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特許7441741樹脂複合体、及び、樹脂複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】樹脂複合体、及び、樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
B32B5/24 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020106188
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001406
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】平塚 翔一
(72)【発明者】
【氏名】福永 洋一郎
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208418(JP,A)
【文献】特開2015-226997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 65/02
C08J 9/00
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と繊維とを含むシート状の繊維強化樹脂材で構成された繊維強化樹脂層と、樹脂発泡体で構成された芯材とを備え、該芯材が前記繊維強化樹脂層で覆われている樹脂複合体を製造すべく前記樹脂発泡体に前記繊維強化樹脂材を積層して前記樹脂発泡体と前記繊維強化樹脂材とを一体化させる複合化工程が実施される樹脂複合体の製造方法であって、
前記芯材を構成する前記樹脂発泡体として、互いに接着されている複数の樹脂発泡粒子で構成されている板状のビーズ発泡成形体を用い、
前記複合化工程では、該樹脂発泡体の厚さ方向に前記繊維強化樹脂材が積層され、該樹脂発泡体に対する前記繊維強化樹脂材の積層方向を、前記芯材の第1方向とした際に、
前記樹脂発泡体と前記繊維強化樹脂材とが加熱された状態で前記第1方向に加圧されて前記一体化が実施され、
該複合化工程では、
前記樹脂発泡粒子の中心部に位置する気泡の長径の長さと、該長径に直交する短径の長さとを測定し、該測定を前記第1方向における中央部に位置する複数の前記樹脂発泡粒子に対して実施した際に、40%以上の気泡が下記式(1)を満たし、
前記繊維強化樹脂材に含まれている前記樹脂がガラス転移温度を有し、
該ガラス転移温度をTg(℃)とした際に前記複合化工程では前記樹脂発泡体と前記繊維強化樹脂材との加熱温度を(Tg-50)℃以上、(Tg+60)℃以下とし、且つ、
前記第1方向での前記複合化工程後の前記芯材の厚さをt(mm)、前記複合化工程前の前記樹脂発泡体の厚さをt0(mm)とした際に前記複合化工程では、下記式(2)を満たす樹脂複合体を製造する樹脂複合体の製造方法。
0.5 ≦ (B/A) < 1.5 ・・・(1)
(式中の「A」は、前記長径と前記短径との内、前記第1方向に対する角度が大きい方の径の長さであり、「B」は、前記第1方向に対する角度が小さい方の径の長さである。)
1 ≦ ((t0-t)/t0)×100 ≦ 5 ・・・(2)
【請求項2】
前記複合化工程では、製造される前記樹脂複合体の少なくとも一部の表面形状に対応した成形面を有する成形部材が用いられ、
該複合化工程では、
前記繊維強化樹脂材を前記成形面に密着させる第1工程と、前記樹脂発泡体と前記繊維強化樹脂材とを前記一体化をさせる第2工程と、が実施され、
該第2工程では、前記成形面に密着している前記繊維強化樹脂材と前記樹脂発泡体とが前記一体化される請求項記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
作製する前記樹脂複合体の形状に対応した成形空間が閉型状態において内部に形成され、該成形空間を画定する前記成形面を備えた成形型を前記成形部材として用いて前記第2工程を実施し、且つ、
前記繊維強化樹脂材を前記樹脂発泡体の表面に仮接着して予備成形体を作製し、該予備成形体を前記成形空間に収容して前記第2工程を実施し、
前記成形空間に前記予備成形体を収容した状態の前記成形型を前記第2工程の前に減圧条件下に置くことで前記第1工程を実施し、
該第1工程では、前記予備成形体を構成している前記繊維強化樹脂材と前記成形面との間の圧力を大気圧以下にして該繊維強化樹脂材と該成形面とを密着させる請求項記載の樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂複合体と樹脂複合体の製造方法とに関し、より詳しくは、樹脂発泡体で構成された芯材と、樹脂と繊維とを含むシート状の繊維強化樹脂材で構成された繊維強化樹脂層とを備えた樹脂複合体と、該樹脂複合体を製造するための製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂と繊維とを含む繊維強化樹脂材で形成された成形品はFRPなどと称されて各種の分野で用いられている。
近年、樹脂発泡体で構成された芯材と、繊維強化樹脂材で構成された繊維強化樹脂層とを備え、前記芯材が前記繊維強化樹脂層で覆われている樹脂複合体が、強度と軽量性との両立が求められる用途などにおいて広く利用されている。
【0003】
この種の樹脂複合体の製造方法としては、樹脂発泡体の表面に繊維強化樹脂材を仮接着して予備成形体を作製し、該予備成形体を熱プレスする方法(下記特許文献1参照)が知られている。
この種の製造方法では、例えば、雄型部材と雌型部材との2つの成形部材を備えた成形型を使って熱プレスが実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018- 53037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような方法で作製される樹脂複合体では、加熱された際に歪が生じる場合がある。
歪による形状変化はわずかであるが、寸法安定性の観点から、樹脂複合体には加熱による寸法変化を抑制することが求められている。
しかしながら、樹脂複合体の加熱による寸法変化を抑制する手法は十分に確立されていない。
そこで、本発明は、加熱寸法変化率の低い樹脂複合体とその製造方法とを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、
樹脂と繊維とを含むシート状の繊維強化樹脂材で構成された繊維強化樹脂層と、樹脂発泡体で構成された芯材とを備え、該芯材に前記繊維強化樹脂層が積層されており、
前記樹脂発泡体がビーズ発泡成形体で互いに接着している複数の樹脂発泡粒子で構成されている樹脂複合体であって、
前記芯材は、
前記繊維強化樹脂材の積層方向である第1方向を有し、
前記樹脂発泡粒子の中心部に位置する気泡の長径の長さと、該長径に直交する短径の長さとを測定し、該測定を前記第1方向における中央部に位置する複数の前記樹脂発泡粒子に対して実施した際に、40%以上の気泡が下記式(1)を満たす樹脂複合体、を提供する。
0.5 ≦ (B/A) < 1.5 ・・・(1)
(式中の「A」は、前記長径と前記短径との内、前記第1方向に対する角度が大きい方の径の長さであり、「B」は、前記第1方向に対する角度が小さい方の径の長さである。)
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、また、
樹脂と繊維とを含むシート状の繊維強化樹脂材で構成された繊維強化樹脂層と、樹脂発泡体で構成された芯材とを備え、該芯材が前記繊維強化樹脂層で覆われている樹脂複合体を製造すべく前記樹脂発泡体に前記繊維強化樹脂材を積層して前記樹脂発泡体と前記繊維強化樹脂材とを一体化させる複合化工程が実施される樹脂複合体の製造方法であって、
前記芯材を構成する前記樹脂発泡体として、互いに接着されている複数の樹脂発泡粒子で構成されているビーズ発泡成形体を用い、
該樹脂発泡体に対する前記繊維強化樹脂材の積層方向を、前記芯材の第1方向とした際に、
前記複合化工程では、前記樹脂発泡体と前記繊維強化樹脂材とが加熱された状態で前記第1方向に加圧されて前記一体化が実施され、
該複合化工程では、
