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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/38 20120101AFI20240222BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
F16H48/38
F16H1/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023508409
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013096
(87)【国際公開番号】W WO2022201540
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】淺井 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慎弥
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼津 和馬
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-133775(JP,A)
【文献】特開平9-72405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/38
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機(R)と、その減速機(R)の出力をデフケース(20)が受ける差動装置(D)とを備えた伝動ユニット(U)が、ミッションケース(10)に収納され、前記減速機(R)が、サンギヤ(31)と、該サンギヤ(31)に対し同心状に配置されて前記ミッションケース(10)に固定されるリングギヤ(32)と、前記サンギヤ(31)に噛合する大径ギヤ部(P1)及び前記リングギヤ(32)に噛合する小径ギヤ部(P2)を一体に有する複数の遊星ギヤ(P)とを備えた伝動装置において、
前記デフケース(20)は、差動機構(21)を内部に収容し且つ油を底部に貯溜可能な機構室を相互間に画成する第1,第2ケース(20A,20B,20B′,20B″)より分割構成され、
前記遊星ギヤ(P)は、前記大径ギヤ部(P1)側が前記減速機(R)のキャリア(C)に、また前記小径ギヤ部(P2)側が前記デフケース(20)にそれぞれ軸支され、
前記第1ケース(20A)と、該第1ケース(20A)に結合した前記キャリア(C)との間に前記第2ケース(20B,20B′,20B″)が挟持されていて、前記挟持により該第1ケース(20A)に該第2ケース(20B,20B′,20B″)が固定されることを特徴とする伝動装置。
【請求項2】
前記差動機構(21)は、前記デフケース(20)に回転自在に支持される一対のサイドギヤ(24)と、前記一対のサイドギヤ(24)に噛合する複数のピニオンギヤ(23)と、前記ピニオンギヤ(23)を前記デフケース(20)に回転自在に支持するピニオン軸(22)とを備えていて、前記ピニオン軸(22)を支持するピニオン軸支持部(20k)が前記第1ケース(20A)に設けられており、
前記遊星ギヤ(P)の前記小径ギヤ部(P2)側は、前記第1ケース(20A)に軸支されることを特徴とする、請求項1に記載の伝動装置。
【請求項3】
前記キャリア(C)及び前記第1ケース(20A)の相対向面のうちの少なくとも一方の対向面は、軸方向に凹んだ凹部(Cao,20ao)を有しており、
前記第2ケース(20B,20B′)は、該第2ケース(20B,20B′)を前記凹部(Cao,20ao)に嵌合させた状態で前記キャリア(C)及び前記第1ケース(20A)間に挟持されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動装置、特に減速機と、その減速機の出力をデフケースが受ける差動装置とを備えた伝動ユニットが、ミッションケースに収納され、減速機が、サンギヤに対し同心状に配置されてミッションケースに固定されるリングギヤと、サンギヤに噛合する大径ギヤ部及びリングギヤに噛合する小径ギヤ部を一体に有する複数の遊星ギヤとを備えた伝動装置に関する。
【0002】
本発明及び本明細書において、「軸方向」とは、デフケースの回転軸線(実施形態では第1軸線)に沿う方向をいう。
【背景技術】
【0003】
上記伝動装置は、例えば下記特許文献1に開示されるように既に知られている。この伝動装置では、デフケースが第1,第2ケースより分割構成されており、それら第1,第2ケースの相互間に、差動機構を内部に収容し且つ油を底部に貯溜可能な機構室を画成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本特開平9-72405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが特許文献1の伝動装置では、遊星ギヤの大径ギヤ部側を軸支するキャリアと、デフケースの第1ケースとが一体物として形成されていて、全体としてケース構造が複雑且つ大型化してコスト増となっており、また第2ケースを第1ケースに固定する専用の固定手段も必要である。
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、遊星ギヤの大径ギヤ部側を軸支するキャリアをデフケースとは別部品としてデフケースの第1ケースに後付けで結合可能とし、しかもそのキャリアを利用した簡単な構造で第1ケースに第2ケースを固定できるようにして従来装置の問題を解決可能とした伝動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、減速機と、その減速機の出力をデフケースが受ける差動装置とを備えた伝動ユニットが、ミッションケースに収納され、前記減速機が、サンギヤと、該サンギヤに対し同心状に配置されて前記ミッションケースに固定されるリングギヤと、前記サンギヤに噛合する大径ギヤ部及び前記リングギヤに噛合する小径ギヤ部を一体に有する複数の遊星ギヤとを備えた伝動装置において、前記デフケースは、差動機構を内部に収容し且つ油を底部に貯溜可能な機構室を相互間に画成する第1,第2ケースより分割構成され、前記遊星ギヤは、前記大径ギヤ部側が前記減速機のキャリアに、また前記小径ギヤ部側が前記デフケースにそれぞれ軸支され、前記第1ケースと、該第1ケースに結合した前記キャリアとの間に前記第2ケースが挟持されていて、前記挟持により該第1ケースに該第2ケースが固定されることを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記差動機構は、前記デフケースに回転自在に支持される一対のサイドギヤと、前記一対のサイドギヤに噛合する複数のピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを前記デフケースに回転自在に支持するピニオン軸とを備えていて、前記ピニオン軸を支持するピニオン軸支持部が前記第1ケースに設けられており、前記遊星ギヤの前記小径ギヤ部側は、前記第1ケースに軸支されることを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記キャリア及び前記第1ケースの相対向面のうちの少なくとも一方の対向面は、軸方向に凹んだ凹部を有しており、前記第2ケースは、該第2ケースを前記凹部に嵌合させた状態で前記キャリア及び前記第1ケース間に挟持されることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の特徴によれば、遊星歯車式減速機と差動装置とを備えた伝動ユニットがミッションケースに回転自在に支持され、差動装置のデフケースは、油を底部に貯溜可能な機構室を相互間に画成する第1,第2ケースより分割構成される伝動装置において、遊星ギヤは、遊星ギヤの大径ギヤ部側が減速機のキャリアに、また小径ギヤ部側がデフケースにそれぞれ軸支され、第1ケースと、これに結合したキャリアとの間に第2ケースが挟持されていて、前記挟持により第1ケースに第2ケースが固定される。これにより、遊星ギヤの大径ギヤ部側を軸支するキャリアを、デフケースとは別部品としてデフケースの第1ケースに後付けで結合できるので、キャリアをデフケースと一体化した従来構造と比べ、デフケースの構造簡素化が図られるばかりか減速機の組立性も良好となり、コスト節減に寄与することができる。しかもキャリアと第1ケース間に第2ケースを単に挟持するだけで第2ケースを固定可能となるため、キャリアを利用した簡単な構造で第1ケースに第2ケースを結合することができる。
