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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】二次電池の検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240222BHJP
   H01M 10/60 20140101ALI20240222BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/60
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020154677
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048704
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2021-09-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 瑠璃
【合議体】
【審判長】高野 洋
【審判官】稲葉 崇
【審判官】寺谷 大亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-32198(JP,A)
【文献】特開2019-74363(JP,A)
【文献】特開2018-96960(JP,A)
【文献】特開2019-113450(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026105(WO,A1)
【文献】特開2015-81887(JP,A)
【文献】特開2019-91622(JP,A)
【文献】特開2014-154441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
H01M 10/42-10/48
H01M 10/52-10/667
G01R 31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象である二次電池に電源を接続して回路を構成し、前記回路に流れる電流によって前記二次電池の良否を判定する、二次電池の検査方法であって、
充電済みの前記二次電池と前記電源とを接続して前記回路を構成する回路構成工程と、
前記二次電池の自己放電に伴って前記回路に流れる回路電流を計測する電流計測工程と、
前記電流計測工程において計測された収束後の前記回路電流の値に基づいて、前記二次電池の良否を判定する判定工程と、を備え、
前記電流計測工程を行っている期間中、前記二次電池に接触している流通管内を流通する熱媒体との熱交換によって、前記二次電池の温度を制御する電池温度制御を行う
二次電池の検査方法であり、
前記検査対象である前記二次電池は、複数の前記二次電池を列置方向に並べて拘束した電池スタックに含まれる各々の前記二次電池であり、
前記回路構成工程では、各々の前記二次電池に対して個別に前記電源を接続して、複数の前記回路を構成し、
前記電流計測工程では、各々の前記回路に流れる前記回路電流をそれぞれ計測し、
前記判定工程では、収束後の各々の前記回路電流の値に基づいて、各々の前記二次電池の良否を判定し、
前記電池温度制御として、各々の前記二次電池の温度が目標温度になるように、各々の前記二次電池の温度を個別に制御する
二次電池の検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の検査方法であって、
前記電池温度制御として、各々の前記二次電池の温度が同一の目標温度になるように、各々の前記二次電池の温度を個別に制御する
二次電池の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、検査対象である二次電池に電源を接続して回路を構成し、この回路に流れる電流によって二次電池の良否を判定する、二次電池の検査方法が開示されている。この検査方法は、充電済みの二次電池と電源とにより前記回路を構成する回路構成工程と、二次電池の自己放電に伴って回路に流れる回路電流を計測する電流計測工程と、電流計測工程において計測された収束後の回路電流の値に基づいて、二次電池の良否を判定する判定工程とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-032198号公報
【文献】特開2019-113450号公報
【0004】
上述の検査方法では,二次電池の自己放電量の多寡を検査する。自己放電量が多ければ不良品であり、少なければ良品である。具体的には、まず、検査対象である二次電池の電池電圧を測定する。そして、回路構成工程において、この二次電池と等電圧の電源を、この二次電池に接続して検査回路を構成する。すると、二次電池の自己放電によって電池電圧が低下して、二次電池の電池電圧と電源電圧との間に電圧差が生まれ、検査回路に回路電流が流れ始める。
