IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社スギノマシンの特許一覧 ▶ 公立大学法人 富山県立大学の特許一覧

<>
  • 特許-バイオマスファイバー樹脂複合体 図1
  • 特許-バイオマスファイバー樹脂複合体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】バイオマスファイバー樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20240226BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L101/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021061459
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157317
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】永田 員也
(72)【発明者】
【氏名】真田 和昭
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220345(JP,A)
【文献】特表2017-519883(JP,A)
【文献】特開2019-014865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径の異なる第1のバイオマスファイバー及び第2のバイオマスファイバーと樹脂とを含むバイオマスファイバー樹脂複合体であって、
前記第1のバイオマスファイバーの平均繊維径が前記第2のバイオマスファイバーの平均繊維径よりも大きく、
前記第2のバイオマスファイバーの含有量が前記第1のバイオマスファイバーの含有量以下であり、
前記第1のバイオマスファイバーの平均繊維径が500nm~2μmであり、
前記第2のバイオマスファイバーの平均繊維径が5~20nmであり、
前記第1のバイオマスファイバーの含有量が5~50質量%であり、
前記第2のバイオマスファイバーの含有量が0.05~5質量%であり、
自動車用プラスチック材料である、バイオマスファイバー樹脂複合体。
【請求項2】
第1のセルロースファイバーの平均繊維径Dに対する第2のセルロースファイバーの平均繊維径Dの比(D/D)が0.0002≦D/D<1である請求項1に記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
【請求項3】
前記第1のバイオマスファイバーに対する前記第2のバイオマスファイバーの質量比(第2のバイオマスファイバー/第1のバイオマスファイバー)が0.001~0.5である請求項1又は2に記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
【請求項4】
前記第1のバイオマスファイバー及び前記第2のバイオマスファイバーの少なくともいずれかが機械解繊バイオマスファイバーである請求項1~のいずれか1項に記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスファイバー樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスファイバーの1種であるセルロースナノファイバー(CNF)は、植物由来のセルロースを平均繊維径約10nm、長さ数μmにほぐしたナノ繊維素材であり、高強度、低熱膨張、高比表面積、及び軽量等の優れた特長を持ち、世界中で注目されている。CNFは固形分1~10質量%程度の水に分散したゲル状(スラリー)で提供されている。そのため、疎水性の樹脂やゴム等への複合化には化学変性をはじめ溶媒置換、脱水、乾燥等の多くのノウハウが必要で、複合材料への応用は容易ではない。また、CNFをスラリー状態で疎水性の樹脂やゴム等と複合化すると、母材中でCNFの疑集や、母材とCNF界面の接着不良を起こすため、均―な複合化は困難であり、さらに、単純に加熱によって乾燥させると、CNF同士が強固に凝集するため母材中に分散しないという課題があった。
【0003】
上記の課題を解決するために、CNFに特別な化学変性等を施すことなく、乾燥工程で凝集を抑制しながら粉末化する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この手法では樹脂やゴム等との混練工程でCNF乾燥体が凝集することなく、高い分散状態で複合化可能となっている。
さらに、特許文献2では、CNF乾燥体を様々な条件でポリプロピレン(PP)樹脂に添加し複合化したところ、特定の条件ではCNF乾燥体が僅か1質量%という少量添加にも関わらず、樹脂の引張り伸びと破断時の引張り応力を、未添加のものに比べ大幅に向上できることが開示されている。
【0004】
樹脂に添加するフィラー(充填材)は高物性や高機能、あるいはコストダウンを実現するために添加されるもので、様々な複合化材料の鍵となる素材である。樹脂複合材料向けの繊維状フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等が挙げられ、またバイオマス由来では木綿、麻繊維、竹繊維、レーヨン繊維などが挙げられる。これらの繊維状フィラーを樹脂に添加複合化することで、樹脂複合体の引張強度や弾性率が向上することが知られているが、破断伸びについてはフィラーを樹脂中に添加することで低下してしまう。樹脂複合体は繊維状フィラーの添加量が多いほど脆性的にふるまい、引張強度や弾性率は向上するが、逆に破断伸びは減少してしまうため、靭性の低い、いわゆる脆い材料となってしまう。樹脂複合材料としては引張強度や弾性率とともに靭性が高く、粘り強い材料が求められる。このため、フィラーや樹脂複合体のさらなる物性改善が求められている。
