(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】千鳥縫いミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 35/02 20060101AFI20240222BHJP
D05B 35/10 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
D05B35/02
D05B35/10
(21)【出願番号】P 2019235595
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆弘
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-197783(JP,A)
【文献】特開2008-194218(JP,A)
【文献】特開平10-295967(JP,A)
【文献】特開平01-094891(JP,A)
【文献】米国特許第04573420(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの被縫製物の端縁部同士を突き合わせて接ぎ合わせ縫製を行う千鳥縫いミシンにおいて、
針落ち位置よりも前記被縫製物の送り方向上流側で、二つの前記被縫製物を個別に縫い針の針振り方向に沿って移動させる横送り機構と、
前記横送り機構よりも前記被縫製物の送り方向上流側となる搬送面上で、前記針振り方向の一方と他方とにそれぞれ配置された二つの前記被縫製物のそれぞれの接ぎ合わせが行われる端縁部の前記針振り方向における位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部の検出に基づいて二つの前記被縫製物の前記端縁部同士が接近又は当接するように前記横送り機構を制御する制御装置とを備え、
前記位置検出部は、二つの前記被縫製物のそれぞれの前記端縁部を跨ぐように、前記針振り方向に沿ったライン状の検出光を照射する光源と、当該光源の照射方向とは異なる方向から二つの前記被縫製物に照射された前記検出光を撮像する撮像部とを有し、
前記光源の前記検出光の照射方向と前記撮像部の視線の方向は、いずれも、前記搬送面に対して垂直かつ前記被縫製物の送り方向に平行な平面上のいずれかの方向であって、
前記搬送面の前記検出光の照射位置において、一方の前記被縫製物の前記端縁部と他方の前記被縫製物の前記端縁部との高低差を形成する高低差形成部を備
え、
前記制御装置は、前記検出光が分断された二つの分断光の分断されたそれぞれの端部の前記針振り方向の位置から求まる二つの前記被縫製物の前記端縁部の前記針振り方向における位置同士が接近又は当接するように前記横送り機構を制御することを特徴とする千鳥縫いミシン。
【請求項2】
前記光源の前記検出光の照射方向は、前記搬送面に対して法線方向であることを特徴とする
請求項1に記載の千鳥縫いミシン。
【請求項3】
前記光源は、レーザー光源であることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の千鳥縫いミシン。
【請求項4】
前記制御装置は、一方の前記被縫製物の前記端縁部と他方の前記被縫製物の前記端縁部との間に隙間が生じているかを判定し、前記隙間がない場合には隙間ができるように二つの前記被縫製物を移動させてから前記被縫製物の前記端縁部同士が接近又は当接するように前記横送り機構を制御することを特徴とする請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の千鳥縫いミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被縫製物と被縫製物とを接ぎ合わせる縫製を行う千鳥縫いミシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被縫製物の端縁部と被縫製物の端縁部との接ぎ合わせを行うには、縫製の進行方向に対して左右の針振りを行う千鳥縫いミシンによる縫製が行われていた。
