(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】膜電極接合体、電気化学デバイスおよび電気化学システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20240226BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20240226BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240226BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240226BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20240226BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240226BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240226BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20240226BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20240226BHJP
【FI】
H01M8/1213
C01G25/00
C01G51/00 B
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M4/86 T
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1246
H01M8/1253
(21)【出願番号】P 2021515859
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020010040
(87)【国際公開番号】W WO2020217742
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019086176
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】尾沼 重徳
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 智宏
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-227070(JP,A)
【文献】特開2013-239321(JP,A)
【文献】特開2017-188439(JP,A)
【文献】特開2016-105375(JP,A)
【文献】特開2018-139180(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230247(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104806(WO,A1)
【文献】特表2003-511834(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0071116(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
C01G 25/00
C01G 51/00
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質を含む電解質膜と、前記電解質膜に接合された第1電極と、を備え、
前記固体電解質は、
組成式(1):BaZr
1-xM
xO
3-γ
により表される化合物であり、
前記組成式(1)において、Mが、Sc、Er、Ho、Dy、Gd、Y、In、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、かつ、0<x<1および0<γ<0.5を満たし、
前記第1電極は、ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物を含む、
膜電極接合体。
【請求項2】
前記固体電解質は、前記組成式(1)において、Mが、Y、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素である、
請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記固体電解質は、前記組成式(1)において、0.05<x<0.3、を満たす、
請求項1または2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記固体電解質は、前記組成式(1)において、Mが、LuおよびYbからなる群より選択される少なくとも1種の元素である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記固体電解質は、前記組成式(1)において、Mが、Ybであり、かつ、x=0.2、を満たす、
請求項1から4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物は、
組成式(2):La
1-mSr
mCo
yFe
zPd
1-y-zO
3-δ
により表される化合物であり、
前記組成式(2)において、0≦m≦0.5、0.1≦y≦0.9、0.1≦z≦0.9、y+z<1、および0≦δ≦0.5を満たす、
請求項1から5のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物は、前記組成式(2)において、0.01≦1-y-z≦0.05、を満たす、
請求項6に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物は、前記組成式(2)において、m=0.4、y=0.38、および、z=0.57、を満たす、
請求項6または7に記載の膜電極接合体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の膜電極接合体と、
第2電極と、を備え、
前記電解質膜は、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される、
電気化学デバイス。
【請求項10】
請求項9に記載の電気化学デバイスを備える、
電気化学システム。
【請求項11】
温度制御部をさらに備え、
前記温度制御部は、前記電気化学デバイスの作動温度が600℃以下となるように制御する、
