(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】すべり材ユニット及びすべり支承
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240222BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
F16F15/02 L
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2020184075
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長峰 洋一
(72)【発明者】
【氏名】林 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊彦
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-311322(JP,A)
【文献】登録実用新案第3189617(JP,U)
【文献】特開2012-036606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝部を有するホルダと、
前記溝部に嵌め込まれるすべり材と、
互いに対向する、前記溝部の側面及び前記すべり材の側面のうちの一方の側面に形成された複数の穴部に設けられ、先端部が前記一方の側面から突出する突出位置と、前記先端部が前記穴部に没入する没入位置との間で移動可能な複数のピンと、
複数の前記穴部にそれぞれ設けられ、前記各ピンが前記突出位置にあるときは自由状態であり、前記没入位置にある前記各ピンを弾性復元力により前記突出位置に復帰させる複数のばね部材と、
前記溝部の側面及び前記すべり材の側面のうちの他方の側面において、前記すべり材が前記溝部に嵌め込まれた状態で前記各ピンと対向して配置される位置に形成され、前記各ピンと対向して配置された状態で、前記各ピンの前記先端部が係合する複数の係合穴と、を備え、
前記各ピンの前記先端部には、前記すべり材を前記溝部に嵌め込むときに、前記係合穴が形成されている前記ホルダ又は前記すべり材に当接することで、前記突出位置にある前記各ピンを、前記弾性復元力に抗して前記没入位置に向けて押圧する力を発生させるテーパ面が形成されている、すべり材ユニット。
【請求項2】
前記ピンは、前記先端部と、前記先端部に繋がる胴部と、を有し、
前記胴部の外面は、前記胴部が前記穴部に対して回転可能な形状に形成されており、
前記先端部の外面には、円錐状の前記テーパ面が形成されている、請求項1に記載のすべり材ユニット。
【請求項3】
前記胴部の外面は、円形状に形成されている、請求項2に記載のすべり材ユニット。
【請求項4】
前記ピンは、前記先端部と、前記先端部に繋がる胴部と、を有し、
前記穴部の内面及び前記胴部の外面は、前記胴部が前記穴部に対して回転不能な形状にそれぞれ形成されている、請求項1に記載のすべり材ユニット。
【請求項5】
前記先端部には、当該先端部が前記係合穴に係合した状態で、前記すべり材が前記溝部から抜け出す方向に移動しようとしても、前記ピンが前記突出位置から前記没入位置へ移動するのを規制する規制面が形成されている、請求項4に記載のすべり材ユニット。
【請求項6】
上部構造体と下部構造体との間に配置されるすべり支承であって、
前記上部構造体及び前記下部構造体のうちの一方に設けられる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のすべり材ユニットと、
前記上部構造体及び前記下部構造体のうちの他方に設けられ、前記すべり材ユニットの前記すべり材が摺動する平滑板と、を備えるすべり支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり材ユニット及びすべり支承に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時に発生するエネルギーが、ビルや戸建住宅等の構造物に伝達するのを低減させる免震機構として、構造物の上部構造体と下部構造体との間に配置され、地震時に上部構造体に対して下部構造体を水平方向に滑動自在とするすべり支承が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたすべり支承は、下部構造体の上側に固定された平滑板と、上部構造体の下側に金属製のホルダを介して固定された合成樹脂製のすべり材とを備えており、すべり材が平滑板に対して摺動することで、地震時における上部構造体の揺れを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記すべり支承では、合成樹脂製のすべり材は、接着剤または皿ねじによって金属製のホルダに固定されている。