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特許7441948温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたFGF2ポリペプチド並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたFGF2ポリペプチド並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/50 20060101AFI20240222BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240222BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20240222BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C07K14/50 ZNA
A61K8/64
C12N5/02
C12N15/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022530732
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-10
(86)【国際出願番号】 KR2020016065
(87)【国際公開番号】W WO2021107473
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】10-2019-0152362
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0129526
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518304915
【氏名又は名称】コリア インスティテュート オブ オーシャン サイエンス テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】522205161
【氏名又は名称】チャ,キウォン
【氏名又は名称原語表記】CHA,Kiweon
【住所又は居所原語表記】#201,40-10,Mansu 1-gil,Osong-eup,Heungdeok-gu,Cheongju-si,Chungcheongbuk-do 28166(KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イム,ヒョン-スン
(72)【発明者】
【氏名】アン,ヨン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ,キョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,イェ ウン
(72)【発明者】
【氏名】チャ,キウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ウォン キュ
(72)【発明者】
【氏名】ウ,ジュラン
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2009-0083062(KR,A)
【文献】特表2019-500414(JP,A)
【文献】特開2017-140032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0291931(US,A1)
【文献】鈴木 譲,化学と生物,1995年,Vol. 33, No.4,pp. 218-223
【文献】Tomoko Sotomatsu-Niwa, Akio Ogino,Journal of Molecular Structure (Theochem),1997年,Vol 392,pp. 43-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
A61K8/00-8/99
A61K38/00-51/12
A61Q1/00-90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から、28番目のアスパラギン酸(D)がグルタミン酸(E)に置換され、
78番目のシステイン(C)がイソロイシン(I)またはロイシン(L)に置換され、
96番目のシステイン(C)がイソロイシン(I)に置換され、
137番目のセリン(S)がプロリン(P)に置換され、
FGF2活性を有し、野生型ヒトFGF2ポリペプチドと比較すると熱的安定性が向上した、ポリペプチド。
【請求項2】
前記28番目のアスパラギン酸(D)がグルタミン酸(E)に置換され、
前記78番目のシステイン(C)がイソロイシン(I)に置換され、
前記96番目のシステイン(C)がイソロイシン(I)に置換され、
前記137番目のセリン(S)がプロリン(P)に置換された、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は請求項2によるポリペプチド、および、化粧用に許容可能な担体を含む、組成物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2によるポリペプチドを有効成分として含む、ヒト多能性幹細胞培養培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本記載は温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたFGF2ポリペプチド並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
FGF(Fibroblast Growth Factor)は、細胞の成長、増殖、分化を調節する重要な役割を果たす因子である。人体の各組織の機能を維持するために多様な種類のFGFが生成され、これらは細胞の分化と増殖に固有の機能を果たしている。しかし、老化が進むにつれて皮膚など各組織でのFGFの濃度は徐々に低くなり、そのため細胞の再生および分裂機能が弱まり、皮膚にしわが形成されて弾力が減少する。
【0003】
多様なFGFの中でFGF2(Fibroblast Growth Factor 2)は、主に155個のアミノ酸で構成されており、分子量は約18kDaである。FGF2は、広範囲な有糸分裂(mitogenic)および細胞生存活性(cell survival activity)を有し、創傷治癒、血管生成、そして神経系の成長で強力なメディエーターとしての役割を果たす。
【0004】
したがって、FGF2は、血管新生促進、創傷治癒促進、軟骨形成または骨形成の促進および神経発生を促進させる医薬品として開発されているだけでなく、皮膚再生、しわ除去または弾力増加のための化粧品の原料としても広く使用されている。また、細胞を多能性状態に維持する機能を有することからヒト多能性幹細胞(PSC)培養用培地などにも主要因子として添加されている。
【0005】
