(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物及びそれを封入した軸受
(51)【国際特許分類】
C10M 105/18 20060101AFI20240226BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20240226BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240226BHJP
C10M 125/18 20060101ALN20240226BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240226BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240226BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
C10M105/18
C10M169/04
F16C33/66 Z
C10M125/18
C10N40:02
C10N30:06
C10N30:12
(21)【出願番号】P 2019170659
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506103636
【氏名又は名称】ウシオケミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】岡本 一男
(72)【発明者】
【氏名】大槻 裕之
(72)【発明者】
【氏名】板橋 成政
(72)【発明者】
【氏名】竹村 彩奈
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105874(JP,A)
【文献】特公昭46-025210(JP,B1)
【文献】特開2002-129179(JP,A)
【文献】特開2019-112495(JP,A)
【文献】特開2015-199934(JP,A)
【文献】特開2016-150954(JP,A)
【文献】特開2020-012034(JP,A)
【文献】特開2006-182927(JP,A)
【文献】特開平05-213856(JP,A)
【文献】特開昭63-235399(JP,A)
【文献】特開昭52-130804(JP,A)
【文献】特表平11-512758(JP,A)
【文献】池本雄次,日本船用機関学会誌,極圧添加剤の作用機構,第6巻第11号,日本,1971年,794-806頁,URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime1966/6/11/6_11_794/_pdf/-char/ja
【文献】長沼敏夫,潤滑,第15巻第6号,日本,1970年,345-351頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2環液晶化合物、3環液晶化合物、及びハロゲンイオンを含む潤滑剤組成物であって、
前記2環液晶化合物が、実質的に、以下の式(1)で表される2環液晶化合物の少なくとも1種
のみからなり、
前記3環液晶化合物が、実質的に、以下の式(2)で表される3環液晶化合物の少なくとも1種
のみからなり、
前記ハロゲンイオンの含有量が
、1ppm以上900ppm以下である、潤滑剤組成物。
式(1):
【化1】
[式中、
R
1及びR
2は同一又は異なり、基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
式(2):
【化2】
[式中、
R
11及びR
21は同一又は異なり、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12、R
13、R
22及びR
23は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
【請求項2】
前記ハロゲンイオンは塩化物イオンである、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記3環液晶化合物は、以下の式(3)~(7)で表される化合物のうち少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【化3】
【請求項4】
前記2環液晶化合物と前記3環液晶化合物との混合比が、質量比で、4:6~8:2である、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のうちいずれか1項に記載の潤滑剤組成物が封入された軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物及びそれを封入した軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤は、一般に、機械の可動部分に塗布されることによって、相接する部品間の摩擦を低減し、摩擦熱の発生を防ぎ、部品同士の接触部分に応力が集中するのを抑制する物質である。また、潤滑剤は、密封、防錆、防塵などの役割をも担う物質である。潤滑剤には、潤滑油やグリースが含まれる。潤滑油は、通常、石油精製物等の混合油である。一方、グリースは、潤滑剤膜が付着した状態に保つのが困難な摺動面(例えば、すべり軸受や転がり軸受)に適用する目的で、潤滑油を増ちょう剤に保持させ、チクソトロピー性を付与したものである。
【0003】
このような潤滑剤には、低摩擦係数を示すことは言うまでもなく、使用可能な温度範囲の広いこと、長期間にわたって蒸発、分解等による損失の少ないことなど様々な特性が要求される。
【0004】
