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特許7442128インクジェット印刷方法、およびインクジェット印刷装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】インクジェット印刷方法、およびインクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/26 20060101AFI20240226BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240226BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240226BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20240226BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20240226BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D7/24 301M
B05D3/00 D
B05C5/00 101
B05C11/10
B41J2/01 203
B41J2/01 451
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020030495
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021133289
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆史
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-182902(JP,A)
【文献】特開2006-264041(JP,A)
【文献】特開2008-155630(JP,A)
【文献】特開2010-040632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00 - 7/26
B05C5/00 - 5/04
7/00 -21/00
B41J2/01
2/165- 2/20
2/21 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドを塗布対象物に対して相対的に走査させながら、前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させて、前記塗布対象物上にインクを塗布するインクジェット印刷方法であって、
前記インクジェットヘッドが互いに異なる第1及び第2の回転角度それぞれのときに、前記インクジェットヘッドから吐出された液滴の目標位置からの着弾位置ずれに基づいて求められた着弾位置ずれ特性を記憶する記憶手段から、前記着弾位置ずれ特性に係るデータを読み出す第1の工程と、
前記着弾位置ずれ特性と、前記インクジェットヘッドの液滴吐出ノズルの配列ピッチと、走査方向に直交する方向における前記塗布対象物の塗布目標ピッチと、に基づいて、前記インクジェットヘッドの目標回転角度を求めると共に、当該目標回転角度に対応する印刷パターンを生成する第2の工程と、
前記インクジェットヘッドが前記目標回転角度のときに、前記インクジェットヘッドを前記塗布目標部に位置合わせするための、前記インクジェットヘッドの走査方向に直交する方向へのオフセット量を算出する第3の工程と、
目標回転角度と前記印刷パターンと前記オフセット量とに基づいて、前記インクジェットヘッドを制御して、前記塗布対象物上の塗布目標部に液滴を吐出させる第の工程と、
を有するインクジェット印刷方法。
【請求項2】
前記着弾位置ずれ特性は、以下のA~Eの工程によって求められ、前記記憶手段に記憶される、
A)前記インクジェットヘッドを前記塗布対象物面の法線方向を回転軸として、前記第1の回転角度に位置決めし、第1の印刷パターンで液滴を吐出する工程、
B)前記A)工程において吐出された液滴の前記第1の印刷パターンが示す目標位置からの着弾位置ずれを検出する工程、
C)前記インクジェットヘッドを前記第2の回転角度に位置決めし、第2の印刷パターンで液滴を吐出する工程、
D)前記C)工程において吐出された液滴の前記第2の印刷パターンが示す目標位置からの着弾位置ずれを検出する工程、
E)前記B)工程で検出された着弾位置ずれ、前記D)工程で検出された着弾位置ずれ、及び、前記インクジェットヘッドの前記回転軸の座標に基づいて、前記着弾位置ずれ特性を算出する工程、
請求項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項3】
前記第の工程では、前記インクジェットヘッドと前記塗布対象物との相対移動速度が、前記A)工程における前記インクジェットヘッドと前記塗布対象物との相対移動速度、及び、前記C)工程における前記インクジェットヘッドと前記塗布対象物との相対移動速度と同一でなる条件下で、前記インクジェットヘッドから前記塗布目標部に液滴を吐出させる、
請求項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項4】
インクジェットヘッドを塗布対象物に対して相対的に走査させながら、前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させて、前記塗布対象物上にインクを塗布するインクジェット印刷装置であって、
前記インクジェットヘッドが互いに異なる第1及び第2の回転角度それぞれのときに、前記インクジェットヘッドから吐出された液滴の目標位置からの着弾位置ずれに基づいて求められた着弾位置ずれ特性を記憶する記憶手段と、
前記着弾位置ずれ特性と、前記インクジェットヘッドの液滴吐出ノズルの配列ピッチと、走査方向に直交する方向における前記塗布対象物の塗布目標ピッチと、に基づいて、前記インクジェットヘッドの目標回転角度を求めると共に、当該目標回転角度に対応する印刷パターンを生成する演算手段と、
前記インクジェットヘッドの液滴吐出ノズル毎に、吐出タイミングを制御する制御手段と、
を備え、
前記演算手段は、前記インクジェットヘッドが前記目標回転角度のときに、前記インクジェットヘッドを前記塗布目標部に位置合わせするための、前記インクジェットヘッドの走査方向に直交する方向へのオフセット量を算出し、
前記制御手段は、前記目標回転角度と前記印刷パターンと前記オフセット量とに基づいて、前記インクジェットヘッドを制御して、前記塗布対象物上の塗布目標部に液滴を吐出させる
インクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記塗布対象物に相当する基板を載置する基板吸着テーブルと、
