(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】経編機及び経編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 27/10 20060101AFI20240222BHJP
D04B 21/06 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
D04B27/10
D04B21/06
(21)【出願番号】P 2023085926
(22)【出願日】2023-05-25
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】320001879
【氏名又は名称】カール マイヤー ストール アールアンドディー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】久島 洋平
(72)【発明者】
【氏名】北川 梨恵子
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 智江
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148124(JP,A)
【文献】特開2018-178291(JP,A)
【文献】特開平10-168719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1列の編み針列、1又は複数のガイドバー及び1枚のフォールプレートを備える経編機において、
前記フォールプレートより後ろに配置された少なくとも1枚の地ガイドバーと、
前記フォールプレートより前に配置された2枚のハーフゲージジャカードバーと、
前側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれに、前側の前記ハーフゲージジャカードバーより前からジャカード糸を給糸する複数の糸道と、
後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれに、後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーより後ろからジャカード糸を給糸する複数の糸道と、
糸の送り出し量を1本の糸毎に調整可能で、2枚の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれに前記ジャカード糸を1本ずつ給糸するクリールと、
が設けられた経編機。
【請求項2】
前記編み針列において編成された経編地を巻き取る巻き取り装置と、
前記編み針列から前記巻き取り装置までの前記経編地の巻き取り経路と、
前記巻き取り経路を通過する前記経編地の一方の面に対して送風する送風装置と、
前記巻き取り経路を通過する前記経編地の他方の面から吸引を行う吸引装置と、
が設けられた、請求項1に記載の経編機。
【請求項3】
1列の編み針列、1又は複数のガイドバー及び1枚のフォールプレートを備える経編機を使用して行う経編地の編成方法において、
前記ガイドバーとして前記フォールプレートより後ろに配置された少なくとも1枚の地ガイドバーと、前記フォールプレートより前に配置された2枚のハーフゲージジャカードバーとが設けられた経編機を使用し、
前記地ガイドバーで地組織を編成すると共に、前記ハーフゲージジャカードバーでジャカード組織を編成し、
前記ジャカード組織の編成のために、糸の送り出し量を1本の糸毎に調整可能なクリールから、前側の前記ハーフゲージジャカードバーより前の糸道を通して、前側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれにジャカード糸を1本ずつ給糸すると共に、前記クリールから、後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーより後ろの糸道を通して、後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれにジャカード糸を1本ずつ給糸し、
前記ジャカード組織の編成において、前記ハーフゲージジャカードバーにより前記編み針に掛けられた前記ジャカード糸に前記フォールプレートを作用させ、
前記フォールプレートの前記作用により、前記ジャカード糸を、前記地組織のループ位置においてニードルループを形成せずに前記地組織のシンカーループに編み込まれたものとし、
前記経編地の少なくとも一部において、前記ジャカード糸を、前記地組織のシンカーループに編み込まれた2つの前記ループ位置の間において浮いたものとすることを特徴とする、経編地の編成方法。
【請求項4】
2枚の前記ハーフゲージジャカードバーが、アンダーラップ方向が逆になるカウンターラッピングを行う、請求項3に記載の経編地の編成方法。
【請求項5】
同じループ位置において、前記地ガイドバーのオーバーラップ方向と前記ハーフゲージジャカードバーのオーバーラップ方向を逆にする、請求項3又は4に記載の経編地の編成方法。
【請求項6】
前記編み針列において編成された前記経編地を前記経編機の備える巻き取り装置で巻き取る前に、前記経編地の一方の面に対して送風すると共に、前記経編地の他方の面から吸引を行う、請求項3又は4に記載の経編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経編機及び経編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、1列の編み針列、複数のガイドバー及び1枚のフォールプレートを備える経編機が知られている。
【0003】
この経編機では、フォールプレートより後ろに配置されたガイドバーから給糸された糸は、フォールプレートのない経編機で編成された場合と同様に、編み針に掛けられてニードルループ及びシンカーループからなる地組織を形成する。
【0004】
一方、フォールプレートより前に配置されたガイドバーから給糸された糸は、一旦は編み針に掛けられるが、そのフォールプレートにより編み針のフックよりも下方に押し下げられる。押し下げられた糸は、地組織のニードルループ位置においてニードルループを形成せず、地組織のシンカーループにのみ編み込まれる。この糸により、フォールプレートを使用した場合に特有の編組織が経編地に生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の経編機では、それぞれのガイドバーが所定の運動を繰り返すだけなので、場所による柄の変化が生じない。場所による柄の変化を生じさせるためには、一部のガイドバーをジャカードガイドバーに変更することも考えられる。しかし、従来の経編機のガイドバーをジャカードガイドバーに変更するだけでは、上手く経編地を編成できない。
【0007】
そこで本発明は、場所による柄の変化のある経編地を上手く編成することのできる経編機を提供することを目的とする。また、本発明は、場所による柄の変化のある経編地を上手く編成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の経編機は次の[1]~[2]の実施形態を含む。
【0009】
[1]1列の編み針列、1又は複数のガイドバー及び1枚のフォールプレートを備える経編機において、前記フォールプレートより後ろに配置された少なくとも1枚の地ガイドバーと、前記フォールプレートより前に配置された2枚のハーフゲージジャカードバーと、前側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれに、前側の前記ハーフゲージジャカードバーより前からジャカード糸を給糸する複数の糸道と、後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれに、後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーより後ろからジャカード糸を給糸する複数の糸道と、糸の送り出し量を1本の糸毎に調整可能で、2枚の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれに前記ジャカード糸を1本ずつ給糸するクリールと、が設けられた経編機。
