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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/852 20230101AFI20240222BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H10N10/852
G01J1/02 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021542053
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020024975
(87)【国際公開番号】W WO2021039081
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019158254
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-135939(JP,A)
【文献】特表2017-500726(JP,A)
【文献】Chong XIAO et al.,“Superionic Phase Transition in Silver Chalcogenide Nanocrystals Realizing Optimized Thermoelectric Performance”,Journal of the American Chemical Society,2012年,Vol. 134, No. 9,p.4287-4293,DOI: 10.1021/ja2104476
【文献】G.A. PAL’YANOVA et al.,“Thermodynamic properties of solid solutions in the system Ag2S-Ag2Se”,Thermochimica Acta,2014年,Vol. 575,p.90-96,DOI: 10.1016/j.tca.2013.10.018
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/852
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Ag(1-x)Seで表され、xの値は、0.2以上0.95以下である熱電変換材料の製造方法であって、
上記xの値が0.2以上0.95以下となるようにAgの粉末と、Sの粉末と、Seの粉末とを準備する工程と、
これらの粉末を混合してプレスし、ペレット状に固めて圧粉体を得る工程と、
得られたペレット状の前記圧粉体の一部を加熱して一部を結晶化させる工程と、
一部を結晶化させた後に加熱を停止し、自己発熱により結晶化を促進して前記圧粉体の残部を結晶化させて熱電変換材料を得る工程と、を含む、熱電変換材料の製造方法。
【請求項2】
前記一部を結晶化させる工程は、前記圧粉体の一部を1秒加熱する、請求項1に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項3】
前記一部を結晶化させる工程および前記熱電変換材料を得る工程は、真空度を1×10 ―4 Paにしたチャンバー内で実施される、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項4】
前記xの値は、0.5以上である、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項5】
前記一部を結晶化させる工程は、前記圧粉体の一部を加熱ヒータにより加熱することにより実施される、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサに関するものである。
【0002】
本出願は、2019年8月30日出願の日本出願第2019-158254号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
熱電変換材料として用いられるAgSe(セレン化銀)が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Marhoun Ferhat et al.、“Thermoelectric and transport properties of β-Ag2Se compounds”、Journal of Applied Physics 88,813 (2000)
【発明の概要】
【0005】
本開示に従った熱電変換材料は、組成式Ag(1-x)Seで表される。xの値は、0.2以上0.95以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施の形態1における熱電変換材料の外観を示す概略図である。
図2図2は、ZTとxの値との関係を示すグラフである。
図3図3は、ZTの値が最大である時の温度とxの値との関係を示すグラフである。
図4図4は、熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。
図5図5は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
図6図6は、赤外線センサの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。熱電変換を利用した発電装置は、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0008】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)を用いた温度差(熱エネルギー)の電気エネルギーへの変換効率ηは以下の式(1)で与えられる。
【0009】
η=ΔT/T・(M-1)/(M+T/T)・・・(1)
【0010】
ηは変換効率、ΔTはTとTとの差、Tは高温側の温度、Tは低温側の温度、Mは(1+ZT)1/2、ZT=αST/κ、ZTは無次元性能指数、αはゼーベック係数、Sは導電率、Tは温度、κは熱伝導率である。変換効率はZTの単調増加関数である。ZTを増大させることが、熱電変換材料の開発において重要である。また、使用環境の観点から低い温度域で高いZTを実現できることが望まれる。
