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特許7442052モータ制御装置、及びこのモータ制御装置を搭載した洗濯機または洗濯乾燥機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】モータ制御装置、及びこのモータ制御装置を搭載した洗濯機または洗濯乾燥機
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20240226BHJP
   H02P 6/185 20160101ALI20240226BHJP
   H02P 6/182 20160101ALI20240226BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
H02P6/20
H02P6/185
H02P6/182
H02P27/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022558948
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2021036541
(87)【国際公開番号】W WO2022091701
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020178624
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】孫 昊
(72)【発明者】
【氏名】亀田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】上瀧 禎士
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 裕智
(72)【発明者】
【氏名】賀門 陽子
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/013084(WO,A1)
【文献】特開2020-65433(JP,A)
【文献】特開2020-31469(JP,A)
【文献】特開2014-200154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/20
H02P 6/185
H02P 6/182
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路により駆動される凸極構造のロータを有するブラシレスモータを制御するモータ制御装置であって、
前記インバータ回路と、
前記ブラシレスモータの電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された電流に基づき、前記ブラシレスモータの初期位相を推定する初期位相推定部と、
前記電流検出部により検出された電流に基づき、前記ブラシレスモータの磁極の極性を判別する極性判別部と、を備え、
前記極性判別部は、
前記初期位相推定部により推定された前記初期位相に対して、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳して前記電流検出部により検出されたd軸及びq軸それぞれの正及び負の方向の電流振幅差に基づいて、前記ブラシレスモータの磁極の極性を判別し、前記初期位相を補正する
モータ制御装置。
【請求項2】
前記極性判別部は、
d軸の正及び負の方向に電圧を重畳して前記電流検出部より検出されたd軸の正及び負の方向の前記電流振幅差の絶対値が基準値より大きい場合には、前記ブラシレスモータの極性判別を終了し、
d軸の正及び負の方向の前記電流振幅差の絶対値が前記基準値より小さい場合には、q軸の正及び負の方向に電圧を重畳して前記電流検出部より検出されたq軸の正及び負の方向の前記電流振幅差と、d軸の正及び負の方向の前記電流振幅差とに基づいて、前記ブラシレスモータの磁極の極性を判別し、前記初期位相を補正する
請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記極性判別部は、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳する直前に、前記電流検出部により検出された電流をオフセット電流値とし、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳して前記電流検出部により検出されたd軸及びq軸それぞれの正及び負の方向の電流振幅最大値から前記オフセット電流値を差し引いた値に基づいて、前記ブラシレスモータの磁極の極性を判別し、前記初期位相を補正する
請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記極性判別部は、前記ブラシレスモータの磁極の極性を判別している間、前記ブラシレスモータに流れる電流が0になるように制御する
請求項1~3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のモータ制御装置を搭載した
洗濯機または洗濯乾燥機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、凸極構造のロータを有するブラシレスモータ(永久磁石同期電動機)の回転をセンサレス制御するモータ制御装置、及びこのモータ制御装置を搭載した洗濯機または洗濯乾燥機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ロータが凸極構造のブラシレスモータをセンサレス駆動し、起動時に磁極判定を行うモータ制御装置を開示する。このモータ制御装置は直流電力を交流電力に変換してモータ電力とし、凸極構造のロータを有するブラシレスモータを駆動するものである。このモータ制御装置は、電流検出器と、3相・dq軸変換部と、dq軸電流制御部と、dq軸・3相変換部と、磁極位置推定用交流交番電圧発生部と、磁極位置推定部と、d軸電流直流バイアス発生部と、NS判別部と、を有する。電流検出器は、インバータからブラシレスモータへのモータ電流を検出する。3相・dq軸変換部は、電流検出器の検出した交流電流検出値をdq軸変換してd軸電流検出値及びq軸電流検出値を出力する。