(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/231 20110101AFI20240222BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
(21)【出願番号】P 2022551169
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028288
(87)【国際公開番号】W WO2022064841
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020161575
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020196969
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭希
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-018593(JP,A)
【文献】特開2019-218013(JP,A)
【文献】特表2020-501971(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0092449(KR,A)
【文献】特開2017-030638(JP,A)
【文献】特開2016-088349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/231
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員を保護するためのエアバッグと、前記エアバッグに供給されるガスを噴射するインフレータと、を備えたエアバッグ装置であって、
膨張展開が完了した膨張完了状態のエアバッグは、前記乗員の少なくとも側頭部を覆う第1クッションと、前記乗員の肩部近傍の高さで前記第1クッションの後側部分に接続され該接続箇所から下方に延びる第2クッションとを備え、
前記膨張完了状態では、前記第1クッションと前記第2クッションの間に、前側から後ろ側に向かって延びる切れ込み部が形成され
、
前記膨張完了状態のエアバッグは、前記切れ込み部の奥側に位置して前記第1クッションと前記第2クッションとを連通させるダクト部をさらに備え、
前記ダクト部には、前記インフレータの収納部が接続されている、エアバッグ装置。
【請求項2】
前記第1クッションのうち前記乗員の側頭部を保護する側頭用保護部では、前記ダクト部との接続部の近傍領域以外に、前記インフレータからのガスにより膨張する膨張領域に囲まれた複数の非膨張部が配列されている、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記膨張完了状態の側頭用保護部では、後側から前側に向かって延びる仮想の直線上に、前記複数の非膨張部が間隔を空けて配列されている、請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記膨張完了状態の側頭用保護部では、下側から上側に向かって延びる仮想の直線上に、前記複数の非膨張部が間隔を空けて配列されている、請求項2又は3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記膨張完了状態の第1クッションは、前記乗員の側頭部を保護する側頭用保護部に加え、該側頭用保護部の前側に連続して形成されて前記乗員の頭部を前方から覆う前方用保護部をさらに有する、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記前方用保護部における側頭用保護部側の領域は、上端から下端までが連続的な膨張領域となっている、請求項5に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記前方用保護部における左右方向の中心の近傍には、上下方向に延びる前側非膨張部が設けられている、請求項5又は6に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
車両の座席に着座した乗員を保護するためのエアバッグと、前記エアバッグに供給されるガスを噴射するインフレータと、を備えたエアバッグ装置であって、
膨張展開が完了した膨張完了状態のエアバッグは、前記乗員の少なくとも側頭部を覆う第1クッションと、前記乗員の肩部近傍の高さで前記第1クッションの後側部分に接続され該接続箇所から下方に延びる第2クッションとを備え、
前記膨張完了状態では、前記第1クッションと前記第2クッションの間に、前側から後ろ側に向かって延びる切れ込み部が形成され、
前記膨張完了状態のエアバッグは、前記切れ込み部の奥側に位置して前記第1クッションと前記第2クッションとを連通させるダクト部をさらに備え、
