(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用電極箔、電解コンデンサおよびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/055 20060101AFI20240226BHJP
H01G 9/045 20060101ALI20240226BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20240226BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240226BHJP
H01G 9/07 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
H01G9/055
H01G9/045
H01G9/048 G
H01G9/00 290A
H01G9/07
(21)【出願番号】P 2021501554
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042681
(87)【国際公開番号】W WO2020174751
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019037029
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 満久
(72)【発明者】
【氏名】中野 翔介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛
(72)【発明者】
【氏名】椿 真佐美
(72)【発明者】
【氏名】栗原 直美
(72)【発明者】
【氏名】小川 美和
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-115475(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154461(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/086192(WO,A1)
【文献】特開2000-282299(JP,A)
【文献】特開2002-246274(JP,A)
【文献】特開2009-105191(JP,A)
【文献】永田伊佐也,電解液陰極アルミニウム電解コンデンサ,第2版第1刷,日本,日本蓄電器工業株式会社,1997年02月24日,p.232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/055
H01G 9/045
H01G 9/048
H01G 9/00
H01G 9/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を備え、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3
およびP2/P1<P3/P2を満たす、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項2】
P1が60%以下である、請求項
1に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項3】
P2が70%以下である、請求項1
または2に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項4】
P3が80%以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項5】
さらに、前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層を有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項6】
請求項
5に記載の電解コンデンサ用電極箔と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備える、電解コンデンサ。
【請求項7】
前記陰極部は、導電性高分子を含み、
前記導電性高分子は、前記第1領域にまで含浸している、請求項
6に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記陰極部は、電解液を含み、
前記電解液は、前記第1領域にまで含浸している、請求項
6または
7に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
金属箔を準備する工程と、
前記金属箔を粗面化することにより金属多孔質部を形成する粗面化工程と、を有し、
前記粗面化工程は、前記金属箔に電流を印加するエッチング工程を含み、
前記エッチング工程は、
第1処理液中で、前記金属箔に第1電流密度の電流を印加して第1エッチング箔を得る第1電解ステップと、
前記第1電解ステップ後、第2処理液中で前記第1エッチング箔に第2電流密度の電流を印加して第2エッチング箔を得る第2電解ステップと、
前記第2電解ステップ後、第3処理液中で前記第2エッチング箔に第3電流密度の電流を印加して第3エッチング箔を得る第3電解ステップと、
前記第1電解ステップ後、前記第2電解ステップ前に、前記第1エッチング箔を洗浄する第1洗浄ステップと、
前記第2電解ステップ後、前記第3電解ステップ前に、前記第2エッチング箔を洗浄する第2洗浄ステップと、を有し、
第1電流密度>第2電流密度>第3電流密度の関係を満たす、電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項10】
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす、請求項
9に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項11】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体と、
前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層と、を備え、
前記誘電体層は、前記金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を有し、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3
およびP2/P1<P3/P2を満たす、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項12】
P1が60%以下である、請求項
11に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項13】
P2が70%以下である、請求項
11または12に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項14】
P3が80%以下である、請求項
11~
13のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項15】
前記第1金属はAlを含み、前記第2金属はTa、Nb、Ti、Si、ZrおよびHfからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
11~
14のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項16】
前記金属部分と前記第1層との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を有する、請求項
11~
15のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項17】
前記第1領域において、T1>T2である、請求項
16に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項18】
前記誘電体層を有する前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3を満たす、請求項
11~
17のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項19】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体と、
前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層と、を備え、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記誘電体層を有する前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3
およびQ2/Q1<Q3/Q2を満たす、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項20】
請求項
11~
19のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備える、電解コンデンサ。
【請求項21】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体を準備する工程と、
前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、を備え、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3
およびP2/P1<P3/P2を満たし、
前記誘電体層を形成する工程は、気相法により、前記金属多孔質部の表面に、前記金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を堆積させて厚さT1の第1層を形成することを含む、電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項22】
前記誘電体層を形成する工程は、更に、前記第1層を有する陽極体を化成して、前記金属部分と前記第2金属の酸化物との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成する工程、を有する、請求項
21に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項23】
請求項
9、
10、
21または