前記基板吸着テーブルの下部を回転可能に支持する基板回転機構と、
前記基板回転機構及び前記基板吸着テーブルを移載する基板搬送ステージと、
前記基板搬送ステージの基板搬送位置を検出する基板搬送位置検出手段と、
前記基板の上部に前記基板に対向するように配置した前記インクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドの上部に配置し、前記基板の平面に対する法線方向を軸として前記インクジェットヘッドを回転可能に支持するヘッド回転機構と、
前記インクジェットヘッド及び前記ヘッド回転機構を前記基板搬送ステージの移載方向および回転軸の方向と直交する方向に移載するヘッド移載ステージと、
を備える請求項に記載のインクジェット印刷装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置とそれを用いた印刷方法に関するもので、特にインクジェットヘッドの塗布ピッチの調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット印刷装置を用いてデバイスを製造する方法が注目されている。インクジェット印刷装置は、液滴を吐出する複数のノズルを有し、ノズルと印刷対象物の塗布目標部との位置関係を制御しながらノズルから液滴を吐出することで、印刷対象物の塗布目標部に液滴を塗布するものである。印刷対象物としては、表示デバイスに代表されるように印刷対象物の塗布目標部が一定のピッチで配列されているものがある。
【0003】
その場合に、複数のノズルを一定ピッチで配置したインクジェットヘッドを印刷対象物面の法線方向の回転軸を中心に回転させることによって着弾させた液滴のピッチを塗布対象物の塗布目標部のピッチに合わせ込んで塗布する方法が開示されている。(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001―108820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この従来の方法について、図14図15を用いて説明する。図14は塗布対象部のピッチと、インクジェットヘッドの液滴吐出ノズルの位置関係を示す図で、図15は従来の塗布対象部のピッチと、インクジェットヘッドから吐出され基板に着弾した液滴の着弾ピッチを調整する動作フローを示す図である。
【0006】
図14で、108はインクジェットヘッド、117はインクジェットヘッド108の液滴吐出ノズル、119は基板、101は基板119上の塗布対象部、118は塗布対象部101へ着弾させた液滴を示している。
【0007】
図14の(a)は、塗布対象部101のピッチWが液滴吐出ノズル117のピッチLと等しい場合を表しており、図14の(b)は、塗布対象部101のピッチWが液滴吐出ノズル117のピッチLより小さい場合を表している。
【0008】
図14で、インクジェットヘッド108と基板119は、図中のX方向に相対移動しながら液滴吐出ノズル117より液滴を吐出して塗布対象部101へ液滴を塗布するように構成されている。そして図14(b)に示すように、塗布対象部101のピッチWが液滴吐出ノズル117のピッチLより小さい場合は、インクジェットヘッド108をθ回転させて、液滴吐出ノズル117のY方向のピッチを塗布対象部101のピッチWに合せ込めるようになっている。
【0009】
この従来の方法において、液滴吐出ノズル117から吐出されて基板119に着弾した液滴118のY方向のピッチと、基板119の塗布対象部101のピッチを合わせ込む動作を図15により説明する。
【0010】
図15で、S1の「調整用パターン描画」は液滴ピッチ測定用のテストパターンを塗布する工程、S2の「描画されたパターンをセンサにより入力」はテストパターンをカメラ等で取り込む工程、S3の「ドット切り出し処理」はS2で取り込んだデータから液滴部分を切り出す処理を行う工程、S4の「ドット重心演算処理」はS3で抽出した液滴データから液滴の重心を算出する工程、S5の「Rピッチ算出、Gピッチ算出、Bピッチ算出」はS4で求めたR,G,B各着弾液滴の重心位置からR,G,B各着弾液滴の着弾ピッチを算出する工程、S6の「RG間ピッチ算出、GB間ピッチ算出」はS4で抽出したR着弾液滴、G着弾液滴、B着弾液滴のそれぞれの重心位置からRG間の着弾ピッチと、GB間の着弾ピッチを算出工程、S7の「RGB各ピッチが所定の距離になっているか?」はS5で算出したR、G、B各着弾液滴の着弾ピッチが目標の距離になっているかどうか判定する工程、S8の「RG間ピッチ、GB間ピッチが所定の距離になっているか?」はS6で算出したRG間着弾ピッチおよびGB間着弾ピッチが、目標の距離になっているかどうかを判定する工程、S9の「描画ヘッドのY軸を調整」はS8でRG間着弾ピッチ、GB間着弾ピッチが目標の距離になっていない場合に、描画ヘッドをY方向に移動させて位置調整する工程、S10の「描画ヘッドのθ軸を調整」はS7でRGB各着弾ピッチが目標の距離になっていない場合に描画ヘッドをθ回転調整する工程である。
【0011】
この従来の方法では、S1でテストパターンを印刷し、S2~S4でテストパターンの液滴の着弾位置を検出して、S5でR,G,Bそれぞれの着弾ピッチを算出し、S7で着弾ピッチが目標値に合致しているかどうかを判定して、合致していない場合はS10でヘッドのθ回転調整を実施した後、再度S1のテスト印刷からやり直すものである。そしてR、G、B全ての着弾ピッチが目標値に合致した後、更にS6で算出したRG間着弾ピッチ、GB間着弾ピッチが目標値に合致しているかどうかをS8で判定して合致していない場合はS9でY軸調整を実施した後、再度S1のテスト印刷からやり直すものである。
【0012】
以上のように、従来の方法では、塗布目標部のピッチが変わる毎に、テスト印刷を実施して、その液滴の着弾ピッチを測定して、その結果に基づいて更に回転角度を微調整し、目標の閾値に入るまで回転角度の追い込みおよびY方向の追い込みを繰り返す必要があった。この方法の場合であっても、精細度が低く且つ目標の閾値が大きい場合であれば、1~2回の追い込みで調整ができて、あまり問題にはならなかった。
【0013】
しかしながら、近年表示デバイスの高精細化の要望が高まる中で、塗布目標部のピッチが小さくなり、ノズルから吐出された液滴の着弾ピッチを非常に精密に位置合わせする必要が出てきた。このような高精細な表示デバイスを塗布する際には、各ノズルから吐出される液滴の吐出角度癖による微小な着弾位置のずれや塗布対象物とインクジェットヘッドとの相対移動に伴う着弾位置のずれが、塗布位置精度に大きく影響を与えるようになってきている。
【0014】
そのため前記従来の方法で、高精細な表示デバイスに塗布しようとすると、塗布目標部のピッチが変わる度に、通常の印刷動作を止めて、上記の着弾ピッチを追込む作業を多数回実施する必要が有り、その結果インクジェット印刷装置の稼働率が上がらないという問題があった。また、着弾ピッチを追込むためにテスト用の専用基板を用意するか、生産用基板に広いテスト印刷エリアを設ける必要もあった。
