(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
D06F 33/48 20200101AFI20240226BHJP
【FI】
D06F33/48
(21)【出願番号】P 2019089710
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】512128645
【氏名又は名称】青島海爾洗衣机有限公司
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO HAIER WASHING MACHINE CO.,LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】川口 智也
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-023625(JP,A)
【文献】特開平11-244594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/30
D06F 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向又は傾斜方向に延びる軸線周りに回転可能に構成された有底筒状のドラムと、
前記ドラムの軸線方向に沿って前記ドラムの内周面に複数配設される中空のバッフルと、
前記バッフルの各々に注水するための注水装置と、
前記ドラムの前端側の上下方向、左右方向および前後方向の3方向の加速度を検出し得る加速度検出手段と、
前記ドラムの回転に応じてパルス信号を発信するドラム位置検出装置と、
前記ドラム内の偏芯量及び偏芯位置を検出する偏芯検出手段と、
脱水工程において、偏芯量が所定の注水用偏芯量閾値に達したとき、偏芯位置に対応する前記バッフルに注水するように前記注水装置を制御する制御手段とを備え、
前記偏芯検出手段は、互いに異なる複数の前記ドラムのアンバランス状態にそれぞれ対応する複数の変換式であり、且つ、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データと前記ドラム位置検出装置により検出されたパルス信号との関係性に基づいて算出された複数の変換式のなかから、そのときの前記ドラムのアンバランス状態に対応する変換式を選択して前記ドラム内の偏芯位置を検出することを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
水平方向又は傾斜方向に延びる軸線周りに回転可能に構成された有底筒状のドラムと、
前記ドラムの軸線方向に沿って前記ドラムの内周面に複数配設される中空のバッフルと、
前記バッフルの各々に注水するための注水装置と、
前記ドラムの前端側の上下方向、左右方向、前後方向のうち何れか2方向の加速度を検出し得ると共に、前記ドラムの後端側の上下方向、左右方向、前後方向のうち何れか2方向の加速度を検出し得る加速度検出手段と、
前記ドラムの回転に応じてパルス信号を発信するドラム位置検出装置と、
前記ドラム内の偏芯量及び偏芯位置を検出する偏芯検出手段と、
脱水工程において、偏芯量が所定の注水用偏芯量閾値に達したとき、偏芯位置に対応する前記バッフルに注水するように前記注水装置を制御する制御手段とを備え、
前記偏芯検出手段は、互いに異なる複数の前記ドラムのアンバランス状態にそれぞれ対応する複数の変換式であり、且つ、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データと前記ドラム位置検出装置により検出されたパルス信号との関係性に基づいて算出された複数の変換式のなかから、そのときの前記ドラムのアンバランス状態に対応する変換式を選択して前記ドラム内の偏芯位置を検出することを特徴とする洗濯機。
【請求項3】
前記複数の変換式は、前記ドラムの回転数を変数とする変換式を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の洗濯機。
【請求項4】
前記複数の変換式は、前記ドラムの回転数及び振幅量を変数とする変換式を含むことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の洗濯機。
【請求項5】
前記偏芯検出手段は、
前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データのみに基づいて選択された変換式、
または、
前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データ、及び、前記加速度データと前記パルス信号との関係性
に基づいて選択された変換式
に基づいて前記ドラム内の偏芯位置を検出することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の洗濯機。
【請求項6】
前記偏芯検出手段は、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データを前記ドラムの回転数を変数とする閾値と比較して変換式を選択することを特徴とする請求項5に記載の洗濯機。
【請求項7】
前記偏芯検出手段は、複数の変換式の何れかに基づいて前記ドラム内の偏芯位置を検出したときに、前記ドラム内の偏芯位置が直前の偏芯位置から閾値以上変化した場合、前記ドラム内の偏芯位置を直前の偏芯位置から更新しないことを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水機能を有する洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用の洗濯機あるいはコインランドリーなどに設置される洗濯機として、洗濯脱水機能、洗濯脱水乾燥機能を備えるものがある。
【0003】
脱水機能を有する洗濯機は、ドラム内で洗濯物の偏りにより振動や騒音が発生する。また洗濯物の偏りが大きければ、回転時のドラムの偏心が大きくなり、回転に大きなトルクが必要となるので脱水運転を開始することができない。
【0004】
これを解消するための洗濯機として、特許文献1に記載されたもののように、ドラムの周方向に均等に複数設けられたバランサへの注水を行うことによりドラムのアンバランス状態を積極的に解消しようとする洗濯機がある。
【0005】
特許文献1に開示された洗濯機は、ドラムの前端側に取り付けられた加速度センサを有しており、その加速度センサにより検出された水平方向及び垂直方向の加速度に基づいて、ドラムのアンバランス位置が検知される。
【0006】
その後、そのアンバランス位置に基づいてバランサに注水を行うことにより、ドラムのアンバランス状態を解消しようとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示された洗濯機では、ドラムの前端部の水平方向及び垂直方向への振動を考慮してドラムのアンバランス状態を検知しているが、ドラムは、その前後方向にも振動しており、ドラムの前後方向の振動を考慮しない場合、ドラムのアンバランス状態を適正に検知することが不可能である。
【0009】
そのため、アンバランス位置が適正に検知されてない場合、そのアンバランス位置に基づいてバランサに注水を行ったとしても、ドラムのアンバランス状態を解消するのは困難である。
【0010】
そこで、本発明は、かかる従来の問題を解決するものであり、洗濯槽内に洗濯物の偏在があっても、脱水工程時において洗濯槽のアンバランスを確実に低減することができる洗濯機を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る洗濯機は、水平方向又は傾斜方向に延びる軸線周りに回転可能に構成された有底筒状のドラムと、前記ドラムの軸線方向に沿って前記ドラムの内周面に複数配設される中空のバッフルと、前記バッフルの各々に注水するための注水装置と、前記ドラムの前端側の上下方向、左右方向および前後方向の3方向の加速度を検出し得る加速度検出手段と、前記ドラムの回転に応じてパルス信号を発信するドラム位置検出装置と、前記ドラム内の偏芯量及び偏芯位置を検出する偏芯検出手段と、脱水工程において、偏芯量が所定の注水用偏芯量閾値に達したとき、偏芯位置に対応する前記バッフルに注水するように前記注水装置を制御する制御手段とを備え、前記偏芯検出手段は、互いに異なる複数の前記ドラムのアンバランス状態にそれぞれ対応する複数の変換式であり、且つ、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データと前記ドラム位置検出装置により検出されたパルス信号との関係性に基づいて算出された複数の変換式のなかから、そのときの前記ドラムのアンバランス状態に対応する変換式を選択して前記ドラム内の偏芯位置を検出することを特徴とする。
また、本発明に係る洗濯機は、水平方向又は傾斜方向に延びる軸線周りに回転可能に構成された有底筒状のドラムと、前記ドラムの軸線方向に沿って前記ドラムの内周面に複数配設される中空のバッフルと、前記バッフルの各々に注水するための注水装置と、前記ドラムの前端側の上下方向、左右方向、前後方向のうち何れか2方向の加速度を検出し得ると共に、前記ドラムの後端側の上下方向、左右方向、前後方向のうち何れか2方向の加速度を検出し得る加速度検出手段と、前記ドラムの回転に応じてパルス信号を発信するドラム位置検出装置と、前記ドラム内の偏芯量及び偏芯位置を検出する偏芯検出手段と、脱水工程において、偏芯量が所定の注水用偏芯量閾値に達したとき、偏芯位置に対応する前記バッフルに注水するように前記注水装置を制御する制御手段とを備え、前記偏芯検出手段は、互いに異なる複数の前記ドラムのアンバランス状態にそれぞれ対応する複数の変換式であり、且つ、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データと前記ドラム位置検出装置により検出されたパルス信号との関係性に基づいて算出された複数の変換式のなかから、そのときの前記ドラムのアンバランス状態に対応する変換式を選択して前記ドラム内の偏芯位置を検出することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る洗濯機において、前記複数の変換式は、前記ドラムの回転数を変数とする変換式を含むことが好適である。
