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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】射出成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240226BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20240226BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20240226BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240226BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/27
B29C70/06
B29C70/42
B29C70/68
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020022735
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126822
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】西野 彰馬
(72)【発明者】
【氏名】峯 英生
(72)【発明者】
【氏名】浜辺 理史
(72)【発明者】
【氏名】今西 正義
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115989(JP,A)
【文献】特開2000-084981(JP,A)
【文献】特開2001-047467(JP,A)
【文献】特開2019-084736(JP,A)
【文献】特開2008-272943(JP,A)
【文献】特開2001-089578(JP,A)
【文献】特開平11-348075(JP,A)
【文献】特開平08-276464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維複合樹脂を用いた射出成形品であって、
着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピースと、
前記セルロース系繊維複合樹脂で構成される第一領域と、
前記樹脂製インサートピースから延在する前記セルロース系繊維複合樹脂のウェルドラインに沿って構成される第二領域と、
を有し、
前記第一領域と前記第二領域とは、色調が異なる、射出成形品。
【請求項2】
前記第二領域は、前記第一領域よりも幅が狭く、連続した線状の模様である、請求項1に記載の射出成形品。
【請求項3】
前記ウェルドラインは、射出成形時のゲート跡からの前記セルロース系繊維複合樹脂が前記樹脂製インサートピースによって流動を阻害されて分岐と合流が生じるセルロース系繊維複合樹脂によって形成されている、請求項1又は2に記載の射出成形品。
【請求項4】
前記第二領域は、着色剤によって着色されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の射出成形品。
【請求項5】
前記第二領域は、セルロース系繊維を含んでいる、請求項1から3のいずれか一項に記載の射出成形品。
【請求項6】
前記第二領域は、セルロース系繊維の炭化物を含む、請求項5に記載の射出成形品。
【請求項7】
射出成形時の一つのゲート跡と、複数の樹脂製インサートピースとを含むと共に、前記複数の樹脂製インサートピースから延在する複数の第二領域を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の射出成形品。
【請求項8】
射出成形時の複数のゲート跡と、複数の樹脂製インサートピースとを含むと共に、前記複数の樹脂製インサートピースから延在する複数の第二領域を有し、前記第二領域を構成するウェルドラインの方向は、前記セルロース系繊維複合樹脂の射出方向に沿った方向と、前記複数のゲート跡からの前記セルロース系繊維複合樹脂の合流方向との少なくともいずれかである、請求項1から6のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項9】
金型の間のキャビティにゲートから離間させて着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピースを配置するステップと、
前記ゲートから前記キャビティにセルロース系繊維複合樹脂を射出成形して、前記セルロース系繊維複合樹脂による第一領域を構成すると共に、前記樹脂製インサートピースから延在する前記セルロース系繊維複合樹脂のウェルドラインに沿って前記第一領域と異なる色調の第二領域を構成するステップと、
を含む、射出成形品の製造方法。
【請求項10】
前記セルロース系繊維複合樹脂を180℃以上の温度で処理するステップをさらに含む、請求項9に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項11】
前記射出成形時の金型温度を20℃~100℃とする、請求項9又は10に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂製インサートピースを配置するステップにおいて、前記金型の間の前記キャビティに複数の各ゲートから離間させて着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピースをそれぞれ配置すると共に、
セルロース系繊維複合樹脂を射出成形して、前記第一領域及び前記第二領域を構成するステップにおいて、前記複数のゲートから前記金型の間のキャビティにセルロース系繊維複合樹脂を射出させるとともに、射出されたセルロース系繊維複合樹脂同士を異なる方向から角度を持って合流させて、前記第一領域及び前記第二領域を構成する、請求項9から11のいずれか一項に記載の射出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品及びその製造方法に関する。特に木質成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木質成形品の製造方法としては、例えば着色剤を用いて色むらや色の濃淡(マーブル成形等)で木目を得る方法が一般的である。
しかしながら、上記記載の方法では木目の色を再現することはできても、表面の微細な凹凸による触感や風合い、質感まで再現することは困難であり、プラスチック感が残ってしまうという課題がある。
【0003】