dq軸電流制御部は、d軸電流指令入力及びq軸電流指令入力に対してd軸電流検出値及びq軸電流検出値が追従するようなd軸電圧指令及びq軸電圧指令を算出する。dq軸・3相変換部は、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を3相交流電圧指令に変換してインバータに制御信号として与える。磁極位置推定用交流交番電圧発生部は、d軸電圧指令に補助的な交流交番電圧を重畳する。磁極位置推定部は、q軸電流検出値と補助的な交流交番電圧とから永久磁石同期電動機の磁極位置を推定する。d軸電流直流バイアス発生部は、磁極位置推定部で推定した磁極位置の方向をd軸とし、d軸電流指令に対して、正負対称に交互に切り替わる一定波形のd軸直流バイアス電流を加算し、このバイアス加算後のd軸電流指令をdq軸電流制御部に入力させる。NS判別部は、d軸直流バイアス電流の正負切替タイミングにおけるd軸印加電圧とd軸電流変化率とを算定し、算定したd軸印加電圧とd軸電流変化率との関係から永久磁石同期電動機の永久磁石のN極S極の方向を判別し、NS判別信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-79489号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、初期推定したd軸の方向が正しい方向に対して90°または270°誤っていた場合にも正しく磁極検出を行うことができるモータ制御装置及びこのモータ制御装置を搭載した洗濯機または洗濯乾燥機を提供する。
【0005】
本開示におけるモータ制御装置は、インバータ回路により駆動される凸極構造のロータを有するブラシレスモータを制御する。本開示におけるモータ制御装置は、インバータ回路と、電流検出部と、初期位相推定部と、極性判別部と、を備える。電流検出部は、ブラシレスモータの電流を検出する。初期位相推定部は、電流検出部により検出された電流に基づき、ブラシレスモータの初期位相を推定する。極性判別部は、電流検出部により検出された電流に基づき、ブラシレスモータの磁極の極性を判別する。極性判別部は、初期位相推定部により推定された初期位相に対して、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部により検出されたd軸及びq軸それぞれの正及び負の方向の電流振幅差に基づいて、ブラシレスモータの磁極の極性を判別し、初期位相を補正する。
【0006】
また、本開示における洗濯機または洗濯乾燥機は、本開示におけるモータ制御装置を搭載する。
【0007】
本開示におけるモータ制御装置は、初期推定したd軸の方向が正しい方向に対して90°または270°誤っていた場合にも、正しく磁極検出を行うことができる。
【0008】
また、本開示における洗濯機または洗濯乾燥機は、上述のような本開示におけるモータ制御装置が搭載されているため、例えば、洗濯槽やドラム等の回転をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態1におけるモータ制御装置の構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態1におけるモータ制御装置のセンサレス推定部の構成を示すブロック図である。
図3図3は、実施の形態1におけるモータ制御装置のインダクタンス駆動部の詳細な構成を示すブロック図である。
図4図4は、実施の形態1におけるモータ制御装置の誘起電圧駆動部の詳細な構成を示すブロック図である。
図5図5は、実施の形態1におけるモータ制御装置のモータ駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
図6A図6Aは、ロータの初期位相推定についての課題を説明するための図である。
図6B図6Bは、ロータの初期位相推定についての課題を説明するための図である。
図6C図6Cは、ロータの初期位相推定についての課題を説明するための図である。
図7図7は、一般的なブラシレスモータに使用されている電磁鋼板の磁気飽和特性を示す図である。
図8図8は、実施の形態1におけるモータ制御装置の極性判別処理の流れを示すフローチャートである。
図9図9は、実施の形態1におけるモータ制御装置のd軸判定時の印加電圧と電流との一例を示す図である。
図10図10は、実施の形態1におけるモータ制御装置のd軸及びq軸判定時の印加電圧と電流との一例を示す図である。
図11図11は、実施の形態1におけるモータ制御装置の極性判別時におけるオフセット補正時の印加電圧と電流とを説明するための図である。
図12図12は、実施の形態2におけるモータ制御装置において電流制御を行った場合の極性判別の概略を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示におけるモータ制御装置は、インバータ回路により駆動される凸極構造のロータを有するブラシレスモータを制御する。本開示におけるモータ制御装置は、インバータ回路と、電流検出部と、初期位相推定部と、極性判別部と、を備える。電流検出部は、ブラシレスモータの電流を検出する。初期位相推定部は、電流検出部により検出された電流に基づき、ブラシレスモータの初期位相を推定する。極性判別部は、電流検出部により検出された電流に基づき、ブラシレスモータの磁極の極性を判別する。極性判別部は、初期位相推定部により推定された初期位相に対して、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部により検出されたd軸及びq軸それぞれの正及び負の方向の電流振幅差に基づいて、ブラシレスモータの磁極の極性を判別し、初期位相を補正する。
【0011】
これにより、本開示におけるモータ制御装置は、初期推定したd軸の方向が正しい方向に対して90°または270°誤っていた場合にも、正しく磁極検出を行うことができる。そのため、本開示におけるモータ制御装置は、ブラシレスモータの起動時の逆転起動や起動失敗を抑制し、ブラシレスモータ起動時よりスムーズな加速を行うことができる。
【0012】