しかし、接着剤には、すべり材の材質によって、接着困難なものや、接着できないものがある。また、皿ねじを用いる場合、すべり材の摺動面に座ぐり穴が形成されるので、その分だけ、すべり材と平滑板との接触面積が減少してしまう。このため、前記接触面積の減少を補填するために、すべり材を大きくする必要がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、接着剤や皿ねじを用いなくてもホルダにすべり材を固定することができるすべり材ユニット及びすべり支承を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明のすべり材ユニットは、溝部を有するホルダと、前記溝部に嵌め込まれるすべり材と、互いに対向する、前記溝部の側面及び前記すべり材の側面のうちの一方の側面に形成された複数の穴部に設けられ、先端部が前記一方の側面から突出する突出位置と、前記先端部が前記穴部に没入する没入位置との間で移動可能な複数のピンと、複数の前記穴部にそれぞれ設けられ、前記各ピンが前記突出位置にあるときは自由状態であり、前記没入位置にある前記各ピンを弾性復元力により前記突出位置に復帰させる複数のばね部材と、前記溝部の側面及び前記すべり材の側面のうちの他方の側面において、前記すべり材が前記溝部に嵌め込まれた状態で前記各ピンと対向して配置される位置に形成され、前記各ピンと対向して配置された状態で、前記各ピンの前記先端部が係合する複数の係合穴と、を備え、前記各ピンの前記先端部には、前記すべり材を前記溝部に嵌め込むときに、前記係合穴が形成されている前記ホルダ又は前記すべり材に当接することで、前記突出位置にある前記各ピンを、前記弾性復元力に抗して前記没入位置に向けて押圧する力を発生させるテーパ面が形成されている。
【0007】
このすべり材ユニットによれば、ホルダの溝部にすべり材を嵌め込むときに、突出位置にある各ピンの先端部に形成されたテーパ面がホルダ又はすべり材に当接することで、各ピンを没入位置側へ押圧する力が発生する。これにより、各ピンは、ばね部材の弾性復元力に抗して突出位置から没入位置に移動するので、すべり材をホルダの溝部に嵌め込むことができる。すべり材がホルダの溝部に嵌め込まれると、ピンが係合穴に対向して配置されることで、各ピンを没入位置側へ押圧する力が解除されるので、没入位置にある各ピンは、ばね部材の弾性復元力によって突出位置に復帰する。これにより、突出位置に復帰した各ピンの先端部が各係合穴に係合されるので、接着剤や皿ねじを用いなくてもホルダにすべり材を固定することができる。
【0008】
(2)前記ピンは、前記先端部と、前記先端部に繋がる胴部と、を有し、前記胴部の外面は、前記胴部が前記穴部に対して回転可能な形状に形成されており、前記先端部の外面には、円錐状の前記テーパ面が形成されているのが好ましい。
この場合、ホルダの溝部にすべり材を嵌め込むときに、突出位置にあるピンの胴部が穴部に対して回転してずれても、ピンの先端部には必ずテーパ面が存在するため、ピンのテーパ面を確実にホルダ又はすべり材に当接させることができる。これにより、ホルダの溝部にすべり材を嵌め込む作業を容易に行うことができる。
【0009】
(3)前記胴部の外面は、円形状に形成されているのが好ましい。
この場合、ピンを容易に製作することができる。
【0010】
(4)前記ピンは、前記先端部と、前記先端部に繋がる胴部と、を有し、前記穴部の内面及び前記胴部の外面は、前記胴部が前記穴部に対して回転不能な形状にそれぞれ形成されているのが好ましい。
この場合、ピンの先端部は係合穴に係合した状態で回転しないので、ピンの先端部が摩耗するのを抑制することができる。その結果、ピンの先端部が摩耗して係合穴との係合が解除されるのを抑制することができる。
【0011】
(5)前記先端部には、当該先端部が前記係合穴に係合した状態で、前記すべり材が前記溝部から抜け出す方向に移動しようとしても、前記ピンが前記突出位置から前記没入位置へ移動するのを規制する規制面が形成されているのが好ましい。