特許文献1には液晶化合物とグリースを混合した軸受用潤滑剤が記載されている。特許文献2乃至5には、特定の液晶化合物を用いることによって、広い温度範囲において有効であり、長期間にわたって蒸発量の少ない潤滑剤を製造できることが記載されている。特許文献5には、2環液晶化合物と3環液晶化合物を混合した液晶混合物を含んでなる耐熱導電性潤滑剤が記載されている。同文献によれば、2環液晶化合物と3環液晶化合物を1:1の割合で混合することにより、-50℃~+220℃の範囲で液晶性を呈する潤滑剤を製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-359848号公報
【文献】特開2015-199934号公報
【文献】特開2016-130316号公報
【文献】特開2016-150954号公報
【文献】特開2017-105874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属同士の接触部分に適用した際に、錆の発生を抑制することが可能であり、かつ、優れた潤滑性能を発揮することが可能な潤滑剤組成物及びその潤滑剤組成物を封入した軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ある特定の構造を有する2環液晶化合物と3環液晶化合物を混合することによって、潤滑剤として優れた性能を発揮することのできる液晶混合物が得られることを発見し、本発明を完成させた。また、その液晶混合物中のハロゲンイオンの含有量をある特定の範囲内に調整することによって、錆の発生を抑制することが可能であり、かつ、優れた潤滑性能を発揮することが可能な潤滑剤組成物が得られることを発見し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下を包含する。
【0008】
[1]
以下の式(1)で表される2環液晶化合物の少なくとも1種と、以下の式(2)で表される3環液晶化合物の少なくとも1種と、ハロゲンイオンを含み、前記ハロゲンイオンの含有量が1ppm以上900ppm以下である、潤滑剤組成物。
式(1):
【化1】
[式中、
R
1及びR
2は同一又は異なり、基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
式(2):
【化2】
[式中、
R
11及びR
21は同一又は異なり、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12、R
13、R
22及びR
23は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
[2]
前記ハロゲンイオンは塩化物イオンである、[1]に記載の潤滑剤組成物。
[3]
前記3環液晶化合物は、以下の式(3)~(7)で表される化合物のうち少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の潤滑剤組成物。
【化3】
[4]
[1]から[3]のうちいずれかに記載の潤滑剤組成物が封入された軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属同士の接触部分に適用した際に、錆の発生を抑制することが可能であり、かつ、優れた潤滑性能を発揮することが可能な潤滑剤組成物及びその潤滑剤組成物を封入した軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】塩化物イオン濃度が高い場合の油膜状態確認試験の結果を示すグラフである。
【
図3】塩化物イオン濃度が低い場合の油膜状態確認試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態によれば、以下の式(1)で表される2環液晶化合物の少なくとも1種と、以下の式(2)で表される3環液晶化合物の少なくとも1種と、ハロゲンイオンを含み、ハロゲンイオンの含有量が1ppm以上900ppm以下である潤滑剤組成物が提供される。
【0012】
式(1):
【化4】
[式中、
R
1及びR
2は同一又は異なり、基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
【0013】
式(2):
【化5】
[式中、
R
11及びR
21は同一又は異なり、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12、R
13、R
22及びR
23は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
【0014】
式(1)及び(2)において、R1、R2、R11、R12、R13、R21、R22及びR23はコア構造に連結し、分子の潤滑性を担う鎖状基である。R1、R2、R11、R12、R13、R21、R22及びR23を適切に選択することにより、分子全体のサイズ(長径)や極性を調節することができる。
【0015】
式(1)及び(2)におけるRの例としては、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基、n-ヘプチル基、1-メチル-n-ヘキシル基、2-メチル-n-ヘキシル基、3-メチル-n-ヘキシル基、1,1-ジメチル-n-ペンチル基、1,2-ジメチル-n-ペンチル基、1,3-ジメチル-n-ペンチル基、2,2-ジメチル-n-ペンチル基、2,3-ジメチル-n-ペンチル基、3,3-ジメチル-n-ペンチル基、1-エチル-n-ペンチル基、2-エチル-n-ペンチル基、3-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-1-エチル-n-ブチル基、1-メチル-2-エチル-n-ブチル基、1-エチル-2-メチル-n-ブチル基、2-メチル-2-エチル-n-ブチル基、2-エチル-