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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】変位測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20240226BHJP
   G01L 1/24 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
G01B11/00 H
G01L1/24 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020079574
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021173703
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美枝
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 佳幾
(72)【発明者】
【氏名】福田 一人
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-130844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0169348(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0002182(KR,A)
【文献】特表2006-508205(JP,A)
【文献】特開2018-163084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00
G01L 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物と接触可能に設けられ、少なくとも1次元の広がりを有する第1のスペーサと、前記第1のスペーサの前記広がりにわたって分布し、励起エネルギーにより発光する波長が異なる2種類以上の発光粒子と、を含むセンサ部と、
前記センサ部に一定の負荷をかけて、前記被測定物の微少な凹凸がある場合、前記センサ部への負荷を前記凹凸に反映させる、負荷装置と、
前記センサ部に含まれる前記2種類以上の発光粒子を発光させる励起エネルギー源と、
前記センサ部からの発光を受光する受光部と、
を備え、前記被測定物の前記凹凸を測定する、変位測定システム。
【請求項2】
前記2種類以上の発光粒子は、一方の種類の発光粒子の発光スペクトルと、他方の種類の発光粒子の励起スペクトルとが重なりを有する、請求項1に記載の変位測定システム。
【請求項3】
前記2種類以上の発光粒子として、半導体ナノ粒子、有機色素のうち、少なくとも1種以上を用いる、請求項1又は2に記載の変位測定システム。
【請求項4】
受光した前記発光の波長分布に基づいて、前記センサ部に接触している前記被測定物の変位を測定する画像解析部を、さらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の変位測定システム。
【請求項5】
被測定物と接触可能に設けられ、励起エネルギーにより第1の波長で発光する第1発光粒子が少なくとも1次元の広がりにわたって分布する第1発光粒子層と、励起エネルギーにより前記第1の波長と異なる第2の波長で発光する第2発光粒子が前記広がりにわたって分布する第2発光粒子層と、前記広がりと交差する方向にわたって前記第1発光粒子層と前記第2発光粒子層とを離間させる第2のスペーサ層と、を含むセンサ部と、
前記センサ部に一定の負荷をかけて、前記被測定物の微少な凹凸がある場合、前記センサ部への負荷を前記凹凸に反映させる、負荷装置と、
前記センサ部に含まれる前記第1発光粒子及び前記第2発光粒子を発光させる励起エネルギー源と、
前記センサ部からの発光を受光する受光部と、
受光した前記発光の波長分布に基づいて、前記センサ部に接触している前記被測定物の変位を測定する画像解析部と、
を備え、前記被測定物の前記凹凸を測定する、変位測定システム。
【請求項6】
前記第1発光粒子及び前記第2発光粒子は、一方の種類の発光粒子の発光スペクトルと、他方の種類の発光粒子の吸収スペクトルとが重なりを有する、請求項5に記載の変位測定システム。
【請求項7】
前記第1発光粒子及び前記第2発光粒子として、半導体ナノ粒子、有機色素のうち、少なくとも1種以上を用いる、請求項5又は6に記載の変位測定システム。
【請求項8】
前記励起エネルギーが、光エネルギー、電気エネルギーのうちの少なくとも一方である、請求項1から7のいずれか一項に記載の変位測定システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の前記変位測定システムを用いた、圧力測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位測定システム、特に、微小変位、圧力を測定する変位測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変位、または圧力を測定するシステムとしては、感圧樹脂に多数の薄膜トランジスタを組み合わせたものが知られている。
