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特許7441844液晶ポリマー粒子、熱硬化性樹脂組成物、および成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】液晶ポリマー粒子、熱硬化性樹脂組成物、および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/03 20060101AFI20240222BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20240222BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20240222BHJP
   C08G 63/193 20060101ALI20240222BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20240222BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240222BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240222BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C08L67/03
C08G63/60
C08G63/183
C08G63/193
C08J3/12 A CFD
C08J5/18 CFD
C08L101/00
H05K1/03 610S
H05K1/03 670Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021540729
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030334
(87)【国際公開番号】W WO2021033578
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019152182
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】江頭 俊昭
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-213802(JP,A)
【文献】特表2015-530460(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150336(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08G 63/00-63/91
C08L 101/00
C08J 3/12
C08J 5/18
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が270℃以上であり、
粒径分布における累積分布50%径D50が20μm以下であり、かつ、累積分布90%径D90がD50の2.5倍以下である、液晶ポリマー粒子であって、
前記液晶ポリマー粒子が、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)と、ジオール化合物に由来する構成単位(II)と、ジカルボン酸に由来する構成単位(III)と、を含み、前記液晶ポリマー粒子全体の構成単位に対して、下記条件:
45モル%≦6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)≦70モル%
15モル%≦4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位(II)≦27.5モル%
9モル%≦テレフタル酸に由来する構成単位構成単位(IIIA)≦25モル%
を満たす、液晶ポリマー粒子。
【請求項2】
前記液晶ポリマー粒子の誘電正接が0.001以下である、請求項1に記載の液晶ポリマー粒子。
【請求項3】
前記液晶ポリマー粒子の粒径分布における最頻度径DのD50に対する比が、0.7以上1.3以下である、請求項1または2に記載の液晶ポリマー粒子。
【請求項4】
前記液晶ポリマー粒子の吸水率が0.05%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶ポリマー粒子。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の液晶ポリマー粒子と、
熱硬化性樹脂と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記液晶ポリマー粒子の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して、5~80質量部である、請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、およびビスマレイミドトリアジン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項またはに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
少なくとも、請求項1~のいずれか一項に記載の液晶ポリマー粒子と、熱硬化性樹脂とを、前記液晶ポリマー粒子の融点未満の温度で混合する工程を含む、製造方法。
【請求項9】
請求項のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を用いてなる、成形体。
【請求項10】
前記成形体が、フィルム状、シート状、または板状である、請求項に記載の成形体。
【請求項11】
厚さが25μm以下の樹脂フィルムである、請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
前記樹脂フィルムの表面粗さRaが1.0μm以下である、請求項11に記載の成形体。
【請求項13】
