IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

特許7442100記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置
<>
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図1
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図2
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図3
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図4
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図5
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図6
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図7
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図8
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図9
  • 特許-記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 7/0045 20060101AFI20240226BHJP
   G11B 20/10 20060101ALI20240226BHJP
   G11B 20/18 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
G11B7/0045 B
G11B20/10 301Z
G11B20/18 522B
G11B20/18 572C
G11B20/18 572F
G11B20/18 501C
G11B20/18 534A
G11B20/18 570F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021511161
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003817
(87)【国際公開番号】W WO2020202765
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019066587
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖史
(72)【発明者】
【氏名】中田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】日野 泰守
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-310922(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126330(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/124313(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/107399(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 7/0045
G11B 20/10
G11B 20/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に情報記録を行う記録媒体における記録状態評価方法であって、
所定の記録信号によって前記記録媒体に記録マークを形成するステップと、
前記記録媒体に形成された記録マークの再生信号を得るステップと、
前記記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成するステップと、
前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差に基づき、前記記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する前記再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、前記記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定するステップと、
を有
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記記録マークのマーク形状を表すパラメータであるマークレベルを定義し、前記記録信号のレベルをずらしたときの期待値信号と前記再生信号との振幅誤差が所定値以下となるマークレベルを求め、このときのマークレベルと理想的な記録マークのマークレベルとの差分によって、前記記録マークのマーク形状のずれ量を算出する、
記録状態評価方法。
【請求項2】
光学的に情報記録を行う記録媒体における記録状態評価方法であって、
所定の記録信号によって前記記録媒体に記録マークを形成するステップと、
前記記録媒体に形成された記録マークの再生信号を得るステップと、
前記記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成するステップと、
前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差に基づき、前記記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する前記再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、前記記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定するステップと、
を有
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記記録マークのマーク形状のずれ量を示すパラメータとして所定要素数のレベル推定ベクトルを定義し、前記記録信号の所定単位毎にレベルシフトさせるレベル推定ベクトルを用いて、前記記録信号のレベルをずらしたときの前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差を求め、前記振幅誤差に基づいて理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルを算出する、
記録状態評価方法。
【請求項3】
請求項に記載の記録状態評価方法であって、
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記レベル推定ベクトルは、記録に使用される所定の記録信号のパターンの数Nに応じた要素数を有するものとし、
前記パターンに対応するレベル推定ベクトルの要素について所定量レベルシフトさせ、前記記録信号に前記レベルシフトさせたレベル推定ベクトルを加算してレベルシフト時の期待値信号を算出し、再生信号との振幅誤差を求める、記録状態評価方法。
【請求項4】
請求項に記載の記録状態評価方法であって、
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記レベル推定ベクトルは、初期値を全要素0とし、
i番目(iは1~Nの整数)の前記パターンに対応するレベル推定ベクトルの要素について、正方向と負方向にそれぞれ所定量レベルシフトさせ、前記記録信号に前記レベルシフトさせたレベル推定ベクトルを加算して正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の期待値信号を算出し、前記正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の再生信号との振幅誤差を求め、正負両方向のレベルシフトによる振幅誤差の差分を求めることにより、振幅誤差変化の傾きを示すN個の要素の振幅誤差感度を算出し、
前記N個の要素の振幅誤差感度が所定値以下となるときのレベル推定ベクトルを前記理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルとして出力する、記録状態評価方法。
【請求項5】
請求項に記載の記録状態評価方法であって、
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記N個の要素の振幅誤差感度が所定値より大きい場合、前記振幅誤差感度に所定の更新係数を乗算して現在のレベル推定ベクトルに加えてレベル推定ベクトルを更新し、前記N個の要素の振幅誤差感度が所定値以下となるまで前記正負両方向にレベルシフトさせた場合の振幅誤差感度の算出を繰り返し実行する、記録状態評価方法。
【請求項6】
光学的に情報記録を行う記録媒体における記録状態評価方法であって、
前記記録媒体に、所定の2種類以上のレベル値の信号系列である長さLの第1の記録信号を生成し、前記第1の記録信号に相当する複数種類の異なる第1の記録マークを形成する記録ステップと、
前記記録媒体に形成された前記第1の記録マークの再生信号を得る再生ステップと、
前記再生信号が、前記第1の記録信号と所定のインパルス応答との畳み込み演算により得られる第1の期待値と等しくなる記録状態を第2の記録マークとし、前記第1の記録マークと前記第2の記録マークとのマーク形状のずれ量を、前記2種類以上のレベル値の信号系列である長さM(MはLより小さい)のN種類の配列パターン別で表した第1のレベル推定ベクトルを算出するマークレベル推定ステップと、
を含み、
前記マークレベル推定ステップは、
前記第1のレベル推定ベクトルのi番目(iは1~Nの整数)の配列パターンについて、正方向と負方向にそれぞれレベルを所定量Δシフトさせるレベルシフトステップと、
前記第1の記録信号に前記正方向にレベルシフトさせた第2のレベル推定ベクトルを加算して、所定の長さLの第2の記録信号を生成し、同様に負方向にレベルシフトさせた第3のレベル推定ベクトルを加算して、所定の長さLの第3の記録信号を生成する記録信号生成ステップと、
前記第2の記録信号、前記第3の記録信号と、前記インパルス応答とをそれぞれ畳み込むことにより、第2の期待値信号、第3の期待値信号を生成する期待値生成ステップと、
前記第2の期待値信号、前記第3の期待値信号と、各期待値信号に相当する前記再生信号とのそれぞれの誤差を二乗して長さLで積分することにより、第2の二乗誤差、第3の二乗誤差を算出する二乗誤差算出ステップと、
前記第2の二乗誤差と前記第3の二乗誤差との差を求めることにより、i番目の配列パターンにおける誤差感度を算出し、i=1~Nの配列パターンの全パターンの誤差感度を算出する誤差感度算出ステップと、
前記全パターンの誤差感度において、所定の閾値を超えるパターンがあるか判定を行う閾値判定ステップと、
前記閾値判定ステップにおいて所定の閾値を超えるパターンがあった場合、前記全パターンの振幅誤差感度に乗算後の絶対値が0.5以下となるような所定の係数kを掛けて前記第1のレベル推定ベクトルに加算し、前記第1のレベル推定ベクトルを更新した後、前記レベルシフトステップに戻るレベル推定ベクトル更新ステップと、
