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特許7442095ベータ-ヒドロキシブチレート及びブタンジオールのS-エナンチオマー並びにその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ベータ-ヒドロキシブチレート及びブタンジオールのS-エナンチオマー並びにその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/675 20060101AFI20240226BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 5/16 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240226BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240226BHJP
【FI】
C07C69/675
A61K31/22
A61P3/04
A61P3/10
A61P5/16
A61P9/04
A61P9/10
A61P19/02
A61P19/06
A61P21/02
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P29/00 101
A61P31/18
A61P35/00
A23L33/10
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2020502652
(86)(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 US2018042948
(87)【国際公開番号】W WO2019018683
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】62/535,754
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513038668
【氏名又は名称】バック・インスティテュート・フォー・リサーチ・オン・エイジング
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(73)【特許権者】
【識別番号】518434267
【氏名又は名称】ザ・ジェイ・デイヴィッド・グラッドストーン・インスティトゥーツ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ヴァーディン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・シー・ニューマン
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/120300(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/123229(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/147503(WO,A1)
【文献】特開平01-160917(JP,A)
【文献】特表2012-500264(JP,A)
【文献】国際公開第2017/011294(WO,A1)
【文献】特表2013-520454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】
によるベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマー又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)活性を阻害するための、組成物。
【請求項2】
式I:
【化2】
で表されるエナンチオマーS-β-ヒドロキシブチレート(BHB)-S-1,3-ブタンジオールが濃縮されているベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールを含む、HDAC活性を阻害するための、組成物。
【請求項3】
式Iのエナンチオマーが、前記組成物を構成するベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールの少なくとも90%を構成する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
式Iのエナンチオマーが、前記組成物を構成するベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールの少なくとも95%を構成する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
式Iのエナンチオマーが、前記組成物を構成するベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールの少なくとも99%を構成する、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物、並びに薬学的に許容される担体を含む、医薬製剤。
【請求項7】
腹腔内投与、局所投与、経口投与、吸入投与、経皮投与、皮下デポ投与、及び直腸投与からなる群から選択される様式を介する投与向けである、及び/又は
無菌である、及び/又は
経口投与される医薬品に関するFDA製造ガイドラインを満たしている、及び/又は
単位投与量製剤である、
請求項6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物、並びに食餌療法的に又は薬学的に許容される担体を含む、摂取用組成物。
【請求項9】
ベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマーが純粋なS-BHBエナンチオマーである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
食餌療法的に許容される担体を含む、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
食品、飲料、ドリンク剤、栄養補助食品、栄養補助剤、機能性食品、又はニュートラシューティカルを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物を含む栄養補助食品。
【請求項13】
ベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマーが、純粋なS-BHBエナンチオマーである、請求項12に記載の栄養補助食品。
【請求項14】
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物を含む栄養補助食品;並びに
ケトン食の1種又は複数の成分
を含む組成物。
【請求項15】
前記ベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマーが1%w/wから25%w/wの量で組成物中に存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記ベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマーが5%w/wから15%w/wの量で組成物中に存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記ベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマーが10%w/wの量で組成物中に存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
ケトン食が、2:1から10:1である、タンパク質及び炭水化物に対する脂肪の質量比を含む、請求項14から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
ケトン食が、3:1から6:1である、タンパク質及び炭水化物に対する脂肪の質量比を含む、請求項14から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
ケトン食が、4:1である、タンパク質及び炭水化物に対する脂肪の質量比を含む、請求項14から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
認知症又は他の神経認知障害の処置において使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
軽度認知障害又はアルツハイマー病の処置において使用するための、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
認知症又は他の神経認知障害の処置において使用するための、請求項6又は7に記載の医薬製剤。
【請求項24】
軽度認知障害又はアルツハイマー病の処置において使用するための、請求項23に記載の医薬製剤。
【請求項25】
対象において、前アルツハイマー状態及び/もしくは認知機能障害の発現を予防し若しくは遅延させるのに、並びに/又は前アルツハイマー状態及び/もしくは認知機能障害の1つ若しくは複数の症状を寛解させるのに、又は前アルツハイマー状態もしくは認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防し若しくは遅延させるのに使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記対象が、50歳以上の臨床的に正常なヒト対象においてAβのバイオマーカー陽性を呈する、及び/もしくは、前記対象が無症候性脳アミロイドーシスを呈する、及び/もしくは、前記対象が、下流の神経変性とともに脳アミロイドーシスを呈する、及び/もしくは、前記対象が軽度認知障害と診断された対象である、及び/もしくは、前記対象が臨床的認知症尺度0超~1.5未満を示す、及び/もしくは、前記対象が、アルツハイマー病を発症する遺伝的リスクがある、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
対象において、前アルツハイマー状態及び/もしくは認知機能障害の発現を予防し若しくは遅延させるのに、並びに/又は前アルツハイマー状態及び/もしくは認知機能障害の1つ若しくは複数の症状を寛解させるのに、又は前アルツハイマー状態もしくは認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防し若しくは遅延させるのに使用するための、請求項6又は7に記載の医薬製剤
【請求項28】
ヒト又は動物対象において遊離脂肪酸の血漿レベルの上昇によって引き起こされる、悪化する、もしくはこれに伴う状態の処置において使用するための、又は
体重減少もしくは体重増加が関係している状態の処置において使用するための、又は、
食欲を抑制する、肥満を処置する、体重減少を促進する、健康な体重を維持する、もしくは脂肪の除脂肪筋肉に対する比を下げるために使用するための、又は、
認知機能障害、神経変性疾患もしくは障害、筋肉障害、疲労及び筋肉疲労から選択される状態の予防もしくは処置において使用するための、又は、
糖尿病、甲状腺機能亢進症、メタボリックシンドロームXから選択される状態を患う対象の処置、もしくは高齢者患者の処置において使用するための、又は、
神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態もしくは高血糖の影響の処置、予防、又は低減において使用するための、又は、
神経変性の影響の予防もしくは低減において使用するための、又は、
アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、星状細胞腫、神経膠芽腫及びハンチントン舞踏病から選択される神経変性疾患もしくは障害の予防若しくは処置において使用するための、
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
対象の覚醒の促進又は認知機能の改善において使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
ヒト又は動物対象において遊離脂肪酸の血漿レベルの上昇によって引き起こされる、悪化する、もしくはこれに伴う状態の処置のための、又は
体重減少もしくは体重増加が関係している状態の処置のための、又は、
食欲を抑制する、肥満を処置する、体重減少を促進する、健康な体重を維持する、もしくは脂肪の除脂肪筋肉に対する比を下げるための、又は、
認知機能障害、神経変性疾患もしくは障害、筋肉障害、疲労及び筋肉疲労から選択される状態の予防もしくは処置のための、又は、
糖尿病、甲状腺機能亢進症、メタボリックシンドロームXから選択される状態を患う対象の処置、もしくは高齢者患者の処置のための、又は、
