(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ステンレス鋼矢板の施工装置およびステンレス鋼矢板壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 7/18 20060101AFI20240222BHJP
E02D 13/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
E02D7/18
E02D13/00 Z
(21)【出願番号】P 2020042797
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雄充
(72)【発明者】
【氏名】大高 範寛
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-043519(JP,A)
【文献】特開平08-295842(JP,A)
【文献】特開2004-263262(JP,A)
【文献】特開平10-183604(JP,A)
【文献】実開平01-079632(JP,U)
【文献】特開平03-199523(JP,A)
【文献】特開平11-350486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/18
E02D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼矢板を挟持する挟持手段と、
少なくとも前記ステンレス鋼矢板に接触する前記挟持手段の表面に配置され、防錆性を有する材料で形成された保護部材と
を備え
、
前記保護部材は、ステンレス鋼で形成される、ステンレス鋼矢板の施工装置。
【請求項2】
前記保護部材は、前記挟持手段の表面と前記ステンレス鋼矢板との間に介挿される板状部材である、請求項1に記載のステンレス鋼矢板の施工装置。
【請求項3】
前記挟持手段は、バイブロハンマのチャックである、請求項1
または請求項
2に記載のステンレス鋼矢板の施工装置。
【請求項4】
防錆性を有する材料で形成された保護部材をステンレス鋼矢板に接触させながら、前記ステンレス鋼矢板を挟持する工程と
前記挟持されたステンレス鋼矢板に鉛直方向の荷重を加えて地中に打設する工程と
を含
み、
前記保護部材は、ステンレス鋼で形成される、ステンレス鋼矢板壁の施工方法。
【請求項5】
前記ステンレス鋼矢板を挟持する工程は、前記ステンレス鋼矢板を挟持する挟持手段と前記ステンレス鋼矢板との間に板状の前記保護部材を介挿する工程を含む、請求項
4に記載のステンレス鋼矢板壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼矢板の施工装置およびステンレス鋼矢板壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼矢板は普通鋼製であった。普通鋼製の鋼矢板を地中に打設する際に用いられる治具や施工方法は、種々提案されている。例えば特許文献1には、鋼矢板の表面に形成された腐食防止用の塗料や被膜などの損傷を防ぐために、表面がフラットな鋼板で鋼矢板を挟持する技術が記載されている。特許文献2には、杭圧入引抜機のドラムの接触による鋼矢板の変形を防止するために、鋼矢板のフランジの基部を内側から支持して変形を防止するための金属製のピースを設ける技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平1-79632号公報
【文献】特開平11-350486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記の通り従来は普通鋼製であった鋼矢板を、ステンレス鋼製とする技術を開発した。鋼矢板をステンレス鋼製とすることによって、鋼矢板の腐食や表面錆を防止でき、耐久性および外観に優れた鋼矢板壁を構築することができる。
【0005】
しかしながら、普通鋼などの防錆性のない金属を接触させてステンレス鋼矢板を挟持した場合、ステンレス鋼矢板の表面に錆が付着し、さらにその錆からステンレス鋼矢板自体にも腐食が発生する、もらい錆と呼ばれる現象が生じる。
【0006】
上述したような従来の技術では、挟持部材の形状やピースの設置によって鋼矢板の表面塗膜の損傷や変形が防止されているものの、そのための挟持部材やピースの材質については鋼製、または金属製とされているため、上記のもらい錆を防止することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、ステンレス鋼矢板を地中に打設して鋼矢板壁を構築するにあたり、もらい錆を防止して耐久性や外観を維持することができるステンレス鋼矢板の施工装置およびステンレス鋼矢板壁の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]ステンレス鋼矢板を挟持する挟持手段と、少なくともステンレス鋼矢板に接触する挟持手段の表面に配置され、防錆性を有する材料で形成された保護部材とを備える、ステンレス鋼矢板の施工装置。
[2]保護部材は、挟持手段の表面とステンレス鋼矢板との間に介挿される板状部材である、[1]に記載のステンレス鋼矢板の施工装置。
[3]保護部材は、ステンレス鋼で形成される、[1]または[2]に記載のステンレス鋼矢板の施工装置。
[4]挟持手段は、バイブロハンマのチャックである、[1]から[3]のいずれか1項に記載のステンレス鋼矢板の施工装置。
[5]防錆性を有する材料で形成された保護部材をステンレス鋼矢板に接触させながら、ステンレス鋼矢板を挟持する工程と挟持されたステンレス鋼矢板に鉛直方向の荷重を加えて地中に打設する工程とを含む、ステンレス鋼矢板壁の施工方法。
[6]ステンレス鋼矢板を挟持する工程は、ステンレス鋼矢板を挟持する挟持手段とステンレス鋼矢板との間に板状の保護部材を介挿する工程を含む、[5]に記載のステンレス鋼矢板壁の施工方法。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、防錆性を有する材料で形成された保護部材をステンレス鋼矢板に接触させて打設するため、打設時におけるステンレス鋼矢板のもらい錆を防止し、耐久性や外観を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るステンレス鋼矢板を用いた鋼矢板壁の施工装置の例を示す図である。
