(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240226BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240226BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240226BHJP
H01M 10/52 20060101ALI20240226BHJP
H01M 4/13 20100101ALN20240226BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/62 Z
H01M10/0587
H01M10/52 101
H01M10/52 103
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020553819
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2019041561
(87)【国際公開番号】W WO2020090591
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2018204247
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 朋宏
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/011884(WO,A1)
【文献】特開2006-114256(JP,A)
【文献】特開2005-174655(JP,A)
【文献】特開2009-135084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M10/52-10/667
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質を含む正極と、
電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、
非水電解質と、を備える二次電池であって、
前記正極は、前記正極活物質と正極添加剤とを含む正極合剤を備え、
前記正極添加剤は、一般式:Li
aFe
xM
yO
zで表される化合物を含み、0≦a≦5、0≦x≦5、0≦y≦1および0≦z≦4を満たし、かつ、a、x、yおよびzのうち少なくとも2つは0超であり、Mは、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Sn、Ce、Y、Zr、SおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記二次電池の内部に脱酸素剤が配置され、
前記脱酸素剤は、セリウム酸化物、ゼオライトおよびCa-Si合金よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、二次電池。
【請求項2】
前記正極合剤中の前記正極添加剤の含有量は、前記正極合剤の総量に対して0.1質量%以上5質量%以下である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極添加剤は、Li
5FeO
4、Li
4Fe
4、LiFeO
2、Li
2OおよびFeO
2よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質は、ケイ素含有材料を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記セリウム酸化物は、一般式:CeO
2-xで表され、0<x<2を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極合剤中の前記正極添加剤に含まれるFeに対する、前記電池中の前記セリウム酸化物に含まれるCeの原子比:Ce/Feが、0.1以上80以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記二次電池の内部に、酸素を透過可能な樹脂と、前記樹脂中に分散している前記脱酸素剤と、を含む脱酸素樹脂が配置されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記脱酸素樹脂は、前記正極合剤中に分散している、請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極合剤中の前記脱酸素樹脂の含有量は、前記正極活物質の総量に対して1質量%以上10質量%以下である、請求項9に記載の二次電池。
【請求項11】
前記脱酸素樹脂は、前記正極の表面または前記セパレータの表面に担持されている、請求項8に記載の二次電池。
【請求項12】
前記二次電池の内部に、前記脱酸素樹脂がシート状に加工された脱酸素シートが配置されている、請求項8に記載の二次電池。
【請求項13】
前記脱酸素シートは、定格容量1mAhあたり0.15mg以上4.7mg以下で配置されている、請求項12に記載の二次電池。
【請求項14】
前記脱酸素シートは、前記正極と前記セパレータとの間に配置されている、請求項12または13に記載の二次電池。
【請求項15】
電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質を含む正極と、
電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、
非水電解質と、を備える二次電池であって、
前記正極は、前記正極活物質と正極添加剤とを含む正極合剤を備え、
前記正極添加剤は、、一般式:Li
a
Fe
x
M
y
O
z
