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特許7441643セルユニット、それを備えるバッテリー、およびバッテリーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】セルユニット、それを備えるバッテリー、およびバッテリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20240222BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20240222BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240222BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240222BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20240222BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20240222BHJP
   H01M 10/6567 20140101ALI20240222BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M50/20
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6554
H01M10/6556
H01M10/6567
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019231361
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021099940
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 均
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-079780(JP,A)
【文献】特開2019-125665(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/60-10/667
H01M 50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱源としてのセルと、
複数の前記セル同士の間に少なくとも配置される多層シートと、
前記セルの少なくとも一方の端部に配置され、前記セルからの放熱を高めるための複数の放熱部材を備える放熱構造体と、
を備えるセルユニットであって、
前記多層シートは、
ゴム状弾性体からなるゴムシートと、
前記ゴムシートの両面に分離して積層され、隣り合う複数の前記セルの間の熱の伝導を低減可能な断熱シートと、
前記断熱シートの外側に分離して積層されており前記ゴムシートおよび前記断熱シートよりも熱伝導性に優れるシートであって、金属、炭素若しくはセラミックスの少なくとも1つを含む第1熱伝導シートと、
を備え、
前記放熱部材は、前記セルの少なくとも一方の端部に接触する長尺状の部材であって、その外側面を覆う第2熱伝導シートを備えることを特徴とするセルユニット。
【請求項2】
前記放熱部材は、その長さ方向に沿う中空部を備える筒状部材であることを特徴とする請求項1に記載のセルユニット。
【請求項3】
前記放熱部材は、前記第2熱伝導シートの内側に備えられる部材であって、前記第2熱伝導シートに比べて変形容易なクッション部材を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のセルユニット。
【請求項4】
前記放熱部材は、その長さ方向に沿う中空部を備え、
前記クッション部材は、前記放熱部材の長さ方向に長い前記中空部を備える筒状クッション部材であり、
前記第2熱伝導シートは、前記クッション部材の長さ方向に向かってスパイラル状に巻かれていることを特徴とする請求項3に記載のセルユニット。
【請求項5】
前記第2熱伝導シートと前記クッション部材は、一体にてスパイラル状に一方向に進行する形態を有することを特徴とする請求項3に記載のセルユニット。
【請求項6】
前記放熱構造体は、複数の前記放熱部材がその長さ方向に直交する方向に並んだ状態で連結部材により連結されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のセルユニット。
【請求項7】
前記放熱構造体は、複数の前記放熱部材が、複数の前記セルが並ぶ方向と直交する方向に並んだ状態で、前記連結部材により連結されていることを特徴とする請求項6に記載のセルユニット。
【請求項8】
前記断熱シートは、シリカエアロゲルを含むシートであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のセルユニット。
【請求項9】
前記ゴムシートは、シリコーンゴムを含むシートであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のセルユニット。
【請求項10】
前記第2熱伝導シートの表面に、当該表面に接触する前記セルから当該表面への熱伝導性を高めるための熱伝導性オイルを有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のセルユニット。
【請求項11】
前記熱伝導性オイルは、シリコーンオイルと、前記シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含むことを特徴とする請求項10に記載のセルユニット。
【請求項12】
冷却剤を流す構造を持つ筐体内に、請求項1から11のいずれか1項に記載のセルユニットを備えることを特徴とするバッテリー。
【請求項13】
請求項12に記載のバッテリーの製造方法であって、
前記セルユニットの前記放熱構造体の上に補助フィルムが積層されたフィルム付きセルユニットを生成する積層ステップと、
前記筐体における前記冷却剤を流す冷却部位と前記放熱構造体とが前記補助フィルムを介して密接するように、前記筐体内に前記フィルム付きセルユニットを挿入する挿入ステップと、
前記筐体から前記補助フィルムを引き抜き、前記放熱構造体を前記冷却部位に接触せしめる引き抜きステップと、
を有することを特徴とするバッテリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルユニット、それを備えるバッテリー、およびバッテリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車の普及が進行してきている。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などの課題がある。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発が大きな課題となっている。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。このため、先に説明した回路基板と同様、バッテリーにおいても、放熱性を高めることが重要視されている。
