体11の切断能力が製造後3週間経過時において80%以上維持されており、寿命の長い回転砥石1が得られる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
まず、回転砥石の材料である砥粒、樹脂及び充填剤を混合した。ここで、砥粒として粒径がF46(JIS R6001準拠)のアルミナ質研削材(昭和電工社製 商品名:シングルモランダム(登録商標))を用い、樹脂としてフェノール樹脂(住友ベークライト社製 商品名:PR-55686)を用い、充填剤としてクリオライト(小野田化学工業社製 商品名:合成氷晶石)を用いた。砥粒、樹脂及び充填剤の含有率は、製造後の砥石本体において、砥粒に対する樹脂の体積の割合が69%、砥粒に対する充填剤の体積の割合が34%となるように調製した。
【0042】
次いで、混合した材料を開き状態の砥石用金型に流し込み、この金型を閉じて370kg/cm2の圧力をかけた状態で90℃に加熱し、この圧力及び温度を6分間維持した。その後、金型を開き、外径が105mmで中心孔の内径が16mmの砥石本体サンプルを得た。同様の製造方法により複数の砥石本体サンプルを製造した。また、砥石用金型とは異なる形状の金型を用い、寸法が150mm×15mm×15mmの棒状サンプルを同様の製造方法により複数製造した。尚、前記の製造条件は表1にも示す。
【0043】
【0044】
製造したサンプルは、温度30℃及び湿度70%の恒温槽に保管した。
【0045】
(実施例2)
金型にかけた圧力を185kg/cm2としたことを除いて、実施例1と同様に複数の砥石本体サンプル及び棒状サンプルを製造した。これらのサンプルのうち、経時変化を評価するためのサンプルは、実施例1と同様に保管した。
【0046】
(実施例3)
砥粒を、粒径がF24のものに変えたことを除いて、実施例2と同様に砥石本体サンプルを製造した。
【0047】
(実施例4)
砥粒を、粒径がF80のものに変えたことを除いて、実施例2と同様に砥石本体サンプルを製造した。
【0048】
(比較例1)
金型の温度を20℃で維持したことを除いて、実施例1と同様に複数の砥石本体サンプル及び棒状サンプルを製造した。これらのサンプルのうち、経時変化を評価するためのサンプルは、実施例1と同様に保管した。
【0049】
(比較例2)
金型にかけた圧力を185kg/cm2とし、金型の温度を20℃で維持したことを除いて、実施例1と同様に複数の砥石本体サンプル及び棒状サンプルを製造した。これらのサンプルのうち、経時変化を評価するためのサンプルは、実施例1と同様に保管した。
【0050】
(評価方法)
―気孔率と気孔径―
実施例1の砥石本体サンプルを割った断面のSEM(走査型電子顕微鏡)による拡大画像を
図2に、実施例2の砥石本体サンプルを割った断面のSEMによる拡大画像を
図3に、比較例1の砥石本体サンプルを割った断面のSEMによる拡大画像を
図4に、比較例2の砥石本体サンプルを割った断面のSEMによる拡大画像を
図5にそれぞれ示す。
図2~5のSEMによる拡大画像の拡大倍率は、いずれも60倍である。いずれの場合も、黒い略円形状又は略楕円形状の気孔が確認できる。
【0051】
各サンプルの全体の体積から、砥粒の体積、樹脂の体積及び充填剤の体積を引いて、サンプルの体積で割ることにより、製造したサンプルの気孔率を求めた。
【0052】
また、
図2~5のSEM画像から、気孔と判断される黒い略円形状又は略楕円形状のものを20個ずつ選び、以下のように平均気孔径を算出した。略円形状の気孔は、その直径を気孔径とした。略楕円形状の気孔は、長径と短径との平均値をとり、この平均値を気孔径とした。このようにして決まる前記20個の気孔の気孔径の平均値を平均気孔径とした。
【0053】
―切断能力の経時変化―