22に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法が具備する工程と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部を形成する工程と、を具備する、電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用電極箔、電解コンデンサおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサの陽極体には、例えば、弁作用金属を含む金属箔が用いられている。電解コンデンサの容量を増加させるために、金属箔の主面にはエッチングが施され、金属多孔質部が形成される。その後、金属箔を化成処理して、金属多孔質部を構成する金属骨格(金属部分)の表面に金属酸化物(誘電体)の層が形成される。
【0003】
特許文献1は、塩酸を主成分として硫酸、蓚酸、リン酸の少なくとも1種を添加した水溶液中で交流電流を印加してアルミニウムをエッチング処理する電極箔の製造方法であって、交流電流を印加する電流密度のステップはエッチング処理始めを最大値とし、その最大値から漸次減少させ、電流密度が0になる前の途中段階で電流密度を0にする方法を教示している。
【0004】
一方、特許文献2は、原子層堆積法により誘電体層を形成することを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-203529号公報
【文献】国際公開第2017/26247号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、アルミニウム箔の表面積の拡大を効率的に行い、アルミ電解コンデンサ用電極箔の静電容量を高めることを目的としている。しかし、上記方法では表面積を拡大して静電容量を高めるのには限界がある。
【0007】
また、原子層堆積法により誘電体層を形成する場合、例えばエッチングピットの深部にまで誘電体層の原料ガスが到達せず、金属多孔質部の深部に誘電体層を形成することが困難になり得る。中でもエッチングピットの表層、特に表面から1/3の領域の空隙率が、それより深部の空隙率よりも小さい場合には、深部への原料ガスの到達が非常に困難となり、深部に十分な誘電体層を形成できないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を備え、前記金属多孔質部の厚み方向において前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす、電解コンデンサ用電極箔に関する。
【0009】
本発明の別の側面は、金属箔を準備する工程と、前記金属箔を粗面化することにより金属多孔質部を形成する粗面化工程と、を有し、前記粗面化工程は、前記金属箔に電流を印加するエッチング工程を含み、前記エッチング工程は、第1処理液中で前記金属箔に第1電流密度の電流を印加して第1エッチング箔を得る第1電解ステップと、前記第1電解ステップ後、第2処理液中で前記第1エッチング箔に第2電流密度の電流を印加して第2エッチング箔を得る第2電解ステップと、前記第2電解ステップ後、第3処理液中で前記第2エッチング箔に第3電流密度の電流を印加して第3エッチング箔を得る第3電解ステップと、前記第1電解ステップ後、前記第2電解ステップ前に、前記第1エッチング箔を洗浄する第1洗浄ステップと、前記第2電解ステップ後、前記第3電解ステップ前に、前記第エッチング箔を洗浄する第2洗浄ステップと、を有し、第1電流密度>第2電流密度>第3電流密度の関係を満たす、電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関する。
【0010】
本発明の更に別の側面は、金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体と、前記金属多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層と、を備え、前記誘電体層は、前記金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を有し、前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす、電解コンデンサ用電極箔に関する。
【0011】
本発明の更に別の側面は、金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体と、前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層と、を備え、前記金属多孔質部の厚み方向において、前記誘電体層を有する前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3を満たす、電解コンデンサ用電極箔に関する。
【0012】
本発明の更に別の側面は、金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体を準備する工程と、前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、を備え、前記金属多孔質部の厚み方向において前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たし、前記誘電体層を形成する工程は、気相法により、前記金属多孔質部の表面に、前記金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を堆積させて厚さT1の第1層を形成することを含む、電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関する。
【0013】
本発明の更に別の側面は、上記電解コンデンサ用電極箔と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備える、電解コンデンサに関する。
【0014】
本発明の更に別の側面は、上記電解コンデンサ用電極箔の製造方法が具備する工程と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部を形成する工程と、を具備する、電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、誘電体層を形成する場合に、金属多孔質部の深部にまで良好な誘電体層を形成し得るため、高性能の電解コンデンサ用電極箔を得ることができる。
【0016】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る陽極体の断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る誘電体層を有する多孔質部の一部を拡大して示す断面模式図である。
【
図3】本発明の別の実施形態に係る誘電体層を有する多孔質部の一部を拡大して示す断面模式図である。
【
図5】電解コンデンサが具備する捲回体の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る粗面化工程で使用されるエッチング装置の一部を模式的に示す説明図である。
【
図7】本発明の実施例1Aに係る金属多孔質部において、陽極体の表面からの距離と、空隙率(Al残存率)との関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例2に係る金属多孔質部において、陽極体の表面からの距離と、空隙率(Al残存率)との関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の比較例2に係る金属多孔質部において、陽極体の表面からの距離と、空隙率(Al残存率)との関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の一実施形態に係るエッチング工程における電流密度の変化を示す図である。
【
図11】本発明の別の実施形態に係るエッチング工程における電流密度の変化を示す図である。
【
図12】本発明の更に別の実施形態に係るエッチング工程における電流密度の変化を示す図である。
【
図13】本発明の更に別の実施形態に係るエッチング工程における電流密度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、誘電体層を形成する前の電解コンデンサ用電極箔を「第1電極箔」もしくは「陽極体」、誘電体層を有する電解コンデンサ用電極箔を「第2電極箔」とも称する。また、以下においては、第1エッチング箔、第2エッチング箔および第3エッチング箔を金属箔と特に区別せずに、いずいれも単に金属箔と称することがある。
【0019】
本実施形態に係る電解コンデンサ用電極箔(第1電極箔)は、金属多孔質部と、金属多孔質部に連続する金属芯部とを備える。すなわち、第1電極箔は、金属芯部と金属多孔質部との一体化物である。第1電極箔は、電解コンデンサの陽極体として用い得る。
【0020】
第2電極箔は、第1電極箔(もしくは陽極体)と、第1電極箔の金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層を有する。すなわち、第2電極箔は、金属多孔質部と、金属多孔質部に連続する金属芯部と、金属多孔質部を構成する金属部分(金属骨格)の表面を覆う誘電体層とを備える。誘電体層は、金属多孔質部を構成する金属部分(金属骨格)の表面を覆っている。誘電体層の構成は特に限定されない。
【0021】
第1電極箔(もしくは陽極体)は、例えば、多孔質部を構成する金属部分に含まれる第1金属で形成された金属箔の一部にエッチングなどを施すことにより金属箔を粗面化することにより得られる。金属多孔質部は、エッチングにより多孔質化された金属箔の表面側(外側)部分であり、金属箔の内側部分である残部が金属芯部である。
【0022】
第1電極箔の金属多孔質部の厚み方向において、金属多孔質部を、金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3は、P1<P2<P3を満たす。
【0023】
また、第2電極箔の金属多孔質部の厚み方向において、金属多孔質部を、金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3は、P1<P2<P3を満たす。
【0024】
第2電極箔において、誘電体層の厚さは、電解コンデンサの定格電圧により異なるが、4nm~300nmの厚みを有し、金属部分の表面の形状に沿って比較的薄く形成されている。よって、誘電体層が形成された第2電極箔の第1領域~第3領域の空隙率Q1~Q3は、誘電体層を形成する前の第1電極箔のP1~P3よりも、誘電体層の厚さの分だけ小さくなる。
【0025】
P1<P2<P3が満たされる場合、第2電極箔の空隙率もQ1<Q2<Q3を満たす。すなわち、第2電極箔の金属多孔質部の厚み方向において、誘電体層を有する金属多孔質部を、金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3を満たす。
【0026】
逆にQ1<Q2<Q3が満たされる場合、金属多孔質部の空隙率もP1<P2<P3を満たすといえる。
【0027】