前記ダクト部は、前記第1クッションへの第1連通口と、前記第2クッションへの第2連通口とを有し、
未膨張のエアバッグを広げて平置きにした状態では、前記第1連通口の幅の最小値に比べて前記第2連通口の幅の最小値の方が大きい、エアバッグ装置。
【請求項9】
前記エアバッグの膨張展開の際に、前記乗員の胴体の側方に上腕部が位置する場合に、前記上腕部の後ろ側で、前記第2クッションの膨張展開が完了した後、前記上腕部の前側では、前方に膨張展開した前記第1クッションが、上側から前記上腕部に向かって膨張展開する、請求項1又は8に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記乗員の側頭部を保護する前記第1クッションに対し、前記乗員の頭部の前方及び反対側の側頭部を覆うように、複数のクッションが前記頭部の周方向に連なる、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記第1クッション及び前記第2クッションを広げて平坦面に置いた状態では、前記膨張完了状態で前記切れ込み部を形成する前記第1クッションの外周部及び前記第2クッションの外周部がなす角度が鈍角である、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の頭部等を保護するためのエアバッグ装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の衝突時など車両に衝撃が加わった時に、乗員の頭部を覆うように膨張展開するエアバッグを備えたエアバッグ装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、この種のエアバッグ装置として、乗員保護装置が記載されている。この乗員保護装置のエアバッグは、乗員の頭部に対するシート前方で展開される前展開部と、前展開部に接続され乗員の頭部に対するシート側方で膨張展開される左右一対の横展開部とを含んで乗員の頭部を覆う一体の袋体として構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のエアバッグは、側方から見た場合に、胴体より上側にクッションの略全体が設けられている。それに対し、本願の発明者は、乗員の側頭部を保護する第1クッションに対し、その下側に第2クッションを接続したエアバッグについて検討を行った。その結果、エアバッグが膨張展開の過程で乗員の肩部に干渉しやすいことに気が付いた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、乗員の側頭部を保護する第1クッションに対しその下側に第2クッションを接続したエアバッグを備えたエアバッグ装置において、エアバッグが膨張展開の過程で乗員の肩部に干渉することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両の座席に着座した乗員を保護するためのエアバッグと、エアバッグに供給されるガスを噴射するインフレータと、を備えたエアバッグ装置であって、膨張展開が完了した膨張完了状態のエアバッグは、乗員の少なくとも側頭部を覆う第1クッションと、乗員の肩部近傍の高さで第1クッションの後側部分に接続され該接続箇所から下方に延びる第2クッションとを備え、膨張完了状態では、第1クッションと第2クッションの間に、前側から後ろ側に向かって延びる切れ込み部が形成される。
【0008】
本発明は、膨張完了状態のエアバッグは、切れ込み部の奥側に位置して第1クッションと第2クッションとを連通させるダクト部をさらに備えていてもよい。
【0009】
本発明は、ダクト部に、インフレータの収納部が接続されていてもよい。
【0010】
本発明は、第1クッションのうち乗員の側頭部を保護する側頭用保護部では、ダクト部との接続部の近傍領域以外に、インフレータからのガスにより膨張する膨張領域に囲まれた複数の非膨張部が配列されていてもよい。
【0011】
本発明は、膨張完了状態の側頭用保護部において、後側から前側に向かって延びる仮想の直線上に、複数の非膨張部が間隔を空けて配列されていてもよい。
【0012】
本発明は、膨張完了状態の側頭用保護部において、下側から上側に向かって延びる仮想の直線上に、複数の非膨張部が間隔を空けて配列されていてもよい。
【0013】
本発明は、膨張完了状態の第1クッションは、乗員の側頭部を保護する側頭用保護部に加え、該側頭用保護部の前側に連続して形成されて乗員の頭部を前方から覆う前方用保護部をさらに有していてもよい。
【0014】
本発明は、前方用保護部における側頭用保護部側の領域が、上端から下端までが連続的な膨張領域となるようにしてもよい。
【0015】
本発明は、前方用保護部における左右方向の中心の近傍に、上下方向に延びる前側非膨張部が設けられていてもよい。
【0016】
本発明は、ダクト部が、第1クッションへの第1連通口と、第2クッションへの第2連通口とを有し、