請求項のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を用いてなる、または、請求項12のいずれか一項に記載の成形体を含んでなる、電子回路基板。
【請求項14】
フレキシブル回路基板である、請求項13に記載の電子回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー粒子に関する。さらに、本発明は該液晶ポリマー粒子を含む熱硬化性樹脂組成物、および該熱硬化性樹脂組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信分野における情報通信量の増加に伴い、電子機器や通信機器等において高周波数帯の周波数を有する信号の使用が増加しており、特に、周波数が10Hz以上であるギガヘルツ(GHz)帯の周波数を有する信号の使用が盛んに行われている。しかしながら、使用される信号の周波数が高くなるに伴い、情報の誤認識を招きうる出力信号の品質低下、すなわち、伝送損失が大きくなる。この伝送損失は、導体に起因する導体損失と、電子機器や通信機器における電子回路基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂組成物に起因する誘電損失とからなるが、導体損失は使用する周波数の0.5乗、誘電損失は周波数の1乗に比例するため、高周波数帯、とりわけGHz帯においては、この誘電損失による影響が非常に大きくなる。このような背景から、回路基板に用いる樹脂として、誘電特性に優れた樹脂が検討されている。例えば、ポリイミドフィルムは比誘電率が低いことから、使用が検討されているが、誘電正接の低下の点では改善の余地があった。
【0003】
液晶ポリマーは、寸法安定性、耐熱性、化学的安定性等に優れ、低誘電率であり、吸水率も低いことから、電子回路基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂組成物として応用が検討されている。しかし、液晶ポリマーは概して溶融張力が低く、フィルム成形における生産性が悪いため、液晶ポリマーからなるフィルムは高価であるという課題を抱えている。そこで、例えば、特許文献1では、特定の繰り返し単位を有する液晶ポリマーと、熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物を用いて成形体を製造することが開示されている。
【0004】
また、液晶ポリマーは誘電特性が優れているため、近年では、高周波信号を処理する回路の基板材料の改良を目的として、薄膜のフィルムが望まれる傾向がある。液晶ポリマーを用いて薄膜のフィルムを製造する際には、粒径の小さな液晶ポリマー粒子が求められる。これまで、より小さな粒径の液晶ポリマー粒子を得るために、例えば、特許文献2では、「プレポリマー」段階で粉砕し、粉砕後、固相重合(粉体状態で加熱処理)を行って粉末状にすることが記載されている。また、特許文献3では、芳香族ポリエステルの組成によって粉砕性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/150336号
【文献】特開2010-77397号公報
【文献】特表2015-530460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の実施例では、液晶ポリマー粒子含有樹脂組成物を用いて厚さ2mmの成形体を製造しているが、それよりも薄膜(例えば、200μm以下)の成形体を製造した場合の表面粗さについては十分な検討がなされていない。実際、特許文献1の実施例に記載のLCP粒子2および3では、ピーク粒度が200μmを超えており、厚さ200μm以下の薄膜では、成形体の表面粗さに影響を及ぼすことが推察される。
【0007】
また、特許文献2では、酢酸や未反応モノマー等が残留した状態で粉砕すると、粉砕機の耐久性に悪影響を及ぼし、結局コストが高くなる傾向があるため、好ましくない。さらに、特許文献3では、ジヒドロキシジフェニルスルホン等の添加が必須であり、そのような極性基が主鎖に入ると、誘電率および誘電正接が高くなる傾向があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、樹脂フィルムに添加した際に、樹脂フィルムの表面粗さを抑えながら、誘電正接を低下させることができる液晶ポリマー粒子を提供することにある。また、本発明の目的は、このような液晶ポリマー粒子を含む熱硬化性樹脂組成物および該熱硬化性樹脂組成物を用いてなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、液晶ポリマー粒子の粒径分布におけるパラメータである累積分布50%径D50および累積分布90%径D90の値を特定の範囲内に調節することによって、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明の一態様によれば、
融点が270℃以上であり、
粒径分布における累積分布50%径D50が20μm以下であり、かつ、累積分布90%径D90がD50の2.5倍以下である、液晶ポリマー粒子が提供される。
【0011】
本発明の態様においては、前記液晶ポリマー粒子の誘電正接が0.001以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、前記液晶ポリマー粒子の粒径分布における最頻度径DのD50に対する比が、0.7以上1.3以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、前記液晶ポリマー粒子の吸水率が0.05%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、前記液晶ポリマー粒子が、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)と、ジオール化合物に由来する構成単位(II)と、ジカルボン酸に由来する構成単位(III)と、を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の態様においては、前記ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位であることが好ましい。