【0005】
セルロースの繊維幅の細い繊維と太い繊維を組み合わせて使用する技術がいくつか報告されている。例えば、特許文献3では平均繊維径5μm~20μmである第1のセルロース系繊維と平均繊維径40μm~400μmである第2のセルロース系繊維、さらに熱可塑性樹脂を混合複合化することで、自然石または織物のような自然で美麗な外観を具現できる外装材用熱可塑性樹脂組成物を作製できることを報告している。
【0006】
また、特許文献4では平均繊維径2nm~1000nmのセルロース繊維、平均繊維径1000nm~100000nmの繊維を含む不織布と、樹脂を混合することで、高い引裂強度と低い線熱膨張係数とを併有する不織布樹脂複合体を作製する方法が報告されている。本文献では水分散液で得られたセルロース繊維をポリエステル繊維と撹拌混合し、吸引ろ過によって不織布を準備し、さらにアセチル化変性後に樹脂との複合化を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-131772号公報
【文献】特開2019-131774号公報
【文献】特表2017-519883号公報
【文献】特開2015-25033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3、4では繊維径の異なる繊維の組み合わせを利用しているが、樹脂複合体に添加複合化し、引張強度を維持しながら、破断伸びを増加させることに対して言及されていない。また繊維径の異なる繊維は湿潤状態で撹拌混合されているが、一般的な熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に広く添加するには、乾燥状態の混合(ドライブレンド)ができることが望まれるが、先行文献の手法では実施が困難である。
【0009】
また破断伸びを増加させ、靭性や耐衝撃性を向上させるために樹脂には様々な添加剤が加えられている。一般的にはエチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレン-オクテン共重合体(PEO)、エチレン-プロピレン-ジエン-ターポリマー(EPDM)、スチレン-エチレンブチレン-スチレントリブロック共重合体(SEBS)などに代表されるエラストマーが添加複合化されており、耐衝撃性を向上させている。一般的に衝撃強度を向上させるために必要な配合量としては、PP中にエラストマーを15~25質量%添加複合化されている。しかし、エラストマーを添加複合化すると引張強度や弾性率は低下することから、トレードオフの関係となる。このため引張強度や弾性率を維持したまま伸びを向上させる添加材が望まれていた。
【0010】
例えば、自動車用のバンパー、サイドモール、バックドア、フェンダー等の自動車外装部品を得る際には、PPが30~50質量%、エラストマーが15~20質量%、タルクが35~40質量%の割合で含有されて構成されている。要求される物性を満たすには、エラストマーを15質量%以上配合する必要があるが、エラストマーを添加すると、複合樹脂の剛性が低下する。この剛性を補うために板状のタルク、針状のガラス繊維を添加しているが、これらの添加効果はトレードオフの関係にあるため、成形性(高流動性)、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)を考慮した材料設計が必要となる。
【0011】
このように破断伸びを向上させるには、エラストマーの添加量を増加させル必要があり、その結果、剛性の低下してしまうという問題があった。そこでエラストマー同様の機能、もしくはエラストマーの助剤として低濃度で添加複合化することで、破断伸びを向上させることができる材料が求められている。
【0012】
以上から、本発明は上記に鑑みなされたものであり、良好な靭性と強度が得られるセルロースファイバー樹脂複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、平均繊維径の異なる少なくとも2種のバイオマスファイバーと樹脂とを含むバイオマスファイバー樹脂複合体により当該課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0014】
[1] 平均繊維径の異なる第1のバイオマスファイバー及び第2のバイオマスファイバーと樹脂とを含むバイオマスファイバー樹脂複合体であって、前記第1のバイオマスファイバーの平均繊維径が前記第2のバイオマスファイバーの平均繊維径よりも大きく、前記第2のバイオマスファイバーの含有量が前記第1のバイオマスファイバーの含有量以下であるバイオマスファイバー樹脂複合体。
[2] 第1のセルロースファイバーの平均繊維径Dに対する第2のセルロースファイバーの平均繊維径Dの比(D/D)が0.0002≦D/D<1である[1]に記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
[3] 前記第1のバイオマスファイバーの平均繊維径が100nm以上であり、前記第2のバイオマスファイバーの平均繊維径が2~100nmである[1]又は[2]に記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
