(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】熱交換器及びそれを備えた空気調和装置
(51)【国際特許分類】
F28F 19/06 20060101AFI20240226BHJP
F28F 19/04 20060101ALI20240226BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
F28F19/06 B
F28F19/04 Z
F28F19/06 A
F28F21/08 B
(21)【出願番号】P 2019188327
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】広田 正宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲昭
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0033534(US,A1)
【文献】特開2015-224330(JP,A)
【文献】特許第6407466(JP,B1)
【文献】特開2015-078789(JP,A)
【文献】特開2005-147588(JP,A)
【文献】特開平11-304395(JP,A)
【文献】特開2008-014571(JP,A)
【文献】特開2014-208905(JP,A)
【文献】特開2006-125659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/00-19/06,21/00-21/08,
3/00- 3/14
F28D 1/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製の熱交換器であって、前記熱交換器の表面の一部に一層のエポキシ系塗膜
を有し、該塗膜の厚さが10~50μmの範囲内であり、該塗膜に紫外線が直接照射しないよう箱体内に設置され、前記エポキシ系塗膜に、結露水環境や塩水環境においてアルミニウムより電位が卑な金属粉末を含有
し、前記熱交換器がアルミ管またはブレージングシートで構成されており、前記アルミ管はアルミニウム合金製であり、前記アルミ管の表面に、亜鉛(Zn)または亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からなる犠牲陽極材層を備え、前記ブレージングシートはアルミニウム合金製の心材と、該心材の片面もしくは両方の面に被覆され、亜鉛(Zn)または亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からなる犠牲陽極材層とを備え、前記ブレージングシート同士の接合部が冷媒流路の一部を形成したことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記エポキシ系塗膜に亜鉛粉末を含有する請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記塗膜が非通風部に設置されていることを特徴とする請求項1から2のいずれか1項に
記載の熱交換器。
【請求項4】
前記塗膜の劣化に伴う生成物が、前記熱交換器の動作時に生ずる結露水により除去される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記熱交換器はブレージングシートで構成され、該ブレージングシートはアルミニウム合
金製の心材と、当該心材の片面もしくは両方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からなる犠牲陽極材層とを備えるこ とを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記
犠牲陽極材層を含む接合部に、前記塗膜を施した請求項5に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記
犠牲陽極材層を含む接合部に、前記塗膜を施した
請求項1に記載の熱交換器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱交換器を具備した空気調和装置であって、前記熱
交換器から生ずる結露水を受ける排水受けを備え、前記排水受けの鉛直直上に前記
塗膜