【0003】
バッテリー等の熱源から冷却剤への熱の移動を促進するには、熱の移動経路を高熱伝導性の材料で形成すること、及び熱源と当該高熱伝導性の材料との熱抵抗を下げることが必要になる。例えば、熱源から冷却剤への熱の移動を促進する構造として、アルミニウム等の熱伝導性に優れた金属製の筐体に水冷パイプを配置し、バッテリーセル(単に、「セル」という。)と筐体の底面との間に密着性のゴムシートを挟んだ構造が採用されている。このような構造のバッテリーでは、セルは、ゴムシートを通じて筐体に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。
【0004】
一方、自動車用バッテリー等の各種バッテリーは、内部短絡等が原因によりバッテリーが熱暴走し、異常発熱や発火等が生じる虞がある。近年、自動車用バッテリーとして、筐体内に複数のセルを並べて装着したものが知られている。このような複数のセルが並べて装着されたバッテリーにおいて、1つのセルに異常発熱や発火等が生じた場合、周囲のセルに熱が伝わることにより、さらに大きな発火、発煙、爆発等の不具合が生じる虞がある。このような不具合による被害を最小限に抑えるため、異常高温になったセルの熱を周囲のセルに伝え難くする方法が検討されており、例えば、複数のセル同士の間に耐火材や断熱層等を設ける方法が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-206604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のような従来のバッテリーにおいて、ゴムシートは、アルミニウムやグラファイトと比べて熱伝導性が低いため、セルから筐体に効率よく熱を移動させることが難しい。ゴムシートに代えてグラファイト等のスペーサを挟む方法も考えられるが、セルとスペーサとの間に隙間が生じ、伝熱効率が低下する。また、上述のように、セルの異常高温若しくは発火の際には、セル間の熱の伝達を抑制する必要がある。一方、セルの異常高温若しくは発火以外の平常時には、セルのような熱源から冷却部位への伝熱効率を高めることが望まれている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複数のセル同士の間の熱伝導を低減し、且つ、セルから冷却部位への伝熱効率を高めることが可能なセルユニット、それを備えるバッテリー、およびバッテリーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係るセルユニットは、複数の熱源としてのセルと、複数の前記セル同士の間に少なくとも配置される多層シートと、前記セルの少なくとも一方の端部に配置され、前記セルからの放熱を高めるための複数の放熱部材を備える放熱構造体と、を備えるセルユニットであって、前記多層シートは、ゴム状弾性体からなるゴムシートと、前記ゴムシートの両面に連続して若しくは分離して積層され、隣り合う複数の前記セルの間の熱の伝導を低減可能な断熱シートと、前記断熱シートの外側に分離して積層されており前記ゴムシートおよび前記断熱シートよりも熱伝導性に優れるシートであって、金属、炭素若しくはセラミックスの少なくとも1つを含む第1熱伝導シートと、を備え、前記放熱部材は、前記セルの少なくとも一方の端部に接触する長尺状の部材であって、その外側面を覆う第2熱伝導シートを備える。
【0009】
(2)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記放熱部材は、その長さ方向に沿う中空部を備える筒状部材である。
【0010】
(3)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記放熱部材は、前記第2熱伝導シートの内側に備えられる部材であって、前記第2熱伝導シートに比べて変形容易なクッション部材を備える。
【0011】
(4)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記放熱部材は、その長さ方向に沿う中空部を備え、前記クッション部材は、前記放熱部材の長さ方向に長い前記中空部を備える筒状クッション部材であり、前記第2熱伝導シートは、前記クッション部材の長さ方向に向かってスパイラル状に巻かれている。
【0012】
(5)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記第2熱伝導シートと前記クッション部材は、一体にてスパイラル状に一方向に進行する形態を有する。
【0013】
(6)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記放熱構造体は、複数の前記放熱部材がその長さ方向に直交する方向に並んだ状態で連結部材により連結されている。
【0014】
(7)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記放熱構造体は、複数の前記放熱部材が、複数の前記セルが並ぶ方向と直交する方向に並んだ状態で、前記連結部材により連結されている。
【0015】
(8)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記断熱シートは、シリカエアロゲルを含むシートである。
【0016】
(9)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記ゴムシートは、シリコーンゴムを含むシートである。
【0017】
(10)別の実施形態に係るセルユニットは、好ましくは、前記第2熱伝導シートの表面に、当該表面に接触する前記セルから当該表面への熱伝導性を高めるための熱伝導性オイルを有する。
【0018】
(11)別の実施形態に係るセルユニットでは、好ましくは、前記熱伝導性オイルは、シリコーンオイルと、前記シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。
【0019】
(12)一実施形態に係るバッテリーは、冷却剤を流す構造を持つ筐体内に、上述のいずれか1つのセルユニットを備える。
【0020】
(13)一実施形態に係るバッテリーの製造方法は、上述のバッテリーの製造方法であって、前記セルユニットの前記放熱構造体の上に補助フィルムが積層されたフィルム付きセルユニットを生成する積層ステップと、前記筐体における前記冷却剤を流す冷却部位と前記放熱構造体とが前記補助フィルムを介して密接するように、前記筐体内に前記フィルム付きセルユニットを挿入する挿入ステップと、前記筐体から前記補助フィルムを引き抜き、前記放熱構造体を前記冷却部位に接触せしめる引き抜きステップと、を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数のセル同士の間の熱伝導を低減し、且つ、セルから冷却部位への伝熱効率を高めることが可能なセルユニット、それを備えるバッテリー、およびバッテリーの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本実施形態に係るセルユニットの斜視図を示す。