このように人体内で多様な機能を有するFGF2は、熱力学的に安定性が上皮細胞成長因子(EGF)、インシュリン様成長因子(IGF)そして血管内皮細胞成長因子(VEGF)等に比べて大きく劣ると報告されている。また、タンパク質分解酵素によって切断されやすい問題もある。したがって、FGF2が産業的な用途に好適に使用されるためには、FGF2の熱力学的安定性および/またはタンパク質分解酵素抵抗性が担保されることが必須の条件である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたFGF2ポリペプチドを提供する。
【0007】
本開示は温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたFGF2ポリペプチドを含む薬剤学的または化粧用組成物を提供する。
【0008】
本開示は温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたFGF2ポリペプチドを含むヒト多能性幹細胞培養培地を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施例による温度安定性を向上させたFGF2ポリペプチドは、配列番号1から、28番目のアスパラギン酸(D)がグルタミン酸(E)に置換されるか、78番目のシステイン(C)がロイシン(L)またはイソロイシン(I)に置換されるか、96番目のシステイン(C)がトリプトファン(W)またはイソロイシン(I)に置換されるものの中から選択された少なくとも一つ以上の置換を含み、FGF2固有の活性を有する温度安定性を向上させた(thermally stable(熱に安定な))ポリペプチドである。
【0010】
実施例による組成物は、温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたポリペプチド、並びに、薬剤学的にまたは化粧用に許容可能な担体を含む。
【0011】
実施例によるヒト多能性幹細胞培養培地は、温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたポリペプチドを有効成分として含む。
【発明の効果】
【0012】
実施例によるFGF2ポリペプチドは、製品の製造後に野生型ヒトFGF2ポリペプチドと比較する時、向上した温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を示す。
【0013】
温度安定性およびタンパク質分解酵素抵抗性を向上させたポリペプチドは、流通と保管過程においても既存の野生型ヒトFGF2製品とは異なり活性維持が可能である。したがって、これを薬剤学的または化粧用組成物の有効成分として使用することができる。また、未分化性増殖を誘導する活性が、ヒト多能性幹細胞培養培地の有効成分として使用される時、野生型FGF2に比べて長い間維持され得る長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】野生型FGF2のポリペプチド(配列番号1)である。
図2】野生型FGF2とFGF2変異体(pQE80_hFGF2(S137P)、pQE80_hFGF2(D28E、S137P))のSDS-PAGEを示す。
図3】野生型FGF2(△9N-hFGF2)とFGF2変異体(△9N-hFGF2(D28E,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96W,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96W,S137P))の37℃での安定性を測定するためのSDS-PAGEを示す。
図4】野生型FGF2(△9N-hFGF2)とFGF2変異体(△9N-hFGF2(D28E,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96W,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96W,S137P))の45℃での安定性を測定するためのSDS-PAGEを示す。
図5】野生型FGF2とFGF2変異体(pQE80_hFGF2(S137P)、pQE80_hFGF2(D28E,S137P))の37℃での細胞増殖活性の変化を測定したグラフである。
図6】野生型FGF2(△9N-hFGF2)とFGF2変異体(△9N-hFGF2(D28E,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96I,S137P))の37℃での細胞増殖活性の変化を測定したグラフである。
図7】野生型FGF2(△9N-hFGF2)とFGF2変異体(△9N-hFGF2(D28E,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96I,S137P))の42℃での細胞増殖活性の変化を測定したグラフである。
図8】野生型FGF2(△9N-hFGF2)のタンパク質分解酵素に対する抵抗性を測定するためのSDS-PAGEを示す。
図9】FGF2変異体(△9_hFGF2 D28E+C78L+C96I+S137P)のタンパク質分解酵素に対する抵抗性を測定するためのSDS-PAGEを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、実施例について詳細に説明する。実施例は多様な異なる形態で具現でき、ここで説明する具体的な実施例に限定されない。
【0016】
本開示で使用される一部の用語の定義が以下で特に定義されない限り、本願に使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解することと同じ意味を有する。
【0017】
本開示で記述された技法および工程は一般に通常の方法により行われ、これは本願全体に提示される。一般に、本開示に使用された命名および分子生物学、生化学、分析化学および細胞培養での実験手順は、当該技術分野で広く公知されており通常用いられるものと同様である。
【0018】
変異体
【0019】
本開示は、部位特異的な突然変異誘発によって熱的に安定化されたFGF2ポリペプチドを提供する。本開示では、生物情報分析およびコンピュータを用いたタンパク質の設計により従来に知られていない新規位置で最も最適なアミノ酸を合理的に予測した後、部位-特異的な突然変異誘発によって突然変異を製造した。
【0020】
図1は、野生型ヒトFGF2ポリペプチド配列を示す。
【0021】
本開示で「野生型」という用語は、種のメンバーで最も共通のアミノ酸配列を有する天然型FGF2を意味する。本開示で、野生型FGF2はアミノ酸155個の長さの(配列番号1,図1)18kDaタンパク質であるヒトFGF2である。
【0022】