感圧樹脂は、導電性粒子をシリコーンゴム等の絶縁樹脂に分散させてものである、感圧樹脂では、圧力を加えられると、絶縁樹脂内において導電性粒子同士が接触することで、抵抗値が低下する。これにより、感圧樹脂に加えられた圧力を検知できる。多数の薄膜トランジスタは、マトリクス状に配置されており、電極として機能する。
【0003】
また、感圧層と複数の電極が所定の隙間を開けて対抗配置された圧力センサも知られている(例えば、特許文献1参照。)。例えば、特許文献1に記載の技術では、感圧層と電極の隙間が異なる個別電極をマトリクス状に配置することで、圧力測定範囲が広く、大面積の測定をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6322247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、隙間の異なる個別電極を並べることにより、一定の押圧領域を必要とし、微小領域の測定は困難である。また、個別電極を並べているため、測定面積の広い試料を測定するには回路が複雑化するという課題がある。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、微小領域での変位測定または圧力測定を簡易に評価することを可能とした変位または圧力測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る変位測定システムは、被測定物と接触可能に設けられ、少なくとも1次元の広がりを有する第1のスペーサと、前記第1のスペーサの前記広がりにわたって分布し、励起エネルギーにより発光する波長が異なる2種類の発光粒子と、を含むセンサ部と、
前記センサ部に含まれる前記2種類の発光粒子を発光させる励起エネルギー源と、
前記センサ部からの発光を受光する受光部と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明に係る変位測定システムによれば、微小領域での変位又は圧力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る変位測定システムの構成を示す概略図である。
図2】実施の形態1に係る変位測定システムの変形例1の構成を示す概略図である。
図3】実施の形態1に係る変位測定システムの変形例2の構成を示す概略図である。
図4】実施の形態2に係る変位測定システムの構成を示す概略図である。
図5】実施の形態2に係る変位測定システムの変形例3の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様に係る変位測定システムは、被測定物と接触可能に設けられ、少なくとも1次元の広がりを有する第1のスペーサと、前記第1のスペーサの前記広がりにわたって分布し、励起エネルギーにより発光する波長が異なる2種類以上の発光粒子と、を含むセンサ部と、
前記センサ部に含まれる前記2種類以上の発光粒子を発光させる励起エネルギー源と、
前記センサ部からの発光を受光する受光部と、
を備える。
【0011】
上記構成によって、微小領域での変位又は圧力を測定することができる。
【0012】
第2の態様に係る変位測定システムは、上記第1の態様において、前記2種類以上の発光粒子は、一方の種類の発光粒子の発光スペクトルと、他方の種類の発光粒子の励起スペクトルとが重なりを有してもよい。
【0013】
第3の態様に係る変位測定システムは、上記第1又は第2の態様において、前記2種類以上の発光粒子として、半導体ナノ粒子、有機色素のうち、少なくとも1種以上を用いてもよい。
【0014】
第4の態様に係る変位測定システムは、上記第1から第3のいずれかの態様において、受光した前記発光の波長分布に基づいて、前記センサ部に接触している前記被測定物の変位を測定する画像解析部を、さらに備えてもよい。
【0015】
第5の態様に係る変位測定システムは、被測定物と接触可能に設けられ、励起エネルギーにより第1の波長で発光する第1発光粒子が少なくとも1次元の広がりにわたって分布する第1発光粒子層と、励起エネルギーにより前記第1の波長と異なる第2の波長で発光する第2発光粒子が前記広がりにわたって分布する第2発光粒子層と、前記広がりと交差する方向にわたって前記第1発光粒子層と前記第2発光粒子層とを離間させる第2のスペーサ層と、を含むセンサ部と、
前記センサ部に含まれる前記第1発光粒子及び前記第2発光粒子を発光させる励起エネルギー源と、
前記センサ部からの発光を受光する受光部と、
受光した前記発光の波長分布に基づいて、前記センサ部に接触している前記被測定物の変位を測定する画像解析部と、
を備える。
【0016】
第6の態様に係る変位測定システムは、上記第5の態様において、前記第1発光粒子及び前記第2発光粒子は、一方の種類の発光粒子の発光スペクトルと、他方の種類の発光粒子の吸収スペクトルとが重なりを有してもよい。
【0017】