未膨張のエアバッグを広げて平置きにした状態では、第1連通口の幅の最小値に比べて第2連通口の幅の最小値の方が大きくなるようにしてもよい。
【0017】
本発明は、エアバッグの膨張展開の際に、乗員の胴体の側方に上腕部が位置する場合に、上腕部の後ろ側で、第2クッションの膨張展開が完了した後、上腕部の前側では、前方に膨張展開した第1クッションが、上側から上腕部に向かって膨張展開するようにしてもよい。
【0018】
本発明は、乗員の側頭部を保護する第1クッションに対し、乗員の頭部の前方及び反対側の側頭部を覆うように、複数のクッションが頭部の周方向に連なるようにしてもよい。
【0019】
本発明は、第1クッション及び第2クッションを広げて平坦面に置いた状態では、膨張完了状態で切れ込み部を形成する第1クッションの外周部及び第2クッションの外周部がなす角度が鈍角となるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、膨張完了状態において、乗員の側頭部を覆う第1クッションと、第1クッションとの接続箇所から下方に延びる第2クッションとの間に、前側から後ろ側に向かって延びる切れ込み部が形成される。ここで、乗員の頭部を覆う従来のエアバッグ(特許文献1に記載のエアバッグ)は、その下端が乗員の肩部付近の高さにある。そのため、切れ込み部を設けることなく、下方に延びるクッションを接続したのでは、そのクッションの上部が乗員の肩部に干渉しやくなる。それに対し、本発明では、上述の切れ込み部により、膨張展開中に第1クッションと第2クッションとの間に隙間が形成される。そのため、エアバッグが膨張展開の過程で乗員の肩部に干渉することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態に係るエアバッグ装置について、座席の側方から、膨張完了状態のエアバッグを見た図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るエアバッグ装置について、前方から、膨張完了状態のエアバッグを見た図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るエアバッグ装置について、斜め前方から、膨張完了状態のエアバッグを見た斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るエアバッグ装置について、側方から、膨張完了状態のエアバッグを見た図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグを広げて平坦面に置いた平置き状態の平面図である。
【
図6】
図6(a)は、実施形態に係るエアバッグ装置について、エアバッグの膨張展開が開始された直後の状態を表し、
図6(b)は、胴体用クッションの膨張展開が完了した直後の状態を表し、
図6(c)は、頭部用クッションの膨張展開が完了した状態を表す。
【
図7】
図7は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグ装置について、座席の上側斜め前方から、膨張完了状態の第1エアバッグ及び第2エアバッグを見た図である。
【
図8】
図8は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグ装置について、座席の側方から、膨張完了状態の第1エアバックを見た図である。
【
図9】
図9は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグ装置について、第1エアバッグ及び第2エアバッグを広げて平坦面に置いた平置き状態の平面図である。
【
図10】
図10は、実施形態の第2変形例に係るエアバッグ装置について、座席の上側斜め前方から、膨張完了状態のエアバッグを見た図である。
【
図11】
図11(a)は、実施形態の第2変形例に係るエアバッグ装置について、エアバッグの膨張展開途中の状態を表し、
図11(b)は、エアバッグの膨張展開が完了した状態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0023】
本発明において「乗員」とは、前面衝突試験用のダミー(Hybrid III AM50 / NHTSA [National Highway Traffic Safety Administration:米国高速道路交通安全協会]の規格[49CFR Part572 Subpart E 及びO] にて決められた前面衝突試験用人体ダミー)に準拠した、米国における平均的な男性に相当する体格を有するものをいい、概略サイズは、身長175cm、座高88cm、体重78kgである。
【0024】
