(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】表面粗さ評価方法とその装置、表面粗さ評価プログラム、および表面粗さ評価プログラムを記憶した記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01B 21/30 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G01B21/30 102
(21)【出願番号】P 2023141086
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-10-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 ゆき
(72)【発明者】
【氏名】原田 祥典
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/069191(WO,A1)
【文献】特開2017-090453(JP,A)
【文献】特開平09-052063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/30
G01B 5/28
G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の表面に設定された複数の局所的な測定領域ごとに、当該測定領域内の前記表面の凹凸量と頻度との関係を示す局所ヒストグラム情報を求めるステップと、
前記測定領域ごとの1番目からN番目までの前記局所ヒストグラム情報を、1番目から順次N番目に向けて累積して、n(n=1~N)個でそれぞれ累積した複数の累積ヒストグラム情報を生成するステップと、
n=N個で累積して生成した前記累積ヒストグラム情報を基準累積ヒストグラム情報とし、n=1個からN個に向けて順次前記局所ヒストグラム情報を累積して生成した複数の前記累積ヒストグラム情報のそれぞれについて、前記基準累積ヒストグラム情報に対する類似度を検出するステップと、
前記検出した類似度が所定の基準に適合しているかをn=1番目からn=N番目に向けて順次検出し、最初に前記基準に適合している前記累積ヒストグラム情報のn番目を表す数nを、前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いるステップと
を有する表面粗さ評価方法。
【請求項2】
前記複数の測定領域は、相互に所定距離以上離れて設定されている請求項1に記載の表面粗さ評価方法。
【請求項3】
前記局所ヒストグラム情報を生成するステップでは、最も多い頻度を基準にして正規化された局所ヒストグラム情報を生成する請求項1に記載の表面粗さ評価方法。
【請求項4】
前記n番目を表す数nを前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いるステップでは、前記前記検出した類似度が、式(2)を満たす場合に、前記類似度が前記所定の基準に適合していると判断する請求項1に記載の表面粗さ評価方法。
Hm
n ≧ Hm
THL ・・・(2)
ただし、Hm
nは、n番目の累積ヒストグラム情報と基準累積ヒストグラム情報との類似度、
Hm
THLは、所定の類似度の閾値、である。
【請求項5】
評価対象の表面に設定された複数の局所的な測定領域ごとに、当該測定領域内の前記表面の凹凸量と頻度との関係を示す局所ヒストグラム情報を求める手段と、
前記測定領域ごとの1番目からN番目までの前記局所ヒストグラム情報を、1番目から順次N番目に向けて累積して、n(n=1~N)個で累積した複数の累積ヒストグラム情報を生成する手段と、
n=N個で累積して生成した前記累積ヒストグラム情報を基準累積ヒストグラム情報とし、n=1個からN個に向けて順次前記局所ヒストグラム情報を累積して生成した複数の前記累積ヒストグラム情報のそれぞれについて、前記基準累積ヒストグラム情報に対する類似度を検出する手段と、
前記検出した類似度が所定の基準に適合しているかをn=1番目からn=N番目に向けて順次検出し、最初に前記基準に適合している前記累積ヒストグラム情報のn番目を表す数nを、前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いる手段と
を有する表面粗さ評価装置。
【請求項6】
前記複数の測定領域は、相互に所定距離以上離れて設定されている請求項5に記載の表面粗さ評価装置。
【請求項7】
前記局所ヒストグラム情報を生成する手段では、最も多い頻度を基準にして正規化された局所ヒストグラム情報を生成する請求項5に記載の表面粗さ評価装置。
【請求項8】
前記n番目を表す数nを前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いる手段では、前記前記検出した類似度が、式(2)を満たす場合に、前記類似度が前記所定の基準に適合していると判断する請求項5に記載の表面粗さ評価装置。
Hm
n ≧ Hm
THL ・・・(2)
ただし、Hm
nは、n番目の累積ヒストグラム情報と基準累積ヒストグラム情報との類似度、
Hm
THLは、所定の類似度の閾値、である。
【請求項9】
評価対象の表面に設定された複数の局所的な測定領域ごとに、当該測定領域内の前記表面の凹凸量と頻度との関係を示す局所ヒストグラム情報を求めるステップと、
前記測定領域ごとの1番目からN番目までの前記局所ヒストグラム情報を、1番目から順次N番目に向けて累積して、n(n=1~N)個で累積した複数の累積ヒストグラム情報を生成するステップと、
n=N個で累積して生成した前記累積ヒストグラム情報を基準累積ヒストグラム情報とし、n=1個からN個に向けて順次前記局所ヒストグラム情報を累積して生成した複数の前記累積ヒストグラム情報のそれぞれについて、前記基準累積ヒストグラム情報に対する類似度を検出するステップと、
前記検出した類似度が所定の基準に適合しているかをn=1番目からn=N番目に向けて順次検出し、最初に前記基準に適合している前記累積ヒストグラム情報のn番目を表す数nを、前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いるステップと