図2図2は、本実施形態に係るセルユニットを構成しているセルスタックの一部分解斜視図を示す。
図3図3は、本実施形態に係るセルユニットを構成している多層シートの斜視図およびその一部Aの拡大図をそれぞれ示す。
図4図4は、本実施形態に係るセルユニットを構成している放熱構造体の平面図(4A)、当該(4A)におけるB-B線断面図(4B)、および当該断面図中の領域Cの拡大図(4C)をそれぞれ示す。
図5図5は、放熱構造体を構成している放熱部材の製造工程を説明するための図を示す。
図6図6は、放熱構造体の変形例の好適な製造工程を説明するための図を示す。
図7図7は、本実施形態に係るバッテリーの斜視図を示す。
図8図8は、本実施形態に係るバッテリーの製造方法の主なステップを含むフローチャートを示す。
図9図9(9A)および(9B)は、本実施形態に係るバッテリーの製造方法の主な工程をそれぞれ示す。
図10図10(10A)および(10B)は、本実施形態に係るバッテリーの製造方法の主な工程をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0024】
1.セルユニット
図1は、本実施形態に係るセルユニットの斜視図を示す。
【0025】
(1)セルユニットの概略構成
本実施形態に係るセルユニット1は、好ましくは、複数の熱源としてのバッテリーセル(以後、「セル」という。)50と、複数のセル50同士の間に少なくとも配置される多層シート10と、セル50の少なくとも一方の端部に配置され、セル50からの放熱を高めるための複数の放熱部材20を備える放熱構造体30と、を備える。セルユニット1は、好ましくは、さらに、スタックケース15を備える。スタックケース15は、複数のセル50および多層シート10を収容するケースである。セル50、多層シート10およびスタックケース15は、セルスタック60を構成する要素である(図2参照)。ここでは、セルユニット1は、5つのセル50を備えているが、セルユニット1に備えられるセル50の個数は特に限定されない。また、セルユニット1に備えられる放熱構造体30を構成する放熱部材20の個数についても、特に限定されない。
【0026】
次に、セルユニット1の各構成要素について説明する。
【0027】
(2)セルスタック
図2は、本実施形態に係るセルユニットを構成しているセルスタックの一部分解斜視図を示す。
【0028】
セルスタック60は、図2に示すように、複数のセル50と、複数のセル50同士の間に少なくとも配置される多層シート10とがスタックケース15に収容された部材である。スタックケース15は、好ましくは、少なくとも1つの面に設けられたケース開口部17を備える(図2参照)。よって、セルスタック60は、セル50の両側を多層シート10が挟むようにして、複数のセル50と複数の多層シート10とが積層された状態で、ケース開口部17からスタックケース15に収容される。スタックケース15は、樹脂または金属等により形成されることが好ましく、セル50からの放熱による温度上昇に耐え得る材料から形成されることがより好ましい。なお、スタックケース15は、放熱構造体30を載せる上面以外の面にケース開口部17を備えていても良いし、複数のケース開口部17を備えていても良い。また、スタックケース15は、ケース開口部17に蓋を備えていても良い。また、スタックケース15は、セル50および多層シート10を収容可能であればその形態に制約はないが、セル50と多層シート10とが密着して収容可能な形態であることが好ましい。
【0029】
(3)多層シート
図3は、本実施形態に係るセルユニットを構成している多層シートの斜視図およびその一部Aの拡大図をそれぞれ示す。
【0030】
多層シート10は、複数(ここでは、2つ)のセル50同士の間に少なくとも配置され、セル50からの熱を伝導可能なシートである。多層シート10は、ゴムシート13と、ゴムシート13の両面に連続して若しくは分離して積層され、隣り合う複数のセル50の間の熱の伝導を低減可能な断熱シート12と、断熱シート12の外側に分離して積層されておりゴムシート13および断熱シート12よりも熱伝導性に優れる第1熱伝導シート11と、を備える。以下、多層シート10の各構成要素について説明する。
【0031】
(3-1)第1熱伝導シート
第1熱伝導シート11は、図3に示すように、断熱シート12の外側に分離して積層されるシート、すなわち、多層シート10の最外層を形成するシートである。第1熱伝導シート11は、好ましくは炭素を含むシートであり、さらに好ましくは90質量%以上を炭素から構成されるシートである。例えば、第1熱伝導シート11に、樹脂を焼成して成るグラファイト製のフィルムを用いることもできる。ただし、第1熱伝導シート11は、炭素と樹脂とを含むシートであっても良い。その場合、樹脂は、合成繊維でも良く、その場合には、樹脂として好適にはアラミド繊維を用いることができる。本願でいう「炭素」は、グラファイト、グラファイトより結晶性の低いカーボンブラック、ダイヤモンド、ダイヤモンドに近い構造を持つダイヤモンドライクカーボン等の炭素(元素記号:C)から成る如何なる構造のものも含むように広義に解釈される。第1熱伝導シート11は、この実施形態では、樹脂に、グラファイト繊維やカーボン粒子を配合分散した材料を硬化させた薄いシートとすることができる。第1熱伝導シート11は、メッシュ状に編んだカーボンファイバーであっても良く、さらには混紡してあっても混編みしてあっても良い。なお、グラファイト繊維、カーボン粒子あるいはカーボンファイバーといった各種フィラーも、すべて、炭素フィラーの概念に含まれる。
【0032】
第1熱伝導シート11を炭素と樹脂とを備えるシートとする場合には、当該樹脂が第1熱伝導シート11の全質量に対して50質量%を超えていても、あるいは50質量%以下であっても良い。すなわち、第1熱伝導シート11は、熱伝導に大きな支障が無い限り、樹脂を主材とするか否かを問わない。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を好適に使用できる。熱可塑性樹脂としては、熱源からの熱を伝導する際に溶融しない程度の高融点を備える樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に挙げることができる。樹脂は、第1熱伝導シート11の成形前の状態において、炭素フィラーの隙間に、例えば粒子状あるいは繊維状に分散している。第1熱伝導シート11は、炭素フィラー、樹脂の他、熱伝導をより高めるためのフィラーとして、AlNあるいはダイヤモンドを分散していても良い。また、樹脂に代えて、樹脂よりも柔軟なエラストマーを用いても良い。第1熱伝導シート11は、また、上述のような炭素に代えて若しくは炭素と共に、金属および/またはセラミックスを含むシートとすることができる。金属としては、アルミニウム、銅、それらの内の少なくとも1つを含む合金などの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、セラミックスとしては、Al、AlN、cBN、hBNなどの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。