前記樹脂発泡粒子の中心部に位置する気泡の長径の長さと、該長径に直交する短径の長さとを測定し、該測定を前記第1方向における中央部に位置する複数の前記樹脂発泡粒子に対して実施した際に、40%以上の気泡が下記式(1)を満たす樹脂複合体を製造する樹脂複合体の製造方法、を提供する。
0.5 ≦ (B/A) < 1.5 ・・・(1)
(式中の「A」は、前記長径と前記短径との内、前記第1方向に対する角度が大きい方の径の長さであり、「B」は、前記第1方向に対する角度が小さい方の径の長さである。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば加熱時における歪の発生が抑制され、寸法安定性に優れた樹脂複合体が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一形態の樹脂複合体を示した概略斜視図。
図2】樹脂複合体の概略断面図(図1のII-II線矢視断面図)。
図3】樹脂複合体の芯材を構成するために用いられる樹脂発泡体を示した概略斜視図。
図4】樹脂複合体の繊維強化樹脂層(第1繊維強化樹脂層)を構成するために用いられる繊維強化樹脂材(第1繊維強化樹脂材)を示した概略平面図。
図5】樹脂複合体の繊維強化樹脂層(第2繊維強化樹脂層)を構成するために用いられる繊維強化樹脂材(第2繊維強化樹脂材)を示した概略平面図。
図6】樹脂発泡粒子の気泡の長径や短径を測定する方法を示した説明図。
図7】樹脂発泡粒子の気泡の長径や短径を測定する方法を示した説明図。
図8】樹脂複合体の製造に用いられる成形型を示した一部切欠き斜視断面図。
図9】成形部材を用いた第1工程の一例を示した概略図。
図10】成形部材を用いた第1工程の他の例を示した概略図。
図11】樹脂複合体を製造する方法を示した概略図。
図12】予備成形体を作製する前工程を示した概略図。
図13】樹脂複合体を製造する第2の方法を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について図を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る樹脂複合体の一態様を例示した概略斜視図である。
【0011】
図1とその断面図(図1のII-II線矢視断面図)である図2に示すように、本実施形態の樹脂複合体Aは、逆四角錐台(逆切頭四角錐)形状を有する本体部Axと、該本体部Axの上部の外周縁に沿って立設された鍔部Ayとを備えている。
【0012】
前記本体部Axは、平面視における形状が矩形となって水平方向に広がる底面Ax1と、平面視における形状が該底面Ax1よりも一回り大きな矩形となって前記底面Ax1の上方において水平方向に広がる天面Ax2と、前記底面Ax1の4辺と前記天面Ax2の4辺とをそれぞれ結ぶ4つの側面Ax3とを備えている。
【0013】
前記鍔部Ayは、前記本体部Axの4つの前記側面Ax3をそれぞれ前記天面Ax2よりも上方に一定高さで延設した状態となるように形成されている。
前記鍔部Ayが上方に向けて外広がりとなるように形成され、該鍔部Ayと前記天面Ax2とで画定される空間が逆四角錐台形状となっているため本実施形態の樹脂複合体Aは、逆四角錐台形状に凹入した凹入部Aaが上面側に形成されている。
【0014】
本実施形態の樹脂複合体Aは、芯材A1と、該芯材A1の表面に積層された繊維強化樹脂層A2とを有している。
より詳しくは、本実施形態の樹脂複合体Aは、図3に示すような樹脂発泡体A1’で構成された芯材A1と、樹脂と繊維とを含むシート状の繊維強化樹脂材A2’(図4図5参照)で構成された繊維強化樹脂層A2とを備えている。
【0015】
本実施形態の樹脂複合体Aは、本体部Axよりも一回り小さな逆四角錐台形状を有する芯材A1と、該芯材A1に上側から積層されている第1繊維強化樹脂層A21と、前記芯材A1に下側から積層されている第2繊維強化樹脂層A22とを備えている。
即ち、図2に示した樹脂複合体Aでは、前記芯材A1に対する繊維強化樹脂材A2’の積層方向が図の上下方向となっている。
【0016】
前記第1繊維強化樹脂層A21は、前記本体部Axの天面Ax2と前記鍔部Ayの内面Ay1とを構成している。
前記第2繊維強化樹脂層A22は、前記本体部Axの底面Ax1と側面Ax3と前記鍔部Ayの外面Ay2とを構成している。
即ち、本実施形態の前記鍔部Ayは、前記芯材A1が設けられておらず、前記第1繊維強化樹脂層A21と前記第2繊維強化樹脂層A22とが直接積層されている。
【0017】
前記のように前記芯材A1は、繊維強化樹脂材A2’の積層方向である第1方向D1を有している。
該芯材A1は、該第1方向に直交する第2方向D2をさらに有している。
本実施形態の前記芯材A1を構成する樹脂発泡体A1’は、ビーズ発泡成形体である。
ビーズ発泡成形体は、成形後に二次加工(例えば、切削加工やプレス成形加工など)が施されたものであってもよい。
【0018】
本実施形態における前記樹脂発泡体A1’は、複数の樹脂発泡粒子A11どうしが融着されているビーズ発泡成形体であるため高い発泡倍率でありながら優れた強度を発揮する。
【0019】
前記樹脂発泡体A1’を構成する樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂などのポリエステル樹脂;GPPS、HIPS、ポリαメチルスチレン樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、COP、COCなどのオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。
前記樹脂発泡体A1’を構成する樹脂は、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、ポリスルホン樹脂(PSU)などのエンジニアリングプラスチックであってもよい。
前記樹脂発泡体A1’は、単一の樹脂で構成されても2種以上の樹脂を含んでいてもよい。
【0020】
前記樹脂発泡体A1’は、高い強度を有する点において、ポリエチレンテレフタレート樹脂製であるか、又は、ポリカーボネート樹脂製であることが好ましい。
即ち、本実施形態の樹脂発泡体A1’は、ポリエチレンテレフタレート樹脂製のビーズ発泡成形体であるか、又は、ポリカーボネート樹脂製のビーズ発泡成形体であるかであることが特に好ましい。
【0021】
前記樹脂発泡体A1’としては、例えば、発泡倍率が10倍以上100倍以下のものを用いることができる。
前記樹脂発泡体A1’の発泡倍率は、20倍以上であることが好ましく、30倍以上であることがより好ましく、40倍以上であることがさらに好ましい。
前記繊維強化樹脂層A2が積層された後の前記芯材A1もこのような発泡倍率を有していることが好ましい。
即ち、前記芯材A1の発泡倍率は、10倍以上100倍以下とすることができ、20倍以上であることが好ましく、30倍以上であることがより好ましく、40倍以上であることがさらに好ましい。
尚、発泡倍率とは、前記樹脂発泡体A1’を構成する樹脂の非発泡状態での密度を前記樹脂発泡体A1’や前記芯材A1の見掛け密度で除して求めることができる。
【0022】
樹脂の非発泡状態での密度は、JIS K7112:1999「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に記載のA法(水中置換法)によって求めることができる。
【0023】
樹脂発泡体A1’や前記芯材A1の見掛け密度は、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方」記載の方法で測定できる。
より詳しくは、前記樹脂発泡体A1’や前記芯材A1から、100cm以上の試験片を材料の元のセル構造を変えない様に切断し、その質量を測定した上で、見掛け密度は、次式により算出される。
尚、試験片としては、原則的には、作製した後72時間以上経過した樹脂発泡体や樹脂複合体から切り出し、温度23±2℃、湿度50±5%の雰囲気下に16時間以上放置したものを用いる。

見掛け密度(kg/m)=試験片質量(g)/試験片体積(mm)×10
【0024】
前記芯材の硬度は、前記第1方向D1での中央部A1cよりも前記繊維強化樹脂層との境界部A1eの方が高くなっている。
本実施形態の樹脂複合体Aは、境界部A1eの硬度が高いことで優れた強度が発揮され得る。