【
図2A】
図1に示すバイブロハンマの断面図である。
【
図2B】
図1に示すバイブロハンマの断面図である。
【
図3A】変形例に係るバイブロハンマの断面図である。
【
図3B】変形例に係るバイブロハンマの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るステンレス鋼矢板を用いた鋼矢板壁の施工装置の例を示す図である。図示された例において、施工装置は、クレーン1によって地表から所定の高さに吊り上げられたバイブロハンマ2を含む。バイブロハンマ2は、チャック21でステンレス鋼矢板3を挟持し、チャック21に鉛直方向の振動荷重を加えることによってステンレス鋼矢板3を地中に打設する。
【0013】
図2Aおよび
図2Bは、
図1に示すバイブロハンマの断面図である。
図2Bは
図2AのB-B線に沿った断面図であり、
図2Aは
図2BのA-A線に沿った断面図である。図示された例において、バイブロハンマ2は、チャック21と、シリンダ22と、フレーム23とを含む。チャック21およびシリンダ22はフレーム23によって支持され、シリンダ22を駆動させることによってチャック21の挟持面211,212の間にステンレス鋼矢板3を挟持することができる。挟持面211,212には鋼矢板との間での滑りを防止するために凹凸が形成されている。
【0014】
上記のようなバイブロハンマ2において、チャック21は一般に普通鋼、すなわち炭素鋼で形成される。普通鋼で形成された挟持面211,212が直接的にステンレス鋼矢板3に接触すると、挟持面211,212に生じている錆がステンレス鋼矢板3の表面にも付着して外観を損ねるのに加え、錆が付着した部分で酸化被膜が機能せず、結果としてステンレス鋼矢板3自体にも腐食が発生する、もらい錆と呼ばれる現象が生じる。ステンレス鋼矢板3は、一般に耐久性や外観に優れていることを利点とするが、打設時に発生するもらい錆はこの利点を損ねる。
【0015】
そこで、本実施形態では、ステンレス鋼矢板3に接触するチャック21の挟持面211,212に保護部材としてステンレス鋼板41,42を配置する。チャック21がステンレス鋼板41,42を介してステンレス鋼矢板3を挟持することによって、普通鋼で形成された挟持面211,212に生じている錆がステンレス鋼板41,42には付着するもののステンレス鋼矢板3には付着せず、結果としてステンレス鋼矢板3のもらい錆を防止することができる。
【0016】
本実施形態では、ステンレス鋼矢板3を地中に打設して鋼矢板壁を形成するときに、ステンレス鋼板41,42をステンレス鋼矢板3に接触させながら、ステンレス鋼板41,42の外側からチャック21でステンレス鋼矢板3を挟持する。このとき、例えば人手でチャック21の挟持面211,212とステンレス鋼矢板3との間にステンレス鋼板41,42を介挿してもよい。あるいは、予め挟持面211,212にステンレス鋼板41,42を固定しておいてもよい。人手による場合は設備構成が単純化され、予め固定する場合は人手による工程を省略することができる。
【0017】
図3Aおよび
図3Bは、変形例に係るバイブロハンマの断面図である。
図3Bは
図3AのB-B線に沿った断面図であり、
図3Aは
図3BのA-A線に沿った断面図である。図示された例では、上記の例と異なり、ステンレス鋼板41A,42Aが、挟持面211,212に形成された凹凸に沿った形状を有し、ステンレス鋼板41A,42Aのステンレス鋼矢板3に接触する面にも凹凸が形成される。これによって、挟持面211,212とステンレス鋼板41A,42Aとも間、およびステンレス鋼板41A,42Aとステンレス鋼矢板3との間での滑りをより確実に防止することができる。
【0018】
他の例では、ステンレス鋼板の挟持面211,212側の面を
図3Aおよび
図3Bの例と同様に挟持面211,212に形成された凹凸に沿った形状にし、ステンレス鋼矢板3側の面を
図2Aおよび
図2Bの例と同様に平坦にしてもよい。あるいは、ステンレス鋼板とステンレス鋼矢板3との間での滑りを防止しつつステンレス鋼矢板3の表面における圧痕を最小化するために、ステンレス鋼板のステンレス鋼矢板3側の面に挟持面211,212に形成された凹凸とは異なる凹凸を形成してもよい。
【0019】
上記の実施形態ではステンレス鋼矢板3の施工装置としてバイブロハンマ2、ステンレス鋼矢板を挟持する挟持手段としてチャック21を例示したが、チャックの形状は図示された例には限られず、公知のさまざまな形状とすることが可能である。チャックの形状にかかわらず、チャックの挟持面とステンレス鋼矢板との間にステンレス鋼板のような保護部材を介在させることによって、ステンレス鋼矢板のもらい錆を防止することができる。上述のように、保護部材は、チャックの挟持面に予め取り付けられていてもよいし、施工時に挟持面とステンレス鋼矢板との間に介挿されてもよい。あるいは、保護部材を挟持手段の一部に組み込んでもよい。また、バイブロハンマ以外の施工装置、例えば圧入機などを用いる場合にも、ステンレス鋼矢板を挟持する挟持手段のステンレス鋼矢板に接触する表面に保護部材を配置することによって、同様にもらい錆防止の効果が得られる。
【0020】
また、上記の実施形態では保護部材としてステンレス鋼板を例示したが、保護部材はこの例には限られず、防錆性を有する各種材料で形成された任意の形状の部材が利用可能である。例えば、保護部材は、樹脂材料や硬質のゴムで形成されてもよいし、シリコンや木材で形成されてもよい。また、保護部材は、ステンレス鋼矢板に接触する表面が防錆性を有していればよいため、例えば普通鋼の鋼板の表面にめっきや防錆性を有する材料の被覆が形成された物が保護部材として利用されてもよい。
【0021】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0022】
1…クレーン、2…バイブロハンマ、3…ステンレス鋼矢板、41,42,41A,42A…保護部材(ステンレス鋼板)、21…挟持手段(チャック)、211,212…挟持面。