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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】チタンニオブ複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20240222BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240222BHJP
【FI】
C01G33/00 A
H01M4/485
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020087647
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021181392
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 健司
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169343(JP,A)
【文献】吉村昌弘ほか,金属ニオブの水熱酸化反応,日本セラミックス協会学術論文誌,Vol. 96 No.1,1988年
【文献】F. Izumi et al.,Crystallization and relative stabilities of polymorphs of Niobium(V) oxide under hydrothermal conditions,Z. anorg. allg. chem.,Vol. 440,1978年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
H01M 4/485
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンニオブ複合酸化物の製造方法であって、
第1のNb構造と、第2のNb構造及び第3のNb構造の少なくともどちらか一方と、を含む複数の結晶形が混在する酸化ニオブを原料として用い、
前記第1のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが23.6°~23.8°の範囲にある第1のピークと回折角2θが24.8°~25.0°の範囲にある第2のピークと回折角2θが25.4°~25.6°の範囲にある第3のピークとを有し、
前記第2のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが23.7°~23.9°の範囲にある第4のピークと回折角2θが24.3°~24.5°の範囲にある第5のピークと回折角2θが25.4°~25.6°の範囲にある第6のピークとを有し、
前記第3のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが22.5°~22.7°の範囲にある第7のピークと回折角2θが28.3°~28.5°の範囲にある第8のピークと回折角2θが28.8°~29.0°の範囲にある第9のピークとを有することを特徴とするチタンニオブ複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブは、前記第2のピークに対する前記第5のピークの強度比が4以下であるか、前記第2のピークに対する前記第7のピークの強度比が20以下であるかの少なくともどちらか一方である、請求項1に記載のチタンニオブ複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブは、前記第2のピークに対する前記第5のピークの強度比が2以下であるか、前記第2のピークに対する前記第7のピークの強度比が11以下であるかの少なくともどちらか一方である、請求項2に記載のチタンニオブ複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブは、前記第2のピークに対する前記第5のピークの強度比が1以下であるか、前記第2のピークに対する前記第7のピークの強度比が6以下であるかの少なくともどちらか一方である、請求項3に記載のチタンニオブ複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブと、酸化チタンまたは加熱により酸化チタンを生成するチタン化合物とを、チタンに対するニオブの原子比が1~3となる割合で混合する混合ステップと、
前記混合ステップによって生成された混合物を1000~1300℃で焼成する焼成ステップと、を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のチタンニオブ複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンニオブ複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンニオブ複合酸化物は、電気容量が高く、サイクル容量維持率が優れるため、リチウムイオン二次電池用活物質としての使用が期待されている(例えば特許文献1参照)。このようなチタンニオブ複合酸化物に関する技術として、例えば特許文献1や非特許文献1にはTiNbを固相反応で合成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-287496号公報
【0004】