3-メチル-n-ブチル基、n-オクチル基、1-メチル-n-ヘプチル基、2-メチル-n-ヘプチル基、3-メチル-n-ヘプチル基、1,1-ジメチル-n-ヘキシル基、1,2-ジメチル-n-ヘキシル基、1,3-ジメチル-n-ヘキシル基、2,2-ジメチル-n-ヘキシル基、2,3-ジメチル-n-ヘキシル基、3,3-ジメチル-n-ヘキシル基、1-エチル-n-ヘキシル基、2-エチル-n-ヘキシル基、3-エチル-n-ヘキシル基、1-メチル-1-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-2-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、2-メチル-2-エチル-n-ペンチル基、2-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、3-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。
【0016】
式(1)において、R1及びR2は同一又は異なり、基-OCH2CH2CH(R’)CH2CH2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のCnH2n+1であり、1≦n≦20であり、好ましくは1≦n≦15であり、より好ましくは4≦n≦12であり、特に好ましくは8≦n≦10であり、R’はメチル又はエチルである)である。
【0017】
式(1)において、好ましくは、1≦n≦15であり、R’はメチルである。
【0018】
式(2)において、R11及びR21は同一又は異なり、基-OR、又は基-OCH2CH2CH(R’)CH2CH2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のCnH2n+1であり、1≦n≦20であり、好ましくは4≦n≦16であり、より好ましくは6≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である。
【0019】
式(2)において、R12、R13、R22及びR23は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH2CH2CH(R’)CH2CH2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のCnH2n+1であり、1≦n≦20であり、好ましくは4≦n≦16であり、より好ましくは6≦n≦12であり、R’はメチル又はエチルである)である。
【0020】
式(2)で表される3環液晶化合物は、以下の式(3)~(7)で表される化合物のうち少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
【0022】
式(1)で表される2環液晶化合物は、例えば、以下の式(8)~(10)で表される化合物のうち少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
【0024】
本実施形態において、式(2)で表される3環液晶化合物は、単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、上記式(3)~(7)で表される化合物のいずれかを単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。また、上記式(3)~(7)で表される化合物のすべてを混合して使用してもよい。
【0025】
本実施形態において、式(1)で表される2環液晶化合物は、単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、上記式(8)~(10)で表される化合物のいずれかを単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。また、上記式(8)~(10)で表される化合物のすべてを混合して使用してもよい。
【0026】
式(1)で表される2環液晶化合物、及び、式(2)で表される3環液晶化合物の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の反応を組み合わせることにより製造することができる。例えば、特開2017-105874号公報に記載の方法に準じて製造することができる。
【0027】
式(2)で表される3環液晶化合物の製造方法の一例を示すと、以下の通りである。
【0028】
アルコール化合物(例えばR11-OH)やフェノール化合物(例えばHO-[3環骨格構造]-OH)とアルカリ金属やアルカリ金属アルコラートを用い、ハロゲン化合物(例えばR11-XやX-[3環骨格構造]-X(Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子などのハロゲン原子))と反応させる方法が利用できる。例えば、特許第5916916号に記載の方法に準じて調製することができる。
【0029】
特に、式(2)で表される3環液晶化合物は、以下のようにして調製することができる。
式
【化8】
[式中、
R
11は、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12及びR
13は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、
式
【化9】
[式中、
R
21は、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
22及びR
23は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、及び
式
【化10】