神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態もしくは高血糖の影響の処置、予防、又は低減のための、又は、
神経変性の影響の予防もしくは低減のための、又は、
アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、星状細胞腫、神経膠芽腫及びハンチントン舞踏病から選択される神経変性疾患もしくは障害の予防若しくは処置のための、
医薬の製造における、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項31】
対象の覚醒の促進又は認知機能の改善において使用するための医薬の製造における、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項32】
認知症又は他の神経認知障害の処置において使用するための医薬の製造における、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる、2017年7月21日出願、USSN 62/535,754の利益及び優先権を主張する。
【0002】
連邦政府支援に関する声明
本発明は、双方ともアメリカ国立衛生研究所によって授与された、助成金第R24DK085610号及び第K08AG048354号の下での政府支援によりなされたものである。連邦政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ケトン食及びケトン体は、てんかん、認知症及び加齢疾患といったいろいろなヒト障害の処置のために着目されている。ケトン体は、脂肪から生成される小化合物であり、絶食時や激しい運動中等の、体エネルギー貯蔵が枯渇した場合に糖の代用として機能する。ケトン食は、含有する糖又は他の炭水化物が極めて少ないので、ケトン体の産生を刺激する。ヒトの主要なケトン体は、アセトアセテート(AcAc)及びβ-ヒドロキシブチレート(BHB)、特にBHBのR-エナンチオマーである。ケトン食は、てんかんの治療として臨床的に使用されるが、長期間忠実に守ることが困難である場合が多い。脂肪含有量が非常に高い(及び炭水化物含有量が低い)ことにより、ケトン食の食品が口に合わなくなり、胃腸の問題、腎臓結石、高コレステロール及びその他の副作用が引き起こされる場合もある。
【0004】
BHBのR-エナンチオマーは、細胞エネルギーを生じるための通貨である代謝中間体であるが、エネルギー産生とは別のいくつかのシグナル伝達機能も有する。エネルギー及びシグナル伝達機能の一方又は両方が、ヒト疾患に対するBHBの効果にとって重要であろう。グルコースの不足時、例えば絶食又は激しい運動中、BHBとは、脂肪組織中に貯蔵されたエネルギーを、その機能を持続するために身体中の細胞によって使用可能な燃料に変換する通貨である。脂肪組織から動員された脂肪は、肝臓に輸送され、BHBに変換される。BHBは、血液中にあって全ての組織へ循環する。細胞に吸収された後、BHBはミトコンドリア中で分解されてアセチル-CoAを生じ、これはATPに更に代謝される。これは、BHBの標準「エネルギー通貨」機能である。
【0005】
加えて、BHBは、いくつかのシグナル伝達機能を有するとされている。この機能のうちのほとんどは、BHB分子それ自体の作用であり、一般にはアセチル-CoA及びATPへのその代謝の二次効果ではない点において、エネルギー通貨としてのその機能とは独立している。シグナル伝達機能としては、限定されないが、以下が挙げることができる:1)クラスI及びIIaヒストンデアセチラーゼの阻害、ヒストン修飾及び遺伝子発現における結果として生じる変化、並びに非ヒストンタンパク質のアセチル化状態及び活性における変化を伴う;2)アセチル-CoAへの代謝は、アセチルトランスフェラーゼ酵素の基質として働くアセチル-coAの細胞産生の上昇をもたらし、その結果、ヒストン及び非ヒストンタンパク質のアセチル化において、デアセチラーゼ阻害と同様の変化をもたらす;3)リジン-β-ヒドロキシブチリル化の形態でのヒストン及びおそらく他のタンパク質への共有結合、これはリジン-アセチル化と同様の効果を有することができる;4)ヒドロキシカルボン酸受容体2(HCAR2)受容体の結合及び活性化、脂肪組織代謝における結果として生じる改変を伴う;5)遊離脂肪酸受容体3(FFAR3)受容体の結合及び阻害、交感神経系活性化及び全身の代謝速度における結果として生じる変化を伴う;並びに6)NOD様受容体3(NLRP3)インフラマソームの阻害。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8,642,654B2号
【文献】米国特許第4,786,505号
【文献】米国特許第4,853,230号
【非特許文献】
【0007】
【文献】March (1992年) Advanced Organic Chemistry; Reactions, Mechanisms and Structure、第4版 N.Y. Wiley-Interscience社
【文献】Shimazuら(2013年)Science、339(6116): 211~214頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある特定の実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートのS-エナンチオマー(S-BHB)がR-エナンチオマーについて観察される天然のシグナル伝達活性を保持するという発見を反映する組成物及び方法が本明細書で提供される。しかし、S-エナンチオマーは、R-エナンチオマーと比較して改善された薬物動態を示す。特に、S-エナンチオマーは、実質的に改善された血清半減期を示す。したがって、ある特定の実施形態では、S-エナンチオマー又はBHBの使用方法が提供される。加えて、新規化合物S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、並びにこの化合物の使用方法が提供される。
【0009】
本明細書において企図される種々の実施形態としては、これらに必ずしも限定されないが、以下のうちの1つ又は複数を挙げることができる:
【0010】
実施形態1:式I:
【0011】
【化1】
【0012】
によるベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマーを含む化合物又はその薬学的に許容される溶媒和物。
【0013】
実施形態2:式I:
【0014】
【化2】
【0015】
で表されるエナンチオマーS-BHB-S-1,3-ブタンジオールが濃縮されているベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールを含む組成物。
【0016】
実施形態3:式Iのエナンチオマーが、組成物を構成するベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールの少なくとも約90%を構成する、実施形態2に記載の組成物。
【0017】
実施形態4:式Iのエナンチオマーが、組成物を構成するベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールの少なくとも約95%を構成する、実施形態2に記載の組成物。
【0018】
実施形態5:式Iのエナンチオマーが、組成物を構成するベータヒドロキシブチレート-1,3-ブタンジオールの少なくとも約99%を構成する、実施形態2に記載の組成物。
【0019】
実施形態6:実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、並びに薬学的に許容される担体を含む、医薬製剤。
【0020】
実施形態7:薬学的に許容される担体:及び式II:
【0021】
【化3】
【0022】
で表されるエナンチオマーS-BHBが濃縮されているベータ-ヒドロキシブチレートを含む、医薬製剤。
【0023】
実施形態8:式IIのエナンチオマーが、製剤を構成するベータ-ヒドロキシブチレートの少なくとも約90%を構成する実施形態7に記載の製剤。
【0024】
実施形態9:式IIのエナンチオマーが、製剤を構成するベータヒドロキシブチレートの少なくとも約95%を構成する、実施形態7に記載の製剤。
【0025】
実施形態10:式IIのエナンチオマーが、製剤を構成するベータ-ヒドロキシブチレートの少なくとも約99%を構成する、実施形態7に記載の製剤。
【0026】
実施形態11:腹腔内投与、局所投与、経口投与、吸入投与、経皮投与、皮下デポ投与、及び直腸投与からなる群から選択される様式を介する投与向けである、実施形態6~10のいずれか一形態に記載の製剤。
【0027】
実施形態12:実質的に無菌である、実施形態6~10のいずれか一形態に記載の製剤。
【0028】
実施形態13:経口投与される医薬品に関するFDA製造ガイドラインを満たしている、実施形態6~12のいずれか一形態に記載の製剤。
【0029】
実施形態14:単位投与量製剤である、実施形態6~13のいずれか一形態に記載の製剤。
【0030】
実施形態15:実施形態のいずれか一形態に規定の化合物、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実質的に純粋なS-BHBエナンチオマー、並びに食餌療法的に又は薬学的に許容される担体を含む、摂取用組成物。
【0031】
実施形態16:実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物を含む、実施形態15に記載の組成物。
【0032】
実施形態17:実質的に純粋なS-BHBエナンチオマーを含む、実施形態15に記載の組成物。
【0033】
実施形態18:食餌療法的に許容される担体を含む、実施形態15~17のいずれか一形態に記載の組成物。
【0034】
実施形態19:食品、飲料、ドリンク剤、栄養補助食品、栄養補助剤、機能性食品、又はニュートラシューティカルを含む、実施形態18に記載の組成物。
【0035】
実施形態20:実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実質的に純粋なS-BHBエナンチオマー、を含む栄養補助食品。
【0036】
実施形態21:前記組成物が、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物を含む、実施形態20に記載の栄養補助食品。
【0037】
実施形態22:前記組成物が、実質的に純粋なS-BHBエナンチオマーを含む、実施形態20に記載の栄養補助食品。
【0038】
実施形態23:
実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実質的に純粋なS-BHBエナンチオマーを含む栄養補助食品;並びに
ケトン食の1種又は複数の成分
を含む組成物。
【0039】
実施形態24:化合物及び/又は前記実質的に純粋なS-BHBエナンチオマーが約1%w/wから約25%w/wの量で組成物中に存在する、実施形態23に記載の組成物。
【0040】
実施形態25:化合物及び/又は前記実質的に純粋なS-BHBエナンチオマーが約5%w/wから約15%w/wの量で組成物中に存在する、実施形態23に記載の組成物。
【0041】
実施形態26:化合物及び/又は前記実質的に純粋なS-BHBエナンチオマーが約10%w/wの量で組成物中に存在する、実施形態23に記載の組成物。
【0042】
実施形態27:ケトン食が、約2:1から約10:1である、脂肪のタンパク質及び炭水化物に対する質量比を含む、実施形態23~26のいずれか一形態に記載の組成物。
【0043】
実施形態28:ケトン食が、約3:1から約6:1である、脂肪のタンパク質及び炭水化物に対する質量比を含む、実施形態23~26に記載の組成物。
【0044】
実施形態29:ケトン食が、約4:1である、脂肪のタンパク質及び炭水化物に対する質量比を含む、実施形態23~26に記載の組成物。
【0045】
実施形態30:認知症又は他の神経認知障害を処置する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0046】
実施形態31:軽度認知障害又はアルツハイマー病を処置する工程を含み、且つ
それを必要とする対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤を、軽度認知障害及び/又はアルツハイマー病の1つ又は複数の症状を寛解させるのに十分な量で投与する工程を含む、実施形態30に記載の方法。
【0047】
実施形態32:前アルツハイマー状態及び/若しくは認知機能障害の発現を予防する若しくは遅延させる、並びに/又は前アルツハイマー状態及び/若しくは認知機能障害の1つ若しくは複数の症状を寛解させる、又は前アルツハイマー状態若しくは認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防する若しくは遅延させる、方法であって;それを必要とする対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤を、前アルツハイマーの認知機能障害の発現を予防し若しくは遅延させるのに、並びに/又は前アルツハイマーの認知機能障害の1つ若しくは複数の症状を寛解させるのに、並びに/又は前アルツハイマーの認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防し若しくは遅延させるのに、十分な量で投与する工程を含む、方法。
