(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 303/02 20060101AFI20240222BHJP
C07C 309/80 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C07C303/02
C07C309/80
(21)【出願番号】P 2020092371
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将人
(72)【発明者】
【氏名】神谷 武志
【審査官】柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-104950(JP,A)
【文献】特開2003-104951(JP,A)
【文献】特開昭52-077032(JP,A)
【文献】特開平08-283231(JP,A)
【文献】Romain Bejot et al.,Fluorous Synthesis of 18F Radiotracers with the [18F]Fluoride Ion: Nucleophilic Fluorination as the Detagging Process,Angewandte Chemie International Edition,2009年,48巻,586-589頁
【文献】Elisabeth Blom et al.,Use of perfluoro groups in nucleophilic 18F-fluorination,Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,2010年,53巻,24-30頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 303/00-303/46
C07C 309/00-309/89
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)に示される含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法であって、
【化1】
(式(1)において、Rfは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基を表し、Rは2価の有機基を表す。)
下記の式(2)に示される含フッ素アルキルチオ尿素塩とN-クロロスクシンイミドとを、水と有機溶媒
と酸を含む混合溶媒の存在下、20℃以上100℃以下の範囲内の反応温度で反応させることを特徴とする含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法。
【化2】
(式(2)において、Rfは、前記式(1)のRfと同じ基を表し、Rは前記式(1)のRと同じ基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
前記反応温度が40℃以上60℃以下の範囲内にある請求項1に記載の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素アルキルスルホニルクロリドは、含フッ素アルキル基とスルホニルクロリド(SO2Cl)とが2価の有機基を介して結合した構造を有する化合物である。この含フッ素アルキルスルホニルクロリドは、例えば、フッ素系界面活性剤の合成原料として利用されている。
【0003】
含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法としては、ヨウ化-2-ペルフルオロアルキルエチルとチオ尿素を反応させて得たチウロニウム塩と、塩素ガスとを反応させる方法が知られている(特許文献1)。また、含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法として、含フッ素アルキルチオ尿素塩と塩素ガスとを反応させる方法も知られている(特許文献2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-104950号公報
【文献】米国特許第3825577号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)2009,48,586-589.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法は、原料の塩素化剤として塩素ガスを使用する。しかしながら、塩素ガスは人体に対して有害で、腐食性が強い。このため、塩素ガスを工業的に使用する際には、塩素ガスの除外設備を配置したり、耐腐食性の装置を使用したりすることが必要となる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、塩素ガスを使用せずに、含フッ素アルキルスルホニルクロリドを高い収率で製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法は、下記の式(1)に示される含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法であって、
【0009】
【0010】
(式(1)において、Rfは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基を表し、Rは2価の有機基を表す。)
【0011】
下記の式(2)に示される含フッ素アルキルチオ尿素塩とN-クロロスクシンイミドとを、水と有機溶媒と酸を含む混合溶媒の存在下、20℃以上100℃以下の範囲内の反応温度で反応させる。
【0012】
【0013】
(式(2)において、Rfは、前記式(1)のRfと同じ基を表し、Rは前記式(1)のRと同じ基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)
【0014】
本発明の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法によれば、含フッ素アルキルチオ尿素塩の塩素化剤として、N-クロロスクシンイミドを用いるので、塩素ガスを使用せずに、含フッ素アルキルスルホニルクロリドを製造することができる。また、反応温度が20℃以上100℃以下の範囲内とされているので、フッ素アルキルスルホニルクロリドを高い収率で製造することができる。
【0015】