上記のような課題に対し、本願発明者は過去に特開2019-115989号公報にて木材特有の色むらや濃淡、手触り感を再現する方法を開発した。しかし、上記既出の特許では、天然の木材のような色むらや濃淡、手触り感を再現することができるものの、更なる木質感の向上のニーズがある。更なる木質感クオリティー向上のためには、依然すべき課題があり、そのための対策を取る必要性を見出した。
【0004】
上記木目を再現するための方法として、特許文献1及び特許文献2に示すような方法が開発されている。
【0005】
特許文献1に記載の二頭式射出装置は、並設された2つの射出シリンダ及び同シリンダ内に収納された2つの射出スクリューより成っており、2つのシリンダ先端の熔融樹脂出口は合流して一つのノズルを形成している。木質材料としては、有害揮発分を十分乾燥除去した木粉を用い、プラスチック原料と混合して、木材比率が異なるA、B材の2種類の成形原料を用意し二頭式射出装置の射出シリンダにそれぞれ充填する。木材比率は80%程度まで可能であり、自然木の木質感を得るために極力80%に近付けるのが好ましい。また、必要に応じて前記2種類の成形原料に着色材、顔料、着色インキ等を混合して色を付ける。つぎに上記二頭式射出成形機を用いた本発明成形方法について説明する。まず二頭式射出成形機の固定金型と移動金型を型締めし、一方のシリンダによって金型内のキャビティにA材の所定量を部分充填し、引続いて他方のシリンダによってB材の所定量を部分充填する。ついで上述の射出を交互に繰返して行い、最終の射出で十分な圧力を加えて冷却する。このA材とB材の所定量の交互の射出の繰返しによって板目模様が形成される。この場合、固定金型、移動金型を適度に保温しておくことがより望ましい。
【0006】
特許文献2に記載の木目調射出成形品の製造方法では、キャビティ内に補強部材をセットする一方、第1材料と該第1材料に対して色彩が異なる第2材料とが不完全混合状態で含まれる溶融樹脂を用意し、その溶融樹脂を複数の分流をもって補強部材がセットされたキャビティ内に供給し、補強部材を溶融樹脂で鋳ぐるんで凝固層を形成すると共に、その溶融樹脂の複数の分流の作用に基づき、成形品(製品部)段階において、凝固層に、柾目模様として、分流跡毎に略一定間隔の第2材料凝固部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-276464号公報
【文献】特開平11-348075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では二色成形機等の特殊な成形機が必要であり、射出成形する材料についても、木材成分添加濃度の異なる材料を2種容易する必要がある。また、木目模様の内、板目模様のみ再現可能で、高級とされる柾目模様については再現できない。さらに、着色剤を添加することで木材特有の色ムラや色の濃淡を再現することが困難である等の課題を有している。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、特許文献1の課題である柾目模様の再現や通常の射出成形機で再現可能である等、大幅な改善が見られるものの、製品に対してゲート点数が多くなってしまう点や柾目模様の1つ1つを制御することが難しく、柾目模様の幅や方向を任意に設定できない等の課題を有している。
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、多彩な木目模様を有する射出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため、本発明に係る射出成形品は、セルロース系繊維複合樹脂を用いた射出成形品であって、
着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピースと、
前記セルロース系繊維複合樹脂で構成される第一領域と、
前記樹脂製インサートピースから延在する前記セルロース系繊維複合樹脂のウェルドラインに沿って構成される第二領域と、
を有し、
前記第一領域と前記第二領域とは、色調が異なる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明に係る射出成形品によれば特殊な成形機を用いる必要がなくなり、且つ、線状の木目模様を任意の方向に再現することが可能となることで従来よりも更に天然の木材に近しい木質成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】実施の形態1に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図1b】実施の形態1に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図1c】実施の形態1に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図1d】実施の形態1に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図2a】実施の形態1において、ゲートからのセルロース系繊維複合樹脂が樹脂製インサートピースの前面で分岐し、その側面を回り込む様子を示す概略平面図である。
図2b図2aの後、回り込んだセルロース系繊維複合樹脂が樹脂製インサートピースを溶出させ、合流して、溶出した樹脂による模様が線状になるメカニズムを示す概略平面図である。
図3図1dの射出成形品である木質成形品の成形品外観を示す概略平面図である。
図4】実施の形態2に係る射出成形品の製造方法における製造条件及びその評価結果を示す表1である。
図5a】実施の形態3に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図5b】実施の形態3に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図5c】実施の形態3に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図5d】実施の形態3に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図6a】実施の形態3において、ゲートからのセルロース系繊維複合樹脂が樹脂製インサートピースの前面で分岐し、その側面を回り込む様子を示す概略平面図である。
図6b図6aの後、回り込んだセルロース系繊維複合樹脂が樹脂製インサートピースを溶出させ、合流して、溶出した樹脂による模様が線状になるメカニズムを示す概略平面図である。
図7図5dの射出成形品である木質成形品の成形品外観を示す概略平面図である。
