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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】アウターロータ型ブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/167 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
H02K5/167 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023575444
(86)(22)【出願日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2023020148
【審査請求日】2024-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓也
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-034740(JP,A)
【文献】特開2012-125129(JP,A)
【文献】特開2022-131843(JP,A)
【文献】特開2020-159556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K5/00-5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと一体回転するロータと、
前記シャフトの径方向外側かつ前記ロータの径方向内側に配置されたステータと、
前記ステータの一端側に固定されるとともに前記シャフトが挿通される筒状のブッシュと、
前記ステータの径方向内側且つ前記ブッシュの他端側に配置されて、前記シャフトを回転自在に軸支する含浸軸受と、
前記含浸軸受よりも一端側に設けられ、前記シャフトと一体回転するワッシャと、を具備し、
前記ブッシュは、
前記含浸軸受の一端側の軸受端面に対向配置される第一端面、及び、前記シャフトの外周面との間に第一クリアランスをあけて当該外周面に対向配置される第一内周面を持ち、前記ステータのコア内周面に固定される固定部と、
前記固定部の一端側において、前記第一内周面よりも大径の第二内周面を持つ収容部と、を備えるとともに、
少なくとも前記第一端面及び前記第一内周面には撥油処理が施されており、
前記ワッシャは、前記第二内周面の径方向内側に配置され、
前記軸受端面と前記第一端面との間には、前記第一クリアランスよりも大きい第二クリアランスが設けられている
ことを特徴とする、アウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項2】
前記第二クリアランスに配置されて、前記シャフトと一体回転する第二のワッシャをさらに備える
ことを特徴とする、請求項1に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項3】
前記ステータは、前記コア内周面を持つ筒部及び前記筒部から径方向外側に突設された複数のティース部を有するステータコアと、前記複数のティース部のそれぞれに巻線が巻回されてなる複数のコイルと、前記巻線が巻回される前記ティース部に絶縁コーティングが施された絶縁層と、を備え、
前記ブッシュは、前記固定部から前記ステータコアのコア端面よりも軸方向に延出され、前記複数のコイル間を接続する渡り線が当接するガイド部を備える
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項4】
前記ブッシュは、前記ガイド部の径方向外側を向く外面が前記コア内周面よりも径方向外側に位置する段付き形状であり、
前記ガイド部の他端側を向く平面が、前記コア端面に当接する
ことを特徴とする、請求項3に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項5】
前記コア内周面には、軸方向に延在する位置決め溝が設けられており、
前記ガイド部には、前記コア端面と同方向を向く第二端面に凹状の凹部が設けられている
ことを特徴とする、請求項4に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項6】
前記ステータコアは、六つの前記ティース部を有する
ことを特徴とする、請求項5に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項7】
前記固定部は、前記コア内周面に内嵌可能な外径の外周面を持つ円筒状の基部と、前記基部の前記外周面から凸設された凸部とを有し、前記コア内周面に圧入固定される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項8】
前記固定部は、三つ以上の前記凸部を有し、
前記三つ以上の凸部は、周方向に互いに離隔して設けられる
ことを特徴とする、請求項7に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、シャフトを回転自在に軸支する含浸軸受を備えたアウターロータ型ブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
アウターロータ型のモータには、シャフトを回転自在に支持する軸受として、含浸軸受が採用されることがある。含浸軸受は、内部に油を含浸させた軸受であり、含油軸受とも呼ばれる。この軸受では、相対的に摺動する二面間(すなわち、含浸軸受の内周面とシャフトの外周面との間)に粘性の油膜を介在させ、この油膜の圧力によってシャフトを支持する。
【0003】