ここで、本発明の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法においては、前記反応温度が40℃以上60℃以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、反応温度が40℃以上60℃以下の範囲内にあるので、フッ素アルキルスルホニルクロリドをより高い収率で製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塩素ガスを使用せずに、含フッ素アルキルスルホニルクロリドを高い収率で製造することができる方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法について説明する。本実施形態の製造方法において、製造目的である含フッ素アルキルスルホニルクロリドは、下記の式(1)に示される化合物である。この含フッ素アルキルスルホニルクロリドは、例えば、フッ素系界面活性剤の合成原料として利用される。
【0019】
【0020】
式(1)において、Rfは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基を表す。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。また、ペルフルオロアルキル基はシクロペルフルオロアルキル基であってもよい。さらに、ペルフルオロアルキル基は、途中に、酸素原子(-O-)あるいは置換基を有するイミノ基(-NRf1-、Rf1は、炭素数1~4のペルフルオロアルキル基を表す。)を含んでいてもよい。
【0021】
式(1)において、Rは2価の有機基(連結基)を表す。2価の有機基は、N-クロロスクシンイミドと反応しない基であれば特に制限はない。2価の有機基は、置換基を有していてもよい炭化水素基、酸素原子(-O-)、カルボニル基(-CO-)、スルホニル基(-SO2-)、置換基を有していてもよいイミノ基(-NR1-、R1は、水素原子もしくは置換基を表す)およびこれらの基を組合せた基を含む。炭化水素基は、炭素数が1~10であることが好ましい。炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、炭化水素基は、直鎖状炭化水素基であってもよいし、分岐状炭化水素基であってもよいし、環状炭化水素基であってもよいし、これらを組合せた基であってもよい。炭化水素基の例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキレン基、フェニレン基を挙げることができる。炭化水素基の置換基の例としては、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基を挙げることができる。イミノ基の置換基は、炭素数1~3のアルキル基、塩素を挙げることができる。
【0022】
これらを組合せた基としては、炭化水素基と酸素原子を組合せた基(-炭化水素基-O-)、炭化水素基とカルボニル基と酸素原子とを組合せた基(-炭化水素基-CO-O-)、炭化水素基とカルボニル基とイミノ基とを組合せた基(-炭化水素基-CO-NR1-、-炭化水素基-CO-NR1-CO-)、炭化水素基とスホニル基とイミノ基とを組合せた基(-炭化水素基-SO2-NR1-)、炭化水素基と酸素原子とカルボニル基とイミノ基とを組合せた基(-炭化水素基-NR1-CO-O-)を挙げることができる。
【0023】
本実施形態に係る含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法は、含フッ素アルキルチオ尿素塩とN-クロロスクシンイミド(以下、NCSともいう)とを反応させる。含フッ素アルキルチオ尿素塩としては、下記の式(2)に示される化合物を用いる。
【0024】
【0025】
式(2)において、Rfは、上記の式(1)のRfと同じ基を表す。また、Rは上記の式(1)のRと同じ基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン元素としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を用いることができる。
【0026】
含フッ素アルキルチオ尿素塩は、例えば、ペルフルオロアルキル基を有するハロゲン化物と、チオ尿素とを反応させることによって合成することができる。含フッ素アルキルチオ尿素塩の合成方法としては、非特許文献1(Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,586-589.)に記載されている方法を用いることができる。
【0027】
含フッ素アルキルチオ尿素塩とNCSとは、水と有機溶媒を含む混合溶媒の存在下で反応させる。有機溶媒としては、水と親和性を有する極性溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどを用いることができる。混合溶媒は酸を含んでいてよい。酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、カルボン酸を用いることができる。
【0028】
含フッ素アルキルチオ尿素塩とNCSとの反応温度は、20℃以上100℃以下の範囲内である。反応温度は、40℃以上60℃以下の範囲内であることが好ましい。反応時間は、反応容器のサイズや反応温度などの条件によって異なるが、一般に0.5時間以上3時間以下の範囲内である。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法を示すフロー図である。
図1に示す含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法は、仕込み工程S1と、混合工程S2と、反応工程S3と、精製工程S4と、を含む。
【0030】
仕込み工程S1では、反応容器に、NCSと有機溶媒と水と酸とを投入して、混合液を調製する。NCSの量は、混合工程S2で添加する含フッ素アルキルチオ尿素塩1モルに対して3モル以上であり、好ましくは3モル以上6モル以下の範囲内の量である。有機溶媒の量は、NCSを溶解できる量であれば特に制限はない。水の量は、有機溶媒と水との容量比で4:1~2:1(水:有機溶媒)の範囲内にあることが好ましい。酸の量は、酸が触媒として作用する量であれば特に制限はない。
【0031】
混合工程S2では、混合液に含フッ素アルキルチオ尿素塩を添加する。含フッ素アルキルチオ尿素塩は、混合液を撹拌しながら少量ずつ添加することが好ましい。含フッ素アルキルチオ尿素塩を少量ずつ添加することによって、含フッ素アルキルチオ尿素塩とNCSとの反応熱によって、混合液の液温が急激に上昇することを抑えることができる。混合工程S2では、混合液を20℃以上に加熱することが好ましく、40℃以上に加熱することがより好ましい。