この場合、ホルダの溝部に嵌め込まれたすべり材が溝部から抜け出そうとしても、ピンの規制面によりピンが突出位置から没入位置へ移動するのを規制することができる。これにより、ピンの先端部は係合穴に係合した状態で保持されるので、すべり材がホルダの溝部から抜け出すのを抑制することができる。
【0012】
(6)本発明のすべり支承は、上部構造体と下部構造体との間に配置されるすべり支承であって、前記上部構造体及び前記下部構造体のうちの一方に設けられる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のすべり材ユニットと、前記上部構造体及び前記下部構造体のうちの他方に設けられ、前記すべり材ユニットの前記すべり材が摺動する平滑板と、を備える。
このすべり支承によれば、前記すべり材ユニットと同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤や皿ねじを用いなくてもホルダにすべり材を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るすべり支承の側断面図である。
【
図5】すべり材をホルダの溝部に嵌め込む前の状態を示す側断面図である。
【
図6】すべり材をホルダの溝部に嵌め込む途中において、ピンのテーパ面がホルダに当接した状態を示す側断面図である。
【
図7】すべり材をホルダの溝部に嵌め込む途中において、ピンが没入位置へ移動した状態を示す側断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係るすべり支承におけるホルダに対するすべり材の固定構造を示す拡大側断面図である。
【
図9】第2実施形態のすべり材をホルダの溝部に嵌め込む前の状態を示す側断面図である。
【
図10】第2実施形態のすべり材をホルダの溝部に嵌め込む途中において、ピンのテーパ面がホルダに当接した状態を示す側断面図である。
【
図11】第2実施形態のすべり材をホルダの溝部に嵌め込む途中において、ピンが没入位置へ移動した状態を示す側断面図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係るすべり支承におけるホルダに対するすべり材の固定構造を示す拡大側断面図である。
【
図14】本発明の第4実施形態に係るすべり支承におけるホルダに対するすべり材の固定構造を示す拡大側断面図である。
【
図16】本発明の第5実施形態に係るすべり支承におけるホルダに対するすべり材の固定構造を示す拡大側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
<すべり支承>
図1は、本発明の第1実施形態に係るすべり支承の側断面図である。
図2は、そのすべり支承(後述するホルダ23以下の構造)を上側から見た平面図である。
図1及び
図2において、本実施形態のすべり支承1は、ビルや戸建住宅等の構造物の下部構造体51と上部構造体52との間に配置され、上部構造体52に対して下部構造体51を水平方向に滑動自在とする剛すべり支承からなる。
【0016】
すべり支承1は、下部構造体51の上面に設置された平滑板ユニット10と、上部構造体52の下面に設置されたすべり材ユニット20とによって構成されている。
平滑板ユニット10は、下部構造体51の上面に固定されたソールプレート11と、このソールプレート11の上面に固定された平滑板(スライドプレート)12とを備えている。
【0017】
ソールプレート11は、金属製の板材(例えば一般構造用圧延鋼材等の鋼板)によって正方形状の外形に形成されている。平滑板12は、金属製の板材によって、例えばソールプレート11よりも少し小さい八角形状の外形に形成されている。平滑板12の上面は、後述するすべり材24の摺動面24aが摺動する摺動面12aとされている。平滑板12の摺動面12aには、摩擦抵抗を小さくしてすべり材24の摺動面24aとの摺動性能を向上させるために、例えば磨き作業等による平滑処理が施されている。
【0018】
なお、ソールプレート11の外形は、正方形状に限らず、矩形状や円形状等の他の形状であってもよい。また、平滑板12の外形は、八角形状に限らず、矩形状や円形状等の他の形状であってもよい。
【0019】
<すべり材ユニット>
すべり材ユニット20は、ベースポット21、弾性ゴム22、ホルダ(ピストン)23、及びすべり材(ベアリング)24を備えている。なお、
図2では、説明の便宜上、ベースポット21及び弾性ゴム22の図示を省略している。
