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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20240222BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C08J5/00 CES
C08L101/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020060775
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021161135
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰生
(72)【発明者】
【氏名】植草 貴行
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆博
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-082401(JP,A)
【文献】特開2019-018497(JP,A)
【文献】国際公開第2011/055803(WO,A1)
【文献】特開2019-125922(JP,A)
【文献】特開2007-284501(JP,A)
【文献】特開2016-103576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 45/00-45/24
B29C 45/46-45/63
B29C 45/70-45/72
B29C 45/74-45/84
B29C 53/00-53/84
B29C 57/00-59/18
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 67/24-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
B29D 33/00
B29D 99/00
B33Y 10/00-99/00
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
C08F 301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂組成物(X)を含む成形体であって、
前記樹脂組成物(X)が下記要件(a)および(b)を満たし、
前記成形体の少なくとも一部の表面粗度Raが0.05~10μmである、成形体。
要件(a);樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδがピーク値となる温度が、0℃以上60℃以下である。
要件(b);樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδのピーク値が、0.5以上5.0以下である。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)が、炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体を含む、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記炭素数6以上20以下のα-オレフィンが、4-メチル-1-ペンテンであり、
前記炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体が、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)を含む、請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)が、下記要件(c)~(f)を満たす、請求項3に記載の成形体。
要件(c);共重合体(A-1)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)と、炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)との合計を100モル%としたとき、前記構成単位(i)が55~90モル%であり、前記構成単位(ii)が10~45モル%である。
要件(d);共重合体(A-1)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定される融点(Tm)が160℃以下であるか、または観測されない。
要件(e);共重合体(A-1)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、tanδピーク温度が、15℃以上45℃以下である。
要件(f);共重合体(A-1)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、tanδピーク値が、0.6以上5.0以下である。
【請求項5】
前記少なくとも一部の表面粗度Raが0.2~5.0μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
イヤホン用部品である、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項7】
ロボット表皮である、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項8】
マスクである、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項9】
スポーツ用品用グリップである、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項10】
通信機器用カバーである、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ用品用のグリップ等の手に触れるもの、中敷きやサンダル等のシューズ用品、マスクや鼻孔カニューラ等の衛生材料、衣服、寝具、自動車内装材、便座や便座カバー等の水回り用品、イヤホン、通信機器用カバー等のヒトの身体に触れるようなものには、従来、繊維材料、樹脂材料、特には、柔軟性や応力緩和性(形状追従性)に優れる、エラストマー材や発泡体が使用されてきた。
【0003】
例えば、ゴルフ用グラブのグリップは、特許文献1(特開2020-18386号公報)に、ゴム組成物から形成されていることが好ましいと開示されている。また、シューズの中敷きは、特許文献2(特開2010-284212号公報)に、EVA、ポリオレフィン発泡体、ポリウレタン発泡体、熱可塑性ポリウレタン、ゴム等が材料として挙げられている。また、自動車内装材としては、特許文献3(特開2014-145133号公報)に、不織布や織物等の繊維材料とポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の合成樹脂からなる合成皮革が開示されている。