含浸軸受は、含油量が低下すると、シャフトの滑らかな回転の阻害や、含浸軸受の寿命の短縮を招き得る。このため、含油量の低減を抑制する様々な構造が提案されている。例えば、特許文献1に開示のモータには、含浸軸受の端面の径方向内側に凹部を設け、シャフトと一体回転する円盤状のワッシャをこの凹部内に設ける構造が開示されている。特許文献1によれば、シャフトを伝って流れ出た油が、ワッシャにより飛散されて凹部の内周面に当たり、含浸軸受に吸引されることで、含油量の低減抑制が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-061253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示のモータでは、含油量の低減を抑制する構造が凹部の外側には設けられていない。このため、特許文献1に開示のモータでは、凹部の外側に飛散した油を回収する術がなく、含油量の低減をより抑制する点で改善の余地がある。また、含浸軸受を備えたモータでは、含浸軸受から流れ出た油が十分に回収されなかった場合に、この回収されなかった油がモータの外部に漏出することを抑制する構造が設けられることが好ましく、この点でも改善の余地がある。
【0006】
本件のアウターロータ型ブラシレスモータは、このような課題に鑑み案出されたもので、含浸軸受の含油量の低減を抑制しつつ、含浸軸受から流れ出た油が十分に回収されなかった場合であってもモータ外部への油の漏出を抑制することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示のアウターロータ型ブラシレスモータは、以下に開示する態様(適用例)として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。態様2以降の各態様は、何れもが付加的に適宜選択されうる態様であって、何れもが省略可能な態様である。態様2以降の各態様は、何れもが本件にとって必要不可欠な態様や構成を開示するものではない。
【0008】
態様1.開示のアウターロータ型ブラシレスモータは、シャフトと一体回転するロータと、前記シャフトの径方向外側かつ前記ロータの径方向内側に配置されたステータと、前記ステータの一端側に固定されるとともに前記シャフトが挿通される筒状のブッシュと、前記ステータの径方向内側且つ前記ブッシュの他端側に配置されて、前記シャフトを回転自在に軸支する含浸軸受と、前記含浸軸受よりも一端側に設けられ、前記シャフトと一体回転するワッシャと、を具備する。前記ブッシュは、前記含浸軸受の一端側の軸受端面に対向配置される第一端面、及び、前記シャフトの外周面との間に第一クリアランスをあけて当該外周面に対向配置される第一内周面を持ち、前記ステータのコア内周面に固定される固定部と、前記固定部の一端側において、前記第一内周面よりも大径の第二内周面を持つ収容部と、を備えるとともに、少なくとも前記第一端面及び前記第一内周面には撥油処理が施されている。前記ワッシャは、前記第二内周面の径方向内側に配置され、前記軸受端面と前記第一端面との間には、前記第一クリアランスよりも大きい第二クリアランスが設けられている。
【0009】
態様2.上記の態様1において、前記アウターロータ型ブラシレスモータは、前記第二クリアランスに配置されて、前記シャフトと一体回転する第二のワッシャをさらに備えることが好ましい。
【0010】
態様3.上記の態様1又は2において、前記ステータは、前記コア内周面を持つ筒部及び前記筒部から径方向外側に突設された複数のティース部を有するステータコアと、前記複数のティース部のそれぞれに巻線が巻回されてなる複数のコイルと、前記巻線が巻回される前記ティース部に絶縁コーティングが施された絶縁層と、を備えることが好ましい。この場合、前記ブッシュは、前記固定部から前記ステータコアのコア端面よりも軸方向に延出され、前記複数のコイル間を接続する渡り線が当接するガイド部を備えることが好ましい。
【0011】
態様4.上記の態様3において、前記ブッシュは、前記ガイド部の径方向外側を向く外面が前記コア内周面よりも径方向外側に位置する段付き形状であることが好ましい。この場合、前記ガイド部の他端側を向く平面が、前記コア端面に当接することが好ましい。
態様5.上記の態様3又は4において、前記コア内周面には、軸方向に延在する位置決め溝が設けられていることが好ましい。この場合、前記ガイド部には、前記コア端面と同方向を向く第二端面に凹状の凹部が設けられていることが好ましい。
態様6.上記の態様3~5のいずれかにおいて、前記ステータコアは、六つの前記ティース部を有することが好ましい。
【0012】
態様7.上記の態様1~6のいずれかにおいて、前記固定部は、前記コア内周面に内嵌可能な外径の外周面を持つ円筒状の基部と、前記基部の前記外周面から凸設された凸部とを有し、前記コア内周面に圧入固定されることが好ましい。
態様8.上記の態様7において、前記固定部は、三つ以上の前記凸部を有することが好ましい。この場合、前記三つ以上の凸部は、周方向に互いに離隔して設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
開示のアウターロータ型ブラシレスモータによれば、含浸軸受の含油量の低減を抑制することができる。また、含浸軸受から流れ出た油が十分に回収されなかった場合であっても、この油がモータの外部に漏出することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るアウターロータ型ブラシレスモータの軸方向断面図である。
図2図1のX部の拡大図である。
図3図1のアウターロータ型ブラシレスモータが備えるステータのステータコアを一端側から見た平面図である。
図4図1のY部を一端側から見た拡大斜視図である。
図5図1のアウターロータ型ブラシレスモータが備えるブッシュを径方向外側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、実施形態としてのアウターロータ型ブラシレスモータについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0016】
アウターロータ型ブラシレスモータ(以下、単に「モータ」という)は、シャフトと一体回転するロータと、シャフトの径方向外側かつロータの径方向内側に配置されたステータと、を具備する。実施形態のモータは、ステータの径方向内側に配置された含浸軸受によりシャフトを軸支するものであり、軸方向において含浸軸受の一端側に設けられたブッシュを具備することを特徴の一つとする。
【0017】
