(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】脱進機システム及びこれを備える測定装置
(51)【国際特許分類】
G04B 15/14 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G04B15/14 B
G04B15/14 A
(21)【出願番号】P 2021525364
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2019062205
(87)【国際公開番号】W WO2020015889
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】102018212113.3
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518262464
【氏名又は名称】クレアディティヴ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】レデラー カール ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】フォン ターディー-トゥーフ ゲオルグ
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許発明第1009853(FR,A)
【文献】特開2008-58013(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3293583(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3121661(EP,A1)
【文献】スイス国特許出願公開第708043(CH,A3)
【文献】特開2008-3086(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0008051(US,A1)
【文献】スイス国特許出願公開第713616(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸(11)と、複数のインパルス歯(1、8)を有する少なくとも1つのがんぎ車とを備える脱進機システムであって、前記複数のインパルス歯(1、8)は、それぞれ、少なくとも1つのばね部材を介して前記駆動軸(11)につながっており、かつ前記ばね部材が予圧トルクを有するように固定される開始位置を有する、
脱進機システム。
【請求項2】
前記がんぎ車の回転時に、前記複数のインパルス歯(1、8)を前記開始位置からテンション位置まで動かす少なくとも1つのテンション面(2、7)を有する少なくとも1つのレスト部材(5)を備える、
請求項1に記載の脱進機システム。
【請求項3】
前記複数のインパルス歯(1、8)が前記開始位置から前記テンション位置に動き、このプロセスにおいて対応する前記ばね部材の予圧トルクが増えるように、前記がんぎ車を回転させることによって前記少なくとも1つのテンション面(2、7)に対して前記複数のインパルス歯(1、8)を押し付けることができる、
請求項2に記載の脱進機システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つのレスト部材(5)はアンクル、レストレバー、又はテンプの一部として設計される、
請求項2又は3に記載の脱進機システム。
【請求項5】
少なくとも1つのがんぎ車は、前記複数のインパルス歯(1、8)を
前記開始位置において固定する複数の当接部(12、13)を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の脱進機システム。
【請求項6】
1つ又は複数のレスト歯(3、9)を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の脱進機システム。
【請求項7】
少なくとも1つのがんぎ車は2つの部分で設計され、第1の部分として前記複数のインパルス歯(1、8)を有するインパルス輪と、第2の部分としてレスト輪とを有し、前記インパルス輪と前記レスト輪とは互いに対して固定位置に固定され、前記レスト輪における駆動列の動きが制御可能である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の脱進機システム。
【請求項8】
少なくとも1つのがんぎ車は1つの部分及び2つの平面で設計され、該2つの平面のうちの1つは前記複数のインパルス歯(1、8)を有し、レスト輪における駆動列の動きが制御可能である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の脱進機システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の脱進機システムを備える、測定装置。
【請求項10】
前記測定装置はパワーレギュレータを備える、