を含み、
前記マークレベル推定ステップにおいて、前記第1のレベル推定ベクトルの初期値を全要素0とし、前記全パターンの誤差感度が所定の閾値以下になるまで繰り返し処理を行うことにより、前記記録媒体に記録された前記第1の記録マークと前記第2の記録マークとのマーク形状のずれ量を推定する、記録状態評価方法。
【請求項7】
請求項に記載の記録状態評価方法であって、
前記レベルシフトステップにおけるレベルシフトの所定量Δは、0.3以下である、記録状態評価方法。
【請求項8】
記録媒体に対して光学的に情報記録を行う情報記録再生装置における記録補償方法であって、
所定の記録信号によって前記記録媒体に記録マークを形成するステップと、
前記記録媒体に形成された記録マークの再生信号を得るステップと、
前記記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成するステップと、
前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差に基づき、前記記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する前記再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、前記記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定するステップと、
前記記録マークのマーク形状のずれ量に基づき、前記記録信号の所定単位毎に補正量を算出し、前記記録信号のレベルを調整するステップと、
を有する、記録補償方法。
【請求項9】
請求項に記載の記録補償方法であって、
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記記録マークのマーク形状を表すパラメータであるマークレベルを定義し、前記記録信号のレベルをずらしたときの期待値信号と前記再生信号との振幅誤差が所定値以下となるマークレベルを求め、このときのマークレベルと理想的な記録マークのマークレベルとの差分によって、前記記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、
前記記録信号のレベルを調整するステップにおいて、
前記理想的な記録マークのマークレベルとの差分に基づいて補正量を算出し、前記記録信号のレベルを調整する、記録補償方法。
【請求項10】
請求項に記載の記録補償方法であって、
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記記録マークのマーク形状のずれ量を示すパラメータとして所定要素数のレベル推定ベクトルを定義し、前記記録信号の所定単位毎にレベルシフトさせるレベル推定ベクトルを用いて、前記記録信号のレベルをずらしたときの前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差を求め、前記振幅誤差に基づいて理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルを算出し、
前記記録信号のレベルを調整するステップにおいて、
前記理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルに基づいて補正量を算出し、前記記録信号のレベルを調整する、記録補償方法。
【請求項11】
請求項10に記載の記録補償方法であって、
前記記録信号のレベルを調整するステップにおいて、
前記算出したレベル推定ベクトルが所定値より大きい場合、前記レベル推定ベクトルを現在の記録信号に加えて記録信号を更新し、更新した記録信号によって算出したレベル推定ベクトルが所定値以下となるまでレベル推定ベクトルの算出を繰り返し実行する、記録補償方法。
【請求項12】
請求項10に記載の記録補償方法であって、
前記マーク形状を推定するステップにおいて、
前記レベル推定ベクトルは、記録に使用される所定の記録信号のパターンの数Nに応じた要素数を有し、初期値を全要素0とし、
i番目(iは1~Nの整数)の前記パターンに対応するレベル推定ベクトルの要素について、正方向と負方向にそれぞれ所定量レベルシフトさせ、前記記録信号に前記レベルシフトさせたレベル推定ベクトルを加算して正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の期待値信号を算出し、前記正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の再生信号との振幅誤差を求め、正負両方向のレベルシフトによる振幅誤差の差分を求めることにより、振幅誤差変化の傾きを示すN個の要素の振幅誤差感度を算出し、
前記N個の要素の振幅誤差感度が所定値以下となるときのレベル推定ベクトルを前記理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルとして出力し、
前記記録信号のレベルを調整するステップにおいて、
前記算出したレベル推定ベクトルが所定値より大きい場合、前記レベル推定ベクトルを現在の記録信号に加えて記録信号を更新し、更新した記録信号によって算出したレベル推定ベクトルが所定値以下となるまでレベル推定ベクトルの算出を繰り返し実行する、記録補償方法。
【請求項13】
記録媒体に対して光学的に情報記録を行う情報記録再生装置であって、
所定の記録信号によって前記記録媒体に記録マークを形成する記録部と、
前記記録媒体に形成された記録マークの再生信号を得る再生部と、
前記記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成する期待値信号生成部と、
前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差に基づき、前記記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する前記再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、前記記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定する記録状態評価部と、
を有する、情報記録再生装置。
【請求項14】
請求項13に記載の情報記録再生装置であって、
前記記録マークのマーク形状のずれ量に基づき、前記記録信号の所定単位毎に補正量を算出し、前記記録信号のレベルを調整する記録補償部を有する、情報記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、記録媒体に対して光学的に情報記録を行う際の記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学的に情報記録を行う記録媒体として、光ディスクではBD-R、BD-RE、DVDーRAM、DVD-R、DVD-RW、CD-RW規格などがあり、これらの規格に準じた記録媒体にレーザ光を照射して情報を追記又は書換えによって記録する技術がある。また、最近では、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)よりもさらに高密度化を図った光ディスクに記録を行う技術が検討されている。BDは、片面単層で約25GB、片面2層で約50GBの記録容量を有する高密度光ディスクである。さらに、BDに対し、チャンネルビット長すなわちマーク長を短くし、線密度方向に高密度化を図り、3層で100GB及び4層で128GBの大容量化を実現したBDXL(登録商標)が実用化されている。
【0003】
BD或いはこれより高密度の記録媒体は、重要なデータを信頼性の高いシステムによって長期的に保存するデータ保管装置にも使用されている。データ保管装置は、より多くのデータを保存できるように、さらなる高密度化が必要とされている。
【0004】
光ディスク等の記録媒体は、記録媒体の記録層に形成した記録マーク及びスペースによって、情報の記録が行われる。記録媒体への記録を行う場合、記録する情報に基づいて強度変調した所定のパルス形状の記録用レーザ光(「記録パルス」と適宜称する)を記録媒体の記録層に照射し、記録層における物理状態の変化を生じさせて記録マークを形成することにより、情報を記録する。記録媒体の再生を行う場合、記録層に形成された記録マーク及びスペースに対して、出力パワーの低い再生用レーザ光を照射し、記録マーク及びスペースの光学特性、例えば反射率の変化を検出することにより、再生信号を得る。再生信号を信号処理することによって、記録された情報が再生される。
【0005】
記録媒体に対する記録再生を行う情報記録再生装置では、記録された記録マークを再生した再生信号のエラーが少なくなるように、記録マークにおける始端、及び終端のエッジ位置を調整する記録補償を行っている。
【0006】
記録補償は、特に、記録マーク間のスペースの長さが短い記録密度において必要とされる。記録マーク間のスペースの長さが短い記録密度では、記録マークを形成した際の熱がスペース部分で十分に低下せず、後方の記録マークの始端エッジにおける温度上昇に影響を与える。逆に、後方の記録マークの始端の熱が、前方の記録マークの終端エッジにおける熱の冷却に影響を与える。これらの影響は熱干渉と呼ばれ、熱干渉はスペースの長さに依存する。熱干渉によって変動する記録マークのエッジ位置を補正するために、スペースの長さに応じて記録パルスのパルス形状を微調整する記録補償を行う。
【0007】
また、記録マーク及びスペースの長さを短くすると、再生信号の振幅は小さくなり、さらに、記録マーク及びスペースの組合せにより再生信号に差が生じる。例えば、同じ記録マーク長においても、前後のスペース長の違いにより、特に記録マークのエッジ部における再生信号が異なって検出される。この記録マーク及びスペースの組合せによる再生信号のずれの要因は符号間干渉と呼ばれる。このため、再生信号処理方法として、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)等の最尤復号方法(「PRML方式」と適宜称する)を適用することが有効とされている。PRML方式を用いて再生信号を波形等化して、符号間干渉の影響を軽減することにより、記録補償はより精度良く行うことができる。
【0008】
記録密度をさらに高密度にして記録するためには、最短の記録マーク及びスペースの長さをより短くし、なおかつ、記録マーク長の差に対する物理的な長さ間隔を短くする必要がある。このとき、レーザ光のスポット内に含まれる記録マークが複数存在することになり、各記録マークのエッジ部のエッジシフトが干渉して再生される。記録密度の高密度化によって、記録マーク及び記録マーク間のスペースの物理的な長さがそれぞれ短くなると、符号間干渉する他のエッジのずれが、より多く存在する。また、前方の記録マークとのスペースの長さも短くなるため、熱干渉の影響も大きくなる。
【0009】
記録密度の高密度化に伴い、符号間干渉及び熱干渉の影響がより大きくなるのに対して、目標となる期待値信号との誤差の少ない再生信号を得るため、様々な記録補償方法が検討されてきている。例えば、特許文献1には、PRML方式によって記録又は再生を行う光ディスク装置において、記録補償を行うための、記録マークのエッジ位置のずれであるエッジシフトの検出方法の一例が開示されている。
