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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】光偏向装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20240222BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20240222BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G02B26/10 C
G02B26/08 E
B81B3/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020076083
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021173819
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】近岡 篤彦
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0069415(US,A1)
【文献】特開2010-020091(JP,A)
【文献】特開2008-116678(JP,A)
【文献】特開2018-010100(JP,A)
【文献】特開2016-085279(JP,A)
【文献】特開2010-250028(JP,A)
【文献】特開2012-237788(JP,A)
【文献】特開2021-033011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10,26/08
B81B 3/00
H02N 2/00-2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラー部、第1軸の回りに前記ミラー部を共振で往復回動させる第1圧電アクチュエータ、及び前記第1軸に対して交差関係にある第2軸の回りに前記ミラー部を非共振で往復回動させる第2圧電アクチュエータを有する光偏向器と、
前記光偏向器の前記第1圧電アクチュエータ及び前記第2圧電アクチュエータにそれぞれ第1駆動電圧及び第2駆動電圧を供給する駆動部と、
前記第2駆動電圧の変動幅としての第2駆動電圧変動幅を検出する電圧変動幅検出部と、
前記第1軸の回りの前記ミラー部の振れ角の変動幅としての第1振れ角変動幅を検出する振れ角変動幅検出部と、
前記第2駆動電圧変動幅に対する前記第1振れ角変動幅の比率を感度相当値とし、前記第2駆動電圧変動幅の検出値と前記第1振れ角変動幅の検出値とに基づいて前記感度相当値を検出する感度相当値検出部と、
前記感度相当値の検出値に基づいて前記第2軸の回りの前記ミラー部の第2軸側振れ状態が正常であるかを判定する判定部と、
を備え
前記判定部が判定の基礎にする前記感度相当値の検出値とは、前記第1駆動電圧の変動幅が一定に維持されている期間に検出した前記第2駆動電圧変動幅及び前記第1振れ角変動幅についての前記第2駆動電圧変動幅に対する前記第1振れ角変動幅の比率であることを特徴とする光偏向装置。
【請求項2】
請求項1記載の光偏向装置において、
前記判定部は、
前記第2駆動電圧変動幅と前記感度相当値の定格値との定格関係を定めたデータを保持するデータ保持部と、
前記定格関係に基づいて前記第2駆動電圧変動幅の検出値に対応する前記感度相当値の定格対応値を演算し、前記感度相当値の検出値と前記感度相当値の定格対応値との対比に基づいて前記第2軸側振れ状態を判定する演算判定部と、
を備えることを特徴とする光偏向装置。
【請求項3】
請求項2記載の光偏向装置において、
前記対比は、
前記第2駆動電圧変動幅が相互に異なるVw1,Vw2で前記光偏向器を作動させる条件をそれぞれ第1条件及び第2条件とし、
前記第1条件時の感度相当値の検出値Sd1及びVw1に対応する定格対応値Rg1と、前記第2条件時の検出値Sd2及びVw2に対応する定格対応値Rg2とに対し、Sd1とSd2との相対関係と、Rg1とRg2との相対関係との対比とすることを特徴とする光偏向装置。
