(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ポドサイトの足突起消失を決定するための診断ツール
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240226BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
G01N21/64 F
(21)【出願番号】P 2019557788
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2018060779
(87)【国際公開番号】W WO2018197633
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-06
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521145093
【氏名又は名称】ニポカ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エンドリヒ,カールハンス
(72)【発明者】
【氏名】エンドリヒ,ニコル
(72)【発明者】
【氏名】ジーゲリスト,フロリアン
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/042202(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/075173(WO,A2)
【文献】国際公開第2010/140024(WO,A1)
【文献】特表2009-531327(JP,A)
【文献】SIEGERIST F. et al.,Super-resolution microscopy of the podocyte slit diaphragm,ACTA PHYSIOLOGICA,2017年03月,Vol.219, Suppl.711,POSTER SESSION B, pp.117-118
【文献】UNNESJO-JESS David et al.,Super-resolution stimulated emission depletion imaging of slit diaphragm proteins in optically cleared kidney tissue,Kidney International,2015年10月07日,Vol.89,pp.243-247
【文献】PULLMAN James M. et al.,Visualization of podocyte substructure with structured illumination microscopy (SIM): a new approach to nephrotic disease,Biomedical Optics EXPRESS,2016年01月06日,Vol.7, No.2,pp.302-311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてポドサイトの足突起消失に関連する疾患の診断を補助するための方法であって、以下:
(a.1)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(l
SD)を決定する工程
であって、特定領域が、ポドサイト足突起の平面図で糸球体が見える領域である、工程、
(a.2)(a.1)で決定されたスリット膜の長さ(l
SD)を特定領域Aの面積で除することにより、スリット膜密度l
SD/Aを形成する工程、及び
(b)工程(a.2)で決定されたスリット膜密度l
SD/Aを、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の特定領域A’においてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(l
SD)を前記特定領域A’の面積で除して得られたスリット膜密度l
SD/A'と比較し、密度の偏差を決定する工程
を含み、偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す
、方法。
【請求項2】
腎組織サンプルが、免疫染色される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
腎組織サンプルが、以下を含む免疫染色系で免疫染色される、請求項
1又は2に記載の方法:
(i)少なくとも以下のタンパク質に対する結合分子:スリット膜タンパク質、スリット膜相互作用タンパク質、及びポドサイト細胞接触タンパク質からなる群より選択されるタンパク質;並びに
(ii)少なくとも1つの蛍光色素。
【請求項4】
前記結合分子が、ネフリン、NEPH1、ポドシン、ZO-1、FAT-1、クローディン-5、CD2AP、FYN、Nck1、Nck2、CRIM1、IQGAP1、MAGI-2、MYO1C、MYO1E、TRPC6、ApoL1、NOTCH、Par3、Par6、ダイナミン、クラスリン、b-アレスチン、PKC、Grb2、Ca
2+活性化チャネル(BK)、及びP-カドヘリンからなる群より選択されるタンパク質に対するものである、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光色素が、400~800nmの範囲の光により励起可能な蛍光色素である、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光色素が、シアニン色素である、請求項
3に記載の方法。
【請求項7】
前記蛍光色素が、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7及びCy7.5からなる群より選択されるシアニン色素である、請求項
3に記載の方法。
【請求項8】
前記蛍光色素が、Cy3である、請求項
3に記載の方法。
【請求項9】
(i)に記載の結合分子が、タンパク質及び核酸からなる群より選択される、請求項
