(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】射出ノズル及びノズルヒータ
(51)【国際特許分類】
B29C 45/20 20060101AFI20240226BHJP
【FI】
B29C45/20
(21)【出願番号】P 2020189411
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】394018225
【氏名又は名称】フィーサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【氏名又は名称】坂口 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100173668
【氏名又は名称】坂口 吉之助
(72)【発明者】
【氏名】越川 仁
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106079284(CN,A)
【文献】特開平02-258226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0244070(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形装置に用いられ、少なくともボディ、フランジ本体及びフランジカラーからなる射出ノズルにおいて、
前記射出ノズルから射出される溶融樹脂を加熱又は保温するノズルヒータが設けられ、
前記ノズルヒータは、前記射出ノズルの前方部分を加熱又は保温するフロントヒータ部と、該射出ノズルの後方部分を加熱又は保温するリアヒータ部からなり、
前記リアヒータ部は、フランジカラーの内側面に接触して設置され
、前記ボディの後方部分の外側面に接触せずに設置されることを特徴とする射出ノズル。
【請求項2】
フロントヒータ部が、ボディの前方部分の外側面に接触して設置されることを特徴とする請求項
1に記載の射出ノズル。
【請求項3】
ノズルヒータが、コイルヒータであることを特徴とする請求項1
又は2に記載の射出ノズル。
【請求項4】
フロントヒータ部とリアヒータ部とが別体であり、別個に温度制御が可能であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の射出ノズル。
【請求項5】
少なくともボディ、フランジ本体及びフランジカラーからなる射出成形装置用の射出ノズルに設置され、該射出ノズルから射出される溶融樹脂を加熱又は保温するノズルヒータであって、
前記射出ノズルの前方部分を加熱又は保温するフロントヒータ部と、該射出ノズルの後方部分を加熱又は保温するリアヒータ部からなり、
前記リアヒータ部は、前記フランジカラーの内側面に接触して設置され
、前記ボディの後方部分の外側面に接触せずに設置されることを特徴とするノズルヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置に用いられる射出ノズル及びノズルヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形装置は、溶融樹脂を金型まで流し入れるために、溶融樹脂の流路を加熱又は保温して、高温状態に保つ必要がある。射出ノズルの部分においても同様であり、この部分を加熱又は保温するためのノズルヒータが従来から知られている。
【0003】
このノズルヒータを使用して溶融樹脂を適温に保たなければ、熱変化により樹脂が劣化し、プラスチック成形品の仕上がりに悪影響を与えることが知られている。
【0004】
従来からノズルヒータとして、射出ノズルに伝熱線を巻き付けるコイルヒータ、射出ノズルを同心状に取り囲む形態のバンドヒータ(円筒ヒータ)、棒状の加熱ヒータを射出ノズルと並列に設置するカートリッジヒータ等が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の技術は、射出ノズル(ゲートノズル8)にコイル状のヒータ(H)を巻き付けることにより、射出ノズルを加熱又は保温する構成である(特許文献1における
図1~2参照。)。
【0006】
また、例えば、特許文献2に記載の技術は、シースヒータ線をコイル状に捲回して筒状体に形成したヒータ部材(2A,2B)で、射出ノズル(12)外周面の所定範囲を覆った状態で装着されるノズルヒータ(1A)である。
【0007】
これらの技術はいずれも、射出ノズルのボディの外周面に対して、コイル状のヒータを巻き付けた構成であり、射出ノズルを効率的に加熱することができる。