【0015】
本発明の課題は、塗布対象物の塗布目標部分のピッチが変わっても、その度にテスト印刷を行うことなく、最適なヘッドの回転量を決めて、液滴の着弾ピッチと塗布目標部のピッチを精度よく合わせ込むインクジェット印刷方法と、それを使用したインクジェット印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した課題を解決する主たる本発明は、
インクジェットヘッドを塗布対象物に対して相対的に走査させながら、前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させて、前記塗布対象物上にインクを塗布するインクジェット印刷方法であって、
前記インクジェットヘッドが互いに異なる第1及び第2の回転角度それぞれのときに、前記インクジェットヘッドから吐出された液滴の目標位置からの着弾位置ずれに基づいて求められた着弾位置ずれ特性を記憶する記憶手段から、前記着弾位置ずれ特性に係るデータを読み出す第1の工程と、
前記着弾位置ずれ特性と、前記インクジェットヘッドの液滴吐出ノズルの配列ピッチと、走査方向に直交する方向における前記塗布対象物の塗布目標ピッチと、に基づいて、前記インクジェットヘッドの目標回転角度を求めると共に、当該目標回転角度に対応する印刷パターンを生成する第2の工程と、
前記目標回転角度と前記印刷パターンとに基づいて、前記インクジェットヘッドを制御して、前記塗布対象物上の塗布目標部に液滴を吐出させる第3の工程と、
を有するインクジェット印刷方法である。
【0017】
又、他の局面では、
インクジェットヘッドを塗布対象物に対して相対的に走査させながら、前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させて、前記塗布対象物上にインクを塗布するインクジェット印刷装置であって、
前記インクジェットヘッドが互いに異なる第1及び第2の回転角度それぞれのときに、前記インクジェットヘッドから吐出された液滴の目標位置からの着弾位置ずれに基づいて求められた着弾位置ずれ特性を記憶する記憶手段と、
前記着弾位置ずれ特性と、前記インクジェットヘッドの液滴吐出ノズルの配列ピッチと、走査方向に直交する方向における前記塗布対象物の塗布目標ピッチと、に基づいて、前記インクジェットヘッドの目標回転角度を求めると共に、当該目標回転角度に対応する印刷パターンを生成する演算手段と、
を備え、
前記目標回転角度と前記印刷パターンとに基づいて、前記インクジェットヘッドを制御して、前記塗布対象物上の塗布目標部に液滴を吐出させる
インクジェット印刷装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の前記態様によれば、塗布対象物の塗布目標部のピッチが変わっても、その度毎にテスト印刷をしなくても、インクジェットヘッドから吐出される液滴の着弾ピッチを、塗布目標部のピッチに合わせ込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施の形態の、インクジェット印刷装置の斜視図
図2】一実施の形態の、塗布対象物の基板を示す平面図
図3a】インクジェットヘッドから吐出される液滴の吐出角度癖による着弾位置ずれを説明する平面図
図3b】インクジェットヘッドから吐出される液滴の吐出角度癖による着弾位置ずれを説明する側面図
図4a】インクジェットヘッドが回転角度0度の時の液滴の吐出角度癖による着弾位置ずれを説明する平面図
図4b】インクジェットヘッドが回転角度φ度の時の液滴の吐出角度癖による着弾位置ずれを説明する平面図
図5a】塗布対象物が停止している場合のインクジェットヘッドから吐出された液滴の着弾位置を説明する平面図
図5b】塗布対象物が停止している場合のインクジェットヘッドから吐出された液滴の着弾位置を説明する側面図
図6a】塗布対象物が走行している場合のインクジェットヘッドから吐出された液滴の着弾位置を説明する平面図
図6b】塗布対象物が走行している場合のインクジェットヘッドから吐出された液滴の着弾位置を説明する側面図
図7】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度0度の時の吐出された液滴の着弾位置を説明する平面図
図8a】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度0度の時の吐出された液滴の着弾位置と塗布対象物の塗布目標部とのY方向位置ズレ量を説明する平面図
図8b】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度0度の時の吐出された液滴の着弾位置とY軸とのX方向距離を説明する平面図
図8c】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度0度の時の着弾位置がY軸上になるように吐出タイミングを補正した場合の着弾位置を説明する平面図
図8d】インクジェットヘッドの回転角度0度で着弾位置がY軸上になるように吐出タイミングを補正した状態で塗布対象物に印刷した場合の液滴の着弾位置を説明する平面図
図8e図8dのA部の拡大図
図9a】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度がθの時の吐出された液滴の着弾位置と塗布対象物の塗布目標部とのY方向位置ズレ量を説明する平面図
図9b】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度がθの時の吐出された液滴の着弾位置とY軸とのX方向距離を説明する平面図
図9c】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度がθの時の着弾位置がY軸上になるように吐出タイミングを補正した場合の着弾位置を説明する平面図
図9d】インクジェットヘッドの回転角度がθで着弾位置がY軸上になるように吐出タイミングを補正した状態で塗布対象物に印刷した場合の液滴の着弾位置を説明する平面図
図9e図9dのA部の拡大図
図10a】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度がφの時の吐出された液滴の着弾位置と塗布対象物の塗布目標部とのY方向位置ズレ量を説明する平面図
図10b】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度がφcの時の吐出された液滴の着弾位置とY軸とのX方向距離を説明する平面図
図10c】塗布対象物が走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度がφcの時の着弾位置がY軸上になるように吐出タイミングを補正した場合の着弾位置を説明する平面図