3に記載の方法。
【請求項10】
(i)に記載の結合分子が、抗体、アプタマー、ペプチマー及びナノボディからなる群より選択される、請求項
3に記載の方法。
【請求項11】
(i)に記載の結合分子が、抗体である、請求項
3に記載の方法。
【請求項12】
ポドサイトの足突起消失に関連する疾患が、糸球体症の群から選択される、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ポドサイトの足突起消失に関連する疾患が、糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症、膜性糸球体腎炎/膜性腎症、及び微小変化群からなる群より選択される、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
超解像光学顕微鏡法が、構造化照明顕微鏡法である、請求項1~
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
(b)に記載の密度の偏差が、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象のスリット膜密度l
SD/A'と比較した、(a.2)で形成されたスリット膜密度l
SD/Aの減少である、請求項
1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
以下:
(c)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおけるポドサイト足突起の幅を決定する工程、
(d)工程(c)で決定された特定領域Aにおけるポドサイト足突起の幅を、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の特定領域A’におけるポドサイト足突起の幅と比較し、幅の偏差を決定する工程
をさらに含み、
(b)で決定された
密度の偏差、及び/又は(d)で決定された幅の偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、請求項1~
15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
(b)の
密度の偏差、及び(d)の幅の偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
(d)に記載の幅の偏差が、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の特定領域A’におけるポドサイト足突起の幅と比較した、(c)で決定したポドサイト足突起の幅の増加である、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
対象が、哺乳動物である、請求項1~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
対象が、ヒト、マウス、ウサギ及びラットからなる群より選択される、請求項1~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
対象が、ヒト及びマウスからなる群より選択される、請求項1~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
対象が、ヒトである、請求項1~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
in vitro法である、請求項1~
22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象においてポドサイトの足突起消失に関連する疾患を診断若しくは事前診断するため又は対象がポドサイトの足突起消失に関連する疾患を発症するリスクを決定するための方法であって、(a)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)を決定する工程、(b)工程(a)で決定された特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)を、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の同等の特定領域A’においてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)と比較する工程を含み、偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数十年来、腎疾患の病理学的評価のゴールドスタンダードは、染色された腎生検の光学顕微鏡及び電子顕微鏡による評価である。これらの切片生検の迅速な組織病理学的検査及び診断は、特に微小変化群(MCD)、糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)などのネフローゼ疾患の後に行う治療にとって重要なステップである。MCDの場合、発見できる唯一の主要な病理学的特徴はポドサイト足突起の消失であるため1、古典的な慣用の組織病理学的評価(H&E、PAS、銀染色、トリクローム)及び免疫組織学(IgG、IgM、IgA、C3)は診断につながらない。したがって、時間のかかる透過型電子顕微鏡(TEM)の準備及び評価が必要である。ポドサイトの足突起の消失は、例えばタンパク性腎疾患の糸球体症の特徴である。糸球体症は、腎臓の基本的な構造及び機能単位であるネフロンの糸球体に影響を及ぼす一連の疾患である。
【0003】
Ernst Abbeにより記載されているように、光学顕微鏡の物理的に決定される解像度の限界は、xy方向に約200nmでありz方向でさらに大きい。最近、確率論的再構築光学顕微鏡法(STORM)、誘導放出抑制顕微鏡法(STED)及び構造化照明顕微鏡法(SIM)のような種々の超解像(SR)顕微鏡技術の成長が、この解像度限界を克服するために成功的に開発されている2。
【0004】