【0020】
ベースポット21は、例えば一般構造用圧延鋼材等の鋼板によって正方形状の外形に形成されている。ベースポット21は、上部構造体52の下面に固定されている。ベースポット21には、下側に開口する凹溝21aが形成されている。凹溝21aは、図示を省略するが、平面視において円形状に形成されている。
【0021】
ホルダ23は、金属製の板材(例えばステンレス製の鋼板)によって、円形状の外形に形成されている。ホルダ23の上端部は、ベースポット21の凹溝21aに嵌め込まれている。凹溝21aの底面とホルダ23の上面との間には、シート状の弾性ゴム22が介在している。ホルダ23の下面には、平面視において円形状の溝部23aが形成されている。
【0022】
すべり材24は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、又はポリアセタール樹脂等の合成樹脂製の板材によって、円形状の外形に形成されている。すべり材24は、ホルダ23の溝部23aに嵌め込まれている。すべり材24の下面は、平滑板12の摺動面12aに対して摺動する摺動面24aとされている。
【0023】
なお、ベースポット21の外形は、正方形状に限らず、矩形状や丸形状等の他の形状であってもよい。また、ホルダ23及びすべり材24の各外形は、円形状に限らず、正方形状や矩形状等の他の形状であってもよい。
【0024】
<すべり材の固定構造>
図3は、ホルダ23に対するすべり材24の固定構造を示す
図1のA部拡大断面図である。
図2及び
図3において、すべり材24の外周面(側面)24bには、溝部23aの内周面(側面)23bに対向する位置において径方向内側に延びる穴部25が形成されている。穴部25は、すべり材24の外周面24bにおいて周方向に等間隔をあけて複数(例えば
図2に示すように2個)形成されている。各穴部25の内面25aは、円形状に形成されている。各穴部25には、ピン26が設けられている。なお、
図2では、便宜上、穴部25及びピン26を少し拡大して図示している(後述するばね部材27及び係合穴28も同様)。
【0025】
図4は、ピン26を示す斜視図である。
図3及び
図4において、ピン26は、先端部26aと、先端部26aに繋がる胴部26bと、を有している。本実施形態における先端部26aの外面には、円錐状のテーパ面26cが形成されている。本実施形態の胴部26bは、軸線Cを中心として円柱状に形成されている。胴部26bの外径は、穴部25(内面25a)の穴径よりも少し小さい。これにより、胴部26bの外面26b1は、穴部25に対して軸線C回りに回転可能な形状である円形状に形成されている。先端部26aの基端(胴部26bとの接続端)における外径は、胴部26bの外径と同一である。
【0026】
以上の構成により、ピン26は、穴部25において径方向に移動可能に設けられている。具体的には、ピン26は、穴部25において、先端部26aがすべり材24の外周面24bから突出する突出位置(
図3)と、先端部26aを含むピン26全体が穴部25に没入する没入位置(
図7)との間で移動可能に設けられている。
【0027】
図2及び
図3において、各穴部25には、ピン26よりも径方向内側にばね部材27が設けられている。本実施形態では、ばね部材27として、例えば圧縮コイルスプリングが用いられている。ばね部材27は、ピン26が突出位置にあるときは自由状態である。この状態からピン26が突出位置よりも径方向内側(没入位置側)へ移動すると、ばね部材27は自由状態から収縮する。これにより、ばね部材27は、弾性復元力によりピン26を径方向外側(突出位置側)へ付勢する。
【0028】
ホルダ23の溝部23aの内周面23bには、ピン26と同数の複数の係合穴28が周方向に等間隔をあけて形成されている。各係合穴28は、溝部23aの内周面23bにおいて、すべり材24が溝部23aに嵌め込まれた状態で各ピン26と径方向に対向して配置される位置に形成されている。各係合穴28は、円錐状に形成されている(
図5も参照)。各係合穴28には、突出位置にあるピン26の先端部26aが係合している。これにより、すべり材24は、ホルダ23の溝部23aに嵌め込まれた状態で固定されている。
【0029】
<すべり材の固定方法>
次に、
図3及び
図5~
図7を参照しながら、すべり材24をホルダ23の溝部23aに固定する方法について説明する。まず、