【0004】
応力緩和性(形状追従性)は、例えば、ある一定ひずみまで一軸引張を行い、そのひずみをある一定時間保持した際の応力変化によって評価することができる。引張直後の応力に対し、ある一定時間保持した後の応力が減少するほど、応力緩和性に優れていることを意味する。
【0005】
ヒト肌への形状追従性については、材料の軟化温度領域がヒトの体温領域であることが求められる。軟化温度領域は、たとえば、貯蔵弾性率(G‘)と損失弾性率(G’’)との比(G’’/G’)である損失正接tanδによって評価することができる。tanδの値が最大となる温度が、室温から体温領域であれば、体温付近で材料が軟化しヒト肌への形状追従性に優れていると言える。
【0006】
特許文献4(特開2018-44269号公報)、特許文献5(2018-95984号公報)および特許文献6(特開2012-82401号公報)では、4-メチル-1-ペンテン系共重合体を用いてなる、優れた応力緩和性(形状追従性)を示し、室温で高いtanδピークを有する材料が開示されている。
【0007】
しかし、粘性により成形体表面にべたつきを発現することから、ヒト肌へ触れる際に不快感を生ずる可能性がある。特許文献4、特許文献5および特許文献6では、滑剤や高硬度樹脂成分の添加によりべたつき低減を図っていた。べたつき低減を図るためのこれら以外の方策として、表面への凹凸付与が挙げられる。凹凸を付与することで、皮膚との接触面積が減少することで、べたつきが低減される。また、凹凸の付与は、処方変更が不要のため、材料がもともと有していた物理特性を損なうことがない。更に、皮膚との接触面積が減少するため、熱伝導が抑えられ、冬場に生じるひんやり感が低減する。また、柔軟性のある材料であって、微細な凹凸がある場合、肌が触れた際に凸部が動き、起毛感を生じることで、良触感が得られる。
【0008】
表面に微細な凹凸を付与する試みが幾つかなされている。例えば、特許文献7(特開2004-97508号公報)では便座、特許文献8(特開平10-183059号公報)ではペン、特許文献9(実用新案登録第3133934号公報)では鼻孔カニューラに対して、凹凸によるべたつき低減が開示されている。
【0009】
特許文献7では、便座の材料にポリエチレンの発泡体を用いており、柔軟性には優れるものの、形状追従性は特段ない。特許文献8では、筆記具や釣り具等の手で把持したり接触したりする物品において、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を使用とあり、これらは柔軟性に優れるものの、形状追従性は特段ない。特許文献9では、鼻孔カニューラの材料に、ポリ塩化ビニルやスチレン系エラストマーやシリコーンゴム等の軟質の合成樹脂で製造されているとあるが、これらは柔軟性に優れるものの、形状追従性は特段ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2020-18386号公報
【文献】特開2010-284212号公報
【文献】特開2014-145133号公報
【文献】特開2018-44269号公報
【文献】特開2018-95984号公報
【文献】特開2012-82401号公報
【文献】特開2004-97508号公報
【文献】特開平10-183059号公報
【文献】実用新案登録第3133934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、優れた応力緩和性を有しつつも、表面のべたつきが低減された成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定の要件を満たす樹脂組成物を含む成形体は、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、次の[1]~[10]に関する。
【0013】
[1]
熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂組成物(X)を含む成形体であって、
前記樹脂組成物(X)が、下記要件(a)および(b)を満たし、
前記成形体の少なくとも一部の表面粗度Raが0.05~10μmである、成形体。
要件(a);樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδがピーク値となる温度が、0℃以上60℃以下である。
要件(b);樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδのピーク値が、0.5以上5.0以下である。
【0014】
[2]
前記熱可塑性樹脂(A)が、炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体を含む、[1]に記載の成形体。
【0015】
[3]
前記炭素数6以上20以下のα-オレフィンが、4-メチル-1-ペンテンであり、
前記炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体が、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)を含む、[2]に記載の成形体。
【0016】
[4]
前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)が、下記要件(c)~(f)を満たす、[3]に記載の成形体。
要件(c);共重合体(A-1)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)と、炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)との合計を100モル%としたとき、前記構成単位(i)が55~90モル%であり、前記構成単位(ii)が10~45モル%である。
要件(d);共重合体(A-1)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定される融点(Tm)が160℃以下であるか、または観測されない。
要件(e);共重合体(A-1)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、tanδピーク温度が、15℃以上45℃以下である。
