(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ガス分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/10 20060101AFI20240222BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240222BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20240222BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240222BHJP
B01D 71/62 20060101ALI20240222BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/64
B01D69/02
B01D71/62
B01D67/00
(21)【出願番号】P 2019199150
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】高田 諒一
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 慶太郎
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-018167(JP,A)
【文献】特表2017-509744(JP,A)
【文献】特表2017-501862(JP,A)
【文献】特開2019-118860(JP,A)
【文献】特開2019-018178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体と、前記多孔性支持体上に配置されたガス分離活性層とを有するガス分離膜であって、
前記多孔性支持体が、表面に低表面エネルギー化合物から成る低表面エネルギー層を有し、
前記多孔性支持体の
前記低表面エネルギー層を有する面のクロロホルム接触角が、10°以上90°以下であり、
前記ガス分離活性層を、前記多孔性支持体の前記低表面エネルギー層を有する面上に有する、
ガス分離膜。
【請求項2】
前記多孔性支持体のクロロホルム接触角が、50°以上90°以下である、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項3】
前記多孔性支持体の表面平均孔径が、0.01μm以上2.0μm以下である、請求項1又は2に記載のガス分離膜。
【請求項4】
前記多孔性支持体の表面平均孔径が、0.3μm以上1.0μm以下である、請求項3に記載のガス分離膜。
【請求項5】
前記多孔性支持体が、細孔の内表面に前記低表面エネルギー層を有する、請求項
1~4のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項6】
前記低表面エネルギー化合物が、27mJ/m
2以下の表面エネルギーを持つ化合物である、請求項
1~5のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項7】
前記低表面エネルギー化合物が、シロキサン結合、シリル基、及びフッ素原子から成る群から選択される1種以上を有する化合物である、請求項
1~
6のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項8】
前記低表面エネルギー化合物が、フッ素原子を有する化合物である、請求項
7に記載のガス分離膜。
【請求項9】
前記多孔性支持体の細孔内部に前記ガス分離活性層を有さない、請求項1~
8のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項10】
前記ガス分離活性層が、含窒素複素環を有するポリマー、及び固有微多孔性ポリマーから成る群から選択される1種以上を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項11】
前記ガス分離活性層が、ポリイミド、ポリピロロン、ポリピロール、又は固有微多孔性ポリマーから成る、請求項
10に記載のガス分離膜。
【請求項12】
前記ガス分離活性層が、固有微多孔性ポリマーから成る、請求項
11に記載のガス分離膜。
【請求項13】
測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、酸素/窒素の分離係数が2.0以上10以下である、請求項1~
12のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項14】
請求項
1~
13のいずれか一項に記載のガス分離膜の製造方法であって、
多孔性支持体に、低表面エネルギー層を形成して、クロロホルム接触角が10°以上90°以下となるように、多孔性支持体を撥クロロホルム化する、低表面エネルギー層形成工程、及び
前記低表面エネルギー層形成後の多孔性支持体
の前記低表面エネルギー層上に、ガス分離活性層を形成する、ガス分離活性層形成工程、を含む、