【0013】
本発明に係る洗濯機において、前記複数の変換式は、前記ドラムの回転数及び振幅量を変数とする変換式を含むことが好適である。
【0014】
本発明に係る洗濯機において、前記偏芯検出手段は、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データのみに基づいて選択された変換式、または、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データ、及び、前記加速度データと前記パルス信号との関係性に基づいて選択された変換式に基づいて前記ドラム内の偏芯位置を検出することが好適である。
【0015】
本発明に係る洗濯機において、前記偏芯検出手段は、前記加速度検出手段により検出された前記ドラムの振動に対応した加速度データを前記ドラムの回転数を変数とする閾値と比較して変換式を選択することが好適である。
【0016】
本発明に係る洗濯機において、前記偏芯検出手段は、複数の変換式の何れかに基づいて前記ドラム内の偏芯位置を検出したときに、前記ドラム内の偏芯位置が直前の偏芯位置から閾値以上変化した場合、前記ドラム内の偏芯位置を直前の偏芯位置から更新しないことが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加速度検出手段により検出されたドラムの振動に対応した加速度データと、ドラム位置検出装置により検出されたパルス信号との関係性に基づいて算出された複数の変換式の何れかに基づいて、ドラム内の偏芯位置が検出される。そのため、種々のドラムの振動状態に対応するように算出された複数の変換式のなかから、そのときのドラムの振動状態に対応する変換式を選択してドラム内の偏芯位置を検出することにより、ドラムのアンバランス状態を適正に検知できる。よって、ドラムの偏芯状態にかかわらず、ドラム内の偏芯位置を適正に算出して、その偏芯位置に基づいてバッフルに注水を行うことにより、ドラムのアンバランス状態を解消できる。
【0018】
本発明によれば、ドラムの回転数を変数とする変換式によりドラム内の偏芯位置を検出するので、ドラムの回転数の違いにより発生する加速度データとパルス信号との関係性の相違を補正することができる。これによってドラムのアンバランス状態を適正に検知することができる。
【0019】
本発明によれば、ドラムの回転数及び振幅量を変数とする変換式によりドラム内の偏芯位置を検出するので、ドラムの回転数及び振幅量の違いにより発生する加速度データとパルス信号の関係性の相違を補正することができる。これによってドラムのアンバランス状態をより適正に検知することができる。
【0020】
本発明によれば、ドラムの振動に対応した加速度データ、及び、加速度データとドラムの回転に応じたパルス信号との関係性の両方に基づいて選択された変換式に基づいてドラム内の偏芯位置を検出することにより、そのときのドラムの振動状態に対応する適正な変換式を選択できる。
【0021】
本発明によれば、ドラムの振動に対応した加速度データを、ドラムの回転数を変数とする閾値と比較して変換式を選択することにより、ドラムの回転数が異なる場合でも、ドラムのアンバランス状態を適正に検知できる。
【0022】
本発明によれば、注水により対向偏芯負荷状態が発生しドラム内の偏芯位置が急激に変化した場合に、ドラムの偏芯位置は変化してないとみなすことにより、誤ったバッフルに注水することを防止することができる。これによって、注水すべきバッフルを適正に選択して、注水を行うことができるので、ドラム内の偏芯を確実に打ち消すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る洗濯機1の断面を模式的に示す図である。
【
図3】
図1の洗濯機1の脱水工程での制御の流れを説明するための図である。
【
図4】開口させる給水バルブ62を示すパラメータ表である。
【
図5】ドラム2内の偏芯位置を示す模式的な図である。
【
図6】
図1の洗濯機1の脱水工程での制御の流れを示すフローチャートである。
【
図7】偏芯位置調整処理を示すフローチャートである。
【
図8】加速度センサ12から得られた加速度と、近接スイッチ14から得られたパルス信号psとの関係を示したグラフである。
【
図9】偏芯量・仮偏芯位置測定の処理を示すフローチャートである。
【
図10】立上げ判定の処理を示すフローチャートである。
【
図12】
図1の洗濯機1の脱水工程の概要を示すグラフである。
【
図13】注水工程の処理を示すフローチャートである。
【
図14】ドラム2内のアンバランス状態を示す模式的な図である。
【
図15】正式偏芯位置の算出処理を示すフローチャートである。
【
図16】ドラム2内のアンバランス状態に応じた変換式を示す図である。
【
図17】正式偏芯位置の算出するための判定表である。
【
図18】正式偏芯位置の更新判定の処理を示すフローチャートである。
【
図19】注水工程の処理を示すフローチャートである。
【
図20】対向偏芯負荷の判定処理を示すフローチャートである。
【
図21】注水工程の制御判定の処理を示すフローチャートである。
【
図22】注水工程の制御判定を行うための判定表である。
【
図23】注水工程の制御判定を行うための判定表である。
【
図24】判定使用値M1とドラム2のアンバランス状態との関係を示す図である。
【
図25】判定使用値M1とドラム2のアンバランス状態との関係を示す図である。
【
図26】判定使用値M2とドラム2のアンバランス状態との関係を示す図である。
【
図27】判定使用値M2とドラム2のアンバランス状態との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の洗濯機1について、図に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態の洗濯機1の構成を示す模式的な断面図である。
図2は、本実施形態の洗濯機1の電気的な構成を示した機能ブロック図である。
【0026】
本実施形態の洗濯機1は、例えばコインランドリーや家庭にて好適に使用され得るものであり、洗濯機本体1aと、略水平に延出してなる軸線S1を有した外槽3及びドラム2からなる洗濯槽1bと、受水ユニット5及びノズルユニット6を有する注水装置1cと、駆動装置40と、
図2にのみ示される制御手段30とを備えたものである。
【0027】
図1に示す洗濯機本体1aは、略直方体形状である。洗濯機本体1aの前面10aには、ドラム2に対して洗濯物を出し入れするための開口11が形成されるとともに、この開口11を開閉可能な開閉蓋11aが取り付けられる。
【0028】
洗濯機本体1aは、その前面10aが若干上方に向いて面することにより、ドラム2に対して洗濯物を出し入れするための開口11が斜め上方を向いて形成され、この開口11を開閉可能な開閉蓋11aを使用者が斜め上方から開閉する態様のものである。すなわち本実施形態に係る洗濯機1は、洗濯槽1bが斜め方向に取り付けられた、所謂斜めドラム式全自動洗濯機と称されるものである。
【0029】
外槽3は、洗濯機本体1aの内部に配置された有底筒状の部材であり、内部に洗濯水を貯留可能である。
図1に示すように、外槽3の外周面3aには、左右方向、上下方向及び前後方向の3方向の加速度を検出可能な加速度センサ12が取り付けられる。
【0030】
ドラム2は、外槽3内において外槽3と同軸に配置されるとともに、回転自在に支持される有底筒状の部材である。ドラム2は、内部に洗濯物を収容可能で、その壁面2aに多数の通水孔2b(
図1参照)を有する。
【0031】
駆動装置40は、
図1に示すように、モータ10によりプーリー15及びベルト15bを回転させるとともに、ドラム2の底部2cに向けて延出する駆動軸17を回転させて、ドラム2に駆動力を与え、ドラム2を回転させる。
【0032】
また、一方のプーリー15の近傍には、当該プーリー15に形成されたマーク15aの通過を検出できる近接スイッチ14が設けられる。本実施形態では、近接スイッチ14が、ドラム位置検出装置に相当する。
【0033】
図1に示すように、ドラム2の内周面2a1には、周方向に等間隔(等角度)で中空バランサとしてのバッフル7が3つ設けられる。各バッフル7は、中空状であり、ドラム2の基端部2cから先端部に亘ってドラム2の軸線方向に延び、ドラム2の内周面2a1から軸線S1に向けて突出して形成される。
【0034】
受水ユニット5は、導水樋5aが例えばドラム2の軸線S1に沿って径方向に三層重層されて構成されるもので、
図3に示すようにドラム2の内周面2a1に固定される。
【0035】
導水樋5aは、バッフル7と同数だけ設けられ、単独で何れかのバッフル7に調整水Wを流せる通水経路が内部に形成される。そしてバッフル7の内部には、
図1に示すように連通部材5a1が接続され、受水ユニット5から調整水Wが供給される。
【0036】
このような受水ユニット5とバッフル7とは、連通部材5a1でそれぞれ接続される。
【0037】