をコンピュータに実行させるための表面粗さ評価プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の表面粗さ評価プログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体の表面粗さの不均一性を評価する表面粗さ評価方法、表面粗さ評価装置、表面粗さ評価プログラム、および表面粗さ評価プログラムを記憶した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の材料、物品、部品または装置等において、その表面粗さが重要なファクターとなる場合がある。たとえば、特許文献1には、電子部品の搬送工程において、搬送路の表面粗さを電子部品の表面粗さよりも小さくすることにより、搬送に伴う電子部品の欠陥の発生を防止し、安定した搬送を行う方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、従来の方法では、複数箇所の表面粗さを測定して平均的な表面粗さを算出することはできるが、表面粗さの不均一性(または均一性)を客観的に判断するための指標がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、物品の表面粗さの不均一性を客観的に定量化して評価することができる表面粗さ評価方法、表面粗さ評価装置、表面粗さ評価プログラム、および表面粗さ評価プログラムを記憶した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る表面粗さ評価方法は、
評価対象の表面に設定された複数の局所的な測定領域ごとに、当該測定領域内の前記表面の凹凸量と頻度との関係を示す局所ヒストグラム情報を求めるステップと、
前記測定領域ごとの1番目からN番目までの前記局所ヒストグラム情報を、1番目から順次N番目に向けて累積して、n(n=1~N)個でそれぞれ累積した複数の累積ヒストグラム情報を生成するステップと、
n=N個で累積して生成した前記累積ヒストグラム情報を基準累積ヒストグラム情報とし、n=1個からN個に向けて順次前記局所ヒストグラム情報を累積して生成した複数の前記累積ヒストグラム情報のそれぞれについて、前記基準累積ヒストグラム情報に対する類似度を検出するステップと、
前記検出した類似度が所定の基準に適合しているかをn=1番目からn=N番目に向けて順次検出し、最初に前記基準に適合している前記累積ヒストグラム情報のn番目を表す数nを、前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いるステップと
を有する。
【0007】
このような表面粗さ評価方法を用いることにより、物品の表面粗さの不均一性を客観的に定量化して評価することができる。物品の表面は、局所的には精細で平坦度の高い表面粗さとなっていても、表面全体として見た場合に不均一な表面粗さとなっている場合がある。しかし、本開示のように物品の表面粗さの不均一性を定量的に評価することにより、表面粗さの均質な製品を適切に供給することができる。また、表面粗さの不均一性あるいはその表示に装置の機能の劣化が現れるような場合には、その装置の性能や劣化状態(耐久性)、あるいは、装置がメンテナンス時期かどうか等を適切に知ることができる。
【0008】
また、本開示に係る表面粗さ評価装置は、
評価対象の表面に設定された複数の局所的な測定領域ごとに、当該測定領域内の前記表面の凹凸量と頻度との関係を示す局所ヒストグラム情報を求める手段と、
前記測定領域ごとの1番目からN番目までの前記局所ヒストグラム情報を、1番目から順次N番目に向けて累積して、n(n=1~N)個で累積した複数の累積ヒストグラム情報を生成する手段と、
n=N個で累積して生成した前記累積ヒストグラム情報を基準累積ヒストグラム情報とし、n=1個からN個に向けて順次前記局所ヒストグラム情報を累積して生成した複数の前記累積ヒストグラム情報のそれぞれについて、前記基準累積ヒストグラム情報に対する類似度を検出する手段と、
前記検出した類似度が所定の基準に適合しているかをn=1番目からn=N番目に向けて順次検出し、最初に前記基準に適合している前記累積ヒストグラム情報のn番目を表す数nを、前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いる手段と
を有する。
【0009】
また、本開示に係る表面粗さ評価プログラムは、
評価対象の表面に設定された複数の局所的な測定領域ごとに、当該測定領域内の前記表面の凹凸量と頻度との関係を示す局所ヒストグラム情報を求めるステップと、
前記測定領域ごとの1番目からN番目までの前記局所ヒストグラム情報を、1番目から順次N番目に向けて累積して、n(n=1~N)個で累積した複数の累積ヒストグラム情報を生成するステップと、
n=N個で累積して生成した前記累積ヒストグラム情報を基準累積ヒストグラム情報とし、n=1個からN個に向けて順次前記局所ヒストグラム情報を累積して生成した複数の前記累積ヒストグラム情報のそれぞれについて、前記基準累積ヒストグラム情報に対する類似度を検出するステップと、
前記検出した類似度が所定の基準に適合しているかをn=1番目からn=N番目に向けて順次検出し、最初に前記基準に適合している前記累積ヒストグラム情報のn番目を表す数nを、前記表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いるステップと
を、コンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0010】
また、本開示に係る表面粗さ評価プログラムを記憶した記憶媒体は、前記の表面粗さ評価プログラムを記憶した記憶媒体である。
【0011】
これらの表面粗さ評価装置、表面粗さ評価プログラム、および表面粗さ評価プログラムを記憶した記憶媒体においても、これを用いて評価装置を稼働することにより、あるいはプログラムをコンピュータで実行することにより機能を発揮させた場合には、物品の表面粗さの不均一性を客観的に定量化して評価することができる。その結果、表面粗さの均質な製品を適切に供給することができ、装置の性能や劣化状態(耐久性)、あるいは装置がメンテナンス時期かどうか等を適切に知ることができる。
【0012】
複数の測定領域は、相互に所定距離以上離れて設定されていてもよい。
【0013】
複数の測定領域を所定距離以上離れて設定することにより、位置的に相互関連性の低い測定領域から表面粗さを検出し類似度を検証することができる。その結果、評価対象の表面粗さに関する特徴量の分布状態をより適切に検出することができ、表面粗さの不均一性(均一性)をより適切に反映した指標値を検出することができる。
【0014】
局所ヒストグラム情報の生成においては、最も多い頻度を基準にして正規化された局所ヒストグラム情報を生成してもよい。
【0015】
測定対象の複数の測定領域の凹凸量を正規化することにより、その後の処理として局所ヒストグラム情報を累積(加算)した時に、測定領域ごとの局所ヒストグラム情報の重みを略等しくすることができる。換言すれば、累積ヒストグラム情報の生成に際して、凹凸量の頻度の絶対値(現実の度数)により各局所ヒストグラム情報の重みが異なる状態となることを避けることができる。その結果、複数の測定領域の凹凸量の分布(局所ヒストグラム情報)の寄与度を等しくした累積ヒストグラム情報を得ることができ、測定対象の表面の不均一性を一層適切に評価することができる。
