IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッドの特許一覧

特許7441726選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板
<>
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図1
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図2
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図3
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図4
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図5
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図6
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図7
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図8
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図9A
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図9B
  • 特許-選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】選択可能な表面接着力転写素子を利用した転写基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240222BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H01L21/02 C
H01L27/12 B
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020092788
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021002651
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】16/449,844
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【弁理士】
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】ユンダー・ワン
(72)【発明者】
【氏名】サウラブ・ライチョードゥリー
(72)【発明者】
【氏名】ジェンピン・ルー
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-343944(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0998087(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
2つ以上の転写素子を備える転写基板であって、前記転写素子の各々が、
第1の温度における第1の表面接着力及び第2の温度における第2の表面接着力を有する接着素子であって、前記第2の表面接着力が、前記第1の表面接着力よりも弱い、接着素子と、
入力に応じて前記接着素子の温度を変化させるように動作可能な熱素子と、を含む、 転写基板と、
前記2つ以上の転写素子の前記熱素子への前記入力を提供するために連結され、前記転写素子のサブセットに、オブジェクトを選択的に保持させ、前記転写素子の前記サブセットの前記第1の表面接着力と前記第2の表面接着力との間の変化に応じて、前記オブジェクトを前記転写基板から選択的に解放させるコントローラであって、前記第1の表面接着力と前記第2の表面接着力との間の前記変化が反復可能かつ可逆的である、コントローラと、を備える、装置。
【請求項2】
前記オブジェクトが、サブミリメートル電子デバイスを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記2つ以上の転写素子が、1μm~1mmのピッチで離間された転写素子のアレイを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記接着素子が、ステアリルアクリレート(SA)ポリマーを含有するマルチポリマーで形成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の温度と前記第2の温度との間の差が、20℃未満である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記熱素子が、加熱素子を