当該ブッシュには、その表面に撥油処理が施されるとともに、一端側とは反対の他端側の内周面(第一内周面)が、第一クリアランスをあけてシャフトの外周面と対向配置される。また、ブッシュの他端側の端面(第一端面)は、第一クリアランスよりも大きい第二クリアランスをあけて、含浸軸受の一端側の端面(軸受端面)と対向配置される。実施形態のモータでは、このようなブッシュにより、含浸軸受から流出した油(以下、「流出油」ともいう)が、撥油処理された第一内周面及び第一端面にはじかれて、第一クリアランスに入り込みにくくなり、第二クリアランスに溜まりやすくなる。これにより、含浸軸受の含油量の低下抑制が図られる。
【0018】
また、実施形態のモータは、含浸軸受よりも一端側に設けられて、シャフトと一体回転するワッシャを具備することを特徴の一つとする。当該ワッシャは、ブッシュの第一内周面よりも一端側の内周面(第二内周面)の径方向内側に配置される。実施形態のモータは、このようなワッシャにより、流出油を飛散させることで、当該流出油がシャフトを伝ってワッシャよりも一端側へ流れ出てモータの外部へ漏出することを抑制するものである。つまり、実施形態のモータは、流出油の第一クリアランスへの浸入を抑制するとともに、仮に、流出油が第一クリアランスに浸入したとしても、この流出油がモータの外部へ漏出することを抑制するものである。
【0019】
以下の説明では、シャフトを基準に、モータの方向(軸方向,周方向,径方向)を定める。軸方向は、シャフトの中心線に沿う方向(シャフトの長手方向)である。軸方向において、ステータに対してブッシュが設けられる側を「一端側」とし、この逆を「他端側」とする。周方向はシャフトの中心線周りの方向(円周方向)であり、径方向は軸方向及び周方向の双方に直交する方向である。
【0020】
[1.構成]
図1は、本実施形態に係るモータ1の軸方向に沿う断面図である。図1に示すように、モータ1には、シャフト2,ロータ3,ステータ4,含浸軸受5,ブッシュ6及びワッシャ7が設けられる。なお、図1では、含浸軸受5よりも紙面上側(一端側)にブッシュ6が位置しているが、実際のモータ1の上下方向はこれに限られない。例えば、モータ1の上下方向が図1に示す上下方向と同一であってもよく、紙面上下方向を逆さにした方向であってもよい。つまり、モータ1は、ブッシュ6が含浸軸受5の下方に配置されたものであってもよい。この場合、一端側は下方(重力方向)となり、他端側は上方となる。また、シャフト2の軸方向は必ずしも鉛直方向にでなくてもよく、横向きや斜め方向に延びるようにモータ1が使用されてもよい。
【0021】
シャフト2は、ロータ3を支持する回転軸であり、モータ1の出力(機械エネルギ)を外部に取り出す出力軸としても機能する。なお、図1及び図2では、シャフト2の断面を示すハッチングを省略して示している。
【0022】
ロータ3は、シャフト2と一体回転する部品であり、有底円筒状のロータヨーク31と、ロータヨーク31の内周面に固定されたマグネット32とを有する。ロータヨーク31は、底部が一端側に位置し、他端側が開放された形状をなす。ロータヨーク31の底部の中央には、シャフト2が挿通された状態で固定される貫通孔が設けられる。これにより、シャフト2とロータヨーク31(ロータ3)とが一体で回転する。マグネット32は、ロータヨーク31の底部から離隔した位置における内周面に固定され、ロータヨーク31とともに一体回転する。
【0023】
ステータ4は、シャフト2の径方向外側かつロータ3の径方向内側に配置される部品であり、シャフト2が挿通される内周面4C(以下、「コア内周面4C」という)を持つ。ステータ4は、例えば、コア内周面4Cの他端側に接着固定されたメタルホルダ8を介して、取付板9に固定される。取付板9は、図示しないモータ1のハウジングに固定された板材、或いは、当該ハウジングを構成する板材の一部である。メタルホルダ8は、含浸軸受5を保持する有底円筒状の部材であり、その他端側が取付板9に固定される。
【0024】
なお、メタルホルダ8の他端側には、シャフト2の一端側への移動を規制する構造が設けられてよい。また、取付板9には、例えば放熱テープを介して基板(電子基板,制御基板)が貼設されてよい。ステータ4は、このような取付板9に固定されることで、シャフト2に対して相対回転不能に固定される。
【0025】
ステータ4は、金属製のステータコア41と、ステータコア41に巻線Wが巻回されることで構成された複数のコイル45とを有する。本実施形態のステータ4は、さらに絶縁層46(図2参照)を有する。絶縁層46は、ステータコア41の表面に絶縁コーティングを施すことで形成された膜である。本実施形態のステータ4では、この絶縁層46により、ステータコア41と複数のコイル45との絶縁が図られる。
【0026】
つまり、実施形態のステータ4は、従来のステータに設けられるインシュレータに代えて、ステータコア41に絶縁コーティングを施し、絶縁層46を形成することで、ステータコア41と複数のコイル45との絶縁を図るものである。ステータコア41とコイル45との絶縁方法をコーティングとすることで、ステータコア41のコア膜厚を最小限に形成できる。よって、後述する複数のティース部43の間の空間を大きく確保することができる。よって、線積を拡大することが可能となり、モータ1の性能を高められる。
【0027】
ステータコア41は、同一形状の複数の鋼板が積層された積層コアであり、その中心には、鋼板の積層方向に軸方向を一致させた状態でシャフト2が挿通される。つまり、上記のコア内周面4Cは、ステータコア41に形成される。
【0028】
ステータコア41は、図3に示すように、筒部42と、複数のティース部43と、複数の羽根部44とを有する。なお、図3は、ステータコア41を一端側から見た平面図であり、このステータコア41にシャフト2が挿通された場合のシャフト2の断面を破線で示している。
【0029】
筒部42は、上記のコア内周面4Cを持つ筒状の部位である。コア内周面4Cは、例えば円筒面であり、その内径がシャフト2の外径よりも大きく設定される。筒部42の外周面は、円筒面でもよいし角筒面でもよい。ステータ4は、コア内周面4Cがシャフト2と干渉しないように配置される。なお、筒部42には、コア内周面4Cの一部を軸方向に沿って凹ませた位置決め溝4Gが設けられてよい。この位置決め溝4Gは、モータ1の組み立て時に、ステータ4の周方向における基準位置の確認を容易にするために設けられる。