そして、従来の縫製では、例えば、一方の被縫製物の端縁部と他方の被縫製物の端縁部の形状が不一致の場合には、作業者が手作業で端縁部と端縁部とを突き合わせて針落ち位置に各被縫製物を送っていた(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭55-48838号公報
【文献】特開2003-38877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各被縫製物の端縁部同士を突き合わせて針落ち位置に送る作業は、熟練を要するため、作業者によって縫い品質が大きく変動するおそれがあった。
【0005】
本発明は、縫い品質を安定的に高く維持することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
二つの被縫製物の端縁部同士を突き合わせて接ぎ合わせ縫製を行う千鳥縫いミシンにおいて、
針落ち位置よりも前記被縫製物の送り方向上流側で、二つの前記被縫製物を個別に縫い針の針振り方向に沿って移動させる横送り機構と、
前記横送り機構よりも前記被縫製物の送り方向上流側となる搬送面上で、前記針振り方向の一方と他方とにそれぞれ配置された二つの前記被縫製物のそれぞれの接ぎ合わせが行われる端縁部の前記針振り方向における位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部の検出に基づいて二つの前記被縫製物の前記端縁部同士が接近又は当接するように前記横送り機構を制御する制御装置とを備え、
前記位置検出部は、二つの前記被縫製物のそれぞれの前記端縁部を跨ぐように、前記針振り方向に沿ったライン状の検出光を照射する光源と、当該光源の照射方向とは異なる方向から二つの前記被縫製物に照射された前記検出光を撮像する撮像部とを有し、
前記搬送面の前記検出光の照射位置において、一方の前記被縫製物の前記端縁部と他方の前記被縫製物の前記端縁部との高低差を形成する高低差形成部を備え、
前記制御装置は、前記検出光が分断された二つの分断光の分断されたそれぞれの端部の前記針振り方向の位置から求まる二つの前記被縫製物の前記端縁部の前記針振り方向における位置同士が接近又は当接するように前記横送り機構を制御することを特徴とする。
【0007】
また、請求項1記載の発明は、
前記光源の前記検出光の照射方向と前記撮像部の視線の方向とは、いずれも、前記搬送面に対して垂直であって前記被縫製物の送り方向に平行な平面上のいずれかの方向であることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の千鳥縫いミシンにおいて、
前記光源の前記検出光の照射方向は、前記搬送面に対して法線方向であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の千鳥縫いミシンにおいて、
前記光源は、レーザー光源であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の千鳥縫いミシンにおいて、
前記制御装置は、一方の前記被縫製物の前記端縁部と他方の前記被縫製物の前記端縁部との間に隙間が生じているかを判定し、前記隙間がない場合には隙間ができるように二つの前記被縫製物を移動させてから前記被縫製物の前記端縁部同士が接近又は当接するように前記横送り機構を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、位置検出部の検出結果に応じて制御される横送り機構を備えるので、作業者の熟練度に拘わらず、縫い品質を安定的に高く維持することが可能となる。
さらに、本発明は、高低差形成部により、各被縫製物の端縁部にライン状の検出光が被縫製物の搬送方向に分断された状態で照射されるため、各被縫製物の端縁部同士の間に隙間が生じない場合であっても、適正に各端縁部の針振り方向における位置を検出することができ、より適正に各被縫製物の端縁部の針振り方向における位置を調整することが可能となり、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態である千鳥縫いミシンの主要部の構成を示す側面図である。
【
図2】千鳥縫いミシンの主要部の構成を示す平面図である。
【
図3】千鳥縫いミシンの制御系を示すブロック図である。
【
図5】千鳥縫いの縫い目の一例を示す平面図である。
【