ガス分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた分離性能を持つガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分離膜によるガスの分離・濃縮は、蒸留法、高圧吸着法等と比べた場合、エネルギー効率に優れ、安全性の高い方法である。この分野における先駆的な実用例としては、例えば、ガス分離膜によるガスの分離濃縮、アンモニア製造プロセスにおける水素分離等が挙げられる。最近では、窒素富化空気及び酸素富化空気の需要の高まりから、空気を対象にしたガス分離膜に関する検討が盛んに行なわれている。
ガス分離膜は、一般的には、多孔性支持体の表面上にガス分離活性層が形成された形態を有する(特許文献1及び2)。この形態は、ガス分離活性層の機械的強度が弱い場合であっても、膜に強度を付与しつつ、ガスの透過量を多くすることに有効である。この場合のガス分離活性層は、例えば、ガス分離性ポリマーから成る層等であって、非多孔性の層であることが多い。
【0003】
一般に、ガス分離膜の性能は、透過速度及び分離係数を指標として評価される。透過速度は、下記数式:
透過速度=(ガス分離活性層の透過係数)/(ガス分離活性層の厚み)
によって表される。透過係数は、ガス分離活性層の素材に依存する値である。また、分離係数は、分離しようとする2種のガスの透過速度の比で表され、ガス分離活性層の素材に依存する値である。
ガス分離膜として実用的な性能を得るためには、高い分離係数と高いガス透過速度とを有する必要がある。透過速度を向上させる方法としては、ガス分離活性層の透過係数を高くするか、ガス分離活性層の厚みを薄くする方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/141686号
【文献】米国特許出願公開第2015/0025293号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔性支持体の表面上にガス分離活性層が形成されたガス分離膜において、多孔性支持体としては、細孔の表面孔径が大きなものを用いることが好ましい。多孔性支持体自体は、一般にガス分離能を有さないため、細孔の表面孔径が小さい多孔性支持体を用いたガス分離膜では、多孔性支持体の部分がガスの透過抵抗となり、透過速度が損なわれる場合がある。
多孔性支持体の表面上にガス分離活性層が形成されたガス分離膜は、例えば、多孔性支持体の表面上に、ガス分離活性層の構成材料(例えばポリマー)を含む溶液状の塗工液を塗布した後、溶媒を除去する方法(塗布法)によって製造することができる。しかしながら一般的には、細孔の表面孔径が大きな多孔性支持体上に、塗布法によってガス分離活性層を形成することは、困難と考えられている。すなわち、細孔の表面孔径が大きいと、塗工液が細孔内部に浸透してしまい、欠陥のないガス分離層を形成できない場合がある。
特に、塗工液の溶媒として、表面エネルギーの低い溶媒を用いた場合、この傾向が顕著となる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、表面孔径の大きな細孔を有する多孔性支持体上に、ガス分離活性層を有するガス分離膜であって、分離係数及び透過係数が高く、塗布法によって製造することができる、ガス分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態から成るものである。
《態様1》多孔性支持体と、前記多孔性支持体上に配置されたガス分離活性層とを有するガス分離膜であって、
前記多孔性支持体のクロロホルム接触角が、10°以上90°以下である、
ガス分離膜。
《態様2》前記多孔性支持体のクロロホルム接触角が、50°以上90°以下である、態様1に記載のガス分離膜。
《態様3》前記多孔性支持体の表面平均孔径が、0.01μm以上2.0μm以下である、態様1又は2に記載のガス分離膜。
《態様4》前記多孔性支持体の表面平均孔径が、0.3μm以上1.0μm以下である、態様3に記載のガス分離膜。
《態様5》前記多孔性支持体が、表面に低表面エネルギー化合物から成る低表面エネルギー層を有する、態様1~4のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様6》前記多孔性支持体が、細孔の内表面に低表面エネルギー層を有する、態様1~5のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様7》前記低表面エネルギー化合物が、27mJ/m2以下の表面エネルギーを持つ化合物である、態様5又は6に記載のガス分離膜。
《態様8》前記低表面エネルギー化合物が、シロキサン結合、シリル基、及びフッ素原子から成る群から選択される1種以上を有する化合物である、態様5~7のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様9》前記低表面エネルギー化合物が、フッ素原子を有する化合物である、態様8に記載のガス分離膜。
《態様10》前記多孔性支持体の細孔内部に前記ガス分離活性層を有さない、態様1~9のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様11》前記ガス分離活性層が、含窒素複素環を有するポリマー、及び固有微多孔性ポリマーから成る群から選択される1種以上を含む、態様1~10のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様12》前記ガス分離活性層が、ポリイミド、ポリピロロン、ポリピロール、又は固有微多孔性ポリマーから成る、態様11に記載のガス分離膜。