請求項10に記載の電気化学システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体、電気化学デバイスおよび電気化学システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物からなる固体電解質を用いた電解質膜を含む膜電極接合体を備える電気化学デバイスとして、例えば、固体酸化物形燃料電池、水電解セル、および水蒸気電解セルが知られている。上記電気化学デバイスの固体電解質には、安定化ジルコニアに代表される酸化物イオン(O2-)伝導体が広く用いられている。酸化物イオン伝導体は、低温ほどイオン導電率が低下する。このため、例えば、安定化ジルコニアを固体電解質に用いた固体酸化物形燃料電池では、700℃以上の動作温度が望ましい。
【0003】
しかし、固体酸化物形燃料電池など、固体酸化物からなる固体電解質を用いた電気化学デバイスにおいて、その動作温度の高温化に伴い、断熱材の高性能化、または、断熱材厚みの増大、による高コスト化、および、構造部材に使用する金属材料に高価な特殊耐熱金属が必要となるなど、システム全体のコストが上昇する課題がある。また、高温作動により、起動および停止の際、構成部材の熱膨張の違いによってクラックが生じ易くなる等のシステムの信頼性低下、および、起動時間ならびにエネルギーの増大、も課題である。そのため、固体酸化物からなる固体電解質を用いた電気化学デバイスの動作温度の低温化は、その実用化において大きな目標の一つとなっている。
【0004】
非特許文献1では、動作温度の低温化を図ることができる空気極としてパラジウム(Pd)含有ランタンストロンチウムコバルト鉄化合物、電解質と空気極との接触で進行する二者間の反応を防止するための反応防止層としてCe0.9Gd0.1O1.95、電解質膜として8mol%イットリア(Y2O3)添加のジルコニア、および、燃料極としてニッケル(Ni)とイットリア添加のジルコニアとの混合体であるサーメット、を用いて電気化学セルが構成され、600℃~800℃での活性を補う固体電解質層積層体、すなわち、空気極と電解質膜とを組み合わせた膜電極接合体を備える電気化学デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Shaoli Guo et. al.,“B-Site Metal (Pd, Pt, Ag, Cu, Zn, Ni) Promoted La1-xSrxCo1-yFeyO3-δ Perovskite Oxides as Cathodes for IT-SOFCs”, Catalysts, MDPI,2015, Vol.5, Issue 1, pp.366-391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の膜電極接合体を用いた電気化学デバイスでは、600℃以下の低温での発電効率が不十分である。
【0007】
そこで、本開示では、発電効率を向上させることができる膜電極接合体等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様における膜電極接合体は、固体電解質を含む電解質膜と、前記電解質膜に接合された第1電極と、を備え、前記固体電解質は、組成式(1):BaZr1-xMxO3-γにより表される化合物であり、前記組成式(1)において、Mが、Sc、Er、Ho、Dy、Gd、Y、In、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、かつ、0<x<1および0<γ<0.5を満たし、前記第1電極は、ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物を含む。
【0009】
本開示の一態様における電気化学デバイスは、上記膜電極接合体と、第2電極と、を備え、前記電解質膜は、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される。
【0010】
本開示の一態様における電気化学システムは、上記電気化学デバイスを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る膜電極接合体等は、発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る膜電極接合体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、各種のドーパントを含むBZMの性質の表を示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態2に係る電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施例および比較例1~3における評価用膜電極接合体の、使用材料、および、600℃でのオーミック抵抗ならびに反応抵抗の測定結果の表を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例および比較例1~3における評価用膜電極接合体の、使用材料、および、各温度での端子間電圧、オーミック抵抗ならびに反応抵抗の測定結果の表を示す図である。
【
図6】
図6は、交流インピーダンス測定結果の一例をコールコールプロットによって示す図である。
【
図7A】
図7Aは、600℃での実施例1および比較例1における評価用膜電極接合体の電流-電圧性能を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、500℃での実施例1および比較例1における評価用膜電極接合体の電流-電圧性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の一態様を得るに至った経緯)
空気極としてランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム化合物(以下、「LSCFPd」と称する)と、電解質膜として酸化物イオン伝導性の固体電解質であるイットリア添加のジルコニア(以下、「YSZ」と称する)と、を備える膜電極接合体を、600℃程度で用いた場合、固体電解質のイオン伝導が固体電解質の電子伝導に対して、圧倒的に大きくなる。このため、膜電極接合体を備える電気デバイスの外部取出し電流(以下、「外部電流」と称する)が0A時の端子間電圧は、ネルンストの式から求められる電圧にほぼ一致する。
【0014】
具体的には、本発明者らは、非特許文献1に開示された従来の膜電極接合体に対して、低温で高イオン導電率となる膜電極接合体について検討を行った。その結果、以下の知見を得た。すなわち、本発明者らは、非特許文献1に開示されているように、固体電解質に酸化物イオン伝導体であるYSZ、または、Ce0.9Gd0.1O1.95などの一部をガドリニア(Gd2O3)で置換したセリア(CeO2)(以下、「GDC」と称する)を備える膜電極接合体を電気化学デバイス(例えば、燃料電池)に用いる場合、空気極にランタンストロンチウムコバルト鉄化合物(以下、「LSCF」と称する)を用いた場合と、空気極にLSCFよりも高活性なLSCFPdを用いた場合と、を比べて、外部電流0Aにおける端子間電圧は同じである知見を得た。
