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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】塗布具
(51)【国際特許分類】
   B43K 8/04 20060101AFI20240222BHJP
   A45D 34/04 20060101ALI20240222BHJP
   B43K 8/02 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
B43K8/04 100
A45D34/04 525B
B43K8/02 100
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020030522
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021133576
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-007579(JP,U)
【文献】特開2012-245749(JP,A)
【文献】特開2004-009400(JP,A)
【文献】実開平06-045671(JP,U)
【文献】実開昭51-121638(JP,U)
【文献】実開昭58-125083(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 8/04
A45D 34/04
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内の塗布液を、バルブを経由して塗布部に供給する塗布具において、
前記バルブからタンクまでの間に複数の流通孔を設け、これら流通孔は、塗布部に対するタンク側の流通孔の開口高さが異なるものを有し、
前記複数の流通孔は、塗布部側に塗布液流通孔を形成すると共に、タンク側に空気置換孔を形成し、各々の孔は異なる軸線方向に開口させて形成し、
塗布液流通孔と空気置換孔とは、その離間距離をx(mm)、空気置換孔の開口面積をz(mm )とした場合に、zx >100であることを特徴とする塗布具。
【請求項2】
タンク内の塗布液を、バルブを経由して塗布部に供給する塗布具において、
前記バルブからタンクまでの間に流通孔を設け、これら流通孔は、塗布部に対するタンク側の流通孔の開口高さが異なるものを有すると共に、バルブは、タンクと塗布部との間に、外方から内方に向けた押圧によって塗布液流路を遮断することが可能な閉鎖部材を設けたものであることを特徴とする塗布具。
【請求項3】
タンク内の塗布液を、バルブを経由して塗布部に供給する塗布具において、
前記バルブからタンクまでの間に流通孔を設け、これら流通孔は、塗布部に対するタンク側の流通孔の開口高さが異なるものを有すると共に、バルブは、外軸に対して内軸を回転操作させることによって流路を遮断する構造であることを特徴とする塗布具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具を含む塗布液を塗布する塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サイドノック式のポンプ機構を用い、軸本体の側部に設けられた動作部をノック操作することにより弁体が後方に移動した場合に、ポンプ機構の内圧が上がることによって弁体が開口して塗布体に塗布液を供給する塗布具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
又、ペン芯を押圧して弁棒体の後端側への移動によって、シール部材でインク通路を閉じ、かつインク内圧上昇によってシール部材を連通孔の開口から開いて、ペン芯側にインクを流通させる塗布具が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-107201号公報
【文献】特開2011-173308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来は特許文献1や特許文献2のようにポンプ機構を有するが、ポンプ機構を設けない塗布具では、部品点数の削減の阻害要因になっていた。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ポンプ機構を有することなく塗布液を適切に供給可能な塗布具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タンク内の塗布液を、バルブを経由して塗布部に供給する塗布具において、