【請求項4】
請求項3記載の光偏向装置において、
前記相対関係とは、Sd1/Sd2の比率及びRg1/Rg2の比率であることを特徴とする光偏向装置。
【請求項5】
請求項3記載の光偏向装置において、
前記相対関係とは、Sd1-Sd2の差分及びRg1-Rg2の差分であることを特徴とする光偏向装置。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載の光偏向装置において、
前記第1条件時のVw1は、前記光偏向器の起動時における非ユーザ設定の第2軸側電圧変動幅であり、
前記第2条件時のVw2は、起動後の最初の変更で変更するユーザ設定の第2軸側電圧変動幅であることを特徴とする光偏向装置。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1項に記載の光偏向装置において、
前記第1条件時のVw1及び前記第2条件時のVw2は、前記第1駆動電圧の変動幅としての第1駆動電圧変動幅を維持しつつ、前記第2駆動電圧変動幅を変更するときの変更前及び変更後の第2駆動電圧変動幅であることを特徴とする光偏向装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の光偏向装置において、
前記判定部は、前記第2駆動電圧変動幅を一定にしている期間に前記感度相当値の検出値が所定の閾値を超えて変化したときは、前記振れ角変動幅検出部が故障状態であると判定することを特徴とする光偏向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸走査型の光偏向器を装備する光偏向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2軸走査型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)光偏向器を装備する光偏向装置では、光偏向器のミラー部を交差関係の各軸の回りに往復動させて、ミラー部から2軸で走査する走査光を出射している(例:特許文献1)。このような光偏向装置では、作動中、各軸回りのミラー部の往復回動の異常を監視する必要がある。
【0003】
特許文献1の光偏向装置は、各軸回りのミラー部の振れ角は、軸ごとに設けた振れ角センサで検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5987510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の光偏向装置では、軸の個数だけ振れ角センサが必要になる。したがって、光偏向装置は、その分、複雑化、大型化及びコスト高となる。
【0006】
本発明の目的は、一方の軸の回りのミラー部の振れ角で他方の軸の回りのミラー部の振れ状態の判定することができる光偏向装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、光偏向器のミラー部を交差関係の共振軸と非共振軸の2軸の回りに往復回動させるときに、ミラー部の共振軸側の圧電アクチュエータの駆動電圧を一定に維持しているにもかかわらず、共振軸の回りのミラー部の振れ角の往復回動幅が非共振軸の回りの往復回動幅に応じて変化するという知見を得た。
【0008】
本発明の光偏向装置は、上記知見に基づいて、共振軸側の圧電アクチュエータの駆動電圧が一定に維持されている期間に、非共振軸側の圧電アクチュエータの駆動電圧の変動幅を検出し、検出した変動幅と、共振軸の回りのミラー部の振れ角の変動幅の検出値との関係に基づいて非共振軸の回りのミラー部の振れ状態を判断する。
【0009】
本発明の光偏向装置は、
ミラー部、第1軸の回りに前記ミラー部を共振で往復回動させる第1圧電アクチュエータ、及び前記第1軸に対して交差関係にある第2軸の回りに前記ミラー部を非共振で往復回動させる第2圧電アクチュエータを有する光偏向器と、
前記光偏向器の前記第1圧電アクチュエータ及び前記第2圧電アクチュエータにそれぞれ第1駆動電圧及び第2駆動電圧を供給する駆動部と、
前記第2駆動電圧の変動幅としての第2駆動電圧変動幅を検出する電圧変動幅検出部と、