要件(f);共重合体(A-1)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、tanδピーク値が、0.6以上5.0以下である。
【0017】
[5]
前記少なくとも一部の表面粗度Raが0.2~5.0μmである、[1]~[4]のいずれかに記載の成形体。
【0018】
[6]
イヤホン用部品である、[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
[7]
ロボット表皮である、[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
【0019】
[8]
マスクである、[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
[9]
スポーツ用品用グリップである、[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
【0020】
[10]
通信機器用カバーである、[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
【発明の効果】
【0021】
上記解決手段により、優れた、応力緩和性を有しつつも表面べたつきが抑制された成形体を提供することができ、従来べたつきが要因で展開できなかった用途への拡大に繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について説明する。
[成形体]
本発明の成形体は、熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂組成物(X)を含む成形体であって、前記樹脂組成物(X)が下記要件(a)および(b)を満たし、前記成形体の少なくとも一部の表面粗度Raが0.05~10μmである。
【0023】
要件(a);樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδがピーク値となる温度が、0℃以上60℃以下である。
【0024】
要件(b);樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδのピーク値が、0.5以上5.0以下である。
【0025】
本発明の成形体の少なくとも一部の表面粗度Raは、0.05~10μmであり、好ましくは0.1~9.0μm、より好ましいは0.2~8.0μmである。なお、本発明の成形体は、少なくとも一部が前記範囲内の表面粗度Raを有していればよい。本発明の成形体が、人の手等の人体が接触することが想定される部分と、想定されない部分とを有する場合には、少なくとも人体と接触することが想定される部分において、前記範囲内の表面粗度Raを有していることが好ましい。また、本発明の成形体が、樹脂組成物(X)から形成される部分(樹脂組成物(X)を含む部分)と、他の材料から形成される部分とを有する場合には、少なくとも樹脂組成物(X)から形成される部分の一部(好ましくは人体と接触することが想定される部分)が、前記範囲内の表面粗度Raを有していることが好ましい。
【0026】
前記少なくとも一部の表面粗度Raが前記範囲を下回ると、当該部分の表面が平滑であり、肌との密着性が増大し、べたつきを感じやすくなる。
さらに、べたつきおよびざらつきの両方を抑制することが求められる場合には、前記少なくとも一部の表面粗度Raは、好ましくは0.2~5.0μmであり、より好ましくは0.25~4.0μm、さらに好ましくは0.3~3.0μmである。
【0027】
表面粗度Raを前記範囲とするためには、成形体に微細な凹凸を付与すればよい。凹凸付与の方法に関しては、特に限定はなく、例えば、射出成形、真空成型、プレス成形で凹凸を付与する方法、押出成形時にエンボスロールを活用して表面凹凸を付与する方法、シート、フィルム等の成形体に対して、エンボスロールを活用する、サンドブラスト処理をする、やすりがけをする、または凹凸のあるシートと接して加圧させる方法、3Dプリント成形やマイクロ波成形を用いて、表面凹凸のある構造体を製造する方法等が挙げられる。
【0028】
(樹脂組成物(X))
前記樹脂組成物(X)は、熱可塑性樹脂(A)を含む。
前記樹脂組成物(X)は、熱可塑性樹脂(A)のみを含むものであってもよく、あるいは、後述するように、熱可塑性樹脂(A)に加えて、熱可塑性樹脂(A)でないその他の成分をさらに含んでいてもよい。
また、前記樹脂組成物(X)は、以下の要件(a)および(b)を満たす。
【0029】
要件(a);
前記樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδがピーク値となる温度(以下、「tanδピーク温度」ともいう。)が、0℃以上60℃以下である。
前記tanδピーク温度は、10℃以上50℃以下であることが好ましく、20℃以上45℃以下であることがより好ましく、25℃以上43℃以下であることが特に好ましい。
【0030】
要件(b);
前記樹脂組成物(X)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδのピーク値(以下「tanδピーク値」ともいう。)が0.5以上5.0以下である。
このtanδピーク値は0.6以上4.5以下であることが好ましく、0.7以上3.5以下であることがより好ましい。
【0031】
tanδは、動的粘弾性の測定時に得られる貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を用いて、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)との比(G”/G’:損失正接)として算出することができる。
【0032】
ここで、本発明において、-40~150℃の範囲でtanδがピーク値(最大値)となる際の温度を、上記tanδがピーク値となる温度とし、その際のtanδの値を上記tanδピーク値とする。なお、前記tanδピーク温度は、ガラス転移温度に起因すると考えられる。
以下、前記樹脂組成物(X)に含まれる熱可塑性樹脂(A)について説明する。
【0033】
(熱可塑性樹脂(A))
熱可塑性樹脂(A)は、本発明の課題を解決できる限り、特に、上記要件(a)および要件(b)を満たす樹脂組成物(X)を与えることができる限り、特に限定されるものではない。
【0034】
本発明の典型的な態様において、熱可塑性樹脂(A)は、炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体を含むことが好ましい。
【0035】