【0015】
一方で、固体電解質として、イットリウム添加のジルコン酸バリウム(以下、「BZY」と称する)、または、BZYを構成するイットリウムをイッテルビウムに置換した固体電解質(以下、「BZYb」と称する)と、空気極としてランタンストロンチウムコバルト化合物(以下、「LSC」と称する)からなるカソード電極層とを備えた、500℃~800℃で作動するプロトン伝導性を有する固体電解質を用いた膜電極接合体が提案されている。BZYおよびBZYbに代表されるプロトン(H+)伝導体を固体電解質に用いた膜電極接合体では、固体電解質中のプロトン導電率に対し、ホール導電率が無視できない程度に大きい。そのため、外部電流0Aにおける、膜電極接合体を用いた電気デバイスの端子間電圧は、ネルンストの式から算出される理論電圧との差異が発生し、理論電圧よりも低くなる。ここで、発電に高活性の空気極材料を用いると、外部電流0Aにおける交換電流密度が向上する。これにより、外部電流0A時の端子間電圧が向上し、端子間電圧向上により発電効率も向上する。ひいては、外部電流0A以上においても、端子間電圧が向上し、発電効率も向上する。
【0016】
このように、プロトン伝導性を有する固体電解質を用いた膜電極接合体の発電効率を向上させるため、外部電流0A時の端子間電圧を向上する膜電極接合体の実現が望まれる。
【0017】
具体的には、電気化学デバイスに用いられる膜電極接合体が、ランタンストロンチウムコバルト鉄化合物(以下、「LSCF」と称する)からなる空気極と、BaZr1-xMxO3-γで表される固体電解質からなる電解質膜とを組み合わせた構成の場合、外部電流0Aにおける端子間電圧が低く、ひいては外部電流0A以上においても、十分に高い端子間電圧および発電効率が得られないという課題を見出した。そこで、本発明者らは、さらに外部電流0Aにおける端子間電圧を高くし、高い発電効率が得られる電極と電解質膜との組合せについて検討し、本開示に至った。
【0018】
すなわち、本発明者らは、BaZr1-xMxO3-γ(ここで、0<x<1および、0<γ<0.5が満たされる)で表されるプロトン伝導体を電解質膜に用い、LSCFを構成するコバルトと鉄のサイトの一部をパラジウムで置換したLSCFPdを空気極に用いた膜電極接合体では、LSCFからなる空気極とBaZr1-xMxO3-γからなる電解質との膜電極接合体に比べ、外部電流0Aにおける端子間電圧が向上し、ひいては外部電流0A以上においても、端子間電圧が大きくなり、600℃以下の低温でも発電効率を高めることができることを見出した。
【0019】
これは、LSCFPdからなる空気極と、組成式がBaZr1-xMxO3-γ(ここで、0<x<1および0<γ<0.5を満たす、以下「BZM」と称する)で表される固体電解質からなる電解質膜とを組合せた膜電極接合体は、700℃より低温の600℃、更に低温の500℃において、LSCFからなる空気極とBZMからなる電解質膜とを組合せた膜電極接合体よりも、空気極と電解質膜とガスとの間に生じる空気極での反応抵抗成分を低減させることができるためと考えられる。
【0020】
さらに、電解質として用いられるBZMがプロトン伝導体であるとともにホール伝導体でもあるため、発電状態では、プロトンによる電流(以下「プロトン電流」と称する)に対し、ホールによる電流(以下「ホール電流」と称する)が無視できなくなる。そのため、外部電流0Aにおいて、プロトン電流とホール電流とが同一値となり、プロトン電流が流れているため、実質的に発電状態となり、理論起電力からずれることになる。発電状態においては、BZMからなる電解質と空気極との組み合わせにより、空気極での反応抵抗成分および反応活性が変化する。空気極として、LSCFよりもLSCFPdが高反応活性であるため、外部電流0Aにおける端子間電圧が大きくなり、ひいては外部電流0A以上においても、端子間電圧が大きくなる。これにより、膜電極接合体全体の発電性能が向上すると考えられる。
【0021】
プロトン伝導性の固体電解質を用いた場合、空気極では、下記の式(A)の反応が進行する。プロトン伝導性の固体電解質であるBZMを電解質膜に用い、LSCFを空気極に用いた場合には、空気極中をプロトンがほとんど伝播しないため、下記の式(A)の反応が、三相界面(すなわち、電解質(BZM)と、空気極(LSCF)と、空気との界面)でのみ進行すると考えられる。つまり、プロトンが存在するBZMと反応触媒となる空気極と空気との三相界面で、下記の式(A)の反応が進行する。それに対して、Pdは水素透過能、および水素吸着能が高いため、プロトン伝導性の固体電解質であるBZMを電解質膜に用い、LSCFPdを空気極に用いた場合には、下記の式(A)の反応が、二相界面(すなわち、空気極(LSCFPd)と、空気との界面)においても進行する可能性が高い。つまり、LSCFPdを空気極に用いた場合には、空気極中をプロトンが伝播し、空気極中にプロトンが存在できるため、二相界面で広範囲にわたって下記の式(A)の反応が進行する可能性がある。このため、LSCFPdを空気極に用いた場合には、反応抵抗成分を大幅に低減させることができていると考えられる。
【0022】
2H+ + 1/2O2 + 2e-→ H2O ・・・(A)
【0023】
なお、酸化物イオン伝導性のYSZまたはGDCを電解質膜に用いた場合には、600℃の低温での電子伝導性が低いため、発電状態において酸化物イオンによる電流がほぼすべてとなるため、外部電流0Aにおける端子間電圧は、空気極の活性によって変化しない。
【0024】
酸化物イオン伝導性の固体電解質を用いた場合、空気極では、下記の式(B)の反応が進行する。酸化物イオン伝導性の固体電解質であるYSZまたはGDCを電解質膜に用いた場合には、空気極としてLSCFおよびLSCFPdのいずれを用いても、下記の式(B)の反応は、プロトンが関与しないため、二相界面(すなわち、空気極と空気との界面)で進行する。同様に空気極としてLSCFPdまたはLSCFを用いた場合であっても、酸化物イオン伝導性の固体電解質は、下記の式(B)の反応が進行し、プロトン伝導性の固体電解質は、上記の式(A)の反応が進行する。つまり、酸化物イオンの反応が進行する下記の式(B)の反応は、プロトンが反応に寄与しないために、空気極としてLSCFおよびLSCFPdのいずれを用いても、二相界面で進行したと考えられる。このため、酸化物イオン伝導性の固体電解質を用いた場合、空気極として高反応活性であるLSCFPdを用いた場合にも、プロトン伝導性固体電解質BZMおよび空気極LSCFPdとの比較において、反応抵抗成分が大きくは低減しないと考えられる。
【0025】
1/2O2 + 2e- → O2- ・・・(B)
【0026】
上記の知見は、これまで明らかにされていなかったものであり、新規の課題を発見し、顕著な作用効果を奏する新規な技術的特徴を有するものである。本開示では、具体的には以下に示す態様を提供する。
【0027】