【0016】
本発明の態様においては、前記構成単位(I)の組成比が、前記液晶ポリマー粒子全体の構成単位に対して、40モル%以上80モル%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の他の態様においては、液晶ポリマー粒子と、熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0018】
本発明の他の態様においては、前記液晶ポリマー粒子の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物の固形分質量全体に対して、5~80質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明の他の態様においては、前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、およびビスマレイミドトリアジン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
本発明の他の態様によれば、上記の熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、少なくとも、上記の液晶ポリマー粒子と、熱硬化性樹脂とを、前記液晶ポリマー粒子の融点未満の温度で混合する工程を含む製造方法が提供される。
【0021】
本発明の他の態様によれば、上記の熱硬化性樹脂組成物を用いてなる、成形体が提供される。
【0022】
本発明の他の態様においては、前記成形体が、フィルム状、シート状、または板状であることが好ましい。
【0023】
本発明の他の態様においては、前記成形体が、厚さが25μm以下の樹脂フィルムであることが好ましい。
【0024】
本発明の他の態様においては、前記成形体が、前記樹脂フィルムの表面粗さRaが1.0μm以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の他の態様によれば、上記の熱硬化性樹脂組成物を用いてなる、または、上記の成形体を含んでなる、電子回路基板が提供される。
【0026】
本発明の他の態様においては、前記電子回路基板がフレキシブル回路基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の液晶ポリマー粒子は、樹脂フィルムに添加した際に、樹脂フィルムの表面粗さを抑えながら、誘電正接を低下させることができる。また、本発明は、このような液晶ポリマー粒子を含む熱硬化性樹脂組成物および熱硬化性樹脂組成物を用いてなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための態様】
【0028】
[液晶ポリマー粒子]
本発明の液晶ポリマー粒子は、液晶ポリマーを原料として得られる特定の粒径分布を有する微粒子である。本発明において、液晶ポリマー粒子の粒径分布は、レーザー回折・散乱法粒径分布測定装置を用いて測定することができる。粒径分布における累積分布50%径D50と(以下、「D50」という)は、小粒径側からの累積分布が50%となる粒径の値を表し、累積分布90%径D90(以下、「D90」という)とは、小粒径側からの累積分布が90%となる粒径の値を表し、最頻度径D(以下、「D」という)とは、最も高い頻度の粒径の値を表す。
【0029】
本発明の液晶ポリマー粒子は、粒径分布におけるD50が20μm以下であり、かつ、D90がD50の2.5倍以下であることを特徴とする。
50は、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは1μm以上であり、さらに好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは12μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下、さらにより好ましくは6μm以下である。
90はD50の好ましくは2.2倍以下であり、より好ましくは2.0倍以下であり、さらに好ましくは1.8倍以下である。
液晶ポリマー粒子の粒径分布におけるパラメータであるD50およびD90の値を上記範囲内に調節することによって、樹脂フィルムに添加した際に、樹脂フィルムの表面粗さを抑えながら、誘電正接を低下させることができる。なお、D50およびD90の値は、液晶ポリマー粒子の粉砕方法や粉砕後の篩の条件等によって、調節することができる。
【0030】
本発明の液晶ポリマー粒子は、粒径分布におけるDのD50に対する比が、好ましくは0.7以上1.3以下であり、より好ましくは0.75倍以上1.25倍以下であり、より好ましくは0.8倍以上1.2倍以下である。DのD50に対する比を上記範囲内に調節することによって、樹脂フィルムに添加した際に、樹脂フィルムの表面粗さを抑えながら、誘電正接を低下させることができる。なお、Dの値は、D50およびD90の値と同様に、液晶ポリマー粒子の粉砕方法や粉砕後の篩の条件等によって、調節することができる。
【0031】
液晶ポリマーの液晶性は、メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)等を用い、液晶ポリマーを顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させた後、光学異方性の有無を観察することにより確認することができる。
【0032】
液晶ポリマー粒子の融点は、270℃以上であり、下限値として、好ましくは280℃以上であり、より好ましくは290℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上であり、上限値として、好ましくは370℃以下であり、好ましくは360℃以下であり、さらに好ましくは350℃以下である。液晶ポリマーの融点を上記数値範囲とすることにより、本発明の液晶ポリマー粒子を添加して得られた樹脂フィルムの耐熱性を向上させることができる。なお、本明細書において、液晶ポリマーの融点は、ISO11357、ASTM D3418の試験方法に準拠するものであり、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)等を用いて、測定することができる。