第1電極箔においては、第1電極箔の表面側に近づくほど金属多孔質部の空隙率が大きくなっている。よって、金属多孔質部の深部にまで良好な誘電体層を形成し得るようになり、高性能の電解コンデンサ用電極箔を得ることができる。また、電解液、固体電解質などを陰極材料として用いる電解コンデンサにおいては、金属多孔質部への電解液の浸透性および固体電解質(例えば導電性ポリマー)の充填性が良好になり、電解コンデンサの容量達成率も高くなり、ESRの低減および漏れ電流の抑制にも有利となる。
【0028】
次に、本実施形態に係る電解コンデンサは、第2電極箔と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部とを備える。
【0029】
誘電体層を有する第2電極箔においても、第2電極箔の表面側に近づくほど誘電体層を有する金属多孔質部の空隙率が大きくなっている。よって、電解液、固体電解質などを陰極材料として用いる電解コンデンサにおいては、金属多孔質部への電解液の浸透性および固体電解質の充填性が良好になる。よって、電解コンデンサの容量達成率も高くなり、ESRの低減および漏れ電流の抑制にも有利となる。
【0030】
陰極部は、固体電解質として導電性高分子を含んでもよい。P1<P2<P3またはQ1<Q2<Q3を満たす場合、導電性高分子を第1領域にまで含浸することが容易になる。
【0031】
陰極部は、電解液を含んでもよい。P1<P2<P3またはQ1<Q2<Q3を満たす場合、電解液を第1領域にまで含浸することが容易になる。
【0032】
以下、誘電体層の一例について、更に詳しく説明する。
【0033】
金属多孔質部は、第1金属を含む金属部分で囲まれたピットもしくは細孔を有する。誘電体層は、ピットもしくは細孔を囲む金属部分の表面の少なくとも一部を覆うように設けられている。
【0034】
誘電体層は、金属部分に含まれる第1金属の酸化物を含んでもよい。また、誘電体層は、金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を有してもよい。第1金属とは異なる第2金属の酸化物を誘電体層に含ませる場合、例えば、第1金属の制限を受けずに、誘電率の高い第2金属を選択することができる。よって、電解コンデンサの容量を向上させやすくなる。また、第2金属の選択の幅が広がるため、第1金属の制限を受けずに誘電体層に様々な性能を付与し得るようになる。
【0035】
ここで、第1金属箔の金属多孔質部の厚み方向において金属多孔質部を、金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3は、P1<P2<P3を満たす。すなわち、陽極体の表面側に近づくほど金属多孔質部の空隙率が大きくなっている。よって、原子層堆積法のような気相法で誘電体層を形成する場合に、金属多孔質部の深部にまで誘電体層の原料ガスが拡散しやすく、金属多孔質部の深部にまで良好な誘電体層を形成できるようになる。例えば、誘電体層の成膜の初期段階で、金属多孔質部の表層部(すなわち第3領域)に優先的に第2金属の酸化物が堆積された場合であっても、P1<P2<P3を満たす場合は、表層部の空隙率P3が大きいため、ピットの入口が誘電体層で塞がれにくい。よって、誘電体層の成膜が良好に進行する。これにより、電極箔の高容量化が達成されるとともに、金属多孔質部への電解液の浸透性および固体電解質(例えば導電性ポリマー)の充填性が良好になり、電解コンデンサの容量達成率も高くなり、ESRの低減および漏れ電流の抑制にも有利となる。
【0036】
更に、気相法では、エッチングピットの表層部(第3領域)で先に原料ガスが消費されるため、最深部(第1領域)に到達する原料ガス量は少なくなる。一方、第3領域の空隙率P3が、それより深部の空隙率P1、P2よりも大きい場合、原料ガスのエッチングピットへの侵入が容易となる。また、最深部(第1領域)の空隙率P1が小さい場合、最深部の表面積も小さいため、誘電体層を形成するのに必要な原料ガス量は少量であってもよい。よってエッチングピットの最深部にまで良好な誘電体層を効率的に形成することができる。例えば比表面積が50倍以上もあるスポンジ状のエッチングピットであっても、その最深部にまで誘電体層を容易に形成することができるようになる。
【0037】
なお、金属多孔質部の深部(例えば第1領域)では、空隙率が比較的小さく、エッチングピットのピット径(もしくは細孔径)が相対的に小さくなっている。換言すれば、金属多孔質部の深部では、微小な細孔が多く存在し、相当の表面積が確保されている。よって、仮に、陽極体の表面近傍(例えば第3領域)における表面積が相対的に小さい場合でも、十分に大きな静電容量を確保しやすくなる。
【0038】
金属多孔質部の空隙率は、以下の方法で測定すればよい。
まず、陽極体(第1電極箔)の金属芯部と金属多孔質部の厚さ方向の断面が得られるように陽極体を切断し、断面の電子顕微鏡写真を撮影する。次に、その断面の画像を二値化して、金属部分と空隙とを区別する。次に、陽極体の表面側から金属芯部側に向かって、陽極体の厚さ方向と平行な経路に沿って、画像を複数(例えば0.1μm間隔)に分割し、分割後の各部の空隙率の平均値を空隙率として算出する。算出値を利用すれば、陽極体の表面からの距離と、空隙率との関係を示すグラフを描くことができる(
図7~9参照)。第1領域、第2領域および第3領域において、等間隔に任意の位置での空隙率を複数抽出し、複数の空隙率の平均値を計算して、空隙率P1、空隙率P2および空隙率P3とすればよい。なお、誘電体層を有する第2電極箔の空隙率Q1、空隙率Q2および空隙率Q3も同様に測定することができる。
【0039】
P2およびP3は、P2×1.1≦P3を満たしてもよく、P2×1.2≦P3を満たしてもよい。また、P1およびP2は、P1×1.05≦P2を満たしてもよく、P1×1.1≦P2を満たしてもよい。
【0040】
また、Q2およびQ3は、誘電体層の厚さ、もしくは電解コンデンサの定格電圧により異なるが、例えばQ2×1.1≦Q3を満たしてもよく、Q2×1.2≦Q3を満たしてもよい。また、Q1およびQ2は、Q1×1.05≦Q2を満たしてもよく、Q1×1.1≦Q2を満たしてもよい。
【0041】
図1に、本発明の一実施形態に係る陽極体(第1電極箔)の断面模式図を示す。陽極体110は、金属芯部111と金属多孔質部112との一体化物であり、金属多孔質部112の厚さはTで示されている。金属多孔質部112は、図示例のように、金属芯部111側から順に、各々厚さT/3の第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3に3等分割することができる。空隙率P1~P3を算出する際には、上記のように、各領域の断面画像を陽極体の表面側から金属芯部側に向かって、陽極体の厚さ方向と平行な経路に沿って複数(例えば0.1μm間隔)に分割し、分割後の各部の空隙率の平均値を空隙率P1~P3として算出すればよい。なお、誘電体層を有する第2電極箔の断面模式図も、
図1と同様であり、空隙率Q1~Q3を算出する際の手順も同様である。
【0042】
第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3の空隙率P1、P2およびP3は、更に、P1/P2<P3/P2を満たしてもよい。同様に、誘電体層を有する第2電極箔において、Q1/Q2<Q3/Q2が満たされてもよい。この場合、金属芯部から陽極体の表面に向かって一定の増加率で空隙率が増大するのではなく、陽極体の表面側において深部よりも空隙率の増加率が上昇する。よって、第1領域R1による誘電体層の原料ガスの拡散を促す作用が強められる一方、第3領域R3では静電容量を十分に高め得る表面積が確保される。
【0043】
P1~P3は、P2/P1<P3/P2を満たしてもよく、1.05×P2/P1<P3/P2を満たしてもよく、1.3×P2/P1<P3/P2を満たしてもよい。同様に、Q1~Q3は、Q2/Q1<Q3/Q2を満たしてもよく、1.05×Q2/Q1<Q3/Q2を満たしてもよく、1.3×Q2/Q1<Q3/Q2を満たしてもよい。
【0044】
P1は、例えば30%以上であればよい。P2は、例えば40%以上であればよく、50%以上であってもよい。また、P3は60%以上であってもよい。ただし、第1電極箔(陽極体)の十分な強度を確保する観点からは、P3が80%以下であることが好ましく、P2は70%以下が好ましく、P1は60%以下が好ましい。同様に、Q1は、例えば30%以上であればよい。Q2は、例えば40%以上であればよく、50%以上であってもよい。また、Q3は60%以上であってもよい。ただし、第2電極箔の十分な強度を確保する観点からは、Q3が80%以下であることが好ましく、Q2は70%以下が好ましく、Q1は60%以下が好ましい。
【0045】
P1~P3が上記範囲である場合、化成(陽極酸化)のような液相で誘電体層を形成する場合には、金属多孔質部の深部にまで化成液が浸透しやすくなる。また、原子層堆積法のような気相法で誘電体層を形成する場合には、金属多孔質部の深部への誘電体層の原料ガスの拡散性が更に向上する。ただし、第1電極箔および第2電極箔の十分な強度を確保する観点からは、P3もしくはQ3が80%以下であることが好ましく、P2もしくはQ2は70%以下が好ましく、P1もしくはQ1は60%以下が好ましい。
【0046】
金属多孔質部の厚さは、特に限定されず、電解コンデンサの用途、要求される耐電圧等によって適宜選択すればよい。金属多孔質部の厚さは、例えば10μm~160μmの範囲から選択すればよい。また、金属多孔質部の厚さは、例えば、第1電極箔または第2電極箔の厚さの1/10以上、5/10以下としてもよい。金属多孔質部の厚さTは、金属芯部と金属多孔質部の厚さ方向の断面が得られるように第1電極箔または第2電極箔を切断し、断面の電子顕微鏡写真を撮影し、金属多孔質部の任意の10点の厚さの平均値として求めればよい。
【0047】
金属多孔質部が有するピットもしくは細孔の細孔径ピークは、特に限定されないが、表面積を大きくするとともに誘電体層を金属多孔質部の深部にまで形成する観点から、例えば50nm~2000nmとすればよく、100nm~300nmとしてもよい。細孔径ピークは、例えば水銀ポロシメータで測定される体積基準の細孔径分布の最頻度孔径である。
【0048】
電解コンデンサの耐電圧は、特に限定されず、例えば1V以上、4V未満の比較的小さい耐電圧を有してもよく、4V以上、15V以上もしくは100V以上の比較的大きい耐電圧を有してもよい。4V以上の耐電圧を有する電解コンデンサを得る場合には、誘電体層の厚さを4nm以上とすることが好ましい。また、15V以上の耐電圧を有する電解コンデンサを得る場合には、誘電体層の厚さを21nm以上とすることが好ましい。
【0049】
より具体的には、例えば60V以上の大きな耐電圧を有する電解コンデンサを得る場合、金属多孔質部の細孔径ピークは、例えば50~300nmであればよく、金属多孔質部の厚さは、例えば30~160μmであればよく、誘電体層の厚さは、例えば30~100nmであればよい。