【文献】R. J. Cava,D. W. Murphy, S. M. Zahurak,Journal of The Electrochemical Society,130(1983)2345-2351
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固相反応法によりチタンニオブ複合酸化物を合成する際、チタンニオブ複合酸化物は、使用される原料の種々物性の影響を大きく受ける。その影響により反応が不十分であれば、目的とする生成物であるTiNb以外にTiOやTiNb1029が多く混在してしまう。また、反応が過度に進みTiNb粒子同士のネック焼結が強固となった場合、目的の粒度を得るための粉砕に時間やエネルギーが過剰に必要となり、粉砕の過程で結晶の破壊がより進行し、チタンニオブ複合酸化物の充放電性能の低下を引き起こす。
【0006】
例えば、NbとTiOを原料として用いてTiNbを製造する場合、その原料配合比はNb/TiOの質量比で約3.5(体積比で約3)である。そのため、チタンニオブ複合酸化物は、Nbの影響を相対的に大きく受ける。また、Nbは非常に多くの結晶形を有することから、チタンニオブ複合酸化物は、Nbの結晶形の違いによる影響を大きく受ける。
【0007】
したがって、本発明の目的は、結晶形が好適に制御されたNbを、チタンニオブ複合酸化物の原料として用いることにより、TiOやTiNb1029の混在及びTiNb粒子同士のネック焼結を抑制することのできるチタンニオブ複合酸化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明に係るチタンニオブ複合酸化物の製造方法は、第1のNb構造と、第2のNb構造及び第3のNb構造の少なくともどちらか一方と、を含む複数の結晶形が混在する酸化ニオブを原料として用い、前記第1のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが23.6°~23.8°の範囲にある第1のピークと回折角2θが24.8°~25.0°の範囲にある第2のピークと回折角2θが25.4°~25.6°の範囲にある第3のピークとを有し、前記第2のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが23.7°~23.9°の範囲にある第4のピークと回折角2θが24.3°~24.5°の範囲にある第5のピークと回折角2θが25.4°~25.6°の範囲にある第6のピークとを有し、前記第3のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが22.5°~22.7°の範囲にある第7のピークと回折角2θが28.3°~28.5°の範囲にある第8のピークと回折角2θが28.8°~29.0°の範囲にある第9のピークとを有する構成(第1の構成)である。
【0009】
また、上記第1の構成の製造方法において、前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブは、前記第2のピークに対する前記第5のピークの強度比が4以下であるか、前記第2のピークに対する前記第7のピークの強度比が20以下であるかの少なくともどちらか一方である構成(第2の構成)であることが好ましい。
【0010】
また、上記第2の構成の製造方法において、前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブは、前記第2のピークに対する前記第5のピークの強度比が2以下であるか、前記第2のピークに対する前記第7のピークの強度比が11以下であるかの少なくともどちらか一方である構成(第3の構成)であることが好ましい。
【0011】
また、上記第3の構成の製造方法において、前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブは、前記第2のピークに対する前記第5のピークの強度比が1以下であるか、前記第2のピークに対する前記第7のピークの強度比が6以下であるかの少なくともどちらか一方である構成(第4の構成)であることが好ましい。
【0012】
また、上記第1~第4いずれかの構成の製造方法において、前記複数の結晶形が混在する酸化ニオブと、酸化チタンまたは加熱により酸化チタンを生成するチタン化合物とを、チタンに対するニオブの原子比が1~3となる割合で混合する混合ステップと、前記混合ステップによって生成された混合物を1000~1300℃で焼成する焼成ステップと、を有する構成(第5の構成)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、TiOやTiNb1029の混在及びTiNb粒子同士のネック焼結が抑制されたチタンニオブ複合酸化物を得ることができる。したがって、本発明の製造方法によって得られるチタンニオブ複合酸化物を例えばリチウムイオン二次電池の電極活物質として用いると、リチウムイオン電池の充放電特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1~5及び比較例1の製造方法で得られたチタンニオブ複合酸化物の分析結果
図2】実施例1、5~8並びに比較例2の製造方法で得られたチタンニオブ複合酸化物の分析結果
図3】実施例1、3、及び6で使用した酸化ニオブのX線回折スペクトル
図4】2032型コインセルの模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明に係る製造方法によって得られるチタンニオブ複合酸化物の実施の形態について説明する。
【0016】