第7の態様に係る変位測定システムは、上記第5又は第6の態様において、前記第1発光粒子及び前記第2発光粒子として、半導体ナノ粒子、有機色素のうち、少なくとも1種以上を用いてもよい。
【0018】
第8の態様に係る変位測定システムは、上記第1から第7のいずれかの態様において、前記励起エネルギーが、光エネルギー、電気エネルギーのうちの少なくとも一方であってもよい。
【0019】
第9の態様に係る圧力測定システムは、上記第1から第8のいずれかの態様に係る前記変位測定システムを用いる。
【0020】
以下、実施の形態に係る変位測定システムについて、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る変位測定システム10の構成を示す概略図である。なお、図面において、便宜上、センサ部200の平面内の広がりを示す面内をX-Y平面とし、紙面右をX方向とし、鉛直上方をZ方向として示している。
図1において、変位測定システム10は、励起エネルギー源100と、センサ部200と、発光受光素子300と、画像解析部400と、を含む。センサ部200は、被測定物と接触可能に設けられ、少なくとも1次元の広がりを有する第1のスペーサ212と、第1のスペーサ212の広がりにわたって分布し、励起エネルギーにより発光する波長が異なる2種類以上の発光粒子211、213と、を含む。励起エネルギー源100によってセンサ部200に含まれる2種類以上の発光粒子211、213を発光させる。発光受光素子300によって、センサ部200からの発光を受光する。
この変位測定システム10によれば、発光する波長が異なる2種類以上の発光粒子211、213が少なくとも1次元の広がりにわたって分布しているセンサ部200を有する。そこで、その発光の波長分布によって、2種類以上の発光粒子211、213の距離の変化が検出でき、微小領域での変位又は圧力を測定することができる。
なお、センサ部200は、支持体220によって支持してもよい。
【0022】
以下に、この変位測定システム10を構成する各部材について説明する。
【0023】
<センサ部>
センサ部200は、被測定物と接触可能に設けられている。また、センサ部200は、少なくとも1次元の広がりを有する第1のスペーサ212と、第1のスペーサ212の広がりにわたって分布し、励起エネルギーにより発光する波長が異なる2種類以上の発光粒子211、213と、を含む。
【0024】
センサ部200の厚みは、1nm以上100000nm以下が好ましい。より好ましくは、1nm以上50000nm以下であり、さらに好ましくは、3nm以上10000nm以下である。1nmより薄いとセンサに必要な発光粒子211、213間の距離の変化を確保することができない。100000nm(100μm)より厚いと、接触する被測定物の変位による粒子間の距離の変化がセンサ部全体にわたって生じにくくなり、センサとして機能しない。
【0025】
<第1のスペーサ>
第1のスペーサ212は、少なくとも1次元の広がりを有する。図1では、第1のスペーサ212は、2次元の広がりを有する。また、第1のスペーサ212内に発光粒子211、213が分散している。
第1のスペーサは、圧力により圧縮される、かつ、発光粒子211、213からの発光を阻害しない材料であれば特に制限はされない。例えば、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラートなどを用いることができる。
第1のスペーサ212の厚さは、センサ部200の厚さと実質的に同一であり、1nm以上100000nm以下が好ましい。より好ましくは、1nm以上50000nm以下であり、さらに好ましくは、3nm以上10000nm以下である。
【0026】
<発光粒子>
発光粒子211、213は、励起エネルギーにより発光する波長が異なる2種類以上の発光粒子211、213と、を含む。
発光粒子211、213としては、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、硫化銅インジウム、硫化銀インジウム、リン化インジウムなどをコアとする半導体ナノ粒子、ハロゲン化セシウム鉛のようなペロブスカイト型半導体ナノ粒子、シリコン、カーボンなどをコアとする半導体ナノ粒子、メロシアニン、ペリレンなどの有機色素などを用いることができる。
【0027】
2種類以上の発光粒子211、213の粒子サイズは、半導体ナノ粒子は、量子サイズ効果が得られる粒子サイズであればよく、1nm以上100nm以下が好ましい。より好ましくは、1nm以上50nm以下である。有機色素は、原料は粉末状であっても、原料粉の粒子サイズによる影響はない。
2種類以上の発光粒子211、213は、第1のスペーサ212内に少なくとも1次元の広がりにわたって実質的に均一に分散している。図1では、2次元にわたって実質的に均一に分布している。
【0028】
<支持体>
支持体220は、ハンドリングしやすい、かつ、発光粒子211、213からの発光を阻害しない材料であれば特に制限はされない。例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリアクリルアミド、ポリカーボネートなどを用いることができる。ただし、センサ部200のハンドリングに問題がなければ、支持体220は必ずしも必要な構成ではない。