前記第1軸の回りの前記ミラー部の振れ角の変動幅としての第1振れ角変動幅を検出する振れ角変動幅検出部と、
前記第2駆動電圧変動幅に対する前記第1振れ角変動幅の比率を感度相当値とし、前記第2駆動電圧変動幅の検出値と前記第1振れ角変動幅の検出値とに基づいて前記感度相当値を検出する感度相当値検出部と、
前記感度相当値の検出値に基づいて前記第2軸の回りの前記ミラー部の第2軸側振れ状態が正常であるかを判定する判定部と、
を備える。
【0010】
本発明によれば、第1軸側振れ角変動幅に基づいて演算される振れ角感度相当値の検出値に基づいて第2軸側振れ状態が正常であるかを判定する。これにより、第2軸側振れ角の検出を省略して、第2軸側振れ状態が正常であるかを判定することができる。
【0011】
好ましくは、本発明の光偏向装置において、
前記判定部は、
前記第2駆動電圧変動幅と前記感度相当値の定格値との定格関係を定めたデータを保持するデータ保持部と、
前記定格関係に基づいて前記第2駆動電圧変動幅の検出値に対応する前記感度相当値の定格対応値を演算し、前記感度相当値の検出値と前記感度相当値の定格対応値との対比に基づいて前記第2軸側振れ状態を判定する演算判定部と、
を備える。
【0012】
この構成によれば、感度相当値の定格対応値と検出値との対比に基づいて第2軸側振れ状態を的確に判定することができる。
【0013】
好ましくは、本発明の光偏向装置において、
前記対比は、
前記第2駆動電圧変動幅が相互に異なるVw1,Vw2で前記光偏向器を作動させる条件をそれぞれ第1条件及び第2条件とし、
前記第1条件時の感度相当値の検出値Sd1及びVw1に対応する定格対応値Rg1と、前記第2条件時の検出値Sd2及びVw2に対応する定格対応値Rg2とに対し、Sd1とSd2との相対関係と、Rg1とRg2との相対関係との対比とする。
【0014】
この構成によれば、第1条件及び第2条件の2条件の感度相当値の定格対応値と検出値との対比に基づいて第2軸側振れ状態を的確に判定することができる。
【0015】
好ましくは、本発明の光偏向装置において、
前記相対関係とは、Sd1/Sd2の比率及びRg1/Rg2の比率である。
【0016】
この構成によれば、相対関係を比率とすることにより、第2軸側振れ状態を的確に判定することができる。
【0017】
好ましくは、本発明の光偏向装置において、
前記相対関係とは、Sd1-Sd2の差分及びRg1-Rg2の差分である。
【0018】
この構成によれば、相対関係を差分とすることにより、第2軸側振れ状態を円滑に判定することができる。
【0019】
好ましくは、本発明の光偏向装置において、
前記第1条件時のVw1は、前記光偏向器の起動時における非ユーザ設定の第2軸側電圧変動幅であり、
前記第2条件時のVw2は、起動後の最初の変更で変更するユーザ設定の第2軸側電圧変動幅である。
【0020】
この構成によれば、適切な第1条件及び第2条件を設定することにより、感度相当値の検出値と定格対応値との対比精度を向上することができる。
【0021】
好ましくは、本発明の光偏向装置において、
前記第1条件時のVw1及び前記第2条件時のVw2は、前記第1駆動電圧の変動幅としての第1駆動電圧変動幅を維持しつつ、前記第2駆動電圧変動幅を変更するときの変更前及び変更後の第2駆動電圧変動幅である。
【0022】
この構成によれば、適切な第1条件及び第2条件を設定することにより、感度相当値の検出値と定格対応値との対比精度を向上することができる。
【0023】
好ましくは、本発明の光偏向装置において、
前記判定部は、前記第2駆動電圧変動幅を一定にしている期間に前記感度相当値の検出値が所定の閾値を超えて変化したときは、前記振れ角変動幅検出部が故障状態であると判定する。
【0024】
この構成によれば、第2駆動電圧変動幅が一定に維持される期間において、感度相当値の検出値に基づいて第1軸回りのミラー部の振れ角を検出する振れ角変動幅検出部の故障状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】光偏向装置の全体の模式図である。
図2】光偏向器の正面図である。
図3】制御装置のブロック図である。
図4】光偏向器及び制御装置の具体的な回路図である。