【0011】
また第2の特徴によれば、第1ケースには、差動機構のピニオンギヤを回転自在に支持するピニオン軸の支持部が設けられ、遊星ギヤの小径ギヤ部側が第1ケースに軸支されるので、第2ケースには、遊星ギヤ(小径ギヤ部)やピニオン軸からの回転力は直接入力されず、その荷重負担を小さくできる。これにより、第2ケースの剛性強度を低めに設定可能となって、第2ケースの軽量小型化を図る上で有利となる。
【0012】
また第3の特徴によれば、キャリア及び第1ケースの相対向面のうちの少なくとも一方の対向面は、軸方向に凹んだ凹部を有し、第2ケースは、これを凹部に嵌合させた状態でキャリア及び第1ケース間に挟持されるので、上記対向面に臨む凹部に第2ケースを単に嵌合させるだけで、第2ケースの径方向位置決めを簡単且つ的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の第1実施形態に係る伝動装置を示す全体縦断面図である。(第1の実施の形態)
図2図2図1の2-2線断面図である。(第1の実施の形態)
図3図3図1の3-3線断面図である。(第1の実施の形態)
図4図4図1の4-4線断面図である。(第1の実施の形態)
図5図5は伝動ユニットの要部斜視図である。(第1の実施の形態)
図6図6はデフケースの第2ケースと、ピニオンギヤ(鎖線)とを軸方向内方側から見た側面図である。(第1の実施の形態)
図7図7は第2ケースを軸方向内方側且つ斜め上方より見た単体斜視図である。(第1の実施の形態)
図8図8はミッションケース内面への第1,第2オイルガイドの設置例を示す斜視図である。(第1の実施の形態)
図9図9はデフケースの第1ケースを軸方向内方側から見た側面図である。(第1の実施の形態)
図10図10は第2実施形態に係る伝動装置を示す図2対応断面図である。(第2の実施の形態)
図11図11は第2実施形態に係る第2ケースの図7対応斜視図である。(第2の実施の形態)
図12図12は第3実施形態に係る伝動装置を示す図2対応断面図である。(第3の実施の形態)
図13図13は第3実施形態に係るデフケースを示す斜視図である。(第3の実施の形態)
図14図14は第3実施形態に係る第2ケースを軸方向内方側且つ斜め上方より見た単体斜視図である。(第3の実施の形態)
【符号の説明】
【0014】
A・・・・・伝動装置
C・・・・・キャリア
Cao・・・凹部
D・・・・・差動装置
P・・・・・遊星ギヤ
P1,P2・・大径ギヤ部,小径ギヤ部
R・・・・・減速機
U・・・・・伝動ユニット
10・・・・ミッションケース
20・・・・デフケース
20A・・・第1ケース
20B,20B′,20B″・・第2ケース
20ao・・凹部
20k・・・ピニオン軸支持部
21・・・・差動機構としての差動ギヤ機構
22・・・・ピニオン軸
23・・・・ピニオンギヤ
24・・・・サイドギヤ
31・・・・サンギヤ
32・・・・リングギヤ
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、図1図9を参照して、第1実施形態について説明する。
【第1の実施の形態】
【0016】
図1において、車両、例えば自動車に搭載した伝動装置Aは、支持部13(例えば車体)に固定支持されたミッションケース10と、そのミッションケース10内に収容、支持された単一の伝動ユニットUとを備える。ミッションケース10内の底部は、伝動ユニットUの静止状態で潤滑油を所定の貯溜油面fで貯溜可能な油溜部Oとして機能する。
【0017】
伝動ユニットUは、図示しない動力源(例えば車載の電動モータ)からの動力を減速して伝える遊星歯車機構よりなる減速機Rと、減速機Rの出力を第1,第2出力軸51,52に差動回転を許容しつつ分配して伝達する差動装置Dとを一纏めにユニット化したものであって、減速機RのキャリアCと差動装置Dとは第1軸線X1回りに一体的に回転する。そして、第1,第2出力軸51,52は、図示しない連動機構を介して左右の駆動車輪を連動回転させる。
【0018】
伝動ユニットUにおいて、差動装置Dは、軸方向一方側(図1で右方側、以下この明細書で同様)に偏らせて、また減速機Rは、軸方向他方側(図1で左方側、以下この明細書で同様)に偏らせてそれぞれ配置される。
【0019】
ミッションケース10は、例えば有底円筒状のケース本体11と、ケース本体11の開放端を塞ぐ蓋体12とで軸方向に分割構成される。ケース本体11は、これの胴部11aが軸方向一方側の第1端壁部11sに近づくにつれて徐々に(図示例では一部が段階的に)小径となるよう形成される。
【0020】
第1端壁部11sは、ミッションケース10の一側壁を構成するものであって、これの中心部に軸方向の貫通孔11shを有する。そして、その貫通孔11shの周辺部で第1端壁部11sには、軸方向内方側に延びる円筒状のボス部11bが一体に突設される。貫通孔11shには、第2出力軸52の中間部がオイルシール14を介して嵌挿される。ボス部11bは第1ボスの一例である。なお、ボス部11bは、第1端壁部11sから軸方向外方側に延びるように突設されてもよい。
【0021】
一方、蓋体12は、ケース本体11の開放端に複数のボルトB1で着脱可能に接合される円盤状の第2端壁部12sを主体とし、これがミッションケース10の他側壁を構成する。そして、第2端壁部12sは、中心部に軸方向の貫通孔12shを有しており、その貫通孔12shの周辺部で第2端壁部12sには、軸方向外方に延びる円筒状のボス部12bが一体に突設される。第2端壁部12sは、減速機Rと対向する対向端壁部の一例である。また第2端壁部12sは、これの外周部が複数のボルトB2で前記支持部13に着脱可能に固定される。
【0022】
伝動ユニットUの大部分は、ミッションケース10の第1,第2端壁部11s,12sに第1,第2ユニット支持軸受Bc1,Bc2を介して第1軸線X1回りに回転自在に支持される。而して、第1軸線X1が伝動ユニットUの回転軸線となり、それは、後述するデフケース20及びキャリアCの回転軸線と一致する。
【0023】
また伝動ユニットUは、ケース本体11より蓋体12を取り外した状態で、ケース本体11内に、これの開放端を通して軸方向外方より装入・組付け可能である。
【0024】
次に差動装置Dの具体例を、主として図1図2を参照して説明する。差動装置Dは、減速機Rから回転力を受けるデフケース20と、デフケース20内部の機構室に収納される差動ギヤ機構21とを備える。
【0025】
デフケース20は、一端を開放した概略椀状体に形成される第1ケース20Aと、その第1ケース20Aの開放端を開閉可能に閉じる円形リング状の第2ケース20Bとを備える。第1ケース20Aは、デフケース20の主要部たる胴部20aと、その胴部20aの側壁20asより軸方向外方側に延びる円筒状の軸受ボス部20bとを一体に有している。軸受ボス部20bは、第2ボスの一例であり、これの外周面と、ケース本体11の第1ボスとしてのボス部11bの内周面との間に、前記第1ユニット支持軸受Bc1が介装される。