図5に示すように、すべり材24をホルダ23の下方に配置させる。その際、すべり材24の各穴部25において、ばね部材27は自由状態であり、ピン26は突出位置にある。
【0030】
図5に示す状態から、すべり材24をホルダ23の溝部23aに向けて上方へ移動させる。そうすると、
図6に示すように、すべり材24の上端部が溝部23aに嵌め込まれた状態で、突出位置にある各ピン26のテーパ面26cが、ホルダ23の下面23c(溝部23aの開口縁)に当接する。
【0031】
図6に示す状態から、すべり材24をさらに上方へ移動させると、各ピン26のテーパ面26cがホルダ23の下面23cに押し付けられることにより、各ピン26を突出位置から没入位置に向けて押圧する力が発生する。これにより、各ピン26は、
図7に示すように、ばね部材27の弾性復元力に抗して、突出位置から没入位置に移動する。この状態において、各ピン26は、先端部26aの先端が溝部23aの内周面23bに当接することで、没入位置に保持される。
【0032】
図7に示す状態から、すべり材24をさらに上方へ移動させると、
図3に示すように、すべり材24の上面が、溝部23aの底面に当接することで、すべり材24は、溝部23aに嵌め込まれた状態となる。この状態において、各ピン26は、係合穴28に対向して配置されるので、各ピン26の先端部26aと溝部23aの内周面23bとの当接が解除される。そうすると、各ピン26は、ばね部材27の弾性復元力により没入位置から突出位置へ復帰し、各ピン26の先端部26aがホルダ23の係合穴28に係合する。これにより、すべり材24は、ホルダ23の溝部23aに嵌め込まれた状態で固定される。
【0033】
<作用効果>
第1実施形態のすべり支承1によれば、ホルダ23の溝部23aにすべり材24を嵌め込むときに、突出位置にある各ピン26の先端部26aに形成されたテーパ面26cがホルダ23の下面23cに当接することで、各ピン26を没入位置側へ押圧する力が発生する。これにより、各ピン26は、ばね部材27の弾性復元力に抗して突出位置から没入位置に移動するので、すべり材24をホルダ23の溝部23aに嵌め込むことができる。すべり材24がホルダ23の溝部23aに嵌め込まれると、ピン26がホルダ23の係合穴28に対向して配置され、各ピン26を没入位置側へ押圧する力が解除されるので、没入位置にある各ピン26は、ばね部材27の弾性復元力によって突出位置に復帰する。
【0034】
これにより、突出位置に復帰した各ピン26の先端部26aが各係合穴28に係合されるので、接着剤や皿ねじを用いなくてもホルダ23にすべり材24を固定することができる。その結果、合成樹脂製のすべり材24の材質に関わらず、すべり材24を確実にホルダ23の溝部23aに固定することができる。また、すべり材24の摺動面24aに、皿ねじを挿入する座ぐり穴を形成する必要がないので、すべり材24と平滑板12との接触面積が減少することはない。これにより、すべり材24が大型化することも抑制することができる。
【0035】
また、ピン26の胴部26bの外面26b1は、胴部26bが穴部25に対して軸線C回りに回転可能な形状に形成されており、ピン26の先端部26aの外面には、円錐状のテーパ面26cが形成されている。これにより、ホルダ23の溝部23aにすべり材24を嵌め込むときに、突出位置にあるピン26の胴部26bが穴部25に対して軸線C回りに回転してずれても、ピン26の先端部26aには、必ずテーパ面26cが存在するため、ピン26のテーパ面26cを確実にホルダ23の下面23cに当接させることができる。これにより、ホルダ23の溝部23aにすべり材24を嵌め込む作業を容易に行うことができる。
【0036】
また、ピン26の胴部26bの外面26b1は、円形状に形成されているので、ピン26を容易に製作することができる。
【0037】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係るすべり支承1におけるホルダ23に対するすべり材24の固定構造を示す拡大側断面図である。第2実施形態では、穴部25、ピン26、及びばね部材27がホルダ23に設けられ、係合穴28がすべり材24に形成されている点で、第1実施形態と相違する。以下、その相違点について具体的に説明する。
【0038】
<すべり材の固定構造>