また、境界部A1eの硬度が高いことで中央部A1cの発泡倍率を高倍率化しても所定の強度が発揮されることから本実施形態の樹脂複合体Aは、軽量性を発揮する上においても有利である。
【0025】
芯材A1を構成している前記樹脂発泡粒子A11の内、前記中央部A1cに位置する複数の樹脂発泡粒子(以下「中央部粒子A11c」ともいう)は、気泡形状に所定の傾向が備わっている。
本実施形態では個々の中央部粒子A11cの中心部に位置する気泡(以下「中心部気泡」ともいう)の全体数に対して所定の形状を有している気泡が一定以上の個数割合で含まれている。
具体的には、本実施形態では、前記中心部気泡の長径の長さと、該長径に直交する短径の長さとを測定し、該測定を前記中央部A1cに位置する複数の前記中央部粒子A11cに対して実施した際に、測定した気泡の40%以上が下記式(1)を満たしている。
0.5 ≦ (B/A) < 1.5 ・・・(1)
尚、式(1)中の「A」は、前記長径と前記短径との内、前記第1方向に対する角度が大きい方の径の長さであり、「B」は、前記第1方向に対する角度が小さい方の径の長さである。
【0026】
式(1)における「B/A」は、気泡が第1方向D1やそれに近い方向にどの程度伸びた状態になっているかを表す指標となっている。
本明細書においては、この「B/A」の値を「伸長率」などと称することがある。
【0027】
本実施形態で前記伸長率を求めるための前記長径や前記短径は、例えば、前記第1方向D1に平行する平面で前記芯材A1を概ね2等分するように切断した断面で中心部気泡の形状を観察して設定することができる。
前記中央部粒子A11cの気泡形状は、芯材A1の断面を走査型電子顕微鏡で撮影し、得られた画像を解析して求めることができる。
このときの気泡形状の測定では、断面積が小さな中央部粒子A11cは、当該中央部粒子A11cの端で切断が行われている可能性が高いため、測定対象から除外してもよい。
【0028】
図6図7を参照しつつ伸長率の求め方についてより具体的に説明する。
図6は、芯材A1の中央部A1cでの複数の樹脂発泡粒子A11(中央部粒子A11c)の様子を示したもので、図2に示した断面の一部領域CS6を拡大したものである。
そして、この図6は、複数の中央部粒子A11cの内の1つの中央部粒子A11cでの測定対象とする気泡の設定方法を示したものである。
この図に示したように、伸長率の測定にあたっては、まず、中央部粒子A11cの第2方向D2における寸法Wを求め、該寸法Wの半分の位置を通るように中央線CLを設定する。
該中央線CLは、第1方向D1と平行となるように設定する。
そして、この中央線CLが中央部粒子A11cの外縁と交差する2点間の距離Hを求め、この2点間を結ぶ線分から、上下それぞれ前記距離Hの四分の一(H/4)の区間を除いたH/2の区間を測定区間とし、該測定区間で前記中央線に交わる気泡を伸長率の測定対象に設定する。
【0029】
図7は、測定対象となった中心部気泡ABcについて伸長率を求める様子を示したもので、当該図面を参照しつつ伸長率の測定方法を説明する。
まず、本実施形態での前記長径は、中心部気泡ABcの輪郭線上の異なる2点を結ぶ直線の内、最も長さが長くなる直線として設定される。
前記短径は、該長径に直交する方向で気泡の輪郭線上の2点を結ぶ直線の内、最も長さが長くなる直線として設定される。
そして、長径の長さdLと、長径が第1方向D1に対してなす角度θLとを測定する。
また、短径についても長さdSと、第1方向D1に対してなす角度θSとを測定する。
【0030】
前記長径と前記短径とのそれぞれが前記第1方向に対してなす角度には、互いに補角の関係となる鋭角と鈍角とが存在するが、本実施形態では前記長径と前記短径との角度の大小は鋭角どうしを比較することにより決定される。
【0031】
本実施形態においては、前記長径と前記短径とは直交している。
従って、前記長径と前記短径との内の一方は、前記第1方向D1に対して0°以上45°以下の角度となり、他方は45°以上90°以下の角度となる。
前記長径と前記短径とが何れも第1方向D1に対して45°となる気泡が存在した場合、式(1)を満たす気泡の割合を算出するための気泡にこの気泡は加えない。
【0032】
長径の角度θLが短径の角度θSよりも小さい場合、長径の長さdLを分子に設定し、短径の長さdSを分母に設定して伸長率を測定する。
即ち、「θL<θS」となる場合は、次の式(1a)により伸長率を求める。
伸長率=B/A=dL/dS ・・・(1a)
一方で長径の角度θLが短径の角度θSよりも大きい場合、長径の長さdLを分母に設定し、短径の長さdSを分子に設定して伸長率を測定する。
即ち、「θL>θS」となる場合は、次の式(1b)により伸長率を求める。
伸長率=B/A=dS/dL ・・・(1b)
【0033】
伸長率が総じて低い場合、樹脂複合体Aが作製される過程において芯材A1に圧縮が加えられていると判断できる。
そのような樹脂複合体では、加熱されることで圧縮前の状態に復帰する復元力が芯材において発生し易く、良好な寸法安定性が発揮されない。
一方で、本実施形態の樹脂複合体Aは、加熱時にも高い寸法安定性を発揮することができる。
【0034】
高い寸法安定性を発揮する上で、中央部粒子A11cの中心部気泡が式(1)を満たす割合は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
中心部気泡が式(1)を満たす割合は、通常、90%以下である。
【0035】
長径と短径とによって伸長率を測定する気泡数は、前記式(1)を満たす割合(個数割合)を正確に求める上において、例えば、30個以上とすることができる。
該気泡数は、40個以上であってもよく、50個以上であってもよい。
該気泡数は、通常、100個以下とされる。
【0036】
前記中心部気泡は、伸長率が0.5~1.0のもの、1.0~1.5のもの、及び、1.5以上のものを適度な割合で含むことが好ましい。
前記中心部気泡は、40%以上が0.5以上1未満の伸長率を有していることが好ましい。
即ち、前記芯材A1は、前記中央部粒子A11cの中心部気泡の形状を測定したときに40%以上の中心部気泡が下記式(11)を満たしていることが好ましい。
0.5 ≦ (B/A) < 1 ・・・(11)
式(11)を満たす中心部気泡の割合は、45%以上であってもよく、50%以上であってもよい。
式(11)を満たす中心部気泡の割合は、例えば、75%以下とすることができる。
【0037】
前記中心部気泡は、その10%以上が1以上1.5未満の伸長率を有していることが好ましい。
即ち、前記芯材A1は、前記中央部粒子A11cの中心部気泡の形状を測定したときに10%以上の中心部気泡が下記式(12)を満たしていることが好ましい。
1 ≦ (B/A) < 1.5 ・・・(12)
式(12)を満たす中心部気泡の割合は、15%以上であってもよい。
式(12)を満たす中心部気泡の割合は、例えば、35%以下とすることができる。
【0038】
前記中心部気泡には、下記式(13)を満たすものが含まれていてもよい。
1.5 ≦ (B/A) ・・・(13)
式(13)を満たす中心部気泡の割合は、5%以上であってもよく、7%以上であってもよい。
式(13)を満たす中心部気泡の割合は、例えば、25%以下とすることができる。
【0039】
前記芯材A1の気泡状態を上記のように調整するには、前記第1繊維強化樹脂層A21と前記第2繊維強化樹脂層A22とを形成させる前の樹脂発泡体A1’の気泡形状を前記芯材A1と同じか前記芯材A1よりも前記伸長率が高い状態にしておけばよい。
また、前記第1繊維強化樹脂層A21と前記第2繊維強化樹脂層A22とを形成させる際に樹脂発泡体A1’が厚さ方向に圧縮されると伸長率を低下させる要因となり得ることから、これらを積層する際に加わる圧力を一定以下にすることが好ましい。
【0040】
前記芯材A1に積層される前記第1繊維強化樹脂層A21と前記第2繊維強化樹脂層A22とは、材質や厚みが共通していても異なっていてもよい。
前記第1繊維強化樹脂材A21’と前記第2繊維強化樹脂材A22’とのそれぞれは、単層構造であっても積層構造を有していてもよい。
【0041】
前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’は、前記繊維が短繊維の状態で含まれていても連続繊維の状態で含まれていてもよい。