【0033】
液晶ポリマー粒子の誘電正接(測定周波数:10GHz)は、0.001以下であり、好ましくは0.0009以下であり、より好ましくは0.0008以下であり、さらに好ましくは0.0007以下である。当該値は、液晶ポリマー粒子の射出成形品の面内方向の誘電正接の測定値である。なお、当該射出成形品は、30mm×30mm×0.4mm(厚み)の平板状試験片である。
【0034】
液晶ポリマー粒子の吸水率は、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.04%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。吸水率は、乾燥状態の試験片重量と24時間水中に試験片を浸漬させた後の吸水時重量を測定し、吸水時重量と乾燥時重量との差を乾燥時重量で除して、吸水率とした。液晶ポリマー粒子が上記の低い吸水率を有することで、実使用下においても低誘電性能を安定的に発現することができる。
【0035】
本発明による液晶ポリマー粒子の原料である液晶ポリマーは、その組成は特に限定されるものではないが、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)、および芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III)を含むことが好ましい。さらに、本発明による液晶ポリマーは、構成単位(I)~(III)以外の構成単位として、構成単位(IV)をさらに含んでもよい。以下、液晶ポリマーに含まれる各構成単位について説明する。
【0036】
(ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I))
液晶ポリマーを構成する単位(I)は、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であり、下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(I)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0037】
【化1】
上記式中Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもナフチル基が好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0038】
上記式(I)で表される構成単位を与えるモノマーとしては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA、下記式(1))、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化2】
【0039】
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(I)の組成比(モル%)は、下限値としては好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは45モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上であり、さらにより好ましくは55モル%以上であり、上限値としては、好ましくは80モル%以下であり、より好ましくは75モル%以下であり、さらに好ましくは70モル%以下であり、さらにより好ましくは65モル%以下である。構成単位(I)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。
【0040】
(ジオール化合物に由来する構成単位(II))
液晶ポリマーを構成する単位(II)は、ジオール化合物に由来する構成単位であり、下記式(II)で表される芳香族ジオール化合物に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(II)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0041】
【化3】
上記式中Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基が好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0042】
構成単位(II)を与えるモノマーとしては、例えば、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP、下記式(2))、ハイドロキノン(HQ、下記式(3))、メチルハイドロキノン(MeHQ、下記式(4))、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(BisPA、下記式(5))、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物を用いることが好ましい。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0043】
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(II)の組成比(モル%)は、下限値としては好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは12.5モル%以上であり、さらに好ましくは15モル%以上であり、さらにより好ましくは17.5モル%以上であり、上限値としては、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは27.5モル%以下であり、さらに好ましくは25モル%以下であり、さらにより好ましくは22.5モル%以下である。構成単位(II)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。