本開示における「断片」は、FGF2活性を有するFGF2ポリペプチドの機能性断片を指す。また、配列番号1の配列と85%以上の配列同一性を有するFGF2ポリペプチドの機能性断片を指す。FGF2ポリペプチドの断片はまた、本発明による一つ以上の置換を少なくとも有する。少なくとも96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性が好ましい。断片は、完全なポリペプチド配列および構造の一部だけで構成されるポリペプチドとして意図され、変異体のC-末端欠損またはN-末端欠損が存在し得る。このような機能性断片は、本発明による対象FGF2タンパク質の細胞結合領域とヘパリン結合セグメントを保有することができる。
【0023】
本開示における「配列同一性」は、同じアミノ酸残基が前述したことのような本発明によるFGF2ポリペプチドで発見されることを意味する。FGF2ポリペプチドのアミノ酸配列の明示された連続セグメントを整列して基準分子に該当する特定のアミノ酸配列と比較した時、野生型ヒトFGF2ポリペプチドが基準として使用される。配列同一性の%は、両側配列で同じアミノ酸残基が存在する位置の数を測定することによって一致した位置の数を算定し、これを基準分子と比較するセグメントの全体位置個数で割って、それに100を乗じて、配列同一性の%を算出することによって計算する。シーケンスアラインメントの方法は、当該技術分野によく公知されている。本願に使用される基準配列は、本発明による特定の対応するヒト野生型FGF2タンパク質を指す。例えば、マウス、ラット、ウサギ、霊長類、ブタ、イヌ、ウシ、ウマおよびヒトなどの哺乳類種の場合、FGF2は高度に保存されており、広範囲な種で85%以上の配列同一性を示す。好ましくは配列同一性は、少なくとも96%、97%、98%、または99%以上または100%である。当該技術分野の当業者であれば、本発明によるFGF2タンパク質の全長で残りの15%以下のアミノ酸は例えばFGF2種の他のソースを用いたり、または、当該技術分野に一般に公知された適切な非-FGF2ペプチド配列またはタグの付加によって、可変的であり得ることを理解することができる。野生型FGF2に対して85%以上の同一性を有する本発明の実施形態によるFGF2タンパク質は、FGFファミリーの他のメンバーは一般に非常に低い配列同一性を有するので、類似するFGF2以外の他のタンパク質を含む可能性は低い。
【0024】
本発明者は、野生型ヒトFGF2で28番目の位置または137番目の位置がFGF2ポリペプチドの熱的安定性および/またはタンパク質分解酵素抵抗性と関連する位置であることを確認した。そして、FGF2の表面に露出しているシステインのうちの78番目の位置または96番目の位置のシステインが熱的安定性および/またはタンパク質分解酵素抵抗性と関連する位置であることを確認した。
【0025】
熱的安定性および/またはタンパク質分解酵素抵抗性と関連する位置で最も適切なアミノ酸に変えることは、発明者の努力(inventive step)を要することである。
【0026】
本発明者は、28番目の位置のアスパラギン酸(D)をグルタミン酸(E)に置換することによって熱的安定性を向上させ得ることを確認した。
【0027】
また、137番目の位置のセリン(S)をプロリン(P)に置換することによって熱的安定性をよりさらに向上させ得ることを確認した。
【0028】
また、28番目の位置と137番目の位置を共に置換することによって熱的安定性をよりさらに向上させ得ることを確認した。
【0029】
78番目の位置と96番目の位置の場合には、SDM((http://marid.bioc.cam.ac.uk, University of Cambridge)とDiscovery studio 2019(BIOVIA)により19個の突然変異後の安定化の比較を行って確認した。
【0030】
78番目の位置の場合、SDM分析結果ではロイシン(L)に突然変異させる場合に予測値(Predicted pseudo △G)が0.33で最も高く、Discovery studioではイソロイシン(I)に突然変異させる場合に突然変異エネルギ変化値(kcal/mol)が-1.20で最も安定したものと予測された。
【0031】
96番目の位置の場合、SDM分析結果ではイソロイシン(L)に突然変異させる場合に予測値(Predicted pseudo △G)が0.19で最も高く、Discovery studioではトリプトファン(W)に突然変異させる場合に突然変異エネルギ変化値(kcal/mol)が-0.39で最も安定したものと予測された。
【0032】
US9169309、US2017-0291931、EP3380508、US20180319857等では、78番目ののシステインをセリン(S)、チロシン(Y)に置換するか、96番目ののシステインをセリン(S)、チロシン(Y)、トレオニン(T)またはアスパラギン(N)等に置換したことが開示されている。これらの置換されたアミノ酸の場合には大多数が親水性であり、電荷がないアミノ酸であることに対して、本開示では置換されたアミノ酸は疎水性アミノ酸であり、従来の技術から容易に予測できない範疇であると見ることができる。
【0033】
したがって、本開示で可能な変異体は、下記の表1に開示された多様な変異体のいずれか一つであり得る。
【0034】
【表1】
【0035】
上記の多様な変異体のうち、単一位置の突然変異も熱的安定性および/またはタンパク質分解酵素抵抗性を向上させ得るが、2個以上の突然変異が熱的安定性および/またはタンパク質分解酵素抵抗性の向上に好ましい。ひいては、3個~4個の突然変異が、より熱的安定性および/またはタンパク質分解酵素抵抗性の向上に好ましい。一般に、FGF2のコーディング遺伝子をクローニングした後、形質転換された有機体、好ましくは微生物で発現させる。宿主生物は、発現条件でFGF2を生産するように外来遺伝子を発現する。また、合成組換えFGF2は、真核生物、例えば、酵母またはヒト細胞で作られる。FGF2は、組換え生産方法により、146個のアミノ酸形態、153-155アミノ酸形態またはその混合形態であり得る。本願に提示された説明は、野生型FGF2での一部変化が野生型タンパク質より高い温度安定性と長い半減期を有するFGF2突然変異を構築することを最初に立証する。本願に記述された置換を挿入するために使用される本発明によるFGF2タンパク質は、本願に指定された基準を満たす限り、すなわち、野生型FGF2の好ましい生物活性を保有し、かつ熱-安定化される限り、例えば、マウス、ラット、ウサギ、霊長類、ブタ、イヌ、ウシ、ウマおよびヒトなどの任意の哺乳類に由来し得る。好ましくは、対象FGF2タンパク質はヒトソースに由来する。しかし、比較の基準として使用される配列番号1のヒトFGF2タンパク質のアミノ酸配列に対して85%以上、特に好ましくは約96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有する、哺乳類FGF2に対するすべての生物学的に活性である変異体が、本発明で用いられる。
【0036】
一部の実施形態で、本願に記述された本発明による安定したFGF2ポリペプチドは、検出、精製、特定の組織または細胞へのタグ付け、改善された安定性、延長された活性、改善された発現などを容易に行うために使用できる、当該技術分野に公知された任意の付加的なFGFペプチド以外の配列またはタグを、さらに含むことができる。
