(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】歯科用の局所麻酔用注射液
(51)【国際特許分類】
A61K 31/381 20060101AFI20240222BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240222BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20240222BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240222BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20240222BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240222BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240222BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
A61K31/381
A61K9/08
A61K31/137
A61K31/573
A61K38/22
A61K45/00
A61P1/02
A61P23/02
(21)【出願番号】P 2023564461
(86)(22)【出願日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2023002967
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022109490
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520434499
【氏名又は名称】医療法人祥和会
(74)【代理人】
【識別番号】110004233
【氏名又は名称】弁理士法人NSI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 康治
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0151393(US,A1)
【文献】BEENA S.,Comparison of latency and efficacy of twin mix and modified twin mix in impacted mandibular third molar surgery - A Preliminary Randomized Triple Blind Split Mouth Clinical Study,Journal of Stomatology, Oral and Maxillofacial Surgery,2020年,Volume 121, Issue 3,pp.248-253
【文献】ATALAY B.,Analgesic and Anti-Inflammatory Effects of Articaine and Perineural Dexamethasone for Mandibular Third Molar Surgery: A Randomized, Double-Blind Study,Journal of Oral and Maxillofacial Surgery,2020年,Volume 78, Issue 4,pp.507-514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/08
A61K 45/00
A61K 38/22
A61P 1/02
A61P 23/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
次の工程AおよびBを含む、請求項1に記載の歯科用の局所麻酔用注射液の製造方法:
A)有効成分としてアルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む歯科用の局所麻酔用注射液の一部を抜き取る工程、および
B)抜き取った後に残存している該局所麻酔用注射液に、有効成分として糖質コルチコイドを含むステロイド注射液を補充する工程。
【請求項11】