【0010】
特許文献1では、再生信号をPRML方式により復号した最尤ビット列における記録マークのエッジに着目し、エッジ部において最尤ビット列のビットがシフト、もしくはエッジ部を含む記録マーク全体として最尤ビット列のビットがシフトする最も誤りやすいビット列である、誤りビット列を生成する。そして、最尤ビット列、及び誤りビット列に対応した各目標信号と再生信号とのユークリッド距離の差に基づいて、エッジシフトを評価する。これにより、BDで約31GBの記録密度における記録補償は、記録補償の対象とする記録マークである自マークのエッジ部における再生信号、或いは、記録マークと隣接するスペース長の範囲までの再生信号を用いて、エッジ部のエッジシフトを直接検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】日本国特開2011-023069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の記録補償では、いずれの記録補償においても、期待値信号と再生信号との誤差を、記録マークのエッジシフトという要因のみで定義していた。近年の光学分解能を大きく上回る高密度記録や多値記録では、記録マークのエッジの位置ずれだけでなく、マーク幅方向の拡がりや濃淡もマークパターンによって大きく異なることがある。このため、高密度化を図る場合に、エッジシフトのみでは所望の再生信号の品質を満足するだけの記録補償性能が得られないという課題があった。
【0013】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、従来よりも優れた記録補償性能を獲得し、高い再生性能を得ることが可能な記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、光学的に情報記録を行う記録媒体における記録状態評価方法であって、所定の記録信号によって前記記録媒体に記録マークを形成するステップと、前記記録媒体に形成された記録マークの再生信号を得るステップと、前記記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成するステップと、前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差に基づき、前記記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する前記再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、前記記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定するステップと、を有する、記録状態評価方法を提供する。
【0015】
また、本開示は、記録媒体に対して光学的に情報記録を行う情報記録再生装置における記録補償方法であって、所定の記録信号によって前記記録媒体に記録マークを形成するステップと、前記記録媒体に形成された記録マークの再生信号を得るステップと、前記記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成するステップと、前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差に基づき、前記記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する前記再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、前記記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定するステップと、前記記録マークのマーク形状のずれ量に基づき、前記記録信号の所定単位毎に補正量を算出し、前記記録信号のレベルを調整するステップと、を有する、記録補償方法を提供する。
【0016】
また、本開示は、記録媒体に対して光学的に情報記録を行う情報記録再生装置であって、所定の記録信号によって前記記録媒体に記録マークを形成する記録部と、前記記録媒体に形成された記録マークの再生信号を得る再生部と、前記記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成する期待値信号生成部と、前記再生信号と前記期待値信号との振幅誤差に基づき、前記記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する前記再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、前記記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定する記録状態評価部と、を有する、情報記録再生装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、従来よりも優れた記録補償性能を獲得し、高い再生性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態における情報記録再生装置の構成の一例を示すブロック図
図2】情報記録再生装置による情報記録を行う際の記録パルス波形及び記録パワーの一例を説明する図
図3】実施の形態における記録マークに対する再生信号、理想信号、及び記録マークのマークレベルを説明する図
図4】実施の形態におけるマーク形状推定の際の再生信号の振幅誤差、理想マーク及び推定マークのマークレベルの一例を示す図
図5】実施の形態におけるマーク形状推定結果に基づく記録補償の一例を示す図
図6】実施の形態におけるマーク形状推定を用いた記録補償処理の手順の一例を示すフローチャート
図7】実施の形態におけるマーク形状推定アルゴリズムの手順の一例を示すフローチャート
図8】マーク形状推定アルゴリズムにおいて用いる記録マークのパターンの一例を示す図
図9】マーク形状推定アルゴリズムにおいて着目するチャネルビットをレベルシフトさせた記録信号の一例を示す図
図10】マーク形状推定アルゴリズムにおける振幅誤差感度及びレベル推定ベクトルの更新について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る構成を具体的に開示した各実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0020】
本実施の形態では、本開示に係る記録状態評価方法及び記録補償方法を説明するために、情報記録再生装置の一例として光ディスク装置を例示する。
【0021】
なお、本実施の形態では、BD、BDXL(登録商標)等の光ディスク装置における光学分解能を超える高密度記録について説明を行う。そのため、実施の形態の記録媒体は、光学分解能を超える高密度記録を行う記録媒体となる。光学分解能を超える記録密度は、レーザ光の波長λ、開口数NAで決定され、最短マーク及びスペースの長さLがλ/(4×NA)以下となる場合である。BDシステムの場合、一般的にλ=405nm、NA=0.85であるため、長さLは約119.1nmとなる。記録媒体の構造をBDと同じとした場合、記録密度は約31GBに相当する。よって、光学分解能を超える記録密度は約31GB以上であるが、本開示は、約31GB以上の記録密度に限定されず、光学分解能以下の記録密度にも適用可能である。
【0022】
また、実施の形態における変調符号は、RLL(1,7)符号等のRLL符号(Run Length Limited encoding code)を用いる。このとき、変調符号の最短ラン長は2T、最長ラン長は8Tとして説明を行う。そのため、最短マーク及びスペースである2Tの長さが約119.1nm以下となる。
【0023】
本明細書では、ある位置を起点として、記録媒体である光ディスクの回転によって光ビームスポットが光ディスク上を進行する方向を、その位置の「後」といい、その位置を起点としてその反対方向を「前」という。
【0024】
図1は、実施の形態における情報記録再生装置の構成の一例を示すブロック図である。情報記録再生装置100は、再生部101、記録補償部102、記録部103を備える。
【0025】
再生部101は、プリアンプ部3、AGC部4、アナログイコライザ部5、A/D(Analog/Digital)変換部6、PLL部7を有して構成される。
【0026】
記録補償部102は、デジタルイコライザ部8、復号部9、信号差検出部10、情報記録制御部15を有して構成される。
【0027】
記録部103は、光ヘッド2、記録パターン発生部11、記録パルス生成部12、レーザ駆動部13、記録パワー設定部14を有して構成される。
【0028】
情報記録再生装置100は、記録媒体1に情報を記録し、再生する。記録媒体1は、光学的に情報の記録再生が行われる記録媒体であり、例えば光ディスクである。
【0029】
光ヘッド2は、図示しない対物レンズを通過したレーザ光を記録媒体1の記録層に収束させ、その反射光を受光して、記録媒体1に記録された情報を示す再生信号を生成する。例えば、対物レンズの開口数NAは0.84から0.86であり、より好ましくは0.85である。レーザ光の波長は400nmから410nmであり、より好ましくは405nmである。
【0030】
プリアンプ部3は、再生信号を所定のゲインで増幅してAGC部4へ出力する。AGC部4は、あらかじめ設定された目標のゲインを用いて、A/D変換部6から出力される再生信号のレベルが一定のレベルとなるように再生信号を増幅してアナログイコライザ部5へ出力する。アナログイコライザ部5は、再生信号の高域を遮断するLPF(Low-Pass Filter)特性と、再生信号の所定の周波数帯域を増幅するフィルタ特性を有しており、再生波形を所望の特性に波形等化させてA/D変換部6へ出力する。
【0031】
PLL部7は、波形等化後の再生信号に同期する再生クロックを生成してA/D変換部6へ出力する。A/D変換部6は、PLL部7から出力される再生クロックに同期して再生信号をサンプリングしてアナログ信号をデジタル信号へ変換し、PLL部7及びデジタルイコライザ部8へ出力する。
【0032】
デジタルイコライザ部8は、記録時および再生時の再生信号の周波数特性が、あらかじめ設定されている周波数特性、例えば、記録密度に応じたMTF(Modulation Transfer Function)特性、PR等化特性など、になるように再生信号の周波数を調整する。復号部9は、デジタルイコライザ部8から出力された波形等化された再生信号を復号し、2値化信号を生成する。復号部9は、例えばビタビアルゴリズムを用いた復号、BCJR(Bahl-Cocke-Jelinek-Raviv)アルゴリズムを用いた復号などである。
【0033】
信号差検出部10は、デジタルイコライザ部8から出力された波形等化された再生信号と、復号部9から出力された2値化信号とを受け取る。信号差検出部10は、2値化信号と、デジタルイコライザ部8の波形等化で目標とした周波数特性から期待値信号を生成する。信号差検出部10は、再生信号と、期待値信号との信号差を検出する。
【0034】