【0016】
n番目を表す数nを表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いるステップでは、検出した類似度が式(2)を満たす場合に、類似度が所定の基準に適合していると判断してもよい。
Hmn ≧ HmTHL ・・・(2)
ただし、Hmnは、n番目の累積ヒストグラム情報と基準累積ヒストグラム情報との類似度であり、HmTHLは、所定の類似度の閾値である。
【0017】
このように判断することにより、n番目の累積ヒストグラム情報が測定対象の表面の凹凸量の分布状態に十分高い類似度で類似していることを示す数値nを用いて指標を生成することとなり、測定対象の表面の不均一性/均一性を適切に表す指標を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示に係る表面粗さ不均一度検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示に係る表面粗さ不均一度検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図3A】
図3Aは、表面粗さ不均一度を検出する対象表面に設定された局所的測定領域を説明するための図である。
【
図3B】
図3Bは、局所的測定領域から得られた表面粗さ測定元データを説明するための図である。
【
図3C】
図3Cは、
図3Bに示すデータに前処理(フラット化)を行った結果の表面粗さ測定データを説明するための図である。
【
図3D】
図3Dは、
図3Aに示す局所的な測定領域ごとの凹凸量のヒストグラムの一例を示す図である。
【
図3E】
図3Eは、
図3Dに示す凹凸量ヒストグラムを正規化した局所ヒストグラム情報の例を示す図である。
【
図3F】
図3Fは、累積ヒストグラム情報算出処理を説明するための図である。
【
図3G】
図3Gは、累積ヒストグラム情報と基準累積ヒストグラム情報との類似度を算出し、所定の閾値と比較する処理を説明するための図である。
【
図4】
図4は、研磨直後の金属表面の局所測定領域ごとの前処理後の表面粗さ測定データを例示する図である。
【
図5】
図5は、表面処理を行った金属表面の局所測定領域ごとの前処理後の表面粗さ測定データを例示する図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す表面粗さ測定データに対する凹凸量ヒストグラムを示す図である。
【
図7】
図7は、
図4に示す金属表面と
図5に示す金属表面のそれぞれに対する、累積ヒストグラム情報と基準累積ヒストグラム情報との類似度の収束状態を説明するための図である。
【
図8】
図8は、ヒストグラムの類似性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示に係る物体の表面粗さの不均一性検出(評価)に係る方法、装置およびプログラム等について、
図1~
図8を参照して説明する。
【0020】
以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示である。本開示の実施形態に係る各種構成要素、例えば数値、形状、材料、製造工程等は、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり変更したりすることができる。また、本開示の図面に表された形状等は、実際の形状等とは必ずしも一致しない。説明のために形状等を改変している場合があるためである。
【0021】
ここで、本開示に係る「表面粗さの不均一性」とは、物体の表面における表面粗さの状態が、評価対象の表面全体の中において場所(位置)によって異なっている状態を示す指標であり、表面粗さが不均一とは、表面粗さの状態が場所によって「ばらついている」状態を示す。したがって、表面が粗くとも、評価対象の表面全体でほぼ等しい「粗さ」であれば、不均一性は低い(均一性が高い)と評価することができ、表面が極めて細かく滑らかであっても、その程度が評価対象の表面の場所によって異なる場合には、不均一性は高い(均一性が低い)と評価されるものである。
【0022】
本願においては、表面粗さの「不均一性(不均一度)」および「均一性(均一度)」を併せた概念として、単に「不均一性(不均一度)」と称し、特に、一方に着目した文脈においても、単に「不均一性」と称する場合がある。
【0023】
本開示の方法、装置等において、表面粗さの不均一性を検出する対象となる物体は、任意の物体でよい。たとえば、コンクリート建造物/構造物、アスファルト舗装された道路、金属製物品等の表面であってよい。また、電子部品の分野における結晶基板(単結晶基板等)、金属製材料、金属に限らない各種材料等の表面であってよい。これら本開示の方法等の不均一性の検出対象については、不均一性を検出することの意義を含めて、後述する。
【0024】
また、表面粗さの不均一性を検出する対象表面の大きさは、たとえば数メートル四方というような比較的広い範囲であってもよいし、数ミリメートル角、数cm角というような小さい範囲でもよいし、数μ角というような微小な範囲であってもよい。また、表面粗さの不均一性を検出する対象表面の形状も矩形に限られず任意の形状でよい。
【0025】
また、測定対象とする表面の粗さの程度も、何ら制限されない。たとえば、上記したコンクリート建造物/建造物のように、凹凸が視認できるようないわゆる「粗い」表面であってもよいし、研磨された物品の表面であってもよいし、表面処理が施された精密な材料の表面であってもよい。
【0026】
図1は、本開示の一実施形態の表面粗さ不均一性検出方法の一例の処理手順を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の不均一性検出方法は、表面粗さ測定対象のデータの収集(ステップS1)、フラット化等の前処理(ステップS2)、局所ヒストグラム情報の算出(ステップS3)、累積ヒストグラム情報の算出(ステップS4)、累積ヒストグラム情報と基準累積ヒストグラム情報との類似度の算出(ステップS5)、および不均一度の検出(ステップS6)という各工程を含む。
【0027】
以下、各工程の処理について説明する。
【0028】
まず、表面粗さの不均一性を検出する対象の表面から、凹凸量(高さ、深さ)のデータを収集する(ステップS1)。凹凸量のデータは、不均一性検出対象表面(評価対象表面という場合もある。)に複数の局所的な測定領域(単に測定領域あるいは局所領域と言う場合もある。)を設定し、その局所領域ごとに、その局所領域内の複数の位置の凹凸量を検出したデータである。
【0029】