また、本開示におけるモータ制御装置では、極性判別部は、d軸の正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部より検出されたd軸の正及び負の方向の電流振幅差の絶対値が基準値より大きい場合には、ブラシレスモータの極性判別を終了してもよい。極性判別部は、d軸の正及び負の方向の電流振幅差の絶対値が基準値より小さい場合には、以下を行う。すなわち、極性判別部は、q軸の正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部より検出されたq軸の正及び負の方向の電流振幅差と、d軸の正及び負の方向の電流振幅差とに基づいて、ブラシレスモータの磁極の極性を判別し、初期位相を補正してもよい。
【0013】
また、本開示におけるモータ制御装置では、極性判別部は、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳する直前に、電流検出部により検出された電流をオフセット電流値としてもよい。極性判別部は、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部により検出されたd軸及びq軸それぞれの正及び負の方向の電流振幅最大値からオフセット電流値を差し引いた値に基づいて、ブラシレスモータの磁極の極性を判別し、初期位相を補正してもよい。
【0014】
また、本開示におけるモータ制御装置では、極性判別部は、ブラシレスモータの磁極の極性を判別している間、ブラシレスモータに流れる電流が0になるように制御してもよい。
【0015】
また、本開示における洗濯機または洗濯乾燥機は、本開示におけるモータ制御装置を搭載する。
【0016】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時から、推定したロータの初期位相に対して磁極の極性判定を行う技術が知られている。ロータの初期位相は、凸極構造のブラシレスモータのセンサレス駆動時、ブラシレスモータ駆動開始時に、駆動に先駆けブラシレスモータの停止時に推定される。
【0017】
初期位相推定では、凸極性を持ったロータの特徴である磁極の方向(d軸方向)と磁極と直交する方向(q軸方向)のインダクタンスLの差が利用される。そして初期位相推定では、ステータ巻線に低振幅の高周波あるいはパルス状の電圧及び電流を印加し、ロータがどちらの方向に向いているのかが推定される。この時点ではロータの方向までは推定できるが磁極の極性(NS)は判らないので、磁極のN極、S極を判定する極性判別が行われる。
【0018】
極性判別では、推定したd軸方向に対してステータ巻線に正及び負の両方向のある程度大きなパルス状の電圧及び電流を印加し、その時の印加電圧あるいは検出電流の絶対値の差より磁極NSの方向が推定される。これにより、ブラシレスモータを駆動開始時より逆転駆動や起動失敗することなくスムーズにブラシレスモータの回転を立ち上げることができる。
【0019】
しかしながら、初期位相推定時に推定したd軸の方向は正しくは磁極の方向であるが、推定値が磁極と直交する方向(q軸方向)となることが、ある一定割合で発生する。その場合に極性判別を行っても正しいロータの方向は得られないため、ブラシレスモータの駆動開始時に逆転駆動や脱調し回転しないといった現象が発生することがあると言う課題を発明者らは発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0020】
そこで本開示は、初期位相推定時に推定したd軸方向が正しい方向に対して90°または270°誤っていても極性判定にて正しく磁極検知できるモータ制御装置を提供する。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本開示における実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0022】
なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0023】
(実施の形態1)
以下、図1図11を用いて、実施の形態1におけるモータ制御装置10を説明する。
【0024】
[1-1.構成]
[1-1-1.モータ制御装置の構成]
図1は、実施の形態1におけるモータ制御装置10の構成を示す図である。
【0025】
モータ制御装置10は、交流電源30より受電する。整流回路11は、受電した交流電力を直流電力に変換し、直流電力の平滑コンデンサ12を介しインバータ回路13に電力を供給する。インバータ回路13は、2個直列にした3組合計6個のスイッチング素子14a、14b、14c、14d、14e及び14fにより構成される。
【0026】
このインバータ回路13は、後述する制御回路20によりスイッチング素子14a、14b、14c、14d、14e及び14fのON/OFFをPWM駆動することでブラシレスモータ40の駆動を行っている。
【0027】
インバータ回路13の2個直列のスイッチング素子14a、14b、14c、14d、14e及び14fのうち、下側、すなわちスイッチング素子14d、14e及び14fのエミッタ側には抵抗15a、15b及び15cが接続されている。抵抗15a、15b及び15cの他端は、整流回路11と平滑コンデンサ12の出力の一方側に接続されている。抵抗15a、15b及び15cの両端の電圧は、制御回路20内の電流検出部21に入力される。後述するように、電流検出部21が検出した電流値を用いて各種制御が行われる。
【0028】
制御回路20は、前述の電流検出部21と共に、初期位相推定部22、極性判別部23及びセンサレス推定部24を有する。なお、モータ制御装置10は、プロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを有している。そして、プロセッサがメモリに格納されているプログラムを実行することにより、コンピュータシステムが制御回路20として機能する。プロセッサが実行するプログラムは、ここではコンピュータシステムのメモリに予め記録されているとしたが、メモリカード等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通じて提供されてもよい。
【0029】
[1-1-2.センサレス推定部の構成]
図2は、実施の形態1におけるモータ制御装置10のセンサレス推定部24の構成を示すブロック図である。
【0030】