【0044】
(芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III))
液晶ポリマーを構成する単位(III)は、ジカルボン酸に由来する構成単位であり、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(III)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0045】
【化8】
上記式中Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびナフチル基が好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0046】
構成単位(III)を与えるモノマーとしては、テレフタル酸(TPA、下記式(6))、イソフタル酸(IPA、下記式(7))、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA、下記式(8))、およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化9】
【化10】
【化11】
【0047】
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(III)の組成比(モル%)は、下限値としては好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは12.5モル%以上であり、さらに好ましくは15モル%以上であり、さらにより好ましくは17.5モル%以上であり、上限値としては、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは27.5モル%以下であり、さらに好ましくは25モル%以下であり、さらにより好ましくは22.5モル%以下である。構成単位(II)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。なお、構成単位(II)の組成比と構成単位(III)の組成比は実質的に当量((構成単位(II)≒構成単位(III))となる。
【0048】
(他のモノマーに由来する構成単位(IV))
液晶ポリマーは、上記構成単位(I)~(III)以外の他の構成単位をさらに含んでもよい。構成単位(IV)は、上記構成単位(I)~(III)を与えるモノマー以外の他のモノマーに由来するものであって、上記構成単位(I)~(III)を与えるモノマーと重合可能な重合性を有するモノマーに由来するものであれば特に限定されない。重合性基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミン基、ならびにアミド基が挙げられる。構成単位(IV)を与えるモノマーはこれらの重合性基を1つ以上、好ましくは2つ以上有するものである。重合性基が2つ以上含まれる場合、それらの重合性基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。構成単位(IV)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0049】
構成単位(IV)としては、例えば、下記の構成単位(IV-1):
【化12】
が挙げられる。
【0050】
構成単位(IV-1)を与えるモノマーとしては、アセトアミノフェノン(AAP、下記式(9))、p-アミノフェノール、4’-アセトキシアセトアニリド、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化13】
【0051】
また、構成単位(IV)としては、例えば、下記の構成単位(IV-2):
【化14】
が挙げられる。
【0052】
構成単位(V-2)を与えるモノマーとしては、1,4-シクロへキサンジカルボン酸(CHDA、下記式(10))およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化15】
【0053】
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(IV)の組成比(モル%)は、構成単位(I)~(III)の組成比に応じて、適宜設定することができる。具体的には、モノマー仕込みにおけるカルボキシル基と、ヒドロキシ基および/またはアミン基とのモノマー比(モル比)がおおよそ1:1の範囲になるように、各構成単位の組成比を適宜設定すればよい。
【0054】
液晶ポリマーの好ましい配合としては、以下が挙げられる。
45モル%≦6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)≦75モル%
12モル%≦芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)≦27.5モル%
3モル%≦テレフタル酸に由来する構成単位構成単位(IIIA)≦25モル%
2モル%≦2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)≦9モル%
である。
さらに、液晶ポリマーのより好ましい配合としては、以下が挙げられる。
50モル%≦6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)≦70モル%
15モル%≦芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)≦25モル%
9モル%≦テレフタル酸に由来する構成単位構成単位(IIIA)≦22モル%
3モル%≦2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)≦6モル%
である。
さらに、液晶ポリマーのさらにより好ましい配合としては、以下が挙げられる。
54モル%≦6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)≦66モル%
17モル%≦芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)≦23モル%
