(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240222BHJP
C08K 5/3412 20060101ALI20240222BHJP
C08K 5/08 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/3412
C08K5/08
(21)【出願番号】P 2020041163
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】望田 諭嗣
(72)【発明者】
【氏名】西野 陽平
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-002704(JP,A)
【文献】特開2013-241563(JP,A)
【文献】特開2008-009222(JP,A)
【文献】特開2008-009238(JP,A)
【文献】特開2006-301147(JP,A)
【文献】特開2021-025029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
G02B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、最大吸収波長が700~800nmの範囲にある染料(B)を0.001~0.25質量部
、最大吸収波長が800nm超から900nmの範囲にある染料(C)を0.001~0.25質量部
、および、最大吸収波長が700nm未満である染料(D)を0.01~2質量部含有
し、
染料(B)がクアテリレン系染料及び/又はアントラキノン系染料であり、染料(C)が縮合多環系染料、フタロシアニン系染料および銅含有フタロシアニン染料から選ばれる少なくとも1種であり、染料(D)は最大吸収波長が異なる染料である、Solvent Red 179、Solvent Violet 13、Solvent Orange 60及びSolvent Green 3を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
厚さ1mmに成形した成形品について測定した870nmでの透過率が5%以下である請求項
1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
厚さ1mmに成形した成形品について測定した960nmでの透過率が70%以上である請求項1
または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
厚さ1mmに成形した成形品について測定した、800nmでの透過率が3%以下である請求項1~
3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、可視光線遮断率が高く、960nmでの透過率が高いポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、各種の部品製造用材料に幅広く利用され、その一つの例として、赤外線センサーがある。赤外線センサーは850nm~1000nm付近の近赤外線を利用しているが、受光部の感度を上げるために、可視光線を遮蔽するフィルターを必要とする。ポリカーボネート樹脂を使用する場合、ポリカーボネート樹脂に、可視光線を遮蔽するために必要な赤外線吸収剤や染顔料等を添加することで、可視光線を遮蔽し、赤外線を透過する。
【0003】
近年、赤外線センサーは、自動車の自動運転制御や安全走行制御、電子電機機器の遠隔制御、警報装置等にも使用され、高い精度でのセンサー機能が必要となっている。そのため、赤外線透過フィルターには、可視光線による誤作動を防ぐため、センサーに使用する所望の波長の赤外線を選択的に透過させ、可視光線は赤外線の使用波長になるべく近い波長までを遮蔽し、ノイズを除去する必要がある。
【0004】
赤外線透過フィルターとしては、例えば、ポリカーボネート樹脂に特定の構造を有するアントラキノン系染料を配合してなる赤外線透過フィルターが特許文献1で提案されている。しかし、特許文献1に記載の赤外線透過フィルターは、赤外線波長に近い波長、具体的には波長700~800nmの可視光線遮蔽性が十分ではない。
【0005】
そして、赤外線センサーに求められる透過・遮断性能はますます高度化しており、さらに最近では、赤外線センサーは、近赤外線反射型センサーが主流になっており、赤外線の特徴の、人間や猫などの熱をもった物体に当てると赤外線を放出する(はね返す)原理を利用している。その使用波長は900nm~1000nm、一般的には900~960nmのLEDが光源となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題(目的)は、上記従来技術に鑑み、可視光線遮断率が高く、960nmでの透過率が高いポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂に、最大吸収波長が700~800nmの範囲にある染料、および最大吸収波長が800nm超から900nmの範囲にある染料を含有するポリカーボネート樹脂組成物が、可視光線遮断率が高く、960nmでの透過率が高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【0009】
[1]ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、最大吸収波長が700~800nmの範囲にある染料(B)を0.001~0.25質量部、および、最大吸収波長が800nm超から900nmの範囲にある染料(C)を0.001~0.25質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[2]前記染料(B)がクアテリレン系染料及び/又はアントラキノン系染料である上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]前記染料(C)が、縮合多環系染料、フタロシアニン系染料および銅含有フタロシアニン染料から選ばれる少なくとも1種である上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4]さらに、最大吸収波長が700nm未満である染料(D)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~2質量部含有する上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]前記染料(D)として、最大吸収波長が異なる染料を2種以上含有する上記[4]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0010】
[6]厚さ1mmに成形した成形品について測定した870nmでの透過率が5%以下である上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7]厚さ1mmに成形した成形品について測定した960nmでの透過率が70%以上である上記[1]~[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[8]厚さ1mmに成形した成形品について測定した、800nmでの透過率が3%以下である上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、可視光線遮断率が高く、960nmでの透過率が高い。そのため、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、各種の赤外線センサー用のカバー等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではない。
なお、本願明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、最大吸収波長が700~800nmの範囲にある染料(B)を0.001~0.25質量部、および、最大吸収波長が800nm超から900nmの範囲にある染料(C)を0.001~0.25質量部含有することを特徴とする。