情報記録制御部15は、記録パルス条件を調整するために、再生部101、記録補償部102、記録部103、図示しないサーボ制御部など情報記録再生装置における各部を制御する。また、情報記録制御部15は、記録パルス条件の調整時において、記録パターンの選択及び記録再生動作を制御する。
【0035】
情報記録制御部15は、光ヘッド2の光学条件である、レーザ光の波長、開口数NA、で決定される光学分解能を超えた記録密度である記録マークまたはスペースを少なくとも1つ以上含む記録データを記録媒体1に記録するように、記録部103を制御する。例えば、レーザ光の波長を405nm、開口数NAを0.85とした場合、最短マークまたは最短スペースの長さは119.1nm未満となる。
【0036】
また、情報記録制御部15は、設定した記録マークの長さに応じた最適な等化特性、例えば、PR等化特性、をデジタルイコライザ部8に対して設定する。
【0037】
情報記録制御部15は、信号差検出部10から出力された信号差を受け取る。情報記録制御部15は、記録媒体1に対して、複数の記録条件で記録データの記録再生動作を行う。さらに情報記録制御部15は、各記録条件に対して測定される信号差と、情報記録制御部15の内部に記憶されている目標値とを比較し、目標値に最も近い記録条件を判断する。目標値は例えば0である。情報記録制御部15は、例えば光ディスク装置のコントローラである。
【0038】
記録パターン発生部11は、入力された記録データから記録パターンとなるNRZI(Non Return to Zero Inverting)信号を生成する。記録パルス生成部12は、情報記録制御部15で変更される記録パラメータをもとに、NRZI信号に従って記録パルス列を生成する。
【0039】
記録パワー設定部14は、ピークパワーPp、ボトムパワーPbなど各記録パワー設定を行う。レーザ駆動部13は、記録パルス生成部12で生成された記録パルス列及び記録パワー設定部14で設定される記録パワーに従って、光ヘッド2のレーザ発光動作を制御する。
【0040】
図2は、情報記録再生装置による情報記録を行う際の記録パルス波形及び記録パワーの一例を説明する図である。
【0041】
図2において、上からクロック信号、NRZI信号、マルチパス列の記録パルス、記録マークを示している。
【0042】
クロック信号は、記録データ作成時の基準信号となるチャネルクロックの周期Tw(チャネルビットとも適宜称する)であり、周期Twにより、記録信号であるNRZI信号の記録マーク及びスペースの時間間隔が決定される。NRZI信号は、部分的な一例として、2Tマーク-2Tスペース-4Tマークの記録パターンを示している。
【0043】
マルチパルス列は、記録マークを形成するためのレーザ光のマルチパルス列である。マルチパルス列の記録パワーPwは、記録マークの形成に必要となる加熱効果のあるピークパワーPp301、冷却効果のあるボトムパワーPb302及びクーリングパワーPc303と、スペース部における記録パワーであるスペースパワーPs304により構成される。ピークパワーPp301、ボトムパワーPb302、クーリングパワーPc303及びスペースパワーPs304は、レーザ光の消光時に検出される消光レベル305を基準レベルに対して設定される。各記録パワーのレベルは、記録マーク長に応じてそれぞれ設定されても良い。
【0044】
パルス幅に関して、先頭のパルス幅Ttopは2T、3T、4T及び5T以上の記録信号において各々設定される。3T以上のマルチパルス列に存在するTtop以降のパルス幅Tmpは同一設定とし、最終のパルス幅Tmpはラストパルス幅Tlpとして設定される。ラストパルス幅Tlpは、3T、4T及び5T以上の記録信号において各々設定される。また、各記録マーク長において、記録マークの始端位置を調整するための記録開始位置オフセットdTtop、終端位置を調整するための記録終了位置オフセットdTsが設定される。
【0045】
本開示では、記録媒体に形成される記録マークの形状を表すパラメータとしてマークレベルを定義し、このマークレベルを用いて理想的な記録マークに対するマーク形状のずれ量を算出することによってマーク形状を推定し、記録状態の評価を行う技術を例示する。マーク形状の推定は記録信号の所定単位毎に実行し、例えば1チャネルビット(1T)単位で行う。本開示では、光ビームスポット径に比べて十分小さなマークを記録又は再生する際に生じる光学的な符号間干渉或いは熱干渉を低減するために、推定したマーク形状に応じて記録信号のレベルを調整する記録補償を行い、最適な記録条件で書き込みを行う技術を例示する。
【0046】
実施の形態では、記録媒体の記録層において、振幅誤差の無い理想的な再生信号(「理想信号」と適宜称する)が得られる理想的な記録マーク(「理想マーク」と適宜称する)を形成するために、推定したマーク形状に基づく記録信号の補正量を算出する。この記録信号の補正量は、理想マークに対するマーク形状のずれ量、すなわちマークレベルの差分に対応する。例えば、マーク形状のずれ量として、後述するレベル推定ベクトルLvを算出する。そして、記録信号の補正量に対応する記録パルスの記録パラメータの調整量の情報を、記録条件の設定テーブル等によって保持し、記録パルスのレベルを所定期間において調整する記録補償を行う。例えば、1T単位のマーク形状の推定結果に基づく記録信号の補正量に応じて、記録パルスの先頭及び/又は末尾の記録パワーを最適な記録条件に調整する。なお、記録パルスの記録パラメータは、レベル及びエッジシフトに関するパラメータとして記録補償を行ってもよい。この場合、記録パラメータは、記録パルスの先頭及び末尾のパワー補正量、エッジシフトのオフセット(Ttop、dTtopなど)に相当し、各パラメータを調整することにより、記録補償を行う。
【0047】
このように、本実施の形態における記録補償では、マーク形状の推定によって得られた理想マークからのずれ量に応じて、記録パルスのレベルに関するパラメータ(各種の記録パワー、パルス幅、エッジシフト量などのパワー、時間のパラメータ)を調整する。これにより、記録媒体に照射するレーザ光の熱量が調整され、理想信号に近い再生信号が得られる適切な形状の記録マークが形成される。
【0048】
記録パルスの記録パワーの各値、パワー補正量、パルス幅などの記録パラメータである記録条件は、記録媒体の内部に記録して保持し、記録時に読み出して利用する。なお、記録条件は情報記録再生装置において保持してもよい。この場合、情報記録再生装置は、記録媒体のID等の固有情報を取得し、装置内の記憶部に記憶している記録条件の中から記録媒体の固有情報に対する記録条件を読み出して利用すればよい。
【0049】
従って、記録媒体の内部または情報記録再生装置内に記載された記録パルスの記録条件を再現し、記録媒体の記録層に記録用レーザ光を照射することによって、図2に示すような記録マークを形成できる。
【0050】
なお、記録パルス形状としては、図2のマルチパルス列の波形以外にも、モノパルス波形、L型パルス波形、Castle型パルス波形などの各種の記録パルス形状が存在する。それぞれの記録パルス波形は、情報記録媒体の記録層で蓄積される熱量がそれぞれ異なる。そのため、最適な記録マークを形成するために、記録層の膜特性に応じた記録パルス形状が選択される。
【0051】
図3は、実施の形態における記録マークに対する再生信号、理想信号、及び記録マークのマークレベルを説明する図である。図3において、下段は記録信号Sに対応する記録マークのマークレベルMLの一例を示し、横軸に時間をとり、縦軸にマークレベルをとって記録マークのマークレベルの時間特性を表している。上段は、下段の記録マークを形成する記録信号に対応する理想信号Idealと、この記録マークを再生した再生信号Readの一例を示し、横軸に時間をとり、縦軸に振幅をとって両信号の時間特性を表している。
【0052】
図3では、記録マークとして4Tマーク-8Tスペース-2Tマーク-3Tスペース-3Tマーク-1Tスペース…を記録媒体に記録する場合を例示している。マークレベルは、記録マークのマーク形状を表すパラメータであり、物理量としては、マークの幅、深さ、濃度などが相当し、再生用レーザ光の反射率と相関を有するパラメータである。本開示では、一次元のパラメータでマークレベルを定義するが、マークレベルは記録層に形成された記録マークの形状に関するマークの幅、深さ等の複数の物理量に起因する記録状態を表すパラメータである。再生信号Readは、記録信号に対応して記録媒体に記録された記録マークを、情報記録再生装置により再生して得られる信号である。
【0053】
理想信号Idealは、記録マークの記録信号に対して情報記録再生装置の光学系の伝達関数であるOTF(Optical Transfer Function)を畳み込んで得られる信号であり、理想的な再生信号、すなわち再生信号の期待値信号に相当する。OTFは、情報記録再生装置の光学系における所定のインパルス応答に相当する。ここで、記録信号をSとすると、理想信号Idealは以下の(1)式で求められる。
Ideal=OTF*S …(1)
ここで、*は畳み込み(コンボリューション)を表す演算子である。
【0054】
従来の記録補償では、記録信号に関するエッジシフトを実施し、期待値信号との誤差ができるだけ小さくなる再生信号が得られるようにしていた。記録密度の高密度化に伴い、エッジシフトのみでは十分な再生信号の品質を得られない場合がある。実際の記録マークでは、エッジの位置ずれだけでなく、マーク幅方向の拡がりや濃淡もマークパターンによって大きく異なるため、エッジシフトのみでの再生信号の振幅誤差抑制には限界がある。このため、本実施の形態では、再生信号の振幅誤差を理想マークのマーク形状からの差分ととらえ、理想マークに対する記録マークのマーク形状のずれ量(マークレベルの差分)の算出によってマーク形状を推定し、記録状態の評価を行う。このとき算出したマーク形状のずれ量を記録信号の補正量として用いる。マーク形状のずれ量は、期待値信号と再生信号との誤差がゼロ、或いは所定の閾値以下になる場合のマークレベルと、現在の記録マークのマークレベルとの差分に相当する。そして、マーク形状の推定結果に基づき、算出したマーク形状のずれ量に応じて記録信号のレベルを調整する記録補償を行う。実際には、マーク形状のずれ量に応じて、記録パルスの所定時間単位ごとのレベル(記録パワー)、エッジのオフセットなどを調整する記録補償を行う。
【0055】
図4は、実施の形態におけるマーク形状推定の際の再生信号の振幅誤差、理想マーク及び推定マークのマークレベルの一例を示す図である。図4において、中段は記録マークの理想マークのマークレベルMLi及び推定マークのマークレベルMLeの一例を示し、横軸に時間をとり、縦軸にマークレベルをとって各マークのマークレベルの時間特性を表している。上段は、中段の記録マークに対応する再生信号の理想信号に対する振幅誤差Errorの一例を示し、横軸に時間をとり、縦軸に振幅をとって振幅誤差の時間特性を表している。図4の上段に示した振幅誤差は、図3の上段の再生信号と理想信号との差分に相当する。下段は、中段の記録マークの理想マークと推定マークにそれぞれ対応するマーク形状を模式的に示しており、破線が理想マークMKi、ドットの集合が推定マークMKeを表している。
【0056】
再生信号の振幅誤差Errorは、以下の(2)式に示すように、再生信号から理想信号を減算して差分をとることによって算出することができる。
Error=Read-Ideal …(2)
【0057】