図10d】インクジェットヘッドの回転角度がφcで着弾位置がY軸上になるように吐出タイミングを補正した状態で塗布対象物に塗布した場合の液滴の着弾位置を説明する平面図
図10e図10dのA部の拡大図
図11】塗布対象物が速度Vで走査している場合におけるインクジェットヘッドのθ回転前後での着弾位置を説明する平面図
図12】塗布対象物が速度Vで走査している場合におけるインクジェットヘッドをφ回転させた時の着弾位置を説明する平面図
図13】塗布対象物が停止している場合におけるインクジェットヘッドのθ回転前後での着弾位置を説明する平面図
図14】従来例において、塗布対象物の塗布目標部のピッチに合致するようにインクジェットヘッドを調整する場合を説明する図
図15】従来例における塗布対象物の塗布目標部のピッチとインクジェットヘッドから吐出される液滴のピッチを調整するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置40について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
[インクジェット印刷装置の構成]
図1は、一実施の形態の、インクジェット印刷装置の斜視図である。図1により、インクジェット印刷装置40の全体像について説明する。
【0022】
図1に示すように、インクジェット印刷装置40は、少なくとも装置を支える架台18と、架台18上に設置した定盤17と、定盤17の上に設置したX方向に基板を搬送する基板搬送ステージ30と、ヘッドユニット32と、ヘッドユニット32を基板搬送ステージ30と直交するY方向に搬送するヘッドユニット移載ステージ33と、ヘッドユニット移載ステージ33の両端を定盤17上に支持する2本の支持部16とを備えている。
【0023】
基板搬送ステージ30は、基板用ガイドレール5と、基板用ガイドレール5にガイドされてX方向に摺動可能に支持された基板用スライダー4と、基板用スライダー4上に設置した基板回転機構3と、基板回転機構3の上に設置した基板吸着テーブル2とで構成されている。基板搬送スライダー4は、基板搬送用リニモータ6と、基板搬送位置検出手段7と、不図示の基板搬送ステージ制御手段とによってフィードバック制御されている。
【0024】
また基板回転機構3には不図示の基板回転角度検出手段と不図示の基板回転駆動手段とを備えており、不図示の基板回転機構制御手段によって目標の回転角度に精密に位置決め出来るように構成している。
【0025】
一方、ヘッドユニット移載ステージ33は、ヘッドユニット移載用ガイドレール13と、ヘッドユニット移載用ガイドレール13にガイドされてY方向に摺動可能に支持されたヘッドユニット移載用スライダー12で構成されており、ヘッドユニット移載用スライダー12は、ヘッドユニット移載用リニアモータ14と、ヘッドユニット移載用位置検出手段15と、不図示のヘッドユニット移載ステージ制御手段とによってフィードバック制御されている。
【0026】
ヘッドユニット32は、ヘッドユニット移載用スライダー12に取り付けたヘッドユニットベース22上に、インクジェットヘッド部23と、アライメントカメラ21を搭載して構成している。更にインクジェットヘッド部23は、ヘッドユニットベース22に、ブラケット11を介してヘッド回転機構10を搭載し、ヘッド回転機構10の下にはヘッドブラケット9を介して、インクジェットヘッド8を搭載している。ヘッド回転機構10は、内部に不図示のヘッド回転角度検出手段と不図示のヘッド回転駆動手段を備えており、不図示のヘッド回転機構制御手段によって目標の回転角度に精密に位置決め出来るように構成されている。
【0027】
更にインクジェットヘッド8には、複数の液滴吐出ノズルを設けており、インクジェットヘッド制御手段100によって、基板搬送位置検出手段7による検出位置に基づいて、インクジェットヘッド8の各液滴吐出ノズル毎に、吐出タイミングを制御できるように構成している。尚、インクジェットヘッド8の複数の液滴吐出ノズルは、例えば、所定のピッチで一列に並んで配設されている。
【0028】
インクジェットヘッド制御手段100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、及び出力ポート等を含んで構成され、インクジェットヘッド8の吐出動作を制御するマイコンである。
【0029】
インクジェットヘッド制御手段100は、インクジェットヘッド8から液滴を吐出した際の着弾位置ずれ特性を記憶する記憶手段110と、当該着弾位置ずれ特性と、インクジェットヘッド8の液滴吐出ノズルの配列ピッチと、走査方向に直交する方向における塗布対象物の塗布目標ピッチと、に基づいて、インクジェットヘッド8の目標回転角度を求めると共に、当該目標回転角度に対応する印刷パターンを生成する演算手段120と、を有する。尚、着弾位置ずれ特性は、インクジェットヘッド8が互いに異なる第1及び第2の回転角度それぞれのときに、インクジェットヘッド8から吐出された液滴の目標位置からの着弾位置ずれに基づいて求められる(詳細は、後述する)。
【0030】
なお、実施の形態1において、基板搬送ステージ30およびヘッドユニット移載ステージ33では、ともに、高精度な位置決めを実現するためにエアー軸受け機構を採用した。
【0031】
[インクジェット印刷装置の動作]
次に、上記の構成のインクジェット印刷装置40の動作について図2から図13を用いて説明する。図2は実施の形態1の、塗布対象物の基板を示す平面図である。基板1は、機材1aと機材1a上の4隅に形成されたアライメントマーク1bと、印刷したインクが溢れないように堤防の役割を果たすバンク1cと、バンク1cで囲われて一定ピッチに配列された塗布目標部1dと、液滴の着弾位置を測定するためのテスト印刷エリア1eによって構成され、テスト印刷エリア1eの中の着弾測定エリア1fは、塗布目標部1dと同じピッチで、1dの延長線上に形成されている。塗布目標部1dは、表示パネルの画素を構成するエリアで、着弾した液滴は濡れ広がるのに対して、着弾測定エリア1fは撥液性を持たせることで、着弾した液滴が円形に留まって、その位置をアライメントカメラ21で撮像して不図示の画像処理手段で処理することにより着弾測定エリア1fの円の中心に対する位置を測定できるようになっている。
【0032】
塗布エリア1gは、着弾測定エリア1fと同様に撥液性を持たせエリアで、着弾測定エリア1fの円の中に液滴が入らない場合に、液滴の大まかな着弾位置を測定するためのエリアとして使用するために設けている。
【0033】
<基板1とインクジェットヘッド8とが相対移動しない時>
次に基板1とインクジェットヘッド8とが相対移動しない時の、インクジェットヘッド8の液滴吐出ノズルの位置と、液滴吐出ノズルから吐出された液滴が基板1上に到達する着弾位置の関係について図3a、図3b、図4a、図4bで説明する。