【0005】
この回路電流は、時間の経過と共に大きくなり、やがて、この回路電流と、二次電池の自己放電の原因である電池内部を流れる漏れ電流(自己放電電流)とが等しくなることで、回路電流が収束する(定常状態になる)。従って、収束した回路電流を計測することで、二次電池の自己放電量(自己放電電流)の大きさを把握することができる。収束した回路電流を計測した後、判定工程において、収束した回路電流の計測値と、予め設定した閾値とを比較する。計測値が閾値よりも大きい場合には、その二次電池は自己放電量が多い不良品であると判定し、計測値が閾値以下である場合には、その二次電池は自己放電量の少ない良品であると判定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述の検査方法では、回路構成工程において回路を構成した後、検査対象である二次電池の温度が、検査室の室温の変動に伴って変動することがあった。具体的には、検査室の室温を調節する空調機の設定温度を所定の温度に設定して検査を行う場合でも、室温を一定にすることは困難であるため、検査期間中、室温は絶えず変動する。このために、検査期間中、検査対象である二次電池の温度が、検査室の室温の変動に伴って変動する。
【0007】
このため、検査期間中に、電池温度の変動に起因して電池電圧が変動(すなわち、二次電池の自己放電とは異なる要因で電池電圧が変動)し、これによって回路電流が変動してしまうことがあった。このために、回路電流が収束し難くなり、二次電池の良否判定を適切に行うことができないことがあった。
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、二次電池の自己放電に伴って回路に流れる回路電流を収束し易くすることができる二次電池の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、検査対象である二次電池に電源を接続して回路を構成し、前記回路に流れる電流によって前記二次電池の良否を判定する、二次電池の検査方法であって、充電済みの前記二次電池と前記電源とを接続して前記回路を構成する回路構成工程と、前記二次電池の自己放電に伴って前記回路に流れる回路電流を計測する電流計測工程と、前記電流計測工程において計測された収束後の前記回路電流の値に基づいて、前記二次電池の良否を判定する判定工程と、を備え、前記電流計測工程を行っている期間中、前記二次電池に接触している流通管内を流通する熱媒体との熱交換によって、前記二次電池の温度を制御する電池温度制御を行う二次電池の検査方法であり、前記検査対象である前記二次電池は、複数の前記二次電池を列置方向に並べて拘束した電池スタックに含まれる各々の前記二次電池であり、前記回路構成工程では、各々の前記二次電池に対して個別に前記電源を接続して、複数の前記回路を構成し、前記電流計測工程では、各々の前記回路に流れる前記回路電流をそれぞれ計測し、前記判定工程では、収束後の各々の前記回路電流の値に基づいて、各々の前記二次電池の良否を判定し、前記電池温度制御として、各々の前記二次電池の温度が目標温度になるように、各々の前記二次電池の温度を個別に制御する二次電池の検査方法である。
【0010】
上述の検査方法では、回路構成工程において、充電済みの二次電池と電源とを接続して回路を構成する。回路構成工程としては、例えば、充電済みの二次電池に対し、前記二次電池の電池電圧と等電圧の電源を逆電圧向きに接続して、回路を構成する工程を挙げることができる。この回路を構成すると、二次電池の自己放電に伴って電池電圧が低下し、二次電池の電池電圧と電源電圧との間に電圧差が生まれ、これによって回路に電流が流れる。そこで、電流計測工程において、二次電池の自己放電に伴って前記回路に流れる回路電流を計測する。例えば、回路を構成したときから一定時間毎に回路電流の値を計測する。その後、判定工程において、電流計測工程において計測された収束後の回路電流(例えば、電流計測工程において取得した収束後の回路電流)の値に基づいて、前記二次電池の良否を判定する。
【0011】
さらに、上述の検査方法では、電流計測工程を行っている期間中(例えば、回路を構成したときから収束後の回路電流の値を取得するまでの期間中)、検査対象である二次電池の温度を制御する電池温度制御を行う。電池温度制御として、例えば、二次電池の温度が目標温度(例えば、検査を行う検査室内の温度)になるように二次電池の温度を制御する。これにより、電流計測工程を行っている期間中、電池温度の変動が小さくなるので、電池温度の変動に起因する電池電圧の変動を小さくする(すなわち、二次電池の自己放電とは異なる要因による電池電圧の変動を小さくする)ことができ、当該電池電圧の変動に伴う回路電流の変動を小さくすることができる。これにより、二次電池の自己放電に伴って回路に流れる回路電流が収束し易くなるので、二次電池の良否判定を適切に行うことが可能となる。