理想マークは、理想的な記録マークのマークレベルMLiに相当し、理想信号に対応する記録マークのマークレベル、すなわち図3に示した記録マークのマークレベルと同等である。推定マークは、再生信号の振幅誤差から推定した記録マークのマークレベルMLeであり、検出した再生信号に対して推定される記録層上の記録マークのマーク形状を表すものである。例えば、記録マークのマークレベルを理想マークからずらして記録したときの再生信号を取得し、再生信号の振幅誤差がゼロ、或いは所定の閾値以下となるときのマークレベル、すなわち再生信号が理想信号と一致する又は所定範囲内となるようなマークレベルを求めることにより、推定マークを算出できる。推定マークの理想マークからの差分が、マーク形状のずれ量となる。
【0058】
図4の中段及び下段に示すように、推定マークMKeのマークレベルMLeが理想マークMKiのマークレベルMLiより大きい場合、マーク形状としては、例えばマーク幅が理想マークより広く形成されていると想定される。また、推定マークMKeのマークレベルMLeが理想マークMKiのマークレベルMLiより小さい場合、マーク形状としては、例えばマーク幅が理想マークより狭く形成されていると想定される。
【0059】
ここで、理想マークのマーク形状は、期待値信号に対して振幅誤差の無い再生信号が得られるようなマーク形状と定義できる。実際の記録再生では、記録マークの熱干渉や光学干渉といった非線形な振る舞いをする要因があるが、それらの要因も含めた上で振幅誤差の無い再生信号が得られる記録マークが理想マークのマーク形状である。
【0060】
本実施の形態では、マーク形状の理想状態からのずれ量を推定するために、マーク形状のずれ量をレベル推定ベクトルLvとして算出する例を説明する。理想マークのマーク形状からのずれ量を定量化するため、得られた再生信号に対して、記録信号をずらしながら期待値信号を近付けることにより、推定したずれ量を求める。理想マークに対応する記録信号をS、理想マークに対してずらした記録信号をS´とすると、推定マークに対応する記録信号S´は、以下の(3)式を満たすようなS´を求めることになる。
Read-OTF*S´≒0 …(3)
【0061】
つまり、推定マークMKeの記録信号S´に対する期待値信号をIdeal´とすると、期待値信号Ideal´は以下の(4)式で表される。
Ideal´=OTF*S´ …(4)
【0062】
ここで、レベル推定ベクトルLvは、推定マークに対応する記録信号S´と理想マークに対応する記録信号Sとの差分により、以下の(5)式で求められる。レベル推定ベクトルLvは、再生信号の振幅誤差が最も小さくなる理想的なマーク形状からのずれ量を示すパラメータである。
Lv=S´-S …(5)
【0063】
そして、算出したレベル推定ベクトルLvを用いて記録補償を行い、レベル推定ベクトルLvを差し引いた記録信号Scによって記録を行う。この場合、記録補償後の記録信号Scは、以下の(6)式によって得ることができる。
Sc=S-Lv …(6)
【0064】
このような記録補償を行うことにより、理想マークに近似した記録マークを形成することが可能になる。
【0065】
図5は、実施の形態におけるマーク形状推定結果に基づく記録補償の一例を示す図である。図5では、記録信号の所定単位として1チャネルビット(1T)単位でマーク形状の推定と記録補償を行う例を示している。1T単位でマークレベルをずらすことによって記録マークのマーク形状の推定演算を行い、推定結果として理想マークからのずれ量を算出する。図5の左側の例では、推定マークの算出結果として、記録パルスWPによって形成された4Tマークのうち、先頭の1Tは推定マークMKeのマークレベルが理想マークMKiより小さく、末尾の1Tは推定マークMKeのマークレベルが理想マークMKiより大きい状態が推定されている。すなわち、推定したマーク形状のずれ量として、先頭の1Tはマイナスのずれ量、末尾の1Tはプラスのずれ量が算出されている。
【0066】
この場合、記録補償は、図5の右側のように、記録信号のレベル調整として、記録パルスWPcにおいて先頭の1Tのレベルをずれ量に応じて上げ、末尾の1Tのレベルをずれ量に応じて下げるようなレベル調整を行う。ここで、4Tマークの先頭の1Tと末尾の1Tにおいて、マーク形状のずれ量をそれぞれレベル推定ベクトルLvによって算出し、それぞれLv(1)、Lv(4)であるとすると、レベル補正量は-g(Lv(1))、-g(Lv(4))のように表される。なお、g(Lv)はレベル推定ベクトルLvの大きさに対応する記録信号の補正量を表す関数である。このようにレベル調整した記録補償後の記録パルスWPcによって、理想マークに近似した記録マークMKcが形成される。そして、記録補償後の記録マークを再生することにより、理想信号に近い再生信号を得ることが可能となる。
【0067】
上記のように、記録マークの先頭及び/又は末尾のマークレベルを調整することによって、自マークの前後のマークを考慮することなく、適切な記録補償が可能となる。したがって、エッジシフトを用いなくとも、より優れた記録補償性能を得ることができる。なお、2Tの最小マークなど、短い記録マークについては、前スペース長など、前後のスペースを考慮してマークレベルを調整してもよい。
【0068】
図6は、実施の形態におけるマーク形状推定を用いた記録補償処理の手順の一例を示すフローチャートである。ここでは、情報記録再生装置100の記録補償部102において記録補償に関する各処理を実行する場合を例示する。なお、実施の形態に係るマーク形状推定を含む記録状態評価処理、記録補償処理等の処理は、情報記録再生装置100に接続されるホストコンピュータ、或いは他の情報処理装置など、種々のコンピュータを用いて実行することも可能であり、情報記録再生装置100の内部における処理に限定されない。
【0069】
記録補償部102は、記録部103を制御し、記録信号Scount(t)によって記録媒体1に対して記録を行う(S11)。ここで、「count」は1つの処理ステップを実行する回数を表すカウント値であり、初期値は0である。よって、記録信号の初期値はS(t)となる。このとき、記録補償部102の制御により、記録部103は、所定の2種類以上のレベル値の信号系列である長さLの第1の記録信号として、記録信号Scount(t)を生成する。そして、記録部103は、第1の記録信号に相当する複数種類の異なる第1の記録マークを記録媒体1に形成する。そして、記録補償部102は、再生部101を制御し、記録信号Scount(t)によって記録された記録マークの再生を行い、再生信号Readcount(初期値はRead)を得る(S12)。このとき、記録補償部102の制御により、再生部101は、記録媒体1に形成された第1の記録マークの再生信号として、記録信号Scount(t)に相当する記録マークに対する再生信号Readcountを得る。続いて、記録補償部102は、マークレベル推定ステップとしてのマーク形状推定処理を実行し、レベル推定ベクトルLvcount(初期値はLv)を算出する(S13)。このとき、記録補償部102は、記録媒体1に記録した記録マークを再生して得た再生信号が、第1の記録信号と所定のインパルス応答(本例ではOTF)との畳み込み演算により得られる第1の期待値(上記(1)式参照)と等しくなる記録状態を第2の記録マークとする。そして、記録補償部102は、第1の記録信号により記録した第1の記録マークと第2の記録マークとのマーク形状のずれ量を、所定の2種類以上のレベル値の信号系列である長さM(Mは第1の記録信号の長さLより小さい)のN種類の配列パターン別で表した第1のレベル推定ベクトルを算出する。ステップS13におけるマーク形状推定アルゴリズムについては後述する。レベル推定ベクトルLvは、記録信号S(t)、再生信号Read、理想信号Idealを用いたマーク形状の推定処理により算出され、理想的なマーク形状からのマーク形状のずれ量を示すパラメータである。
【0070】
次に、記録補償部102は、推定した記録マークの状態判定(記録状態の判定)を行い、記録マークのマーク形状の良否を判定する(S14)。記録マークの状態判定としては、例えば、算出したレベル推定ベクトルLvcountが所定の閾値Lvth以下であるか否かによって、記録状態の良否判定を行う。これにより、記録媒体に記録された記録マークの記録状態、すなわち理想マークに対して推定マークのマーク形状が所定値以内に近似しているか否かを判定できる。なお、レベル推定ベクトルLvを用いた他の判定条件によるマーク形状の良否判定など、他の方法によって記録マークの状態判定を行うことも可能である。
【0071】
記録補償部102は、ステップS14の記録マークの状態判定において、算出したレベル推定ベクトルLvcountが所定の閾値Lvthを超えている場合、カウント値countを1増分し(count=count+1)、記録信号Scount(t)を更新する(S15)。このステップS15において、レベル推定ベクトルLvを用いて記録信号Scount(t)を更新することにより、記録補償を行う。レベル推定ベクトルLvを用いた記録信号のレベル補正を行う場合、補正後の記録信号S(t)は、以下の(7)式で表される。
S(t)=f(S(t),Lv) …(7)
【0072】
この場合、初回の更新後の記録信号S1(t)は、以下の(8)式で表される。
(t)=f(S(t),-Lv) …(8)
【0073】
これを一般化して、更新後の記録信号Scount+1(t)は、以下の(9)式で表される。
count+1(t)=f(S(t),-Lv-Lv-Lv-…-Lvcount) …(9)
【0074】
レベル推定ベクトルLvによって記録信号を更新した後、記録補償部102は、上述したステップS11~S14の処理を繰り返す。ステップS14の記録マークの状態判定において、算出したレベル推定ベクトルLvcountが所定の閾値Lvth以下となった場合、記録補償部102は、記録補償処理を終了する。この記録補償処理の終了時の記録信号Scount(t)が、記録補償実施後の記録信号に相当し、理想マークに近い記録マークを記録するための記録信号となる。
【0075】
次に、本実施の形態に係るマーク形状推定アルゴリズムの一例について説明する。本実施の形態では、マーク形状推定のためのアルゴリズムとして、記録マークのマーク形状のずれ量を表すレベル推定ベクトルLvを初期値0から所定量ずつずらして再生信号の振幅誤差を算出し、振幅誤差が所定の閾値以内となるまで上記処理を繰り返してレベル推定ベクトルLvを更新する処理を採用する。
【0076】
図7は、実施の形態におけるマーク形状推定アルゴリズムの手順の一例を示すフローチャートである。図8は、マーク形状推定において用いる記録マークのパターンの一例を示す図である。
【0077】
図7に示すマーク形状推定アルゴリズムにおいて、記録補償部102は、まずレベル推定ベクトルLvを作成する(S21)。レベル推定ベクトルLvは、第1のレベル推定ベクトルに相当し、マーク形状推定を行う記録マークのパターンの数に応じた要素数を持つベクトルであり、初期値は全て0である。すなわち、初期状態ではレベル推定ベクトルLvは全パターンの要素が0のベクトルとなる。
【0078】