前記繊維は、紡績糸となって前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’に含まれていてもフィラメント糸となって前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’に含まれていてもよい。
前記繊維は、前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’において不織布や織布を構成していてもよい。
本実施形態における前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’は、前記繊維で構成された不織布や織布などの基材シートを有していることが好ましく、前記樹脂が該基材シートに含浸されていることが好ましい。
【0042】
前記基材シートが、織物である場合、織り方としては、例えば、平織、綾織、朱子織などのいずれでもよい。
前記基材シートは、連続繊維が一方向にのみ引き揃えられたものであってもよい。
即ち、前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’は、UD(Uni Direction)などと称されるものであってもよい。
【0043】
本実施形態の前記繊維は、ガラス繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、ステンレス繊維、スチール繊維などの無機繊維;アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維;ボロン繊維などが挙げられる。
該繊維は、一種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
本実施形態の前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’は、炭素繊維で構成された1又は2以上の基材シートと、ガラス繊維で構成された1又は2以上の基材シートとが積層された状態のものであってもよい。
【0044】
前記繊維とともに前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂とを予備重合した樹脂などが挙げられる。
【0046】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、オレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0047】
前記繊維強化樹脂材に含まれる前記樹脂は、所定のガラス転移温度(Tg(℃))を有していることが好ましい。
樹脂のガラス転移温度は、樹脂複合体Aに高い耐熱性を発揮させる上において、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましい。
樹脂のガラス転移温度は、樹脂複合体Aを製造容易にする上において、140℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましい。
【0048】
本実施形態における「ガラス転移温度」とは、JIS K7121:1987、JIS K7121:2012「プラスチックの転移温度測定方法」に記載されている方法で測定される「中間点ガラス転移温度」を意味する。
尚、測定でのサンプリング方法・温度条件に関しては以下の通りとする。
(サンプリング方法・温度条件)
試料は示差走査熱量分析用のアルミニウム製測定容器の底にすきまのないよう5.5±0.5mg充てんする。
試料が充填されたアルミニウム製容器にアルミニウム製の蓋をして試験体とする。
(株)日立ハイテクサイエンス製「DSC7000X、AS-3」示差走査熱量計に試験体をセットして測定を行う。
測定では、まず、窒素ガス流量20mL/minのもと20℃/minの速度で30℃から200℃まで昇温し、10分間保持後に試験体を速やかに取出し、25±10℃の環境下にて放冷させる。
次いで、放冷後の試験体を20℃/minの速度で30℃から200℃まで昇温し、DSC曲線を得る。
このDSC曲線より、装置付属の解析ソフトを用いて、中間点ガラス転移温度を算出する。
この時に基準物質としてアルミナを用いる。
この中間点ガラス転移温度は前記規格(9.3「ガラス転移温度の求め方」)に従って求める。
【0049】
前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’には、耐熱性や強度に優れる点において熱硬化性樹脂が含まれていることが好ましく、エポキシ樹脂が含まれていることが好ましい。
【0050】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0051】
前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’にエポキシ樹脂を含有させる場合、該エポキシ樹脂とともに硬化剤を含有させることが好ましい。
該硬化剤としては、特に限定されず、例えば、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤などが挙げられる。
該硬化剤は、一種単独で前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’に含まれる必要は無く、二種以上が含まれていてもよい。
【0052】
前記第1繊維強化樹脂材A21’や前記第2繊維強化樹脂材A22’には、上記以外に各種添加剤が含まれていてもよい。
該添加剤としては、例えば、抗菌剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、フィラー、顔料などが挙げられる。
【0053】
次に、樹脂複合体Aの製造方法について説明する。
本実施形態の樹脂複合体Aの製造方法では、前記芯材A1よりも前記第1方向における厚さが僅かに厚い樹脂発泡体A1’を作製する発泡体作製工程と、該発泡体作製工程で作製される樹脂発泡体A1’の表面における凹凸を取り除いて樹脂発泡体A1’の表面を平坦化する表面調整工程と、表面調整工程によって表面状態が整えられた樹脂発泡体A1’と繊維強化樹脂材A2’とを一体化させる複合化工程とが実施される。
【0054】
まず、前記芯材A1の構成材料として用いる前記樹脂発泡体A1’の製造方法(発泡体作製工程)について説明する。
本実施形態の樹脂発泡体A1’は、前記の通りビーズ発泡成形体である。
ビーズ発泡成形体を作製する際には、通常、作製するビーズ発泡成形体に対応した成形空間を有する成形型が用いられる。
ビーズ発泡成形体の成形には、実質的に非発泡な(例えば、発泡倍率1.1倍未満)状態の樹脂粒子に発泡剤を含有させて発泡性樹脂粒子が出発材料として用いられる。
【0055】
ビーズ発泡成形体は、成形型内で発泡性樹脂粒子を発泡させて作製される場合もあるが、多くの場合、前記発泡性樹脂粒子を発泡させて得られる予備発泡粒子を使って作製される。
予備発泡粒子を使ってビーズ発泡成形体を作製する場合、成形空間を型締め状態における容積よりも広くしておいて予備発泡粒子を充填した後に成形型を型締め状態にして成形空間の容積を所定の状態に戻す“クラッキング”という操作が行われることがある。
また、ビーズ発泡成形体を作製する際の成形空間の容積(V)と、予備発泡粒子を充填する際の成形空間の容積(V+ΔV)との差(ΔV)を、本来の成形空間の容積(V)で割った値を百分率で表してクラッキング率(=[100%×ΔV/V])などと称することがある。
【0056】
前記クラッキング率を大きくすると、予備発泡粒子が圧縮された状態でビーズ発泡成形体が作製されることになり、前記芯材A1を式(1)や、式(11)~(13)を満たす状態にし難くなる場合がある。
そのため、前記クラッキング率は、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
前記クラッキング率は、30%以下であってもよく、20%以下であってもよい。
【0057】
一方で前記クラッキング率を0%としてしまうと、予備発泡粒子が成形空間に充填され難くなり、生産効率を低下させることにもなり得る。
そこで、前記クラッキング率は、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましい。