2013年に、SR顕微鏡法は、マウス及びヒト糸球体基底膜内のタンパク質の分布に関するSTORMの研究で、Suleiman及び共同研究者によって腎臓研究コミュニティに初めて提示された3。2016年に、Unnersjo-Jess及び共同研究者はSTEDアプローチが光学クリアリングされた腎臓組織中のスリット膜(SD)を可視化することを示した4。
【0005】
確かに、STORM及びSTEDは、刺激的な機会及び高解像度を提供するが、残念ながら、これらの技術の落とし穴はそれらの厳しいサンプル調製(組織のクリアリング、特別なフルオロフォア及び特殊なイメージングバッファ)、並びに画像取得である。したがって、これらの手法が慣用的な診断の一部になることはほとんど考えられない。
【0006】
現在市販されているSIM付き顕微鏡は、Abbeの光学解像度の限界を3方向すべてで少なくとも2倍克服しており、ボクセル解像度(voxel resolution)が約10倍向上する5,6。SIMは、定義された格子(defined grate)を介したサンプルの連続照明によって機能する。さまざまな照明ステップで、格子がシフトし回転するため、格子の照明パターンがサンプルの元のパターンと干渉し、いわゆるモアレパターンが作成される。第2ステップでは、この周波数混合パターンがデータセットのデジタル再構築によって復調され、空間分解能の向上につながる。STED及びSTORMのような他のSR技術とは対照的に、SIMは、標準的なフルオロフォア及び標識手順で動作し、そのため時間のかかる新たなプロトコールの確立を必要とせずに刺激的な新しいツールとなり、それゆえ即時使用できるシステムである。
【0007】
糸球体生物学に注目している科学者にとって、ポドサイトの足突起(FP)の幅は約200nmで、約30nmのスリット膜(SD)で細分化されているため、SIMは非常に魅力的なツールである。したがって、慣用の光学顕微鏡ではこれらの構造を画像化することができず、足突起レベルの変化を定量化するために電子顕微鏡による超微細構造評価のみが使用される7,8。
【0008】
ポドサイトは、ネフロンのボーマン嚢中の細胞である。ポドサイト足突起(別名ポドサイトの足突起部、又はポドサイトの細胞小足)は、糸球体の毛細血管の周囲を包み、それらの間にスリット(slit)を残す。血液は、スリット膜で橋渡しされたろ過スリットとしてそれぞれ知られるこれらのスリットを通してろ過される。スリット膜を形成するジッパー様タンパク質の1つはネフリンであり、ジッパーの歯の間にスペースがあり、糖及び水を通過させるのに十分な大きさであるが、タンパク質を通過させるには小さすぎる。ポドサイトは、形状の大きな変化を受けることにより、ストレス及び傷害に反応する。足突起の消失は最も顕著であり、いくつかの点でこれらの変化の最も謎めいている。短くなった(effaced)ポドサイトの足突起の幅(dFP)は、糸球体症、例えばタンパク性腎疾患における腎機能と逆相関することが長い間知られている。
【0009】
スリット膜を構成するさまざまなタンパク質(例えば、ネフリン、NEPH1、ポドシンなど)の発見とその後の特異的抗体の開発以来、それらを糸球体疾患の診断マーカーとして使用する試みがなされきた9-12。今日まで、ネフローゼ疾患を診断又は細分化する信頼できるマーカーは見出されていない。最近、SIMはポドシンの特異的標識を使用してSDを解像し得ることが示されている13。しかし、ポドサイトFPの消失の従来の診断は、時間のかかる方法であるTEMにより依然として行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の根底にある技術的課題は、糸球体症、すなわちポドサイトの足突起消失に関連する疾患の診断又は事前診断のための新たな方法であって、より迅速な診断を可能にする、すなわち従来のTEM法よりも必要な時間が少ない方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
予想外にも、ポドサイトの足突起によって形成されるスリット膜の長さ(lSD)を、ポドサイトの足突起消失の診断に使用できることを見出した。
【0012】
したがって、本発明は、対象においてポドサイトの足突起消失に関連する疾患を診断若しくは事前診断するため又は対象がポドサイトの足突起消失に関連する疾患を発症するリスクを決定するための方法であって、
(a)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)を決定する工程、
(b)工程(a)で決定された特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)を、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象(健常対象)の腎組織サンプル中の同等の特定領域A’においてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)と比較する工程
を含み、偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、方法に関する。
【0013】
予想外にも、ポドサイトの足突起消失を有する対象では、スリット膜の長さ(lSD)が変化し、特に減少することを見出した。ポドサイトの足突起消失では、ポドサイト足突起が撤回(retract)され、これはポドサイト足突起の幅の変化の他に、蛇行が少なく、それゆえより短いSDの形態の変化も生じるため、ポドサイト足突起の交互嵌合は減少する。したがって、スリット膜の長さ(lSD)はポドサイトの足突起消失に関連する疾患の指標となる。
【0014】
「スリット膜(slit diaphragm)」という表現は、ポドサイトの足突起がスリット膜の正常な細胞間接触を有する領域を含む。しかし、この表現は、特にポドサイトの足の消失に関連する疾患の場合、ポドサイト足突起細胞間接触が変化し、それらが他の接続、例えば密着結合、接着接合又はギャップ結合を介して接触する領域も包含する。
【0015】