【0011】
そこで、低い温度域で高いZTを実現することができる熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサを提供することを目的の1つとする。
【0012】
[本開示の効果]
上記熱電変換材料によれば、低い温度域で高いZTを実現することができる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る熱電変換材料は、組成式Ag(1-x)Seで表される。xの値は、0.2以上0.95以下である。
【0014】
本発明者らは、低い温度域で高いZTを実現するべく鋭意検討し、組成式Ag(1-x)Seで表され、xの値が0.2以上0.95以下である材料は、低い温度域でZTの値が最大となることを見出した。すなわち、組成式Ag(1-x)Seで表され、xの値が0.2以上0.95以下である熱電変換材料は、低い温度域、例えば室温25℃程度で高いZTを実現することができる。その結果、低い温度域で高い熱電変換効率を実現することができる。
【0015】
上記熱電変換材料において、xの値は、0.5以上であってもよい。このようにすることにより、低い温度域でZTの最大値を比較的大きくすることができる。よって、より高い熱電変換効率を実現することができる。
【0016】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。
【0017】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部を構成する材料が上記熱電変換材料であるため、低い温度域で高いZTを実現することができる。
【0018】
本開示の熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を含む。本開示の熱電変換モジュールによれば、低い温度域で高いZTを実現することができる本開示の熱電変換素子を含むことにより、低い温度域で高いZTを実現することができる熱電変換モジュールを得ることができる。
【0019】
本開示の光センサは、光エネルギーを吸収する吸収体と、吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。
【0020】
本開示の光センサにおいて、熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。そのため、低い温度域で高感度な光センサを提供することができる。
【0021】
[本開示の実施の形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換材料の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0022】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料の構成について説明する。本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料は、組成式Ag(1-x)Seで表される。xの値は、0.2以上0.95以下である。
【0023】
実施の形態1に係る熱電変換材料は、例えば以下の製造方法で製造することができる。まずAgの粉末と、Sの粉末と、Seの粉末とを準備する。ここで、熱電変換材料を組成式Ag(1-x)Seとして表した場合に、xの値が0.2以上0.95以下になるよう、SおよびSeの配合比率を調整する。これらの粉末を混合してプレスし、ペレット状に固めて圧粉体を得る。次に、得られたペレット状の圧粉体の一部を加熱して結晶化させる。
【0024】
圧粉体の一部の加熱は、例えば抵抗加熱ワイヤといった加熱ヒータを有するチャンバー内で行う。チャンバー内は減圧されている。具体的には、チャンバー内の真空度を例えば1×10-4Pa程度にする。そして、圧粉体を加熱ヒータでおおよそ1秒程度加熱する。結晶化開始温度に達すると圧粉体の一部が結晶化する。圧粉体の一部を結晶化させた後に加熱を停止する。この場合、改めて加熱を行わなくとも、自己発熱により結晶化が促進される。すなわち、結晶化の進行に伴う圧粉体の自己発熱により圧粉体の残部を結晶化させる。このようにして実施の形態1における熱電変換材料を得る。具体的な熱電変換材料の組成として、例えばxの値を0.6としたAg0.4Se0.6が挙げられる。なお、本実施の形態における熱電変換材料として、n型の熱電変換材料が得られる。
【0025】
図1は、実施の形態1における熱電変換材料の外観を示す概略図である。図1を参照して、熱電変換材料11は、例えば厚みを有する帯状のバルク体である。
【0026】
図2は、ZTとxの値との関係を示すグラフである。図2において、横軸はxの値、すなわち、Seの含有割合を示し、縦軸はZTの値を示す。図2において、xの値を0から1.0まで示している。データ13aは、参照値として示している。データ14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14hは、それぞれ導出したZTの最大値を示している。なお、データ13aは、温度が177℃である時のZTの値を示す。また、データ14aは、温度が122℃である時のZTの値を示す。データ14bは、温度が92℃である時のZTの値を示す。データ14cは、温度が87℃である時のZTの値を示す。データ14dは、温度が77℃である時のZTの値を示す。データ14eは、温度が67℃である時のZTの値を示す。データ14fは、温度が87℃である時のZTの値を示す。データ14gは、温度が122℃である時のZTの値を示す。データ14hは、温度が131℃である時のZTの値を示す。
【0027】
図3は、ZTの値が最大である時の温度とxの値との関係を示すグラフである。なお、図3においては、ZTの最大値とxの値との関係も示している。図3において、横軸はxの値、すなわち、Seの含有割合を示し、左側の縦軸はZTの値が最大である時の温度(℃)を示し、右側の縦軸はZTの最大値を示している。図3において、三角印は、ZTの最大値を示し、丸印は、ZTの値が最大である時の温度を示す。図3において、ZTの最大値の推移を一点鎖線のアイガイドで示し、ZTの値が最大である時の温度の推移を二点鎖線のアイガイドで示す。