(本開示の概要)
本開示の一態様に係る膜電極接合体は、固体電解質を含む電解質膜と、前記電解質膜に接合された第1電極と、を備え、前記固体電解質は、組成式(1):BaZr1-xMxO3-γにより表される化合物であり、前記組成式(1)において、Mが、Sc、Er、Ho、Dy、Gd、Y、In、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、かつ、0<x<1および0<γ<0.5を満たし、前記第1電極は、ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物を含む。
【0028】
これにより、第1電極と、電解質膜と、空気の気相との間における反応抵抗を低減させることができ、結果的に、膜電極接合体全体の反応抵抗が低下し、電気デバイスとして用いた場合の外部電流0Aにおける端子間電圧が向上し、ひいては外部電流0A以上における端子間電圧も向上する。よって、外部電流および端子間電圧が高い状態で使用でき、発電効率を向上させることができる。
【0029】
また、例えば、前記固体電解質は、前記組成式(1)において、Mが、Y、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であってもよい。
【0030】
これにより、固体電解質のプロトン導電率が高くなりやすい。よって、膜電極接合体の抵抗が低下し、発電効率を向上させることができる。
【0031】
また、例えば、前記固体電解質は、前記組成式(1)において、0.05<x<0.3、を満たしてもよい。
【0032】
これにより、組成式(1)において、0.05<xが満たされる場合、固体電解質の性能が向上し、また、x<0.3が満たされる場合、固体電解質の結晶安定性が向上する。したがって、組成式(1)において、0.05<x<0.3が満たされることにより、固体電解質の性能向上、および、耐久安定性向上を両立できる。
【0033】
また、例えば、前記固体電解質は、前記組成式(1)において、Mが、LuおよびYbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であってもよい。
【0034】
これにより、固体電解質のプロトン導電率が高くなりやすく、さらに、Niを含む化合物と混合焼成した場合に、炭酸ガスへの耐久性低下の原因となる不純物が生成しにくくなる。よって、発電効率の性能向上、および、信頼性向上を両立できる。
【0035】
また、例えば、前記固体電解質は、前記組成式(1)において、Mが、Ybであり、かつ、x=0.2、を満たしてもよい。
【0036】
これにより、固体電解質の性能、炭酸ガスへの耐久性および結晶安定性が両立される。よって、発電効率、信頼性および耐久安定性を向上させることができる。
【0037】
また、例えば、前記ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物は、組成式(2):La1-mSrmCoyFezPd1-y-zO3-δにより表される化合物であり、前記組成式(2)において、0≦m≦0.5、0.1≦y≦0.9、0.1≦z≦0.9、y+z<1、および0≦δ≦0.5を満たしてもよい。
【0038】
これにより、組成式(2)において、0≦m、0.1≦y、およびz≦0.9が満たされる場合、第1電極の性能が向上し、また、m≦0.5、y≦0.9、および0.1≦zが満たされる場合、第1電極の耐久性が向上する。したがって、組成式(2)において、0≦m≦0.5、0.1≦y≦0.9、および0.1≦z≦0.9が満たされることにより、第1電極の性能と耐久性とが両立できる。
【0039】
そのため、膜電極接合体の全体の反応抵抗の大きさが低減し、電気デバイスとして用いた場合の外部電流0Aにおける端子間電圧も向上する。よって、外部電流および端子間電圧が高い状態で使用できるようになり、発電効率を向上させることができる。
【0040】
また、例えば、前記ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物は、前記組成式(2)において、0.01≦1-y-z≦0.05、を満たしてもよい。
【0041】
これにより、組成式(2)において、0.01≦1-y-zが満たされる場合、第1電極の電極としての活性が向上し、また、1-y-z≦0.05が満たされる場合、第1電極の結晶安定性が向上する。したがって、組成式(2)において、0.01≦1-y-z≦0.05が満たされることにより、空気極の性能向上、および、耐久安定性向上を両立できる。
【0042】
また、例えば、前記ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物は、前記組成式(2)において、m=0.4、y=0.38、および、z=0.57、を満たしてもよい。
【0043】
これにより、第1電極の性能および耐久性がさらに向上する。よって、膜電極接合体全体の抵抗が低減し、耐久安定性も向上する。
【0044】
また、本開示の一態様に係る電気化学デバイスは、上記膜電極接合体と、第2電極と、を備え、前記電解質膜は、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される。
【0045】
これにより、上記膜電極接合体と第2電極とを備えた電気化学デバイスとなるため、抵抗が小さく、外部電流0Aにおける端子間電圧が向上し、ひいては外部電流0A以上における端子間電圧が向上する。よって、外部電流および端子間電圧が高い状態で使用でき、発電効率が向上する。
【0046】
また、本開示の一態様に係る電気化学システムは、上記電気化学デバイスを備える。
【0047】
これにより、上記電気デバイスを備える電気化学システムであるため、発電効率が向上した電気化学システムが実現できる。
【0048】
また、前記電気化学システムは、温度制御部をさらに備えてもよい。前記温度制御部は、前記電気化学デバイスの作動温度が600℃以下となるように制御する。
【0049】
これにより、上記膜電極接合体を備えた電気化学システムであるため、600℃以下の動作温度でも発電効率が向上した電気化学システムが実現できる。
【0050】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0051】
なお、以下で説明される実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0052】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0053】
また、本明細書において、平行などの要素間の関係性を示す用語、および、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。なお、本明細書における「厚み方向」とは、電極および電解質膜が積層される方向である。