局所的な測定領域の設定(配置)の例を
図3Aに示す。
図3Aに示す例においては、矩形の不均一性検出対象表面Aに対して、表面Aの全面に略均一に、また、縦横方向(x方向およびy方向)のそれぞれに略等間隔に、N箇所の局所領域S
n(n=1~N)が設定されている。各局所領域S
n(n=1~N)のサイズはいずれも同じであり、x方向長さlxおよびY方向長さlyを有する矩形領域である。各局所領域S
n(n=1~N)の間には、間隔Lが確保されている。局所領域S
n(n=1~N)の間隔Lの最低距離L
minは、たとえば局所領域S
nの1辺の長さ(x方向長さlxまたはY方向長さly)の20倍であってよい。
【0030】
局所領域Sn(n=1~N)のそれぞれを、相互に所定の距離Lmin以上離して設定することにより、評価対象表面Aの相互に位置的相関性の薄い測定領域から表面粗さを検出し類似度を検証することができる。その結果、評価対象の表面粗さに関する特徴量の分布状態をより適切に検出することができ、表面粗さの不均一性(均一性)を適切に検出することができる。
【0031】
ただし、局所領域S
n(n=1~N)の配置は、
図3Aの例に限定されない。局所領域S
n(n=1~N)のそれぞれが相互に所定の距離L
min以上離れていれば、局所領域S
n(n=1~N)は、評価対象表面Aの任意の位置に配置してよい。たとえば、各局所領域S
n(n=1~N)を、評価対象表面A内にランダムに配置してよい。また、たとえば、局所領域S
n(n=1~N)を、評価対象表面A内に均一に配置せず、不均一性が大きいと予測される範囲に多く配置するようにしてもよい。ただし、不均一性の傾向の予測の無い評価対象表面Aに対して不均一性を検出する場合には、複数の測定領域S
n(n=1~N)を評価対象表面Aの略全面にわたって均一に配置することが好ましい。
【0032】
局所領域Sn(n=1~N)の数Nは、たとえば100であるが、100個に限定されるものではなく、任意の数でよい。たとえば、表面粗さの不均一性が少ないと予測される場合には、局所領域Sn(n=1~N)の設定数Nを比較的小さくしてよく(たとえば、10等)、また、表面粗さの不均一性が大きいと予測される場合には、局所領域Sn(n=1~N)の設定数Nを比較的大きくしてよい(たとえば、1000等)。
【0033】
このように設定した各局所領域S
n(n=1~N)に対して、その局所領域内の複数の位置についての凹凸量のデータを求める。
図3Aに示すように、1つの局所領域S
n(n=1~N)を、X方向およびY方向にそれぞれPx×Pyの解像度でスキャンし、各位置(ピクセルと言う場合もある)について凹凸量のデータを求める。本実施形態においては、たとえば、X方向およびY方向の解像度Px=1024(ピクセル/lx)、Py=1024(ピクセル/ly)である。したがって、1つの局所領域S
n(n=1~N)に対して、1024×1024箇所(ピクセル)の凹凸量のデータが得られる。得られたデータは、各局所領域S
n(n=1~N)に対応する表面粗さ測定元データDo
n(n=1~N)として、次工程に供される。
【0034】
凹凸量のデータは、表面形状測定装置を用いて実際に測定してよい。表面形状測定装置としては、AFM(原子間力顕微鏡)、SPM(走査プローブ型顕微鏡)、レーザー顕微鏡、触針式測定器等を用いてよく、また、SEM等による断面観察結果から凹凸量を測定するようにしてもよい。
【0035】
また、凹凸量のデータは、既に測定された3次元形状測定データに基づいて求めてもよい。既に測定された3次元形状測定データから、局所領域Sn(n=1~N)に対応する位置の情報を切り出し、あるいは3次元形状測定データに適当な処理を施して求めるようにしてもよい。
【0036】
次に、ステップS1により得られた表面粗さ測定元データDon(n=1~N)に対して、フラット化等の前処理を行い、前処理後の表面形状測定データDn(n=1~N)を生成する(ステップS2)。
【0037】
フラット化は、評価対象表面Aの各局所領域Sn(n=1~N)に対して得られた表面粗さ測定元データDon(n=1~N)に対して、評価対象表面Aの全体的な傾きによる影響を除去し(オフセットし)、各測定領域Sn(n=1~N)の凹凸量の情報が明確に表された表面形状測定データDn(n=1~N)を生成する処理である。
【0038】
図3Aに示した局所領域S
n(n=1~N)に対してステップS1で得られた表面粗さ測定元データDo
n(n=1~N)の1つを、凹凸量を画像表示させる方法により表すと、
図3Bのような画像が得られる。
図3Bは、凹凸量を画像の色あるいは濃淡(本願においては、図面が白黒画像なので濃淡となる)により表すことにより、測定領域S
n(n=1~N)の凹凸量の状態を直感的に把握できるようにしたものである。
【0039】
図3Bにおいては、全体として図面の左右方向に濃淡の違い、すなわち凹凸量の相違が現れているが、ピクセルごとの凹凸量の状態は画像に現れていない。たとえば評価対象表面Aの全体が傾斜している場合等には、各ピクセルの凹凸量のデータに、評価対象表面Aの全体の傾斜に起因する凹凸量の変化が重畳され、ピクセルごとの凹凸量の重みが相対的に小さくなっているため、測定したそのままのデータ(ステップS1により得られた表面粗さ測定元データDo
n(n=1~N))では、ピクセルごとの凹凸量が適切に検出できない場合がある。
【0040】
フラット化は、測定したデータからこのような評価対象表面Aの全体的な傾きによる影響を除去し、各測定領域Sn(n=1~N)において各ピクセルの凹凸量情報が明確に表れたデータを生成する処理である。なお、このフラット化の処理は、たとえば、測定した表面粗さ測定元データDon(n=1~N)に対して、凹凸量の変化量の長周期成分を除去する等の方法で行うことができる。
【0041】
図3Bにより画像として示した表面粗さ測定元データDo
n(n=1~N)に対してフラット化処理して得られた表面形状測定データD
n(n=1~N)を、
図3Bの場合と同様に画像として表すと、
図3Cの画像となる。
図3Cから明らかなように、フラット化(前処理)後の表面形状測定データD
n(n=1~N)は、各測定領域S
n(n=1~N)の各ピクセルの凹凸量情報が明確に表れている。
【0042】
前処理工程(ステップS2)における処理としては、フラット化以外の他の処理を行ってよい。たとえば、使用した表面形状測定装置の機械的な特性、光学的な特性等の何らかの測定環境が表面粗さ測定元データDon(n=1~N)に表れている(重畳されている)場合には、このような影響を排除する処理を前処理として行うことが望ましい。
【0043】
次に、ステップS2により得られた表面形状測定データDn(n=1~N)に基づいて、局所領域Sn(n=1~N)ごとに、凹凸量と凹凸量の頻度(ピクセル数)の関係を表す局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)を算出(生成)する(ステップS3)。
