(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】計時器用ムーブメントの可動体の軸方向トラベルを制限するように意図されたボルトと、かかるボルトを備える計時器用ムーブメント
(51)【国際特許分類】
G04B 35/00 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G04B35/00 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022144321
(22)【出願日】2022-09-12
【審査請求日】2022-09-12
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・クリスタン
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-89274(JP,A)
【文献】特開2016-173362(JP,A)
【文献】実開昭52-095453(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメント(20)の可動体(21)の軸方向トラベルを制限するように意図されたボルト(10)であって、
前記ボルト(10)には、長手方向の回転軸に沿って延在しているアーバー(12)の端にある頭部(11)があり、
前記頭部(11)は、前記アーバー(12)に対して半径方向の外側まで越えるように延在しており、
前記頭部(11)には、前記頭部(11)の周部の一部にわたって、前記可動体(21)に対向するように配置されるように意図された半径方向の付加的部分(110)があり、
前記頭部(11)には、前記アーバー(12)との接合部に支持用ベース(111)があり、この
支持用ベース(111)を介して前記ボルト(10)が前記計時器用ムーブメント(20)の構造(22)に対向して配置され、
前記
支持用ベース(111)には、前記アーバー(12)の周部に延在している中央の追加厚み部分(112)があり、これによって、前記
支持用ベース(111)の
支持面を前記計時器用ムーブメント(20)の前記構造(22)までに制限することを可能にする
ことを特徴とするボルト(10)。
【請求項2】
前記頭部(11)には、工具と連係して前記アーバー(12)の長手方向の軸を中心とした力モーメントを前記頭部(11)に与えるように構成している起伏(13)がある
ことを特徴とする請求項1に記載のボルト(10)。
【請求項3】
前記アーバー(12)には、前記頭部(11)につながる環状溝(120)がある
ことを特徴とする請求項1に記載のボルト(10)。
【請求項4】
前記アーバー(12)には、環状ボス(121)がある
ことを特徴とする請求項1に記載のボルト(10)。
【請求項5】
前記半径方向の付加的部分(110)には、前記可動体(21)に対向するように意図された面取り部又はフィレット(113)がある
ことを特徴とする請求項1に記載のボルト(10)。
【請求項6】
前記頭部(11)には、前記アーバー(12)の長手方向の軸に平行な平坦な面(116)があり、前記平坦な面(116)は、前記計時器用ムーブメント(20)の前記構造(22)の支持面に支持されるように構成するように意図されている
ことを特徴とする請求項1に記載のボルト(10)。
【請求項7】
前記アーバー(12)の自由端には、面取り部(122)がある
ことを特徴とする請求項1に記載のボルト(10)。
【請求項8】
可動体(21)を備える計時器用ムーブメント(20)であって、
前記可動体(21)は、前記計時器用ムーブメント(20)の構造(22)上に配置され、
前記構造(22)には、請求項1に記載のボルト(10)が嵌められるハウジング(220)が形成されており、
これによって、前記アーバー(12)の長手方向の軸のまわりにて、前記半径方向の付加的部分(110)が前記可動体(21)に対して後退している「アンロック位置」と、前記半径方向の付加的部分(110)が前記可動体(21)に対向している「ブロック位置」の間で、回転することができる
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(20)。
【請求項9】
前記ボルト(10)は、ブロック位置にあるときに、前記半径方向の付加的部分(110)が前記可動体(21)から離れて配置されるように構成している
ことを特徴とする請求項8に記載の計時器用ムーブメント(20)。
【請求項10】