ノズルユニット6は、このような導水樋5aに個別に調整水Wを注水するものである。ノズルユニット6は、3本の注水ノズル6aと、これらの注水ノズル6aにそれぞれ接続される給水バルブ62a,62b,62cとを有する。
【0038】
注水ノズル6aは、導水樋5aと同数だけ設けられ、それぞれ別々の導水樋5aに注水可能な位置に配置される。なお、本実施形態では、調整水Wとして水道水が用いられる。また、給水バルブ62a,62b,62cとしては、方向切換給水バルブを採用することも可能である。
【0039】
このような構成であると、排水バルブ50aが開かれて外槽3内の洗濯水が排水口50より排出される脱水工程では、ノズルユニット6の何れかの注水ノズル6aから受水ユニット5の導水樋5a内に注水された調整水Wは、連通部材5a1を介してバッフル7内に流れ込む。例えば、何れかの注水ノズル6aから調整水Wが注水される場合には、導水樋5aから連通部材5a1を介してバッフル7に調整水Wが流れ込む。
【0040】
バッフル7は、注水装置1cにより洗濯槽1bの先端1d側から注水された調整水Wが脱水工程時の遠心力により滞留する滞留部71と、注水された調整水Wを洗濯槽1bの基端1e側から排出させ得る出口部72とを有する。
【0041】
バッフル7内に流れ込んだ調整水Wは、ドラム2が高速回転状態にあると、遠心力によりドラム2の内周面2a1にはりついて滞留する。これにより、バッフル7の重量が増加し、ドラム2の偏芯量(M)が変化する。このようにバッフル7は、遠心力により調整水Wを貯めることが可能なポケットバッフル構造である。
【0042】
そして、脱水工程が終了に近づいてドラム2の回転速度が低下すると、バッフル7内の遠心力が次第に減衰し、調整水Wが重力によって出口部72から流れ出て、外槽3外へ排水される。このとき、調整水Wは出口部72を介してドラム2外の下外方に流れ込む。そのため、調整水Wは、ドラム2内の洗濯物を濡らすことなく排水される。
【0043】
図2は、本実施形態の洗濯機1の電気的構成を示すブロック図である。洗濯機1の動作は、マイクロコンピュータを含む制御手段30によって制御される。制御手段30は、システム全体の制御を司る中央制御部(CPU)31を備え、この制御手段30に、それぞれ以下に詳述する値である、ドラム2の共振点CPよりも低い所定回転数(N1)、偏芯量閾値(ma)、注水用偏芯量閾値(mb)や脱水定常回転数が格納されるメモリ32を接続する。また、制御手段30により、メモリ32に格納されたプログラムをマイクロコンピュータが実行することにより、予め定められた運転動作が行われるとともに、メモリ32には、上記プログラムを実行する際に用いられるデータ等が一時的に記憶される。
【0044】
中央制御部31は、回転速度制御部33へ制御信号を出力し、さらにその制御信号をモータ制御部(モータ制御回路)34へ出力してモータ10の回転制御を行う。なお、回転速度制御部33は、モータ制御部34からモータ10の回転速度を示す信号を実時間で入力し、制御要素となるようにしている。
【0045】
アンバランス量検出部35には、加速度センサ12が接続される。アンバランス位置検出部36には、加速度センサ12及び近接スイッチ14が接続される。本実施形態では、アンバランス量検出部35とアンバランス位置検出部36とによって偏芯検出手段を構成する。
【0046】
これにより、近接スイッチ14がマーカー15a(
図1参照)を検知すると、加速度センサ12から得られた左右方向、上下方向及び前後方向の加速度の大きさから、アンバランス量検出部35においてドラム2の偏芯量(M)が算出され、この偏芯量(M)がアンバランス量判定部37へ出力される。
【0047】
アンバランス位置検出部36は、近接スイッチ14から入力されたマーカー15aの位置を示す信号からアンバランス方向の角度を算出し、偏芯位置(N)であるアンバランス位置信号を注水制御部38へ出力する。ここで、アンバランス方向の角度とは、軸線S1の周方向におけるバッフル7に対する相対角度である。本実施形態では
図5に示すようにその一例として、軸線S1を中心として等角度間隔で配される3つのバッフル7(A),7(B),7(C)と偏芯位置との相対角度を示すべくバッフル7(B),7(C)との中間位置を0°に設定している。
【0048】
注水制御部38は、アンバランス量判定部37及びアンバランス位置検出部36からの偏芯量(M)と偏芯位置(N)を示す信号が入力されると、予め格納される制御プログラムに基づいて給水すべきバッフル7及びその給水量を判断する。そして、注水制御部38は、選定した給水バルブ62a,62b,62cを開き、調整水Wの注入を開始する。注水制御部38は、ドラム2に予め定める基準以上の偏芯量(M)が生じたときは、偏芯量(M)の算出に基づいて選定された注水ノズル6aから受水ユニット5の導水樋5aに調整水Wの注入を開始し、偏芯量(M)が予め定める基準以下となったとき、調整水Wの注入を停止する。なお、本実施形態では、ドラム2のアンバランス状態が対向偏芯負荷状態である場合に、注水制御部38は、調整水Wの注入を停止したり、調整水Wの注入を行うバッフル7を異なるバッフル7に変える制御を行う場合がある。
【0049】
注水制御部38は、例えば
図3に示すように、偏芯の要因となっている洗濯物の塊LD(X)がドラム2のバッフル7(B)とバッフル7(C)の間にある場合は、バッフル7(A)に調整水Wを供給するように注水装置1cを制御する。また、洗濯物の塊LD(Y)がバッフル7(A)の近傍にある場合は、バッフル7(B)とバッフル7(C)の両方に調整水Wを供給するように注水装置1cを制御する。
【0050】
中央制御部31は、
図4のパラメータ表に記載された通り、給水バルブX、給水バルブZを開口させている。本実施形態では、偏芯位置(N)の特定を、
図5に示すように、ドラム2を周方向に関して6等分することにより、注水すべきバッフル7を1つに特定する偏芯位置(N)と、注水すべきバッフル7を2つに特定する偏芯位置(N)とに場合分けされる。本実施形態における「偏芯位置(N)」という記載は、仮に算出される仮偏芯位置θ1と、正式に決定される正式偏芯位置θ-fixとの何れか或いは両方を示す概念である。仮偏芯位置θ1、正式偏芯位置θ-fixについては後に詳述する。
【0051】
注水すべきバッフル7を1つに特定する偏芯位置(N)の領域Yとは、領域(P(A)),(P(B))及び(P(C))である。また、偏芯の解消に要する偏芯位置(N)の領域Yとは、領域(P(AB)),(P(BC))及び(P(CA))である。また領域(P(A))、(P(B))及び(P(C))の軸心S1を中心とした角度は20°、領域(P(AB)),(P(BC))及び(P(CA))の軸心S1を中心とした角度は100°に設定されている。
【0052】
(脱水前工程)
脱水工程のうちの前半部分に係る脱水前工程について、
図6に基づいて説明する。
図6は、脱水工程のうちの前半部分に係る脱水前工程を示すフローチャートである。
【0053】
本実施形態では、中央制御部31が、図示しない脱水ボタンからの入力信号、あるいは洗濯コース運転中に脱水工程を開始すべき旨の信号を受信すると、ステップSP1に進み、脱水前工程を開始する。
【0054】
<ステップSP1>
【0055】
ステップSP1では、中央制御部31は、ドラム2をほぐし反転させた後、ドラム2の回転をドラム2の共振点CPよりも低い所定回転数(N1)まで上昇させる。ドラム2の回転数が所定回転数(N1)まで到達したときステップSP2に移行する。本実施形態では、所定回転数(N1)を、ドラム2の共振点CPである約300rpmよりも低い180rpmに設定している。
【0056】
<ステップSP2>
【0057】
ステップSP2では、中央制御部31は、加速度センサ12から与えられた加速度信号に基づいて、偏芯検出手段に偏芯量(M)及び仮偏芯位置θ1を算出させる制御を実行する。具体的に説明すると、中央制御部31は、例えば加速度センサ12から得られた左右方向、上下方向及び前後方向に係る加速度信号を基に、各方向についてそれぞれ偏芯量(M)を算出させる。
【0058】
<ステップSP3>
【0059】
中央制御部31は、各方向についてそれぞれ算出された偏芯量(M)と、メモリ32に格納された偏芯量閾値(ma)とを比較し、M<maが成り立つか否か判断して、立上げ判定を行う。中央制御部31は、M<maが成り立つと判断するとステップSP4に進み、M<maが成り立たないと判断するとステップSP5に進む。ここで、偏芯量閾値(ma)は、バッフル7に調整水Wを供給しても、脱水定常回転数までドラム2の回転数を上昇可能な程度まで偏芯量(M)を低減することが困難なほどに洗濯物の偏りが大きい場合を想定した閾値である。すなわち、ステップSP5に進む場合、バッフル7に調整水Wを供給しても脱水工程を完遂することが難しい程度に偏芯量(M)が大きいことを意味する。
【0060】
偏芯量閾値(ma)について更に説明する。本実施形態では、加速度センサ12は、左右方向、上下方向及び前後方向の加速度をそれぞれ検出し得るものが適用されている。そして、左右方向、上下方向及び前後方向の加速度信号ごとに、異なる偏芯量閾値(ma-x,ma-z,ma-y)が設定されている。
【0061】
<ステップSP4>
【0062】
ステップSP4では、中央制御部31は、ステップSP2において算出された偏芯量(M)が、上下方向、左右方向および前後方向毎にそれぞれ設定された偏芯量閾値(ma)よりも小さいとき、M<maが成り立つと判断して、ドラム2の回転数を上昇させる。また、中央制御部31は、ドラム2の回転数を上昇させながら、継続的に、偏芯量・仮偏芯位置測定の制御を実行している。ここで、「継続的に」とは、必ずしも絶え間なく連続的に行う態様に限られるものではない。脱水定常回転数に至るまでの任意の複数の回転数にまでドラム2の回転数が上昇したときに、間欠的に偏芯量・仮偏芯位置測定の制御を実行する態様としてもよいことは勿論である。