図8】実施の形態4に係る射出成形品の製造方法における製造条件及びその評価結果を示す表2である。
図9】実施の形態5に係る射出成形品の製造方法において、樹脂製インサートピースのサイズ及びゲートとの位置関係を変化させた場合の線状模様を示す表3である。
図10A】ゲートと樹脂製インサートピースの中心とが重なる場合の線状模様の形成される方向を示す概略図である。
図10B】樹脂製インサートピースがゲートの左側に配置された場合の線状模様の形成される方向を示す概略図である。
図10C】樹脂製インサートピースがゲートの右側に配置された場合の線状模様の形成される方向を示す概略図である。
図11A】実施の形態6に係る射出成形品の製造方法において、一つのゲートに対して複数の樹脂製インサートピースを配置した場合の例を示す概略図である。
図11B】樹脂製インサートピースを円形にした場合の例を示す概略図である。
図11C】樹脂製インサートピースを三角形にした場合の例を示す概略図である。
図11D】樹脂製インサートピースを逆三角形にした場合の例を示す概略図である。
図12a】実施の形態7に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図12b】実施の形態7に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図12c】実施の形態7に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図12d】実施の形態7に係る射出成形品の製造方法の一工程を示す概略斜視図である。
図13】実施の形態8に係る射出成形品の製造方法によって得られる射出成形品の外観を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の態様に係る射出成形品は、セルロース系繊維複合樹脂を用いた射出成形品であって、
着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピースと、
前記セルロース系繊維複合樹脂で構成される第一領域と、
前記樹脂製インサートピースから延在する前記セルロース系繊維複合樹脂のウェルドラインに沿って構成される第二領域と、
を有し、
前記第一領域と前記第二領域とは、色調が異なる。
【0015】
第2の態様に係る射出成形品は、上記第1の態様において、前記第二領域は、前記第一領域よりも幅が狭く、連続した線状の模様であってもよい。
【0016】
第3の態様に係る射出成形品は、上記第1又は第2の態様において、前記ウェルドラインは、射出成形時のゲート跡からの前記セルロース系繊維複合樹脂が前記樹脂製インサートピースによって流動を阻害されて分岐と合流が生じるセルロース系繊維複合樹脂によって形成されていてもよい。
【0017】
第4の態様に係る射出成形品は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記第二領域は、着色剤によって着色されていてもよい。
【0018】
第5の態様に係る射出成形品は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記第二領域は、セルロース系繊維を含んでいてもよい。
【0019】
第6の態様に係る射出成形品は、上記第5の態様において、前記第二領域は、セルロース系繊維の炭化物を含んでもよい。
【0020】
第7の態様に係る射出成形品は、上記第1から第6のいずれかの態様において、射出成形時の一つのゲート跡と、複数の樹脂製インサートピースとを含むと共に、前記複数の樹脂製インサートピースから延在する複数の第二領域を有してもよい。
【0021】
第8の態様に係る射出成形品は、上記第1から第6のいずれかの態様において、射出成形時の複数のゲート跡と、複数の樹脂製インサートピースとを含むと共に、前記複数の樹脂製インサートピースから延在する複数の第二領域を有し、前記第二領域を構成するウェルドラインの方向は、前記セルロース系繊維複合樹脂の射出方向に沿った方向と、前記複数のゲート跡からの前記セルロース系繊維複合樹脂の合流方向との少なくともいずれかであってもよい。
【0022】
第9の態様に係る射出成形品の製造方法は、金型の間のキャビティにゲートから離間させて着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピースを配置するステップと、
前記ゲートから前記キャビティにセルロース系繊維複合樹脂を射出成形して、前記セルロース系繊維複合樹脂による第一領域を構成すると共に、前記樹脂製インサートピースから延在する前記セルロース系繊維複合樹脂のウェルドラインに沿って前記第一領域と異なる色調の第二領域を構成するステップと、
を含む。
【0023】
第10の態様に係る射出成形品の製造方法は、上記第9の態様において、前記セルロース系繊維複合樹脂を180℃以上の温度で処理するステップをさらに含んでもよい。
【0024】
第11の態様に係る射出成形品の製造方法は、上記第9又は第10の態様において、前記射出成形時の金型温度を20℃~100℃としてもよい。
【0025】
第12の態様に係る射出成形品の製造方法は、上記第9から第11のいずれかの態様において、前記樹脂製インサートピースを配置するステップにおいて、前記金型の間の前記キャビティに複数の各ゲートから離間させて着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピースをそれぞれ配置すると共に、
セルロース系繊維複合樹脂を射出成形して、前記第一領域及び前記第二領域を構成するステップにおいて、前記複数のゲートから前記金型の間のキャビティにセルロース系繊維複合樹脂を射出させるとともに、射出されたセルロース系繊維複合樹脂同士を異なる方向から角度を持って合流させて、前記第一領域及び前記第二領域を構成してもよい。
【0026】
以下、実施の形態に係る射出成形品について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0027】
(実施の形態1)
図1a乃至図1dは、実施の形態1に係る射出成形品の製造方法の各工程を示す概略斜視図である。図2aは、実施の形態1において、ゲート102からのセルロース系繊維複合樹脂101が樹脂製インサートピース103の前面で分岐し、その側面を回り込む様子を示す概略平面図である。図2bは、図2aの後、回り込んだセルロース系繊維複合樹脂が樹脂製インサートピース103を溶出させ、合流して、溶出した樹脂による模様107が線状になるメカニズムを示す概略平面図である。
【0028】
<射出成形品>