前記構造(22)には、前記可動体(21)のまわりにて分布している少なくとも2つのハウジング(220)が形成されており、各ハウジングにボルト(10)が嵌められる
ことを特徴とする請求項8に記載の計時器用ムーブメント(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の製造の分野に関し、特に、計時器用ムーブメントの可動体の軸方向トラベルを制限するように意図されたボルトに関する。
【0002】
本発明の特に有利なアプリケーションにおいて、前記可動体は、時車によって構成している。
【背景技術】
【0003】
計時器のムーブメントにおいて、車のような可動体の高さ方向のブレ、すなわち、軸方向トラベルが、一般的には、計時器用ムーブメントの表盤によって、また、コックやプレートのような構造要素によって制限される。
【0004】
特に、時車によって形成される可動体の場合、軸方向トラベルは、一般的には表盤によって制限され、また、計時器に表盤がまったくない場合、例えば「スケルトンウォッチ」と呼ばれる携行型時計の場合、時車の軸方向トラベルは、分針によって制限される。
【0005】
このような手法は、可動体の軸方向止めを形成することについては概して満足するものであるが、メンテナンス操作の際などに、車を計時器用ムーブメントから取り外すために比較的長く面倒な操作が必要となる。実際に、この場合に、まず表盤や構造要素を取り外してから、後で可動体を取り外すことができるようにする必要がある。
【0006】
また、このような手法は、機械的なクリアランスの制御、特に、可動体の軸方向トラベルの許容限界値の制御、を難しくすることがある。なぜなら、表盤や構造要素における潜在的な寸法的な不確かさや変形のためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、計時器用ムーブメントにおいて可動体を軸方向にて保持しつつ、潜在的に必要となる可動体の取り外し操作を容易にする手法を提供することによって、前記課題を解決する。
【0008】
本発明の他の目的として、可動体の軸方向トラベルの許容限界値の制御に寄与することがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況で、本発明は、計時器用ムーブメントの可動体の軸方向トラベルを制限するように意図されたボルトに関し、前記ボルトには、長手方向の回転軸に沿って延在しているアーバーの端にある頭部がある。
【0010】
前記頭部は、前記アーバーに対して半径方向の外側まで越えるように延在しており、前記頭部には、前記頭部の周部の一部にわたって、前記可動体に対向するように配置されるように意図された半径方向の付加的部分がある。前記頭部には、さらに、前記アーバーとの接合部に支持用ベースがあり、このベースを介して前記ボルトが前記計時器用ムーブメントの構造に対向して配置される。
【0011】
特定の実施形態において、本発明は、さらに、個別に、又は任意の技術的に実現可能な組み合わせにしたがって考慮される、以下の特徴のうちの1つ又は複数を備えることができる。
【0012】
特定の実施形態において、前記ベースには、前記アーバーの周部に延在している中央の追加厚み部分があり、これによって、前記ベースの前記支持面を前記計時器用ムーブメントの前記構造までに制限することを可能にする。
【0013】
特定の実施形態において、前記頭部には、工具と連係して前記アーバーの長手方向の軸を中心とした力モーメントを前記頭部に与えるように構成している起伏がある。
【0014】
特定の実施形態において、前記アーバーには、前記頭部につながる環状溝がある。
【0015】
特定の実施形態において、前記アーバーには、環状ボスがある。
【0016】
特定の実施形態において、前記半径方向の付加的部分には、前記可動体に対向するように意図された面取り部又はフィレットがある。
【0017】
特定の実施形態において、前記頭部には、前記アーバーの長手方向の軸に平行な平坦な面があり、前記平坦な面は、前記計時器用ムーブメントの前記構造の支持面に支持されるように構成するように意図されている。
【0018】
特定の実施形態において、前記アーバーの自由端には、面取り部がある。
【0019】
本発明の他の目的によると、本発明は、さらに、計時器用ムーブメントの構造上に配置される可動体を備え、計時器用ムーブメントに関する。この構造は、前記ボルトが嵌められるハウジングによって構成している。
【0020】