で表される化合物を適切な反応条件下に反応させて、下記化合物
【化11】
[式中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は上に定義したとおりである]
のモル比1:2:1の混合物を得る。
【0030】
なお、前記アルカリ金属としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。また前記アルカリ金属アルコラートとしては、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート、tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウムなどが挙げられる。
【0031】
また、上記の反応には従来公知の各種有機溶媒が使用可能であり、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、トルエンが使用可能である。
【0032】
別法として、以下のようにして調製することもできる。
式
【化12】
[式中、
R
11は、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
12及びR
13は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、
式
【化13】
[式中、
R
21は、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)であり、
R
22及びR
23は同一又は異なり、水素、基-OR、又は基-OCH
2CH
2CH(R’)CH
2CH
2OR(Rは直鎖又は分岐鎖のC
nH
2n+1であり、1≦n≦20であり、R’はメチル又はエチルである)である]
で表される化合物を少なくとも一種、及び
式
【化14】
で表されるテレフタルアルデヒドを適切な反応条件下に反応させて、下記化合物
【化15】
[式中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は上に定義したとおりである]
のモル比1:2:1の混合物を得る。
【0033】
本実施形態に係る潤滑剤組成物は非常に蒸発しにくいため(例えば、温度100℃の雰囲気において600時間経過後の残存率が95%以上)、汎用のグリース等に比較して長期間補充することなく継続使用が可能であるという利点を有する。
【0034】
本実施形態に係る潤滑剤組成物は高真空下において非常に蒸発しにくいため(例えば、温度25℃、圧力10-5Paの雰囲気で1000時間経過後の残存率が95%以上)、宇宙空間などの高真空下において好適に使用できる。
【0035】
本実施形態に係る潤滑剤組成物は発塵性が極めて低いため、例えば、高い清浄度が要求されるクリーンルーム内に設置される半導体製造装置に好適に使用できる。
【0036】
本実施形態に係る潤滑剤組成物は、蒸発しにくく、発塵性が低い。また、本発明に係る潤滑剤組成物は、高真空下や高温下において安定的に性能を発揮することができる。したがって、本発明に係る潤滑剤組成物は、軸受用の潤滑剤として優れた性能を発揮することができる。
【0037】
本実施形態に係る潤滑剤組成物を封入した軸受は、例えば、クリーンルーム内に設置される半導体製造装置に好適に使用することができる。また、本発明に係る潤滑剤組成物を封入した軸受は、宇宙空間などの高真空下に設置される機械や装置に好適に使用することができる。また、本発明に係る潤滑剤組成物を封入した軸受は、精密機械、メンテナンスが難しい風力発電装置、免震装置等に好適に使用することができる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る潤滑剤組成物を封入した軸受の具体例としては、電動ファンモータ及びワイパーモータ等の自動車電装品に使用される軸受、水ポンプ及び電磁クラッチ装置等の自動車エンジン補機等や駆動系に使用される転がり軸受、産業機械装置用の小型ないし大型の汎用モータ等の回転装置に使用される転がり軸受、工作機械の主軸軸受等の高速高精度回転軸受、エアコンファンモータ及び洗濯機等の家庭電化製品のモータや回転装置に使用される転がり軸受、HDD装置及びDVD装置等のコンピュータ関連機器の回転部に使用される転がり軸受、複写機及び自動改札装置等の事務機の回転部に使用される転がり軸受、並びに、電車及び貨車の車軸軸受が挙げられる。
【0039】
本実施形態の潤滑剤組成物は、さらに、ハロゲンイオンを含むことを特徴とする。ハロゲンイオンの例として、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、及び、ヨウ化物イオン(I-)が挙げられる。本実施形態の潤滑剤組成物は、これらのハロゲンイオンのうち1種あるいは2種以上を含んでもよい。
【0040】
本実施形態の潤滑剤組成物は、塩化物イオン(Cl-)及び臭化物イオン(Br-)のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。本実施形態の潤滑剤組成物は、塩化物イオン(Cl-)を含むことがさらに好ましい。
【0041】
本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量は、1ppm以上900ppm以下である。ハロゲンイオンの含有量は、好ましくは3ppm以上900ppm以下であり、より好ましくは5ppm以上900ppm以下である。以下、ハロゲンイオンの含有量をこのように規定した理由について説明する。
【0042】
例えば、ハロゲンイオンの一つである塩化物イオン(Cl-)は、鉄等の金属の腐食を促進することが知られている。したがって、金属同士の接触部に用いられる潤滑剤組成物は、塩化物イオン等のハロゲンイオンをできるだけ含まないことが好ましいと考えられてきた。