前記炭素数6以上20以下のα-オレフィンは、4-メチル-1-ペンテンであることが好ましく、炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体は、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)を含むことが特に好ましい。
以下、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)について説明する。
【0036】
≪4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)≫
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)(以下、単に「共重合体(A-1)」ともいう。)は、下記要件(c)~(f)を満たすことが好ましい。4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)は、1種単独で、または2種類以上を組み合せて用いることができる。
【0037】
要件(c);
共重合体(A-1)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)と、炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)との合計を100モル%としたときに、構成単位(i)が55モル%~90モル%であり、構成単位(ii)が10モル%~45モル%である。
【0038】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)中の各構成単位(4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)及びα-オレフィンから導かれる構成単位(ii))の含有率(モル%)は、13C-NMRにより測定される。
【0039】
ここで、本発明において、「α-オレフィンから導かれる構造単位(ii)」というときは、α-オレフィンに対応する構造単位、すなわち、-CH2-CHR-(Rは水素原子、または炭素数1~3のアルキル基)で表される構造単位を意味する。「4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位」についても同様に解釈され、4-メチル-1-ペンテンに対応する構造単位(すなわち、-CH2-CH(-CH2CH(CH32)-で表される構造単位)を意味する。
【0040】
要件(c)において、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)を構成する構成単位(i)の割合の下限値は、55モル%であるが、60モル%であることが好ましく、68モル%であることがより好ましい。一方、構成単位(i)の割合の上限値は、90モル%であるが、86モル%であることが好ましく、84モル%であることがより好ましい。4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)を構成する構成単位(i)の割合が前記下限値以上であると、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)のtanδがピーク値となる温度が室温付近になるため、樹脂組成物(X)のtanδがピーク値となる温度を上述した範囲に調整しやすい。
【0041】
当然ながら、このとき、構成単位(ii)の割合の上限値は、45モル%であるが、40モル%であることが好ましく、32モル%であることがより好ましい。一方、構成単位(ii)の割合の下限値は、10モル%であるが、14モル%であることが好ましく、16モル%であることがより好ましい。
【0042】
ここで、本発明の典型的な態様において、構成単位(ii)を導く炭素数2以上5以下のα-オレフィンの例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、および1-ペンテンなどの直鎖状のα-オレフィン、ならびに、3-メチル-1-ブテンなどの分岐状のα-オレフィンが挙げられる。これらの中でもエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテンが好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。構成単位(ii)は、これらのうち1つの化合物から導かれてもよいし、2以上の化合物から導かれてもよい。
【0043】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)は、本発明の目的を損なわない程度の少量(たとえば、構成単位(i)と構成単位(ii)との合計を100モル%として10モル%以下)であれば、構成単位(i)および構成単位(ii)のほかに、構成単位(iii)として、4-メチル-1-ペンテンおよび構成単位(ii)を導くα-オレフィンのいずれでもない他のモノマーから導かれる構成単位をさらに含んでいてもよい。このような他のモノマーの好ましい具体例としては、構成単位(ii)がプロピレンから導かれる構成単位である場合には、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0044】
要件(d);
共重合体(A-1)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定される融点(Tm)が160℃以下であるか、または観測されない。融点(Tm)は、観察されないことが好ましい。共重合体(A-1)がこのような要件を満たすことによって、成形体の振動吸収性や応力緩和性を向上させることが可能となる。
【0045】
要件(e);
共重合体(A-1)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、tanδピーク温度が、15℃以上45℃以下である。
【0046】
前記tanδピーク温度は、20℃以上40℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがさらに好ましい。tanδピーク温度を前記温度範囲にすることで、室温でのtanδの値をより高めることができる。
【0047】
要件(f);
共重合体(A-1)は、-40~150℃の温度範囲で、10rad/s(1.6Hz)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、tanδピーク値が、0.6以上5.0以下である。
【0048】
前記tanδピーク値は1.0以上5.0以下であることが好ましく、1.5以上5.0以下であることがさらに好ましく、2.0以上4.0以下であることが特に好ましい。tanδピーク値を前記範囲にすることで、成形体の振動吸収性を変化させることができる。