【0026】
第2出力軸52の外周と第1端壁部11sの貫通孔11shとの間をシールする前記オイルシール14と、ボス部11bの内周面と、第1ユニット支持軸受Bc1の外側面とにより、第2出力軸52を囲繞する環状の油導入空間16が画成される。この油導入空間16には、軸受ボス部20bの外端開口で構成される油導入口20iが臨んでいる。油導入口20iには、ミッションケース10内を流れる油(特に後述する第1オイルガイドG1で捕捉誘導された油)をデフケース20の胴部20a内に効率よく導入可能である。
【0027】
またボス部11bは、これを横切ってその内外を連通(従って油導入空間16とミッションケース10内の他の空間とを連通)する切欠き状の貫通孔11bhを有する(図2参照)。そして、第1オイルガイドG1で誘導される油が貫通孔11bhを通して油導入空間16に流入するように、第1オイルガイドG1の下流端部(後述する第1油誘導部41の第2樋部分412)の開口位置が設定されている。例えば、実施形態では、第1オイルガイドG1の下流端部が貫通孔11bhを貫通していて、その下流端部の開口端が油導入空間16内に位置する例が示され、この場合は、第1オイルガイドG1から油導入空間16に油が直接流れ込む。
【0028】
これに対し、第1オイルガイドG1の下流端部の開口端が貫通孔11bhの途中部分に位置する変形例も実施可能であり、この場合でも第1オイルガイドG1から出た油は貫通孔11bh内を流れて油導入空間16内に流れ込む。或いはまた、第1オイルガイドG1の下流端部の開口端が貫通孔11bhの外に在っても、該開口端からの流出油が貫通孔11bhに流入可能な位置にある場合(例えば該開口端が貫通孔11bhの上方に在って、該開口端からの流出油の流れ方向の下流側に位置する場合)でも、該開口端からの流出油が貫通孔11bhを通して油導入空間16に流れ込む。
【0029】
第1ケース20Aの胴部20aは、これの周壁に開口や作業窓を持たず、従って、胴部20a内には潤滑油を貯溜可能である。
【0030】
また胴部20aの外周部内面は球面状に形成されていて、その一部がピニオンギヤ支持面20pfを構成している。一方、側壁20asの内側面は、第1軸線X1と直交する円環状の平面に形成される第1サイドギヤ支持面20sf1と、その第1サイドギヤ支持面20sf1の内周端に連なる環状凹部20stとを有する。
【0031】
その環状凹部20stには、後述するサイドギヤ24の背面側ボス部が嵌合する。また図9で明らかなように、胴部20aの内面には、第1サイドギヤ支持面20sf1及び環状凹部20stを横切るように延びる複数のサイドギヤ潤滑油溝19が凹設される。
【0032】
ところで軸受ボス部20bの外端面には、図5で明らかなように、周方向に間隔をおいて並ぶ一対の円弧状ガイド突起20btが突設される。また軸受ボス部20bの内周面には、各ガイド突起20btの周方向一端部及び他端部にそれぞれ対応して軸方向に延びる各一対のガイド溝20bgが凹設される。それらガイド溝20bgの内端部は、前記したサイドギヤ潤滑油溝19の内周端に連通しており、その関係で、ガイド溝20bgを経由して胴部20a内に供給される油の一部は、サイドギヤ潤滑油溝19(従ってサイドギヤ24の回転摺動部)に効率よく供給可能である。
【0033】
各ガイド突起20btは、軸受ボス部20bと第2出力軸52との相対回転時、特に軸受ボス部20bよりも第2出力軸52が低速で回転する時に軸受ボス部20bの外端周辺の油導入空間16に存する油を対応のガイド溝20bgに導入する第1ガイド面g1と、特に軸受ボス部20bよりも第2出力軸52が高速で回転する時に油導入空間16の油を対応のガイド溝20bgに導入する第2ガイド面g2とを、ガイド突起20btの周方向一端部と他端部とにそれぞれ有している。
【0034】
而して、第1ガイド面g1は、これと対応するガイド溝20bgと協働して、前記相対回転に応じて油導入空間16内の油を油導入口20iを通して胴部20a内に供給する第1油供給機構OS1を構成する。また第2ガイド面g2は、これと対応するガイド溝20bgと協働して、前記相対回転に応じて油導入空間16内の油を油導入口20iを通して胴部20a内に供給する第2油供給機構OS2を構成する。
【0035】
また図1で明らかなように、ガイド溝20bgは全体として軸方向に沿って延び、且つ、デフケース20の軸方向内方に向かうにつれて溝の幅が徐々に広くなるように傾斜して形成される。この場合、ガイド溝20bgに流入した油は、キャリアC(従ってデフケース20)の回転により発生する遠心力により、溝壁面に張り付く。そして、その遠心力の作用により、溝壁面に張り付いたオイルは溝幅が広くなる方向(従って胴部20a内に向かう側)に油が流れていく。その結果、溝幅が一定(即ちテーパー形状なし)の溝に対して胴部20a内への油流入量が増加する。
【0036】
尚、上記したガイド溝20bgは、実施形態では直線溝に形成したが、これを軸受ボス部20bの母線方向に対し傾斜した溝としてもよいし、或いは螺旋溝としてもよい。特に螺旋溝とする場合には、前記相対回転に伴い螺旋溝状のガイド溝20bgがねじポンプ機能を発揮して、胴部20a内への油供給作用をより強化することができる。
【0037】
一方、第2ケース20Bは、中心部に貫通孔を有しており、この貫通孔が、胴部20a内の油をミッションケース10内に排出する油排出口20oを構成する。また第2ケース20Bは、デフケース20の他側壁を構成するものであって、その内側面は、第1軸線X1と直交する円環状の平面に形成されていて、第2サイドギヤ支持面20sf2を構成する。そして、油排出口20oには、第2サイドギヤ支持面20sf2に背面が支持されるサイドギヤ24の背面側ボス部が嵌合される。
【0038】
また油排出口20oは、ミッションケース10底部の油溜部Oの少なくとも一部と軸方向位置がオーバラップするように配置される。これにより、デフケース20内から油排出口20oを通して排出される油が油溜部Oに戻る経路を短縮でき、デフケース20内から油を迅速に油溜部Oに戻すことができるから、油溜部Oの貯溜油面fを低めに設定する上で有利となる。
【0039】
しかも油排出口20oは、後述する減速機Rの遊星ギヤPの少なくとも一部(中間部)と軸方向位置がオーバラップするように配置される。これにより、デフケース20内から油排出口20oを通して排出される油の一部が、減速機RのキャリアCの回転による遠心力の作用で径方向外方側に飛散する際に、その油を遊星ギヤPの潤滑に効率よく活用することができる。
【0040】
実施形態のデフケース20では、油導入口20i及び油排出口20oがデフケース20の回転軸線(即ち第1軸線X1)を中心軸線とする円筒面であり且つ油導入口20iよりも油排出口20oが大径である。従って、第1軸線X1から油排出口20oの内周面(そこに油溝が在ればその溝底)までの径方向距離が、油導入口20iの内周面(そこに油溝が在ればその溝底)よりも遠くなる。
【0041】
そのため、胴部20a内に油が溜まり、油面が上昇した場合には、その油面は、油導入口20iの内周面よりも先に油排出口20oの内周面の最下部に達するため、油導入口20iよりも優先して油排出口20oから油排出が開始される。これにより、油導入口20iより胴部20a内に流入した油が胴部20a内を経て油排出口20oより流出する油の流れが確保される。
【0042】
次に差動ギヤ機構21の一例を説明する。差動ギヤ機構21は、デフケース20の第1ケース20A(特に胴部20a)に両端部が嵌合、固定されて、第1軸線X1と直交する第2軸線X2上に配置されるピニオン軸22と、このピニオン軸22に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ23と、各ピニオンギヤ23と噛合し且つ第1軸線X1回りに回転可能な一対のサイドギヤ24とを備える。胴部20aには、ピニオン軸22の両端部が嵌合、支持される支持孔が形成され、胴部20aの、上記支持孔の周壁部分がピニオン軸支持部20kを構成する。