【0048】
実施形態33:認知に関して無症候性の前アルツハイマー状態から前アルツハイマーの認知機能障害への移行を予防する又は遅延させる方法である、実施形態32に記載の方法。
【0049】
実施形態34:前アルツハイマーの認知機能障害の発現を予防する又は遅延させる方法である、実施形態32に記載の方法。
【0050】
実施形態35:前アルツハイマーの認知機能障害の1つ又は複数の症状を寛解させる工程を含む、実施形態32に記載の方法。
【0051】
実施形態36:前アルツハイマーの認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防する又は遅延させる工程を含む、実施形態32に記載の方法。
【0052】
実施形態37:前記対象が、50歳以上の臨床的に正常なヒト対象においてAβのバイオマーカー陽性を呈する、実施形態30~36のいずれか一形態に記載の方法。
【0053】
実施形態38:前記対象が無症候性脳アミロイドーシスを呈する、実施形態30~37のいずれか一形態に記載の方法。
【0054】
実施形態39:前記対象が、下流の神経変性とともに脳アミロイドーシスを呈する、実施形態30~37のいずれか一形態に記載の方法。
【0055】
実施形態40:前記下流の神経変性が、タウからなる群から選択される神経損傷の1つ又は複数のマーカー上昇、及びFDG取込みによって決定される、実施形態39に記載の方法。
【0056】
実施形態41:前記対象が軽度認知障害と診断された対象である、実施形態30~36のいずれか一形態に記載の方法。
【0057】
実施形態42:前記対象が臨床的認知症尺度0超~約1.5未満を示す、実施形態30~41のいずれか一形態に記載の方法。
【0058】
実施形態43:対象が、アルツハイマー病を発症するリスクがある、実施形態30~36のいずれか一形態に記載の方法。
【0059】
実施形態44:対象が、アルツハイマー病を有する家族性リスクがある、実施形態30~43のいずれか一形態に記載の方法。
【0060】
実施形態45:対象が、家族性アルツハイマー病(FAD)突然変異を有する、実施形態30~43のいずれか一形態に記載の方法。
【0061】
実施形態46:対象が、APOEε4対立遺伝子を有する、実施形態30~43のいずれか一形態に記載の方法。
【0062】
実施形態47:前記化合物を投与する工程が、MCIのアルツハイマー病への進行を遅延させ又は予防する、実施形態30~46のいずれか一形態に記載の方法。
【0063】
実施形態48:前記投与工程が、Aβ42、sAPPβ、全-タウ(tTau)、ホスホ-タウ(pTau)、APPneo、可溶性Aβ40、pTau/Aβ42比及びtTau/Aβ42比からなる群から選択される1種又は複数の成分のレベルのCSFの低減を生じ、並びに/又は、Aβ42/Aβ40比、Aβ42/Aβ38比、sAPPα、sAPPα/sAPPβ比、sAPPα/Aβ40比及びsAPPα/Aβ42比からなる群から選択される1種又は複数の成分のレベルのCSFの上昇を生じる、実施形態30~47のいずれか一形態に記載の方法。
【0064】
実施形態49:前記投与工程が、対象の認知能力の改善を生じる、実施形態30~48のいずれか一形態に記載の方法。
【0065】
実施形態50:前記投与工程が、対象の臨床的認知症尺度(CDR)の改善、安定化、又は減退速度の低減を生じる、実施形態30~48のいずれか一形態に記載の方法。
【0066】
実施形態51:対象の脳におけるてんかん波形様活動を低減する方法であって、前記対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0067】
実施形態52:前記有効量が、前記対象の脳におけるてんかん波形様活動を低減するのに十分である、実施形態51に記載の方法。
【0068】
実施形態53:対象において、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置するための方法であって;前記対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0069】
実施形態54:治療有効量が、前記対象の脳におけるてんかん波形様活動を低減するのに十分である、実施形態55に記載の方法。
【0070】
実施形態55:ヒト又は動物対象において遊離脂肪酸の血漿レベルの上昇によって引き起こされる、悪化する、又はこれに伴う状態を処置する方法であって、対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0071】
実施形態56:体重減少又は体重増加が関係している状態を処置する方法であって、その必要がある対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0072】
実施形態57:食欲を抑制する、肥満を処置する、体重減少を促進する、健康な体重を維持する、又は脂肪の除脂肪筋肉に対する比を下げる方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0073】
実施形態58:認知機能障害、神経変性疾患又は障害、筋肉障害、疲労及び筋肉疲労から選択される状態を予防する又は処置する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0074】
実施形態59:糖尿病、甲状腺機能亢進症、メタボリックシンドロームXから選択される状態を患う対象を処置する、又は高齢者患者を処置する方法であって、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量をそれら又は彼らに投与する工程を含む、方法。
【0075】
実施形態60:神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態又は高血糖の影響を処置する、予防する、又は低減する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0076】
実施形態61:神経変性の影響を処置する、予防する、又は低減する方法であって、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を含む、方法。
【0077】
実施形態62:神経変性が、老化、外傷、酸素欠乏又は神経変性疾患若しくは障害によって引き起こされる、実施形態60又は61に記載の方法。
【0078】
実施形態63:アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、星状細胞腫、神経膠芽腫及びハンチントン舞踏病から選択される神経変性疾患又は障害を予防する又は処置する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0079】
実施形態64:対象の覚醒を促進する又は認知機能を改善する方法であって、前記対象に、実施形態1に記載の化合物、及び/又は実施形態2~5のいずれか一形態に記載の組成物、及び/又は実施形態6~14のいずれか一形態に記載の医薬製剤、の有効量を投与する工程を含む、方法。
【0080】
実施形態65:前記対象がヒトである、実施形態30~64のいずれか一形態に記載の方法。
【0081】
実施形態66:前記対象が非ヒト哺乳動物である、実施形態30~64のいずれか一形態に記載の方法。
【0082】
定義
本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という語句は、下記で記載される通り、本明細書で列挙される疾患又は状態を患っている、又はこれらを患うリスクがある(例えば、遺伝的素因がある等、素因がある)対象を指す。
【0083】
「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は同義的に使用可能であり、哺乳動物、好ましくは、ヒト若しくは非ヒト霊長類を指すが、飼い慣らされた哺乳動物(例えば、イヌ又はネコ)、実験哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット)及び農業用哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ)をも指す。種々の実施形態では、対象は、外来患者として、病院、精神医学的なケア施設内の医師又は他の健康な作業員の保護下の又は他の臨床状況下のヒト(例えば、成人男性、成人女性、青年期の男性、青年期の女性、男児、女児)とすることができる。ある特定の実施形態では、対象は、医師又は他の健康な作業員の保護の下でなくても彼らの処方の下でなくてもよい。
【0084】
「有効量」とは、必要な投与量及び期間において、所望の治療結果又は予防結果を達成するのに有効な量を指す。「治療有効量」は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重等の因子、並びに個体において所望の応答を誘発する医薬品の能力により様々である。治療有効量とはまた、処置の任意の毒性作用又は有害作用が実質的に存在していない、又は治療的に有益な効果が凌駕している場合、の量でもある。ある特定の実施形態では、「治療有効量」という用語は、哺乳動物(例えば、患者又は非ヒト哺乳動物)における疾患又は障害を「処置する」のに有効な、活性薬剤又は活性薬剤を含む組成物の量を指す。一実施形態では、治療有効量とは、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ、多発性硬化症等の病態に伴う少なくとも1つの症状を改善するのに十分な量である。ある特定の実施形態では、有効量とは、発達又は疾患を予防し、進行を遅延させ、又は疾患の退行を引き起こすのに十分な量、或いは疾患により引き起こされる症状を低減することが可能な量である。
【0085】
「予防有効量」とは、必要な投与量及び期間において、所望の予防結果を達成するのに、有効な量を指す。通常必ずしもそうではないが、予防用量は疾患の前又は初期段階に対象において使用されるので、予防有効量は治療有効量よりも少ない。
【0086】
本明細書で使用される「処置」、「処置すること」、又は「処置する」という用語は、疾患又は状態の症状又は病態に対して望ましい効果を生みだす行為、特に、本明細書で記載の組成物を活用して実行されうる行為、限定されないが、処置される疾患又は状態についての、1つ若しくは複数の測定可能なマーカーの最小の変化又は改善さえも含みうる行為、を指す。処置とはまた、用語が当てはまる疾患若しくは状態、又はそのような疾患若しくは状態の1つ若しくは複数の症状、のいずれかの、発現を遅延させ、進行を遅らせ若しくは逆転させ、重症度を低減し、又はこれらを軽減し若しくは予防することも指す。「処置」、「処置すること」、又は「処置する」とは、疾患若しくは状態、又はこれらの関連する症状の完全な根絶又は治癒を、必ずしも指摘するわけではない。一実施形態では、処置は、処置される疾患の、少なくとも1つの症状の改善を含む。改善は、部分的であっても完全であってもよい。この処置を施される対象は、それを必要とする任意の対象である。臨床的改善についての例示的なマーカーは、当業者であれば明らかである。
【0087】
用語「緩和する」とは、その病態若しくは疾患の1つ若しくは複数の症状の低減若しくは消失、及び/又はその病態若しくは疾患の1つ若しくは複数の症状の発現若しくは重症度の速度の低減若しくは遅延、及び/又はその病態若しくは疾患の予防を指す。
【0088】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つの症状を改善する」又は「1つ又は複数の症状を改善する」という語句又はこれらの同義語は、病態又は疾患の1つ又は複数の症状の低減、消失、又は予防を指す。
【0089】
「活性薬剤」という用語は、薬理学的作用を発揮するとともに本明細書に記載の1つ又は複数の状態/病弊(例えば、アルツハイマー病)を処置し、予防し又は寛解させることができる化学物質又は化合物を指す。目的の活性薬剤の例としては、本明細書に記載のS-BHB及びS-BHB-S-1,3-ブタンジオールが挙げられる。
【0090】