【0044】
具体的には、局所領域Sn(n=1~N)ごとに、その局所領域Snの表面形状測定データDnに基づいて、各ピクセルの凹凸量を特徴値(階級値)とし、その凹凸量を有するピクセルの数を度数(頻度)としたヒストグラムhgn(n=1~N)を生成する。次に、ヒストグラムhgn(n=1~N)の頻度(ピクセル数)を対数に変換し、さらに対数に変換後の頻度の最頻値(凹凸量ごとのピクセル数の最大値)を基準にして正規化し、局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)を算出する。
【0045】
特徴値(頻度、ピクセル数)を対数に変換することにより、ヒストグラム間の関連性(相関性)が、ヒストグラム間の類似度に顕著に表れるような統計処理を行うことが可能となる。換言すれば、対数に変換された特徴値により形成されたヒストグラム(局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N))を用いることにより、凹凸量の分布の相違をヒストグラム間の類似度の相違として検出することが可能となる。
【0046】
また、正規化を行うことにより、次工程において、異なる局所領域Sn(n=1~N)の局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)を累積する処理を行うときに、測定領域ごとの局所ヒストグラム情報の重みを略等しくすることができる。正規化を行わない場合には、凹凸量の頻度の絶対値(現実の度数)の大小により、累積したヒストグラムにおいて各局所ヒストグラム情報の重みが異なる状態となる場合がある。しかし、正規化を行っておくことにより、複数の測定領域の凹凸量の分布(局所ヒストグラム情報)の寄与度を等しくしてこれを累積することができ、測定対象の表面の不均一性を適切に評価できる。
【0047】
各ピクセルの凹凸量を特徴値とし、その凹凸量を有するピクセルの数を頻度としたヒストグラムを生成し、さらにその頻度(ピクセル数)を対数に変換したヒストグラムhg
n(n=1~N)の一例を
図3Dに示す。また、
図3Dに示すヒストグラムhg
n(n=1~N)を正規化したヒストグラム、すなわち、局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)は、
図3Eに示すようなヒストグラムとなる。なお、
図3Eにおいては、特性値を最多頻度の凹凸量を0として示している。
【0048】
次に、ステップS3により得られた局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)に基づいて、複数の局所ヒストグラム情報Rhg1,…,Rhgn(n=1~N)を累積した累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N)を算出する(ステップS4)。
【0049】
具体的には、
図3Fに示すように、1番目からN番目(本実施形態においてはN=100)までのN個の局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)について、1個からN個までの各個数(n個)ずつ、1番目からn番目までの局所ヒストグラム情報Rhg
1,…,Rhg
nを累積し、累積結果を最頻値で正規化し、累積個数nに対応した累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N)を算出する。これにより、N個の累積ヒストグラム情報Rrp
1,…,Rrp
Nが得られる。
【0050】
このように算出した累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N)のうち、全ての(1番目からN番目までの)局所ヒストグラム情報Rhg1,…,RhgNを累積した累積ヒストグラム情報RrpNは、評価対象表面の全体の凹凸量の特性を示す基準累積ヒストグラム情報とされ、後述するように、各累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N-1)との類似度を算出する基準とされる。
【0051】
なお、累積個数が1の累積ヒストグラム情報Rrp1は、最初に選択した1つの局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)と同じである。
【0052】
なお、
図3Fにおいては、
図3Aを参照して前述した局所領域S
1,…,S
n,…,S
Nに対応する局所ヒストグラム情報Rhg
1,…,Rhg
n,…,Rhg
Nを、累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N)を算出するために累積する局所ヒストグラム情報の順番として説明しているが、これらは同じである必要は無い。すなわち、N個の累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N)を算出するために累積する局所ヒストグラム情報の順番は、N個の局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)に別途新たな順番を設定し、その新たに設定した順番に所定数(n個)の局所ヒストグラム情報Rhg
1,…,Rhg
nを順次累積するようにしてよい。
【0053】
あるいはまた、累積する局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)の順番は決めずに、累積するときに、累積する個数の局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)を適宜(たとえばランダムに)選択し、累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N)を算出するようにしてもよい。
【0054】
累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N)の算出にあたっては、その累積した局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)の個数が重要であり、異なる局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)から選ぶのであれば、累積する個数に応じて適宜局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)を選択すればよい。すなわち、
図3Aを参照して前述した局所領域S
1(n=1~N)の配置や順番は関係なく、任意の局所領域S