【0033】
第1熱伝導シート11は、導電性に優れるか否かは問わない。第1熱伝導シート11の熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上である。この実施形態では、第1熱伝導シート11は、好ましくは、グラファイト製のフィルムであり、熱伝導性と導電性に優れる材料から成る。第1熱伝導シート11は、湾曲性(若しくは屈曲性)に優れるシートであるのが好ましく、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.1~0.5mmがより好ましい。ただし、第1熱伝導シート11の熱伝導率は、その厚さが増加するほど低下するため、シートの強度、可撓性および熱伝導性を総合的に考慮して、その厚さを決定するのが好ましい。
(3-2)断熱シート
断熱シート12は、図3に示すように、第1熱伝導シート11の内側且つゴムシート13の外側に分離して積層されるシートである。断熱シート12は、好ましくは、シート状繊維塊を担持体として、シリカエアロゲルを含侵担持させたシリカエアロゲルシートである。シート状繊維塊としては、ガラス繊維; シリカ繊維、アルミナ繊維、チタニア繊維、炭化ケイ素繊維等のセラミックファイバー; 金属繊維; ロックウール、バサルト繊維等の人造鉱物繊維; 炭素繊維; ウイスカー等を抄造法にて紙状またはボード状にするか、適宜バインダーを添加してシート状に成形した不織布、マット、フェルト等のシート状成形物を用いることができる。これらのうち、シリカエアロゲルの断熱効果を有効に得るためには、シリカエアロゲルの耐熱温度(750℃程度)でも担持体としての形状を保持できる担持体がより好ましい。シリカエアロゲルの空孔率は、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。シリカエアロゲルは、単にシート状繊維塊中に含侵され分散しているだけでも良いし、バインダー等を用いてシート状繊維塊の構成繊維状に担持されるようにしても良い。
【0034】
断熱シート12の熱伝導率は、好ましくは0.2W/mk以下、より好ましくは、0.15W/mK以下である。断熱シート12は、担持体に基づく空孔およびシリカエアロゲルに基づく空孔内の対流とその低い熱伝導率により、優れた断熱性を示す。断熱シート12は、その厚さに制約はないが、0.05~2mmが好ましく、0.1~1.0mmがより好ましい。ただし、断熱シート12は、その厚さが薄くなるほど担持されるシリカエアロゲルの量が少なくなるため、断熱性は低下する。このため、断熱シート12の厚さは、シートの強度、可撓性および断熱性を総合的に考慮して、その厚さを決定するのが好ましい。また、断熱シート12として、シリカエアロゲル以外に、ステアタイト(MgO・SiO)、ジルコニア(ZrO)、コージライト(2MgO・2Al・5SiO)、フォルステライト(2MgO・SiO)、又はムライト(3Al・2SiO)の内の1又は2以上を備えたシートを用いても良い。
【0035】
(3-3)ゴムシート
ゴムシート13は、図3に示すように、断熱シート12の内側に積層される、すなわち、断熱シート12に挟まれて配置されるシートである。ゴムシート13は、ゴム状弾性体からなるシートである。「ゴム状弾性体」という文言に代えて「弾性体」あるいは「クッション部材」という文言を使用しても良い。ゴムシート13は、複数の熱源同士の間にあってクッション性を発揮させて熱源と第1熱伝導シート11との密着性を高める機能と、第1熱伝導シート11および断熱シート12に加わる荷重によって第1熱伝導シート11および断熱シート12が破損しないようにする保護部材としても機能とを有する。ゴムシート13は、第1熱伝導シート11に比べて低熱伝導性の部材である。
【0036】
ゴムシート13は、その内部に気泡を有するスポンジ状の部材、あるいは気泡を含まないゴム状弾性体のいずれでも良いが、より好ましくはスポンジ状の部材である。ゴムシート13は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。ゴムシート13は、第1熱伝導シート11および断熱シート12を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、ゴムシート13は、より好ましくは、シリコーンゴムの発泡体シートであるシリコーンスポンジシートである。ゴムシート13は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAl、AlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。
【0037】
第1熱伝導シート11と断熱シート12とゴムシート13とは、耐熱性の接着剤、両面テープ等の固定手段を用いて固定しても良いし、何らの固定手段も用いずに固定しても良い。
【0038】
(4)放熱構造体
図4は、本実施形態に係るセルユニットを構成している放熱構造体の平面図(4A)、当該(4A)におけるB-B線断面図(4B)、および当該断面図中の領域Cの拡大図(4C)をそれぞれ示す。
【0039】
放熱構造体30は、好ましくは、複数の放熱部材20がその長さ方向に直交する方向に並んだ状態で連結部材25により連結される(図4参照)。また、放熱構造体30は、好ましくは、複数の放熱部材20が、複数のセル50が並ぶ方向と直交する方向に並んだ状態で、連結部材25により連結される(図1参照)。
【0040】
放熱部材20は、セル50の少なくとも一方の端部に接触する長尺状の部材であって、その外側面を覆う第2熱伝導シート21を備える。また、放熱部材20は、好ましくは、その長さ方向に沿う中空部23を備える筒状部材であって、第2熱伝導シート21の内側に備えられる部材であって、第2熱伝導シート21に比べて変形容易なクッション部材22を備える。クッション部材22は、好ましくは、放熱部材20の長さ方向に長い中空部23を備える筒状クッション部材である。第2熱伝導シート21は、好ましくは、クッション部材22の長さ方向に向かってスパイラル状に巻かれている。放熱構造体30は、好ましくは、第2熱伝導シート21の表面に、当該表面に接触するセル50から当該表面への熱伝導性を高めるための熱伝導性オイルを有する。放熱構造体30を構成する複数の放熱部材20は、セル50からの押圧を受けていない状態では略円筒形状を有しているが、セル50の押圧を受けるとその押圧により圧縮され扁平した形態になる。なお、本願では、「断面」あるいは「縦断面」とは、セル50が並ぶ方向と直交する方向に沿って、一方の放熱構造体30から他方の放熱構造体30へと垂直に切断する方向の断面を意味する。以下、放熱構造体30の各構成要素について説明する。