【0043】
ピニオン軸22の一端部は、これを横切り且つ胴部20aに圧入固定される抜け止めピン28(図9参照)で胴部20aに固定される。なお、ピニオン軸22の固定手段は、実施形態に限定されず、他の固定手段(例えばカシメ、ボルト、止め環等)を実施可能である。
【0044】
ピニオンギヤ23及びサイドギヤ24は、ベベルギヤで構成されるが、ギヤの種類は、ベベルギヤに限定されない。一対のサイドギヤ24は、差動ギヤ機構21の出力ギヤとして機能するものであり、両サイドギヤ24の内周面には、第1,第2出力軸51,52の内端部がそれぞれスプライン嵌合される。尚、図1図2では、第2出力軸52の一部は、軸受ボス部20bの内周面のガイド溝構造を明示するために二点鎖線で示す。
【0045】
各ピニオンギヤ23の球面状をなす背面は、胴部20aの前記ピニオンギヤ支持面20pfにワッシャを介して第2軸線X2回りに回転摺動可能に支持される。また各サイドギヤ24の平坦な背面は、前記第1,第2サイドギヤ支持面20sf1,20sf2にワッシャを介して第1軸線X1回りに回転摺動可能に支持される。尚、ワッシャは、必要に応じて省略してもよい。
【0046】
而して、減速機RのキャリアCから第1ケース20A(従ってデフケース20)に伝達された回転駆動力は、差動ギヤ機構21により、第1,第2出力軸51,52に対し差動回転を許容しつつ分配される。尚、差動ギヤ機構21の差動機能は従来周知であるので、説明を省略する。
【0047】
ところで第2ケース20Bの内面には、油排出口20oから径方向で外方側に延び且つ対応するサイドギヤ24の外周部の外側でデフケース20の胴部20a内に開口する油溝26が設けられる。油溝26は、図2図6図7で明らかなように、各々のピニオンギヤ23に対応する位置に各一対ずつ形成される。
【0048】
即ち、油溝26は、これへの油の入口となる第1開口端26iが、ピニオンギヤ23の自転によりピニオンギヤ23から飛散する油を直接取り込み可能な位置に配置される。より具体的に言えば、油溝26の、胴部20a内への第1開口端26iは、伝動ユニットUの回転軸線即ち第1軸線X1と直交する投影面(図6参照)で見てピニオンギヤ23の最外径位置の内側(即ちピニオンギヤ23と重なる位置)に在り且つピニオン軸22とは重ならない位置に配置される。
【0049】
また各々の油溝26は、これの第1開口端26iがサイドギヤ24の外周部に対応する位置でデフケース20(胴部20a)の内部空間に臨んでおり、また油の出口となる第2開口端26oが油排出口20oに臨んでいるが、図6で明らかなように、油溝26の全領域、或いは第1開口端26iから連続する所定領域が、第1開口端26iから第2開口端26oに向かうにつれて径方向内方側に傾斜(即ち、対応するサイドギヤ24の背面から徐々に離れるように傾斜)して延びている。
【0050】
この傾斜によれば、回転状態のピニオンギヤ23から飛散する油が第1開口端26iより油溝26内に勢いよく流入してきたときに、デフケース20の回転による遠心力と逆らうように第2開口端26oに向かう流れを油溝26内に生じさせるため、油溝26は、ピニオンギヤ23から飛散する油の勢いを有効活用して第2開口端26o側に油を効率よく誘導できる。この場合、油溝26を流れる油が、回転するサイドギヤ24の背面側に接触することで、第2開口端26o側へ向かう油流の勢いを多少削ぐ不都合が生じる可能性も考えられるが、上記傾斜により油溝26をサイドギヤ24の背面から極力遠ざけることができるので、油溝26を流れる油をサイドギヤ24から触れにくくして、上記不都合の発生を無くすか、又は最小限に止めることができる。
【0051】
また図6で明らかなように、各々のピニオンギヤ23に対応する一対の油溝26は、第1軸線X1と直交する投影面で見て、両油溝26間において油排出口20o(第2開口端26o)から径方向外方に放射状に延びる仮想直線に対し周方向一方側・他方側にそれぞれ斜めにカーブするよう傾斜した溝形態に形成される。この傾斜によれば、デフケース20が正転・逆転何れの方向に回転する場合も、一方の油溝26は、デフケース20内に溜まる油を掬い揚げるようにして油排出口20o側に誘導することができて、ミッションケース10内に効率よく排出可能となる。
【0052】
次に図3図6も併せて参照して、減速機Rの一例を説明する。減速機Rは、これの入力側となるサンギヤ31と、サンギヤ31から軸方向にオフセットした位置でサンギヤ31に対し同心状に配置されるリングギヤ32と、サンギヤ31及びリングギヤ32と噛合する複数(図示例は3個)の遊星ギヤPと、複数の遊星ギヤPを枢軸33を介して回転自在に支持するキャリアCとを有する。
【0053】
各々の遊星ギヤPは、サンギヤ31と噛合する大径ギヤ部P1と、大径ギヤ部P1よりも小径に形成され且つ軸方向一方側(即ち第1ユニット支持軸受Bc1と近い側)に在ってリングギヤ32と噛合する小径ギヤ部P2とを一体に有した二段遊星ギヤであり、本実施形態では枢軸33と同軸且つ一体に形成される。
【0054】
尚、大径ギヤ部P1、小径ギヤ部P2、サンギヤ31及びリングギヤ32は、実施形態では噛合反力によりスラストを受けるギヤ歯(例えばヘリカル歯)を有しているが、ヘリカル歯以外のギヤ歯であってもよい。
【0055】
サンギヤ31は、円筒軸状のサンギヤ本体31mの先部外周にギヤ部31gが形成されて構成される。サンギヤ本体31mは、これの中間部外周が複数の軸受Bsを介してミッションケース10(蓋体12のボス部12b)に回転自在に支持され、その隣り合う軸受Bsの中間で、サンギヤ31の外周面とボス部12bの内周面との間にはオイルシール15が介装される。しかもサンギヤ31内には第1出力軸51が緩く縦通しており、またサンギヤ31の先端面と、デフケース20の第2ケース20B外側面との対向面間には、ミッションケース10の内部空間に常時連通する軸方向空隙が形成される。
【0056】
サンギヤ本体31mの、図示しない外端部は、不図示の動力源(例えば電動モータ)の出力側に不図示の連動機構を介して連動、連結されていて、動力源から回転動力を入力可能である。尚、サンギヤ本体31m内周と第1出力軸51外周との間は、ミッションケース10の外方側に配設した不図示のシール手段によりシールされる。
【0057】
リングギヤ32は、これの外周面が、ケース本体11の胴部11aの軸方向中間部の内周面に嵌合、固定(例えば止め輪71及びサークリップ72を含む周知の抜け止め手段で係止)される。そのリングギヤ32の外周面には、多数の回り止め用突起部32tが周方向に間隔をおいて一体に形成され、その回り止め用突起部32tは、リングギヤ32に対応して胴部11aの内周面の周方向一部領域に形成した多数の回り止め溝11atに相対回転不能に係合する。
【0058】
キャリアCは、ミッションケース10の第2端壁部12sに前記第2ユニット支持軸受Bc2を介して外周が回転自在に嵌合、支持されてサンギヤ31のギヤ部31gを囲繞する円筒状のキャリア基部Cmと、そのキャリア基部Cmに一体に連設されて3個の遊星ギヤPの枢軸33の一端(特に大径ギヤ部P1側の外端部)を遊星ギヤ用第1軸受Bp1を介して各々回転自在に支持する3つの大径ギヤ支持部Cpと、周方向で隣り合う大径ギヤ支持部Cp間に存する3つのキャリア腕部Caとを備える。そして、キャリア基部Cmと大径ギヤ支持部Cpとキャリア腕部Caとは、相互間が一体に結合されてキャリア結合体を構成する。
【0059】
