(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】延伸された芳香族ポリエーテル
(51)【国際特許分類】
D01F 6/66 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
D01F6/66
(21)【出願番号】P 2021520388
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2019078159
(87)【国際公開番号】W WO2020079121
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-15
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラン デ ガンス リー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ヴィールプッツ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ハルトマン
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ハインリッヒ ビュッカー
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-279522(JP,A)
【文献】特開平03-019913(JP,A)
【文献】特開平04-343710(JP,A)
【文献】特開平03-199424(JP,A)
【文献】特開平01-127511(JP,A)
【文献】特表2010-511795(JP,A)
【文献】R. INDU SHEKAR; ET AL,PROPERTIES OF HIGH MODULUS PEEK YARNS FOR AEROSPACE APPLICATIONS,JOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCE,米国,2009年05月15日,VOL:112, NR:4,PAGE(S):2497-2510,https://doi.org/10.1002/app.29765
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/66
D01F 6/76
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントをガラス転移温度と融点の間の温度で延伸し、次いで、全荷重下で前記ガラス転移温度未満に冷却する、少なくとも80重量%の芳香族ポリエーテルを含むことを特徴とする延伸フィラメントの製造方法。
【請求項2】
前記溶融温度と前記ガラス転移温度をDSCによってEN ISO 11357-1:2016Dに準拠して測定することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
85重量%、より好ましくは90重量%、よりいっそう好ましくは95重量%の前記芳香族ポリエーテルを含み、特に芳香族ポリエーテルのみを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記芳香族ポリエーテルは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリールスルホン(PAS)、並びにそれらの混合物及び共重合体から選択されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記延伸を静的な方法で行う、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
冷却を少なくとも10秒、好ましくは少なくとも20秒、より好ましくは少なくとも30秒、特に好ましくは少なくとも45秒、とりわけ好ましくは少なくとも1分行う、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記フィラメントを、延伸後、130℃未満、好ましくは120℃未満、より好ましくは110℃未満、よりいっそう好ましくは100℃未満、特に好ましくは90℃未満、とりわけ好ましくは80℃未満に冷却する、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
延伸係数が5以上、より好ましくは10以上である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