《態様13》前記ガス分離活性層が、固有微多孔性ポリマーから成る、態様12に記載のガス分離膜。
《態様14》測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、酸素/窒素の分離係数が2.0以上10以下である、態様1~13のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様15》態様5~9のいずれか一項に記載のガス分離膜の製造方法であって、
多孔性支持体に、低表面エネルギー層を形成して、クロロホルム接触角が10°以上90°以下となるように、多孔性支持体を撥クロロホルム化する、低表面エネルギー層形成工程、及び
前記低表面エネルギー層形成後の多孔性支持体に、ガス分離活性層を形成する、ガス分離活性層形成工程、及を含む、
ガス分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、優れた分離性能を持ち、塗布法によって容易に製造可能なガス分離膜が提供される。本発明のガス分離膜は、特に、酸素の透過速度が高く、酸素と窒素との分離に優れるから、例えば、酸素富化空気、窒素富化空気等の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のガス分離膜の構造の一例を模式的に示す、概略断面図である。
【
図2】本発明のガス分離膜の構造の別の一例を模式的に示す、概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《ガス分離膜》
本発明のガス分離膜は、
中空糸状多孔性支持体と、前記中空糸状多孔性支持体の内表面上に配置されたガス分離活性層とを有するガス分離膜であって、
多孔性支持体のクロロホルム接触角が、10°以上90°以下である。
【0011】
図1に、本発明のガス分離膜の一実施形態における構造を模式的に示す概略断面図である。
図1のガス分離膜(100)は、多孔性支持体(110)の片側の表面上に、ガス分離活性層(120)が形成されている。
多孔性支持体(110)は、細孔(111)を多数有する膜である。細孔(111)のそれぞれは、多孔性支持体(110)の表面に開口し、厚さ方向に伸び、膜の表裏を繋いで貫通する。
図1のガス分離膜(100)では、多孔性支持体(110)の表面上にのみガス分離活性層(120)を有し、多孔性支持体(110)の細孔(111)の内部には、ガス分離活性層(120)を有さない。
図1のガス分離膜(100)では、ガス分離活性層(120)は、多孔性支持体(110)の片側表面の全部を覆っている。
【0012】
図2に、本発明のガス分離膜の別の実施形態における構造を模式的に示す概略断面図である。
図2のガス分離膜(200)は、多孔性支持体(210)の片側の表面上に、ガス分離活性層(220)が形成されている。
多孔性支持体(210)は、細孔(211)を多数有する膜である。細孔(211)のそれぞれは、多孔性支持体(210)の表面に開口し、厚さ方向に伸び、膜の表裏を繋いで貫通する。
多孔性支持体(210)は、更に、表面上に低表面エネルギー層(230)を有する。この低表面エネルギー層(230)は、多孔性支持体(210)の表面(外表面)上のみならず、細孔(211)の内表面上にも存在している。細孔(211)は、内表面が低表面エネルギー層(230)によって被覆されているが、多孔性支持体(210)の表面への開口、及び膜の表裏を繋ぐ貫通の状態を維持している。
図2のガス分離膜(200)では、多孔性支持体(210)の表面上にのみガス分離活性層(220)を有し、多孔性支持体(210)の細孔(211)の内部には、ガス分離活性層(220)を有さない。
図1のガス分離膜(200)では、ガス分離活性層(220)は、多孔性支持体(210)の片側表面の全部を覆っている。
【0013】
以下、本発明のガス分離膜を構成する各要素について、順に詳細を説明する。
[多孔性支持体]
本実施形態のガス分離膜における多孔性支持体は、細孔を多数有する膜である。細孔は、多孔性支持体の表面に開口し、厚さ方向に延び、膜の表裏を繋いで貫通する微細な孔である。多孔性支持体は、表面上に、低表面エネルギー層を有していてもよい。この低表面エネルギー層は、多孔性支持体の外表面上若しくは細孔内表面上、又はこれらの双方に存在していてよい。
【0014】
多孔性支持体が有する細孔の表面平均孔径は、0.01μm以上2.0μm以下が好ましい。細孔の表面平均孔径が2.0μm以下であると、ガス分離活性層の塗工時に、塗工液が細孔の凹凸によって「ピン止め」され、乾燥時に塗工液が流れ難くなることにより、ガス分離活性層の欠陥の発生が抑制される。また、細孔の表面平均孔径が2.0μm以下であることにより、ガス分離活性層の機械的強度が保たれる利点もある。細孔の表面平均孔径が0.01μm以上であると、多孔性支持体のガス透過速度を、十分に高くすることができる他、塗工液のハジキを抑制することができる。細孔の表面平均孔径は、0.05μm以上1.8μm以下がより好ましく、0.1μm以上1.5μm以下が更に好ましく、0.2μm以上1.3μm以下が特に好ましく、0.3μm以上1.0μm以下がとりわけ好ましい。多孔性支持体が、細孔の内表面上に低表面エネルギー層を有する場合、上記の細孔の表面平均孔径は、低表面エネルギー層の存在によって狭められた後の細孔の表面平均孔径である。