【0010】
[2]前記編み針列において編成された経編地を巻き取る巻き取り装置と、前記編み針列から前記巻き取り装置までの前記経編地の巻き取り経路と、前記巻き取り経路を通過する前記経編地の一方の面に対して送風する送風装置と、前記巻き取り経路を通過する前記経編地の他方の面から吸引を行う吸引装置と、が設けられた、[1]に記載の経編機。
【0011】
また、本発明の経編地の編成方法は次の[3]~[6]の実施形態を含む。
【0012】
[3]1列の編み針列、1又は複数のガイドバー及び1枚のフォールプレートを備える経編機を使用して行う経編地の編成方法において、前記ガイドバーとして前記フォールプレートより後ろに配置された少なくとも1枚の地ガイドバーと、前記フォールプレートより前に配置された2枚のハーフゲージジャカードバーとが設けられた経編機を使用し、前記地ガイドバーで地組織を編成すると共に、前記ハーフゲージジャカードバーでジャカード組織を編成し、前記ジャカード組織の編成のために、糸の送り出し量を1本の糸毎に調整可能なクリールから、前側の前記ハーフゲージジャカードバーより前の糸道を通して、前側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれにジャカード糸を1本ずつ給糸すると共に、前記クリールから、後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーより後ろの糸道を通して、後ろ側の前記ハーフゲージジャカードバーの備える複数のジャカードガイドそれぞれにジャカード糸を1本ずつ給糸し、前記ジャカード組織の編成において、前記ハーフゲージジャカードバーにより前記編み針に掛けられた前記ジャカード糸に前記フォールプレートを作用させ、前記フォールプレートの前記作用により、前記ジャカード糸を、前記地組織のループ位置においてニードルループを形成せずに前記地組織のシンカーループに編み込まれたものとし、前記経編地の少なくとも一部において、前記ジャカード糸を、前記地組織のシンカーループに編み込まれた2つの前記ループ位置の間において浮いたものとすることを特徴とする、経編地の編成方法。
【0013】
[4]2枚の前記ハーフゲージジャカードバーが、アンダーラップ方向が逆になるカウンターラッピングを行う、[3]に記載の経編地の編成方法。
【0014】
[5]同じループ位置において、前記地ガイドバーのオーバーラップ方向と前記ハーフゲージジャカードバーのオーバーラップ方向を逆にする、[3]又は[4]に記載の経編地の編成方法。
【0015】
[6]前記編み針列において編成された前記経編地を前記経編機の備える巻き取り装置で巻き取る前に、前記経編地の一方の面に対して送風すると共に、前記経編地の他方の面から吸引を行う、[3]~[5]のいずれかに記載の経編地の編成方法。
【発明の効果】
【0016】
上記の経編機によれば、場所による柄の変化のある経編地を上手く編成することができる。また、上記の編成方法によれば、場所による柄の変化のある経編地を上手く編成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】編み針、ジャカードガイド及びフォールプレートを編機幅方向から見た図。(a)はジャカードガイドがオーバーラップする時の図。(b)はフォールプレートがジャカード糸を押し下げる時の図。
【
図4】フォールプレートラップ組織の例を示す図。(a)は組織図。(b)は糸の絡み方を示す図。
【
図5】フォールプレートラップ組織の別の例を示す図。(a)は組織図。(b)は糸の絡み方を示す図。
【
図6】経編地の巻き取り経路を編機幅方向から見た図。
【
図7】ハーフゲージジャカードバーによる組織図。(a)はハーフゲージジャカードバーがオーバーラップせずにアンダーラップするコースを有する組織図。(b)はハーフゲージジャカードバーが2ウェールにわたりアンダーラップする組織図。
【
図8】地ガイドバー及びハーフゲージジャカードバーによる組織図。
【
図9】2枚のハーフゲージジャカードバーによる基本組織を示す組織図と、ジャカード機構の作用により基本組織を変化させたときの複数の組織図とを並べた図。
【
図10】
図9の組織図に丸印及び波括弧を描いた図。
【
図11】シューズのアッパーとなる製品部分を含む経編地の写真。
【
図12】地ガイドバー及びハーフゲージジャカードバーによる組織図。
【
図13】前側のハーフゲージジャカードバーによる基本組織を示す組織図と、ジャカード機構の作用により基本組織を変化させたときの複数の組織図とを並べた図。
【
図14】後ろ側のハーフゲージジャカードバーによる基本組織を示す組織図と、ジャカード機構の作用により基本組織を変化させたときの複数の組織図とを並べた図。
【
図16】(a)は衣類の写真。(b)は衣類の一部を拡大した写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の経編機は、編み針列、複数のガイドバー、トリックプレート、ステッチコーム等からなる編成部を備えている。編成部では各種の糸から経編地が編成される。また、本実施形態の経編機は、編成部へ糸を送り出す給糸部、編成部で編成された経編地を巻き取る巻き取り装置、編成部で編成された経編地から余計な繊維を吸引する風綿対策装置等を備えている。
【0019】
本実施形態の経編機におけるガイドバーの配列は
図1の通りである。
図1の紙面に垂直な方向は、経編機の幅方向(「編機幅方向」とする)である。また、
図1の左右方向は、経編機の前後方向である。
図1において、左が前、右が後ろである。
【0020】
本実施形態の経編機は1列の編み針列を備えるシングルラッシェル経編機である。編み針列は多数の編み針10からなる。本実施形態の編み針10はコンパウンドニードルである。コンパウンドニードルはフック11を有する公知の構造のものである。このフックを公知のトング(不図示)が開閉する。ただし、コンパウンドニードルの代わりに、公知のラッチニードルが使用されても良い。
【0021】
また、本実施形態の経編機は、フォールプレートFPと、フォールプレートFPより前に配置された2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2と、フォールプレートFPより後ろに配置された3枚の地ガイドバーGB3、GB4、GB5とを備えている。
【0022】
図2に、それぞれのガイドバーが備えるガイドの配置を簡略化して示す。
図2において、上が経編機の前で、下が経編機の後ろである。図中の線はガイドを表し、図中の丸は編み針10を表している。実際の経編機は、
図2よりも多くの編み針10及びガイドを備えている。
図2ではフォールプレートFPは省略されている。
【0023】
3枚の地ガイドバーGB3、GB4、GB5のそれぞれにおいて、複数本のガイドが編機幅方向に並んでいる。3枚の地ガイドバーGB3、GB4、GB5はそれぞれフルゲージのガイドバーである。すなわち、地ガイドバーGB3、GB4、GB5のそれぞれにおいて、1インチあたりのガイドの本数が、1インチあたりの編み針10の本数と同じであり、かつ、各編み針10に対応する位置に各ガイドが配置されている。
【0024】
地ガイドバーGB3、GB4、GB5はそれぞれ編組織を編成するための基本運動をする。1枚の地ガイドバーに設けられている複数のガイドは同じ運動をする。地ガイドバーGB3、GB4、GB5のうち少なくとも1枚は、鎖編組織のような、経方向及び緯方向に多数のループを形成する地組織を編成するガイドバーである。
【0025】
また、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のそれぞれにおいて、複数本のジャカードガイドが編機幅方向に並んでいる。ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は、それぞれハーフゲージのジャカードバーである。ここで、1インチあたりのジャカードガイドの本数が1インチあたりの編み針10の本数の半数であり、2本の編み針10に対してジャカードガイド1本の割合でジャカードガイドが配置されたジャカードバーのことを「ハーフゲージジャカードバー」と言う。