11モル%≦テレフタル酸に由来する構成単位構成単位(IIIA)≦20モル%
3モル%≦2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)≦6モル%
である。
液晶ポリマー全体の構成単位に対して、各構成単位が上記範囲内であれば、誘電正接の低い液晶ポリマー粒子を得ることができる。
【0055】
(液晶ポリマーの製造方法)
液晶ポリマーは、所望により構成単位(I)~(III)を与えるモノマーおよび所望により構成単位(IV)を与えるモノマーを、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。一実施態様において、本発明に係る液晶ポリマーは、溶融重合によりプレポリマーを作製し、これをさらに固相重合する2段階重合によっても製造することができる。
【0056】
溶融重合は、液晶ポリマーが効率よく得られる観点から、所望により上記構成単位(I)~(III)を与えるモノマーおよび所望により構成単位(IV)を与えるモノマーを、所定の配合で合わせて100モル%として、モノマーが有する全水酸基に対し、1.05~1.15モル当量の無水酢酸を存在させて酢酸還流下において行うことが好ましい。
【0057】
溶融重合とこれに続く固相重合の二段階により重合反応を行う場合は、溶融重合により得られたプレポリマーを冷却固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素等の不活性雰囲気下、または真空下において200~350℃の温度範囲で1~30時間プレポリマー樹脂を熱処理する等の方法が好ましくは選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0058】
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、液晶ポリマーの重合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等、有機化合物触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、モノマーの総量100重量部に対して、0.0001~0.1重量部であることが好ましい。
【0059】
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置等が挙げられる。
【0060】
(熱硬化性樹脂組成物)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、本発明の上述の液晶ポリマー粒子と、熱硬化性樹脂とを含むものである。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂、アクリル樹脂、マレイミド樹脂およびビスマレイミドトリアジン樹脂等が挙げられ、特にポリイミド樹脂が好ましい。これらの熱硬化性樹脂は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0061】
熱硬化性樹脂組成物中の液晶ポリマー粒子の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは5~80質量部であり、より好ましくは10~70質量部であり、さらに好ましくは15~60質量部であり、さらにより好ましくは20~50質量部である。液晶ポリマー粒子の含有量が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを製造した際に樹脂フィルムの表面粗さを抑えながら、誘電正接を低下させることができる。
【0062】
(熱硬化性樹脂組成物の製造方法)
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、少なくとも、上記の液晶ポリマー粒子と、熱硬化性樹脂とを、液晶ポリマー粒子の融点未満の温度で混合する工程を含むものである。液晶ポリマー粒子の融点未満の温度で混合することにより、液晶ポリマー粒子の粒径分布を極力変化させずに、熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。混合方法としては、従来公知の方法により行うことができる。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸または二軸押出機等を用いて混合することができる。
【0063】
(成形体)
本発明の成形体は上記の熱硬化性樹脂組成物を用いて得ることができる。本発明による成形品は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記の液晶ポリマー粒子および熱硬化性樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、着色剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0064】
成形体の厚さは、特に限定されるものではないが、通常10μm以上200μm以下であり、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましい。本発明の液晶ポリマー粒子を含む熱硬化性樹脂組成物を用いた成形体は、厚さ200μm以下の薄膜であっても、表面粗さを抑えることができる。
【0065】
(樹脂フィルム)
本発明の樹脂フィルムは、上記の液晶ポリマー粒子を用いることで、樹脂フィルムの表面粗さを抑えながら、誘電正接を低下させることができる。樹脂フィルムの表面粗さRaは、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.9μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下である。
【0066】
樹脂フィルムの厚さは25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、また、10μm以上であってもよい。上記の液晶ポリマー粒子を用いることで、このような薄いフィルムを製造した場合でも、表面粗さRaを抑えることができる。