実施の形態1に係る射出成形品である木質成形品100は、セルロース系繊維複合樹脂101を用いた射出成形品である。この木質成形品100は、図1dに示すように、着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピース103と、セルロース系繊維複合樹脂101で構成される第一領域と、樹脂製インサートピース103から延在するセルロース系繊維複合樹脂101のウェルドライン106に沿って構成される第二領域107と、を有する。第一領域101と第二領域107とは、色調が異なる。この第二領域107が線状の模様、例えば、線状木目模様となる。
【0029】
<射出成形品の製造方法>
実施の形態1に係る射出成形品の製造方法では、例えば、セルロース系繊維が55質量%添加されたセルロース系繊維複合樹脂101を射出成形に用いている。また、樹脂製インサートピース103には、セルロース系繊維複合樹脂のベース樹脂であるポリプロピレンに茶色の着色剤3質量%添加し成形したものを用いて検討を実施した。実施の形態1における射出成形条件は、例えば、樹脂温度が190℃、金型温度が60℃、射出速度が100mm/s、保圧力及び保圧時間が80MPa、5sである。
(1)金型(図示せず)の間のキャビティにゲート102から離間させて着色剤を含む樹脂製インサートピース103を配置する。
(2)図1aにおいて、成形機のシリンダから射出されたセルロース系繊維複合樹脂101は、金型内部のゲート102からキャビティに射出される。
(3)図1bにおいて、ゲート102から5mmの位置に配置された樹脂製インサートピース103は、セルロース系繊維複合樹脂101と衝突することでせん断発熱104により溶融状態となる。
(4)図1cにおいて、樹脂製インサートピース103を回避するようにセルロース系繊維複合樹脂101が分岐する。この分岐の際のせん断力により、溶融状態の樹脂製インサートピース103の側壁が溶出し、樹脂流動とともに流動末端に向かって流出する。このとき、樹脂製インサートピース103から流出した樹脂105は、樹脂製インサートピース103にて分岐した後に合流したセルロース系繊維複合樹脂101が形成するウェルドライン106に沿って溶出する。
(5)図1dにおいて、セルロース系繊維複合樹脂101がウェルドライン106を形成しながら流動していき、流動末端にてキャビティを充填する。このとき、ゲート102から5mmの位置に配置された樹脂製インサートピース103は絶えずせん断発熱104が生じる。そのため、流動末端にて充填するまで樹脂製インサートピース103の側面から流出した樹脂105を溶出し続けることで樹脂製インサートピース103より流動方向に対して後方に線状の模様107を形成する。
以上によって、線状の模様107を有する射出成形品である木質成形品100が得られる。
【0030】
上記射出成形品の製造方法において、射出用の樹脂に添加するセルロース系繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)が、例えば、5以上の繊維が、母材となるベース樹脂に対して10質量%以上含まれているセルロース系繊維複合樹脂を用いてもよい。アスペクト比が5未満の場合は、繊維形状から粉体形状に近づき、このため繊維の補強効果が低下し、脆性が増加するためである。また、セルロース系繊維の添加率が10質量%未満の場合は射出した際の粘度が低く、金型内に配置した樹脂製インサートピースを溶出させるほどのせん断力及びせん断発熱を生じさせにくいという不都合が生じやすい。
【0031】
そして、上記セルロース系繊維複合樹脂をセルロース系繊維の完全な炭化を防止するため、例えば、260℃未満の樹脂温度で処理する。
上記射出成形品の製造方法において使用することができるセルロース系繊維複合樹脂としては、例えば、木材から抽出された漂白済みの針葉樹のパルプを、直径50μm程度、長さ250μm程度になるよう予備粉砕し、粉末状になったパルプを、混練機で母材となるたとえばポリプロピレンと混ぜ合わせて混練することで得られるセルロース系繊維複合樹脂を挙げることができる。
【0032】
上記の原料を用いた場合に、混練機の設定温度は、例えば、190℃とすることができる。このとき、極力パルプが変色(褐色化)しないように、低温で混練することができる。また、混練機内で生じるせん断力により繊維の解繊(繊維を解きほぐし直径が微細化すること)が生じ、混練前の粉末状パルプに比べ、混練後のセルロース系繊維複合樹脂ペレット内の繊維アスペクト比(繊維長/繊維径)を高くすることができる。
【0033】
セルロース系繊維の種類は、特に限定されず、針葉樹、広葉樹、竹等、セルロース系繊維が抽出できる素材であればよい。さらに、上記のように繊維は平均アスペクト比が5以上であることが好ましく、その条件のもとで直径がμmオーダーからnmオーダーの範囲で自由に選定できる。セルロース系繊維は、漂白済みでリグニン成分が除去されたものが望ましく、例えば、紙などの原料となる漂白パルプを用いてもよい。
【0034】
上記射出成形品の製造方法では、金型構造において、ゲート近傍に樹脂製のインサートピースを配置している。これによって、射出されたセルロース系繊維複合樹脂と樹脂製インサートピースとの衝突によって生じるせん断発熱及びせん断力により樹脂製インサートピースから樹脂が溶出する。この流出した樹脂は、セルロース系繊維複合樹脂がインサートピースに衝突して流動が分岐し、再度合流する際に形成するウェルドライン上に沿って流出し、木目のような線状の模様を形成する。
【0035】
次に、この射出成形品の製造方法において、線状の模様が得られるメカニズムについて、図2a及び図2bを用いて説明する。
a)図2aに示すように、ゲート102から射出されたセルロース系繊維複合樹脂101は、樹脂製インサートピース103に衝突後、せん断発熱104を伴いながら樹脂製インサートピース103の周りを流動し樹脂製インサートピース103の角108にて内向きの流動201が生じる。
b)図2bに示すように、樹脂製インサートピース103の周囲を回り込んで流動したセルロース系繊維複合樹脂101は、合流するが、その後も樹脂製インサートピース103の影響で、絶えず内向きの力202、203を連続的に受け続ける。その結果、樹脂製インサートピース103からせん断発熱104により流出した樹脂105は、ウェルドライン106上に拘束されるように流動し、線状の模様のように成形品に残る。なお、ウェルドラインは、例えば、射出されたセルロース系繊維複合樹脂101の分岐、合流の様子をシミュレーションすることによって求めることができる。
【0036】