【0034】
図3aは、インクジェットヘッド8から吐出される液滴の吐出角度癖による着弾位置ずれを説明する平面図で、図3bは、側面図である。
【0035】
図4aは、インクジェットヘッド8の回転角度が0度の時の液滴の吐出角度癖による着弾位置ずれを説明する平面図、図4bは、インクジェットヘッドの回転角度がφ度の時の液滴の吐出角度癖による着弾位置ずれを説明する平面図である。
【0036】
図3a中のインクジェットヘッド8には、点線の丸で示す液滴吐出ノズルが4個有り、その穴位置をn、n、n、nとする。各液滴吐出ノズルには、それぞれ吐出する方向に癖が有り、図3bのようにインクジェットヘッド8のノズル面から距離Gだけ離れた基板1の表面に着弾する時には、その位置が実線の丸で示したP、P、P、Pのようにn、n、n、nの直下とは異なる位置に到達する。この位置ズレ量を吐出角度癖による着弾位置ずれと呼ぶことにする。
【0037】
そして各液滴吐出ノズルからの吐出角度癖による着弾位置ずれは、液滴吐出ノズルの穴の形状精度や液滴吐出ノズル周辺の表面状態等によって決まるもので、インクジェットヘッド8の中では固定された癖になる。そのため、図4aに示すインクジェットヘッド8のように、インクジェットヘッド8の回転角度が0度の時に比べて、図4bのように回転角度をφ度回した場合であっても、ヘッドの液滴吐出ノズル位置n,n,n,nに対して着弾位置P,P,P,Pはインクジェットヘッド8内で同じ方向にずれることになる。つまりインクジェットヘッド8をφ度回転させた場合の平面図である図4bは、図4aをそのままφ度だけ回転させた位置になる。尚、図4a、図4bのO点は、回転軸である。
【0038】
<基板1とインクジェットヘッド8とが相対移動する場合>
次に、基板1がインクジェットヘッド8に対して一定速度Vで走行中に、インクジェットヘッド8の液滴吐出ノズルから基板に1向けて液滴を吐出した場合の着弾位置について図5a、図5b、図6a、図6bで説明する。
【0039】
図5aは塗布対象物が停止している場合のインクジェットヘッド8から吐出された液滴の着弾位置ずれを説明する平面図で、図5bはその側面図である。図6aは塗布対象物が速度Vで走行している場合のインクジェットヘッドから吐出された液滴の着弾位置ずれを説明する平面図で、図6bはその側面図である。
【0040】
図5aのように基板1が停止している状態でインクジェットヘッド8のn位置のノズルから吐出された液滴が基板1に着弾する位置をPとする。このnに対するPの位置ずれ量が図4で説明した吐出角度癖による着弾位置ずれである。それに対して基板1を一定速度Vで走行中にn位置のノズルから吐出された液滴は、速度を持って飛翔するため、液滴が基板1に到達するまでには時間が必要である。その時間をΔtとすると、その間に基板はΔt×Vだけ走行するので、液滴の基板1上での着弾位置Qは基板1を停止状態で着弾させた時の着弾位置Pに対してずれることになる。
【0041】
実際には液滴は基板1へ向かって飛翔している間に、空気の抵抗を受けて減速する影響や、基板1の走行によって生じる風の影響で液滴が流されるので、更に複雑な位置ずれとなる。この基板1の走行によって生じる走行方向の着弾位置ずれΔX1vを走行による着弾位置ずれと呼ぶことにする。この走行による着弾位置ずれは、基板1の走行に伴う着弾位置ずれであり、基本的には走行方向に生じる位置ずれで、インクジェットヘッド8の吐出角度癖による位置ずれとは違って、インクジェットヘッド8を回転させた場合でもインクジェットヘッド8の回転と一緒に回っては行かない。
【0042】
以上の説明のように基板1が停止している場合には、ノズル位置nから吐出された液滴の基板1上での着弾位置は吐出角度癖による着弾位置ずれのみのPになるのに対して、基板が速度Vで走行している場合には、吐出角度癖によって着弾位置ずれしたPに対して、更に基板1の走行方向に走行による着弾位置ずれΔX1vを加えた位置に着弾する。
【0043】
次に、基板1の塗布目標部1dに液滴を印刷する方法について説明する。
【0044】
(1)まず基板1のアライメント方法について説明する。基板1を基板吸着テーブル2上で吸着固定し、基板搬送ステージ30とヘッドユニッ移載ステージ33を移動させて、基板1の4隅のアライメントマーク1bをヘッドユニット32に搭載されたアライメントカメラ21の下に移動させて、アライメントカメラ21でアライメントマーク1bを撮像し、不図示の画像認識手段で、アライメントマーク1bの位置を計測する。一方その時の基板搬送位置検出手段7による検出位置と、ヘッドユニット移載用位置検出手段15による検出位置とに基づいて、不図示の制御手段により基板搬送ステージ30の走行方向と基板1の塗布目標部1dの方向が平行になるように基板回転機構3を駆動して調節する。
【0045】
(2)次に液滴吐出ノズルと基板1の塗布目標部1dとの位置調整方法について説明する。図7は塗布対象物が速度Vで走行する場合でインクジェットヘッドを第1の回転角度(ここでは、回転角度0度)の時の吐出された液滴の着弾位置を説明する平面図である。
【0046】
図7の中の点線の円n,n,n,nはインクジェットヘッド8の中の液滴吐出ノズルの位置で、実線の円P,P,P,Pは液滴吐出ノズルから吐出された液滴の吐出角度癖によって基板1に到達する時の位置ずれした着弾位置を表し、二重実線の円Q,Q,Q,QはP,P,P,Pに対して更に基板1が走行することによって生じる走行による着弾位置ずれを加えた着弾位置を表している。図7ではインクジェットヘッド8のY方向の液滴ピッチが塗布目標部1dのピッチWに合致するようにインクジェットヘッド8は回転軸O点周りの回転角度0度に位置決めしている。
【0047】
<着弾位置ずれ特性の算出>
次に、インクジェット印刷装置40がインクジェットヘッド8から液滴を吐出した際に生ずる着弾位置ずれの特性(以下、「着弾位置ずれ特性」と略称する)を算出する方法について、説明する。
【0048】
図8aは、図7の状態、つまり、塗布対象物が速度Vで走行する場合でインクジェットヘッドの回転角度が0度の時に吐出された液滴の着弾位置と塗布対象物の塗布目標部1dとのY方向位置ズレ量を説明する平面図である。図8aでは、液滴の着弾位置Q,Q,Q,QのY方向位置と塗布目標部1dの中心軸とのY方向の距離をそれぞれΔY10、ΔY20、ΔY30、ΔY40で表している。インクジェットヘッド8と、基板1とのY方向の位置合わせについては、ΔY10、ΔY20、ΔY30、ΔY40のトータル誤差が最小になるように位置合わせする。
【0049】