図5】H駆動電圧、V駆動電圧及びHセンサの出力の時間変化を示す図である。
図6】V駆動電圧変動幅の検出値と感度相当値の検出値との関係を調べたグラフである。
図7】所定のH駆動電圧においてV駆動電圧と感度相当値の定格値及び検出値との関係を示すグラフである。
図8】光偏向装置の起動時におけるV振れ状態の異常判定方法のフローチャートである。
図9】光偏向装置の作動中のV駆動電圧変動幅の変更時におけるV振れ状態の異常判定方法のフローチャートである。
図10】感度相当値の検出値に基づいて光偏向装置の故障診断を行うときの説明図である。
図11】V駆動電圧変動幅の不変化期間の故障診断方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施態様について説明する。本発明は、以下の実施態様に限定されないことは言うまでもない。本発明は、明細書に開示した技術的思想の範囲内で種々の態様で実施される。なお、図面において共通の構成要素は、同一の符号を付けている。
【0027】
(光偏向装置/全体)
図1は、光偏向装置10の全体の模式図である。光偏向装置10は、レーザ光源20、光偏向器30及び制御装置45を備える。
【0028】
図1には、スクリーン90が図示されているが、スクリーン90は、光偏向装置10を構成する要素から除外される。スクリーン90は、光偏向装置10が生成する走査光ビームLsによる走査軌跡Crを説明する便宜上、図示しているだけである。スクリーン90は、光偏向装置10が組み込まれる映像装置や車両用前照灯等の商品に応じて、映像スクリーンであったり、車両前方の照射領域であったりする。
【0029】
スクリーン90の縦及び横は、それぞれ垂直(V)方向及び水平(H)方向に対応している。以下の実施形態において、要素名及び因子名にV又はHがついている要素等は、それぞれ垂直方向及び水平方向に関連する要素であることを意味する。
【0030】
レーザ光源20は、光偏向器30のミラー部31に向けて、レーザ光ビームLoを出射する。ミラー部31は、レーザ光ビームLoを反射して生成した走査光ビームLsを出射する。
【0031】
ミラー部31は、直交関係の第1軸(以下、適宜「共進軸」又は「H軸」という。)及び第2軸(以下、適宜「非共進軸」又は「V軸」という。)の2軸の回りにそれぞれ共振及び非共振で往復回動している。走査光ビームLsは、スクリーン90上にラスタースキャンで走査軌跡Crを生成する。
【0032】
制御装置45は、光偏向器30のHアクチュエータ33及びVアクチュエータ35(図2)の駆動電圧を制御する。制御装置45は、さらに、レーザ光源20の点灯及び消灯の切替や、レーザ光源20の点灯時のレーザ光ビームLoの光度を制御することができる。
【0033】
(光偏向器)
図2は、光偏向器30の正面図である。光偏向器30の構成の説明の便宜上、3軸座標系を定義する。X軸及びY軸は、光偏向器30の正面視で横方向及び縦方向に平行な軸とする。Z軸は、MEMSの光偏向器30の厚さ方向に平行な軸とする。
【0034】
光偏向器30は、ミラー部31、トーションバー32a,32b、Hアクチュエータ33a,33b、可動枠34、Vアクチュエータ35a,35b及び固定枠36を備えている。
【0035】
ミラー部31は、円形であり、レーザ光ビームLo(図1)は、ミラー部31の中心Oに入射する。トーションバー32a,32bは、Y軸方向に相互に反対側に光偏向器30から延出し、先端において可動枠34の内周に結合している。Hアクチュエータ33a,33bは、ミラー部31に対してX軸方向の両側に位置し、Y軸方向の両端においてトーションバー32(トーションバー32a,32bの総称)の中間部に結合している。Hアクチュエータ33(Hアクチュエータ33a,33bの総称)は、ミラー部31の外周側でかつ可動枠34の内周側に位置する。
【0036】
Hアクチュエータ33a,33bには、振幅及び周波数が同一であり、かつ位相が180°ずれているH駆動電圧(第1駆動電圧)が供給される。該周波数は、共振周波数(例:1.5kHz)に設定されている。これにより、ミラー部31は、トーションバー32の中心軸(第1軸又は共振軸)の回りに共振で往復回動する。