【0026】
2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のそれぞれにおいて、2本の編み針10に対して1本のジャカードガイドが配置されている。そして、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2を合わせると、編み針10の本数と同数のジャカードガイドが揃う。
【0027】
ハーフゲージジャカードバーJB1のジャカードガイドと、ハーフゲージジャカードバーJB2のジャカードガイドとは、編み針10の間隔と同じ間隔だけずれている。2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2を合わせると、1本の編み針10に対して1本のジャカードガイドが配置され、編み針10と同数のジャカードガイドが編機幅方向に等間隔で並ぶこととなる。
【0028】
ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2はそれぞれ基本組織を編成するための基本運動をする。それに伴い、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2にそれぞれ設けられている複数のジャカードガイドは、基本組織を編成するための基本運動をする。
【0029】
基本組織を編成するための基本運動に加えて、これらのジャカードガイドは、それぞれジャカード機構の作用により独立して変位可能となっている。そのため、複数のジャカードガイドはそれぞれ異なる運動をすることができる。ジャカード機構が作用すると、ジャカードガイドは基本組織の編成中の位置よりも1Gの距離(隣接する2本の編み針10の間隔)だけ編機幅方向に変位する。ジャカード機構は、オーバーラップの時だけ作用させることも、アンダーラップの時だけ作用させることも、オーバーラップとアンダーラップの両方の時に作用させることもできる。
【0030】
ジャカード機構の作用により、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2から給糸される糸であるジャカード糸は、経編地の場所によって異なる形態で地組織に編み込まれる。ジャカード糸が形成する編組織をジャカード組織と言う。
【0031】
図1の配列において、ハーフゲージジャカードバーJB1から地ガイドバーGB4までが編み針10にオーバーラップ可能である。
【0032】
フォールプレートFPは1枚のスチール板を備えている。フォールプレートFPは上下動し、編み針10のすぐ前に下降することができる。
【0033】
ここで、フォールプレートFPの作用について
図3~
図5に基づき説明する。なお、
図3には、簡略化のため一部のガイドのみ描かれている。また、
図3には、参考のために編み針10としてコンパウンドニードルの代わりにラッチニードルが描かれているが、どちらのニードルを使用しても以下の説明に影響はない。また、
図4及び
図5には、簡略化のため一部の糸のみが描かれている。
【0034】
フォールプレートFPは、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2から給糸されるジャカード糸に対して作用する。具体的には、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が備えるジャカードガイドは、編み針10に対して、スイングイン、オーバーラップ及びスイングアウトを行う。この一連の運動の中で、
図3(a)のようにジャカードガイド13がオーバーラップを行うことによりジャカード糸14を編み針10に掛けた後に、
図3(b)のようにフォールプレートFPが下降してジャカード糸14を押し下げる。この押し下げにより、ジャカード糸14が編み針10のフック11の場所よりも下方に下がる。
【0035】
このようなフォールプレートFPの作用により、特有のフォールプレートラップ組織が形成される。フォールプレートラップ組織は、ジャカード糸14が、地組織のニードルループ位置においてニードルループを形成せず、地組織のシンカーループに編み込まれた編組織である。
【0036】
例えば、
図4及び
図5は、地組織が開き目の鎖編組織のときのジャカード糸14について描いた図である。
図4は(a)のようにハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が閉じ目のデンビを編成する運動をする場合の図である。また、
図5は(a)のようにハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が開き目のデンビを編成する運動をする場合の図である。いずれの場合も、
図4(b)及び
図5(b)から、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2から給糸されるジャカード糸14(図中の太い方の糸)が地組織のニードルループ15の位置においてニードルループを形成せず、地組織のシンカーループ16に編み込まれていることがわかる。
【0037】
なお、挿入組織では1本の糸(挿入糸)がクロスすることがないのに対し、フォールプレートラップ組織では
図4(b)及び
図5(b)からわかるようにループ位置において1本のジャカード糸14がクロスする。この点で、フォールプレートラップ組織は挿入組織と異なる。
【0038】
このように、経編機は、フォールプレートFPを備えることにより、フォールプレートFPを使用した編成を行うことができ、特有のフォールプレートラップ組織を編成することができる。
【0039】
また、本実施形態の経編機は、3枚の地ガイドバーGB3、GB4、GB5へ糸を給糸するために、複数のビーム、3本のビームシャフト、3つの送り出し装置等(いずれも不図示)を備えている。ビーム、ビームシャフト及び送り出し装置は給糸部の一部である。1枚の地ガイドバーに対して、複数のビーム、1本のビームシャフト、1つの送り出し装置等が設けられている。
【0040】
糸が巻き取られた複数のビームが、1本のビームシャフトに通されている。そして、1本のビームシャフトに通された複数のビームから、1枚の地ガイドバーが備える複数のガイドへ、それぞれ糸が給糸される。給糸される糸の送り出し量は、送り出し装置によって調整される。そのため、地ガイドバーごとに糸の送り出し量が調整されることとなる。すなわち、1枚の地ガイドバーが備える全てのガイドに、同じ送り出し量で糸が給糸されることとなる。
【0041】
また、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2へジャカード糸を給糸するために、経編機には、給糸部の別の一部として、不図示のクリールが設けられている。クリールには多数のヤーンパッケージが設けられている。ヤーンパッケージは、原糸がチーズ、コーン、パーン等の形状に巻き取られて形成されたものである。
【0042】
それぞれのヤーンパッケージからそれぞれのジャカードガイドへ、ジャカード糸が1本ずつ給糸される。また、それぞれのヤーンパッケージから引き出されたそれぞれの糸に、独立して張力がかけられる。そのため、クリールから2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2へのジャカード糸の送り出し量は、糸1本ずつ調整できる。
【0043】
クリールの備える複数のヤーンパッケージから、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の備える複数のジャカードガイドそれぞれに、ジャカード糸を給糸する複数の糸道(「前側ジャカード糸道」とする)が形成されている。また、クリールの備える別の複数のヤーンパッケージから、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の備える複数のジャカードガイドそれぞれに、ジャカード糸を給糸する複数の糸道(「後ろ側ジャカード糸道」とする)が形成されている。前側ジャカード糸道と後ろ側ジャカード糸道は、前後に分割されている。