ホルダ23の溝部23aの内周面(側面)23bには、すべり材24の外周面(側面)24bに対向する位置において径方向外側に延びる穴部25が形成されている。穴部25は、溝部23aの内周面23bにおいて周方向に等間隔をあけて複数(例えば2個)形成されている。各穴部25には、ピン26が設けられている。ピン26は、穴部25において、先端部26aが溝部23aの内周面23bから突出する突出位置(
図8)と、先端部26aを含むピン26全体が穴部25に没入する没入位置(
図11)との間で移動可能に設けられている。
【0039】
各穴部25には、ピン26よりも径方向外側にばね部材27が設けられている。ばね部材27は、ピン26が突出位置にあるときは自由状態である。この状態からピン26が突出位置よりも径方向外側(没入位置側)へ移動すると、ばね部材27は自由状態から収縮する。これにより、ばね部材27は、弾性復元力によりピン26を径方向内側(突出位置側)へ付勢する。
【0040】
すべり材24の外周面24bには、ピン26と同数の複数の係合穴28が周方向に等間隔をあけて形成されている。各係合穴28は、すべり材24の外周面24bにおいて、すべり材24が溝部23aに嵌め込まれた状態で各ピン26と径方向に対向して配置される位置に形成されている。各係合穴28には、突出位置にあるピン26の先端部26aが係合している。これにより、すべり材24は、ホルダ23の溝部23aに嵌め込まれた状態で固定されている。
第2実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
<すべり材の固定方法>
次に、
図8~
図11を参照しながら、第2実施形態においてすべり材24をホルダ23の溝部23aに固定する方法について説明する。まず、
図9に示すように、すべり材24をホルダ23の下方に配置させる。その際、ホルダ23の各穴部25において、ばね部材27は自由状態であり、ピン26は突出位置にある。
【0042】
図9に示す状態から、すべり材24をホルダ23の溝部23aに向けて上方へ移動させる。そうすると、
図10に示すように、すべり材24の上端部が溝部23aに嵌め込まれた状態で、突出位置にある各ピン26のテーパ面26cが、すべり材24の上面24cの外周縁に当接する。
【0043】
図10に示す状態から、すべり材24をさらに上方へ移動させると、各ピン26のテーパ面26cがすべり材24の上面24cに押し付けられることにより、各ピン26を突出位置から没入位置に向けて押圧する力が発生する。これにより、各ピン26は、
図11に示すように、ばね部材27の弾性復元力に抗して、突出位置から没入位置に移動する。この状態において、各ピン26は、先端部26aの先端がすべり材24の外周面24bに当接することで、没入位置に保持される。
【0044】
図11に示す状態から、すべり材24をさらに上方へ移動させると、
図8に示すように、すべり材24の上面24cが、溝部23aの底面に当接することで、すべり材24は、溝部23aに嵌め込まれた状態となる。この状態において、各ピン26は、係合穴28に対向して配置されるので、各ピン26の先端部26aとすべり材24の外周面24bとの当接が解除される。そうすると、各ピン26は、ばね部材27の弾性復元力により没入位置から突出位置へ復帰し、各ピン26の先端部26aがすべり材24の係合穴28に係合する。これにより、すべり材24は、ホルダ23の溝部23aに嵌め込まれた状態で固定される。以上より、第2実施形態のすべり支承1においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0045】
[第3実施形態]
図12は、本発明の第3実施形態に係るすべり支承1におけるホルダ23に対するすべり材24の固定構造を示す拡大側断面図である。
図13は、
図12の固定構造のピン26を示す斜視図である。第3実施形態は、第1実施形態の変形例であり、穴部25、ピン26、及び係合穴28の各形状が第1実施形態と相違する。以下、その相違点について具体的に説明する。
【0046】
<すべり材の固定構造>
図12及び
図13において、ピン26は、三角柱状に形成された先端部26dと、四角柱状に形成されて先端部26dに繋がる胴部26eと、を有している。すべり材24の穴部25は、図示を省略するが、ピン26の胴部26eよりも少し大きい四角柱状に形成されている。これにより、穴部25の内面25b、及びピン26の胴部26eの外面26e1は、胴部26eが穴部25に対して回転不能な形状である四角形状にそれぞれ形成されている。
【0047】
ピン26の先端部26dは、