【0008】
しかし、特許文献1~2の技術では、射出ノズルの前方部分と後方部分、又はこれらの部分とその他の部分において、温度差が生じるという問題があった。
【0009】
昨今、スーパーエンジニアリングプラスチック(略称:スーパーエンプラ)に対応した射出成形装置又はこれに使用される射出ノズルの開発が望まれているが、このスーパーエンジニアリングプラスチックは溶融状態における熱変化により劣化しやすく、射出ノズルにおける各部分においても高い温度安定性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4221056号公報
【文献】実用新案登録第3142778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の課題は、射出ノズル内における各部、特に射出ノズルの前方部分と後方部分における温度差を防止乃至僅かの範囲に収めることで、高い温度安定性を有する射出ノズル、及びかかる射出ノズルに用いられるノズルヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記本発明の課題は、下記の手段により達成される。
【0013】
1.射出成形装置に用いられ、少なくともボディ、フランジ本体及びフランジカラーからなる射出ノズルにおいて、
前記射出ノズルから射出される溶融樹脂を加熱又は保温するノズルヒータが設けられ、
前記ノズルヒータは、前記射出ノズルの前方部分を加熱又は保温するフロントヒータ部と、該射出ノズルの後方部分を加熱又は保温するリアヒータ部からなり、
前記リアヒータ部は、フランジカラーの内側面に接触して設置されることを特徴とする射出ノズル。
【0014】
2.リアヒータ部が、ボディの後方部分の外側面に接触せずに設置されることを特徴とする請求項1に記載の射出ノズル。
【0015】
3.フロントヒータ部が、ボディの前方部分の外側面に接触して設置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出ノズル。
【0016】
4.ノズルヒータが、コイルヒータであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の射出ノズル。
【0017】
5.フロントヒータ部とリアヒータ部とが別体であり、別個に温度制御が可能であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の射出ノズル。
【0018】
6.少なくともボディ、フランジ本体及びフランジカラーからなる射出成形装置用の射出ノズルに設置され、該射出ノズルから射出される溶融樹脂を加熱又は保温するノズルヒータであって、
前記射出ノズルの前方部分を加熱又は保温するフロントヒータ部と、該射出ノズルの後方部分を加熱又は保温するリアヒータ部からなり、
前記リアヒータ部は、前記フランジカラーの内側面に接触して設置されることを特徴とするノズルヒータ。
【0019】
7.ボディの後方部分の外側面に接触せずに設置されることを特徴とする請求項6に記載のノズルヒータ。
【発明の効果】
【0020】
上記1に示す発明によれば、リアヒータ部をフランジカラーの内側面に接触して設置する構成とすることで、射出ノズル内における各部、特に射出ノズルの前方部分と後方部分における温度差を防止乃至僅かの範囲に収めることができ、高い温度安定性を有する射出ノズルを提供することができる。
【0021】
これらの効果を詳述すると、次のとおりである。
従来の技術では、リアヒータ部がボディの外側面に接触して設置される構成であった。このため、ボディを加熱又は保温しても、ボディと接するフランジ本体やフランジカラーに対して放熱するだけでなく、フランジカラー等を介して金型等にも放熱され、ボディ(特に樹脂流路)の温度が降下し、射出ノズルの後方部分の温度が安定しないという問題があった。
【0022】
これに対して、上記1に示す発明は、リアヒータ部の位置が従来の技術とは異なり、リアヒータ部がフランジカラーの内側面に接触して設置される構成である。即ち、本発明では、ノズルヒータによってフランジカラーが加熱・保温され、この熱がフランジカラー及びこれに接するフランジ本体を介して、ボディ(特に樹脂流路)に伝熱する構成である。
【0023】