で表される化合物を含み、0≦a≦5、0≦x≦5、0≦y≦1および0≦z≦4を満たし、かつ、a、x、yおよびzのうち少なくとも2つは0超であり、Mは、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Sn、Ce、Y、Zr、SおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記正極と前記負極とが、前記セパレータを介して捲回された電極群を備え、
前記電極群の中心部に形成された空間に、脱酸素樹脂がシート状に加工された脱酸素シートが捲回された状態で配置され、
前記脱酸素樹脂は、酸素を透過可能な樹脂と、前記樹脂中に分散している脱酸素剤と、を含む、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電気機器の高性能化に伴い、その電源に用いられる二次電池の高容量化が求められている。
【0003】
特許文献1では、遷移金属イオンに酸素が4配位した構造のリチウム含有遷移金属酸化物(以下、逆蛍石型構造の酸化物と称する。)を正極に含ませることが提案されている。逆蛍石型構造の酸化物の大きな充電容量が負極の不可逆容量の補填に利用され、負極の不可逆容量に起因する正極活物質の利用率低下に伴う電池容量の低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
充電時に逆蛍石型構造の酸化物からリチウムイオンが放出される。このとき、逆蛍石型構造の酸化物は分解し易く、それに伴い酸素が生成し易いという問題があった。電池内に酸素が滞留すると、電池の安全性やサイクル特性の低下を招くおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑み、本発明の一局面は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質を含む正極と、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、非水電解質と、を備える二次電池に関し、前記正極は、前記正極活物質と正極添加剤とを含む正極合剤を備え、前記正極添加剤は、一般式:LiaFexMyOzで表される化合物を含み、0≦a≦5、0≦x≦5、0≦y≦1および0≦z≦4を満たし、かつ、a、x、yおよびzのうち少なくとも2つは0超であり、Mは、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Sn、Ce、Y、Zr、SおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記二次電池の内部に脱酸素剤が配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高容量を有するとともに、安全性およびサイクル特性に優れた二次電池を提供することができる。
【0008】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】正極の表面に脱酸素樹脂を含む樹脂溶液を塗布する工程の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る二次電池の要部の分解断面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る二次電池の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る二次電池は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質を含む正極と、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極と、正極と負極との間に配置されるセパレータと、非水電解質と、を備える。
【0011】
正極は、正極活物質と正極添加剤とを含む正極合剤を備える。正極添加剤は、例えば、リチウム鉄含有酸化物およびその分解物の少なくとも一方を含む。正極作製時(初回充電前)には、正極合剤中に不可逆容量を制御するためにリチウム鉄含有酸化物を含ませればよい。リチウム鉄含有酸化物は、逆蛍石型の結晶構造を有してもよい。充電時に、リチウム鉄含有酸化物よりリチウムが放出され、不可逆容量の制御に寄与する。このとき、リチウム鉄含有酸化物の少なくとも一部が分解し、酸素が生成し得る。
【0012】
正極添加剤は、一般式(1):Lia1Fex1My1Oz1で表される化合物を含む。式(1)中のa1、x1、y1およびz1は、0≦a1≦5、0≦x1≦5、0≦y1≦1および0≦z1≦4を満たし、かつ、a1、x1、y1およびz1のうち少なくとも2つは0超である。式(1)中のMは、Mn、Zn、Al、Ga、Ge、Ti、Si、Sn、Ce、Y、Zr、SおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種を含む。ガス発生の抑制等の観点から、Mは、MnおよびAlの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0013】
一般式(1)で表されるリチウム鉄含有酸化物は、更に一般式(2):Lia2Fex2My2Oz2を満たしてもよい。式(2)中のa2、x2、y2およびz2は、0<a2≦5、0<x2≦5、0≦y2≦1および1≦z2≦4を満たす。一般式(2)で表されるリチウム鉄含有酸化物としては、例えば、Li5FeO4が挙げられる。リチウム鉄含有酸化物が有する大きな充電容量により、負極の不可逆容量が補填され、負極の不可逆容量に起因する正極活物質の利用率低下に伴う電池容量の低下が抑制される。
【0014】