【0037】
Vアクチュエータ35a,35bは、X軸方向に可動枠34に対して両側に位置する。各Vアクチュエータ35(Vアクチュエータ35a,35bの総称)は、可動枠34の外周と固定枠36の内周との間に介在する。各Vアクチュエータ35は、Y軸方向に平行にかつミアンダ配列で直列に結合する複数のカンチレバー37を有している。
【0038】
各Vアクチュエータ35における複数のカンチレバー37に対して、X軸方向に外側(固定枠36の内周側)から内側(可動枠34の外周側)に順番に番号をつけると、奇数番号のカンチレバー37と偶数番号のカンチレバー37とは、振幅及び周波数が同一であり、かつ位相が180°ずれているV駆動電圧(第2駆動電圧)が供給される。
【0039】
V駆動電圧の周波数は、非共振周波数(例:60Hz)に設定されており、第1軸の回りのミラー部31の往復回動の共振周波数より大幅に低い値に設定されている。これにより、ミラー部31は、第2軸(非共振軸)の回りに非共振で往復回動する。なお、第2軸は、X軸に平行でかつミラー部31の中心Oを通る。
【0040】
(制御装置/構成)
図3は、制御装置45のブロック図である。制御装置45は、駆動部49、電圧変動幅検出部50、振れ角変動幅検出部51、感度相当値検出部52及び判定部53を備えている。判定部53は、さらに、データ保持部58及び演算判定部59を備えている。制御装置45の詳細な作用については後述する。
【0041】
図4は、光偏向器30及び制御装置45の具体的な回路図である。光偏向器30は、Hアクチュエータ33及びVアクチュエータ35の他に、Hセンサ39を備える。Hセンサ39は、光偏向器30の製造時においてHアクチュエータ33及びVアクチュエータ35に共通に成膜した圧電膜層の一部を利用して、例えばトーションバー32とVアクチュエータ35との結合部に作成されている。すなわち、Hセンサ39は、光偏向器30に内蔵されている。
【0042】
制御装置45は、MEMS駆動制御部65、H駆動信号生成部66、V駆動信号生成部67、センサ処理部68及び異常判定部72を備える。異常判定部72は、さらに、H異常検知部73及びV異常検知部74を備える。
【0043】
図3の各ブロックと図4の各ブロックとの対応関係は次のとおりである。
駆動部49:MEMS駆動制御部65、H駆動信号生成部66及びV駆動信号生成部67
電圧変動幅検出部50、振れ角変動幅検出部51、感度相当値検出部52及び判定部53:センサ処理部68、異常判定部72
【0044】
MEMS駆動制御部65は、H駆動信号生成部66、V駆動信号生成部67及び異常判定部72に制御信号を出力する。MEMS駆動制御部65は、制御装置45の外部から駆動条件(H駆動電圧及びV駆動電圧についての条件)を受ける。H駆動信号生成部66及びV駆動信号生成部67は、それぞれHアクチュエータ33及びVアクチュエータ35にH駆動電圧(第1駆動電圧)及びV駆動電圧(第2駆動電圧)を出力する。
【0045】
センサ処理部68は、Hセンサ39及びH駆動信号生成部66からの入力信号に基づいて感度相当値に係る信号を生成し、MEMS駆動制御部65及び異常判定部72に出力する。H異常検知部73及びV異常検知部74は、それぞれミラー部31のH方向及びV方向の振れ角の異常を検知する。これらの異常は、異常通知として制御装置45の外部のスピーカやディスプレーに出力される。
【0046】
(感度相当値)
図5は、H駆動電圧(Hアクチュエータ33の駆動電圧)、V駆動電圧(Vアクチュエータ35の駆動電圧)及びH振れ角の時間変化を示す図である。H振れ角は、Hセンサ39が検出した第1軸の回りのミラー部31の振れ角を示している。
【0047】
当業者の一般常識では、H駆動電圧の変動幅が一定であれば、V駆動電圧の変動幅に関係なくH振れ角の変動幅は、一定である。しかしながら、本発明者は、H駆動電圧の変動幅が不変であっても、V駆動電圧の変動幅が変化すれば、H振れ角の変動幅が変化するという知見を得た。
【0048】
この理由について本発明者は、次のように考える。
(a)カンチレバー37のV駆動電圧変動幅が増大するほど、カンチレバー37の剛性が増大し、その分、H駆動電圧の効率が低下する。