たった1回の延伸操作を行う、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントをガラス転移温度と融点の間の温度で延伸し、前記フィラメントを全荷重で室温に冷却して得られる、芳香族ポリエーテル系延伸フィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化材料は、通常、ポリマーにガラス繊維または炭素繊維を使用することを基礎としている。これは、繊維とマトリックス材料との適合性に根本的な問題があること、すなわち、補強材料とマトリックスの接着に問題があることを意味する。これは、熱可塑性プラスチックをマトリックスとして使用する場合に、しばしば著しい問題となる。さらに、これらの材料は、繊維と分離することが非常に難しいため、リサイクルできない。
【0003】
従来技術は、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを延伸する主たる2つの方法と、溶融紡糸法(特許文献1)と、ゲル紡糸法(特許文献2)と、を開示している。ポリオレフィンは、室温で簡単に延伸することができるが、延伸時の発熱性のために比較的遅い延伸速度を選択する必要がある。延伸ポリオレフィンには、高温で処理すると、延伸後に非常に著しく収縮するという欠点があり、そのため、最初に所望の作業温度で平衡化する必要がある。さらに、延伸ポリオレフィンは、強化繊維としての有用性を定める機械的価値が非常に限られている。特に、熱安定性の欠如と圧縮応力(冷間成形性)の欠如は欠点である。
【0004】
非特許文献1は、紡糸口金あたりの質量スループットを低下させると同時に引取速度を上げることによって得られる、溶融紡糸法による極細PEEKフィラメントを報告している。
【0005】
非特許文献2は、延伸PEEKフィラメントを開示している。しかし、この種のPEEKフィラメントは、機械的特性が不十分である(実施例4を参照)。
【0006】
特許文献3は、いわゆるプリプレグの構成要素として、種々の熱可塑性プラスチック(好ましくは、ポリプロピレンおよびポリエチレン)の延性繊維を開示している。これらは、熱可塑性繊維と脆性繊維(特に炭素繊維)のウィーブを意味すると理解される。これらの材料は、延性繊維の材料のマトリックス中で熱成形または圧縮されることが好ましい。これにより、延性繊維が溶け、マトリックスと脆性繊維の接着が向上する。
【0007】
ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)(PPTA、下記のブランド名のアラミド:Kevlar(登録商標)(米国のDuPont社の商標)、Twaron(登録商標)(日本国のTeijin Lim社の商標))などの完全芳香族ポリアミド繊維の製造が特許文献4に記載されている。
【0008】
本明細書の文脈において、用語「フィラメント」は、繊維、フィルム、またはリボンを意味すると理解される。特に、フィルムは、複数の方向に延伸されることが好ましい。
用語「延伸」は、熱的および機械的エネルギーの適用によって、押出しの終了時に行われる引抜工程を意味すると理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開公報第2004/028803A1号
【文献】国際公開公報第2010/057982A1号
【文献】国際公開公報第2013/190149A1号
【文献】米国特許公報第3,869,430A号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Bruning他(J Mat Sci 38(2003年)2149~53頁)
【文献】Shekar他(応用高分子科学ジャーナル、112巻、4号、2497~2510頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明が解決しようとする問題は、芳香族熱可塑性プラスチックからの延伸フィラメントの製造、および無害で単純で溶媒を必要としない、芳香族熱可塑性プラスチックの延伸方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、延伸後に全荷重で冷却された、芳香族ポリエーテルの延伸フィラメントによって解決された。
【0013】
本発明は、少なくとも80重量%、好ましくは85重量%、より好ましくは90重量%、よりいっそう好ましくは95重量%の芳香族ポリエーテルを含み、特に好ましくは芳香族ポリエーテルのみを含み、かつフィラメントをガラス転移温度と融点の間の温度で延伸し、前記フィラメントを全荷重で前記ガラス転移温度未満に冷却して得られる、延伸フィラメントを提供するものである。
【0014】
本明細書の文脈において、フィラメントを延伸する、ガラス転移温度と融点の間の温度は、「延伸温度」とも呼ばれる。この温度は、延伸操作中、当業者に公知の方法で維持される。
【0015】
本発明はさらに、本発明による延伸フィラメントの製造方法を提供するものである。
【0016】
本発明はさらに、複合材料を製造するための、本発明による延伸フィラメントの使用を提供するものである。
【0017】
本発明はさらに、巻線層を製造するための、本発明による延伸フィラメントの使用を提供するものである。