正極合剤中の正極添加剤の含有量は、正極合剤の総量に対して0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。正極合剤中の正極添加剤の含有量が正極合剤の総量に対して0.1質量%以上である場合、負極の不可逆容量に起因する電池容量の低下を十分に抑制し得る。正極合剤中の正極添加剤の含有量が正極合剤の総量に対して5質量%以下である場合、正極合剤中により多くの正極活物質を含ませることができるため、高容量および優れたサイクル特性が得られ易い。正極作製時には、正極合剤中に正極添加剤としてリチウム鉄含有酸化物を正極合剤の総量に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲で含ませることが好ましい。この場合、初回充電前の電池には、少なくともリチウム鉄含有酸化物が含まれる。正極合剤中の正極添加剤の含有量は、例えば、X線回折法(XRD)やメスバウアー分光法により求められる。
【0015】
正極合剤は、Li5FeO4、Li4Fe4、LiFeO2、Li2OおよびFeO2よりなる群から選択される少なくとも1種を正極添加剤として含んでもよい。正極作製時(初回充電前)に正極合剤に含ませる正極添加剤がLi5FeO4である場合、初回充電後のリチウム鉄含有酸化物の分解物は、例えば、Li4Fe4、LiFeO2、Li2OおよびFeO2よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0016】
上記の二次電池の内部に脱酸素剤が配置されている。脱酸素剤は、電池内で生成した酸素と反応する材料でもよく、当該酸素を吸収もしくは吸着する材料でもよい。すなわち、酸素による電池内圧の上昇を抑制し得る材料であればよい。脱酸素剤により、充電時の正極添加剤(リチウム鉄含有酸化物)の分解により生成した酸素の電池内での滞留が抑制され、電池の安全性が向上し、サイクル特性の低下が抑制される。
【0017】
二次電池の信頼性の確保等の観点から、脱酸素剤は、セリウム酸化物、ゼオライトおよびCa-Si合金(以下、セリウム酸化物等と称する。)よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。セリウム酸化物等は、酸素を吸収(吸着)する材料である。セリウム酸化物等は、酸素の吸収に際し、水等の二次電池に影響を与える化合物を生成しない。セリウム酸化物等は、酸素吸収に際し、水等の他の材料を必要としない。
【0018】
優れた酸素吸収能を有する観点から、中でも、セリウム酸化物がより好ましい。セリウム酸化物は、例えば、一般式(3):CeO2-xで表され、0<x<2を満たす。セリウム酸化物の酸素欠陥が酸素吸収能に寄与する。酸素吸収能の更なる向上の観点から、式(3)中のxは、0.1≦x<2を満たしてもよい。量産性やコスト等の観点から、式(3)中のxは、0.2≦x≦0.4を満たすこと(例えばCeO1.75)が、好ましい。
【0019】
正極合剤中の正極添加剤に含まれるFeに対する、電池中のセリウム酸化物に含まれるCeの原子比:Ce/Feは、例えば0.1以上80以下であればよく、0.9以上50以下であってもよい。この場合、負極の不可逆容量に起因する電池容量の低下を抑制する効果と、電池内で酸素の滞留を抑制する効果とが、バランス良く得られる。正極合剤中の正極添加剤に含まれるFe量、および電池中のセリウム酸化物に含まれるCe量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により求められる。
【0020】
二次電池の内部に、酸素を透過可能な樹脂と、樹脂中に分散している脱酸素剤と、を含む脱酸素樹脂が配置されていることが好ましい。酸素との反応性が極めて高いセリウム酸化物等の脱酸素剤は樹脂中に分散させておくことが好ましい。脱酸素剤を樹脂中に分散させることにより、高い安全性およびハンドリング性が得られ易い。また、酸素吸収速度を制御し易い。樹脂は、化学的に安定であり、かつ、脱酸素剤を安定して保持可能な材料が好ましい。脱酸素樹脂は、ポリオレフィン等のセパレータに使用可能な樹脂を含んでもよい。電極合剤中で結着剤に使用可能な樹脂を含んでもよい。
【0021】
脱酸素樹脂は、正極合剤中に分散させてもよい。この場合、正極合剤中の脱酸素樹脂の含有量は、正極合剤中の正極活物質の総量に対して1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。正極合剤中の脱酸素樹脂の含有量が正極活物質の総量に対して1質量%以上である場合、電池内での酸素の滞留を抑制する効果が十分に得られる。正極合剤中の脱酸素樹脂の含有量が正極活物質の総量に対して10質量%以下である場合、正極合剤中に含ませる正極活物質の量を十分に確保しやすく、電池の容量およびサイクル特性を高めやすい。
【0022】
正極合剤中に脱酸素樹脂を分散させる方法としては、例えば、正極活物質、脱酸素樹脂および分散媒等を含む正極スラリーを調製し、当該スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥により分散媒を除去する方法が挙げられる。正極スラリーは、更に、結着剤等の他の成分を含んでもよい。酸素吸収速度の制御等の観点から、脱酸素樹脂は、正極スラリー中の分散媒(N-メチル-2-ピロリドン等)に溶解し難い樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン等)を含むことが好ましい。
【0023】
脱酸素樹脂は、正極またはセパレータの表面に担持させてもよい。脱酸素樹脂は、正極またはセパレータの表面に、連続的に担持させてもよく、間欠的に担持させてもよい。脱酸素樹脂は、正極の一方の表面に担持させてもよく、正極の両面に担持させてもよい。同様に、脱酸素樹脂は、セパレータの一方の表面に担持させてもよく、セパレータの両面に担持させてもよい。ただし、セパレータの正極側の表面に担持させることが好ましい。
【0024】
脱酸素樹脂を正極またはセパレータの表面に担持させる方法は、例えば、以下のとおりである。