また、3つのキャリア腕部Caと、それらに対応してデフケース20の第1ケース20Aの外周部に一体に突設した3つの連結腕部20Acとが、キャリア腕部Caから螺挿されるボルトB3を介して着脱可能に結合され、これにより、キャリアCと第1ケース20Aとが一体に結合される。
【0060】
さらに第1ケース20Aの外周部には、キャリアCの3つの大径ギヤ支持部Cpに軸方向に間隔をおいて対向し且つ遊星ギヤPの小径ギヤ部P2と軸方向に隣接配置された3つの支持腕部20Apが一体に突設される。それら支持腕部20Apには、小径ギヤ部Pから一体に延びる枢軸33が遊星ギヤ用第2軸受Bp2を介して回転自在に嵌合、支持される。
【0061】
かくして、遊星ギヤPの枢軸33は、大径ギヤ部P1側の一端部が遊星ギヤ用第1軸受Bp1を介してキャリアCに、また小径ギヤ部P2側の他端部が遊星ギヤ用第2軸受Bp2を介して第1ケース20Aの支持腕部20Apにそれぞれ支持される。第1軸受Bp1は、ラジアル荷重及び軸方向のスラスト荷重を何れも受け止め可能な軸受構造(例えば玉軸受)とされ、また第2軸受Bp2はニードル軸受とされる。
【0062】
ところでデフケース20(第1ケース20A)の軸方向一方側の側壁20asは、第2ボスとしての軸受ボス20bを同心状に囲繞する円筒部20Atを一体に有する。この円筒部20Atの外周部には、遊星ギヤ支持部としての遊星ギヤ用第2軸受Bp2に対し軸方向に隣接配置された部品としてのパーキングギヤ55の内周部が嵌合、固定される。その固定手段として、実施形態ではスプライン嵌合とサークリップ等の係止手段が併用される。尚、前記部品は、パーキングギヤ55に限定されず、円筒部20Atの外周に嵌合、固定されてミッションケース10内で何らかの機能を発揮する他の機能部品と置換されてもよい。
【0063】
パーキングギヤ55の内周部と円筒部20Atの外周部との嵌合面間には、遊星ギヤ用第2軸受Bp2に通じる空洞部56が環状に、又は周方向の一部に形成される。そして、円筒部20Atには、空洞部56と円筒部20Atの内周面との間を連通させる連通孔57が形成される。
【0064】
上記したように遊星ギヤPは、これの大径ギヤ部P1側がキャリアCに、また小径ギヤ部P2側がデフケース20にそれぞれ軸支される。またデフケース20の第2ケース20Bは、第1ケース20Aと、これに結合したキャリアCとの間に挟持され、その挟持により第1ケース20Aに第2ケース20Bが固定される。この場合、キャリアC(キャリア腕部Ca)及び第1ケース20Aの胴部20aの相対向面のうちの少なくとも一方(実施形態では両方)の対向面は、軸方向に凹んだ凹部Cao,20aoを有しており、第2ケース20Bは、これを前記凹部Cao,20aoに嵌合させた状態でキャリアC及び第1ケース20A間に挟持される。
【0065】
尚、上記相対向面とは、実施形態のように対向面相互が直接当接するいわゆる接合面が含まれることは元より、対向面相互が空隙を挟んで対面する対向面であってもよく、その後者の対向面(即ち接合面でない対向面)に前記凹部Cao,20aoと同様の軸方向に窪んだ凹部を設けて、そこに第2ケース20Bを嵌合させるようにしてもよい。
【0066】
ところでデフケース20、特に第1ケース20Aは、図1図9で明らかなように、胴部20a内の油中よりコンタミを捕集可能なコンタミポケット70の少なくとも一部を備える。ここで、コンタミとは、コンタミネーションの略称であって、ミッションケース10内の可動部から金属部材相互の機械的接触等に因り生じて油に混じる金属粉その他の、微細で且つ油より比重が大きい異物の総称をいう。
【0067】
上記コンタミポケット70は、胴部20a内に臨む入口70iを有する。しかも入口70iは、デフケース20内面のうち遠心力が最も強く作用する最大内径部20dに配置され、胴部20a内の油中のコンタミを遠心力でコンタミポケット70内に取り込み易くしている。
【0068】
また実施形態のコンタミポケット70は、図1図9で明らかなように、ピニオン軸22の軸線に対し位相を90度ずらした一か所のみに配置される。これにより、コンタミポケット70は、ピニオン軸22が中心部を貫通するピニオンギヤ支持面20pfに対し、デフケース20の周方向で離間した位置に配置される。
【0069】
尚、コンタミポケット70は、これの入口70iの少なくとも一部を、デフケース20内面の上記最大内径部20dよりも油排出口20o側に配置してもよい。
【0070】
またコンタミポケット70の入口70iの周辺部には、入口70iの一部を塞ぐ返し部70kが配設される。この返し部70kは、実施形態では第2ケース20Bの、入口70iに臨む外周壁部で構成される。尚、返し部70kを、第1ケース20A又はキャリアCに形成してもよい。
【0071】
また各々のコンタミポケット70は、キャリア腕部Caと第1ケース20Aとに跨がるように形成され、換言すれば、キャリア腕部Caの胴部20aとの接合面に凹設されたキャリアC側のポケット部Cacと、胴部20aのキャリア腕部Caとの接合面に凹設された胴部20a側のポケット部20acとにより、その相互間にコンタミポケット70が画成される。尚、キャリアC側のポケット部Cacを省略して、胴部20a側のポケット部20acと、これを塞ぐキャリア腕部Caの平坦な端面とでコンタミポケット70を構成してもよい。
【0072】
ところで減速機Rの遊星ギヤP、特に大径ギヤ支持部P1は、キャリアCの正転方向に公転することでミッションケース10底部の油溜部Oの油を掻き上げ可能であり、その掻き上げ油を捕捉してミッションケース10内の被潤滑部(例えば第1,第2ユニット支持軸受Bc1,Bc2)の潤滑に効率よく供給するためのオイルガイドGが、ミッションケース10内に配設される。
【0073】
この場合、キャリアCの正転方向とは、動力源たる電動モータの駆動力で伝動ユニットUを介して第1,第2出力軸51,52、延いては左右の車輪が車両を前進させる方向に回転する際にキャリアCが回転する方向をいい、例えば図3で言えば、時計方向となる。また遊星ギヤPは、これの大径ギヤ部P1の公転軌跡の下部が油溜部Oの貯溜油面fより下方に没するように配置されており、この配置により、大径ギヤ部P1による油掻き上げ作用が可能となる。
【0074】
オイルガイドGは、第1,第2オイルガイドG1,G2より構成される。特に第1オイルガイドG1は、大径ギヤ部P1が公転により掻き上げた油を捕捉可能な油捕捉部40と、その油捕捉部40より軸方向一方側に延びていて、油捕捉部40で捕捉した油の一部を油導入口20i又はその周辺まで誘導する第1油誘導部41とを備えている。油捕捉部40は、大径ギヤ部P1の公転軌跡の、ミッションケース10径方向で外方側の位置に配置される。
【0075】
実施形態で第1オイルガイドG1は、ミッションケース10のケース本体11内面に沿って設置、固定した上面開放(即ち横断面U字状)の樋状部材4で構成され、それは、ケース本体11(より具体的には胴部11a及び第1端壁部11s)の内面に一連に凹設した取付溝11g内を縦通するように配置される。そして、樋状部材4は、これの下部を複数の取付片47を介して胴部11aに固定(例えばビス止め、カシメ、溶接等)することでケース本体11に固定される。
【0076】
尚、取付片47は、樋状部材4の下部以外の部位(例えば側壁部等)に固定してもよいし或いは樋状部材4と一体に形成してもよい。
【0077】
樋状部材4の、油捕捉部40として機能する上流側部分は、第1軸線X1に沿って水平且つ直線状に延びる。一方、樋状部材4の、第1油誘導部41として機能する比較的長い下流側部分は、ケース本体11の胴部11a内周面に沿う第1樋部分411と、第1樋部分411から屈曲して第1端壁部11sの内側面に沿う第2樋部分412とを有する。
【0078】