【0054】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る膜電極接合体10の構成を模式的に示す断面図である。
図1には、膜状の膜電極接合体10の厚み方向に切断した場合の断面が示されている。
図1に示されるように、膜電極接合体10は、固体電解質を含む電解質膜11と、電解質膜11に接合された空気極12とを備える。つまり、膜電極接合体10は、電解質膜11と空気極12とが積層された構造を有する。本明細書において、空気極12は、第1電極の一例である。
【0055】
電解質膜11は、上述のように、プロトン伝導性を有する固体電解質を含む。固体電解質は、組成式(1):BaZr1-xMxO3-γで表される化合物(BZM)である。組成式(1)において、Mは、Sc、Er、Ho、Dy、Gd、Y、In、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、かつ、0<x<1を満たす。以下では、Mをドーパントと称する場合がある。また、組成式(1)において、γの値は、0<γ<0.5を満たす。組成式(1)において、xの値が大きくなると固体電解質の性能が向上しやすい。また組成式(1)において、xの値が小さくなると固体電解質の結晶構造が安定になりやすい。固体電解質の性能向上および耐久安定性向上を両立する観点から、固体電解質は、組成式(1)において、0.05<x<0.3を満たすとよく、更にはx=0.2を満たすとよい。
【0056】
図2は、x=0.20で各種のドーパントを含むBZMの性質の表を示す図である。具体的に、
図2には、ドーパントのイオン半径が小さい順に並べられ、各ドーパントを含むBZMとNiOとを混合焼成した場合に不純物であるBaM
2NiO
5を生成したか否か、および、各ドーパントを含むBZMの600℃でのプロトン導電率が記載されている。BZMは、不純物BaM
2NiO
5の生成により、炭酸ガスへの耐久性が低下しやすい。なお、導電率の結果の「-」は、測定データが無いことを意味する。組成式(1)において、M(ドーパント)は、プロトン導電率の観点から、Y、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であるとよい。プロトン導電率、および、Niを含む化合物と混合焼成した場合に不純物が生成しにくい観点から、組成式(1)において、Mは、LuおよびYbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であるとよい。
【0057】
上記のような組成式(1)となる固体電解質としては、例えばMがYbであり、x=0.2であるBaZr0.8Yb0.2O3-γであるとよい。これにより、発電効率および耐久性が向上した膜電極接合体10が得られやすい。なお、γの値は、0<γ<0.5を満たす。
【0058】
BZMは、上述のように、プロトン伝導性を有する。BZMは、例えば、元素MがYbであり、ZrとYbとのモル比率が8:2の場合には、600℃でおよそ0.011S/cmのプロトン導電率を有する。なお、電池100を構成する電解質膜11は、当該電解質膜11のオーミック抵抗(すなわち、IR抵抗)の低減を図るために、できるだけ薄膜化してもよい。
【0059】
空気極12は、ランタンストロンチウムコバルト鉄パラジウム複合酸化物(LSCFPd)を含む酸化物イオン・電子混合伝導体材料を用いて構成される。LSCFPdは、Pdを含むため、酸化物イオンおよび電子の伝導性以外に、更にプロトンの伝導性も付与されている可能性もある。空気極12は、LSCFPdのみで構成されてもよく、LSCFPdと他の酸化物イオン・電子混合伝導体材料とを組み合わせた構成であってもよい。さらには、例えば、空気極12は、電解質材料(例えば、BZM)を含んでいてもよい。
【0060】
空気極12は、例えば、固体酸化物形燃料電池の空気極として用いられる場合、気相中の酸素を電気化学的に還元する反応が生じる。このため、空気極12は、酸素の拡散経路を確保し、反応を促進するために、多孔体であってもよい。空気極12が多孔体である場合、例えば、気孔率が20体積%以上50体積%以下の多孔体であってもよい。
【0061】
LSCFPdは、
組成式(2):La1-mSrmCoyFezPd1-y-zO3-δにより表され、組成式(2)において、0≦m≦0.5、0.1≦y≦0.9、0.1≦z≦0.9、y+z<1および0≦δ≦0.5を満たす化合物であるとよい。組成式(2)において基本的な組成では、δは0であり、膜電極接合体10が使用される際に0以上0.5以下程度の範囲で変動する可能性がある。組成式(2)において、1-y-zの値が大きくなると電極としての活性が向上しやすく、1-y-zの値が小さくなるとLSCFPdの結晶構造が安定になりやすい。LSCFPdの、結晶安定性および電極としての活性の高さを両立する観点から、LSCFPdは、組成式(2)において、0.01≦1-y-z≦0.05、を満たすとよく、更にはm=0.4、y=0.38、および、z=0.57、を満たすとよい。また、LSCFPdは、組成式(2)において、1-y-z=0.05、0.19≦y≦0.38、および、0.57≦zを≦0.76を満たしてもよく、1-y-z=0.01、0.19≦y≦0.40、および、0.57≦zを≦0.79を満たしてもよい。
【0062】
実施の形態1に係る膜電極接合体10は、上記した空気極12を、上記した電解質膜11の一方側に積層させた構成であるため、膜電極接合体10に生じる反応抵抗を低減させることができる。このため、膜電極接合体10を用いた電気化学デバイスの発電効率の向上を図ることができる。
【0063】
(実施の形態2)
以下では、実施の形態2について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態2の説明において、実施の形態1との相違点を中心に説明し、全ての図を通じて同一または対応する構成部材には同一の参照符号を付して、その説明については省略する場合がある。
【0064】
実施の形態2に係る電気化学デバイスは、実施の形態1に係る膜電極接合体を含む。
【0065】
実施の形態2に係る電気化学デバイスは、第2電極を備える。電解質膜は、第1電極と第2電極との間に配置される。
【0066】
上記構成によると、発電効率を高めた電気化学デバイスを実現できる。
【0067】
以下、電気化学デバイスの一例として、電池の具体例が説明される。
【0068】
図3は、実施の形態2に係る電池100の構成を模式的に示す断面図である。
図3には、膜状の電池100の厚み方向に切断した場合の断面が示されている。実施の形態2に係る電池100は、実施の形態1に係る膜電極接合体10と、燃料極13と、を備える。
【0069】
図3に示されるように、電解質膜11は、空気極12と燃料極13との間に配置される。本明細書において、燃料極13は、第2電極の一例である。
【0070】