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記加熱素子が、抵抗性加熱素子を備える、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記熱素子が、冷却素子を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記入力が、電気信号を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記入力が、レーザ光を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記転写素子が、前記接着素子と前記転写基板との間に断熱体を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記2つ以上の転写素子の前記接着素子が、前記2つ以上の転写素子の全てを覆う連続層を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記接着素子が、前記第1の温度においては粘着性であり、前記第2の温度においては剛性である、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記転写素子が、湾曲した基板又はローラ上に実装される、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
方法であって、転写基板上の複数の転写素子のサブセットに第1の入力を適用することであって、複数の転写素子の各々が、熱素子と、前記熱素子に熱的に結合された接着素子と、を有し、前記第1の入力は、転写素子のサブセット内の各転写素子に、第1の温度を達成させ、そのため、前記サブセット内の各転写素子の各接着素子が、第1の表面接着力を達成し、前記サブセット内に無い他の転写素子は、前記他の転写素子の各接着素子に、前記第1の表面接着力よりも弱い第2の表面接着力を達成させる、第2の温度にあり、前記第1の表面接着力と前記第2の表面接着力との間の変化が反復可能かつ可逆的である、適用することと、
前記転写素子の少なくとも前記サブセットを、ドナー基板上の複数のオブジェクトのそれぞれのオブジェクトのサブセットに接触させることと、
前記転写基板を前記ドナー基板から離れて移動させることであって、前記オブジェクトのサブセットが、前記第1の表面接着力における前記転写素子のサブセットに接着し、前記転写基板と共に移動する、移動させることと、
前記転写基板上の前記オブジェクトのサブセットを標的基板に接触させることと、
前記オブジェクトのサブセットを前記転写基板から前記標的基板に転写することと、を含む、方法。
【請求項16】
前記転写素子の少なくとも前記サブセットをオブジェクトの前記それぞれのサブセットに接触させることが、前記複数の転写素子の全てを前記ドナー基板上の前記それぞれの複数のオブジェクトの全てに接触させることを含み、前記他の転写素子によって接触された他のオブジェクトは、前記転写基板に接着せず、かつ前記転写基板と共に移動しない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記転写基板から前記標的基板に前記オブジェクトのサブセットを転写することが、前記転写素子のサブセットに第2の温度を達成させ、そのため、前記サブセット内の各転写素子の前記接着素子が、前記第2の表面接着力を達成することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記標的基板が、前記オブジェクトのサブセットを前記転写基板から前記標的基板に転写することを容易にする反力を印加する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
方法であって、複数の転写素子を、ドナー基板上の対応する複数のオブジェクトに接触させることであって、前記転写素子の各々は、第1の温度における第1の表面接着力及び第2の温度における第2の表面接着力を有する接着素子であって、前記第2の表面接着力が、前記第1の表面接着力よりも弱い、接着素子と、前記接着素子の温度を変化させて、前記第1の表面接着力と前記第2の表面接着力との間で反復可能かつ可逆的に変化させるように動作可能な熱素子と、を備える、接触させることと、
前記転写素子のサブセット内の各転写素子の前記接着素子に前記第1の表面接着力を達成させるため、複数の前記転写素子のサブセットの前記熱素子に第1の入力を適用することであって、前記サブセット内に無い他の転写素子の前記接着素子が、前記第2の表面接着力である、適用することと、
オブジェクトの対応するサブセットが前記転写素子のサブセットに接着し、転写基板と共に移動するように、前記転写基板を前記ドナー基板から離れて移動させることと、
前記転写基板上の前記オブジェクトのサブセットを標的基板に接触させることと、
前記オブジェクトのサブセットを前記転写基板から前記標的基板に転写することと、を含む、方法。