かかる新規な構成を採用することによって、フランジカラー及びフランジ本体も加熱・保温される構成であるため、これらの箇所への放熱を抑えることができる。更に、フランジカラー及びフランジ本体が加熱・保温されているため、これに接する金型等への放熱をも抑えることができる。これらの作用によって、従来は放熱により温度が安定しなかったボディの後方部分においても、放熱が抑えられることで高い温度安定性を発揮することができる。
【0024】
また、上記1に示す発明によれば、リアヒータ部が、フランジカラーの内側面に収められる構成であるため、フランジカラーの外側面等他の箇所に設置する場合に比して、射出ノズルの太さ(径)を小さく抑えることができ、複数ある射出ノズルの設置間隔を小さくすることが可能である。
【0025】
上記2に示す発明によれば、リアヒータ部が、ボディの後方部分の外側面に接触せずに設置される構成であるため、ボディへの加熱・保温が、フランジカラー及びフランジ本体を介しての加熱・保温に限定され、温度安定性を向上させることができる。
【0026】
上記3に示す発明によれば、フロントヒータ部が、ボディの前方部分の外側面に接触して設置される構成であるため、射出ノズルの前方部分を安定して加熱・保温することができ、上記1~2の構成と相まって、射出ノズルの前方部分と後方部分との温度を一定とし、射出ノズル全体としての温度安定性を向上させることができる。
【0027】
上記4に示す発明によれば、ノズルヒータの構造としてコイル式のヒータを採用することで、射出ノズルの長さや径等の諸条件の変更に対して、コイルの巻き数を調節するという手段でもって対応することができる。
【0028】
上記5に示す発明によれば、フロントヒータ部とリアヒータ部とが別体であり、別個に温度制御が可能な構成とすることで、それぞれの部分に対して精密な温度制御が可能であり、射出ノズル全体としての温度安定性を更に向上させることができる。
また、射出ノズルの長さや径等の諸条件の変更に対して、コイルの巻き数等の調整手段を採用しなくても、射出ノズル内における一部分の温度変化に対して柔軟に対応することができる。
【0029】
上記6~7に示す発明によれば、リアヒータ部をフランジカラーの内側面に接触して設置する構成とすることで、上記1~2に示す発明と同様に、射出ノズル内における各部、特に射出ノズルの前方部分と後方部分における温度差を防止乃至僅かの範囲に収めることができ、高い温度安定性を有する射出ノズル用ノズルヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る射出ノズルの一実施例を示す概略側面図(一体型)
【
図2】本発明に係る射出ノズルの一実施例を示す概略側面図(一体型)
【
図3】本発明に係る射出ノズルの他の実施例を示す概略側面図(個別制御型)
【
図4】本発明に係る射出ノズルの他の実施例を示す概略側面図(個別制御型)
【
図5】射出ノズルにおける温度分布を比較した実験データ
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る射出ノズル及びノズルヒータについて、図面に従って説明する。
【0032】
図1に示されるように、射出ノズル1は、ボディ2、フランジ本体3、フランジカラー4、キャップ5、ゲートチップ6及びノズルヒータ7から構成される。
【0033】
ボディ2は、樹脂流路21が設けられた筒型の形態であり、この樹脂流路21にはゲートピン8が挿通される。溶融樹脂は、マニホールド9から流入して樹脂流路21を通過し、ゲートピン8による開閉によって、金型に向けて射出され又は射出が停止される。
【0034】
ボディ2には、一定の強度と、ノズルヒータ7から発した熱を伝えるための熱伝導性が求められる。具体的な材質に限定はなく、射出ノズルに用いられるボディとして公知公用の材料を特別の制限なく採用することができる。例えば、鉄系の金属、鉄系の合金などを挙げることができる。
【0035】
フランジ本体3及びフランジカラー4は、射出ノズル1を金型Kに取り付けるための部品である。このフランジ本体3及び後述するキャップ5が位置決めの基準となり、射出ノズル1が金型Kに固定される。
【0036】
フランジ本体3は、
図2に示される通り、ボディ2の後方に取り付けられ、他方はマニホールド9に接して取り付けられる。
フランジ本体3は、鍔状の形態であるが、具体的形態に限定はない。
【0037】
フランジ本体3には、成形時の型締め力、射出による応力、熱膨張による応力等が加わるため、十分な強度が必要である。具体的な材質に限定はなく、射出ノズルに用いられるフランジとして公知公用の材料を特別の制限なく採用することができる。例えば、鉄系の金属、鉄系の合金、チタン合金などを挙げることができる。