前記バルブからタンクまでの間に流通孔を設け、これら流通孔は、塗布部に対するタンク側の流通孔の開口高さが異なるものを有することを特徴とする塗布具である。
【0008】
本発明において、前記流通孔の開口は、前記バルブの液遮断箇所よりもタンク側に位置する箇所に設けたことが好適である。
【0009】
本発明において、前記流通孔は複数設け、塗布部側に塗布液流通孔を形成すると共に、収容部側に空気置換孔を形成し、各々の孔は異なる軸線方向に開口させて形成したことが好適である。
【0010】
本発明において、塗布液流通孔と空気置換孔とは、その離間距離をx(mm)、空気置換孔の開口面積をz(mm)とした場合に、zx>100であることが好適である。
【0011】
本発明において、バルブは、タンクと塗布部との間に、外方から内方に向けた押圧によって塗布液流路を遮断することが可能な閉鎖部材を設けたものであることが好適である。
【0012】
本発明において、バルブは、外軸に対して内軸を回転操作させることによって流路を遮断する構造であることが好適である。
【0013】
本発明において、塗布液は、粘度が1~100(mPa・s)であることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗布具によれば、タンク内の塗布液を、バルブを経由して塗布部に供給する塗布具において、バルブからタンクまでの間に流通孔を複数設け、これら複数の流通孔は、塗布部に対するタンク側の流通孔の開口高さが異なるものであるので、使用に際して塗布液が流れるときに、複数の流通孔の開口高さの差から、塗布部側の開口から塗布液が塗布部側に流れ、又、タンク側の開口から空気置換するので、塗布液の供給の際にスムーズな空気置換が可能であるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る塗布具の説明図であって、(a)が一側面図、(b)が(c)のB-B線に沿う縦断面図、(c)が(a)から90°周方向に回転させた状態の側面図、(d)が(a)のD-D線に沿う縦断面図である。
図2図1の塗布具における(a)のC部の拡大斜視図である。
図3図1の塗布具における継手と通路体と管状通路と内装体とが部組された部品図であり、(a)が(h)のA-A線に縦断面図、(b)が後方からの視図、(c)が側面図、(d)が後方から視図、(e)が後方からの斜視図、(f)が(c)のF-F線に沿う縦断面図、(g)が前方からの斜視図、(h)が(c)から90°周方向に回転させた状態の側面図である。
図4図1の塗布具におけるバルブの作用説明図であり、(a)が開閉用金具の押圧方向、(b)が継手の開口位置による説明図である。
図5】実施例に係る塗布具の比較例と実施例とを理論上の空気置換可能性と実験した空気置換の結果とを説明する線図である。
図6】第2実施形態に係る塗布具のバルブの閉状態の説明図であって、(a)が一側面図、(b)が(a)のB-B線に沿う縦断面図、(c)が(b)から90°周方向に回転させた状態の縦断面図である。
図7】第2実施形態に係る塗布具のバルブの開状態の説明図であって、(a)が一側面図、(b)が(a)のB-B線に沿う縦断面図、(c)が(b)から90°周方向に回転させた状態の縦断面図である。
図8】第2実施形態に係る塗布具の内軸(バルブ体)の説明図であって、(a)が後方からの斜視図、(b)が側面視図、(c)が前方からの斜視図、(d)が(f)のD-D線に沿う縦断面図、(e)が後方からの視図、(f)が(b)から90°周方向に回転させた側面視図、(g)が前方からの視図、(h)が(a)から周方向に180°回転させた後方からの斜視図、(i)が(b)のI-I線に沿う縦断面図である。
図9】第2実施形態に係る塗布具の外軸(弁座体)の説明図であって、(a)が前方からの斜視図、(b)が側面図、(c)が前方からの視図、(d)が(c)のD-D線に沿う縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1図5は第1実施形態に係る塗布具の説明図である。
【0018】