【請求項20】
前記転写基板から前記標的基板に前記オブジェクトのサブセットを転写することが、前記転写素子のサブセットに、前記第2の表面接着力を達成させることを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記標的基板が、前記オブジェクトのサブセットを前記転写基板から前記標的基板に転写することを容易にする反力を印加する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本開示は、選択可能な表面接着素子を利用する転写基板に関する。一実施形態では、装置は、2つ以上の転写素子を有する転写基板を含む。各転写素子は、第1の温度における第1の表面接着力及び第2の温度における第2の表面接着力を有する接着素子を含む。第2の表面接着力は、第1の表面接着力よりも弱い。各転写素子は、入力に応じて接着素子の温度を変化させるように動作可能な熱素子を有する。コントローラは、2つ以上の転写素子の熱素子への入力を提供するために連結されており、転写素子のサブセットの第1の表面接着力と第2の表面接着力との間の変化に応じて、転写素子のサブセットを選択的に保持させ、かつオブジェクトを転写基板から解放させる。
【0002】
別の実施形態では、方法は、転写基板上の複数の転写素子のサブセットに第1の入力を適用することを伴う。複数の転写素子の各々は、熱素子と、接着素子に熱的に結合された接着素子と、を有する。第1の入力は、サブセット内の各転写素子の各接着素子が第1の表面接着力を達成するように、転写素子のサブセット内の各転写素子に第1の温度を達成させる。第2の温度におけるサブセット内に無い他の転写素子は、他の転写素子の各接着素子に、第1の表面接着力よりも弱い第2の表面接着力を達成させる。少なくとも転写素子のサブセットは、ドナー基板上の複数のオブジェクトのそれぞれのオブジェクトのサブセットに接触させられる。転写基板は、ドナー基板から離れて移動させられる。オブジェクトのサブセットは、第1の表面接着力における転写素子のサブセットに接着し、転写基板と共に移動する。転写基板上のオブジェクトのサブセットは、標的基板に接触させられ、オブジェクトのサブセットは、転写基板から標的基板に転写される。
【0003】
別の実施形態では、方法は、複数の転写素子を、ドナー基板上の対応する複数のオブジェクトに接触させることを伴う。各転写素子は、第1の温度で第1の表面接着性及び第2の温度での第2の表面接着性を有する接着素子を含む。第2の表面接着力は、第1の表面接着力よりも弱い。転写素子はまた、接着素子の温度を変化させるように動作可能な熱素子を各々含む。第1の入力が、複数の転写素子のサブセットの熱素子に適用され、転写素子のサブセット内の各転写素子の接着素子に、第1の表面接着力を達成させる。サブセット内に無い他の転写素子の接着素子は、第2の表面接着力である。転写基板は、オブジェクトの対応するサブセットが転写素子のサブセットに接着し、転写基板と共に移動するように、ドナー基板から離れて移動させられる。転写基板上のオブジェクトのサブセットは、目標基板に接触させられる。オブジェクトのサブセットは、転写基板から標的基板に転写される。
【0004】
様々な実施形態のこれら及び他の特徴及び態様は、以下の詳細な説明及び添付の図面を考慮して理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
以下の説明は、以下の図を参照するが、同じ参照番号は、複数の図において類似の/同じ構成要素を識別するために使用されてもよい。図面は必ずしも縮尺どおりではない。
【0006】
図1】例示的実施形態による組立プロセスを示すブロック図である。
図2】例示的実施形態による組立プロセスを示すブロック図である。
図3】例示的実施形態による装置の側面図である。
図4】例示的実施形態による転写基板の切替えマトリックスの概略図である。
図5】例示的実施形態による転写基板の切替えマトリックスの概略図である。
図6】例示的実施形態による転写基板の側面図である。
図7】様々な例示的実施形態による転写基板の側面図である。
図8】様々な例示的実施形態による転写基板の側面図である。
図9A】例示的な実施形態による方法の図である。
図9B】例示的な実施形態による方法の図である。
図10】例示的実施形態による接着素子に使用されるポリマーの接着特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、オブジェクトの操作及びアセンブリに関するものであり、いくつかの実施形態では、転写基板を介したマイクロオブジェクトの大量アセンブリに関する。いくつかの電子デバイスは、小型のオブジェクトを互いの上に機械的に重ね合わせることによって製造される。マイクロ電子及び微小光学構成要素は、層の堆積、マスキング、及びエッチングなどのウェハ形成技術を使用して製造されるが、特定の種類の材料は、互いに成長互換性がない。このような場合、アセンブリは、第1の基板上に第1のクラスのデバイスを形成することと、第2の基板上に第2のクラスのデバイスを形成することと、その後、例えば、フリップチップ又は転写印刷技術を介してそれらを機械的に接合することを伴い得る。