「実質的に純粋な」という用語は、エナンチオマーに関して使用する場合、特定の一エナンチオマー(例えば、S-エナンチオマー)はその立体異性体を実質的に含んでいないことを示す。種々の実施形態では、実質的に純粋なとは、特定のエナンチオマーが、精製された化合物の少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%であること、を示す。実質的に純粋なエナンチオマーを生産する方法は当業者には周知である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】BHBのR-及びS-エナンチオマーの構造(それぞれR-BHB及びS-BHB)、1,3-ブタンジオールのR-及びS-エナンチオマーの構造、並びにR-BHB-R-1,3-ブタンジオール及びS-BHB-S-1,3-ブタンジオールの構造を例示する図である。BHBとブタンジオールは「頭部と頭部」で結合しているため、ブタンジオールの方向はエステル内で反転していることに留意されたい。
図2】BHBのR-エナンチオマー(R-BHB)のナトリウム塩(上)及びS-エナンチオマー(S-BHB)のナトリウム塩(下)によるHDAC阻害を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
ある特定の実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートのS-エナンチオマー(S-BHB)がR-エナンチオマーについて観察される天然のシグナル伝達活性を保持するという発見を反映する組成物及び方法が本明細書で提供される。しかし、S-エナンチオマーによって、R-エナンチオマーと比較して改善された薬物動態が提供される。特に、S-エナンチオマーによって、とりわけ、実質的に改善された血清半減期が提供される。したがって、ある特定の実施形態では、BHBのS-エナンチオマーの使用方法が提供される。加えて、新規化合物S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、並びにこの化合物の使用方法が提供される。
【0093】
ベータ-ヒドロキシブチレート(BHB)はキラル分子であり、R-BHBは通常の哺乳動物代謝で生成され容易に消費されるエナンチオマーである。BHBの急速な異化にかかっているシグナル伝達機能又はその他の効果は、したがってR-エナンチオマーにのみ関連する。しかし、BHBの直接作用であるシグナル伝達機能は、関与するタンパク質の立体選択性に応じて、S-BHBによって部分的又は完全に再現されることが発見された。実際、本明細書に記載の直接シグナル伝達機能のうちのいくつかは、非立体選択的であると思われる。
【0094】
例えば、BHBによるHDAC阻害の立体選択性についてはこれまで知られていなかった。しかし、本明細書で実証の通り(例えば、実施例1及び図2を参照されたい)、S-BHBエナンチオマーは、HDAC活性の有効な阻害剤(IC50=7.3mM)であり、驚くべきことに、おそらくR-BHBは急速に代謝されることから、R-BHBよりも更に有効である。
【0095】
加えて、S-BHBは、R-BHBよりも幾分低い親和性を有するが、GPCR HCAR2に結合できると考えられる。
【0096】
また、S-BHBは、哺乳動物に投与されると、インフラマソームの活性化も遮断できると考えられる。これは、NLRP3インフラマソーム活性化のin vitroアッセイとして、リポ多糖処理骨髄由来マクロファージ細胞におけるカスパーゼ-1活性化の使用を含むアッセイでS-BHBを試験することにより、容易に評価できる。
【0097】
上記を鑑みれば、S-BHB並びにそのエステル(S-BHB-S-1,3-ブタンジオール)は、S-BHBがR-BHBと共有するシグナル伝達活性を通して治療上有用とすることができると考えられる。
【0098】
したがって、ある特定の実施形態では、BHBのS-エナンチオマー(例えば、図1を参照されたい)、又は対象に投与された場合(例えば、ヒト又は非ヒト哺乳類に)代謝されてBHBのS-エナンチオマーを生じる化合物の投与を含む方法が本明細書で提供される。
【0099】
したがって、ある特定の実施形態では、下の式I:
【0100】
【化4】
【0101】
で表される、BHB-1,3-ブタンジオールのS-エナンチオマーであり、S-BHB-S-1,3-ブタンジオールと称される化合物が提供される。ある特定の実施形態では、本化合物は、実質的に純粋なS-BHB-S-1、3-ブタンジオールで提供される。
【0102】
本明細書で企図される化合物、組成物、及び製剤は、図1に示されるS-エナンチオマー(例えば、S-BHB、及びS-BHB-1,3-ブタンジオール)が濃縮されている。本明細書で用いられる「濃縮されている」という用語は、濃縮されているエナンチオマーのレベルが、そのエナンチオマーがラセミ混合物に通常には存在する/生じることになるレベルよりも高いことを意味する。濃縮百分率が言及される場合、濃縮エナンチオマーは、存在するラセミ混合物(例えば、全BHB、又はBHB-1,3-ブタンジオール)のうちのその百分率を構成する。一般に、S-BHB、又はS-BHB-S-1,3-ブタンジオールは、全BHB、又はBHB-1,3-ブタンジオールラセミ混合物の少なくとも60%に、又は少なくとも70%に、又は少なくとも80%に、又は少なくとも90%に、好ましくは少なくとも95%に、又は少なくとも98%に、又は少なくとも99%に鏡像異性体的に濃縮されている。ある特定の実施形態では、S-BHB、又はS-BHB-S-1,3-ブタンジオールエナンチオマーは実質的に純粋である。
【0103】
ある特定の実施形態では、S-BHB-S-1,3-ブタンジオールエナンチオマーは、リパーゼ酵素の存在下で、エチル(3S)-ヒドロキシブチレートと(3S)-1,3-ブタンジオールとの間のエステル交換反応を実施する工程を含む方法によって調製することができる。ある特定の実施形態では、反応は、約40℃で約96時間にわたって行うことができる。
【0104】
反応生成物は、当業者に周知の標準的な方法を使用して精製することができる。例えば、例示的であるが非限定的な一実施形態では、反応の生成物をワイプドフィルム蒸留(GMP)に付すことができる。これは、脱気パス、出発材料を除去するための第2のライトカットパス、次いで最終パスを含む。例示的であるが非限定的な一実施形態では、最終パスの条件は1.8トンで145℃である。対応するR-エナンチオマーの調製及び精製は、米国特許第8,642,654B2号に記載されており、そこに提供の教示を使用して、当業者であれば所望の任意レベルの純度で本明細書に記載のS-エナンチオマーを容易に製造することができる。
【0105】
S-BHB-S-1,3-ブタンジオールの試料(例えば、(3S,3S')エナンチオマーに対して濃縮)によって、経口摂取の場合、(3S)-ヒドロキシブチレートの血中濃度について測定できるほどの上昇が得られると考えられる。したがって、S-BHB-S-1,3-ブタンジオールエナンチオマーは、(3S)-ヒドロキシブチレートを対象に送達する有効な手段となっている。しかし、ある特定の実施形態では、S-BHBエナンチオマーは直接投与される場合もある。
【0106】
本明細書に記載の方法が本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB又はその組成物/製剤)の投与工程に言及する場合、S-エナンチオマーは投与された組成物中に濃縮されている、例えば、上に記載の通り濃縮されている、ことが企図されている、ことは明らかである。ある特定の実施形態では、S-エナンチオマーは実質的に純粋である。同様に、本明細書に記載の組成物、製剤では、組成物/製剤のBHB成分又はBHB-1,3-ブタンジオール成分はS-エナンチオマーが濃縮されている、例えば、上に記載の通り濃縮されている、ことが企図されている。ある特定の実施形態では、組成物/製剤のBHB成分又はBHB-1,3-ブタンジオール成分は実質的に純粋である。
【0107】
本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB(図1を参照されたい))は、脂肪酸の血漿レベルを低減するのに効果的であると考えられる。したがって、ある特定の実施形態では、これらの化合物、及びこれらの化合物を含む組成物/製剤を使用して、対象(例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物)の血漿中を循環する遊離脂肪酸のレベルを低減することができる、と考えられる。このようにして、これら化合物を、ヒト又は非ヒト動物対象における遊離脂肪酸の血漿レベルの上昇によって引き起こされる、悪化する、又はこれに伴う状態を処置するために使用することができる。したがって、ある特定の実施形態では、ヒト又は動物対象を、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの一方又は両方及び/若しくはこういったエナンチオマーを含む組成物/製剤を対象に投与する工程を含む方法によって処置することができる。それにより、対象の状態は改善し又は寛解させることが可能である。
【0108】
遊離脂肪酸の血漿レベルの上昇によって引き起こされる、悪化する、又はこれに伴う状態としては、限定されないが、神経変性疾患又は障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病;低酸素状態、例えば狭心症、極度の身体運動、間欠跛行、低酸素症、脳卒中及び心筋梗塞;インスリン抵抗性の状態、例えば感染、ストレス、肥満、糖尿病及び心不全;並びに感染症や自己免疫疾患といった炎症状態が、挙げられる。
【0109】
脂肪酸の血漿レベルを低減することに加えて、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)は、脳の食欲中枢に作用すると考えられる。特に、これらのエナンチオマーは、脳の食欲中枢における様々な食欲抑制性神経ペプチド(食物摂取の低下及び食欲の低下に関連すると知られている神経ペプチド)のレベルを上昇させることができ、また、食欲と食物摂取の低下と関連する代謝物であるマロニルCoAのより高レベルを誘導することができる、と考えられる。
【0110】
したがって、ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、体重減少又は体重増加が関係している状態を処置するのに有用であると考えられる。例えば、エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤は、対象において、食欲を抑制する、肥満を処置する、体重減少を促進する、健康な体重を維持する、又は脂肪の除脂肪筋肉に対する比を下げる際に使用できる。種々の実施形態では、いずれの場合にも対象は健康な対象であっても危険にさらされている(compromised)対象であってもよい。健康な対象とは、例えば、身体的能力及び/又は身体的外観が重要である、健康な体重の個体とすることができる。例としては、限定されないが、軍隊員、アスリート、ボディビルダー、ファッションモデルが挙げられる。危険にさらされている対象とは、非健康な体重の個体、例えば、太りすぎ、臨床的に肥満、又は臨床的に極度の肥満の個体とすることができる。危険にさらされている対象とは、或いは、臨床状態、例えば以下に列記されている状態を患っている健康な体重又は非健康な体重の個体とすることができる。
【0111】
健康な体重の個体は通常は、約18.5~約24.9の肥満度指数(BMI)を有し、太りすぎである個体は通常は、約25~約29.9の肥満度指数(BMI)を有し、臨床的に肥満の個体は通常は、約30~39.9の肥満度指数を持ち、臨床的に極度に肥満の個体は通常は、約40以上の肥満度指数を有する。
【0112】
脂肪酸の血漿レベルを低減し、脳の食欲中枢に作用することに加えて、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、脳のリン酸化ポテンシャル及びATP加水分解のΔG'を高めることにより、脳の代謝効率を高めることができる、と考えられる。したがって、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、認知機能の改善を促進することができ、認知機能障害を処置するのに又は神経変性の影響を低減するのに使用することができる、と考えられる。
【0113】
また、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、傍室核(脳の食欲の中枢)及び海馬(記憶にとって重要であると知られている脳の一部)の両方において、神経ペプチドである脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルも高めることができる、と考えられる。BDNFは、アポトーシスを予防し、大脳基底核及びその他の目的の領域におけるニューロンの成長を促進することが知られており、したがって、本明細書に記載のエナンチオマー及び/又はその組成物/製剤によって産生されるBDNFのレベルの上昇は、神経変性を阻害し、低酸素又は外傷後の神経組織死を制限し、神経組織の成長を促進すると期待される。
【0114】