【0037】
薬剤学的および化粧品組成物
【0038】
表1に開示されている多様な変異体は、薬剤学的にまたは化粧用に許容可能な担体とともに、薬剤学的および/または化粧品組成物として提供されることができる。
【0039】
表1に開示されている多様な変異体は、血管新生促進、創傷治癒促進、軟骨形成または骨形成の促進、または神経発生促進を必要とする対象体またはしわ改善、皮膚弾力改善、皮膚老化防止、脱毛防止または発毛促進、皮膚保湿改善、シミ除去またはにきび治療のような皮膚状態の改善を必要とする対象体に投与されることができる。表1に開示されている多様な変異体は、「未変性」の形態または所望する場合、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、誘導体、などの形態で投与され得、ただし、前記塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体は薬理的に好適であり、すなわち、本方法に効果的な物質から選択され得る。ペプチドの塩、エステル、アミド、プロドラッグおよび他の誘導体は合成有機化学分野の当業者に公知され、例えば、公知の標準手順を用いて製造されることができる。
【0040】
表1に開示されている多様な変異体は、皮下、非経口、局所、経口、経鼻(若しくは別の吸入)、直腸、または局所投与のために、例えばエアロゾル、クリーム、血清そしてパッチ形態の経皮投与型製品に製剤化されることができる。組成物は投与方法によって多様な単位服用形態で投与されることができる。好適な単位服用形態は、非制限的に散剤、錠剤、丸剤、カプセル、トローチ剤、坐剤、パッチ、鼻腔スプレー、注射剤、植込み式徐放性製剤、脂質複合体などを含むことができる。
【0041】
表1に開示されている多様な変異体が化粧用に許容可能な担体と組合わせて化粧品組成物を形成する場合、充填剤(例えばヒアルロン充填剤、ポリメチルメタクリレート(PMMA)マイクロスフェアおよびコラーゲン充填剤)等をさらに含むことができる。本組成物は、好ましくは局所、皮下、または経皮投与用であり得る。
【0042】
本組成物は注射用組成物であり得る。
【0043】
本組成物は、コラーゲン(例えば、ウシ、ブタ、またはヒトコラーゲン)ヒアルロン酸をさらに含むことができる。コラーゲンは合成コラーゲンであり得、ヒアルロン酸はとさかまたは微生物の発酵産物であり得る。
【0044】
本組成物は、麻酔剤(例えば、リドカイン)をさらに含むことができる。
【0045】
本組成物は、皮膚クリーム(例えば、顔用クリーム)であり得る。
【0046】
本組成物は、血清または化粧液の形態の液状型製剤であり得る。
【0047】
本組成物は、ゲル状態の半固形製剤であり得る。
【0048】
薬剤学的に許容可能な担体は、連邦または州政府の管理機関によって承認されるか米国薬局方または動物、さらに詳細にはヒトにおいてまたは動物、さらに詳細にはヒトに対して使用するための他の一般に認識された薬局方に列挙されたものを含む。「担体」は、例えば、本開示で記載された1以上のペプチドとともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、補助剤または溶媒を意味する。
【0049】
薬剤学的に許容可能な担体は、例えば、組成物を安定化させたり表1に開示されている多様な変異体の吸収を増加または減少させるものとして作用する1以上の生理的に許容可能な化合物を含有することができる。生理的に許容可能な化合物は下記を含むことができる:例えば、炭水化物、例えばグルコース、スクロース、またはデキストラン、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸またはグルタチオン、キレート剤、低分子量タンパク質、保護および吸収促進剤例えば脂質、ペプチドのクリアランスまたは加水分解を減少させる化合物、または他の賦形剤、安定剤および/またはpH調節緩衝剤であり得る。
【0050】
特に錠剤、カプセル、ゲルカプセルなどの製造に使用される他の生理的に許容可能な化合物は、非制限的に結合剤、希釈剤/充填剤、崩壊剤、潤滑油、および懸濁化剤を含むことができる。
【0051】
経口服用形態(例えば、錠剤)を製造するために賦形剤、任意の崩壊剤、結合剤および任意の潤滑油などが表1に開示されている多様な変異体に付加されて収得した組成物は、圧縮できる。必要な場合、圧縮された生成物は、味を遮断するか腸での溶解または徐放のために公知された方法を用いて、コートすることができる。
【0052】
表1に開示されている多様な変異体と共に剤形化できる他の生理的に許容可能な化合物は、微生物の成長または作用の防止に特に有用な湿潤剤、乳化剤、分散剤または保存剤を含むことができる。賦形剤は、滅菌されて汚染物質がない状態で使用できる。
【0053】
表1に開示されている多様な変異体は、化粧品用途のための製剤中へ組み込まれて局所塗布され得、皮膚クリーム(例えば、顔用クリーム)またはボディローション、しわ-取りクリームとして剤形化でき、化粧品、日焼け止め、または保湿剤中に組み込むこともできる。
【0054】
また、表1に開示されている多様な変異体は、充填剤、保湿剤、ビタミン(例えば、ビタミンE)、および/または着色剤/染色剤を任意にさらに含む剤形中に組み込むこともできる。
【0055】
好適な注射可能な化粧品剤形は、1以上の充填剤物質と共に表1に開示されている多様な変異体を組み込む剤形を非制限的に含むことができる。注射可能な化粧品しわ充填剤として使用可能な例示的な物質は、非制限的に、一時的(吸水性)充填剤、例えばコラーゲン(例えば、合成コラーゲン、ウシコラーゲン、ブタコラーゲン、ヒトコラーゲンなど)、ヒアルロン酸ゲル、カルシウムヒドロキシル燐灰石(典型的にゲルの形態で埋め込まれる)、またはポリ-L-乳酸(PLLA)等を含むことができる。ペプチドは、永久的な(非-吸水性)充填剤を含有する注射可能な化粧品剤形中にも組み込むこともできる。例証的な「永久的」な充填剤は、非制限的にポリメチルメタクリレートビーズ(PMMAマイクロスフェア)を含むことができる。
【0056】
表1に開示されている多様な変異体は、真皮充填剤、注射可能な剤形など中に、組み込まれるか共に投与され得る。そのような注射可能な剤形は、麻酔剤(例えば、リドカインまたはそれの類似体)をさらに含むことができる。注射可能な剤形は、実質的に滅菌されるか/滅菌されて皮下注射可能な充填剤用管理機関の指針を満たす
【0057】
表1に開示されている多様な変異体は、当該技術で公知された任意の経路を使用して対象体に投与され得、その経路は、例えば、注射(例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、または真皮内)、吸入、経皮投与、直腸投与、膣投与、または経口投与を含む。好ましい投与経路は、皮下、経皮、または局所投与を含む。
【0058】
効果的な量の表1に開示されている多様な変異体は、局所(すなわち、非-全身)投与により、例えば末梢筋肉内、線内、および皮下投与を非制限的に含む末梢投与により、投与され得る。