チタンニオブ複合酸化物を製造するにあたり、ニオブ源として、第1のNb構造と、第2のNb構造及び第3のNb構造の少なくともどちらか一方と、を含む複数の結晶形が混在する酸化ニオブを準備する。
【0017】
第1のNb構造は、Cu-Kα線源(波長:0.15418nm)を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが23.6°~23.8°の範囲にある第1のピークと回折角2θが24.8°~25.0°の範囲にある第2のピークと回折角2θが25.4°~25.6°の範囲にある第3のピークとを有する。以下、第1のNb構造をM形Nb構造という。
【0018】
第2のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが23.7°~23.9°の範囲にある第4のピークと回折角2θが24.3°~24.5°の範囲にある第5のピークと回折角2θが25.4°~25.6°の範囲にある第6のピークとを有する。以下、第2のNb構造をH形Nb構造という。
【0019】
第3のNb構造は、Cu-Kα線源を用いたX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが22.5°~22.7°の範囲にある第7のピークと回折角2θが28.3°~28.5°の範囲にある第8のピークと回折角2θが28.8°~29.0°の範囲にある第9のピークとを有する。以下、第3のNb構造をT形Nb構造という。
【0020】
H形Nb構造は高温相である。H形Nb構造は、棒状に粒成長している一次結晶粒を有し、流動性、ハンドリング性に優れる。しかしながら、H形Nb構造を多く含む酸化ニオブをニオブ源として用いると、ミクロな分散性を阻害し、反応性が劣り、目的とする生成物であるTiNb以外にTiOやTiNb1029が多く混在してしまう。
【0021】
T形Nb構造は低温相である。T形Nb構造は、非常に微細な一次結晶粒を有し、流動性、ハンドリング性に劣るものの、固相反応における分散性、反応性に非常に優れる。しかし、ほぼT形Nb構造のみの構成である酸化ニオブをニオブ源として用いると、チタンニオブ複合酸化物のネック焼結部が増加し、後述する粒度調整の粉砕工程で過度の粉砕を要し、チタンニオブ複合酸化物の結晶性を低下させることになる。
【0022】
M形Nb構造は、T形Nb構造とH型Nb構造との中間温度相である。M形Nb構造は、T形Nb構造より大きいがH型Nb構造のような棒状粒成長はしていない一次結晶粒を有し、T形Nb構造と比べ反応性にやや劣るが、ネック焼結に伴う結晶性低下の抑制には好適である。
【0023】
以上より、反応性、ネック焼結抑制、ハンドリング性を考慮し、本実施形態では、M形Nb構造と、H形Nb構造及びT形Nb構造の少なくともどちらか一方と、を含む複数の結晶形が混在する酸化ニオブをニオブ源として用いることが好ましい。
【0024】
各結晶形の混相比率については、少なくともH形Nb構造を含む酸化ニオブでは、第2のピークに対する第5のピークの強度比が4以下であることが好ましい。第2のピークに対する第5のピークの強度比が4を超えると、反応性がやや劣り、TiOやTiNb1029の混在量が増加してしまうからである。より好ましくは2以下であり、更により好ましくは1以下である。
【0025】
また、少なくともT型構造を含むNbについては、第2のピークに対する第7のピークの強度比が20以下であることが好ましい。第2のピークに対する第7のピークの強度比が20を超えると、焼成後のネック焼結が増加するからである。より好ましくは11以下であり、更により好ましくは6以下である。
【0026】
チタンニオブ複合酸化物を製造するにあたり、酸化チタンまたは加熱により酸化チタンを生成するチタン化合物をチタン源として準備し、ニオブ源とチタン源との配合比は、チタンに対するニオブの原子比が好ましくは1~3であり、より好ましくは1.5~2.5であり、更に好ましくは、1.9~2.1である。
【0027】
ニオブ源及びチタン源の混合工程では、ボールミル、振動ミル、ビーズミル等の粉砕混合装置を用いるとよい。粉砕混合装置を用いる際に混合物が粉砕混合装置に付着することを防止するために、上述した原料にアルコール(例えばエタノール等)を助剤として添加してもよい。
【0028】
焼成工程では、混合工程で得られた混合物を適切な温度域に適切な時間保持して大気中で焼成する。これにより、一次粒子が焼結しているチタンニオブ複合酸化物を得ることができる。
【0029】
上述した適切な温度域及び上述した適切な時間は、良質な結晶が得られ、尚且つ、結晶粒が過剰に成長しない値である。上述した適切な温度域としては、1000℃~1300℃が好ましく、より好ましくは1100℃~1200℃である。また、上述した適切な時間としては、1時間~24時間が好ましく、より好ましくは2時間~6時間である。なお、大気以外の雰囲気(例えば、窒素雰囲気)で混合物を焼成してもよい。
【0030】
粒度調整の粉砕工程では、焼成工程で得られた焼成物を必要に応じパワーミル等を用いて粗粉砕した後、ボールミルやジェットミル等の微粉砕装置を用いて適切な粒度に調整する。
【0031】
粗粉砕時のメッシュとしては、0.5~2mm程度が好ましい。微粉砕後の適切な粒度は、好ましくはレーザー回折粒度分布計で測定されたメジアン径(D50)で1~10μmであり、より好ましくは2~5μmである。
【0032】