[4] 前記第1のバイオマスファイバーの含有量が5~50質量%であり、前記第2のバイオマスファイバーの含有量が5質量%以下である[1]~[3]のいずれかに記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
[5] 前記第1のバイオマスファイバーに対する前記第2のバイオマスファイバーの質量比(第2のバイオマスファイバー/第1のバイオマスファイバー)が0.001~0.5である[1]~[4]のいずれかに記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
[6] 前記第1のバイオマスファイバー及び前記第2のバイオマスファイバーの少なくともいずれかが機械解繊バイオマスファイバーである[1]~[5]のいずれかに記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
[7] 自動車用プラスチック材料である[1]~[6]のいずれかに記載のバイオマスファイバー樹脂複合体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、良好な靭性と強度が得られるバイオマス樹脂複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例4の破断面観察(左図:×100倍、右図:×1000倍)における写真である。
図2】比較例1の破断面観察(左図:×100倍、右図:×1000倍)における写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係るバイオマスファイバー樹脂複合体について説明する。
【0018】
本実施形態のバイオマスファイバー樹脂複合体は、平均繊維径の異なる少なくとも2種のバイオマスファイバー(第1及び第2のバイオマスファイバー)と樹脂とを含む。そして、第1のバイオマスファイバーの平均繊維径が第2のバイオマスファイバーの平均繊維径よりも大きく、第2のバイオマスファイバーの含有量が第1のバイオマスファイバーの含有量以下となっている。
【0019】
第1のバイオマスファイバーの平均繊維径が第2のバイオマスファイバーの平均繊維径よりも大きい少なくとも2種のバイオマスファイバーを樹脂に含有させ、さらに、第2のバイオマスファイバーの含有量を第1のバイオマスファイバーの含有量以下とすることで、第1のバイオマスファイバーによる強度向上効果が発揮されやすくなり、かつ、第2のバイオマスファイバーによる靭性向上効果が発揮されやすくなり、結果として良好な靭性と強度が得られるバイオマス樹脂複合体となる。
【0020】
本実施形態において、バイオマスファイバーとしては、生物由来の高分子で水に難溶性のナノファイバーで、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、シルクナノファイバー等が挙げられる。なかでも、化学的安定性、熱的安定性、コストの観点からセルロースナノファイバー(CNF)が好ましい。
【0021】
より良好な靭性と強度を得る観点から、第1のセルロースファイバーの平均繊維径Dに対する第2のセルロースファイバーの平均繊維径Dの比(D/D)は0.0002≦D/D<1であることが好ましく、0.001≦D/D≦0.5であることがより好ましく、0.005≦D/D≦0.1であることがさらに好ましい。
【0022】
また、本実施形態に係る第1のバイオマスファイバーの平均繊維径は、引張強度、弾性率を効果的に高める観点から、100nm以上であることが好ましく、200nm~10μmであることがより好ましく、500nm~2μmであることがさらに好ましい。
本実施形態に係る第2のバイオマスファイバーの平均繊維径は、引張伸び、延伸性を効果的に高める観点から、2~100nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましく、7~20nmであることがさらに好ましい。
【0023】
本実施形態に係る第1のバイオマスファイバーの平均長さは、引張強度、弾性率を効果的に高める観点から、100~500μmであることが好ましく、200~400μmであることがより好ましい。本実施形態に係る第2のバイオマスファイバーの平均長さは、引張伸び、延伸性を効果的に高める観点から、0.5~100μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。
【0024】
なお、第2のバイオマスファイバーにおいてその乾燥体を用いる場合、複合化前にバイオマスファイバーが凝集して粒子状になることがある。この場合でも、樹脂との複合化後は、ほぐれて第2のバイオマスファイバーとしての効果が良好に奏される。粒子状となった場合の平均粒子径は0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。このような範囲であれば、第2のバイオマスファイバーとしての効果が発揮されやすくなる。
バイオマスファイバーの平均繊維径や平均長さは、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真や原子間力顕微鏡像に基づいて測定した繊維径や長さ(n=20程度)から算出することができる。また、第2のバイオマスファイバーの乾燥体の平均粒子径は、レーザ回折散乱式粒子径分布測定で求めることができる。
【0025】
バイオマスファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあるが、なかでも本実施形態に係るバイオマスファイバーとしては、機械解繊で製造された機械解繊バイオマスファイバーであることが好ましい。具体的には、第1のバイオマスファイバー及び第2のバイオマスファイバーの少なくともいずれかが機械解繊バイオマスファイバーであること好ましく、両方が機械解繊バイオマスファイバーであることがより好ましい。
【0026】
機械解繊バイオマスファイバーは、原料バイオマスをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0027】
他方、化学修飾を経て製造される化学修飾バイオマスファイバーでは、原料バイオマスを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる。化学修飾バイオマスナノファイバーの化学的処理として、バイオマスナノファイバーに親水性の置換基を導入し、バイオマスナノファイバー表面のヒドロキシ基の全部または一部を親水性の官能基で置換することで、バイオマスナノファイバー同士の静電反発作用を用いて微細化しやすくする処理がある。親水性の官能基は、例えば、カルボキシ基、リン酸基、及び硫酸基である。親水性の官能基を導入した化学修飾バイオマスナノファイバーを樹脂と複合化させた場合、親水性官能基が不純物として、樹脂物性等に好ましくない影響を与える可能性がある。また、化学修飾バイオマスファイバーである、例えば、TEMPO酸化CNFのような化学修飾CNFを用いると、修飾剤由来の塩に含まれる金属イオンが不純物として、樹脂物性等に好ましくない影響を与える可能性がある。金属イオンは、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀である。しかし、機械解繊バイオマスファイバーは微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、樹脂物性に影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。また、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊バイオマスファイバーは重合度の低下が起きにくい。
【0028】
ここで、機械解繊バイオマスナノファイバーは、バイオマスのグルコース単位当たりのカルボキシ基、リン酸基、及び硫酸基のいずれかである親水性官能基の導入量が0.1mmol/g以下であり、0.01mmol/g以下であることが好ましい。ここで、導入量とは、含有量とも読み代えることができる。
当該導入量(含有量)は、例えば、公知の伝導度滴定法などにより測定して求めることができる。
【0029】
また、機械解繊バイオマスファイバーは、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくはいずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ、さらに好ましくは4つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
また、当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができる。
【0030】
上記のような機械解繊バイオマスファイバーである、例えば、第1のバイオマスファイバーとしては、(株)スギノマシン製のCMF-05DP、市販の粉末セルロース、木綿、麻繊維、竹繊維、レーヨン繊維等を使用することができる。また、第2のバイオマスファイバー若しくはその乾燥体としては、例えば、(株)スギノマシン製のFMa-UNDP、WFo-UNDP、IMa-UNDP等を使用することができる。
【0031】
本実施形態において、第1のバイオマスファイバーに対する第2のバイオマスファイバーの質量比(第2のバイオマスファイバー/第1のバイオマスファイバー)は0.001~0.5であることが好ましく、0.003~0.4であることがより好ましい。当該質量比が0.001~0.5であることで、引張強度、弾性率を効果的に高めると同時に、引張伸び、延伸性を効果的に高めることができる。
【0032】
本実施形態に係る樹脂は熱可塑性樹脂(便宜的に、熱可塑性エラストマーを含む)が好ましく、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、4-メチルペンテン-1樹脂、ポリブテン-1樹脂、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-4-メチルペンテン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-ヘプテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-4-メチルペンテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体等のオレフィン系樹脂;スチレン単独重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン;ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、キシレン基含有ポリアミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアクリル酸メチルやポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリカーボネート;ポリアセタール;ポリフェニレンエーテル;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;液状ポリエステル等を挙げることができる。