図6】第一及び第二の横送り機構の構成を図示した断面図である。
【
図7】高低差形成部により高低差が設けられた各被縫製物に対して相互の端縁部を跨ぐように照射された検出光をカメラにより撮像した撮像画像の例を示す説明図である。
【
図8】端縁部位置調整制御を示すフローチャートである。
【
図9】端縁部位置調整制御の他の例を示すフローチャートである。
【
図11】高低差形成部のさらに他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態]
本発明の実施形態について説明する。
図1は本実施形態である千鳥縫いミシン10の主要部の構成を示す側面図、
図2は千鳥縫いミシン10の平面図、
図3は千鳥縫いミシン10の制御系を示すブロック図である。
なお、千鳥縫いミシン10(以下、単にミシン10という)は、水平面上に置いた状態で、被縫製物C1,C2の送り方向が水平となる。以下の説明では、この被縫製物C1,C2の送り方向をX軸方向、水平であってX軸方向に直交する方向をY軸方向、鉛直上下方向をZ軸方向とする。
また、X軸方向であって被縫製物C1,C2の送り方向下流側を「前」、上流側を「後」とし、Y軸方向であって前を向いた状態で左手側を「左」、右手側を「右」とし、Z軸方向の一方を「上」、他方を「下」とする。
【0014】
ミシン10は、二つの被縫製物C1,C2の端縁部C11,C21同士を突き合わせて接ぎ合わせ縫製を行うことに好適なミシンである。
図4は被縫製物C1と被縫製物C2の一例を示す平面図である。ここでは、被縫製物C1,C2は、いずれも、後述する高低差形成部H1が形成する被縫製物C1,C2間の高低差よりも厚みがあり、弾性的な柔軟性を有するシート材料を例示する。なお、これは例示であって、薄い他の素材のシート材料の接ぎ合わせ縫製を行うことも可能である。
【0015】
接ぎ合わせが行われる被縫製物C1におけるY軸方向の一端部に位置する端縁部C11の形状と被縫製物C2におけるY軸方向の他端部に位置する端縁部C21の形状が異なっており、これらが接ぎ合わせ縫製によって結合されることにより、各被縫製物C1,C2が曲面形状となり、縫製後の完成品は立体的な形状となる。
上記被縫製物C1,C2に対して、ミシン10は、端縁部C11,C21同士を隙間ができないように突き合わせて針落ち位置に送り込み、双方の端縁部C11,C21に縫い目が渡るように千鳥縫いを施して接ぎ合わせ縫製を行う。
【0016】
図5は千鳥縫いの縫い目の一例を示す平面図である。図示のように、千鳥縫いの縫い目は、左右に交互に斜行する縫い目がX軸方向に沿って連続して鋸歯状をなし、左方と右方とに斜行する各々の縫い目が突き合わされた端縁部C11,C21を跨ぐことにより、端縁部C11,C21同士を密着させた状態で連結する。
なお、
図5は、端縁部C11,C21に対して三針ずつ交互に針落ちを行ういわゆる四点千鳥縫いの縫い目を例示しているが、端縁部C11,C21に対して一針ずつ交互に針落ちを行ういわゆる二点千鳥縫いの縫い目を形成しても良い。
【0017】
[千鳥縫いミシンの概略構成]
図1~
図3に示すように、千鳥縫いミシン10は、針落ち位置Fにおいて縫い針11を上下動させる針上下動機構と、Y軸方向に沿って縫い針11の針振りを行う針振り機構と、縫い針11の針落ち位置において送り歯21によって所定の送りピッチで被縫製物C1,C2の送りを行う送り機構と、送り歯21の下側で縫い針11に通された上糸に下糸を絡める釜機構と、針落ち位置Fの後方(送り方向上流側)でY軸方向に沿って並んで配置された被縫製物C1,C2のそれぞれにY軸方向の移動動作を付与する横送り機構30と、横送り機構30の後方(送り方向上流側)で針振り方向の一方と他方とにそれぞれ配置された二つの被縫製物C1,C2のそれぞれの端縁部C11,C21のY軸方向における位置を検出する位置検出部40と、上記各構成を格納又は支持するミシンフレームと、上記各構成を制御する制御装置90とを備えている。
【0018】
針上下動機構は、ミシンモーター12を駆動源としてクランク機構により縫い針11を保持する針棒に上下動を付与する周知の構造である。
針振り機構は、針振りモーター13を駆動源として、針棒を上下動可能に支持する針棒台をY軸方向に沿って任意に移動させる周知の構造である。