請求項9に記載の測定装置。
【請求項11】
前記測定装置は時間測定装置である、
請求項9又は10に記載の測定装置。
【請求項12】
前記測定装置は時計である、
請求項9又は10に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば時計等における測定装置において用いることができる脱進機システムに関する。脱進機システムは、駆動軸と、少なくとも1つのインパルス歯を有する少なくとも1つのがんぎ車とを備える。少なくとも1つのインパルス歯は、少なくとも1つのばね部材を介して駆動軸につながっており、かつばね部材が予圧トルクを有するように固定される開始位置を有する。
【背景技術】
【0002】
従動歯車及び時計におけるパワーレギュレータは、とりわけ駆動ばね、従動歯車、又は潤滑剤の品質に起因する様々な力の変動を受けることが知られている。これらの力の変動により、パワーレギュレータの等時性、ひいては時計の品質が影響を受けることになる。そのため、インパルス中に動く駆動列(drive train)を可能な限り短くして干渉源の数を最小限にする工夫がなされてきた。この問題を解決するために、スイス国特許発明第708 043号明細書から、パワートレイン(power train)によってがんぎ車に伝達される力によってエネルギーレベルまで上昇するばね部材上にがんぎ車の歯を配置することが知られている。こうして蓄積されたエネルギーの一部はアンクルの持ち上げ面(lifting surface)へのインパルス伝達中に出力される。強い変動を受けることが知られているがんぎ車の回転によって伝達されるエネルギーは常にこのエネルギーに加えられるが、スイス国特許発明第708 043号明細書に記載されている装置は確かに変動を多少は減衰させるが、そこに引用されている本文にも正しく提示されるように、それらを除去することはできない。これに絶対的に類似する装置が米国特許第2,717,488号明細書に示されているが、ここではあくまで脱進機のノイズの最小化に焦点が当てられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】スイス国特許発明第708 043号明細書
【文献】米国特許第2,717,488号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明の根底には別の目的がある。一定のインパルスエネルギーと高い効率を有する脱進機システムを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1に記載の特徴によって脱進機システムに関して、かつ請求項11に記載の特徴によって測定装置に関して達成される。この点における各従属クレームは、有利なさらなる発展形態を表している。
【0006】
本発明によれば、駆動軸と少なくとも1つのがんぎ車とを備える脱進機システムであって、少なくとも1つのがんぎ車が少なくとも1つのインパルス歯を備える、脱進機システムを提供する。少なくとも1つのインパルス歯は、少なくとも1つのばね部材を介して駆動軸につながっており、かつばね部材が予圧トルクを有するように固定される開始位置を有する(又は好ましくは開始位置を採用する)。
【0007】
がんぎ車のインパルス歯はそれぞれ採用することができる少なくとも2つの位置を有する。そのうちの1つは、インパルス歯が低エネルギーレベルを有し、高エネルギーレベルに上昇しない限りインパルス歯が位置する開始位置であり、その位置に保持されるか又はエネルギー伝達の段階にある。もう一つの位置は、例えば、インパルス歯が高エネルギーレベルを有し、エネルギー出力後に再び開始位置に戻る前にがんぎ車(Δα)の回転中にインパルス歯がもたらされるテンション位置である。ここで「開始位置」とは、インパルス歯又はばね部材ががんぎ車のサイクルにおいて最も小さいテンション(張力、又は圧力)を有する位置ということもできる。ここで「テンション位置」とはインパルス歯又はばね部材ががんぎ車のサイクルにおいて最大のテンションを有する位置ということもできる。したがって、開始位置におけるインパルス歯又はばね部材のテンションは、一般的にテンション位置におけるインパルス歯又はばね部材のテンションよりも小さくなる。
【0008】
本発明によれば、インパルス歯はそれが開始位置にある間予圧トルク(>0Nm)を有する。換言すれば、インパルス歯は既に開始位置においてトルクにより予圧をかけられている。
【0009】
本明細書に開示する本発明は、米国特許第2,717,488号明細書及びスイス国特許発明第708 043号明細書に記載される装置とは決定的に異なる。弾力性のあるインパルス歯も同様に提案されている。しかし、米国特許第2,717,488号明細書では弾力性のあるインパルス歯はエスケープノイズを低減するために使用される。開始位置における弾性インパルス歯の予圧は米国特許第2,717,388号明細書には開示されていない。スイス国特許発明第708 043号明細書でも同様の技術的解決策が採用されているが、本文献は定力脱進機を提示することを意図しており、インパルス歯はその開始位置又はレスト位置において予圧を有さずかつがんぎ車には独立したレスト歯が一切ない。