【0063】
ステップSP5では、中央制御部31は、ドラム2の回転を停止させるか、或いはドラム2の回転数を遠心力よりも重力が勝る回転数まで下げることにより、ドラム2内の洗濯物を上下方向に攪拌する偏芯位置調整処理の制御を行う。
【0064】
ステップSP5に示す偏芯位置調整処理の制御について、
図7に基づいて説明する。
図7は、偏芯位置調整処理の手順を示すフローチャートである。
【0065】
まず、ステップSP3により偏芯量(M)が、低減が難しい程度にまで大きいと判断されると、ドラム2の回転を停止する(ステップSP51)。その後、遠心力を下回る回転数にてドラム2を回転させ、ドラム2内の洗濯物を攪拌し、偏芯量(M)を変化させる(ステップSP52)。その後、ステップSP1に戻る。
【0066】
(偏芯量・仮偏芯位置の算出)
ステップSP2に示す仮偏芯位置θ1の算出手順について、
図8~
図9に基づいて説明する。
【0067】
本実施形態では、脱水工程において、加速度センサ12から発信されるドラム2の少なくとも1周期t2を示す加速度に係る信号における任意の時点と近接スイッチ14からパルス信号psが発信されるタイミングとの時間差t1を演算し、時間差t1とドラム2の回転数との関係からドラム2内の周方向における仮偏芯位置θ1を算出し、算出された仮偏芯位置θ1に基づいて偏芯量(M)を低減させる制御を行うとともに、加速度センサ12からの少なくとも前後方向を含む複数の方向に係る信号のうち、何れかの信号を仮偏芯位置θ1の算出に利用する。
【0068】
図8は、加速度に基づいて算出された加速度の時間変化を示す情報と、近接スイッチ14から得られたパルス信号psとの関係を示したグラフである。
図8では便宜上、加速度センサ12から得られた前後方向の加速度の極大値(Ymax)とパルス信号psとの時間差t1から、仮偏芯位置θ1を算出する。なお、
図8に示す本実施形態では一例として、加速度の極大値(Ymax)及び極小値(Ymin)から仮偏芯位置θ1を算出する態様を示したが、本発明の他の実施例として加速度ゼロ点、加速度の極大値(Ymax)、極小値(Ymin)何れか1つ又は複数から仮偏芯位置θ1を算出するようにしてもよい。
【0069】
図9は、偏芯量・仮偏芯位置測定の処理手順を示すフローチャートである。
【0070】
<ステップSP21>
【0071】
ステップSP21では、中央制御部31は、加速度センサ12から、左右方向、前後方向及び上下方向に係る加速度データ(MX,MY,MZ)を検出する。
【0072】
<ステップSP22>
【0073】
ステップSP22では、中央制御部31は、加速度センサ12から得られた加速度データ(MX,MY,MZ)及び近接スイッチ14からの割り込み信号であるパルス信号psから、加速度データ(MX,MY,MZ)の極大値(Xmax,Ymax,Zmax)・極小値(Xmin,Ymin,Zmin)を決定する計算処理を行う。
【0074】
<ステップSP23>
【0075】
ステップSP23では、中央制御部31は、近接スイッチ14からの割り込み信号である複数のパルス信号ps間の間隔から、ドラム2が1回転する時間である1周期t2の値を算出して決定する。
【0076】
<ステップSP24>
【0077】
ステップSP24では、中央制御部31は、近接スイッチ14からの割り込み信号である複数のパルス信号ps及びステップSP22から得られた加速度データ(MX,MY,MZ)の極大値(Xmax,Ymax,Zmax)から、その時間差t1を算出して決定する。中央制御部31は、ステップSP24において、
図8に図示した前後方向に係る時間差t1である時間差t1Y以外に、左右方向、上下方向に係る時間差t1X,t1Zも併せて算出している。
【0078】
<ステップSP25>
【0079】
ステップSP25では、中央制御部31は、ステップSP22から得られた加速度データ(MX,MY,MZ)の極大値(Xmax,Ymax,Zmax)・極小値(Xmin,Ymin,Zmin)から、偏芯量(M)である左右方向、前後方向及び上下方向それぞれに係る偏芯量Mx,My,Mzを算出して決定する。本実施形態では、偏芯量Mx,My,Mzは、極大値(Xmax,Ymax,Zmax)及び極小値(Xmin,Ymin,Zmin)の差から求められる。
【0080】
<ステップSP26>
【0081】
ステップSP26では、中央制御部31は、ステップSP23から得られた1周期t2、ステップSP24から得られた時間差t1から、左右方向、前後方向及び上下方向それぞれに係る仮偏芯位置θX1,θY1,θZ1を以下の式により算出して決定する。
θX1=t1X×360÷t2
θY1=t1Y×360÷t2
θZ1=t1Z×360÷t2
【0082】
(立上げ判定)
ステップSP3に示す立上げ判定について、
図10に基づいて説明する。
図10は、立上げ判定の手順を示すフローチャートである。
【0083】
<ステップSP31>
【0084】
ステップSP31では、中央制御部31は、ステップSP25により決定された左右方向の偏芯量Mxと上下方向の偏芯量Mzとのうち、大きい値を示す偏芯量(M)を選択する。本実施形態では説明の便宜上、選択された偏芯量(M)を偏芯量Mxzと記す。
【0085】
<ステップSP32>
【0086】
ステップSP32では、中央制御部31は、偏芯量Mxzが偏芯量閾値(ma)である閾値mxzを上回っているか否かを判定する。中央制御部31は、偏芯量Mxzが閾値mxzを下回っていればステップSP33へ移行する。中央制御部31は、偏芯量Mxzが閾値mxzを上回っていれば、立上げ不可と判定しステップSP5に移行して偏芯量調整処理を行う。
【0087】
<ステップSP33>
【0088】
ステップSP33では、中央制御部31は、前後方向の偏芯量Myが偏芯量閾値(ma)である閾値myを上回っているか否かを判定する。中央制御部31は、偏芯量Myが閾値myを下回っていれば立上げ可能と判定する。この場合ドラム2の回転数を上昇させる。中央制御部31は、偏芯量Myが閾値myを上回っていれば、立上げ不可と判定し、ステップSP5に移行して偏芯量調整処理を行う。
【0089】
(脱水本工程)
以下、ステップSP4以降の脱水本工程に係る制御について、
図11に基づいて説明する。
図11は、脱水本工程の手順を示すフローチャートである。
【0090】
<ステップSP51>
【0091】
ステップSP51では、中央制御部31は、ドラム2の回転数が400rpmに至るまで回転数を毎秒20rpmずつ上昇させる。中央制御部31は、ステップSP51を行いながら平行してステップSP6を実行する。
<ステップSP52>
【0092】
ステップSP52では、中央制御部31は、ドラム2の回転数が400rpmにまで到達したか否かを判定する。中央制御部31は、回転数が400rpmに到達していなければステップSP51へ移行する。中央制御部31は、回転数が400rpmに到達していればステップSP63へ移行する。
<ステップSP53>
【0093】
ステップSP53では、中央制御部31は、ドラム2の回転数が600rpmに至るまで回転数を毎秒5rpmずつ上昇させる。中央制御部31は、ステップSP53を行いながら並行してステップSP6を実行する。
【0094】
<ステップSP54>
【0095】
ステップSP54では、中央制御部31は、ドラム2の回転数が600rpmにまで到達したか否かを判定する。中央制御部31は、回転数が600rpmに到達していなければステップSP53へ移行する。中央制御部31は、回転数が600rpmに到達していればステップSP55へ移行する。ここで、ドラム2の回転数が400~600rpmまで上昇する際の加速度が他の回転域に比べ低いのは、洗濯物から脱水される水の量が当該回転域では他の回転域より多く、脱水される水による不要な騒音を低減させるためである。
<ステップSP55>
【0096】
ステップSP55では、中央制御部31は、ドラム2の回転数が800rpmに至るまで回転数を毎秒20rpmずつ上昇させる。中央制御部31は、ステップSP55を行いながら並行してステップSP6を実行する。
<ステップSP56>
【0097】
ステップSP56では、中央制御部31は、ドラム2の回転数が800rpmにまで到達したか否かを判定する。中央制御部31は、回転数が800rpmに到達していなければステップSP55へ移行する。中央制御部31は、回転数が800rpmに到達していればステップSP57へ移行する。
【0098】
<ステップSP57>
【0099】
ステップSP57では、中央制御部31は、ドラム2の回転数が脱水定常回転数であるに800rpmまで到達すると、そのまま脱水工程を継続し、予め定められた時間が経過したことを確認した後に洗濯を終了する。換言すれば中央制御部31は、通常の洗濯における脱水工程同様、ドラム2を脱水定常回転数で所定時間回転させ、脱水処理を行う。その後、脱水処理は終了される。そして、脱水が終了してドラム2の減速が始まり、遠心力が重力加速度を下回ると、バッフル7内の調整水Wが流れ出し、排水される。
【0100】
図12は、本実施形態の洗濯機1の脱水工程の概要を示すグラフである。
図12において、縦軸はドラム2の回転数を示し、横軸は時間を示す。
図12では、バッフル7へ注水することなくドラム2の回転数が脱水定常回転数にまで到達したときの回転数の挙動を実線にて示している。また、
図12では、1度だけバッフル7へ注水した後、回転数が脱水定常回転数にまで到達したときの回転数の挙動を上側の想像線にて示し、ステップSP5に係るドラム2の回転数の挙動を下側の想像線で示す。