n(n=1~N)に対応する局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)を順次累積してよい。
【0055】
一方で、優先的に累積対象としたい局所領域Sn(n=1~N)がある場合には、その局所領域Sn(n=1~N)の局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)が早期に累積対象とされるように、累積される局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)の順番を意図的に設定するようにしてもよい。優先的に累積対象としたい局所領域Sn(n=1~N)がある場合とは、評価対象表面の不均一性に係る特性が予測される場合(たとえば、不均一性が生じやすい範囲が予測される場合等)や、累積数が少ない場合もなるべく評価対象表面の全体から均等に局所領域Snを選びたい場合等である。
【0056】
次に、
図3Gに示すように、ステップS4により得られた累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N)(このうち、n=N個で累積して生成した累積ヒストグラム情報Rrp
Nは、基準累積ヒストグラム情報)に基づいて、累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N-1)のそれぞれについて、基準累積ヒストグラム情報Rrp
Nに対する類似度Hm
n(n=1~N-1)を求める(ステップS5)。
【0057】
累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N-1)の基準累積ヒストグラム情報RrpNに対する類似度Hmn(n=1~N-1)は、式(1)により求める。
【0058】
【0059】
ここで、ヒストグラムの間の類似性について、
図8を参照して説明する。
図8(A)に示すヒストグラムを基準とした場合、
図8(B)に示すヒストグラムと、
図8(C)に示すヒストグラムのいずれが基準ヒストグラムに類似しているかは、これらを基準のヒストグラムに重ね合わせたときの重なり部分の面積で判断するのが好ましい。
【0060】
すなわち、
図8(B)に示すヒストグラムを、
図8(A)に示す基準のヒストグラムに重ね合わせると、
図8(D)に斜線で示す部分が重なり部分となる。一方、
図8(C)に示すヒストグラムを、
図8(A)に示す基準のヒストグラムに重ね合わせると、
図8(E)に斜線で示す部分が重なり部分となる。
【0061】
そして、
図8(D)と
図8(E)とを比較すれば明らかなように、斜線部分の面積は明らかに
図8(D)の方が広く、
図8(B)に示すヒストグラムの方が、
図8(C)に示すヒストグラムよりも、
図8(A)に示す基準のヒストグラムに近い、すなわち類似していることがわかる。上記の式(1)は、このような観点から、基準のヒストグラムに対する重なり部分の割合を、ヒストグラム間の類似度として算出する式である。
【0062】
次に、ステップS5により得られた累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N-1)の基準累積ヒストグラム情報RrpN に対する類似度Hmn(n=1~N-1)が、所定の基準に適合しているかをn=1番目からn=N番目に向けて順次判定し、最初に基準に適合しているとして検出された累積ヒストグラム情報のn番目を表す数nを検出する。そして、検出した数n、および、基準累積ヒストグラム情報RrpNを生成するために累積した局所ヒストグラム情報の数Nとに基づいて、評価対象表面の表面の粗さの不均一性を示す指標f(n,N)を生成し出力する。(ステップS6)
【0063】
累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N-1)の基準累積ヒストグラム情報RrpNに対する類似度Hmn(n=1~N-1)が、所定の基準に適合しているかは、類似度Hmnが式(2)を満たす場合に、類似度が所定の基準に適合していると判断する。
【0064】
Hmn ≧ HmTHL ・・・(2)
ただし、HmTHLは、所定の閾値である。
【0065】
したがって、ステップS6においては、例えば
図3Gに示すフローチャートのように、n=1番目の累積ヒストグラム情報Rrp
1から開始して、n番目の累積ヒストグラム情報Rrp
nの基準累積ヒストグラム情報Rrp
Nに対する類似度Hm
nが基準類似度Hm
THL以上であるか否かを検出し(ステップS61)、基準類似度Hm
THL以上でない場合には、次のnについて(ステップS62)、類似度Hm
nが基準類似度Hm
THL以上であるか否かを検出する(ステップS61)。
【0066】
この処理を繰り返し、類似度Hmnが基準類似度HmTHL以上となる場合が検出されたら、その最初に検出した類似度Hmnに係るn番目を表す数「n」を、換言すれば、基準累積ヒストグラム情報RrpNとの類似度Hmnが基準類似度HmTHL以上となった累積ヒストグラム情報Rrpnを算出するために累積した局所ヒストグラム情報Rhg1,…,Rhgnの数「n」を検出する。そして、その数「n」と、基準累積ヒストグラム情報RrpNを生成するために累積した局所ヒストグラム情報の数「N」とに基づいて、評価対象表面の表面の粗さの不均一性を示す指標f(n,N)を生成し、出力する(ステップS63)。
【0067】
この数「n」は、N個の局所ヒストグラム情報Rhg1,…,RhgNを累積することにより評価対象表面の全体の凹凸量の特性を示すものとされた累積ヒストグラム情報(基準累積ヒストグラム情報)RrpNに対して、n個の局所ヒストグラム情報Rhg1,…,Rhgnを累積して算出した累積ヒストグラム情報Rrpnが、十分類似していることを示す数である。
【0068】
したがって、nが小さければ、少ない数の局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)で評価対象表面の全体の凹凸量の特性を表すことができ、表面粗さの不均一性が小さいと判断できる。また、nが大きければ、多数の局所ヒストグラム情報Rhgn(n=1~N)を用いなければ評価対象表面の全体の凹凸量の特性を表すことができず、したがって、表面粗さの不均一性が大きいと判断できる。
【0069】
なお、この数「n」は、Nに対してどの程度の「n」で評価対象表面の凹凸量を特徴を表現できたかを示す数値であるため、nに基づいて生成される評価対象表面の表面粗さの不均一性を示す指標は、nとNとに基づく関数f(n,N)となる。f(n,N)で表される評価対象表面の表面粗さの不均一性を示す指標は、たとえば、n/Nのような指標が考えられる。
【0070】