【0010】
本発明では、少なくとも1つのインパルス歯は開始位置において予圧トルクを有するため、本発明にかかる脱進機システムは、がんぎ車に一体化されかつインパルスを直接的または間接的にテンプまで(例えばアンクルを介して)送ることができるエネルギー貯蔵部を有する。ここでは、エネルギー貯蔵部はがんぎ車の各々のインパルス歯又はインパルス歯の各群に統合される。
【0011】
脱進機の開発においては、インパルス発生部材の慣性が重要な課題となる。それががんぎ車の大きさとテンプの振動数とを決定づける。上向き2.5Hzの振動では、通常エネルギーの60%超(通常は70%超)がインパルス発生部材の加速に利用される。インパルス発生部材の慣性が本発明により最小になるため、インパルス発生部材の加速に使われるエネルギーが少なくなる。このようにして、脱進機システムの効率を大幅に向上させることができる。
【0012】
脱進機システムの効率は、次の式から大まかな概算値が得られる。
η = ( (MH + ML)/2 - E1 /Δα ) / MA
ここで、MA ≧ MHである。
【0013】
ここでηは効率であり、MLは開始位置における予圧トルク、すなわち低トルクであり、MHはテンション位置におけるトルク、すなわち高トルクであり、E1はインパルスの間にインパルス端に向かって動く脱進機部分の運動エネルギー、Δαはインパルス当たりのがんぎ車の回転角度、MAはがんぎ車のトルクである。正確に一連の動作を行うためには、がんぎ車の駆動軸がインパルス歯にテンションを与えるのに必要なトルクよりも大きなトルクを出力する必要がある。脱進機の効率は、テンションを与える(Δα・MA)のに必要なエネルギーのより多くを貯蔵することができるため、0Nm以外の予圧トルクMLにより決定的に増加する。
【0014】
開始位置における可能な限り高いインパルス歯の最小慣性及び予圧トルクMLは、このように、本発明にかかる脱進機システムの効率を上げることに決定的に寄与し、一方で、開始位置における予圧がなければ、利用可能エネルギーのうちの最大50%が使用される可能性がある。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、一定のインパルスエネルギーと高い効率を有する脱進機システムを実現することができる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、脱進機システムは、がんぎ車の回転時にインパルス歯を開始位置からテンション位置まで動かす少なくとも1つのテンション面を有する少なくとも1つのレスト部材を備える。バランストルクは好ましくは2つのテンション面を有する。
【0017】
少なくとも1つのインパルス歯の開始位置において、インパルス歯が開始位置からテンション位置に動き、このプロセスにおいて少なくとも1つのばね部材の予圧トルクが増えるように、少なくとも1つのばね部材の予圧トルクよりも大きなトルクでがんぎ車を回転させることによって少なくとも1つのテンション面に対してインパルス歯を押し付けることができることが特に好ましい。
【0018】
少なくとも1つのレスト部材は好ましくはアンクルとして、レストレバーとして、又はテンプの一部として構成される。
【0019】
少なくとも1つのインパルス歯は、ばね部材が予圧トルクを有するように固定された開始位置を採用することがさらに好ましい。これは、少なくとも1つのインパルス歯が、ばね部材が予圧トルクを有するように固定された開始位置を有し、かつこの開始位置を採用することを意味する。インパルス歯が開始位置から別の位置、例えばテンション位置に動くことは当然ながら依然として可能である。
【0020】
少なくとも1つのインパルス歯は、それが採用することができる全ての位置において(予圧)トルク>0を有することが特に好ましい。
【0021】
さらに好ましい実施形態によれば、がんぎ車は複数のインパルス歯を備える。ここで、インパルス歯はそれぞれ、ばね部材を介して駆動軸につながっていることが好ましい。また、代替的に、1つ、複数、又はすべてのインパルス歯がそれぞれ1つ又は複数のばね部材を介して駆動軸につながっていてもよい。インパルス歯はそれぞれ、それぞれのばね部材と一体に構成されることがさらに好ましく、このばね部材を介してそれぞれのインパルス歯は駆動軸につながっている。
【0022】
本発明にかかる脱進機システムのさらに好ましい実施形態では、少なくとも1つのがんぎ車は、インパルス歯をその開始位置において固定する少なくとも1つの当接部を有する。少なくとも1つのインパルス歯は、例えば、当接部に対して押し付けられ、かくして予圧をかけられた(preloaded)開始位置において固定されることができる。少なくとも1つのがんぎ車は好ましくはインパルス歯とちょうど同じ数の当接部を有する。さらに、当接部はレスト輪上に配置されることが好ましい。