【0059】
表1に開示されている多様な変異体の投与は、任意の便利な方式、例えば、注射、静脈内および動脈ステント(溶出ステントを含む)、カテーテル、経口投与、吸入、経皮投与、直腸投与などであり得る。
【0060】
表1に開示されている多様な変異体は、投与前に例えば、前記に記載された通り、薬剤学的に許容可能な担体とともに剤形化することができる。薬剤学的に許容可能な担体は、投与される特定の組成物によって、並びに組成物を投与するために使用された特定の方法によって、部分的に決定される。
【0061】
対象体で投与された用量は、本願において記載された方法の文脈から、経時的に前記対象体で有益な治療的反応(例えば、増加した皮下脂肪の生成)に影響を及ぼすのに充分でなければならない。用量は、使用された特定の溶媒/送達方法の効能、投与部位、投与経路、および前記対象体の状態、並びに治療される対象体の体重または表面積によって決定される。用量の大きさはまた、特定の対象体における特定のペプチドの投与を伴う任意の否定的な副作用の存在、性質、および程度によって決定される。
【0062】
表1に開示されている多様な変異体は、当該分野の当業者に良く知られている標準方法に従って全身に(例えば、経口または注射剤にて)投与されることができる。ペプチドは、トローチ剤、エアロゾルスプレー、口腔洗浄剤、コートされた綿棒などのような多様な形態で口腔へ投与され得る。多様な口腔、および舌下製剤も、考慮され得る。表1に開示されている多様な変異体は、一定期間にわたって治療を提供するために注射剤として剤形化される際、デポ(depot)剤形で投与されることができる。
【0063】
表1に開示されている多様な変異体は、例えば、皮膚表面に、局所病変または創傷に、手術部位などに局所投与され得る。
【0064】
表1に開示されている多様な変異体は、従来の経皮薬物送達システム、すなわち、経皮「パッチ」を用いて皮膚を介して送達され得、表1に開示されている多様な変異体は、典型的に皮膚に付着する薬物送達装置として提供される積層された構造内に含有され得る。
【0065】
局所送達のための他の剤形は、非制限的に、軟膏、ゲル、スプレー、液剤、およびクリームを含む。軟膏は、典型的にワセリンまたは他の石油誘導体に基づいた半固形製剤であり得る。他の担体またはビークルと同様に、軟膏基剤は不活性であり、安定で、無刺激で非感作であるべきである。選択された表1に開示されている多様な変異体を含有するクリームは、典型的に粘性液体または半固体エマルジョン、しばしば水中油または油中水であり得る。クリーム基剤は、典型的に水洗性であり、油相、乳化剤および水相を含有する。使用される特定の軟膏またはクリーム基剤は、当該分野の当業者により認められるように、最適の薬物送達のために提供される基剤である。
【0066】
表1に開示されている多様な変異体は、希釈のために準備された貯蔵容器(例えば、既に測定された体積で)内に、または、多量の水、アルコール、過酸化水素、若しくは他の希釈剤への添加のために準備された可溶性カプセル内に、「濃縮物」として提供される。例えば、前記ペプチドは、後の再構成のために凍結乾燥され得る。
【0067】
表1に開示されている多様な変異体は、多様な用途を有する。表1に開示されている多様な変異体は、多くの適用用途を有することができる。例えば、皮下脂肪は皮膚の厚みと硬さを提供するので、形成手術法で皮下脂肪の形成を向上させる用途を有する。老化する皮膚は、少ない皮下脂肪を含有する。したがって、本開示で記載された一つ以上の表1に開示されている多様な変異体を所望する部位に投与して皮下脂肪形成を促進することは、厚みが増えてより若く見える皮膚をもたらす。このアプローチは、多くは低い成功率を示す過程である、身体の他の部位(例えば、大腿部または臀部)から脂肪細胞を移植する現在の方法の代わりとなる。
【0068】
表1に開示されている多様な変異体は、皮下脂肪組織を選択的に増加させるために(例えば、内臓脂肪および/または他の脂肪組織を実質的に増加させず、かつ皮下脂肪組織を増加させるために)投与され得る。表1に開示されている多様な変異体の投与に反応して、脂肪細胞の形成が真皮繊維芽細胞で起き、対象から選択された皮下部位の中で体積が追加され得る。
【0069】
表1に開示されている多様な変異体は、瘢痕を減らすのに使用できる。これは、一つ以上の表1に開示されている多様な変異体を、瘢痕部位を減らしおよび/または瘢痕部位の外観を改善するのに十分な量で投与することによって達成される。瘢痕は、例えば、火傷によってできた瘢痕、手術によってできた瘢痕、にきびによってできた瘢痕、生検によってできた瘢痕、または負傷によってできた瘢痕であり得る。
【0070】
表1に開示されている多様な変異体は、例えば、皮膚の外観を改善するために、多様な化粧過程で使用できる。これは、一つ以上のペプチドを、対象の部位に皮膚の外観を改善するのに十分な量で投与することによって達成される。そのような投与は、唇、まぶた、頬、額、あご、首などのような領域への皮下投与を含むことができる。前記ペプチドは、しわを減らし、皮膚のたるみを減らし、皮膚の表面質感を改善し、しわを減らしたり、除去したり、埋めて、老人斑を除去または減らし、および/または目の下のくまを除去するこれらの方法などに用いられる。これらの化粧への適用は、例示的であり、制限しようとするものではない。
【0071】
表1に開示されている多様な変異体は、対象部位で組織体積を改善するために使用できる。これは、本願に記載された一つ以上のペプチドを、対象部位で組織体積を増加させるのに十分な量で投与することによって達成される。例えば、組織体積の増加は、乳房組織を堅固にするか増大させること、および/または、臀部組織または身体または顔の他の部位を堅固にするか増大させることを含むことができる。
【0072】
この際にFGF2は、0.01~10ppmの量で使用できる。10ppm以上では、過多な量により異常反応を誘導する副作用の可能性がある。したがって、実際の使用範囲は0.01~10ppmであり、好ましくは0.01~2ppmであり得る。
【0073】
表1に開示されている多様な変異体はまた、対象部位内の皮膚をなめらかにするために使用できる。これは、本願に記載された一つ以上のペプチドを、所望する部位で皮膚をなめらかにするのに十分な量で投与することによって達成される。前記なめらかにすることは、にきびによる瘢痕皮膚をなめらかにすること、セルライト部位をなめらかにすること、妊娠線をなめらかにしたり減らすこと、および/またはしわを広げることを含むことができる。
【0074】
表1に開示されている多様な変異体は、対象で幹細胞を皮下脂肪の形成に動員するために使用できる。これは、表1に開示されている多様な変異体を、幹細胞を皮下脂肪の形成に動員するのに十分な量で投与することによって達成される。これは、例えば、多様な再建手術過程などにおいて有用性を有する。
【0075】