以下では、本発明の実施例について更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。すなわち、下記で説明する各種の処理方法や造粒方法など、公知の一般的な技術を適用することが可能な部分については、下記の実施例に何ら限定されることなく、その内容を適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【実施例
【0033】
<実施例1>
第2のピークに対する第5のピークの強度比が0.7であり第2のピークに対する第7ピークの強度比が0.7であるM形Nb構造、H型Nb構造、及びT形Nb構造が混在してなる酸化ニオブ(Nb)粉末6.16kgと、酸化チタン(TiO)粉末1.84kgとをアイリッヒミキサーで予備混合する。その後、該混合物にエタノールを助剤として加えながら、時間当たり5kgとなるようにビーズミルに連続投入し粉砕混合した。
【0034】
得られた粉砕混合物をアルミナトレイに入れ、電気炉中で焼成処理(処理温度:1100℃、処理時間:4時間)した。
【0035】
得られた焼成物をパワーミルで1mmのメッシュを通過するまで粗粉砕した後、内容積26Lのアルミナボールミルに粗粉砕粉5kgと水を加え湿式粉砕した。湿式粉砕は、経時的に粉砕スラリーの粒度をレーザー回折粒度計で測定しながら、メジアン径(D50)が3μm以下になったところで中止した。
【0036】
得られた粉砕スラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して、チタンニオブ複合酸化物粉末を得た。得られたチタンニオブ複合酸化物粉末の主体は、TiNbである。得られたチタンニオブ複合酸化物粉末には、TiOやTiNb1029が含まれていてもよい。
【0037】
<実施例2>
第2のピークに対する第5のピークの強度比が0.6であるM形Nb構造及びH型Nb構造が混在してなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0038】
<実施例3>
第2のピークに対する第5のピークの強度比が1.1であるM形Nb構造及びH型Nb構造が混在してなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0039】
<実施例4>
第2のピークに対する第5のピークの強度比が3.7であるM形Nb構造及びH型Nb構造が混在してなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0040】
<実施例5>
第2のピークに対する第5のピークの強度比が2.9であり第2のピークに対する第7ピークの強度比が0.1であるM形Nb構造、H型Nb構造、及びT形Nb構造が混在してなる酸化ニオブ使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0041】
<実施例6>
第2のピークに対する第7のピークの強度比が5.2であるM形Nb構造及びT型Nb構造が混在してなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0042】
<実施例7>
第2のピークに対する第7のピークの強度比が10.3であるM形Nb構造及びT型Nb構造が混在してなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0043】
<実施例8>
第2のピークに対する第7のピークの強度比が19.1であるM形Nb構造及びT型Nb構造が混在してなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0044】
<比較例1>
H形Nb構造のみからなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0045】
<比較例2>
T形Nb構造のみからなる酸化ニオブ粉末を使用した以外、実施例1と同じ方法でチタンニオブ複合酸化物粉末を得た。
【0046】
<分析装置>
実施例1~8及び比較例1~2の製造方法で得られたチタンニオブ複合酸化物の分析に使用した分析装置は、下記の通りである。
X線回折装置:株式会社リガク、UlTima4
レーザー回折粒度分布径:マイクロトラック・ベル株式会社、MT3000II
【0047】
<分析結果>
少なくともH形Nb構造を含む酸化ニオブをニオブ源として使用した実施例1~5及び比較例1の分析結果を図1に示す。また、少なくともT形Nb構造を含む酸化ニオブをニオブ源として使用した実施例1、実施例5~8及び比較例2の結果を図2に示す。
【0048】
図1及び図2では、ニオブ源として使用した酸化ニオブのX線回折スペクトルにおいて判明した結晶形の構成と、回折角2θが24.8°~25.0°、24.3°~24.5°、22.5°~22.7°のそれぞれで酸化ニオブのピークがあればそれらのピークの相対強度を記載している。回折角2θが24.8°~25.0°の範囲にある第2のピークは、M形Nb構造に起因するピークである。回折角2θが24.3°~24.5°の範囲にある第5のピークは、H形Nb構造に起因するピークである。回折角2θが22.5°~22.7°の範囲にある第7のピークは、T形Nb構造に起因するピークである。ここで、実施例で使用した酸化ニオブのX線回折スペクトルの例として、実施例1、3、及び6で使用した酸化ニオブのX線回折スペクトルを図3に示す。実施例1で使用した酸化ニオブのX線回折スペクトルには第2のピークP2、第5のピークP5、及び第7のピークP7が現れる。実施例3で使用した酸化ニオブのX線回折スペクトルには第2のピークP2及び第5のピークP5が現れる。実施例6で使用した酸化ニオブのX線回折スペクトルには第2のピークP2及び第7のピークP7が現れる。