【0041】
(4-1)第2熱伝導シート
第2熱伝導シート21は、放熱部材20の外側面を覆うシートである。第2熱伝導シート21は、第1熱伝導シート11と同様に、好ましくは炭素を含むシートであり、さらに好ましくは90質量%以上を炭素から構成されるシートである。第2熱伝導シート21は、第1熱伝導シート11と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。第2熱伝導シート21は、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましい。ただし、第2熱伝導シート21の熱伝導率は、その厚さが増加するほど低下するため、シートの強度、可撓性および熱伝導性を総合的に考慮して、その厚さを決定するのが好ましい。第2熱伝導シート21の幅と長さについては、特に制約はなく、クッション部材22の外側面を巻きながらクッション部材22の長さ方向に進行させ、当該外側面の全面若しくは大部分の面を覆うことのできる幅と長さであれば良い。
【0042】
(4-2)クッション部材
クッション部材22の重要な機能は、変形容易性と回復力である。回復力は、クッション部材22の弾性変形性に依る。変形容易性は、熱源の形状に追従するために必要な特性であり、特にリチウムイオンバッテリーなどの半固形物、液体的性状も持つ内容物などを変形しやすいパッケージに収めるようなバッテリーセルの場合には、設計寸法的にも不定形または寸法精度があげられない場合が多い。このため、クッション部材22の変形容易性や追従力を保持するための回復力の保持は重要である。
【0043】
クッション部材22は、長尺状の中実若しくは中空の部材であり、好ましくは、放熱部材20の長さ方向に長い中空部23を備える筒状部材(筒状クッション部材ともいう。)である。ただし、クッション部材22は、中空部23を備えず、中実状の部材、例えば円柱状の部材であっても良い。中空部23は、この実施形態では、クッション部材22の長さ方向に貫通している。ただし、中空部23の長さ方向の両端の少なくとも一方を閉塞しても良い。なお、中空部23の両端を閉塞すると、クッション部材22には、閉塞状の中空領域が形成される。
【0044】
クッション部材22は、放熱部材20に接触する熱源が平坦でない場合でも、第2熱伝導シート21と熱源との接触を良好にする機能を有する。さらに、中空部23は、クッション部材22の変形を容易にし、加えて放熱構造体30の軽量化に寄与する。クッション部材22は、熱源等からの第2熱伝導シート21に加わる荷重によって第2熱伝導シート21が破損等しないようにする保護部材としての機能も有する。クッション部材22は、第2熱伝導シート21に比べて弾性変形しやすく、熱源等からの押圧及びその開放による変形に起因して、割れや亀裂が入りにくい。このため、クッション部材22は、第2熱伝導シート21に亀裂が生じる事態を抑制することができる。この実施形態では、クッション部材22は、第2熱伝導シート21に比べて低熱伝導性の部材である。
【0045】
クッション部材22は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。クッション部材22は、第2熱伝導シート21を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、クッション部材22は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。クッション部材22は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAl、AlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。クッション部材22は、その内部に気泡を含むものの他、気泡を含まないものでも良い。また、「クッション部材」は、柔軟性に富み、熱源の表面に密着可能に弾性変形可能な部材を意味し、かかる意味では「ゴム状弾性体」と読み替えることもできる。さらに、クッション部材22の変形例としては、上記ゴム状弾性体ではなく、金属を用いて構成することもできる。クッション部材22は、樹脂やゴム等から形成されたスポンジあるいはソリッド(スポンジのような多孔質ではない構造のもの)で構成することも可能である。
【0046】
(4-3)連結部材
連結部材の一例である糸25は、2以上の放熱部材20を連結して、放熱部材20の自由な動きを規制する部材である。糸25は、好ましくは、120℃程度の高温に耐え得る糸であって、天然繊維、合成繊維、カーボン繊維、金属繊維等の繊維からなる撚糸で構成されることが好ましい。糸25は、放熱部材20が熱源等の加重を受けて扁平形状になっても、それを許容するだけの柔軟性あるいは輪の空間領域を備えるのが好ましい。糸25によって放熱部材20を縫って連結する方法としては、手で縫っても、あるいはソーイングマシンを使って縫っても良い。糸25の縫い方は、特に限定されず、手縫い、本縫い、千鳥縫い、単環縫い、二重環縫い、縁かがり縫い、扁平縫い、安全縫い、オーバーロック等の如何なる縫い方でも良い。また、JIS L 0120の規定する表示記号によれば、好適な縫い方として、「101」、「209」、「301」、「304」、「401」、「406」、「407」、「410」、「501」、「502」、「503」、「504」、「505」、「509」、「512」、「514」、「602」および「605」の各種縫い目を構成する縫い方を例示できる。
【0047】
放熱部材20同士の隙間は、放熱部材20がセル50等からの押圧を受けて潰れる際に、狭くなる。放熱部材20がほとんど潰れない場合には、第2熱伝導シート21とセル50等との密着性が低くなる可能性がある。かかるリスクを低減するのに適切な放熱部材20の上下方向、すなわちセル50から冷却部位に向かう方向に圧縮されたときの厚みは、少なくとも、放熱部材20の管径(=円換算直径:D)の80%である。ここで、「円換算直径」とは、放熱部材20をその長さ方向と垂直に切断したときの管断面の面積と同じ面積の真円の直径を意味する。放熱部材20が真円の断面をもった円筒の場合には、その直径は円換算直径と同一である。放熱部材20は、上記の圧縮を受けると、セル50等と接する面を平面とし、放熱部材20同士の隙間L1の方向を略円弧断面とするように変形するとみなすことができる。隙間L1を十分に大きくすれば、放熱部材20は隣接する放熱部材20と接触しない。逆に、隙間L1が小さすぎると、放熱部材20が上下方向に圧縮されても、隣接する放熱部材20に接触して、それ以上に潰れなくなる可能性がある。隙間L1を放熱部材20の円換算直径Dの11.4%以上にすれば、放熱部材20が円換算直径Dの80%の厚さに圧縮されて変形する際に、放熱部材20同士が接触して、当該変形の障害となることを防止できる。よって、放熱構造体30は、放熱部材20同士の隙間L1が放熱部材20の円換算直径Dの11.4%以上となるように、複数の放熱部材20が配置されることが好ましい(図4(4C)参照)。