(b)ミラー部31のV振れ角が大きいときは、小さいときに比して、ミラー部31の剛性が増大し、その分、H駆動電圧の効率が低下する。
【0049】
上記知見から、H駆動電圧の変動幅が一定であるときは、H振れ角変動幅からV振れ角変動幅を検出することができると考えられる。このことは、H振れ角変動幅から第2軸側振れ状態が正常か異常かを判定できることを意味している。
【0050】
なお、変動幅とは、値の最大値と最小値との差(peak to peak)である。振幅(正又は負の側の最大絶対値)とは異なる。この光偏向器30では、Hアクチュエータ33及びVアクチュエータ35は、ユニポーラ型で駆動し、H駆動電圧及びV駆動電圧は、正及び負のいずれかを維持する。
【0051】
図5の実施形態では、ミラー部31の駆動電圧は、正弦波形であり、Vアクチュエータ35の駆動電圧は、のこぎり波形になっている。なお、V駆動電圧の波形の最小値は,0であるので、該波形の最大値は、変動幅を意味する。
【0052】
Hアクチュエータ33のH駆動電圧変動幅は、不変になっている。これに対し、Vアクチュエータ35のV駆動電圧変動幅は、時刻t1においてDv1からDv2(<Dv1)に変化している。H振れ角の変動幅は、V駆動電圧変動幅のDv1からDv2への変化に伴い、So1からSo2(>So1)に変化する。
【0053】
Dv1,Dv2は、Vアクチュエータ35のV駆動電圧変動幅を意味する。V駆動電圧変動幅が増大するに連れて、ミラー部31のV振れ角変動幅が増大する。
【0054】
図6は、V駆動電圧変動幅の検出値と感度相当値の検出値Sdとの関係を調べたグラフである。Hアクチュエータ33及びVアクチュエータ35は、ユニポーラであるので、V駆動電圧の最大値とV駆動電圧変動幅とは一致する。光偏向装置10では、V駆動電圧の最小値は0であるので、V駆動電圧変動幅の検出値は、V駆動電圧の最大値でもある。
【0055】
実施形態に適用される感度相当値Sは、H駆動電圧変動幅が不変であるという条件下で、次の(式1)のように、V駆動電圧変動幅に対するH振れ角変動幅として定義される。
感度相当値S=H振れ角変動幅/V駆動電圧変動幅・・・(式1)
【0056】
なお、感度相当値Sは、H駆動電圧変動幅が変わると、変化する。したがって、(式1)の感度相当値Sは、H駆動電圧の関数になる。H振れ角変動幅は、Hセンサ39の出力から演算可能である。V駆動電圧変動幅は、V駆動信号生成部67の出力から演算可能である。
【0057】
図7は、所定のH駆動電圧においてV駆動電圧変動幅と感度相当値Sの定格値Sr及び検出値Sdとの関係を示すグラフである。設計者は、光偏向器30について予めV駆動電圧変動幅と定格値Srとの関係を定格関係(正常時の関係)として設定しておく。定格関係に係るデータは、判定部53のデータ保持部58に保持され、判定部53は、適宜参照可能になっている。
【0058】
一方、光偏向器30では、種々の原因によりV軸回りのミラー部31の振れ状態に異常が生じることがある。図7の破線は、そのような異常状態時の関係を一例として示したものであり、実線から大きくずれたものになっている。
【0059】
Sr1,Sr2は、それぞれV駆動電圧変動幅Dv=Dv1,Dv2に対応する感度相当値Sの定格値Srである。Sd1,Sd2は、V駆動電圧変動幅の検出値とH振れ角変動幅の検出値とを(式1)に適用して求めた感度相当値Sである。V駆動電圧変動幅Dv=Dv1,Dv2のときは、感度相当値Sは、Sd1,Sd2となる。
【0060】
(作用)
図8は、光偏向装置10の起動時におけるV振れ状態の異常判定方法のフローチャートである。
【0061】
S101において、駆動部49は、Hアクチュエータ33の駆動を開始する。S102において、駆動部49は、条件U1でVアクチュエータ35を駆動する。条件U1とは、光偏向器30の起動時にVアクチュエータ35に最初に供給するV駆動電圧変動幅となる。該V駆動電圧変動幅は、設計者が設定した値、すなわち非ユーザ設定の値となる。
【0062】
S103において、振れ角変動幅検出部51(Hセンサ39及びセンサ処理部68)は、H振れ角変動幅を検出する。
【0063】
