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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】移行用キット
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/00 20060101AFI20240222BHJP
   E04D 5/06 20060101ALI20240222BHJP
   E04D 5/12 20060101ALI20240222BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240222BHJP
   B32B 27/22 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
E04D5/00 D
E04D5/06 B
E04D5/12 Z
B32B27/30 101
B32B27/22
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019239761
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2020112017
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019002240
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000223403
【氏名又は名称】住ベシート防水株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】八木 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】茂木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠治
(72)【発明者】
【氏名】別宮 浩之
(72)【発明者】
【氏名】森本 純平
(72)【発明者】
【氏名】神藤 寿雄
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196947(JP,A)
【文献】特開平11-217910(JP,A)
【文献】特開平08-207157(JP,A)
【文献】特開2018-123494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 5/00
E04D 5/06
E04D 5/12
B32B 27/30
B32B 27/22
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部と壁部とを有する躯体と、前記床部と前記壁部との境界部に配置される第1配置部材および第2配置部材と、前記第1配置部材および前記第2配置部材の少なくとも1部を覆うように接合され、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する防水シートと、を有するシート防水構造を保全または補修するために用いられる移行用キットであって、前記シート防水構造において、前記防水シートは、間隙を形成した状態で前記境界部に並んで配置された前記第1配置部材と前記第2配置部材との双方を、前記間隙を包含した状態で被覆し、前記間隙に対応した位置に劣化に伴う凸部を備えており、
当該移行用キットは、前記防水シートを被覆する移行用シートと、該移行用シートを前記防水シートに接合する接合層を形成するためのシーリング溶液とを有し、
前記移行用シートは、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する第1塩ビ層および第2塩ビ層と、前記第1塩ビ層と前記第2塩ビ層との間に位置する塩化ビニル系樹脂とは異なる樹脂材料を主材料として含有する樹脂層とを備え、前記第1塩ビ層が前記防水シート側に位置して、前記防水シートを被覆するものであり、
前記第1塩ビ層は、前記防水シートの凸部に対応する凹部を予め備えることを特徴とする移行用キット。
【請求項2】
前記第1塩ビ層は、その可塑剤の含有量が前記第2塩ビ層の可塑剤の含有量よりも高い請求項1に記載の移行用キット。
【請求項3】
前記第1塩ビ層は、その可塑剤の含有量が塩化ビニル系樹脂100重量部に対して200重量部以上500重量部以下である請求項1または2に記載の移行用キット。
【請求項4】
前記第1塩ビ層は、ゲル状をなしている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の移行用キット。
【請求項5】
前記第1塩ビ層は、そのJIS K 7215によるデュロメーター硬さがHDA0以上HDA50以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の移行用キット。
【請求項6】
前記樹脂層は、ポリエステル系樹脂、およびフッ素系樹脂のうちの少なくとも1種を主材料として構成される請求項1ないし5のいずれか1項に記載の移行用キット。
【請求項7】
前記樹脂層は、その溶解パラメーターが8(cal/cm1/2以下または10.5(cal/cm1/2以上であり、かつ、その密度が0.95g/cm以上の樹脂材料を主材料として構成される請求項1ないし6のいずれか1項に記載の移行用キット。
【請求項8】
前記樹脂層は、その平均厚さが5μm以上50μm以下である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の移行用キット。
【請求項9】
前記シーリング溶液は、塩化ビニル系樹脂と、溶媒とを含み、主として塩化ビニル系樹脂で構成される前記接合層を形成するために用いられる請求項1ないし8のいずれか1項に記載の移行用キット。
【請求項10】
前記第2塩ビ層は、前記凸部に対応する凹部を予め備える請求項1ないし9のいずれか1項に記載の移行用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体に防水を施すシート防水構造が備える防水シートに貼付して可塑剤を移行させる移行用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高耐久化が求められるに伴って、多くの建築物の屋上やベランダ等において、樹脂シートを敷設施工したシート防水構造が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このシート防水構造では、例えば、屋上の床部と、床部の外縁に沿って立設して設けられた壁部との境界部に、この境界部の形状に対応して形成された、塩化ビニル系樹脂で被覆された鋼板(金属板)を配置し、この鋼板の少なくとも一部を、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する防水シートを用いて覆う構成となっており、これにより、屋上の境界部に対して防水が施される。
【0004】
ここで、防水が施工される屋上等の形状は、当然、様々である。そのため、前記鋼板としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される屋上等の境界部の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら鋼板は、前記境界部にその形状に対応して、隣接するもの同士に間隙が形成されるように並べられ、この状態で防水シートにより覆われる。
【0005】