【0028】
図2および図3を参照して、xの値が0から増加するに従い、ZTの値が上昇する。xの値が0.2になると、ZTの最大値は、0よりも大きくなる。この時の温度は122℃である。xの値が0.3の時、ZTの最大値を示す温度は92℃である。xの値が0.4の時、ZTの最大値を示す温度は87℃である。xの値が0.5になると、ZTの最大値は1程度になる。xの値が0.5である時の温度は77℃である。xの値が0.6になると、ZTの最大値は1よりも大きくなる。xの値が0.6である時の温度は67℃である。xの値が0.8の時、ZTの最大値は1程度となる。xの値が0.8である時の温度は87℃である。xの値が0.95の時、ZTの最大値は1よりも大きくなる。xの値が0.95である時の温度は122℃である。
【0029】
よって、組成式Ag(1-x)Seで表され、図3中の領域12Aで示すxの値が0.2以上0.95以下である熱電変換材料は、低い温度域、例えば室温25℃程度で高いZTを実現することができる。その結果、低い温度域で高い熱電変換効率を実現することができる。これについては、ZTの最大値を示す温度の時に熱電変換材料におけるキャリア濃度がピークになっていると考えられる。
【0030】
熱電特性については、熱電特性測定装置(オザワ科学株式会社製RZ2001i)で測定した。熱電特性の測定方法は、以下の通りである。まず、一対の石英治具に熱電変換材料を橋架するよう固定し、雰囲気を抵抗加熱炉で加熱する。石英治具の一方を中空にしておき、その中に窒素ガスを流すことで冷却し、熱電変換材料の一方の端部を冷却する。これにより、熱電変換材料に温度差を付与する。熱電変換材料については、白金-白金ロジウム系熱電対(R熱電対)を用いて、熱電変換材料の表面の2点間の温度差を測定する。熱電対に電圧計を繋げることで、2点間の温度差で発生した電圧を測定する。これにより、温度差に対する発生電圧を測定することが可能となり、これから材料のゼーベック係数を見積もることが可能となる。また、抵抗値は、4端子法で測定する。つまり、電圧計が繋がっている2つの白金線の外側に、2つの電線を接続する。その電線に電流を流し、内側の電圧計で、電圧降下量を測定する。このようにして、4端子法により、熱電変換材料の抵抗値を測定する。測定された抵抗値から抵抗率を導出する。なお、このようにして導出された抵抗率の逆数が、導電率となる。また、熱伝導率κの測定については、Netzsch社製の測定装置(型番LFA457)を用いたレーザフラッシュ法を用いて行った。ゼーベック係数については、測定した温度差と発生した電圧をグラフにプロットし、その傾きを導出することにより算出した。
【0031】
なお、上記熱電変換材料において、xの値を、0.5以上にしてもよい。このようにすることにより、低い温度域でZTの最大値を比較的大きくすることができる。具体的には、例えば、図3中の領域12Bで示すように、xの値を0.5以上0.95以下とする。このようにすることにより、低い温度域でZTの値を確実に大きくすることができる。よって、より高い熱電変換効率を実現することができる。
【0032】
また、低い温度域としてZTが最大値を示す温度が100℃以下であることを望む場合には、図3中の領域12Cで示すように、xの値を0.2以上0.9以下とすればよい。このようにすることにより、100℃以下で熱電変換材料を用いた熱電変換素子を動作させる場合に、ZTの値を最大にすることができる。
【0033】
(実施の形態2)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の一実施形態として、発電素子について説明する。
【0034】
図4は、本実施の形態における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)21の構造を示す概略図である。図4を参照して、π型熱電変換素子21は、第1熱電変換材料部であるp型熱電変換材料部22と、第2熱電変換材料部であるn型熱電変換材料部23と、高温側電極24と、第1低温側電極25と、第2低温側電極26と、配線27とを備えている。
【0035】
p型熱電変換材料部22は、導電型がp型である熱電変換材料からなる。n型熱電変換材料部23を構成する熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料である。
【0036】
p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31からn型熱電変換材料部23の一方の端部32にまで延在するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の両方に接触するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31とn型熱電変換材料部23の一方の端部32とを接続するように配置される。高温側電極24は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0037】
第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22の他方の端部33に接触して配置される。第1低温側電極25は、高温側電極24と離れて配置される。第1低温側電極25は、導電材料、例えば金属からなっている。第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22にオーミック接触している。
【0038】
第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23の他方の端部34に接触して配置される。第2低温側電極26は、高温側電極24および第1低温側電極25と離れて配置される。第2低温側電極26は、導電材料、例えば金属からなっている。第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0039】
配線27は、金属などの導電体からなる。配線27は、第1低温側電極25と第2低温側電極26とを電気的に接続する。
【0040】