ここで、マーク形状推定を行う記録マークのパターンの一例を示す。記録マークのパターンは、情報記録において想定される符号化ビット列のパターンであり、図8に一例を示すように、自マークのマーク長、前スペース及び後スペースのスペース長の組合せによって表される複数のパターンを有する。また、記録マークのパターンは、1チャネルビット(1T)単位でレベル推定ベクトルLvを算出するために、2T前、2T後など、自マークのマークレベルをずらす位置を1T毎に規定するパターンを用いる。なお、図示しないが、自マークが3T以上の場合も同様に、例えば3T前、3T中、3T後、4T前、4T中前、4T中後、4T後など、1T毎にマークレベルをずらす位置を示すパターンを設定すればよい。
【0079】
図8は、自マークが2Tの場合を示しており、前スペースが2T、3T、4T、5T以上、後スペースが2Tのそれぞれの組合せについて、2T前、2T後のパターンを規定し、合計8個のパターンP(1)~P(8)を設定した例である。以下、同様にして3T以上についても規定し、パターンP(1)~P(N)を設定する。つまり、N個のパターンについて要素数Nのレベル推定ベクトルLvを算出し、マーク形状の推定を行う。
【0080】
次に、記録補償部102は、パターンP(i)(i=1,N,1(1~N、1ステップずつ))について、自マークのマークレベルを上下にずらして各パターンの振幅誤差感度を算出する処理を行う(S22)。このとき、記録補償部102は、i番目のパターンについて、該当する自マークのチャネルビットのマークレベルを上にずらすように、レベル推定ベクトルLv(i)を所定量Δとして+aシフトさせる(S2211)。同様に、記録補償部102は、該当する自マークのチャネルビットのマークレベルを下にずらすように、レベル推定ベクトルLv(i)を所定量Δとして-aシフトさせる(S2221)。レベルシフトさせる所定量Δは、例えば0.3以下(a≦0.3)とする。すなわち、以下の(10)式に示すように、正方向と負方向にそれぞれレベルシフトさせたレベル推定ベクトルLv(i)、Lv(i)を算出する。ここで、正方向にレベルシフトさせたレベル推定ベクトルLv(i)は第2のレベル推定ベクトルに相当し、負方向にレベルシフトさせたレベル推定ベクトルLv(i)は第3のレベル推定ベクトルに相当する。
Lv(i)=Lv(i)+a
Lv(i)=Lv(i)-a …(10)
【0081】
そして、記録補償部102は、+aシフトさせたレベル推定ベクトルLvを用いて、所定の長さLの第2の記録信号として、第1の記録信号に第2のレベル推定ベクトルを足し合わせてレベルシフトさせた記録信号S´を生成する(S2212)。同様に、記録補償部102は、-aシフトさせたレベル推定ベクトルLvを用いて、所定の長さLの第3の記録信号として、第1の記録信号に第3のレベル推定ベクトルを足し合わせてレベルシフトさせた記録信号S´を生成する(S2222)。今、i番目のレベルをシフトさせているので+/-それぞれのレベル推定ベクトルをLv 、Lv とし、これを用いて生成する記録信号をS´、S´とすると、その計算式は以下の(11)式のように書ける。
´=f(S,Lv (j))、j=1:N
´=f(S,Lv (j))、j=1:N …(11)
【0082】
ここで、jを用いた関数f(S,Lv(j))の機能について説明する。jもi同様にパターン番号であるが、i番目のレベルをシフトさせたレベル推定ベクトルから記録信号S´を生成する際、基の記録信号Sに各パターン(j=1:N)のレベル推定ベクトルvを足し合わせる処理を行う。従って、レベルシフトさせたパターンはi番目であり、基の記録信号Sに各パターンのレベル推定ベクトルを足し合わせる処理をj=1:Nで行う。より具体的な説明として、記録信号Sとして例えば以下の(12)式のようなビット列を与え、またレベルシフトさせたパターンがi=2の場合を考える。
S={1,0,0,1,1,0,0,1,1,1,0,0,…} …(12)
【0083】
j=1は図8に示した1番目のパターンP(1)であり、2Tスペース-2Tマーク(自マークは前側)-2Tスペースというパターンで、Lv(1)=vであるため、
f(S,Lv(1))={1,0,0,1+v,1,0,0,1,1,1,0,0,…}
となる。j=2は2Tスペース-2Tマーク(自マークは後側)-2Tスペースというパターンで、レベルシフトさせているパターンのためLv(2)=v+a(もしくはv-a)であり、
f(S,Lv(2))={1,0,0,1+v,1+v+a,0,0,1,1,1,0,0,…}
となる。この処理をj=Nまで実施することで以下の(13)式に示す記録信号S´、S ´-が得られる。
´+=f(S,Lv(N))={1,0,0,1+v,1+v+a,0,0,1+v,1+v10,1+v11,0,0,…}
´-=f(S,Lv(N))={1,0,0,1+v,1+v-a,0,0,1+v,1+v10,1+v11,0,0,…} …(13)
【0084】
以上の処理が記録信号Sとレベル推定ベクトルLv (Lv )から記録信号S´(S ´-)を得るための処理である。
【0085】
図9は、マーク形状推定アルゴリズムにおいて着目するチャネルビットをレベルシフトさせた記録信号の一例を示す図である。2Tマークにおいて、2T前のビットをレベルシフトさせる場合、2T前の位置をt=tx1とすると、S´(tx1)=1+a、S´(tx1)=1-aとなる。同様に、2T後のビットをレベルシフトさせる場合、2T後の位置をt=tx2とすると、S´(tx2)=1+a、S´(tx2)=1-aとなる。
【0086】
次に、記録補償部102は、正方向にレベルシフトさせた第2の記録信号である記録信号S´(t)に所定のインパルス応答としての光学的伝達関数OTFを畳み込み、第2の期待値信号としての期待値信号を求める(S2213)。同様に、負方向にレベルシフトさせた第3の記録信号である記録信号S´(t)に光学的伝達関数OTFを畳み込み、第3の期待値信号としての期待値信号を求める(S2223)。すなわち、以下の(14)式に示すように、正方向と負方向にそれぞれレベルシフトさせたときの理想信号(期待値信号)Ideal´、Ideal´を算出する。
Ideal´=OTF*S´
Ideal´=OTF*S´ …(14)
ここで、*は畳み込み(コンボリューション)を表す演算子である。
【0087】
続いて、記録補償部102は、第2の期待値信号とこの第2の期待値信号に相当する再生信号との誤差を二乗して長さLで積分することにより、第2の二乗誤差として正方向にレベルシフトさせた場合の振幅誤差を算出する。このとき、記録補償部102は、図6のステップS11、S12にて取得した、記録信号S(t)により記録した記録マークの再生信号Readを用いて、正方向にレベルシフトさせた場合の振幅誤差√(σ+)を算出する(S2214)。また、記録補償部102は、第3の期待値信号とこの第3の期待値信号に相当する再生信号との誤差を二乗して長さLで積分することにより、第3の二乗誤差として負方向にレベルシフトさせた場合の振幅誤差を算出する。このとき、記録補償部102は、上記と同様にして負方向にレベルシフトさせた場合の振幅誤差√(σ-)を算出する(S2224)。ここで、√(x)はxの平方根を表す。すなわち、以下の(15)式に示すように、正方向及び負方向にそれぞれレベルシフトさせた場合の期待値信号Ideal´、Ideal´と再生信号Readとによって、振幅誤差√(σ+)、√(σ-)を算出する。
【0088】
【数1】

ここで、nは評価ビット数であり、例えばn=400000Tなどの値を用いて評価対象のビット数の記録データについて振幅誤差を算出し、所定の評価ビット数の符号化ビット列についての評価を行う。
【0089】
そして、記録補償部102は、第2の二乗誤差と第3の二乗誤差との差を求めることにより、i番目の配列パターンにおける誤差感度を算出する。このとき、記録補償部102は、正方向と負方向にそれぞれレベルシフトさせた場合の振幅誤差√(σ+)、√(σ-)を用いて、誤差感度としての振幅誤差変化の傾きを示す振幅誤差感度Gradを求める(S223)。すなわち、以下の(16)式に示すようにGrad(i)を算出する。
Grad(i)=√(σ+)-√(σ-) …(16)
【0090】
記録補償部102は、i=1~Nの配列パターンの全パターンの誤差感度を算出する。このとき、記録補償部102は、以上のステップS22の処理について、1~NのN回処理ループを回して繰り返し実行し、N個のパターンP(i)の全パターンについて振幅誤差感度Grad(i)を求める。
【0091】
上記処理例では、振幅誤差として誤差の分散σではなく、標準偏差√(σ)を求めている。レベル推定ベクトルLvは振幅の次元であるため、標準偏差の振幅誤差√(σ)によって振幅誤差感度Gradを求めることにより、振幅誤差感度Gradについても振幅の次元となり、各パラメータの次元を合わせている。なお、分散の振幅誤差σを用いて振幅誤差感度Gradを算出してもよい。
【0092】
次に、記録補償部102は、全パターンの誤差感度において、所定の閾値を超えるパターンがあるか判定を行う。このとき、記録補償部102は、N個の各パターンP(i)の振幅誤差感度Grad(i)を用いて、振幅誤差の大きさを判定する。例えば、各パターンの振幅誤差感度Grad(i)が所定の閾値Gradth以下であるか否かによって、振幅誤差がゼロ近傍に収束したか否かの判定を行う(S23)。
【0093】
記録補償部102は、ステップS23の振幅誤差感度の判定において、各パターンの振幅誤差感度Grad(i)が所定の閾値Gradthを超えている場合、レベル推定ベクトルLvを更新する(S24)。このとき、以下の(17)式に示すように、振幅誤差感度Gradに所定の更新係数kを乗算し、レベル推定ベクトルLvに加算することによって更新後のレベル推定ベクトルLvを求める。記録補償部102は、例えば全パターンの振幅誤差感度に乗算後の絶対値が0.5以下となるような所定の係数kを掛けて第1のレベル推定ベクトルに加算し、第1のレベル推定ベクトルを更新する。
Lv=Lv+Grad×k …(17)
【0094】
そして、記録補償部102は、上記のレベルシフトを行うステップに戻り、振幅誤差感度Grad(i)が所定の閾値Gradth以下に収まるまでステップS22~S23の処理を繰り返す。
【0095】
図10は、マーク形状推定アルゴリズムにおける振幅誤差感度及びレベル推定ベクトルの更新について説明する図である。図10において一例を示すように、パターンP(i)のときの振幅誤差√(σ)に対して、レベル推定ベクトルLvのレベルを+aシフトさせた場合の振幅誤差√(σ+)と-aシフトさせた場合の振幅誤差√(σ-)とを算出する。そして、振幅誤差√(σ+)と√(σ-)との差分をとることにより、振幅誤差感度Grad(i)を算出する。記録マークのマークレベルの補正量(レベル補正量)に相当するレベル推定ベクトルLvの目標値は、振幅誤差√(σ)が最小となる極小点の値である。この場合、振幅誤差感度Grad(i)は、正負に所定量レベルシフトさせたときの振幅誤差の差分の傾きを表し、符号が正負のいずれであるかによって、レベル推定ベクトルLvの更新方向(レベル補正の方向)がわかる。振幅誤差感度Grad(i)が正の場合、レベル推定ベクトルLvを小さくする方向に更新する。一方、振幅誤差感度Grad(i)が負の場合、レベル推定ベクトルLvを大きくする方向に更新する。図10の例は振幅誤差感度Grad(i)が負の場合を示している。
【0096】
レベル推定ベクトルLvを更新する際、振幅誤差感度Gradに所定の更新係数kをかけて加算することにより、1回の更新量を調整する。これにより、振幅誤差が大きく目標値から外れることを抑制し、振幅誤差を徐々に目標値に近づけて収束させることが可能になる。本実施の形態では、N個のパターンの全パターンについて振幅誤差感度を求めて判定し、一度にレベル推定ベクトルLvを更新する処理とし、この処理を振幅誤差が所定値以内に収まるまで実行する。