【0018】
本発明による延伸フィラメントの利点の1つは、それらが高温でほとんど収縮しないこと、すなわち、緩和効果(relaxation effect)をほとんど持たないことである。
本発明による延伸フィラメントは、機械的安定性が高いことも利点である。機械的安定性は、延伸方向の破壊応力の形で測定されることが好ましい。
本発明による延伸フィラメントは、高温においてさえ、機械的安定性が高いことも利点である。
【0019】
本発明による延伸フィラメントは、驚くべきことだが、従来技術に勝る上記の利点を示している。多くの分析努力にもかかわらず、発明者らは、これらの進歩に物理的説明を与えるパラメータを見つけることができなかった。
【0020】
本発明による延伸フィラメント、本発明による前記フィラメントを含む本発明による複合材料、および本発明によるその製造および使用は、本発明が以下の例示的実施形態に限定されることを意図することなく、以下に例として説明される。範囲、一般式、または化合物群を以下に指定する場合、これらは、明示的に言及されている対応する範囲または化合物群だけでなく、個々の値(範囲)または化合物を除くことによって得られるすべての部分範囲および部分化合物群を包含する。本明細書の文脈内で文献が引用される場合、その全内容は、本発明の開示内容の一部を成すことが意図されている。以下に百分率で数値を示す場合、特に明記しない限り、これらは重量%での数値である。組成物の場合、百分率の数値は、特に明記しない限り、組成物全体に対する数値である。以下に平均値を示す場合、特に明記しない限り、これらは質量平均(重量平均)である。以下に測定値を示す場合、特に明記しない限り、これらの測定値は、圧力1013.25hPaかつ温度25℃で測定された値である。溶融温度とガラス転移温度は、DSCによりEN ISO 11357-1:2016Dに準拠して測定されたものである。ガラス転移温度は、当技術分野ではガラス温度と呼ばれることもある。
【0021】
本発明の一態様に関連して提示された技術的詳細および実施形態は、明示的に除外されておらず、かつ技術的に可能である場合は、他の態様にも適用可能である。例えば、本発明による延伸フィラメントの実施形態および好ましいパラメータは、必要な変更を加えて、本発明による方法にも適用可能であり、逆もまた同様である。
【0022】
保護範囲には、本発明による製品の商取引上慣習的な完成品および包装品それ自体、そしてサイズが縮小されたあらゆる形態が、特許請求の範囲に規定されていない範囲まで含まれる。
【0023】
本発明によれば、フィラメントは、ガラス転移温度と融点の間の温度で延伸され、次いで、全荷重で前記ガラス転移温度未満の温度まで冷却される。
【0024】
芳香族ポリエーテルは、好ましくは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリールスルホン(PAS)、ならびにそれらの混合物および共重合体から選択される。より好ましい芳香族ポリエーテルは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)である。
芳香族ポリエーテルは、溶媒を全く含まないことが好ましい。
【0025】
本発明によるフィラメントは、5以上の延伸係数(SF)、より好ましくは10以上のSFで延伸されていることが好ましい。本明細書の文脈における延伸係数は、延伸後に増えたフィラメントの長さによる係数を意味すると理解される。例えば、長さ1mの開始フィラメントを延伸後に10mにする場合は、延伸係数10で延伸する。
【0026】
本発明によるフィラメントは、接触することなく自由空間内で延伸されていることが好ましい。延伸が行われる領域は、環境雰囲気が加熱される領域、すなわち、一種の管状炉または2つの加熱プレート間の空間などである。
【0027】
本発明によるフィラメントは、連続的またはバッチ的に延伸されることができる。
静的延伸、すなわち、フィラメントの一端を10mm/分~最大200mm /分、好ましくは20mm/分~最大100mm/分、より好ましくは30mm/分~80mm/分の速度にとどめる延伸操作が好ましい。
【0028】
好ましい連続延伸操作は、低搬送速度が好ましくは5mm/分~最大20,00mm/分、より好ましくは10mm/分~最大3,000mm/分、よりいっそう好ましくは50mm/分~最大2,500mm/分、さらによりいっそう好ましくは100mm/分~最大2,000mm/分、特に好ましくは500mm/分~1,500mm/分の範囲となるようにして行われる。伸縮係数は、より高速で動作する搬送ユニットの速度を計算するために使用される。例えば、搬送速度は、延伸対象のフィラメントの始端と終端で、それぞれ少なくとも1つのロールまたはスプールの動作速度を調整することによって、調整されることができる。
【0029】
本発明によるフィラメントは、たった1回の延伸操作によって、あるいは複数回連続して延伸することができる。後者の場合、選択した延伸温度をより高くする必要がある。1回限りの延伸操作がより好ましい。