図3に示すように、図1dの射出成形品である木質成形品100は、セルロース系繊維複合樹脂101の一部に茶色に着色したポリプロピレン製インサートピース103から溶出し流出した樹脂105が流動末端まで流動し、線状の模様107が形成されることを確認できる。また、模様107は、基本的には直線的な線状模様107であるが、所々揺らぎが生じており、自然の木目のような風合いになっている。また、金型内に配置されたポリプロピレン製インサートピースと前記ポリプロピレン製インサートピースから流出し形成された線状模様との色差を計算した。Lab系色表示空間において上記2色間の差を表す色差ΔEは下記式より得られる。
【0037】
【0038】
以上の結果より、両者の色差ΔEは0.33しかなく、ほとんど色の変化がなく目視でも認識できないことから、茶色に着色したポリプロピレン製インサートピース103から流出した樹脂によって木目のような線状模様107が形成されていることがわかる。
かかる構成によれば、セルロース系繊維を55質量%含むセルロース系繊維複合樹脂及びポリプロピレン製インサートピース103により本物の木材のような自然な揺らぎを有する線状の木目模様を有する木質成形品100を通常の射出成形機で再現することができる。
【0039】
なお、セルロース系繊維としては針葉樹を使用した。これ以外にも、広葉樹、竹等の、セルロース系繊維を抽出できる木材や植物であれば使用でき、その素材は特に限定されない。
また、セルロース系繊維複合樹脂の母材にポリプロピレンを用いたが、ペレット製造段階でセルロース系繊維が炭化しない範囲で複合樹脂化できる樹脂であればよく、特に限定されない。
また、樹脂製インサートピースにはセルロース系繊維を複合化したベース樹脂と同等のポリプロピレンを用いたが、特に制限はなく制限されない。ただし、射出される樹脂よりも粘度が低い樹脂の方がせん断力及び発熱量が大きくなる傾向にあり、よりはっきりとした太い線状木目模様を付与したい場合は、樹脂製インサートピースの溶融時の粘度が射出される樹脂よりも低い材料で樹脂製インサートピースを構成するのがよい。
射出成形品となるキャビティの箇所へ直接に樹脂製インサートピースを配置する場合に、その位置や数は、金型の構造上可能な範囲で任意に設定でき、特に制限されない。
【0040】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る射出成形品の製造方法における製造条件及びその評価結果を示す表1である。表1には、セルロース系繊維複合樹脂におけるセルロース系繊維の濃度を変化させて、射出成形限界及び線状模様の形成限界の調査結果を示す。
表1において、実施例1は、実施の形態1で検討した、母材にポリプロピレンを用いセルロース系繊維を10質量%含有するセルロース系繊維複合樹脂を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。また、金型内に配置した樹脂製インサートピースには実施の形態1と同様、茶色の着色剤を3質量%添加して成形したものを用いた。この実施例1を基準として、セルロース系繊維の濃度を5質量%間隔で増加させ、成形が可能なセルロース系繊維濃度及び線状模様形成の見極めを行なった。なお、樹脂製インサートピースは各条件において特に変更していない。
【0041】
図4の表1において、実施例1~実施例14および比較例1は、セルロース系繊維10質量%から80質量%の範囲の複合樹脂(5質量%きざみ)を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。すなわち、実施例1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12,13,14は、それぞれセルロース系繊維を10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75質量%含有する複合樹脂、比較例1はセルロース系繊維を80質量%含有した複合樹脂である。表1には、これらの複合樹脂で成形されたサンプルで充填性及び線状模様を確認した結果を示す。
【0042】
実施例1~14は、成形品の形状を規定する金型への充填率が100%であり、未充填部はなかった。また、線状模様の形成においても、幅の違いはあるものの全ての条件で形成を確認した。表1では、これを「良好」として評価し、”○”で表した。
一方、比較例1においては、金型の末端まで樹脂が流動・充填しなかった。つまり、100%充填ではなかたった。また、粘性が高すぎることで金型内部での流動に不具合が生じたため、線状模様の形成を確認できなかった。表1では、これを「不良」と評価し、”×”で表した。以上より、上述の条件下では、セルロース系繊維を75質量%含有した複合樹脂が、射出成形にて製品形状を満足する成形品が得られる成形限界であった。
【0043】
(実施の形態3)
図5a乃至図5dは、実施の形態3に係る射出成形品の製造方法の各工程を示す概略斜視図である。図6aは、実施の形態3において、ゲート402からのセルロース系繊維複合樹脂401が樹脂製インサートピース403の前面で分岐し、その側面を回り込む様子を示す概略平面図である。図6bは、図6aの後、回り込んだセルロース系繊維複合樹脂が樹脂製インサートピース403を溶出させ、合流して、溶出した樹脂による模様405が線状になるメカニズムを示す概略平面図である。図7は、図5dの射出成形品である木質成形品100aの成形品外観を示す概略平面図である。
【0044】
<射出成形品>
実施の形態3に係る射出成形品である木質成形品100aは、セルロース系繊維複合樹脂401を用いた射出成形品である。この木質成形品100aは、図5dに示すように、着色剤又はセルロース繊維を含む樹脂製インサートピース403と、セルロース系繊維複合樹脂401で構成される第一領域と、樹脂製インサートピース403から延在するセルロース系繊維複合樹脂401のウェルドライン406に沿って構成される第二領域407と、を有する。第一領域401と第二領域407とは、色調が異なる。
【0045】
<射出成形品の製造方法>
実施の形態3に係る射出成形品の製造方法では、例えば、セルロース系繊維が55質量%添加されたセルロース系繊維複合樹脂401を射出成形に用いている。また、樹脂製インサートピース403には、射出成形用樹脂同様のセルロース系繊維が55質量%添加されたポリプロピレンに着色をせずに成形したものを用いて検討を実施した。射出時の成形条件は、例えば、樹脂温度が190℃、金型温度が60℃、射出速度が100mm/s、保圧力及び保圧時間が80MPa、5s、金型温度が60℃である。
【0046】
(1)金型(図示せず)の間のキャビティにゲート402から離間させてセルロース繊維を含む樹脂製インサートピース403を配置する。