【0044】
前側ジャカード糸道は、前側のハーフゲージジャカードバーJB1へ、前側のハーフゲージジャカードバーJB1より前からジャカード糸を給糸する糸の通り道である。ここで、前側のハーフゲージジャカードバーJB1より前からジャカード糸を給糸するとは、厳密には、前側のハーフゲージジャカードバーJB1のジャカードガイドに形成されたガイド孔より前からジャカード糸を給糸することを意味する。
【0045】
また、後ろ側ジャカード糸道は、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2へ、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2より後ろからジャカード糸を給糸する糸の通り道である。ここで、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2より後ろからジャカード糸を給糸するとは、厳密には、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2のジャカードガイドに形成されたガイド孔より後ろからジャカード糸を給糸することを意味する。
【0046】
ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2はスイングイン及びスイングアウトの運動により前後に移動するが、そのように移動しても、前側ジャカード糸道及び後ろ側ジャカード糸道の給糸方向は変わらない。
【0047】
本実施形態の経編機は、さらに、編成された経編地を巻き取る不図示の巻き取り装置を備えている。巻き取り装置は複数の巻き取りローラを備える周知の構造のものである。そして、編み針10等を含む編成部から、巻き取り装置まで、経編地の巻き取り経路が形成されている。
【0048】
この巻き取り経路に対して風綿対策装置が設けられている。
図6に示すように、風綿対策装置は、巻き取り経路を通過する経編地1の一方の面(例えば裏側の面)に対して送風する送風装置21と、巻き取り経路を通過する経編地1の他方の面(例えば表側の面)から吸引を行う吸引装置22とを備えている。図示省略するが、風綿対策装置は、複数の送風装置21と複数の吸引装置22を備えている。複数の送風装置21と複数の吸引装置22は、それぞれ編機幅方向に並んでいる。それぞれの送風装置21とそれぞれの吸引装置22が、経編地1を間にして対向するように配置されている。
【0049】
経編地1が巻き取り経路を通過しているときに、送風装置21からの送風と吸引装置22による吸引とを並行して行い空気を経編地1に通すことにより、余計な繊維を吸引装置22で吸引することができる。
【0050】
編み針10、フォールプレートFP、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2及び地ガイドバーGB3、GB4、GB5等の運動は、経編機が備える不図示の制御部によって制御される。
【0051】
本実施形態の経編機は、他に、周知のシングルラッシェル経編機と同様の構造を備えている。
【0052】
次に、上記の構造の経編機による経編地の編成方法と、編成される経編地について説明する。
【0053】
編成前に、3枚の地ガイドバーGB3、GB4、GB5の一部又は全部が、編成に使用する地ガイドバーとして選択される。そして、編成中、選択された地ガイドバーが備える全てのガイドに、ビームから糸が給糸される。
【0054】
また、編成中、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が備えるそれぞれのジャカードガイドに、クリールからジャカード糸が給糸される。具体的には、前側ジャカード糸道を通して、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の備える全てのジャカードガイドそれぞれに、ジャカード糸が1本ずつ給糸される。また、後ろ側ジャカード糸道を通して、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の備える全てのジャカードガイドそれぞれに、ジャカード糸が1本ずつ給糸される。ジャカード糸の送り出し量は、それぞれのジャカード糸毎に調整される。
【0055】
地ガイドバーGB3、GB4、GB5に給糸される糸の繊度は、限定されないが、例えば600デシテックス以下である。また、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2に給糸されるジャカード糸は、限定されないが、地ガイドバーGB3、GB4、GB5に給糸される糸よりも太くても良い。ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2に給糸されるジャカード糸の繊度は、例えば、600デシテックス以上1200デシテックス以下である。
【0056】
また、使用される糸の種類は限定されない。糸として、短繊維糸や長繊維糸が使用できる。また、糸として、天然繊維糸や合成繊維糸が使用できる。
【0057】
編成中、選択された地ガイドバーにより、地組織が編成される。地組織の編成と並行して、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2により、ジャカード組織が編成される。ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のそれぞれのジャカード機構が場所により異なる作用をすることによって、ジャカード糸が場所により異なる編組織を形成する。
【0058】
同じループ位置で地ガイドバーとハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップするとき、地ガイドバーのオーバーラップ方向とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向が逆になるように制御される。地ガイドバーとハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の両方がオーバーラップする全てのループ位置において、地ガイドバーのオーバーラップ方向とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向が逆になるように制御される。なお、ループ位置とは、地ガイドバーが編成する地組織のループの位置のことである。
【0059】
ジャカード組織の編成において、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2により編み針10に掛けられたジャカード糸に、フォールプレートFPが作用する。フォールプレートFPは、ジャカードガイドがオーバーラップを行うたびに、ジャカード糸を編み針10におけるフック11より下に押し下げる。これにより、フォールプレートラップ組織が形成される。
【0060】
また、経編地の少なくとも一部において、ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれた2つのループ位置の間において、そのジャカード糸が経編地の前側に浮いたものとなる。そのことを説明するために、
図7(a)、(b)を示す。
図7(a)、(b)において、破線はハーフゲージジャカードバーJB1、JB2による基本組織を表し、実線はジャカード機構が作用することにより基本組織が変化したときの編組織を表している。
【0061】
図7(a)に示すように、ジャカード機構の作用により、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップする位置ができる。この位置を図中に矢印で指し示す。この位置では、ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれずに経編地の前側に浮く。浮いたジャカード糸は、図中に二点鎖線で示すように、地組織のシンカーループに編み込まれた2つのループ位置の間において、経方向に延びる。