【0032】
反応工程S3では、混合液に含フッ素アルキルチオ尿素塩を添加して調製した反応液を撹拌しながら加熱して、フッ素アルキルチオ尿素塩とNCSとを反応させることによって含フッ素アルキルスルホニルクロリドを生成させる。反応液の加熱温度は、混合工程S2での混合液の加熱温度よりも10℃以上高いことが好ましい。
【0033】
精製工程S4では、反応液中の含フッ素アルキルスルホニルクロリドを回収して精製する。反応液中の含フッ素アルキルスルホニルクロリドは、例えば、反応液を水に投入して含フッ素アルキルスルホニルクロリドを析出させ、デカンテーションなどの固液分離法を用いて溶媒を除去することによって回収できる。
【0034】
含フッ素アルキルスルホニルクロリドの精製は、例えば、次のように行なう。先ず、含フッ素アルキルスルホニルクロリドを水で洗浄して、水溶性の不純物を除去する。次いで、含フッ素アルキルスルホニルクロリドをクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、不溶分をろ過により除去する。さらに、ろ液(含フッ素アルキルスルホニルクロリド溶液)に水を加えて残存する無機塩を除去した後、チオ硫酸ナトリウムを用いてハロゲン元素を除去する。
【0035】
以上に述べたように、本実施形態の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法によれば、含フッ素アルキルチオ尿素塩の塩素化剤として、N-クロロスクシンイミドを用いるので、塩素ガスを使用せずに、含フッ素アルキルスルホニルクロリドを製造することができる。また、反応温度が20℃以上100℃以下の範囲内とされているので、フッ素アルキルスルホニルクロリドを高い収率で製造することができる。本実施形態の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法は、塩素ガスを使用しないので、塩素ガスの除外設備を配置したり、耐腐食性の装置を使用したりすることを特には必要とせずに実施することができる。
【0036】
また、本実施形態の含フッ素アルキルスルホニルクロリドの製造方法において、反応温度が40℃以上60℃以下の範囲内にある場合は、フッ素アルキルスルホニルクロリドをより高い収率で製造することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、
図1に示すフロー図では、仕込み工程S1で、反応容器に、NCSと有機溶媒と水と酸とを投入して混合液を調製し、混合工程S2で混合液に含フッ素アルキルチオ尿素塩を添加しているが、原料の混合順序はこれに限定されるものではない。例えば、有機溶媒と水と酸とを混合して調製した混合液に、NCSと含フッ素アルキルチオ尿素塩とを同時に添加してもよい。
【実施例】
【0038】
[本発明例1]
含フッ素アルキルチオ尿素塩として、C8F17CH2CH2SC(NH2)2Iを用意した。このC8F17CH2CH2SC(NH2)2Iは、非特許文献1(Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,586-589.)に記載されている方法に従って、C8F17CH2CH2Iとチオ尿素とを用いて合成した。
【0039】
還流冷却器、温度計、撹拌機を備えたガラス製の四つ口フラスコに、窒素ガスを導入しながら、N-クロロスクシンイミド(NCS)180.3g、アセトニトリル200mL、濃度2モル/Lの塩酸水溶液94.4gをそれぞれ投入し、撹拌混合した。次いで、四つ口フラスコを40℃のオイルバスに浸漬して、初期温度40℃で混合液の撹拌を続けながら、165gのC8F17CH2CH2SC(NH2)2Iを1時間かけて添加した。添加終了後、オイルバスの温度を50℃に設定して、反応温度50℃で、C8F17CH2CH2SC(NH2)2IとNCSとを1時間反応させた。反応終了後、四つ口フラスコへの窒素ガスの導入を止め、四つ口フラスコをオイルバスから取り出して、反応液を室温まで放冷した。
【0040】
1Lビーカーに水300mLを投入し、次いで水を撹拌しながら、その水に反応液を投入した。その後、撹拌を止めて、上層(水)と下層(C8F17CH2CH2SO2Cl)とに分離した。上層の水をデカンテーションにより除去して、C8F17CH2CH2SO2Clを回収した。回収したC8F17CH2CH2SO2Clに水300mLを加えて撹拌し、次いで、静置した後、上層の水をデカンテーションにより除去することにより、C8F17CH2CH2SO2Clを水洗した。水洗後のC8F17CH2CH2SO2Clをクロロホルム100mLに溶解させ、得られたC8F17CH2CH2SO2Cl溶液をセライトろ過した。得られたろ液に水300mLを加えて撹拌して、残存する無機塩を除去した後、濃度5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて撹拌して、C8F17CH2CH2SO2Cl溶液を洗浄する操作を2回行なった。洗浄後のC8F17CH2CH2SO2Cl溶液を硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムを濾別した後、エバポレーターにより濃縮した。濃縮後のC8F17CH2CH2SO2Clを、19Torr(2.5×103Pa)の減圧下、140℃の温度で加熱して蒸留した。得られた生成物を、ガスクロマトグラフィと1H-NMRを用いて分析した結果、C8F17CH2CH2SO2Clであることが確認された。また、生成物の収率は80%であった。
【0041】
[本発明例2~4、比較例1]
原料である含フッ素アルキルチオ尿素塩の種類と、含フッ素アルキルチオ尿素塩を投入する混合液の初期温度、そして、その後の反応温度を、下記の表1に示すように変えたこと以外は、本発明例1と同様にして、含フッ素アルキルスルホニルクロリドを得た。
得られた含フッ素アルキルスルホニルクロリドの組成と収率とを、下記の表1に示す。
【0042】
【0043】
本発明例1~4の結果から、塩素源としてN-クロロスクシンイミドを用いることによって、塩素ガスを使用せずに、含フッ素アルキルスルホニルクロリドを高い収率で製造することが可能であることが確認された。特に、反応温度が40℃以上60℃以下の範囲内にある本発明例1~3では、収率が80%以上と顕著に向上することが確認された。