【0097】
ステップS23の振幅誤差感度の判定において、N個の全パターンの振幅誤差感度Grad(i)が所定の閾値Gradth以下となった場合、マーク形状推定処理を終了する。上述したマーク形状推定処理によって、理想的なマーク形状からのマーク形状のずれ量が定量化され、マーク形状の推定結果を表すレベル推定ベクトルLvが得られる。記録補償部102は、上記のマークレベル推定ステップにおいて、第1のレベル推定ベクトルの初期値を全要素0とし、全パターンの誤差感度が所定の閾値以下になるまで繰り返し処理を行うことにより、記録媒体に記録された第1の記録マークと第2の記録マークとのマーク形状のずれ量を推定する。
【0098】
記録補償部102は、マーク形状推定アルゴリズムによって算出したレベル推定ベクトルLvを用いて、現在の記録条件による記録マークのマーク形状について、理想的なマーク形状からのずれ量を判定し、ずれ量が所定の閾値以下となるように記録補償を行う。具体的には、記録補償部102は、上述した図6の記録補償処理によって、マーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルLvが所定の閾値Lvth以下となるまで、現在の記録信号Sにレベル推定ベクトルLvを加算して更新し、レベル推定ベクトルLvを算出する処理を繰り返す。このように、現在の記録信号から推定したマーク形状のずれ量分を差し引いた記録信号によって記録することで、記録マークのマーク形状を理想的なマーク形状に近づけていく。このような記録補償によって、よりマーク形状を理想形状に近づけることができ、期待値信号に近い再生信号を得ることができる。
【0099】
ここで、情報記録再生装置100の動作について一例を説明する。情報記録再生装置100は、記録媒体又は装置内部の記憶部に保持されている記録条件を記録パラメータとして読み出す。そして、情報記録再生装置100は、記録状態評価及び記録補償を行うための記録データを設定する。続いて、情報記録再生装置100は、記録媒体1に対して記録データの記録再生動作を実行する。
【0100】
記録動作において、情報記録制御部15は、記録パラメータを調整するための記録領域に光ヘッド2を移動させる。記録部103のレーザ駆動部13は、記録パルス生成部12で生成された記録パルス列、及び記録パワー設定部14で設定される記録パワーに従って、光ヘッド2のレーザ発光動作を制御し、光ヘッド2は、記録パワーのレーザ光を記録媒体1の記録領域のトラックに照射する。これにより、記録媒体1の記録層に対して記録データに従った記録マークを形成して記録する。再生動作において、光ヘッド2は、記録動作によって記録された記録媒体1の記録マークのトラックに再生パワーのレーザ光を照射し、反射光を受光して再生信号を生成する。再生部101は、再生信号の増幅、AD変換等を行ってデジタル信号の再生信号を出力する。記録補償部102のデジタルイコライザ部8は、再生信号を波形等化する。復号部9は、デジタルイコライザ部8から出力された波形等化された再生信号を復号し、2値化信号を生成する。信号差検出部10は、期待値信号と再生信号の振幅誤差を算出する。
【0101】
情報記録制御部15は、記録状態評価部、記録補償部としての機能を実行し、設定した記録データの記録信号、取得した再生信号、再生信号の振幅誤差に基づき、上述したレベル推定ベクトルを用いた記録マークのマーク形状推定、記録補償に関する処理を実行する。このとき、情報記録制御部15は、レベル推定ベクトルの算出によってマーク形状の推定を行い、マーク形状の可否を判定して記録状態を評価する。また、情報記録制御部15は、算出したレベル推定ベクトルを用いて記録信号のレベルを調整することにより、記録補償を行う。そして、情報記録制御部15は、レベル推定ベクトルが所定値以下となるように、記録信号のレベル調整をしながら記録及び再生を行ってレベル推定ベクトルを算出する動作を繰り返す。このような動作によって、理想的なマーク形状に近い記録マークを形成できるように、記録信号のレベルが適切に調整される。
【0102】
なお、上述した実施の形態では、2値情報の記録データを符号化した記録信号を用いて、記録媒体に2値情報を持つ記録マークを記録する例を示したが、記録する情報のビット数はこれに限定されない。例えば、4値、8値、16値など、多値情報を持つ記録マークを記録する場合においても、本実施の形態を同様に適用可能である。特に、多値情報の記録では、エッジシフトのみでは十分な記録補償が困難な場合が想定されるが、本実施の形態のマーク形状推定及びマーク形状推定結果を用いた記録補償によって、装置又はシステムに要求される記録補償性能を満たすことが可能になる。
【0103】
本実施の形態に係る記録状態評価(マーク形状推定)、及びこのマーク形状推定を利用した記録補償は、情報記録再生装置の製造工程における記録状態の調整、装置の初期化の際の記録状態の調整などにおいて用いることができる。本実施の形態の記録状態評価、記録補償を用いることにより、異なる個体の記録媒体、異なる個体の情報記録再生装置においても、記録マークの形状を揃えることができ、各記録媒体に記録される記録マークの記録状態を合わせることができる。
【0104】
上述したように、本実施の形態では、レベル推定ベクトルを用いて、理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を算出し、記録マークのマーク形状を推定することによって、マーク形状のずれ量の検出、記録状態の評価が可能となる。このとき、レベル推定ベクトルの算出によって、記録マークの微妙な形状を精度良く推定できる。また、記録マークのマーク形状の推定結果を用いて、記録信号のレベルを調整することによって、エッジシフトを用いた記録補償などよりも高精度の記録補償を実現できる。したがって、高密度記録や多値記録において、従来よりも優れた記録補償性能を獲得し、高い再生性能を得ることが可能になる。
【0105】
なお、本実施の形態における処理手順は、上記した各ステップを実行し得る限り、任意の手順を有し得る。また、本開示は、実施の形態における情報記録再生装置の機能を実行させるための記録再生プログラムであってもよい。記録再生プログラムは、本実施の形態における情報記録再生装置内部のメモリに格納されていてもよい。あるいは、情報記録再生装置の出荷後に、記録再生プログラムを情報記録再生装置内部のメモリに格納するようにしてもよい。例えば、インターネットを経由して情報記録再生装置内部のメモリにアクセスして、記録再生プログラムを情報記録再生装置内部のメモリに格納してもよい。あるいは、情報記録再生装置が記録再生プログラムの情報が記録された情報記録媒体を再生し、記録再生プログラムを情報記録再生装置内部のメモリに格納するようにしてもよい。
【0106】
以上のように、本実施の形態の記録状態評価方法は、光学的に情報記録を行う記録媒体1における記録状態評価方法である。所定の記録信号によって記録媒体1に記録マークを形成するステップと、記録媒体1に形成された記録マークの再生信号を得るステップと、記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成するステップと、再生信号と期待値信号との振幅誤差に基づき、記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、記録媒体1に形成された記録マークのマーク形状を推定するステップと、を有する。これにより、マーク形状の推定結果によって記録状態を精密に評価できる。したがって、記録マークの微妙な形状を精度良く推定でき、高密度記録や多値記録において、エッジシフトを用いる方法などの従来の方法に比べて、適切な記録状態の評価が可能となる。
【0107】
また、本実施の形態の記録状態評価方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、記録マークのマーク形状を表すパラメータであるマークレベルを定義し、記録信号のレベルをずらしたときの期待値信号と再生信号との振幅誤差が所定値以下となるマークレベルを求め、このときのマークレベルと理想的な記録マークのマークレベルとの差分によって、記録マークのマーク形状のずれ量を算出する。これにより、マークレベルを用いることによって記録マークのマーク形状を適切に推定できる。
【0108】
また、本実施の形態の記録状態評価方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、記録マークのマーク形状のずれ量を示すパラメータとして所定要素数のレベル推定ベクトルを定義し、記録信号の所定単位毎にレベルシフトさせるレベル推定ベクトルを用いて、記録信号のレベルをずらしたときの再生信号と期待値信号との振幅誤差を求め、振幅誤差に基づいて理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルを算出する。これにより、レベル推定ベクトルを用いることによって記録マークのマーク形状を適切に推定できる。
【0109】
また、本実施の形態の記録状態評価方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、レベル推定ベクトルは、記録に使用される所定の記録信号のパターンの数Nに応じた要素数を有するものとし、記録信号のパターンに対応するレベル推定ベクトルの要素について所定量レベルシフトさせ、記録信号にレベルシフトさせたレベル推定ベクトルを加算してレベルシフト時の期待値信号を算出し、再生信号との振幅誤差を求める。これにより、記録信号のパターンごとにレベル推定ベクトルの要素を所定量レベルシフトさせ、レベルシフト時の期待値信号と再生信号との振幅誤差を求めることで、振幅誤差がゼロとなる場合のレベルシフトの量によって現在のマーク形状の理想形状からのずれ量を得ることが可能になる。
【0110】
また、本実施の形態の記録状態評価方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、レベル推定ベクトルは、初期値を全要素0とし、i番目(iは1~Nの整数)の記録信号のパターンに対応するレベル推定ベクトルの要素について、正方向と負方向にそれぞれ所定量レベルシフトさせ、記録信号にレベルシフトさせたレベル推定ベクトルを加算して正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の期待値信号を算出し、正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の再生信号との振幅誤差を求め、正負両方向のレベルシフトによる振幅誤差の差分を求めることにより、振幅誤差変化の傾きを示すN個の要素の振幅誤差感度を算出し、N個の要素の振幅誤差感度が所定値以下となるときのレベル推定ベクトルを理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルとして出力する。これにより、現在の状態から振幅誤差感度が所定値以下となるまでのレベル推定ベクトルの算出によって、理想的なマーク形状からのずれ量を適切に求めることが可能になる。
【0111】