【0008】
本明細書に記載される態様は、個々のマイクロオブジェクトの高度な位置合わせを維持しながら、ドナー基板から別の基板に多数のマイクロオブジェクト(例えば、粒子/チップレット/ミニ又はマイクロLEDダイ)を平行に転写できるシステムに関する。このシステムは、転写基板からマイクロオブジェクトを選択的に転写し、マイクロオブジェクトを宛先又は目標基板に選択的に配置することができる。このシステムは、マイクロLEDディスプレイなどのデバイスを組み立てるために使用されてもよい。
【0009】
一般的に、マイクロLEDディスプレイは、個々の転写素子を形成する顕微鏡LEDのアレイで作製される。OLEDと共に、マイクロLEDは、主に小型の低エネルギーモバイルデバイスを目的とする。OLED及びマイクロLEDの両方は、従来のLCDシステムと比較して、大幅に低減されたエネルギー要件を提供する。OLEDとは異なり、マイクロLEDは、従来のGaN LED技術に基づくものであり、OLEDが生成するよりも高い総輝度と、単位電力当たりの放出光の高い効率を提供する。また、OLEDのより短い寿命に悩まされることもない。
【0010】
マイクロLEDを利用する4Kテレビ1台には、~2500万個の小さなLEDサブ画素があり、それらを組み立てる必要がある。チップレットの大量転写は、マイクロLED製造に使用され得る1つの技術である。マイクロLEDを目標バックプレーンに迅速かつ正確に高い歩留まりで転写することは、マイクロLEDを実現可能な大量市場製品とするために、製造業者が完成する必要がある技術のうちの1つである。以下に記載される技術は、多数の(典型的には)小さいオブジェクトを一度に移動させる必要ある場合、そのようなデバイスのサブセットを転写媒体に及び/又は転写媒体から選択的に移動させることが必要であり得る、マイクロLED製造、並びに他の組立手順に使用され得る。このようなマイクロオブジェクトとしては、インク、予め堆積された金属フィルム、シリコンチップ、集積回路チップ、ビーズ、マイクロLEDダイ、マイクロ電気機械システム(MEMS)構造物、及び任意の他の既製のマイクロ構造物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0011】
任意のパターンでチップレットを選択的に転写することができることにより、マイクロLEDディスプレイ製造のための有効な転写プロセス、画素修復、孔/空孔再充填を容易にするのに有用であり、高いプロセスの歩留まりをもたらす。このタイプの用途では、エラストマースタンプを使用してマイクロスケールLEDチップを確定的に転写する。しかしながら、エラストマースタンプは、固定パターンを有し、チップレットの任意のパターンを転写することができない。必然的に、チップレットの一部のサブセットに不良があるため、そのようなスタンプを使用して一部のチップレットを交換することが困難となる。
【0012】
図1及び図2は、例示的な実施形態によるデバイス、システム、及び方法を使用して達成することができる組立プロセスの一例を示すブロック図である。図1では、基板100上に成長又は配置され得るチップレット101のアレイを含むドナーウェハ/基板100が示されている。アレイ101内の網掛けされたチップレットは不良であると識別されており、チップレットが標的基板102に転写されると、チップレットアレイのサブセット101aのみが転写され、つまり、網掛けされていない良好なチップレットが転写される。これは、図2に示されるように、一旦識別されるとドナー基板100からサブセット101aのみを選択的にピックアップすることができる転写基板200を用いて達成され得る。図2に示されるように、転写基板202はその後、(例えば、異なるドナー基板から)第2のチップレット200のセットをピックアップする。セット200内のチップレットの位置は、第1のドナー基板100上の不良チップレットの位置に対応する。転写基板202は、このセット200を標的基板102に移動させ、結果として、動作可能なチップレットの完全なセット201が標的基板102上に配置される。
【0013】
本開示は、とりわけ、マイクロオブジェクトのサブセットを選択的に保持することができる転写素子のセット(例えば、転写画素)を有する転写基板に関する。したがって、全ての転写素子がサブセットよりも大きいマイクロオブジェクトのアレイと接触している場合であっても、サブセットのみが接着及び転写され、サブセットの外側のオブジェクトは、後方に残されるか、又は影響を受けない。同様に、転写基板は、転写素子の全てが現在マイクロオブジェクトを保持していても、サブセットのみが標的に転写されるように、転写基板は、基板に現在取り付けられているマイクロオブジェクトのサブセットを選択的に解放することができる。このプロセスは、オブジェクトの選択的保持又は解放に影響を及ぼす恒久的な接合が必要とされないように、反復可能かつ可逆的である。