表1に開示されている多様な変異体は、対象で組織を再建するために使用できる。そのような再建は、例えば、乳房再建(例えば腫瘍を除去する手術後)、または、顔または肢再建(例えば自動車事故または火傷後)を含むことができる。これは、表1に開示されている多様な変異体を、組織再建過程の間または以後に組織の体積を増加させる量で投与することによって達成される。表1に開示されている多様な変異体は、組織移植物質または皮膚または負傷した組織の治癒を向上させる他の手順とともに、任意に使用できる。
【0076】
表1に開示されている多様な変異体は、歩く時に前記対象が経験する踵痛みを軽減するのに十分な量で投与することによって、対象で踵痛みを軽減するために使用できる。
【0077】
表1に開示されている多様な変異体は、体温調節を増加および/または免疫機能を改善するために、皮下脂肪の拡大のために投与され得る。対象は、疾患を予防したり、非制限的に心血管疾患を含む増加した臓器脂肪と関連する進行中の疾患、および他の肥満に関連する疾患を治療するために、表1に開示されている多様な変異体で処理され得る。
【0078】
これら方法のいずれかによる投与は、局所または全身であり得、本願に記載された任意の経路、例えば局所、皮下、経皮、経口、鼻、膣、および/または直腸投与による。好ましくは、表1に開示されている多様な変異体は、皮下注射によって投与され得る。代案として、前記表1に開示されている多様な変異体は、顔用クリームのような皮膚クリームの形態で局所投与されるか、または経皮パッチにより経皮に投与され得る。
【0079】
前記用途および方法はヒトにおける用途と関連して記載されているが、これらはまた動物、例えば、獣医学的用途に好適である。したがって、ある好ましい有機体は、非制限的にヒト、非-ヒト霊長類、イヌ科、ウマ、ネコ、ブタ、有蹄類、ウサギ類などを含む。
【0080】
培地
【0081】
表1に開示されている多様な変異体は、少なくとも5回の継代培養の間に、未-分化した状態で多能性幹細胞を維持させるために必要な量に該当する「培地学的有効量」で含まれて、ヒト多能性幹細胞培地として提供されることができる。
【0082】
ヒト胚幹細胞および人工多能性幹細胞の両方を含む、本開示における「ヒト多能性幹細胞」という用語は、自身の同一の後代とヒト身体の実質的にすべての細胞型の生成を可能にする多能性を形成する能力-自己再生能力(self-renewal capacity)-を特徴とする。
【0083】
本開示における「幹細胞を多能性状態に維持させる」という用語は、実質的にすべての細胞型に分化できる能力を有する未-分化な状態に細胞を維持させることを意味する。このような多能性状態は、FGF2が最も重要な成長因子である成長因子の幹性(stemness)-サポートカクテルに依存する。FGF2は、いくつかの方式で自己-再生を支援する。分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ経路を直接活性化し、トランスフォーミング増殖因子β1およびアクチビンのシグナル伝達を間接的に促進する(Greber, et al. 2008, Stem Cells25, 455-464)。FGF2は、細胞付着および生存機能により、ヒトPSCの多能性に複合的に寄与する(Eisellova, et al. 2009, Stem Cells 27, 1847-1857)。
【0084】
本開示は、操作された対象FGF2の特徴糾明、タンパク質での置換の効果の立証、ヒトPSC培養でのタンパク質の利用方法、およびヒトPSCを未分化な状態で培養するのに適した本願に記述された一つ以上の熱安定性FGF2タンパク質を含む培地を提供する。本願に提供された実施例で使用されるヒト胚性幹細胞(ESC)は、医師による事前同意下で得された胚盤胞段階の胚に由来した。29-41回継代の良好に特徴付けられたヒトESC細胞株(Adewumi, et al. 2007, Nat Biotechnol 25, 803-816)CCTL14(Centre of Cell Therapy Line)を使用した。ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)のように、山中カクテル(Yamanaka’s cocktail)およびセンダイウイルストランスフェクション(Sendai virus transfection)による皮膚繊維芽細胞の再プログラムを用いて由来したAM13細胞株は34-41回継代状態を使用した(Kruta et al. 2014, Stem Cells and Development 23, 2443-2454)。
【実施例
【0085】
以下、本発明の理解を深めるために好ましい実験例を提示するが、下記実験例は本発明を例示するだけであり、本発明の範囲は下記実施例に限定されるものではない。
【0086】
実験例1:pQE80ベクターを用いた突然変異体の構築、精製および熱的安定性の分析
【0087】
FGF2の1個の位置の突然変異(S137P)と2個の位置の突然変異(D28E,S137P)を合成し、His-Tagを有するpQE80Lベクターにサブクローニングを行った。FGF2が挿入された組換えベクターをRosetta(DE3)pLysS細胞に形質転換して発現した。
【0088】
10ml LB media(Ambrothia)(0.25g使用)に接種して、アンピシリン(Ampicillin、50mg/ml)を10ulを添加後、37℃に前培養した。
【0089】
前培養液10mlとアンピシリン(Ampicillin、50mg/ml)1mlを1L LB media(ambrothia)(25g使用)に接種して、37℃で本培養した。OD600の数値が0.6である時、4℃冷蔵庫で培養液を10分間冷却させた後、β-D-1-チオガラクトピラノシド(β-D-l-thiogalactopyranoside;IPTG)0.5mMを添加して20℃で20時間発現を誘導した大腸菌細胞を得た。
【0090】
発現したpQE80_FGF2は、溶解緩衝液(20mM Tris pH8.0,200mM NaCl、3mM DTT)に溶かして超音波処理後、13000rpmで30分間遠心分離を行った後、精製した。
【0091】
遠心分離後、最適に溶解した上澄みは、Heparinビーズがあるカラムに注入した。カラムに注入されたpQE80_FGF2タンパク質体積の3倍になる、最初の洗浄(wash)緩衝液(20mM Tris pH8.0,200mM NaCl、3mM DTT)と二回目の洗浄(wash)緩衝液(20mM Tris pH8.0,500mM NaCl、3mM DTT)で洗浄し、60ml溶出緩衝液(elution buffer)、20mM Tris pH8.0,1800mM NaCl、3mM DTT)で溶出して1次精製した。
【0092】
最後に、pQE80_FGF2タンパク質画分は、HiLoadTM 16/60 Superdex 75(Amersham Biosciences)カラムと1X PBSバッファ(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM NaHPO,2mM KHPO,pH7.4)、(WELGENE)を用いたゲル濾過法によって精製された。