図1に示すように、塗布具は、タンク10内の塗布液を、バルブ12を経由して塗布部14に供給する塗布具において、バルブ12からタンク(外軸)10までの間に2つの流通孔16a、16b(複数の流通孔の例)を設け、これら流通孔16a、16bは、塗布部14に対するタンク10側の開口16a1、16b1高さが異なるものを有するものである。
【0019】
2つの流通孔16a、16bの開口16a1、16b1は、バルブ12の塗布液の遮断箇所12aよりもタンク10側に位置する箇所に設けたものである。
【0020】
具体的な構成を説明する。
〔タンク10〕
タンク10は、塗布具の使用者が把持するための外軸を構成したものである。
タンク10は、後端の閉鎖された軸筒体であり、その内部空間が塗布液の収容空間10aになっている樹脂体からなる。
【0021】
タンク10の前部には、バルブ12を接続するための継手18と、流通孔16a、16bの開口16a1、16b1形成された通路体20と、バルブ12の管状通路12bと、先軸22の内装体22aとが連続配置される。
【0022】
塗布液は、粘度が25℃における回転粘度計にて10rpmでの測定値が1~100mPa・sである塗布液が収容されていることが好ましい。このインク粘度が1.0mPa・s未満のものは、調合が非常に困難であるうえに、仮に調合出来たとしても、描線乾燥性が悪くなり、好ましくなく、一方、100mPa・sを超えて大きいと、インク流量が少なく、書き味が悪くなるため、好ましくない。
塗布液としては、5~50mN/m(測定温度:25℃、測定器:協和界面科学社製 表面張力測定器)が望ましい。この表面張力が5mN/m未満では、直流現象を起こしやすく、また顔料の沈降や凝集を起こしやすくなってしまう。一方、50mN/mを越えると、保存環境や筆記状態によってインク流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じやすくなってしまうので、好ましくない。また、用いる塗布液は、少なくとも、着色剤と、分散剤と、固着樹脂と、濡れ剤と、水とを組み合わせることが好ましい。更に、筆記具のインク流量が、100gの荷重で、筆記角度70°、10m/minの筆記速度で50~400mg/2.5mとすることが好ましい。
【0023】
ここで挙げるインク組成物の詳細を述べると、着色剤は、隠蔽効果のある酸化チタン粒子、硫化亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、アルミニウム粉、パール顔料および、これらの粒子が複合した粒子から選ばれる粒子、あるいは、これらの粒子の分散体であって、粒子径が40nm~100μmとなるものを用いることが好ましい。なお、上記各着色剤における「粒子径」は、一次粒子径を意味する。また、含有量は、インク組成物全量に対して、固形分合計で1~50質量%、好ましくは、2~35質量%とすることが望ましい。この隠蔽剤の合計含有量が1質量%未満では、十分な隠蔽力を発揮することができず、また、均一な濃度描線が得られにくく、一方、50質量%を超えると、インク粘度が上昇してしまうか、粒子の沈降体積が多くなり、好ましくない。
【0024】
分散剤及び固着樹脂は、水溶性樹脂を含有することが好ましい。水溶性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、水溶性スチレン-アクリル樹脂、水溶性スチレン・マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコ-ル、水溶性エステル-アクリル樹脂、エチレン-マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂、また、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン-ブタジエンエマルジョン、スチレンアクリロニトリルエマルジョンなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、隠蔽剤および顔料の分散性、粘度調整、並びに、固着力向上の点から、上記の水溶性樹脂および樹脂エマルジョンからそれぞれ1種類以上、計2種類以上の使用が望ましい。これらの水溶性樹脂の含有量は、インク組成物全量に対して、1~20質量%とすることが望ましい。この水溶性樹脂の含有量が1質量%未満では、分散性と固着性を確保することが難しくなり、一方、20質量%を超えると、高粘度なってインクの追随性が悪くなり、好ましくない。
【0025】