前記添加剤が、保存剤、pH調節剤、等張化剤、および溶解補助剤からなる群から選択される一種以上である、請求項8または9に記載の局所麻酔用注射液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品製剤の技術分野に属する。本発明は、アルチカインと糖質コルチコイドとを含む、歯科用の局所麻酔用注射液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯を削るときや歯に外科手術を施す場合などには、通常、局所麻酔剤が口腔内の患部付近に注射される。また、神経のあるところに局所麻酔剤を注射し、神経が走っている先端部分まで麻酔することもある。これらの麻酔方法は、それぞれ浸潤麻酔および伝達麻酔と言われる。いずれにしても、治療後において、患者が口腔周りに痺れなどの不快感を覚えることがある。局所麻酔薬の一つであるアルチカインについても例外ではない。アルチカインで麻酔され、治療された後、患者は、口腔回りに痺れなどの不快感を訴えることがある。
【0003】
局所麻酔薬の一つであるアルチカインの塩酸塩は、歯科治療において、世界的に広く使用されている。アルチカインは、下記構造式で示す通り、リドカインなどと同じアミド型局所麻酔薬であり、チオフェン基を有する唯一の局所麻酔薬である。アミド型局所麻酔薬でありながら構造中にエステル結合を含むため、その他のアミド型局所麻酔薬と異なり、肝臓のみならず、血中の非特異的エステラーゼによっても代謝されるという特徴を有する。そのため、肝機能が低下している高齢者や肝障害患者に対しても、より安全に使用できると考えられている。
【0004】
【0005】
糖質コルチコイドは、糖質代謝に関係する副腎皮質ホルモンの一つであって、炎症を抑えたり、免疫を抑制させたり、アレルギーを抑えるなどの作用があり、様々な治療に広く用いられている。糖質コルチコイドは、錠剤等の経口投与剤や軟膏等の外用剤の他、注射液としても提供されている。
特許文献1には、リドカイン等の局所麻酔薬と、デキサメタゾン等のステロイド薬を含む歯科用局所麻酔注射液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、虫歯などの歯科治療を行うために、歯科用の局所麻酔薬であるアルチカインを口腔内の患部付近に投与した場合に、治療後に惹起されうる患者(大人、小児)の不定愁訴、特に口腔周囲の不快感を軽減することができる新たな歯科用の局所麻酔用注射液を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、アルチカインを含む局所麻酔剤に糖質コルチコイドを含ませることにより幸運にも上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明として、例えば、下記のものを挙げることができる。
[1]歯科治療の際に口腔内の患部付近に投与するための局所麻酔用注射液であって、アルチカインまたはその医薬上許容される塩;糖質コルチコイド;添加剤;および水のみ、またはこれらに加えて血管収縮薬のみからなることを特徴とする、歯科用の局所麻酔用注射液。
[2]前記糖質コルチコイドが、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、およびこれらのエステル、ならびにこれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される、上記[1]に記載の局所麻酔用注射液。
[3]前記アルチカインの医薬上許容される塩が、塩酸塩である、上記[1]または[2]に記載の局所麻酔用注射液。
[4]前記添加剤が、保存剤、pH調節剤、等張化剤、および溶解補助剤からなる群から選択される一種以上である、上記[1]または[2]に記載の局所麻酔用注射液。
[5]カートリッジに封入されているか、またはカートリッジに封入され、かかるカートリッジが更にシリンジに装填されてなる、もしくはそれに更に注射針が取り付けられてなる、上記[1]または[2]に記載の局所麻酔用注射液。
[6]前記血管収縮薬が、エピネフリンもしくはその医薬上許容される塩、またはフェリプレシンである、上記[1]または[2]に記載の局所麻酔用注射液。
[7]50歳以上の対象者に投与される、上記[1]または[2]に記載の局所麻酔用注射液。
[8]次の工程AおよびBを含む、歯科用の局所麻酔用注射液の製造方法:
A)有効成分としてアルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む歯科用の局所麻酔用注射液の一部を抜き取る工程、および
B)抜き取った後に残存している該局所麻酔用注射液に、有効成分として糖質コルチコイドを含むステロイド注射液を補充する工程。
[9]前記糖質コルチコイドが、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、およびこれらのエステル、ならびにこれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される、上記[8]に記載の局所麻酔用注射液の製造方法。
[10]前記アルチカインの医薬上許容される塩が、塩酸塩である、上記[8]または[9]に記載の局所麻酔用注射液の製造方法。