【0093】
精製されたFGF2タンパク質は、1X PBSバッファを基本として使用して0.5mg/ml濃度で37℃で0、2、4、6日間反応し、クーマシーブルー染色試薬で染色して15% SDS-PAGE電気泳動を実施した。図2にその結果が例示されている。
【0094】
図2に例示されているように、15% SDS-PAGEにより確認されたFGF2ポリペプチドバンドから、二つの変異ポリペプチド(pQE80_hFGF2(S137P)、pQE80_hFGF2(D28E,S137P))が、すべて変異していないhFGF2(野生型)ポリペプチドよりも、SDS-PAGE上の安定性が改善されたことがわかる。
【0095】
実験例2:pET17bベクターを用いた突然変異体の構築、精製および熱的安定性の分析
【0096】
FGF2の1個の位置の突然変異(S137P)、2個の位置の突然変異(D28E,S137P)、4個の位置の突然変異((D28E,C78L,C96I,S137P)、(D28E,C78L,C96W,S137P)、(D28E,C78I,C96I,S137P)、(D28E,C78I,C96W,S137P))を合成し、Hisを有するpET17bベクターにサブクローニングを行った。FGF2が挿入された組換えベクターをRosetta(DE3)pLysS細胞に形質転換して発現した。
【0097】
10ml LB media(Ambrothia)(0.25g使用)に接種して、アンピシリン(Ampicillin、50mg/ml)を10ulを添加後、37℃に前培養した。
【0098】
前培養液10mlとアンピシリン(Ampicillin、50mg/ml)1mlを1L LB media(ambrothia)(25g使用)に接種して、37℃で本培養した。OD600の数値が0.6である時、4℃冷蔵庫で培養液を10分間冷却させた後、β-D-1-チオガラクトピラノシド(β-D-l― thiogalactopyranoside;IPTG)0.5mMを添加して20℃で20時間発現を誘導した大腸菌細胞を得た。
【0099】
発現したpET17b_FGF2は、溶解緩衝液(20mM Tris pH8.0,200mM NaCl、3mM DTT)に溶かして超音波処理後、13000rpmで30分間遠心分離を行った後、精製した。
【0100】
遠心分離後、最適に溶解した上澄みは、Heparinビーズがあるカラムに注入した。カラムに注入されたpET17b_FGF2タンパク質体積の3倍になる、最初の洗浄(wash)緩衝液(20mM Tris pH8.0,200mM NaCl、3mM DTT)と二回目の洗浄(wash)緩衝液(20mM Tris pH8.0,500mM NaCl、3mM DTT)で洗浄し、60ml溶出緩衝液(elution buffer)、20mM Tris pH8.0,1800mM NaCl、3mM DTT)で溶出して1次精製した。
【0101】
4個の位置の突然変異体は、アフィニティークロマトグラフィー方法において、緩衝液と溶出緩衝液の両方で3mM DTTを含まないように製造した溶液を使用して精製した。
【0102】
最後に、pET17b_FGF2タンパク質画分は、HiLoadTM 16/60 Superdex 75(Amersham Biosciences)カラムと1X PBSバッファ(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM NaHPO,2mM KHPO,pH7.4)、(WELGENE)を用いたゲル濾過法によって精製された。
【0103】
37℃安定性実験
【0104】
精製されたFGF2タンパク質は、1X PBSバッファを基本として使用して0.5mg/ml濃度で37℃で0、3、6、9日間反応し、クーマシーブルー染色試薬で染色して15% SDS-PAGE電気泳動を実施した。図3にその結果が例示されている。
【0105】
図3に例示されているように、15% SDS-PAGEにより確認されたFGF2ポリペプチドバンドから、変異体の熱的安定性が向上したことがわかる。
【0106】
密度測定は、imageJプログラム(Wanyne Rasband)を用いてSDS-PAGEゲルの密度を測定した。その結果が下記の表2に記載されている。
【0107】
【表2】
【0108】
単位%、表2の結果から、4個の位置の変異体が、野生型hFGF2より熱的安定性が向上したことがわかる。特に、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96W,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96I,S137P)の場合に、他の変異体に比べて熱的安定性が相対的にさらに優れることがわかる。
【0109】
45℃安定性実験
【0110】
精製されたFGF2タンパク質は、1X PBSバッファを基本として使用して0.5mg/ml濃度で45℃で0、1、2、3、4、5、6日間反応し、クーマシーブルー染色試薬で染色して15% SDS-PAGE電気泳動を実施した。図4にその結果が例示されている。
【0111】
図4に例示されているように、15% SDS-PAGEにより確認されたFGF2ポリペプチドバンドから、変異体の熱的安定性が向上したことがわかる。
【0112】
密度測定は、imageJプログラム(Wanyne Rasband)を用いてSDS-PAGEゲルの密度を測定した。その結果が下記の表3に記載されている。
【0113】
【表3】
【0114】
表3の結果から、すべての変異体が、野生型hFGF2より熱的安定性が向上したことがわかる。特に、△9N-hFGF2(D28E,C78L,C96I,S137P)、△9N-hFGF2(D28E,C78I,C96I,S137P)の場合に、他の変異体に比べて熱的安定性が相対的にさらに優れることがわかる。
【0115】
実験例3:pQE80ベクターを用いた突然変異体の細胞増殖能の確認
【0116】
実験例1と同じ方法で製造した突然変異体に対して、BALB3T3細胞を使用し、10% bovine serumを含むDMEM培地で培養および維持した。FGF2による細胞増殖活性を確認するために、細胞は、インシュリン(insulin)10ug/ml、デキサメタゾン(dexamethasone)1uM、トランスフェリン(transferrin)10ug/ml、亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)10ng/ml、オボアルブミン(ovalbumin)100ug/ml、フィブロネクチン(fibronectin)5ug/mlを含む、F12/DMEM培地で培養した。
【0117】