このような本開示に係る表面粗さの不均一性検出(評価)方法は、各工程(ステップ)をコンピュータにより実行させるように構成されたプログラムによっても実施可能である。
【0071】
また、本開示に係る表面粗さの不均一性検出(評価)方法は、たとえば
図2に示す装置によっても達成される。
図2は、本開示の一実施形態の表面粗さ不均一性検出装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、表面粗さ不均一性検出装置1は、演算処理部10、記憶部20、入力I/F部31および出力I/F部32を有する。また、演算処理部10は、前処理部11、局所ヒストグラム情報算出部12、累積ヒストグラム情報算出部13、類似度算出部14および不均一度検出部15を有する。
【0072】
演算処理部10の、前処理部11、局所ヒストグラム情報算出部12、累積ヒストグラム情報算出部13、類似度算出部14および不均一度検出部15は、それぞれ、上述した本開示に係る方法の前処理工程(ステップS2)、局所ヒストグラム情報算出工程(ステップS3)、累積ヒストグラム情報算出工程(ステップS4)、類似度算出工程(ステップS5)および不均一度検出工程(ステップS6)に対応する処理を実行する。
【0073】
各処理部の機能は、記憶部20に記憶されたプログラムに基づいて演算処理部10が駆動されることにより、実行される。各処理部における処理の実行により算出/生成等された各データは、適宜記憶部20に記憶され、他の処理部等により参照され、また、出力I/F部32を介して出力される。
【0074】
一方、上述した本開示に係る方法の表面粗さ測定元データ収集工程(ステップS1)の処理は、表面粗さ不均一度検出装置1とは別装置である表面形状測定装置50において測定された3次元形状測定データ(表面粗さ測定元データDon(n=1~N))を、入力I/F部31を介して取り込み、記憶部20に記憶することにより行う。なお、表面粗さ不均一性検出装置1における処理が、後述するように2次元で形状が規定される物体の所定方向の凹凸量の不均一性の検出である場合には、表面形状測定装置50は、2次元形状測定データを測定し表面粗さ不均一性検出装置1に入力すればよい。表面形状測定装置50の機能や構成は、表面粗さ不均一性検出装置1における処理対象に応じて決定されてよい。
【0075】
表面粗さ不均一度検出装置1の構成は、
図2の構成に限られるものではない。たとえば、表面粗さ不均一度検出装置1で実行する処理の一部を、表面形状測定装置50で行う構成としてもよい。具体的には、たとえば、測定したデータに対するフラット化等の前処理部11における処理、あるいは、さらに局所ヒストグラム算出部12における処理等は、表面形状測定装置50で行うようにしてもよい。
【0076】
以上説明したように、本実施形態の表面粗さ不均一性方法および表面粗さ不均一性検出装置等によれば、所望の物品の表面粗さの不均一性を、数値により定量化して客観的に検出し評価することができる。その結果、表面粗さの均質な製品を適切に供給することができる。また、物品、部材、材料間の表面粗さの不均一性の比較が可能となる。
【0077】
具体例として、たとえば圧電材料に用いられるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を研削する際、面内チップの間で面粗さばらつきが発生し、特性が不安定になる場合がある。このような場合に、本実施形態の方法、装置により面粗さばらつきを検出し、これを抑制することにより、特性の安定した材料を得ることができる。
【0078】
また、本実施形態により、電子部品の製造に係り、単結晶基板上の薄膜の表面粗さの不均一性、PETフィルムのシートの表面粗さの不均一性、あるいは、MLCCやLTCCのグリーンシートの表面粗さの不均一性、あるいは、アルミ箔の表面粗さの不均一性等を検出することが可能になる。これにより、これら各部材/部分の表面粗さの不均一性を低下させ、電子部品を大量生産する時等の電気特性のばらつきを小さくすることができる。
【0079】
また、高分子材料表面の表面の接触角を測定する際に、表面粗さが不均一かどうかで接触角の補正の有無を決める必要がある。このような場合、本実施形態に係る方法、装置により材料表面の表面粗さの不均一性を検査することにより、補正の必要性を容易に判断できる。
【0080】
また、表面粗さの不均一性あるいは不均一な測定結果を出力することに装置の機能の劣化が現れるような場合には、その装置の性能や劣化状態(耐久性)、あるいは、装置がメンテナンス時期かどうか等を適切に知ることができる。たとえば、SPM(走査プローブ型顕微鏡)のプローブが設置されたカンチレバーの交換時期は、これまでは作業者が経験的に判断するしかなかったが、凹凸が知れている試料についての累積ヒストグラム情報Rrpnを生成して比較することにより、その動作状態の状況を把握することが可能となり、カンチレバー交換の時期、あるいは、交換までの粗さ測定枚数の予測が可能となる。
【0081】
また、本実施形態により、たとえばアスファルトの路面の表面粗さ不均一性を検出することが可能になる。これにより、たとえば自動車レースのとき等に、路面の粗さの不均一性に合わせた適切なタイヤの選択が可能となる。また、本開示により、コンクリート壁の表面粗さ不均一性を検出することが可能になる。これにより、たとえばコンクリート壁の表面粗さの不均一性を低下させ、コンクリート壁の品質を向上させることができる。また、本実施形態により、種々の塗装面の表面粗さ不均一性を検出することが可能になる。これにより、塗装面の不均一性を低下させ、塗装品質を向上させることができる。
【0082】
また、本実施形態は、油絵に対して表面粗さの不均一性を検出することも可能になる。これにより、たとえば画家ごとの筆のタッチを評価することができる。あるいはまた、本実施形態は、タオル等の布地の表面粗さの不均一性を検出することも可能になる。これにより、凹凸(表面粗さ)の不均一性を小さくすることができ、使用者にとって心地よいタオル等を提供可能となる。
【0083】
なお、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではなく、任意好適な種々の改
変が可能である。
【0084】
たとえば、上述した実施形態においては、3次元形状の物体における特定の表面(二次元表面)の粗さ(高さ方向の凹凸量)の不均一性を検出する方法等について開示した。具体的には、
図3Aに示すように評価対象表面Aに二次元的に配列された複数の局所的な測定領域S
n(n=1~N)を設定し、各局所領域S
n(n=1~N)をさらにX-Y方向にそれぞれ所定の解像度で走査し、凹凸量の局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)を生成していた。すなわち、2次元に配置された凹凸量測定ポイントを用いて、表面粗さ不均一性を検出していた。