本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤はまた、食欲抑制性神経ペプチドであるコカイン・アンフェタミン応答性転写産物(CART)のレベルを高めるとも考えられる。CARTは、覚醒を促進するとともに食欲を減退させることでも知られている。したがって、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤によってもたらされるCARTレベルの上昇は、認知機能を改善すると期待される。それゆえ、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤は、(a)覚醒及び認知機能の改善を促進するのに;及び/又は(b)神経変性を阻害するのに、有用であると期待される。
【0115】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤が、覚醒を促進し又は認知機能を改善する上で、或いは認知機能障害を処置する上で使用するために提供される。
【0116】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤が、神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態、又は高血糖の影響を処置し、予防し、又は低減する上で使用するために提供される。
【0117】
一実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤が、神経変性の影響を処置し、予防し、又は低減する上で使用するために提供される。したがって、S-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤は、特定の任意の原因から生じる神経変性の影響を処置し、予防し、又は低減するのに使用できる、と考えられる。神経変性は、例えば、神経変性疾患又は障害によって引き起こされる場合もあり、加齢、外傷、無酸素等によって引き起こされる場合もある。本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤を使用して処置できる神経変性疾患又は障害の例としては、限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、星状細胞腫、膠芽腫、及びハンチントン舞踏病が挙げられる。
【0118】
本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤を予防し又は処置するために使用できる状態のさらなる例としては、限定されないが、筋肉障害、疲労及び筋肉疲労が挙げられる。健康な対象又は危険にさらされている対象では、筋肉障害及び筋肉疲労を予防し又は処置することができる。危険にさらされている対象とは、例えば、線維筋痛症、又は筋痛性脳脊髄炎(ME、又は慢性疲労症候群)、又はその症状を患っている個体とすることができる。ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤は、糖尿病、メタボリックシンドロームX若しくは甲状腺機能亢進症等の状態を患っている対象、又は高齢者患者を処置するために使用することができる。
【0119】
ある特定の実施形態では、軽度認知障害(MCI)又はアルツハイマー病に関する方法が提供され、この場合、それを必要とする対象に、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤を、軽度認知障害及び/又はアルツハイマー病の1つ又は複数の症状を寛解させるのに十分な量で、投与する工程を含む方法である。同様に、また、前アルツハイマー状態及び/若しくは認知機能障害の発現を予防する若しくは遅延させる、並びに/又は前アルツハイマー状態及び/若しくは認知機能障害の1つ若しくは複数の症状を寛解させる、又は前アルツハイマー状態若しくは認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防する若しくは遅延させる、方法も提供され、この場合、それを必要とする対象に、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤を、前アルツハイマーの認知機能障害の発現を予防し若しくは遅延させるのに、並びに/又は前アルツハイマーの認知機能障害の1つ若しくは複数の症状を寛解させるのに、並びに/又は前アルツハイマーの認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防し若しくは遅延させるのに、十分な量で投与する工程を含む、方法である。ある特定の実施形態では、方法は、認知に関して無症候性の前アルツハイマー状態から前アルツハイマーの認知機能障害への移行を予防する又は遅延させる方法である。ある特定の実施形態では、方法は、前アルツハイマーの認知機能障害の発現を予防する又は遅延させる方法である。ある特定の実施形態では、方法は、前アルツハイマーの認知機能障害の1つ又は複数の症状を寛解させる工程を含む。ある特定の実施形態では、方法は、前アルツハイマーの認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防する又は遅延させる工程を含む。ある特定の実施形態では、対象は、臨床的に正常なヒト対象(例えば、50歳以上のヒト対象)においてAβのバイオマーカー陽性を呈する対象である。ある特定の実施形態では、対象は無症候性脳アミロイドーシスを呈する。ある特定の実施形態では、対象は、下流の神経変性(例えば、タウからなる群から選択される神経損傷の1つ又は複数のマーカー上昇、及びFDG取込みによって決定される)とともに脳アミロイドーシスを呈する。ある特定の実施形態では、対象は軽度認知障害と診断された対象である。ある特定の実施形態では、対象は臨床的認知症尺度0超~約1.5未満を示す。ある特定の実施形態では、対象は、アルツハイマー病を発症するリスク(例えば、対象は、アルツハイマー病を有する家族性リスク(例えば、FAD突然変異、APOEε4対立遺伝子)がある)がある。ある特定の実施形態では、化合物の投与工程は、MCIのアルツハイマー病への進行を遅延させ又は予防する。ある特定の実施形態では、投与工程は、Aβ42、sAPPβ、全-タウ(tTau)、ホスホ-タウ(pTau)、APPneo、可溶性Aβ40、pTau/Aβ42比及びtTau/Aβ42比からなる群から選択される1種又は複数の成分のレベルのCSFの低減を生じ、並びに/又は、Aβ42/Aβ40比、Aβ42/Aβ38比、sAPPα、sAPPα/sAPPβ比、sAPPα/Aβ40比及びsAPPα/Aβ42比からなる群から選択される1種又は複数の成分のレベルのCSFの上昇を生じ、並びに/又は対象の認知能力の改善を生じ、並びに/又は対象の臨床的認知症尺度(CDR)の改善、安定化、又は減退速度の低減を生じる。
【0120】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及び/又はその組成物/製剤は、対象の認知を高めるために対象に投与される。例えば、本方法は、対象の認知を99.9%以上高めることを含めて、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤のある量を、対象の認知を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上、高める量で、投与する工程を含むことができる。
【0121】
更に他の例では、対象に投与される本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤の量は、対象における認知の減退速度を低減するのに十分である。例えば、本方法は、対象における認知の減退速度を99.9%以上低減することを含めて、対象における認知の減退速度を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上を減少させるように、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤のある量を投与する工程を、含むことができる。
【0122】
対象における認知レベルは、限定されないが、モントリオール認知評価(MoCA)、セントルイス大学メンタルステート検査(SLUMS)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、及び研究目的で、アルツハイマー病評価スケール、認知(ADAS-Cog)を含めて、簡便な任意のプロトコル、並びに日常生活動作(ADL)及び手段的日常生活動作(IADL)といった評価によって評価することができる。
【0123】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤を投与して、日常生活動作(ADL)及び手段的日常生活動作(IADL)による評価によって決定される等の、対象の日常機能を改善する。
【0124】
他の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤を投与して、対象における興奮行動を低減する。例えば、本方法は、対象における興奮行動を99.9%以上低減することを含めて、対象における興奮行動を、5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上低減するのに十分な、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤のある量を、投与する工程を含むことができる。興奮行動は、神経精神症状評価(Neuropsychiatric Inventory)(NPI)による評価等、簡便な任意のプロトコルで評価することができる。
【0125】
更に他の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤を投与して、対象における精神錯乱を低減する。例えば、本方法は、対象における精神錯乱を99.9%以上低減することを含めて、対象における精神錯乱を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上低減するのに十分な、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤のある量を、投与する工程を含むことができる。
【0126】
更に他の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤を対象に投与して、対象に対して介護者が経験するストレスを低減する。例えば、本方法は、対象に対して介護者が経験するストレスを99.9%以上低減することを含めて、対象に対して介護者が経験するストレスを5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上低減するのに十分な、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数及び/又はその組成物/製剤のある量を、投与する工程を含むことができる。介護者ストレスは、知覚されたストレス尺度(PSS)による評価等、簡便な任意のプロトコルによって評価することができる。
【0127】
本明細書に記載の1つ又は複数のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤を投与する工程による、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置するための方法もまた提供される。
【0128】
上記の状態は、遊離脂肪酸の血漿レベルの上昇によって引き起こされる、悪化する、又はこれに伴う可能性がある状態の例であり、したがって、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤はこれらの状態を治療するために使用できると考えられる。
【0129】
しかし、他の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又はその組成物/製剤は、糖尿病、高熱、甲状腺機能亢進、メタボリックシンドロームX、発熱、及び/又は感染等の状態を患っている対象を処置するために使用してもよい、と考えられる。
【0130】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、1つ又は複数のさらなる薬剤と組み合わせて投与することができる。そのような薬剤には、限定されないが、微量栄養素及び医薬が含まれる。ある特定の実施形態では、S-エナンチオマー及びさらなる薬剤は、摂取のために単一の組成物に一緒に製剤化されてもよい。或いは、本明細書に記載のS-エナンチオマー及びさらなる薬剤は、別々の、同時の、又は連続した投与向けに個別に製剤化されてもよい。
【0131】
さらなる薬剤が医薬である場合、それは、例えば、対象が患っている状態向けの標準治療であってもよい。例えば、ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、糖尿病を患っている対象に従来の抗糖尿病薬と組み合わせて投与することができる。従来の抗糖尿病薬としては、限定されないが、チアゾリジンジオン等のインスリン増感剤、スルホニル尿素等のインスリン分泌促進物質、メトホルミン等のビグアニド抗高血糖剤、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0132】