多孔性支持体が低表面エネルギー層を有する場合、上記の細孔の表面平均孔径は、低表面エネルギー層形成後の値として理解されるべきである。
【0015】
多孔性支持体の表面平均孔径は、SEM画像解析によって算出される値である。SEM画像解析は、例えば以下のように行うことができる。得られたSEM像の2値化によって細孔の開口部を識別した後に、各孔の面積を求める。そして面積の小さい孔からその面積値を累計していき、累計値が全部の合計面積の50%の値になったときの孔の面積値から算出された円換算径を、多孔性支持体の表面平均孔径とする。
【0016】
(多孔性支持体のクロロホルム接触角)
本実施形態のガス分離膜における多孔性支持体は、クロロホルム接触角が、10°以上90°以下である。
多孔性支持体上に、塗布法によってガス分離活性層を形成する場合、多孔性支持体と塗工液との濡れ性を上げ、塗工液のハジキを抑制することにより、形成されるガス分離活性層の欠陥発生を起こり難くすることが一般的である。しかしながら、表面平均孔径の大きい細孔を有する多孔性支持体では、塗工液との濡れ性が過度に高いと、塗工液が細孔の内部に浸透してしまい、多孔性支持体上の表面開口部に欠陥を有するガス分離活性層が形成されることがある。
本実施形態のガス分離膜では、塗工液との濡れ性を適切な範囲に調節して、塗工液のハジキ、及び細孔の内部への塗工液の浸透の双方を抑制することにより、表面平均孔径の大きい細孔を有する多孔性支持体上に、欠陥のないガス分離活性層を形成したのである。
【0017】
以上の観点から、多孔性支持体のクロロホルム接触角は、10°以上90°以下であり、50°以上90°以下であることが好ましい。
クロロホルム接触角は、JIS R3257(1999)に規定の「静滴法」に準拠して、多孔性支持体のガス分離活性層を有する側の面について測定される値である。
【0018】
(多孔性支持体の素材)
この多孔性支持体は、実質的にはガス分離性能を有さないが、本実施形態のガス分離膜に機械的強度を与えることができる。
多孔性支持体を構成する素材の種類は問わない。しかしながら、多孔性支持体上にガス分離活性層を形成する際には、クロロホルムを溶媒とする塗工液が好ましく用いられることから、多孔性支持体を構成する素材としては、クロロホルムに耐性のある素材、例えば、ポリエーテルスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール等のホモポリマー又はコポリマー等を用いることが好ましい。
【0019】
(低表面エネルギー層)
本実施形態の多孔性支持体は、表面に低表面エネルギー層を有する、撥クロロホルム化多孔性支持体であってもよい。この低表面エネルギー層は、多孔性支持体の、外表面上若しくは細孔内表面上、又はこれらの双方に存在していてよい。多孔性支持体上に、塗布法によってガス分離活性層を形成するときに、細孔の内部への塗工液の浸透を抑制する観点からは、低表面エネルギー層は、少なくとも、多孔性支持体の細孔内表面上に存在していることが好ましい。
【0020】
低表面エネルギー層は、例えば、低表面エネルギー化合物から構成されていることが好ましい。低表面エナルギー化合物は、例えば、27mJ/m2以下の表面エネルギーを持つ化合物である。表面エネルギーが27mJ/m2以下であるとは、表面エネルギーがクロロホルムの表面張力(27mN/m)以下であることを意味し、この要件を満たすことにより、ガス分離活性層の形成時に、塗工液のハジキ、及び細孔の内部への塗工液の浸透の双方を抑制することができる。
【0021】
低表面エネルギー化合物は、例えば、シロキサン結合、シリル基、フッ素原子等を有する化合物であることが好ましく、フッ素原子を有する化合物であることがより好ましい。本実施形態における低表面エネルギー化合物の具体例としては、例えば、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール、2,2,4-トリフルオロ-5-トリフルオロメトキシ-1,3-ジオキソール等、並びにこれらのポリマー及びコポリマー、並びに下記式(1):
【化1】
で表される繰り返し単位を有するポリマー等を挙げることができる他、市販のフッ素系コーティング剤を使用することができる。市販のフッ素系コーティング剤としては、例えば、Novec1700、Novec2700(以上3M社製);エスエフコート((株)AGCセイミケミカル製)、RBX-HC1((株)ネオス製)、フロロサーフ((株)フロロテクノロジー製)等が挙げられる。
【0022】
(低表面エネルギー層の分析)
低表面エネルギー層を構成する低表面エネルギー化合物の同定は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)、固体核磁気共鳴分析(固体NMR)、X線光電子分光分析(XPS)、アルゴンガスクラスターイオン銃搭載X線光電子分光分析(GCIB―XPS)等によって行うことができる。
【0023】
(多孔性支持体の形状)
多孔性支持体の形状は、例えば、中空糸状、平膜状、プリーツ状等の任意の形状であってよい。多孔性支持体を中空糸状とし、その複数本をまとめて適当なハウジング内に収納してモジュール化すると、該モジュールにおけるガス分離活性層の合計表面積を極めて大きくすることができ、これにより、目的ガスの透過量を大きくすることができ、好ましい。
【0024】
[ガス分離活性層]