【0043】
しかし、本発明者らは、上記式(1)で表される2環液晶化合物と、上記式(2)で表される3環液晶化合物を含む潤滑剤組成物がハロゲンイオンを完全に含まない(ハロゲンイオン濃度=0ppm)場合、後述の耐久性試験の結果が良好とはならないことを発見した。
【0044】
そして、意外なことに、潤滑剤組成物がハロゲンイオンをある程度含有することによって、後述の耐久性試験の結果が良好となることを発見した。一方、潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの量が一定以下であれば、金属同士の接触部に潤滑剤組成物を適用した場合でも、錆の発生が十分に抑制されることを発見した。本発明は、かかる新規な発見に基づいて完成されたものである。
【0045】
すなわち、本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量は、1ppm以上である。ハロゲンイオンの含有量が1ppm未満である場合、後述の耐久性試験の結果が良好ではなくなるため、優れた潤滑性能を発揮することのできる潤滑剤組成物が得られなくなる。ハロゲンイオンの含有量が1ppm以上であれば、後述の耐久性試験の結果が良好となるため、優れた潤滑性能を発揮することのできる潤滑剤組成物を得ることができる。本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量は、好ましくは3ppm以上であり、より好ましくは5ppm以上である。
【0046】
本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量は、900ppm以下である。ハロゲンイオンの含有量が900ppmを超えると、金属同士の接触部に潤滑剤組成物を適用した場合に、錆の発生を十分に抑制できなくなるおそれがある。本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量は、好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは700ppm以下である
【0047】
本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量は、公知の方法によって調整することが可能である。例えば、ハロゲン元素を含む塩を潤滑剤組成物に添加することによって、潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量を調整することができる。
【0048】
例えば、塩化物イオン(Cl-)の含有量を調整するためには、塩化カリウム(KCl)や塩化ナトリウム(NaCl)などの塩素原子を含む塩を潤滑剤組成物に添加する。これにより、潤滑剤組成物に含まれる塩化物イオンの含有量を調整することができる。本実施形態の潤滑剤組成物には、塩素原子を含む塩(例えば塩化カリウム)を容易に分散させることが可能であるため、このような調整を容易に行うことができる。
【0049】
例えば、臭化物イオン(Br-)の含有量を調整するためには、臭化カリウム(KBr)や臭化ナトリウム(NaBr)などの臭素原子を含む塩を潤滑剤組成物に添加する。これにより、潤滑剤組成物に含まれる臭化物イオンの含有量を調整することができる。本実施形態の潤滑剤組成物には、臭素原子を含む塩(例えば臭化カリウム)を容易に分散させることが可能であるため、このような調整を容易に行うことができる。
【0050】
また、本実施形態の潤滑剤組成物には、原料由来のハロゲンイオンが含まれる場合がある。水やアルコールによる洗浄工程を経ることによって、潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンを取り除くことが可能であるため、ハロゲンイオンの含有量を所望とする範囲に調整することが可能である。
【0051】
なお、本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンの含有量は、公知の方法によって測定することが可能である。例えば、燃焼イオンクロマトグラフィー法によってハロゲンイオンの含有量を測定することが可能である。
【0052】
本実施形態の潤滑剤組成物に含まれてもよい、その他の成分について、順に説明する。これらは基本的に潤滑剤の含有成分として従来公知の物質であって、その含有量は、特にほかに言及しない限り、従来公知の範囲で当業者が適宜選択することができる。また、いずれの成分も1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
(液晶化合物)
式(1)及び(2)で表される化合物は液晶化合物であるが、本実施形態の潤滑剤組成物は、それ以外の液晶化合物を含有してもよい。
【0054】
そのような液晶化合物としては、スメクチック相あるいはネマチック相を示す液晶化合物、アルキルスルホン酸、ナフィオン膜系の構造を持つ化合物、アルキルカルボン酸、アルキルスルホン酸等を挙げることができる。また、本実施形態の潤滑剤組成物は、特許第5916916号や特開2017-105874号明細書に記載の液晶化合物を含有してもよい。
【0055】
(基油)
本実施形態の潤滑剤組成物と、従来公知の各種の潤滑剤基油とを混合して使用してもよい。
前記基油の例としては、特に限定されないが、鉱油、高精製鉱油、合成炭化水素油、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、シリコーン油、ナフテン系鉱油及びフッ素油等が挙げられる。
【0056】
(その他の添加剤)