【0029】
<励起エネルギー源>
励起エネルギー源100は、センサ部200に含まれる発光粒子211、213を励起できる励起エネルギー源であれば、特に制限はされない。例えば、光エネルギー源、電気エネルギー源を用いることができる。また、観察範囲内を一括で評価するためには、励起エネルギー源100によって発光粒子211、213に均一に励起エネルギーを供給する必要がある。
【0030】
<発光受光素子>
発光受光素子300は、発光粒子211、213の発光挙動変化を受光できる受光素子であれば、特に制限はされない。特に、観察範囲内を一括で評価できる、例えば、CCD、CMOS、イメージセンサなどを用いることができる。これらを用いることにより、観察範囲内の発光挙動を瞬時に分析することが可能である。
なお、励起エネルギー源として光エネルギー源を用いる場合は、発光受光素子300において検出感度を上げるため、波長カットフィルターを用い、励起エネルギー源100の波長の影響を抑制することが好ましい。
【0031】
<画像解析部>
また、受光した発光の波長分布に基づいて、センサ部200に接触している被測定物の変位を測定する画像解析部400をさらに備えてもよい。画像解析部400は、得られたイメージを色度、輝度により解析し、周囲との色度差、輝度差が得られる座標を算出できることが好ましい。画像解析部400では、受光した発光の波長分布に基づいて、センサ部200に接触している被測定物の変位を測定する。具体的には、得られた発光の波長分布によって、2種類の発光粒子211、213の距離の変化が検出でき、微小領域での変位又は圧力を測定することができる。変位測定の原理の詳細については、後述する。
【0032】
なお、この変位測定システム10において、センサ部200の平面に対して、斜め方向に励起エネルギー源100と発光受光素子300とを配置しているが、上記配置は一例であり、これらの配置を特に制限するものではない。
【0033】
次に、実施の形態1に係る変位測定システムにおける変位測定の原理を説明する。
発光する波長が異なる2種類以上の発光粒子として、一方の発光粒子(ドナー)の蛍光スペクトル(発光スペクトル)と、もう一方の発光粒子(アクセプター)の励起スペクトル(吸収スペクトル)との間に重なりがある場合を考える。この場合において、発光する波長が異なる二つの発光粒子が近接すると、励起エネルギーにより励起したドナーが発光する前に、その励起エネルギーがアクセプターを励起するという挙動が知られている。この挙動をフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)といい、2種類の発光粒子の発光スペクトルの波長分布の挙動は、2種類の発光粒子間の距離に依存する。特に、FRET効率をドナー励起数当たりのエネルギー移動数の割合とすると、FRET効率は、2種類の発光粒子間の距離の6乗に反比例する。そのため、わずかな距離の変化でも発光スペクトルの変化に大きく影響する。
【0034】
この変位測定システム10では、前述の原理を利用し、被測定物上にセンサ部200を設置し、一定の負荷をかけることにより、被測定物の微小な凹凸がある場合、センサ部200への負荷が凹凸箇所のみ他の箇所と異なる。それにより、被測定物の凹凸箇所についてセンサ部200の対応する箇所の圧縮量が他の箇所と変化する、つまり凹凸箇所のみ2種類の発光粒子間の距離が変化する。2種類の発光粒子間の距離の変化に応じ、FRET効果により発光スペクトルが変化する。そのため、2種類の発光粒子の発光スペクトルを測定することにより、面内において凹凸箇所で生じた発光スペクトル変化より2種類の発光粒子間の距離の変化、つまり被測定物の変位へ変換することができる。
また、被測定物を測定する前に、レファレンスとなる型を測定し、被測定物による測定とレファレンスとなる型の測定との差分から微小な凹凸箇所と変位との関係を測定することも可能である。
但し、変位量として算出するためには、変位違いの既知材料で発光スペクトル変化を測定しておくことが必要である。
【0035】
なお、2種類の発光粒子211,213は、図1では、第1のスペーサ212に均一に配置されているように示しているが、実際には2種類の発光粒子間の距離は均一ではなく、平均距離を中心として理想的には正規分布しているものと考えられる。したがって、発光粒子間の距離が幅をもって分布していることに依存して、発光スペクトル変化も幅をもって分布することとなる。
【0036】
ここで、2種類以上の発光粒子であるドナー、アクセプターのどちらも半導体ナノ粒子を用いた場合について説明する。半導体ナノ粒子は、半導体結晶をもつナノサイズの粒子であり、量子サイズ効果により粒子径に応じ、発光スペクトルが変化するという特性をもつ。また、同一の粒子径であっても、材料が異なれば、発光スペクトルが変化するという特性をもつ粒子であり、様々な発光スペクトルを実現することが可能である。
【0037】