このような構成のシート防水構造では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水(泥水)に晒されることに起因して、防水シートから可塑剤が揮散し、その結果、防水シートの柔軟性が低下する。そのため、防水シートに応力が生じ、これにより、防水シートに亀裂が生じ、防水シートの防水性が低下するという問題があった。
【0006】
この防水シートにおける亀裂の発生は、防水シートからの可塑剤の揮散によるため、例えば、特許文献2、3のように、防水シートに亀裂が生じるのに先立って、防水シートに、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する移行用(保全補修用)シートを貼付することが提案されている。
【0007】
このように移行用シートを防水シートに貼付する構成とすることで、移行用シートに含まれる可塑剤を防水シートに移行(拡散)させることができるため、防水シートの柔軟性を優れたものに回復させることができる。その結果、防水シートにおける応力の発生を解消して、防水シートにおいて亀裂が生じるのを的確に防止または抑制することができる。
【0008】
しかしながら、上述したような構成のシート防水構造では、隣接する鋼板同士の間に間隙が形成され、防水シートが鋼板に接合されていないことに起因して、防水シートに生じた応力により、床部の反対側に突出する凸部(突出部)が発生し、この凸部において、防水シートの亀裂が認められることがある。
【0009】
そのため、上面および下面がともに平坦面で構成される特許文献2、3に記載の移行用シートでは、防水シートの凸部が形成されている領域に対して、移行用(保全補修用)シートを優れた密着性をもって接合させることができず、この領域において、防水シートに対して十分に可塑剤を移行させることができないと言う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-70877号公報
【文献】特開平8-207157号公報
【文献】特開2015-196947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、シート防水構造が備える防水シートに可塑剤が揮散したことに起因する凸部が形成されたとしても、この凸部の形状に対応して優れた密着性をもって移行用シートを接合することができる移行用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)~(10)に記載の本発明により達成される。
(1) 床部と壁部とを有する躯体と、前記床部と前記壁部との境界部に配置される第1配置部材および第2配置部材と、前記第1配置部材および前記第2配置部材の少なくとも1部を覆うように接合され、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する防水シートと、を有するシート防水構造を保全または補修するために用いられる移行用キットであって、前記シート防水構造において、前記防水シートは、間隙を形成した状態で前記境界部に並んで配置された前記第1配置部材と前記第2配置部材との双方を、前記間隙を包含した状態で被覆し、前記間隙に対応した位置に劣化に伴う凸部を備えており、
当該移行用キットは、前記防水シートを被覆する移行用シートと、該移行用シートを前記防水シートに接合する接合層を形成するためのシーリング溶液とを有し、
前記移行用シートは、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する第1塩ビ層および第2塩ビ層と、前記第1塩ビ層と前記第2塩ビ層との間に位置する塩化ビニル系樹脂とは異なる樹脂材料を主材料として含有する樹脂層とを備え、前記第1塩ビ層が前記防水シート側に位置して、前記防水シートを被覆するものであり、
前記第1塩ビ層は、前記防水シートの凸部に対応する凹部を予め備えることを特徴とする移行用キット。
【0013】
(2) 前記第1塩ビ層は、その可塑剤の含有量が前記第2塩ビ層の可塑剤の含有量よりも高い上記(1)に記載の移行用キット。
【0014】
(3) 前記第1塩ビ層は、その可塑剤の含有量が塩化ビニル系樹脂100重量部に対して200重量部以上500重量部以下である上記(1)または(2)に記載の移行用キット。
【0015】
(4) 前記第1塩ビ層は、ゲル状をなしている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の移行用キット。
【0016】
(5) 前記第1塩ビ層は、そのJIS K 7215によるデュロメーター硬さがHDA0以上HDA50以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の移行用キット。
【0017】
(6) 前記樹脂層は、ポリエステル系樹脂、およびフッ素系樹脂のうちの少なくとも1種を主材料として構成される上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の移行用キット。
【0018】
(7) 前記樹脂層は、その溶解パラメーターが8(cal/cm31/2以下または10.5(cal/cm31/2以上であり、かつ、その密度が0.95g/cm3以上の樹脂材料を主材料として構成される上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の移行用キット。
【0019】
(8) 前記樹脂層は、その平均厚さが5μm以上50μm以下である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の移行用キット。
【0020】
(9) 前記シーリング溶液は、塩化ビニル系樹脂と、溶媒とを含み、主として塩化ビニル系樹脂で構成される前記接合層を形成するために用いられる上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の移行用キット。
【0021】
(10) 前記第2塩ビ層は、前記凸部に対応する凹部を予め備える上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の移行用キット。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シート防水構造が備える防水シートに可塑剤が揮散したことに起因する凸部が形成されたとしても、この凸部の形状に対応して優れた密着性をもって移行用シートを接合することができる。
【0024】
また、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する移行用シートを防水シートに貼付した際に、たとえ移行用シートが日光や雨水に晒されたとしても、移行用シートから防水シートへ拡散した可塑剤が、再度、防水シートから移行用シートへ移行してしまうのを確実に抑制または防止することができる。その結果、防水シートにおける防水性の低下が的確に抑制され、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】躯体に施工されたシート防水構造が移行用シートにより保全補修された移行シート防水構造を部分的に取り出した部分斜視図である。
図2図1に示す移行シート防水構造のA-A線断面図である。
図3図1に示す移行シート防水構造に適用された移行用シートの第1実施形態を示す図である。
図4図1に示す移行シート防水構造に適用された移行用シートの第2実施形態を示す図である。