また、本明細書において、「上」、「上側」とは車両に設けられた座席1の正規の位置に着座した乗員5の頭部方向を、「下」、「下側」とは乗員5の足元方向を意味する場合がある。また「前」、「前側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の正面方向を、「後」、「後ろ側」とは乗員5の背面方向を意味する場合がある。また「左」、「左側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の左手方向を、「右」、「右側」とは乗員5の右手方向を意味する場合がある。なお、「正規の位置」とは、座席1におけるシートクッション2の左右方向の中心位置で、座席1の背もたれ部(シートバック)3に乗員5の背中が上下に亘って接する位置をいう。
【0025】
本実施形態は、自動車などの車両の衝突時などに座席1に着座した乗員5を保護するエアバッグ11と、エアバッグ11に供給されるガスを噴射するインフレータ12とを備えたエアバッグ装置10である。エアバッグ11は、同じ形状で同じ大きさの2枚の基布を重ねた状態で、外周部など所定の箇所を縫製することにより構成された袋体である。インフレータ12は、エアバッグ11を膨張させるガスを噴射する装置である。
【0026】
ここで、エアバッグ装置10が搭載される座席1は、
図1に示すように、シートクッション2と、背もたれ部3とを備えている。背もたれ部3の上端部には、棒状の支持部材を介して、ヘッドレスト4が取り付けられている。なお、座席1は、背もたれ部3とヘッドレスト4とが一体形成されたものであってもよい。
【0027】
[膨張完了状態のエアバッグについて]
膨張展開が完了した状態(以下、「膨張完了状態」と言う。)のエアバッグ11について、
図1~
図4を参照しながら説明を行う。なお、膨張完了状態のエアバッグ11の説明において、乗員5は正規の位置に着座しているものとする。
【0028】
エアバッグ11は、
図1及び
図2に示すように、乗員5の頭部を前方及び両側方から覆う頭部用クッション21と、乗員5の胴体を両側方から覆う一対の胴体用クッション22と、頭部用クッション21に対し各胴体用クッション22を連通させる一対のダクト部23とを備えている。頭部用クッション21は、乗員5の少なくとも側頭部を保護する第1クッションに相当する。胴体用クッション22は、乗員5の肩部近傍の高さで第1クッションの後側部分に接続され該接続箇所から下方に延びる第2クッションに相当する。各胴体用クッション22は、頭部用クッション21のうち後述する側頭用保護部25に一体化されている。また、頭部用クッション21は、乗員5の頭部を両側方から覆う一対の側頭用保護部25と、乗員5の頭部を前方から覆う前方用保護部26とを備えている。なお、本明細書において「肩部近傍の高さ」は、肩部の上側又は下側の近傍だけでなく、肩部と同一範囲の高さを含む。
【0029】
なお、エアバッグ11では、一対の胴体用クッション22が、前方から見て左右対称に設けられている。また、頭部用クッション21では、一対の側頭用保護部25が、前方から見て左右対称に設けられている。
【0030】
側頭用保護部25は、車両の側面衝突時に、側方に移動する乗員5の頭部を受け止めたり、斜め前方に移動する乗員5の頭部を受け止めたりすることができる大きさに形成されている。一対の側頭用保護部25の前端部は、
図2に示すように、前方用保護部26を介して互いに接続されている。一対の側頭用保護部25の上端部では、
図3に示すように、前側部分21a同士が、互いに分離されることで隙間が形成され、後側部分21b同士が、縫製などの手段により互いに結合されている。
【0031】
側頭用保護部25には、
図4に示すように、インフレータ12からのガスにより膨張する膨張領域に囲まれた複数の非膨張部30が設けられている。非膨張部30は、その領域の全周囲に亘って上述の2枚の基布間を結合することにより、膨張領域から区画された部分である。この点は、後述する非膨張部32も同じである。非膨張部30の詳細は、後述する平置き状態にて説明する。
【0032】
前方用保護部26は、車両の前面衝突時に、前方に移動する乗員5の頭部を受け止めることができる大きさに形成されている。前方用保護部26は、一対の側頭用保護部25の各々に連続して設けられている。前方用保護部26は、前方から見て左右対称に形成されている。前方用保護部26にも、複数の非膨張部32が設けられている。各非膨張部32は、前側非膨張部に相当する。非膨張部32の詳細は、後述する平置き状態にて説明する。
【0033】
ダクト部23は、略管状を呈し、頭部用クッション21と胴体用クッション22とを繋ぐガス流路を形成する。ダクト部23は、頭部用クッション21の下端部21cにおける後端部から下方に延びている。ダクト部23の下側には、背もたれ部3のシートフレーム1aに固定されたインフレータ収納部31が連続して形成されている。ダクト部23の前側には、胴体用クッション22が接続されている。
【0034】