ある特定の実施形態では、さらなる薬剤が微量栄養素を含む場合、これは、例えば、ミネラル又はビタミンであってもよい。例としては、限定されないが、鉄、カルシウム、マグネシウム、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、及びビタミンEを挙げることができる。
【0133】
ケトン体はナイアシン受容体に作用する。したがって、ある特定の実施形態では、ケトン体とナイアシンとの両方が脂肪組織に作用して遊離脂肪酸の放出を阻害するので、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、ナイアシン(ビタミンB3)と組み合わせて投与するのが有利であろう。
【0134】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール、及びS-BHB)及びその組成物/製剤は、食餌療法的に又は薬学的に許容される担体を更に含む摂取用組成物に製剤化することができる。組成物としては、限定されないが、食品、飲料、ドリンク剤、サプリメント、栄養補助剤、機能性食品、ニュートラシューティカル又は医薬を挙げることができる。
【0135】
種々の実施形態では、摂取用組成物中のS-エナンチオマーの濃度は、組成物の特定の形式、組成物の意図された使用及び標的集団を含めて、いろいろな要因によって異なる。全体として、組成物は、遊離脂肪酸の血漿レベルを低減するのに有効な量でS-エナンチオマーを含有することになる。典型的には、その量は、組成物を摂取する対象(例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物)において約10μMから約20mM、又は約50μMから約10mM、又は約100μMから約5mMのS-ベータ-ヒドロキシブチレート(S-BHB)及び/又はアセトアセテートの循環濃度を得るのに必要とされる量である。一実施形態では、約0.7mMから約5mM、例えば約1mMから約5mMの循環濃度が得られる量が使用される。
【0136】
食品及び/又は栄養補助剤への製剤化
消費された場合、本明細書に記載のS-BHB-S-1,3-ブタンジオールエナンチオマーは、2つの産物、S-ベータ-ヒドロキシブチレート(S-BHB)と(S)-1,3-ブタンジオールとに加水分解され、これらは、食物として分類できるとともに食品の一部を形成しうるカロリー源を供給することができる。
【0137】
食品とは、三大栄養素であるタンパク質、炭水化物及び脂肪の1つ又は複数から主に構成され、生物(例えば、哺乳動物)の体内で使用されて成長を持続する、損傷を修復する、生命維持プロセスを助ける又はエネルギーを供給する食用材料である。食品はまた、ビタミン若しくはミネラル等の1種又は複数の微量栄養素、又は香料及び着色料等のさらなる食餌性成分を含有することもある。
【0138】
本明細書に記載のS-エナンチオマー又はその組成物/製剤を添加物として組み込むことができる食品の例には、限定されないが、スナックバー、食事代替バー、シリアル、菓子及び限定されないがヨーグルトといったプロバイオティック製剤、が挙げられる。
【0139】
飲料及びドリンク剤の例として、限定されないが、ソフト飲料、エネルギードリンク、乾燥ドリンクミックス、栄養飲料、食事代替ドリンク又は食物代替ドリンク、再水和用組成物(例えば運動中又は運動後)及び浸出用茶(例えば、ハーブティー)又は煎じ薬用のハーブブレンドが挙げられる。
【0140】
ある特定の実施形態では、再水和向けの組成物は典型的には、水、糖(又は非糖甘味料)、炭水化物及び本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数を含む。ある特定の実施形態では、本組成物はまた、当業者であれば理解されるように、適切な香料、着色料及び保存剤を含んでもよい。炭水化物糖は、存在する場合、エネルギー源を提供でき、且つグルコース及びトレハロースを含めて、適切な糖は公知である。ある特定の実施形態では、食事代替ドリンク又は食物代替ドリンクは、減量レジメンでの使用が一般に推奨されているタイプのものとすることができる。このようなドリンク製剤は通常、適量の1種又は複数の三大栄養素、すなわちタンパク質、脂肪及び/又は炭水化物の各源を、任意のさらなる成分、例えば可溶化剤、保存剤、甘味料、香味料及び着色料とともに含む。
【0141】
ニュートラシューティカルは、疾患の予防及び処置を含めて、医学上又は健康上の利益を提供するとみなされる食品成分、栄養補助食品又は食品である。一般にニュートラシューティカルは、消費者に特定の健康上の利益を付与するのに特に適している。種々の実施形態では、ニュートラシューティカルは典型的には、相応する普通の(自然の)食品で見られるよりも高いレベルで、微量栄養素、例えばビタミン、ミネラル、ハーブ及び/又は植物性化学物質を含む。そのレベルは典型的には、一食分として、又は食事療法又は栄養療法のコースの一部として摂取する場合、ニュートラシューティカルの意図した健康上の利益を最適化するように選択される。ある特定の実施形態では、このレベルは脂肪酸の血漿レベルを低減するのに有効なレベルであろう。
【0142】
機能性食品とは、消費者に純粋な栄養を供給するという健康上の利益を超えるものが提供されるとして市販されている食物である。機能性食品は典型的には、栄養効果以外の特別な医学的又は生理学的利益を付与する、上述の微量栄養素等の成分が組み込まれている。機能性食品は典型的には、包装上に健康強調表示を持っている。
【0143】
ある特定の実施形態では、ニュートラシューティカル又は機能性食品は典型的には、対象において遊離脂肪酸の血漿レベルを低下させるのに有効な量で、本明細書に記載のS-エナンチオマーの一方又は両方を含有する。更に典型的には、ニュートラシューティカル又は機能性食品は、対象の食欲を抑制する、肥満を処置する、又は体重減少を促進するのに有効な量でS-エナンチオマーを含有する。
【0144】
栄養補助剤とは、対象(例えば、ヒト対象)の通常の食事を補助することを意図する製品であり、ビタミン、ミネラル、ハーブ若しくはその他の植物学的産物、又はアミノ酸等の食餌性成分を含有する製品である。栄養補助剤は典型的には、単位剤形(dosage format)で提供され、食物の代わりではなく、食物とともに、食物の前又は後に摂取するように設計されている。したがって、栄養補助剤は錠剤又はカプセル剤として、或いは食品の上に振りかける又は水若しくは飲料に添加するための乾燥粉末若しくは顆粒として提示されることが多い。
【0145】
医薬製剤及び/又は食餌性製剤
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー(例えば、S-BHB-S-1,3-ブタンジオール及びS-BHB(例えば、図1を参照されたい))は、食餌療法的又は医薬的に許容される担体又は賦形剤と混合することによって、医薬又は栄養補助剤に製剤化することができる。かかる担体又は賦形剤は、限定されないが、溶媒、分散媒体、コーティング剤、等張剤又は吸収遅延剤、甘味料等を含んでもよい。これらにはありとあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング剤、等張剤及び吸収遅延剤、甘味料等が含まれる。適切な担体は広範囲の材料から調製することができるが、これには、限定されないが、希釈剤、結合剤及び接着剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、増量剤、香味料、甘味料並びに特定の剤形を調製するために必要な場合もある緩衝剤及び吸着剤等の各種材料が含まれる。医薬的に活性な物質用にかかる媒体及び薬剤を使用することは当技術分野で周知である。
【0146】
本明細書に記載のS-エナンチオマーは、「天然」型で投与することができ、又は、塩、エステル、アミド、又は誘導体が薬理的に適切である、例えば本発明の方法において効果的である場合には、もし必要であれば、塩、エステル、アミド、誘導体等の形態で投与することができる。S-エナンチオマーの塩、エステル、アミド、及びその他の誘導体は、合成有機化学の当業者に公知の手順、及び例えばMarch (1992年) Advanced Organic Chemistry; Reactions, Mechanisms and Structure、第4版 N.Y. Wiley-Interscience社に記載の標準的な手順を使用して調製することができる。
【0147】
かかる誘導体を製剤化する方法は、当業者に公知である。例えば、薬学的に許容される塩は、塩を形成できる官能基(例えば、本明細書に記載の化合物のカルボン酸官能基等の)を有する本明細書に記載の任意の化合物について調製することができる。薬学的に許容される塩とは、親化合物の作用を保持するとともに、これが投与される対象に、及び投与されている状況において、有害な又は不都合な影響を一切与えない任意の塩である。
【0148】
本明細書に記載の化合物を塩、エステル、アミド等として薬学的に製剤化する方法は、当業者に周知である。例えば、塩は、適切な酸との反応を通常には含む従来の方法論を使用して、遊離塩基から調製することができる。一般に、塩基形態の薬物を、メタノール又はエタノール等の極性有機溶媒に溶解し、酸をそれに加える。生成する塩は低極性溶媒の添加によって沈殿するか又は溶液から取り出すことができる。酸付加塩を調製するための適切な酸としては、その双方に限定されないが、有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸等、並びに無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。酸付加塩は、適切な塩基での処理によって遊離塩基に再変換することができる。本明細書に記載の化合物に関するある特定の特に好ましい酸付加塩には、ハロゲン化物塩が含まれ、例えば塩酸又は臭化水素酸を使用して調製できる。反対に、本明細書に記載のS-エナンチオマーの塩基性塩の調製は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミン等の薬学的に許容される塩基を使用して同様の方法で調製できる。ある特定の実施形態では、塩基性塩には、アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、及び銅塩が含まれる。
【0149】
塩基性薬物の塩形態を調製する場合、対イオンのpKaは、薬物のpKaよりも少なくとも約2pH単位低いことが好ましい。同様に、酸性薬物の塩形態を調製する場合、対イオンのpKaは、薬物のpKaよりも少なくとも約2pH単位高いことが好ましい。これにより、対イオンが溶液のpHをpHmaxよりも低いレベルに持っていき、その結果、塩の安定状態に到達することが可能となり、この状態で、塩の溶解性が遊離酸又は遊離塩基の溶解性にまさる。医薬品有効成分(API)中のイオン性基と酸又は塩基中のイオン性基のpKa単位の差に関する一般化された規則は、プロトン移動をエネルギー的に有利とするものである。APIと対イオンのpKaの差が十分に大きくない場合は、固体複合体が形成しうるが、水性環境においてそれは迅速に不均衡化を起こすであろう(例えば、薬物と対イオンとの個々の実体に分解する)。
【0150】
種々の実施形態では、対イオンは薬学的に許容される対イオンである。適切なアニオン塩の形態としては、限定されないが、酢酸塩、安息香酸塩、ベンジル酸塩、酒石酸水素塩、臭化物、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硫酸メチル、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩)、リン酸塩及び二リン酸塩、サリチル酸塩及びジサリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリエチオダイド、吉草酸塩等が挙げられ、一方、適当な陽イオン性塩の形態としては、限定されないが、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン、亜鉛等が挙げられる。
【0151】
エステルの調製は典型的には、活性薬剤(例えば、本明細書に記載のS-エナンチオマー)の分子構造内に存在するヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基の官能基化を含む。ある特定の実施形態では、エステルは典型的には、遊離アルコール基のアシル置換誘導体、例えば、式RCOOHのカルボン酸に由来する部分である(式中、Rはアルキル、好ましくは低級アルキルである)。エステルは、所望により、従来の水素化分解又は加水分解手順を使用することにより遊離酸へ再転換させることができる。