【0014】
図3において、側面図は、例示的な実施形態による装置300の詳細を示す。装置は、2つ以上の転写素子304を有する転写基板302を含む。転写素子304の各々は、第1の温度における第1の表面接着力及び第2の温度における第2の表面接着力を有する接着素子306を含む。第2の表面接着力は、第1の表面接着力よりも弱い。転写素子304の各々はまた、例えば、入力310を介して、入力に応じて接着素子306の温度を変化させるように動作可能な熱素子308を含む。コントローラ312は、入力310を熱素子308に提供するように連結され、それによって、転写素子304のサブセットを選択的にピックアップしてオブジェクト314を保持させ、転写基板302からオブジェクト314を(所望により)解放させる。具体的には、オブジェクト314は、第2の表面接着力では転写素子304に付着しないが、第1の表面接着力では付着する。
【0015】
装置300は、転写基板302から目標基板316にマイクロオブジェクト(例えば、1μm~1mm)を転写するために使用されるシステムであるマイクロ転写システムの一部であり得る。接着素子306は、ステアリルアクリレート系(SA)を含有するマルチポリマーで形成され得る。そのような場合、第1の温度と第2の温度との間の差は、表面接着力に顕著な差が出るように、接着素子306の粘着性を調節するために、20℃未満(第2の温度が、第1の温度よりも低い場合)であり得る。いくつかの材料は、比較的高い温度で表面接着力を失い得ることが理解されよう。そのような場合、本明細書に記載される方法及び装置は、第2の温度が第1の温度よりも高くなるように構成されてもよい。
【0016】
熱素子308は、加熱素子及び冷却素子の一方又は両方を含み得る。入力310は、電気信号及び/又はレーザ光を含み得る。入力310は、転写素子304の総数よりもコントローラ312に進む線が少ないように(例えば、マトリックス回路を使用して)構成され得る。転写素子304は、接着素子306と転写基板302との間に断熱体309を更に含み得る。断熱体309は、基板302への熱伝達を防止するのに役立ち、それにより、接着素子306での温度変化に影響を与えるために必要なエネルギーの量を減らし、応答時間を減らす。
【0017】
一般に、転写素子304は、その粘着性が温度の関数として調節され得る(例えば、剛性から粘着性になり得る)中間転写表面を形成する。このような表面を使用して、制御された選択可能な方法でマイクロオブジェクトのグループをピックアップ及び解放し得る。各転写素子304は、数マイクロメートル~数百マイクロメートルの横方向寸法Wを有し得る。各転写素子304は、1マイクロン未満~数百マイクロンの総厚さTを有し得る。転写アレイのピッチは、数マイクロン~数ミリメートルで変動し得る。いくつかの実施形態では、熱素子308及び断熱層309は、互いに物理的に絶縁されていない連続層である。したがって、転写素子「画素」は、加熱/冷却素子が個別にアドレス指定され制御され得る領域である(図6参照)。基板302の材料としては、ガラス、石英、シリコン、ポリマー、及び炭化ケイ素が含まれ得るが、これらに限定されない。基板302は、数十マイクロン~数ミリメートルの範囲の厚さ、及び数ミリメートル~1メートルの横方向寸法を有し得る。
【0018】
図示した実施形態では、2つ以上の転写素子304を示しているが、場合によっては、単一の転写素子が使用されてもよいことに留意されたい。例えば、単一の転写素子304は、ロボットアームの端部に配置されるマニピュレータの一部であってもよい。そのような構成では、単一の転写素子304を使用して、ペンチ、真空、磁気などの使用を必要とせずにオブジェクトをピックアップし得る。他の構成では、1つ以上の転写素子をペンチ又は他の保持付属物の端部に配置して、保持されるオブジェクトに過度の圧力を加えることなく把持を支援することができる。他の実施形態と同様に、熱素子は、保持動作中に表面接着力を増大させ、解放動作中に表面接着力を減少させ得る。
【0019】
ステアリルアクリレート(SA)を含む相遷移ポリマーは、接着素子に使用するための双安定電気活性ポリマー(BSEP)として研究されてきた。BSEPポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)未満の剛性ポリマーである。Tgを超えると、破断点伸びが大きく、高い電界強度を示すエラストマーになる。電気的作動は、誘電性エラストマーとして機能するゴム状BSEPを用いてTgを超えて実行され得る。ポリマーをTg未満に冷却すると、変形が固定される。ポリマーがTgを超えて再加熱されると、形状の変化は元に戻り得る。
【0020】