センサレス推定部24は、インダクタンス方式のインダクタンス駆動部24bと、誘起電圧方式の誘起電圧駆動部24cと、駆動方式切り替え部24aとを有する。インダクタンス方式のインダクタンス駆動部24bは、ブラシレスモータ40の凸極構造のロータ41の凸極性を利用して磁極の位相を推定する。誘起電圧方式の誘起電圧駆動部24cは、ブラシレスモータ40の回転時の逆起電力を利用して磁極位置を推定する。駆動方式切り替え部24aは、磁極位置の推定方式をインダクタンス方式と誘起電圧方式との間で切り替える。
【0031】
[1-1-3.インダクタンス駆動部の構成]
ブラシレスモータ40のロータ41の磁極の位相に応じてインダクタンスLが変化する。そのため、インダクタンス方式のインダクタンス駆動部24bは、モータ駆動電流に関係しない高周波電流をモータに印加してモータ電流を検出し、それらよりインダクタンス変化に起因する位置推定誤差量を算出する。そして、インダクタンス駆動部24bは、位置推定誤差量をゼロに収束させるように磁極位置を推定する。
【0032】
図3は、実施の形態1におけるモータ制御装置10のインダクタンス駆動部24bの詳細な構成を示すブロック図である。
【0033】
インダクタンス駆動部24bは、uvw→dq電流変換部24ba、位置推定φ演算部24bb、高周波電流制御部24bc、角速度ω演算部24bd、位置角θ演算部24be、速度電流制御部24bf、及びdq→uvw電圧変換部24bgで構成される。uvw→dq電流変換部24baは、電流検出部21によって検出されるブラシレスモータ40の三相電流値(Iu,Iv,Iw)(図1参照)を入力としてdq電流値を出力する。位置推定φ演算部24bbは、dq電流から磁極の位置推定を行い、位置推定値φを出力する。高周波電流制御部24bcは、駆動電流に重畳させる高周波電流を制御する。角速度ω演算部24bdは、位置推定値φから角速度ωを演算し、出力する。位置角θ演算部24beは、位置推定値φと角速度ωから位置角θを演算し、出力する。速度電流制御部24bfは、推定角速度(角速度ω)と速度指令値ωとの偏差をフィードバックして、速度演算(PI制御)を行いブラシレスモータ40の電流指令値を決定し、出力する。dq→uvw電圧変換部24bgは、位置角θと電流指令値から電圧(Vu,Vv,Vw)を演算し、制御回路20へ出力する。
【0034】
dq←→uvw変換及び速度フィードバック制御は一般的な方式であるため、ここではuvw→dq電流変換部24ba、速度電流制御部24bf、dq→uvw電圧変換部24bgについての説明は省略する。
【0035】
位置推定φ演算部24bbは下記の数式1に基づいて位置推定値φの演算を行う。
【0036】
【数1】
【0037】
本実施の形態1において駆動対象とするモータは、凸極構造のロータ41を有する(d軸インダクタンスLd≠q軸インダクタンスLq)ブラシレスモータ40であるため、磁極の位相に応じてインダクタンスL(磁気抵抗)が変化する。インダクタンスLの変化はブラシレスモータ40の電流に現れるため、上記の数式1よりブラシレスモータ40の電流の変化量に応じて位置推定誤差量を算出する。
【0038】
高周波電流制御部24bcはモータ駆動電流に関係しない高周波電流を制御する。本実施の形態1では、2.56ms周期0.4A相当のパルス電流をd軸方向に印加し、パルス電流を印加したときのq軸電流値と、パルス電流を印加していないときのq軸電流値の差分が演算される。
【0039】
位置角θ演算部24be、角速度ω演算部24bdは、下記の数式2及び数式3に基づいてそれぞれ位置角θ、角速度ωの演算を行う。
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
位置角θは、位置推定誤差量と角速度ωの時間積分とを入力として計算され、角速度ωは、位置角θの時間微分として計算される。位置角θと角速度ωとは、いずれもフィードバック制御に基づいて位置推定誤差量をゼロに収束させるように算出される。
【0043】
[1-1-4.誘起電圧駆動部の構成]
ブラシレスモータ40の回転により発生する誘起電圧が磁極位置に応じて変化する。そのため、誘起電圧駆動部24cは、ブラシレスモータ40の速度に比例する誘起電圧を、ブラシレスモータ40への印加電圧と電流とより演算し、電圧誤差をゼロに収束させるように磁極位置を推定する。
【0044】
図4は、実施の形態1におけるモータ制御装置10の誘起電圧駆動部24cの詳細な構成を示すブロック図である。
【0045】
誘起電圧駆動部24cは、uvw→dq電流変換部24caと、位置推定εγ演算部24cbと、角速度ω演算部24ccと、位置角θ演算部24cdと、速度電流制御部24ceと、dq→uvw電圧変換部24cfと、で構成される。uvw→dq電流変換部24caは、電流検出部21によって検出されるブラシレスモータ40の三相電流値(Iu,Iv,Iw)を入力としてdq電流値を出力する。位置推定εγ演算部24cbは、dq電流から磁極の位置推定を行い、位置推定値εγを出力する。角速度ω演算部24ccは、位置推定値εγから角速度ωを演算し、出力する。位置角θ演算部24cdは、位置推定値εγと角速度ωから位置角θを演算し、出力する。速度電流制御部24ceは、推定角速度(角速度ω)と速度指令値ω*との偏差をフィードバックして、速度演算(PI制御)を行いモータの電流指令値を決定し、出力する。dq→uvw電圧変換部24cfは、位置角θと電流指令値から電圧(Vu,Vv,Vw)を演算し、制御回路20へ出力する。
【0046】
前述したインダクタンス駆動部24bの場合と同様、dq←→uvw変換及び速度フィードバック制御は一般的な方式である。そのため、ここではuvw→dq電流変換部24ca、速度電流制御部24ce、dq→uvw電圧変換部24cfについての説明は省略する。
【0047】
位置推定εγ演算部24cbは、下記の数式4に基づいて位置推定値εγの演算を行う。
【0048】
【数4】
【0049】
数式4より、位置推定値εγは、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧Vd及び角速度ωを入力し、これにブラシレスモータ40のq軸インダクタンスLq、抵抗値Raのパラメータを用いて算出される。
【0050】
角速度ω演算部24cc、位置角θ演算部24cdは下記の数式5及び数式6に基づいてそれぞれ角速度ω、位置角θの演算を行う。