(b)においては、(a)で決定した特定領域Aにおけるスリット膜の長さ(lSD)を、健常対象の腎組織サンプル中の同等の特定領域A’においてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)と比較し得る。(b)において使用される健常対象のスリット膜の長さ(lSD)は、文献(既知の場合)からの参照値であってもよい。
【0016】
腎組織サンプルは、好ましくは組織病理学的切片の形で、より好ましくはパラフィン切片、凍結切片、ポリマー包埋切片、例えばLRホワイト、及び半薄切片からなる群から選択される組織病理学的切片の形で使用され、より好ましくは、組織病理学的パラフィン切片が使用される。固定された腎組織サンプルを得て組織を可能な限り影響を受けない状態に保つために、生検の直後又は腎臓除去の前若しくは直後に、腎組織サンプルは、好ましくは固定剤を含む適切な固定媒体、より好ましくは固定剤を含む固定溶液中で又はそれにより固定される。固定は、灌流固定又は浸漬固定により行う。固定剤は、好ましくはアルコール、アセトン、ホルムアルデヒド、及びこれらの2以上の組み合わせからなる群より選択される。より好ましくは、固定剤は、ホルムアルデヒドを含む。固定溶液は、好ましくは、固定剤及び適切な溶媒、好ましくは水を含む。次いで、好ましくは固定された腎組織サンプルを、例えばパラフィンに包埋し、適切な切片に切断する。必要に応じて、好ましくは固定された腎組織サンプルを、組織クリアリングにより、好ましくはアクリルアミドベースのヒドロゲル(CLARITY)又は有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン、ジクロロメタン、ジベンジルエーテル(3DISCO、iDISCO)の使用により、透明にする。組織クリアリングは、免疫染色の前又は後に行うことができる。
【0017】
「特定領域A」とは、FPの平面図で糸球体が見える領域を意味する。言い換えれば、特定領域内では、糸球体の毛細血管をポドサイト足突起の平面内で切断する必要があるため、ろ過スリットの経路が見えるようになる(水平断面)。「同等の領域A’」は、特定領域Aについて上記と同じサイズ及び同じ方向を有する領域を意味する。つまり、同等の領域A'内では、同様にろ過スリットの経路(path)が見えるように糸球体の毛細血管をポドサイト足突起の平面内で切断する必要がある(水平断面)。
【0018】
好ましい実施形態では、毛細血管面積当たりのSDの長さ(lSD/A)として定義されるSD密度を計算した。予想外にも、SD密度の計算により、ポドサイトFP消失の診断手順を強化及び簡素化できることを見出した。したがって、本発明はまた、上記の方法であって、(a)が、
(a.1)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)を決定する工程、
(a.2)(a.1)で決定されたスリット膜の長さ(lSD)を特定領域(A)で除することにより、スリット膜密度lSD/Aを形成する工程、及び
(b)工程(a.2)で決定されたスリット膜密度lSD/Aを、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象(健常対象)の腎組織サンプル中で得られたスリット膜密度lSD/Aと比較する工程
を含み、偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、方法に関する。
【0019】
(b)において使用される健常対象のスリット膜密度lSD/Aはまた、2以上の腎組織サンプルから及び/又はサンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった2以上の対象から得られたスリット膜密度lSD/Aの参照値を含む。参照値は、これらのデータの平均値を表す。(b)で使用される健常対象のスリット膜密度lSD/Aは、文献(既知の場合)からの参照値であってもよい。
【0020】
好ましい実施形態において、腎組織サンプルは、好ましくは以下を含む免疫染色系で免疫染色される:
(i)少なくとも以下のタンパク質に対する結合分子:スリット膜タンパク質、スリット膜相互作用タンパク質、及びポドサイト細胞接触タンパク質からなる群より選択されるタンパク質、好ましくは、ネフリン、NEPH1、ポドシン、ZO-1、FAT-1、クローディン-5、CD2AP、FYN、Nck1、Nck2、CRIM1、IQGAP1、MAGI-2、MYO1C、MYO1E、TRPC6、ApoL1、NOTCH、Par3、Par6、ダイナミン、クラスリン、b-アレスチン、PKC、Grb2、Ca2+活性化チャネル(BK)、及びP-カドヘリンからなる群より選択されるタンパク質、より好ましくはネフリン、NEPH1、ポドシン、ZO-1、FAT-1、クローディン-5からなる群より選択されるタンパク質、より好ましくはネフリン;
(ii)少なくとも1つの蛍光色素、好ましくは400~800nmの範囲の光により励起可能な少なくとも1つの蛍光色素、より好ましくはシアニン色素、より好ましくはCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7及びCy7.5からなる群より選択されるシアニン色素、より好ましくはCy3。
【0021】
(i)に記載の結合分子は、タンパク質及び核酸からなる群より、好ましくは抗体、アプタマー、ペプチマー及びナノボディ(単一ドメイン抗体)からなる群より選択され、より好ましくは抗体である。
【0022】
上述のように、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患は、糸球体症の群からの疾患、好ましくは糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症、膜性糸球体腎炎/膜性腎症、及び微小変化群からなる群より選択される疾患である。
【0023】