【0049】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)は、前記要件(c)~(f)を満たすことが好ましい。また、共重合体(A-1)は、以下の要件(g)、(h)、(i)および(j)から選択される少なくとも1つの要件を満たすことがさらに好ましい。共重合体(A-1)は、要件(g)、(h)、(i)および(j)から選択される2つ以上の要件を満たすことがより好ましく、3つ以上の要件を満たすことが特に好ましく、4つの要件を満たすこと、すなわち、要件(g)、(h)、(i)および(j)を満たすことが最も好ましい。
【0050】
要件(g);
共重合体(A-1)の、デカリン中135℃で測定した極限粘度[η]は、0.1dL/g以上5.0dL/g以下である。
【0051】
前記極限粘度[η]は、0.5dL/g以上4.0dL/g以下であることがより好ましく、0.5dL/g以上3.5dL/g以下であることがさらに好ましい。前記極限粘度[η]が前記範囲である4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)を用いると、シート状の樹脂組成物(X)や、シート状の成形体を得ることが容易である。
【0052】
前記極限粘度[η]は、重合による共重合体(A-1)の製造中に水素を添加して分子量や重合活性を制御することにより、前記範囲に調整することができる。
上記極限粘度[η]は、135℃でデカリン中に異なる量のポリマー(共重合体(A-1))を溶解させたときの、それぞれのポリマーの単位濃度cあたりの粘度増加率ηsp(すなわちηsp/c)を求めて還元粘度ηredとし、ηredをポリマーの単位濃度cがゼロになるように外挿して、求めることができる。
【0053】
要件(h);
共重合体(A-1)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布:Mw/Mn)は、1.0以上3.5以下である。
【0054】
前記Mw/Mnは、1.2以上3.0以下であることがより好ましく、1.5以上2.8以下であることがさらに好ましい。前記Mw/Mnが前記範囲である4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)は、低分子量、低立体規則性ポリマーによる成形性の低下が生じにくく、シート状の樹脂組成物(X)や、シート状の成形体を得ることが容易である。
【0055】
また、共重合体(A-1)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、500以上10,000,000以下であることが好ましく、1,000以上5,000,000以下であることがより好ましく、1,000以上2,500,000以下であることがさらに好ましい。
【0056】
共重合体(A-1)のMw/MnおよびMwは、たとえばメタロセン触媒を使用することで、上記範囲に調整することができる。
上記MwおよびMw/Mnは、たとえば、液体クロマトグラフとしてWaters製ALC/GPC 150-C plus型(示差屈折計検出器一体型)を用い、カラムとして東ソー株式会社製GMH6-HT×2本およびGMH6-HTL×2本を直列接続し、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼンを用い、流速1.0ml/分、140℃で測定して得られるクロマトグラムを、標準ポリスチレンサンプルを使用した検量線を用いて解析して、求めることができる。
【0057】
要件(i);
共重合体(A-1)の密度(JIS K7112にて測定)は、870~830kg/m3である。前記密度は、好ましくは865~830kg/m3、さらに好ましくは855~830kg/m3である。なお、測定条件等の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
密度は共重合体(A-1)のコモノマー組成比によって適宜変えることができ、密度が上記範囲内にある共重合体(A-1)は、軽量なシートを製造する上で有利である。
【0058】
要件(j);
共重合体(A-1)のメルトフローレート(MFR;Melt Flow Rate)(ASTM D1238にて230℃で2.16kgの荷重にて測定)は、4.0~30g/10minである。前記メルトフローレートは、好ましくは7.0~15g/10min、さらに好ましくは7.0~13g/10minである。メルトフローレートが上記範囲内にある共重合体(A-1)は、成形加工時に良好なペレット及びシート、成形体を製造する上で有利である。
【0059】
4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)の特に好ましい形態は、前記要件(c)~(f)に加えて、更に上記要件(g)を満たし、とりわけ好ましい態様においては、(c)~(g)の要件に加えて、更に要件(h)、(i)および(j)から選ばれる1以上、好ましくは2以上、特に好ましくは全てを満たしている。
【0060】
(4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)の製造方法)
前記共重合体(A-1)の製造方法は、特に限定されないが例えば、4-メチル-1-ペンテンと上述した「構成単位(ii)を導くα-オレフィン」とをマグネシウム担持型チタン触媒またはメタロセン触媒などの適当な重合触媒存在下で重合することにより得ることができる。
【0061】
本発明で用いることのできる重合触媒としては、従来公知の触媒、例えばマグネシウム担持型チタン触媒、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号公報あるいは特開平2-41303号公報、国際公開第2011/055803号、国際公開第2014/050817号等に記載のメタロセン触媒などが挙げられる。
【0062】
重合は、溶解重合および懸濁重合などを含む液相重合法、ならびに気相重合法などから適宜選択して行うことができる。
液相重合法では、液相を構成する溶媒として不活性炭化水素溶媒を用いることができる。上記不活性炭化水素の例には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、および灯油などを含む脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、およびメチルシクロヘキサンなどを含む脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどを含む芳香族炭化水素、ならびにエチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、およびテトラクロロメタンなどを含むハロゲン化炭化水素、ならびにこれらの混合物などが含まれる。