【0033】
また、熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、低結晶性1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリマー系熱可塑性エラストマー、イオン架橋熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0034】
本実施形態に係るバイオマスファイバー樹脂複合体中、第1のバイオマスファイバーの含有量は5~50質量%であり、第2のバイオマスファイバーの含有量は5質量%以下であることが好ましい。第1のバイオマスファイバー及び第2のバイオマスファイバーの含有量が上記範囲にあることで、引張強度、弾性率を効果的に高めると同時に、引張伸び、延伸性を効果的に高めることができる。第1のバイオマスファイバーは、7~30質量%であることがより好ましい。第2のバイオマスファイバーは、0.05~4質量%であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係るバイオマスファイバー樹脂複合体は、既述のバイオマスファイバーと樹脂とを配合し、公知の方法で混練して製造することができる。例えば、ポリプロピレンへの配合、混練には、一般に使用されている単軸混練押出機や二軸混練押出機等が利用できる。
【0036】
上記の配合時等には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性向上剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、相溶化剤(例えば、マレイン酸変性ポリプロピレン)等の1種または2種以上を含有することができる。また、必要に応じて、各種のフィラーを含有させてもよい。かかるフィラーとしては、炭酸カルシウム、合成珪素、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、ガラス繊維、ウィスカー、炭素繊維、炭酸マグネシウム、グラファイト、二硫化モリブデン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0037】
本実施形態に係るバイオマスファイバー樹脂複合体は、自動車用プラスチック材料、機械部品、家電部品、包装材、建築用内装材、コンテナ、通信機器部品、ハウジング、繊維といった種々の用途に適用可能であるが、自動車用プラスチック材料として用いられることが好ましい。
【実施例
【0038】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(材料)
実験例1,2において下記の材料を用いた。
・第1のバイオマスファイバー((株)スギノマシン製 CMF-05DP、平均繊維径1000nm)
・第2のバイオマスファイバー(CNF乾燥粉末体((株)スギノマシン製 FMa-UNDP)、平均繊維径が10nmのCNFの乾燥体であり、平均粒子径は2.5μm))
・MAPP(マレイン酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業(株)製 Y-1010)
・PP(ポリプロピレン、サンアロマー(株)製 PX600N)
【0040】
[実験例1]
表1記載の配合で混合後、ブレンダーを用いて20000rpm,7minドライブレンドを実施した。その後、二軸混練機(Xplore Instruments社製)によって溶融混錬を行った。混練条件は、200℃、200rpm、混練時間は10分間実施した。混練後、射出成型により所定のダンベル片(JISK7161)を得た。得られたダンベル片は、7日間状態調整後、精密万能試験装置(オートグラフAG-50KNXD 島津製作所製)により引張り試験(引張強度、引張破断伸び)を行った。試験条件として、試験速度10mm/min、つかみ具間距離100mmに設定した。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1~4はいずれも引張強度及び引張破断伸びがともに良好であったのに対し、比較例1,2は引張強度が低く、引張破断伸びが大きすぎる結果となった。また比較例3は引張破断伸びが低すぎる結果となった。
【0043】
[実験例2]
表2に記載された配合で混合後、ブレンダーを用いて20000rpm,7minドライブレンドを実施した。その後、実験例1と同様にして、溶融混錬を行った後、射出成型により所定のダンベル片(JISK7161)を得て、引張り試験を行った。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例5~8はいずれも、引張強度及び引張破断伸びがともに良好であったのに対し、比較例4は引張破断伸びが低すぎる結果となった。また、比較例5は引張強度が低く、引張破断伸びが大きすぎる結果となった。
【0046】
また、実施例4と比較例1の引張試験後のダンベル片の破断面を電子顕微鏡にて観察した像を図1及び図2にそれぞれ示す。実施例4のように2種のCNFを添加することで破断面が比較的滑らかな状態(図2の左写真)から、毛羽立った状態へと変化している(図1の左写真)。またCNFを添加することで外観上、破断面の白化が進んでいることから(図1の右写真)、CNFを添加することで樹脂複合材料は脆性的な性質(図2の右写真)から延性的な性質への転換が示唆される。



図1
図2