を設けた空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器を構成する部材に用いられるブレージングシートと、当該ブレージングシート同士を接合する接合構造と、当該接合構造を有する熱交換器と、に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な熱交換器は、通常、管およびフィンを備えており、管の外周に複数のフィンが取り付けられた構成を有している。管の材料としては、銅(Cu)またはその合金(便宜上「銅材」と称する)が用いられてきたが、近年ではアルミニウム(Al)またはその合金(アルミニウム材)も用いられている。フィンの材料としては、一般的にはアルミニウム材が用いられている。
【0003】
熱交換器の製造に際して、管にフィンを取り付けるためには、一般的にはろう材による接合が用いられる。管およびフィンのいずれもアルミニウム材製であれば、例えば、アルミニウム合金製の心材の少なくとも一方の面にろう材層がクラッド(被覆)されたブレージングシートが用いられる。管およびフィンの防食性を考慮すれば、心材の一方の面にろう材がクラッドされ他方の面に犠牲陽極材層がクラッドされたブレージングシートが用いられる。
【0004】
ろう材としては、一般的には、アルミニウム合金のろう付けに用いられるアルミニウム-シリコン(Si)系合金が用いられ、犠牲陽極材としては、その電位を卑とするために、一般的にはアルミニウム合金に亜鉛(Zn)を添加したものが用いられる。代表的な犠牲陽極材としては、一般的なアルミニウム-シリコン系合金のろう材に亜鉛を添加したものが挙げられる。これにより、犠牲陽極材がろう材としても機能することになる。
【0005】
犠牲陽極材層がクラッドされたブレージングシートの一例としては、例えば、特許文献1に開示されるものが知られている。特許文献1は、自動車用熱交換器、特に流体(冷却水または冷媒等)の通路構成材に使用されるアルミニウム合金ブレージングシートを開示しており、良好なろう付け性と、ろう付け後の優れた強度および耐食性を実現するために、心材および犠牲陽極材の成分を調整している。
【0006】
このブレージングシートでは、犠牲陽極材において、シリコン、鉄(Fe)およびマンガン(Mn)の含有量を0.15質量%以下に規制している。これは、Al-Mn-Si系またはAl-Fe-Mn-Si系の化合物の生成を抑制し、ろう付け後の強度低下を抑制するためである。また、このブレージングシートでは、心材においてもシリコンの含有量を0.15質量%以下に規制するとともに、心材には銅が0.40~1.2重量%の範囲内で添加されている。銅を添加する理由は、心材の強度向上とともに、心材の電位を貴にして犠牲陽極層等との電位差を大きくし、犠牲陽極作用による防食効果を向上させるためである。
【0007】
また、犠牲陽極材層がクラッドされたブレージングシートの他の例としては、例えば、特許文献2に開示されるものが知られている。特許文献2も、自動車用熱交換器、特に流体の通路構成材に使用されるアルミニウム合金ブレージングシートを開示しており、両面に犠牲防食効果を備え、かつ、その片面にろう付機能を有し、さらに接合部の優先腐食を防止するために、心材および犠牲陽極材だけでなくろう材の成分も調整している。
【0008】
このブレージングシートでは、犠牲陽極材だけでなくろう材にも亜鉛(Zn)が添加されているとともに、ろう材にはさらに銅が0.1~0.6mass%の範囲内で添加されており、心材にも銅が0.05~1.2mass%の範囲内で添加されている。それぞれの材料に対する銅の添加目的は異なっており、ろう材については、当該ろう材の電位を貴にするためであり、心材については、当該心材の強度を向上させるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-163674号公報
【文献】特開2013-155404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示のブレージングシートでは、心材への銅の添加により強度向上と犠牲陽極作用による防食効果の向上とを図っている。しかしながら、このブレージングシートでは、犠牲陽極材および心材のいずれもシリコンの含有量を0.15質量%以下に制限している上に、心材については、銅以外の種々の金属元素の含有量についても細かく特定されている。そのため、心材および犠牲陽極材として用いることが可能な材料の選択肢の幅が小さくなってしまう。しかも、このブレージングシートでは、犠牲陽極材のシリコンの含有量をごく少量に規制している。そのため、この犠牲陽極材層は、一般的なろう材としての機能を有さないと考えられる。
【0011】
特許文献2に開示のブレージングシートでは、ろう材に亜鉛とともに銅を添加することで、ろう付けの接合部に亜鉛が濃縮されるだけでなく銅も同様に濃縮される。そのため、この銅の濃縮(含有)により当該接合部の電位が亜鉛により卑化し過ぎることの防止を図っている。しかしながら、銅と亜鉛とを併用すると、犠牲陽極材層の優先腐食作用が低減して耐食性の低下が生じる。