胴体用クッション22は、縦長の袋状を呈する。胴体用クッション22は、車両の側面衝突時に、側方に移動する乗員5の胴体を受け止めることができる大きさに形成されている。胴体用クッション22は、ダクト部23との接続部から、背もたれ部3の側面に沿って、前側斜め下方に延びている。胴体用クッション22は、乗員5の胴体のうち、例えば胸部から腹部までの範囲を側方から覆う。なお、胴体用クッション22には、頭部用クッション21とは異なり、非膨張部は設けられていない。
【0035】
本実施形態では、乗員5の左右両側において、側頭用保護部25と胴体用クッション22との間に、前側から後ろ側に向かって延びる切れ込み部(空間部)24が形成されている。切れ込み部24は、ハンドルを握る乗員5の上腕部6に沿って、肩部又は肩部近傍まで延びる隙間である。切れ込み部24の奥側には、ダクト部23が位置している。切れ込み部24は、ダクト部23の前面から前側斜め下方に延びている。側面視において、切れ込み部24は、前側ほど広がっている。切れ込み部24は、エアバッグ11が膨張展開の過程で乗員5の肩部に干渉することを抑制する役割を果たす。
【0036】
[平置き状態のエアバッグについて]
次に、未膨張のエアバッグ11を広げて平坦面に平置きした状態(以下、「平置き状態」と言う。)におけるエアバッグ11の構成について、
図5を参照しながら説明を行う。なお、座席1に収納している状態のエアバッグ11を平置き状態にするためには、一対の側頭用保護部25の上端部における後側部分21bの間の結合を解除する必要がある。また、
図5では、太線の破線が縫製箇所を表す。
【0037】
平置き状態のエアバッグ11の説明では、頭部用クッション21の長手方向を「左右方向」、短手方向を「上下方向」と言う。エアバッグ11は、
図5における左右方向における中央部が、膨張完了状態では前側となる。また、エアバッグ11は、
図5における上側が膨張完了状態でも上側となる。
【0038】
エアバッグ11は、左右対称に形成されている。エアバッグ11は、横長形状の頭部用クッション21と、頭部用クッション21の下端部における左右方向の外端部に接続された一対のダクト部23と、各ダクト部23の内側に接続された一対の胴体用クッション22とを備えている。頭部用クッション21は、左右方向の外側に位置する一対の側頭用保護部25と、左右方向の中央部に位置する前方用保護部26とを備えている。
【0039】
頭部用クッション21は、その外周のうち上側部分の中央部が下側に窪んでいる。頭部用クッション21では、側頭用保護部25に比べて前方用保護部26の方が、上下方向の寸法が短い。また、頭部用クッション21の外周のうち下側部分は、中央部から側頭用保護部25の途中まで横方向に延び、その途中から斜め上に延びている。この斜め上に延びる部分により、切れ込み部24が形成されている。なお、頭部用クッション21の外周の下側部分のうち横方向に延びる部分は、
図5の位置より少し下方であってもよい。この場合、切れ込み部24の入口が狭くなる。
【0040】
側頭用保護部25では、左右に延びる複数の第1仮想線41上に、複数の非膨張部30が間隔を空けて配列され、上下に延びる複数の第2仮想線42上にも、複数の非膨張部30が間隔を空けて配列されている。第1仮想線41同士は互いに略平行であり、第2仮想線42同士も互いに略平行である。第1仮想線41と第2仮想線42は、互いに略直交する。なお、各仮想線41,42は、非膨張部30の配列を説明するための仮想の直線であり、実際には存在しない。また、各非膨張部30の形状は、円形であるが、楕円形など他の形状にしてもよい。
【0041】
具体的に、側頭用保護部25では、所定のピッチで上下に並ぶ複数(
図5では3本)の第1仮想線41と、所定のピッチで左右に並ぶ複数(
図5では3本)の第2仮想線42とが交差する格子点の位置に、複数の非膨張部30が配置されている。但し、ダクト部23との接続部(ガスの入口)に最も近い格子点には、非膨張部30は設けられていない。側頭用保護部25では、ダクト部23との接続部の近傍領域25a以外に、複数の非膨張部30が配列されている。なお、非膨張部30の配列は、
図5の配列に限定されない。
【0042】
前方用保護部26では、左右方向の中心の両側において該中心近傍の位置に、複数(
図5では2つ)の非膨張部32が、上下方向に間隔を空けて配列されている。各非膨張部32は、縦方向に細長い形状を呈する。本実施形態では、非膨張部32を設けることで、膨張完了状態で、前方用保護部26が非膨張部32の位置で後ろ側に屈曲し、前方用保護部26の先端側の尖り具合が緩和される。なお、非膨張部32の形状及び配列は、
図5の形状及び配列に限定されない。
【0043】
また、前方用保護部26では、左右の非膨張部32間の前方中央部26aが、上端から下端に亘って、非膨張部が存在しない連続的な膨張領域となっている。また、前方用保護部26では、非膨張部32よりも側頭用保護部25側(膨張完了状態では後ろ側)の各前方側部26bも、上端から下端に亘って、非膨張部が存在しない連続的な膨張領域となっている。