ステアリルアクリレート(オクタデシルアクリレート、SA)系ポリマーは、ステアリル部分の結晶状態と融解状態との間の顕著な相遷移により、形状記憶ポリマーとして研究されてきた。ステアリル部分の結晶性凝集体の急激かつ可逆的な相遷移により、温度サイクル中のポリマーの剛性状態とゴム状態との間で急速なシフトが生じる。SAの遷移は、10℃未満の狭い相変化温度範囲にあり、通常50℃未満である。したがって、SAは、剛性からゴム状への顕著な遷移を実現するための理想的な構成要素である。この材料の剛性からゴム状への顕著な遷移はまた、非粘着性から粘着性への顕著な表面遷移に対応することも判明した。この特性を検証するために、いくつかの予備実験が行われてきた。
【0021】
1つの実験では、パイレックス(登録商標)製のフラスコ底部を、パイレックス(登録商標)製の皿内のSAポリマーに室温で押し付けた。室温では、ポリマーの表面には全く粘着性が無く、パイレックス(登録商標)製の皿をピックアップすることができなかった。ポリマーの温度が~65℃に上昇すると、表面は強い粘着性を示し、その結果、パイレックス(登録商標)製の皿がフラスコによってピックアップされ得る。実験は繰り返し可能であり、接着の切替えが可逆的であることが判明した。粘着性はまた、異なる温度下で試験され、図10のグラフに示されるように、粘着性は非常に顕著になることが判明した。この特性は、マイクロ粒子アセンブリ用のピックアンドプレースマシン、インク及び色調転写用の転写印刷システム、又はマイクロLEDディスプレイ組み立て用などの、マイクロチップアセンブリ用のマイクロアセンブラツールで使用され得る。室温での粘着性の顕著な遷移により、システムは、接着切替え用にポリマーを加熱/冷却するために使用されるエネルギーを最小限に抑えることができる。
【0022】
接着素子306は、ステアリルアクリレート(オクタデシルアクリレート、SA)系ポリマー、ステアリルアクリレート及びウレタンジアクリレートコポリマー、又は他の種類のポリマーを含むがこれらに限定されない材料から作製されてもよい。接着素子306は、好ましくは、剛性からゴム状への顕著な遷移を有し、それゆえに接着は、温度変化によって容易に調節され得る。熱素子308は、熱電加熱/冷却素子、抵抗加熱器、ダイオード加熱器、誘導加熱素子、光学加熱素子などであってもよい。熱素子308は、薄膜抵抗器、ダイオード構造物、及び/又はカーボンブラック、カーボンナノチューブ、工学的ナノ粒子などの高光学エネルギー吸収効率材料を含んでもよい。断熱体309は、ポリイミド、PDMS、パリレン、ガラス、酸化ケイ素、Al及びSixNy、並びにこれらの組み合わせなどの材料から作製されてもよい。
【0023】
一実施形態では、転写基板302は、能動電子構成要素アレイを含み、熱素子308はグリッド内でそれらと相互接続されてもよい。これは、図4及び図5に概略的に示されている。図4に示されるようなダイオード又は図5に示すトランジスタによって、加熱素子の2Dアレイ(これらの実施例では抵抗器)を制御することができる。図4に示す実施形態では、加熱素子R1~R9は、ダイオードD1~D9のマトリックスによって制御される。これは、加熱素子をコントローラチップに接続するために必要とされる電線の数を低減する受動切替えマトリックスと称され得る。
【0024】
この場合、加熱素子はロウごとにアドレス指定される。例えば、R1は0Vにバイアスされ得、一方、R2及びR3は5Vにバイアスされる。C1、C2及びC3バイアス電圧は、加熱素子R1、R2又はR3がオンにされるか(カラムが5Vにバイアスされる)か、又はオフ(カラム線が0Vにバイアスされる)を判定する。ダイオードが電流を遮断するので、他のヒータは全てオフである。このプロセスは、選択されたロウの残りの全てのロウが0Vにバイアスされ、他の全てのロウが5Vにバイアスされるまで繰り返される。加熱素子の熱時定数は、2Dヒータ走査の「フレームレート」よりも長くなるように設計され、各アドレス指定可能な転写ごとに準一定温度が維持されるようにする。
【0025】
図5の概略図は、ヒータ素子がダイオードの代わりにトランジスタによって制御される別の回路を示し、これは「アクティブマトリックス切替え」と称され得る。トランジスタを使用する利点は、より大きな電圧範囲及びより良好な絶縁が達成され得ることである。この場合、選択されない全てのロウは、トランジスタをオフにするために、例えば-5Vにバイアスされる。ロウが選択されると、ロウ線は、トランジスタをオンにするために、例えば20Vにバイアスされる。カラム線を特定の電圧にバイアスすることにより、選択されたロウの対応する加熱素子を所望の温度まで加熱することが可能になる。図4の実施形態と同様に、他のロウの残りの部分についても、このプロセスが繰り返される。
【0026】
図6において、側面図は、別の例示的な実施形態による転写基板602を示す。図3の実施形態と同様に、転写基板602は、温度によって変化する表面接着力を有する接着素子606を各々含む2つ以上の転写素子604を有する。転写素子604の各々はまた、入力に応じて、局所接着素子606(例えば、熱素子608付近の素子の一部)の温度を変化させるように動作可能な熱素子608を含む。この例では、接着素子604は、2つ以上の転写素子604、この場合、図示された素子604の全てを覆う連続層の一部である。本明細書に記載される実施形態のいずれかは、図6に示されるものと同様の複数の素子を覆う単一層で形成された接着素子を使用し得る。