【0050】
耐電圧が例えば100V以上の電解コンデンサの場合、エッチングピットの形状は、陽極体の表面側のピット径が大きく、金属芯部側のピット径が小さく、陽極体の表面側から金属芯部側に向かってトンネル状に延びる概ね柱状、円錐状もしくは円錐台状の形状であってもよい。
【0051】
耐電圧が比較的低く、例えば10V以下の耐電圧を有する電解コンデンサを得る場合、金属多孔質部の細孔径ピークは、例えば20~200nmであればよく、金属多孔質部の厚さは、例えば30~160μmであればよく、誘電体層の厚さは、例えば4~30nmであればよい。
【0052】
第1金属は、例えば、Alを含んでもよい。このとき、第2金属は、例えば、Ta、Nb、Ti、Si、ZrおよびHfからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0053】
誘電体層において、第1金属を含む金属部分と第2金属の酸化物との間に、第1金属の酸化物を設けてもよい。以下、誘電体層のうち、第2金属を含む酸化物が形成する部分を第1層とも称し、第1金属を含む酸化物が形成する部分を第2層とも称する。
【0054】
例えば、金属部分の表面に形成された第1金属の自然酸化被膜上に、第2金属を含む酸化物(第1層)を形成してもよい。また、自然酸化被膜上に第1層を形成した後、金属部分を陽極化成して、金属部分と第2金属を含む酸化物(第1層)との間に任意の厚さの第1金属の酸化物(第2層)を形成してもよい。
【0055】
第2層は、第1金属の酸化物と第2金属の酸化物との複合酸化物を含んでもよい。第2層を形成することで、第1層に欠陥が存在する場合でも欠陥が補修され得る。よって、誘電体層の性能が一層向上する。
【0056】
第1層の厚さT1と第2層の厚さT2とは、少なくとも第3領域においてT1≧2×T2を満たしてもよく、T1≧3×T2を満たしてもよい。このように第1層の厚さを相対的に大きくすることで、例えば、誘電率の高い第2金属を選択する場合には、電解コンデンサの容量を顕著に向上させることができる。なお、上記金属多孔質部の構成によれば、より深部への原料ガスの到達が容易となるため、第1領域においても、T1>T2とすることができる。
【0057】
第1層および第2層の厚さは、金属多孔質部の厚さ方向の断面が得られるように陽極体を切断し、断面の電子顕微鏡写真を撮影し、第1層もしくは第2層の任意の10点の厚さの平均値として求めればよい。
【0058】
第1層は、C、P、BおよびNからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含むことが好ましい。添加元素は、第1層の表面から少なくとも0.05×T1(第1層の厚み)の深さまで分布していることが好ましい。これにより、誘電体層に十分な耐酸性を付与し得るようになり、かつ漏れ電流を十分に低減し得るようになる。第1層は、第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む誘電体で形成されている。第2金属は、高誘電率の誘電体を形成し得るが、その形成過程において、漏れ電流の増大の原因となる誘電体層の欠陥を生じ易い。添加元素が欠陥に入り込むことで誘電体層に耐酸性が付与され、漏れ電流の増大を抑制できる。本実施形態に係る電解コンデンサでは、効率よく上記元素を誘電体層に添加することができる。
【0059】
以下、第1電極箔の製造方法について更に説明する。
【0060】
第1電極箔は、例えば、金属箔を準備する工程と、金属箔を粗面化することにより金属多孔質部を形成する粗面化工程とを有する方法により製造される。粗面化工程は、金属箔をエッチングするエッチング工程を含む。粗面化により、金属箔の表面側には複数のピットもしくは細孔を有する金属多孔質部が形成される。同時に、金属箔の内側部分に、金属多孔質部と一体の金属芯部が形成される。エッチングは、例えば、直流電流による直流エッチングまたは交流電流による交流エッチングにより行われ得る。
【0061】
エッチングの条件は、金属多孔質部をその厚み方向において金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たすように設定される。具体的には、例えば、塩酸を主成分とするエッチング液中で、例えばアルミニウム箔やアルミニウム合金箔に所定の交流電流を印加することで、空隙率P1、P2およびP3を任意に設定することができる。
【0062】
粗面化工程は、金属箔に電流を印加して金属箔をエッチングするエッチング工程を含んでもよい。このとき、例えば、電流密度が次第に平均的に小さくなるように金属箔に電流を印加する。実際の電流密度の変化は、連続的であってもよく、段階的であってもよい。エッチング工程が進行するにしたがって金属箔に金属多孔質部が次第に形成されていく。
【0063】
ここで、「電流密度が次第に平均的に小さくなる」とは、金属箔に対して電流が印加される時間と電流密度との関係を近似曲線もしくは近似直線で表したときに、当該近似曲線もしくは近似直線が負の傾きを有する(電流密度の変化率が負である)ことをいう。近似曲線もしくは近似直線に対応する近似式は、一次関数であっても二次以上の関数であってもよい。ただし、近似式の相関係数をRとするとき、決定係数R2は0.75以上0.99以下、更には0.82以上0.99以下、もしくは0.85以上0.99以下の範囲内にあることが望ましい。また、近似曲線は、下に凸の曲線であることが望ましい。
【0064】
第1電極箔が得られた後、第1電極箔に誘電体層を形成する際の化成電圧が比較的大きい場合(例えば化成電圧が60V以上(更には100V以上)の場合)には、第1金属箔を得る際の電流密度は一次関数的に次第に減少させることが望ましい。この場合、金属多孔質部に比較的大きな細孔を形成し得る。一方、第1電極箔に誘電体層を形成する際の化成電圧が比較的小さい場合(例えば化成電圧が60V未満(更には10V以下)の場合)には、第1金属箔を得る際の電流密度は、二次関数的もしくは下に凸の曲線に沿って次第に減少させることが望ましい。この場合、金属多孔質部に比較的小さな細孔を形成し得る。
【0065】
エッチング工程では、金属箔に対して間欠的に電流を印加することが望ましい。具体的には、エッチング工程では、金属箔に対して電流が印加される期間(以下、電解期間とも称する。)と、電流が印加されない期間(以下、無電解期間とも称する。)と、がそれぞれ2回以上繰り返されることが望ましい。なお、僅かな電流(例えば後述の第1電流密度の1%以下もしくは0.001A/cm2以下)が金属箔に流れる期間は、電流が印加されない無電解期間に含んでよい。例えば、複数のエッチング槽を有する製造ラインを用いるロール・ツー・ロール方式のエッチング工程の場合には、エッチング槽の下部に金属箔を搬送するためのローラが設置される。ローラとの接触中およびその前後では、金属箔に流れる電流が低下する。この期間を無電解期間に含んでよい。
【0066】
電解期間中には、金属箔に形成されつつあるピットもしくは細孔内において、金属箔を構成する金属元素のイオン種が濃縮される傾向がある。効率的なエッチングを行うには、定常的に金属箔に電流を印加して金属元素のイオン種を生成させるよりも、一時的に電流の印加を実質的に停止し、イオン種の拡散を促進することが有効である。無電解期間を間欠的に設けることで、金属元素のイオン種の拡散が促進され、ピットもしくは細孔内のイオン種の濃度が低減し、より効率的なエッチングが可能になるものと考えられる。
【0067】
エッチング工程の開始から終了(最後の電解期間の終了時)までの期間をT0、金属箔に対して電流が印加されるトータルの電解期間をT1、金属箔に電流が印加されないトータルの無電解期間をT2とするとき、T0=T1+T2が成立する。トータルの電解期間T1は、例えばT0の10~70%であってもよく、30~70%であってもよい。無電解期間を金属箔の洗浄などの処理に利用してもよい。すなわち、無電解期間は、金属箔を洗浄する洗浄ステップであってもよい。洗浄期間中は、金属箔を洗浄槽中の洗浄液に導入したり、金属箔を洗浄液のシャワーもしくは流水で洗浄したりしてもよい。
【0068】
エッチング工程の開始から終了までの期間T0および金属箔に対して電流が印加されるトータルの電解期間T1は特に限定されず、第1電極箔の厚み、所望のエッチングピットの深さ等に応じて適宜設定すればよい。期間T0は、例えば、16分以上、70分以下であってよい。電解期間T1は、例えば、7分以上、50分以下であってよい。
【0069】
無電解期間を設ける手法は特に限定されない。例えば、無電解期間において、金属箔はいずれかの処理液(エッチング液、洗浄液など)に含浸されていてもよく、処理液に含浸されていなくてもよい。例えば、一つのエッチング槽内において金属箔とアノード電極との対向領域を間欠的に設け、金属箔とアノード電極とが対向している間にエッチングを行う場合、金属箔とアノード電極とが対向していない間は無電解期間である。この場合、金属箔は無電解期間の少なくとも一部においても処理液中に存在する。
【0070】
一方、複数のエッチング槽を有する製造ラインを用いてロール・ツー・ロール方式でエッチング工程を行う場合には、隣接する一対のエッチング槽間に、所定の長さの金属箔が搬送されるエッチング槽外経路を設けることができる。この場合、金属箔がエッチング槽外経路を搬送される間は無電解期間であり、金属箔は無電解期間の少なくとも一部において処理液のない外部経路を通過する。
【0071】
処理液には、様々な目的の処理液が含まれるが、主な処理液は、粗面化のために金属箔に対して電流を印加するためエッチング液、金属箔を洗浄するための洗浄液などである。中でも、金属箔を洗浄する場合には、電解によるエッチングで溶解する金属元素のイオン種の拡散を促進する効果が大きい。
【0072】
エッチング液としては、例えば、塩酸水溶液が好ましく、塩酸に加えて硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸などを更に含む水溶液も用いられる。水溶液には、キレート剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。エッチング液の塩酸の濃度、その他の酸の濃度および温度は特に限定されず、所望のエッチングピットの形状やコンデンサの性能に応じて適宜設定すればよい。エッチング液における塩酸の濃度は、例えば、1モル/L以上、10モル/L以下である。エッチング液におけるその他の酸の濃度は、例えば、0.01モル/L以上、1モル/L以下である。電解エッチング工程中のエッチング液の温度は特に限定されず、例えば、15℃以上、60℃以下である。
【0073】
洗浄液は、水(イオン交換水)でもよいが、洗浄を主目的とする場合には、塩酸、リン酸、希硫酸、シュウ酸などの溶解性の酸を含む水溶液で短時間洗浄することが好ましい。金属箔の洗浄に水が用いられる場合、不純物が除去されやすく、イオン種が拡散されやすい。この場合、10秒以上もしくは20秒以上、更には60秒以上の洗浄ステップを施してもよい。金属箔の表面を保護することで、金属箔の深部におけるエッチングが効果的に進行しやすくなる。