【0067】
(成形体の製造方法)
本発明においては、上記の熱硬化性樹脂組成物を、従来公知の方法で成形して得ることができる。成形方法としては、例えば、プレス成形、発泡成形、射出成形、押出成形、打ち抜き成形等が挙げられる。上記のようにして製造される成形体は、用途に応じて、様々な形状に加工することができる。成形体の形状は、限定されるものではないが、例えば、フィルム状、シート状、または板状である。特に、本発明の液晶ポリマー粒子を用いることで薄膜であっても成形体の表面粗さを低くすることができるため、フィルム状の成形体に好適である。
【0068】
(電子回路基板)
本発明の電子回路基板は、上記の熱硬化性樹脂組成物を用いて得ることができる。また、本発明の電子回路基板は、上記の成形体を含むものである。電子回路基板としては、薄膜のフィルム状に形成しても表面粗さを抑えながら、誘電正接を低下させることができるため、フレキシブル回路基板であることが好ましい。
【0069】
(他の形態)
なお、本発明の液晶ポリマー粒子は、成形品として、上記のフィルムや電子回路基板として用いられる他、ボンディングシート、プリプレグ、カバーレイ等にも用いることができる。また、成形品に限定されず、例えば、ペースト状組成物として用いられ、その場合は、接着剤、層間絶縁材、封止材などに用いることもできる。
【実施例
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0071】
<液晶ポリマーの合成>
(合成例1)
攪拌翼を有する重合容器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)60モル%、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP)20モル%、テレフタル酸(TPA)15.5モル%、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA)4.5モル%を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0072】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が310℃になったところで重合物を抜き出し、冷却固化した。得られた重合物を粉砕し目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
【0073】
次に、上記で得られたプレポリマーを、ヤマト科学(株)製のオーブンでヒーターにより、温度を室温から14時間かけて295℃まで昇温した後、295℃で温度を1時間保持して固相重合を行った。その後室温で自然放熱し、液晶ポリマーAを得た。メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用い、液晶ポリマーAを顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を示すことを確認した。
【0074】
(合成例2)
モノマー仕込みを、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)60モル%、BP20モル%、TPA15モル%、およびIPA5モル%に変更し、固相重合の最終温度を265℃、保持時間を1時間にした以外は合成例1と同様にして、液晶ポリマーBを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーBが液晶性を示すことを確認した。
【0075】
<液晶ポリマー粒子の製造>
(実施例1)
上記で合成した液晶ポリマーAの粉末(平均径80μm)を、アイシンナノテクノロジーズ社製ナノジェットマイザーNJ-50型ジェットミルを用いて、粉砕圧1.4MPa、樹脂供給量120g/hの条件で15分間粉砕し、粉砕物を得た。得られた粉砕物を、超音波発信器付振動ふるい機を使って目開き20μmの篩を通ったものを回収した。その結果、略球状の液晶ポリマー粒子A1を得た。
【0076】
(実施例2)
液晶ポリマーAの粉末を、SPEX社製フリーザーミル6775型を用いて、粉砕時間2分および冷却時間1分を1サイクルとして、これを10サイクル繰り返し、粉砕物を得た。得られた粉砕物を、超音波発信器付振動ふるい機を使って目開き20μmの篩を通ったものを回収した。その結果、略球状の液晶ポリマー粒子A2を得た。
【0077】
(実施例3)
実施例1と同じ粉砕装置および粉砕条件で3回粉砕を行い、粉砕物を得た。得られた粉砕物を、超音波発信器付振動ふるい機を使って目開き20μmの篩を通ったものを回収した。その結果、略球状の液晶ポリマー粒子A3を得た。
【0078】
(実施例4)
液晶ポリマーAの粉末を、日本ニューマチック工業社製SPK-12型ジェットミルに同社製DSF-10型分級機を組み合わせた装置を用いて、粉砕圧0.65MPa、樹脂供給量5kg/hの条件で連続的に粉砕を行い、略球状の液晶ポリマーA4を得た。
【0079】
(比較例1)
目開き20μmの篩を使わなかった以外は、実施例1と同様にして、略球状の液晶ポリマー粒子A5を得た。
【0080】
(比較例2)
液晶ポリマーAの代わりに液晶ポリマーBを用い、目開き20μmの篩を使わなかった以外は、実施例1と同様にして、略球状の液晶ポリマー粒子B1を得た。
【0081】
<液晶ポリマーの評価>
(粒径分布の測定)
上記で得られた各液晶ポリマー粒子の粒径分布をレーザー回折・散乱法粒径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LS 13 320乾式システム、トルネードドライパウダーモジュール装着)で測定した。粒径分布を示すパラメータであるD50、D90およびDは、測定データから演算結果として得た。結果を表1に示した。
【0082】
(融点の測定)