【0101】
(注水工程)
ステップSP6に示す注水工程について、
図13に基づいて説明する。
図13は、注水工程の概要を示すフローチャートである。
【0102】
ステップSP6では、中央制御部31は、
図6に示したステップSP2にて算出された偏芯量(M)が、ドラム2の回転数毎に予め設定された注水用偏芯量閾値(mb)よりも大きいか否かの判定を行う。中央制御部31は、偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)よりも低いときはバッフル7への注水を行うことなく、
図11の脱水本工程へ移行する。中央制御部31は、偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)よりも大きいときは、注水工程においてバッフル7への注水を行って、偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)よりも低くなった後に、
図11の脱水本工程へ移行する。
【0103】
本実施形態の注水工程では、上述したようにドラム2の回転数が180rpmに到達して以降継続して行われている偏芯量・仮偏芯位置測定の処理のもと、ステップSP61である正式偏芯位置の算出処理と、ステップSP64である注水処理とが主に行われている。
【0104】
<ステップSP61>
【0105】
ステップSP61では、中央制御部31は、仮偏芯位置θ1から正式偏芯位置θ-fixを算出する。正式偏芯位置θ-fixの算出方法は、後で説明する。
【0106】
<ステップSP62>
【0107】
ステップSP62では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixを、ステップSP61で算出された値に更新するか否かを判定して、正式偏芯位置θ-fixを決定する。
【0108】
<ステップSP63>
【0109】
ステップSP63では、中央制御部31は、偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)を上回っているか否かを判定する。偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)を上回っていれば、ステップSP64へ移行する。偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)を下回っていれば、注水工程を終了する。
【0110】
<ステップSP64>
【0111】
ステップSP64では、中央制御部31は、ドラム2の回転数を上昇させずに維持させた状態で、注水処理を行う。その後、ステップSP65へ移行する。
【0112】
<ステップSP65>
【0113】
ステップSP65では、中央制御部31は、偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)を上回っているか否かを判定する。偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)を上回っていれば、ステップSP61へ移行する。偏芯量(M)が注水用偏芯量閾値(mb)を下回っていれば、注水工程を終了する。
【0114】
(正式偏芯位置の算出処理)
ステップSP61に示す正式偏芯位置の算出処理について、
図14~
図17に基づいて説明する。
【0115】
ドラム2のアンバランス状態として、
図14に示すように、4種類のアンバランス状態が考えられる。
図14(a)~
図14(d)は、4種類のアンバランス状態におけるドラム2の円周方向についての偏芯位置と、奥行方向についての偏芯位置とを示している。
【0116】
アンバランス状態aは、偏芯位置がドラム2の前端側にある状態であり、アンバランス状態bは、偏芯位置がドラム2の中央付近にある状態であり、アンバランス状態cは、偏芯位置がドラム2の後端側にある状態であり、アンバランス状態dは、偏芯位置がドラム2の前端側と後端側とに相対するように位置づけられる状態(対向偏芯負荷状態)である。対向偏芯負荷状態とは、
図14(d)に示すように、2つの偏芯位置がドラム2の回転軸に関して軸対称に配置され、且つ、奥行方向について2つの偏芯位置が前後方向にずれている状態をいう。
【0117】
アンバランス状態a及びアンバランス状態bでは、ドラム2の前端側の左右方向及び上下方向の振動がドラム2の後端側の左右方向及び上下方向の振動より大きい。アンバランス状態c及びアンバランス状態dでは、ドラム2の後端側の左右方向及び上下方向の振動が、ドラム2の前端側の左右方向及び上下方向の振動より大きい、且つ、アンバランス状態a及びアンバランス状態bにおけるドラム2の後端側の左右方向及び上下方向の振動より大きい。すなわち、アンバランス状態c及びアンバランス状態dでは、ドラム2の前後方向の振動が、アンバランス状態a及びアンバランス状態bより大きい。
【0118】
図14(a)~
図14(d)に示すように、ドラム2内の偏芯位置が異なると、ドラム2の振動状態が異なる。そのため、本実施形態において、正式偏芯位置θ-fixは、ドラム2の振動状態、すなわちドラム2のアンバランス状態を考慮して算出される。
【0119】
本実施形態では、加速度センサ12が、左右方向、上下方向及び前後方向の加速度を検出し得る3軸のセンサとなっている。これにより、
図14(a)~
図14(d)に示すようにドラム2内の偏芯位置が異なる状態であっても、偏芯量(M)及び偏芯位置(N)を正確に検出することができる。
【0120】
(正式偏芯位置の算出処理)
ステップSP61に示す正式偏芯位置の算出処理について、
図15に基づいて説明する。
図15は、正式偏芯位置の算出処理を示すフローチャートである。
【0121】
<ステップSP611>
【0122】
ステップSP611では、中央制御部31は、上述したように、1周期t2及び時間差t1から、前後方向及び上下方向それぞれに係る仮偏芯位置θY1,θZ1を以下の式により算出する。
θY1=t1Y×360÷t2
θZ1=t1Z×360÷t2
【0123】
<ステップSP612>
【0124】
ステップSP612では、中央制御部31は、判定使用値M1を算出する。判定使用値M1は、Y方向の加速度データMYとZ方向の加速度データMZとの差である。
M1=MY-MZ
【0125】
<ステップSP613>
【0126】
ステップSP613では、中央制御部31は、判定使用値M2を算出する。判定使用値M2は、Z方向の加速度データMZを2倍した値とY方向の加速度データMYとの差である。
M2=2×MZ-MY
【0127】
<ステップSP614>
【0128】
ステップSP614では、中央制御部31は、対向負荷判定値Tの絶対値を算出する。対向負荷判定値Tは、前後方向に係る仮偏芯位置θY1と上下方向に係る仮偏芯位置θZ1との差である。
T=θY1-θZ1
【0129】
<ステップSP615>
【0130】
ステップSP615では、中央制御部31は、判定使用値M1、判定使用値M2及び対向負荷判定値Tの絶対値に基づいて、正式偏芯位置θ-fixを算出する。
【0131】
すなわち、ステップSP615では、中央制御部31は、
図16に示す4つの変換式A~Dにより計算されるθZ2-1,θZ2-2,θY2-1,θY2-2の何れかの値を、
図17の判定表に基づいて、正式偏芯位置θ-fixに算出する。
図16において、4つの変換式A~Dは、ドラム2の回転数を変数とする変換式である。また、変換式Bは、ドラム2の回転数及び振幅量を変数とする変換式である。
【0132】
具体的には、
図17の判定表では、判定使用値M1,M2の大きさと、Z方向の加速度データMZと、対向負荷判定値Tの絶対値とに基づいて、条件1~5に区分されており、条件1~5のそれぞれに対して、4つの変換式A~Dにより計算されるθZ2-1,θZ2-2,θY2-1,θY2-2の何れかの値が対応している。
【0133】
図17の判定使用値M1についての閾値Aは、ドラム2の回転数に応じて変化する値である。
A=-0.18×(ドラム回転数)+68
【0134】
図17の判定使用値M2についての閾値Bは、ドラム2の回転数に応じて変化する値である。
B=0.75×(ドラム回転数)-225
【0135】
(条件1):
判定使用値M1が閾値A未満であり、Z方向の加速度データMZが130未満である場合、正式偏芯位置θ-fixとして、変換式Aにより計算されるθZ2-1に決定される。
【0136】
(条件2):
判定使用値M1が閾値A未満であり、Z方向の加速度データMZが130以上である場合、正式偏芯位置θ-fixとして、変換式Bにより計算されるθZ2-2に決定される。
【0137】
(条件3):
判定使用値M1が閾値A以上であり、判定使用値M2が閾値B未満であり、対向負荷判定値Tの絶対値が150未満である場合、正式偏芯位置θ-fixとして、変換式Cにより計算されるθY2-1に決定される。
【0138】
(条件4):
判定使用値M1が閾値A以上であり、判定使用値M2が閾値B未満であり、対向負荷判定値Tの絶対値が150以上である場合、正式偏芯位置θ-fixとして、変換式Dにより計算されるθY2-2に決定される。
【0139】
(条件5):
判定使用値M1が閾値A以上であり、判定使用値M2が閾値B以上であり、対向負荷判定値Tの絶対値が150以上である場合、正式偏芯位置θ-fixとして、変換式Dにより計算されるθY2-2に決定される。
【0140】
上述した4つの変換式A~Dは、
図14に示した互いに異なるドラム2のアンバランス状態a~dにそれぞれ対応している。そのため、中央制御部31は、