【0013】
しかも上述の検査方法では、電池温度制御として、二次電池の温度が目標温度になるように二次電池の温度を制御する電池温度制御を行う。これにより、電流計測工程を行っている期間中、電池温度を、目標温度またはこれに近い温度(例えば、目標温度±0.1℃の範囲内)に保つことができる。これにより、電池温度の変動に起因する電池電圧の変動を極めて小さくすることができるので、回路電流がより一層収束し易くなる。具体的には、回路電流を早期に収束させることができ、判定工程において二次電池の良否判定を早期に行うことが可能となる。なお、目標温度としては、例えば、回路を構成したときの検査室の室温(実測値)を挙げることができる。
【0015】
しかも上述の検査方法では、電池スタックに含まれる各々の二次電池について検査を行う。具体的には、回路構成工程において、電池スタックに含まれる各々の二次電池に対して個別に電源を接続して、複数(検査対象の二次電池と同数)の回路を構成する。この回路構成工程としては、例えば、電池スタックに含まれる各々の二次電池に対し、各々の前記二次電池の電池電圧と等電圧の外部電源を、個別に逆電圧向きに接続して、複数(検査対象の二次電池と同数)の回路を構成する工程を挙げることができる。これらの回路を構成すると、各々の二次電池の自己放電に伴って各々の電池電圧が低下し、これによって各々の回路に電流が流れる。
【0016】
さらに、上述の検査方法では、電池温度制御として、電池スタックに含まれる各々の二次電池の温度が目標温度になるように、各々の二次電池の温度を個別に制御する電池温度制御を行う。例えば、電池スタックに含まれる各々の二次電池に対して個別に設けた複数(検査対象の二次電池と同数)の電池温度制御装置によって、各々の二次電池の温度が目標温度になるように、各々の二次電池の温度を個別に制御する。これにより、各々の回路について電流計測工程を行っている期間中、電池スタックに含まれる各々の二次電池について、電池温度を、目標温度またはこれに近い温度(例えば、目標温度±0.1℃の範囲内)に保つことができる。
【0017】
これにより、電池スタックに含まれる各々の二次電池について、電池温度の変動に起因する電池電圧の変動を極めて小さくすることができるので、回路電流がより一層収束し易くなる。具体的には、電池スタックに含まれる各々の二次電池について、回路電流を早期に収束させることができ、判定工程において各々の二次電池の良否判定を早期に行うことが可能となる。なお、目標温度は、電池スタックを構成する全ての二次電池について同一の目標温度としても良いし、電池スタックを構成する全ての二次電池または一部の二次電池について異なる目標温度としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態にかかる二次電池の検査方法を行うために組んだ回路の構成図である。
図2】検査対象である二次電池の斜視図である。
図3】実施形態にかかる二次電池の検査方法を説明する図である。
図4】実施例1の電池スタックの概略図である。
図5】実施例1における電池温度の変動を示すグラフである。
図6】実施例1における回路電流の推移を示すグラフである。
図7】比較例1における電池温度の変動を示すグラフである。
図8】比較例1における回路電流の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態にかかる二次電池の検査方法について説明する。本実施形態の検査方法は、図1に示すように、検査対象である二次電池1に、直流電源4を有する計測装置2を接続して、回路3を組んだ状態で実施される。以下に詳細に説明する。
【0020】
まず、検査対象である二次電池1について説明する。二次電池1は、図2に示すように、扁平角型の外観を有する。この二次電池1は、外装体10と、この内部に収容された電極積層体20とを備える。電極積層体20は、正極板(図示省略)と負極板(図示省略)とをセパレータ(図示省略)を介して積層したものである。外装体10の内部には、電極積層体20の他に電解液も収容されている。また、外装体10の外部(上面)には、正極端子50及び負極端子60が設けられている。なお、検査対象とする二次電池1は、図2のような扁平角型のものに限らず,円筒型等他の形状のものでも構わない。
【0021】
図1では、二次電池1を模式的に示している。図1の二次電池1は、起電要素Eと、内部抵抗Rsと、短絡抵抗Rpとにより構成されるモデルとして表されている。内部抵抗Rsは、起電要素Eに直列に配置された形となっている。短絡抵抗Rpは、電極積層体20中に侵入していることがある微小金属異物による導電経路をモデル化したものであり,起電要素Eに並列に配置された形となっている。
【0022】