S104において、駆動部49は、条件U2でVアクチュエータ35を駆動する。条件U2は、条件U1とは異なるV駆動電圧変動幅が適用される。該V駆動電圧変動幅は、ユーザが設定する値である。
【0064】
条件U1,U2とは、例えば、図7の第1条件及び第2条件に相当する。条件U1,U2のV駆動電圧変動幅は、例えばDv1,Dv2に相当する。
【0065】
S105において、振れ角変動幅検出部51は、S103と同様に、H振れ角変動幅を検出する。
【0066】
S106では、感度相当値検出部52は、感度相当値Sの検出値Sdを演算する。検出値Sdは、例えば図7のSd1,Sd2に相当する。Sd1は、S102のV駆動電圧変動幅から把握できるDv1と、S103で検出したH振れ角変動幅とを(式1)に代入して演算することができる。Sd2は、S104のV駆動電圧変動幅から把握できるDv2と、S105で検出したH振れ角変動幅とを(式1)に代入して演算することができる。
【0067】
S107では、演算判定部59は、条件U1,U2に対応する感度相当値Sの定格値Srを演算する。定格値Srは、例えば図7のSr1,Sr2に相当する。
【0068】
演算判定部59は、データ保持部58に保持されている定格関係を規定するデータを参照して、Dv1,Dv2に対応する定格値Srとしての定格対応値Sr1,Sr2を演算する。この演算には、補間法が利用される。
【0069】
S108では、演算判定部59は、検出値Sdと定格値Srとを対比する。具体的には、定格対応値Sr1/定格対応値Sr2の比と検出値Sd1/検出値Sd2の比とを対比する。
【0070】
S109では、演算判定部59は、S108の対比に基づいてミラー部31のV振れ状態を判定する。具体的には、次の(式2)の条件を満たすときは、V振れ状態は正常であると判定し、満たさないときは、異常であると判定する。ただし、Cth1は、閾値として正の数であり、|数値|は該数値の絶対値を意味する。
|Sd1/Sd2-Sr1/Sr2|≦Cth1・・・(式2)
【0071】
図9は、光偏向装置10の作動中のV駆動電圧変動幅の変更時におけるV振れ状態の異常判定方法のフローチャートである。
【0072】
S115において、駆動部49は、現在の条件W1でVアクチュエータ35を駆動する。なお、S115の条件W1及びS119の条件W2は、W1≠W2にもかかわらず、現在の条件と記載しているが、現在とは、各処理の実行時を意味するものとして使用している。
【0073】
S116において、電圧変動幅検出部50は、V駆動電圧変動幅を検出し、記憶する。S117において、振れ角変動幅検出部51は、H振れ角変動幅を検出し、記憶する。
【0074】
S118において、駆動部49は、条件W1から条件W1とは異なる条件W2への変更の有無を判定する。条件W1,W2とは、例えば、図7の第1条件及び第2条件に相当し、V駆動電圧変動幅は、それぞれ図7のDv1,Dv2である。
【0075】
駆動部49は、S118の判定において変更有りと判定したときは、処理をS119に進め、無しと判定したときは、処理を終了する。補足すると、変更有りとは、V駆動電圧変動幅が所定の閾値以上の変更があったことを意味する。
【0076】
S119では、作動期間の条件W2でVアクチュエータ35を駆動する。
【0077】
S120では、電圧変動幅検出部50は、S116の時と同様に、V駆動電圧変動幅を検出し、記憶する。
【0078】
S121では、振れ角変動幅検出部51は、S117の時と同様に、H振れ角変動幅を検出し、記憶する。
【0079】
S122では、条件W1,W2の定格値Srを演算する。具体的な計算は、図8のS107で説明したとおりである。
【0080】
演算判定部59は、S124では、検出値Sdと定格値Srとの対比を行い、S125では、V振れ状態の判定を行う。具体的な対比の仕方及び判定の仕方は、図8のS108,S109で説明したのと同一である。ただし、前述の(式2)の閾値Cth1とは異なる閾値Cth2(≠Cth1)を設定することもできる。
【0081】
図10は、感度相当値Sの検出値Sdに基づいて光偏向装置10の故障診断を行うときの説明図である。図10の場合、Vアクチュエータ35のV駆動電圧変動幅Dvは、変化がない期間が選定される。検出値Sdについての図10の上側の図の時間変化は、光偏向装置10が正常に作動しているときのものである。これに対し、下側の時間変化は、光偏向装置10に故障が生じた時のものである。