本実施形態のガス分離活性層は、分離対象のガス種に応じて、適宜に選択されてよい。分離対象ガスが空気である場合、空気との親和性を確保する観点から、ガス分子活性層の構成材料としては、含窒素複素環を有するポリマー、固有微多孔性ポリマー等のガス分離性ポリマーが挙げられ、これらから選択される1種以上を用いてよい。
【0025】
含窒素複素環を有するポリマーにおける含窒素複素環としては、例えば、ピロリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピロール環等が挙げられる。
含窒素複素環を有するポリマーとしては、例えば、ポリイミド、ポリピロロン、ポリピロールが挙げられ、これらから選択される1種以上を好ましく使用してよい。
固有微多孔性ポリマーは、スピロ中心又は高度な立体障害を有する部位と、ジベンゾジオキサン構造とを有する、ハシゴ型構造の繰返し単位から成るポリマーであってよい。固有微多孔性ポリマーは、例えば、下記式(2):
【化2】
で表される骨格を含む繰り返し単位から成るポリマーであってよく、具体的には例えば、下記式(3):
【化3】
で表される繰り返し単位から成る「PIM-1」、下記式(4)
【化4】
で表される繰り返し単位から成る「PIM-7」等が挙げられる。
【0026】
(ガス分離活性層の態様)
本実施態様のガス分離膜におけるガス分離活性層の厚みは0.1~10μmが好ましく、0.1~5μmであることがより好ましい。ガス分離活性層の厚みが10μm以下であると、十分に高いガスの透過速度を得ることができる。一方、ガス分離活性層の厚みが0.1μm以上であると、十分に高いガスの分離係数を得ることができる。
ガス分離活性層は、多孔性支持体の細孔に起因する支持体表面の凹凸に沿った形状を有していてよい。
【0027】
ガス分離活性層の一部は、多孔性支持体の細孔内部に含浸して存在していてもかまわない。ガス分離膜の機械的強度の観点からは、多孔性支持体の細孔内部にガス分離活性層が形成されていてもよい。しかしながら、ガスの透過速度を高く維持する観点からは、細孔内部のガス分離活性層の厚みはできる程度に薄いことが好ましく、細孔内部にガス分離活性層を有さないことが、より好ましい。
本発明のガス分離膜では、多孔性支持体が適度の撥クロロホルム性を有し、ガス分離活性層形成時に、塗工液のハジキは生じ難いが、塗工液が細孔内部に浸透し難いため、細孔内部のガス分離活性層の厚みを抑制することができ、細孔内部にガス分離活性層を有さないものと売ることも可能である。
【0028】
細孔内部のガス分離活性層の厚みは、例えば、SEM-EDX(SEMを用いたエネルギー分散型X線分光法)によって得られるフッ素原子の分布、GCIB―XPS(アルゴンガスクラスターイオン銃搭載X線光電子分光装置)によって測定された相対元素濃度の分布曲線等から知ることができる。
【0029】
ガス分離活性層は、多孔性支持体の両面にあってもよいし、片面上のみにあってもよい。多孔性支持体が中空糸状である場合には、ガス分離活性層は、中空糸状多孔性支持体の外側表面のみにあってもよいし、内側表面のみにあってもよいし、外側表面及び内側表面の双方の面上にあってもよい。
【0030】
[ガス分離膜の使用態様]
本実施形態のガス分離膜は、そのまま使用に供してもよいし、筒状容器内に収納してパッケージ化したガス分離膜モジュールとしたうえで使用に供してもよい。
中空糸状のガス分離膜をガス分離膜モジュールとして用いる場合には、1つの筒状容器内に収納するガス分離膜の数は、例えば、10本以上1,000本以下とすることができ、50本以上500本以下とすることが好ましい。
本実施形態におけるガス分離膜は、例えば、O2及びN2を含むガス(例えば空気)からO2を分離するために好適に用いることができる。
【0031】
[ガス分離膜の性能]
本実施形態のガス分離膜は、
測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、測定したときに、
酸素の透過係数が、好ましくは5GPU以上500GPU以下、より好ましくは10GPU以上300GPU以下であり、かつ、
酸素/窒素の分離係数が、好ましくは2.0以上10以下とすることができる。
なお、1GPUは、3.35×10-10mol/(m2・s・Pa)に相当するから、酸素の透過係数の値をmol/(m2・s・Pa)単位に換算すると、好ましくは16.8×10-10mol/(m2・s・Pa)以上1,680×10-10mol/(m2・s・Pa)以下であり、より好ましくは33.5×10-10mol/(m2・s・Pa)以上1,000×10-10mol/(m2・s・Pa)以下である。
酸素/窒素の分離係数は、酸素の透過係数と窒素の透過係数との比で表される。
【0032】
《ガス分離膜の製造方法》
本実施形態のガス分離膜の製造方法は、上記の構成のガス分離膜が得られる限り、任意である。
本実施形態のガス分離膜を製造するに際しては、多孔性支持体をそのままの形態でガス分離膜の製造に供してもよいし、複数個の多孔性支持体を容器内に収納してパッケージ化したうえでガス分離膜の製造に供してもよい。
本実施形態のガス分離膜をパッケージ化したうえでガス分離膜の製造に供して得られるパッケージ化されたガス分離膜は、そのままガス分離膜モジュールとして、使用に供することができる。
【0033】
以下、本発明のガス分離膜の製造方法につき、多孔性支持体が、細孔の内表面上に低表面エネルギー層を有する場合を例にとり、詳細に説明する。
この態様の本発明のガス分離膜は、例えば、