なお、発光粒子において、同一粒子径で材料系が異なる場合、材料そのものがもつエネルギーギャップが大きいほうが短波長側に発光を示す。発光波長が短波長側の半導体ナノ粒子を半導体ナノ粒子A、発光波長が長波長側の半導体ナノ粒子を半導体ナノ粒子Bとする。2つの半導体ナノ粒子間の距離が十分離れた状態では、半導体ナノ粒子Aと半導体ナノ粒子Bは、それぞれの発光スペクトルを示す。被測定物により半導体ナノ粒子間の距離が近接した場合、その距離に応じて、半導体ナノ粒子A、Bが励起され、半導体ナノ粒子Aが発光する前に半導体ナノ粒子Aから半導体ナノ粒子Bへのエネルギー移動が起こり、半導体ナノ粒子Aから発光されるはずのエネルギーが半導体ナノ粒子Bの発光に利用される。結果として、半導体ナノ粒子Aの発光スペクトル強度が減少し、半導体ナノ粒子Bの発光スペクトルが増強する。つまり、2つの半導体ナノ粒子の全体の発光スペクトルにおいて、短波長側の半導体ナノ粒子Aの発光スペクトル強度が単体の場合より減少し、長波長側の半導体ナノ粒子Bの発光スペクトル強度が単体の場合より増強された波長分布を有する。全体の発光スペクトルにおける波長分布の挙動は、2つの半導体ナノ粒子A、B間の距離に応じて変化する。
そこで、センサ部の面内の発光スペクトルの波長分布に基づいて、2種類の半導体ナノ粒子A、B間の距離の変化、つまり被測定物の変位を算出できる。
なお、センサ部の面内の発光スペクトルの波長分布に基づいて、被測定物の変位に代えて被測定物から受ける圧力を算出してもよい。
【0038】
(変形例1)
図2は、実施の形態1に係る変位測定システムの変形例1の構成を示す概略図である。
変形例1に係る変位測定システム10aは、実施の形態1に係る変位測定システムと対比すると、2種類の発光粒子211、214が、同一材料で粒子径が異なるものである点で相違する。同一材料で粒子径が異なる場合、量子サイズ効果により粒子径が小さいほうが短波長側に発光を示す。図2において、粒子径の小さい発光粒子211が短波長側に発光波長を有し、粒子径の大きい発光粒子214が長波長側に発光波長を有する。発光粒子に半導体ナノ粒子を用いる場合には、粒子径の小さい発光粒子211が短波長側の半導体ナノ粒子Aに該当し、粒子径の大きい発光粒子214が長波長側の半導体ナノ粒子Bに該当する。前述したように短波長側の半導体ナノ粒子Aと長波長側の半導体ナノ粒子Bとの粒子間距離に応じて、エネルギー移動が起こり、発光スペクトルの波長分布が変化する。
そこで、センサ部の面内の発光スペクトルの波長分布に基づいて、2種類の半導体ナノ粒子A、B間の距離の変化、つまり被測定物の変位を算出できる。
なお、発光粒子に有機色素を用いた場合についても同様の原理で被測定物の変位を検出できる。
【0039】
上述のように、FRET現象が生じると短波長側で発光する発光粒子又は色素分子の発光スペクトルが減少し、長波長側で発光する発光粒子又は色素分子の発光スペクトルが増強する。短波長側の発光ピーク波長と長波長側の発光ピーク波長とは、10nm以上離れている方が好ましい。より好ましくは30nm以上である。10nmより発光ピーク波長が近いと発光強度が低いスペクトルの発光ピーク強度がもう一方のスペクトルと重なり、発光スペクトルにおける波長分布の変化の検出が困難になる。
また、発光スペクトルにおける波長分布の微小な変化を検出するためには、2種類の発光粒子間の距離を一定にする必要があり、第1のスペーサ212を構成する樹脂材への2種類の発光粒子の分散時に高濃度均一分散が求められる。
【0040】
(変形例2)
図3は、実施の形態1に係る変位測定システムの変形例2の構成を示す概略図である。
変形例2に係る変位測定システムは、実施の形態1に係る変位測定システムと対比すると、励起エネルギー源として電気エネルギー源110を用いる点で相違する。
図3に示すように、電気エネルギー源110を使用する場合は、例えば、陽極基板230と陰極基板240との間にセンサ部200を挟んで、センサ部200に電圧を印加することによって電気エネルギーを印加できる。この場合には、陽極基板230の上にセンサ部200を積層し、その上に陰極基板240を積層することによって、構成できる。
陽極基板230は、発光粒子211、213からの発光を阻害しない基板が好ましく、例えば、ITOなどを用いることができる。また、陰極基板240は、アルミニウム等を用いることができる。
なお、センサ部200の構成は、実施の形態1及び変形例1の構成を用いることができるので、説明を省略する。
【0041】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る変位測定システムの構成を示す概略図である。図4において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
実施の形態2に係る変位測定システム10cは、実施の形態1に係る変位測定システムと対比すると2種類の第1発光粒子211及び第2発光粒子213がそれぞれ第1発光粒子層11及び第2発光粒子層12を構成している点で相違する。