【0058】
発泡体作製工程で得られたビーズ発泡成形体の表面に形成された不要な凹凸は、カッターナイフなどの切断具でビーズ発泡成形体の一部を切除したり、紙やすりやグラインダーなどの研磨具でビーズ発泡成形体の表面を削ったりすることで無くすことができる。
即ち、前記表面調整工程は、発泡体作製工程で得られたビーズ発泡成形体の表面を切削することにより実施することができる。
なお、発泡体作製工程で得られたビーズ発泡成形体の表面に形成された凹凸が実用上問題となり難いものであれば、前記表面調整工程を実施せずに発泡体作製工程に続けて前記複合化工程を実施してもよい。
【0059】
外観美麗な樹脂複合体Aを得ようとした場合、前記複合化工程では、前記樹脂発泡体A1’と繊維強化樹脂材A2’との積層方向に高い圧力を加えたり、高い温度に加熱したりしてこれらを一体化する方が有利となる。
そのため、複合化工程に用いる樹脂発泡体A1’は、複合工程で圧縮されることを見越して、少なくとも第1方向D1における厚さを芯材A1よりも厚くしておく方が好ましい。
【0060】
前記第1方向D1での前記複合化工程後の前記芯材A1の厚さをt(mm)、前記複合化工程前の前記樹脂発泡体A1’の厚さをt0(mm)とし、これらの差(t0-t)を元の樹脂発泡体A1’の厚さ(t0)で割って百分率で表した値(100%×(t0-t)/t0)を複合化工程での「圧縮率」とした場合、該圧縮率が高い方が外観美麗な樹脂複合体Aを得る上で有利となる。
しかしながら、圧縮率の値を高くすると前記芯材A1を式(1)や、式(11)~(13)を満たす状態にし難くなる。
そこで、前記複合化工程では、樹脂複合体Aが圧縮されてしまうような状況を回避しつつ樹脂発泡体A1’と繊維強化樹脂材A2’とを一体化させることが好ましい。
【0061】
上記のような観点から、前記複合化工程では、製造される前記樹脂複合体Aの少なくとも一部の表面形状に対応した成形面を有する成形部材を用い、該複合化工程では、前記繊維強化樹脂材A2’を前記成形面に密着させる第1工程と、前記樹脂発泡体A1’と前記繊維強化樹脂材A2’とを前記一体化をさせる第2工程と、を実施し、該第2工程では、前記成形面に密着している前記繊維強化樹脂材A2’と前記樹脂発泡体A1’とを一体化させることが好ましい。
このような好ましい態様での複合化工程について、以下に2つの例を挙げて説明する
【0062】
(第1の方法)
本実施形態においては、前記成形面を備えた前記成形部材として、第1成形部材と第2成形部材とを含む2以上の前記成形部材を用いる。
具体的には、図8に示すように、本実施形態においては、前記第1成形部材として前記雌型部材Myが用いられ、前記第2成形部材として前記雄型部材Mxが用いられている。
前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとは、本実施形態においては、対になって1つの成形型Mを構成している。
尚、前記樹脂複合体が単なるサンドイッチパネルのようなものである場合、前記成形部材としては、単なる平板状のプレスプレートであってもよい。
【0063】
本実施形態における前記雄型部材Mxは、前記本体部Axの天面Ax2と前記鍔部Ayの内面Ay1とに対応した成形面Mx1を有している。
即ち、前記雄型部材Mxは、前記凹入部Aaに対応する逆四角錐台形状の凸部Mxaを有している。
【0064】
本実施形態における前記雌型部材Myは、前記本体部Axの底面Ax1、側面A3、及び、前記鍔部Ayの外面Ay2に対応した成形面My1を有している。
即ち、前記雌型部材Myは、前記本体部Axに対応する逆四角錐台形状に凹入した凹部Myaを有している。
【0065】
本実施形態における前記成形型Mでは、前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとが樹脂発泡体A1’の厚さ方向(第1方向D1、図における上下方向)において対向するように配されている。
前記雄型部材Mxは、前記凸部Mxaが下面側に向けて突出した状態で前記雌型部材Myの上方に位置している。
一方で、前記雌型部材Myは、前記凹部Myaが上方に向けて開口した状態となって前記雄型部材Mxの下方に位置している。
即ち、本実施形態の成形型Mでは、前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとを上下方向に接近させてこれらを当接させることで閉型状態となるように構成されており、該閉型状態において内部に前記樹脂複合体Aの形状に対応した成形空間Mvが形成されるように構成されている。
言い換えると本実施形態の成形型Mは、前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとが互いの成形面が上下方向に対向するように配されており、前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとを上下方向に接近させて前記樹脂発泡体A1’に向けての前記繊維強化樹脂材A2’の加圧が実施されるように構成されている。
【0066】
本実施形態における製造方法では、前述のように前記樹脂発泡体A1’と前記繊維強化樹脂材A2’とを一体化させる複合化工程が実施される。
本実施形態の前記複合化工程では、前記繊維強化樹脂材を前記成形面に密着させる第1工程と、前記繊維強化樹脂材と前記樹脂発泡体とが互いに接近する方向に加圧されてこれらが一体化される第2工程と、が実施され、前記第2工程が前記第1工程の後に実施される。
該第2工程では、第1工程によって前記成形面に密着している状態となった前記繊維強化樹脂材と前記樹脂発泡体とが一体化される。
【0067】
先述のように本実施形態においては、前記成形面を備えた前記成形部材として、第1成形部材と第2成形部材とを含む2以上の前記成形部材が用いられており、前記第1成形部材として前記雌型部材Myが用いられ、前記第2成形部材として前記雄型部材Mxが用いられている。
本実施形態においては、これらの2以上の前記成形部材が用いられ、且つ、前記繊維強化樹脂材として、前記複合化工程で前記雄型部材Mxによって前記樹脂発泡体A1’に向けて加圧される第1繊維強化樹脂材A21’と、前記雌型部材Myによって前記樹脂発泡体A1’に向けて加圧される第2繊維強化樹脂材とが用いられている。
【0068】
本実施形態における前記複合化工程の前記第1工程では、前記雄型部材Mxの成形面Mx1への第1繊維強化樹脂材A21’の密着と、前記雌型部材Myの成形面My1への第2繊維強化樹脂材A22’の密着とがそれぞれ実施される。
そして、本実施形態における前記第2工程では、後述するように、前記第1繊維強化樹脂材A21’の前記樹脂発泡体A1’への積層一体化と、該樹脂発泡体A1’への前記第2繊維強化樹脂材A22’の積層一体化とが同時に実施される。
【0069】
本実施形態における前記第1工程は、少なくとも前記成形面と前記繊維強化樹脂材との間の圧力が大気圧以下となる減圧環境で実施されることが好ましい。
このような好ましい態様によれば、前記成形面と前記繊維強化樹脂材との間の密着性が高まり、第2工程での圧力を低減しても繊維強化樹脂層の表面にボイドが形成されたりするおそれを抑制することができる。
【0070】
本実施形態における前記雄型部材Mxは、上記のような好ましい態様での第1工程が容易に実施し得るように前記成形面Mx1において開口し、且つ、当該雄型部材Mxを厚み方向(上下方向)に貫通する貫通孔Mxhを有している。
該貫通孔Mxhは、前記成形面Mx1に前記第1繊維強化樹脂材A21’を当接させた状態において該第1繊維強化樹脂材A21’と前記成形面Mx1との間の空気を吸い出すための空気の流通経路として機能する。
【0071】
本実施形態における前記雌型部材Myは、前記雄型部材Mxと同様に前記成形面My1において開口し、且つ、雌型部材Myを厚み方向(上下方向)に貫通する貫通孔Myhを有している。
該貫通孔Myhは、雄型部材Mxでの貫通孔Mxhと同様に前記成形面My1に前記第2繊維強化樹脂材A22’を当接させた状態において該第2繊維強化樹脂材A22’と前記成形面My1との間の空気を吸い出すための空気の流通経路として機能する。
【0072】
前記第1工程で前記繊維強化樹脂材A2’を成形面に密着させる際には、該繊維強化樹脂材A2’の一面側を前記成形面に当接させつつ該繊維強化樹脂材A2’の他面側から背圧を加える方法を採用することができる。