【0030】
ティース部43は、筒部42から径方向外側に突設された部位であり、筒部42と羽根部44とを接続する。ティース部43は、例えば、軸方向から見て矩形状をなす。本実施形態のステータ4は、周方向に等間隔に配置された六つのティース部43を有する。
【0031】
羽根部44は、ティース部43の外側端部において周方向に展開された部位であり、軸方向から見て円弧状をなす。羽根部44の径方向外側を向く面は、ロータ3のマグネット32の径方向内側の面に対向する。複数の羽根部44のそれぞれは、複数のティース部43のそれぞれに設けられる。つまり、本実施形態のステータ4は、六つの羽根部44を有する。
【0032】
複数のコイル45は、複数のティース部43のそれぞれに巻回された巻線Wにより構成される。言い換えれば、ティース部43に巻線Wが巻回されて構成されたものをコイル45という。本実施形態のステータ4では、上記のティース部43の数に対応して、図4に示すように、六つのコイル45が設けられる。
【0033】
以下、六つのコイル45のうち、シャフト2を挟んで対向配置された二つのコイル45をU相コイル45Uともいう。また、U相コイル45Uとは別のコイル45であってシャフト2を挟んで対向配置された二つのコイル45をV相コイル45Vともいう。残りの二つのコイル45をW相コイル45Wともいう。また、U相コイル45U,V相コイル45U及びW相コイル45Wのそれぞれのコア材となるティース部43を、それぞれU相ティース部43U,V相ティース部43V及びW相ティース部43W(図3参照)ともいう。
【0034】
U相コイル45UにはU相の電流が供給され、V相コイル45VにはV相の電流が供給され、W相コイル45WにはW相の電流が供給される。同相のコイル45U,45V,45Wは、図4に示すように、ステータコア41の一端側の端面4F(以下、「コア端面4F」ともいう)に配索された渡り線Wcにより、互いに接続される。このように、同相のコイル45U,45V,45Wをそれぞれ、渡り線Wcを介して、連続的に巻くことで、結線作業を効率よく行うことができる。
【0035】
絶縁層46は、巻線Wが巻回されるティース部43に設けられる。絶縁層46は、例えばティース部43の全域に設けられる。また、絶縁層46は、好ましくは、巻線Wとステータコア41との絶縁をより確実にするため、ティース部43だけでなく、筒部42の外周面やコア端面4Fにも設けられる。本実施形態では、図2に示すように、絶縁層46が、コア端面4Fのうち筒部42の径方向内側部分を除く部分に設けられている。以下、この径方向内側部分を非被膜部47ともいう。非被膜部47は、絶縁コーティングを施す際にステータコア41を保持する部分として活用される。
【0036】
含浸軸受5は、潤滑油を含浸させた筒状の焼結体である。含浸軸受5は、図1に示すように、ブッシュ6の他端側に配置され、シャフト2を回転自在に軸支する。本実施形態の含浸軸受5は、メタルホルダ8に圧入固定されることでシャフト2に対して相対回転不能に固定される。言い換えると、シャフト2は、このような含浸軸受5に挿通されて軸支されることで、メタルホルダ8やステータ4や取付板9に対して相対回転可能に支持される。
【0037】
含浸軸受5は、例えば、円筒状をなし、その少なくとも一部(一端側の部分)がステータ4の径方向内側に配置される。なお、含浸軸受5の内周面は、シャフト2と同軸の円筒面であるが、その外形状(外周面)は、シャフト2に対して相対回転不能に固定される形状であればよく、円筒面でなくてもよい。また、含浸軸受5の外周面は軸方向に一様でなくてもよい。含浸軸受5の軸方向の端面には、流出油の吸収効率を向上させるための複数の溝が設けられていてもよい。
【0038】
シャフト2が回転すると、いわゆるポンプ作用が起こって含浸軸受5の細孔内の油が外部へと吸い出される。これにより、含浸軸受5とシャフト2との間に油膜が形成されて潤滑油や冷却油として機能するとともに、その一部が流出油として含浸軸受5の外部に流れ出る。また、流出油のうち含浸軸受5の周辺の流出油は細孔内へと吸収される。一方、シャフト2の回転が停止すると、含浸軸受5の表面に接している油が毛細管現象によって細孔に吸収される。
【0039】
ブッシュ6は、ステータ4の一端側に固定されるとともにシャフト2が挿通される筒状の部品である。ブッシュ6の中心線とシャフト2の中心線とは互いに一致する。
【0040】
ブッシュ6は、少なくとも二つの機能を有する。第一の機能は、ブッシュ6とシャフト2との間への流出油の浸入を抑制しつつ、この流出油をブッシュ6と含浸軸受5との間に溜める機能である。第二の機能は、流出油が、万が一、ブッシュ6とシャフト2との間に浸入した場合に、この流出油がモータ1から漏出することを抑制する機能である。ブッシュ6は、これらの機能を発揮する部位として、図2に示すように、固定部61と収容部64とを備える。固定部61は、第一の機能を発揮する部位であり、収容部64は、ワッシャ7とともに第二の機能を発揮する部位である。
【0041】
本実施形態のブッシュ6は、さらに、渡り線Wcとシャフト2とが干渉することを防止する第三の機能を有する。この機能を発揮する部位として、ブッシュ6には、ガイド部65が設けられる。実施形態のブッシュ6では、固定部61と収容部64とは軸方向に連設され、収容部64とガイド部65とは径方向に連設される。また、ブッシュ6は、これらの固定部61と収容部64とガイド部65とが、絶縁性の樹脂により一体で形成され、その表面に撥油処理(例えば、フッ素コーティング)が施される。
【0042】
固定部61は、ブッシュ6をステータ4に固定するための部位であるとともに、上述の通り、第一の機能を発揮する部位である。固定部61は、含浸軸受5の一端側の軸受端面5Bに対向配置される第一端面6B、及び、シャフト2の外周面2Aに対向配置される第一内周面6Aを持ち、コア内周面4Cに固定される。本実施形態の固定部61は、図5に示すように、円筒状の基部62と、基部62から径方向外側に凸設された凸部63とを有し、凸部63がコア内周面4Cに圧接されることでステータ4に対して圧入固定される。第一端面6B及び第一内周面6Aは、図2に示すように、基部62に形成される。
【0043】