【0048】
(4-4)熱伝導性オイル
熱伝導性オイルは、好ましくは、シリコーンオイルと、シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。第2熱伝導シート21は、微視的に、隙間(孔あるいは凹部)を有する。通常、当該隙間には空気が存在し、熱伝導性に悪影響を及ぼす可能性が有る。熱伝導性オイルは、その隙間を埋めて、空気に代わって存在することになり、第2熱伝導シート21の熱伝導性を向上させる機能を有する。
【0049】
熱伝導性オイルは、第2熱伝導シート21の表面、少なくとも熱源等と第2熱伝導シート21とが接触する面に備えられている。本願において、熱伝導性オイルの「オイル」は、非水溶性の常温(20~25℃の範囲の任意の温度)で液状若しくは半固形状の可燃物質をいう。「オイル」という文言に代え、「グリース」あるいは「ワックス」を用いることもできる。熱伝導性オイルは、熱源から第2熱伝導シート21に熱を伝える際に熱伝導の障害にならない性質のオイルである。熱伝導性オイルには、炭化水素系のオイル、シリコーンオイルを用いることができる。熱伝導性オイルは、好ましくは、シリコーンオイルと、シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。
【0050】
シリコーンオイルは、好ましくは、シロキサン結合が2000以下の直鎖構造の分子から成る。シリコーンオイルは、ストレートシリコーンオイルと、変性シリコーンオイルとに大別される。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルを例示できる。変性シリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルを例示できる。反応性シリコーンオイルは、例えば、アミノ変性タイプ、エポキシ変性タイプ、カルボキシ変性タイプ、カルビノール変性タイプ、メタクリル変性タイプ、メルカプト変性タイプ、フェノール変性タイプ等の各種シリコーンオイルを含む。非反応性シリコーンオイルは、ポリエーテル変性タイプ、メチルスチリル変性タイプ、アルキル変性タイプ、高級脂肪酸エステル変性タイプ、親水性特殊変性タイプ、高級脂肪酸含有タイプ、フッ素変性タイプ等の各種シリコーンオイルを含む。シリコーンオイルは、耐熱性、耐寒性、粘度安定性、熱伝導性に優れたオイルであるため、第2熱伝導シート21の表面に塗布して、熱源等と第2熱伝導シート21との間に介在させる熱伝導性オイルとして特に好適である。熱伝導性オイルは、好ましくは、油分以外に、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーを含む。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、ベリリウム、タングステンなどを例示できる。セラミックスとしては、アルミナ、窒化アルミニウム、キュービック窒化ホウ素、ヘキサゴナル窒化ホウ素などを例示できる。炭素としては、ダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブなどを例示できる。
【0051】
熱伝導性オイルは、熱源と第2熱伝導シート21との間に介在する他、第2熱伝導シート21と冷却部位との間に介在する方が好ましい。熱伝導性オイルは、第2熱伝導シート21の全面に塗布されていても、第2熱伝導シート21の一部分に塗布されていても良い。熱伝導性オイルを第2熱伝導シート21に存在させる方法は、特に制約されることなく、スプレーを用いた噴霧、刷毛等を用いた塗布、熱伝導性オイル中への第2熱伝導シート21の浸漬など、如何なる方法によるものでも良い。なお、熱伝導性オイルは、放熱構造体30にとって必須の構成ではなく、好適に備えることのできる追加的な構成である。
【0052】
2.セルユニットの製造方法
次に、本実施形態に係るセルユニット1の好適な製造方法の一例を説明する。まず、放熱構造体30を構成している放熱部材20の好適な製造方法の一例を説明する。
【0053】
図5は、放熱構造体を構成している放熱部材の製造工程を説明するための図を示す。
【0054】
まず、中空部23を有するクッション部材22を成形する。次に、クッション部材22の外側面に接着剤を塗布する。次に、帯状の第2熱伝導シート21を、クッション部材22の外側面上にスパイラル状に巻いた後、第2熱伝導シート21がクッション部材22の両端からはみ出した部分があれば、そのはみ出した部分をカット若しくはクッション部材22ごとカットする。最後に、第2熱伝導シート21の表面に、熱伝導性オイルを塗布する。クッション部材22と第2熱伝導シート21との間に接着剤を介在させないで固定することも可能である。その場合には、完全硬化する前の状態のクッション部材22を用意して、その外側面に帯状の第2熱伝導シート21を巻く。その後、クッション部材22を加温して完全硬化させて、クッション部材22の外側面に第2熱伝導シート21を固定する。
【0055】
第2熱伝導シート21のクッション部材22の両端からはみ出した部分をカットするカット工程および熱伝導性オイルを塗布する塗布工程は、上述のタイミングで行うことに限定されない。例えば、カット工程は、塗布工程後に行っても良い。
【0056】
放熱構造体30は、上述の製造方法により製造された複数の放熱部材20を、放熱部材20の長さ方向と直交する方向に並べた状態で、糸25で連結することにより製造される。
【0057】
セルユニット1は、上述のように製造された2つの放熱構造体30を、セルスタック60の上下面に積層することにより製造される。セルユニット1は、好ましくは、放熱構造体30を構成する複数の放熱部材20が並ぶ方向と複数のセル50が並ぶ方向とが直交するように、セルスタック60に放熱構造体30が積層される(図1参照)。セルユニット1をこのように構成することにより、セル50および多層シート10をより確実に放熱部材20と接触させることができ、もって、放熱部材20を介してセル50からの放熱を冷却部位へより確実に伝達させることができる。
【0058】