膜電極接合体10は、実施の形態1に係る膜電極接合体10と同じであるため、説明は省略する。
【0071】
燃料極13は、BaZr1-xMxO3-γ(MがLu、Tm、Y、YbおよびInから選ばれる1種類以上の元素であり、かつ、0<x<1、0<γ<0.5を満たす)の組成式で表されるプロトン伝導性を有する化合物と、Niとを含んでもよい。
【0072】
燃料極13は、Niと電解質膜11の固体電解質であるBZMとの混合物のサーメットであるとよい。
【0073】
なお、
図3においては、燃料極13上に電解質膜11が積層された構造であるが、燃料極13と電解質膜11との間に、電解質膜11とは異なるイオン伝導性材料で形成された別の層が形成されていてもよい。
【0074】
燃料極13が、例えば、固体酸化物形燃料電池の燃料極として用いられる場合、燃料極13では、気相中の水素をプロトンに酸化する反応が生じる。このため、燃料極13は、水素からプロトンへの酸化反応を促進するために、電子伝導性および水素の酸化活性を有するNiと、上記したプロトン伝導性を有する化合物との接合体として形成されてもよい。また、気体の水素の拡散経路を確保するため、燃料極13は多孔体であってもよい。燃料極13が多孔体である場合、例えば、気孔率が20体積%以上50体積%以下の多孔体であってもよい。
【0075】
また、膜電極接合体10を備えた電池100が、例えば固体酸化物形燃料電池に用いられる場合、電解質膜11の、空気極12が設けられている一方側の面に空気を、空気極12が設けられていない他方側の面に水素を含むガスをそれぞれ供給して発電する構成となる。そのため、電気化学デバイスが固体酸化物形燃料電池である場合、電解質膜11は、ガスタイトである必要がある。
【0076】
以上のように、実施の形態2に係る電池100は、空気極12と、電解質膜11と、燃料極13とを、この順番で積層させた構成を有するため、実施の形態1と同様に空気極12と電解質膜11とからなる膜電極接合体10の反応抵抗を低減でき、発電効率が向上する。
【0077】
また、実施の形態2に係る電気化学デバイスは、電池以外にも、ガスセンサ、水素ポンプ、または水電解装置等の電気化学デバイス等の用途に用いることができる。これにより、実施の形態1に係る膜電極接合体を備えるため、膜電極接合体での反応抵抗が低減し、それぞれ、センサ感度、ポンプ能力または電解能力が向上した電気デバイスが実現される。
【0078】
実施の形態2に係る電池100を燃料電池に用いる場合には、例えば、次のような電気化学システムとして使用する。まず、原料供給経路を通じて外部から供給された炭化水素ガスなどの原料が改質器に供給される。改質器は、供給された原料を改質し、水素含有ガスを生成する。改質器で生成された水素含有ガスは、ガス供給経路を通じて電池100の燃料極13に供給される。また、外部から供給された酸化剤ガスが別のガス供給経路を通じて空気極12に供給される。これにより、電池100は、供給された水素含有ガス中の水素と酸化剤ガス中の酸素との電気化学反応により発電する。このような燃料電池の電気化学システムは、実施の形態2に係る電池100を備えるため、高い発電効率を実現できる。
【0079】
また、実施の形態2に係る電気化学デバイスを用いた電気化学システムは、温度制御部をさらに備えてもよい。温度制御部は、電気化学デバイスの作動温度が600℃以下となるように制御する。このような電気化学システムは、実施の形態1に係る膜電極接合体を備えるため、600℃以下であっても、高い発電効率を実現できる。また、電気化学デバイスをより低温で作動させることにより、断熱材を削減することができる。これにより、電気化学デバイスの小型化および低コスト化を実現できる。
【0080】
(実施例)
以下、実施例にて本開示に係る膜電極接合体および電気デバイスを具体的に説明するが、本開示は以下の実施例のみに何ら限定されるものではない。
【0081】
[評価用膜電極接合体の製造]
以下、実施例1および比較例1~3における評価用膜電極接合体の製造方法について説明する。評価用膜電極接合体は、
図3に示される電池100と同様の構造を備える。
【0082】
電解質膜および燃料極の積層体に対し、実施例1および比較例1~3において用いる空気極材料のスラリーをそれぞれ準備した。そして、スクリーン印刷によって、上述した空気極材料のスラリーを、積層体の電解質膜における燃料極と反対側の面に塗布した。空気極材料の塗布面積は0.79cm2(Φ10mm)とした。空気極材料を塗布した積層体を、950℃で2時間、大気雰囲気のもと、焼成することで、空気極を電解質膜に焼き付けた。このようにして、評価用膜電極接合体を得た。得られた評価用膜電極接合体の電解質膜、空気極および燃料極は、それぞれ13μm、10μm、0.6mmの厚みを有していた。燃料極において、発電前にNiOをNiに還元する操作を700℃で4時間以上行う。このようにすることで、作製時の燃料極NiOとBZMの混合物を、還元後の発電時において、所定の気孔率(すはわち、20体積%以上50体積%以下)のNiとBZMとのサーメットとなる。
【0083】
図4は、実施例および比較例1~3における評価用膜電極接合体の、使用材料、および、600℃でのオーミック抵抗ならびに反応抵抗の測定結果の表を示す図である。
図5は、実施例および比較例1~3における評価用膜電極接合体の、使用材料、および、各温度での外部電流0Aにおける端子間電圧、オーミック抵抗ならびに反応抵抗の測定結果の表を示している。外部電流0Aにおける端子間電圧、オーミック抵抗ならびに反応抵抗は、発電性能の指標となる値である。使用時の電圧が高く保てるほど電池の発電効率が向上する。よって、外部電流0Aにおける端子間電圧は、高くなることで発電効率が向上する指標である。また、使用時の電流が大きくなると、抵抗値が大きいほど端子間電圧が低下しやすい。したがって、オーミック抵抗および反応抵抗は、低くなることで、発電効率が向上する指標である。
【0084】
空気極を構成する酸化物イオン・電子混合伝導体材料に関して、実施例1および比較例2に用いられるLSCFPdについては、
図4に示すように、La
0.6Sr
0.4Co
0.38Fe
0.57Pd
0.05O
3-δ(0≦δ≦0.5)を代表的な組成として用いた。比較例1および比較例3に用いられるLSCFについては、
図4に示すように、La
0.6Sr
0.4Co
0.4Fe
0.6O
3-δを代表的な組成として用いた。
【0085】
また、電解質膜を構成する固体電解質に関して、実施例1および比較例1に用いられるBZYbについては、
図4に示すように、BaZr
0.8Yb
0.2O
2.90を代表的な組成として用いた。比較例2および比較例2に用いられるYSZについては、
図4に示すように、[ZrO
2]
0.92[Y
2O
3]
0.08を代表的な組成として用いた。
【0086】
また、実施例1および比較例1~3に用いられる燃料極については、ニッケルと固体電解質膜を構成する固体電解質とのサーメットを用いた。
【0087】