基部62は、軸方向に一様な外径及び内径を持つ円筒状をなす。基部62の外周面62C(図5参照)の外径は、例えば、コア内周面4Cに内嵌可能な長さ(コア内周面4Cの外径よりも僅かに小さい長さ)に設定される。
【0044】
基部62の内径(すなわち、第一内周面6Aの内径)は、図2に示すように、シャフト2の外周面2Aとの間に僅かな隙間を形成可能な大きさに設定される。以下、この隙間を第一クリアランスCAという。第一クリアランスCAは、少なくとも、流出油の油滴の大きさよりも小さく、回転するシャフト2が第一内周面6Aに干渉しない程度に狭く設定されることが好ましい。第一クリアランスCAの大きさは、例えば、0.1mm~0.5mmに設定される。
【0045】
基部62の他端側の端面である第一端面6Bは、軸受端面5Bとの間に、第一クリアランスCAよりも大きい第二クリアランスCBをあけて軸受端面5Bに対向配置される。言い換えれば、第一端面6Bと軸受端面5Bとの間には、第一クリアランスCAよりも大きい第二クリアランスCBが設けられている。二つのクリアランスCA,CBがこのような大小関係に設定されるとともに、上述のようにブッシュ6に撥油処理が施されることで、流出油は、撥油処理された第一内周面6A及び第一端面6Bにはじかれて、第一クリアランスCAに浸入することが抑制されるとともに、第二クリアランスCBに溜まりやすくなる。これにより、ブッシュ6の第一の機能が発揮される。なお、第二クリアランスCBに溜まっている流出油は、含浸軸受5に接触すれば含浸軸受5に回収される。
【0046】
凸部63は、図5に示すように、基部62の外周面62Cから径方向外側に凸設される。外周面62Cに対する凸部63の突出量は、凸部63を含む固定部61の外径がコア内周面4Cよりもわずかに大きくなるように設定される。なお、本実施形態では、凸部63が基部62の軸方向の全域に亘って設けられているが、凸部63は、基部62の軸方向の一部に設けられていてもよい。
【0047】
また、固定部61には、複数の凸部63が設けられてよい。本実施形態では、三つの凸部63が固定部61に設けられる。三つの凸部63は、形状が同一であり、周方向に互いに離隔して(周方向に異なる位相で)設けられる。各凸部63は、ブッシュ6の圧入固定時の安定性を向上させる観点から、隣接する凸部63同士が周方向に等間隔で配置されることが好ましい。
【0048】
収容部64は、ワッシャ7を収容する部位であり、図2に示すように、固定部61の一端側において、第一内周面6Aよりも大径の第二内周面6Dを持つ部位である。本実施形態において、第二内周面6Dは、ブッシュ6の一端側の第二端面6Eから他端側に向かって形成される。
【0049】
第二内周面6Dは、その径方向内側にワッシャ7を配置可能とするため、その内径がワッシャ7の外径よりも僅かに大きく設定される。なお、本実施形態では、第二内周面6Dがコア端面4F(すなわち、ステータコア41)よりも一端側に位置しているが、第二内周面6Dは、その径方向内側にワッシャ7を配置可能であればよく、コア端面4Fよりも他端側まで延在していてもよい。
【0050】
ガイド部65は、固定部61からコア端面4Fよりも軸方向に延出されるとともに渡り線Wcが当接する部位であり、渡り線Wcをガイドすることで、上述の通り、第三の機能を発揮する。本実施形態において、ガイド部65は、収容部64の径方向外側に設けられる。つまり、本実施形態のブッシュ6の固定部61よりも一端側の部分は、収容部64とガイド部65との双方を兼ねる。
【0051】
ここで、第三の機能について詳述する。上述の通り、本実施形態のステータ4では、同相の二つのコイル45U,45V,45Wがそれぞれ、渡り線Wcにより接続される。また、同相の二つのコイル45U,45V,45Wはそれぞれ、互いにシャフト2を挟んで対向配置される。
【0052】
このため、ブッシュ6が無い状態では、図3に二点鎖線で示すように、例えばU相コイル45Uの渡り線Wcが、シャフト2の断面を通る軌跡(巻線軌道)で配索され得る。これにより、シャフト2と渡り線Wcとが接触(干渉)して、渡り線Wcが断線する虞がある。これに対して、本実施形態のモータ1では、図2及び図4に示すように、コア端面4Fよりも一端側に突設されたガイド部65により、渡り線Wcがガイドされることで、渡り線Wcの径方向内側への入り込みが抑制される。言い換えれば、ブッシュ6に設けられたガイド部65により第三の機能が発揮されて、渡り線Wcとシャフト2とのこのような干渉が防止される。
【0053】
ガイド部65は、例えば、図4に示すように、軸方向から見てその外形が円形をなす。ガイド部65は、図2に示すように、その外径が軸方向に一様かつコア内周面4Cの内径よりも大きく設定される。つまり、ガイド部65は、その径方向外側を向く外面65Cが、コア内周面4Cよりも径方向外側に位置する段付き形状である。ブッシュ6の径方向外側を向く面に着目すると、固定部61の外周面とガイド部65の外面65Cとでは、後者の方が前者よりも径方向寸法が大きいことから、固定部61とガイド部65との境界部分に段差面6F(平面)が形成される。この段差面6Fは、ガイド部65における他端側を向く円環状の平面であり、コア端面4Fに当接されてよい。これにより、ステータコア41に対するブッシュ6の位置決めが可能となる。さらに、段差面6Fがコア端面4Fに当接することで、ブッシュ6とステータコア41とが密閉される。したがって、流出油がブッシュ6の径方向外側からステータコア41の一端側に流出することが抑制される。
【0054】
ガイド部65の外径は、より好ましくは、コア端面4Fの非被膜部47の全体を覆う大きさ、或いは、非被膜部47の一部を覆う大きさであっても、外面65Cと絶縁層46との間に形成される隙間が巻線W(渡り線Wc)の外径よりも小さくなるように設定される。このようにガイド部65の外径が設定されることで、渡り線Wcを絶縁層46上に配索できる。言い換えれば、コア端面4Fに渡り線Wcが接触することを防止できるので、巻線Wとステータコア41との絶縁がより図られる。
【0055】