工程(a)、(b)及び(a.1)、(a.2)、(b)それぞれにおいて、ポドサイトの足突起によって形成されるスリット膜の長さ(lSD)は、超解像光学顕微鏡法によって決定し、ここで「超解像(super resolution)」とは、xy方向に200nm未満の解像度限界を意味する。好ましくは、超解像光学顕微鏡法は、すべての超解像顕微鏡技術から選択され、より好ましくは構造化照明顕微鏡法である。
【0024】
(b)において、(a)と(b)の結果の比較における偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す。好ましくは、(b)における偏差は、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象のスリット膜の長さ(lSD)と比較した、(a)で決定されたスリット膜の長さ(lSD)の減少、又はサンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象のスリット膜密度lSD/Aと比較した、(a.2)で形成されたスリット膜密度lSD/Aの減少である。
【0025】
上で概説したように、ポドサイト足突起の幅の決定は、ポドサイトの消失の指標である。したがって、好ましい実施形態では、上記方法はさらに、
(c)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおけるポドサイト足突起の幅を決定する工程、
(d)工程(c)で決定された特定領域Aにおけるポドサイト足突起の幅を、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の同等の特定領域A’におけるポドサイト足突起の幅と比較する工程
を含み、
(b)及び/又は(d)で決定された偏差、好ましくは(b)及び(d)の偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す。
【0026】
上述のように、(b)で決定される「偏差」は、減少を意味することが好ましい。対照的に、工程(d)に関して「偏差」は、増加、すなわちポドサイト足突起の幅の増加を意味する。
【0027】
ポドサイトの足突起の幅は、各FPの半分の長さのFPの両側でSDからのピーク間距離を測定する標準化された手順によって決定される。
【0028】
腎組織サンプルを分析する対象は、哺乳動物、好ましくはヒト、マウス、ウサギ及びラットからなる群より選択され、より好ましくはヒト及びマウス、より好ましくはヒトである。
【0029】
本方法は、in vitro法である。すなわち、腎組織サンプルがin vitroで分析され、腎組織サンプル中の特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(lSD)及びスリット膜密度lSD/Aをそれぞれin vitroで決定する。
【0030】
本発明は、対象の慣用の腎組織サンプル(例えば、組織病理学的パラフィン切片)、免疫蛍光染色、超解像光学顕微鏡法による迅速な評価、好ましくはSIMによる評価、FP消失の結果及び決定の分析、好ましくは自動化分析を使用して、対象におけるポドサイトの足突起消失に関連する疾患を診断若しくは事前診断するための、又は対象がポドサイトの足突起消失に関連する疾患を発症するリスクを決定するための新規な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、MCDと診断された患者(a~b)又は健常対照対象(c~d)のいずれかに由来するPAS染色腎臓切片の病理組織学的特徴を示す。
【
図2】
図2は、SIM再構築の前後のネフリン染色糸球体の顕微鏡写真を示す。
【
図3】
図3は、自動SD検出のプロセスを例示的に示す。
【
図4】
図4は、10人のMCD患者全員(MCD1~MCD10)及び対照のd
FPを示す。
【
図5】
図5は、10人のMCD患者全員(MCD1~MCD10)及び対照の平均l
SD/Aを示す。
【
図6】
図6は、MCD又は対照対象のいずれかの生検で測定したd
FP及びl
SD/Aの平均値を示し、各個体について互いに対してプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明をより詳細に説明する。ここで、MCDは、例示的な糸球体症、すなわち、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患として使用されている。
【0033】
最初に、腎組織サンプル、ここでは慣用の病理学的組織学から過剰である組織病理学的パラフィン切片を、古典的な組織学的検査のためのPAS染色、又はCy3結合二次抗体によって検出されるSDタンパク質ネフリンに対する特異的抗体による染色のいずれかによって処理した。
【0034】
PAS染色切片では、MCDと診断された対象の生検と比較して、健常患者に由来する生検の間に大きな差異は明らかとならなかった(
図1)。一部のMCD生検では、近位尿細管のわずかな拡張(
図1a~b)と、低度の尿細管損傷と一致する近位尿細管細胞の刷毛縁(brushed border)の染色の減少が示された。これらの、むしろ非特異的な特徴はすべて、MCDと診断された生検で一般的に見られる
1。
【0035】
ネフリン染色された健常腎臓切片の共焦点レーザー走査顕微鏡写真は、ネフリンの古典的な線形染色パターンを示した(
図1g~h)。一方、MCD診断患者では、染色はわずかに弱く、直線性が低く、より粒状であった(
図1e~f)。
図1fの挿入図に示すように、MCD患者の糸球体の一部の領域では、ネフリン染色されたSDの識別さえ可能になっている。
【0036】
SIMのzスタックは、スライス間の距離が0.3μmで、3つの角度と糸球体あたり約4μmを超える5つのシフトの格子設定(grating)で記録した。完全な体積は、SIM及び広視野zスタックの両方として再構築した。
図2cに示すように、広視野画像は共焦点画像と同様の線形染色パターンを示した。
図2b及びdのSIM再構築は、単一のFPの間に位置するSDの形態を示し、毛細血管上で互いに嵌合する形態を表す。健常対照対象のSIM画像は、SDの蛇行構造によって示されるように、秩序だったFPを伴う正常な形態を示したが、MCD患者は、ポドサイトFPの大規模な消失を示すSDの著しく直線的な側面を示した。