図12の側面視において、先端を頂点とする二等辺三角形状に形成されている。先端部26dの上側及び下側には、基端から先端へ向かって先細るように平面状のテーパ面26fがそれぞれ形成されている。上側のテーパ面26fは、すべり材24をホルダ23の溝部23aに嵌め込むときにホルダ23の下面23cに当接することで、ピン26を突出位置から没入位置に向けて押圧する力を発生させる。
【0048】
ホルダ23の係合穴28は、ピン26の先端部26dの形状に合わせて三角柱状に形成されており、
図12の断面視において二等辺三角形状に形成されている。係合穴28には、突出位置にあるピン26の先端部26dが係合している。
第3実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
<作用効果>
第3実施形態のすべり支承1によれば、第1実施形態と同様に、接着剤や皿ねじを用いなくてもホルダ23にすべり材24を固定することができる。
また、本実施形態では、穴部25の内面25b、及びピン26の胴部26eの外面26e1は、胴部26eが穴部25に対して回転不能な形状にそれぞれ形成されているので、ピン26の先端部26dは、係合穴28に係合した状態で回転することはない。これにより、ピン26の先端部26dが摩耗するのを抑制することができる。その結果、ピン26の先端部26dが摩耗して係合穴28との係合が解除されるのを抑制することができる。
【0050】
[第4実施形態]
図14は、本発明の第4実施形態に係るすべり支承1におけるホルダ23に対するすべり材24の固定構造を示す拡大側断面図である。
図15は、
図14の固定構造のピン26を示す斜視図である。第4実施形態は、第3実施形態の変形例であり、ピン26の先端部26d及び係合穴28の各形状が第3実施形態と相違する。以下、その相違点について具体的に説明する。
【0051】
<すべり材の固定構造>
図14及び
図15において、ピン26の先端部26dは、側面視において台形状に形成されている。先端部26dの上側には、基端から先端へ向かって先細るように平面状のテーパ面26gが形成されている。テーパ面26gは、すべり材24をホルダ23の溝部23aに嵌め込むときにホルダ23の下面23cに当接することで、ピン26を突出位置から没入位置に向けて押圧する力を発生させる。先端部26dの下側には、基端から先端へ向かって胴部26eの下面と面一となる規制面26hが形成されている。なお、先端部26dは、側面視において台形状に形成されているが、先端が尖るように側面視において直角三角形状に形成されていてもよい。
【0052】
ホルダ23の係合穴28は、ピン26の先端部26dとは異なる形状に形成されている。本実施形態の係合穴28は、ピン26の胴部26eと同じ形状である四角柱状に形成されている。係合穴28には、突出位置にあるピン26の先端部26dが係合している。係合穴28の下面は、突出位置にあるピン26の規制面26hが面接触する接触面28aとされている。
【0053】
図14に示す状態から、すべり材24が溝部23aから抜け出す方向(
図14の下方)に移動しようとすると、ピン26の規制面26hが係合穴28の接触面28aに面接触するので、ピン26を突出位置から没入位置に向けて押圧する力は発生しない。したがって、ピン26の先端部26dが係合穴28に係合した状態で、すべり材24が溝部23aから抜け出す方向に移動しようとしても、ピン26が突出位置から没入位置へ移動するのを規制することができる。
第4実施形態の他の構成は、第3実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0054】
<作用効果>
第4実施形態のすべり支承1によれば、第3実施形態と同様の作用効果を奏する。
また、本実施形態では、ホルダ23の溝部23aに嵌め込まれたすべり材24が溝部23aから抜け出そうとしても、ピン26の規制面26hにより、ピン26が突出位置から没入位置へ移動するのを規制することができる。これにより、ピン26の先端部26dはホルダ23の係合穴28に係合した状態で保持されるので、すべり材24がホルダ23の溝部23aから抜け出すのを抑制することができる。さらに、係合穴28は、接触面28aを有していれば、ピン26の先端部26dとは異なる形状に形成されていてもよいので、係合穴28の加工自由度を高めることができる。
【0055】
[第5実施形態]
図16は、本発明の第5実施形態に係るすべり支承1におけるホルダ23に対するすべり材24の固定構造を示す拡大側断面図である。
図17は、