【0027】
また、この実施形態は、転写素子604と基板602との間の断熱体609の使用を示しているが、このような断熱体609は任意であってもよいことに留意されたい。また、破線で示されるように、熱素子608及び断熱体609の一方又は両方は、2つ以上の転写素子604を覆う単一層として実装され得る。このような実施形態では、個々の信号線(例えば、図3の線310及び/又は図7の導波路1112)は、個々の転写素子608のサイズ及び場所を画定する領域内で局所的な温度変化が誘発されるように、熱素子層608に取り付けら得る。
【0028】
図7において、側面図は、別の例示的な実施形態による転写基板1102を示す。図3の実施形態と同様に、転写基板1102は、温度によって変化する表面接着力を有する接着素子1106を各々含む2つ以上の転写素子1104を有する。転写素子1104の各々はまた、入力に応じて接着素子1106の温度を変化させるように動作可能な熱素子1108を含む。この例では、熱素子1108は、基板1102内の導波路1112を介して送達されるレーザ光1110によって活性化される。光は、1つ以上のレーザ1116から提供され、加熱されるべきではない転写素子から光を吸収又は出力先を変更する光切替え素子1114を介して、転写素子1104を選択的に活性化し得る。複数のレーザ1116は、1つの転写素子当たりの数で使用されてもよく、それらは基板1102内に一体化されてもよく、又は外部に搭載され得る。光スイッチ1114は、電気的に活性化されてもよく、コントローラへの線の数を減らすために、図4及び図5に示されるダイオード及びトランジスタと同様のマトリックスに配設され得る。
【0029】
図8において、側面図は、別の例示的な実施形態による転写基板1202を示す。図3の実施形態と同様に、転写基板1202は、温度によって変化する表面接着力を有する接着素子1206を各々含む2つ以上の転写素子1204を有する。転写素子1204の各々はまた、入力に応じて接着素子1206の温度を変化させるように動作可能な熱素子1208を含む。転写素子1204の各々はまた、熱素子1208を転写基板1202から断熱する断熱体1209を含む。
【0030】
この実施形態では、転写基板1202は湾曲しており、標的基板1216に対して回転するローラ1213に搭載される。ローラ1213及び標的基板はまた、転写素子1204(例えば、単一素子1204)のサブセットのみが転写基板1216に一度で接触するように、互いに対して直線的に(この図では水平に)移動する。転写素子1204のサブセットは、オブジェクト1214の一部が標的基板1216に選択的に転写されるように、オブジェクト1214を保持又は解放するために選択的に活性化される。なお、左側の網掛けオブジェクト1214は、標的基板1216に転写されなかったことに留意されたい。ローラ1213及び基板1202の別の部分が、ドナー基板(図示せず)と接触し得るので、オブジェクトの転写は、オブジェクト1214がドナーからピックアップされ、標的1216へ転写されるローリング転写プロセスであり得ることに留意されたい。ローラ1213及び基板1202は、ドナー基板及び標的基板と同時に、又は異なる時に接触してもよい。そのような場合、第2の転写基板(図示せず)は、不要なオブジェクト1214を堆積するために使用され得、この第2の転写基板はまた、湾曲した基板を使用し得る。本明細書に記載される他の実施形態のいずれも、図8に示すように、湾曲した転写基板及びローリング転写プロセスを使用し得る。
【0031】
図9A及び図9Bは、例示的な実施形態による方法を示すブロック図である。ブロック1300では、転写素子のアレイ1304~1307を有する転写基板1302が示される。転写基板1302は、転写素子1304~1307のアレイがそれぞれのオブジェクト1309~1312の上に位置合わせされるように、ドナー基板1308上に配置されて示される。網掛けによって示されるように、オブジェクト1309、1311は、オブジェクト1309~1312のサブセットを形成し、ドナー基板1308から転写されることが意図される。矢印によって示されるように、転写基板1302は、ドナー基板1308に向かって移動させられるか、又はその逆である。
【0032】
転写素子1304~1307とオブジェクト1309~1312の入力との間で接触が行われた後のブロック1316で見られるように、転写素子1304のサブセット1304、1306に適用される。入力は、サブセット内の各転写素子1304、1306の接着素子が第1の表面接着力を達成するように、転写素子1304、1306のサブセット内の各転写素子が第1の温度を達成させる。この入力は、転写素子1304、1306のサブセットが、オブジェクト1309のそれぞれのサブセットに接触する前又は後に適用され得る。オブジェクト1309のサブセットは、第1の表面接着力において、転写素子1304、1306のサブセットに接着する。