【0037】
消失したポドサイト足突起の幅(d
FP)は、MCD
14や膜性腎症
15などの糸球体疾患における腎機能と逆相関することが長い間知られているため、健常対照腎臓のd
FPを最初にMCDと診断された患者と比較した。標準化手順として、各FPの半分の長さのFPの両側におけるSDからのピーク間距離を測定した(
図3b、赤いバーとプロット)。MCD患者における有意に高い平均d
FP 0.675μm(標準偏差=0.256μm、nFP=1,880、n
患者=10)と比較して、対照群では、平均d
FP 0.249μmが見られた(標準偏差=0.068μm、nFP=1,220、n
患者=8)。結果を表1にまとめる。
【表1】
【0038】
明らかなように、平均d
FP(M
全 FP)はMCD対象で著しく増加した。対照腎臓と比較して、すべてのMCD診断患者のd
FP測定値の統計的に有意な差(p<0.001)が見出された。10人のMCD患者全員(MCD1~MCD10)及び対照の結果を
図4に示す。
【0039】
本発明の一実施形態において、スリット膜の長さ(lSD)を測定し、さらなる実施形態において、画像解釈を最適化し、測定を自動化するために、SD密度(毛細血管面積あたりのSDの長さ(lSD/A)として定義される)を計算した。予想外にも、スリット膜の長さ(lSD)の決定及びSD密度の計算は、ポドサイトFP消失の診断手順を強化し、簡便化できることがわかった。
【0040】
そのため、一般的なFIJIプラットフォーム16でImageJベースのワークフローを確立した。プラグインRidge Detection17を使用し、これはデジタル顕微鏡写真内の線形構造を自動的に認識し、分割する。手順を自動化するために、特定のプラグインが書かれ、これはネフリン陽性SDで示されるFP上の平面図を有する領域を手動で選択した後、SDの全長及び全選択毛細血管領域を自動的に測定した。プラグインは、その後、結果と分割されたSDの写真を自動的に保存した。
【0041】
健常対照のlSDは、16,955μm2の面積で52.54mmと決定され、MCD患者の平均lSDは同一サイズの面積で30.94mmと決定された。明らかなように、対照におけるスリット膜の長さ(lSD)は、MCD患者におけるスリット膜の長さ(lSD)よりも著しく大きかった。すなわち、スリット膜の長さ(lSD)はMCD患者において減少した。
【0042】
健常対照の腎臓のベースライン値として、lSD/A 3.099μm/μm2(標準偏差=0.268μm/μm2、n患者=8、A合計=16,955μm2)を測定した。それと比較して、MCD患者は1.825μm/μm2の統計的に有意に低い平均lSD/Aを示した(標準偏差=0.493、n患者=13、A合計=26,475μm2)。
【0043】
ポドサイト消失の重度の指標として、各MCD生検が対照群の平均を下回った(対照群の)標準偏差の数を計算した。すべてのMCD生検で、最小値2.045及び最大値7.120の標準偏差で4.757の標準偏差の値が計算され、これはMCD診断患者に対するポドサイトの消失の重度に大きなばらつきがあることを示す。
図5に示すように、評価したすべての生検の平均l
SD/Aは、対照群と比較して有意に小さかった(p<0.001、MCDからのすべての糸球体のl
SD/A対 対照群)。結果を表2に示す。
【表2】
【0044】
ポドサイト消失の診断マーカーとしてのl
SD/Aの適用可能性を検証するために、両方の戦略で測定した、MCD患者及び対照生検の両方のd
FP及びl
SD/Aの値の単純な線形回帰を計算した。
図6のグラフに示されるように、両方の値は線形相関(R
2=0.91)であるため、両方の戦略はポドサイトFP消失を診断するために同等であると結論付けた。
【0045】
要約すると、本発明は、腎生検におけるFP消失を診断及び定量化するための新規で簡便かつ迅速な病理組織学的アプローチを提示する。このプロトコルは、標準的な方法を使用し、最先端の方法よりも2つの利点がある慣用的な診断のワークフローで簡便に実施することができる。第1に、新しいアプローチは、TEMによるポドサイトFPの消失の従来の診断と比較してはるかに迅速である。第2に、訓練を受けた技術者が生検の分析を実施することができるため、腎生検の診断ワークフローのコストと時間が削減される。
【0046】
これまでTEMによる従来の評価を使用する別の落とし穴は、dFPの正確な測定のためにFPをによる正確な直交断面が必要とされることであった。これは常にそうであるとは限らず、dFPの偽高値につながる。この新たな技術は糸球体毛細血管の平面図を利用するため、この制限を克服するものである。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]対象においてポドサイトの足突起消失に関連する疾患を診断若しくは事前診断するため又は対象がポドサイトの足突起消失に関連する疾患を発症するリスクを決定するための方法であって、
(a)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(l
SD
)を決定する工程、
(b)工程(a)で決定された特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(l
SD
)を、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の同等の特定領域A’においてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(l
SD
)と比較する工程
を含み、偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、方法。
[実施形態2]以下:
(a.1)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおいてポドサイト足突起によって形成されたスリット膜の長さ(l