ところで、ガイド部65の外面65Cがコア内周面4Cよりも径方向外側に位置する場合、図4に示すように、コア内周面4Cの位置決め溝4Gが一端側から視認できなくなる。そこで、本実施形態のガイド65には、その第二端面6Eに凹状の凹部6Gが設けられている。ステータコア41へのブッシュ6の挿入時に、この凹部6Gと位置決め溝4Gとの位相を一致させた状態でブッシュ6をステータコア41に挿入することで、凹部6Gを介して間接的に位置決め溝4Gの位置が確認可能となる。なお、本実施形態では、第二端面6Eの外形をC字状とするように凹部6Gが設けられているが、凹部6Gは少なくとも一端側から視認可能なものであればよく、凹部6Gの形状はこれに限らない。
【0056】
ガイド部65の、コア端面4Fからの突出量は、少なくとも、渡り線Wcの外径よりも大きく設定される。ガイド部65には、図2及び図4に示すように、複数の渡り線Wcが軸方向に重なり合って外面65Cに当接し得る。このため、ガイド部65の突出量は、好ましくは、重なり合って配索される渡り線Wcの最大の本数(ここでは三本)分の外径の和よりも大きく設定される。
【0057】
ワッシャ7は、上述の通り、収容部64とともに上記の第二の機能を発揮する部品であり、含浸軸受5よりも一端側に設けられ、収容部64の第二内周面6Dの径方向内側に配置される。ワッシャ7は、例えば、軸方向から見て円環状をなし、中央の貫通孔にシャフト2が圧入固定されることでシャフト2と一体回転する。なお、ワッシャ7の材質には、例えば金属や樹脂が用いられる。
【0058】
ワッシャ7は、収容部64の第二内周面6Dの径方向内側に配置されることから、その外径が少なくとも第二内周面6Dの内径よりも小さく設定される。ワッシャ7の外径は、より好ましくは、第一内周面6Aの内径よりも大きく、第二内周面6Dとの間の隙間が可能な限り小さくなる(例えば、0.1mm程度となる)ように設定される。なお、ワッシャ7の軸方向の厚みは、少なくとも、ブッシュ6の第二内周面6Dの軸方向の長さよりも小さく設定される。
【0059】
モータ1では、このようなワッシャ7と収容部64とにより、第二の機能が発揮される。詳述すると、実際のモータ1の上下方向が、図1の紙面上下方向に対応する場合には、ブッシュ6とシャフト2との間に浸入した流出油が、シャフト2と一体回転するワッシャ7により飛散され、第二内周面6Dに当たることで収容部64の径方向内側に留められる。これにより、流出油がブッシュ6よりも一端側に出ていくことが抑制され、流出油がモータ1から漏出することが抑制される。加えて、収容部64の径方向内側に溜まった流出油を、重力により他端側(すなわち、含浸軸受5側)に戻すことができる。よって、含浸軸受5の含油量の低下抑制も図れる。
【0060】
なお、実際のモータ1の上下方向が、図1の紙面上下方向を逆さにした方向である場合でも、ワッシャ7と収容部64とにより第二の機能が発揮される。この場合、収容部64の内側に流出油を留めることはできない。しかし、ワッシャ7により流出油を飛散させることで、当該流出油が直接シャフト2を伝って流れて、シャフト2とロータ3との間に入り込むことを抑制できる。言い換えれば、ワッシャ7により、シャフト2に対するロータ3の固定箇所付近に流出油が溜まることが抑制されるので、流出油がモータ1から漏出することを抑制できる。
【0061】
以下、モータ1を組み立てる流れの一例について説明する。まず、はじめに、メタルホルダ8の一端側から含浸軸受5を挿入して、メタルホルダ8に対して含浸軸受5を圧入固定する。そして、このメタルホルダ8に、絶縁コーティングが施された状態であって巻線Wが巻回されていない状態のステータコア41(すなわち、図3に示す状態のステータコア41)を接着固定する。
【0062】
その後、コア内周面4Cに、撥油処理されたブッシュ6を一端側から挿入する。これにより、固定部61の凸部63がコア内周面4Cに圧接されて、ブッシュ6がステータコア41に対して圧入固定される。また、図2に示すように、含浸軸受5の軸受端面5Bとブッシュ6の第一端面6Bとが、第二クリアランスCBをあけて対向配置されることで、含浸軸受5とブッシュ6との間に流出油を溜められる空間が確保される。
【0063】
なお、この際、凸部63は、コア内周面4Cにより径方向内側に押圧されるが、この力は凸部63が周方向に膨張変形することで吸収される。このように、本実施形態では、複数の凸部63が、互いに周方向に離隔して設けられていることで、各凸部63の周方向への膨張変形が許容されるので、圧入固定によるブッシュ6の第一内周面6Aの変形を抑制できる。よって、ブッシュ6の径方向内側にシャフト2を挿入可能な空間を維持できる。また、凸部63が周方向に等間隔で設けられているので、ステータコア41に対するブッシュ6の固定をより安定させられる。
【0064】
一端側から挿入されたブッシュ6は、段差面6Fが、コア端面4Fに当接することで、ガイド部65がコア内周面4Cに入り込むことが防止されて、ブッシュ6が位置決めされる。これとともに、ブッシュ6とステータコア41とが密閉されるので、ブッシュ6の径方向外側から流出油がステータコア41の一端側に流出することが抑制される。さらに、非被膜部47がガイド部65により一端側から部分的に覆われるので、続く処理でステータコア41に巻回される巻線Wとステータコア41との絶縁が図られる。
【0065】
また、ブッシュ6をステータコア41に挿入する際、位置決め溝4Gと凹部6Gとが同位相となるようにブッシュ6が挿入されれば、図4に示すように、ブッシュ6が挿入されても、一端側からステータ4の周方向の基準位置を確認できる。よって、後続する処理で、スムーズなモータ1の組み立てが可能となる。
【0066】
次に、ブッシュ6が固定された状態のステータコア41に対して、巻線Wを巻回することで各コイル45を形成する。本実施形態では、一本の巻線Wを、各相のティース部43U,43V,43Wに順に巻き付けて六つのコイル45を形成し、その後、異なる相のコイル45U,45V,45W同士を接続する巻線Wを切断する流れで、各コイル45を形成する。このように、一本の巻線Wを切断することなく(一筆書きの要領で)巻回していくことで、作業効率を高めることができる。
【0067】
具体的には、図3に示す(a)~(f)の順で、各ティース部43に巻線Wを巻き付ける。つまり、はじめに、二つのU相ティース部43Uの一方に巻線Wを巻き付けて一つ目のU相コイル45Uを形成する〔図3中の(a)〕。そして、この巻き終わり線を渡り線Wcとして、図4に示すように、外面65Cに沿わせて配索し、他方のU相ティース部43Uに巻線Wを巻き付けることで二つ目のU相コイル45Uを形成する〔図3中の(b)〕。