【0030】
本発明によるフィラメントは、延伸操作後、130℃未満、好ましくは120℃未満、より好ましくは110℃未満、よりいっそう好ましくは100℃未満、特に好ましくは90℃未満、とりわけ好ましくは80℃未満に冷却されることが好ましい。
【0031】
本発明によるフィラメントは、延伸操作後、ガラス転移温度未満の温度に冷却される。この冷却は、徐々に、好ましくは少なくとも10秒、より好ましくは少なくとも20秒、よりいっそう好ましくは少なくとも30秒、さらにいっそう好ましくは少なくとも45秒、特に好ましくは少なくとも1分かけて行われることが好ましい。
【0032】
本発明によるフィラメントは、全引張荷重下で冷却される。本明細書の文脈において、これは、延伸時の力の少なくとも80%が、冷却中もフィラメントに作用し続けることを意味する。引張力は、好ましくは90%、より好ましくは95%である。よりいっそう好ましくは、引張力は、延伸時の引張力と実質的に同一である。理想的には、引張力は同一である。
【0033】
本発明による延伸フィラメントは、融点より低い温度に加熱されたときに、張力方向に僅かしか収縮/緩和(shrinkage/relaxation)しないことが好ましい。
【0034】
好ましくは、緩和温度は、ガラス転移温度より高く、かつ溶融温度より低く、好ましくは延伸温度より低い。
【0035】
本発明によるフィラメントは、延伸長さに対して、最大6%、好ましくは最大5.5%、より好ましくは最大5%、よりいっそう好ましくは最大4.5%、特に好ましくは最大4%まで緩和する。
【0036】
本発明によるフィラメントの緩和は、引張応力下では影響を受けないことが好ましい。
【0037】
本発明による延伸フィラメントは、その長手方向に対して垂直な方向の長さの5倍超の長さを有することが好ましい。フィラメントは、好ましくは、いわゆるエンドレスフィラメントである。フィラメントの長さは、常に張力方向で測定される。
【0038】
本明細書の文脈における用語「フィラメント」は、繊維、フィルム、またはリボンを意味すると理解される。特にフィルムは、複数の方向に延伸されることが好ましい。
好ましいフィラメントはリボンである。厚さに対する幅の比が、7~150、好ましくは8~100であるリボンが好ましい。
【0039】
個々のフィラメントを加工して複合材料を形成することができる。したがって、繊維による好ましい複合材料は、繊維束および糸であり、該繊維束または糸を処理して、さらなる複合材料を作製することができ、好ましくは、一方向または多方向のスクリム、マットやニットなどのウィーブ、または混合生成物を作製することができる。
【0040】
スクリムは、例えば、特定の長さに切断されたフィラメント、またはチューブの周りに巻かれた形のエンドレスフィラメントのいずれかで構成されていてよい。
【0041】
エンドレスフィラメントで構成される好ましいスクリムは、中空体の周りに巻かれた層である。この場合、当該フィラメントは好ましくはリボンである。当該巻線層は、一方向または多方向、より好ましくは一方向であることが好ましい。多方向巻線層は、フィラメントの引張方向に対して角度を有する。この角度は、好ましくは5°~120°、より好ましくは30°~90°、特に好ましくは15°~80°の範囲である。チューブ周りの巻線層の場合、これらの巻線は、チューブの中心に対して傾斜角を有する。異なる巻線層は異なる傾斜角を有することが好ましい。チューブ周りの巻線層は、回転後に当該層の縁が互いに面一となるように、傾斜角に対して設計されることが好ましい。
【0042】
さらなる態様において、本発明は、本発明に従って延伸されたフィラメントの製造方法に関する。
本発明はまた、少なくとも80重量%の芳香族ポリエーテルを含み、かつフィラメントをガラス転移温度と融点の間の温度で延伸し、次いで、全荷重下で前記ガラス転移温度未満に冷却して得られる延伸フィラメント、特に本発明に従って延伸されたフィラメントの製造方法に関する。
【0043】
実験例は、本発明による方法の特に好ましいパラメータであるものもあり、以下に記載されている。例えば、上記のように、延伸係数は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である。延伸は、静的に行われることが好ましい。
また、冷却は、少なくとも10秒、好ましくは少なくとも20秒、より好ましくは少なくとも30秒、特に好ましくは少なくとも45秒、とりわけ好ましくは少なくとも1分かけて行うことが好ましい。
フィラメントは、延伸後、130℃未満、好ましくは120℃未満、より好ましくは110℃未満、よりいっそう好ましくは100℃未満、特に好ましくは90℃未満、とりわけ好ましくは80℃未満に冷却されることが好ましい。
本発明による方法は、たった1回の延伸操作を有することが好ましい。
【0044】