【0012】
例えば、熱交換器の種類によっては、ブレージングシート同士を互いに接合したときに、それぞれの接合面により形成される角度が鋭角となるような構造が含まれる。便宜上、このような構造を「鋭角接合構造」とし、ブレージングシートの接合面に隣接して接合されない面を「非接合隣接面」とすると、このような鋭角接合構造では、互いに鋭角を成す非接合隣接面の間にフィレットが形成される。このフィレットは、本明細書では、接合時に接合面から流出したろう材または犠牲陽極材が固化したものとして定義する。
【0013】
特許文献2のように銅と亜鉛とを併用した場合、フィレットには、前記の通り、電位を卑とする亜鉛と電位を貴とする銅とが共存することになる。犠牲陽極材層が予め銅を含有する構成であれば、フィレットにおいては、銅により電位が貴化し過ぎて亜鉛による犠牲陽極作用が低減し、フィレットの耐食性が低下するおそれがある。この場合、フィレットから接合部に腐食が進行して接合部の接合強度の低下を招く可能性がある。
【0014】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、ブレージングシート同士の接合部に隣接して生じるフィレットが亜鉛のみ、もしくは銅および亜鉛を含有する場合であっても、当該フィレットの優先腐食を有効に抑制または防止し、熱交換器の耐食性を良好なものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る熱交換器は、前記の課題を解決するために、ブレージングシート同士の接合部を保護するため、接合部をヘッダー部に集中させ、当該接合部よりも電位が卑である金属粒子を含有するエポキシ系塗料を当該箇所およびその周囲のみに上塗りした構成である。さらには、前記熱交換器を備えた空気調和装置として、熱交換器の塗膜を保護するため、紫外線が侵入しないよう箱体内に熱交換器を設置し、熱交換を促進するため前記箱体内に送風ファンを備え、経年劣化による剥離塗膜や腐食生成物が前記送風により空気調和の目的とする空間に排出されないよう前記塗装部が非通風部となるよう熱交換器を配置し、その直下に排水受けを設けた構成である。
【0016】
前記構成によれば、電位が相対的に卑であるブレージングシート同士の接合部が、さらに卑である金属粒子の犠牲陽極作用によって保護される。また、塗装部にはアルミニウム材との良好な密着性を有するエポキシ系塗料を用い、その欠点である耐候性を構造的に保護することで塗膜の劣化や剥離を抑制している。その結果、フィレットから接合部に腐食が進行して接合部の接合強度の低下を招くおそれを有効に抑制または防止することができるので、熱交換器の接合部における耐食性をより一層良好なものとすることができる。さらには、前記塗膜の剥離物や前記金属粒子由来の腐食生成物を前記熱交換器の運転時に生ずる結露水で洗い流すことで、それらの飛散による周囲の環境汚染を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、以上の構成により、ブレージングシート同士の接合部に隣接して生じるフィレットの電位がその周囲よりも卑な場合であっても、当該フィレットの優先腐食を簡便かつ有効に抑制または防止し、熱交換器の耐食性を良好なものとすることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(A)は、本発明の代表的な実施の形態に係るブレージングシートの概略構成を示す模式的断面図であり、(B)は、本発明の代表的な実施の形態に係るブレージングシートの接合構造の概略構成を示す模式的断面図である。
【
図2】(A)は、
図1に示すブレージングシートを用いて構成されるプレートフィン積層型熱交換器のヘッダーの一例を示す模式的断面図であり、(B)は(A)に示すヘッダーが有するブレージングシートの接合構造を拡大した模式的部分断面図である。
【
図3】(A)は、
図1に示すブレージングシートを用いて構成されるパラレルフローコンデンサ(PFC)の一例を示す模式的部分断面図であり、(B)は、(A)に示すPFCが有するブレージングシートの接合構造を拡大した模式的部分断面図である。
【
図4】
図2に示すヘッダーに対しディッピング塗装を施したプレートフィン積層型熱交換器を空気調和装置内に設置した概略構成を示す模式的断面図である。
【
図5】エピクロルヒドリン・ビスフェノールA型樹脂の分子構造である。
【
図6】(A)~(D)は、実施例または比較例に係るブレージングシートまたは熱交換器に設置した塗膜の耐食性試験結果を示す図である。