SD
)を決定する工程、
(a.2)(a.1)で決定されたスリット膜の長さ(l
SD
)を特定領域(A)で除することにより、スリット膜密度l
SD
/Aを形成する工程、及び
(b)工程(a.2)で決定されたスリット膜密度l
SD
/Aを、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中のスリット膜密度l
SD
/Aと比較する工程
を含み、偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]腎組織サンプルが、免疫染色され、好ましくは以下を含む免疫染色系で免疫染色される、実施形態1又は2に記載の方法:
(i)少なくとも以下のタンパク質に対する結合分子:スリット膜タンパク質、スリット膜相互作用タンパク質、及びポドサイト細胞接触タンパク質からなる群より選択されるタンパク質、好ましくは、ネフリン、NEPH1、ポドシン、ZO-1、FAT-1、クローディン-5、CD2AP、FYN、Nck1、Nck2、CRIM1、IQGAP1、MAGI-2、MYO1C、MYO1E、TRPC6、ApoL1、NOTCH、Par3、Par6、ダイナミン、クラスリン、b-アレスチン、PKC、Grb2、Ca
2+
活性化チャネル(BK)、及びP-カドヘリンからなる群より選択されるタンパク質;
(ii)少なくとも1つの蛍光色素、好ましくは400~800nmの範囲の光により励起可能な少なくとも1つの蛍光色素、より好ましくはシアニン色素、より好ましくはCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7及びCy7.5からなる群より選択されるシアニン色素、より好ましくはCy3。
[実施形態4](i)に記載の結合分子が、タンパク質及び核酸からなる群より選択され、好ましくは抗体、アプタマー、ペプチマー及びナノボディからなる群より選択され、より好ましくは抗体である、実施形態3に記載の方法。
[実施形態5]ポドサイトの足突起消失に関連する疾患が、糸球体症の群から選択され、好ましくは糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症、膜性糸球体腎炎/膜性腎症、及び微小変化群からなる群より選択される、実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
[実施形態6]超解像光学顕微鏡法が、構造化照明顕微鏡法である、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[実施形態7](b)に記載の偏差が、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象のスリット膜の長さ(l
SD
)と比較した、(a)で決定されたスリット膜の長さ(l
SD
)の減少、又はサンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象のスリット膜密度l
SD
/Aと比較した、(a.2)で形成されたスリット膜密度l
SD
/Aの減少である、実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
[実施形態8]以下:
(c)超解像光学顕微鏡法により、対象の腎組織サンプル中の特定領域Aにおけるポドサイト足突起の幅を決定する工程、
(d)工程(c)で決定された特定領域Aにおけるポドサイト足突起の幅を、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の同等の特定領域A’におけるポドサイト足突起の幅と比較する工程
をさらに含み、
(b)及び/又は(d)で決定された偏差、好ましくは(b)及び(d)の偏差は、ポドサイトの足突起消失に関連する疾患を示す、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
[実施形態9](d)に記載の偏差が、サンプリングの時点でポドサイトの足突起消失に関連する疾患の臨床兆候を示さなかった対象の腎組織サンプル中の同等の特定領域A’におけるポドサイト足突起の幅と比較した、(c)で決定したポドサイト足突起の幅の増加である、実施形態8に記載の方法。
[実施形態10]対象が、哺乳動物、好ましくはヒト、マウス、ウサギ及びラットからなる群より選択され、より好ましくはヒト及びマウス、より好ましくはヒトである、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
[実施形態11]in vitro法である、実施形態1~10のいずれかに記載の方法。
【0047】
図面の簡単な説明
図1は、MCDと診断された患者(a~b)又は健常対照対象(c~d)のいずれかに由来するPAS染色腎臓切片の病理組織学的特徴を示す。群間の大きな形態学的差異は見とめられなかった。MCD患者(e~f)又は対照腎臓(g~h)のネフリン染色切片の共焦点レーザー走査顕微鏡写真は、MCDと診断された患者の生検(e~f)でネフリンの染色がわずかに弱いことを示す。単一のネフリン陽性SDの外観は区別可能である(f、挿入図)。スケールバーは、cでは100μm、dでは40μm、gでは50μm、hでは20μmを示す。
【0048】
図2は、SIM再構築の前後のネフリン染色糸球体の顕微鏡写真を示す。a及びcの顕微鏡写真は、SIM再構築前の元の広視野(WF)データセットの単一フレームを示す。染色パターンは線形で、共焦点顕微鏡に似ている。SIM再構築後(b、d、3つの後続フレームの最大強度投影)、毛細血管ループ(capillary loops)の詳細を区別できる。dの倍率で示されるように、対照の腎臓は、その間に蛇行するSDによって架橋された単一のFPで規則的な染色パターンを示す。MCDと診断された患者(b)では、SDの蛇行が少なく、FPが消失しているように見える。写真e及びfの3D再構築SIM体積の画像は、毛細血管ループ上の蛇行SDの空間的側面を示す。明らかに、単一のFPはGBMで区別可能である。a~dのスケールバーは10μmを示し、e~fのスケールバーは2μmを示す。