そして、第1樋部分411の上流端(即ち油捕捉部40の下流端)から第2樋部分412の下流端に向かって緩やかに且つ連続的に下る勾配が付与される。そのため、油捕捉部40で捕捉された油は、油捕捉部40及び第1油誘導部41を緩やかに流れ下り、その下流端に臨む第1ユニット支持軸受Bc1側に供給可能である。尚、第1油誘導部41の途中部分(第1樋部分411)は、図2で明らかな如く径方向でリングギヤ32と胴部11aとの間を通るよう配置される。
【0079】
また第2オイルガイドG2は、油捕捉部40で捕捉した油の一部を油捕捉部40の軸方向他方側の端部から受け取って第2ユニット支持軸受Bc2に誘導する第2誘導部42を主要部とし、ミッションケース10の、減速機Rと対向する第2端壁部12sの内側面12siに沿設される。即ち、内側面12siは、第1軸線X1と直交して油溜部Oを通る仮想平面に略沿うように形成されるが、その内側面12siには、油捕捉部40の直下位置より第2ユニット支持軸受Bc2に向かって直線状に延びる下り傾斜の段部17が上面側を開放して形成され、また貫通孔12shの周囲で内側面12siに軸方向内向きに突設される環状ボス部12sibには、これの径方向内外を連通する切欠き状の連通油溝29が、段部17の長手方向内端に対応した位置に形成される。
【0080】
そして、段部17の内面と、段部17に沿って直線状に延び且つ段部17の下側で第2端壁部12sにビス止めした帯状プレート18とにより、上面開放の樋状の第2油誘導部42が形成される。従って、油捕捉部40の軸方向他方側の端部から第2油誘導部42が受け取った油は、第2油誘導部42を流下して連通油溝29を通して第2ユニット支持軸受Bc2及びその周辺部に供給される。尚、第2油誘導部42は、第1オイルガイドG1を構成する樋状部材4のような一体物の樋状部材で構成してもよい。
【0081】
ところでキャリアCの回転に連動して遊星ギヤP(大径ギヤ部P1)は、前記した公転の際に、公転方向とは逆方向(図3で反時計方向)に自転し、それにより、公転方向(即ち油掻き上げ方向)とは反対方向に油を飛散させ、油の掻き上げ効果を低下させる可能性がある。そこで本実施形態では、図3で明らかなように、第1オイルガイドG1の油捕捉部40は、油溜部Oの最下部を起点とし且つキャリアC正転方向で前方側に位置する、ミッションケース10の外周壁半周部(即ち図3で左半周部)に配備される。
【0082】
これにより、遊星ギヤPが公転方向とは逆方向に自転しても、公転による油掻き上げ方向とは反対方向に飛散した油を、上面開放の樋状をなす油捕捉部40で効果的に捕捉できる。尚、このような油の捕捉効果を十分に得るために、油捕捉部40の周方向位置は、ミッションケース10の前記外周壁半周部(即ち図3で左半周部)の何れかの位置に設定されればよいが、図3に示す実施形態の周方向位置に限定されない。
【0083】
さらに図3で明らかなように、ケース本体11の外周壁内面には、油捕捉部40の、前記正転方向で前方側に隣接配置されてケース本体11の径方向外方側に窪む誘導凹部11aoが形成される。この誘導凹部11aoは、周方向に延びる切欠き溝状に形成され、周方向で油捕捉部40に近づくにつれて溝底が徐々に深くなる。この誘導凹部11aoは、油捕捉部40の少なくとも一部と軸方向位置を同じくしており、大径ギヤ部P1が誘導凹部11aoに対し対面、通過する際に、飛散した油の一部を効果的に捕集、流下させて油捕捉部40に効率よく誘導可能である。
【0084】
次に前記実施形態の作用を説明する。
【0085】
伝動装置Aにおいて、不図示の動力源(例えば電動モータ)でサンギヤ31が回転駆動されると、サンギヤ31及びリングギヤ32と、二段遊星ギヤPの大径ギヤ部P1及び小径ギヤ部P2とがそれぞれ互いに噛合して、サンギヤ31の回転駆動力を二段階に減速しながらキャリアCに伝達する。そして、キャリアCに固定のデフケース20(特に第1ケース20A)に伝達された回転駆動力がデフケース20内の差動ギヤ機構21により、第1,第2出力軸51,52に対し差動回転を許容しつつ分配され、更にその第1,第2出力軸51,52から左右の駆動車輪に伝達される。
【0086】
ところで伝動装置Aは、差動装置Dを軸方向一方側に、また遊星歯車式の減速機Rを軸方向他方側にそれぞれ配した伝動ユニットUが、底部に油溜部Oを有するミッションケース10内に収納され、差動装置Dのデフケース20は、油を貯溜可能な胴部20aと、軸方向一方側に開口した油導入口20iと、軸方向他方側に開口した油排出口20oとを有し、キャリアCの回転時に同方向に公転する遊星ギヤPの大径ギヤ部P1は、大径ギヤ部P1の公転軌跡の下部が油溜部Oの貯溜油面fより下方に没するように配置され、前記公転により大径ギヤ部P1が油溜部Oより掻き上げた油を捕捉して油導入口20iに誘導する第1オイルガイドG1が、公転軌跡の径方向外方側の位置から軸方向一方側に延びるようにミッションケース10に配設される。
【0087】
これにより、キャリアCの回転に連動して公転する大径ギヤ部P1が油溜部Oの貯溜油を十分に掻き上げ得るばかりか、その掻き上げた油を第1オイルガイドG1の油捕捉部40で捕捉でき、且つその捕捉した油を第1油誘導部41及び油導入空間16を経て油導入口20iまで誘導できて、油導入口20iから胴部20a内に油を十分に供給可能となる。そして、胴部20a内に溜まった油は、油排出口20oを通してミッションケース10内の油溜部Oに還流される。従って、油溜部Oの貯溜油面fは、伝動装置Aの静止時に大径ギヤ部P1が一部浸かる程度の低めのレベルでも、大径ギヤ部P1が掻き上げた油を第1オイルガイドG1を経てデフケース20内に効率よく十分に供給可能となる。かくして、デフケース20内の差動ギヤ機構41に対する潤滑性能を確保しながらも、油溜部Oの貯溜油面fを低めに設定して油の攪拌抵抗を抑えることができ、伝動効率アップが図られる。
【0088】
その上、デフケース20内への給油用オイルポンプが不要となることで、コスト節減も図られる。
【0089】
また伝動ユニットUの軸方向一方側を支持する第1ユニット支持軸受Bc1は、ミッションケース10の同側の第1端壁部11s内面に突設した第1ボスとしてのボス部11bの内周面と、デフケース20の同側の側壁20asに突設した第2ボスとしての軸受ボス部20bの外周面との間に介装され、第2出力軸52の外周と第1端壁部11sの貫通孔11shとの間をシールするオイルシール14と、ボス部11bの内周面と、第1ユニット支持軸受Bc1の外側面とにより、油導入口20iが臨む油導入空間16が画成される。ボス部11bは、これの内外を連通する貫通孔11bhを有すると共に、この貫通孔11bhを通る第1オイルガイドG1の下流端部(第1油誘導部41の第2樋部分412)が油導入空間16に開口し、軸受ボス部20bと第2出力軸52との相互間には、その間の相対回転に応じて油導入空間16内の油を油導入口20iを通して胴部20a内に供給する第1,第2油供給機構OS1,OS2が設けられる。
【0090】
これにより、第1オイルガイドG1を出て油導入空間16まで誘導された油は、上記相対回転を利用した油供給機構OS1,OS2によって、回転状態のデフケース20内に油導入口20iから効率よく供給可能となる。しかも、油導入空間16に溜めた油を利用して、第1ユニット支持軸受Bc1を効率よく潤滑することができる。
【0091】
さらにデフケース20の前記側壁20asは、軸受ボス20bを囲繞する円筒部20Atを一体に有し、円筒部20Atの外周部には、遊星ギヤ用第2軸受Bp2に対し軸方向に隣接配置されたパーキングギヤ55の内周部が嵌合、固定され、パーキングギヤ55の内周部と円筒部20Atの外周部との嵌合面間には、遊星ギヤ用第2軸受Bp2に通じる空洞部56が形成されると共に、空洞部56を円筒部20Atの内周面に連通させる連通孔57が円筒部20Atに形成される。これにより、第1オイルガイドG1及び油導入空間16を経て第1ユニット支持軸受Bc1に達した油は、第1ユニット支持軸受Bc1を潤滑した後、デフケース20の側壁20asを伝い流れ、遠心力で円筒部20At内周面に達するが、この油は、連通孔57を通して空洞部56に流れ、そこから遊星ギヤ用第2軸受Bp2に達して、それを効率よく潤滑可能である。