(2)図5aにおいて、成形機のシリンダから射出されたセルロース系繊維複合樹脂401は、金型内部のゲート402からキャビティに射出される。
(3)図5bにおいて、ゲート402から5mmの位置に配置された樹脂製インサートピース403は、セルロース系繊維複合樹脂401と衝突することでせん断発熱404により溶融状態となる。
(4)図5cにおいて、樹脂製インサートピース403を回避するようにセルロース系繊維複合樹脂401が分岐する。この分岐の際のせん断力により、溶融状態の樹脂製インサートピース403の側壁が溶出し、樹脂流動とともに流動末端に向かって流出する。このとき、樹脂製インサートピース403から流出した樹脂405中に含まれるセルロース系繊維は、せん断発熱の影響によりセルロース系繊維が半炭化状態になり茶褐色化する。茶褐色化したセルロース系繊維を含む樹脂405は、樹脂製インサートピース403にて分岐した後に合流したセルロース系繊維複合樹脂401が形成するウェルドライン406に沿って溶出する。
(5)図5dにおいて、セルロース系繊維複合樹脂401がウェルドライン106を形成しながら流動していき、流動末端にてキャビティを充填する。このとき、ゲート402から5mmの位置に配置された樹脂製インサートピース403は絶えずせん断発熱404が生じ、半炭化成分を生成し続ける。そのため、流動末端にて充填するまで樹脂製インサートピース403の側面から流出した樹脂405を溶出し続けることで樹脂製インサートピース403より流動方向に対して後方に茶褐色の線状の模様407を形成する。
以上によって、線状の模様407を有する射出成形品である木質成形品100aが得られる。
【0047】
次に、この射出成形品の製造方法において、線状の模様が得られるメカニズムについて、図6a及び図6bを用いて説明する。
a)図6aに示すように、ゲート402から射出されたセルロース系繊維複合樹脂401は、樹脂製インサートピース403に衝突後、せん断発熱404を伴いながら樹脂製インサートピース403の周りを流動し樹脂製インサートピース403の角408にて内向きの流動501が生じる。
b)図6bに示すように、樹脂製インサートピース403の周囲を回り込んで流動したセルロース系繊維複合樹脂401は、合流するが、その後も樹脂製インサートピース403の影響で、絶えず内向きの力502、503を連続的に受け続ける。その結果、樹脂製インサートピース403からせん断発熱404により流出した樹脂405は、ウェルドライン406上に拘束されるように流動し、線状の模様のように成形品に残る。
なお、せん断発熱404の影響で樹脂製インサートピース403から流出した樹脂405中に含まれるセルロース系繊維は絶えずその影響を受けることで半炭化成分を生成し続けることで、線状の模様は、その全長にわたって茶褐色に変化している。
【0048】
図7に示すように、図5dの射出成形品である木質成形品100aは、セルロース系繊維複合樹脂401の一部にセルロース系繊維複合樹脂製インサートピース403から溶出し、半炭化しながら流出した樹脂405が流動末端まで流動し、線状の模様407が形成されることを確認できる。また、模様407は、基本的には直線的な線状模様407であるが、所々揺らぎが生じており、自然の木目のような風合いになっている。また、金型内に配置されたセルロース系繊維複合樹脂製インサートピースと前記セルロース系繊維複合樹脂製インサートピースから流出し形成された線状模様との色差を計算した。Lab系色表示空間において上記2色間の差を表す色差ΔEは下記式より得られる。
【0049】
【0050】
以上の結果より、両者の色差ΔEは21.3にもなり、金型内に配置されたセルロース系繊維複合樹脂製インサートピースとそのセルロース系繊維複合樹脂製インサートピースから流出した樹脂では大きな色の変化が生じていることがわかる。このことから、流出した樹脂中に含まれるセルロース系繊維がせん断発熱の影響で半炭化成分に変化したことで木目のような線状模様407が形成されていることがわかる。
かかる構成によれば、セルロース系繊維55質量%含むセルロース系繊維複合樹脂及びセルロース系繊維複合樹脂製のインサートピース403により本物の木材のような自然な揺らぎを有する線状の木目模様を通常の射出成形機で再現することができる。
【0051】
なお、セルロース系繊維としては針葉樹を使用した。これ以外にも、広葉樹、竹等の、セルロース系繊維を抽出できる木材や植物であれば使用でき、その素材は特に限定されない。
また、セルロース系繊維複合樹脂の母材にポリプロピレンを用いたが、ペレット製造段階でセルロース系繊維が炭化しない範囲で複合樹脂化できる樹脂であればよく、特に限定されない。
射出成形品となるキャビティの箇所へ直接に樹脂製インサートピースを配置する場合に、その位置や数は、金型の構造上可能な範囲で任意に設定でき、特に制限されない。
【0052】
(実施の形態4)
図8は、実施の形態4に係る射出成形品の製造方法における製造条件及びその評価結果を示す表2である。表2には、実施の形態2の結果をもとに、成形が可能なセルロース系繊維が75質量%添加された樹脂にて製造した、セルロース系繊維複合樹脂製インサートピースを金型内に配置した。また、射出用樹脂として、セルロース系繊維複合樹脂におけるセルロース系繊維の濃度を変化させて、線状模様の形成可否の調査を実施した。表2に、その射出成形限界の調査結果を示す。
表2において、実施例15は、実施の形態3で検討した、母材にポリプロピレンを用いセルロース系繊維を10質量%含有する複合樹脂を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。また、金型内に配置した樹脂製インサートピースは、上述のようにセルロース系繊維を75質量%含有したセルロース系繊維複合樹脂で構成されている。この実施例15を基準として、セルロース系繊維の濃度を5質量%間隔で増加させ、成形が可能なセルロース系繊維濃度及び線状模様形成の見極めを行なった。なお、セルロース系繊維複合樹脂製インサートピースのセルロース系繊維濃度は各条件において特に変更していない。
【0053】
図8の表2において、実施例15~実施例28は、セルロース系繊維10質量%から75質量%の範囲の複合樹脂(5質量%きざみ)を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。すなわち、実施例15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26,27,28は、それぞれセルロース系繊維を10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75質量%含有する複合樹脂である。表2には、これらの複合樹脂で成形されたサンプル線状模様を確認した結果を示す。