【0063】
また、液相重合法では、上記構成単位(i)~構成単位(iii)を導くモノマー自身を溶媒とする塊状重合とすることもできる。
なお、上記構成単位(i)~構成単位(iii)を導くモノマーの共重合を段階的に行うことにより、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A-1)を構成する構成単位(i)~構成単位(iii)の組成分布を適当に制御することもできる。
【0064】
重合温度は、-50℃以上200℃以下が好ましく、0℃以上100℃以下がより好ましく、20℃以上100℃以下がさらに好ましい。
重合圧力は、常圧以上10MPaゲージ圧であることが好ましく、常圧以上5MPaゲージ圧であることがより好ましい。
【0065】
重合の際に、生成するポリマーの分子量や重合活性を制御する目的で水素を添加してもよい。添加される水素の量は、上記構成単位(i)~構成単位(iii)を導くモノマーの合計量1kgに対して、0.001NL以上100NL以下が好ましい。
【0066】
熱可塑性樹脂(A)としては、低密度、中密度、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、α-オレフィン共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタン等が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。熱可塑性樹脂(A)としては、α-オレフィン共重合体を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂(A)としては、前記炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体を含むことがより好ましく、前記炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体は、共重合体(A-1)を含むことがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)がこれらの重合体を含む場合には、熱可塑性樹脂(A)としては、炭素数6以上20以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(i)と炭素数2以上5以下のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)とを含むオレフィン系共重合体のみ、あるいは共重合体(A-1)のみでもよいが、それ以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。共重合体(A-1)の配合量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部中に、好ましくは100~75質量部、より好ましくは100~80質量部、特に好ましくは100~90質量部である。共重合体(A-1)以外の熱可塑性樹脂の配合量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部中に、好ましくは0~25質量部、より好ましくは0~20質量部、特に好ましくは0~10質量部である。
【0067】
(その他の成分)
樹脂組成物(X)は、前述のように熱可塑性樹脂(A)に加えて、熱可塑性樹脂(A)でないその他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0068】
その他の成分としては、添加剤が挙げられる。添加剤としては、成形体の用途に応じて、従来公知の物を始め、特に制限なく使用することができる。
添加剤としては、例えば、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤、結晶核剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、有機充填剤、および軟化剤などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの添加剤は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0069】
その他の成分の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内であればよく、特に限定されないが、その他の成分を用いる場合には、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.01~30質量部であることが好ましい。
【0070】
[成形体の製造方法、用途]
本発明の成形体は、樹脂組成物(X)を含む。
成形体の製造方法(成形方法)としては、具体的には、従来公知のポリオレフィンの成形方法、例えば、押出成形、射出成形、フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の熱成形方法が挙げられる。好ましくは射出成形によって、前記樹脂組成物(X)を加工することで、前記樹脂組成物(X)を含む成形体を得ることが可能である。
【0071】
本発明の成形体は、樹脂組成物(X)のみから形成された成形体であってもよく、また、樹脂組成物(X)から形成された部分、例えば表層、を有し、かつ他の材料から形成された部分を有する成形体であってもよい。
【0072】
本発明の成形体は、機械物性にも優れている。本発明の成形体は、日用雑貨やレクリエーション用途などの家庭用品から、一般産業用途、工業用品に至る広い用途で用いられる。例えば、家電材料部品、通信機器部品、電気部品、電子部品、自動車材、その他の車両の部品、船舶、航空機材料、機械機構部品、建材関連部材、土木部材、農業資材、電動工具部品、食品容器、フィルム、シート、繊維,玩具等が挙げられる。
【0073】
成形体の好適な例としては、イヤホン用部品、ロボット表皮、マスク、スポーツ用品用グリップ、通信機器用カバーが挙げられる。
前記イヤホン用部品としては、例えばイヤーピースが挙げられる。
【0074】
前記マスクとしては、マスクの一部、例えばマスクの枠部が前記成形体である態様も好ましい。
前記通信機器用カバーとしては、通常皮膚に接触した状態で使用される通信機器、例えば、タブレット、スマートフォン、スマートウォッチに用いられるカバーが挙げられる。
【実施例