【
図7】(A)~(C)は、実施例または比較例に係るブレージングシートに設置した塗膜の耐食性試験後の密着性試験結果を示す図である。
【
図8】(A)~(C)は、実施例または比較例に係るブレージングシートに設置した塗膜の耐湿性試験後の密着性試験結果を示す図である。
【
図9】本発明に係る塗膜の厚みと密着性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る熱交換器は、前記の課題を解決するために、ブレージングシート同士の接合部を保護するため、接合部をヘッダー部に集中させ、当該接合部よりも電位が卑である金属粒子を含有するエポキシ系塗料を当該箇所およびその周囲のみに上塗りした構成である。
【0020】
なお、ここで電位の評価方法は特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。代表的には、ポテンショスタット/ガルバノスタットに、電位測定用の試料(例えば、ブレージングシート10、もしくは、心材11、ろう材、犠牲陽極材、フィレット22または接合部21、あるいはこれらを模擬した組成の合金等)と、対極と、参照電極(例えば銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極)とを接続して電解液(例えば5重量&の塩化ナトリウム(NaCl)溶液)に浸漬し、試料と参照電極との電位差を測定する方法を挙げることができる。
【0021】
防食塗装としては一般的に、アルミニウム材との好適な密着強度が得られるエポキシ系塗料を下塗りとし、下塗り塗膜を紫外線から保護する目的でウレタン系等の塗料を上塗りとする複数層の構成を用いるが、2コート目以降はコスト抑制・環境保護の観点から望ましくない。発明者らの検討の結果、塗装部への紫外線の侵入を十分抑制する構造であれば、熱交換器として十分な耐食寿命の向上が図れることが明らかとなった。また、塗装の必要がある接合部をヘッダー部に集中させることで、例えばディップ塗装により複雑な形状でも一度に塗装可能で、より簡便に熱交換器を生産でき、環境への負荷も低減することが可能である。また、ヘッダー部であれば、熱交換効率がフィン部や伝熱管部に比べて良くないため、そこを相対的な非通風部とすることにより効率低下を最小限にすることができる。
【0022】
また、ヘッダー部が熱交換器の鉛直最下部に位置するよう熱交換器を設置する構成では、その運転時に生ずる結露水により、剥離塗膜や腐食生成物の洗い流しをより確実なものとできる。その結果、剥離塗膜や腐食生成物の飛散を有効に抑制または防止することができる。
【0023】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下ではすべての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0024】
(実施の形態1)
[ブレージングシート]
本開示に係るブレージングシートは、熱交換器に用いられるアルミニウム合金製である。具体的には、例えば、
図1(A)に示すように、本開示に係るブレージングシート10は、心材11、ろう材層12、および犠牲陽極材層13を備えている。ろう材層12は、心材11の一方の面に被覆(クラッド)され、犠牲陽極材層13は心材11の他方の面すなわちろう材層12が被覆されている面とは反対側の面に被覆されている。心材11、ろう材層12を構成するろう材、および、犠牲陽極材層13を構成する犠牲陽極材はいずれもアルミニウム合金である。
【0025】
あるいは図示しないが、本開示に係るブレージングシート10は、心材11および犠牲陽極材層13を備え、ろう材層12を備えていない構成でもよい。このようなブレージングシート10では、心材11の両方の面に犠牲陽極材層13が形成されている。
【0026】
本開示に係るブレージングシート10は、少なくとも犠牲陽極材層13の側に接合面を有しており、この接合面同士を互いに接合することで接合部を形成する。ブレージングシート10同士を接合面で接合した構造が、本開示に係るブレージングシート10の接合構造である。本開示に係るブレージングシート10は、接合面に隣接する非接合隣接面を有する。ブレージングシート10同士を接合して接合構造を形成したときには、それぞれの非接合隣接面により形成される角度は鋭角となっている。
【0027】
本開示に係る接合構造20では、ブレージングシート10同士を接合して接合部21を構成したときに、