砥石本体サンプルの中心孔に座部材のブッシュ部を嵌め込み、回転砥石とした。この回転砥石をグラインダー(日立工機製 XS2000)に取り付け、直径12mmのステンレス丸棒を被切断材とし、砥石周速度72m/sで2.5kgの荷重をかけながら、切断試験を行った。回転砥石が摩耗して、切断できなくなるまで、切断を継続した。このような切断試験を、サンプルの製造後24時間後、製造後1週間後及び製造後3週間後行い、被切断材を切断できた回数(切断可能回数)をそれぞれ記録した。この切断可能回数を回転砥石の切断能力として評価した。
【0054】
―曲げ強度の経時変化―
棒状サンプル(150mm×15mm×15mm)を、120mmの間隔を空けた2つの支持部材により、このサンプルの長さ方向の両端部付近(両端部からそれぞれ15mm中心側へ寄った位置)を支持した。この状態で、サンプルの長さ方向中央に上方から荷重をかけてサンプルを破断させ、破断に要した荷重を測定し、この測定値を曲げ強度として記録した。このような曲げ強度の測定を、サンプルの製造後24時間後、製造後1週間後及び製造後3週間後行い、測定された曲げ強度をそれぞれ記録した。
【0055】
―超音波速度の経時変化―
透過式超音波測定機を用いて、2探触子法により、超音波(50kHz)が砥石本体サンプルを伝播する速度を測定した。このような測定を、砥石本体の製造後24時間後、製造後1週間後及び製造後3週間後行い、測定した超音波速度をそれぞれ記録した。
【0056】
(結果)
表2に、実施例1,2及び比較例1,2各々の製造された砥石本体サンプルの配合比率、比重及び気孔径を示す。
【0057】
【0058】
表2によれば、気孔率は、比較例1が20.3%及び比較例2が30.0%であるのに対し、実施例1が4.5%及び実施例2が12.0%であり、実施例1,2の気孔率は比較的低いことが分かる。気孔率が異なることにより、砥石本体の体積に対する砥粒、充填剤及び樹脂の体積分率が、実施例1,2及び比較例1,2で異なっていた。すなわち、実施例1が砥粒47.2%、充填剤15.8%及び樹脂32.5%、実施例2が砥粒43.5%、充填剤14.6%及び樹脂29.9%、比較例1が砥粒39.4%、充填剤13.2%及び樹脂27.1%、比較例2が砥粒34.6%、充填剤11.6、樹脂23.8%であった。比重は、実施例1が2.7g/cm3、実施例2が2.5g/cm3、比較例1が2.2g/cm3、比較例2が2.0g/cm3であった。
【0059】
また、平均気孔径は、比較例1が7.6μm及び比較例2が13.3μmであるのに対し、実施例1が5.0μm及び実施例2が5.9μmであり、実施例1,2の平均気孔径が比較的小さいことが分かる。また、気孔径の標準偏差は、比較例1で3.8μm及び比較例2で5.9μmであるのに対し、実施例1,2では、いずれも1.6μmと比較的小さいことが分かる。以上のように、実施例1,2は、気孔率が低く且つ平均気孔径が小さい。このことが、実施例1,2の後述する切断可能回数の多さ、曲げ強度の高さ及び超音波速度の速さ、並びに、これらの維持率の高さの要因となっていると考えられる。
【0060】
実施例2~4の砥石本体サンプル各々に用いた砥粒の粒径rと、これらサンプル各々の平均気孔径Rと、平均気孔径Rを砥粒の粒径rで割った比とを表3に示す。
【0061】
【0062】
表3によれば、砥粒の平均粒径rが355μmである実施例2の平均気孔径(5.9μm)は、砥粒の平均粒径rが710μmである実施例3の平均気孔径(6.2μm)よりも小さく、砥粒の平均粒径rが180μmである実施例4の平均気孔径(2.7μm)よりも大きい。このことから、気孔径の大きさは、砥粒の平均粒径と相関があり、砥粒の平均粒径が大きいほど気孔径も大きくなる傾向があることが分かる。
【0063】
また、実施例2~4のうち、最大気孔径Rmaxを砥粒の平均粒径rで割った比が最も大きいのは実施例4のRmax/r(=2.9%)である。実施例2~4は、それぞれ砥粒としてF46(平均粒径r=355μm)、F24(平均粒径r=710μm)及びF80(平均粒径r=180μm)を用い、それ以外は互いに同じ条件で製造されたものである。従って、平均粒径r=180μm~710μmの範囲の砥粒を用い、実施例2~4と同じ製造条件(圧力185℃、温度90℃)で製造すると、砥粒の平均粒径rに対する気孔径の比は概ね2.9%以下になると考えられる。また、平均粒径r=180μm~710μmの範囲の砥粒において、粒径の異なるものを2種類以上(例えばF36とF46又はF46とF60)混合して用いると、混合された砥粒の平均粒径は180μm~710μmの範囲に入るので、この場合も、実施例2~4と同じ製造条件(圧力185℃、温度90℃)で製造すると、砥粒の平均粒径に対する気孔径の比は、概ね2.9%以下になると考えられる。