【0044】
ダクト部23は、側頭用保護部25から、外側斜め下方に延びている。ダクト部23の下側は、インフレータ収納部31が接続されたガス導入部となっている。ダクト部23は、側頭用保護部25(第1クッション)への第1連通口23aと、胴体用クッション22(第2クッション)への第2連通口23bとを有する。本実施形態では、第1連通口23aの幅の最小値Whに比べて第2連通口23bの幅の最小値Wbの方が大きい。
【0045】
胴体用クッション22は、切れ込み部24を挟んで、側頭用保護部25の下方に位置する。切れ込み部24は、側頭用保護部25の外周の下側部分と、胴体用クッション22の外周の上側部分とにより形成されている。切れ込み部24は、外向きの斜め上方向に切り込まれた形状を呈する。切れ込み部24の幅は、奥側に近づくに従って徐々に小さくなっている。なお、切れ込み部24の形状は、
図5の形状より隙間が広くてもよいし、狭くてもよい。また、切れ込み部24の長さは、
図5の長さより長くしてもよいし、短くしてもよい。
【0046】
[エアバッグの収納及び座席への固定について]
エアバッグ11は、一対の側頭用保護部25の上端部における外側部分(
図5における二点鎖線の部分35)が、縫製などの手段により互いに結合され、さらに所定の方法にて折り畳まれた状態で、座席1の背もたれ部3に収納される。
【0047】
エアバッグ11には、膨張完了状態における後端部(平置き状態では左右方向の外端部)に、背もたれ部3のシートフレーム1aへの固定部Aが設けられている。エアバッグ11では、各側頭用保護部25の後端部の上端近傍と、各胴体用クッション22の後端部の下端近傍とにそれぞれ、固定部Aが設けられている。座席1に収納された状態のエアバッグ11は、各固定部Aに取り付けられたタブ(図示省略)により、シートフレーム1aに固定されている。なお、エアバッグ1における固定部Aの位置は、この段落に記載した位置に限定されない。
【0048】
また、エアバッグ11は、各インフレータ収納部31でも、スタッドボルト(図示省略)によりシートフレーム1aに固定される。スタッドボルトは、インフレータ収納部31の挿通孔31aに通されて、インフレータ12とエアバッグ11の両方をシートフレーム1aに固定する。エアバッグ11には、2つのインフレータ12が用いられる。
【0049】
[エアバッグの膨張展開]
次に、エアバッグ11の膨張展開について、
図6を参照しながら説明を行う。
【0050】
エアバッグ装置10は、例えば車両の衝突時など車両に衝撃が加わった時に、センサーからの信号を受けた各インフレータ12がガスを噴射することで、エアバッグ11が膨張展開を開始する。
図6(a)は、エアバッグ11の膨張展開が開始された直後の状態を表す。各インフレータ12から噴射されたガスは、ダクト部23を通じて、頭部用クッション21と胴体用クッション22に分配される。頭部用クッション21では、ダクト部23から流入するガスが、側頭用保護部25及び前方用保護部26に流入する。
【0051】
エアバッグ11は、頭部用クッション21が、ヘッドレスト4の上方及び両側方を通って、乗員5の頭部に覆い被さるように、前方に膨張展開する。また、一対の胴体用クッション22は、背もたれ部3の両側方を通って、乗員5の上腕部6に向かって前方(斜め下方)に膨張展開する。エアバッグ11では、頭部用クッション21よりも各胴体用クッション22の方が先に膨張展開が完了する。
【0052】
図6(b)は、乗員5の上腕部6の後ろ側で、胴体用クッション22の膨張展開が完了した直後の状態を表す。この状態では、前方に膨張展開した頭部用クッション21の下端が、乗員5の肩部の高さ付近にある。頭部用クッション21は、胴体用クッション22の膨張展開完了後、ハンドルを握る乗員5の上腕部6(胴体の側方に位置する)の前側で、上側から上腕部6に向かって膨張展開する。
図6(c)は、頭部用クッション21の膨張展開が完了した状態を表す。
【0053】
[本実施形態の効果等]
本実施形態に係るエアバッグ11は、側突対応エアバッグ(側頭用保護部25及び胴体用クッション22)と前突対応エアバッグ(前方用保護部26)が一体となった全方位衝突対応エアバッグである。これにより、乗員5の頭部だけでなく、乗員5の胴体も適切に保護することができる。また、エアバッグ11には、切れ込み部24が設けられている。そのため、膨張展開中に側頭用保護部25と胴体用クッション22との間に隙間が形成され、エアバッグ11が膨張展開の過程で乗員5の肩部に干渉することを抑制することができる。そして、乗員5の前側にエアバッグ11をスムーズに展開することができる。なお、側頭用保護部25と胴体用クッション22が完全に繋がっている場合は、ドア側の乗員5とトリムとの隙間が小さい時にエアバッグ11がスムーズに膨張展開しにくい。本実施形態は、このような場合に特に有用である。