濡れ剤は、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオ キシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリン・アルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミドなどの非イオン性界面活性剤;、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N‐アシルアミノ酸塩、N‐アシルメチルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、α‐オレフィンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などの陰イオン性界面活性剤;、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、フッ素化アルキルエステル、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基親水性基含有ウレタン、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアンモニウム 塩、パーフルオロアルキルアルコキシレート、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素系界面活性剤を挙げることができる。これらの界面活性剤は、一種もしくは二種以上を混合して使用することができる。
【0026】
図3は、継手18と、通路体20と、管状通路12bと、内装体22aとが部組された状態の説明図である。
【0027】
〔継手18〕
継手18は、図1図3に示すように、前端にバルブ12の管状通路12b内に繋がる前端開口18aが形成され、後端がタンク10内の空間に繋がる開口18bが形成される。継手18の外周には、タンク10の前端に当接する位置決め用のフランジ18cとフランジ18cの後方の外周面にタンク10の前端の内周と嵌着・固定するため凹凸部18dが形成される。符号18eは、開閉用金具24を係止する係止部である。
【0028】
〔通路体20〕
タンク10内には通路体20が装着される。通路体20は、前部20fが前方に開口した大径の筒状であって、後部20rが小径の筒状であり、後端が閉鎖された全体が概略筒状体である。前部20fから続く内部空間から後部20rの側面部の開口16a1、16b1を通してタンク10内に繋がる通路が流通孔16a、16b(図1に破線で示す)である。
【0029】
通路体20の前部20fは、継手18の内周部に固着している。後部20rの外周面と継手18の内周面の間には空間があり、この空間が通路体20の開口16a1、16b1を通して流通孔16a、16bのタンク10側部分となる。
【0030】
開口16a1、16b1高さは、塗布部14を下方に向けた際に開口16a1が低く、開口16b1が高い位置になる。
【0031】
流通孔16a(塗布液流通孔)と流通孔16b(空気置換孔)とは、好適には、その離間距離をx(mm)、空気置換孔の開口(16b1)の面積をz(mm)とした場合に、zx>100である。さらに好ましくはzx>300である。 寸法の例としては、好ましくは、xは1~10(mm)、zは0.8~30(mm)とする。
【0032】
〔バルブ12、管状通路12b、開閉用金具24等〕
バルブ12は、タンク10と塗布部14との間に、外方から内方に向けた押圧によって塗布液流路(管状通路12b)を遮断することが可能な閉鎖部材(開閉用金具24)を設けたものである。
【0033】
バルブ12の管状通路12bは柔軟な樹脂製の断面矩形の管路であり、外周部には弾性体からなる開閉用金具24が配置されている。図2に示すように、開閉用金具24は、概略M字形状を呈し、その概略M字の中央部が継手18前端の係止部18eに係止して支持されている。
開閉用金具が操作されていない状態では、下部24aが管状通路12bの遮断箇所12aを挟圧して遮断している。一方、開閉用金具24の上部24bを摘まんでF方向に押圧することによって管状通路12bの遮断箇所12aを開放する操作ができる。
【0034】
開閉用金具24は金属製等の弾性力のある線材を曲げることにより簡易かつ安価に形成することができる。したがって、バルブ機構の複雑でなく、軸方向の長さもとられないのでコンパクトな構成にできる。