【0038】
フランジカラー4は、
図1~2に示される通り、ボディ2の一部周囲を包囲する筒状の形態であり、フランジ本体3に接して取り付けられる一方で、ボディ2には接することなく取り付けられる。具体的形態や径、ボディ2に対して包囲する範囲、即ちフランジカラー4の長手方向の長さに限定はない。
【0039】
フランジカラー4には、後述するノズルヒータ7のヒータ配線73を通すため、挿通用の孔や開口を適宜設けることができる。
【0040】
フランジカラー4には、一定の強度と、ノズルヒータ7からの熱を伝えるための熱伝導性が求められる。具体的な材質に限定はなく、射出ノズルに用いられるフランジカラーとして公知公用の材料を特別の制限なく採用することができる。例えば、鉄系の金属、鉄系の合金、チタン合金などを挙げることができる。
【0041】
キャップ5は、ボディ2に後述するゲートチップ6を取り付けるための部品である。また、フランジ本体3と共に、射出ノズル1を金型Kに固定する際に、位置決めの基準となる。
【0042】
キャップ5は、
図2等に示されるように、ボディ2の先端部に取り付けられ、ゲートチップ6を支持・固定する役割を果たす。
キャップ5を形成する材料に限定はなく、射出ノズルに用いられるキャップとして公知公用の材料を特別の制限なく採用することができる。例えば、鉄系の金属、鉄系の合金、チタン合金などを挙げることができる。
【0043】
ゲートチップ6は、ボディ2の先端に設けられ、ノズルヒータ7による熱を射出ノズル1の先端まで伝える役割の部品である。また、ゲートGは、ゲートピン8のピストン動作によって開閉され、溶融樹脂の射出又は射出の停止が制御されるところ、ゲートピン8の先端部でゲートGを開閉させる際、ゲートピン8の軸ブレを抑制する役割を果たす。
なお、
図1~4に示される実施例の射出ノズル1は、いわゆるトップレス形状(ゲートが、金型又はそのキャビティに直接設けられた構成)であるため、ゲートGは金型Kの孔(開口)となるが、本発明はこのトップレス形状の射出ノズルの他、公知公用の射出ノズル形状に特別の制限なく適用される。例えば、フルトップ形状の射出ノズルにも適用される。
【0044】
ゲートチップ6は、ゲートピン8の軸ブレを抑制するために十分な強度と耐久性が要求される他、熱を射出ノズル1の先端まで伝えるために熱伝導率の良い材質であることが要求される。具体的な材質に限定はなく、射出ノズルに用いられるゲートチップとして公知公用の材料を特別の制限なく採用することができる。例えば、鉄系の金属、鉄系の合金、銅合金、超硬合金などを挙げることができる。
なお、
図2及び
図4において、ゲートチップ6と金型Kが接触しているように表されているが、実際には、断熱のために空隙が設けられ、接しては配設されない。
【0045】
ノズルヒータ7は、射出ノズル1を加熱又は保温することで、樹脂流路21を通過又はここに滞留する溶融樹脂を加熱又は保温するために設けられる発熱体である。
【0046】
射出ノズルを加熱又は保温するのヒータとして、バンドヒータやカートリッジヒータ等が知られているが、本発明においては、ノズルヒータ7としてコイルヒータを用いることが好ましい。
【0047】
コイルヒータは、コイル状のヒータ部を被加熱物に巻き付けて用いられ、本発明においては、コイル状のヒータを射出ノズル1の各部に巻き付けて使用する。コイルヒータは、射出ノズルの長さの変更に対して、コイルの長さを調節することで対応可能であり、加熱温度の調整についても、巻き数を調整することで対応可能であることに利点がある。コイルヒータは、ホットスプリングと呼称されることもある。
【0048】
本発明に用いられるノズルヒータ7の具体的構造やヒータ種別に限定はなく、公知公用のヒータを特別の制限なく使用することができる。後述するが、本発明は、ノズルヒータ7が設置される位置に特徴があるものであり、ノズルヒータ7の具体的構造や種別等に特徴があるのではない。
【0049】
ノズルヒータ7は、射出ノズル1の前方部分11を加熱又は保温するフロントヒータ部71と、射出ノズル1の後方部分12を加熱又は保温するリアヒータ部72から構成される。詳しくは後述するが、これらのフロントヒータ部71とリアヒータ部72は、1つのヒータとして形成されてもよいし、2つ以上の別のヒータとして形成されてもよく、それぞれの温度制御についても一体で制御することもできるし、別個に制御することもできる。
【0050】
フロントヒータ部71は、射出ノズル1の前方部分71、即ち、キャップ5やゲートチップ6の付近を通過・滞留する溶融樹脂を加熱・保温するためのヒータである。具体的には、