【0152】
アミドはまた、当業者に公知である又は関係する文献に記載の技法を使用して、調製することができる。例えば、アミドは、適切なアミン反応物を使用してエステルから調製することができ、又は、アンモニア又は低級アルキルアミンとの反応によって無水物又は酸塩化物から調製することができる。
【0153】
種々の実施形態では、本明細書で特定の化合物は、本明細書に記載の病態/適応症の1つ又は複数(例、アミロイド形成性病態)の予防的及び/又は治療的処置のための、エアロゾル若しくは経皮による等の、非経口、局所、経口、経鼻(又はそうでなければ吸入)、直腸、又は局部の各投与向けに、有用である。
【0154】
本明細書に記載の活性薬剤(例えば、S-エナンチオマー)はまた、薬学的に許容される担体(賦形剤)と組み合わせて、薬理学的組成物を形成することができる。薬学的に許容される担体は、例えば、組成物を安定化するように又はS-エナンチオマーの吸収を高める又は減少させるように作用する1つ又は複数の生理学的に許容される化合物を含有することができる。生理的に許容される化合物としては、例えば、グルコース、スクロース又はデキストラン等の炭水化物、アスコルビン酸又はグルタチオン等の抗酸化剤、キレート化剤、低分子量タンパク質、脂質等の保護及び取込み促進剤、S-エナンチオマーのクリアランス若しくは加水分解を低減する組成物、又は賦形剤又は他の安定剤及び/又は緩衝剤、を挙げることができる。
【0155】
特に錠剤、カプセル剤、ゲルカプセル剤等の調製で使用の他の生理学的に許容される化合物には、限定されないが、結合剤、希釈剤/充填剤、崩壊剤、潤滑剤、懸濁剤等が含まれる。
【0156】
ある特定の実施形態では、経口剤形(例えば、錠剤)を製造するために、賦形剤(例えば、乳糖、スクロース、デンプン、マンニトール等)、任意選択の崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン等)、結合剤(例えば、アルファデンプン、アラビアゴム、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、シクロデキストリン等)、及び任意選択の潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000等)が、例えば、1種又は複数の活性成分(例えば、本明細書に記載のS-エナンチオマー)に添加され、その結果得られる組成物は圧縮される。必要な場合、圧縮生成物をコーティングするが、例えば、味覚をマスキングするための、又は腸溶性若しくは徐放放出のための既知の方法である。適切なコーティング材料としては、限定されないが、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びEudragit(Rohm & Haas社、ドイツ;メタクリル-アクリル共重合体)が挙げられる。
【0157】
その他の生理的に許容される化合物としては、湿潤剤、乳化剤、分散剤又は微生物の増殖若しくは作用を防止するために特に有用である保存剤が挙げられる。種々の保存剤が周知であり、これには、例えば、フェノール及びアスコルビン酸が含まれる。当業者であれば、生理的に許容される化合物を含めて、薬学的に許容される担体の選択は、例えば、本明細書に記載のS-エナンチオマーの投与経路及びS-エナンチオマーの特定の生理化学的特性に依存することが理解されよう。
【0158】
ある特定の実施形態では、賦形剤は、無菌であり、一般に、望ましくない物質はフリーである。これらの組成物は、従来の、周知の滅菌技法により滅菌することができる。錠剤及びカプセル剤等の種々の経口剤形の賦形剤の場合、無菌状態は不要である。USP/NF標準で通常十分である。
【0159】
医薬組成物は、投与の方法に応じて、様々な単位剤形で投与することができる。適当な単位剤形には、限定されないが、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤、坐剤、パッチ、経鼻スプレー、注射剤、植込み可能な徐放製剤、粘膜付着性フィルム、局所ワニス、脂質複合体等が挙げられる。
【0160】
本明細書に記載のS-エナンチオマーを含有する医薬組成物は、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、磨砕、乳化、被包、封入又は凍結乾燥の各プロセスによって製造することができる。医薬組成物は、薬学的に使用することができる、製剤へのS-エナンチオマーの加工を容易にする1種若しくは複数の生理的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又は助剤を使用して、従来の方式で製剤化することができる。適切な製剤は、選ばれた投与経路によって異なる。
【0161】
全身用製剤には、限定されないが、注射、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内若しくは腹腔内の各注射による投与のために設計されたもの、並びに経皮、経粘膜経口若しくは経肺投与のために設計されたものが含まれる。注射の場合、本明細書に記載のS-エナンチオマーは、水溶液、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、若しくは生理食塩緩衝液等の生理的に適合な緩衝剤及び/又はある特定のエマルション製剤中で製剤化することができる。溶液は、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤等の配合剤を含有することができる。ある特定の実施形態では、S-エナンチオマーは、使用前の、適切なビヒクル、例えば、滅菌発熱性物質除去蒸留水による構成向けの粉末形態で提供することができる。経粘膜投与の場合、脳関門に浸透させるのに適する浸透剤を、製剤に使用することができる。かかる浸透剤は、当技術分野で、一般に公知である。
【0162】
経口投与の場合、化合物は、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体とS-エナンチオマーとを合わせることにより、容易に製剤化することができる。かかる担体によって、本明細書に記載される化合物は、治療予定の患者による経口摂取向けに、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤等として製剤化されることが可能になる。例えば、散剤、カプセル剤及び錠剤等の経口固形製剤の場合、適切な賦形剤としては、充填剤、例えば、乳糖、スクロース、マンニトール及びソルビトール等の糖類;トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム等のセルロース製剤、及び/又は ポリビニルピロリドン(PVP);顆粒化剤;並びに結合剤が挙げられる。所望の場合、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸若しくはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウム等の、崩壊剤を加えることができる。所望の場合、固形剤形は、標準的な技法を使用する、糖衣でも腸溶コーティングでもよい。
【0163】
例えば、懸濁剤、エリキシル剤、及び液剤等の経口液体調製物の場合、適切な担体、賦形剤、又は希釈剤には、水、グリコール、油、アルコール等が含まれる。加えて、香味料、保存剤、着色剤等も、添加することができる。口腔内投与の場合、組成物は、従来の方式で製剤化された、錠剤、トローチ剤等の形態を取ることができる。
【0164】
吸入による投与の場合、本明細書に記載のS-エナンチオマーは、適切な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切なガスを使用して、圧縮されたパック又はネビュライザーからのエアロゾルスプレーの形態で、適宜送達される。圧縮されたエアロゾルの場合では、投与単位は、計量された量を送達するためのバルブを設けることによって決定することができる。吸入器又は注入器中で使用するための例えばゼラチンのカプセル及びカートリッジは、化合物と乳糖又はデンプン等の適切な粉末ベースとの粉末ミックスを含有して製剤化することができる。
【0165】
種々の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーを、例えば、ココアバター又はその他のグリセリド等の従来の坐剤ベースを含有する、坐剤又は停留かん腸等の直腸組成物又は膣組成物中で製剤化することができる。
【0166】
前述の製剤に加えて、S-エナンチオマーはまた、デポ製剤として製剤化することができる。かかる長時間作用型製剤は、植込みにより(例えば、皮下若しくは筋肉内に)又は筋肉内注射により投与することができる。したがって、例えば、化合物は、適切なポリマー材料若しくは疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルションとして)又はイオン交換樹脂を用いて製剤化してもよく、難溶性誘導体として、例えば、難溶性塩として製剤化してもよい。
【0167】
或いは、その他の薬剤送達系を用いることもできる。リポソーム及びエマルションは、薬学的に有効な化合物を保護し送達するのに使用できる周知の送達ビヒクルの例である。毒性がより高いという代償を通常払うが、ジメチルスルホキシド等のある特定の有機溶媒もまた用いることができる。加えて、化合物は、治療剤を含有する、固体ポリマーの半透過性マトリックス等の徐放系を使用して送達することができる。徐放材料の種々の使用が、確立されており、当業者には周知である。徐放カプセル剤は、この化学的性質に応じて、数週間から100日を超えるまで化合物を放出することができる。治療用試薬の化学的性質及び生物学的安定性に応じて、タンパク質の安定化に向けてさらなる戦略を用いることができる。
【0168】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又は製剤は、経口投与される。これは、錠剤、カプレット、トローチ剤、液剤等の使用により、容易に実現される。
【0169】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又は製剤は、当業者に周知の標準的方法に従い、全身(例えば、経口、又は注射として)投与される。他の実施形態では、薬剤はまた、従来の経皮薬物送達システムを使用して、例えば、経皮「パッチ」を使用して皮膚を通して送達することもでき、この場合、本明細書に記載の化合物及び/又は製剤は典型的には、皮膚に貼る薬物送達デバイスとして働く積層構造内に含有されている。そのような構造中、薬物組成物は典型的には、上部のバッキング層の下にある、層又は「リザーバー」中に、通常、含有されている。この文脈上、「リザーバー」という用語は、皮膚の表面への送達に最終的に用可能なある分量の「有効成分」を指すことが理解される。したがって、例えば、「リザーバー」は、パッチのバッキング層上の接着剤中に、又は当業者に公知の任意の様々な異なるマトリクス製剤中に、有効成分を含むことができる。パッチは、単一のリザーバーを含有してもよく、又は複数のリザーバーを含有してもよい。
【0170】
例示的一実施形態では、リザーバーは、薬物送達中にシステムを皮膚に貼り付ける働きをする、薬学的に許容される触圧接着剤材料のポリマーマトリクスを含む。適切な皮膚触圧接着剤材料の例としては、限定されないが、ポリエチレン、ポリシロキサン、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、ポリウレタン等が挙げられる。或いは、薬物含有リザーバー及び皮膚触圧接着剤は、分離した異なる層として存在し、リザーバーの下に接着剤があり、この場合、リザーバーは上記のポリマーマトリクスでもよく、又は液体若しくはヒドロゲルのリザーバーでもよく、又は他の何らかの形態を取ってもよい。これらの積層物中のバッキング層は、これはデバイスの上面として働くが、好ましくは「パッチ」の一次構造要素として機能するとともに、デバイスにかなりの柔軟性を与える。バッキング層に選択される物質は、S-エナンチオマー及び存在する他のいずれの材料に対して実質的に不浸透性であるのが、好ましい。
【0171】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の1つ又は複数のS-エナンチオマー、例えば、希釈の用意ができている状態で保存容器中に(例えば、予め測定された容量に)、又はある容量の水、アルコール、過酸化水素、又はその他の希釈剤に添加する用意ができている状態で溶解性カプセル剤中に、「濃縮物」として提供することができる。
【0172】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーは経口投与に適している。種々の実施形態では、経口組成物中の化合物は、コーティングされていてもコーティングされていなくてもよい。腸溶性コーティング粒子の調製については、例えば、米国特許第4,786,505号及び同第4,853,230号において開示されている。