【0049】
また、図1及び図2では、第2のピークP2に対する第5のピークP5の強度比(P5/P2)、第2のピークP2に対する第7のピークP5の強度比(P7/P2)を記載している。
【0050】
また図1及び図2では、各酸化ニオブを使用して合成された各チタンニオブ複合酸化物のX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが26.2°~26.4°の範囲、24.8°~25.1°の範囲、27.2°~27.6°の範囲それぞれでピークが有れば、それらのピークの強度(相対値)を記載している。回折角2θが26.2°~26.4°の範囲のピークは、目的とする生成物であるTiNbの結晶に起因するピークである。回折角2θが24.8°~25.1°の範囲のピークは、TiNb1029の結晶に起因するピークである。回折角2θが27.2°~27.6°の範囲のピークは、ルチル型のTiOの結晶に起因するピークである。
【0051】
また、図2では、湿式粉砕時に経時的に測定されたレーザー回折粒度分布結果より推定された、メジアン径(D50)が3μmとなる粉砕時間を記載している。
【0052】
図1より、比較例1に比べ実施例1~5はいずれもTiOやTiNb1029の混在が少ないことが分かる。また、M形Nb構造とH形Nb構造の混相からなる酸化ニオブをニオブ源として使用した実施例2、4及び5で比較すると、第2のピークP2に対する第5のピークP5の強度比(P5/P2)が小さいほどTiNb1029の混在が少ない。更に、T形Nb構造も含む酸化ニオブをニオブ源として使用した実施例1及び5は、T形Nb構造を含まない酸化ニオブをニオブ源として使用した実施例2、4及び5よりもTiNb1029の混在が少ない傾向にある。
【0053】
図2より、T形Nb構造を含む酸化ニオブをニオブ源として使用した場合、いずれも反応性が良好で、TiOやTiNb1029の混在が少ないことが分かる。しかし、比較例2に比べ実施例1及び5~8はいずれもメジアン径(D50)が3μmとなるまでの粉砕時間が短い。これはネック焼結が抑制されていることによると考えられる。また、第2のピークP2に対する第5のピークP5の強度比(P5/P2)が小さいほど粉砕時間が短くなる傾向にある。
【0054】
<リチウムイオン二次電池への応用>
例えば、活物質として実施例1~8いずれかのチタンニオブ複合酸化物を用いて電極を作製すればよい。具体例としては、まず、ポリフッ化ビニリデン10重量部をN-メチル-2-ピロリドンに溶解させ、次に導電助剤として導電性カーボンを10重量部、実施例1~8いずれかのチタンニオブ複合酸化物100重量部を加え、自転公転攪拌機にて混錬することにより塗料を作成すればよい。そして、この塗料をアルミ箔上に塗布し、その後120℃で真空乾燥しプレスした後、円形状に打ち抜けばよい。
【0055】
上記で作製した電極を用い、例えば図4に示す2032型コインセル1を組み立てればよい。図4に示す2032型コインセル1は、リチウムイオン二次電池の一例である。2032型コインセル1は、上ケース6aと下ケース6bとの間に、電極2、対極3、非水電解質4、及びセパレータ5を挟み込み、上ケース6aと下ケース6bの周囲をガスケット7で封止して作製される。
【0056】
対極3には例えば金属リチウム箔を用いればよい。非水電解質4には例えばエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート1:1v/v%にLiPFを1mol/L溶解したものを用いればよい。セパレータ5には例えばポリプロピレン多孔膜を用いればよい。
【0057】
なお、電極活物質の少なくとも一部が本発明の製造方法によって得られるチタンニオブ複合酸化物である電極は、リチウムイオン二次電池の正極として用いてもよく、リチウムイオン二次電池の負極として用いてもよい。
【0058】
また、本発明の製造方法によって得られるチタンニオブ複合酸化物をリチウムイオン二次電池の電極活物質として用いる場合、本発明の製造方法によって得られるチタンニオブ複合酸化物の表面の一部を炭素材料で被覆してもよい。
【0059】
ここで、表面の一部が炭素材料で被覆されているチタンニオブ複合酸化物の製造方法例について説明する。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)が13重量%となるように、実施例1~8いずれかのチタンニオブ複合酸化物にPVA水溶液を加えた後、ボールミルを用いて粉砕、混合を行った後、スプレードライヤーにて乾燥させる。その後、得られた乾燥品を窒素雰囲気下で熱処理(処理温度:800℃,処理時間:4時間)する。これにより、表面の一部が炭素材料で被覆されているチタンニオブ複合酸化物を得ることができる。
【0060】
<その他>
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって示されるものであって、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の製造方法によって得られるチタンニオブ複合酸化物は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極に用いられる電極活物質として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 2032型コインセル
2 電極
3 対極
4 非水電解質
5 セパレータ
6a 上ケース
6b 下ケース
7 ガスケット
図1
図2
図3
図4