図1~2に示されるように、射出ノズル1の前方部分11のボディ2に接触して取り付けられる。換言すれば、フロントヒータ部71は、ボディ2の外側面(外周面)に接触して巻き付けられる。フロントヒータ部71の一部が、キャップ5やゲートチップ6に接触する場合もある。
【0051】
リアヒータ部72は、射出ノズル1の後方部分72、即ち、フランジ本体3やフランジカラー4の付近を通過・滞留する溶融樹脂を加熱・保温するためのヒータである。具体的には、
図1~2に示されるように、フランジカラー4の内側面(内周面)に接触して取り付けられる。換言すれば、コイル状に巻かれたリアヒータ部72の外側面(外周面)が、フランジカラー4の内側面(内周面)に接触して設置される。リアヒータ部72の一部が、フランジ本体3に接触する場合もある。
【0052】
本発明は、ノズルヒータ7のリアヒータ部72によって、フランジカラー4が加熱・保温され、この熱がフランジカラー4及びこれに接するフランジ本体3を介して、ボディ2(特に樹脂流路21)に伝熱する構成である。
【0053】
リアヒータ部72は、ボディ2の外側面(外周面)に接触せずに取り付けられることが好ましい。これにより、リアヒータ部72がボディ2を直接加熱・保温せず、フランジカラー4及びこれに接するフランジ本体3を介して伝熱する構成となり、射出ノズル1における各所の樹脂流路21の温度を一定とすることができる。
【0054】
上述のように、本発明に係るノズルヒータ7は、ボディ2の外周面に巻き付けられるフロントヒータ部71と、フランジカラー4の内周面に接触して取り付けられるリアヒータ部72から構成され、この構成を換言すれば、フロントヒータ部71とリアヒータ部72のコイル状部分の径が異なる二段径のヒータということもできる。
【0055】
フロントヒータ部71及びリアヒータ部72が取り付けられる箇所には、温度センサが設けられ、これにより温度が管理及び制御されるが、図面においては温度センサを省略する。
【0056】
ノズルヒータ7の実施例として、フロントヒータ部71とリアヒータ部72が一体の構成である「一体型」と、フロントヒータ部71とリアヒータ部72が別体であり、温度を個別制御することができる「個別制御型」を挙げることができる。
【0057】
一体型は、
図1~2に示されるように、フロントヒータ部71とリアヒータ部72が1つのコイルヒータとして一体に形成された構成である。換言すれば、発熱部であるコイル部は1本であり、これがフロントヒータ部71とリアヒータ部72とでそれぞれ巻き数が調整されて取り付けられた構成である。
【0058】
一体型では、コイルが1本であることから、温度制御を行うコントローラも1つであり、フロントヒータ部71とリアヒータ部72とで個別の温度制御を行うことはできない。一方で、フロントヒータ部71とリアヒータ部72とでそれぞれ、巻き数を調整することによって、射出ノズル1の前方部分11と後方部分12とで温度を一定にすることは可能である。それぞれの巻き数は、射出ノズル1の長さや径によって異なり、顧客からのオーダーや、使用される金型に合わせて巻き数を調整することになる。
一体型は、必要なヒータが1つであり、温度制御の制御数も少なく抑えることができることから、部品コストや製造時の作業コストを抑えることが可能である。
【0059】
個別制御型は、
図3~4に示されるように、フロントヒータ部71とリアヒータ部72が別のコイルヒータとして形成された構成である。
【0060】
個別制御型では、フロントヒータ部71とリアヒータ部72とでコイルが別体であり、コイルは2本であることから、それぞれが温度制御を行うコントローラに別個に接続され、温度制御も別個に行うことができる。この構成により、射出ノズルの長さ等の諸条件に応じて、コイル部の巻き数を調整しなくても、温度を個別に、しかも精密に制御することができる。顧客からのオーダーや、使用される金型に合わせて、コイル部の巻き数を調整しなくてもよいので、汎用性が高いといえる。
【0061】
次に、本発明による効果を確認するため行った検証実験の結果について説明する。
この検証実験は、従来の構成(リアヒータ部が、射出ノズル後方部分のボディ外周面に接触して巻き付けられた構成。フロントヒータ部については本発明と同様。)、本発明(一体型)及び本発明(個別制御型)の3者について、温度分布を比較したものである。
【0062】
検証実験の結果を、
図5に示す。