【0023】
本発明にかかる脱進機システムのさらに好ましい実施形態によれば、脱進機システムは1つ又は複数のレスト歯を有する。レスト歯は好ましくはがんぎ車、また好ましくはレスト輪に配置される。
【0024】
本発明にかかる脱進機システムのさらに好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのがんぎ車は2つの部分で設計され、第1の部分として少なくとも1つのインパルス歯を有するインパルス輪を備え第2の部分としてレスト輪を備え、インパルス輪とレスト輪とは互いに対して固定位置に固定され、レスト輪での駆動列の動きが制御可能又は制御されることが好ましい。脱進機システムが複数のがんぎ車を含む場合、全てのがんぎ車又は一部のがんぎ車のみを例えば2つの部分で設計してもよい。
【0025】
本発明にかかる脱進機システムの代替的な好ましい実施形態では、少なくとも1つのがんぎ車は1つの部分及び2つの平面で設計され、2つの平面のうちの1つは少なくとも1つのインパルス歯を有し、レスト輪での駆動列の動きが制御可能又は制御されることが好ましい。脱進機システムが複数のがんぎ車を含む場合,一部又は全てのがんぎ車は1つの部分と2つの平面で設計してもよい。
【0026】
本発明にかかる脱進機システムは30%を超える効率を超える効率、好ましくは35%を超える効率を有することがさらに好ましい。
【0027】
付加的には、本発明は、本発明にかかる脱進機システムを備える測定装置に関する。
【0028】
本発明による測定装置の好ましい実施形態では、測定装置はパワーレギュレータを備える。
【0029】
本発明による測定装置は好ましくは時間測定装置であり、特に時計である。
【0030】
この原理は、最も多様な脱進機の型に用いることができる。
【0031】
アンクル脱進機:
インパルスが、中間部材を介してがんぎ車からテンプまで伝達される。
a.)インパルス面と、テンション面と、レスト面とを有する部材が用いられる。
b.)インパルス面とテンション面とを有する1つの部材と、レスト面を有するもう1つの部材を有する、2つの部材が用いられている。
【0032】
クロノメーター脱進機:
インパルスが、がんぎ車からインパルス面を有するテンプまで直接伝達される。
a.)テンション面とレスト面とを有し、かつ一時的にテンプに接触するレストレバーがある。
b.)テンション面を有しかつ一時的にテンプに接触するテンションレバーがあり、テンプ又はインパルス歯によって作動するレストレバーもある。
【0033】
デュプレックス脱進機:
インパルスががんぎ車からインパルス面を有するテンプまで直接伝達される。
a.)テンション面とレスト面とは同様にテンプの構成要素である。
b.)テンション面とレスト面とは、テンプと恒久的に接触する別々の部材上に配置される。
c.)テンション面はテンプの構成要素であり、レスト面はテンプと恒久的に接触する別個の部材上に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明にかかる脱進機システムの特別な実施形態を示す図である。
【
図2a】がんぎ車が組み立てられる前の2つの部分を示す図である。
【
図2b】組み立て後の、ハブを互いに対して回転させた後の2つの部分を示す図である。
【
図3a】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【
図3b】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【
図4a】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【
図4b】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【
図5a】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【
図5b】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【
図6a】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【
図6b】駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、以下の例及び図面を参照してより詳細に説明されるが、ここに示す特定の実施形態及びパラメータに限定されるものではない。
【0036】
以下、本発明にかかる脱進機システムの機能について、「スイスアンクル脱進機」と類似の「一定エネルギー脱進機」を例にとって図面を参照しながら説明する。
【0037】
まず、
図1に本発明にかかる脱進機システムの特別な実施形態を示す。ここに示す脱進機システムは、駆動軸11と、複数のインパルス歯1、8を有するがんぎ車とを備え、インパルス歯1、8はばね部材を介して駆動軸11につながっている。インパルス歯1、8はそれぞればね部材を介して駆動軸11につながっている。しかし、代替的には、1つ、複数、又はすべてのインパルス歯が1つ又は複数のばね部材を介して駆動軸につながっている。