【0068】
続けて、二つ目のU相コイル45Uの巻き終わり線を外面65Cに沿わせて配索し、一方のU相ティース部43Uに隣接する一方のV相ティース部43Vに巻線Wを巻き付け、一つ目のV相コイル45Vを形成する〔図3中の(c)〕。その後、この巻き終わり線を渡り線Wcとして外面65Cに沿わせて配索し、他方のV相ティース部43Vに巻線Wを巻き付けることで二つ目のV相コイル45Vを形成する〔図3中の(d)〕。さらに、同じ要領で、一つ目のW相コイル45W及び二つ目のW相コイル45Wを形成する〔同図中の(e)及び(f)〕。そして最後に、二つ目のU相コイル45U及び一つ目のV相コイル45Vと、二つ目のV相コイル45V及び一つ目のW相コイル45Wとのそれぞれを接続する巻線Wを切断する。
【0069】
そして、各相のコイル45U,45V,45Wの一端を束ねてCOM線とし、各他端を図示しない絡げピンに絡げて基板に接続するとともに、メタルホルダ8を取付板9に固定する。さらに、ロータ3及びワッシャ7が固定されたシャフト2を、ブッシュ6の一端側からブッシュ6の内孔に挿入することで、モータ1の組み立てが完了する。これにより、シャフト2の外周面2Aとブッシュ6の第一内周面6Aとの間には、図2に示すように、第二クリアランスCBよりも狭い第一クリアランスCAが形成される。また、ワッシャ7がブッシュ6の収容部64(第二内周面6Dの径方向内側)に配置される。
【0070】
なお、モータ1の組み立て手順は、少なくとも巻線Wの巻回前に、ブッシュ6がステータコア41に固定されればよく、これに限らない。例えば、ステータ4に対する含浸軸受5及びメタルホルダ8の固定は、各コイル45の形成後(すなわち、巻線Wの巻回後)に実施されてもよい。
【0071】
[2.作用,効果]
(1)上述したモータ1によれば、少なくとも第一内周面6A及び第一端面6Bに撥油処理が施されたブッシュ6の固定部61により、第一の機能を発揮することができる。つまり、シャフト2とブッシュ6との間(すなわち、第一クリアランスCA)への流出油の浸入を抑制し、流出油を含浸軸受5とブッシュ6との間(すなわち、第二クリアランスCB)に溜めることができる。よって、含浸軸受5の含油量の低減を抑制することができる。
【0072】
また、上述したモータ1によれば、ブッシュ6の収容部64とワッシャ7とにより第二の機能を発揮することができる。つまり、流出油が、ブッシュ6とシャフト2との間に浸入した場合であっても、この流出油がモータ1の外部へ漏出することを抑制することができる。よって、含浸軸受5の含油量の低減を抑制しつつ、流出油が十分に回収されなかった場合であってもモータ1の外部への油の漏出を抑制することができる。
【0073】
(2)上述したモータ1では、絶縁コーティングにより形成された絶縁層46により、ステータコア41とコイル45とが絶縁される。このように、従来のインシュレータを設ける構成に代えて、ステータコア41とコイル45との絶縁方法を絶縁コーティングとすることで、隣り合うティース部43同士の間の空間を大きく確保することができる。よって、線積を拡大することができるので、モータ1の性能を高められる。さらには、インシュレータが不要なので、部品点数を削減でき、モータ1の構成を簡素にできる。
【0074】
加えて、上述したモータ1によれば、ブッシュ6に設けられたガイド部65により第三の機能を発揮することができる。つまり、ブッシュ6のガイド部65に、シャフト2と干渉し得る渡り線Wcを当接させて配索できるので、シャフト2と渡り線Wcとの接触(干渉)を防止できる。よって、渡り線Wcの断線を防止でき、モータ1の性能を高められる。
【0075】
(3)上述したモータ1において、ブッシュ6は、ガイド部65の外面65Cがコア内周面4Cよりも径方向外側に位置する段付き形状とされる。これにより、ガイド部65がコア内周面4Cに入り込むことを防止できる。よって、シャフト2と渡り線Wcとの接触をより防止できるとともに、ブッシュ6の位置決めができる。また、絶縁コーティングされない非被膜部47があったとしても、ガイド部65により非被膜部47と渡り線Wcとの接触も抑制できるので、絶縁性能を確保できる。さらに、段差面6Fがコア端面4Fに当接することで、ブッシュ6とステータコア41とが密閉されるので、ブッシュ6の径方向外側から流出油が流出することを抑制できる。延いては、含浸軸受5の含油量の低減を抑制することができる。
【0076】
(4)上述したモータ1では、ステータコア41のコア内周面4Cに位置決め溝4Gが設けられるとともに、ブッシュ6の第二端面6Eに凹部6Gが設けられる。これにより、モータ1の組み立て時に、位置決め溝4Gと凹部6Gとの位相を合わせてブッシュ6をステータコア41に組付けることで、凹部6Gを介して間接的に位置決め溝4Gの位置を確認することができる。よって、モータ1の組付け作業の作業性を向上できる。
【0077】
(5)上述したモータ1では、ステータ4が六つのティース部43を有する。ティース部43が六つの場合、上述の通り、同相のコイル45U,45V,45Wが互いにシャフト2を挟んで対向配置される。このため、ブッシュ6が無い状態では、渡り線Wcがステータコア41の径方向内側に入り込み易くなる。しかし、上述したモータ1では、渡り線Wcのこのような径方向内側への入り込みがガイド部65によって阻害されるので、渡り線Wcとシャフト2との干渉を防止できる。
【0078】
(6)上述したモータ1では、基部62及び凸部63を有する固定部61がコア内周面4Cに圧入固定されることで、ブッシュ6がステータコア41に固定される。このように、ステータコア41へのブッシュ6の固定を圧入とすることで、当該固定に係る工数を削減することができる。また、基部62自体を圧入するのではなく凸部63を設けることで、圧入固定時の基部62の変形を抑制できる。よって、ステータコア41に固定されたブッシュ6の径方向内側に、シャフト2を挿入可能な空間を維持できる。
【0079】