図5図1に示す移行シート防水構造に適用された移行用シートの第3実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の移行用キットを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
まず、本発明の移行用キットを説明するのに先立って、シート防水構造が移行用シートにより保全補修された移行シート防水構造について説明する。
【0028】
<移行シート防水構造>
図1は、躯体に施工されたシート防水構造が移行用シートにより保全補修された移行シート防水構造を部分的に取り出した部分斜視図、図2は、図1に示す移行シート防水構造のA-A線断面図である。なお、以下の説明では、図1図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、図1では、説明の便宜上、シート防水構造の全体を示すことなく、躯体が備える床部と壁部との境界部付近を部分的に図示している。
【0029】
本実施形態では、屋上やベランダのような躯体100(構造体)に施工されたシート防水構造10が移行用シート1により保全補修された移行シート防水構造500を一例にして説明する。
【0030】
躯体100は、図1に示すように、床部101と、この床部101の外縁を取り囲むように沿って立設して設けられた壁部102とを有している。
【0031】
シート防水構造10は、この躯体100、すなわち枠体をなす壁部102と、壁部102の底部を構成する床部101に対して施工されるものであり、防水シート20と、配置部材50とを有している。
【0032】
配置部材50は、床部101と壁部102との境界部103に沿って、複数のものが並んで配置され、この状態で、防水シート20は、隣接する配置部材50同士を跨ぐように覆っており、これにより、躯体100の境界部103における防水性が確保される。すなわち、躯体100の境界部103は、日光や雨水に晒されることで、ひび割れ等の亀裂が生じ易い位置であるが、この境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0033】
配置部材50は、前述の通り、床部101と壁部102との境界部103付近に配置されるものである。
【0034】
この配置部材50は、表面が樹脂で被覆されている金属板(鋼板)からなり、図1に示すように、底部51と、立ち上がり面52とを有している。
底部51は、床部101を臨む平面視で、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0035】
また、立ち上がり面52は、底部51の縁部、すなわち4つの辺のうちの一方の長辺から立設しており、壁部102を臨む平面視で、底部51が備える長辺と同じ長さを有する長辺を備える、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0036】
これら底部51および立ち上がり面52は、それぞれ、境界部103に配置する際に、床部101および壁部102に対応するように位置設定される。
【0037】
本実施形態では、境界部103に沿うように、上記の構成をなす2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)が、間隙55を形成した状態で並んで配置されている。
【0038】
なお、本実施形態では、同一形状をなしている2つの配置部材50が境界部103に配置されているが、防水が施工される躯体100の形状は、当然、様々であることから、配置部材50としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される躯体100が備える境界部103の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら配置部材50は、前記境界部103にその形状に対応するように、間隙55を形成した状態で並べられる。
【0039】
また、配置部材50は、前述の通り、表面が樹脂で被覆されている金属板で構成される。このように、樹脂で被覆することで、金属板の腐食を確実に防止することができる。
【0040】
金属板としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼板、鉄板のような鋼板、アルミ板、銅板等が挙げられるが、鋼板であるのが好ましい。これにより、配置部材50を優れた強度を有するものとすることができる。
【0041】
また、金属板の厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上3mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2.5mm以下程度であるのがより好ましい。
【0042】
樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ポリ塩化ビニルであるのが好ましい。ポリ塩化ビニルは、溶剤溶着性や熱融着性に優れるため、金属板の腐食をより確実に防止することができる。
【0043】
また、樹脂により金属板を被覆する厚さは、特に限定されないが、0.03mm以上2mm以下程度であるのが好ましく、0.1mm以上0.7mm以下程度であるのがより好ましい。
【0044】
防水シート20は、図1に示すように、シート状(板状)をなし、隣接して配置された2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)を、これら同士の間に形成された間隙55を包含した状態で覆うものである。
【0045】
これにより、境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0046】
このような防水シート20は、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する塩化ビニル系樹脂シートで構成される。このような構成の防水シート20によれば、防水シート20を加熱した状態で貼り合わせることで、2つの配置部材50を、間隙55を跨いだ状態で防水シート20により覆うことができる。
【0047】
また、防水シート20の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上5mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2mm以下程度であるのがより好ましい。これにより、配置部材50とともに床部101と壁部102とを、防水シート20により確実に覆うことができる。
【0048】
さて、このような構成のシート防水構造10では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水に晒されることにより、防水シート20から可塑剤が揮散する。そのため、防水シート20の柔軟性が低下することにより、防水シート20に防水シート20の劣化にともなう応力が生じる。
【0049】
ここで、特に、シート防水構造10のような構成では、隣接する配置部材50同士の間に間隙55が形成され、防水シート20が配置部材50に接合されていないことに起因して、防水シート20に生じた応力により、防水シート20に、床部101の反対側に向かって突出する半球状をなす凸部25(突出部)が発生し、その結果、この凸部25周辺において、防水シート20に亀裂が生じ、その防水性が低下してしまうと言う問題があった。
【0050】