【0054】
本実施形態では、エアバッグ11の膨張展開の際に、乗員5の上腕部6の後ろ側で、胴体用クッション22の膨張展開が完了した後、上腕部6の前側では頭部用クッション21が上側から上腕部6に向かって膨張展開するように、エアバッグ装置10が構成されている。そのため、エアバッグ11をスムーズに膨張展開させることができる。
【0055】
本実施形態では、頭部用クッション21と胴体用クッション22とを連通させるダクト部23を設けているため、エアバッグ11に用いるインフレータ12の数を減らすことができる。さらに、側頭用保護部25とダクト部23との接続部の近傍で、且つ、胴体用クッション22とダクト部23との接続部の近傍に、インフレータ12が配置されている。そのため、前突対応エアバッグのよりも側突対応エアバッグの方が先に膨張展開が完了する。本実施形態に係るエアバッグ11は、早いタイミングでの乗員拘束が求められる側面衝突に対応することができる。
【0056】
また、本実施形態では、側頭用保護部25に繋がる第1連通口23aに比べて、胴体用クッション22に繋がる第2連通口23bの方がガスの流路面積を大きくすること等により、側頭用保護部25に比べて胴体用クッション22の方が先に膨張展開が完了するようにしている。そのため、早いタイミングで乗員5の胴体を側方から拘束することができる。
【0057】
本実施形態では、複数の非膨張部30を配列することにより、膨張完了状態における側頭用保護部25の厚みを抑制することができる。また、側頭用保護部25では、ダクト部23との接続部の近傍領域25a以外に、複数の非膨張部30が配列されている。そのため、ダクト部23から頭部用クッション21にガスがスムーズに流入する。さらに、各仮想線41,42に沿って複数の非膨張部30を配列することで、
図4に示すように、ガスが各仮想線41,42に沿って流れ、頭部用クッション21を速やか膨張させることができる。
【0058】
本実施形態では、頭部用クッション21の前方用保護部26について、各非膨張部32が縦方向に細長い形状に形成され、さらに、非膨張部32の前側にある前方中央部26aと、非膨張部32の後ろ側にある前方側部26bとが、ともに上端から下端に亘って連続的な膨張領域となっている。これにより、前面衝突時などに頭部用クッション21に衝突する乗員5の頭部への衝撃を緩和することができる。また、非膨張部32を設けることで、頭部用クッション21において前方中央部26aにガスが流れにくくなるため、前方側部26bの膨張を早めることができる。
【0059】
[実施形態の第1変形例]
本変形例に係るエアバッグ11は、平置き状態では切れ込み部24はないが、膨張展開過程で切れ込み部24が形成される。
【0060】
エアバッグ装置10は、
図7に示すように、第1エアバッグ51と、第1エアバッグ51とは別体の第2エアバッグ52とを備えている。インフレータ(図示省略)は各エアバッグ51,52に設けられている。第1エアバッグ51及び第2エアバッグ52は、左右対称に形成されている。また、エアバッグ装置10は、膨張完了状態で各エアバッグ51,52を外側から拘束するベルト53をさらに備えている。
【0061】
各エアバッグ51,52は、乗員5の側頭部及び胴体の側部を保護する第1クッション61と、乗員5の肩部近傍の高さで第1クッション61の後側部分に接続され該接続箇所63から下方に延びる第2クッション62とを備えている。切れ込み部24は、第1クッション61と第2クッション62の間に形成される。
【0062】
第1クッション61は、乗員5の側頭部を保護する側頭用チャンバー65と、乗員5の胴体の側部を保護する胴体側部用チャンバー66とを備えている。胴体側部用チャンバー66は、
図8に示すように、接続箇所63から前側斜め下方に広がっており、乗員5の肩部から腹部を覆う。胴体側部用チャンバー66の外周のうち、切れ込み部24を形成する後側外周部24aは、背もたれ部3の前面に対し下側ほど背もたれ部3から離れるように傾斜している。また、ベルト53は、座席1の上部から延びて、各クッション61,62の外面における側頭用チャンバー65と胴体側部用チャンバー66の間を通り、シートクッション2内又は下側を通る。
【0063】
第2クッション62は、接続箇所63から、背もたれ部3の側面に沿って下方に延びている。第2クッション62には、インフレータが設けられている。第2クッション62の外周のうち、切れ込み部24を形成する前側外周部24bは、背もたれ部3の上部の前面に沿って延びている。
【0064】
図9は、平置き状態の各エアバッグ51,52を、膨張完了状態で乗員5側となる側から見た図である。各エアバッグ51,52は、
図9における左右方向における内側が、膨張完了状態では前側となる。なお、
図9では、ベルト53の記載を省略している。
【0065】