【0014】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有するポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、一般式:-[-O-X-O-C(=O)-]-で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。上記式中、Xは、一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0015】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、特には芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂とは、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素であるポリカーボネート樹脂をいう。芳香族ポリカーボネートは、各種ポリカーボネートの中でも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、優れている。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなる芳香族ポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。また芳香族ポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このような芳香族ポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
【0018】
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0019】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0020】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0021】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0022】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0023】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0024】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0025】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0026】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0027】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、または2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0028】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、デカン-1,10-ジオール等のアルカンジオール類;
【0029】
シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタン-1,3-ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0030】
エチレングリコール、2,2’-オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0031】
1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジエタノール、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3-ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6-ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’-ビフェニルジメタノール、4,4’-ビフェニルジエタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0032】
1,2-エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2-エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,4-エポキシシクロヘキサン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシノルボルナン、1,3-エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0034】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0035】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0037】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、粘度平均分子量[Mv]で10,000~40,000であることが好ましい。粘度平均分子量が10,000未満では、機械的強度が十分ではなくなる傾向があり、粘度平均分子量が40,000を超えると、流動性が悪く成形性が悪くなる傾向にある。粘度平均分子量は、より好ましくは16,000~40,000であり、さらに好ましくは18,000~30,000、特には18,500~25,000である。分子量をこのような範囲に調節するには、後記するような分子量調節剤の量を制御する等の公知の方法で可能である。
【0038】
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83 から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0039】
ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1,000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。このようにすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)にて行われる。
【0040】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、モノマー組成、分子量、末端水酸基濃度等が異なるポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して使用してもよい。また、ポリカーボネート樹脂に他の熱可塑性樹脂を混合したアロイ(混合物)として組み合わせて用いてもよい。
【0041】
さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0042】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0043】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、なかでも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0044】
[染料(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、最大吸収波長が700~800nmの範囲にある染料(B)を含有する。
【0045】
本発明において、染料(B)の最大吸収波長は、JIS K7105に準拠し、以下の式(1)から求める吸収曲線の最大吸収波長として定義される。
[染料(B)を0.005質量%含有するポリカーボネート樹脂の吸光度]-[ポリカーボネート樹脂のみの吸光度]・・・(1)
すなわち、上記式(1)に従って、染料(B)を0.005質量%含有するポリカーボネート樹脂の平板状成形品での吸光度から、同じポリカーボネート樹脂で染料(B)を含有しないポリカーボネート樹脂の同形状で同厚みの平板状成形品の吸光度を差し引いて得られる吸収曲線の最大吸収波長として、定義される。このように定義される最大吸収波長は、用いる平板状試験片の厚みによって変化はしないと原理上考えられるが、本発明では2mm厚で比較することが好ましい。