図1(B)に示すように、非接合隣接面10b同士の間にフィレット22が形成される。熱交換器には、このようなフィレット22が形成される部材または構造等を含んでおり、このような部材または構造等においては、非接合隣接面10b同士が鋭角を成していることが多い。このフィレット22は、本実施の形態では、接合時に接合面10aから流出したろう材(または犠牲陽極材)が固化したものとして定義される。
【0028】
本開示では、ブレージングシート10を用いた熱交換器において、このフィレット22が優先的に腐食することを有効に抑制または回避するものである。
【0029】
本開示に係るブレージングシート10では、接合面10aが少なくとも犠牲陽極材層13の上に設定されていればよい。したがって、後述するように、犠牲陽極材はろう材を兼ねている。すなわち、犠牲陽極材層13は、接合時にはろう材としてブレージングシート10同士の接合に寄与し、接合後には犠牲陽極材としてブレージングシート10の防食効果に寄与する。
【0030】
本開示に係るブレージングシート10では、接合面10aに隣接して非接合隣接面10bが設定されている。それゆえ、非接合隣接面10bも接合面10aと同様に犠牲陽極材層13である。
【0031】
本開示に係るブレージングシート10の接合構造20においては、
図1(B)においてブロック矢印C1およびC2に示す方向に腐食が進行する可能性がある。ブロック矢印C1の方向は、非接合隣接面10b(および接合面10aに隣接しない非接合面)から心材11の方向に対して進行する腐食方向であり、ブロック矢印C2の方向は、フィレット22を含む接合部21において、接合面10aの方向に沿って進行する腐食方向である。
【0032】
このうち、腐食方向C1に進行する腐食は、犠牲陽極材層13による犠牲陽極作用によって抑制(回避または防止)されるが、腐食方向C2に進行する腐食は、フィレット22に亜鉛が濃縮されることで、当該フィレット22を含む接合部21の電位が卑化され過ぎて進行するおそれがある。本開示に係るブレージングシート10では、接合面10aとフィレット22に対し、エポキシ系塗膜14を表面に設置することにより、腐食方向C2の腐食を有効に抑制(回避または防止)することができる。
【0033】
[ブレージングシートの接合構造および熱交換器]
本開示に係るブレージングシート10は、前記の通り熱交換器の製造に特に好適に用いることができる。本開示に係るブレージングシート10を熱交換器に適用した場合に形成される接合構造20は、前述したように、
図1(B)に例示するような構造であるが、より具体的には、
図2(A),(B)に示すような構造を有するプレートフィン積層型熱交換器、
図3(A),(B)に示すような構造を有するパラレルフローコンデンサ(PFC)を挙げることができる。
【0034】
プレートフィン積層型熱交換器は、図示しないが、第1流体である冷媒が流れる流路を有するプレートフィン積層体において、各プレートフィン積層間に第2流体である空気を流して、これら第1流体および第2流体との間で熱交換を行うものである。この熱交換器が備えるプレートフィンは、第1流体が並行に流れる複数の第1流体流路を有する流路領域と、この流路領域における各第1流体流路に連通するヘッダー流路を有するヘッダー領域と、を備えている。
【0035】
プレートフィン積層型熱交換器では、プレートフィン積層体の積層方向の両側に、当該プレートフィンと平面視が略同一形状のエンドプレートが設けられており、これら一対のエンドプレートとこれらの間に介在する複数のプレートフィンとは、積層された状態でろう付けにより接合されて一体化している。
図2(A)は、このプレートフィン積層体30におけるヘッダー部分の概略構造を部分断面として示しており、図中最上部に位置するエンドプレート31に対して複数のプレートフィン32が積層されている。
【0036】
エンドプレート31およびプレートフィン32には、それぞれ開口部が設けられており、これらプレートが積層されてプレートフィン積層体30を形成することにより、ヘッダー開口33が形成される。
図2(A)に示す構成では、ヘッダー開口33の外側から図中ブロック矢印で示す方向に第1流体である冷媒が流入し、さらにプレートフィン32の間に冷媒が流入する。各プレートフィン32には、前記の通り、第1流体流路が設けられているので、プレートフィン32の間に流入した冷媒は、第1流体流路を流れる。また、第2流体である空気は、プレートフィン32の間に形成される空間を、冷媒の流れる方向(第1流体流路の方向)に交差するように流れる。これにより、空気が冷媒により冷却される。
【0037】
図2(B)は、
図2(A)に示すプレートフィン積層体30の部分拡大図であり、本開示に係るブレージングシート10の接合構造20の一例を模式的に示す。
図2(A),(B)に示す例では、プレートフィン32が本開示に係るブレージングシート10であり、本開示に係る接合構造20は、ヘッダー開口33側に位置する接合部21である。