【0054】
実施例15~実施例28は、線状模様の形成において、幅の違いはあるものの全ての条件で形成を確認した。表1では、これを「良好」と評価し、”○”で表した。以上より、上述の条件下では、セルロース系繊維を75質量%含有した複合樹脂にて成形された樹脂製インサートピースに対し、射出用のセルロース系繊維複合樹脂の濃度がいずれの濃度であっても、問題なく線状模様を形成することがわかった。ただし、線状模様の幅や濃さは射出用樹脂のセルロース系繊維含有率が高い方が太く、濃くなり、線状模様としてはより顕著に発現した。このことから、色差をはっきりとさせたい場合は射出用樹脂と樹脂製インサートピースのセルロース系繊維の含有率を同等か、樹脂製インサートピースのセルロース系繊維含有率をやや低くしておくのが好ましい。
【0055】
(実施の形態5)
図9は、実施の形態5に係る射出成形品の製造方法において、樹脂製インサートピースのサイズ及びゲートとの位置関係を変化させた場合の線状模様を示す表3である。図10Aは、ゲート102と樹脂製インサートピース103の中心とが重なる場合の線状模様の形成される方向701を示す概略図である。図10Bは、樹脂製インサートピース103がゲート102の左側に配置された場合の線状模様の形成される方向702を示す概略図である。図10Cは、樹脂製インサートピース103がゲート102の右側に配置された場合の線状模様の形成される方向703を示す概略図である。
実施の形態5では、樹脂製インサートピース103のサイズやゲート102との位置関係を変更して線状の木目模様の形成される方向や幅、長さについて検討を実施した。なお、本実施の形態5では、実施の形態1と同様、樹脂製インサートピースには茶色に着色したポリプロピレン製インサートピースを用いて検討を実施した。また、射出時の成形条件は実施の形態1と同様である。
図9の表3は、本実施の形態5における様々な樹脂製インサートピースのサイズ及びゲート102に対する様々な位置での線状木目模様の形成される方向及び幅を調査した結果を示す表である。図10A乃至10Cは、本実施の形態5における線状木目模様が形成される方向701~703を模式的に示す図である。
【0056】
図9の表3において、実施例29は、ゲート102に対して2mm離れた位置に10mm角の樹脂製インサートピース103をセンター合わせで配置した実施例である。結果として、約3mm幅の線状木目模様が比較的垂直に形成された。
一方、実施例30は、ゲート102に対し、実施例29と同様2mm離れた位置に7mm×10mmサイズの樹脂製インサートピース103をセンターから3.5mm左にずらした位置で配置した実施例である。結果として、約2.5mm幅の線状木目模様が左斜め下に向かって形成された。
さらに、実施例31は、実施例30に対し、樹脂製インサートピース103を5mm×8mmに小さくし、ゲート102からの距離も4mmに増加させた。結果として、実施例30と同様に左斜め下方向に向かって線状木目模様が形成されたものの、幅が約1.5mmであり、流出した樹脂105の量が減少した。
【0057】
図10A乃至図10Cにおいて、線状模様の方向701、702、703は、それぞれゲート102に対して異なる位置に配置されており、また、サイズも異なる。図10A乃至10Cより、線状木目模様が形成される方向701、702、703は、ゲート102と樹脂合流点704との位置関係によって決まることがわかる。つまり、ゲート102と樹脂合流点704との上記2点を結ぶ方向に樹脂合流点704から線状木目模様が形成される。なお、ゲート102と樹脂合流点704との上記2点を結ぶ方向に沿ってウェルドラインが延びる。また、分岐したそれぞれの樹脂は、分岐点から樹脂製インサートピース103の周囲に沿って流れる。そこで、樹脂合流点704は、例えば、簡易的には分岐点から樹脂製インサートピース103の周囲の両側の長さが等しくなる箇所として算出してもよい。
かかる構成によれば、ゲート102に対する樹脂製インサートピース103の配置を制御することで、線状木目模様の方向や幅をコントロールすることが可能である。
なお、上記プロセスによれば、右斜め下方向に線状木目模様を付与したい場合はゲート102のセンターに対して、右側に樹脂製インサートピース103を配置することで再現可能である。
この実施の形態5では樹脂製インサートピースに茶色に着色したポリプロピレン製インサートピースを用いたが、実施の形態3のように、セルロース系繊維を含有したセルロース系繊維複合樹脂製インサートピースを用いても同様の線状模様が得られる。
【0058】
(実施の形態6)
図11Aは、実施の形態6に係る射出成形品の製造方法において、一つのゲート102に対して複数の樹脂製インサートピース103を配置した場合の例を示す概略図である。図11Bは、樹脂製インサートピースを円形にした場合の例を示す概略図である。図11Cは、樹脂製インサートピースを三角形にした場合の例を示す概略図である。図11Dは、樹脂製インサートピースを逆三角形にした場合の例を示す概略図である。
実施の形態6では、ゲート102に対する樹脂製インサートピース103の形状や数量について検討を実施した。
図11Aに示すように、複数の樹脂製インサートピース103を有する場合には、ゲート102とそれぞれの樹脂製インサートピース103の樹脂合流点とを結ぶ方向に線状模様がそれぞれ形成できる。
かかる構成によれば、一点のゲート102から複数の線状木目模様を形成することが可能であり、また、それぞれのインサートピースの間隔や距離を変えることで、任意に線状木目の方向をコントロールことができる。
また、図11B乃至図11Dには、樹脂製インサートピース103を円形、三角形、逆三角形にした場合の例を示している。
かかる構成によれば、実施の形態1、2と同様に線状木目模様を付与することが可能であり、樹脂製インサートピース103の形状は、金型構造や製品形状に合わせて任意に設定することができる。
【0059】
(実施の形態7)
<射出成形品の製造方法>
図12a乃至図12dは、実施の形態7に係る射出成形品の製造方法の各工程を示す概略斜視図である。
実施の形態7に係る射出成形品の製造方法は、実施の形態1に係る射出成形品の製造方法と対比すると、製品部外となるタブゲート902から離間させて同じ製品部外となる箇所に樹脂製インサートピース903を配置している点で相違する。その結果、射出成形品からタブゲート902及び樹脂製インサートピース903を切り離すことができる。