【0092】
また伝動ユニットUの軸方向他方側を支持する第2ユニット支持軸受Bc2が、ミッションケース10の、減速機Rと対向する第2端壁部12sに取付けられると共に、その第2端壁部12sの内側面12siが、第1軸線X1と直交して油溜部Oを通る仮想平面に略沿うように形成され、油捕捉部40で捕捉した油の一部を油捕捉部40から受け取って第2ユニット支持軸受Bc2に誘導する第2オイルガイドG2が、第2端壁部12sの内側面12siに沿設されている。
【0093】
これにより、第2オイルガイドG2は、第1オイルガイドG1の油捕捉部40で捕捉した油の一部を受け取って、ミッションケース10の端壁部12sに設けた第2ユニット支持軸受Bc2及びその周辺に誘導できて、第2ユニット支持軸受Bc2を効率よく潤滑可能である。しかも、第2オイルガイドG2が沿設される第2端壁部12sの内側面12siは、第1軸線X1と直交して油溜部Oを通る仮想平面に略沿う配置であるため、第2ユニット支持軸受Bc2を潤滑した油は、内側面12siに沿って略鉛直に流下するだけで油溜部Oに最短経路で迅速に到達可能となり、したがって、油溜部Oの貯溜油面fを低めに設定する上で有利となる。
【0094】
ところで軸方向他方側のサイドギヤ24の背面が臨むデフケース20の内面(より具体的には第2ケース20Bの内面)には、油排出口20oから径方向で外方側に延び且つ対応するサイドギヤ24の外周部の外側でデフケース20内に開口する油溝26が設けられ、油溝26の、デフケース20内への第1開口端26iは、ピニオンギヤ23の自転によりピニオンギヤ23から飛散する油を取り込み可能な位置に配置される。
【0095】
これにより、油溝26は、デフケース20内でピニオンギヤ23から飛散する油の流動エネルギを利用して油排出口20oに臨む第2開口端26oまで油を効率よく送り出すことができる。しかも油溝26の第1開口端26iを、ピニオンギヤ23の油飛散領域に対応した特定範囲に絞り込むことができるため、油溝26の長さを極力短くでき、ピニオンギヤ23が飛散した油を迅速に油排出口20oまで還流させ、そこから油溜部Oまで戻すことができる。
【0096】
尚、遊星ギヤP(特に大径ギヤ部P1)は、前記したようにキャリアCの正転方向に公転することで油溜部Oの油を掻き上げ可能である一方で、公転に伴う逆方向への自転により、公転方向(即ち油掻き上げ方向)とは反対方向に油を飛散させる。
【0097】
そこで本実施形態では、第1オイルガイドG1の油捕捉部40を、油溜部Oの最下部を起点とし且つキャリアC正転方向で前方側に位置する、ミッションケース10の外周壁半周部(図3で左側半周部)に配備しており、これにより、上記反対方向に飛散した油を油捕捉部40で効果的に捕捉することができる。即ち、遊星ギヤPは、これが公転方向とは逆方向に自転しても、公転方向とは反対方向に飛散した油を、上記外周壁半周部に位置する油捕捉部40で十分に捕捉することができ、その捕捉効果の上記自転による影響が最小限に抑えられる。
【0098】
また特に実施形態の伝動ユニットUでは、デフケース20が第1,第2ケース20A,20Bより分割構成される一方で、遊星ギヤPは、これの大径ギヤ部P1側がキャリアCに、また小径ギヤ部P2側が第1ケース20Aにそれぞれ軸支され、第1ケース20Aと、これに結合したキャリアCとの間に第2ケース20Bが挟持されていて、前記挟持により第1ケース20Aに第2ケース20Bが固定される。これにより、遊星ギヤPの大径ギヤ部P1側を軸支する大形のキャリアCを、デフケース20とは別部品として第1ケース20Aに後付けで結合できるので、その大形のキャリアCをデフケース20と一体化した従来構造と比べ、デフケース20の構造簡素化が図られるばかりか減速機Rの組立性も良好となり、コスト節減が図られる。
【0099】
しかもキャリアCと第1ケース20A間に第2ケース20Bを単に挟持するだけで第2ケース20Bを固定可能となり、従って、第2ケース20Bに対する専用の固定手段が不要となり、即ち、キャリアCを利用した簡単な構造で第1ケース20Aに第2ケース20Bを結合することができる。
【0100】
また第1ケース20Aには、差動ギヤ機構21のピニオンギヤ23を支持するピニオン軸22に対するピニオン軸支持部20kが設けられ、遊星ギヤPの小径ギヤ部P2側が第1ケース20Aに軸支される。これにより、第2ケース20Bには、遊星ギヤPやピニオン軸22からの回転力は直接入力されず、その荷重負担を小さくできるため、第2ケース20Bの剛性強度を低めに設定可能となって、第2ケース20Bの軽量小型化が達成可能である。
【0101】
また実施形態のキャリアC及び第1ケース20Aの相対向面のうちの少なくとも一方(実施形態では両方)の対向面は、軸方向に凹んだ凹部Cao,20aoを有しており、第2ケース20Bは、これを凹部Cao,20aoに嵌合させた状態でキャリアC及び第1ケース20A間に挟持される。これにより、上記対向面に臨む凹部Cao,20aoに第2ケース20Bを単に嵌合させるだけで、第2ケース20Bの径方向位置決めを簡単且つ的確に行うことができ、組立作業性が高められる。
【0102】
而して、実施形態のデフケース20において、第1ケース20Aは、これの軸方向他方側の開放端が第2ケース20Bにて閉塞されるため、第1ケース20A内には、第1,第2ケース20A,20Bを分離した状態で軸方向他方側より差動ギヤ機構21を組付け可能である。また遊星ギヤPは、これの両端で第1ケース20AとキャリアCとにより軸方向に挟持されるため、遊星ギヤPを軸方向他方側から第1ケース20Aに組付け可能であり、更に遊星ギヤP及び第2ケース20Bを組付けた第1ケース20Aに対し、キャリアCを軸方向他方側から遊星ギヤPと適合させつつ組付け可能である。これにより、第1ケース20Aに対しては、差動ギヤ機構21、第2ケース20B、遊星ギヤP及びキャリアCを同一方向(即ち軸方向他方側)から順次組付け可能であるから、全体として組立作業性が頗る良好である。
【0103】
ところでデフケース20の胴部20a内に溜まる油の中に残留するコンタミがデフケース20外に排出されずに増え続けると、伝動時にデフケース20内でコンタミが拡散して差動装置Dの性能低下させる虞れがあるが、本実施形態のデフケース20は、これの胴部20a内に臨む入口70iを有して胴部20a内の油中よりコンタミを捕集可能なコンタミポケット70の少なくとも一部を備え、その入口70iは、デフケース20内面のうち遠心力が最も強く作用する最大内径部20d、又は最大内径部20dよりも油排出口20o側に配置される。
【0104】
これにより、特に入口70iが最大内径部20dに配置される構造では、デフケース20の回転時、胴部20a内の油中のコンタミを遠心力によってコンタミポケット70に効果的に捕集できるから、胴部20a内でのコンタミの拡散が抑えられる。また、遠心力によって最大内径部20dに集まったコンタミは、油導入口20iから油排出口20oに向かって流れる油に乗って油排出口20o側に流出し易いため、入口70iを最大内径部20dよりも油排出口20o側に配置することでも、コンタミポケット70にコンタミを効果的に捕集することができ、何れにせよ、コンタミ拡散に起因した差動装置Dの性能低下が効果的に抑制可能となる。
【0105】
また上記コンタミポケット70の入口70iの周辺部には、入口70iの一部を塞ぐ返し部70kが配設される。これにより、デフケース20の回転に伴い入口70iが一時的に下向きとなっても、入口70iから流れ出ようとするコンタミが返し部70kに引っ掛かることで、コンタミポケット70に捕集したコンタミがコンタミポケット70から出てしまうのを効果的に抑制することができる。