前記ボルトは、前記アーバーの長手方向の軸のまわりにて、前記半径方向の付加的部分が前記可動体に対して後退している「アンロック位置」と、前記半径方向の付加的部分が前記可動体に対向している「ブロック位置」の間で、回転することができるように、前記ハウジング内に嵌められる。
【0021】
特定の実施形態において、前記ボルトは、ブロック位置にあるときに、前記半径方向の付加的部分が前記可動体から離れて配置されるように構成している。
【0022】
特定の実施形態としては、前記構造には、前記可動体のまわりにて分布している少なくとも2つのハウジングが形成されており、各ハウジングにボルトが嵌められる。
【0023】
添付の図面を参照しながら、例として与えられる以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係るボルトを下方から見た斜視図である。
【
図3】
図1のボルトを備える計時器用ムーブメントの一部を上から見た図である。
【
図4】
図3の計時器用ムーブメントに固定されている
図1のボルトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、計時器用ムーブメント20の可動体21の軸方向トラベルを制限するように意図されたボルト10を示している。このような可動体21は、時車、日付ディスク、月相ディスクなどによって構成していることができる。
【0026】
可動体21は、
図4の断面図に示しているように、少なくとも1つのハウジング220が形成されている計時器用ムーブメント20の構造22上に配置されており、このハウジング220にはボルト10が回転可能に嵌められることが意図されている。
【0027】
ボルト10においては、長手方向の回転軸に沿って延在しているアーバー12の先端に頭部11がある。アーバー12は、計時器用ムーブメント20の構造22のハウジング220内に入れ込まれ、頭部11が構造22に当たるように配置される。
【0028】
アーバー12は、軸対称な形であり、これによって、以下において詳細に説明する可動体21のブロック位置と可動体21のアンロック位置の間で、計時器用ムーブメント20の構造22に対して、長手方向の軸を中心に回転することができる。
【0029】
頭部11は、アーバー12に対して半径方向の外側まで越えるように延在し、頭部11には、頭部11の周部の一部にわたって半径方向の付加的部分110がある。半径方向の付加的部分110は、
図3及び4に示しているように、ボルト10がブロック位置にあるときに可動体21と対向するように構成し、潜在的な止めを形成するように意図されている。
【0030】
特に、
図4に示しているように、ボルト10は、ブロック位置にあるときにも、半径方向の付加的部分110が車21から離れて配置されて、車21が回転しているときに摩擦を発生しないようにされる。
【0031】
例として、ボルト10がブロック位置にあるときに、半径方向の付加的部分110の下面115が可動体21から数十~数百mm離れた位置に配置される。
【0032】
ボルト10は、アンロック位置にあるときに、半径方向の付加的部分110が、可動体21に対して後退していて、可動体21の潜在的な軸方向の運動の間に障害とはならないように構成している。
【0033】
頭部11には、さらに、アーバー12との接合部に支持用ベース111があり、この支持用ベース111を介してボルト10が計時器用ムーブメント20の構造22に当たるように配置されるように意図されている。
図1及び4に示しているように、半径方向の付加的部分110は、ベース111を半径方向に外側まで越えるように延在している。
【0034】
特に
図1に示しているように、ベース111には、好ましくは、アーバー12のまわりに延在している中央の追加厚み部分112があることができる。この追加厚み部分12は、ボルト10の軸方向の肩部を形成するように意図されており、この肩部を介してボルト10が計時器用ムーブメント20の構造22に支えられる。
【0035】
追加厚み部分112は、軸対称の実質的に円筒状の形であり、その軸がアーバー12の長手方向の軸と一致する。追加厚み部分112の断面の半径方向の寸法は、ベース111の半径方向の寸法と比べて小さく、これによって、ベース111の支持面を計時器用ムーブメント20の構造22の上にて制限する。このように、追加厚み部分112のおかげで、ボルト10の回転時の摩擦を低減して、ボルト10が回転駆動しやすくすることができる。また、追加厚み部分112には、ボルト10の回転時に、構造22と、頭部11の潜在的なエッジ又は潜在的な鋭角との間の接触をいずれも避けて、ボルト10の回転時に計時器用ムーブメント20の構造22を損傷してしまうことを防ぐ利点もある。