なお、後記する染料(C)及び染料(D)の最大吸収波長も上記と同義である。
また、最大吸収波長の測定・決定方法の具体的な条件等は、実施例に記載される通りである。
【0046】
最大吸収波長が700~800nmの範囲にある染料(B)としては、市販の染料の中から最大吸収波長が700~800nmの範囲にある染料を選択して使用可能であり、例えば、クアテリレン系染料、アントラキノン系染料等から最大吸収波長が700~800nmの範囲にあるものを選択して使用することが特に好ましい。
【0047】
クアテリレン系染料は、代表的にはクアテリレン-3,4:13,14-テトラカルボン酸ジイミド構造を有する染料であり、クアテリレン系染料としてはこのような構造を有するものが好ましい。
【0048】
クアテリレン系染料は市販品としても入手可能であり、それらの中から最大吸収波長が700~800nmの範囲にあるもの、例えば、BASFカラー&エフェクト社製、商品名「Lumogen IR765」(最大吸収波長:740-790nm)、「Lumogen IR788」(最大吸収波長:760-800nm)等を選択して使用することができる。
【0049】
アントラキノン系染料は、各種のものが市販されており、それらの中から、最大吸収波長が700~800nmの範囲にあるもの、例えば、住化カラー社製、商品名「NIR-840S」(最大吸収波長:740-790nm)等を選択して使用することができる。
【0050】
染料(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.25質量部である。含有量が0.001質量部未満では700~800nmでの光線遮断率が悪く、透過率が高くなり、0.25質量部を超えると960nmでの透過率が低下してしまい、また熱安定性が悪くなり成形時のガス発生等が起きやすい。好ましい含有量は0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、また好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下、とりわけ0.07質量部以下、特に0.06質量部以下が好ましい。
【0051】
[染料(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、最大吸収波長が800nm超から900nmの範囲にある染料(C)を含有する。
【0052】
染料(C)の最大吸収波長の定義は前記した通りである。
最大吸収波長が800nm超から900nmの範囲にある染料(C)としては、市販品の中から、例えば、縮合多環系染料、フタロシアニン系染料、銅含有フタロシアニン染料、ニッケル錯体系染料、ポリメチン系染料等の中から、最大吸収波長が800nm超から900nmの範囲にあるものを選択して使用することができる。
【0053】
例えば、縮合多環系染料としては、有本化学社製、商品名「SDO-C33」(最大吸収波長:820-870nm)、フタロシアニン系染料としては、日本触媒社製、商品名「IR-14」(最大吸収波長:810-860nm)、銅含有フタロシアニン染料としては、日本触媒社製、商品名「IR-10A」(最大吸収波長:約830-880nm)等を選択して使用することができる。
【0054】
染料(C)は、縮合多環系染料、フタロシアニン系染料および銅含有フタロシアニン染料から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0055】
染料(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.25質量部である。含有量が0.001質量部未満では800nm超から900nmでの光線遮断率が悪く、透過率が高くなり、0.25質量部を超えると960nmでの透過率が低下してしまい、また熱安定性が悪くなり成形時のガス発生等が起きやすい。好ましい含有量は0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、また好ましくは0.2質量部以下、中でも0.1質量部以下、とりわけ0.07質量部以下、特に0.05質量部以下が好ましい。
【0056】
[染料(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、最大吸収波長が700nm未満の範囲にある染料(D)を上記染料(B)及び染料(C)と併せて含有することが、可視光線遮断率がより高くなり、且つ960nmでの透過率が高いために特に好ましい。
【0057】
最大吸収波長が700nm未満の範囲にある染料(D)としては、有機染料が好ましく、例えば、シアニン系染料、フタロシアニン系染料、ナフタロシアニン系染料、縮合多環系染料、インモニウム系染料、アミノウム系染料、キノリウム系染料、ピリリウム系染料、Ni錯体系染料、ピロロピロール系染料、銅錯体系染料、アゾ系染料、アンスラキノン系染料、ジイモニウム系染料、スクアリリウム系染料、ポルフィリン系染料等の中から、最大吸収波長が700nm未満になるものを選択することができる。
【0058】
染料(D)の具体例としては、カラーインデックスで表すと、例えばSolvent Red 179、Solvent Violet 13、Solvent Orenge 60、Solvent Green 3等が好ましく挙げられる。
【0059】
染料(D)の最大吸収波長の定義は前記した通りであり、染料(D)の最大吸収波長の下限としては、好ましくは300nm、より好ましくは350nmである。
【0060】
染料(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01~2質量部であることが好ましい。含有量が0.01質量部未満では可視光線領域、700nm未満での光線遮断率が悪く、透過率が高くなり、2質量部を超えると熱安定性が悪くなり、高温成形時の透過率が低下してしまい、また成形時のガス発生等が起きやすい。より好ましい含有量は0.015質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、また好ましくは1.8質量部以下、より好ましくは1.6質量部以下、中でも1.5質量部以下、とりわけ1質量部以下、特に0.5質量部以下が好ましい。
【0061】
染料(D)として、最大吸収波長が異なる染料を2種以上含有することが、1種のみの場合に比べて染料(D)の総含有量を低減できるため、成形時のガス発生抑制の点から好ましい。
【0062】
[リン系安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リン系安定剤を含有することが好ましい。リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2C族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0063】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0064】
リン系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常3質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0065】
[フェノール系安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、フェノール系安定剤を含有することも好ましい。フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0066】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0067】
フェノール系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0068】