平置き状態では、膨張完了状態で切れ込み部24を形成する後側外周部24aと前側外周部24bのなす角度が、鈍角である。また、第1クッション61では、側頭用チャンバー65と胴体側部用チャンバー66の境界部に、細長形状の非膨張部54が設けられている。膨張完了状態では、非膨張部54の外面上をベルト53が通る。また、胴体側部用チャンバー66には、左右方向に延びる線状の非膨張部55が設けられている。また、第2クッション62には、インフレータの接続部56が設けられている。各エアバッグ51は、第2クッション62で座席に固定される。
【0066】
各エアバッグ51,52は、膨張展開の過程で、第1クッション61と第2クッション62の接続箇所63で、第1クッション61が内側に折れ曲がる。この折れ曲がりにより、第1クッション61の後側外周部24aと第2クッション62の前側外周部24bとの距離が近づき、膨張完了状態では、これらの間に切れ込み24が形成される。本変形例によれば、エアバッグ11が膨張展開の過程で乗員5の肩部に干渉することを抑制することができる。
【0067】
[実施形態の第2変形例]
本変形例は、膨張完了状態のエアバッグ11に切れ込み部24が形成される点は、実施形態と同じであるが、エアバッグ11の形態が実施形態とは異なる。
【0068】
膨張展開が完了した膨張完了状態のエアバッグ11は、
図10に示すように、乗員5の頭部を覆う複数の頭部用クッション71~74と、乗員5の胴体を側方から覆う胴体用クッション75とを備えている。頭部用クッション71~74の第1頭部用クッション71は、乗員5の側頭部を覆う第1クッションに相当する。胴体用クッション75は、乗員5の肩部近傍の高さで第1クッションの後側部分に接続され接続箇所76から下方に延びる第2クッションに相当する。胴体用クッション75は、第1頭部用クッション71に接続されている。胴体用クッション75は、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、座席1の背もたれ部3の上部から膨張展開し、膨張完了状態では、第1頭部用クッション71との接続箇所76から前側斜め下方に延びている。本変形利では、胴体用クッション75にインフレータ(図示省略)が設けられている。
【0069】
膨張完了状態における複数の頭部用クッション71~74では、第1頭部用クッション71に対し、頭部の前方及び反対側の側頭部を覆うように、第2頭部用クッション72、第3頭部用クッション73、及び、第4頭部用クッション74が、この順番で連なる。第1頭部用クッション71は、乗員5の一方の側頭部を覆う。第2頭部用クッション72は、乗員5の頭部を前方から覆う。第3頭部用クッション73は、第1頭部用クッション71とは反対側に設けられ、乗員5の頭部を斜め前方から覆う。第4頭部用クッション74は、乗員5の肩部の上側を通り、第1頭部用クッション71とは反対側の側頭部を覆う。膨張完了状態では、第1頭部用クッション71と胴体用クッション75との間に、前側から後ろ側に向かって延びる切れ込み部24が形成される。本変形例によれば、エアバッグ11が膨張展開の過程で乗員5の肩部に干渉することを抑制することができる。
【0070】
[実施形態のその他の変形例]
上述の実施形態において、頭部用クッション21は、前方用保護部26を有さないものとしてもよい。その場合に、非膨張部により構成されたシート材に、前方用保護部26の部分を置き換えてもよい。また、一対の側頭用保護部25は、前方では接続せずに、上端部の前側部分21aの間で接続するようにしてもよい。
【0071】
上述の実施形態において、胴体用クッション22は、乗員5の片方の側方だけに設けてもよい。その場合に、乗員5のもう片方の側方は、他のエアバッグ11で保護するようにしてもよい。
【0072】
上述の実施形態では、エアバッグ11は、左右対称に形成しているが、左右対称に形成しなくてもよい。例えば、左右で胴体用クッション22の大きさを異ならせてもよい。
【0073】
上述の実施形態において、ダクト部23の代わりに、内部をガスが流通しないシート材により、側頭用保護部25と胴体用クッション22とを接続してもよい。その場合、頭部用クッション21と胴体用クッション22で別々にインフレータ12を設ける。
【0074】
上述の実施形態では、エアバッグ11は、2枚の基布を縫製して形成しているが、いわゆる「ワンピースウィービング(one-piece weaving)」技術を用いて形成したものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、乗員の頭部等を保護するためのエアバッグ装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 座席
5 乗員
10 エアバッグ装置
11 エアバッグ
12 インフレータ
21 頭部用クッション(第1クッション)
22 胴体用クッション(第2クッション)
23 ダクト部
24 切れ込み部
25 側頭用保護部
26 前方用保護部