π型熱電変換素子21において、例えばp型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の側が高温、p型熱電変換材料部22の他方の端部33およびn型熱電変換材料部23の他方の端部34の側が低温、となるように温度差が形成されると、p型熱電変換材料部22においては、一方の端部31側から他方の端部33側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型熱電変換材料部23においては、一方の端部32側から他方の端部34側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線27には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子21において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。すなわち、π型熱電変換素子21は発電素子である。
【0041】
n型熱電変換材料部23を構成する材料として、例えば、低温度域で高いZTを実現することができる実施の形態1の熱電変換材料が採用される。その結果、π型熱電変換素子21は低温度域で高効率な発電素子となっている。
【0042】
上記実施の形態においては、本開示の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本開示の熱電変換素子はこれに限られない。本開示の熱電変換素子は、例えばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0043】
(実施の形態3)
π型熱電変換素子21を複数個電気的に接続することにより、熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。本実施の形態の熱電変換モジュールである発電モジュール41は、π型熱電変換素子21が直列に複数個接続された構造を有する。
【0044】
図5は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。図5を参照して、本実施の形態の発電モジュール41は、p型熱電変換材料部22と、n型熱電変換材料部23と、第1低温側電極25および第2低温側電極26に対応する低温側電極25、26と、高温側電極24と、低温側絶縁体基板28と、高温側絶縁体基板29とを備える。低温側絶縁体基板28および高温側絶縁体基板29は、アルミナなどのセラミックからなる。p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、交互に並べて配置される。低温側電極25、26は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。高温側電極24は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。p型熱電変換材料部22は、一方側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の高温側電極24により接続される。また、p型熱電変換材料部22は、上記一方側とは異なる側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の低温側電極25、26により接続される。このようにして、全てのp型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とが直列に接続される。
【0045】
低温側絶縁体基板28は、板状の形状を有する低温側電極25、26のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側の主面側に配置される。低温側絶縁体基板28は、複数の(全ての)低温側電極25、26に対して1枚配置される。高温側絶縁体基板29は、板状の形状を有する高温側電極24のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側に配置される。高温側絶縁体基板29は、複数の(全ての)高温側電極24に対して1枚配置される。
【0046】
直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23のうち両端に位置するp型熱電変換材料部22またはn型熱電変換材料部23に接触する高温側電極24または低温側電極25、26に対して、配線27が接続される。そして、高温側絶縁体基板29側が高温、低温側絶縁体基板28側が低温となるように温度差が形成されると、直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23により、上記π型熱電変換素子21の場合と同様に矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、発電モジュール41において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0047】
(実施の形態4)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の他の実施の形態として、光センサである赤外線センサについて説明する。
【0048】
図6は、赤外線センサ51の構造の一例を示す図である。図6を参照して、赤外線センサ51は、隣接して配置されるp型熱電変換材料部52と、n型熱電変換材料部53とを備える。p型熱電変換材料部52とn型熱電変換材料部53とは、基板54上に形成される。
【0049】
赤外線センサ51は、基板54と、エッチングストップ層55と、n型熱電変換材料層56と、n型オーミックコンタクト層57と、絶縁体層58と、p型熱電変換材料層59と、n側オーミックコンタクト電極61と、p側オーミックコンタクト電極62と、熱吸収用パッド63と、吸収体64と、保護膜65とを備えている。
【0050】
基板54は、二酸化珪素などの絶縁体からなる。基板54には、凹部66が形成されている。エッチングストップ層55は、基板54の表面を覆うように形成されている。エッチングストップ層55は、例えば窒化珪素などの絶縁体からなる。エッチングストップ層55と基板54の凹部66との間には空隙が形成される。
【0051】