【0035】
〔先軸22と内装体22a〕
内装体22aは、図1に示すように、概略筒状体を構成し前部内に塗布部14の後部が装着される。内装体22aは、先軸22に覆われている。
【0036】
〔塗布部14〕
塗布部14は、塗布部14の後端にフランジ部14aが拡径している。先軸22の先端部が段状に小径になった部分にフランジ部14aが係止することによって、塗布部14は、先軸22に対して前方に抜け止めされている。
【0037】
塗布部14は、後端部の中央に塗布液誘導芯26が挿入され、塗布液誘導芯26の周囲に塗布液保溜部28が配置される。
【0038】
塗布部14は、先細い筆先形状を呈し、筆記時の筆圧によって容易に曲がることが好ましく、天然繊維や合成樹脂繊維を束ねたものとし、あるいは、樹脂の成形体、多孔質樹脂体等の人工物や天然物等各種の材質とすることができる。
【0039】
〔塗布液誘導芯26、塗布液保溜部28〕
塗布液誘導芯26は、塗布部14と同材質、又は、異なる材質とすることができ、樹脂の成形体、多孔質樹脂体等の人工物や天然物等各種の材質とする、腰の強い材質であることが好ましい。塗布液保溜部28は、塗布液を保溜できる多孔質体とすることができる。
【0040】
第1実施形態に係る塗布具の作用を説明する。
この塗布具によれば、2つの流通孔16a、16bは、塗布部14に対するタンク10側の流通孔の開口16a1、16b1同士の高さが異なるものである。バルブ12の開閉用金具24は未操作状態では、遮断箇所12aを挟圧して閉じている。
【0041】
塗布具の使用に際して、塗布部14の塗布液を供給するときには、バルブ12の開閉用金具24の上部24b、24bを手指で摘まんで押圧することにより(図2に矢印F方向)、管状通路12bの塗布液の遮断箇所12aを開放する。
この際、タンク10の塗布液が流れようとするが、2つ開口16a1、16b1の高さの差から、塗布部14側の開口16a1から塗布液がタンクから塗布部14側に流れ(図1に破線で示す流通孔16a)、又、タンク10側の開口16b1からタンク側に空気が流れて(図1に二点鎖線で示す流通孔16b)空気置換する。
又、開閉用金具24への力を抜けば、開閉用金具24は変形が戻ろうとして、遮断箇所12aが閉じる。この開閉を繰り返すことにより、塗布部14へ塗布液の供給の際にスムーズな液供給と、空気置換が可能である。
したがって、バルブ12が管状通路12bの液遮断箇所を開閉する作動をさせてスムーズな液供給が可能になる。
【0042】
実施形態の塗布具では、弁をタンク側に押し込む通常の開弁作動とは異なり、体積変化なく、インク流路の途中で開弁操作をする構造となる。通常、体積変化がないと、バルブ部分で空気置換せずに塗布液が流出しないが、実施形態の塗布具では、バルブ12とタンク10との高低差を付与する流路(流通孔16a、16b)を設けることで、塗布液を流出させることが可能にしたものである。
【0043】
図4は、バルブ12の周囲の拡大図である。
【0044】
図1図4に示すように、バルブ12には、塗布部14側に塗布液の流通孔16aの開口16a1を形成すると共に、タンク10側に空気置換孔となる流通孔16bの開口16b1を形成し、各々の開口16a1、16b1の方向(位置)は軸に対して別方向に向けている。
【0045】
又、開口16a1、16b1の軸に対して開口方向を同方向に向けて形成したものも実施形態に含まれる。同方向に開口した場合、図4に示すように流通孔16aの開口16a1’(破線で示す)と流通孔16bの開口16b1とを同側向に形成したものも含む。
【0046】
ここで、実施形態に係る塗布具において、図5は、比較例と実施例の実験結果を示す。
【0047】
塗布液として、下記組成の筆記具用インク(合計100質量%)を使用した。
着色剤:酸化チタン 30質量%
分散剤及び固着剤:スチレンアクリル樹脂 10質量%
濡れ剤:フッ素系界面活性剤 0.01質量%
水(溶媒):イオン交換水 残 分
粘度(25℃、10rpm、回転粘度計(TV-20、TOKIMEC製):5.8mPa・s
表面張力:24mN/m(測定温度:25℃、測定器:協和界面科学社製 表面張力測定器)
【0048】
〔比較例1〕
開口16a1、16b1(孔)間の離間距離:0[mm]
孔形状:円
空気置換部(開口16b1)の孔径:2[mm]
空気置換孔面積:3.1[mm2
zx= 0
実験結果:空気置換できなかった(×)
【0049】
〔比較例2〕