[11]前記添加剤が、保存剤、pH調節剤、等張化剤、および溶解補助剤からなる群から選択される一種以上である、上記[8]または[9]に記載の局所麻酔用注射液の製造方法。
[12]前記局所麻酔用注射液が、50歳以上の対象者に投与されるものである、上記[8]または[9]に記載の局所麻酔用注射液の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、虫歯などの歯科治療のため、アルチカインによる局所麻酔を受けた患者(特に、50歳以上の中高齢者または高齢者患者)の治療後における麻酔作用時間を短くでき、また口腔周りの不快感を軽減することができる。かかる不快感としては、例えば、唇のしびれ、強張り、ずきずき感、冷感、かゆみ、腫れぼったさを挙げることができる。かかる不快感の軽減により、唇を噛んだり、頬を掻きむしったりする行為も減らすことができる。
また、口腔周囲の上記不快感の軽減と共に、アナフィラキシーや神経不可逆性も予防しうる可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1 本発明に係る局所麻酔注射液
本発明に係る局所麻酔用注射液(以下、「本発明局所麻酔液」という。)は、歯科治療の際に口腔内の患部付近に投与するための局所麻酔用注射液であって、アルチカインまたはその医薬上許容される塩;糖質コルチコイド;添加剤;および水のみ、またはこれらに加えて血管収縮薬のみからなることを特徴とする。本発明局所麻酔液は、有効成分としてアルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む歯科用の局所麻酔用注射液の一部が抜き取られ、残存している該局所麻酔用注射液に有効成分として糖質コルチコイドを含むステロイド注射液が補充されてなるものでもよい。ここで、補充されるステロイド注射液の液量は、抜き取られる局所麻酔用注射液の液量と同量であっても異なった液量であってもよい。
なお、本発明局所麻酔液は、歯科用の局所麻酔剤であるから、まずは抜歯や歯を削るなどの処置(歯科治療)を行うに際して惹起される痛みを、感覚を麻痺させることにより少なくとも歯科治療の間一時的に軽減するために、通常、当該歯科治療に先立って用いられるものであるが、従前の局所麻酔剤と異なり、同時に歯科治療後における口腔周りの不快感をも軽減することができるものである。
【0012】
また、本発明の別の態様として、糖質コルチコイドと併用するための、有効成分としてアルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む歯科用の局所麻酔用注射液であってもよい。当該本発明態様においては、アルチカインを含む局所麻酔用注射液と糖質コルチコイドを含むステロイド注射液とは、分離独立して存在していてもよく、当該局所麻酔用注射液に糖質コルチコイドは必ずしも含まれていなくてもよい。
【0013】
1.1 アルチカイン
本発明局所麻酔液は、有効成分として、アルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む。
アルチカインの医薬上許容される塩としては、例えば、塩酸塩を挙げることができ、塩酸塩が好ましい。
【0014】
アルチカインは、リドカインと同じアミド型局所麻酔薬であり、チオフェン基を有する唯一の局所麻酔薬である。アミド型局所麻酔薬でありながら構造中にエステル結合を含むため、その他のアミド型局所麻酔薬と異なり、肝臓のみならず、血中の非特異的エステラーゼによっても代謝されるという特徴を有する。そのため、肝機能が低下している高齢者や肝障害患者に対しても、より安全に使用できると考えられている。
【0015】
本発明局所麻酔液中におけるアルチカインまたはその医薬上許容される塩の含有量は、麻酔薬としての有効量であれば特に制限されないが、例えば、1~10重量%の範囲内が適当であり、2~8重量%の範囲内が好ましく、3~5重量%の範囲内がより好ましい。1重量%より少量の含有量や10重量%より多い含有量を排除するものではないが、1重量%より少量であると麻酔作用を発揮するのに多くの量を投与しなければならない可能性があり、10重量%より多いと有効成分が十分に溶解しないおそれがある。
【0016】
1.2 糖質コルチコイド
本発明局所麻酔液は、有効成分として糖質コルチコイドを含む。かかる糖質コルチコイドは、糖質代謝作用を有する副腎皮質ホルモンの一つであって、歯科治療において使用でき、水に溶解するものであれば特に制限されない。また、短時間作用型(半減期:8~12時間)、中時間作用型(半減期:12~36時間)、長時間作用型(半減期:36~54時間)のいずれであってもよい。具体的には、活性本体が、例えば、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、コルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ペタメタゾンやこれらのエステルを挙げることができる。これらは構造的にも近似し、また力価は異なるが、同様な作用効果を有する。