横軸に示された長さ(mm)は、射出ノズル1における温度の計測位置を示しており、0mmは射出ノズル2の先端部(ゲートチップ6の先端付近)であり、0mm~40mmの範囲は前方部分11に相当し、40~80mmは前方部分11と後方部分12の間(以下、「中間部分」という。)に相当し、80~120mmの範囲は後方部分12に相当する。今回の検証実験に使用した射出ノズル1は、長さが約120mmである。
縦軸に示された数値は、射出ノズル2に設けられた複数の温度センサが示した温度である。
【0063】
図5に示される結果によれば、従来の構成、本発明(一体型)又は本発明(個別制御型)のいずれについても、0~15mmあたりでは他の箇所に比べて温度が著しく低下している。これは、射出ノズル1から射出された溶融樹脂は冷却され、固化させる必要があるため、この部分にヒータは配設されていないためである。よって、この範囲における温度変化は問題としない。
【0064】
まず、従来の構成について考察する。
図5に示される結果によれば、従来の構成では、前方部分において330℃程度を示しているが、中間部分において340~360℃と上昇しており、後方部分においては320℃から300℃と急激に低下している。前方部分から後方部分にかけての温度差は、最大で60℃程度であった。
【0065】
次に、本発明(一体型)について考察する。
図5に示される結果によれば、本発明(一体型)では、前方部分において330~340℃を示しており、中間部分において340度を少し超える程度に若干の温度上昇がみられ、後方部分においては330度程度までの温度低下に止まっている。前方部分から後方部分にかけての温度差は、最大で20℃程度であった。
【0066】
最後に、本発明(個別制御型)について考察する。
図5に示される結果によれば、本発明(個別制御型)では、前方部分において330~℃程度を示しており、中間部分において330℃を少し超える程度であり、後方部分においては330℃を若干下回るまで程度の温度低下に止まっている。前方部分から後方部分にかけての温度差は、最大で10℃程度であった。
【0067】
これらの結果をまとめると、射出ノズル1の各部における温度安定性は、本発明(個別制御型)において最も優れており、続いて本発明(一体型)、最後に従来の構成という順となった。
なお、この検証実験は、フロントヒータ部の巻き数とリアヒータ部の巻き数それぞれについて、同条件で行った。よって、本発明(一体型)について、特にリアヒータ部72の巻き数を最適に調整すれば、温度変化を本発明(個別制御型)と比べてもそん色ない範囲にまで改善することが可能である。
【0068】
これらの結果により、本発明の構成、即ち、リアヒータ部72がフランジカラー4の内側面に接触して設置された構成を採用することによって、射出ノズル2各部において温度安定性が優れることが実証された。
【0069】
昨今、スーパーエンジニアリングプラスチック(略称:スーパーエンプラ)に対応した射出成形装置又はこれに使用される射出ノズルの開発が望まれている。
スーパーエンジニアリングプラスチックは、射出成形時の溶融樹脂の状態において熱変化により劣化しやすく、高温で安定させる必要がある。具体的には、溶融樹脂の状態において、高いものでは400℃程度に、低いものでも300℃程度に安定させることが理想的であり、温度差も10℃以内や20℃以内といった高い温度安定性が要求される。
なお、スーパーエンジニアリングプラスチックの成形温度は、樹脂の種類によって大きく異なり、上述の通り、高いものでは400℃程度、低いものでは300℃程度であるが、
図5に結果が示される検証実験では、この成形温度が330℃程度のものを採用した。
【0070】
本発明に係る射出ノズル1及びノズルヒータ7であれば、射出ノズル1内の各所において、330℃程度(検証実験で使用した樹脂の成形温度)の高温を保つことが可能であり、温度変化も10℃以内に抑えることが可能であることが分かった。ノズルヒータ7の設定温度を変更すれば、上記330℃の他、例えば、300℃や400℃といった温度を保つことも可能である。
よって、本発明は、スーパーエンジニアリングプラスチックに対応した射出成形装置、これに使用される射出ノズル又はノズルヒータとして利用することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 射出ノズル
11 前方部分
12 後方部分
2 ボディ
21 樹脂流路
3 フランジ本体
4 フランジカラー
5 キャップ
6 ゲートチップ
7 ノズルヒータ
71 フロントヒータ部
72 リアヒータ部
73 ヒータ配線
8 ゲートピン
9 マニホールド
K 金型
G ゲート