図16の固定構造のピン26を示す斜視図である。第5実施形態は、第4実施形態の変形例であり、穴部25、ピン26、及び係合穴28の各形状が第4実施形態と相違する。以下、その相違点について具体的に説明する。
【0056】
<すべり材の固定構造>
図16及び
図17において、ピン26は、先端部26iと、先端部26iに繋がる胴部26kと、を有している。先端部26iは、下面が平坦に形成されるとともに上側が半円柱状に形成され、且つ、
図16の側面視において台形状に形成されている。胴部26kは、下面が平坦に形成されるとともに上側が半円柱状に形成され、且つ、
図16の側面視において四角形状に形成されている。なお、先端部26iは、上側が半円柱状に形成されているが、下面を除く全体が半円柱状に形成されていてもよい。その場合、胴部26kも、先端部26iと同様に、下面を除く全体を半円柱状に形成すればよい。
【0057】
すべり材24の穴部25は、図示を省略するが、ピン26の胴部26kの外周形状に沿って胴部26kよりも少し大きく形成されている。これにより、穴部25の内面25c、及びピン26の胴部26kの外面26k1は、胴部26kが穴部25に対して回転不能な形状にそれぞれ形成されている。
【0058】
ピン26の先端部26iの上側には、基端から先端へ向かって先細るように平面状のテーパ面26mが形成されている。テーパ面26mは、すべり材24をホルダ23の溝部23aに嵌め込むときにホルダ23の下面23cに当接することで、ピン26を突出位置から没入位置に向けて押圧する力を発生させる。
【0059】
ホルダ23の係合穴28は、ピン26の先端部26iとは異なる形状に形成されている。本実施形態の係合穴28は、例えばピン26の胴部26kと同じ形状、つまり下面が平坦に形成されるとともに上側が半円柱状に形成され、且つ
図16の断面視において四角形状に形成されている。係合穴28には、突出位置にあるピン26の先端部26iが係合している。第5実施形態の他の構成は、第4実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
以上より、第5実施形態のすべり支承1においても、第4実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0060】
[その他]
上記各実施形態におけるすべり支承1は、剛すべり支承に適用する場合について説明したが、他の種類のすべり支承にも適用することができ、例えば、積層ゴムが設けられた弾性すべり支承や、平滑板ユニット10が平滑板12のみで構成されるとともに、すべり材ユニット20がホルダ23とすべり材24のみで構成された単純な構造のすべり支承にも適用することができる。
【0061】
上記各実施形態におけるすべり支承1では、下部構造体51に平滑板ユニット10を設け、上部構造体52にすべり材ユニット20を設けているが、下部構造体51にすべり材ユニット20を設け、上部構造体52に平滑板ユニット10を設けてもよい。
上記各実施形態におけるすべり支承1は、ピン26を用いた固定構造と、すべり材24をホルダ23の溝部23aに接着する接着剤と、を併用してもよい。
【0062】
上記各実施形態では、ばね部材27として、圧縮コイルスプリングを用いているが、皿ばね等の他のばねを用いてもよい。
穴部25、ピン26、ばね部材27、及び係合穴28の各個数は、3個以上であってもよい。また、ピン26の形状は、上記各実施形態に限定されるものではなく、例えばピン26の胴部は、三角柱状に形成されていてもよい。
【0063】
上記第4実施形態(
図14)及び第5実施形態(
図16)では、係合穴28の形状を、ピン26の先端部26d,26iとは異なる形状に形成しているが、第1~第3実施形態(
図3,
図8,
図12)と同様に、ピン26の先端部26d,26iと同じ形状に形成してもよい。
【0064】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 すべり支承
12 平滑板
20 すべり材ユニット
23 ホルダ
23a 溝部
23b 内周面(側面)
24 すべり材
24b 外周面(側面)
25 穴部
25a,25b,25c 内面
26 ピン
26a,26d,26i 先端部
26b,26e,26k 胴部
26b1,26e1,26k1 外面
26c,26f,26g,26m テーパ面
26h 規制面
27 ばね部材
28 係合穴
51 下部構造体
52 上部構造体