【0017】
これら糖質コルチコイドのエステルとしては、例えば、リン酸エステル、コハク酸エステル、酢酸エステル、パルミチン酸エステルを挙げることができる。また、本発明に係る糖質コルチコイドは、水への溶解性を図るため、通常、医薬上許容される塩の形態で提供される。かかる医薬上許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩を挙げることができる。この中、デキサメタゾンやそのエステルやその塩が好ましく、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムがより好ましい。
【0018】
本発明局所麻酔液中における糖質コルチコイドの含有量は、糖質コルチコイドの種類や他の成分などによって異なるが、0.01~15mg/mLの範囲内が適当であり、0.05~5mg/mLの範囲内が好ましく、0.1~1mg/mLの範囲内がより好ましい。糖質コルチコイドがデキサメタゾンの場合には、デキサメタゾンとして、0.05~1mg/mLの範囲内が適当であり、0.1~0.7mg/mLの範囲内が好ましく、0.2~0.6mg/mLの範囲内がより好ましい。0.01mg/mLより少量では、糖質コルチコイドによっては本発明の効果を十分に得られないおそれがある。
基本的には少量でよい。
【0019】
1.3 血管収縮薬
本発明局所麻酔液は、有効成分として血管収縮薬を含むことができる。かかる血管収縮薬は、通常、局所麻酔薬を局所に停滞しやすくし、作用時間を長くするために加えられる。血管収縮薬の具体例としては、エピネフリン(アドレナリン)やその医薬上許容される塩(例、酒石酸水素塩)、フェリプレシンを挙げることができる。
【0020】
本発明局所麻酔液中における血管収縮薬の含有量は、適宜調整しうるが、0.005~0.1mg/mLの範囲内が適当であり、0.008~0.05mg/mLの範囲内が好ましく、0.01~0.02mg/mLの範囲内がより好ましい。血管収縮薬がエピネフリンの場合には、エピネフリンとして、前記と同様の含有量を挙げることができる。
【0021】
1.4 添加剤
本発明局所麻酔液には、必要に応じて、医薬上許容される、保存剤、pH調節剤、等張化剤、溶解補助剤などの添加剤を適量含むことができる。当該添加剤は、例えば、製剤の安定性を担保するために加えるものであり、基本的には、麻酔効果や本発明の効果(不快感の軽減)に影響を及ぼすものではない。
保存剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルを挙げることができる。
【0022】
pH調整剤としては、例えば、乳酸、二酸化炭素、コハク酸、グルコン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リン酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムを挙げることができる。
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ぶどう糖を挙げることができる。
溶解補助剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0023】
本発明局所麻酔液は、例えば、歯科用の局所麻酔用の適当なカートリッジに封入されていることが好ましい。また当該カートリッジに封入され、かかるカートリッジが専用のシリンジに装填されていてもよく、更にそれに注射針等が取り付けられていてもよい。本発明局所麻酔液が封入されたカートリッジ、シリンジ、注射針等がセットされたキットも本発明に含むことができる。
【0024】
1.5 投与対象者
本発明局所麻酔液は、歯科治療において必要とされる対象者(患者など)に使用することができる。本発明局所麻酔液は、特に50歳以上の中高齢の対象者に対して、麻酔下での歯科治療後の麻酔作用時間を短くし、それと共に歯科治療後の不定愁訴を効果的に抑制することができる。ここで歯科治療として、例えば、う蝕(虫歯)に対する治療、歯の周囲の組織の炎症(歯肉炎・歯周炎)に対する治療、および喪失した歯を補う治療(補てつ)を挙げることができる。
【0025】
2 本発明局所麻酔液の製造方法と使用方法
本発明局所麻酔液は、例えば、次のようにして製造することができる。
有効成分としてアルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む歯科用の局所麻酔用注射液(以下、単に「局所麻酔用注射液」ともいう。)の一部を抜き取り、残存している該局所麻酔用注射液に、有効成分として糖質コルチコイドを含むステロイド注射液を補充することにより、本発明局所麻酔液を製造することができる。また、局所麻酔用注射液の一部を抜き取らず、当該ステロイド注射液を局所麻酔用注射液に単純に追加することによっても製造することができる。