図2(B)では、ブレージングシート10であるプレートフィン32について、犠牲陽極材層13をハッチングで強調して図示するとともに、フィレット22もハッチングで強調して図示している。
【0038】
ヘッダー開口33側の接合部21では、プレートフィン32の接合面10a同士が接合されており、この接合面10aに隣接する非接合隣接面10bの間にフィレット22が形成されている。本開示では、接合面10aおよびフィレット22の表面にエポキシ系塗膜14を設置している。これにより接合部21の優先腐食が良好に抑制(回避または防止)されるので、プレートフィン積層型熱交換器の耐食寿命を向上することができる。
【0039】
このようなプレートフィン積層型熱交換器の具体的な構成例としては、例えば、特開2017-180856号公報、特開2018-066531号公報、特開2018-066532号公報、特開2018-066533号公報、特開2018-066534号公報、特開2018-066535号公報、特開2018-066536号公報等に記載されており、これら公開公報の記載内容は、本明細書で参照することにより本明細書の記載の一部とする。
【0040】
パラレルフローコンデンサ(PFC)は、カーエアコン(自動車用空気調和装置)用に広く用いられる熱交換器であり、一対のヘッダー管の間に複数の扁平管が配置され、これら扁平管の間に放熱用のコルゲートフィンが配置されている。これらヘッダー管、扁平管、コルゲートフィン等がろう付けにより接合されている。
図3(A)は、このPFC40におけるヘッダー管41と扁平管42との連結部分の概略構造を部分断面として示している。扁平管42の間にはコルゲートフィン43が設けられ、これらもろう付けにより接合されているが、本開示に係る接合構造20は、
図3(B)に拡大図示するように、ヘッダー管41と扁平管42との連結部分である。
【0041】
図3(B)に示す例では、ヘッダー管41および扁平管42がいずれもブレージングシート10であり、ヘッダー管41および扁平管42については、犠牲陽極材層13をハッチングで強調して図示している。また、フィレット22もハッチングで強調して図示している。扁平管42の犠牲陽極材層13は平坦であるため、接合面10aと非接合隣接面10bとは連続した単一面(犠牲陽極材層13の面)において異なる領域として設定される。したがって、扁平管42は、ブレージングシート10としては、曲げ部を有さないような平坦な形状のものである。
【0042】
ヘッダー管41は、扁平管42を貫通挿入するための開口部を有しており、この開口部に接合面10aおよび非接合隣接面10bが設けられている。
図3(B)では、ヘッダー管41の接合面10aは、扁平管42の接合面10a(外面)と平行になるような面として図示しているが、これに限定されず、扁平管42の外面に平行にならない面であってもよい。ヘッダー管41の開口部は、ブレージングシート10としては、1段階の曲げ部を有する形状のものである。
【0043】
図3(B)に示す接合構造20では、ヘッダー管41の接合面10aに隣接する非接合隣接面10bと、扁平管42の接合面10aに隣接する非接合隣接面10bとの間に、フィレット22が形成されている。本開示では、フィレット22の表面にエポキシ系塗膜14を設置している。これにより接合部21の優先腐食が良好に抑制(回避または防止)されるので、PFCの耐食寿命を向上することができる。
【0044】
このようなブレージングシート10の接合構造20の製造方法は特に限定されず、公知のろう付け方法等を好適に用いることができる。例えば、ブレージングシート10の接合面10aに対して公知のフラックスを塗布し、その後、窒素雰囲気炉において例えば600℃程度の温度で加熱する方法が挙げられる。
【0045】
[熱交換器の設置形態]
前述したプレートフィン積層型熱交換器またはPFCを空気調和装置に設置する形態について、一例を
図4に示す。箱体56内に熱交換器51及び送風ファン53を設置し、熱交換器51の一部には前述したエポキシ系塗膜設置部52が存在する。この部分は、熱交換器51のヘッダー部に相当する。また、熱交換器51から運転時に発生した結露水は、排水受け55によって受けられ、箱体56外に排出される。前述した第2流体である空気の風路は図中のブロック矢印で示しており、送風ファン53によって吸い込まれた流体は、エアフィルター54を通り、熱交換器51によって熱交換され、箱体56外へ排出される。このとき、エポキシ系塗膜設置部52は風路の一部を構成するが、排水受け55によって風路が部分的に遮断されているため、その風量は熱交換器51における塗膜の非設置部に対し小さくなっている。このように風路が相対的に遮断されている部分を便宜上、非通風部と呼ぶ。