(7)上述したモータ1では、三つの凸部63が周方向に互いに離隔して設けられる。これにより、ステータコア41へのブッシュ6の挿入時に軸中心を出しやすくすることができる。また、三つの凸部63が周方向に互いに離隔して設けられることで、圧入時における各凸部63の周方向への膨張変形が許容される。よって、ステータコア41に固定されたブッシュ6の径方向内側に、シャフト2を挿入可能な空間を維持できる。
【0080】
[3.その他]
上述したモータ1は一例であり、上述した構成に限られない。モータ1には、ワッシャ7に加えて、シャフト2と一体回転する第二のワッシャが第二クリアランスCBに設けられてよい。このような第二のワッシャを設けることで、流出油が、直接的にシャフト2を伝って、第一クリアランスCAに流れつくことを抑制できる。よって、第一クリアランスCAへの流出油の浸入をより抑制できる。また、第二クリアランスCBに溜まった流出油を第二のワッシャにより飛散させて、含浸軸受5に戻すことができるので、油の循環機能をより向上させることができる。
【0081】
ブッシュ6には、少なくとも、固定部61と収容部64とが設けられていればよく、ガイド部65は省略されてもよいし、ガイド部65を設ける場合であっても、収容部64の径方向外側ではなく収容部64の軸方向の一端側に連設されてもよい。ガイド部65が設けられない場合、収容部64は、ステータコア41の径方向内側に配置されてもよい。つまり、ブッシュ6は、その全体がステータコア41の径方向内側に配置されるものであってもよい。また、ブッシュ6に施される撥油処理は、少なくとも、第一内周面6A及び第一端面6Bに施されていればよく、ブッシュ6の全体に施されていなくてもよい。
【0082】
固定部61は、少なくとも、第一内周面6A及び第一端面6Bを持ち、コア内周面4Cに固定される形状であればよい。また、収容部64は、少なくとも、固定部61の一端側において第二内周面6Dを持つ形状であればよい。第一内周面6Aは、少なくとも、その他端側(第一端面6Bとの接続部分付近)においてシャフト2の外周面2Aとの間に第一クリアランス6Aを形成できればよい。また、第二内周面6Dは、少なくとも、第一内周面6Aよりも大径であって、その径方向内側にワッシャ7を配置可能な形状であればよい。このため、第一内周面6A及び第二内周面6Dのそれぞれの径は、軸方向に一様でなくてもよい。第一内周面6A及び第二内周面6Dは、例えば、一端側に拡径するテーパ形状をなしていてもよい。この場合、実際のモータ1によっては、ブッシュ6内に溜まった流出油を他端側(すなわち、含浸軸受5側)に再度戻すことができる。
【0083】
基部62及び凸部63を有する固定部61に代えて、固定部は、例えば、軸方向から見て多角形状の外形をなす筒状(角筒状)であってもよい。この場合、ステータコア41へのブッシュ6の圧入固定時には、固定部の角がコア内周面4Cに圧接されて変形することで、第一内周面6Aの変形を抑制できる。また、ステータ4に対するブッシュ6の固定方法は圧入固定でなくてもよく、例えば、接着固定であってもよい。
【0084】
凸部63の数も、三つに限らず、例えば、三つよりも多く設けられていてもよい。ステータコア41へのブッシュ6の固定時に軸中心を出すことが不要な場合には、凸部63の数は、三つ未満であってもよい。また、凸部63の形状も上述のものに限らない。凸部は、例えば、基部62の周方向に沿って延設されていてもよい。この際、凸部は、複数設けられていてもよい。この場合、複数の凸部を軸方向に互いに離隔して設ければ、圧入固定時に凸部の軸方向への変形が許容されるので、ブッシュの内孔の変形を抑制できる。
【0085】
ガイド部65は、少なくとも固定部61からコア端面4Fよりも軸方向に延出されて渡り線Wcが当接するものであればよく、軸方向から見た外形が円形でなくてもよい。ガイド部65の外形は、例えば、多角形状であってよい。また、ガイド部65の外面65Cは、コア内周面4Cよりも径方向外側に位置していなくてもよい。つまり、ブッシュ6は、段付き形状でなくてもよい。この場合、ブッシュ6の径方向外側からの流出油の流出抑制を図るため、固定部61は、その外周面の周方向の全域がコア内周面4Cに当接するように固定されることが好ましい。また、この場合、凹部6Gは省略されてよい。
【0086】
ステータ4のティース部43の数は、六つでなくてもよい。ステータ4に設けられる絶縁層46は、コア端面4Cの全域を覆ってもよい。隣り合うティース部43同士の間の空間が広い場合には、ステータ4には、従来のステータに設けられるインシュレータが設けられてもよい。この場合、絶縁層46は省略されてもよい。コア内周面4Cには、位置決め溝4Gが設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 モータ(アウターロータ型ブラシレスモータ)
2 シャフト
2A 外周面
3 ロータ
4 ステータ
4C コア内周面
4F コア端面
4G 位置決め溝
5 含浸軸受
5B 軸受端面
6 ブッシュ
6A 第一内周面
6B 第一端面
6D 第二内周面
6E 第二端面
6F 段差面(平面)
6G 凹部
7 ワッシャ
41 ステータコア
42 筒部
43 ティース部
45 コイル
46 絶縁層
61 固定部
62 基部
62C 外周面
63 凸部
64 収容部
65 ガイド部
65C 外面
CA 第一クリアランス
CB 第二クリアランス
W 巻線
Wc 渡り線
【要約】
アウターロータ型ブラシレスモータ(1)は、シャフト(2)と、ロータと、ステータ(4)と、ステータ(4)の一端側に固定された筒状のブッシュ(6)と、ブッシュ(6)の他端側に配置された含浸軸受(5)と、シャフト(2)と一体回転するワッシャ(7)と、を具備する。ブッシュ(6)は、軸受端面(5B)に対向配置される第一端面(6B)、及び、第一クリアランス(CA)をあけて外周面(2A)に対向配置される第一内周面(6A)を持つとともにコア内周面(4C)に固定される固定部(61)と、固定部(61)の一端側において、第一内周面(6A)よりも大径の第二内周面(6D)を持つ収容部(64)と、を備え、その表面には撥油処理が施される。ワッシャ(7)は、第二内周面(6D)の径方向内側に配置される。軸受端面(5B)と第一端面(6B)との間には、第一クリアランス(CA)よりも大きい第二クリアランス(CB)が設けられる。
図1
図2
図3
図4
図5