図8bは、図7の状態、つまり、塗布対象物が速度Vで走行する場合でインクジェットヘッド8の回転角度が0度の時に吐出された液滴の着弾位置とY軸とのX方向距離を説明する平面図である。図8bでは、液滴の着弾位置Q,Q,Q,QのY軸とのX方向の距離をX1S0、X2S0、X3S0、X4S0で表している。そして、このX方向の距離X1S0、X2S0、X3S0、X4S0に相当する吐出タイミングを補正した場合の着弾位置を図8cに示す。図8cのように吐出タイミングを調整することで、全ての液滴吐出ノズルから吐出されて基板1に到達した着弾位置を、ほぼY軸上に合せることができる。この印刷パターンを第1の印刷パターンとする。この状態で、基板1の着弾測定エリア1fおよび塗布目標部1dに印刷した場合の着弾位置を図8dに示す。この印刷を第1の印刷工程とする。図8dでは、塗布目標部1dの中の液滴についても二重丸で表示しているが、実際には塗布目標部1dは親水性のため、着弾した液滴は濡れ広がることになる。一方着弾測定エリア1fは撥液性のため着弾した液滴は、図8dで示した通りに着弾測定エリア1fを囲む丸の中で円形に着弾する。図8eは図8dの中のA部の拡大図である。この着弾測定エリア1fをアライメントカメラ21で撮像して画像処理を行うことによって、ピッチW0の着弾位置測定エリア1fの丸と、液滴の丸とのY方向位置ずれΔYi0およびX方向の位置ずれΔXi0(i=1,2,3,4)を検出することで、液滴の着弾位置ずれを正確に測定できる。この測定を第1の着弾位置ずれ検出工程とする。
【0050】
その結果、上記の着弾測定エリア1fでの着弾位置ずれ測定結果、ΔXi0と、ΔYi0と、図8cの吐出タイミング補正でシフトした補正量XiS0から、吐出タイミング補正をしなかった場合の着弾位置を正確に算出することが出来る。この算出工程を第1の着弾位置算出工程とする。そしてこの着弾位置データを第1の着弾位置データとする。
【0051】
次に、塗布目標部1dのピッチがWより小さいWの場合に、液滴ピッチをWに合致するようにインクジェットヘッド8を回転軸O点周りにθ回転させて塗布する場合について説明する。
【0052】
図9aは塗布対象物が速度Vで走行する場合でインクジェットヘッド8を第2の回転角度(ここでは、回転角度θ度)の時の吐出された液滴の着弾位置と塗布対象物の塗布目標部1dとのY方向位置ズレ量を説明する平面図である。液滴の着弾位置Q,Q,Q,QのY方向位置と塗布目標部1dの中心軸とのY方向の距離をそれぞれΔY、ΔY、ΔY、ΔYで表している。インクジェットヘッド8と、基板1とのY方向の位置合わせについては、ΔY、ΔY、ΔY、ΔYのトータル誤差が最小になるように位置合わせする。
【0053】
図9bは、図9aの状態、つまり塗布対象物が速度Vで走行する場合でインクジェットヘッド8の回転角度がθの時の吐出された液滴の着弾位置とY軸とのX方向距離を説明する平面図である。
【0054】
液滴の着弾位置Q,Q,Q,QのY軸とのX方向の距離をX1Sθ、X2Sθ、X3Sθ、X4Sθで表している。そしてこのX方向の距離X1Sθ、X2Sθ、X3Sθ、X4Sθに相当する吐出タイミングを補正した場合の着弾位置を図9cに示す。図9cのように吐出タイミングを調整することで、全ての液滴吐出ノズルから吐出されて基板1に到達した着弾位置を、ほぼY軸上に合せることができる。この印刷パターンを第2の印刷パターンとする。この状態で、基板1の着弾測定エリア1fおよび塗布目標部1dに印刷した場合の着弾位置を図9dに示す。この印刷を第2の印刷工程とする。図9dでは、塗布目標部1dの中の液滴についても二重丸で表示しているが、実際には塗布目標部1dは親水性のため、着弾した液滴は濡れ広がることになる。一方着弾測定エリア1fは撥液性のため着弾した液滴は、図9dで示した通りに着弾測定エリア1fを囲む丸の中で円形に着弾する。図9eは図9dの中のA部の拡大図である。この着弾測定エリア1fをアライメントカメラ21で撮像して画像処理を行うことによって、ピッチW1の着弾位置測定エリア1fの丸と、液滴の丸とのY方向位置ずれΔYiθおよびX方向の位置ずれΔXiθ(i=1,2,3,4)を検出することで、液滴の着弾位置ずれを正確に測定できる。この測定を第2の着弾位置ずれ検出工程とする。
【0055】
その結果、上記の着弾測定エリア1fでの着弾位置測定結果、ΔXiθと、ΔYiθと、図9cの吐出タイミング補正でシフトした補正量XiSθから、吐出タイミング補正をしなかった場合の着弾位置を正確に算出することが出来る。この算出工程を第2の着弾位置算出工程とする。そしてこの着弾位置データを第2の着弾位置データとする。
【0056】
尚、第1の印刷工程におけるインクジェットヘッド8と基板1との相対移動速度と、第2の印刷工程におけるインクジェットヘッド8と基板1との相対移動速度とは、同一に設定される。
【0057】
以上のように、塗布目標部1dのピッチがWの基板と、塗布目標部1dのピッチがWの基板について、インクジェットヘッド8をθ度回転させることにより液滴のピッチを塗布目標部のピッチに合せこんで印刷し、それぞれの着弾位置を正確に測定しておく。
【0058】
そして、上記2種類の基板1での着弾位置の測定結果に基づいて、任意の塗布目標部ピッチの基板に対して着弾ズレが最小になるインクジェットヘッド8の最適回転角度を算出し、テスト印刷せずに塗布することを可能にする。
【0059】
その方法について図11図12で説明する。
【0060】
図11は、インクジェットヘッド8内の1ノズルについて、ヘッド回転中心O点周りの回転角度0度の時と、そこからθ度回転させた場合のそれぞれの着弾位置の関係を示した図である。ここでヘッド回転中心O点のX座標をδx、Y座標をδyとする。また回転角度0度の時の着弾位置をQ、QのX座標をXa、Y座標をYaとし、Q(Xa、Ya)と表記する。一方回転角度θ度の時の着弾位置をQθ、QθのX座標をXb、Y座標をYbとし、Qθ(Xb、Yb)と表記する。更に基板1の走行による着弾位置のX方向の位置ズレをΔXとする。
【0061】
基板1を走行させながら塗布する場合のインクジェットヘッド8から吐出されて基板1に着弾する液滴の着弾位置ずれは、前述の通り液滴吐出ノズルから液滴が吐出する時の吐出角度癖による着弾位置ずれに、基板1の走行による着弾位置ずれが加算されたものとなり、吐出角度癖による着弾位置ずれはインクジェットヘッド8の回転と共に回転し、基板1の走行による着弾位置ずれはインクジェットヘッド8の回転に依らず基板1の走行方向によって決まる。そのためインクジェットヘッド8の回転角度0度およびθ度のそれぞれについての吐出角度癖のみによる着弾位置P、Pθは、それぞれ、PのX座標がXa-ΔX、Y座標がYa、PθのX座標がXb-ΔX、Y座標がYbとなる。
【0062】
そしてPθは、Pをヘッド回転軸O点周りにθ度回転した位置に相当するので、Pθ点とP点の関係は座標の回転の式に従って式(1)、式(2)のように表すことができる。
【数1】
【0063】
そして式(1)、式(2)より、インクジェットヘッド8の回転軸のY座標δyと、基板1の走行による位置ずれΔXは、式(3)、式(4)のように求めることができる。ここで、インクジェットヘッド8の回転軸のX軸座標δxについては、別途計測する必要がある。その計測方法について後で説明する。