【0036】
回転駆動することができるように、頭部11には、工具と連係して、アーバー12の長手方向の軸を中心とした力モーメントを頭部11に与えるように構成している起伏13があることができる。
【0037】
図1~4に示している好ましい実施形態において、起伏13は、マイナスのねじ回しの先端と連係するように意図された溝によって形成されている。起伏13は、計時器用ムーブメント20の構造22の方を向くように意図された下面115とは反対側にある、頭部11の上面114に形成される。
【0038】
半径方向の付加的部分110は、自由端まで半径方向に延在し、その自由端と、頭部11の下面115に対応する面との間には、ボルト10がブロック位置にあるときに可動体21に対向するように配置されるように意図された面取り部又はフィレット113がある。この特徴のおかげで、ボルト10がブロック位置とアンロック位置の間で回転駆動されるときに可動体21を損傷しがちなエッジや鋭角をいずれもなくすことができる。
【0039】
好ましくは、頭部11には、アーバー12の長手方向の軸に平行な少なくとも1つの平坦な面116があることができ、この平坦な面116は、ボルト10がアンロック位置又はブロック位置にあるときに構造22の支持面(図示せず)に支えられるように意図されている。
【0040】
好ましくは、
図1~4に示しているように、頭部11には、頭部11の側壁を形成する2つの平行な反対側の平坦な面116がある。このように、アンロック位置又はブロック位置は、平坦な面116のいずれか一方がこの目的のために設けられた計時器用ムーブメント20の構造22の支持面に当たるまでボルト10をいずれかの回転方向に回転させるときに達する2つの角位置のいずれか一方に対応していることができる。
【0041】
好ましくは、そして好ましいことに、アーバー12には、頭部11に連続する環状溝120がある。この溝120のおかげで、計時器用ムーブメント20の構造22の潜在的なバリや、アーバー12を計時器用ムーブメント20の構造22に嵌めるときに発生する材料の潜在的な切り粉を収容することができる。
【0042】
また、
図1、2及び4に示しているように、アーバー12には、好ましくは、環状ボス121がある。このようなボス121のおかげで、アーバー12を駆動するときに計時器用ムーブメント20の構造22が変形するリスクを避けるようにアーバー12を駆動するために必要な力を小さくすることができる。また、この特徴には、ボルト10を回転駆動するために必要な力モーメントを小さくすることができるという利点があり、このことによって、ボルト10がブロック位置とアンロック位置の間にて回転しているときにボルト10の頭部11を剪断してしまうリスクを避けることができる。
【0043】
好ましくは、アーバー12の自由端には、面取り部122があることができ、このおかげで、計時器用ムーブメント20の構造22に形成されたハウジング220内にアーバー12を嵌めやすくして、ボルト10を配置して入れ込むことができる。
【0044】
また、自由端とボス121の間にあるアーバー12の部分の断面が、ボス121の断面と比べて小さいことのおかげで、ボルト10が入り込む前にハウジング220内へのアーバー12の導入をガイドすることができる。
【0045】
好ましくは、計時器用ムーブメント20の構造22には、可動体21のまわりに分布する複数のハウジング220が形成されており、計時器用ムーブメント20は、複数のボルト10を備え、その各ボルト10が、ハウジング220内に収容され、可動体21の軸方向トラベルを制限するように構成している。
【0046】
特に、図示していない1つの実施形態において、計時器用ムーブメント20は、例えば時車によって形成される、可動体21のまわりに分布している3つのボルト10を備える。
【0047】
本発明の利点の1つは、計時器用ムーブメントの顧客が時車の取り付けを自分で行う必要がないような、組み付けられた時車を備える計時器用ムーブメントを提供することができることである。
【0048】
より一般的には、上で検討した実装例及び実施形態は、例として説明しており、それらに制限されず、したがって、他の変異形態も考えられる。
【符号の説明】
【0049】
10 ボルト
11 頭部
12 アーバー
13 起伏
20 計時器用ムーブメント
21 可動体
22 構造
110 半径方向の付加的部分
111 ベース
112 追加厚み部分
113 面取り部又はフィレット
116 平坦な面
120 環状溝
121 環状ボス
122 面取り部
220 ハウジング