【0074】
エッチング工程は、例えば、第1処理液に金属箔を含浸し、金属箔に第1電流密度の電流を印加する第1電解ステップと、第1電解ステップ後、第2処理液に金属箔(第1エッチング箔)を含浸し、金属箔に第2電流密度の電流を印加する第2電解ステップと、第2電解ステップ後、第3処理液に金属箔(第2エッチング箔)を含浸し、金属箔に第3電流密度の電流を印加する第3ステップとを含んでもよい。このとき、第1電流密度>第2電流密度>第3電流密度の関係を満たしてもよい。ただし、第1電流密度、第2電流密度および第3電流密度は、それぞれ第1電解ステップ、第2電解ステップおよび第3電解ステップの電解期間における平均の電流密度を意味する。平均の電流密度は、各電解期間中に金属箔に印加された電流の積算値と各電解期間とを用いて算出できる。
【0075】
エッチング工程の開始から終了までの期間T0のうち、第1電解ステップは0.2×T0~0.4×T0を占めてもよく、第2電解ステップは0.2×T0~0.4×T0を占めてもよく、第3電解ステップは0.2×T0~0.4×T0を占めてもよい。また、第1電解ステップ、第2電解ステップおよび第3電解ステップの合計は、0.7×T0以上を占めてもよい。各電解ステップにおいて、電解期間は間欠的であってよく、無電解期間を含み得る。
【0076】
第1電解ステップ後、第2電解ステップ前には、金属箔(第1エッチング箔)を洗浄する第1洗浄ステップを行ってもよい。また、第2電解ステップ後、第3電解ステップ前には、更に、金属箔(第2エッチング箔)を洗浄する第2洗浄ステップを行ってもよい。ここでは、第1電解ステップおよび第2電解ステップは、それぞれ電解期間で終了してから無電解期間である第1洗浄ステップまたは第2洗浄ステップに移行するものとする。既に述べたように、第1電解ステップおよび第2電解ステップは、更にそのプロセス内において無電解期間を含んでもよい。当該無電解期間は、第1洗浄ステップおよび第2洗浄ステップ以外の別の洗浄ステップを含んでもよい。ただし、第1洗浄ステップおよび第2洗浄ステップは、第1~第3電解ステップとは別のステップである。
【0077】
第1洗浄工程および第2洗浄工程で用いる処理液(すなわち洗浄液)は、既に述べたように希酸水溶液でもよく、塩酸、リン酸、希硫酸、シュウ酸などを含む溶液であってもよい。
【0078】
第1処理液は、例えば、塩酸を主成分とし、アルミニウム、硫酸、リン酸および/または硝酸を含んでもよい。第1電流密度は、例えば、0.20~0.25A/cm2であればよく、第1電解ステップにおける電解期間のトータルは、例えば、1~10分であってもよく、無電解期間のトータルは、例えば、1~10分であってもよい。第1電解ステップ後、第2電解ステップ前には、金属箔(第1エッチング箔)を第1処理液から取り出し、洗浄液で洗浄してもよい。
【0079】
第2処理液は、例えば、塩酸を主成分とし、アルミニウム、硫酸、リン酸および/または硝酸を含んでもよい。第2電流密度は、例えば、0.19~0.24A/cm2であればよく、第2電解ステップにおける電解期間のトータルは、例えば、1~10分であってもよく、無電解期間のトータルは、例えば、1~10分であってもよい。第2電解ステップ後、第3電解ステップ前には、金属箔(第2エッチング箔)を第1処理液から取り出し、洗浄液で洗浄してもよい。
【0080】
第3処理液は、例えば、塩酸を主成分とし、アルミニウム、硫酸、リン酸および/または硝酸を含んでもよい。第3電流密度は、例えば、0.18~0.23A/cm2であればよく、第3電解ステップにおける電解期間のトータルは、例えば、1~10分であってもよく、無電解期間のトータルは、例えば、1~10分であってもよい。第3電解ステップ後、金属箔(第3エッチング箔もしくは第1電極箔)を第3処理液から取り出し、更に、洗浄液で洗浄してもよい。
【0081】
上記例では、第1処理液、第2処理液および第3処理液の主成分の塩酸濃度は同じであってもよいし、濃度が異なっても構わない。
【0082】
上記のような方法によれば、金属多孔質部の厚み方向において、金属多孔質部を、金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす第1電極箔を容易に得ることができる。
【0083】
次に、第2電極箔および電解コンデンサの製造方法について更に説明する。
【0084】
第2電極箔は、例えば、(i)金属多孔質部と、金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体(第1電極箔)を準備する工程と、(ii)金属多孔質部を構成する金属部分の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、を備える方法により製造される。また、電解コンデンサは、上記工程(i)および(ii)に加え、(iii)誘電体層を覆う陰極部を形成する工程を備える方法により製造される。
【0085】
工程(i)
陽極体(第1電極箔)を準備する工程(i)は、例えば、第1金属を含む金属箔にエッチングを施して金属箔を粗面化する工程であり、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす第1電極箔が準備される。P1<P2<P3を満たす場合、化成(陽極酸化)で誘電体層を形成する場合には、化成液が金属多孔質部の深部にまで浸透しやすくなり、気相法で誘電体層を形成する場合には、原料ガス等が金属多孔質部の深部にまで侵入しやすくなる。よって、金属多孔質部の深部にまで良好な誘電体層を形成し得るようになる。
【0086】
第1金属の種類は特に限定されないが、化成による誘電体層もしくは第2層の形成が容易である点から、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用い得る。金属箔の厚さは特に限定されないが、例えば、15μm以上、300μm以下である。
【0087】
工程(ii)
誘電体層を形成する工程(ii)は、例えば、陽極体(第1電極箔)を化成(陽極酸化)する工程であってもよい。例えば、第1電極箔を、アジピン酸アンモニウム溶液、リン酸アンモニウム溶液、ホウ酸アンモニウム溶液等の化成液に浸漬した状態で、第1電極箔に電圧を印加することにより、金属部分の表面に誘電体層が形成された第2電極箔が得られる。
【0088】
また、誘電体層を形成する工程(ii)は、例えば、気相法により、金属部分の表面に、金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を堆積させ、厚さT1の第1層を形成する工程であってもよい。これにより、金属部分の表面に誘電体層が形成された第2電極箔が得られる。
【0089】
第2金属としては、Al、Ta、Nb、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などが挙げられる。これらは、単独で、あるいは2種以上組み合わされてもよい。すなわち、第1層には、Al2O3、Ta2O5、Nb2O5、SiO2、TiO2、ZrO2、HfO2などが単独で、あるいは2種以上含まれ得る。第1層が2種以上の第2金属の酸化物を含む場合、2種以上の酸化物が混在していてもよいし、それぞれが層状に配置されていてもよい。電解コンデンサの容量を増加させる観点からは、第2金属の酸化物が第1金属の酸化物よりも高い比誘電率を有することが好ましい。また、電解コンデンサの耐電圧を向上させる観点からは、第2金属は、Ta、Ti、Siなどであることが好ましい。
【0090】
気相法としては、例えば、真空蒸着法、化学蒸着法、ミスト蒸着法、スパッタ法、パルスレーザ堆積法、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD法)などが選択され得る。中でも、ALD法が、金属多孔質部の深部にまで緻密な誘電体層を形成し得る点で優れている。第1層の厚さは特に限定されないが、例えば、0.5nm以上、200nm以下であり、5nm以上、200nm以下であってもよい。
【0091】
図2に、金属芯部111と金属多孔質部112との一体化物である陽極体110と、金属多孔質部112を構成する金属部分の表面を覆う誘電体層120とを具備する陽極箔10の一例を示す。
図2は、誘電体層120として第1層121だけを有する金属多孔質部112の一部を拡大して示す断面模式図である。
【0092】
金属多孔質部112は、金属部分で囲まれた多数のピット(もしくは細孔)Pを有する。誘電体層120(第1層121)は、金属部分の表面の少なくとも一部を覆うように設けられている。第1層121は、金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含み、その厚さはT1で示されている。
【0093】
ALD法は、対象物が配置された反応室に第2金属を含む原料ガスと酸化剤とを交互に供給して、対象物の表面に第2金属の酸化物を含む誘電体層(第1層)を形成する製膜法である。ALD法では、自己停止(Self-limiting)作用が機能するため、第2金属は原子層単位で対象物の表面に堆積する。そのため、原料ガスの供給→原料ガスの排気(パージ)→酸化剤の供給→酸化剤の排気(パージ)を1サイクルとしたサイクル数により、第1層の厚さは制御される。つまり、ALD法は、形成される誘電体層の厚さを容易に制御し得る。
【0094】
なお、一般的に400~900℃の温度条件で行われるCVDに対して、ALD法は100~400℃の温度条件で行い得る。つまり、ALD法は、金属箔への熱的ダメージを抑制し得る点で優れている。
【0095】
ALD法で用いる酸化剤としては、例えば、水、酸素、オゾンなどが挙げられる。酸化剤は、酸化剤を原料とするプラズマとして反応室に供給されてもよい。
【0096】
第2金属は、第2金属を含むプリカーサ(前駆体)のガスとして反応室に供給される。プリカーサは、例えば、第2金属を含む有機金属化合物であり、これにより、第2金属は対象物に化学吸着し易くなる。プリカーサとしては、従来、ALD法で用いられている各種の有機金属化合物を使用することができる。
【0097】
Alを含むプリカーサとしては、例えば、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)等が挙げられる。Zrを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(メチル-η5-シクロペンタジエニル)メトキシメチルジルコニウム(Zr(CH3C5H4)2CH3OCH3)、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)([(CH3)2N]4Zr)、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(IV)(Zr(NCH3C2H5)4)、ジルコニウム(IV)t-ブトキシド(Zr[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。Nbを含むプリカーサとしては、例えば、ニオブ(V)エトキシド(Nb(OCH2CH3)5、トリス(ジエチルアミド)(t-ブチルイミド)ニオブ(V)(C16H39N4Nb)等が挙げられる。