したがって、凸部25周辺において、防水シート20に亀裂が生じるのに先立って、防水シート20に揮散した可塑剤を再度供給することができれば、防水シート20の柔軟性を優れたものに回復させることができ、その結果、防水シート20における応力の発生を解消して、防水シート20において亀裂が生じるのを的確に防止または抑制することができる。
【0051】
そこで、本発明では、図1図3に示すように、防水シート20に可塑剤を供給することで、防水シート20を保全または補修することを目的に、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する第1塩ビ層11および第2塩ビ層12と、第1塩ビ層11と第2塩ビ層12との間に位置する樹脂層13と、を備える積層体(移行用シート)により構成され、第1塩ビ層11は、凸部25に対応する凹部15を予め備えている移行用シート1を、接合層40を介して第1塩ビ層11が防水シート20に接触し、かつ、防水シート20の凸部25に移行用シート1の凹部15が対応するようにして、防水シート20に貼付する。
【0052】
上記のようにして、移行用シート1を、接合層40を介して防水シート20に貼付することで、防水シート20に凸部25が形成されていたとしても、防水シート20の凸部25が形成されている領域に対して、移行用シート1を優れた密着性をもって接合層40を介して接合させることができるため、この領域においても、防水シート20に対して十分に可塑剤を移行させることができるため、防水シート20の柔軟性を優れたものに回復させることができる。
【0053】
さらに、移行用シート1では、第1塩ビ層11と第2塩ビ層12との間に樹脂層13が介在している。そのため、防水シート20への貼付の後に移行用シート1(第2塩ビ層12)が日光や雨水に晒され、これに起因して、たとえ第2塩ビ層12から可塑剤が揮散したとしても、第1塩ビ層11から第2塩ビ層12へ可塑剤が移行するのを的確に抑制または防止することができる。その結果、長期に亘って、第1塩ビ層11から防水シート20に可塑剤を移行させることができるため、防水シート20における亀裂の発生を的確に抑制または防止することができる。その結果、防水シートにおける防水性の低下が的確に抑制され、耐久性が向上する。
【0054】
<移行用シート>
以下、この移行用シート1について詳述する。
【0055】
<<第1実施形態>>
図3は、図1に示す移行シート防水構造に適用された移行用シートの第1実施形態を示す図(図3(a)は平面図、図3(b)は縦断面図)である。なお、以下の説明では、図3(a)中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」、図3(b)中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0056】
以下では、移行用シート1が備える第1塩ビ層11および第2塩ビ層12を、それぞれ、単に「塩ビ層11」および「塩ビ層12」と言うこともある。
【0057】
(a)第1塩ビ層11
塩ビ層11は、図3(b)に示すような、塩ビ層11と樹脂層13と塩ビ層12とがこの順で積層された積層体(移行用シート)において、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含有し、防水シート20に形成された凸部25に対応する凹部15を予め備える層である。
【0058】
この塩ビ層11は、移行用シート1を防水シート20に貼付した際に、接合層40を介して、防水シート20に接触する層であり、この層中に含まれる可塑剤を、防水シート20に移行させることで、防水シート20を保全または補修するためのものである。
【0059】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルを含む重合体、すなわちオリゴマー、プレポリマーおよびポリマーであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニルの単量重合体、または塩化ビニルと、酢酸ビニル、エチレン、もしくはプロピレン等との共重合体、およびこれらの2種以上の重合体の混合物等が挙げられる。これらのものを塩化ビニル系樹脂として用いることにより、塩ビ層11に含まれる可塑剤を、接合層40を介して、確実に防水シート20側に移行させることができるようになる。
【0060】
また、可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DIBP(ジイソブチルフタレート)、DHP(ジヘプチルフタレート)のようなフタル酸エステル系可塑剤、DOA(ジ-2-エチルヘキシルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)、DOS(ジ-2-エチルヘキシルセバセート)のような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エチレングリコールのベンゾエート類のような芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、およびTOTM(トリオクチルトリメリテート)のようなトリメリット酸エステル系可塑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのものを可塑剤として用いることで、可塑剤が塩ビ層11から接合層40を介して防水シート20に移行した際に、低下した防水シート20の柔軟性を確実に再度向上させることができる。
【0061】
また、このような塩ビ層11は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とによる均一相が形成されているものであればよいが、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とによるゲル化物を構成していること、すなわち、ゲル状をなしていることが好ましい。これにより、塩ビ層11を固形物として維持させることができるとともに、可塑剤を揮発させることなく高濃度に塩ビ層11中に含有(保持)させることができる。そして、塩ビ層11が防水シート20に接合層40を介して接触するように移行用シート1を貼付した際には、塩ビ層11から防水シート20に可塑剤をより確実に移行させることができるようになる。また、塩ビ層11がゲル化物で構成されることで、塩ビ層11を柔軟性に優れたものとし得ることから、凹部15の形状が防水シート20に形成された凸部25の形状に対してたとえ完全に一致しなかったとしても、凸部25に対応する位置で、塩ビ層11の柔軟性をもって、凸部25の形状に凹部15(塩ビ層11)を追従させることができる。そのため、接合層40を介して防水シート20に第1塩ビ層11を優れた密着性をもって接合することができる。
【0062】
塩ビ層11がゲル化物で構成される場合、塩ビ層11のJIS K 7215によるデュロメーター硬さはHDA0以上HDA50以下であることが好ましく、HDA10以上HDA35以下であることがより好ましい。これにより、塩ビ層11の柔軟性をもって、接合層40を介して防水シート20に第1塩ビ層11をより優れた密着性で接合することができる。
【0063】
また、塩ビ層11には、塩化ビニル系樹脂と可塑剤との他、充填材、安定剤、安定助剤、紫外線吸収剤、難燃剤、繊維強化剤、着色剤、滑剤等を添加するようにしてもよい。
【0064】
充填材としては、例えば、酸化チタン、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ただし、充填材を用いないで塩ビ層11を透明もしくは半透明にし、接合層40を介して防水シート20に第1塩ビ層11を接合することが好ましい。これにより、接合層40を介して防水シート20に第1塩ビ層11をより優れた密着性で接合することができる。