【0033】
転写素子1304、1306のサブセット内に無い他の転写素子1305、1307は、第2の温度にあり、それにより、第2の表面接着力を有する転写素子1305、1307が生じることに留意されたい。この第2の表面接着力では、他の転写素子1305、1307は、それぞれのオブジェクト1310、1312に接着しない。ブロック1300に示される前の工程では、転写素子1304~1307は、第1及び第2の温度を含む任意の温度であってもよいことに留意されたい。いくつかの実施形態では、ブロック1316に示されるように、第2の温度で全ての素子1304~1307を有するか、又は第1及び第2の温度に設定された素子1304~1307の全てを有することが望ましい場合がある。
【0034】
ブロック1318で見られるように、転写基板1302は、ドナー基板(矢印で示される)から離れて移動させられ、オブジェクト1309、1311のサブセットをドナー基板1308から分離させ、他方のオブジェクト1310、1312はドナー基板上に留められる。図9Bのブロック1320に見られるように、転写基板1302は、標的基板1322と位置合わせされ、標的基板1322に向かって移動させられる。ブロック1324で見られるように、転写基板1302上のオブジェクト1309、1311のサブセットは、標的基板1322に接触する。
【0035】
所望により、ブロック1324、1326の一方又は両方において、第2の入力が転写素子1304、1306のサブセットに適用され得、サブセット内の各転写素子1304、1306の接着素子が第2の、より弱い表面接着力を達成するように、サブセット内の各転写素子に、第2の温度を達成させる。第2の表面接着力は、オブジェクト1309、1311のサブセットが標的基板1322に容易に転写することを可能にする。第2の温度が第1の温度よりも冷たい場合、転写基板1302の一部又は全ては、冷却された周囲空気、熱電冷却器、蒸気圧縮冷却器、及びクーラントとしてガス/液体を使用する強制対流冷却素子であってもよい。オブジェクト1309、1311が第1の表面接着力で解放され得るように、オブジェクト1309、1311のサブセットと標的基板1322との間に固有又は能動的に生成された引力が存在してもよく、それによって、転写素子1304、1306の温度を顕著に変化させる必要性を否定する(ただし、可能な場合には温度を変化させることは有益であり得る)。例えば、接着力、電気力、磁力、及び真空生成力を含むがこれらに限定されない反力が、標的基板1322から印加されてもよい。
【0036】
別途記載のない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される特徴サイズ、量、及び物理的特性を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対に指示されない限り、前述の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本明細書に開示される教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に依存して変化し得る近似値である。端点による数値範囲の使用は、その範囲内の全ての数(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4及び5を含む)、及びその範囲内の任意の範囲を含む。
【0037】
上記の様々な実施形態は、特定の結果を提供するために相互作用する回路、ファームウェア、及び/又はソフトウェアモジュールを使用して実装され得る。当業者は、当該技術分野において一般的に公知である知識を使用して、モジュール式レベル又は全体でのいずれかで、こうして記載された機能を容易に実装することができる。例えば、本明細書に例解されるフローチャート及び制御図は、プロセッサにより実行されるためのコンピュータ可読命令/コードを作成するために使用されてもよい。こうした命令は、非一時的コンピュータ可読媒体上に格納され、当該技術分野において公知であるように実行するためにプロセッサに転送されてもよい。上記の構造及び手順は、上述の機能を提供するために使用され得る実施形態の代表的な例に過ぎない。
【0038】
例示的な実施形態の前述の説明は、例示及び説明の目的で提示された。網羅的であること、又は実施形態に開示された形態に限定することを意図するものではない。上記の教示に照らして、多くの修正及び変形が可能である。開示される実施形態の任意の又は全ての特徴は、個別に、又は任意の組み合わせで適用することができ、限定することを意図するものではなく、純粋に例示的であることを意図するものある。本発明の範囲は、この発明を実施するための形態に限定されるものではなく、本明細書に添付の特許請求の範囲によって決定されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10