このように製造されたセルユニット1は、セル50同士の間に多層シート10が配置されるため、1つのセル50が異常発熱または発火した場合であっても、多層シート10を構成する断熱シート12により、隣接するセル50への熱伝導を低減させることができる。また、セル50の充放電時(発熱時)にセル50が膨張した場合であっても、多層シート10は、ゴムシート13により、セル50の形状に追従することができる。また、セルユニット1は、セル50および多層シート10の両端部に放熱構造体30を備えるため、セル50からの熱およびセル50から多層シート10へ伝わった熱を放熱構造体30へ確実に伝達させることができる。放熱構造体30は、複数の放熱部材20が糸25により簾状に連結されるため、セル50で圧縮された状態(図4(4C)参照)においてはセル50の表面に追従して放熱部材20が上下左右方向に潰れ、且つ、セル50を除いた状態においては放熱部材20の弾性力により元の形状に戻ることができる。また、放熱構造体30は、各放熱部材20がクッション部材22の外側面に第2熱伝導シート21をスパイラル状に巻いた構造を有しているため、クッション部材22の変形に対して過度に拘束しない。よって、複数のセル50同士の間の熱伝導を低減し、且つ、セル50から冷却部位への伝熱効率を高めることができる。
【0059】
本実施形態に係るセルユニット1の変形例の好適な製造方法の一例を説明する。この変形例において、上述のセルユニット1の放熱構造体30を構成している放熱部材20を放熱部材20aに代える点以外は、上述のセルユニット1と同様の製造方法により製造されているため、詳細な説明を省略する。以下、放熱部材20aの好適な製造方法について説明する。
【0060】
図6は、放熱構造体の変形例の好適な製造工程を説明するための図を示す。
【0061】
まず、帯状の積層シート28を製造する。帯状の積層シート28の製造において、第2熱伝導シート21とクッション部材22とは、好ましくは接着剤にて固定されている。次に、帯状の積層シート28を、スパイラル状に巻回しながら一方向に進行させて、長尺状の放熱部材20aを製造する。第2熱伝導シート21とクッション部材22との間に接着剤を介在させない製造方法としては、以下のような方法を例示できる。例えば、クッション部材22が完全には硬化していない未硬化状態で、第2熱伝導シート21をクッション部材22の上に貼る。その後、加温により、クッション部材22を完全に硬化させる。
【0062】
帯状の積層シート28をスパイラル状に巻回した後、積層シート28の両端をカットして形状を整えても良い。最後に、第2熱伝導シート21の表面に、熱伝導性オイルを塗布する。放熱部材20aは、その長さ方向に貫通する中空部23を備えている。中空部23は、上述の実施形態における放熱部材20と異なり、放熱部材20aの外側面方向にも貫通している。このように、クッション部材22は、第2熱伝導シート21の内側に配置され、第2熱伝導シート21とクッション部材22は、一体にてスパイラル状に一方向に進行する形態を有する。放熱部材20aは、その全体がスパイラル状であるため、上述の放熱部材20に比べて、放熱部材20aの長さ方向に伸縮容易である。
【0063】
3.バッテリー
次に、本実施形態に係るバッテリーについて説明する。
【0064】
図7は、本実施形態に係るバッテリーの斜視図を示す。
【0065】
この実施形態において、バッテリー40は、冷却剤45を流す構造を持つ筐体41内に、セルユニット1を備える。バッテリー40は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、多数のセル50を備える。バッテリー40は、好ましくは少なくとも一方に開口する有底型の筐体41を備える。筐体41は、好ましくは少なくとも1つの側面に開口部47を有する。筐体41は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。セル50は、筐体41の内部44に配置される。冷却部位42の一例である筐体41の上部および底部には、冷却剤45の一例である冷却水を流すために、1または複数の水冷パイプ43が備えられている。この実施形態では、水冷パイプ43は2以上存在する。しかし、1本の水冷パイプ43を筐体41の1面または2面にスネーク状に備えていても良い。冷却剤45は、冷却媒体あるいは冷却材と称しても良い。バッテリー40は、詳細は後述するが、開口部47からセルユニット1が挿入されることにより、セルユニット1が筐体41の内部44に配置される。よって、セル50は、冷却部位42との間に、放熱構造体30を挟むようにして筐体41内に配置されている。また、セル50は、隣接するセル50との間に、多層シート10を挟むようにして筐体41内に配置されている。
【0066】
このような構造のバッテリー40では、セル50は、多層シート10および/または放熱構造体30を通じて筐体41内(より具体的には、冷却部位42)に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。また、バッテリー40は、セル50同士の間に多層シート10が配置されるため、1つのセル50が異常発熱または発火した場合であっても、多層シート10を構成する断熱シート12により、隣接するセル50への熱伝導を低減させることができる。また、セル50の充放電時(発熱時)にセル50が膨張した場合であっても、多層シート10は、ゴムシート13により、セル50の形状に追従することができる。よって、複数のセル50同士の間の熱伝導を低減し、且つ、セル50からの伝熱効率を高めることができる。また、放熱構造体30は、複数の放熱部材20が糸25により簾状に連結されるため、例えば、自動車の振動等により放熱部材20が偏在する事態を抑制でき、施工性が高くなる。なお、冷却剤45は、冷却水に限定されず、液体窒素、エタノール等の有機溶剤も含むように解釈される。冷却剤45は、冷却に用いられる状況下にて、液体であるとは限らず、気体あるいは固体でも良い。
【0067】
4.バッテリーの製造方法
次に、本実施形態に係るバッテリーの製造方法について説明する。
【0068】
図8は、本実施形態に係るバッテリーの製造方法の主なステップを含むフローチャートを示す。図9(9A)および(9B)は、本実施形態に係るバッテリーの製造方法の主な工程をそれぞれ示す。図10(10A)および(10B)は、本実施形態に係るバッテリーの製造方法の主な工程をそれぞれ示す。
【0069】
この実施形態に係るバッテリーの製造方法は、筐体41内にセルユニット30を配置させて、上述のバッテリー40(図7参照)を製造する方法である。この実施形態に係るバッテリー40の製造方法は、積層ステップ(S110)、挿入ステップ(S120)、および引き抜きステップ(S130)を含む。以下、各工程について説明する。
【0070】
(1)積層ステップ(S110)
積層ステップは、セルユニット1の放熱構造体30の上に補助フィルム32が積層されたフィルム付きセルユニット5を生成するステップである(図9(9A)参照)。より具体的には、積層ステップは、セルユニット1を構成する2つの放熱構造体30の上に、すなわち、セルユニット1の上下面に、それぞれ補助フィルム32を積層するステップである。
【0071】