96ウェルプレートに細胞数0.5×10/wellで培養し、ヘパリン(heparin)(10ug/ml)と共にFGF2(0.3ng/ml)で42時間処理した。細胞数の増加は、WST-8[2-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium,monosodium salt]を使用し、電子伝達体(electron mediator)と細胞内脱水素酵素(dehydrogenases)により形成される、WST-8ホルマザン(formazan)生成の程度を測定することによって確認した。WST-8ホルマザン生成の程度は、吸光度(450nm)により確認することができる。実験は3回繰り返し、「平均±標準偏差」方式で表現した。FGF2タンパク質は37℃で0、2、4、6日間それぞれ保管した後、細胞増殖活性の変化を確認した。
【0118】
その結果が図5に例示されている。図5を参照すると、hFGF2は、37℃保管後2日条件で活性減少が観察され、37℃保管4日以後には37℃保管0日タンパク質の60%水準の活性のみが観察された。反面、hFGF2 S137P変異体は、37℃保管2日条件でhFGF2より低くなった活性が観察され、37℃保管4日条件では37℃保管0日タンパク質の60%水準の活性のみが観察された。反面、hFGF2 D28E+S137P変異体は、37℃保管日が長くなるほど活性減少が現れるが、hFGF2とhFGF2 S137P変異体よりは活性減少がはるかに少なく現れることがわかる。
【0119】
実験例4:pET17bベクターを用いた突然変異体の細胞増殖能の確認
【0120】
実験例2と同様の方法で製造した突然変異体に対して、BALB3T3細胞を使用し、10% bovine serumを含むDMEM培地で培養および維持した。FGF2による細胞増殖活性を確認するために、細胞は、インシュリン(insulin)10ug/ml、デキサメタゾン(dexamethasone)1uM、トランスフェリン(transferrin)10ug/ml、亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)10ng/ml、オボアルブミン(ovalbumin)100ug/ml,フィブロネクチン(fibronectin)5ug/mlを含む、F12/DMEM培地で培養した。
【0121】
96ウェルプレートに細胞数0.5×10/wellで培養し、ヘパリン(heparin)(10ug/ml)と共にFGF2(0.3ng/ml)で42時間処理した。細胞数の増加は、WST-8[2-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium,monosodium salt]を使用し、電子伝達体(electron mediator)と細胞内脱水素酵素(dehydrogenases)により形成される、WST-8ホルマザン(formazan)生成の程度を測定することによって確認した。WST-8ホルマザン生成の程度は、吸光度(450nm)により確認することができる。実験は3回繰り返し、「平均±標準偏差」方式で表現した。FGF2タンパク質は37℃で0、3、6、9、12日間それぞれ保管した後、細胞増殖活性の変化を確認した。
【0122】
その結果が図6に例示されている。図6を参照すると、△9_hFGF2(野生型)は、37℃保管3日条件で活性が減少しており、37℃保管6日以後には活性をほとんど失う結果を確認した。△9_hFGF2 D28E+S137P変異体は、野生型タンパク質より長く活性を有する結果を示し、37℃9日保管後には活性が減少する結果を示した。これらとは異なり、△9_hFGF2 D28E+C78L+C96I+S137P変異タンパク質と△9_hFGF2 D28E+C78I+C96I+S137P変異体は、37℃12日保管条件までも活性に減少が観察されないことを確認することができた。したがって、実施例による変異体が、37℃ではタンパク質の活性が安定的に維持されることを確認することができた。
【0123】
FGF2タンパク質は、45℃で0、1、2、3、4、5、6、7日間それぞれ保管した後、細胞増殖活性の変化を確認した。その結果が図7に例示されている。図7を参照すると、△9_hFGF2(野生型)は、45℃保管1日条件から急激に活性が減少したことを確認し、45℃保管2日条件から活性をほとんど失う結果を確認した。△9_hFGF2 D28E+S137P変異タンパク質は、野生型タンパク質より長く活性が観察される結果を示したが、45℃2日保管以後には活性が劣る結果を示した。これらとは異なり、△9_hFGF2 D28E+C78L+C96I+S137P変異タンパク質と△9_hFGF2 D28E+C78I+C96I+S137P変異タンパク質の活性が、45℃で保管日に応じて少しずつ減少するが、野生型よりは長く活性が維持され、45℃6日保管においても依然として2倍以上の増殖活性能が維持されていることを確認することができた。
【0124】
実験例5:pET17bベクターを用いた突然変異体のタンパク質分解酵素の切断に対する抵抗性の確認
【0125】
実験例2と同様の方法で製造した△9_hFGF2(野生型)と△9_hFGF2 D28E+C78L+C96I+S137P変異タンパク質のタンパク質分解酵素の切断に対する抵抗性を測定した。
【0126】
図8および図9は、それぞれ、△9_hFGF2(野生型)と△9_hFGF2 D28E+C78L+C96I+S137P変異タンパク質のSDS-PAGEを測定した結果を示す。図8および図9で、1番はタンパク質分解酵素処理後インキュベーションなしにすぐに測定した場合を、2番はタンパク質分解酵素処理後37℃で3時間インキュベーションした後測定した場合を、3~14番はFGF2 0.25mg/mLに対して12個の互いに異なる種類のタンパク質分解酵素をそれぞれ0.0025mg/mL処理した後37℃で3時間インキュベーションした後に測定した結果を示す。
【0127】
各バンドの密度測定は、imageJプログラム(Wanyne Rasband)を用いてSDS-PAGEゲルの密度を測定した。その結果が下記の表4に記載されている。
【0128】
【表4】
【0129】
図8および図9の結果と表4の内容から、△9_hFGF2(野生型)よりも、△9_hFGF2 D28E+C78L+C96I+S137P変異タンパク質が、タンパク質分解酵素に対する抵抗性が全般的に向上することがわかる。特に、α-Chymotrypsin(α-C)、Trypsin(TR)、Subtilisin(SU)、Proteinase K(P-K)、Clostripain(Endoproteinase-Arg-C)(CL)、Thermolysin(TH)、Actinase(A-E)に対する抵抗性が、相対的に多く向上したことがわかる。前記では多様な実施例について説明したが、権利範囲はこれによって限定されるものではない。具現される形態は、発明の詳細な説明および添付する図面の範囲内で多様に変形して実施することができ、これもまた権利範囲に属するのは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0130】
化粧品または医薬品の技術分野に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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