開口16a1、16b1(孔)間の離間距離:0[mm]
孔形状:円
空気置換部の孔径:2.5[mm]
空気置換孔面積:4.9[mm2
zx= 0
実験結果:空気置換できなかった(×)
【0050】
〔比較例3〕
開口16a1、16b1(孔)間の離間距離:5[mm]
孔形状:円
空気置換部の孔径:2[mm]
空気置換孔面積:3.1[mm2
zx= 79
実験結果:空気置換ができなかった(×)
【0051】
〔実施例1〕
開口16a1、16b1(孔)間の離間距離:5[mm]
孔形状:円
空気置換部の孔径:2.5[mm]
空気置換孔面積:4.9[mm2
zx= 123
実験結果:空気置換できた(〇)
【0052】
〔実施例2〕
開口16a1、16b1(孔)間の離間距離:5[mm]
孔形状:円
空気置換部の孔径:3[mm]
空気置換孔面積:7.1[mm2
zx= 177
実験結果:空気置換できた(〇)
【0053】
〔実施例3〕
開口16a1、16b1(孔)間の離間距離:10[mm]
孔形状:円
空気置換部の孔径:2[mm]
空気置換孔面積:3.1[mm2
zx= 314
実験結果:空気置換できた(〇)
【0054】
〔実施例4〕
開口16a1、16b1(孔)間の離間距離:10[mm]
孔形状:円
空気置換部の孔径:2.5[mm]
空気置換孔面積:4.9[mm2
zx= 491
実験結果:空気置換ができた(〇)
【0055】
〔比較例4〕
開口(孔)間の離間距離:5mm
孔形状:角
空気置換部の孔径:1.5×1.5[mm]
空気置換孔面積:2.3[mm2
zx= 56
実験結果:空気置換できなかった(×)
【0056】
〔実施例5〕
開口(孔)間の離間距離:5[mm]
孔形状:角
空気置換部の孔径:2.5×2.5[mm]
空気置換孔面積:6.3[mm2
zx= 156
実験結果:空気置換できた(〇)
【0057】
以上のように、比較例は空気置換が難しかったが、実施例では、空気置換ができ、スムーズな塗布液の供給ができた。
【0058】
次に第2実施形態に係る塗布具について説明する。
【0059】
図6はこの塗布具のバルブが閉状態を示す。図7はバルブ34が開状態を示す。図8は内軸32の部品図を示す。図9は外軸30の部品図を示す。
【0060】
第2実施形態の塗布具は、バルブ34を有し(図6参照)、第1実施形態の塗布具のバルブ12(図1参照)と異なる。図6に示すように、軸筒の外軸30が中央部から後部が塗布液を収容するタンク(収容部30a)となり、外軸30の前部30b内に装着した内軸32とでバルブ34を構成する。その他の第1実施形態と同様箇所に同一の符号を付している。
【0061】
バルブ34は、外軸30に対して内軸32を回転操作させることによって2つの流通孔32a、32b(複数の流通孔の例、図7参照)を遮断する構造である。
【0062】
詳細には、外軸30の前部30bには、図6図9に示すように、中央部よりも太径に形成され、内部に対のリブ30c、30cが内側に突出形成され、リブ30c、30c間が収容部30a側に繋がる液通路となる。図9に示すように、リブ30c、30cの後方に隣接して凹凸部30dが形成されている。
【0063】
図8に示すように、内軸32は、後端部が閉鎖され、後部32rの側面部に距離を置いて前側の開口32a1(流通孔32a)、後ろ側の開口32b1(流通孔32b)が形成されている。図6の閉状態では、流通孔32a、32bが閉鎖し、図7の開状態では流通孔32a(破線で示す)、32b(二点鎖線で示す)が流通可能になる。
【0064】
内軸32の後部32rの閉鎖された後端面から後方に対の壁部32eが延びる。図8に示すように、壁部32eの外周面には、凸部32e1が周面上に形成されており、この凸部32e1が外軸30の内周部の凹凸部30dに対して嵌着している。これによって、内軸32が外軸30に対して回転可能かつ軸方向への移動が規制された抜け止めされるようになっている(図6参照)。
【0065】
図6図8に示すように、対の壁部32e、32eは周方向で間隔を置いており、対の壁部32e、32eの形成箇所は、開口32a1、32b1と同じ周方向位置に形成されている。壁部32e、32eの間の空間から外軸30の収容部(タンク)30a内の塗布液が内軸32の周囲に流れ込むようになっている。
【0066】