【0051】
【数5】
【0052】
【数6】
【0053】
角速度ω演算部24ccは、位置推定値εγがゼロに収束するようにPI(比例積分)を用いて角速度ωの計算を行い、さらにωの時間積分の計算が行われることにより、推定位相(位置角θ)として出力がなされる。
【0054】
[1-1-5.駆動方式切り替え部の構成]
図2に示すセンサレス推定部24のブロック図中の駆動方式切り替え部24aは、ブラシレスモータ40の回転数等に応じて、インダクタンス駆動部24bと誘起電圧駆動部24cの切り替えを行うものである。具体的には、駆動方式切り替え部24aは、モータ制御に必要な位置角θ、角速度ω、モータ電流/電圧及び角速度フィードバック制御パラメータをリアルタイムで引渡し、瞬時切り替えを実現している。
【0055】
[1-2.動作]
以上のように構成されたモータ制御装置10について、その動作を以下説明する。
【0056】
[1-2-1.モータ駆動制御の動作]
図5は、実施の形態1におけるモータ制御装置10のモータ駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0057】
図5に示すように、モータ制御装置10は、ステップS001で、モータ駆動制御を開始する。モータ制御装置10は、ステップS002で、初期位相推定を行う。モータ制御装置10は、ステップS003で、極性判別を行い、判別結果に応じて、初期位相推定にて推定した位相を補正する。ステップS002の初期位相推定及びステップS003の極性判別について、詳細は後で記載する。
【0058】
モータ制御装置10は、ステップS004で、インダクタンス駆動部24bにてモータ起動制御を行い、ステップS005で、ブラシレスモータ40の回転数が一定以上であるかを判定する。モータ制御装置10は、ブラシレスモータ40の回転数が一定以上である場合に(ステップS005:YES)、ステップS006で、駆動方式の切り替えを行う。すなわち、駆動方式切り替え部24aが、インダクタンス駆動部24bから誘起電圧駆動部24cに切り替える。続いて、モータ制御装置10は、ステップS007で、誘起電圧駆動部24cにてモータ定常回転制御を行い、ステップS008でモータ減速制御を行い、ステップS009で、モータ駆動制御を終了する。
【0059】
[1-2-2.初期位相推定部の動作]
図6A図6Cは、ロータ41の初期位相推定についての課題を説明するための図である。なお、図6A図6Cでは、初期位相推定d軸及び初期位相推定q軸が実線で、実d軸及び実q軸が破線で示されている。
【0060】
図6Aでは、ブラシレスモータ40の内部にマグネット42を有するロータ41とdq軸とが正しい関係にある様子を示している。d軸は、磁極方向であり、q軸は、d軸と直交する方向である。磁極のN極方向がd軸の正の方向、S極がd軸の負の方向である。
【0061】
初期位相推定部22は、インダクタンス駆動部24bにて、初期のロータ41の位相を推定する。具体的には、100ms間、モータ回転数及びモータ電流がともに指令値0の駆動期間を設け、初期のロータ41の位相を推定する。
【0062】
インダクタンス駆動部24bは、ブラシレスモータ40の凸極構造のロータ41の特徴であるd軸、q軸方向のインダクタンスLの差(Ld≠Lq)を利用して位相を推定する。すなわち、インダクタンス駆動部24bは、ロータ41と水平方向(d軸)または垂直方向(q軸)の判別を行うが、図6Bに示すように、同じd軸でも、N極の向きかS極の向きか判別できない。さらに、図6Cに示すように、ロータ41に対してdq軸のインダクタンスLは2θの周期性があり、実際のd軸に対して90°または270°ずれたq軸方向に初期位相を誤って推定しまう課題が存在する。上記課題に対して、本開示の実施の形態1に係るモータ制御装置10は、以下の極性判別部23にて対策を行う。
【0063】
[1-2-3.極性判別部の動作]
図7は、一般的なブラシレスモータに使用されているロータコアである電磁鋼板の磁気飽和特性を示す図である。
【0064】
図7に示すように、インダクタンスLに関する電圧方程式v=L×(di/dt)の関係式により、インダクタンスLが大きい場合に電流の時間微分である(di/dt)は小さく、単位時間の電流変化量iは小さくなる。また、インダクタンスLが小さい場合に電流の時間微分である(di/dt)は大きくなり、単位時間の電流変化量iは大きくなる。すなわち、インダクタンスLが変動すると電流iも変動する。
【0065】
極性判別部23は、磁気飽和によりインダクタンスLが変動する特性を利用する。極性判別部23は、例えば、初期位相推定部22により初期位相推定を行った結果である推定d軸の正の方向と負の方向に絶対値が同じ大きさの電圧+Vd、-Vdを同じ時間それぞれ重畳し、流れる電流の変化量の大きさ+Id1、-Id2によって極性を判別する。
【0066】
具体的には、初期位相推定d軸の磁極の極性判別は、初期位相推定d軸の正の方向に電圧+Vdを印加した時の電流変化量の絶対値|+Id1|と、初期位相推定d軸の負の方向に電圧-Vdを印加した時の電流変化量の絶対値|-Id2|との比較で行う。すなわち、|-Id2|<|+Id1|であれば、推定磁極方向は正の方向(N極)であることを意味する。また、|-Id2|>|+Id1|であれば、推定磁極方向は逆方向(S極)であることを意味する。
【0067】
[1-2-4.極性判別の動作]
図8は、実施の形態1におけるモータ制御装置10の極性判別処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
図8に示すように、極性判別部23は、ステップS101で、極性判別処理を開始する。極性判別部23は、ステップS102で、初期化処理を実施し、ステップS103で、初期位相推定d軸の電流0時のIdオフセット計算を行う。つまり、極性判別部23は、d軸の正及び負の方向に電圧を重畳する後述するステップS104~S107の処理直前に、電流検出部21により検出されたd軸電流Idをオフセット電流値として保存する。d軸電流Idのオフセット計算及び後述するq軸電流Iqのオフセット計算の詳細は後述するため(図11参照)、以下の図8の説明では、オフセット電流値を考慮せずに説明する。
【0069】