送り機構は、ミシンフレームのミシンベッド部上面に装備された図示しない針板に形成された左右の開口部から出没可能な送り歯21と、ミシンモーター12から動力を得て、X-Z平面に沿った長円運動を送り歯21に付与する動力伝達機構とを備える周知の構成である。長円運動の軌跡の上部を移動する際に、送り歯21が針板の開口部から上方に突出して、その移動方向に被縫製物C1,C2を送ることができる。なお、この送り機構は、一回の送り量(送りピッチ)を送り調節モーター14により任意に調整することができる。
また、針板における送り歯21の出没位置の上方には各被縫製物C1,C2を一定のバネ圧で押さえる押さえ足23が設けられている。
釜機構は、回転により上糸のループを捕捉する外釜と、下糸を巻いたボビンを格納する内釜と、ミシンモーター12から動力を得て外釜に回転力を付与する動力伝達機構とを備える周知の構成である。
【0019】
千鳥縫いミシン10は、図示しないミシンフレームのミシンベッド部の上面が各被縫製物C1,C2の搬送面Hとなっている。この搬送面Hは、X-Y平面に平行であり、図示しない針板の上面と面一である。以下の説明では、針板の上面も含めて搬送面Hとする。
搬送面Hの針棒の直下位置には、許容される最大の針振り幅に応じた長円状の針穴が針落ち位置Fとして形成されている。この針穴は、その長手方向がY軸方向に平行となっている。
なお、針振り機構は、針落ち位置Fとしての針穴のY軸方向における中間点を中心として左右方向に同一の幅で針振りを行う。この針穴の中間点を通過するX軸方向に沿った直線を針振りの基線Kとする。
縫製の際には、搬送面H上において、基線Kの左側に一方の被縫製物C1が配置され、基線Kの右側に他方の被縫製物C2が配置される。
【0020】
[横送り機構]
横送り機構30は、基線Kにおいて、被縫製物C1の端縁部C11と被縫製物C2の端縁部C21とが接近又は当接するように各被縫製物C1,C2のY軸方向に沿って移動動作を付与する。
横送り機構30は、基線Kの左側に配置され、被縫製物C1に対して上方からY軸方向に沿った移動動作を付与する第一の横送り機構30Aと、基線Kの右側に配置され、被縫製物C2に対して上方からY軸方向に沿った移動動作を付与する第二の横送り機構30Bとから構成されている。
【0021】
図6は第一及び第二の横送り機構30A,30Bの構成を図示した断面図である。なお、これら第一及び第二の横送り機構30A,30Bは、同一構造、同一構成であるため、その構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
第一及び第二の横送り機構30A,30Bは、被縫製物C1又はC2を外周の接線方向に送るローラー31と、ローラー31の外周に沿って均一間隔で配置された複数のホイール32と、ローラー31が固定装備された回転軸33と、回転軸33を回転可能に支持する支持枠34と、駆動源からのトルクを回転軸33に伝達する一対のスプロケット35,36及びタイミングベルト37と、駆動源としての横送りモーター38とを備えている。
【0023】
各ホイール32は、ローラー31の外周に均一間隔で設けられ、それぞれの取り付け位置における接線方向に沿った軸回りに回転可能であり、ローラー31の外周に接して接線方向に送られる被縫製物C1又はC2が、当該ローラー31に対して、回転軸33に沿った方向又は回転軸33に対して幾分傾斜した方向に移動することを許容する。
なお、厳密には、ローラー31は各ホイール32を介して被縫製物C1又はC2に接することになるが、本明細書では説明の簡略化のために、被縫製物C1又はC2が「ローラー31の外周に接する」又は「ローラー31に接する」と記載する。
【0024】
[位置検出部]
位置検出部40は、
図1に示すように、横送り機構30の後方(送り方向上流側)となる搬送面H上で、基線Kを跨いでY軸方向に沿ったライン状の検出光Lを照射する光源41と、当該光源41の照射方向とは異なる方向から検出光Lを撮像する撮像部としてのカメラ42とを有している。
【0025】
具体的には、光源41は、単一波長光のレーザー光源からなり、カメラ42は、光源41の単一波長光の撮像に適したフィルターを有する。