実施の形態7では、例えば、セルロース系繊維が55質量%添加されたセルロース系繊維複合樹脂(901)を射出成形に用い、樹脂製インサートピース(903)には、ベース樹脂であるポリプロピレンに茶色の着色剤をドライブレンドして成形したものを用いて検討を実施した。射出時の成形条件は、例えば、樹脂温度が200℃、金型温度が60℃、射出速度が100mm/s、保圧力及び保圧時間が80MPa、5sである。
【0060】
(1)金型(図示せず)の間のキャビティの製品部外となるタブゲート902から離間させて着色剤を含む樹脂製インサートピース903を配置する。
(2)図12aにおいて、樹脂製インサートピース903は、製品部外のタブゲート902近傍に配置されている。成形機のシリンダから射出されたセルロース系繊維複合樹脂901は、金型内部のタブゲート902から射出される。
(3)図12bにおいて、タブゲート902から10mmの位置に配置された樹脂製インサートピース903は、セルロース系繊維複合樹脂901と衝突することでせん断発熱904により溶融状態となる。
(4)図12cにおいて、樹脂製インサートピース903を回避するようにセルロース系繊維複合樹脂901が分岐する。この分岐の際のせん断力により、溶融状態の樹脂製インサートピース903の側壁が溶出し、樹脂流動とともに流動末端に向かって流出する。このとき、樹脂製インサートピース903から流出した樹脂905は、樹脂製インサートピース903にて分岐した後に合流したセルロース系繊維複合樹脂901が形成するウェルドライン906に沿って溶出する。
(5)図12dにおいて、セルロース系繊維複合樹脂901がウェルドライン906を形成しながら流動していき、流動末端にてキャビティを充填する。このとき、タブゲート902から10mmの位置に配置された樹脂製インサートピース903は絶えずせん断発熱904が生じる。そのため、流動末端にて充填するまで樹脂製インサートピース903の側面から流出した樹脂905を溶出し続けることで樹脂製インサートピース903より流動方向に対して後方に線状の模様907を形成する。
(6)成形完了後に製品部とタブゲートの境界面908にてタブゲートを切り離す。
以上によって、線状の模様907を有する射出成形品である木質成形品100bが得られる。
【0061】
かかる構成によれば、製品部にタブゲート902及び樹脂製インサートピース903を残存させずに線状木目模様を有する射出成形品である木質成形品100bを得ることができる。
また、実施の形態3で検討したように配置する樹脂製インサートピースの数や間隔、形状は金型内に配置可能な範囲で任意に設定でき、特に制限されない。
さらに、実施の形態7では、樹脂製インサートピースに茶色に着色したポリプロピレン製インサートピースを用いたが、実施の形態3のように、セルロース系繊維を含有したセルロース系繊維複合樹脂製インサートピースを用いても同様の線状模様が得られる。
【0062】
(実施の形態8)
<射出成形品の製造方法>
図13は、実施の形態8に係る射出成形品の製造方法によって得られる射出成形品の外観を示す概略斜視図である。
実施の形態8に係る射出成形品の製造方法は、実施の形態7に係る射出成形品の製造方法と対比すると、タブゲート1001、1002を複数配置し、線状木目模様に大幅な揺らぎを与える金型構造を用いている点で相違する。
図13において、タブゲート1001と1002とは、互いに90°回転した位置関係にある。本構成の金型において、2つのタブゲート1001、1002に近接して、任意の形状、位置に樹脂製インサートピース1003をそれぞれ配置している。各タブゲート1001,1002から射出成形することで、2つのタブゲート1001、1002からの樹脂が合流する樹脂合流界面1004にて樹脂の流動方向が変化し、線状木目模様に大きな揺らぎ1005、1006を付与することができる。
かかる構成によれば、金型内に複数のタブゲートを任意の角度で配置することで、大きな揺らぎを有する線状木目模様を付与することができる。
【0063】
なお、本構成はタブゲートのみに有効ではなく、実施の形態1及び3で検討したダイレクトゲートやピンゲート等、様々なゲート形状で再現することが可能で、特に制限されない。
【0064】
また、多点ゲート及び複数の樹脂製インサートピースを配置し、各ゲートからの射出タイミングに差異を設けたり、射出速度を段付にしたり、ゲート配置に角度を設けてもよい。これによって、上記各実施の形態に係る射出成形品の製造方法によって射出する樹脂のウェルドライン上に形成される木目のような線状模様において、木目に様々な揺らぎを付与することができる。
【0065】
上記の方法で木目のような線状模様を表す場合においても、射出速度を加減することにより、樹脂製インサートピースに生じるせん断発熱及びせん断力を変化させることができる。その結果、高速で射出すれば木目のような線状模様を太くすることができ、また低速で射出すれば線状模様を細くすることができる。これによって、木目毎の幅や方向も制御することができる。
【0066】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る射出成形品である木質成形品は、射出成形と同等のサイクルで本物の木材のような質感及び木目模様を再現できる。このため、長時間かけて木材の削出し加工で適用されていた商品の置換えや、耐久性の問題で採用が困難とされていた水周り等において、本物の木材を採用できない部品にも適用できる。
【符号の説明】
【0068】
100 木質成形品
101 セルロース系繊維複合樹脂(第一領域)
102 ゲート
103 着色したポリプロピレン製インサートピース
104 せん断発熱
105 樹脂
106 ウェルドライン
107 線状木目模様(第二領域)
108 角
201 内向きの力
202 内向きの流動
203 内向きの流動
401 セルロース系繊維複合樹脂
402 ゲート
403 セルロース系繊維複合樹脂製インサートピース
404 せん断発熱
405 樹脂
406 ウェルドライン
407 線状木目模様
408 セルロース系繊維複合樹脂製インサートピースの角
501 内向きの力
502 内向きの流動
503 内向きの流動
701 線状模様の形成される方向
702 線状模様の形成される方向
703 線状模様の形成される方向
901 セルロース系繊維複合樹脂
902 タブゲート
903 着色したポリプロピレン製インサートピース
904 せん断発熱
905 樹脂
906 ウェルドライン
907 線状木目模様
1001 タブゲート
1002 タブゲート
1003 着色したポリプロピレン製インサートピース
1004 樹脂合流界面
1005 揺らぎを有する線状木目模様
1006 揺らぎを有する線状木目模様
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図11D
図12a
図12b
図12c
図12d
図13