【0106】
また、コンタミポケット70の中にマグネットを設置し、そのマグネットにコンタミを引き寄せるようにすれば、コンタミポケット70に捕集したコンタミがコンタミポケット70から出てしまうのを抑制することができる。
【0107】
さらに実施形態の伝動ユニットUでは、キャリアCとデフケース20とに跨がるようにコンタミポケット70が形成されるため、デフケース20のみならずキャリアCにもコンタミポケット70の一部が形成される。従って、減速機RのキャリアCを利用してコンタミポケット70の容量を容易に増やすことができる。
【0108】
その上、キャリアC及びデフケース20のうち少なくともデフケース20を(実施形態ではキャリアCをも)、キャリアCとデフケース20との接合面より軸方向に凹ませることで、コンタミポケット70がキャリアCとデフケース20との相互間に画成される。これにより、コンタミポケット70を加工又は成形する際に、キャリアCをデフケース20から分離して上記接合面を外部に広く開放した状態で、該接合面からコンタミポケット70の加工又は成形を容易に行うことができるため、コンタミポケット70は、これの底部が幅広、且つ入口70iが幅狭であっても、加工又は成形を迅速且つ的確に行える。
【0109】
またデフケース20を分割構成する第1,第2ケース20A,20Bのうち、第1ケース20Aにコンタミポケット70の少なくとも一部が形成され、また第2ケース20Bに返し部70kが形成されるため、コンタミポケット70の入口70iを狭める返し部70kが、第1ケース20Aより分離した状態の第2ケース20Bにおいて容易に形成可能となる。これにより、コンタミポケット70に加えて返し部70kをも第1ケース20Aに形成する構造よりも、返し部70kの加工又は成形を頗る容易に行える。
【0110】
またデフケース20においてピニオンギヤ支持面20pfとコンタミポケット70とは、図1図9で明らかなように、デフケース20の周方向で互いに離間した位置に配置されている。これにより、デフケース20の、ピニオンギヤ23背面を支持するピニオンギヤ支持面20pfの肉厚が、コンタミポケット70形成のために減ぜられる虞れはなくなるため、デフケース20は、コンタミポケット70を特設しても、ピニオンギヤ23の背面に対し十分な支持剛性を確保可能となる。
【0111】
また図10及び図11には第2実施形態が示される。
【第2の実施の形態】
【0112】
第1実施形態の第2ケース20Bは、外側面が平坦面であってボスが張出していないが、第2実施形態の第2ケース20B′は、これの外側面に軸方向外向きに張出す段付きボス部81を一体に有する点で、第1実施形態と異なる。
【0113】
即ち、第2実施形態の第2ケース20B′は、第1実施形態の第2ケース20Bと略同様の構造の第2ケース主部80と、第2ケース主部80の外側面に一体に突設した段付きボス部81とを有しており、第2ケース主部80の内面には、第1実施形態と同様の複数の油溝26が凹設され、この油溝26の第2開口端26oは、段付きボス部81の内周面を縦通してボス部81の先端まで延びている。段付きボス部81の外周の中間段部は、サンギヤ31の先端に空隙を存して軸方向に対面し、また段付きボス部81の、中間段部よりも先部分81aは、サンギヤ31の先部内周に設けた環状凹部31oに緩く嵌合している。而して、その先部分81aと、サンギヤ31の環状凹部31oとの間には、ミッションケース10の内部空間に常時連通する環状油路82が形成され段付きボス部81の先部分81aの内周面は、デフケース20の油排出口20oを構成しており、油排出口20oとこれを緩く貫通する第1出力軸51との間の環状空隙は環状油路82に連通する。従って、デフケース20(胴部20a)内から油溝26を経て油排出口20oに達した油は、環状油路82を通してミッションケース10内にスムーズに流出する。
【0114】
また第1実施形態の第1ケース20Aでは、これの側壁20asにパーキングギヤ55(部品)取付用の円筒部20Atが突設されたが、第2実施形態では、このような部品取付用の円筒部20Atが省略されている。尚、このような部品取付用の円筒部20Atは、伝動装置Aの使用態様に合わせて必要に応じて設計されるものであり、例えば、第1実施形態及び後記第3実施形態でも省略可能であるし、或いは第2実施形態でも設置可能である。
【0115】
第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と基本的に同様であるので、第2実施形態の各構成要素には、これと対応する第1実施形態の構成要素と同じ参照符号を付すに止め、それ以上の説明は省略する。而して、第2実施形態も、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を発揮可能である。
【0116】
また図12図14には第3実施形態が示される。
【第3の実施の形態】
【0117】
第3実施形態の第2ケース20B″は、扁平薄肉な円環状プレート90より構成され、このプレート90の中心部に設けた貫通孔が油排出口20oを構成する。またプレート90の外周部には、デフケース20の第1ケース20A外周部に一体に突設した3つの連結腕部20Acにそれぞれ対応、隣接する3つの取付腕部91が周方向等間隔おきに突設される。
【0118】
その3つの取付腕部91は、第1ケース20Aの3つの連結腕部20Acと、キャリアCの3つのキャリア腕部Caとの間に挟持されるが、その挟持面となる連結腕部20Acとキャリア腕部Caとの相対向面は、第1,第2実施形態のような位置決め用凹部20ao,Caoを有しておらず、単純な平坦面である。その代わりに、第2ケース20Bを正規の取付位置に位置決めするために、各取付腕部91の貫通孔91hと、対応するキャリア腕部Caの貫通孔Cahとには、その両者に跨がって延びる位置決めピン92が嵌挿される。従って、ボルトB3は、キャリア腕部Ca及び位置決めピン92を貫通して連結腕部20Acに螺挿される。
【0119】
第3実施形態のその他の構成は、第1実施形態と基本的に同様であるので、第3実施形態の各構成要素には、これと対応する第1実施形態の構成要素と同じ参照符号を付すに止め、それ以上の説明は省略する。而して、第3実施形態も、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を発揮可能である。
【0120】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0121】
例えば、前記実施形態では、伝動装置Aの入力部(サンギヤ31)に回転駆動力を付与する動力源として電動モータを例示したが、電動モータに代えて、或いは加えて、車載のエンジンを動力源としてもよい。
【0122】
また前記実施形態では、伝動装置Aを車両(例えば自動車)用伝動装置に実施して、その伝動装置A中の差動装置Dで車両の左右の駆動車輪に回転駆動力を分配、付与するようにしたものを示したが、本発明では、差動装置Dをセンターデフとして用いて車両の前後の駆動車輪に回転駆動力を分配、付与するようにしてもよい。或いはまた、本発明の伝動装置Aを、車両以外の種々の機械装置において減速機R及び差動装置Dを複合した伝動装置として実施してもよい。
【0123】
また前記実施形態では、遊星ギヤPの大径ギヤ部P1及び小径ギヤ部P2を一体化したものを示したが、大径ギヤ部P1及び小径ギヤ部P2相互を一体化した遊星ギヤ部結合体と、枢軸33とを別部品としてもよく、その場合は、上記遊星ギヤ部結合体を枢軸33に回転自在に嵌合、支持させるようにする。
図1
図2
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