図17の判定表に基づいて正式偏芯位置θ-fixを算出すると、中央制御部31は、ドラム2のアンバランス状態a~dごとに、そのアンバランスa~dに対応した変換式A~Dの何れかにより、正式偏芯位置θ-fixを算出したことになる。
【0141】
(正式偏芯位置の更新判定)
ステップSP62に示す正式偏芯位置の更新判定について、
図18に基づいて説明する。
図18は、正式偏芯位置の更新判定の手順を示すフローチャートである。
【0142】
上述のようにして、ステップSP615において正式偏芯位置θ-fixが算出されると、ステップSP62において、正式偏芯位置θ-fixを、ステップSP615で算出された値に更新するか否かを判定する。
【0143】
<ステップSP621>
【0144】
ステップSP621では、中央制御部31は、1回前の正式偏芯位置θ-fixを、θ-fix-beforeとして記憶する。
【0145】
<ステップSP622>
【0146】
ステップSP622では、中央制御部31は、ステップSP615で算出された正式偏芯位置θ-fixを、θ-fix-afterとして記憶する。
【0147】
<ステップSP623>
【0148】
ステップSP623では、中央制御部31は、ステップSP622で記憶されたθ-fix-afterと、ステップSP621で記憶されたθ-fix-beforeとの差を算出し、θ-fix-difとする。
【0149】
<ステップSP624>
【0150】
ステップSP624では、中央制御部31は、ステップSP623で算出されたθ-fix-difの絶対値が150以上であるか否かを判定する。θ-fix-difの絶対値が150以上である場合、ステップSP625に移行する。θ-fix-difの絶対値が150度以上でない場合、ステップSP626に移行する。
【0151】
<ステップSP625>
【0152】
ステップSP625では、中央制御部31は、ステップSP624でθ-fix-difの絶対値が150度以上であり、正式偏芯位置θ-fixが急激に変化しているため、正式偏芯位置θ-fixを、θ-fix-afterに更新しないで、θ-fix-beforeとする。
【0153】
<ステップSP626>
【0154】
ステップSP626では、中央制御部31は、ステップSP624でθ-fix-difの絶対値が150度以上でないため、正式偏芯位置θ-fixを、θ-fix-beforeからθ-fix-afterに更新する。
【0155】
(注水処理)
ステップSP64に示す注水処理について、
図19に基づいて説明する。
図19は、注水処理の手順を示すフローチャートである。
【0156】
<ステップSP641>
【0157】
ステップSP641では、中央制御部31は、給水バルブ62a,62b,62cの駆動に適用する正式偏芯位置θ-fixとして、ステップSP61で算出された正式偏芯位置θ-fixを取得する。中央制御部31は、ステップSP61で算出された正式偏芯位置θ-fixに基づいて、注水すべきバッフル7を判定する。本実施形態では、正式偏芯位置θ-fixは、
図5に示すように、軸心S1の周方向に延びる任意の仮想線からの相対角度で示され、0°~359°を意味する0~359の何れかの数値として
図19に図示される。
【0158】
<ステップSP642>
【0159】
ステップSP642は、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが10より小さいか或いは350よりも大きい値であるという条件に該当するか否かを判定する。中央制御部31は、上記条件に該当する場合は、ステップSP643へ移行する。中央制御部31は、上記条件に該当しない場合は、ステップSP644へ移行する。
【0160】
<ステップSP643>
【0161】
ステップSP643では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが、
図5に示す領域P(A)内にあると判定するとともに、給水バルブ62aを駆動し、バッフル7(A)へ給水する。
【0162】
<ステップSP644>
【0163】
ステップSP644では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが10以上であり且つ110以下の値であるという条件に該当するか否かを判定する。中央制御部31は、上記条件に該当する場合は、ステップSP645へ移行する。中央制御部31は、上記条件に該当しない場合は、ステップSP646へ移行する。
【0164】
<ステップSP645>
【0165】
ステップSP645では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが、
図5に示す領域P(AB)内にあると判定するとともに、給水バルブ62a,62bを駆動し、バッフル7(A),7(B)へ給水する。
【0166】
<ステップSP646>
【0167】
ステップSP646では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが110以上であり且つ130以下の値であるという条件に該当するか否かを判定する。中央制御部31は、上記条件に該当する場合は、ステップSP647へ移行する。中央制御部31は、上記条件に該当しない場合は、ステップSP648へ移行する。
【0168】
<ステップSP647>
【0169】
ステップSP647では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが、
図5に示す領域P(B)内にあると判定するとともに、給水バルブ62bを駆動し、バッフル7(B)へ給水する。
【0170】
<ステップSP648>
【0171】
ステップSP648では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが130以上であり且つ230以下の値であるという条件に該当するか否かを判定する。中央制御部31は、上記条件に該当する場合は、ステップSP649へ移行する。中央制御部31は、上記条件に該当しない場合は、ステップSP650へ移行する。
【0172】
<ステップSP649>
【0173】
ステップSP649では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが、
図5に示す領域P(BC)内にあると判定するとともに、給水バルブ62b,62cを駆動し、バッフル7(B),7(C)へ給水する。
【0174】
<ステップSP650>
【0175】
ステップSP650では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが230以上であり且つ250以下の値であるという条件に該当するか否かを判定する。中央制御部31は、上記条件に該当する場合は、ステップSP651へ移行する。中央制御部31は、上記条件に該当しない場合は、ステップSP652へ移行する。
【0176】
<ステップSP651>
【0177】
ステップSP651では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが、
図5に示す領域P(C)内にあると判定するとともに、給水バルブ62cを駆動し、バッフル7(C)へ給水する。
【0178】
<ステップSP652>
【0179】
ステップSP652では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが250以上であり且つ350以下の値であるという条件に該当すると判定するとともに、ステップSP653へ移行する。
【0180】
<ステップSP653>
【0181】
ステップSP653では、中央制御部31は、正式偏芯位置θ-fixが、
図5に示す領域P(CA)内にあると判定するとともに、給水バルブ62c、62aを駆動し、バッフル7(C),7(A)へ給水する。
【0182】
本実施形態では、
図19に示す給水バルブの駆動の処理を行いながら、常に、仮偏芯位置θ1及び正式偏芯位置θ-fixの算出と、正式偏芯位置θ-fixの決定を行っている。
【0183】
<ステップSP66>
【0184】
上述のようにして、バッフル7(A),7(B),7(C)の1つまたは2つへの給水が開始された後、ステップSP66では、中央制御部31は、ドラム2の偏芯状態が対向偏芯負荷状態(
図14(d)のアンバランス状態d)であるか否かを判定する。ドラム2の偏芯状態が対向偏芯負荷状態である場合、ステップSP67へ移行する。ドラム2の偏芯状態が対向偏芯負荷状態でない場合、ステップSP673へ移行する。
【0185】
<ステップSP67>
【0186】
ドラム2の偏芯状態が対向偏芯負荷状態である場合、ステップSP67では、中央制御部31は、ドラム2の振動状態に基づいて、注水位置を変えるか、または、注水停止するかを判定する。注水位置を変えると判定した場合、ステップSP671へ移行する。注水停止と判定した場合、ステップSP672へ移行する。注水位置を変えない且つ注水停止しないと判定した場合、ステップSP673へ移行する。
【0187】
<ステップSP671>
【0188】
ステップSP671では、中央制御部31は、注水位置を反対側に変えるように、注水装置1cを制御する。
【0189】
<ステップSP672>
【0190】
ステップSP672では、中央制御部31は、注水を停止するように、注水装置1cを制御する。
【0191】
<ステップSP673>
【0192】
ステップSP673では、中央制御部31は、注水が継続されるように、注水装置1cを制御する。
【0193】
(対向偏芯負荷の判定)
ステップSP66に示す対向偏芯負荷の判定について、
図20に基づいて説明する。