その他、本実施形態の潤滑剤組成物に含まれてもよい添加剤としては、軸受油、ギヤ油及び作動油などの潤滑剤に用いられている各種添加剤、すなわち極圧剤、配向吸着剤、摩耗防止剤、摩耗調整剤、油性剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤、固体潤滑剤等が挙げられる。
【0057】
前記極圧剤の例としては、塩素系化合物、硫黄系化合物、リン酸系化合物、ヒドロキシカルボン酸誘導体、及び有機金属系極圧剤が挙げられる。極圧剤を添加することにより、本実施形態の潤滑剤組成物の耐摩耗性が向上する。
【0058】
前記配向吸着剤の例としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤などの各種カップリング剤に代表される有機シランや有機チタン、有機アルミニウム等が挙げられる。配向吸着剤を添加することにより、本実施形態の潤滑剤組成物に含まれる液晶化合物の液晶配向を強め、本実施形態の潤滑剤組成物によって形成される被膜の厚さとその強度が強化され得る。
【0059】
本実施形態の潤滑剤組成物は、式(1)及び(2)で表される化合物やその他の成分を、従来公知の方法で混合することによって、調製することができる。本実施形態の潤滑剤組成物の調製方法の一例を示せば、以下のとおりである。
【0060】
潤滑剤組成物の構成成分を常法で混合し、その後、必要に応じて、ロールミル、脱泡処理、フィルター処理等を行って本発明の潤滑剤組成物を得る。あるいは、潤滑剤組成物の油成分を先に混合し、続いて添加剤等のその他の成分を加えて混合し、必要に応じて上記の脱泡処理等を行うことによっても、潤滑剤組成物を調製することができる。潤滑剤組成物中のハロゲンイオン濃度を調整するために、ハロゲン原子を含む塩を潤滑剤組成物に添加してもよい。あるいは、潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオンを、水やアルコールによる洗浄によって除去してもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明のさらに具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0062】
[液晶化合物の準備]
2環液晶化合物として、以下の式(8)~(10)で表される化合物の混合物を準備した。式(8)~(10)で表される化合物の混合比は、およそ1:2:1(モル比)である。
【0063】
【0064】
3環液晶化合物として、以下の式(3)~(5)で表される化合物の混合物を準備した。式(3)~(5)で表される化合物の混合比は、およそ1:2:1(モル比)である。
【0065】
【0066】
[高温下耐久性試験]
上記で準備した2環液晶化合物と3環液晶化合物を200℃に加熱して混合し、以下の表1に示す試料1~5の潤滑剤組成物を調製した。各試料の2環液晶化合物:3環液晶化合物の比率(質量比)は、試料1は6:4、試料2は8:2、試料3は7:3、試料4は6:4、試料5は4:6である。次に、潤滑剤組成物に塩化カリウムを添加することによって、潤滑剤組成物に含まれる塩化物イオンの含有量を調整した。塩化物イオンの濃度を調整した潤滑剤組成物を用いて、以下に説明する高温下耐久性試験を行った。
【0067】
潤滑剤組成物を常温(25℃)に冷却した後、スパチュラで数回撹拌し、軸受に封入した。軸受としては、軸径が4mmの小型のボールスプライン軸受(日本トムソン株式会社製「LSAG4」)を使用した。
【0068】
ボールスプライン軸受は、例えば、
図1に示すように、複数の転動体12を介して軸14に沿って直線移動可能な外筒16を有する小型のボールスプライン軸受10である。軸14の外周面には、複数の転動体12が転走する軌道溝14aが軸方向に沿って形成されている。複数の転動体12は、軸14の外周面に形成された軌道溝14aと、外筒16の内面との間に保持されている。外筒16の端部には、複数の転動体12を方向転換させるためのエンドキャップ18がねじ止め等で固定されている。軌道溝14aに沿って転走する複数の転動体12は、エンドキャップ18に形成された方向転換路で方向転換することによって無限循環するようになっている。
【0069】
潤滑剤組成物を軸受10に封入する際には、軸14を外筒16から抜き取った後、外筒16の内側に保持されている複数の転動体12に潤滑剤組成物を一定量塗布した。複数の転動体12に潤滑剤組成物を塗布した後、
図1に示すように軸14に外筒16を再び組み付けた。
【0070】
潤滑剤組成物を軸受10に封入した後、外筒16を加熱しつつ固定した状態で軸14を連続的に往復移動させる試験を行った。試験中の軸受10の振動値が設定値を超えた場合、もしくは、摩耗粉の異常発生を確認した時点で試験を停止し、その時点の走行距離を測定した。その他の試験条件は、以下の通りである。高温下耐久性試験の結果を、以下の表1に示す。
【0071】
(試験条件)
外筒の加熱温度:80℃
荷重:中予圧
ストローク:50mm
最高速度:1m/s
潤滑剤組成物の封入量:3mg
【0072】
【0073】
表1に示す試験結果より、潤滑剤組成物中のハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が1ppm以上であれば、軸の走行距離(耐久距離)が十分に長く、潤滑剤組成物が長期間に亘って安定的に潤滑性能を発揮できることがわかった。また、ハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が高い程、軸の走行距離(耐久距離)が長くなる傾向があることがわかった。
【0074】
[湿潤試験]
上記で準備した2環液晶化合物と3環液晶化合物を200℃に加熱して6:4の比率(質量比)で混合することにより、潤滑剤組成物を調製した。次に、潤滑剤組成物に塩化カリウムを添加することによって、潤滑剤組成物に含まれる塩化物イオンの含有量を調整した。塩化物イオンの濃度を調整した潤滑剤組成物を用いて、以下に説明する湿潤試験を行った。