【0046】
このような構造において、エポキシ系塗膜設置部52に着眼すると、箱体56外からの紫外線は箱体56によってさえぎられるため、実質的に紫外線の影響を受けない。そのため、塗膜の紫外線劣化が抑制され、寿命が長くなるという効果を奏する。また、塗膜の劣化に伴う剥離塗膜や腐食生成物は、エポキシ系塗膜設置部52が非通風部であるがゆえに、熱交換器51から発生する結露水によってほぼ確実に洗い流され、排水受け55に受けられ結露水とともに箱体外に排出される。そのため、空気調和を目的とする環境中に前記生成物が飛散することなく熱交換を実施できる。
【0047】
[エポキシ系塗料]
本開示に係るエポキシ系塗料のエポキシ系とは、末端にエポキシ基を持ち、開環反応によって生成するもので、エピクロロヒドリンとフェノール、アルコール、アルデヒド、エステル、アミン、脂肪酸、イソシアネートのうちいずれか(複数でも可)との反応生成物のことを指す。分子量については特に規定しない。
【0048】
図5に代表的なエポキシ系樹脂であるエピクロルヒドリン・ビスフェノールA型樹脂の分子構造を示す。エピクロルヒドリン・ビスフェノールA型樹脂は両端に反応性の高いエポキシ基をもち、剛直なビスフェノール核を骨格とし、可とう性の良いエーテル基でつながっており、また、密着性に寄与する水酸基が適度な間隔で配置される構造を持っている。そのため、多様な架橋反応を利用して、良好な密着性、耐薬品性、耐水性、電気絶縁性を示す。塗装の対象となるアルミニウムの下地は緻密かつ平滑な酸化被膜で覆われており、一般的にクロメート処理やブラスト処理などの下地処理無しで好適な密着性は得られないが、エポキシ系塗料であれば前記理由により下地処理無しで本熱交換器の防錆目的に耐えうる密着性を有する。そのため、塗装工程を簡略化できうる。
【0049】
また、本エポキシ系塗料に対し、耐食性向上を目的に酸化亜鉛や亜鉛粉末等の純水もしくは塩水環境下でアルミニウムより電位が卑な金属粉末を含有することが望ましい。亜鉛以外でも鉛やインジウム等で代替可能であるが、環境保護やコスト抑制の観点から亜鉛及びその合金(例えば、アルミニウムと亜鉛の合金)が望ましい。添加量については特に規定しないが、犠牲陽極作用が十分に得られるよう設定する。粉末の粒子径についても特に規定しないが、塗料として均一に分散するよう数μm以下のオーダーにすることが望ましい。
【0050】
希釈溶剤としては、前記エポキシ系塗料成分との相溶性の高いものを選択する。代表的なものとして、エチルベンゼン、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。希釈倍率によって塗料の粘度が変わり、その結果塗装後の塗膜の厚みが変化するため、所望の塗膜厚みとなるよう希釈溶剤の量を調整する。
【0051】
その他エポキシ系塗料の耐久性を向上させる成分、例えばエポキシ系塗料の欠点である脆弱な耐候性(耐紫外線)を補うため種々の耐候剤を添加しても良いが、本発明においては構造的な対策を実施するため添加せずとも良い。
【0052】
[塗膜の厚み]
塗膜が厚い場合、塗膜中の金属粒子の存在量が多いため犠牲陽極作用が長期間作用し、また塗膜中の酸素や水の透過を有効に抑制することにより周囲環境との遮断能力が向上するという利点があるが、熱交換器の運転等に伴う熱膨張により、塗膜内部およびアルミニウム材との密着面への応力負荷がかかり、容易に塗膜が剥離し、熱交換器の耐食寿命向上の効果を著しく損なう。またヘッダー部に、温度の異なる流体間の断熱を目的とした微小空間を設けている場合は、その空間を塗膜で埋めることにより熱交換器としての性能を著しく低下させる恐れがある。さらには、使用する塗料の量が増えることによるコスト増となる。
【0053】
塗膜が薄い場合、前記欠点は解消されるものの、塗膜中の金属粒子の存在量が少ないため犠牲陽極作用が短期間しか作用せず、また塗膜中の酸素や水の透過を有効に抑制できず塗膜下腐食による剥離が起こり熱交換器の耐食寿命向上の効果が十分に得られない。
【0054】
後に説明するが、発明者らの検討の結果、塗膜厚み10μm~50μmであれば、十分な環境遮断および犠牲陽極作用を発揮し、また早期の塗膜剥離を抑制でき、その結果、熱交換器の耐食性を有効に向上させることができることが明らかとなった。
【0055】
なお、以下の実施例および比較例における耐食性試験、耐湿性試験および密着性試験は次に示すようにして行った。
【0056】
[耐食性試験]
熱交換器の塗膜の耐食性は、ASTM G85-A3で規定されるSWAAT試験(Sea Water Acidified Test)に基づいて評価した。