n型熱電変換材料層56は、エッチングストップ層55の基板54とは反対側の主面上に形成される。n型熱電変換材料層56を構成する熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料である。n型オーミックコンタクト層57は、n型熱電変換材料層56のエッチングストップ層55とは反対側の主面上に形成される。n型オーミックコンタクト層57は、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされる。これにより、n型オーミックコンタクト層57の導電型はn型となっている。
【0052】
型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面の中央部に接触するように、n側オーミックコンタクト電極61が配置される。n側オーミックコンタクト電極61は、n型オーミックコンタクト層57に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。n型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上に、例えば二酸化珪素などの絶縁体からなる絶縁体層58が配置される。絶縁体層58は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52側のn型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。
【0053】
型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面には、さらに保護膜65が配置される。保護膜65は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52とは反対側のn型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。n型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上には、保護膜65を挟んで上記n側オーミックコンタクト電極61とは反対側に、他のn側オーミックコンタクト電極61が配置される。
【0054】
絶縁体層58のn型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面上に、p型熱電変換材料層59が配置される。
【0055】
p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上の中央部には、保護膜65が配置される。p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上には、保護膜65を挟む一対のp側オーミックコンタクト電極62が配置される。p側オーミックコンタクト電極62は、p型熱電変換材料層59に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。一対のp側オーミックコンタクト電極62のうち、n型熱電変換材料部53側のp側オーミックコンタクト電極62は、n側オーミックコンタクト電極61に接続されている。
【0056】
互いに接続されたp側オーミックコンタクト電極62およびn側オーミックコンタクト電極61のn型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面を覆うように、吸収体64が配置される。吸収体64は、例えばチタンからなる。n側オーミックコンタクト電極61に接続されない側のp側オーミックコンタクト電極62上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。また、p側オーミックコンタクト電極62に接続されない側のn側オーミックコンタクト電極61上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。熱吸収用パッド63を構成する材料としては、例えばAu(金)/Ti(チタン)が採用される。すなわち、吸収体64とn型熱電変換材料層56とは、熱的に接続されている。吸収体64とp型熱電変換材料層59とは、熱的に接続されている。
【0057】
赤外線センサ51に赤外線が照射されると、吸収体64は赤外線のエネルギーを吸収する。その結果、吸収体64の温度が上昇する。一方、熱吸収用パッド63の温度上昇は抑制される。そのため、吸収体64と熱吸収用パッド63との間に温度差が形成される。そうすると、p型熱電変換材料層59においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。一方、n型熱電変換材料層56においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。そして、n側オーミックコンタクト電極61およびp側オーミックコンタクト電極62からキャリアの移動の結果として生じる電流を取り出すことにより、赤外線が検出される。
【0058】
本実施の形態の赤外線センサ51においては、n型熱電変換材料層56を構成する熱電変換材料として、実施の形態1の熱電変換材料が採用される。その結果、赤外線センサ51は、低温度域で高感度な赤外線センサとなっている。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
11 熱電変換材料
12A,12B,12C 領域
13a,14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14h データ
21 π型熱電変換素子
22,52 p型熱電変換材料部
23,53 n型熱電変換材料部
24 高温側電極
25 第1低温側電極(低温側電極)
26 第2低温側電極(低温側電極)
27,42,43 配線
28 低温側絶縁体基板
29 高温側絶縁体基板
31,32,33,34 端部
41 熱電変換モジュール
51 赤外線センサ
54 基板
55 エッチングストップ層
56 n型熱電変換材料層
57 n型オーミックコンタクト層
58 絶縁体層
59 p型熱電変換材料層
61 n側オーミックコンタクト電極
62 p側オーミックコンタクト電極
63 熱吸収用パッド
64 吸収体
65 保護膜
66 凹部
I 矢印
図1
図2
図3
図4
図5
図6