また、計測装置2は、直流電源4と、電流計5と、電圧計6と、プローブ7,8とを有している。直流電源4に対して、電流計5は直列に配置され、電圧計6は並列に配置されている。直流電源4の出力電圧VS(電源電圧)は可変である。直流電源4は、二次電池1に出力電圧VSを印加するために使用される。電流計5は、回路3に流れる電流を計測するものである。電圧計6は、プローブ7,8間の電圧を計測するものである。本実施形態は、図1に示すように、計測装置2のプローブ7,8を、二次電池1の端子50,60に接続することで、回路3を構成している。
【0023】
本実施形態の検査方法では、二次電池1の自己放電量の多寡を検査する。自己放電量が多ければ不良品であり、少なければ良品である。そのため、まず、二次電池1を、計測装置2に接続する前に充電する。そして、充電後の二次電池1を計測装置2に接続して回路3を構成し、回路3に流れる電流(回路電流IB)を計測装置2によって計測する。そして、収束後の回路電流IBsの値に基づいて、二次電池1の良否を判定する。
【0024】
具体的には、まず、検査対象となる充電後の二次電池1を用意する。この充電後の二次電池1は、充電後に行われる高温エージングまで終了して、電池電圧が安定化した後の二次電池1である。なお、本実施形態の検査は、例えば、設定温度を所定の温度(例えば、20℃)に設定した空調機によって室温が制御された検査室内で行われる。そして、検査室内において、検査対象である(充電および高温エージング後の)二次電池1の電池電圧VBを測定する。この値が、初期電池電圧VB1である。
【0025】
次に、計測装置2(直流電源4)の出力電圧VSを調節して、初期電池電圧VB1に一致させる。その後、回路構成工程に進み、図1に示すように、検査対象である二次電池1と、直流電源4(二次電池1の初期電池電圧VB1と等電圧である)を有する計測装置2とを、逆電圧向きに接続して、回路3を構成する。このときの直流電源4の出力電圧VSは、二次電池1の初期電池電圧VB1と一致している。この状態では,出力電圧VSが初期電池電圧VB1に一致しているとともに,出力電圧VSと二次電池1の電池電圧VBとが逆向きになっている。このため、両電圧が打ち消し合い、回路3の回路電流IBはゼロとなる。
【0026】
しかしながら、二次電池1の自己放電に伴って、電池電圧VBは初期電池電圧VB1から徐々に低下していく。そのため、出力電圧VSと電池電圧VBとの均衡が崩れて(出力電圧VSと電池電圧VBとの間に電圧差が生まれ)、回路3に回路電流IBが流れることとなる。そこで、本実施形態では、回路構成工程において回路3を構成すると共に、電流計測工程を開始して、回路電流IBの値を一定時間毎に計測する。回路電流IBの値は、ゼロから徐々に上昇してゆく。回路電流IBは、電流計5により直接に測定される。やがて、電池電圧VB、及び、回路電流IBが収束して、以後、電池電圧VB、回路電流IBとも略一定となる。このため、電流計測工程において、収束後の回路電流IBsの値を取得する。
【0027】
その後、判定工程において、電流計測工程において計測された収束後の回路電流IBsの値に基づいて、二次電池1の良否を判定する。具体的には、電流計測工程において取得した収束後の回路電流IBsの値に基づいて、二次電池1の良否を判定する。以下に、詳細に説明する。不良品(自己放電量が多い)の二次電池1では、良品(自己放電量が少ない)の二次電池1と比較して、回路電流IBの上昇、電池電圧VBの低下とも急峻になる。そのため、不良品の二次電池1の場合の収束後の回路電流IBsは、良品の二次電池1の場合の収束後の回路電流IBsより大きくなる。また、不良品の二次電池1の収束後の電池電圧VB2は、良品の二次電池1の収束後の電池電圧VB2より低くなる。
【0028】
このようになる理由を説明する。まず、電池電圧VBが低下する理由は、前述の通り二次電池1の自己放電である。自己放電により、二次電池1の起電要素Eには、自己放電電流IDが流れていることになる。自己放電電流IDは、二次電池1の自己放電量が多ければ大きく、自己放電量が少なければ小さい。前述の短絡抵抗Rpの値が小さい二次電池1では、自己放電電流IDが大きい傾向がある。
【0029】
一方、電池電圧VBの低下により流れる回路電流IBは,二次電池1を充電する向きの電流である。つまり、回路電流IBは、二次電池1の自己放電を抑制する方向に作用し、二次電池1の内部では、自己放電電流IDと逆向きである。そして、回路電流IBが上昇して自己放電電流IDと同じ大きさになると、実質的に自己放電が停止する。よって、それ以後は、電池電圧VBも回路電流IBも一定(VB2,IBs)となる。なお、回路電流IBが収束したか否かについては、既知の手法で判定すればよい。例えば、電流計測工程において回路電流IBの値を一定時間毎に取得して、回路電流IBの値の変化量が予め定めた基準変化量より小さくなったときに、回路電流IBが収束したと判定すればよい。