【0065】
安定剤としては、例えば、グリシン亜鉛等が挙げられ、この場合の安定助剤としては、例えば、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリキシリル(TXP)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸2-エチルヘキシル・ジフェニルのような有機リン酸エステル等が挙げられる。
【0066】
また、塩ビ層11は、この層中における可塑剤の含有量が塩ビ層12と比較して高くなっていることが好ましい。これにより、防水シート20に対して、効率良く可塑剤を移行(供給)することができる。
【0067】
このように、第1塩ビ層11は、第2塩ビ層12と比較して、層中に含まれる可塑剤の含有量が高くなっていることが好ましいが、具体的には、第1塩ビ層11における可塑剤の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、200重量部以上500重量部以下であるのが好ましく、250重量部以上300重量部以下であるのがより好ましい。含有量を前記範囲内に設定することにより、効率よく塩ビ層11から接合層40を介して防水シート20に可塑剤を供給することができる。また、含有量が前記下限値未満であると、可塑剤の種類によっては、得られる塩ビ層11に充分な柔軟性を付与することができず、凸部25に対応する位置で、防水シート20に対する密着性が十分に得られないおそれがある。また、含有量が前記上限値を超えると、可塑剤の種類によっては、塩ビ層11の伸びが柔軟になり過ぎ、塩ビ層11としての形状安定性が低下するおそれがある。
【0068】
なお、塩ビ層11の厚さは、凹部15が形成されていない領域において、0.5mm以上2mm以下であることが好ましく、1mm以上2mm以下であることがより好ましい。これにより、接合層40を介して塩ビ層11と防水シート20とを確実に接合することができる。
【0069】
また、塩ビ層11の厚さは、凹部15が形成されている領域において、凹部15の縁部から中心部に向かって漸減し、その中心部おいて、0.25mm以上1mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1mm以下であることがより好ましい。このように凹部15の縁部から中心部に向かって塩ビ層11の厚さが漸減することで、防水シート20の第2塩ビ層12側の表面において防水シート20が突出する突出量の低減を図ることができる。したがって、防水シート20の第2塩ビ層12側の表面における、凹部15に対応する位置で、防水シート20が雨水や風に晒さらされた際に、ゴミ、砂等が堆積するのを的確に抑制することができる。
【0070】
また、平面視における、塩ビ層11の大きさは、移行用シート1を貼付する防水シート20の位置によっても若干異なるが、例えば、縦0.1mm以上700mm以下×横0.1mm以上800mm以下であることが好ましく、縦0.1mm以上500mm以下×横0.1mm以上550mm以下であることがより好ましい。これにより、亀裂が生じ易い凸部25が発生した領域を包含して防水シート20に接合層40を介して移行用シート1を貼付することができることから、凸部25が発生した防水シート20に確実に可塑剤を供給することができる。なお、本実施形態では、後述する樹脂層13の平面視における大きさは、この塩ビ層11の平面視における大きさと一致する。
【0071】
さらに、塩ビ層11において、本実施形態では、凹部15は、凸部25の形状に対応して、図3に示すように、その全体形状が半球状をなしているが、その中央部における高さは、特に限定されないが、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.5mm以上4mm以下であることがより好ましい。
【0072】
また、平面視における、凹部15の大きさは、例えば、その直径φが0.1mm以上30mm以下であることが好ましく、0.5mm以上25mm以下であることがより好ましい。
【0073】
凹部15の大きさを上記のように設定することで、凸部25の形状に凹部15(塩ビ層11)を追従させることができる。そのため、接合層40を介して防水シート20に第1塩ビ層11を優れた密着性をもって接合することができる。
【0074】
(b)第2塩ビ層12
塩ビ層12は、塩ビ層11と同様に、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含有する層であり、移行用シート1を防水シート20に貼付した際に、防水シート20に接触する塩ビ層11と樹脂層13を介して反対側に位置して移行シート防水構造500の最外層として日光や雨水に晒されることで、樹脂層13および塩ビ層11を保護するためのものである。
【0075】
かかる構成の塩ビ層12における塩化ビニル系樹脂としては、前記塩ビ層11で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0076】
また、可塑剤としては、前記塩ビ層11で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0077】
さらに、このような塩ビ層12は、塩ビ層11と同様に、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とによる均一相が形成されているものであればよいが、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とによるシート状(押し出しシート物)であるのが好ましい。これにより、塩ビ層12を固形物として維持させることができるとともに、可塑剤の揮発を抑制した状態で塩ビ層12中に含有(保持)させることができる。
【0078】
また、塩ビ層12には、塩ビ層11と同様に、塩化ビニル系樹脂と可塑剤との他、充填材、安定剤、安定助剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、滑剤等を添加するようにしてもよい。
【0079】
なお、充填材および安定剤としては、前記塩ビ層11で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0080】
また、塩ビ層12は、層中における可塑剤の含有量が塩ビ層11と比較して低くなっていることが好ましい。これにより、塩ビ層12を、塩ビ層11と比較して、その硬度を高くできることから、塩ビ層12を、防水シート20としての形状安定性を向上させるための層として機能させることができる。
【0081】
この場合、第2塩ビ層12は、第1塩ビ層11と比較して、層中に含まれる可塑剤の含有量が低くなっていればよいが、第2塩ビ層12における可塑剤の含有量は、具体的には、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、20重量部以上80重量部以下であるのが好ましく、20重量部以上50重量部以下であるのがより好ましい。含有量を前記範囲内に設定することにより、塩ビ層12としての硬度を適切な大きさのものとすることができ、防水シート20としての形状安定性が優れたものとなる。
【0082】