樹脂溶液と、樹脂溶液中に分散している脱酸素剤とを含む脱酸素剤の分散液(以下、脱酸素剤を含む樹脂溶液とも称する。)を調製する。得られた分散液を正極またはセパレータに塗布し、乾燥により樹脂溶液中の溶媒を除去する。このようにして、正極またはセパレータの表面に脱酸素樹脂層を形成する。溶媒を除去することで、多孔質な脱酸素樹脂層を形成し得るため、正極と非水電解質との間でのリチウムイオンの移動は円滑に行われる。樹脂溶液に溶解する樹脂は、酸素吸収速度の制御等の役割とともに、正極またはセパレータの表面に脱酸素剤を付着させる結着剤の役割を兼ねることができる。塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、スプレーコート法、ダイコート法、ロールコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等が用いられる。
【0025】
また、上記の脱酸素剤を含む樹脂溶液以外に、分散媒と、分散媒中に分散している脱酸素樹脂とを含む脱酸素樹脂の分散液を用いてもよい。この場合、脱酸素樹脂は、分散媒に溶解し難い樹脂を含む。脱酸素樹脂の分散液を正極またはセパレータに塗布し、乾燥により分散媒を除去し、正極またはセパレータの表面に脱酸素樹脂を担持させてもよい。分散媒には、例えば、水やアルコールが用いられる。正極またはセパレータの表面に脱酸素樹脂をより確実に担持させる目的で、分散媒に結着剤を添加してもよい。
【0026】
ここで、正極の表面に脱酸素樹脂を担持させる工程の一例を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、正極の表面に脱酸素剤を含む樹脂溶液を塗布する工程の一例を示す概略図である。
【0027】
図1に示すように、帯状の正極11をX方向に搬送させながら、ノズル15を有するダイコータ等を用いて、脱酸素剤を含む樹脂溶液14を正極11の表面に連続的または間欠的に塗布する。塗布後、乾燥により樹脂溶液14の溶媒を除去する。このようにして、正極11の表面に脱酸素樹脂層を形成する。上記以外に、ダイコータ等を用いて、セパレータの表面に脱酸素剤を含む樹脂溶液14を塗布し、脱酸素樹脂層を形成してもよい。
【0028】
樹脂溶液は、水と水に溶解する樹脂(水溶性樹脂)とを含んでもよく、非水溶媒と非水溶媒に溶解する樹脂(非水溶性樹脂)とを含んでもよい。水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0029】
非水溶性樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0030】
非水溶性樹脂を溶解させる非水溶媒としては、例えば、低沸点の非水溶媒が用いられ、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、リン酸ヘキサメチルトリアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
正極の表面に脱酸素樹脂を担持させる場合、樹脂溶液の溶媒(脱酸素樹脂の分散媒)は、正極スラリーに含まれる分散媒と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0031】
また、二次電池の内部に、脱酸素樹脂がシート状に加工された脱酸素シートを配置してもよい。脱酸素シートは、例えば、脱酸素剤を含む樹脂組成物をシート状に成形することにより得られる。成形方法には、押出成形法等の公知の方法を用いてもよい。樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂および脱酸素剤を含む。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン等が用いられる。加工性等の観点から、中でも、低密度ポリエチレンが好ましい。樹脂組成物は、他の添加剤を更に含んでもよい。例えば、シートの強度を高める目的で無機充填剤を他の添加剤として用いてもよい。
【0032】
電池内において、脱酸素シート(脱酸素樹脂)は、例えば、定格容量1mAhあたり0.15mg以上4.7mg以下で配置されていることが好ましい。この場合、高容量を得るための正極活物質および負極活物質の量を十分に確保しつつ、電池内での酸素の滞留を抑制する効果が十分に得られる。
【0033】
脱酸素シートは、正極とセパレータとの間に配置してもよい。脱酸素剤が正極より生成した酸素に接触し易く、電池内での酸素の滞留が抑制され易い。押出成形法等により多孔質な脱酸素シートを得ることができるため、正極と非水電解質との間でのリチウムイオンの移動は円滑に行われる。脱酸素シートは、セパレータとしても機能し得る。
【0034】
ここで、本発明の一実施形態に係る二次電池を、
図2を参照しながら説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る二次電池の要部の分解断面図である。
正極21は、正極集電体21aと、正極集電体21aの両面に形成された正極合剤層21bとを有する。負極22は、負極集電体22aと、負極集電体22aの両面に形成された負極合剤層22bとを有する。セパレータ23が、正極21と負極22との間に配されている。脱酸素シート24が、正極21とセパレータ23との間に配置されている。
【0035】
二次電池は、正極と負極とが、セパレータを介して捲回された電極群を備えてもよい。この場合、電極群の中心部に空間が形成される。脱酸素樹脂が当該空間に充填されていることが好ましく、脱酸素シートが捲回された状態で当該空間に配置されていることがより好ましい。捲回型の電極群の中心部に形成される空間を利用して、電池内に脱酸素樹脂を配置することができる。電極群の中心部のデッドスペースを有効に活用することができ、脱酸素樹脂を別途配置するスペースを設ける必要がないため、高エネルギー密度を有する電池が得られ易い。