図20は、対向偏芯負荷の判定手順を示すフローチャートである。
【0194】
<ステップSP661>
【0195】
ステップSP661では、中央制御部31は、判定使用値M1を算出する。判定使用値M1は、Y方向の加速度データMYとZ方向の加速度データMZとの差である。
M1=MY-MZ
【0196】
<ステップSP662>
【0197】
ステップSP662では、中央制御部31は、判定使用値M1が閾値A以上であるという条件に該当するか否かを判定する。中央制御部31は、上記条件に該当する場合は、ステップSP663へ移行する。中央制御部31は、上記条件に該当しない場合は、ステップSP667へ移行する。
【0198】
判定使用値M1についての閾値Aは、ドラム2の回転数に応じて変化する値である。
A=-0.18×(ドラム回転数)+68
【0199】
<ステップSP663>
【0200】
ステップSP663では、中央制御部31は、ドラム2の偏芯位置は、ドラム奥に単一偏芯状態または対向偏芯負荷状態であると判定する。
【0201】
<ステップSP664>
【0202】
ステップSP664では、中央制御部31は、対向負荷判定値Tを算出する。対向負荷判定値Tは、前後方向に係る仮偏芯位置θY1と上下方向に係る仮偏芯位置θZ1との差である。
T=θY1-θZ1
【0203】
<ステップSP665>
【0204】
ステップSP665では、中央制御部31は、対向負荷判定値Tの絶対値が150以上であるという条件に該当するか否かを判定する。対向負荷判定値Tの絶対値が150以上であるという条件は、前後方向に係る仮偏芯位置θY1と上下方向に係る仮偏芯位置θZ1との位相差が150度以上であることを意味する。すなわち、仮偏芯位置θY1と仮偏芯位置θZ1との位相差が180度に近いため、仮偏芯位置θY1と仮偏芯位置θZ1とが略対向する状態(対向偏芯負荷状態)である。対向偏芯負荷状態であるか否かを判定する場合において、仮偏芯位置θY1と仮偏芯位置θZ1との位相差の閾値は、150に限られない。中央制御部31は、上記条件に該当する場合は、ステップSP666へ移行する。中央制御部31は、上記条件に該当しない場合は、ステップSP667へ移行する。
【0205】
<ステップSP666>
【0206】
ステップSP666では、中央制御部31は、ドラム2の偏芯位置は、対向偏芯負荷状態であると判定する。
【0207】
<ステップSP667>
【0208】
ステップSP667では、中央制御部31は、ドラム2の偏芯位置は、対向偏芯負荷状態でないと判定する。
【0209】
本発明の洗濯機1では、ドラム2の偏芯位置が対向偏芯負荷状態である場合に、加速度センサ12により検出された加速度データ(MX,MY,MZ)に基づいて、ドラム2の振動状態に基づいて注水制御判定が行われる。
【0210】
(ドラムの振動状態に基づいて注水制御判定)
ステップSP67に示す注水制御判定について、
図21に基づいて説明する。
図21は、注水制御判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0211】
ステップSP67では、中央制御部31は、ステップSP66においてドラム2のアンバランス状態は対向偏芯負荷状態であると判定した後、ドラム2の振動状態に基づいて、注水位置を変えるか、注水を停止するか、注水を継続するかを判定する。
【0212】
<ステップSP671>
【0213】
ステップSP671では、中央制御部31は、左右・上下振動の平均値A1、すなわち、X方向の加速度データMXとZ方向の加速度データMZとの平均値A1を計測する。
【0214】
<ステップSP672>
【0215】
ステップSP672では、中央制御部31は、左右・上下振動の平均値A1の1秒間の変化量A2を計測する。
【0216】
<ステップSP673>
【0217】
ステップSP673では、中央制御部31は、前後振動の平均値A3、すなわち、Y方向の加速度データMYの平均値A3を計測する。
【0218】
<ステップSP674>
【0219】
ステップSP674では、中央制御部31は、前後振動の平均値A3の1秒間の変化量A4を計測する。
【0220】
<ステップSP675>
【0221】
ステップSP675では、中央制御部31は、左右・上下振動の平均値A1と、平均値A1の1秒間の変化量A2と、前後振動の平均値A3と、平均値A3の1秒間の変化量A4と、判定表とに基づいて、注水位置を変えるか、注水処理を停止するか、注水を継続するかを判定する。
【0222】
図22は、ドラム2の回転数が200~250rpmの場合の判定表を示し、
図23は、ドラム2の回転数が450~500rpmの場合の判定表を示している。
図22及び
図23の判定表では、上述のA1,A2,A3,A4に基づいて、条件1~4に区分されており、条件1~4のそれぞれに対して、注水位置を変える制御、または、注水処理を停止する制御の何れかが対応している。
【0223】
本実施形態では、中央制御部31は、判定表の条件1、2のいずれかであると判定した場合、注水されているバッフル7と反対側のバッフル7に変える。すなわち、中央制御部31は、1つのバッフル7に注水が行われているときに注水位置を反対側に変える場合、その注水が行われている1つのバッフル7への注水を停止して、その1つのバッフル7と反対側の2つのバッフル7への注水を行う。中央制御部31は、2つのバッフル7に注水が行われているときに注水位置を反対側に変える場合、その注水が行われている2つのバッフル7への注水を停止して、その2つのバッフル7と反対側の1つのバッフル7への注水を行う。
【0224】
例えば、バッフル7(A)に注水が行われているときに注水位置を反対側に変える場合、中央制御部31は、バッフル7(A)に注水が行われる状態から、バッフル7(B)及びバッフル7(C)に注水が行われる状態に変える。バッフル7(B)に注水が行われているときに注水位置を反対側に変える場合、中央制御部31は、バッフル7(B)に注水が行われる状態から、バッフル7(A)及びバッフル7(C)に注水が行われる状態に変える。バッフル7(C)に注水が行われているときに注水位置を反対側に変える場合、中央制御部31は、バッフル7(C)に注水が行われる状態から、バッフル7(A)及びバッフル7(B)に注水が行われる状態に変える。
【0225】
また、例えば、バッフル7(B)及びバッフル7(C)に注水が行われるときに注水位置を反対側に変える場合、中央制御部31は、バッフル7(B)及びバッフル7(C)に注水が行われる状態から、バッフル7(A)に注水が行われる状態に変える。バッフル7(A)及びバッフル7(C)に注水が行われるときに注水位置を反対側に変える場合、中央制御部31は、バッフル7(A)及びバッフル7(C)に注水が行われる状態から、バッフル7(B)に注水が行われる状態に変える。バッフル7(A)及びバッフル7(B)に注水が行われるときに注水位置を反対側に変える場合、中央制御部31は、バッフル7(A)及びバッフル7(B)に注水が行われる状態から、バッフル7(C)に注水が行われる状態に変える。
【0226】
脱水工程において、ドラム2の回転数が200~250rpmの場合、
図22の判定表が適用される。
【0227】
(条件1):
左右・上下振動の平均値A1が100未満であり、左右・上下振動の変化量A2が10以上であり、前後振動の変化量A4が-5以下である場合、注水位置を反対側に変える制御に決定される。
【0228】
(条件1)を満たす場合、左右・上下振動の平均値A1は比較的小さいが、左右・上下振動の変化量A2が大きく、ドラム2の左右・上下振動が増加しているため、注水位置が反対側に変えられる。なお、前後振動の変化量A4が-5以下であり、ドラム2の前後振動は減少している。よって、左右・上下振動の変化量A2と前後振動の変化量A4とが対比されて、注水位置を反対側に変えるか否かが判定される。すなわち、注水位置を反対側に変えるか否かは、左右・上下振動の変化量A2と前後振動の変化量A4との関係に基づいて判定される。
【0229】
(条件2):
左右・上下振動の平均値A1が100以上であり、左右・上下振動の変化量A2が5以上であり、前後振動の変化量A4が-5以下である場合、注水位置を反対側に変える制御に決定される。
【0230】
(条件2)を満たす場合、左右・上下振動の平均値A1は比較的大きく、左右・上下振動の変化量A2が大きくないが、ドラム2の左右・上下振動が増加しているため、注水位置が反対側に変えられる。なお、前後振動の変化量A4が-5以下であり、ドラム2の前後振動は減少している。よって、左右・上下振動の変化量A2と前後振動の変化量A4とが対比されて、注水位置を反対側に変えるか否かが判定される。すなわち、注水位置を反対側に変えるか否かは、左右・上下振動の変化量A2と前後振動の変化量A4との関係に基づいて判定される。
【0231】
(条件3):
左右・上下振動の変化量A2が0以上である場合、注水を停止する制御に決定される。
【0232】
(条件3)を満たす場合、左右・上下振動の変化量A2が0以上であり、ドラム2の左右・上下振動が増加しているため、注水が停止される。
【0233】
(条件4):
前後振動の平均値A3が150以上であり、前後振動の変化量A4が10以上である場合、注水を停止する制御に決定される。
【0234】
(条件4)を満たす場合、前後振動の平均値A3は大きいと共に、前後振動の変化量A4が10以上であり、ドラム2の前後振動は増加しているため、注水が停止される。
【0235】
なお、判定表は、条件1から条件4の順に判定する。条件1~4の何れにも該当しない場合、注水位置を変化させずに、注水処理を継続する。
【0236】
脱水工程において、ドラム2の回転数が450~500rpmの場合、