光源41は、Z軸方向下方に検出光Lを照射する。これに対して、カメラ42は、X-Z平面に平行であって、前斜め下に傾斜した方向に向けられた視線で搬送面H上の検出光の照射位置を撮像範囲の中心として撮像するようにミシン10に取り付けられている。
【0026】
一方、
図2に示すように、搬送面H上には、検出光Lの照射位置の近傍において、一方の被縫製物C1と他方の被縫製物C2との高低差を形成する高低差形成部H1が設けられている。
この高低差形成部H1は、搬送面H上における基線Kを境界とするY軸方向片側(右側)について、搬送面Hよりも高くなるように設けられた矩形の突出部からなる。高低差形成部H1は、その上面がX-Y平面に沿って平滑であり、X軸方向の幅が検出光Lよりも十分に広く設定されている。これにより、被縫製物C1,C2がない状態で検出光Lの右半分は、高低差形成部H1の上面に照射される。
なお、高低差形成部H1は、一方の被縫製物C1と他方の被縫製物C2とに高低差が設けることができれば良いので、基線Kからある程度離れてもよく、また、形状も矩形ではなくとも良い。
【0027】
図7は、高低差形成部H1により高低差が設けられた被縫製物C1と被縫製物C2に対して相互の端縁部C11,C21を跨ぐように照射された検出光Lをカメラ42により撮像した撮像画像である。
カメラ42は、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサーを備え、撮像画像を画像データに変換することができ、画像データは画像処理装置43(
図3参照)に入力される。
そして、画像処理装置43の処理結果は、制御装置90に入力され、撮像範囲内における検出光Lの各部の位置から端縁部C11,C21の基線Kに対するY軸方向におけるズレ量が求められ、第一及び第二の横送り機構30A,30Bによる被縫製物C1,C2のY軸方向の位置調整量を決定する。
【0028】
被縫製物C1,C2のそれぞれの端縁部C11,C21は、いずれもY軸方向について基線Kと一致した位置で針落ち位置Fに搬送する必要があるため、各端縁部C11,C21におけるY軸方向の位置は正確に検出する必要がある。
従って、検出光Lにおける被縫製物C1側の部分を分断光L1,被縫製物C2側の部分を分断光L2とした場合、撮像画像から分断光L1のY軸方向における右端部の位置を求めることで、被縫製物C1の端縁部C11の基線Kに対するズレ量を検出することができる。また、同様に、撮像画像から分断光L2のY軸方向における左端部の位置を求めることで、被縫製物C2の端縁部C21の基線Kに対するズレ量を検出することができる。
【0029】
なお、被縫製物C1と被縫製物C2との間にY軸方向の隙間Nが存在する場合、当該隙間Nにおいて、検出光Lが搬送面Hの上面に直接照射されることによる反射光が生じるが、例えば、搬送面Hの上面に低反射性のコーティング等を施すことにより、分断光L1,L2と搬送面Hの上面の直接的な反射光とを容易に識別することが可能となる。
【0030】
ところで、高低差形成部H1が存在しない搬送面Hを仮定した場合、搬送面H上の被縫製物C1,C2の端縁部C11,C21に隙間Nが生じている場合には、被縫製物C1側の分断光L1と被縫製物C2側の分断光L2とは、Y軸方向について離隔するので、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部とは、それぞれ撮像画像から明確に抽出することができ、それぞれのY軸方向の位置を正確に検出することができる。
しかしながら、端縁部C11,C21に隙間Nが生じていなかった場合には、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部とは結合して一直線上のライン光となるので、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部とが抽出困難となり、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部のY軸方向の位置を正確に検出することが困難となる。
【0031】