本実施形態においては、前記繊維強化樹脂材A2’と接する領域内に開口した貫通孔(Mxh,Myh)を有する雄型部材Mxや雌型部材Myを用いるため、該貫通孔(Mxh,Myh)を通じて繊維強化樹脂材A2’と成形面との間の空気を排出することでこれらの間に生じる吸着力を前記背圧とともに繊維強化樹脂材A2’と成形面との密着に有効利用することができる。
【0073】
上記のような効果をより顕著に発揮させる上において、図9に示すように、前記繊維強化樹脂材A2’よりも面積の大きな非通気性のシートBSが用いられて前記第1工程が実施されることが好ましい。
前記第1工程は、前記成形面が前記シートBSで覆われ、且つ、該シートBSと前記成形面との間に前記繊維強化樹脂材A2’が配された状態で実施されことが好ましい。
このことにより、前記第1工程では、前記シートBSと前記成形面との間に存在する空気が排出され前記減圧環境が形成される。
【0074】
このような好ましい態様によれば、前記雄型部材Mxでは、前記シートBSが非通気性であるために、該シートBSと雄型部材Mxとの間に形成される空間は、前記貫通孔Mxh以外には空気の出入りが出来ない実質的に閉じられた状態になる。
このような態様においては、前記貫通孔Mxhを通じ、前記空間の空気が空間外に排出されることでシートBSによって覆われている空間と外部空間との間に概ね大気圧に匹敵する圧力差が生じる。
そして、前記シートBSと前記成形面Mx1(前記凸部Mxa)との間には前記第1繊維強化樹脂材A21’が介在しているため該第1繊維強化樹脂材A21’に前記シートBSで背圧を加えることができ、該第1繊維強化樹脂材A21’と前記成形面Mx1との密着性を向上させることができる。
【0075】
前記雌型部材Myでも前記雄型部材Mxと同じく、第2繊維強化樹脂材A22’に背圧を加えることができるため、該第2繊維強化樹脂材A22’を前記凹部Mxy(成形面My1)に対してより密着した状態とすることができる。
【0076】
前記第1工程において上記効果をより顕著に発揮させる上で、前記シートBSで覆われている空間は、絶対圧で20kPa以下となるように減圧されることが好ましく、5kPa以下に減圧されることがより好ましく、1kPa以下に減圧されることが特に好ましい。
【0077】
前記第1工程では、前記シートBSの背面側を大気圧よりも高い圧力とすることで上記のような効果がより顕著に発揮され得る。
その場合、例えば、前記凸部Mxaの外周縁よりも外側を周回可能な周長を有し、前記凸部Mxaの突出高さよりも厚い環状のシール材を用い、前記シートBSで覆われている前記凸部Mxaを包囲するように前記シール材を前記雄型部材Mxに配するとともに前記シール材よりも面積の大きい板状体を前記雄型部材Mxとは反対側からシール材に当接させて該シール材の内側に空間を形成し、該空間に前記板状体に設けた貫通孔を通じて空気を送り込むなどすれば前記シートBSの背面側を加圧状態とすることができる。
【0078】
前記雌型部材Myについても同様の方法で前記シートBSの背面側を加圧状態にすることができる。
即ち、前記凹部Myaの開口縁よりも外側を周回可能な周長を有する環状のシール材を用い、前記シートBSで覆われた状態の前記凹部Myaの開口を包囲するように前記シール材を前記雌型部材Myに配するとともに前記シール材よりも面積の大きい板状体を前記雌型部材Myとは反対側からシール材に当接させて該シール材の内側に空間を形成し、該空間に前記板状体に設けた貫通孔を通じて空気を送り込むなどすれば前記シートBSの背面側を加圧状態とすることができる。
【0079】
加圧状態とする前記空間部の圧力は、絶対圧で0.05MPa以上とすることが好ましく、0.07MPa以上であることがより好ましく0.09MPa以上であることが特に好ましい。
尚、シール材の強度などの関係上、該圧力を過大にすることは好ましいことではない。
そのため、前記圧力は、絶対圧で0.5MPa以下であることが好ましく、0.4MPa以下であることがより好ましい。
【0080】
前記成形面と前記繊維強化樹脂材A2’との間に作用する圧力も上記のような値であることが好ましい。
このような圧力で加圧する時間は、1分間以上であることが好ましく、5分間以上であることがより好ましい。
生産効率の観点からは、該時間は、30分以下であることが好ましい。
【0081】
前記雄型部材Mxに対して用いるシール材と前記雌型部材Myに対して用いる前記シール材は、環状でなくても紐状であってもよい。
前記シートBSへの背圧を加えるための加圧は、図10に示すように、一つのシール材FLを用いて前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとの両方において同時に実施してもよい。
図10に示した例では、矩形枠状のシール材FLを前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとの間に挟み込んでこれらの間に閉じた空間VPを形成し、該空間VPに空気を送り込んでシートBSを背面側から加圧している。
シートBSを背面側から加圧するためには、空気に換えて窒素などの別の気体を前記空間VPに導入してもよく、気体に限らず水などの液体を前記空間VPに導入してもよい。
【0082】
先述のように、本実施形態においては、第2工程において前記第1繊維強化樹脂材の前記樹脂発泡体への積層一体化と、該樹脂発泡体への前記第2繊維強化樹脂材の積層一体化とが同時に実施される。
即ち、本実施形態における前記複合化工程では、前記成形面を備えた前記成形部材として、第1成形部材(雄型部材Mx)と第2成形部材(雌型部材My)とを含む2以上の前記成形部材が用いられ、且つ、前記繊維強化樹脂材A2’として、前記第1成形部材によって前記樹脂発泡体A1’に向けて加圧される第1繊維強化樹脂材A21’と、前記第2成形部材によって前記樹脂発泡体A1’に向けて加圧される第2繊維強化樹脂材A22’とが用いられ、前記第1工程では、前記第1成形部材の成形面(Mx1)への第1繊維強化樹脂材A21’の密着と、前記第2成形部材の成形面(My1)への第2繊維強化樹脂材A22’の密着とがそれぞれ実施され、第2工程では、前記第1繊維強化樹脂材A21’の前記樹脂発泡体A1’への積層一体化と、該樹脂発泡体A1’への前記第2繊維強化樹脂材A22’の積層一体化とが同時に実施される。
従って、本実施形態の製造方法は、工程数を削減でき、樹脂複合体Aの製造に要する手間が削減可能になるという利点を有する。
【0083】
図10に示したような態様での前記第1工程では、前記第1成形部材(雄型部材Mx)の成形面(Mx1)への第1繊維強化樹脂材A21’の密着と、前記第2成形部材(雌型部材My)の成形面(My1)への第2繊維強化樹脂材A22’の密着とを同時に実施する方法は図10に例示の方法に限定されず、種々の態様によって実施可能である。
【0084】
前記第1工程において成形面に密着した繊維強化樹脂材A2’は、成形面との間に空気が介在するおそれが低いため、樹脂発泡体A1’に貼り合されて樹脂複合体Aの表面における繊維強化樹脂層A2を形成した際にボイドなどを生じ難くなる。
該第1工程の後は、図11に示すように前記成形面に密着した前記繊維強化樹脂材A2’が前記成形部材によって前記樹脂発泡体A1’に向けて加圧される第2工程が実施されて樹脂複合体Aが作製される。
【0085】
本実施形態の第2工程では、第1繊維強化樹脂材A21’が成形面Mx1に密着した雄型部材Mxと第2繊維強化樹脂材A22’が成形面My1に密着した雌型部材Myとの間に前記芯材A1となる樹脂発泡体A1’を収容し(図11上段)、前記雄型部材Mxと前記雌型部材Myとを閉じて前記第1繊維強化樹脂材A21’を雄型部材Mxによって樹脂発泡体A1’の上面側に圧接させるとともに前記第2繊維強化樹脂材A22’を雌型部材Myによって樹脂発泡体A1’の下面側に圧接し(図11中段)、これらの繊維強化樹脂材A2’(A21’,A22’)を前記樹脂発泡体A1’に積層一体化して樹脂複合体Aを作製する。
【0086】
本実施形態の第2工程では、上記のようにして樹脂発泡体A1’と繊維強化樹脂材A2’(A21’,A22’)とが接着されて樹脂複合体Aの本体部Axが形成されるとともに前記第1繊維強化樹脂材A21’の外周部と前記第2繊維強化樹脂材A22’の外周部とが雄型部材Mxと雌型部材Myとの間で圧接されてこれらが直に接着して前記鍔部Ayが形成される。