【0085】
しかしながら、たとえば本開示の方法等は、有意な次元として2次元(2軸)で規定されるような物体に対して、特定の方向(一方の軸方向)の各位置における他の方向(他方の軸方向)の凹凸量の不均一性を検出することに適用してもよい。この場合は、二次元形状測定データに基づいて、直線上に配置された、すなわち特定の方向(一方の軸方向)に一次元に配置された凹凸量測定ポイントを用いて、一次元方向の表面粗さ(他方の軸方向の凹凸量)不均一性を検出するようにしてもよい。
【0086】
あるいは、たとえば3次元に設定された複数の測定ポイントについて、何らかの物理量を特徴量として設定し、3次元の複数の測定ポイントにおいて、その物理量の不均一性を検出するように構成してもよい。
【0087】
実施例
このような本開示に係る方法により、表面粗さの不均一性を検出した実施例について説明する。ここでは、2種類の金属表面αおよびβについて、不均一性を検出した結果について説明する。
【0088】
金属表面αおよびβが形成される部材は、いずれも平面形状が100mm角の矩形で、厚さ10mmの直方体形状の金属部材である。表面αおよびβは、この直方体形状の金属部材の100mm角の対向面の一方の面である。金属表面αは、通常研磨した面であり、金属表面βは、通所研磨に加えてさらに表面加工を施した面である。
【0089】
このような金属表面αおよびβを、SPM(走査プローブ型顕微鏡)で走査し、その3次元形状を測定する。走査対象となる局所的な測定領域S
n(n=1~N)の配置は
図3Aに示した配置と同じである。各局所領域S
n(n=1~N)の平面形状は10μm角であり、各局所領域S
n(n=1~N)の間隔は200μmであり、局所領域S
n(n=1~N)の数Nは100である。各局所領域S
n(n=1~N)をX方向およびY方向にそれぞれ1024ピクセルの解像度で走査する。したがって、各局所領域S
n(n=1~N)から、1024×1024ピクセルに対する凹凸量のデータが測定される。
【0090】
図4(A)~
図4(C)は、金属表面αをこのような条件でスキャンして得られた表面粗さ測定元データDαo
n(n=1~N)に対して、フラット化処理して得られた表面形状測定データDα
n(n=1~N)を画像として表したものである。
図4(A)~
図4(C)は、それぞれ、金属表面αの局所領域αSi,αSj,αSk(i,j,i=1~N)の表面形状測定データDαi,Dαj,Dαk(i,j,i=1~N)である。
【0091】
また、
図5(A)~
図5(C)は、金属表面βをこのような条件でスキャンして得られた表面粗さ測定元データDβo
n(n=1~N)に対して、フラット化処理して得られた表面形状測定データDβ
n(n=1~N)を画像として表したものである。
図5(A)~
図5(C)は、それぞれ、金属表面βの局所領域βSi,βSj,βSk(i,j,i=1~N)の表面形状測定データDβi,Dβj,Dβk(i,j,i=1~N)である。
【0092】
図4から明らかなように、通常研磨のみを行った金属表面αには、
図4(B)および
図4(C)に示す局所領域αSj,αSkの表面形状測定データDαj,Dαkにおいて、傷状の凹凸が生じており、各局所領域αSi,αSj,αSkの表面形状測定データDαi,Dαj,Dαkの表面粗さは不均一性が見られる。
【0093】
一方、
図4および
図5を比較して明らかなように、通常研磨のみを行った金属表面αに対して、通常研磨に加えてさらに表面加工を施した金属表面βは、表面粗さの状態が均一であり、不均一性が低いと観察できる。
【0094】
このような金属表面αおよびβに対して、本実施形態にかかる不均一性の検出処理を行った。処理途中のデータの一例として、
図6に、金属表面αの局所領域αSi,αSj,αSkの表面形状測定データDαi,Dαj,Dαkから得られたヒストグラムhgαi,hgαj、hgαkを
図6に示す。ヒストグラムhgi,hgj、hgkは、正規化して局所ヒストグラム情報とする前のヒストグラム情報である。
図6から明らかなように、
図4(C)に表面形状測定データDαkを示した局所領域αSkのヒストグラムhgαkには、上記した傷状の凹凸に起因すると考えられる凹凸量の大きい部分が明確に一定頻度で形成されており、他の局所領域αSi、αSjのヒストグラムhgαi、hgαjとは異なる形状となっている。
【0095】
このような金属表面αおよびβに対する不均一性の検出処理の結果として、累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N)を生成するために累積した局所ヒストグラム情報Rhg
n(n=1~N)の個数、すなわち数値「n」と、累積ヒストグラム情報Rrp
n(n=1~N)と基準累積ヒストグラム情報Rrp
Nとの類似度Hm
n(n=1~N)との関係を、金属表面αおよびβそれぞれについて
図7に示す。
【0096】
図7に示すように、
図4から不均一性が観察された金属表面αについては、類似度が1近くに収束するためには最大値100に近い累積回数nが必要となる一方、
図5から不均一性が低いと観察された金属表面βについては、累積回数nが50に達する前に類似度は略1に収束している。
【0097】
仮に、類似度HmTHL=0.95とした場合、すなわち、類似度Hmnが0.95以上の場合に累積ヒストグラム情報Rrpn(n=1~N)と基準累積ヒストグラム情報RrpNとが類似していると定義した場合、金属表面αの不均一性は、N=100に対してn=87と表される。一方、金属表面βの不均一性は、N=100に対してn=37と表される。
【0098】
このように、本開示に係る表面粗さの不均一性の検出方法、検出装置等によれば、所望の物品の表面粗さの不均一性を、数値により定量化して客観的に検出し評価することができる。
【符号の説明】
【0099】
1…表面粗さ不均一性検出装置
10…演算処理部
11…前処理部
12…局所ヒストグラム情報算出部
13…累積ヒストグラム情報算出部
14…類似度算出部
15…不均一度検出部
20…記憶部
31…入力I/F部
32…出力I/F部
50…表面形状測定装置
【要約】
【課題】表面の粗さの不均一性を評価する。
【解決手段】本開示においては、局所的な測定領域ごとに表面の凹凸量と頻度との関係を示す局所ヒストグラム情報を求め、局所ヒストグラム情報を1番目からn個ずつ累積して複数の累積ヒストグラム情報を生成し、最大数N個で累積して生成した累積ヒストグラム情報を基準累積ヒストグラム情報とし、各累積ヒストグラム情報の基準累積ヒストグラム情報に対する類似度を検出し、検出した類似度が所定の閾値以上となる最小のnを表面の粗さの不均一性を示す指標の一部として用いる。
【選択図】
図1