【0075】
次に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における各種物性は以下の方法により測定した。
【0076】
〔組成〕
下記共重合体(A-1-1)中の各構成単位(4-メチル-1-ペンテン及びα-オレフィン)の含有率(モル%)は、13C-NMRにより測定した。
・測定装置:核磁気共鳴装置(ECP500型、日本電子(株)製)
・観測核:13C(125MHz)
・シーケンス:シングルパルスプロトンデカップリング
・パルス幅:4.7μ秒(45°パルス)
・繰り返し時間:5.5秒
・積算回数:1万回以上
・溶媒:オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン(容量比:80/20)混合溶媒
・試料濃度:55mg/0.6mL
・測定温度:120℃
・ケミカルシフトの基準値:27.50ppm
【0077】
〔極限粘度[η]〕
下記共重合体(A-1-1)の極限粘度[η]は、測定装置としてウベローデ粘度計を用い、デカリン溶媒中、135℃で測定した。
約20mgの下記共重合体(A-1-1)をデカリン25mlに溶解させた後、ウベローデ粘度計を用い、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリンを5ml加えて希釈した後、上記と同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作を更に2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度[η](単位:dl/g)として求めた(下記の式1参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)・・・式1
【0078】
〔重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)〕
下記共重合体(A-1-1)の重量平均分子量(Mw)、及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。
【0079】
測定装置:GPC(ALC/GPC 150-C plus型、示差屈折計検出器一体型、Waters製)
カラム:GMH6-HT(東ソー(株)製)2本、及びGMH6-HTL(東ソー(株)製)2本を直列に接続
溶離液:o-ジクロロベンゼン
カラム温度:140℃
流量:1.0mL/min
【0080】
〔メルトフローレート(MFR)〕
下記共重合体(A-1-1)のメルトフローレート(MFR:Melt Flow Rate)は、ASTM D1238に準拠し、230℃で2.16kgの荷重にて測定した。単位は、g/10minである。
【0081】
〔密度〕
下記共重合体(A-1-1)の密度は、JIS K7112 1999(密度勾配管法)に準拠して、測定した。この密度(kg/m3)を軽量性の指標とした。
【0082】
〔融点(Tm)〕
下記共重合体(A-1-1)の融点(Tm)は、測定装置として示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル(株)製)を用いて測定した。約5mgの重合体を、測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで200℃まで加熱する。重合体を完全融解させるために、200℃で5分間保持し、次いで、10℃/minで-50℃まで冷却した。-50℃で5分間置いた後、10℃/minで200℃まで2度目の加熱を行ない、この2度目の加熱でのピーク温度(℃)を重合体の融点(Tm)とした。なお、複数のピークが検出される場合には、最も高温側で検出されるピークを採用した。
【0083】
〔動的粘弾性〕
下記共重合体(A-1-1)の動的粘弾性の測定では、熱プレス成型機を用いて200度で加熱して3分間プレスして作製した共重合体(A-1-1)からなる厚さ3mmのプレスシートを用い、さらにプレスシートから動的粘弾性測定に必要な45mm×10mm×3mmの短冊片を切り出し、測定試料とした。
【0084】
ANTONPaar社製MCR301を用いて、測定試料について、10rad/sの周波数で-40~150℃までの動的粘弾性の温度依存性を測定し、ガラス転移温度に起因する損失正接(tanδ)がピーク値(最大値)となる際の温度(tanδピーク温度)、およびそのピーク値(tanδピーク値)の値を測定した。
【0085】
[合成例1]
<4-メチル-1-ペンテン・α‐オレフィン共重合体(A-1-1)の合成>
充分に窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付のSUS製オートクレーブに、300mlのn-ヘキサン(乾燥窒素雰囲気下、活性アルミナ上で乾燥したもの)、及び450mlの4-メチル-1-ペンテンを23℃で装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入し、攪拌機を回した。
【0086】
次に、オートクレーブを内温が60℃になるまで加熱し、全圧(ゲージ圧)が0.40MPaとなるようにプロピレンで加圧した。
続いて、予め調製しておいた、Al換算で1mmolのメチルアルミノキサン、及び0.01mmolのジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを含むトルエン溶液0.34mlを、オートクレーブに窒素で圧入し、重合反応を開始させた。重合反応中は、オートクレーブの内温が60℃になるように温度調整した。
【0087】
重合開始から60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し、重合反応を停止させた後、オートクレーブ内を大気圧まで脱圧した。脱圧後、反応溶液に、該反応溶液を攪拌しながらアセトンを添加し、溶媒を含む重合反応生成物を得た。
【0088】
次いで、得られた溶媒を含む重合反応生成物を減圧下、100℃で12時間乾燥させて、36.9gの粉末状の4-メチル-1-ペンテン・α‐オレフィン共重合体(A-1-1)(以下、「共重合体(A-1-1)」ともいう)を得た。得られた共重合体A-1の各種物性の測定結果を表1に示す。ここで、表1中、「4MP1」は4-メチル-1-ペンテンを、「AO」はα-オレフィンをそれぞれ指している。
【0089】
共重合体A-1中の4-メチル-1-ペンテンの含有率は72.5mol%であり、プロピレンの含有率は27.5mol%であった。また、共重合体A-1の密度は839kg/m3であった。共重合体A-1の極限粘度[η]は1.5dl/gであり、重量平均分子量(Mw)は337,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であり、メルトフローレート(MFR)は11g/10minであった。共重合体A-1の融点(Tm)は観測されなかった。