[離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は離型剤を含有することも好ましい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0069】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0070】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0071】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0072】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0073】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0074】
数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。また、数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0075】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましく、ポリエチレンワックスが特に好ましい。
【0076】
なお、離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上である。離型剤の含有量が0.1質量部未満の場合は離型性の効果が不十分な場合がある。離型剤の含有量は、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。
【0077】
[紫外線吸収剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有することも好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オキサニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらのうち、有機紫外線吸収剤が好ましく、中でもベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、透明性や機械物性が良好なものになる。
【0078】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、中でも2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0079】
紫外線吸収剤を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0080】
[その他の含有成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、上記以外の樹脂、上記以外の各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0081】
その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;
ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;
【0082】
ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン共重合体(COP)樹脂等のポリオレフィン樹脂;
ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0083】
その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。ただし、その他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらに5質量部以下、中でも3質量部以下、特には1質量部以下とすることが好ましい。
【0084】
樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、帯電防止剤、充填材、難燃剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0085】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0086】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、厚さ1mmに成形した成形品について測定した870nmでの透過率が5%以下であることが好ましく、より好ましく4%以下、さらに好ましく3%以下、中でも2%以下である。特に好ましくは1.5%以下である。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、厚さ1mmに成形した成形品について測定した960nmでの透過率が70%以上であることが好ましく、より好ましく75%以上、さらに好ましく80%以上である。
そして、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、厚さ1mmに成形した成形品について測定した800nmでの透過率が3%以下であることが好ましく、より好ましく2%以下、さらに好ましく1%以下、特に好ましくは0.7%以下である。
【0087】
[成形体]
得られた樹脂組成物ペレットから成形体を製造する方法に制限はなく、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法などが挙げられる。成形が容易なことと生産性の観点から射出成形、射出圧縮成形が好ましい。
【0088】
ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、可視光線遮断率が高く、960nmでの透過率が高いので、自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野等の赤外線センサー用部品として好適に使用でき、例えば、店舗、住宅、施設や鉄道駅、空港等の監視、入退室管理や個人認証;道路災害(崩落など)監視、ダム水量監視、活火山監視の防災目的;交通流量、自動速度違反取締装置、自動車ナンバー自動読取装置;自動車分野ではドライバーの顔向き認知、居眠り防止装置、ナイトビジョン、バックソナー、車線逸脱防止、車間距離維持、事故自動回避;テレビジョンやオーディオ、空調機器等の電気機器の遠隔制御装置;果物等の物品の計数装置;近赤外線を利用した光学式文字読み取り装置;等の製品に好適に使用することができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により説明する。
実施例及び比較例に用いた各原料成分は、以下の表1の通りである。
【0090】
【0091】
[実施例1~17、比較例1~5]
上記した各成分を下記表2~4に記載の割合で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30α)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、樹脂温度280~300℃(測定値)にて溶融混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化してポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0092】
[透過率の測定]
得られたペレットを、120℃で5時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「SE50DUZ」により、樹脂温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル40秒の条件で、幅60mm×長さ90mmで厚みが1mm、2mm及び3mmの3段の段付き平板状試験片を成形した。
JIS K7105に準拠して、段付き平板状試験片の1mm厚みの部分について、分光光度計(日本電色社製「UV-3600」)を用い、透過率の測定を行った。
400nm、550nm、800nm、870nm、及び960nmでの透過率(単位:%)を表2~4に記載した。
【0093】
【0094】
【0095】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、可視光線遮断率が高く、960nmでの透過率が高いので、各種の赤外線センサー用のカバー部品等として広く利用することができ、工業的利用価値が極めて高い。