多孔性支持体に、低表面エネルギー層を形成して、クロロホルム接触角が10°以上90°以下となるように、多孔性支持体を撥クロロホルム化する、低表面エネルギー層形成工程、及び
前記低表面エネルギー層形成後の多孔性支持体に、ガス分離活性層を形成する、ガス分離活性層形成工程
を含む方法によって、製造することができる。
【0034】
[低表面エネルギー層形成工程]
低表面エネルギー層形成工程では、多孔性支持体に、低表面エネルギー層を形成して、クロロホルム接触角が10°以上90°以下となるように、多孔性支持体を撥クロロホルム化する。
低表面エネルギー層形成工程は、例えば、以下のステップを含む方法により、行うことができる:
所望の低表面エネルギー化合物を溶媒に溶解して、低表面エネルギー層形成用塗工液を調製する、塗工液調製ステップ、
得られた低表面エネルギー層形成用塗工液を多孔性支持体の表面上に塗工して塗膜を形成する、塗工ステップ、及び
得られた塗膜を乾燥して低表面エネルギー層を形成する、乾燥ステップ。
以下、これらのステップについて、順に説明する。
【0035】
(塗工液調製ステップ)
塗工液調製ステップでは、目的のガス分離膜における所望の低表面エネルギー層の構成に応じて適宜選択された低表面エネルギー化合物を溶媒に溶解して、低表面エネルギー層形成用塗工液を調製する。
ここで使用される溶媒は、使用する低表面エネルギー化合物の良溶媒であってよい。例えば、低表面エネルギー化合物としてフッ素原子を有する化合物を使用する場合には、溶媒としてはフッ素系溶媒が選択される。
塗工液中の低表面エネルギー化合物の濃度は、多孔性支持体の撥クロロホルム化の効率と、低表面エネルギー層の厚みの制御性とのバランスを考慮して、0.05質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
【0036】
(塗工ステップ)
塗工ステップでは、低表面エネルギー層形成用塗工液を多孔性支持体の表面上に塗工して塗膜を形成する。塗工方法としては、例えば、ディップ法(浸漬法)、ダイ塗工法、流延法、グラビア塗工法等が例示できる。
多孔性支持体が中空糸状であって、当該中空糸の内側表面に塗工する場合には、中空糸の内側空間に塗工液を流通させる方法によることが好ましい。その後、必要に応じて、中空糸の内側に気体(例えば、空気、窒素等)を流通させて、余分の塗工液を除去してもよい。
多孔性支持体が中空糸状であって、当該中空糸の外側表面に塗工する場合には、ディップ法によることが好ましい。
【0037】
(乾燥ステップ)
乾燥ステップでは、塗工ステップで得られた塗膜を乾燥して溶媒を除去し、多孔性支持体の表面上に低表面エネルギー層を形成する。
乾燥方法は、例えば、塗膜形成後の多孔性支持体を所定温度環境下に所定時間静置する方法、塗膜形成後の多孔性支持体を所定の減圧下に所定時間静置する方法、形成した塗膜上に気体(例えば、空気、窒素等)を流通させる方法等が挙げられる。これらのうちの2種以上の方法を同時に又は逐次的に行ってもよい。
多孔性支持体が中空糸状であって、当該中空糸の内側表面上の塗膜を乾燥する場合には、中空糸の内側空間に気体を流通させる方法によることが好ましい。気体の温度は、好ましくは20℃以上160℃以下であり、より好ましくは30℃以上100°以下である。流通時間は、好ましくは5分以上24時間以下である。この条件下で乾燥ステップを行うと、多孔性支持体の劣化を来たさずに、効率よく塗膜を乾燥して、好適な低表面エネルギー層を形成することができる。
【0038】
[ガス分離活性層形成工程]
ガス分離活性層形成工程では、低表面エネルギー層形成後の多孔性支持体に、ガス分離活性層を形成する。
ガス分離活性層形成工程は、例えば、以下のステップを含む方法により、行うことができる:
ガス分離活性層を構成する所望の成分(ガス分離性ポリマー)を溶媒に溶解して、ガス分離活性層形成用塗工液を調製する、塗工液調製ステップ、
得られたガス分離活性層形成用塗工液を多孔性支持体の表面上に塗工して塗膜を形成する、塗工ステップ、及び
得られた塗膜を乾燥してガス分離活性層を形成する、乾燥ステップ。
以下、これらのステップについて、順に説明する。
【0039】
(塗工液調製ステップ)
塗工液調製ステップでは、所望のガス分離性ポリマーを溶媒に溶解して、ガス分離活性層形成用塗工液を調製する。
溶媒は、ガス分離性ポリマーの種類により、適宜選択されてよい。例えば、含窒素複素環を有するポリマーから成るガス分離活性層を形成する場合は、当該含窒素複素環を有するポリマーを、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、ヘキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチル-2-ピロリドン、ジクロロメタン、アセトニトリル、ジオキサン等から選ばれる溶媒に溶解させる。固有微多孔性ポリマーから成るガス分離活性層を形成する場合は、当該固有微多孔性ポリマーを、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等から選ばれる溶媒に溶解させる。
塗工液中のガス分離性ポリマーの濃度は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましい。塗工液をこの範囲のポリマー濃度とすることにより、ガスの分離係数及び透過速度が高く、多孔性支持体との密着のよいガス分離活性層を均一に形成することが容易となる。