【0030】
ここで、回路電流IBは、電流計5の読み値として直接に把握することができる。そこで、収束後の回路電流IBsに対して閾値IKを設定しておくことで、二次電池1の良否判定をすることができる。収束後の回路電流IBsが閾値IKより大きい場合には、その二次電池1は自己放電量の多い不良品であり、回路電流IBsが閾値IK以下である場合には、その二次電池1は自己放電量の少ない良品であると判定することができる。
【0031】
ところで、従来の検査方法では、検査期間中に、検査対象である二次電池1の温度が、検査室の室温の変動に伴って変動することがあった。具体的には、設定温度を所定の温度(例えば、20℃)に設定した空調機によって室温が制御された検査室内で検査を行う場合でも、室温を一定にすることは困難であるため、検査期間中、室温は絶えず変動する。このために、検査期間中、検査対象である二次電池1の温度が、検査室の室温の変動に伴って変動する。
【0032】
このため、電流計測工程を行っている期間中、電池温度の変動に起因して電池電圧VBが変動(すなわち、二次電池1の自己放電とは異なる要因で電池電圧VBが変動)し、これによって回路電流IBが変動してしまうことがあった。このために、回路電流IBが収束し難くなり、二次電池1の良否判定を適切に行うことができないことがあった。
【0033】
これに対し、本実施形態の検査方法では、電流計測工程を行っている期間中(詳細には、回路3を構成したときから収束後の回路電流IBsの値を取得するまでの期間中)、二次電池1の温度を制御する電池温度制御を行う。具体的には、図3に示すように、二次電池1に対して設けた電池温度制御装置70によって、二次電池1の温度(電池温度)が目標温度Tmになるように、二次電池1の温度を制御する。電池温度制御装置70は、熱媒体73(例えば、水)の温度を制御するチラー71と、チラー71によって温度が制御された熱媒体73が循環する流通管75と、二次電池1の温度を測定するサーミスタ78とを備える。なお、サーミスタ78は、図示しない配線によって、チラー71の制御部(図示省略)に接続されている。
【0034】
図3に示すように、流通管75の一部は、二次電池1に接触している。これにより、二次電池1と流通管75内を流通する熱媒体73との間で熱交換が行われ、二次電池1の温度を、流通管75内を流通する熱媒体73の温度に近づけることができる。具体的には、電流計測工程を行っている期間中、一定時間毎に、サーミスタ78によって二次電池1の温度を測定し、測定された二次電池1の温度が目標温度Tmになるように、チラー71によって熱媒体73の温度を制御する。
【0035】
このようにすることで、電流計測工程を行っている期間中、電池温度の変動を小さくすることができる。具体的には、電池温度を、目標温度Tmまたはこれに近い温度(例えば、目標温度Tm±0.1℃の範囲内)に保つことができる。これにより、電池温度の変動に起因する電池電圧VBの変動を小さくする(すなわち、二次電池1の自己放電とは異なる要因による電池電圧VBの変動を小さくする)ことができるので、電池温度の変動に起因する回路電流IBの変動を小さくすることができる。
【0036】
これにより、回路電流IBが収束し易くなるので、二次電池1の良否判定を適切に行うことが可能となる。具体的には、回路電流IBを早期に収束させることができ(すなわち、収束後の回路電流IBsを早期に取得することができ)、判定工程において二次電池1の良否判定を早期に行うことが可能となる。なお、目標温度Tmとしては、例えば、回路構成工程において回路3を構成したときの検査室の室温(実測値)を挙げることができる。
【0037】
<実施例1>
実施例1では、まず、列置方向DL(図4において左右方向)に一列に並べた8個の二次電池1を拘束治具130によって拘束して、8個の二次電池1が拘束された電池スタック100を作製した(図4参照)。なお、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1について、図4において右端から左端に向かって順に、No.1~8と番号付けする。また、列置方向DLに隣り合う二次電池1の間には、樹脂スペーサ160を介在させている。その後、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1を充放電し、SOC90%に調整した。これにより、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1が、充電済みの二次電池1となる。次いで、この電池スタック100を63℃に設定された恒温室内に6時間安置することによって、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について高温エージングを行った。その後、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1を、19.5℃に冷却した。