このような問題に対応するために、搬送面H上における検出光Lの照射位置において、被縫製物C1と被縫製物C2とに高低差を形成する高低差形成部H1が設けられているので、カメラ42が斜め方向から撮像を行った場合、端縁部C11,C21の隙間Nの有無に拘わらず分断光L1と分断光L2との間には、X軸方向のズレSが必ず生じる。このため、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部とが撮像画像から明確に抽出することができ、それぞれのY軸方向の位置をより確実により正確に検出することができる。
【0032】
[制御装置]
図3に示すように、ミシン10は、縫製時においてミシン全体を制御する制御装置90を備えている。
制御装置90には、前述した針上下動機構のミシンモーター12、針振り機構の針振りモーター13、送り機構の送り調節モーター14、第一及び第二の横送り機構30A,30Bの横送りモーター38がそれぞれ駆動回路12a,13a,14a,38aを介して接続されている。
また、ミシンモーター12により回転駆動する図示しないミシン主軸には、その軸角度を検出するエンコーダー15が設けられており、インターフェイス15aを介して検出軸角度を制御装置90に出力するようになっている。このエンコーダー15の出力から主軸の回転数や回転角度を検出することができる。
【0033】
また、制御装置90には、位置検出部40の光源41が電源回路41aを介して接続されている。
さらに、位置検出部40のカメラ42が駆動回路42aを介して接続され、画像処理装置43がインターフェイス43aを介して接続されている。
【0034】
そして、制御装置90は、各種の演算処理を行うCPU91と、上述した各構成の動作制御に関するプログラムが格納されたROM92と、CPU91の処理に関する各種データをワークエリアに格納するRAM93と、各種の設定データ、縫製データ等を記録する記憶部としてのEEPROM94とを備えている。
なお、各種の設定データ、縫製データ等の記録媒体は、EEPROM94に替えて、不揮発性のあらゆる記録媒体を使用することが可能である。
さらに、ミシン10は、各種設定を入力したり、各種情報を表示したりするための操作パネル95を備えており、かかる操作パネル95もインターフェイス95aを介して制御装置90に接続されている。
【0035】
[縫製動作制御]
制御装置90のCPU91は、四点千鳥縫いを行う場合には、ミシンモーター12の駆動時において、エンコーダー15により、規定の主軸角度が検出されると、針振りモーター13を制御して、予め定められた針振り幅で縫い針を左方又は右方に移動させる。
四点千鳥縫いの場合、三針ごとに左右の針振り方向が切り替えられるので、エンコーダー15の出力から針数をカウントし、三針ごとに針振り方向を変更するように、針振りモーター13を制御する。
縫製を行う針数が予め設定されている場合には、縫製中に針数をカウントし、目標針数に達したら、縫製を終了する。
また、針数が予め設定されていない場合には、縫製終了の指令の入力を受けて、縫製を終了する。
【0036】
[端縁部位置調整制御]
次に、制御装置90のCPU91が上記縫製中に実行する端縁部位置調整制御について
図8のフローチャートに基づいて説明する。この端縁部位置調整制御は、縫製中において、短周期的に繰り返し実行される。この端縁部位置調整制御は、針落ちの周期と同期させて行ってもよいし、より短周期で実行しても良い。
【0037】
制御装置90のCPU91は、ROM92に格納された制御プログラムに従って、千鳥縫いの縫製動作中において、針落ち位置Fの後方(送り方向上流側)で位置検出部40の光源41により検出光Lを被縫製物C1,C2の上面に照射する(ステップS1)。
被縫製物C1,C2は、高低差形成部H1により高低差が設けられているので、検出光Lは、被縫製物C1,C2の境界でX軸方向に分断され、分断光L1,L2がカメラ42によって撮像される(ステップS3)。
【0038】
撮像画像は、画像データ化され、画像処理装置43の画像処理によって分断光L1,L2の端部位置が検出される(ステップS5)。
CPU91は、検出された分断光L1の右端部の位置から基線Kに対するY軸方向のズレ量を求め、第一の横送り機構30Aによる被縫製物C1のY軸方向の位置調整量を決定する。また、同様に、検出された分断光L2の左端部の位置から基線Kに対するY軸方向のズレ量を求め、第二の横送り機構30Bによる被縫製物C2のY軸方向の位置調整量を決定する。
【0039】