【0040】
(塗工ステップ)
塗工ステップでは、得られたガス分離活性層形成用塗工液を多孔性支持体の表面上に塗工して塗膜を形成する。
この塗工ステップは、塗工液としてガス分離活性層形成用塗工液を用いる以外は、低表面エネルギー層形成工程における塗工ステップと同様にして行うことができる。
ここでは、多孔性支持体が中空糸状であって、当該中空糸の内側表面に塗工する場合の特に好ましい態様について記載する。
【0041】
この場合、塗工ステップにおいて、例えば下記のように、中空糸状多孔性支持体の内側に上記の塗工液を流通させて、塗工面を形成することが好ましい。
先ず、中空糸状多孔性支持体の内側へ、塗工液を注入し、次いで排出する。このときの塗工液の線速は、30m/min以下とすることが好ましい。
中空糸状多孔性支持体の内側へ流通させる際の塗工液の温度は、使用する溶媒の沸点未満とすることが好ましい。溶媒の沸点未満の温度の塗工液を用いることにより、塗工中に溶媒の過度な揮発が抑制され、均一なガス分離活性層を得られる。
中空糸状多孔性支持体の内側へ注入した後、一旦排出された塗工液を、再び中空糸状多孔性支持体の内側へ注入して、循環流通させることも、本実施形態における好ましい態様である。
【0042】
上記塗工ステップを行いながら、若しくは塗工ステップの後に、又はこれらの双方において、中空糸状多孔性支持体の内側と外側とに圧力差を設ける工程を含んでもよい。中空糸状多孔性支持体の内側を高圧にし、外側を低圧にすることにより、塗工液が、中空糸状多孔性支持体の表面凹凸に適度に入り込み、多孔性支持体との密着のよいガス分離活性層を形成することができる。この場合の圧力差のかけ方としては、例えば、中空糸状多孔性支持体内側を加圧してもよいし、中空糸状多孔性支持体外側を減圧させてもよいし、それらを同時に行ってもよい。
中空糸状多孔性支持体の内側と外側との圧力差は、1kPa以上150kPa以下であることが好ましく、20kPa以上120kPa以下であることがより好ましい。この圧力差を1kPa以上とすると、密着のよい分離活性層を形成することができる。この圧力差が150kPa以下であれば、塗工液が、中空糸状多孔性支持体の表面凹凸に過度に入り込むことが抑制され、高い分離係数が得られる。
【0043】
(乾燥ステップ)
そして、乾燥ステップにおいて、塗工面を乾燥することにより、多孔性支持体の表面上に、ガス分離活性層が形成されて、本実施形態のガス分離膜を製造することができる。
乾燥ステップは、低表面エネルギー層形成工程の乾燥ステップと同様にして行うことができる。
しかしながら、ガス分離活性層形成工程における乾燥ステップでは、塗工後の多孔性支持体のうちの塗工層を有する表面上に、好ましくは20℃以上160℃以下、より好ましくは30℃以上100℃以下のガスを、好ましくは5分以上24時間以下送風する方法によることが好ましい。送風するガスは、例えば、空気、窒素等である。
【0044】
(ガス分離活性層形成工程の実施態様)
ガス分離活性層形成工程では、上記の塗工ステップ及び乾燥ステップから成るガス分離形成サイクルを、1回だけ行ってもよいし、2回以上繰り返して行ってもよい。ガス分離膜形成サイクルを2回以上繰り返して行う場合、各回の塗工条件及び乾燥条件は、それぞれ同じであってもよいし、相違していてもよい。
塗工ステップにおける塗工液のハジキを抑制する観点からは、ガス分離形成サイクルを2回行い、1回目の塗工ステップでは、比較的低濃度のガス分離活性層形成用塗工液を用い、2回目の塗工ステップで使用するガス分離活性層形成用塗工液の濃度を、1回目よりも高く設定することが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明について、実施例等を用いて更に具体的に説明する。しかしながら本発明は、これらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0046】
《実施例1》
(1)中空糸状多孔性支持体モジュールの製造
中空糸状多孔性支持体として、ポリフッ化ビニリデン製の多孔性中空糸(外径2.0mm、内径1.4mm、長さ20cm、内側表面の平均孔径0.8μm)を用い、その50本を筒状容器内に収納して、パッケージ化した。
低表面エネルギー化合物として、Teflon AF2400X(Du Pont社製、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとのコポリマー、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールの共重合割合約87モル%)をFC-770(3M製、フッ素系溶媒)中に溶解して、ポリマー濃度0.5質量%の低表面エネルギー層形成用塗工液を調製した。
上記の中空糸状多孔性支持体のパッケージに、上記の低表面エネルギー層形成用塗工液を、中空糸状多孔性支持体の内側を通るように注入し、中空糸状多孔性支持体の内側も外側も常圧のまま、10秒間保持した。次いで、中空糸状多孔性支持体の内側から低表面エネルギー層形成用塗工液を抜いた後、中空糸状多孔性支持体の内側に35℃の窒素を24時間送り込んで乾燥させることにより、中空糸状多孔性支持体の内表面側に低表面エネルギー層を有する中空糸状多孔性支持体50本がパッケージ化された、中空糸状多孔性支持体モジュールを製造した。