【数2】
【0064】
以上のように事前にインクジェットヘッド8のヘッド回転中心OのX座標δxを求めておけば、基板1を速度Vで走行させながら印刷する方式において、インクジェットヘッド8のヘッドの回転角度が0度(第1の回転角度)とθ度(第2の回転角度)の2種類の角度での着弾位置Q(Xa、Ya)(第1の着弾位置データ)、Qθ(Xb,Yb)(第2の着弾位置データ)を計測することで、基板の走行による着弾位置ずれΔXを求めることができ、ΔXが求まれば、吐出角度癖による着弾位置ずれを求めることが出来る。この算出工程を着弾位置ずれ特性算出工程とする。
【0065】
このようにして算出された着弾位置ずれ特性に係るデータは、ここで用いられたインクジェットヘッド8の固有の特性を示すデータとして、記憶手段110に格納される。尚、着弾位置ずれ特性を算出するための液滴吐出動作は、例えば、塗布目標部1dを印刷する際に、一緒に着弾測定エリア1fに液滴を塗布して、着弾測定エリア1f内での着弾位置ずれを計測することで実施することができる。
【0066】
<印刷実行時の動作>
インクジェット印刷装置40(演算手段120)は、上記によって算出された着弾位置ずれ特性を利用して、印刷実行時のインクジェットヘッド8の目標回転角度を求めると共に、当該目標回転角度に対応する印刷パターンを生成する。尚、本実施形態では、インクジェットヘッド8の各液滴吐出ノズルから液滴を吐出した際に、塗布対象物の塗布目標部1dにおける位置ずれが最も小さくなる回転角度を、印刷実行時のインクジェットヘッド8の目標回転角度とする(以下、「最適回転角度」とも称する)。但し、インクジェットヘッド8の目標回転角度は、インクジェットヘッド8の各液滴吐出ノズルから液滴を吐出した際に、塗布対象物の塗布目標部1dにおける位置ずれが閾値以下となる回転角度に設定されてもよい。
【0067】
まず、上記で求まった着弾位置ずれ特性(即ち、基板1の走行による着弾位置ずれΔX、及び、吐出角度癖による着弾位置ずれ)、およびインクジェットヘッド8のヘッド回転中心O(δx、δy)から、基板1を速度Vで走行させながら印刷する方式において、インクジェットヘッド8の任意の第3の回転角度φにおける着弾位置の算出方法について図12で説明する。
【0068】
図12は、インクジェットヘッド8がヘッド回転角度0度の時と、φ度の時についての着弾位置ずれを説明する図である。
【0069】
まず、演算手段120は、記憶手段110に記憶された着弾位置ずれ特性に係るデータを読み出し、インクジェットヘッド8の回転角度0度での着弾位置Q(Xa、Ya)のX座標から走行による着弾位置ずれΔXを差し引いて、吐出角度癖のみがある場合の着弾位置P(Xa―ΔX、Ya)を求める。そして、演算手段120は、P点をヘッド回転中心O点周りにφ度回転させた吐出角度癖のみがある場合の着弾位置Pφ(Xd、Yd)を求め、このPφ点のX座標に基板1の走行による着弾位置ずれΔXを加えることで、回転角度φにおける着弾位置Qφ(Xe、Ye)を求める。これを式で表すと、Pφ点の座標は、式(5)、式(6)、Qφ点の座標は式(7)、式(8)で表すことができる。上記のインクジェットヘッド8の第3の回転角度φにおける着弾位置を計算する工程を着弾位置予測工程とする。
【数3】
【0070】
尚、演算手段120は、インクジェットヘッド8の第3の回転角度φを種々に変化させ、複数の第3の回転角度φそれぞれのときの着弾位置を計算する。
【0071】
次に、演算手段120は、インクジェットヘッド8の液滴吐出ノズルの配列ピッチと、走査方向に直交する方向における塗布対象物の塗布目標部1dの塗布目標ピッチと、に基づいて、塗布対象物の塗布目標部1dに対して、インクジェットヘッド8から液滴吐出を行う際のインクジェットヘッド8の最適回転角度φcを求める。演算手段120は、例えば、インクジェットヘッド8の複数の第3の回転角度φそれぞれのときの塗布目標部1dに対する液滴の着弾位置ずれに係る評価値を算出し、この評価値を基準として、最適回転角度φcを求める。
【0072】
インクジェットヘッド8の回転角度φでの1つの液滴吐出ノズルの着弾位置の計算式を式(7)、式(8)に示した。ここで、インクジェットヘッド8に複数の液滴吐出ノズルを設けた場合についてi番目の液滴吐出ノズルのインクジェットヘッド8の回転角度0度(第1の回転角度)での着弾位置座標を(Xia、Yia)、回転角度θ度(第2の回転角度)での着弾位置座標を(Xib、Yib)、i番目のノズルの走行による位置ずれ量をΔXivとすると、回転角度φ(第3の回転角度)での着弾位置座標を(Xie、Yie)とすると、その値は式(9)、式(10)のように表すことができる。
【数4】
【0073】
ここでΔXivは、式(11)で表すことができる。そしてi番目の液滴吐出ノズルの塗布目標部のY座標をYti、i番目の液滴吐出ノズルの着弾位置のY座標をYieとすると、その差分ΔYiφは、式(12)で表すことができる。このΔYiφ、ΔXiv図10aに示す。各図のiは1、2、3、4の4つの液滴吐出ノズルである。そして、演算手段120は、インクジェットヘッド8の最適回転角度φcを求めるために、式(13)に示すように、全液滴吐出ノズルのY方向位置ずれΔYiφの二乗和平均Δtを評価値として算出する。そして、演算手段120は、φを変化させて、それぞれのφのときの二乗和平均Δtを計算し、Δtが最小になるφの値を求める。このΔtが最小となるφがインクジェットヘッド8の最適回転角度φになる。
【数5】
【0074】
更に、演算手段120は、式(14)によりY方向のオフセット量Δyを算出する。このΔyは、基板1とインクジェットヘッド8の位置合わせの際にオフセットさせることで印刷に反映させる。
【数6】
【0075】
そして、演算手段120は、X方向については、各ノズルのX方向の着弾位置座標Xieφcを式(15)で算出し、―Xieφcに相当する量の吐出タイミングを補正する。この吐出タイミング補正した印刷パターンを最適印刷パターンと呼び、その生成工程を最適印刷パターン生成工程と呼ぶことにする。
【数7】
【0076】
尚、インクジェットヘッド8の回転角度を最適回転角度φに設定した場合における、各ノズルのY方向の着弾位置座標Yieφcは、式(16)で算出され、目標座標からのY方向の位置ずれΔYieφcは、式(17)で算出される。そして、Y方向のオフセットを考慮した場合の着弾位置のY座標は、Yieφc-Δyとなる。
【数8】
【0077】
インクジェット印刷装置40(インクジェットヘッド制御手段100)は、インクジェットヘッド8を、上記で算出された最適回転角度φ、及びY方向のオフセット量Δyに位置決めし、上記の最適印刷パターンに従って印刷する。これによって、塗布目標部1dに対する位置ずれが最も小さくなるように、液滴吐出を行うことができる。
【0078】