【0026】
即ち、本発明局所麻酔液は、次の工程AおよびBを含む方法により製造することができる:
A)有効成分としてアルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む歯科用の局所麻酔用注射液の一部を抜き取る工程、および
B)抜き取った後に残存している該局所麻酔用注射液に、有効成分として糖質コルチコイドを含むステロイド注射液を補充する工程。
上記工程Aにおいて、当該局所麻酔用注射液の抜き取る液量としては、全量の5~30%の範囲内が適当であり、8~15%の範囲内が好ましい。上記工程Bにおいて、補充するステロイド注射液の液量としては、適宜調整しうるが、例えば、抜き取った局所麻酔用注射液の液量の10~150%の範囲内が適当であり、20~100%の範囲内が好ましく、30~60%の範囲内がより好ましい。必要に応じて、10%より少なくても、あるいは150%より多くてもよい。
【0027】
また、例えば、注射用水や精製水、蒸留水などの水に、アルチカインまたはその医薬上許容される塩や糖質コルチコイド、必要に応じて、血管収縮薬や所望の添加剤を前記した含有量となるよう常法により溶解することにより、本発明局所麻酔液を製造することもできる。
【0028】
アルチカインの医薬上許容される塩、糖質コルチコイド、血管収縮薬、添加剤等の用語は、前記と同義である。
【0029】
糖質コルチコイドを含むステロイド注射液としては、例えば、歯科用に使用することができる市販のステロイド注射液を挙げることができる。市販のステロイド注射液をそのまま用いることができる。かかるステロイド注射液としては、例えば、水溶性ハイドロコートン(登録商標)注射液(ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウムを含む)、ソル・コーテフ(登録商標)注(ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウムを含む)、サクシゾン(登録商標)注(ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウムを含む)、水溶性プレドニン(登録商標)注(プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムを含む)、ソル・メドロール(登録商標)注(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムを含む)、デポ・メドロール(登録商標)注(メチルプレドニゾロン酢酸エステルを含む)、デカドロン(登録商標)注(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムを含む)、オルガドロン(登録商標)注(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムを含む)、リメタゾン(登録商標)注(デキサメタゾンパルミチン酸エステルを含む)、リンデロン(登録商標)注(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを含む)を挙げることができる。
【0030】
本発明局所麻酔液は、例えば、それが歯科用の局所麻酔用の適当なカートリッジに封入されている場合、市販の手動または電動の麻酔器具を用い、市販のカートリッジタイプの歯科用局所麻酔剤と同じように使用することができる。具体的には、適当なカートリッジに封入された状態で、専用のシリンジに装填し、注射針を取り付け、手動または電動により口腔内の治療を行う患部の周辺に、通常、0.8mL~2mL(好ましくは、1mL~1.8mL)の範囲内の適当量を注射することによって使用することができる。なお、本発明局所麻酔液は、大人にも小児にも、また性別や年齢(若年者、高齢者)に関係なく使用することができる。
【0031】
注射針は、歯科用で使用されるものであれば特に制限されないが、その針の太さとしては、例えば、30ゲージ(G)前後、具体的には、26~32Gの範囲内のものを挙げることができ、28~31Gの範囲内のものが好ましい。
【0032】
本発明局所麻酔液が、糖質コルチコイドと併用するための、有効成分としてアルチカインまたはその医薬上許容される塩を含む歯科用の局所麻酔用注射液の場合は、例えば、本発明局所麻酔液(糖質コルチコイドを含まない)を口腔内の治療を行う患部の周辺に適当量注射し、続いて有効成分として糖質コルチコイドを含むステロイド注射液を同患部周辺に注射することができる。また、本発明局所麻酔液(糖質コルチコイドを含まない)を口腔内の治療を行う患部の周辺に適当量注射し、続いて有効成分として糖質コルチコイドを含むステロイド注射液を同患部周辺に注射して後、再度、本発明局所麻酔液(糖質コルチコイドを含まない)を同患部周辺に適当量注射することもできる。