図23の判定表が適用される。
【0237】
(条件1):
左右・上下振動の平均値A1が200未満であり、左右・上下振動の変化量A2が20以上であり、前後振動の変化量A4が-10以下である場合、注水位置を反対側に変える対応に決定される。
【0238】
(条件2):
左右・上下振動の平均値A1が200以上であり、左右・上下振動の変化量A2が10以上であり、前後振動の変化量A4が-10以下である場合、注水位置を反対側に変える対応に決定される。
【0239】
(条件3):
左右・上下振動の変化量A2が0以上である場合、注水を停止する対応に決定される。
【0240】
(条件4):
前後振動の平均値A3が300以上であり、前後振動の変化量A4が20以上である場合、注水を停止する対応に決定される。
【0241】
なお、判定表は、条件1から条件4の順に判定する。条件1~4の何れにも該当しない場合、注水位置を変化させずに、注水処理を継続する。
【0242】
上述したように、
図22及び
図23の判定表の閾値は、脱水工程でのドラム2の回転数に応じて変化する。例えば、ドラム2の回転数が250rpmから500rpmに増えた場合、同一の振幅と仮定すると、500rpmのときの加速度は、250rpmのときの4倍になる。通常、ドラム2の回転数が上昇した場合に同一の振幅は厳しいため、500rpmのときの振幅が、250rpmのときの振幅の1/2とすると、加速度は2倍となることを考慮して、
図22及び
図23の判定表の条件1~4についての閾値が設定されている。
【0243】
図24及び
図25は、判定使用値M1とドラム2のアンバランス状態との関係を示す図であり、横軸はドラム回転数であり、縦軸は判定使用値M1の値である。
図24及び
図25に示すように、判定使用値M1が閾値A未満である場合、偏芯位置がドラム2の前端側にある状態(アンバランス状態a)、または、偏芯位置がドラム2の中央付近にある状態(アンバランス状態b)のいずれかである。判定使用値M1が閾値A以上である場合、偏芯位置がドラム2の後端側にある状態(アンバランス状態c)、または、対向偏芯負荷状態(アンバランス状態d)のいずれかである。
【0244】
図26及び
図27は、判定使用値M2とドラム2のアンバランス状態との関係を示す図であり、横軸はドラム回転数であり、縦軸は判定使用値M2の値である。
図26及び
図27に示すように、判定使用値M2が閾値B以上である場合、偏芯位置がドラム2の前端側にある状態(アンバランス状態a)、偏芯位置がドラム2の中央付近にある状態(アンバランス状態b)または、ドラム2の前端側が大きい対向偏芯負荷状態(アンバランス状態d)のいずれかである。判定使用値M2が閾値B未満である場合、偏芯位置がドラム2の後端側にある状態(アンバランス状態c)、または、ドラム2の後端側が大きい対向偏芯負荷状態(アンバランス状態d)のいずれかである。
【0245】
本実施形態の洗濯機1は、水平方向又は傾斜方向に延びる軸線周りに回転可能に構成された有底筒状のドラム2と、ドラム2の軸線方向に沿ってドラム2の内周面に複数配設される中空のバッフル7と、バッフル7の各々に注水するための注水装置1cと、ドラム2の振動を検出する加速度検出手段である加速度センサ12と、ドラム2の回転に応じてパルス信号を発信するドラム位置検出装置である近接スイッチ14と、ドラム2内の偏芯量及び偏芯位置を検出する偏芯検出手段であるアンバランス量検出部35とアンバランス位置検出部36と、脱水工程において、偏芯量(M)が所定の注水用偏芯量閾値(mb)に達したとき、偏芯位置に対応するバッフル7に注水するように注水装置1cを制御する制御手段である中央制御部31とを備え、アンバランス量検出部35とアンバランス位置検出部36は、加速度センサ12により検出されたドラム2の振動に対応した加速度データと近接スイッチ14により検出されたパルス信号との関係性に基づいて算出された複数の変換式A~Dの何れかに基づいてドラム2内の偏芯位置を検出する。
【0246】
これにより、本実施形態の洗濯機1によれば、加速度センサ12により検出されたドラム2の振動に対応した加速度データと、近接スイッチ14により検出されたパルス信号との関係性に基づいて算出された複数の変換式A~Dの何れかに基づいて、ドラム2内の偏芯位置が検出される。そのため、種々のドラム2の振動状態に対応するように算出された複数の変換式A~Dのなかから、そのときのドラム2の振動状態に対応する変換式を選択してドラム2内の偏芯位置を検出することにより、ドラム2のアンバランス状態を適正に検知できる。よって、ドラム2の偏芯状態にかかわらず、ドラム2内の偏芯位置を適正に算出して、その偏芯位置に基づいてバッフル7に注水を行うことにより、ドラム2のアンバランス状態を解消できる。
【0247】
本実施形態の洗濯機1において、複数の変換式A~Dは、ドラム2の回転数を変数とする変換式である。
【0248】
これにより、本実施形態の洗濯機1によれば、ドラム2の回転数を変数とする変換式によりドラム2内の偏芯位置を検出するので、ドラム2の回転数の違いにより発生する加速度データとパルス信号との関係性の相違を補正することができる。これによってドラム2のアンバランス状態を適正に検知することができる。
【0249】
本実施形態の洗濯機1において、複数の変換式A~Dは、ドラム2の回転数及び振幅量を変数とする変換式を含む。
【0250】
これにより、本実施形態の洗濯機1によれば、ドラム2の回転数及び振幅量を変数とする変換式によりドラム2内の偏芯位置を検出するので、ドラム2の回転数及び振幅量の違いにより発生する加速度データとパルス信号の関係性の相違を補正することができる。これによってドラム2のアンバランス状態をより適正に検知することができる。
【0251】
本実施形態の洗濯機1において、偏芯検出手段であるアンバランス量検出部35とアンバランス位置検出部36は、加速度検出手段である加速度センサ12により検出されたドラム2の振動に対応した加速度データ、及び、加速度データとパルス信号との関係性の両方に基づいて選択された変換式に基づいてドラム2内の偏芯位置を検出する。
【0252】
これにより、本実施形態の洗濯機1によれば、ドラム2の振動に対応した加速度データ、及び、加速度データとドラム2の回転に応じたパルス信号との関係性の両方に基づいて選択された変換式に基づいてドラム2内の偏芯位置を検出することにより、そのときのドラム2の振動状態に対応する適正な変換式を選択できる。
【0253】
本実施形態の洗濯機1において、偏芯検出手段であるアンバランス量検出部35とアンバランス位置検出部36は、加速度検出手段である加速度センサ12により検出されたドラム2の振動に対応した加速度データをドラム2の回転数を変数とする閾値と比較して変換式を選択する。
【0254】
これにより、本実施形態の洗濯機1によれば、ドラム2の振動に対応した加速度データを、ドラム2の回転数を変数とする閾値と比較して変換式を選択することにより、ドラム2の回転数が異なる場合でも、ドラム2のアンバランス状態を適正に検知できる。
【0255】
本実施形態の洗濯機1において、偏芯検出手段は、複数の変換式の何れかに基づいてドラム2内の偏芯位置を検出したときに、ドラム2内の偏芯位置が直前の偏芯位置から閾値以上変化した場合、ドラム2内の偏芯位置を直前の偏芯位置から更新しない。
【0256】
これにより、本実施形態の洗濯機1によれば、注水により対向偏芯負荷状態が発生しドラム2内の偏芯位置が急激に変化した場合に、ドラム2の偏芯位置は変化してないとみなすことにより、誤ったバッフル7に注水することを防止することができる。これによって、注水すべきバッフル7を適正に選択して注水を行うことができるので、ドラム2内の偏芯を確実に打ち消すことができる。
【0257】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本実施形態の構成は上述したものに限定されず、種々の変形が可能である。
【0258】
上記実施形態では、加速度検出手段として、左右方向、上下方向及び前後方向の加速度を検出し得る3軸の加速度センサ12を1つ配置していたが、それに限られない。よって、本発明の加速度検出手段は、ドラム2の前端側の左右方向及び上下方向の2方向の加速度を検出する加速度センサと、ドラム2の後端側の左右方向及び上下方向の2方向の加速度を検出する加速度センサとを含んでいてよい。
【0259】
本発明の加速度検出手段は、ドラム2の前端側の上下方向、左右方向、前後方向のうち何れか2方向の加速度を検出し得ると共に、ドラム2の後端側の上下方向、左右方向、前後方向のうち何れか2方向の加速度を検出し得るものであれば、本発明の効果が得られる。
【0260】
上記実施形態では、洗濯機1として、家庭用として好適に利用され得る所謂斜めドラム型全自動洗濯機に本発明を適用した例を開示したが勿論、コインランドリー店舗にて広く好適に適用されている横型の洗濯乾燥機であっても、本発明に係る制御方法は好適に適用され得る。
【0261】
上記実施形態では、バッフル7を3つ設けた態様を開示したが勿論バッフル7を4つ以上備えた構成としてもよい。またバッフル7は必ずしもドラム2の周方向に関して等角度間隔で配置されることは要さず、またそれぞれ同じ形状であることも要さないことは勿論である。
【0262】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0263】
1 洗濯機
1c 注水装置
2 ドラム
7 バッフル
12 加速度センサ(加速度検出手段)
14 近接スイッチ(ドラム位置検出装置)
31 中央制御部(制御手段)
35 アンバランス量検出部(偏芯検出手段)
36 アンバランス位置検出部(偏芯検出手段)