【0049】
図3は、自動SD検出のプロセスを例示的に示す。パネルaは、SIM再構築された広視野画像(b)の部分を示す。パネルbのグラフに示すように、d
FPは隣接SDのピーク間距離として測定された。自動化アプローチでは、平面毛細血管断面の領域が選択され、自動SD検出が実行された。パネルcの白い周囲の中にある黒い線は、分割(segmented)されたSD(白い矢印で示されている)、FIJIプラグインによって測定された長さを示す。スケールバーは2μmを示す。
【0050】
図4は、10人のMCD患者全員(MCD1~MCD10)及び対照のd
FPを示す。
【0051】
図5は、10人のMCD患者全員(MCD1~MCD10)及び対照の平均l
SD/Aを示す。
【0052】
図6は、MCD又は対照対象のいずれかの生検で測定したd
FP及びl
SD/Aの平均値を示し、各個体について互いに対してプロットした。いずれの値も、R
2が0.91の線形関係を示す。すでに表1及び2に示されているように、d
FP及びl
SD/Aの両方について、MCDと対照群の間に有意差がある。*** P<0.001。
【実施例】
【0053】
方法
1.1 組織学的染色
Institute of Pathology of the University Medicine Greifswald又はUniversity Erlangen-Nurnbergの経験豊富な病理学者によってMCDと診断された匿名化ホルマリン固定及びパラフィン包埋ヒト腎生検をこの研究に使用した。健常対照として、University Medicine Greifswaldの泌尿器科の腎部分切除術の匿名化された過剰な腎臓組織を使用した。Erlangenからの生検の使用はFriedrich Alexander University of Erlangen-Nurnbergの倫理委員会によって承認され、アーカイブされた残りの材料(参考文献番号4415)を使用するための遡及同意の必要性を放棄した。University Medicine Greifswaldの地元の倫理委員会は、Greifswaldからの生検の使用を承認した。キシレン及び一連の上昇するエタノールでの脱パラフィン後、圧力鍋で5分間煮沸することにより、クエン酸バッファー中で抗原回復を実施した。スライドをPBSで洗浄し、PBS中の2%FBS、2%BSA及び0.2%魚ゼラチンで1時間かけてブロッキングした。一次抗体(ブロッキング溶液中1:75、ポリクローナルモルモット抗ネフリンIgG、PG-N2、Progen、Heidelberg、Germany)をスライド上で4℃で4時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、二次抗体(Cy3結合ヤギ抗モルモット、Jackson Immunoresearch、West Grove, PA, USA)を4℃で1時間インキュベートした後、DAPI(1:100)中でインキュベートし、PBSで3回洗浄した。スライドを顕微鏡用Mowiol(Carl Roth, Karlsruhe, Germany)に載せた。PAS染色では、補足情報に記載されている標準プロトコルを使用した。
【0054】
1.2 顕微鏡法
PAS染色切片の顕微鏡写真は、Olympus UC30カメラを装備したOlympus BX50顕微鏡で撮影した。10倍及び40倍の対物レンズを使用した。
【0055】
共焦点レーザー走査顕微鏡では、63x(NA1.4)対物レンズを備えたLeica TCS SP5(Leica Microsystems、Wetzlar, Germany)を使用した。各糸球体の単一の顕微鏡写真は、1x及び3xズームで取得した。
【0056】
SIMには、63x(1.4NA)の油浸対物レンズを装備したZeiss Elyra SP.1システム(Zeiss Microscopy、Jena, Germany)を使用した。スライス間の距離が0.3μmで、サイズが2,430x2,430ピクセル(78.35x78.35μm)のZ-スタックは、561nmレーザーを使用し、2.4%のレーザー出力及び100msの露光時間で約4μmにわたって取得した。34μmの周期格子は、フレームごとに5回シフトされ、3回回転された。3D SIM再構築は、Zeiss ZENソフトウェアで次のパラメーターを使用して実行した:ベースラインカット、SR周波数重み付け:1.3;ノイズフィルター:-5.6;断層像化:96、84、83。
【0057】
1.3 d
FP
及び自動化l
SD
/A測定の評価
SIM画像のdFPの幅は、FIJIを用いて標準化された方法で測定した。2つの隣接SDのピーク間距離は、単一のFPの半分の長さで測定した。dFPは糸球体あたり20 FPで評価し、患者ごとに8~12個の糸球体が含まれ、患者あたり約200の測定値が得られた。
【0058】
SDの長さの自動評価のために、カスタマイズされたマクロをImageJベースのプラットフォームFIJI及びImageJプラグイン「Ridge Detection(リッジ検出)」16,17用にプログラムした。このマクロでは、SD及びFPの平面図で毛細血管領域を手動で選択するだけでよい。ソースコードは補足情報(Supplemental Information)に見出すことができ、作成者は、リクエストに応じて即時使用できるFIJIマクロを提供し得る。
【0059】
このマクロは、SDの合計長(lSD)及び毛細血管領域(A)を測定し、SD検出結果のJPEGファイルと一緒に結果をExcelファイルに保存する。SD密度を説明するために、lSDをAで除した。統計的差を確認するために、すべての生検の結果をスチューデントの対応のないt検定により対照群と比較した。平均MCD患者対対照患者の統計的差を確認するために(表1、2)、SPSS(22.0 IBM SPSS Inc.、Chicago, IL, USA)を使用してマン・ホイットニーのU検定を適用した。表現型の重度を定量化するために、結果を「対照以下の標準偏差」として表した。
【0060】