尚、この印刷時には、インクジェット印刷装置40は、インクジェットヘッド8と基板1との相対移動速度が、上記した第1の印刷工程及び第2の印刷工程における速度と同一となるように、基板搬送ステージ30を制御する。
【0079】
以上の様子を図10bから図10eに示す。図10bは、インクジェットヘッド8のヘッド回転角度を上記で求めた最適回転角度φに設定した場合の1、2、3、4番各液滴吐出ノズルの着弾位置とY軸とのX方向距離を示す図である。図10cは、図10bの各液滴吐出ノズルの着弾位置とY軸とのX方向距離分吐出タイミングを補正した場合の着弾位置を示す図である。式(15)で計算した量の反対方向―XieΦcだけ吐出タイミングを補正すると、各液滴吐出ノズルの着弾位置はY軸上に重なる。そしてその状態で基板1に液滴を塗布した図を図10dに示す。インクジェットヘッド8の回転角度を最適回転角度φcに設定したことで、各ノズルの着弾位置と塗布目標位置との位置ずれは最小になっている。実際に塗布した際の着弾測定エリア1fでの着弾位置の拡大図を図10eに示す。この図で、3番目および4番目の液滴吐出ノズルから吐出した液滴の着弾測定エリアでの着弾位置を示している。実際に着弾した液滴のX方向の目標位置との位置ずれ量ΔX3φc、ΔX4φcは、ほぼ目標位置になっているが、これを更に追込みたい場合は、この位置ずれ量分の吐出タイミングの補正を実施することで、更に小さくすることも可能である。
【0080】
<インクジェットヘッドのヘッド回転中心の座標の求め方について>
次に、インクジェットヘッド8のヘッド回転中心O(δx、δy)の座標の求め方について図13で説明する。図13は、塗布対象物が停止している場合におけるインクジェットヘッド8のθ回転前後での着弾位置を説明する平面図である。印刷対象物が停止しているので、走行による位置ずれは発生せず、液滴吐出ノズルからの吐出角度癖による位置ずれだけしか発生しないので、回転前の着弾位置をP0V0(XaV0、YaV0)、θ回転後の着弾位置をPθV0(XbV0、YbV0)とすると、PθV0は、P0V0をO点周りにθ回転した位置に相当するので、その座標の関係は式(18)、式(19)で表すことが出来る。
【数9】
【0081】
そして、式(18)、式(19)からO点の座標(δx、δy)を求めると、式(20)、式(21)のようになる。
【数10】
【0082】
このヘッド回転中心O点の座標を特定する作業は、インクジェットヘッド8をヘッド回転機構10に取り付けた時に、最初に1度だけ実施すれば良い。この作業は、全ノズルを使う必要はなく、インクジェットヘッド8の両端付近の離れた2つの液滴吐出ノズルで、吐出再現性の高いノズルを選んで実施することが好ましい。
【0083】
以上のように、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置40によれば、インクジェットヘッド8が互いに異なる第1及び第2の回転角度それぞれのときに、インクジェットヘッド8から吐出された液滴の目標位置からの着弾位置ずれに基づいて算出された着弾位置ずれ特性に基づいて、任意のピッチの塗布目標部1dに対して、テスト印刷をせずに、インクジェットヘッド8の最適なヘッド回転量を設定して印刷することが可能になる。
【0084】
この方法は、実際の塗布目標部1dを印刷する際に、一緒に着弾測定エリア1fに液滴を塗布して、1f内での着弾位置ずれを計測することで実施することが出来るので、塗布目標部ピッチWの基板1および塗布目標部ピッチWの基板1の生産中に着弾位置ずれを計測し、その計測結果に基づいて任意の塗布目標部ピッチの基板1に対して、着弾位置ずれが最小になるようにインクジェットヘッド8のヘッド回転角度を設定できる。その結果、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置40によれば、液滴吐出ノズルの吐出角度癖による着弾位置ズレさえも考慮する必要が有る高精細な印刷であっても、テスト印刷等の稼動率を下げる工程を最小限に抑えながら、高精度の印刷が出来る。
【0085】
以上のように、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置40によれば、着弾癖を測定するための特別な基板を使うことなく、実生産基板で着弾癖の測定ができ、その結果に基づいて任意の塗布目標部ピッチの基板に対して、テスト印刷をしなくても正確に塗布することが出来る。その結果、稼働率が高く、高精細な表示パネルの印刷を可能にできる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の前記態様にかかるインクジェット印刷装置は、高精細で一定ピッチの印刷対象物にインク等を塗布するのに有効であり、有機ELの発光体、ホール輸送層、又は電子輸送層の印刷、又は、カラーフィルターの印刷等におけるインクジェット印刷装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 基板(塗布対象物)
1a 機材
1b アライメントマーク
1c バンク
1d 塗布目標部
1e テスト印刷エリア
1f 着弾測定エリア
1g 塗布エリア
2 基板吸着テーブル
3 基板回転機構
4 基板用スライダー
5 基板用ガイドレール
6 基板搬送用リニアモータ
7 基板搬送位置検出手段
8 インクジェットヘッド
9 ブラケット
10 ヘッド回転機構
11 ブラケット
12 ヘッドユニット移載用スライダー
13 ヘッドユニット移載用ガイドレール
14 ヘッドユニット移載用リニアモータ
15 ヘッドユニット移載用位置検出手段
16 支持部
17 定盤
18 架台
21 アライメントカメラ
22 ヘッドユニットベース
23 インクジェットヘッド部
30 基板搬送ステージ
32 ヘッドユニット
33 ヘッドユニット移載ステージ
40 インクジェット印刷装置
100 インクジェットヘッド制御手段
110 記憶手段
120 演算手段
1番目のノズル位置
2番目のノズル位置
3番目のノズル位置
4番目のノズル位置
O インクジェットヘッドの回転中心
1番目のノズルの吐出角度癖によって位置ずれした着弾位置
2番目のノズルの吐出角度癖によって位置ずれした着弾位置
3番目のノズルの吐出角度癖によって位置ずれした着弾位置
4番目のノズルの吐出角度癖によって位置ずれした着弾位置
1番目のノズルの吐出角度癖と走行によって位置ずれした着弾位置
2番目のノズルの吐出角度癖と走行によって位置ずれした着弾位置
3番目のノズルの吐出角度癖と走行によって位置ずれした着弾位置
4番目のノズルの吐出角度癖と走行によって位置ずれした着弾位置
塗布エリアピッチ
塗布エリアピッチ
塗布エリアピッチ
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図9a
図9b
図9c
図9d
図9e
図10a
図10b
図10c
図10d
図10e
図11
図12
図13
図14
図15