【0087】
本実施形態の第2工程では、繊維強化樹脂材A2’を樹脂発泡体A1’に直接的に積層する必要は無く、樹脂発泡体A1’と繊維強化樹脂材A2’との間に接着剤として機能する樹脂シートを介挿させるようにしてもよい。
【0088】
前記第2工程は、成形型Mの成形空間が減圧された状態で実施されることが好ましい。
即ち、繊維強化樹脂材A2’を樹脂発泡体A1’に積層する際には、これらの接合界面が大気圧よりも低い圧力(例えば、10kPa以下)となっていることが好ましい。
【0089】
前記第2工程は、繊維強化樹脂材A2’と樹脂発泡体A1’との間に高い接着力を発揮させる上において繊維強化樹脂材A2’が加熱された状態で行われることが好ましい。
また、前記第1工程での成形面への繊維強化樹脂材A2’の密着性を向上させる点において、前記第1工程も繊維強化樹脂材A2’が加熱された状態で行われることが好ましい。
前記第1工程、及び、前記第2工程の両方が、前記繊維強化樹脂材A2’を加熱した状態で実施されるのであれば、前記第1工程での前記繊維強化樹脂材A2’の最高到達温度(T1:℃)が前記第2工程での前記繊維強化樹脂材A2’の最高到達温度(T2:℃)に比べて低くなるように実施されることが好ましい。
【0090】
前記第1工程での前記繊維強化樹脂材A2’の最高到達温度(T1:℃)は、繊維強化樹脂材A2’に含まれている樹脂の種類や硬化剤などの硬化反応に寄与する物質の種類や量などにもよるが、例えば、繊維強化樹脂材A2’に含有される樹脂がエポキシ樹脂であれば、50℃以上100℃以下とすることができる。
前記第2工程での前記繊維強化樹脂材A2’の最高到達温度(T2:℃)についても樹脂の種類や硬化剤などの硬化反応に寄与する物質の種類や量などにもよって適宜決定され得るものであるが、例えば、繊維強化樹脂材A2’に含有される樹脂がエポキシ樹脂であれば、100℃以上200℃以下とすることができる。
【0091】
前記繊維強化樹脂材A2’に含まれている前記樹脂のガラス転移温度をTg(℃)とした際に前記第2工程では前記樹脂発泡体と前記繊維強化樹脂材との加熱温度を(Tg-50)℃以上、(Tg+60)℃以下に保つことが好ましい。
そして、当該複合化工程では、前記複合化工程後の前記芯材A1の厚さ(第1方向D1に測定した厚さ)をt(mm)、前記複合化工程前の前記樹脂発泡体A1’の厚さをt0(mm)とした際に、前述のように「圧縮率」が下記式(2)を満たす樹脂複合体Aを製造することが好ましい。
1 ≦ ((t0-t)/t0)×100 ≦ 5 ・・・(2)
【0092】
前記芯材A1として用いるビーズ発泡成形体を成形する際や樹脂複合体Aを製造する際に樹脂発泡粒子が圧縮されて伸長率が低い状態になってしまうと、それによる残留ひずみが経時的に顕在化して樹脂複合体Aの寸法安定性を阻害してしまうおそれがあるところ、本実施径形態の樹脂複合体Aは高い寸法安定性を発揮し得る。
尚、本実施形態の樹脂複合体の製造方法においては、このようにして作製された樹脂複合体Aに対し、バリ取り加工、穴開け加工などを行う後工程を前記複合化工程の後に実施してもよい。
【0093】
(第2の方法)
以下に樹脂複合体の製造方法における複合化工程の第2の方法について説明する。
尚、以下においては、先述の第1の方法と共通する事項に関して説明を繰り返さない場合がある。
【0094】
この第2の方法では、雄型部材Mxと雌型部材Myとを備えた成形型Mを用いる点において第1の方法と共通している。
【0095】
第2の方法において用いる成形型Mは、閉型状態において内部に前記樹脂複合体Aの形状に対応した成形空間が形成されるように構成されている点において第1の方法での成形型Mと共通している。
該成形型Mは、前記成形空間を画定する成形面(雄型部材Mxの成形面Mx1,雌型部材Myの成形面My1)を備える点においても第1の方法での成形型と共通している。
【0096】
本実施形態においては、前記第1工程を実施する前に予備成形体を作製する前工程を実施する。
即ち、該前工程では、大気圧環境下において樹脂発泡体A1’の表面に繊維強化樹脂材A2’を仮接着して樹脂複合体Aの形状に対応した予備成形体を作製する。
【0097】
この予備成形体を用いて第1工程及び第2工程を実施する方法について図12図13を参照しつつ説明する。
【0098】
まず、前記成形型Mと前記予備成形体A’とを用意する。
成形型Mとしては、閉型状態において雄型部材Mxでの成形面Mx1と、雌型部材Myでの成形面My1とによって成形空間Mvが画定され、しかも、作成する製品(樹脂複合体A)の形状に対応した成形空間Mvが前記成形面Mx1,My1によって画定されるべく構成されたものを用いる。
図12に示すように、前記予備成形体A’は、樹脂発泡体A1’の一面側(図12において上側)から第1繊維強化樹脂材A21’を樹脂発泡体A1’に仮接着するとともに他面側(図12において下側)から第2繊維強化樹脂材A22’を樹脂発泡体A1’に仮接着し、且つ、第1繊維強化樹脂材A21’と第2繊維強化樹脂材A22’とをそれぞれの外周部どうしが直に接するように仮接着して作製する。
本実施形態では、このように樹脂複合体Aと同じ構成状態となった前記予備成形体A’を用いる。
【0099】
次に、本実施形態においては、前記成形型Mの成形空間Mvに前記予備成形体A’を収容して前記成形型Mを減圧条件下に置く。
前記成形型Mを減圧条件下に配置する具体的な方法としては、前記成形型Mを収容可能な収容スペースを備えるとともに該収容スペースを大気圧以下にすることができる減圧チャンバーを備えた真空プレス機を用いる方法があげられる。
また、前記成形型Mを減圧条件下に配置する具体的な方法は、図13に示すように、FRP製品の成形に用いられるオートクレーブ成形機ACを用いる方法であってもよい。
具体的には、非通気性のシートで形成されたバキュームバッグVBで前記成形型Mを覆い、該バキュームバッグVBで覆われた空間から空気を排気する排気装置DAで当該排気を実施することによって前記成形型Mを減圧条件下に配置することができる。
【0100】
この第2の方法では、前記成形空間Mvに前記予備成形体A’を収容した状態の前記成形型Mを減圧条件下に置くことで前記第1工程を実施する。
即ち、該第1工程では、前記予備成形体A’を構成している前記繊維強化樹脂材A2’と前記成形面Mx1,My1との間の圧力が大気圧以下となることで該繊維強化樹脂材A2’と該成形面Mx1,My1とが密着する。
この点に関して詳しく説明すると、減圧環境下に置かれる前の前記成形型Mに収容されただけの状態における前記予備成形体A’は、大気圧状態になっているため、この状態で前記繊維強化樹脂材A2’と前記成形面Mx1,My1との間の圧力が大気圧以下にされると該繊維強化樹脂材A2’よりも内側と外側とで圧力差が生じることになる。
そして、前記予備成形体A’を構成している繊維強化樹脂材A2’にはこの圧力差により樹脂発泡体A1’の表面から離れる方向に力が作用する。
この力により、第1繊維強化樹脂材A21’が雄型部材Mxの成形面Mx1に密着されるとともに第2繊維強化樹脂材A22’が雌型部材Myの成形面My1に密着される。
【0101】
この第2の方法における第1工程で前記成形型Mを配置する減圧環境は、第1の方法と同様の環境とすることができる。
即ち、前記成形型Mの置かれる環境は、絶対圧で20kPa以下となるように減圧されることが好ましく、5kPa以下に減圧されることがより好ましく、1kPa以下に減圧されることが特に好ましい。
【0102】
前記成形型Mに予備成形体A’を収容して前記第1工程を実施すると、その後、速やかに第2工程へと移行できるため、樹脂複合体Aの生産効率を向上させることができる。
通常、オートクレーブ成形機ACは、内部を加圧条件とすることが可能なチャンバーCBを有し、該チャンバーCBの内部において被成形物をバキュームバッグVBで覆って閉空間を形成し得るように構成されており、しかも、該閉空間の空気を排気する排気装置DAを備え、該排気装置DAによって前記閉空間からの排気を実施して前記バキュームバッグVBを被成形物に密着させ得るように構成されている。