この変位測定システム10cは、図2に示すように、励起エネルギー源100と、センサ部200と、発光受光素子300と、画像解析部400と、を含む。センサ部200は、被測定物と接触可能に設けられている。また、センサ部200は、第1発光粒子層11と、第2のスペーサ層212aと、第2発光粒子層12と、を含む。第1発光粒子層11は、励起エネルギーにより第1の波長で発光する第1発光粒子211が少なくとも1次元の広がりにわたって分布する。第2発光粒子層12は、励起エネルギーにより第1の波長と異なる第2の波長で発光する第2発光粒子213が上記広がりにわたって分布する。第2のスペーサ層212aによって上記広がりと交差する方向にわたって第1発光粒子層11と第2発光粒子層12とを離間させる。励起エネルギー源100によって、センサ部200に含まれる第1発光粒子211及び第2発光粒子213を発光させる。受光発光素子300によってセンサ部からの発光を受光する。また、画像解析部400によって、受光した発光の波長分布に基づいて、センサ部200に接触している被測定物の変位を測定する。
【0042】
本実施の形態2では、励起エネルギー源100、発光受光素子300、画像解析部400は、本実施の形態1と同じ構成要素であるため、説明を省略する。
本実施の形態2のセンサ部は、第1の波長で発光する第1発光粒子211を含む第1発光粒子層11と、第2の波長で発光する第2発光粒子211を含む第2発光粒子層12と、第2のスペーサ層212aと、支持体220と、から構成されている。層構造としては、第1発光粒子層11と、第2発光粒子層12と、が第2のスペーサ層212aを介して対向して配置されている。つまり、ドナー側の粒子とアクセプター側の粒子との間に第2のスペーサ層212aが配置されている。換言すれば、変位を受けない状態では、ドナー側の粒子とアクセプター側の粒子とが第2のスペーサ層212aの厚みについて離間されている。
これによって、ドナー側の粒子とアクセプター側の粒子との距離を実施の形態1のように平均距離を中心とする分布ではなく、第2のスペーサ層212aの厚みとして規定できる。
【0043】
<第2のスペーサ層>
第2のスペーサ層212aの厚みは1nm以上1000nm以下が好ましい。より好ましくは1nm以上500nm以下である。さらに好ましくは3nm以上300nmである。1nmより薄いと2種類の発光粒子間の距離の変化が確保できず、センサとして使用できない。本実施の形態2においては、第2のスペーサ層212aの厚みは1000nm以下で十分センサとして成り立つ。
【0044】
第2のスペーサ層212aの製造方法としては、特に制限されないが、例えばLayerbyLayer(LBL)法やスピンコーター法などのような薄膜制御できる工法を用いることができる。
ここでLBL法とは、カチオン性のポリマーとアニオン性のポリマーを静電気力により交互に吸着させ、薄膜制御できる工法である。
【0045】
第2のスペーサ層212aの材料としては、特に制限されないが、採用する工法により一部制限される。例えば、LBL法では、ポリアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性ポリマー、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、アニオン性のポリマーなどのイオン性のポリマーを使用することができる。また、スピンコーター法では、溶媒に溶解する材料であれば特に制限はされないが、上述のイオン性ポリマー、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラートなどを使用することができる。
【0046】
第2のスペーサ層212aの厚みを制御することにより、面内での発光する2種類の発光粒子間の距離を任意に制御することができる。
なお、センサ部200による変位測定の原理としては、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
(変形例3)
図5は、実施の形態2に係る変位測定システムの変形例3の構成を示す概略図である。
この変位測定システム10dは、実施の形態2に係る変位測定システムと対比すると、第2発光粒子214が第1発光粒子211と同一材料からなり粒子径が異なる点で相違する。上記の点は、変形例1と同様である。
なお、第2のスペーサ層212a及びセンサ部200による変位測定の原理は実施の形態2と同様であるので説明を省略する。
【0048】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る変位測定システムによれば、微小領域での変位又は圧力を簡易に測定することが可能となる。本発明に係る変位測定システムは、光学レンズや精密加工部品等の微小な傷や凹凸の測定の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0050】
10、10a、10b、10c、10d 変位測定システム
11 第1発光粒子層
12 第2発光粒子層
100 励起エネルギー源
200 センサ部
211 発光粒子、第1発光粒子
212 第1のスペーサ
212a 第2のスペーサ層
213 発光粒子、第2発光粒子
214 発光粒子、第2発光粒子
220 支持体
230 陽極基板
240 陰極基板
300 発光受光素子
400 画像解析部
図1
図2
図3
図4
図5