【0090】
〔実施例1〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)を下記サンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートの表面のうち1面を、トラスコ中山(株)製のスポンジ状研磨シート(粒度が2500から3000)を用い研磨し、研磨されたシートを成形体(1)として得た。
成形体(1)を用い、下記物性を評価した。
【0091】
<サンプル作製方法>
株式会社テクノベル社製kzw15のホッパー部に、共重合体(A-1-1)を投入し、200℃で溶融混練し、ペレットを作製した。その後、東芝機械株式会社製の射出成型機 東芝75トンのホッパー部に上記ペレットを投入し、200℃で溶融させ、40℃の金型に射出圧50MPa、保圧30~40MPaで射出成形し、幅×長さ×厚み=15mm×110mm×3mmのシートを作製した。
【0092】
〔表面粗度Ra〕
表面粗度Raの測定では、幅×長さ×厚み=15mm×110mm×3mmのシートを測定試料として用いた。
測定試料の表面粗度Raは、株式会社東京精密社製表面粗さ形状測定機サーフコム1400Dを用いて、試験荷重0.75mN、速度0.15mm/s、測定長さ4mm、カットオフ波長0.8mmで、1測定試料につき測定箇所(いずれも研磨した面で実施)を変えて5回測定した。測定長さ及びカットオフ波長については、JIS B0601 2001に準拠した。
【0093】
〔タック試験〕
タック試験では、幅×長さ×厚み=15mm×110mm×3mmのシートを測定試料として用いた。
(株)レスカ社製タッキング試験Tac―IIを用いて、速度120mm/min、荷重200gf、加圧時間20sで、1測定試料につき測定箇所(いずれも研磨した面で実施)を変えて5回測定した。
【0094】
〔主観評価〕
20歳代から30歳代の男女5名を対象として、成形体(1)の研磨した面を、押した際のべたつき、撫でた際のべたつき、撫でた際のざらつきについて判定させた。回答については、5段階評価とし、その相加平均を算出した。
「押した際のべたつき」
5:非常にべたつく、4:べたつく、3:どちらともいえない、2:べたつかない、1:全くべたつかない
「撫でた際のべたつき」
5:非常にべたつく、4:べたつく、3:どちらともいえない、2:べたつかない、1:全くべたつかない
「撫でた際のざらつき」
5:非常にざらざらしている、4:ざらざらしている、3:どちらともいえない、2:ざらざらしない、1:全くざらざらしない
【0095】
〔実施例2〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)を実施例1に記載したサンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートの表面を、トラスコ中山(株)製のスポンジ状研磨シート(粒度が1500から2000)を用い、研磨し、研磨されたシートを成形体(2)として得た。
成形体(1)を成形体(2)に変えた以外は実施例1と同様に行い、物性を評価した。
【0096】
〔実施例3〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)を実施例1に記載したサンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートの表面を、三共理化学(株)製の紙状研磨シート(粒度が800)を用い、研磨し、研磨されたシートを成形体(3)として得た。
成形体(1)を成形体(3)に変えた以外は実施例1と同様に行い、物性を評価した。
【0097】
〔実施例4〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)を実施例1に記載したサンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートの表面を、(株)ノリタケコーテッドアブレーシブ製の紙状研磨シート(粒度が320)を用い、研磨し、研磨されたシートを成形体(4)として得た。
成形体(1)を成形体(4)に変えた以外は実施例1と同様に行い、物性を評価した。
【0098】
〔実施例5〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)を実施例1に記載したサンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートの表面を、(株)ノリタケコーテッドアブレーシブ製の紙状研磨シート(粒度が180)を用い、研磨し、研磨されたシートを成形体(5)として得た。
成形体(1)を成形体(5)に変えた以外は実施例1と同様に行い、物性を評価した。
【0099】
〔実施例6〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)を実施例1に記載したサンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートの表面を、トラスコ中山(株)製の紙状研磨シート(粒度が40)を用い、研磨し、研磨されたシートを成形体(6)として得た。
成形体(1)を成形体(6)に変えた以外は実施例1と同様に行い、物性を評価した。
【0100】
〔比較例1〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)を実施例1に記載したサンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートを成形体(c1)とした。
成形体(1)を成形体(c1)に変えた以外は実施例1と同様に行い、物性を評価した。
【0101】
〔比較例2〕
4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)100質量部を、4-メチル-1-ペンテン・α―オレフィン共重合体(A-1-1)40質量部およびポリプロピレン(プライムポリマー株式会社製 商品名プライムポリプロ(登録商標)F107)60質量部に変更した以外は、実施例1に記載したサンプル作製方法に従い射出成形し、シートを得た。得られたシートを成形体(c2)とした。
成形体(1)を成形体(c2)に変えた以外は実施例1と同様に行い、物性を評価した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】