【0036】
ここで、本発明の他の実施形態に係る二次電池を、
図3を参照しながら説明する。
図3は、本発明の他の実施形態に係る二次電池の縦断面図である。
【0037】
図3において、二次電池10は、開口を有する有底の電池ケース1、開口を塞ぐ封口板2、電池ケース1の開口端部と封口板2との間に介在するガスケット3、電池ケース1内部に収納される捲回型の電極群4、ならびに電極群4に含浸された非水電解質(図示せず)を具備する。電極群4は、正極リード5aが取り付けられた帯状の正極5と、負極リード6aが取り付けられた帯状の負極6とを、セパレータ7を介して捲回した捲回体である。電極群4の上下端面には、上部絶縁板8aおよび下部絶縁板8bが配置される。負極リード6aの一端は電池ケース1に溶接され、正極リード5aの一端は封口板2に接続されている。捲回型の電極群4の中心部に形成された空間に、脱酸素樹脂9が充填されている。脱酸素樹脂9の充填は、例えば、脱酸素シートの捲回体を当該空間に配置することにより行われる。
【0038】
正極活物質としては、非水電解質を備える二次電池で使用される公知の正極活物質を用いることができる。高容量およびサイクル特性向上の観点から、正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物を含むことが好ましい。層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、リチウムとニッケルとコバルトとマンガンとを含む酸化物、リチウムとニッケルとコバルトとアルミニウムとを含む酸化物等が挙げられる。また、正極活物質は、マンガン酸リチウム等のスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物を含んでもよい。
【0039】
リチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-bO2、LiaCobM1-bOc、LiaNi1-bMbOc、LiaMn2O4、LiaMn2-bMbO4、LiMePO4、Li2MePO4Fが挙げられる。ここで、Mは、Na、Mg、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sc、Ti、V、Cr、Y、Zr、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、BiおよびBよりなる群から選択される少なくとも1種である。Meは、少なくとも遷移元素を含む(例えば、Meは、Mn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも1種を含む)。0.8≦a≦1.2、0≦b≦0.9、2.0≦c≦2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、放電状態の値であり、活物質作製直後の値に対応し、充放電により増減する。
【0040】
負極活物質としては、非水電解質を備える二次電池で使用される公知の負極活物質を用いることができる。高容量化の観点から、負極活物質は、ケイ素含有材料および炭素材料よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0041】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)等が例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子等が含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ケイ素含有材料としては、SiO2相およびSiO2相内に分散するSi粒子を含むSiOx(0<x<2)、リチウムシリケート相およびリチウムシリケート相内に分散するSi粒子を含む複合材料(以下、LSXと称する)、ケイ素と錫等のケイ素以外の金属元素とを含む合金等が挙げられる。LSXは、SiOxよりも不可逆容量が小さく、かつ、充放電時の膨張および収縮の度合いが小さい。LSXのリチウムシリケート相は、例えば、式:Li2ySiO2+y(0<y<2)で表される組成を有し得る。
【0043】
負極活物質の中でもケイ素含有材料は、高容量を有する反面、不可逆容量が大きいことがある。よって、ケイ素含有材料を用いる場合、正極添加剤による、負極の不可逆容量に起因する電池容量の低下抑制の効果が顕著に得られる。
【0044】
充放電時のケイ素含有材料の膨張および収縮が負極に及ぼす影響をより小さくする観点から、ケイ素含有材料と炭素材料を併用することが好ましい。この場合、Si粒子の高容量を負極に付与しながら優れたサイクル特性を得ることが可能になる。この場合、ケイ素含有材料と炭素材料との合計に占めるケイ素含有材料の割合は、例えば、1質量%以上25質量%以下が好ましく、2質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立し易くなる。
【0045】
以下、二次電池の構成について詳細に説明する。
(正極)
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層と、を具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。正極合剤は、必須成分として正極活物質および正極添加剤を含み、任意成分として、結着剤、導電剤、および増粘剤等を含むことができる。
【0046】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂等のポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体等のアクリル樹脂;ポリアクリルニトリル、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)等のゴム状材料等が例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