そして、CPU91は、第一及び第二の横送り機構30A,30Bのそれぞれの横送りモーター38を制御し、被縫製物C1,C2のY軸方向の位置調節を実行する(ステップS7)。
これにより、針落ち位置Fの直前で被縫製物C1の端縁部C11と被縫製物C2の端縁部C21とが、それぞれ基線Kの位置に位置決めされた状態となり、送り機構によって針落ち位置に送られて、被縫製物C1の端縁部C11と被縫製物C2の端縁部C21とが密接した状態で接ぎ合わせ縫製が行われる。
【0040】
[発明の実施形態の技術的効果]
以上のように、ミシン10では、位置検出部40の検出結果に応じて制御される横送り機構30を備えるので、作業者の熟練度に拘わらず、縫い品質を安定的に高く維持することが可能となる。
さらに、ミシン10では、位置検出部40の光源41が二つの被縫製物C1,C2のそれぞれの端縁部C11,C21を跨ぐように、Y軸方向に沿ったライン状の検出光Lを照射し、カメラ42は、光源41の照射方向とは異なる方向から二つの被縫製物C1,C2に照射された検出光Lを撮像している。
そして、被縫製物C1,C2がない状態での搬送面Hの検出光Lの照射位置において、一方の被縫製物C1と他方の被縫製物C2との高低差を形成する高低差形成部H1を備えているので、被縫製物C1側と被縫製物C2側とに検出光Lを分断してなる分断光L1と分断光L2とがX軸方向にずれた状態で撮像されるため、被縫製物C1,C2の間に隙間が生じていない場合でも、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部のY軸方向における位置を良好に検出することができ、被縫製物C1,C2の端縁部C11,C21をそれぞれY軸方向について基線K上の適正な位置に調整することができ、隙間が生じないように接ぎ合わせ縫製を行うことが可能となる。また、縫い目のY軸方向の中心に被縫製物C1と被縫製物C2の境界が位置するように千鳥縫い縫製を行うことができ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0041】
また、位置検出部40の光源41の検出光Lの照射方向とカメラ42の視線の方向とを、いずれも、搬送面Hに対して垂直かつ被縫製物C1,C2の送り方向に平行なX-Z平面上のいずれかの方向としている。このため、分断光L1の端縁部と分断光L2の端縁部とがY軸方向について合致している状態であれば被縫製物C1と被縫製物C2値で端縁部同士が近接又は当接していると判断することができ、また、合致しないで離隔している場合でも、画面上の離隔距離に対して光軸又は視線の傾斜を考慮して補正する演算を不要とすることができるので、処理を簡易化し正確性を確保し易くなる。一方、X-Z平面に対して傾斜している方向からの照射又は撮像を行った場合には、被縫製物C1と被縫製物C2値で端縁部同士が近接又は当接している場合でも撮像画面上では離隔を生じ、さらに、離隔を生じている場合には、画面上の離隔距離に対して光軸又は視線の傾斜を考慮して補正する演算を必要となり、処理の複雑化が生じる。
【0042】
また、光源41の検出光Lの照射方向を搬送面Hに対して垂直としているので、分断光L1及び分断光L2を高輝度で検出することができ、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部のY軸方向における位置をより正確に検出することができ、縫い品質のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0043】
特に、光源41をレーザー光源とすることにより、単一波長光からなる検出光Lを照射することができ、外乱光の影響を容易に抑制することができるので、分断光L1及び分断光L2を良好に検出することができ、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部のY軸方向における位置をより正確に検出して、縫い品質のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0044】
[その他]