さらに、第1塩ビ層11において、可塑剤が塩化ビニル系樹脂100重量部に対してA重量部含まれ、第2塩ビ層12において、可塑剤が塩化ビニル系樹脂100重量部に対してB重量部含まれるとしたとき、A/Bが1以上30以下となる関係を満足するのが好ましく、3以上25以下となる関係を満足するのがより好ましい。A/Bの大きさを、前記関係を満足するように設定することにより、まず、塩ビ層11から防水シート20に対して、より効率良く可塑剤を供給することができるようになる。また、塩ビ層12としての硬度がより適切な大きさのものとなることから、防水シート20としての形状安定性がより優れたものとなる。
【0083】
また、塩ビ層12は、塩ビ層11と同様に、ゲル化物を構成していてもよい。これにより、塩ビ層12を柔軟性に優れたものとし得ることから、塩ビ層12をも、凸部25の形状に対した凹部を予め備えるものと比較的容易にすることができる。
【0084】
なお、塩ビ層12の厚さは、0.1mm以上2mm以下であることが好ましく、0.4mm以上1.5mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上0.6mm以下がさらに好ましい。これにより、塩ビ層12としての機能を確実に発揮させることができる。
【0085】
また、平面視における、塩ビ層12の大きさは、移行用シート1を貼付する防水シート20の位置によっても若干異なるが、本実施形態では、図3に示すように、塩ビ層11と比較して大きくなっている。これにより、移行用シート1を、接合層40を介して防水シート20に貼付した際に、第1塩ビ層11の側面が露出することなく、第1塩ビ層11を第2塩ビ層12で取り囲んだ状態で、移行用シート1を防水シート20に貼付することができる。そのため、第1塩ビ層11の側面から可塑剤が漏出するのを、的確に抑制または防止することができる。
【0086】
この場合、塩ビ層12は、具体的には、平面視において、例えば、縦0.2mm以上750mm以下×横0.2mm以上850mm以下であることが好ましく、縦0.2mm以上550mm以下×横0.2mm以上600mm以下であることがより好ましい。これにより、前記効果を確実に発揮させることができる。
【0087】
(c)樹脂層13
樹脂層13は、図3(b)に示すような、塩ビ層11と樹脂層13と塩ビ層12とがこの順で積層された積層体(移行用シート)において、塩化ビニル系樹脂とは異なる樹脂材料を主材料として構成される層である。
【0088】
この樹脂層13は、移行用シート1を、接合層40を介して防水シート20に貼付した際に、防水シート20に接合層40を介して接触する塩ビ層11と、日光や雨水に晒される塩ビ層12との間に介在する層であり、塩ビ層11中に含まれる可塑剤が、塩ビ層12側に移行してしまうのを抑制または防止するバリア層として機能するものである。
【0089】
このようなバリア層として機能する樹脂層13を第1塩ビ層11と第2塩ビ層12との間に設けることにより、移行用シート1(第2塩ビ層12)が日光や雨水に晒され、これに起因して、たとえ第2塩ビ層12から可塑剤が揮散したとしても、第1塩ビ層11から第2塩ビ層12へ可塑剤が移行するのを的確に抑制または防止することができる。その結果、長期に亘って、第1塩ビ層11から防水シート20に可塑剤を移行させることができるため、防水シート20における亀裂の発生を的確に抑制または防止することができる。
【0090】
また、この樹脂層13は、前記樹脂材料で構成されることにより、優れた柔軟性が付与されているものである。そのため、例えば、前述したような、凸部25が形成された防水シート20に、移行用シート1を貼付する際に、移行用シート1は、凹部15において、防水シート20の凸部25の形状に対応して、屈曲させた状態で貼付されるが、この際の移行用シート1が備える樹脂層13の形状追従性を、例えば、樹脂層13に代えてアルミニウム等の金属材料で構成される金属層を用いた場合と比較して、向上させることができる。
【0091】
この樹脂層13の主材料として構成する、塩化ビニル系樹脂とは異なる樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、シアネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせたものを主材料として用いることができる。これらの中でも、特に、ポリエステル系樹脂およびフッ素系樹脂のうちの少なくとも1種であることが好ましい。これにより、前述した樹脂層13としての機能を確実に発揮させることができる。
【0092】
このような樹脂材料としては、その溶解パラメーターが8(cal/cm31/2以下または10.5(cal/cm31/2以上であり、かつ、その密度が0.95g/cm3以上であるものが好ましい。樹脂層13における可塑剤の移行性を考慮して、樹脂材料の溶解度パラメーターおよび密度を前記の通り設定することで、樹脂層13を介して第1塩ビ層11から第2塩ビ層12へ可塑剤が移行するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0093】
なお、樹脂層13は、第1塩ビ層11から第2塩ビ層12へ可塑剤が移行するのを的確に抑制または防止するバリア層として機能すればよく、第1塩ビ層11から第2塩ビ層12への可塑剤の移行が完全に防止されたもの、または、可塑剤の移行が若干許容されるもののいずれであってもよいが、若干許容されるものであるのが好ましい。これにより、移行用シート1(第2塩ビ層12)が日光や雨水に晒され、これに起因して、たとえ第2塩ビ層12から可塑剤が揮散したとしても、第1塩ビ層11から若干量の可塑剤を第2塩ビ層12に供給することができるため、移行用シート1(第2塩ビ層12)における亀裂の発生を的確に抑制または防止することができる。
【0094】
この場合、樹脂層13の厚さは、樹脂層13に含まれる樹脂材料の種類によっても若干異なるが、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上40μm以下であることがより好ましい。これにより、第1塩ビ層11から第2塩ビ層12へ可塑剤が移行するのを的確に抑制するバリア層としての機能を樹脂層13が発揮して、第1塩ビ層11から若干量の可塑剤を第2塩ビ層12に供給されることとなるため、移行用シート1(第2塩ビ層12)における亀裂の発生を的確に抑制または防止することができる。
【0095】
また、本実施形態では、樹脂層13は、その平面視形状が塩ビ層11より大きくなっており、かつ、塩ビ層12と比較して小さくなっている。これにより、移行用シート1を、接合層40を介して防水シート20に貼付した際に、樹脂層13が接合層40を介して防水シート20に接触することなく、移行用シート1を防水シート20に貼付することができる。そのため、移行用シート1を、接合層40を介して防水シート20に優れた接着性をもって貼付することができる。また、樹脂層13は、その平面視形状が塩ビ層11の平面視形状より大きくなっていることにより、塩ビ層11から塩ビ層12への可塑剤移行防止を防ぐことができる。なお、樹脂層13は、その平面視形状が塩ビ層11の平面視形状とほぼ一致していてもよい。
【0096】
<接合層40>
上記のような移行用シート1が、図2に示すように、移行シート防水構造500において、接合層40を介して、防水シート20に貼付(接合)されている。
【0097】
この接合層40は、移行用シート1を防水シート20に接合する接着性を有し、かつ塩ビ層11から防水シート20への可塑剤の移行性を有するものであれば、特に限定されないが、主として塩化ビニル系樹脂で構成されることが好ましい。これにより、塩ビ層11から防水シート20への可塑剤の移行を、円滑に行うことができる。そのため、塩ビ層11と防水シート20との間に接合層40が介在していたとしても、塩ビ層11から可塑剤を円滑に防水シート20に移行させて、防水シート20の柔軟性を優れたものに回復させることができる。