極性判別部23は、ステップS104で、初期位相推定d軸の正の方向に電圧+Vdを一定時間重畳し、ステップS105で、初期位相推定d軸の正の方向の電流値の変化量の絶対値|+Id|の電流振幅最大値を積算(Σ+Id)する。極性判別部23は、ステップS106で、初期位相推定d軸の負の方向に電圧-Vdを一定時間重畳し、ステップS107で、初期位相推定d軸の負の方向の電流値の変化量の絶対値|-Id|の電流振幅最大値を積算(Σ-Id)する。極性判別部23は、このステップS104~S107の処理を3回繰り返す。なお、本実施の形態1では、ステップS104~S107の処理を3回繰り返すものとしたが、繰り返す回数はこれに限られず、例えば2回や4回であってもよい。このことは、後述するステップS115~S118の処理を繰り返す回数についても同様である。
【0070】
次に、極性判別部23は、ステップS108で、初期位相推定d軸の正及び負の方向それぞれに電圧印加後の電流変化量の絶対値の電流振幅最大値の積算の比較を行い、比較結果に応じた処理を行う。具体的には、極性判別部23は、Σ-Id>Σ+Idであれば(ステップS108:YES)、ステップS109の処理に進み、Σ-Id≦Σ+Idであれば(ステップS108:NO)、ステップS110の処理に進む。
【0071】
ステップS109では、実際のd軸が初期位相推定d軸の方向と逆方向である可能性があるため、極性判別部23は、初期位相推定時の位相の値に180°を加算し、位相情報の一時保管場所であるθtmpDに保存する。ステップS110では、初期位相推定d軸の方向が正しい可能性があるため、極性判別部23は、初期位相推定時の位相の値を位相情報の一時保管場所であるθtmpDに保存する。極性判別部23は、以上のステップS101~S110の処理でd軸判定を行い、推定位相を補正する。
【0072】
次に、極性判別部23は、初期位相推定d軸でのd軸判定の確度の確認を行う。
【0073】
極性判別部23は、ステップS111で、ステップS104~S107で行った初期位相推定d軸の正及び負の方向それぞれに電圧印加後の電流変化量の絶対値の電流振幅最大値の積算の差分の絶対値ΔΣId=|Σ+Id-Σ-Id|を計算する。極性判別部23は、ステップS112で、この差分の絶対値ΔΣIdが既定の基準値Idthより大きいか否かを確認する。極性判別部23は、ΔΣId>Idth(例えば、1A)であれば(ステップS112:YES)、ステップS113の処理に進み、ΔΣId≦Idthであれば(ステップS112:NO)、ステップS114の処理に進む。ステップS113では、極性判別部23は、位相情報の一時保管場所であるθtmpDに保存した値が正しいとし、同値を推定位相に保存し、ステップS126で極性判別処理を終了する。
【0074】
一方、ステップS114の処理に進んできた場合は、初期位相推定d軸が+90°または+270°誤っている可能性がある。この方向は、初期位相推定のq軸方向であるため、極性判別部23は、q軸方向にて再度判定を実施する。極性判別部23は、ステップS114で、初期位相推定q軸の電流0時のIqオフセット計算を行う。
【0075】
極性判別部23は、ステップS115で、初期位相推定q軸の正の方向に電圧+Vqを一定時間重畳し、ステップS116で、初期位相推定q軸の正の方向の電流値の変化量の絶対値|+Iq|の電流振幅最大値を積算(Σ+Iq)する。極性判別部23は、ステップS117で、初期位相推定q軸の負の方向に電圧-Vqを一定時間重畳し、ステップS118で、初期位相推定q軸の負の方向の電流値の変化量の絶対値|-Iq|の電流振幅最大値を積算(Σ-Iq)する。極性判別部23は、このステップS115~S118の処理を3回繰り返す。
【0076】
次に、極性判別部23は、ステップS119で、初期位相推定q軸の正及び負の方向それぞれに電圧印加後の電流変化量の絶対値の電流振幅最大値の積算の比較を行い、比較結果に応じた処理を行う。具体的には、極性判別部23は、Σ-Iq>Σ+Iqであれば(ステップS119:YES)、ステップS120の処理に進み、Σ-Iq≦Σ+Iqであれば(ステップS119:NO)ステップS121の処理に進む。
【0077】
ステップS120では、実際のd軸の正の方向が初期位相推定q軸の負の方向の可能性があるため、極性判別部23は、初期位相推定時の位相の値に270°を加算し、位相情報の一時保管場所であるθtmpQに保存する。一方、ステップS121では、実際のd軸の正の方向が初期位相推定q軸の正の方向である可能性があるため、極性判別部23は、初期位相推定時の位相の値に90°を加算し、位置情報の一時保管場所であるθtmpQに保存する。
【0078】
以上のように、極性判別部23は、ステップS114~S121の処理で、q軸判定を行い、推定位相を補正する。
【0079】
続いて、極性判別部23は、ステップS122で、ステップS115~S118で行った初期位相推定q軸の正及び負の方向それぞれに電圧印加後の電流変化量の絶対値の電流最大振幅の積算の差分の絶対値ΔΣIq=|Σ+Iq-Σ-Iq|を計算する。極性判別部23は、ステップS123で、d軸方向で求めた差分の絶対値ΔΣIdとq軸方向で求めた差分の絶対値ΔΣIqとの比較を行い、比較結果に応じた処理を行う。具体的には、極性判別部23は、ΔΣId≧ΔΣIqであれば(ステップS123:YES)、ステップS124の処理に進み、ΔΣId<ΔΣIqであれば(ステップS123:NO)、ステップS125の処理に進む。
【0080】
極性判別部23は、ステップS124では、位相情報の一時保管場所θtmpDの値が正しいとして、同値を推定位相に保存し、ステップS125では、位相情報の一時保管場所θtmpQの値が正しいとして、同値を推定位相に保存する。極性判別部23は、最後に、ステップS126で極性判別処理を終了する。
【0081】
[1-2-5.極性判別 d軸判定]
図9は、実施の形態1におけるモータ制御装置10のd軸判定時の印加電圧と電流との一例を示す図である。
【0082】