【0057】
[耐湿性試験]
熱交換器の塗膜の耐湿性は、雰囲気温度40℃、相対湿度98%に設定した恒温恒湿層内にサンプルを保持し評価した。
【0058】
[密着性試験]
耐久試験後の塗膜の密着性は、JIS K5400で規定される100マス碁盤目試験に基づいて評価した。
【0059】
(比較例1)
比較例1に係る塗膜としては、ブレージングシートに亜鉛粉末を含有するエピクロルヒドリン・ビスフェノールA型塗膜を80μmの膜厚で設置した。
【0060】
当該塗膜に対し、前述した耐食性試験およびその後の密着性試験を実施した。その結果、
図6(A)の断面写真に示すように耐食性においてはブレージングシートへの腐食進行はほとんどなく亜鉛粉末による犠牲防食機能が認められたものの、密着性においては
図7(A)に示すように著しい塗膜の剥離が確認された。
【0061】
当該塗膜に対し、前述した耐湿性試験およびその後の密着性試験を実施した。その結果、
図8(A)に示すように著しい塗膜の剥離が確認された。
【0062】
(比較例2)
比較例2に係る塗膜としては、ブレージングシートに亜鉛粉末を含有するエピクロルヒドリン・ビスフェノールA型塗膜を5μmの膜厚で設置した。
【0063】
当該塗膜に対し、前述した耐食性試験およびその後の密着性試験を実施した。その結果、
図6(B)の断面写真に示すように耐食性においては塗膜下でのブレージングシートへの腐食進行が認められた。その後の密着性においては
図7(B)に示すように著しい剥離が確認された。
【0064】
当該塗膜に対し、前述した耐湿性試験およびその後の密着性試験を実施した。その結果、
図8(B)に示すように塗膜の剥離は確認されなかった。
【0065】
(実施例1)
実施例1に係る塗膜としては、ブレージングシートに亜鉛粉末を含有するエピクロルヒドリン・ビスフェノールA型塗膜を40μmの膜厚で設置した。
【0066】
当該塗膜に対し、前述した耐食性試験およびその後の密着性試験を実施した。その結果、
図6(C)の断面写真に示すように耐食性においてはブレージングシートへの腐食進行は認められず亜鉛粉末による犠牲防食機能が認められた。その後の密着性においては
図7(C)に示すように剥離は確認されなかった。
【0067】
当該塗膜に対し、前述した耐湿性試験およびその後の密着性試験を実施した。その結果、
図8(C)に示すように塗膜の剥離は確認されなかった。
【0068】
(実施例2)
実施例2に係る塗膜としては、ブレージングシートで構成された熱交換器のフィレット部に亜鉛粉末を含有するエピクロルヒドリン・ビスフェノールA型塗膜を40μmの膜厚で設置した。
【0069】
当該塗膜に対し、前述した耐食性試験を実施した。その結果、
図6(D)の断面写真に示すように耐食性においてはヘッダー部の優先腐食が有効に抑制されていることが認められた。
【0070】
(実施例および比較例の対比)
図6および
図7の(A)、(B)、(C)の対比で明らかなように、塗膜厚みが十分厚ければ(実施例および比較例1)犠牲防食が有効に機能し塗膜下での腐食は発生しないが、塗膜厚みが十分薄ければ(比較例2)、水や酸素の遮断が不十分なため塗膜下での腐食が発生する。
【0071】
また、
図8の(A)、(B)、(C)対比で明らかなように、塗膜厚みが十分厚ければ(比較例1)塗膜内部および下地との界面での応力発生により塗膜は容易に剥離するが、塗膜厚みが十分薄ければ(実施例および比較例2)、塗膜の密着性が担保される。
【0072】
また、
図9に示すように、横軸を塗膜厚みとし、縦軸を前記100マス碁盤目試験における塗膜残数を密着性と定義し実施例1および比較例の密着性をプロットすると、10~50μmが最も好適に耐食性を確保できる条件であることがわかる。
【0073】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、空気調和装置用アルミニウム熱交換器の分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
10:ブレージングシート
10a:接合面
10b:非接合隣接面
11:心材
12:ろう材層
13:犠牲陽極材層
14:エポキシ系塗膜
20:ブレージングシートの接合構造
21:接合部
22:フィレット
30:プレートフィン積層体
31:エンドプレート
32:プレートフィン
33:ヘッダー開口
34:プレートフィン積層体
35:プレートフィン
40:パラレルフローコンデンサ(PFC)
41:ヘッダー管
42:扁平管
43:コルゲートフィン
51:熱交換器
52:エポキシ系塗膜設置部
53:送風ファン
54:エアフィルター
55:排水受け