【0047】
(2)多孔性支持体のクロロホルム接触角の評価
上記で得られた、内表面側に低表面エネルギー層を有する中空糸状多孔性支持体の一部をサンプリングし、カッターで中空糸を切り開き、該中空糸の内側面について、クロロホルム接触角を測定した。クロロホルム接触角の測定は、JIS R3257(1999)に規定の「静滴法」に準拠して行った。測定結果を表1に示す。
【0048】
(3)ガス分離膜モジュールの製造
ガス分離活性ポリマーとして、固有微多孔性ポリマーであるPMI-1(上記式(3)で表される繰り返し単位から成るポリマー)をクロロホルムに溶解させて、ポリマー濃度1質量%のガス分離活性層形成用塗工液A、及びポリマー濃度3質量%のガス分離活性層形成用塗工液Bをそれぞれ調製した。
中空糸状多孔性支持体モジュールに、上記のガス分離活性層形成用塗工液Aを、中空糸状多孔性支持体の内側を通るように注入し、中空糸状多孔性支持体の内側も外側も常圧のまま、10秒間保持した。次いで、中空糸状多孔性支持体の内側からガス分離活性層形成用塗工液を抜いた後、中空糸状多孔性支持体の内側に35℃の窒素を24時間送り込んで乾燥させることにより、中空糸状多孔性支持体の内表面側にガス分離活性層Aを形成した。
次いで、内表面側にガス分離活性層Aを有する中空糸状多孔性支持体のモジュールに、ガス分離活性層形成用塗工液Bを、中空糸状多孔性支持体の内側を通るように注入し、以降はガス分離活性層Aの形成と同様にして、ガス分離活性層Bを形成し、中空糸状多孔性支持体の内表面側に、ガス分離活性層A及びガス分離活性層Bを有するガス分離膜50本がパッケージ化された、ガス分離膜モジュールを製造した。
【0049】
(4)O2の透過速度、並びにO2及びN2の分離速度の評価
上記で得られたガス分離膜モジュールを用いて、O2及びN2それぞれの透過速度を測定した。
測定は、測定温度30℃において行った。
供給ガスとして空気を中空糸状ガス分離膜の内側に、流量190cc/minにて流し、透過ガスのキャリアガスとしてヘリウムを中空糸状ガス分離膜の外側に、流量50cc/minにて流し、O2の透過速度TRO2及びN2の透過速度TRN2を求めた。このとき、中空糸状ガス分離膜内側の圧力は3気圧(O2分圧0.6気圧)に維持し、外側の圧力は1気圧を維持した。
O2の透過速度TRO2、及びO2の透過速度TRO2とN2の透過速度TRN2との比(TRO2/TRN2)として定義される酸素/窒素分離係数を、表1に示す。
【0050】
《実施例2~5及び比較例1~4》
中空糸状多孔性支持体の細孔の表面平均孔径、低表面エネルギー層形成用組成物中の低表面エネルギー化合物の種類及び濃度、並びにガス分離活性層を構成するガス分離性ポリマーの種類を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にしてガス分離膜を製造し、評価した。
結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1中の低表面エネルギー化合物及びガス分離性ポリマーの略称は、それぞれ、以下の意味である。
〈低表面エネルギー化合物〉
AF2400X:Teflon AF2400X(Du Pont社製、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとのコポリマー、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールの共重合割合約87モル%)
シリコーン:TSE382C(Momentive Performance Materials Inc.製、ポリアルキルシロキサン)
AF1600X:Teflon AF1600X(Du Pont社製、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとのコポリマー、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールの共重合割合約65モル%)
〈ガス分離性ポリマー〉
PIM-1:上記式(3)で表される繰り返し単位から成る、固有微多孔性ポリマー
マトリミド:マトリミド5218(Huntsman Corporation製、可溶性ポリイミド、含窒素複素環を有するポリマー)
【0053】
比較例1及び3では、クロロホルム接触角の測定において、多孔性支持体表面にクロロホルムを滴下した直後にクロロホルムが支持体に浸透し、液滴を形成しなかったため、クロロホルム接触角が測定できなかった。
【0054】
《分析例》
実施例1で得られたガス分離膜モジュールを分解して、中空糸状のガス分離膜を取り出し、BIB法によって切削した。その断面をSEMで分析したところ、多孔性支持体の細孔内にガス分離活性層が形成されていないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のガス分離膜は、酸素に対して高い透過係数を示し、酸素と窒素との分離係数が大きいガス分離活性層を持つものである。したがって、本発明のガス分離膜は、例えば、空気から、窒素富化空気及び酸素富化空気を生成するガス分離膜として、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
100、200 ガス分離膜
110、210 多孔性支持体
111、211 細孔
120、220 ガス分離活性層
230 低表面エネルギー層