上記各実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、被縫製物C1,C2が高低差形成部H1によって形成される高低差よりも被縫製物C1,C2の厚さが厚い場合を例示したが、この場合には、被縫製物C2よりも低位置となる被縫製物C1は、被縫製物C2に対する潜り込みは生じることが少ないので、当該潜り込みを考慮する必要性は低い。
これに対して、被縫製物C1,C2が高低差形成部H1によって形成される高低差よりも被縫製物C1,C2の厚さが薄い場合には、被縫製物C2に対する被縫製物C1の潜り込みを考慮することが好ましい。
【0045】
図9は、上記潜り込みを考慮した端縁部位置調整制御のフローチャートを示している。
この端縁部位置調整制御も針落ちの周期と同期させて行ってもよいし、より短周期で実行しても良い。
この端縁部位置調整制御の場合、制御装置90のCPU91は、ROM92に格納された制御プログラムに従って、千鳥縫いの縫製動作中において、針落ち位置Fの後方(送り方向上流側)で位置検出部40の光源41により検出光Lを被縫製物C1,C2の上面に照射する(ステップS11)。
そして、高低差形成部H1の高低差により得られた被縫製物C1の分断光L1と被縫製物C2の分断光L2とを撮像し(ステップS13)、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部との間に隙間Nが存在するか否かを判定する(ステップS15)。
【0046】
このとき、分断光L1の右端部と分断光L2の左端部との間に隙間Nが存在しない場合には、CPU91は、第一及び第二の横送り機構30A,30Bの横送りモーター38を制御して、被縫製物C1の端縁部C11と被縫製物C2の端縁部C21との間に隙間ができるように互いに離隔する方向に各被縫製物C1,C2を移動させる(ステップS17)。
そして、再び、撮像を行い(ステップS13)、隙間Nの有無を判定する(ステップS15)。
【0047】
隙間Nの有無の判定において、隙間Nが存在する場合には、分断光L1,L2の端部位置が検出される(ステップS19)。
そして、CPU91は、分断光L1,L2の端部位置から基線Kに対するY軸方向のズレ量を求め、第一及び第二の横送り機構30A,30Bの各横送りモーター38を制御して、被縫製物C1,C2のY軸方向の位置調節を実行する(ステップS21)。
これにより、被縫製物C1の端縁部C11の被縫製物C2に対する潜り込み状態を解消して、被縫製物C1の端縁部C11と被縫製物C2の端縁部C21とを、それぞれ基線Kの位置に位置決めされた状態として接ぎ合わせ縫製を行うことが可能となる。
【0048】
また、前述した高低差形成部H1は、搬送面H上において上方に突出した突部を例示したが、これに限定されない。
例えば、
図10(A)及び
図10(B)に示すように、略半球状の突起からなる高低差形成部H1を搬送面H上であって基線K近傍の右側に設けてもよい。
或いは、
図11に示すように、
図2に示す高低差形成部H1の搬送方向上流側の端部に高低差の変化を漸増させる傾斜部H11を設けてもよい。或いは、高低差形成部H1の搬送方向下流側の端部に高低差の変化を漸減させる傾斜部H12を設けてもよい。これらの傾斜部H11,H12は、いずれか一方又は両方設けてもよい。
【0049】
また、高低差形成部H1は、基線Kの右側に設ける場合を例示したが、左側に設けて被縫製物C1を被縫製物C2よりも高くしてもよいことは言うまでもない。
また、
図8及び
図9の端縁部位置調整制御の例では、被縫製物C1の端縁部C11と被縫製物C2の端縁部C21とが相互に隙間なく密接するように第一及び第二の横送り機構30A,30Bの各横送りモーター38を制御する場合を例示したが、縫い品質の許容される範囲内で微小な隙間Nが生じるように位置調整を行ってもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 千鳥縫いミシン
11 縫い針
12 ミシンモーター
13 針振りモーター
30 横送り機構
30A 第一の横送り機構
30B 第二の横送り機構
38 横送りモーター
40 位置検出部
41 光源
42 カメラ(撮像部)
43 画像処理装置
90 制御装置
91 CPU
C1,C2 被縫製物
C11,C21 端縁部
F 針落ち位置
H 搬送面
H1 高低差形成部
H11,H12 傾斜部
K 基線
L 検出光
L1,L2 分断光
N 隙間
S ズレ