【0098】
かかる構成の接合層40は、例えば、塩化ビニル系樹脂と、溶媒とを含むシーリング溶液を用いて形成することができる。具体的には、前記シーリング溶液を、防水シート20と移行用シート1との間に介在させた状態で、防水シート20と移行用シート1とを溶着させることで、防水シート20と移行用シート1とを接合する接合層40を形成することができる。
【0099】
塩化ビニル系樹脂としては、前述した塩ビ層11で説明したのと、同様のものを用いることができる。
【0100】
また、溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、キシレン、トルエンおよびイソプロピルアルコール等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
なお、上記のようなシーリング溶液を用いた接合層40の形成による防水シート20への移行用シート1の接合(貼り付け)の後には、移行用シート1の周辺部(縁部)には、防水シート20に跨るように、各種接着剤を用いて樹脂シーリングを施すことが好ましい。これにより、移行用シート1の防水シート20からの脱落を確実に防止することができる。
【0102】
以上のようにして、移行シート防水構造500において、接合層40を介して、移行用シート1が防水シート20に貼付(接合)され、これにより、シート防水構造10の保全または補修がなされるが、このシート防水構造10(防水シート20)に対する接合層40を介した移行用シート1の貼付に用いられる、前記シーリング溶液と移行用シート1とにより、本発明の移行用キットが構成される。
【0103】
<第2実施形態>
次に、本発明の移行用キットが備える移行用シートの第2実施形態について説明する。
【0104】
図4は、図1に示す移行シート防水構造に適用された移行用シートの第2実施形態を示す図(図4(a)は平面図、図4(b)は縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4(a)中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」、紙面左側を「左」、紙面右側を「右」、紙面下側を「前」、紙面上側を「後」、図4(b)中の紙面上側を「上」、紙面下側を「下」、紙面左側を「左」、紙面右側を「右」、紙面手前側を「前」、紙面奥側を「後」と言う。
【0105】
以下、第2実施形態の移行用シート1について、前記第1実施形態の移行用シート1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0106】
図4に示す移行用シート1は、第1塩ビ層11が備える凹部15の形状が異なること以外は、図3に示す移行用シート1と同様である。
【0107】
すなわち、本実施形態の移行用シート1において、第1塩ビ層11の凹部15は、図4に示すように、左右方向における縦断面が半球状をなし、前後方向における縦断面が長方形状をなす、すなわち、全体形状がかまぼこ状をなす凹条を形成している。
【0108】
このように、凹部15を、かまぼこ状をなすものとすることで、半球状ばかりでなく、各種形状をなす凸部25を、この凹部15で包含した状態で、接合層40を介して移行用シート1により、防水シート20を貼付することができる。そして、この貼付の後に、移行用シート1を、防水シート20側に押し込んで、第1塩ビ層11を凸部25の形状に対応して変形させることにより、凸部25が形成された防水シート20に対して第1塩ビ層11(移行用シート1)を優れた密着性をもって接合することができる。
【0109】
以上のような第2実施形態の移行用シート1によっても、前記第1実施形態の移行用シート1と同様の効果が得られる。
【0110】
<第3実施形態>
次に、本発明の移行用キットが備える移行用シートの第3実施形態について説明する。
【0111】
図5は、図1に示す移行シート防水構造に適用された移行用シートの第3実施形態を示す図(図5(a)は平面図、図5(b)は縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5(a)中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」、紙面左側を「左」、紙面右側を「右」、紙面下側を「前」、紙面上側を「後」、図5(b)中の紙面上側を「上」、紙面下側を「下」、紙面左側を「左」、紙面右側を「右」、紙面手前側を「前」、紙面奥側を「後」と言う。
【0112】
以下、第3実施形態の移行用シート1について、前記第1実施形態の移行用シート1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0113】
図5に示す移行用シート1は、積層体で構成される移行用シート1の層構成が異なること以外は、図3に示す移行用シート1と同様である。
【0114】
すなわち、本実施形態では、移行用シート1は、さらに、第2塩ビ層12と樹脂層13との間に繊維強化層14を有している。
【0115】
繊維強化層14は、樹脂繊維基材に塩化ビニル系樹脂を含浸させた後に、この塩化ビニル系樹脂を乾燥させることにより得られた層である。
【0116】
このような繊維強化層14が、第2塩ビ層12と樹脂層13との間に介挿されることで、凹部15の形状安定性を図ることができる。また、防水シート20の凸部25周辺において、防水シート20に亀裂が生じている場合には、この凹部15が凸部25に対応するように、防水シート20に対して移行用シート1が貼付されることから、形状安定性に優れた凹部15で凸部25を取り囲むことができる。そのため、防水シート20に生じている亀裂が拡大してしまうのを、的確に抑制または防止することができる。
【0117】
樹脂繊維基材は、複数本の樹脂繊維で構成されたシート状をなすものであり、例えば、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等のうちの少なくとも1種を主材料とする樹脂繊維の織布または不織布等が挙げられる。
【0118】
また、塩化ビニル系樹脂としては、前記第1塩ビ層11で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0119】
さらに、繊維強化層14は、これらの他に、可塑剤、充填材、安定剤、安定助剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、滑剤等を含むものであってもよい。
【0120】
なお、繊維強化層14は、本実施形態のように、第2塩ビ層12と樹脂層13との間に介挿される場合の他、第1塩ビ層11と樹脂層13との間に介挿されていてもよい。
【0121】
以上のような第3実施形態の移行用シート1によっても、前記第1実施形態の移行用シート1と同様の効果が得られる。
【0122】
以上、本発明の移行用キットについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0123】
例えば、本発明において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【0124】
また、本発明では、前記第1~第3実施形態で示した任意の2以上の構成を組み合わせるようにしてもよい。
【実施例
【0125】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0126】