【0038】
次に、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、前述の検査を行った。具体的には、設定温度を19.5℃にした空調機によって室温が制御された検査室内に電池スタック100を配置する。より具体的には、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1のそれぞれに対して、前述の電池温度制御装置70(図3参照)を個別に設けるとともに、検査室内に電池スタック100を配置した。その後、回路構成工程において、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1に対して、直流電源4を有する計測装置2を個別に接続して、8個の回路3を構成した(図1参照)。さらには、電流計測工程において、8個の回路3について、各々の回路電流IBの値を一定時間毎に計測した。
【0039】
さらには、電流計測工程を開始すると同時に、電池温度制御を開始した。具体的には、各々の二次電池1の温度(電池温度)が目標温度Tmになるように、8個の電池温度制御装置70によって8個の二次電池1の温度を個別に制御した(図3参照)。なお、本実施例1では、目標温度Tmを、各々の回路3を構成したときの検査室の室温の実測値(具体的には、19.5℃)としている。このようにして、本実施例1では、各々の回路3について電流計測工程を行っている期間中、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1について、各々の電池温度を個別に制御している。
【0040】
ここで、実施例1における電池温度の変動(電流計測工程を行っている期間中の電池温度の推移)を、図5に示す。なお、図5では、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1のうち、4個の二次電池1の温度変動を示している。4個の二次電池1は、図4において最も右側に位置する二次電池1(図5において太い実線で示す、No.1)と、図4において右から4番目に位置する二次電池1(図5において太い破線で示す、No.4)と、図4において最も5番目に位置する二次電池1(図5において細い実線で示す、No.5)と、図4において最も左側に位置する二次電池1(図5において細い破線で示す、No.8)である。
【0041】
図5に示すように、実施例1では、電流計測工程を行っている期間中、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、電池温度を、目標温度Tm(具体的には、19.5℃)またはこれに近い温度(具体的には、目標温度Tm±0.1℃の範囲内)に保つことができた。なお、図5では、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1のうち、4個の二次電池1(No.1,4,5,8)の温度変動のみを示しているが、他の4個の二次電池1の温度変動もこれらと同様であった。詳細には、実施例1では、電流計測工程を行っている期間中、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、温度変動幅を0.1℃以内にすることができた。
【0042】
これにより、実施例1では、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、電池温度の変動に起因する電池電圧VBの変動を小さくする(すなわち、二次電池1の自己放電とは異なる要因による電池電圧VBの変動を小さくする)ことができるので、電池温度の変動に起因する回路電流IBの変動を小さくすることができる。これにより、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、回路電流IBが収束し易くなるので、各々の二次電池1の良否判定を適切に行うことができる。具体的には、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、回路電流IBを早期に収束させることができ、判定工程において各々の二次電池1の良否判定を早期に行うことができる。
【0043】
ここで、図6に、実施例1の回路電流IB(電流計測工程において計測された回路電流IBの値)の推移を示す。なお、図6には、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1のうち、4個の二次電池1(No.1,4,5,8)の回路電流IBの推移を示しているが、他の4個の二次電池1の回路電流IBの推移もこれらと同様であった。図6に示すように、実施例1では、電流計測工程を開始したときから150分経過した時点で、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1にかかる回路3において、回路電流IBを収束させることができた。このように、本実施例1では、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、回路電流IBを早期に収束させることができた。