【0075】
恒温恒湿試験機を用いて、JIS K 2246に記載された手順に従い、潤滑剤組成物を塗布した試験片に錆が生じるか否かを確認する試験を行った。具体的には、内部温度50℃、相対湿度95%の試験機(湿潤箱)に試験片を吊り下げ、160時間経過するまで試験を行い、錆の発生の有無を目視で確認した。試験片としては、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた。湿潤試験の結果を、以下の表2に示す。
【0076】
【0077】
表2に示す試験結果より、潤滑剤組成物中のハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が900ppm以下であれば、錆の発生を十分に抑制可能であることがわかった。また、ハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が低い程、錆の発生が抑制されることを確認することができた。
【0078】
[油膜状態確認試験]
上記で準備した2環液晶化合物と3環液晶化合物を200℃に加熱して6:4の比率(質量比)で混合することにより、潤滑剤組成物を調製した。次に、潤滑剤組成物に塩化カリウムを添加することによって、潤滑剤組成物に含まれる塩化物イオンの含有量を調整した。塩化物イオンの濃度を調整した潤滑剤組成物を用いて、以下に説明する油膜状態確認試験を行った。
【0079】
潤滑剤組成物を
図1に示す軸受10に封入した後、外筒16を固定した状態で軸14を連続的に往復移動させる運転を行った。運転中(ストローク中)の軸受内部の油膜(潤滑剤組成物の膜)の状態を確認する試験を行った。試験条件は、以下の通りである。
【0080】
(試験条件)
荷重:中予圧
ストローク:50mm
最高速度:1m/s
潤滑剤組成物の封入量:3mg
【0081】
試験の原理について説明する。軸受は、静止状態において荷重が負荷されている場合、外筒軌道と軸軌道は転動体(ボール)を介して金属接触をしているため、この間の電気抵抗はほぼ0Ωとなる。運転中 (ストローク中)においては、軌道や転動体に潤滑剤組成物からなる膜(油膜)が形成されるため、外筒軌道と軸軌道間の電気抵抗が増大する。走行開始直後には油膜は形成されないが、走行距離が増大するにつれて油膜が形成されることが本発明者らによって確認されている。運転中の軸と外筒の間の電気抵抗値から、軸受内部に形成されている油膜の状態を推察することができる。なお、実際の測定では、電流値を一定とすることによって、電圧の値から、電気抵抗の値を測定した。
【0082】
図2のグラフは、塩化物イオン濃度が40000ppmである潤滑剤組成物を、軸受に封入した場合の試験結果を示している。
図2において、縦軸の「油膜厚さ比」は、最大抵抗値を1としたときの電気抵抗の大きさを示している。
図2を見れば分かる通り、塩化物イオン濃度が高い場合には、走行距離が約40kmを超えた時点で電気抵抗値がほぼ一定となっており、潤滑剤組成物からなる膜が安定的に形成されるまでの走行距離が短いことが分かる。
【0083】
図3のグラフは、塩化物イオン濃度が3.68ppmである潤滑剤組成物を、軸受に封入した場合の試験結果を示している。
図3において、縦軸の「油膜厚さ比」は、最大抵抗値を1としたときの電気抵抗の大きさを示している。
図3を見れば分かる通り、塩化物イオン濃度が低い場合には、走行距離が約95kmを超えた時点で電気抵抗値がほぼ一定となっており、潤滑剤組成物からなる膜が安定的に形成されるまでの走行距離が長いことが分かる。
【0084】
図2及び
図3に示す結果より、潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が高いほど、潤滑剤組成物からなる膜(油膜)が安定的に形成されるまでの走行距離が短くなることが分かる。
【0085】
上述の高温下耐久性試験では、潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が高い程、軸の走行距離(耐久距離)が長くなるという結果が得られた。そのような結果が得られた理由は、潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が高い程、潤滑剤組成物からなる膜(油膜)が短時間で形成されたからではないかと推察される。すなわち、油膜が短時間で形成されることによって、軸と外筒の間の潤滑がより早い時期に開始され、油膜によって摩耗が抑えられた結果、軸の走行距離(耐久距離)が長くなったものと推察される。
【0086】
潤滑剤組成物に含まれるハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が高いほど、潤滑剤組成物からなる膜(油膜)が形成されるまでの走行距離が短くなった理由は、以下の通りであると推察される。
すなわち、ハロゲンイオン(塩化物イオン)の濃度が高いほど、ハロゲンイオンにより軸や外筒の表面に不動態被膜などの何らかの被膜が形成され、この被膜によって油膜の形成が促進されたからではないかと推察される。また、軸の走行距離(耐久距離)が長くなるという結果について、他の要因としてハロゲンイオン(塩化物イオン)により軸や外筒の表面に酸化物膜が形成され、この酸化物膜によって摩耗が抑えられたことも1つの要因と推察される。なお、本発明は、このような理論的な推察によって何ら制限されるものではない。
【符号の説明】
【0087】
10 軸受
12 転動体
14 軸
16 外筒
18 エンドキャップ
20 直動案内ユニット
22 転動体
24 トラックレール
26 スライダ
28 エンドキャップ