【0062】
また、
図7(b)に示すように、ジャカード機構の作用により、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が2ウェールにわたりアンダーラップする位置ができる。この場合、ジャカード糸が地糸のシンカーループに編み込まれる2つのループ位置の間に、ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれずに経編地の前側に浮く。このように浮く範囲を図中に波括弧で示す。
【0063】
このような、地ガイドバー及びハーフゲージジャカードバーJB1、JB2による編成により、ジャカード糸が地組織のニードルループ位置においてニードルループを形成せずに地組織のシンカーループに編み込まれ、かつ、経編地の一部においてジャカード糸が2つのループ位置の間において浮いた経編地が編成される。
【0064】
このような編成中に、風綿対策装置が稼働し、舞い上がる繊維を吸引装置22が吸引する。経編地に短繊維糸が使用される場合は編成中に多くの短繊維が舞い上がるが、吸引装置22はそれらを吸引する。風綿対策装置の場所を通過した経編地は巻き取り装置に巻き取られる。
【0065】
以上のようにして編成された経編地に対し、熱セット等の仕上げ加工が行われる。その後、経編地が裁断、縫製されて衣類等になる。
【0066】
次に、
図8~
図16を用いて、編成方法及び経編地のより詳細な例を説明する。
図8~
図11は、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が同じ基本組織を編成する場合の例である。また、
図12~
図16は、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の基本組織がカウンターラッピングの編組織である場合の例である。
【0067】
【0068】
図8には、地ガイドバーGB3、GB4、GB5による編組織が示されている。また、
図8には、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2による編組織の基本組織も示されている。基本組織とは、ジャカード機構が作用しない場合の編組織のことである。
【0069】
地ガイドバーGB3と地ガイドバーGB4は地組織を編成している。地ガイドバーGB3は鎖編組織を編成している。この鎖編組織をチェーン番号で表すと0-1/1-0//である。また、地ガイドバーGB4はデンビ組織を編成している。このデンビ組織をチェーン番号で表すと1-2/1-0//である。このように、地組織が鎖編組織とデンビ組織からなることにより、経編地が厚くなる。また、鎖編組織とデンビ組織のループが重なり、それぞれのループが2重になることにより、糸がほどけにくくなる。
【0070】
図8に、地ガイドバーGB3、GB4のオーバーラップ方向を矢印で示す。矢印からもわかるように、鎖編組織とデンビ組織は同一方向にオーバーラップしている。
【0071】
また、地ガイドバーGB5は挿入組織を編成している。この挿入組織をチェーン番号で表すと0-0/1-1/0-0/3-3/2-2/3-3//である。チェーン番号からもわかるように、この挿入組織を形成する挿入糸は、経方向へ延びるだけでなく、緯方向へも振られて3ウェールにわたり挿入されている。地ガイドバーGB5には非伸縮糸が給糸されており、その非伸縮糸がこのように挿入されることにより、経編地が経方向へも緯方向へも伸びにくくなる。
【0072】
また、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は同じ基本組織を編成する。ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が編成する基本組織はデンビ組織である。このデンビ組織をチェーン番号で表すと1-0/1-2//である。
【0073】
図8に、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向を矢印で示す。矢印からもわかるように、基本組織を編成するときのハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は、地ガイドバーGB3、GB4とは逆方向にオーバーラップしている。
【0074】
図9に、ジャカード機構が作用したときの、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が編成する複数の編組織が示されている。ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が編成する基本組織は、一番左上の欄に実線で示されると共に、その他の欄に破線で示されている。また、一番左上以外の欄に、ジャカード機構が作用したときのハーフゲージジャカードバーJB1、JB2による編組織の例が実線で示されている。ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は、経編地の場所ごとに、この
図9にあるいずれかの編組織を編成する。
【0075】
なお、各編組織図において、図中のHはジャカード機構を作用させないことを表している。この場合、ジャカードガイドは基本組織を編成するときと同じ位置にある。また図中のTはジャカード機構を作用させることを表している。この場合、ジャカードガイドは基本組織を編成する位置から変位することになる。TとHは1つのニードル位置の上下段に記載されているが、上段のT又はHはオーバーラップ時にジャカード機構を作用させること又はさせないことを表し、下段のT又はHはアンダーラップ時にジャカード機構を作用させること又はさせないことを表している。
【0076】
この
図9において、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップしているループ位置では、フォールプレートFPの作用により、ジャカード糸がニードルループを形成せず地組織のシンカーループに編み込まれる。
【0077】
一方、
図9において、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップしているループ位置では、ジャカード糸は、ニードルループを形成しないのはもちろんのこと、フォールプレートFPの作用により、地組織のシンカーループに編み込まれない。そのため、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップしているループ位置において、ジャカード糸が経編地の前側に浮く。つまり、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップしているループ位置があると、その前後のループ位置(ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれているループ位置)の間で、ジャカード糸が経編地の前側に浮く。
【0078】
例えば、
図9の右上の編組織を拡大したものが、上記の
図7(a)の編組織である。
図7(a)に矢印で示した位置が、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップしている位置である。この場合、ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれている2つの位置の間の部分が、経編地の前側に浮く。浮いたジャカード糸は、
図7(a)に二点鎖線で示すように、経方向に延びた形で浮く。
【0079】
図10に、
図9と同じ編組織に丸印を描いた図を示す。
図10において、編組織を示す実線のうち、実線の丸で囲んだ部分が、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップすることにより、ジャカード糸が浮く部分である。
【0080】
また、
図9の最上段の左から2つ目の編組織を拡大したものが、上記の