補助フィルム32は、好ましくは、樹脂からなるフィルムである。樹脂としては、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリアセテート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、合成ゴム、液晶ポリマー等で構成される。補助フィルム32は、これらの樹脂1種単独で構成されていても良いし、2種以上の樹脂を組み合わせた多層フィルムとして構成されていても良い。補助フィルム32は、放熱構造体30を覆うフィルムである。また、補助フィルム32は、好ましくは、放熱部材20の連結方向(複数のセル50が並ぶ方向)の一方の端部に、セルユニット1の上面または下面から外側に突出した突出部32aを備える。「突出部」は、「余剰領域」と言い換えても良い。突出部32aは、後述の引き抜きステップ(S130)において、作業者等が補助フィルム32を筐体41から引き抜く際に把持可能な大きさであることが好ましい。補助フィルム32は、その厚さに制約はないが、0.001~0.1mmが好ましく、0.01~0.05mmがより好ましい。また、補助フィルム32は、透明または半透明のフィルムであることが好ましい。
【0072】
(2)挿入ステップ(S120)
挿入ステップは、筐体41における冷却剤45を流す冷却部位42と放熱構造体30とが補助フィルム32を介して密接するように、筐体41内にフィルム付きセルユニット5を挿入するステップである(図9(9B)参照)。より具体的には、挿入ステップは、筐体41の開口部47からフィルム付きセルユニット5を挿入するステップである。このように筐体41の内部44にフィルム付きセルユニット5が挿入されることにより、補助フィルム32を介して、筐体41の上部および底部に設けられた冷却部位42と放熱構造体30とを密接させることができる。挿入ステップにおいては、補助フィルム32の突出部32aが筐体41の外側に突出するようにフィルム付きセルユニット5が挿入されることが好ましい。すなわち、挿入ステップにおいて、フィルム付きセルユニット5は、突出部32aと対向する側から筐体41内へ挿入されることが好ましい。
【0073】
(3)引き抜きステップ(S130)
引き抜きステップは、筐体41から補助フィルム32を引き抜き、放熱構造体30を冷却部位42に接触せしめるステップである(図10(10A)参照)。より具体的には、引き抜きステップは、作業者等により突出部32aが把持された状態で補助フィルム32が筐体41の外側(図10(10A)に示す矢印方向)へ引き抜かれるステップである。このように補助フィルム32が筐体41から引き抜かれることにより、放熱構造体30を冷却部位42に接触せしめることができる。このようにして、図10(10B)に示すようなバッテリー40を製造することができる。
【0074】
上述の製造方法により、複雑な製造工程を必要とせず、セルユニット1の放熱構造体30をセル50および冷却部位42と接触させるように、セルユニット1を筐体41内に配置したバッテリー40を製造することができる。また、上述の製造方法によれば、セルスタック60と放熱構造体30とが接着剤や両面テープ等の固定手段により固定されていない状態であっても、補助フィルム32を用いることにより、放熱構造体30の位置ずれを抑制しつつ、放熱構造体30がセル50および冷却部位42と接触するようにセルユニット1を筐体41内に配置させることができる。
【0075】
5.その他の実施形態
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0076】
セルユニット1は、放熱部材20,20aの両方を備えた放熱構造体を備えたものでも良い。放熱部材20,20aの形状は、円筒あるいは円柱以外に、楕円筒、楕円柱、三角以上の角筒若しくは角柱のような他の形状でも良い。放熱部材は、上述の放熱部材20,20aに限定されない。放熱部材は、第1熱伝導シート11や第2熱伝導シート21等の熱源からの熱を伝えるための熱伝導シートと、熱伝導シートの内方に備えられ、熱伝導シートに比べて熱源の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材とを備えるならば、以下のような各種形態の放熱部材を用いても良い。例えば、筒状のクッション部材の外側面を熱伝導シートで被覆した形態、筒状のクッション部材の外側面を熱伝導シートで一周以上被覆し、熱伝導シートの重複領域を非接着状態とした形態、縦にスリットの入った長尺クッション部材の外側面を熱伝導シートで被覆した形態、縦にスリットの入った長尺クッション部材の外側面を、同じく縦にスリットの入った熱伝導シートで被覆した形態の各種放熱部材を用いることができる。
【0077】
また、放熱部材20,20aは、クッション部材22を備えていたが、クッション部材22を備えていなくても良い。
【0078】
また、放熱部材20aにおけるスパイラル状のクッション部材22は、第2熱伝導シート21の幅と同一に限定されず、第2熱伝導シート21の幅に対して大きくても、あるいは小さくても良い。
【0079】
また、セルユニット1は、複数の放熱部材20,20aが並ぶ方向と複数のセル50が並ぶ方向とが直交するように、セルスタック60に放熱構造体30が積層されていたが、これに限定されない。例えば、セルユニット1は、複数の放熱部材20,20aが並ぶ方向と複数のセル50が並ぶ方向とが略平行となるように、セルスタック60に放熱構造体30が積層されていても良い。
【0080】
また、セルユニット1は、多層シート10の少なくとも端面と接触して当該端面の長さ方向(セル50が並ぶ方向に直交する方向)に長い中空状の熱伝導部材を備えていても良い。熱伝導部材は、その外側面が、第1熱伝導シート11や第2熱伝導シート21等の熱源からの熱を伝えるための熱伝導シートで覆われる部材であって、好ましくは、その外側面が多層シート10と同一構成のシートで覆われる部材である。また、この場合、セルユニット1は、多層シート10と熱伝導部材とが連続したシートで形成されることがより好ましい。
【0081】
また、上述の各実施形態の複数の構成要素は、互いに組み合わせ不可能な場合を除いて、自由に組み合わせ可能である。例えば、セルユニット1を構成する放熱構造体30は、放熱部材20aを備えていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係るセルユニットおよびバッテリーは、例えば、自動車用バッテリーの他、家庭用の充放電可能なバッテリー、PC等の電子機器用のバッテリーにも利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1・・・セルユニット、5・・・フィルム付きセルユニット、10・・・多層シート、11・・・第1熱伝導シート、12・・・断熱シート、13・・・ゴムシート、20,20a・・・放熱部材、21・・・第2熱伝導シート、22・・・クッション部材(筒状クッション部材はその一例)、23・・・中空部、25・・・糸(連結部材の一例)、30・・・放熱構造体、32・・・補助フィルム、40・・・バッテリー、41・・・筐体、42・・・冷却部位、45・・・冷却剤、50・・・セル(熱源の一例)。
図1
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図10