【0098】
Taを含むプリカーサとしては、例えば、(t-ブチルイミド)トリス(エチルメチルアミノ)タンタル(V)(C13H33N4Ta、TBTEMT)、タンタル(V)ペンタエトキシド(Ta(OC2H5)5)、(t-ブチルイミド)トリス(ジエチルアミノ)タンタル(V)((CH3)3CNTa(N(C2H5)2)3)、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル(V)(Ta(N(CH3)2)5)等が挙げられる。
【0099】
Nbを含むプリカーサとしては、例えば、ニオブ(V)エトキシド(Nb(OCH2CH3)5、トリス(ジエチルアミド)(t-ブチルイミド)ニオブ(V)(C16H39N4Nb)等が挙げられる。
【0100】
Siを含むプリカーサとしては、例えば、N-sec-ブチル(トリメチルシリル)アミン(C7H19NSi)、1,3-ジエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン(C8H23NSi2)、2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン((CH3SiHO)5)、ペンタメチルジシラン((CH3)3SiSi(CH3)2H)、トリス(イソプロポキシ)シラノール([(H3C)2CHO]3SiOH)、クロロペンタンメチルジシラン((CH3)3SiSi(CH3)2Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリジメチルアミノシラン(Si[N(CH3)2]4)、テトラエチルシラン(Si(C2H5)4)、テトラメチルシラン(Si(CH3)4)、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)、ドデカメチルシクロヘキサシラン((Si(CH3)2)6)、四塩化ケイ素(SiCl4)四臭化ケイ素(SiBr4)等が挙げられる。
【0101】
Tiを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(t-ブチルシクロペンタジエニル)チタン(IV)ジクロライド(C18H26Cl2Ti)、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(IV)([(CH3)2N]4Ti、TDMAT)、テトラキス(ジエチルアミノ)チタン(IV)([(C2H5)2N]4Ti)、テトラキス(エチルメチルアミノ)チタン(IV)(Ti[N(C2H5)(CH3)]4)、チタン(IV)(ジイソプロポキサイド-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート(Ti[OCC(CH3)3CHCOC(CH3)3]2(OC3H7)2)、四塩化チタン(TiCl4)、チタン(IV)イソプロポキシド(Ti[OCH(CH3)2]4)、チタン(IV)エトキシド(Ti[O(C2H5)]4)等が挙げられる。
【0102】
Zrを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(メチル-η5シクロペンタジエニル)メトキシメチルジルコニウム(Zr(CH3C5H4)2CH3OCH3)、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)([(CH3)2N]4Zr)、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(IV)(Zr(NCH3C2H5)4)、ジルコニウム(IV)t-ブトキシド(Zr[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。
【0103】
Hfを含むプリカーサとしては、例えば、ハフニウムテトラクロライド(HfCl4)、テトラキスジメチルアミノハフニウム(Hf[N(CH3)2]4)、テトラキスエチルメチルアミノハフニウム(Hf[N(C2H5)(CH3)]4)、テトラキスジエチルアミノハフニウム(Hf[N(C2H5)2]4)、ハフニウム-t-ブトキシド(Hf[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。
【0104】
第2電極箔を製造する方法は、更に、第2金属の酸化物を堆積させた陽極体(すなわち、第1層を有する陽極体)を化成(陽極酸化)する工程を有してもよい。これにより、第1金属を含む金属部分と第2金属の酸化物(第1層)との間に、第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成することができる。厚さT2は、化成の際に陽極体に印加する電圧により制御し得る。
【0105】
先述のように、エッチングピットの最深部(第1領域)の空隙率P1が小さい場合、最深部にまで良好な誘電体層を効率的に形成することができる。また、エッチングピットの表層部(第3領域)の空隙率P3が大きい場合、原料ガスの侵入が容易となり、最深部に原料ガスが容易に到達し得る。その結果として、第1領域においても第2層に対する第1層の比率を高く制御することが容易となり、金属多孔質部の全体に高誘電率の誘電体層を形成することが可能となる。
【0106】
また、第1層にC、P、BおよびNからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含有させる場合、例えば、添加元素を含む水溶液に誘電体層を有する陽極体を浸漬した後、熱処理(例えば180℃以上に加熱)すればよい。誘電体層を有する陽極体に、蒸着等の気相法で添加元素を付着させてもよい。添加元素をより拡散させるためには、熱処理の加熱温度は250℃以上とすればよい。
【0107】
添加元素を含む水溶液は、添加元素を含む化合物の水溶液であればよく、そのような化合物として、例えば、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、セバシン酸、酒石酸などのC(炭素)を含むカルボン酸、アジピン酸2アンモニウムなどのアンモニウム塩などのN(窒素)を含む化合物、リン酸、リン酸アンモニウム、ホスホン酸、ホスフィン酸などのP(リン)を含む化合物、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなどのB(ホウ素)を含む化合物などを用い得る。
【0108】
図3に、誘電体層120として第1層121と第2層122とを有する金属多孔質部112の一部を拡大して断面模式図で示す。誘電体層120は、金属部分側から順に、第2層122と第1層121とを有する。第1層121の厚さはT1で、第2層の厚さはT2で示されている。
【0109】
ALD法によれば、薄く均一な誘電体層(第1層)が形成され得る。しかし、実際には金属多孔質部が有するピットの深部の表面においては、ピンホール等の欠陥を有する場合がある。第2層を形成する際に、イオン化した第1金属が第1層にまで拡散し、第1層の欠陥を修復する作用を有する。その結果、全体としては、ピンホールのない均一な厚さを備える誘電体層が形成される。よって、電解コンデンサの容量が増大するとともに、耐電圧性が向上し、漏れ電流が低下する。
【0110】
第2層の厚さT2は特に限定されないが、第1層の厚さT1よりも小さくてもよい。第2層の厚さT2は、例えば、0.5nm以上、200nm以下であり、5nm以上、200nm以下であってもよい。
【0111】
第1層の厚さT1と第2層の厚さT2との比は、特に限定されず、用途および所望の効果等に応じて適宜設定すればよい。例えば、厚さの比:T1/T2は、少なくとも第3領域において、2以上でもよいし、3以上でもよいし、5以上でもよい。
【0112】
工程(iii)
誘電体層を覆う陰極部を形成する工程(iii)では、例えば、誘電体層を有する陽極体に電解液を含浸させ、および/または、誘電体層の表面に固体電解質層を形成すればよい。固体電解質層の形成および電解液の含浸の両方を行う場合、誘電体層に固体電解質層を形成した後、電解液の含浸を行えばよい。
【0113】
電解液としては、非水溶媒であってもよく、非水溶媒とこれに溶解させたイオン性物質(溶質(例えば有機塩))との混合物であってもよい。非水溶媒は、有機溶媒でもよく、イオン性液体でもよい。
【0114】
非水溶媒としては、高沸点溶媒が好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなとの多価アルコール類、スルホランなどの環状スルホン類、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、炭酸プロピレンなどのカーボネート化合物、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。
【0115】
有機塩とは、アニオンおよびカチオンの少なくとも一方が有機物を含む塩である。有機塩としては、例えば、マレイン酸トリメチルアミン、ボロジサリチル酸トリエチルアミン、フタル酸エチルジメチルアミン、フタル酸モノ1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、フタル酸モノ1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウムなどを用いてもよい。
【0116】
固体電解質層は、例えば、マンガン化合物、導電性高分子などを含む。導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などを用いることができる。導電性高分子を含む固体電解質層は、例えば、原料モノマーを誘電体層上で化学重合および/または電解重合することにより形成し得る。固体電解質層は、導電性高分子が溶解した溶液または導電性高分子が分散した分散液を誘電体層に付着させることにより形成してもよい。
【0117】
誘電体層を有する陽極体が、
図1~3に示すような陽極箔である場合、陰極部を形成する前に、
図5に示すような捲回体100を作製してもよい。
図5は、捲回体100の構成を説明するための展開図である。
【0118】
捲回体100を作製する場合、陽極箔10に加え、陰極箔20を準備する。陰極箔20には、陽極箔10と同様に金属箔を用いることができる。陰極箔20を構成する金属の種類は特に限定されないが、Al、Ta、Nbなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用い得る。必要に応じて、陰極箔20の表面を粗面化してもよい。
【0119】