図7(b)の編組織である。この編組織のように、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が2ウェールにわたりアンダーラップする位置でも、ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれている2つの位置の間で、ジャカード糸が経編地の前側に浮く。
図10において、編組織を示す実線のうち、波括弧で範囲を示した部分(最上段と最下段の左から2番目の欄)が、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が2ウェールにわたりアンダーラップすることにより、ジャカード糸が浮く部分である。
【0081】
ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は、経編地の場所ごとに、
図9に示す複数の編組織のいずれかを編成する。編組織に起因して、それぞれの場所が、厚みのある厚地部となったり、厚地部に対して薄い薄地部となったりする。また、隣接するウェール同士がジャカード糸で連結されない場所には孔が形成される。さらに、編組織によっては、上記のようにジャカード糸が浮いた浮き糸部も形成される。このように、経編地の場所ごとに厚地部、薄地部、孔が形成され、さらに経編地の少なくとも一部に浮き糸部が形成され、それらに基づく柄が経編地に形成される。
【0082】
なお、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が
図9のような基本組織を変化させた編組織を編成する場合も、地ガイドバーGB3、GB4とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の両方がオーバーラップするループ位置において、地ガイドバーGB3、GB4のオーバーラップ方向とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向は逆である。
【0083】
図11に、
図8~
図10の編組織により編成された実際の経編地の例を示す。この経編地は、シューズのアッパーとなる製品部分17a、17bと、その周辺部分18とからなる。製品部分のうち符号17aで示す部分は、厚地部であり、かつ、ジャカード糸が浮いて浮き糸となった部分である。この部分は特に厚くなっている。また、製品部分のうち符号17bで示す部分には多数の孔が形成されている。また、周辺部分18は、薄地部であり、かつ、ジャカード糸が浮いて浮き糸となった部分である。
【0084】
図11の経編地には、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2から給糸されたジャカード糸として、太番手の非弾性糸が使用されている。この非弾性糸は例えばポリエステル加工糸である。また、この非弾性糸の繊度は例えば950デシテックス以上1050デシテックス以下である。このように太番手の糸が使用されているため、経編地に立体的で目立つ凹凸が形成されている。
【0085】
また、
図11の経編地には、地ガイドバーGB3、GB4から給糸された地糸として非弾性糸が使用されている。この非弾性糸は例えばポリエステル加工糸である。また、この非弾性糸の繊度は例えば85デシテックス以上120デシテックス以下である。
【0086】
また、
図11の経編地には、地ガイドバーGB5から給糸された挿入糸として非弾性糸が使用されている。この非弾性糸は例えばポリエステルのモノフィラメント糸である。また、この非弾性糸の繊度は例えば280デシテックス以上400デシテックス以下である。
【0087】
また、
図11の経編地は、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2及び地ガイドバーGB3、GB4、GB5のそれぞれにフルセットで糸が給糸されて編成されたものである。
【0088】
図11の経編地から製品部分17a、17bが切り出されてシューズのアッパーとして使用される。
【0089】
【0090】
図12~
図16例では地ガイドバーGB5は使用されない。
図12には、地ガイドバーGB3、GB4による編組織が示されている。また、
図12にはハーフゲージジャカードバーJB1、JB2による編組織の基本組織も示されている。
【0091】
地ガイドバーGB3は地組織として鎖編組織を編成している。この鎖編組織をチェーン番号で表すと0-1/1-0//である。また、地ガイドバーGB4は、挿入部分とループ形成部分が混合された編組織(「混合組織」とする)を編成している。この混合組織をチェーン番号で表すと1-1/0-0/0-1/0-0/1-1/1-0//である。これにより、地ガイドバーGB3から給糸される地糸と、地ガイドバーGB4から給糸される糸とが周期的に2重のループを形成することになり、糸がほどけにくくなる。また、地ガイドバーGB4から給糸される糸が周期的に挿入の形態となっているため、糸がほどけようとする力が分散される。
【0092】
図12に、地ガイドバーGB3、GB4のオーバーラップ方向を実線の矢印で示す。実線の矢印からもわかるように、鎖編組織と混合組織は、混合組織がループを形成する位置において、同一方向にオーバーラップしている。
【0093】
2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は、異なる基本組織を編成する。前側のハーフゲージジャカードバーJB1が編成する基本組織は、閉じ目のデンビ組織である。この閉じ目のデンビ組織をチェーン番号で表すと1-0/1-2//である。また、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2が編成する基本組織は、開き目のデンビ組織である。この開き目のデンビ組織をチェーン番号で表すと2-1/0-1//である。
【0094】
図12に、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向を実線の矢印で示す。実線の矢印12からもわかるように、基本組織を編成するときのハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は、地ガイドバーGB3、GB4とは逆方向にオーバーラップしている。
【0095】
また、
図12に、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のアンダーラップ方向を破線の矢印で示す。破線の矢印からわかるように、前側のハーフゲージジャカードバーJB1と、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2で、アンダーラップ方向が逆である。すなわち、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2はいわゆるカウンターラッピングを行っている。カウンターラッピングは、前側ジャカード糸道と後ろ側ジャカード糸道が前後に分割されていることにより可能となっている。
【0096】
図13に、ジャカード機構が作用したときの、前側のハーフゲージジャカードバーJB1が編成する複数の編組織が示されている。また、
図14に、ジャカード機構が作用したときの、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2が編成する複数の編組織が示されている。
【0097】
図13及び
図14において、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が編成する基本組織は、一番左上の欄に実線で示されると共に、その他の欄に破線で示されている。また、一番左上以外の欄に、ジャカード機構が作用したときのハーフゲージジャカードバーJB1、JB2による編組織の例が実線で示されている。前側のハーフゲージジャカードバーJB1は、経編地の場所ごとに、
図13にあるいずれかの編組織を編成する。また、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2は、経編地の場所ごとに、
図14にあるいずれかの編組織を編成する。
【0098】
図13及び