上記で得られた各液晶ポリマーの融点を、ISO11357、ASTM D3418の試験方法に準拠して、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)により測定した。このとき、昇温速度10℃/分で室温から360~380℃まで昇温してポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で30℃まで降温し、更に10℃/分の速度で380℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点(Tm)とした。測定結果を表1に示した。
【0083】
(誘電正接の測定(10GHz))
上記で得られた各液晶ポリマーを用いて、それぞれの融点~融点+30℃条件で加熱溶融し、30mm×30mm×0.4mm(厚み)の金型を用いて射出成形し、平板状試験片を作製した。続いて、該平板状試験片を用いて、キーサイト・テクノロジー社のネットワークアナライザーN5247Aを用いて、スプリットポスト誘電体共振器法(SPDR法)により、周波数10GHzの誘電正接を測定した。なお、各種類のサンプルをN=4ずつ測定し、4回の平均値を表1に示した。
【0084】
(吸水率の測定)
上記で製造した各液晶ポリマー粒子の吸水率は、以下の手順で測定した。液晶ポリマー粒子約0.1gを切出し、100℃に設定した真空オーブン中で1時間乾燥後精秤し、乾燥時重量を測定した。その液晶ポリマー粒子を純水に24時間浸漬後、付着した水分をキムワイプで拭き取り、精秤し、吸水時重量を測定した。吸水時重量と乾燥時重量との差を乾燥時重量で除し、吸水率を計算した。計算結果を表1に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
<フィルムの製造1>
(実施例5)
ポリイミドワニス(ソマール株式会社製、スピクセリアGR003)に、ワニス中のポリイミド100質量部に対して30質量部の液晶ポリマー粒子A1を添加し、懸濁液を得た。得られた懸濁液をガラス基板に塗布し、乾燥・硬化させて、厚さ60μmのフィルムを製造した。
【0087】
(実施例6)
フィルムの厚さを20μm以外に変更した以外は、実施例5と同様にして、フィルムを製造した。
【0088】
(実施例7)
液晶ポリマー粒子A1の添加量を30質量部から50質量部に変更した以外は、実施例6と同様にして、厚さ20μmのフィルムを製造した。
【0089】
(実施例8)
液晶ポリマー粒子A1の代わりに30質量部の液晶ポリマー粒子A2を添加した以外は、実施例6と同様にして、厚さ20μmのフィルムを製造した。
【0090】
(実施例9)
液晶ポリマー粒子A1の代わりに30質量部の液晶ポリマー粒子A3を添加した以外は、実施例6と同様にして、厚さ20μmのフィルムを製造した。
【0091】
(参考例)
液晶ポリマー粒子A1を添加しなかった以外は、実施例5と同様にして、厚さ60μmのフィルムを製造した。
【0092】
(比較例3)
液晶ポリマー粒子A1の代わりに30質量部の液晶ポリマー粒子A4を添加した以外は、実施例6と同様にして、厚さ20μmのフィルムを製造した。
【0093】
(比較例4)
液晶ポリマー粒子A1の代わりに30質量部の液晶ポリマー粒子B1を添加した以外は、実施例6と同様にして、厚さ20μmのフィルムを製造した。
【0094】
<性能評価>
(表面粗さの測定)
上記で製造した各フィルムを3mm×80mmの短冊状に切出してフィルムサンプルを得た。続いて、フィルムサンプルの表面粗さを、オリンパス社製OLS5000型レーザー顕微鏡を用いて測定した。測定結果を表2に示した。
【0095】
(誘電率、誘電正接の測定)
上記で製造した各フィルムサンプルについて、10GHzでの誘電率および誘電正接を、株式会社エーイーティー製空洞共振器をアンリツ製スペクトルネットワークアナライザーMS46122B型に接続した測定装置で測定した。測定結果を表2に示した。
【0096】
(吸水率の測定)
上記で製造した各フィルムの吸水率は、以下の手順で測定した。フィルム約0.1gを切出し、100℃に設定した真空オーブン中で1時間乾燥後精秤し、乾燥時重量を測定した。そのフィルム片を純水に24時間浸漬後、付着した水分をキムワイプで拭き取り、精秤し、吸水時重量を測定した。吸水時重量と乾燥時重量との差を乾燥時重量で除し、吸水率を計算した。計算結果を表2に示した。
【0097】
【表2】
【0098】
<フィルムの製造2>
(実施例10)
撹拌装置を備えたガラス製容器中にm-トルイジン(tol)60%、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DDE)40%および所定の濃度になるようにN,N-ジメチルアセトアミドを入れ、窒素雰囲気下25℃で攪拌し、溶液を得た。この溶液にピロメリット酸二無水物(PMDA)100%を数回に分けて投入し、窒素雰囲気下25℃で攪拌し、ポリアミック酸ワニスを得た。得られたポリアミック酸ワニスに、ワニス中のポリアミック酸100質量部に対して30質量部の液晶ポリマー粒子A4を添加し、懸濁液を得る。得られた懸濁液をガラス基板に塗布し、乾燥後、300℃で硬化させて、厚さ25μmのフィルムを製造した。
【0099】
(実施例11)
液晶ポリマー粒子A4の添加量を、ポリアミック酸に対し100質量部に対して50質量部
とした以外は、実施例10と同様にして、厚さ25μmのフィルムを製造した。
【0100】
(実施例12)
ガラス基板上に塗布した懸濁液を乾燥後硬化させる際の温度を350℃とした以外は、実施例11と同様にして、厚さ25μmのフィルムを製造した。
【0101】
(参考例2)
液晶ポリマー粒子A4を添加しなかった以外は、実施例10と同様にして、厚さ25μmのフィルムを製造した。
【0102】
<性能評価>
上記のフィルムの製造1と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0103】
【表3】
【0104】
通常、液晶ポリマー粒子の粉体をポリイミドの前駆体であるポリアミック酸に混合して用いる際の焼成条件は、ポリイミドのイミド化率を十分に高くするために適宜300℃以上で調整される。上記の結果によれば、本発明の液晶ポリマーを用いることで、そのように調整された場合でも、フィルムの誘電正接、比誘電率、及び表面粗さへの悪影響を極力抑えることができる。