次に、陽極箔10と陰極箔20とをセパレータ30を介して捲回する。陽極箔10と陰極箔20には、それぞれリードタブ50Aまたは50Bの一方の端部が接続されており、リードタブ50Aおよび50Bを巻き込みながら捲回体100が構成される。リードタブ50Aおよび50Bの他方の端部には、リード線60Aおよび60Bがそれぞれ接続されている。
【0120】
セパレータ30は特に限定されず、例えば、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、アラミド繊維などを主成分とする不織布を用いることができる。
【0121】
次に、捲回体100の最外層に位置する陰極箔20の外側表面に、巻止めテープ40を配置し、陰極箔20の端部を巻止めテープ40で固定する。なお、陽極箔10を大判の箔から裁断して準備した場合には、裁断面に誘電体層を設けるために、捲回体100に対して更に化成処理を行ってもよい。
【0122】
捲回体100に電解液、導電性高分子が溶解した溶液、および/または、導電性高分子が分散した分散液などの電解質を形成するための液体を含浸させる方法は、特に限定されない。例えば、容器に収容された電解液、溶液または分散液に、捲回体100を浸漬させる方法、電解液、溶液または分散液を捲回体100に滴下する方法などを用い得る。含浸は、減圧下、例えば10kPa~100kPa、好ましくは40kPa~100kPaの雰囲気で行ってもよい。P1<P2<P3またはQ1<Q2<Q3を満たす場合、電解質を形成するための液体の粘度が10mPa・s以上、特に50mPa・s以上さらには100mPa・s以上の場合においても、金属多孔質部へ電解質を形成するための液体の浸透性を高めることができ、電解コンデンサの容量達成率も高くなり、ESRの低減および漏れ電流の抑制にも有利となる。
【0123】
次に、捲回体100を封止することにより、
図4に示すような電解コンデンサ200が得られる。電解コンデンサ200を製造するには、まず、リード線60A、60Bが有底ケース211の開口側に位置するように、捲回体100を有底ケース211に収納する。有底ケース211の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属あるいはこれらの合金を用いることができる。
【0124】
次に、リード線60A、60Bが貫通するように形成された封止部材212を、捲回体100の上方に配置し、捲回体100を有底ケース211内に封止する。封止部材212は、絶縁性物質であればよく、弾性体が好ましい。中でも耐熱性の高いシリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、ハイパロンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴムなどが好ましい。
【0125】
次に、有底ケース211の開口端近傍に、横絞り加工を施し、開口端を封止部材212にかしめてカール加工する。最後に、カール部分に座板213を配置することによって、封止が完了する。その後、定格電圧を印加しながら、エージング処理を行ってもよい。
【0126】
図6は、ロール・ツー・ロール方式のエッチング工程で使用されるエッチング装置を模式的に示す説明図である。エッチング装置300は、エッチング液を保持するエッチング槽310と、金属箔301を搬送する複数の搬送ロール320と、金属箔301に対向する一対の電極330と、電極330に電流を流す交流電源340と、を備える。金属箔301は複数の搬送ロール320を介して搬送されながら、エッチング槽310内を移動する。金属箔301は、エッチング槽310内で電極330に対向している間(電解期間中)、エッチングされる。これにより、少なくとも部分的にエッチングされた金属箔(エッチング箔)302が得られる。
【0127】
図6では、長尺の金属箔301に対してエッチングが行われる場合を示しているが、これに限定されるものではない。例えば、静置された一定の面積を有する金属箔に対してエッチングが行われてもよい。また、
図6では、一対の電極を用いているが、これに限定されない。例えば、1つの電極に金属箔を対向させるとともに、電極と金属箔とを交流電源に接続してエッチングを行ってもよい。さらに、エッチング槽は複数あってもよい。1つのエッチング槽に電極は2対以上あってよい。
【0128】
上記の実施形態では、捲回型の電解コンデンサについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他の電解コンデンサ、例えば、積層型の電解コンデンサにも適用することができる。
【0129】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0130】
《実施例1A》
本実施例では、誘電体層としてALD法で第1層を形成した後、化成電圧65Vの化成を行って第2電極箔(化成箔)を作製した。以下に、具体的な製造方法について説明する。
【0131】
(陽極体(第1電極箔)の作製)
厚さ150μmのAl箔を金属箔として準備した。Al箔に塩酸水溶液で前処理を行い、その後、塩酸を主成分とするエッチング液中で交流電流を印加してエッチング工程を行った。エッチング電流(電流密度、周波数)、エッチング時間、エッチング液温を適宜調整して、Al箔の両方の表面に下記の空隙率を有する厚さ55μmの金属多孔質部を有するエッチング箔(第1電極箔)を得た。
【0132】
金属多孔質部の細孔径ピークは170nmであった。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、それぞれ55%、62%、75%であり、P1<P2<P3であった。また、P2/P1=1.13、P3/P2=1.21であり、P2/P1<P3/P2を満たしていた。
【0133】
図7に、金属多孔質部における陽極体の表面からの距離と、空隙率(Al残存率)との関係を示す。
【0134】
(第2電極箔の作製)
次いで、ALD法(温度:200℃、プリカーサ:(t-ブチルイミド)トリス(エチルメチルアミノ)タンタル(V)(C13H33N4Ta、TBTEMT)、酸化剤:H2O、圧力:10Pa、3000サイクル)により、多孔質部を構成するAl骨格(金属部分)の表面に、誘電体層(第1層)としてTaを含む酸化物を形成した。
【0135】
続いて、Al箔(第1層を有する第1電極箔)に化成処理を施して、Al骨格と第1層との間にAlの酸化物を含む第2層を形成し、第2電極箔を得た。化成処理は、アジピン酸2アンモニウム水溶液(アジピン酸アンモニウム濃度10質量%)に第1層を有するAl箔を浸漬し、直流電流を印加し、化成電圧約65Vに到達してから、約10分間の保持を行い、水洗後、300℃で5分、空気中で加熱し、その後、得られた第2電極箔を所定形状に裁断した。
【0136】
元素分析の結果、第1層(厚さ:約80nm)には、Ta2O5が含まれており、第2層(厚さ:約10nm)にはAl2O3が含まれていた(T1=8×T2)。
【0137】
《比較例1A》
厚さ150μmのAl箔を用い、エッチング電流(電流密度、周波数)、エッチング時間、エッチング液温を適宜調整してAl箔の両方の表面に下記空隙率を有する厚さ55μmの金属多孔質部を有するエッチング箔(第1電極箔)を得た。金属多孔質部の細孔径ピークは165nmであった。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、それぞれ51%、49%、52%であり、P1<P2<P3を満たさなかった。この陽極体(第1電極箔)を用いたこと以外、実施例1Aと同様に第2電極箔を作製し、同様に評価した。
【0138】
[評価]
得られた第2電極箔について、静電容量およびリーク電流を測定した。リーク電流は、35℃の酸性水溶液中で60分浸漬後に、0.2V/秒のレートで昇圧しながら電圧を印加し、60Vまでに流れる漏れ電流の積算値を測定した。表1に、比較例1Aの結果を100とした場合の実施例1Aの相対値を示す。
【0139】
《実施例1B》
実施例1Aで得られたエッチング箔(第1電極箔)に対し、ALD法による第1層の形成を行わず、化成電圧65Vの化成を行い、Al2O3を含む誘電体層を有する第2電極箔(化成箔)を作製し、同様に評価した。
【0140】
化成処理は、アジピン酸2アンモニウム水溶液(アジピン酸アンモニウム濃度10質量%)に第1電極箔を浸漬し、直流電流を印加し、化成電圧約65Vに到達してから、約10分間の保持を行い、水洗後、300℃で5分、空気中で加熱し、その後、得られた第2電極箔を所定形状に裁断した。
【0141】
《比較例1B》
比較例1Aで得られたエッチング箔(第1電極箔)に対し、ALD法による第1層の形成を行わず、実施例1Bと同様の化成電圧65Vの化成を行い、Al2O3を含む誘電体層を有する第2電極箔(化成箔)を作製し、同様に評価した。
【0142】
表1に、比較例1Bの結果を100とした場合の実施例1Bの相対値を示す。
【0143】
《実施例2》
厚さ120μmのAl箔を用い、エッチング電流(電流密度、周波数)、エッチング時間、エッチング液温を適宜調整してAl箔の両方の表面に下記空隙率を有する厚さ40μmの金属多孔質部を有するエッチング箔(第1電極箔)を得た。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、それぞれ50%、55%および70%であり、P1<P2<P3を満たしていた。また、P2/P1=1.10、P3/P2=1.27であり、P2/P1<P3/P2を満たしていた。この陽極体(第1電極箔)を用いたこと以外、実施例1Aと同様に第2電極箔を作製し、同様に評価した。
【0144】
図8に、実施例2の金属多孔質部における陽極体の表面からの距離と、空隙率(Al残存率)との関係を示す。
【0145】
《実施例3》
実施例2で得られたエッチング箔(第1電極箔)に対し、ALD法による第1層の形成を行わず、実施例1Bと同様の化成電圧65Vの化成を行い、Al2O3を含む誘電体層を有する第2電極箔(化成箔)を作製し、同様に評価した。
【0146】
《比較例2》
厚さ120μmのAl箔を用い、エッチング電流(電流密度、周波数)、エッチング時間、エッチング液温を適宜調整してAl箔の両方の表面に下記空隙率を有する厚さ40μmの金属多孔質部を有するエッチング箔(第1電極箔)を得た。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、それぞれ55%、50%、52%であり、P1<P2<P3を満たさなかった。この陽極体(第1電極箔)を用いたこと以外、実施例3と同様に、ALD法による第1層の形成を行わず、第1電極箔に化成処理のみを施して、第2電極箔を作製し、同様に評価した。
【0147】
図9に、比較例2の金属多孔質部における陽極体の表面からの距離と、空隙率(Al残存率)との関係を示す。
【0148】
表1に、比較例2の結果を100とした場合の実施例2、3の相対値を示す。
【0149】
【0150】