[電解質膜および空気極の材料ならびに積層体の製造]
上述の電解質膜および空気極を構成する材料である、LSCFPd(Pd入りLSCF6446)、LSCF(LSCF6446)、BZYbおよびYSZ、ならびに、燃料極と電解質膜との積層体の製造方法について説明する。
【0088】
まず、電解質膜となるBZYbおよび燃料極のグリーンシートの製造方法について説明する。
【0089】
プロトン伝導体材料であるBZYbは、Ba(NO
3)
2(関東化学製)およびZrO(NO
3)
2・2H
2O(関東化学製)の粉末に、Yb(NO
3)
3・xH
2O(高純度化学製)の粉末をそれぞれ加えて出発原料として、クエン酸錯体法により作製した。具体的には、まず、所定の配分に秤量した各粉末を蒸留水に溶解させ、得られた水溶液を攪拌した。そして、水溶液に含まれる金属カチオンに対し1.5等量のクエン酸一水和物(関東化学製)および1.5等量のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)を水溶液に加えた。その後、水溶液を90℃で攪拌した。続いて、アンモニア水(28%)(関東化学製)を用いて、水溶液をpH7に調整した。pH調整後、ホットスターラーを用いて、95℃~240℃に加熱して溶媒を除去た。このようにして、固形物を得た。得られた固形物を乳鉢粉砕した後、約400℃で脱脂した。脱脂後、得られた粉末を円柱状にプレス成型して900℃で10時間、大気雰囲気のもと、仮焼した。仮焼後、粗粉砕した粉末を、プラスチック容器にジルコニア製ボールとともに入れ、さらにエタノールを加えて4日間以上ボールミルにより粉砕した。ボールミルによる粉砕後、ランプ乾燥によって溶媒を除去した。これにより、BaZr
0.8Yb
0.2O
3(BZYb)電解質材料粉末を得た。得られたBaZr
0.8Yb
0.2O
3(BZYb)電解質材料粉末、樹脂としてポリビニルブチラール、可塑剤としてブチルベンジルフタレート、溶剤として酢酸ブチル、および、1-ブタノールを混錬後、テープキャスト法にてグリーンシートを得た。次に、BZYbおよびNiOを用いた実施例1および比較例1における
図3の燃料極13の製造方法について説明する。得られたBaZr
0.8Yb
0.2O
3(BZYb)電解質材料粉末とNiO粉末(住友金属鉱山製)とを、重量比で、NiO:BZYb=80:20(すなわち、NiとBZYbとの体積比率が69:31)となるように秤量した。グリーンシートの作製のため、電解質材料粉末、NiO粉末、樹脂としてポリビニルブチラール、可塑剤としてブチルベンジルフタレート、溶剤として酢酸ブチル、および、1-ブタノールを混錬後、テープキャスト法にて燃料極のグリーンシートを得た。
【0090】
次に、BZYbを用いた実施例1および比較例1における燃料極と電解質膜との積層体の製造方法について説明する。得られた燃料極のグリーンシートを焼成後に1辺20mmの正方形(4-C3:角部3mm面取り)となるよう線収縮率を22%と想定し、グリーンシートを所定寸法にカットした。次いで、カットされたグリーンシートを複数枚、積層した。得られた電解質膜をグリーンシートに重ねて積層した。その後、電解質膜の重ねられたグリーンシートを50MPaのもと、ホットプレスした。このようにして、積層体を得た。得られた積層体を1475℃で2時間、大気雰囲気のもと、焼成した。燃料極と電解質膜との積層体として1辺20mmの正方形(4-C3:角部3mm面取り)のハーフセルを作製した。BZYbは、X線回折法(以下、XRDと記載することがある)にて、単一相であることを確認した。なお、誘導結合プラズマ(以下、ICPと記載することがある)発光分光分析法、および蛍光X線分析法(以下、XRFと記載することがある)を用いることで、BZYbの組成比(すなわち、仕込比をもとにした組成比)と目的の組成比(すなわち、実測をもとにした組成比)との差分が、1%以下であることを確認した。
【0091】
次に、YSZを用いた比較例2および比較例3における燃料極と電解質膜との積層体について説明する。YSZを用いた燃料極と電解質膜との積層体には、Φ20mmのNexceris(ネクスセリス)社製のAEB-2.0燃料極支持電解質ハーフセルΦ20を用いた。用いた燃料極支持電解質ハーフセルにおいて、燃料極は、NiOとYSZとの混合物から構成され、電解質膜YSZは7~10μmの厚みである。また、用いた燃料極支持電解質ハーフセルには、反応防止層として電解質膜の空気極の設置側にGDC層が3~5μm存在する。
【0092】
次に、空気極材料の製造方法について説明する。
【0093】
実施例1および比較例2に用いた空気極の材料であるPd入LSCF6446(LSCFPd:La0.6Sr0.4Co0.38Fe0.57Pd0.05O3-δ)の製造方法について説明する。まず、La2O3、SrO、Co3O4およびFe2O3(いずれも関東化学製)とクエン酸とを純水に添加して反応させ、さらにジニトロジアミンPd硝酸溶液と混合した。このようにして、反応溶液を得た。得られた反応溶液を130℃で乾燥した。
【0094】
乾燥後の反応溶液に含まれるクエン酸を電気炉にて加熱することで分解した。その後、1200℃にて、大気雰囲気のもと本焼成を行った。このようにして、LSCFPd粉末を得た。得られたLSCFPdは、XRDにて、単一相であることを確認した。ICP、およびXRFを用いることで、LSCFPdの組成比と目的の組成比との差分が1%以下であることを確認した。
【0095】
さらに、LSCFPd粉末および、アルコールとエーテルとを混合したピヒクルと所定重量比で混合した。このようにして、混合物を得た。得られた混合物を自転・公転ミキサーで混錬した。このようにして、実施例1および比較例2に用いる空気極材料のペーストを作製した。
【0096】
次に、比較例1および比較例3に用いた空気極の材料であるLSCF6446(LSCF:La0.6Sr0.4Co0.4Fe0.6O3-δ)の製造方法について説明する。
【0097】
まず、La2O3、SrO、Co3O4およびFe2O3(いずれも関東化学製)とクエン酸とを純水に添加して反応させ、反応溶液を130℃で乾燥した。乾燥後の反応溶液に含まれるクエン酸を電気炉にて加熱することにより分解し、その後1200℃にて、大気雰囲気のもと本焼成を行った。得られたLSCFは、XRDにて、単一相であることを確認した。ICP、およびXRFを用いて、LSCFの組成比と目的の組成比とのズレが1%以下であることを確認した。さらに、LSCF粉末および、アルコールとエーテルとを混合したピヒクルを所定重量比で混合した。このようにして、混合物を得た。得られた混合物を自転・公転ミキサーで混錬した。このようにして、比較例1および比較例3に用いる空気極材料のペーストを作製した。
【0098】
[評価用膜電極接合体の抵抗および端子間電圧の測定]