【0082】
故障診断は、一定時間ΔTの経過ごとに実施されるので、故障診断は、時刻ta1,ta2,ta3,ta4で実施される。Hセンサ39が正常に作動しているときは、図10の上側の図のように、検出値Sdは変化しない。
【0083】
これに対し、断線等の故障がHセンサ39に生じたときは、V駆動電圧変動幅及びH駆動電圧変動幅が変化しないにもかかわらず、検出値Sdが変化する。図10の下側の図では、検出値Sdが時刻tb2tb3間で所定の閾値以上変化している。こうして、検出値Sdの定期的な監視によりHセンサ39の故障を診断することができる。
【0084】
図11は、V駆動電圧変動幅Dvの不変化期間の故障診断方法のフローチャートである。
【0085】
S130では、判定部53は、前回の診断から所定時間ΔTが経過したか否かを判定する。判定部53は、該判定が肯定的であるときは、処理をS131に進め、否定的であるときは、処理を終了する。
【0086】
S131では、電圧変動幅検出部50は、V駆動電圧変動幅Dvを検出し、記憶する。S132では、振れ角変動幅検出部51は、H振れ角変動幅を検出し、記憶する。
【0087】
S133は、判定部53は、前回(現時刻より所定時間ΔTだけ前の)と今回のV駆動電圧変動幅Dvを対比する。判定部53は、前回と今回とでV駆動電圧変動幅Dvが変化無し(変化量が閾値未満)と判定したときは、処理をS134に進める。逆に、変化有り(変化量が閾値以上)と判定したときは、処理を終了する。
【0088】
S134では、演算判定部59は、前回及び今回の検出値Sdを演算する。S135では、演算判定部59は、前回検出値Sdpと今回の検出値Sdnとを対比する。
【0089】
S136では、演算判定部59は、S135の対比に基づいてHセンサ39の出力についての判定を行う。具体的には、次の(式3)を使用する。
|検出値Sdp-検出値Sdn|≦Cth3・・・(式3)
(式3)が満たされているときは、Hセンサ39は故障無しと判定する。満たされていないときは、Hセンサ39は故障していると判定する。
【0090】
(変形例)
実施形態の光偏向器30では、ミラー部31が往復回動する第1軸(共進軸)及び第2軸(非共進軸)がミラー部31の中心Oにおいて直交関係で交差する。本発明の第1軸及び第2軸は、交差関係にあれば、直交関係に限定されない。
【0091】
実施形態では、Hセンサ39は、MEMSの光偏向器30の圧電層を利用して光偏向器30の内蔵センサとして設けられている。本発明において、第1軸側振れ角変動幅として検出する振れ角変動幅検出部は、光偏向器30の外に配置したPD(Photo Detector)等で構成することも可能である。その場合、PDは、例えば、走査光ビームLsがその走査範囲の端付近に来た時、走査光ビームLsを受光してミラー部31の最大又は最小の第1軸側振れ角及びそのタイミングを検出することになる。
【0092】
図5では、Vアクチュエータ35のV駆動電圧は、のこぎり波形になっている。本発明のV駆動電圧は、のこぎり波形以外の波形(例:三角波及び正弦波)も採用することができる。
【0093】
実施形態のS108では、(式2)に基づいてV振れ状態の異常を判定している。本発明は、(式2)の比率に代えて、次の(式4)の差分に基づいてV振れ状態の異常を判定することもできる。ただし、Cth4は、正の所定の閾値である。
|(検出値Sd1-検出値Sd2)-(定格値Sr1定格値Sr2)|≦Cth4・・・(式4)
【符号の説明】
【0094】
10・・・光偏向装置、30・・・光偏向器、31・・・ミラー部、33・・・Hアクチュエータ(第1圧電アクチュエータ)、35・・・Vアクチュエータ(第2圧電アクチュエータ)、39・・・Hセンサ、45・・・制御装置、49・・・駆動部、50・・・電圧変動幅検出部、51・・・振れ角変動幅検出部、52・・・感度相当値検出部、53・・・判定部、58・・・データ保持部、59・・・演算判定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11