実施例1A、1Bでは、比較例1A、1Bと比較して、静電容量が向上し、漏れ電流は低減した。また、実施例2、3では、実施例2と比較して、静電容量が向上し、漏れ電流が低減した。
【0151】
《実施例4》
厚さ150μmのAl箔を金属箔として準備し、以下のエッチング工程を行った。電流密度は第1電解ステップにおける第1電流密度を100%とするときの相対値で示す。
【0152】
<第1電解ステップ>
Al箔に塩酸水溶液で前処理を行い、その後、塩酸を主成分とするエッチング液中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0153】
電解期間:電流密度100%、5分(
図10のステップ1)
【0154】
<第1洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0155】
<第2電解ステップ>
第1ステップ後のAl箔(第エッチング箔)に、塩酸を主成分とするエッチング液中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0156】
電解期間:電流密度93%、5分(
図10のステップ2)
【0157】
<第2洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0158】
<第3電解ステップ>
第2ステップ後のAl箔(第2エッチング箔)に、塩酸を主成分とするエッチング液(電解液)中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0159】
電解期間:電流密度90.7%、5分(
図10のステップ3)
【0160】
<第3洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
T1=15分
T2=16分
T0=T1+T2=31分
【0161】
上記の結果、Al箔の両方の表面に下記の空隙率を有する厚さ40μmの金属多孔質部を有する第1電極箔を得た。金属多孔質部の細孔径ピークは170nmであった。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、P1<P2<P3、P2/P1<P3/P2を満たしていた。
【0162】
図10には、エッチング工程における電流密度の推移を示すプロットとその近似直線を示す。近似直線の決定係数R
2は0.92である。
【0163】
《実施例5》
厚さ120μmのAl箔を金属箔として準備し、以下のエッチング工程を行った。電流密度は第1電解ステップの第1サブステップにおける第1電流密度を100%とするときの相対値で示す。
【0164】
<第1電解ステップ>
Al箔に塩酸水溶液で前処理を行い、その後、塩酸を主成分とするエッチング液中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0165】
(i)第1サブステップ(
図11のステップ1)
電解期間:電流密度100%、3分
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0166】
(ii)第2サブステップ(
図11のステップ2)
電解期間:電流密度94.8%、3分
【0167】
<第1洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0168】
<第2電解ステップ>
第1電解ステップ後のAl箔(第1エッチング箔)に、塩酸を主成分とするエッチング液(電解液)中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0169】
(i)第1サブステップ(
図11のステップ3)
電解期間:電流密度95.4%、3分
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0170】
(ii)第2サブステップ(
図11のステップ4)
電解期間:電流密度92.3%、3分
【0171】
<第2洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0172】
<第3電解ステップ>
第2電解ステップ後のAl箔(第2エッチング箔)に、塩酸を主成分とするエッチング液中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0173】
(i)第1サブステップ(
図11のステップ5)
電解期間:電流密度93.1%、3分
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0174】
(ii)第2サブステップ(
図11のステップ6)
電解期間:電流密度90.5%、3分
【0175】
<第3洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
T1=18分
T2=40分
T0=T1+T2=58分
【0176】
上記の結果、Al箔の両方の表面に下記の空隙率を有する厚さ40μmの金属多孔質部を有する第1電極箔を得た。金属多孔質部の細孔径ピークは170nmであった。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、それぞれ50%、55%、70%であり、P1<P2<P3であった。また、P2/P1=1.1.10、P3/P2=1.27であり、P2/P1<P3/P2を満たしていた。
【0177】
図11には、エッチング工程における電流密度の推移を示すプロットとその近似直線を示す。近似直線の決定係数R
2は0.82である。
【0178】
《実施例6》
厚さ150μmのAl箔を金属箔として準備し、以下のエッチング工程を行った。電流密度は第1ステップの第1サブステップにおける第1電流密度を100%とするときの相対値で示す。
【0179】
<第1電解ステップ>
Al箔に塩酸水溶液で前処理を行い、その後、塩酸を主成分とするエッチング液中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0180】
(i)第1サブステップ(
図12のステップ1)
電解期間:電流密度100%、3分
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0181】
(ii)第2サブステップ(
図12のステップ2)
電解期間:電流密度94.8%、3分
【0182】
<第1洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0183】
<第2電解ステップ>
第1電解ステップ後のAl箔(第1エッチング箔)に、塩酸を主成分とするエッチング液中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0184】
(i)第1サブステップ(
図12のステップ3)
電解期間:電流密度95.4%、3分
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0185】
(ii)第2サブステップ(
図12のステップ4)
電解期間:電流密度92.3%、3分
【0186】
<第2洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0187】
<第3電解ステップ>
第2電解ステップ後のAl箔(第2エッチング箔)に、塩酸を主成分とするエッチング液(電解液)中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0188】
(i)第1サブステップ(
図12のステップ5)
電解期間:電流密度93.1%、3分
無電解期間:8分の純水による洗浄
【0189】
(ii)第2サブステップ(
図12のステップ6)
電解期間:電流密度90.5%、3分
【0190】
<第3洗浄ステップ>
無電解期間:8分の純水による洗浄
T1=18分
T2=40分
T0=T1+T2=58分
【0191】
上記の結果、Al箔の両方の表面に下記の空隙率を有する厚さ55μmの金属多孔質部を有する第1電極箔を得た。金属多孔質部の細孔径ピークは170nmであった。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、それぞれ55%、62%、75%であり、P1<P2<P3であった。また、P2/P1=1.13、P3/P2=1.21であり、P2/P1<P3/P2を満たしていた。
【0192】
図12には、エッチング工程における電流密度の推移を示すプロットとその近似曲線を示す。近似曲線の決定係数R
2は0.96である。
【0193】
《実施例7》
厚さ150μmのAl箔を準備し、以下の9サブステップを有するエッチング工程を1つの電解槽内で行った。電流密度は第1サブステップにおける第1電流密度を100%とするときの相対値で示す。
【0194】
Al箔に塩酸水溶液で前処理を行い、その後、塩酸を主成分とするエッチング液(電解液)中で、以下のプロファイルの交流電流を印加した。
【0195】
(i)第1サブステップ(
図13のステップ1)
電解期間:電流密度100%、3分
無電解期間:8分
【0196】
(ii)第2サブステップ(
図13のステップ2)
電解期間:電流密度93.4%、3分
無電解期間:8分
【0197】
(iii)第3サブステップ(
図13のステップ3)
電解期間:電流密度95.8%、3分
無電解期間:8分
【0198】
(iv)第4サブステップ(
図13のステップ4)
電解期間:電流密度88.2%、3分
無電解期間:8分
【0199】
(v)第5サブステップ(
図13のステップ5)
電解期間:電流密度87.2%、3分
T1=15分
T2=32分
T0=T1+T2=47分
【0200】
上記の結果、Al箔の両方の表面に下記の空隙率を有する厚さ40μmの金属多孔質部を有する第1電極箔を得た。金属多孔質部の細孔径ピークは170nmであった。第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、P1<P2<P3、P2/P1<P3/P2を満たしていた。
【0201】
図13には、エッチング工程における電流密度の推移を示すプロットとその近似直線を示す。近似直線の決定係数R
2は0.83である。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明によれば、例えば、金属多孔質部の深部にまで誘電体層を形成し得るため、電解コンデンサの性能を向上させ得る。
【0203】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0204】
10:陽極箔、20:陰極箔、30:セパレータ、40:巻止めテープ、50A、50B:リードタブ、60A、60B:リード線、100:捲回体、110:陽極体、111:金属芯部、112:金属多孔質部、120:誘電体層、121:第1層、122:第2層、200:電解コンデンサ、211:有底ケース、212:封止部材、213:座板