【0173】
種々の実施形態では、本明細書で企図される組成物は典型的には、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数を、過度の有害副作用を伴わずに、薬理学的効果又は治療的改善を達成するのに有効な量で含む。例示的な薬理学的効果又は治療的改善としては、限定されないが、1又は複数の場所での骨吸収速度の低減又は停止、骨密度の上昇、腫瘍体積の減少、関節炎の病態の低減等が挙げられる。
【0174】
種々の実施形態では、S-エナンチオマーの典型的な1日用量は変動し、患者の個々の要件及び診断及び/又は処置される疾患等の種々の要因によって異なる。一般に、化合物の1日用量は、1~1,000mg、又は1~800mg、又は1~600mg、又は1~500mg、又は1~400mgの範囲とすることができる。例示的な一実施形態では、組成物中に存在する上記のS-エナンチオマーの標準のおおよその量は典型的には、約1~1000mg、より好ましくは約5~500mg、最も好ましくは約10~100mgとすることができる。ある特定の実施形態では、プローブは一度だけ、又は必要に応じてフォローアップのために投与される。ある特定の実施形態では、S-エナンチオマー及び/又はその製剤は、1日1回投与され、ある特定の実施形態では、1日2回投与され、ある特定の実施形態では、3回/日投与され、ある特定の実施形態では、4、又は6、又は6又は7、又は8回/日投与される。
【0175】
ある特定の実施形態では、活性成分(本明細書に記載のS-エナンチオマー)は、全ての有効成分を含有する、単一の経口剤形中に製剤化される。このような経口製剤には、固体形態及び液体形態が含まれる。固体製剤によって通常、液体製剤と比較して安定性の改善がもたらされ、しばしば、患者のより良好な服薬遵守が可能となることに留意されたい。
【0176】
例示的な一実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーのうちの1つ又は複数は、固体単一剤形中に製剤化される、例えば、単層錠剤又は多層錠剤、懸濁用錠剤、発泡性錠剤、粉剤、ペレット、顆粒剤、又は複数のビーズを含むカプセル剤並びにカプセル内カプセル剤又は二重チャンバーカプセル剤中に製剤化される。別の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーは、全ての有効成分を含有する懸濁剤、又は使用の前に再構成される乾燥懸濁剤といった単一の液体剤形中に製剤化することができる。
【0177】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマーは、胃液との接触を回避するために、腸溶性コーティング遅延放出顆粒として又は非腸溶性時間依存性放出ポリマーでコーティングされた顆粒として製剤化される。適切なpH依存性腸溶性コーティングポリマーの非限定的な例は:酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセテートフタレート、メタクリル酸コポリマー、シェラック、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸トリメリト酸セルロース、及び前出のうちのいずれかの混合物である。適切な市販の腸溶性材料は、例えば、EUDRAGIT L 100-55(登録商標)の商標下で販売されている。このコーティングは、基質にスプレーコーティングすることができる。
【0178】
例示的な非腸溶性コーティング時間依存性放出ポリマーとしては、例えば、胃液からの水の吸収により、胃内で膨潤し、これにより、粒子のサイズを大きくして、厚いコーティング層を創出する、1種又は複数のポリマーが挙げられる。時間依存性放出コーティングは一般に、外部の水性媒体のpHとは無関係である、浸蝕特性及び/又は拡散特性を保有する。したがって、有効成分は、胃の中で粒子が拡散することによって、又は粒子の緩徐な浸蝕に続いて、粒子からゆっくり放出される。
【0179】
例示的な非腸溶性時間依存性放出コーティングは、例えば:メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、及び/又はEUDRAGIT(登録商標)銘柄のポリマーの非腸溶性形態といったアクリルポリマー、等の膜形成化合物である。他の膜形成材を、単独でも、互いに組み合わせても、上記で列挙したものと組み合わせても、使用することができる。こういった他の膜形成材としては一般に、例えば、ポリ(ビニルピロリドン)、ゼイン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、及びエチルセルロース、並びにその他の薬学的に許容される親水性及び疎水性の膜形成材が挙げられる。こういった膜形成材は、水をビヒクルとして使用して、或いは溶媒系を使用して基材コアに適用することができる。水アルコール系を膜形成のためのビヒクルとして働くように用いることも可能である。
【0180】
本明細書に記載の化合物の時間依存性放出コーティングの作製に適したその他の材料としては、例えば、非限定的に、水溶性多糖類樹脂、例えばカラギナン、フコイダン、ガッチゴム、トラガカント、アラビノガラクタン、ペクチン、及びキサンタン;多糖類樹脂の水溶性の塩、例えばアルギン酸ナトリウム、トラガカンチンナトリウム(sodium tragacanthin)、及びナトリウムガッテートガム(sodium gum ghattate);アルキルメンバーが1~7個の炭素の直鎖状又は分枝状である水溶性ヒドロキシアルキルセルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース;合成水溶性セルロースベースのラミナ形成物(lamina former)、例えばメチルセルロース及びそのヒドロキシアルキルメチルセルロース誘導体、例えばヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシブチルメチルセルロースからなる群から選択されるメンバー;その他のセルロースポリマー、例えばカルボキシルメチルセルロースナトリウム;並びに当業者に公知のその他の材料が挙げられる。この目的のために使用できる、その他のラミナ形成材としては、限定されないが、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチンとポリビニル-ピロリドンとのブレンド、ゼラチン、グルコース、サッカリド、ポビドン、コポビドン、ポリ(ビニルピロリドン)-ポリ(ビニルアセテート)コポリマーが挙げられる。
【0181】
S-エナンチオマー及びその製剤及びその使用方法について、ヒトにおける使用を基準にして本明細書で説明しているが、これらは動物、例えば家畜への使用にも適切である。したがって、ある種の例示的生物には、限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ウマ、ネコ、ブタ、有蹄動物、ウサギ類等が含まれる。
【0182】
前述の製剤及び投与方法は、例示的なものであり、限定ではないことを意図する。本明細書で提供される教示を使用して、他の適切な製剤及び投与のモードを容易に考案できることを理解されたい。
【0183】
キット
種々の実施形態では、本明細書に記載のS-エナンチオマー及び/又は本明細書に記載のその製剤は、多回投与又は単回投与の容器に封入することができる。封入された薬剤は、例えば、使用のために組み立てることができる成分部品を含めて、キットで提供することができる。例えば、凍結乾燥形態の及び適切な希釈剤中の活性薬剤は、使用前の混合向けに個別の成分として提供することができる。キットは、同時投与向けに、活性薬剤及び第二の治療剤を含むことができる。活性薬剤及び第二の治療剤は、別々の成分部品として提供することができる。キットは複数の容器を含むことができ、各容器は化合物の1又は複数の単位用量を保持している。容器は、投与に関して所望の様式に適合していることが好ましいが、これには、限定されないが、例えば本明細書に記載の、経口投与向けの錠剤、ゲルカプセル剤、徐放性カプセル剤等;非経口投与向けのデポ製品、充填済みシリンジ、アンプル、バイアル等;及び局所投与向けのパッチ、メディパッド、クリーム等が含まれる。
【0184】
ある特定の実施形態では、以下を含むキットが提供される:医薬組成物として、適切な1つ又は複数の容器で、及び/又は適切な包装で提供されるのが好ましい、本明細書に記載の1つ又は複数のS-エナンチオマー及び/又はその製剤/組成物、又はエナンチオマーの薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物;存在する場合、医薬組成物として、適切な1つ又は複数の容器で、及び/又は適切な包装で提供されるのが好ましい、任意選択で、1種又は複数の追加の活性薬剤;並びに任意選択で使用のための取扱説明書、例えば化合物又は組成物を投与する方法に関する書面による取扱説明書。
【0185】
いずれの医薬製品と同様に、包装材料及び/又は容器は、保管及び輸送の間、製品の安定性を保護するよう設計されている。加えて、キットは、関心事である疾患の、予防的、治療的又は寛解的な処置として組成物を適当に投与する方法について、例えば医師、技術者又は患者等の使用者に助言することができる使用のための取扱説明書又は他の情報材料を含むことができる。一部の実施形態では、取扱説明書は、限定されないが、実際の投薬及びモニタリング手順を含む投薬レジメンを指摘すること、又は示唆することができる。
【0186】
一部の実施形態では、取扱説明書は、組成物を投与することが、限定されないが、例えばアナフィラキシー等のアレルギー応答といった有害応答をもたらす恐れがあることを指摘する情報材料を含むことができる。情報材料によって、アレルギー応答が、軽度の掻痒性皮疹を単に呈する場合があること、又は重度である場合があること、紅皮症、血管炎、アナフィラキシー、スティーブンス・ジョンソン症候群等を含む場合があること、を指摘することができる。ある特定の実施形態では、情報材料によって、任意の外来タンパク質が体内に導入される場合にはアナフィラキシーが命取りになる可能性があり、且つ発生する恐れがあることを指摘している場合もある。ある特定の実施形態では、情報材料によって、これらのアレルギー応答が、蕁麻疹又は発疹として顕れ、致死的な全身性応答へ発達する恐れがあり、例えば10分以内等の暴露後すぐに発生する恐れがあることを指摘している場合もある。情報材料によって、アレルギー応答が、感覚異常、低血圧、咽頭水腫、精神状態の変化、顔面又は咽頭の血管浮腫、気道閉塞、気管支痙攣、蕁麻疹及び掻痒、血清病、関節炎、アレルギー性の腎炎、糸球体腎炎、側頭動脈炎、好酸球増多、又はこれらの組合せを対象に引き起こす恐れがあることを更に指摘している場合もある。
【0187】
取扱説明書材料は通常、書面又は印刷材料を含むが、それらに限定されない。本明細書では、そのような取扱説明書を保存し、それらをエンドユーザーに伝達することができる任意の媒体が企図されている。そのような媒体には、限定されないが、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)等が含まれる。そのような媒体には、そのような取扱説明書材料を提供するインターネットサイトのアドレスが含まれる場合がある。
【実施例
【0188】
以下の実施例は、例示するために提供されるものであり、特許請求される発明を限定するものではない。
【0189】
(実施例1)
S-BHBによるHDACの阻害
ヒストンデアセチラーゼの阻害におけるS-BHB及びR-BHBの両エナンチオマーの活性を試験した。結果を図2に示す。
【0190】
これは、市販のアッセイキットであるEnzo社製のFluor de Lys Greenによる、S-BHB及びR-BHBのナトリウム塩を使用して実施したin vitro HDACアッセイである。
【0191】
このアッセイにおいて、S-BHBによるデアセチラーゼ活性の用量依存的阻害が実証された。このアッセイでのHDAC阻害に対するS-BHBの効力は、先に公開された異なるアッセイで実証されたR-BHBの効力と同様(2倍以内)であった(Shimazuら(2013年)Science、339(6116): 211~214頁)。R-BHBについてはS-BHBと同じアッセイで実行され、最大約50%の阻害に達する、HDAC活性の部分的な阻害が示された。特定の理論に束縛されるものではないが、R-BHBはS-BHBよりも急速に代謝されている可能性があり、その結果、最大阻害が低下すると考えられる。
【0192】
本明細書に記載される実施例及び実施形態は、単に例示することが目的であり、それに照らして様々な修正又は変更が、当業者に示唆され、本出願の精神及び視野の範囲内並びに添付した特許請求の範囲内に含まれることは理解される。本明細書において引用された全ての刊行物、特許、及び特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2