導電剤としては、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛;アセチレンブラック等のカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウム等の金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類;酸化チタン等の導電性金属酸化物;フェニレン誘導体等の有機導電性材料等が例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩等の塩も含む)、メチルセルロース等のセルロース誘導体(セルロースエーテルなど);ポリビニルアルコール等の酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシド等のポリアルキレンオキサイド等)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
正極集電体としては、例えば、無孔の導電性基板(金属箔等)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシート等)が使用される。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等が例示できる。正極集電体の厚さは、特に限定されないが、例えば、3~50μmである。
【0050】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒等が例示できる。
【0051】
(負極)
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体の表面に形成された負極合剤層と、を具備する。負極合剤層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。負極合剤は、必須成分として負極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤、および増粘剤等を含むことができる。結着剤、増粘剤、および分散媒としては、正極で例示したものを用いることができる。また、導電剤としては、黒鉛を除き、正極で例示したものを用いることができる。
【0052】
負極集電体としては、例えば、無孔の導電性基板(金属箔等)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシート等)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等が例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、負極の強度と軽量化とのバランスの観点から、例えば、1~50μmである。
【0053】
(セパレータ)
セパレータとしては、樹脂製の微多孔フィルム、不織布、織布等が用いられる。樹脂には、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドイミド等が用いられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。
【0054】
(非水電解質)
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解するリチウム塩とを含む。
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状炭酸エステル;ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等の鎖状炭酸エステル;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル等が挙げられる。非水溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2等が挙げられる。リチウム塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
二次電池は、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる捲回型の電極群を備えてもよく、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群を備えてもよい。二次電池は、例えば、円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る二次電池は、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラ等の駆動用電源、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車、プラグインHEV等における電気モータ駆動用の主電源または補助電源、電動工具、掃除機、ロボットなどの駆動用電源等に用いることができる。
【0058】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0059】
1:電池ケース、2:封口板、3:ガスケット、4:電極群、5a:正極リード、5:正極、6a:負極リード、6:負極、7:セパレータ、8a:上部絶縁板、8b:下部絶縁板、9:脱酸素樹脂、10:二次電池、11:正極、14:脱酸素剤を含む樹脂溶液、15:ノズル、21:正極、21a:正極集電体、21b:正極合剤層、22:負極、22a:負極集電体、22b:負極合剤層、23:セパレータ、24:脱酸素シート