【0033】
上記使用のために、本発明局所麻酔液(糖質コルチコイドを含まない)とステロイド注射液とをキット等として提供することもでき、そのようなキット等も本発明に含まれる。
【実施例】
【0034】
以下に試験例や実施例などを掲げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]本発明局所麻酔液の調製
4重量%のアルチカイン塩酸塩を含む薬液が封入されたカートリッジ1.7mL(Articadent(商品名)DENTAL、デンツプライシロナ社製)から約10%の薬液をディスポーサブル注射器で抜き取り、カートリッジ内に残った薬液に、当該抜き取った薬液とほぼ同量のデカドロン(登録商標、以下同じ。)注射液3.3mgの薬液を補充し、本発明局所麻酔液を調製した。かかる本発明局所麻酔液は、元のカートリッジ内に封入されている。
【0036】
[実施例2]本発明局所麻酔液の調製
4重量%のアルチカイン塩酸塩を含む薬液が封入されたカートリッジ1.7mL(Articadent(商品名)DENTAL、デンツプライシロナ社製)を2液に分け、一方の0.85mL液をそのままA液とし、もう一方の0.85mL液にデカドロン注射液3.3mgの約0.1mLを加えた0.95mL液をB液(本発明局所麻酔液)とした。
【0037】
[試験例1]治療後における患者の不快感軽減効果の検証
カートリッジ内に封入された実施例1の本発明局所麻酔液を専用の麻酔用シリンジに装填し、30Gの注射針を取り付けて、患者10人の左歯肉内に注射した。一方、上記のアルチカイン塩酸塩を含む薬液が封入されたカートリッジから同量抜き取っただけで、デカドロン注射液を補充しなかったアルチカイン注射剤を同様に患者の右歯肉内にほぼ同時に注射した。
【0038】
その結果、注射した左右歯肉付近の麻酔の効き目はいずれも同じようであったが、デカドロン(糖質コルチコイド)を含む本発明局所麻酔液を注射した左歯肉付近については、いつの間にか麻酔が消失し、その間唇のしびれなどの不快感を訴える患者は特にはいなかった。一方、デカドロン(糖質コルチコイド)を含まないアルチカイン注射剤を注射した右歯肉付近については、唇のしびれなどの不快感を訴える患者が殆どであった。
上記から、本発明局所麻酔液は、患者の歯科治療後における口腔周囲の不快感を軽減することは明らかである。
【0039】
[試験例2]世代別検証
20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、および60歳代のそれぞれ複数患者に対して、実施例2のA液0.45mLを専用の麻酔用シリンジに装填し、30Gの注射針を取り付けて右下臼歯部に局所麻酔施行すると共に、実施例2のB液0.5mLを同様に左下臼歯部にもほぼ同時に局所麻酔施行した。
その結果、A液による麻酔効果時間は3~4時間程度であり、B液(本発明局所麻酔液)の場合は、A液の場合より約20分以上、麻酔作用時間が短かった。但し、20歳代、30歳代、および40歳代の患者では、A液の場合もB液の場合も麻酔作用時間に大きな違いは見られず、A液による歯科治療後の不定愁訴も少なかったが、B液による歯科治療後の不定愁訴は殆どなかった。50歳以上の患者では、A液による麻酔作用時間は延長傾向にあると共に不定愁訴も長く続いたが、B液の場合はその不定愁訴が殆どなかった。いずれにしても、A液に対してB液の場合は、痒み、腫れぼったさ、痺れ感などが殆どなく、麻酔効果が消失した。
上記のことから、本発明局所麻酔液は、50歳以上の中高齢者および高齢者に対してより効果的であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明局所麻酔液は、歯科治療後における患者(特に50歳以上の中高齢者および高齢者患者)の不定愁訴、特に口腔周囲の不快感を軽減することができることから、歯科領域の治療等において有用である。
【要約】
本発明の課題は、歯科用の局所麻酔剤を口腔内の患部に投与した場合に、治療後に惹起されうる患者の不定愁訴、特に口腔周囲の不快感を軽減することができる新たな歯科用の局所麻酔用注射液を提供することである。
本発明として、例えば、歯科治療の際に口腔内の患部付近に投与するための局所麻酔用注射液であって、アルチカインまたはその医薬上許容される塩;糖質コルチコイド;添加剤;および水のみ、またはこれらに加えて血管収縮薬のみからなることを特徴とする、歯科用の局所麻酔用注射液を挙げることができる。
本発明によれば、歯科治療のため局所麻酔を受けた患者(特に50歳以上の中高齢者および高齢者患者)の治療後における口腔周りの不快感を軽減するのに効果的である。