評価用膜電極接合体の抵抗は、交流インピーダンス法によって測定した。交流インピーダンス測定は、ソーラートロン社製1287型を用いて、外部電流0Aにおける端子間電圧に対し、10mVの振幅で、周波数を100kHzから0.01Hzまで変えて交流を印加し、
図4および
図5に示される温度条件で実施した。
図6は、交流インピーダンス測定結果の一例をコールコールプロットによって示す。
図6では、交流インピーダンス測定による抵抗成分の内訳を模式的に示している。
図6に示されるように、インピーダンスZ(=Z´+jZ´´)の実数成分Z´を横軸にとり、虚数成分Z´´を縦軸にとって示したコールコールプロットによって、交流インピーダンス測定の結果を図示することができる。コールコールプロットにおいて、周波数がおよそ10kHzから0.01Hzとなる範囲で描かれる円弧について、円弧と実数軸(Z´)との高周波数側の交点がオーミック抵抗となり、円弧と実数軸とが成す弦の長さ、つまり円弧が実数軸を切る2つの交点の長さが反応抵抗となる。測定により得られたオーミック抵抗および反応抵抗の結果を、
図4および
図5に示す。
【0099】
評価用膜電極接合体における空気極と燃料極との端子間電圧は、空気極に湿潤空気を、燃料極に湿潤水素ガスをそれぞれ接触させ、
図5に示される温度条件で外部電流値を変化させながら測定した。測定した外部電流0Aにおける端子間電圧の結果を
図5に示す。また、実施例1および比較例1における評価用膜電極接合体の電流-電圧性能の測定結果を
図7Aおよび
図7Bに示す。
図7Aは、600℃での実施例1および比較例1における評価用膜電極接合体の電流-電圧性能を示す。
図7Bは、500℃での実施例1および比較例1における評価用膜電極接合体の電流-電圧性能を示す。
【0100】
図5に示されるように、LSCFPdを用いた空気極を備える実施例1の評価用膜電極接合体では、600℃での外部電流0Aにおける端子間電圧が0.96Vであった。実施例1と同じ電解質膜を備え、LSCF空気極を備える比較例1の評価用膜電極接合体では、600℃での外部電流0Aにおける端子間電圧が0.92Vであった。実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例1と比べて外部電流0Aにおける端子間電圧が高く、良好な結果である。また、実施例1および比較例1の評価用膜電極接合体において、600℃でのオーミック抵抗は、それぞれ0.36Ωcm
2および0.37Ωcm
2であり、同程度の値である。一方、600℃において、実施例1の反応抵抗が0.79Ωcm
2であるのに対し、比較例1の反応抵抗が1.2Ωcm
2である。実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例1と比べて反応抵抗も顕著に低く、良好な結果である。また、さらに低温の500℃においても、同様の傾向であり、実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例1と比べて端子間電圧が高く、反応抵抗が低い。よって、実施例1の評価用膜電極接合体は、プロトン伝導体を用いた膜電極接合体として、比較例1の評価用膜電極接合体よりも適している。実施例1および比較例1のプロトン伝導体を用いた膜電極接合体において、端子間電圧および反応抵抗に差が発生した理由としては、上記式(A)の反応が進行するためと考えられる。詳細は上述した通りである。
【0101】
図7Aおよび
図7Bに示されるように、横軸に電流密度をとり、縦軸に端子間電圧をとった電流-電圧性能のグラフでは、500℃および600℃のいずれの場合であっても、実施例1の評価用膜電極接合体の線が比較例1の線よりも図中の上側を推移している。つまり、実施例1の評価用膜電極接合体は、どのような電流密度の条件であっても比較例1よりも電圧が高く、良好な性能である。
【0102】
また、
図5に示されるように、実施例1の評価用膜電極接合体、および、電解質膜として酸化物イオン伝導体であるYSZを用いた比較例2ならびに比較例3の評価用膜電極接合体、600℃での外部電流0Aにおける端子間電圧は、それぞれ0.96V、1.13Vおよび1.13Vであった。実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例2および比較例3よりも外部電流0Aにおける端子間電圧が低い。しかしながら、実施例1、比較例2および比較例3の評価用膜電極接合体のオーミック抵抗は、それぞれ0.36Ωcm
2、2.0Ωcm
2および2.0Ωcm
2である。また、実施例1、比較例2および比較例3の評価用膜電極接合体の反応抵抗は、それぞれ0.79Ωcm
2、4.0Ωcm
2および5.0Ωcm
2である。実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例2および比較例3よりもオーミック抵抗および反応抵抗が大幅に低い。そのため、実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例2および比較例3よりも外部電流0Aにおける端子間電圧が低いものの、オーミック抵抗および反応抵抗が大幅に低い。結果、実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例2および比較例3よりも、仮に電流が大きくなっても端子間電圧が低下しにくい。よって、実際の使用に適した端子間電圧として、0.8V程度で使用する場合には、実施例1の評価用膜電極接合体は、比較例2および比較例3よりも大きな電流を取り出すことができ、性能が良好である。つまり、実施例1の空気極および電解質膜を用いることで、酸化物イオン伝導性の電解質膜を用いた膜電極接合体よりも、600℃以下の低温での発電性能が向上した膜電極接合体が得られる。
【0103】
また、実施例1と比較例1との比較のように、BZYbを電解質膜に用い、空気極をLSCFから高活性なLSCFPdに変えた場合には、反応抵抗が34%低下している。一方で、比較例2と比較例3との比較のように、YSZを電解質膜に用い、空気極をLSCFからLSCFPdに変えた場合には、反応抵抗が20%しか低下しない。これは、プロトン伝導体であるBZYbを用いた場合には、上記式(A)の反応が進行するのに対して、酸化物イオン伝導体であるYSZを用いた場合には、上記式(B)の反応が進行すると考えられ、詳細は上述した通りである。
【0104】
本開示に係る膜電極接合体10は、燃料電池、ガスセンサ、水素ポンプ、または水電解装置等の電気化学デバイス等の用途に用いることができる。
【0105】
上記説明から、当業者にとっては、本開示が多くの改良や他の実施形態を含むことは明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本開示に係る膜電極接合体は、燃料電池、ガスセンサ、水素ポンプ、または水電解装置等の電気化学デバイスに用いることができる。
【符号の説明】
【0107】
10 膜電極接合体
11 電解質膜
12 空気極
13 燃料極
100 電池