内軸32の前部32fには、外周面にフランジ32cが拡径して形成される。フランジ32cの外周面は、後部が段状に縮径し、凹部が形成されている。その縮径した後部の外周面の凹部には、弾性樹脂体からなるシール体36aが収容されている。又、開口32a1、32b1の各周囲には、環状に凹部が形成され、その凹部内に環状のシール体36bが嵌入して液密を保つようになっている。
【0067】
外軸30内に、内軸32が装着された状態では(図6図7参照)、シール体36a、36bによって、内軸32は、外軸30の前部30bに対して、回転可能かつ、液密に摺接している。
【0068】
内軸32の前部32fの外周には、図6に示すように、塗布部14を覆う先軸38が嵌め込まれており、先軸38の内面の段部と内軸32の前端部によって、塗布部14のフランジ部14aを挟み付けて抜け止めしている。
【0069】
先軸38は、内軸32に対して嵌着されて回転方向に相対回転が規制されている。使用者は先軸38を一方の手で把持して他方の手で外軸30を把持して、先軸38と外軸30を相対回転させると、内軸32の外軸30の摺接箇所が変化してバルブを開閉できる構造になっている。
先軸38と外軸30とを相対回転させて、バルブ34の閉弁時には、図6に示す状態となり、バルブ34の開弁時には図7に示す状態となる。
【0070】
〔バルブ34の閉弁時〕
バルブ34の閉弁時には、図6に示すように、外軸30の前部30b内のリブ30c、30cが開口32a1、32b1に対向し当接し、閉じた状態となる。その際に、壁部32e、32e同士の間隙から収容部30a内の塗布液が内軸32周囲の空間40内に流れ込む。しかし、開口32a1、32b1は閉じているため、流通孔32a、流通孔32b(図7参照)は形成されない。
【0071】
〔バルブ34の開弁時〕
バルブ34の開弁時には、図7に示すように、外軸30の前部30b内のリブ30c、30cが開口32a1、32b1が空間40に対向して、連通する状態となる。塗布部14側の開口32a1から塗布液が塗布部14側に流れ(図7に破線で示す流通孔32a)、又、収容部30a側の開口32b1から収容部30a側に空気が流れて(図7に二点鎖線で示す流通孔32b)空気置換する。
【0072】
以上のように、実施形態2に係る塗布具では、収容部(タンク)30a内の塗布液を、バルブ34を経由して塗布部14に供給する塗布具において、バルブ34から収容部30aまでの間に流通孔32a、32bを2つ(複数の例)設け、これら流通孔32a、32bは、塗布部14に対する収容部30a側の流通孔32a、32bの開口32a1、32b1高さが異なるものとなる。
【0073】
したがって、使用に際して塗布液が流れるときに、流通孔32a、32bの開口32a1、32b1高さの差から、塗布部側の開口32a1から塗布液が塗布部14側に流れ、又、収容部30a側の開口32b1から空気置換するので、塗布液の供給の際にスムーズな空気置換が可能である。
また、通常、体積変化がないと、バルブ部分で空気置換せずに塗布液が流出しないが、実施形態の塗布具では、バルブ12と収容部30aとの間に高低差を付与する流路(流通孔32a、32bの開口32a1、32b1)を設けることで、塗布液を流出させることが可能になる。
【0074】
本発明は、実施形態に限定されず流通孔は3個以上形成されていてもよい。また、流通孔は空気置換孔と連結しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の塗布具は、筆記具に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
10 タンク
12 バルブ
12a 遮断箇所
12b 管状通路
14 塗布部
14a フランジ部
16a 流通孔(塗布液用)
16a1 開口
16b 流通孔(空気置換用)
16b1 開口
18 継手
18a 前端開口
18b 開口
18cフランジ
18d凹凸部
20 通路体
20f 前部
20r 後部
22 先軸
22a 内装体
24 開閉用金具
24a 下部
24b 上部
26 塗布液誘導芯
28 塗布液保溜部
30 外軸
30a 収容部(タンク)
30b 前部
30c リブ
30d 凹凸部
32 内軸
32a 流通孔
32a1 開口
32b 流通孔
32b1 開口
32c フランジ
32e壁部
32e1 凸部
32f 前部
32r 後部
34 バルブ
36a シール体
34 バルブ(第2実施形態)
36b シール体
38 先軸
40 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9