【0064】
実施例1,2及び比較例1,2の切断可能回数、曲げ強度及び超音波速度の経時変化の結果を表4に示す。表4には、切断可能回数、曲げ強度及び超音波速度の製造直後(製造後24時間後)の値が、経時変化によってどの程度維持されているかを示すために、1週間及び3週間経過時の値を製造直後の値で割った比を維持率として表示している(表4中の括弧書き参照)。
【0065】
【0066】
表4によれば、比較例1,2における製造直後の切断可能回数は、71(比較例1)及び34(比較例2)であるのに対し、実施例1,2における製造直後の切断可能回数は、97(実施例1)及び81(実施例2)と比較的多いことが分かる。また、比較例1における切断可能回数の維持率は、1週間後で80%、3週間後で73%となり、比較例2における切断可能回数の維持率は、1週間後で74%、3週間後で53%となった。これに対して、実施例1における切断可能回数の維持率は、1週間後で90%、3週間後で87%となり、実施例2における切断可能回数の維持率は、1週間後で86%、3週間後で80%となった。すなわち、実施例1,2は、製造直後の切断可能回数が多いだけでなく、1週間及び3週間経過時の切断可能回数の維持率が高く、高い切断能力を長期間維持できることが分かる。
【0067】
また、表4によれば、比較例1,2における製造直後の曲げ強度は、45.8MPa(比較例1)及び28.5MPa(比較例2)であるのに対し、実施例1,2における製造直後の曲げ強度は、58.1MPa(実施例1)及び51.8MPa(実施例2)と比較的高いことが分かる。また、比較例1における曲げ強度の維持率は、1週間後で91.0%、3週間後で88.0%となり、比較例2における曲げ強度の維持率は、1週間後で91.9%、3週間後で87.0%となった。これに対して、実施例1における曲げ強度の維持率は、1週間後で99.8%、3週間後で99.4%となり、実施例2における曲げ強度の維持率は、1週間後で98.3%、3週間後で94.2%となった。すなわち、実施例1,2は、製造直後の曲げ強度が高いだけでなく、1週間及び3週間経過時の曲げ強度が高く、高い曲げ強度を長期間維持できることが分かる。
【0068】
また、表4によれば、比較例1,2における製造直後の超音波速度は、3.28mm/μs(比較例1)、3.06mm/μs(比較例2)であるのに対し、実施例1,2における製造直後の超音波速度は、3.68mm/μs(実施例1)及び3.43mm/μs(実施例2)であり比較的速いことが分かる。また、比較例1における超音波速度の維持率は、1週間後で98.2%、3週間後で97.0%となり、比較例2における超音波速度の維持率は、1週間後で97.7%、3週間後で96.4%となった。これに対して、実施例1における超音波速度の維持率は、1週間後で99.2%、3週間後で98.4%となり、実施例2における超音波速度の維持率は、1週間後で99.1%、3週間後で97.7%となった。すなわち、実施例1,2は、製造直後の超音波速度が速いだけでなく、1週間及び3週間経過時の超音波速度も比較的速く、超音波速度を長い期間維持できることが分かる。超音波速度は、空気中で遅くなるため、超音波速度が速いことは、サンプル中の気孔率が低いことを意味している。すなわち、実施例1,2は、製造後1週間及び3週間経過時においても、気孔率が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、切断用回転砥石として有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 回転砥石
11 砥石本体