本発明による方法は、有利に、融点より低い温度に加熱されたときに、引張方向に僅かしか収縮/緩和しない、好ましくは延伸長さに対して6%以下しか収縮/緩和しない延伸フィラメントの製造を可能にする。
【0045】
有利なことに、本発明によるフィラメントは、従来技術の方法では達成できない、より高い延伸性の点で注目に値する。一方、従来技術によるフィラメントは、機械的特性の喪失に関連して、延伸後(特に緩和後)に、不要に収縮しやすい。したがって、有利なことに、本発明による方法は、既知の従来技術の方法と比較して、例えば高温において、不要な収縮を伴わない、あるいは不要な収縮がかなり少ない延伸フィラメントの提供を可能にする。
【0046】
さらなる態様では、本発明は、本発明による少なくとも延伸フィラメントを少なくとも1つ含む巻線層を含むチューブに関する。これらのチューブは、並外れた安定性の点で注目に値する。
【実施例】
【0047】
材料:
PEEK:VESTAKEEP(登録商標)5000G、Evonik社の商標
融解温度とガラス転移温度の測定を、20K/分の加熱速度で、DIN EN ISO 11357-1:2016Dに準拠して、自動ピーク認識と積分を備えたパーキンエルマーダイヤモンド計を使用して行った。
【0048】
実験例1 試験片の作製:
いずれの場合も、390℃の温度において押出機(Collin E45M)でPEEKを押し出し、カレンダ加工して厚さ650μm、幅23mmのリボンを作製し、130℃に冷却することにより、1つの試験片を作製した。
引取速度は1.4m/分であった。
【0049】
実験例2 試験片の静的または連続延伸:
方法1(静的延伸):
引張試験機(Zwick社、Z101-K)において、実験例1による試験片を、200℃で10mm/分の速度で延伸した。引張応力を解除する前に、延伸後の試験片を室温に冷却した。これにより、本発明による延伸フィラメントを得た。
方法2(連続延伸):
実験例1による切れ目のない試験片をスプール上に配置した。各試験片を、連続機(Retech Drawing)で、4rpmの材料供給速度(1,000mm/分の搬送速度に対応)、かつ最大32rpmの引張速度(8,000mm/分の搬送速度に対応)で、最大8の延伸係数(SF)まで延伸した。延伸係数が低い場合は、それに応じて引張速度を調整した。延伸については200℃の温度で行った。引張力を解除する前に、延伸後の試験片を室温に冷却した。これにより、本発明による延伸フィラメントを得た。
【0050】
実験例3 引張試験による機械的試験:
DIN 527-5:1997に準拠したダンベル試験片(試験片)を、方法1および方法2で得られた延伸フィラメントから打ち抜いた。厚さは、各延伸実験の結果であり、変更されなかった。
引張強さを、23℃で、5mm/分の試験速度、120mmのクランプ長さ、かつ75mmの増分ゲージの測定長さで、Zwick引張試験機を用いて測定した。相対湿度は50%であった。
結果は表1~表3に報告する。各結果は、1つの延伸フィラメントからそれぞれ作製された3つのダンベル試験片の引張試験の算術平均である。
表1~表3において、「最大強度」とは、ダンベル試験片を破壊または引き裂く前の最大力(実質的に破壊強度)を示す。
表1:温度23℃、実験例3(静的延伸)による引張試験の結果
【表1】
【0051】
表2:温度23℃、実験例3(連続延伸)による引張試験の結果
【表2】
【0052】
実験例4(比較例)
実験例2の方法2と同様に、実験例1に従って得られた試験片を、200℃において4rpmの材料供給速度で延伸した。上記のように、引張速度を所望の延伸係数に一致させた。
実験例2とは異なり、延伸後の試験片を、引張荷重なしで直ちに冷却した。
表3:温度23℃、実験例4による引張試験の結果
【表3】
【0053】
実験例3に記載されているように、ダンベル試験片を打ち抜き、それらの機械的特性を引張試験によって測定した。
【0054】
引張荷重下での延伸と冷却によって、本発明によるフィラメントの機械的特性が明らかに向上した。対照的に、非発明的方法で製造したフィラメントの機械的特性(表3)は、同等の延伸性を有する本発明による対応するフィラメント(表1および表2)よりもはるかに劣っていた。比較例の延伸フィラメントの弾性係数は、例えば、係数2まで延伸した場合、未延伸の比較サンプルの弾性係数よりも実際には劣っていた。より高い延伸係数での向上も、本発明による同等のフィラメントの場合と比べるとはるかに目立たなかった。
【0055】
本発明者らが指摘した特に不利な特徴は、実験例4に従って本発明の方法に依らずに製造したフィラメントが、冷却後に高い収縮性を示した点であった。その結果、再現性のある機械的特性を実現することはできなかった。これは、本発明に係るフィラメントと比較して、従来技術に係るフィラメントのさらなる欠点である。
【0056】
さらに、実験によって、静的延伸が、連続延伸よりも明らかに優れた機械的特性を成すことが示された。