図14の編組織においても、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップしているループ位置では、フォールプレートFPの作用により、ジャカード糸がニードルループを形成せず地組織のシンカーループに編み込まれる。
【0099】
また、
図9及び
図10に示した編組織の場合と同様に、
図13及び
図14の編組織においても、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップしているループ位置では、ジャカード糸は、ニードルループを形成しないのはもちろんのこと、フォールプレートFPの作用により、地組織のシンカーループに編み込まれない。そのため、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップしているループ位置において、ジャカード糸が経編地の前側に浮く。つまり、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップしているループ位置があると、その前後のループ位置(ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれているループ位置)の間で、ジャカード糸が経編地の前側に浮く。
【0100】
図15に、
図14と同じ編組織に丸印を描いた図を示す。
図15において、編組織を示す実線のうち、実線の丸で囲んだ部分が、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップせずにアンダーラップすることにより、ジャカード糸が浮く部分である。
【0101】
また、
図13及び
図14においても、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が2ウェールにわたりアンダーラップする位置で、ジャカード糸が経編地の前側に浮く。ジャカード糸が浮くのは、ジャカード糸が地組織のシンカーループに編み込まれている2つの位置の間である。
図15において、編組織を示す実線のうち、波括弧で範囲を示した部分(上から2段目の左から1番目と3番目の欄)が、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が2ウェールにわたりアンダーラップすることにより、ジャカード糸が浮く部分である。
【0102】
ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2は、経編地の場所ごとに、
図13及び
図14に示す複数の編組織のいずれかを編成する。そのため、経編地の場所ごとに厚地部、薄地部、孔が形成され、さらに経編地の少なくとも一部に浮き糸部が形成され、それらに基づく柄が経編地に形成される。
【0103】
なお、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が
図13及び
図14のような基本組織を変化させた編組織を編成する場合も、地ガイドバーGB3、GB4とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の両方がオーバーラップするループ位置において、地ガイドバーGB3、GB4のオーバーラップ方向とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向は逆となる。
【0104】
また、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がそれぞれ
図13及び
図14のような基本組織を変化させた編組織を編成する場合も、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の両方が同じコースでアンダーラップする時は、前側のハーフゲージジャカードバーJB1と、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2で、アンダーラップ方向が逆となる。
【0105】
図16(a)に、
図12~
図15の編組織により編成された経編地を使用した衣類19の例を示す。この衣類19に形成されている立体感のある柄は、ジャカード組織による柄である。
【0106】
この衣類19に使用されている経編地は、綿100%の経編地である。地ガイドバーGB3、GB4から給糸された糸は、繊度が例えば280デシテックス以上320デシテックス以下の綿糸で、ジャカード糸は繊度が例えば1160デシテックス以上1200デシテックス以下の綿糸である。
【0107】
また、この衣類19に使用されている経編地は、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2及び地ガイドバーGB3、GB4のそれぞれにフルセットで糸が給糸されて編成されたものである。
【0108】
図16(b)に、
図16(a)の衣類19の一部を拡大して示す。この部分では、全体に孔が形成され、さらにジャカード糸が浮き糸となって浮いている。この経編地は、周期的に孔が形成されていることと、上記のように太番手の糸が使用されていることにより、かぎ針編みの編み物のように見える粗い経編地となっている。
【0109】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0110】
本実施形態の経編機は、地ガイドバーGB3、GB4、GB5の他に、フォールプレートFPと、フォールプレートFPより前に配置された2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2を備えている。そのため、フォールプレートラップ組織を編成することができ、さらに、経編地の場所ごとに異なる編組織を編成することができる。
【0111】
ここで、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がフォールプレートFPより前に配置されているため、編成時にフォールプレートFPがジャカード糸を編み針10のフック11の場所から押し下げることになる。そのため、経編地を編成するためにジャカード糸に要求される条件が少ない。例えば、編み針10のフック11に入らないような太い糸をジャカード糸として使用する場合でも、編成を行うことができる。
【0112】
また、2枚のハーフゲージジャカードバーを備える従来の経編機では、2枚のハーフゲージジャカードバーに同じ糸道からジャカード糸が給糸される(例えば、2枚のハーフゲージジャカードバーに、前側のハーフゲージジャカードバーより前からジャカード糸が給糸される)。そのため、アンダーラップ方向が逆になるカウンターラッピングを2枚のハーフゲージジャカードバーが行おうとすると、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の糸と後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の糸とが交差してしまい、編成が阻害される。
【0113】
それに対し、本実施形態の経編機は、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の有する複数のジャカードガイドそれぞれに、前側のハーフゲージジャカードバーJB1より前からジャカード糸を給糸する複数の糸道を備えている。また、本実施形態の経編機は、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の有する複数のジャカードガイドそれぞれに、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2より後ろからジャカード糸を給糸する複数の糸道を備えている。このように糸道が前後に分割されているため、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の糸と後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の糸とが交差することを防ぐことができる。例えば、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がカウンターラッピングを行ったときに、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の糸と後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の糸とが交差することを防ぐことができる。