以下、図9に示す例を用いて、図8に示す極性判別処理のフローチャート内のステップS104~S107の電圧の重畳及び電流振幅最大値の積算を具体的に説明する。なお、この図9の例では、保存された+Idと-Idとの差分は基準値Idth(例えば、1A)より大きいものとする。まず、初期位相推定d軸の正の方向に+Vdの電圧が重畳されて、そのときの+Idの電流振幅最大値が保存される。次に、初期位相推定d軸の負の方向に-Vdの電圧が重畳されて、そのときの-Idの電流振幅最大値が保存される。保存された+Idと-Idが、|-Id|<|+Id|の関係にあるなら、極性判別直前の初期位相判別で推定された推定位相が以降のモータ駆動制御で用いられる。|-Id|>|+Id|の関係にあるなら、極性判別直前の初期位相判別で推定された推定位相に180°加算した推定位相が以降のモータ駆動制御で用いられる。図9の例では、極性判別直前の初期位相判別で推定した推定位相がそのまま推定位相となる。
【0083】
これにより、モータ制御装置10は、初期位相推定したd軸の方向が180°誤っていた場合でも、正しいN極S極の向きに補正することができる。
【0084】
[1-2-6.極性判別 d軸、q軸判定]
図10は、実施の形態1におけるモータ制御装置10のd軸及びq軸判定時の印加電圧と電流との一例を示す図である。
【0085】
以下、図10に示す例を用いて、図8に示す極性判別処理のフローチャート内のステップS104~S107、ステップS115~S118の電圧の重畳及び電流振幅最大値の積算を具体的に説明する。図9のd軸判定と同様に、まず、初期位相推定d軸の正の方向に+Vdの電圧が重畳されて、そのときの+Idの電流振幅最大値が保存される。
【0086】
次に、初期位相推定d軸の負の方向に-Vdの電圧が重畳されて、そのときの-Idの電流振幅最大値が保存される。保存された+Idと-Idとの差(||+Id|-|-Id||)が基準値Idthより小さい、すなわち|-Id|≒|+Id|の関係にあるなら、初期位相推定にて推定されたd軸が実d軸に対して、90°または270°ずれている可能性がある。そのため、q軸方向にも電圧が重畳され、極性判別が行われる。上記のd軸と同様に、まず、初期位相推定q軸の正の方向に+Vqの電圧が重畳されて、そのときの+Iqの電流振幅最大値が保存される。
【0087】
次に、初期位相推定q軸の負の方向に-Vqの電圧が重畳されて、そのときの-Iqの電流振幅最大値が保存される。保存された+Iqと-Iqが|-Iq|<|+Iq|の関係にあるなら、極性判別直前の初期位相判別で推定された推定位相に90°が加算される。|-Iq|>|+Iq|の関係にあるなら、極性判別直前の初期位相判別で推定された推定位相に270°が加算される。図10の例では、|-Iq|<|+Iq|の関係にあり、かつ+Idと-Idとの差より、+Iqと-Iqとの差の方が大きいため、極性判別直前の初期位相判別で推定した推定位相に90°が加算されることになる。
【0088】
これにより、モータ制御装置10は、初期位相推定したd軸の方向が90°または270°誤っていた場合でも、正しいN極S極の向きに補正することができる。
【0089】
[1-2-7.極性判別 オフセット補正]
図11は、実施の形態1におけるモータ制御装置10の極性判別時におけるオフセット補正時の印加電圧と電流とを説明するための図である。
【0090】
以下、図8のステップS103のIdオフセット計算及びステップS114のIqオフセット計算の内容を説明する。極性判別部23は、図9図10のd軸またはq軸方向電圧重畳前の電流の一定期間の平均値をオフセット電流値として、保存する。図8のステップS105、S107、S116、S118の処理では、極性判別部23は、電流振幅最大値を検出したのちに、保存したオフセット電流値を差し引いたものを最終の電流振幅最大値とする。つまり、d軸について、オフセット電流値を+Id0とし、測定した電流振幅最大値+Id‘とすると、極性判別で求めたい+Idは、+Id=+Id’-Id0として、算出できる(図11参照)。これは、Idの正負、Id、Iqに関わらず、同様の演算ができる。
【0091】
これより、モータ制御装置10は、初期電流をオフセット電流値とし、補正することで、電流値が0に収束していない場合でも、極性判別への影響を抑えることができる。そのため、モータ制御装置10は、より精度よく判別することができる。
【0092】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態1において、モータ制御装置10は、インバータ回路13により駆動される凸極構造のロータ41を有するブラシレスモータ40を制御する。モータ制御装置10は、インバータ回路13と、電流検出部21と、初期位相推定部22と、極性判別部23と、を備える。電流検出部21は、ブラシレスモータ40の電流を検出する。初期位相推定部22は、電流検出部21により検出された電流に基づき、ブラシレスモータ40の初期位相を推定する。極性判別部23は、電流検出部21により検出された電流に基づき、ブラシレスモータ40の磁極の極性を判別する。極性判別部23は、初期位相推定部22により推定された初期位相に対して、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部21により検出されたd軸及びq軸それぞれの正及び負の方向の電流振幅差に基づいて、ブラシレスモータ40の磁極の極性を判別し、初期位相を補正する。
【0093】
これにより、モータ制御装置10は、初期位相推定時に本来のd軸方向とは誤ってq軸方向に推定してしまった場合でも、極性判別時に正しい磁極方向を判別することができる。すなわち、モータ制御装置10は、初期推定したd軸の方向が正しい方向に対して90°または270°誤っていた場合にも正しく磁極検出を行うことができる。そのため、モータ制御装置10は、ブラシレスモータ40の起動時に逆転や脱調等の動作がなくスムーズな起動及び加速を行うことができる。
【0094】
本実施の形態1のように、モータ制御装置10の極性判別部23は、d軸の正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部21より検出されたd軸の正及び負の方向の電流振幅差の絶対値が基準値Idthより大きい場合には、ブラシレスモータ40の極性判別を終了する。また、極性判別部23は、d軸の正及び負の方向の電流振幅差の絶対値が基準値Idthより小さい場合には、以下を行う。すなわち、極性判別部23は、q軸の正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部21より検出されたq軸の正及び負の方向の電流振幅差と、d軸の正及び負の方向の電流振幅差とに基づいて、ブラシレスモータ40の磁極の極性を判別し、初期位相を補正する。