このことによりオートクレーブ成形機ACは、通常、バキュームバッグVBで覆われた閉空間とバキュームバッグVBよりも外の空間との間に大気圧に近い圧力差を生じさせ、バキュームバッグVBを介してこの圧力を被成形物に加えることができるようになっているとともに、必要に応じて前記チャンバーCBの内部を加圧状態にして前記バキュームバッグVBを介して前記被成形物に大気圧以上の圧力を加えうるようになっている。
そこで、本実施形態においては、予備成形体A’を収容した成形型Mを被成形物として用い、且つ、バキュームバッグVBによる加圧方向が雄型部材Mxと雌型部材Myとが接近する方向となるように成形型Mを配して前記チャンバーCBの内部を加圧状態にすることで前記第2工程を実施することができる。
【0103】
前記第1工程後に実施する前記第2工程は、前記成形型Mが置かれている環境(バキュームバッグVBの内部)の減圧状態を解除してから実施してもよく、減圧状態を維持したまま実施してもよい。
ボイドの形成が抑制された樹脂複合体Aを作製する上において、前記第1工程に連続して前記成形型Mが前記減圧条件下に置かれた状態のまま前記第2工程を実施することが好ましい。
該第2工程で予備成形体A’を加熱・加圧成形して樹脂複合体Aを作製する条件については第1の方法と同様の条件を採用することができる。
【0104】
上記のように、本実施形態においては、作製する前記樹脂複合体の形状に対応した成形空間Mvが閉型状態において内部に形成され、該成形空間Mvを画定する成形面Mx1,My1を備えた成形型Mを用いて前記第2工程を実施し、且つ、前記繊維強化樹脂材A2’を前記樹脂発泡体A1’の表面に仮接着して予備成形体A’を作製し、該予備成形体A’を前記成形空間Mvに収容して前記第2工程を実施し、前記成形空間Mvに前記予備成形体A’を収容した状態の前記成形型Mを前記第2工程の前に減圧条件下に置くことで前記第1工程を実施し、該第1工程では、前記予備成形体A’を構成している前記繊維強化樹脂材A2’と前記成形面Mx1,My1との間の圧力を大気圧以下にして該繊維強化樹脂材A’と該成形面Mx1,My1とを密着させる。
【0105】
このことにより、本実施形態においては第1工程から第2工程への移行が速やかに行われうる。
【0106】
上記のように、本実施形態においては、前記第1工程に連続して前記成形型Mが前記減圧条件下に置かれた状態のまま前記第2工程を実施する。
このことにより本実施形態においては加圧条件を緩慢にして伸長率が低下することを抑制しつつ外観美麗な樹脂複合体Aを得ることができる。
【0107】
以上のような第1、第2の方法は、あくまで例示的なものであり、前記複合化工程は上記例示以外の方法でも実施できる。
本発明は、上記例示に対して必要に応じて各種の変更を加え得る。
【実施例
【0108】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
(使用材料等)
芯材を形成させるための樹脂発泡体としてエステル樹脂製の板状のビーズ発泡成形体(厚さ11mm、見掛け密度130kg/m、以下「発泡ボード」ともいう)を用意した。
これとは別に炭素繊維とエポキシ樹脂とを含むシート状のプリプレグ(厚み0.1mm、カーボンUD、以下「プリプレグC」ともいう)を20枚用意した。
さらに、ガラス繊維とエポキシ樹脂とを含むシート状のプリプレグ(厚み0.18mm、以下「プリプレグG」ともいう)を2枚用意した。
外周縁が揃うように10枚のプリプレグCを重ねた後、最も上のプリプレグCの上にさらに1枚のGFRP1を重ね、計11層の積層構造を有する繊維強化樹脂材を2枚用意した。
尚、上記のプリプレグCは、前述の通り炭素繊維が一方向に引き揃えられた状態で備えられているカーボンUDであり、発泡ボードに重ねるのに際しては、上下に隣り合うプリプレグCの繊維の方向が直交するようにした。
樹脂複合体を作製するための成形型としては、一対の成形部材(雄型部材と雌型部材)で構成されたものを用いた。
【0110】
(第1工程)
2枚の繊維強化樹脂材の内の1枚を雄型部材の成形面に密着させるとともに別の1枚を雌型部材の成形面に密着させる第1工程を実施した。
該第1工程は、プリプレグGを成形面に当接させるようにし、且つ、繊維強化樹脂材よりも面積の大きな非通気性のシート(シリコンバッグ)で繊維強化樹脂材を覆い、シリコンバッグと成形面との間を真空状態にし、シリコンバッグによって繊維強化樹脂材に1気圧の圧力が加わるようにして実施した。
また、この第1工程は、繊維強化樹脂材を90℃に加熱して実施した。
【0111】
(第2工程)
前記第1工程によってそれぞれの成形面に繊維強化樹脂材が密着している雄型部材と雌型部材との間に前記発泡ボードを挟み込み、これらで発泡ボードを加圧するとともに繊維強化樹脂材を発泡ボードに積層一体化して樹脂複合体を作製した。
この第2工程は、繊維強化樹脂材を130℃に加熱して実施した。
また、第2工程は、繊維強化樹脂材と発泡ボードとの間に3MPaの圧力が発生するようにして実施した。
尚、作製された樹脂複合体では、発泡ボードが僅かに圧縮され、圧縮率が3%であったことが確認できた。
【0112】
<評価>
得られた樹脂複合体については以下のように評価した。
(伸長率)
得られた樹脂複合体の芯材について厚さ方向中央部での中心部気泡の伸長率を測定した。
(加熱寸法変化率)
発泡成形体の加熱寸法変化率をJIS K6767:1999「発泡プラスチック-ポリエチレン-試験方法」記載のB法にて測定した。
具体的には、樹脂複合体から平面形状が一辺150mmの正方形の試験片を切り出した。
試験片の中央部に縦及び横方向にそれぞれ互いに平行に3本の100mmの直線を50mm間隔で記入した。
縦及び横方向のそれぞれ3本の直線が交差してできる9つの交点の内、中央の交点と四隅の交点との合計5箇所において試験片の厚さを測定し、それらの相加平均値L0を初めの寸法とした。
しかる後、試験片を110℃の熱風循環式乾燥機の中に168時間に亘って放置して加熱試験を行った後に取出し、試験片を25℃にて1時間に亘って放置した。
次に、初めの寸法の測定箇所と同じ5箇所において試験片の厚さを測定し、それらの相加平均値L1を加熱後の寸法とした。
下記式(3)に基づいて加熱寸法変化率を算出した。
加熱寸法変化率(%)=100×(L1-L0)/L0 ・・・(3)
(ボイドの測定)
得られた樹脂複合体については、以下のようにして「表面品質」を測定した。
樹脂複合体の表面に真球状微粒子ポリマーであるテクポリマー(積水化成品工業、MBX-8、粒径:8μm)をまぶし、ボイドに粒子が押し込まれるようにウエス等でなじませた。
ボイドに残存する粒子以外はウエス等で除去した。
マイクロスコープ(KEYENCE,VHX-1000)にて20倍で樹脂複合体の表面を観察し、色抽出によりボイドの形成されている部分を判別し、ボイドを自動計測した。(ボイド部分には白色粒子があり、ボイド部分以外は黒色であるため色差により判別)
表面観察を行った範囲の内、ボイド部分の面積割合を「ボイド率」として算出した。
【0113】
(実施例2)
発泡ボード(ポリエステル樹脂製のビーズ発泡成形体)として、見掛け密度が180kg/mのものを用いたこと以外は実施例1と同様に樹脂複合体を作製した。
【0114】
(比較例1)
第1工程を実施せず、圧縮率が18%となるように樹脂複合体を作製したこと以外は実施例2と同様に樹脂複合体を作製した。
【0115】
(比較例2)
発泡ボード(ポリエステル樹脂製のビーズ発泡成形体)として、見掛け密度が170kg/mの厚さ20mmのものを用いたこと、圧縮率を51%としたこと以外は比較例1と同様に樹脂複合体を作製した。
【0116】
実施例、比較例で得られた樹脂複合体についての評価結果を下記表に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
以上のことからも本発明によれば加熱寸法変化率の低い樹脂複合体とその製造方法とが提供されることがわかる。
【符号の説明】
【0119】
A 樹脂複合体
A1 芯材
A1’ 樹脂発泡体
A2 繊維強化樹脂層
A2’ 繊維強化樹脂材
BS (非通気性の)シート
M 成形型
Mx 雄型部材(第1成形部材)
My 雌型部材(第2成形部材)
Mx1 (雄型部材の)成形面
My1 (雌型部材の)成形面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13