図1aに示すように、インパルス歯は、例としてインパルス歯8に示すように、採用可能な開始位置を有する。レスト歯がばね部材を介して駆動軸に連結されるが、このばね部材が予圧トルクを有するように、インパルス歯は、この開始位置に固定される。しかしながら、インパルス歯は、例えばインパルス歯1において見られ得るようなテンション位置を採用することもできる。
【0038】
図1に示すがんぎ車は、2つの部分から設計されている。第1の部分として、インパルス歯1、8を有するインパルス輪と、第2の部分として、レスト歯3、9を有するレスト輪である。
図2aには、がんぎ車が組み立てられる前のこれら2つの部分を示す。インパルス歯につながったばね部材は、ここでは弛緩状態にある。
図2bでは(
図1と同様に)、組み立て後の、ハブを互いに対して回転させた後の2つの部分を示す。インパルス輪とレスト輪とは、ここでは固定位置で互いに対して固定されている。加えて、インパルス歯は、それらが予圧トルクを有する開始位置において固定されるように、レスト輪上に位置する当接部12、13に押し付けられる。
【0039】
さらに、
図1に示すがんぎ車は、レスト部材5を有し、これはアンクルとして設計される。レスト部材5は、がんぎ車の回転時にインパルス歯1、8を開始位置からテンション位置まで動かす2つのテンション面2、7を有する。このプロセスにおいて、インパルス歯1の例について
図1に示すように、インパルス歯1が開始位置からテンション位置に動き、かつばね部材の予圧トルクが増大するように、それぞれのインパルス歯1は、がんぎ車の回転により、インパルス歯1の開始位置におけるばね部材の予圧トルクよりも大きなトルクでテンション面2に押し付けられる。
【0040】
図3a~6a及び3b~6bは、駆動軸によるがんぎ車の回転中の脱進機システムの機能を示す。ここで、同じ番号の図aと図bは、どちらも脱進機システムを示しており、一方は正面側から、他方は裏面側から見た異なる方向からの同じ時刻における脱進機システムを示している。
【0041】
図3a及び3bでは、インパルス歯1は開始アンクル側においてより高いトルクM
Hまでテンション面2によりテンションをかけられる。同時に、がんぎ車の駆動軸11は、レスト歯3とレスト面4との接触により拘束される。駆動トルクM
Aと予圧トルクM
Hとの差はこれを通して支持される。
【0042】
テンプがアンクル5を動かすと、まず、インパルス歯1は、もはやテンション面2に留まらなくなると直ちに解放される。インパルス歯1が解放されると、
図4a及び4bに示すように、それが持ち上げ面(lifting surface)6にインパルスを与えアンクル5を駆動する。このプロセスにおいて、インパルス歯1は高い予圧レベルM
Hから低レベルM
Lまで弛緩する。エネルギー出力の終わりに向かって、又はエネルギー出力の後、テンション面7は、アンクルの動きによりインパルス歯8の前に動く。レスト面4はレスト歯3を開放するという点で再びテンションをかけるためにがんぎ車を開放する。
【0043】
図5a及び5bに示すように、テンプは補完的な円弧を形成する一方、レスト歯9がレスト面10に当たるまで駆動軸11が動く。このプロセスの間,インパルス歯8はトルクレベルM
LからM
Hまでアンクルの入力側においてテンション面7により予圧をかけられる。
【0044】
テンプが再びアンクル5を動かすと、インパルス歯8は、もはやテンション面7に留まらなくなると直ちに解放される。インパルス歯8が解放されると、
図6a及び6bに示すように、それがアンクルの入力側における持ち上げ面に衝撃を与えアンクル5を駆動する。このプロセスにおいて、インパルス歯8は高い予圧レベルM
Hから低レベルM
Lに緩和する。レスト面10はレスト輪のレスト歯9を開放し、これが次のインパルス歯の予圧を引き起こす。
【0045】
以後は、テンプがレスト位置をさらに通過するとすぐにこの一連の動作が繰り返される。
【0046】
正確に一連の動作を行うためには、がんぎ車の駆動軸11がインパルス歯1、8にテンションを与えるのに必要なトルクよりも大きなトルクM
Aを出力する必要がある。脱進機の効率は、テンションを与える(Δα・M
A)のに必要なエネルギーのより多くを貯蔵することができるため、0Nm以外の予圧トルクM
Lにより決定的に増加する。これはまた、脱進機のエネルギー図を示す
図7にも示される。
図7では、開始位置におけるインパルス歯の高い予圧レベルM
Lにより、伝達されるエネルギー14の量は、損失エネルギー15の量と比較して非常に高いことが示される。したがって、図から、開始位置においてパルス歯の予圧トルクM
Lを可能な限り高くすることが本発明にかかる脱進機システムの効率を上げることに決定的に寄与することが容易に理解される。対照的に、開始位置における予圧がなければ、利用可能エネルギーのうちの最大50%が使用される可能性がある。