【0095】
これにより、モータ制御装置10は、初期位相推定時に本来のd軸方向とは誤ってq軸方向に推定してしまった場合でも極性判別時に正しい磁極方向を判別することができる。すなわち、モータ制御装置10は、初期推定したd軸の方向が正しい方向に対して90°または270°誤っていた場合にも正しく磁極検出を行うことができる。そのため、モータ制御装置10は、ブラシレスモータ40の起動時に逆転や脱調等の動作がなくスムーズな起動及び加速を行うことができる。
【0096】
本実施の形態1のように、モータ制御装置10の極性判別部23は、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳する直前に、電流検出部21により検出された電流をオフセット電流値とする。極性判別部23は、d軸及びq軸それぞれの正及び負の方向に電圧を重畳して電流検出部21により検出されたd軸及びq軸それぞれの正及び負の方向の電流振幅最大値からオフセット電流値を差し引いた値に基づいて、ブラシレスモータ40の磁極の極性を判別し、初期位相を補正する。
【0097】
これにより、モータ制御装置10は、より正確に、極性判別時に正しい磁極方向を判別することができる。そのため、より一層、モータ起動時に逆転や脱調等の動作がなくスムーズな起動及び加速を行うことができる。
【0098】
(実施の形態2)
以下、図12を用いて、実施の形態2におけるモータ制御装置を説明する。
【0099】
[2-1.動作]
[2-1-1.指令電流値の制御]
実施の形態2におけるモータ制御装置の極性判別部は、極性を判別する間、指令電流値(±Id、±Iq)が、0Aになるように制御するようにした点で、実施の形態1におけるモータ制御装置10の極性判別部23と異なる。
【0100】
図12は、実施の形態2におけるモータ制御装置において電流制御を行った場合の極性判別の概略を説明するための図である。
【0101】
図12は、極性判別において、電流制御を行った場合と行わなかった場合とのId電流の挙動の相違を示している。なお、図12では、電流制御を行った場合のId電流が実線で、電流制御を行わなかった場合のId電流が点線で示されている。
【0102】
図12に示すように、電流制御を行った場合の電流挙動によると、電流制御を行った場合には、電流応答が速くなるため、Id電流値がより早く0Aに収束していることが分かる。
【0103】
[2-2.効果等]
以上のように、本実施の形態2におけるモータ制御装置の極性判別部は、ブラシレスモータ40の磁極の極性を判別している間、ブラシレスモータ40に流れる電流が0になるように制御する。
【0104】
これにより、本実施の形態2におけるモータ制御装置は、電圧を重畳する間隔を短くすることが可能となる。そのため、本実施の形態2におけるモータ制御装置は、より短期間で極性を判別することができる。
【0105】
(他の実施の形態)
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態1及び2を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1及び2で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0106】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0107】
本開示におけるモータ制御装置並びに凸極構造のブラシレスモータを、洗濯機あるいは洗濯乾燥機に搭載することができる。例えば、ドラム式洗濯機のドラムの駆動用のブラシレスモータ及びモータ制御装置として、本凸極構造のブラシレスモータ及び本開示におけるモータ制御装置を用いた場合、停止しているドラムを逆転や起動失敗することなく、スムーズに起動し回転数を上げることができる。これにより、本開示は、洗浄率の向上や運転時間の短縮に寄与することができ、高性能の洗濯機を提供することができる。
【0108】
また、実施の形態1のモータ制御装置10及び実施の形態2のモータ制御装置(以下、「実施の形態のモータ制御装置」ともいう)は、ブラシレスモータ40を含まない構成とした。しかしながら、実施の形態のモータ制御装置の構成は、本開示におけるモータ制御装置の構成の一例であり、本開示におけるモータ制御装置は、実施の形態のモータ制御装置の構成に限定されない。すなわち、本開示におけるモータ制御装置は、本開示におけるインバータ回路により駆動される凸極構造のロータを有するブラシレスモータを含む構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示は、凸極構造のロータを有するブラシレスモータ(永久磁石同期電動機)の回転をセンサレス制御するモータ制御装置、及びこのモータ制御装置を搭載した洗濯機または洗濯乾燥機に適用可能である。具体的には、例えば、縦型洗濯機、ドラム式洗濯機、ドラム式洗濯乾燥機などに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0110】
10 モータ制御装置
11 整流回路
12 平滑コンデンサ
13 インバータ回路
14a スイッチング素子
14b スイッチング素子
14c スイッチング素子
14d スイッチング素子
14e スイッチング素子
14f スイッチング素子
15a 抵抗
15b 抵抗
15c 抵抗
20 制御回路
21 電流検出部
22 初期位相推定部
23 極性判別部
24 センサレス推定部
24a 駆動方式切り替え部
24b インダクタンス駆動部
24ba uvw→dq電流変換部
24bb 位置推定φ演算部
24bc 高周波電流制御部
24bd 角速度ω演算部
24be 位置角θ演算部
24bf 速度電流制御部
24bg dq→uvw電圧変換部
24c 誘起電圧駆動部
24ca uvw→dq電流変換部
24cb 位置推定εγ演算部
24cc 角速度ω演算部
24cd 位置角θ演算部
24ce 速度電流制御部
24cf dq→uvw電圧変換部
30 交流電源
40 ブラシレスモータ
41 ロータ
42 マグネット
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12