また、本実施の形態の記録状態評価方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、N個の要素の振幅誤差感度が所定値より大きい場合、振幅誤差感度に所定の更新係数を乗算して現在のレベル推定ベクトルに加えてレベル推定ベクトルを更新し、N個の要素の振幅誤差感度が所定値以下となるまで正負両方向にレベルシフトさせた場合の振幅誤差感度の算出を繰り返し実行する。これにより、現在の状態から振幅誤差感度が所定値以下となるまでのレベル推定ベクトルを適切に算出することが可能になる。
【0112】
本実施の形態の記録状態評価方法は、記録媒体に、所定の2種類以上のレベル値の信号系列である長さLの第1の記録信号を生成し、第1の記録信号に相当する複数種類の異なる第1の記録マークを形成する記録ステップと、記録媒体に形成された第1の記録マークの再生信号を得る再生ステップと、再生信号が、第1の記録信号と所定のインパルス応答との畳み込み演算により得られる第1の期待値と等しくなる記録状態を第2の記録マークとし、第1の記録マークと第2の記録マークとのマーク形状のずれ量を、2種類以上のレベル値の信号系列である長さM(MはLより小さい)のN種類の配列パターン別で表した第1のレベル推定ベクトルを算出するマークレベル推定ステップと、を含む。マークレベル推定ステップは、第1のレベル推定ベクトルのi番目(iは1~Nの整数)の配列パターンについて、正方向と負方向にそれぞれレベルを所定量Δシフトさせるレベルシフトステップと、第1の記録信号に正方向にレベルシフトさせた第2のレベル推定ベクトルを加算して、所定の長さLの第2の記録信号を生成し、同様に負方向にレベルシフトさせた第3のレベル推定ベクトルを加算して、所定の長さLの第3の記録信号を生成する記録信号生成ステップと、第2の記録信号、第3の記録信号と、インパルス応答とをそれぞれ畳み込むことにより、第2の期待値信号、第3の期待値信号を生成する期待値生成ステップと、第2の期待値信号、第3の期待値信号と、各期待値信号に相当する再生信号とのそれぞれの誤差を二乗して長さLで積分することにより、第2の二乗誤差、第3の二乗誤差を算出する二乗誤差算出ステップと、第2の二乗誤差と第3の二乗誤差との差を求めることにより、i番目の配列パターンにおける誤差感度を算出し、i=1~Nの配列パターンの全パターンの誤差感度を算出する誤差感度算出ステップと、全パターンの誤差感度において、所定の閾値を超えるパターンがあるか判定を行う閾値判定ステップと、閾値判定ステップにおいて所定の閾値を超えるパターンがあった場合、全パターンの振幅誤差感度に乗算後の絶対値が0.5以下となるような所定の係数kを掛けて第1のレベル推定ベクトルに加算し、第1のレベル推定ベクトルを更新した後、レベルシフトステップに戻るレベル推定ベクトル更新ステップと、を含む。レベルシフトステップにおけるレベルシフトの所定量Δは、0.3以下であってよい。マークレベル推定ステップにおいて、第1のレベル推定ベクトルの初期値を全要素0とし、全パターンの誤差感度が所定の閾値以下になるまで繰り返し処理を行うことにより、記録媒体に記録された前記第1の記録マークと第2の記録マークとのマーク形状のずれ量を推定する。
【0113】
本実施の形態の記録補償方法は、記録媒体1に対して光学的に情報記録を行う情報記録再生装置100における記録補償方法である。所定の記録信号によって記録媒体1に記録マークを形成するステップと、記録媒体1に形成された記録マークの再生信号を得るステップと、記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成するステップと、再生信号と期待値信号との振幅誤差に基づき、記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、記録媒体1に形成された記録マークのマーク形状を推定するステップと、記録マークのマーク形状のずれ量に基づき、記録信号の所定単位毎に補正量を算出し、記録信号のレベルを調整するステップと、を有する。これにより、記録マークの微妙な形状を精度良く推定でき、例えば高密度記録や多値記録において、従来よりも優れた記録補償性能を獲得し、高い再生性能を得ることが可能になる。
【0114】
また、本実施の形態の記録補償方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、記録マークのマーク形状を表すパラメータであるマークレベルを定義し、記録信号のレベルをずらしたときの期待値信号と再生信号との振幅誤差が所定値以下となるマークレベルを求め、このときのマークレベルと理想的な記録マークのマークレベルとの差分によって、記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、記録信号のレベルを調整するステップにおいて、理想的な記録マークのマークレベルとの差分に基づいて補正量を算出し、記録信号のレベルを調整する。これにより、マークレベルを用いることによって記録マークのマーク形状を適切に推定でき、より精度の高い記録補償を行うことができるため、高い記録補償性能を得ることが可能となる。
【0115】
また、本実施の形態の記録補償方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、記録マークのマーク形状のずれ量を示すパラメータとして所定要素数のレベル推定ベクトルを定義し、記録信号の所定単位毎にレベルシフトさせるレベル推定ベクトルを用いて、記録信号のレベルをずらしたときの再生信号と期待値信号との振幅誤差を求め、振幅誤差に基づいて理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルを算出し、記録信号のレベルを調整するステップにおいて、理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルに基づいて補正量を算出し、記録信号のレベルを調整する。これにより、レベル推定ベクトルを用いることによって記録マークのマーク形状を適切に推定でき、より精度の高い記録補償を行うことができるため、高い記録補償性能を得ることが可能となる。
【0116】
また、本実施の形態の記録補償方法は、記録信号のレベルを調整するステップにおいて、算出したレベル推定ベクトルが所定値より大きい場合、レベル推定ベクトルを現在の記録信号に加えて記録信号を更新し、更新した記録信号によって算出したレベル推定ベクトルが所定値以下となるまでレベル推定ベクトルの算出を繰り返し実行する。これにより、現在の状態から振幅誤差感度が所定値以下となるまでのレベル推定ベクトルを適切に算出でき、高精度に記録信号のレベルを調整することが可能になる。
【0117】
また、本実施の形態の記録補償方法は、マーク形状を推定するステップにおいて、レベル推定ベクトルは、記録に使用される所定の記録信号のパターンの数Nに応じた要素数を有し、初期値を全要素0とし、i番目(iは1~Nの整数)の記録信号のパターンに対応するレベル推定ベクトルの要素について、正方向と負方向にそれぞれ所定量レベルシフトさせ、記録信号にレベルシフトさせたレベル推定ベクトルを加算して正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の期待値信号を算出し、正方向と負方向のそれぞれのレベルシフト時の再生信号との振幅誤差を求め、正負両方向のレベルシフトによる振幅誤差の差分を求めることにより、振幅誤差変化の傾きを示すN個の要素の振幅誤差感度を算出し、N個の要素の振幅誤差感度が所定値以下となるときのレベル推定ベクトルを理想的な記録マークからのマーク形状のずれ量を示すレベル推定ベクトルとして出力し、記録信号のレベルを調整するステップにおいて、算出したレベル推定ベクトルが所定値より大きい場合、レベル推定ベクトルを現在の記録信号に加えて記録信号を更新し、更新した記録信号によって算出したレベル推定ベクトルが所定値以下となるまでレベル推定ベクトルの算出を繰り返し実行する。これにより、現在の状態から振幅誤差感度が所定値以下となるまでのレベル推定ベクトルを適切に算出することができ、理想的なマーク形状からのずれ量を精度良く推定できるため、高精度な記録補償を実行することが可能になる。
【0118】
本実施の形態の情報記録再生装置は、記録媒体1に対して光学的に情報記録を行う情報記録再生装置100であって、所定の記録信号によって記録媒体1に記録マークを形成する記録部103と、記録媒体1に形成された記録マークの再生信号を得る再生部101とを有する。また、記録補償部102を有し、記録補償部102において、記録信号に基づく再生信号の期待値信号を生成する期待値信号生成部と、再生信号と期待値信号との振幅誤差に基づき、記録信号の所定単位毎に、振幅誤差の無い再生信号が取得可能な理想的な記録マークのマーク形状に対する再生信号を取得した記録マークのマーク形状のずれ量を算出し、記録媒体に形成された記録マークのマーク形状を推定する記録状態評価部と、を含む機能を有する。これらの機能は、情報記録制御部15において実現する。これにより、マーク形状の推定結果によって記録状態を精密に評価できる。したがって、記録マークの微妙な形状を精度良く推定でき、高密度記録や多値記録において、エッジシフトを用いる方法などの従来の方法に比べて、適切な記録状態の評価が可能となる。
【0119】
また、本実施の形態の情報記録再生装置は、記録補償部102の情報記録制御部15において、算出した記録マークのマーク形状のずれ量に基づき、記録信号の所定単位毎に補正量を算出し、記録信号のレベルを調整する記録補償部の機能を有する。これにより、記録マークのマーク形状を適切に推定し、高精度に記録信号のレベルを調整することができるため、例えば高密度記録や多値記録において、従来よりも優れた記録補償性能を獲得し、高い再生性能を得ることが可能になる。
【0120】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えばマークとスペースが交互に配置される記録に限定されるものではなく、スペースなくマークを連続して配置する記録でも適用できる。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0121】
なお、本出願は、2019年3月29日出願の日本特許出願(特願2019-066587)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本開示は、従来よりも優れた記録補償性能を獲得し、高い再生性能を得ることが可能な記録状態評価方法、記録補償方法及び情報記録再生装置として有用である。例えば、光ディスク装置を用いたレコーダー、データ保管装置などの情報記録再生装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0123】
1 記録媒体
2 光ヘッド
3 プリアンプ部
4 AGC部
5 アナログイコライザ部
6 A/D変換部
7 PLL部
8 デジタルイコライザ部
9 復号部
10 信号差検出部
11 記録パターン発生部
12記録パルス生成部
13 レーザ駆動部
14 記録パワー設定部
15 情報記録制御部
100 情報記録再生装置
101 再生部
102 記録補償部
103 記録部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10