1.移行用シートの作製
[実施例1]
まず、塩化ビニル系樹脂として、塩化ビニルの単量重合体で構成される粒子(平均粒径1μm)と、可塑剤として、DOP(ジアルキルフタレート)をそれぞれ用意した。そして、塩化ビニル100重量部に対して可塑剤50重量部の混合比でこれらを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで樹脂組成物Aを得るとともに、塩化ビニル100重量部に対して可塑剤300重量部の混合比でこれらを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで樹脂組成物Bを得た。
【0127】
次に、樹脂層として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ30μm)を用意した。
【0128】
次に、樹脂組成物Aを、加熱・混練した後、ロールを用いてシート状に形成することで、加熱状態の第2塩ビ層12を成形するとともに、樹脂組成物Bを、加熱・成形し、ゲル状成形物に形成し、その後、得られた成形物について、直径φ25mm、高さ4mmの半球状をなす凸部を有する金型に押し付けることで、第1塩ビ層11を成形した。そして、これら加熱状態の第1塩ビ層11および第2塩ビ層12を、それぞれ、ポリエチレンテレフタレートフィルム(樹脂層)の表面および裏面に貼り合わせた状態で冷却することにより、図3に示すような実施例1の移行用シート1を得た。ここで、この移行用シート1は、第1塩ビ層11が防水シート20に貼り付けられることで、防水シート20に可塑剤を移行させるために用いられる。
【0129】
なお、この実施例1の移行用シート1における第1塩ビ層11、第2塩ビ層12および樹脂層13の平面視での大きさは、それぞれ、第1塩ビ層11および樹脂層13が縦50mm×横50mm、第2塩ビ層12が縦100mm×横100mmであった。また、第1塩ビ層11、第2塩ビ層12および樹脂層13の厚さは、それぞれ、0.5mm、80μmおよび1.0mmであった。さらに、第1塩ビ層11に形成された凹部15の大きさは直径φ25mm、高さ4mmであった。また、第1塩ビ層11のJIS 7215によるデュロメーター硬さは、HDA30であった。
【0130】
[実施例2]
塩化ビニル100重量部に対して可塑剤250重量部の混合比でこれらを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで樹脂組成物Bを得たこと以外は、前記実施例1と同様にして図3に示すような実施例2の移行用シート1を作製した。なお、実施例2の移行用シート1における第1塩ビ層11のJIS K 7215によるデュロメーター硬さは、HDA40であった。
【0131】
[実施例3]
塩化ビニル100重量部に対して可塑剤200重量部の混合比でこれらを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで樹脂組成物Bを得たこと以外は、前記実施例1と同様にして図3に示すような実施例3の移行用シート1を作製した。なお、実施例3の移行用シート1における第1塩ビ層11のJIS K 7215によるデュロメーター硬さは、HDA50であった。
【0132】
[実施例4]
塩化ビニル100重量部に対して可塑剤350重量部の混合比でこれらを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで樹脂組成物Bを得たこと以外は、前記実施例1と同様にして図3に示すような実施例4の移行用シート1を作製した。なお、実施例3の移行用シート1における第1塩ビ層11のJIS K 7215によるデュロメーター硬さは、HDA20であった。
【0133】
[比較例1]
凸部を備える金型を用いた第1塩ビ層11に対する凹部15の形成を省略したこと以外は前記実施例1と同様にして図3に示すような比較例1の移行用シート1を作製した。
【0134】
2.移行用シートの防水シートへの貼付
次に、各実施例および比較例の補修用シートを、それぞれ、凸部25を備える防水シート20に対して貼付した。
【0135】
より詳しくは、直径φ23mm、高さ3mmの半球状をなす凸部25を有する防水シート20を備える図1に示すようなシート防水構造10を用意し、このシート防水構造10における、防水シート20に対して、凸部25に凹部15が対応するようにして、各実施例および比較例の移行用シート1を貼付することで、移行シート防水構造500を得た。貼り付けについては、第1塩ビ層11側を防水シート20に貼り付けた。
【0136】
なお、防水シート20としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して可塑剤が50重量部含まれるものを用いた。また、防水シート20に対する凸部25の形成は、防水シート20に対してブチルテープを貼り付けた後、80℃のオーブンで3日間処理して可塑剤を抽出することにより、可塑剤残存率を85%とすることで実施した。
【0137】
3.評価
各実施例および比較例の移行用シート1または、各実施例および比較例の移行用シート1が貼付された防水シート20について、以下の方法を用いて評価した。
【0138】
(1)可塑剤移行性
各実施例および比較例の移行用シート1が貼付された防水シート20について、それぞれ、以下のようにして、防水シート20に対する可塑剤の移行性について観察することで、移行用シート1の防水シート20に対する密着性を評価した。
【0139】
シート防水構造10が備える防水シート20に実施例1の移行用シート1を貼り付けた後に、防水シート20の可塑剤残存率が70%時において、40℃のオーブンで移行シート防水構造500を、20日間処理した結果、防水シート20の凸部25における可塑剤残存率は95%となり、防水シートの柔軟性は回復した。実施例2~4の移行用シート1を用いた場合でも、防水シート20の可塑剤残存率が、実施例2では90%、実施例3では80%、実施例4では100%であり、防水シート20の柔軟性が回復していることから、凹部15において、防水シート20(凸部25)に対して各実施例の移行用シート1が優れた密着性をもって接合しているものと推察された。
【0140】
これに対して、シート防水構造10が備える防水シート20に比較例1の移行用シート1を貼り付けた後に、40℃のオーブンで移行シート防水構造500を、20日間処理した場合では、防水シート20の凸部25における可塑剤残存率は75%となり、防水シートの柔軟性は回復しておらず、凹部15において、防水シート20(凸部25)に対して比較例1の移行用シート1が十分に接合しているとは考えられない結果が得られた。
【0141】
以上のような処理がなされた各実施例および比較例の移行用シート1が貼付された防水シート20の防水シート中における可塑剤の含有量は、ジエチルエーテルによるソックレイ抽出法を用いて測定した。防水シート20の可塑剤残存率は以下の式で算出した。なお、可塑剤移行後の防水シート20の可塑剤量の測定は、移行用シート1を除いた防水シート20を用いて測定した。
可塑剤残存率(%)=(定量した可塑剤量)/(初期の可塑剤量)×100
【符号の説明】
【0142】
1 移行用シート
10 シート防水構造
11 第1塩ビ層
12 第2塩ビ層
13 樹脂層
14 繊維強化層
15 凹部
20 防水シート
25 凸部
40 接合層
50 配置部材
51 底部
52 立ち上がり面
55 間隙
100 躯体
101 床部
102 壁部
103 境界部
500 移行シート防水構造
図1
図2
図3
図4
図5