【0114】
また、本実施形態の経編機は、糸の送り出し量を1本の糸毎に調整可能で、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の有する複数のジャカードガイドそれぞれにジャカード糸を1本ずつ給糸するクリールを備えている。そのため、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の複数のジャカードガイドの様々な運動に対応した適切な量の糸を、クリールからそれぞれのジャカードガイドに送り出すことができる。
【0115】
以上のように、本実施形態の経編機の構成に基づき、場所による柄の変化のある経編地を上手く編成することができる。
【0116】
また、本実施形態の経編機は、編み針列から巻き取り装置までの経編地の巻き取り経路を備えている。そして、巻き取り経路を通過する経編地の一方の面に対して送風する送風装置21と、巻き取り経路を通過する経編地の他方の面から吸引を行う吸引装置22とを有する風綿対策装置を備えている。この風綿対策装置により、経編地に綿糸等の短繊維糸が使用される場合等に、舞い上がった繊維を吸引装置22で吸引することができる。そのため、経編機及びそれを扱う作業者が短繊維糸から保護される。
【0117】
また、本実施形態の編成方法では、地ガイドバーGB3、GB4、GB5が地組織を編成すると共に、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がジャカード組織を編成する。そして、ジャカード組織の編成において、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2により編み針10に掛けられたジャカード糸にフォールプレートFPが作用する。このフォールプレートFPの作用により、ジャカード糸が、地組織のニードルループ位置においてニードルループを形成せずに地組織のシンカーループに編み込まれたものとなる。さらに、経編地の一部において、ジャカード糸が、2つのループ位置の間において浮いたものとなる。これにより、場所による柄の変化のある経編地を編成することができる。
【0118】
ここで、ジャカード糸は、前側のハーフゲージジャカードバーJB1より前の糸道を通して、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の有する複数のジャカードガイドそれぞれに給糸されると共に、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2より後ろの糸道を通して、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の有する複数のジャカードガイドそれぞれに給糸される。そのため、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の糸と後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の糸とが交差することを防ぐことができる。例えば、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がカウンターラッピングを行うときに、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の糸と後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の糸とが交差することを防ぐことができる。
【0119】
また、ジャカード組織の編成のために、糸の送り出し量を1本の糸毎に調整可能なクリールから、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の有する複数のジャカードガイドそれぞれに、ジャカード糸が1本ずつ給糸される。そのため、ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の複数のジャカードガイドの様々な運動に対応した適切な量の糸を、クリールからそれぞれのジャカードガイドに送り出すことができる。
【0120】
以上のように、本実施形態の編成方法の構成に基づき、場所による柄の変化のある経編地を上手く編成することができる。
【0121】
また、本実施形態の編成方法では、編成された経編地の一方の面に対して送風装置21が送風を行うと共に、経編地の他方の面から吸引装置22が吸引を行う。これにより、経編地に綿糸等の短繊維糸が使用される場合等に、舞い上がった繊維を吸引装置22で吸引することができる。
【0122】
また、同じループ位置において地ガイドバーGB3、GB4のオーバーラップ方向とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向が同じ場合、地糸とジャカード糸の接触部分が多い。そのため、この場合、フォールプレートFPがジャカード糸を押し下げる時に、地糸も押し下げてしまうおそれがある。
【0123】
しかし、本実施形態では、同じループ位置で地ガイドバーGB3、GB4とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2がオーバーラップするとき、地ガイドバーGB3、GB4のオーバーラップ方向とハーフゲージジャカードバーJB1、JB2のオーバーラップ方向が逆になる。そのため、地糸とジャカード糸の接触部分が少なく、フォールプレートFPがジャカード糸を押し下げる時に、地糸は押し下げられずにフック11に掛かりニードルループを形成することができる。
【0124】
以上の実施形態は本発明の一例に過ぎない。以上の実施形態に対して様々な変更を行うことができる。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更された変更例については、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0125】
例えば、経編機に設けられる地ガイドバーの数は、1枚又は2枚でも良いし、4枚以上でも良い。また、地ガイドバーが編成する地組織は、
図8や
図12の編組織に限定されない。ハーフゲージジャカードバーJB1、JB2が編成する基本組織も、
図8や
図12の編組織に限定されない。
【符号の説明】
【0126】
FP…フォールプレート、GB3…地ガイドバー、GB4…地ガイドバー、GB5…地ガイドバー、JB1…ハーフゲージジャカードバー、JB2…ハーフゲージジャカードバー、1…経編地、10…編み針、11…フック、13…ジャカードガイド、14…ジャカード糸、15…ニードルループ、16…シンカーループ、17a…製品部分、17b…製品部分、18…周辺部分、19…衣類、21…送風装置、22…吸引装置
【要約】
【課題】場所による柄の変化のある経編地を上手く編成することのできる経編機を提供する。
【解決手段】フォールプレートFPより後ろに配置された少なくとも1枚の地ガイドバーGB3、GB4、GB5と、フォールプレートFPより前に配置された2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2と、前側のハーフゲージジャカードバーJB1の備える複数のジャカードガイドそれぞれに前からジャカード糸を給糸する複数の糸道と、後ろ側のハーフゲージジャカードバーJB2の備える複数のジャカードガイドそれぞれに後ろからジャカード糸を給糸する複数の糸道と、糸の送り出し量を1本の糸毎に調整可能で、2枚のハーフゲージジャカードバーJB1、JB2の備える複数のジャカードガイドそれぞれにジャカード糸を1本ずつ給糸するクリールと、が設けられた経編機。
【選択図】
図1