【0044】
<比較例1>
比較例1では、実施例1と異なり、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1について、電池温度制御装置70による電池温度制御を行うことなく、検査を行った。本比較例1は、この点のみが実施例1と異なっている。ここで、比較例1における電池温度の変動(電流計測工程を行っている期間中の電池温度の推移)を、図7に示す。なお、図7には、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1のうち、4個の二次電池1(No.1,4,5,8)の温度変動を示しているが、他の4個の二次電池1の温度変動もこれらと同様であった。
【0045】
図7に示すように、比較例1では、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1の温度変動が、実施例1よりも大きくなった。具体的には、比較例1では、設定温度を19.5℃に設定した空調機によって室温が制御された検査室内で検査を行っているが、室温を一定にすることは困難であるため、検査期間中、絶えず室温は変動する。このために、電流計測工程を行っている期間中、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1の温度が、検査室の室温の変動に伴って変動した。詳細には、比較例1では、電流計測工程を行っている期間中、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1の温度変動幅が、0.2℃程度になった。
【0046】
このため、比較例1では、電池温度の変動に起因して電池電圧VBが変動(すなわち、二次電池1の自己放電とは異なる要因で電池電圧VBが変動)し、これによって回路電流IBが大きく変動してした(図8参照)。このために、回路電流IBが収束し難くなり、二次電池1の良否判定を適切に行うことができなかった。
【0047】
ここで、図8に、比較例1における回路電流IB(電流計測工程において計測された回路電流IBの値)の推移を示す。なお、図8には、電池スタック100に含まれる8個の二次電池1のうち、4個の二次電池1(No.1,4,5,8)の回路電流IBの推移を示しているが、他の4個の二次電池1の回路電流IBの推移もこれらと同様であった。図8に示すように、比較例1では、電流計測工程を開始したときから300分経過しても、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1において、回路電流IBが収束しなかった。このため、比較例1では、電流計測工程を開始したときから300分経過しても、電池スタック100に含まれる各々の二次電池1について、良否判定を行うことができなかった。
【0048】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0049】
例えば、実施形態では、二次電池1の温度を制御する装置として、チラー71及び流通管75を備える電池温度制御装置70を用いた。しかしながら、二次電池1の温度を制御する装置は、このような電池温度制御装置70に限定されるものではなく、二次電池1の温度を制御可能な装置であれば、いずれの装置であっても良い。
【0050】
また、実施例1では、目標温度Tmを、電池スタック100を構成する全ての二次電池1について同一とした。しかしながら、目標温度Tmは、電池スタック100を構成する全ての二次電池1または一部の二次電池1について、異なる温度としても良い。
【0051】
また、実施例1では、電池スタックとして、8個の二次電池1によって構成された電池スタック100を例示した。しかしながら、本発明の検査方法は、いずれの個数の二次電池によって構成された電池スタックにも適用することができる。より具体的には、本発明の検査方法の検査対象となる二次電池の個数は、幾つであっても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 二次電池
2 計測装置
3 回路
4 直流電源(電源)
5 電流計
6 電圧計
7,8 プローブ
70 電池温度制御装置
71 チラー
75 流通管
78 サーミスタ
100 電池スタック
130 拘束治具
IB 回路電流
VB 電池電圧
VS 出力電圧(電源電圧)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8